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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23G
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23G
審判 全部申し立て 特29条の2  A23G
管理番号 1354070
異議申立番号 異議2017-701190  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-14 
確定日 2019-06-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6147132号発明「冷凍ゼリー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6147132号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第6147132号の請求項1?3、6、7、9に係る特許を維持する。 特許第6147132号の請求項4、5、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6147132号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成25年8月1日に出願され、平成29年5月26日にその特許権の設定登録がされ、平成29年6月14日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成29年12月14日:特許異議申立人白井雅恵(以下「申立人」という。)による請求項1?9に係る特許に対する特許異議の申立て
平成30年 4月25日:取消理由通知書
同年 6月26日:意見書、訂正請求書(特許権者)
同年 7月31日:意見書(申立人)
同年11月 5日:取消理由通知書(決定の予告)
同年12月20日:意見書、訂正請求書(特許権者)
平成31年 1月11日:訂正拒絶理由通知書
同年 2月 4日:意見書、手続補正書(訂正請求書)(特許権者)
同年 4月 1日:意見書(申立人)
なお、平成30年12月20日付けで訂正請求がされたため、特許法120条の5第7項の規定により、平成30年6月26日付けの訂正請求は、取り下げられたものとみなす。

2 訂正の適否
(1)訂正請求書の補正について
平成31年2月4日付けの手続補正書による補正は、訂正請求書の請求の理由及び添付した訂正特許請求の範囲を補正するものであるところ、当該補正は、実質上、請求項1の「冷凍ゼリー」を「冷凍ゼリー(但し、ゼラチン1.0?1.5質量%及び寒天0.12?0.3質量%のとき、ゼラチン、寒天、および水を含み、オーバーランが20?80%であり、10℃における硬さが4×10^(3)N/m^(2)以上であり、かつ20℃、30℃、および40℃の各温度におけるtanδの値に差があり、いずれの温度においてもtanδの値が0.4?0.8の範囲内であるゲル状物を有するゲル状食品を除く)」に訂正するという訂正事項を削除するだけのものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法131条の2第1項の規定に違反するものではない。
(2)訂正の内容
上記補正後の本件訂正請求は、一群の請求項〔1?9〕に対して請求されたものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
ア 訂正事項1
請求項1の「ゼラチン0.8?2質量%」を「ゼラチン1.0?2質量%」に訂正し、「ゼラチンが0.8?1.1質量%のとき」を「ゼラチンが1.0?1.1質量%のとき」に訂正し、「寒天0.05質量?0.3質量%」を「寒天0.05?0.3質量%」に訂正し、「を含む、冷凍ゼリー」を「を含み、かつ、固形分が25?35質量%である、冷凍ゼリー」に訂正する。
イ 訂正事項2
請求項4を削除する。
ウ 訂正事項3
請求項5を削除する。
エ 訂正事項4
請求項8を削除する。
オ 訂正事項5
請求項9の「請求項8」を「請求項6」に訂正する。
(3)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
請求項1の「ゼラチン0.8?2質量%」を「ゼラチン1.0?2質量%」とする訂正は、数値範囲の下限値を変更して、その範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、「ゼラチンが0.8?1.1質量%のとき」を「ゼラチンが1.0?1.1質量%のとき」とする訂正は、上記数値範囲の下限値を変更したことに整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
請求項1の「寒天0.05質量?0.3質量%」を「寒天0.05?0.3質量%」とする訂正は、余計な記載であった「質量」の記載を削除して記載を明瞭にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
請求項1の「を含む、冷凍ゼリー」を「を含み、かつ、固形分が25?35質量%である、冷凍ゼリー」とする訂正は、冷凍ゼリーに固形分含量に係る限定事項を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書には、【0019】?【0023】、【表1】【表2】に、ゼラチン1.0質量%を配合した実施例が記載されており、【0016】に「本発明の冷凍ゼリーの固形分は、・・・特に25?35質量%である。」(「・・・」は記載の省略を意味する。以下同じ。)と記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2?4について
訂正事項2?4は、それぞれ、請求項4、5、8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項4によって請求項8が削除されたことに伴い、引用する請求項を請求項8から請求項6に変更するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。

3 請求項4、5、8に係る特許についての特許異議の申立てについて
上記2のとおり、本件訂正により請求項4、5、8が削除された。これにより、請求項4、5、8に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。

4 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?3、6、7、9に係る発明(以下、各発明を「本件発明1」?「本件発明9」という。)は、上記訂正された特許請求の範囲の請求項1?3、6、7、9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
ゼラチン1.0?2質量%及び寒天0.05?0.3質量%(但し、ゼラチンが1.0?1.1質量%のとき、寒天は0.3質量%ではない)を含み、かつ、固形分が25?35質量%である、冷凍ゼリー。
【請求項2】
さらにグアーガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の冷凍ゼリー。
【請求項3】
乳酸菌、ビフィズス菌、風味原料、ビタミン、コラーゲンからなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含む、請求項1又は2に記載の冷凍ゼリー。
【請求項6】
請求項3に記載の原料を50℃以下で添加する請求項3に記載の冷凍ゼリー。
【請求項7】
乳酸菌及び/又はビフィズス菌の生菌を含み、pH3.0?7.0である、請求項3に記載の冷凍ゼリー。
【請求項9】
請求項3に記載の原料を45℃以下で添加する請求項6に記載の冷凍ゼリー。

5 取消理由の概要
訂正前の請求項1?9に係る特許に対して、当審が平成30年11月5日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(理由1)29条の2
本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、甲第1号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であるから、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
(理由2)29条2項
本件特許の請求項1?9に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第2?5、7号証に記載された事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
<甲号証一覧>
甲第1号証:特願2012-218015号(特開2014-68608号)
甲第2号証:特開2001-145465号公報
甲第3号証:特開2013-81421号公報
甲第4号証:特開2010-88409号公報
甲第5号証:特開昭63-152950号公報
甲第7号証:新谷寿美子、外3名、「ゼラチン・アガーゼリーの性状について」、家政学雑誌、1975年、第26巻、第4号、p.271-276

6 当審の判断
(1)理由1(29条の2)について
甲第1号証に係る出願(以下「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「当初明細書等」という。)には以下の事項が記載されている。
「【請求項3】
ゼラチン、寒天、および水を含み、オーバーランが20?80%であり、10℃における硬さが4×10^(3)N/m^(2)以上であり、かつ20℃、30℃、および40℃の各温度におけるtanδの値に差があり、いずれの温度においてもtanδの値が0.4?0.8の範囲内であるゲル状物を有するゲル状食品。
【請求項4】
前記ゲル状物に対するゼラチンの含有量が0.24?1.4質量%、寒天の含有量が0.04?0.5質量%である、請求項3に記載のゲル状食品。」

「【0021】
第1の組成物は、得られるゲル状食品の食感の改善を目的として、寒天およびゼラチン以外に公知のゲル化剤、増粘剤、または安定剤(以下、増粘剤類という)を含有してもよい。該増粘剤類の例としては、グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、タマリンド種子多糖類、ネイティブジェランガム等が挙げられる。」

「【0036】
また本発明のゲル状食品は、後述の実施例に示されるように、凍結解凍に対する耐性が良好であり、冷凍後に解凍しても、離水が抑制され、ほぼ元の状態が得られる。したがって、製品の冷凍保存が可能であり、流通経路の自由度が高いという利点を有する。
また凍結した状態でも硬くなりすぎず、アイスクリーム様の性状が得られ、フローズンデザートとして提供することも可能である。
【0037】
本発明のゲル状食品におけるゼラチンの含有量は0.5?1.5質量%が好ましく、0.7?1.05質量%がより好ましい。
本発明のゲル状食品における寒天の含有量は0.12?0.6質量%が好ましく、0.21?0.49質量%がより好ましい。」

「【0042】
<試験例1>
本例では、第1の組成物中のゼラチン含有量および寒天含有量をそれぞれ表3に示す通りに変化させてゲル状食品を製造した。
表1に第1の組成物の配合を示す。第1の組成物中における寒天の配合量(m)およびゼラチンの配合量(n)はそれぞれ表3に示す値(単位:質量%)とし、第1の組成物の全体が100質量%となるように溶解水の配合量で調整した。
なお表1、2には、各組成物を100質量%とするときの配合のほかに、第1の組成物と第2の組成物との混合物の全体を100質量%とするときの、該混合物中の各成分の含有量(単位:質量%)を合わせて示す。
【0043】
まず、表1に示す原料を混合し、125℃、15秒の条件で加熱殺菌を行った(工程a)後、タンクに連通する管内を流量4000L/時間で流動させながら20℃まで冷却し、10℃に保温設定されたタンクに一旦貯蔵した(工程b)。タンクから供給される第1の組成物を、45℃まで加熱した後(工程c)、25℃に冷却した(工程d)。工程aの加熱殺菌は、インフュージョン式加熱殺菌装置を用いて行った。
一方、表2に示す配合で第2の組成物を調製した。すなわち、表2に示す原料を混合して起泡性組成物を調製し、130℃、2秒の条件で加熱殺菌を行った後、冷却して5℃に設定された保温タンクに一旦貯蔵した。タンクから供給される起泡性組成物(5℃)をホイップして、オーバーラン200%の第2の組成物を得た。起泡性組成物の加熱殺菌は、プレート式加熱殺菌装置を用いて行った。起泡性組成物のホイップは、連続式ホイッパーを用いて行った。
【0044】
こうして得られた5℃の第2の組成物と、上記工程dで得た25℃の第1の組成物とを混合した(混合工程)。これらの混合比は第1の組成物:第2の組成物の質量比で70:30とした。混合後のオーバーランは55%であった。得られた混合物(第3の組成物)を市販のプリンカップに67gずつ充填した後、5℃に冷却してゲル化させプリン風味の気泡含有ゲル状物を得た(ゲル化工程)。さらに該気泡含有ゲル状物の上に、10℃のカラメルソースを20g充填した。その後、蓋をしてシールし、プリン風味の気泡含有ゲル状物とカラメルソースが容器に収容されたゲル状食品を得た。」

「【0046】


【0047】


【0048】



「【0050】
<試験例2>
本例では、工程bにおける冷却条件を変化させてゲル状食品を製造した。
すなわち、試験例1において、第1の組成物中における寒天の配合量(m)を0.3質量%、ゼラチンの配合量(n)を1.5質量%とした。」

以上の記載によれば、先願の当初明細書等には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「ゼラチン0.24?1.4質量%及び寒天0.04?0.5質量%を含み、さらに、グアーガム、ローカストビーンガム等の増粘剤を含有してもよい、凍結した状態のゲル状食品。」

イ 対比・判断
本件発明1と先願発明とを対比する。
先願発明の「ゼラチン0.24?1.4質量%」は、具体例として1.4質量%(表3のn=2.00の場合)や、1.05質量%(【0050】のn=1.5の場合)を含むものであって、本件発明1の「ゼラチン1.0?2質量%」とは、「ゼラチン1.0?1.4質量%」の範囲で重複する。
先願発明の「寒天0.04?0.5質量%」は、具体例として0.049質量%(表3のm=0.07の場合)や、0.21質量%(【0050】のm=0.3の場合)を含むものであって、本件発明1の「寒天0.05?0.3質量%」とは、「寒天0.05?0.3質量%」の範囲で重複する。
ゼラチン、寒天を用いてゲル状とした食品はゼリーといえるので、先願発明の「凍結した状態のゲル状食品」は本件発明1の「冷凍ゼリー」に相当する。
しかしながら、引用発明の固形分の含有割合は不明である。
先願の当初明細書等には、試験例として、表1に示される第1の組成物と、表2に示される第2の組成物を、70:30の質量比で混合して製造したゲル状食品が記載されているところ、当該ゲル状食品の固形分が25?35質量%であるともいえない。すなわち、第1の組成物70質量%中の固形分は、寒天及びゼラチン以外に19.32質量%であり、第2の組成物30質量%中の固形分は17.76質量%であるから、ゲル状食品の固形分は、寒天及びゼラチン以外に37.08質量%であって、25?35質量%の範囲外である。
したがって、本件発明1が先願発明と同一であるとはいえない。
また、本件発明2は、本件発明1を更に限定した発明であるから、同様に、先願発明と同一であるとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明1、2は、先願発明と同一ではなく、特許法29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(2)理由2(29条2項)について
ア 甲号証の記載
(ア)甲第3号証には以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩とを含むゲル状物を配合することを特徴とする冷菓。
【請求項2】
寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンの合計含有量が0.5?3%であり、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩の合計含有量が0.01?0.5%である前記ゲル状物を配合する請求項1記載の冷菓。」

「【0001】
本発明は、-15℃以下の冷凍庫から取り出した直後でも、スプーン通りの良い冷菓に関する。」

「【0020】
前記ゲル状物に用いる寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンの合計含有量は、特に限定されないが、ゲル状物に対し0.5?3%が好ましく、1?3%がより好ましい。寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンの合計配合量が、前記範囲より少ないと、良好なスプーン通りを呈することができない場合があり、前記範囲より多いと、粘稠性が強くなり良好なスプーン通りを呈することができない場合がある。」

「【0023】
本発明の冷菓に配合する上記ゲル状物は、pHを3?4.6に調整することにより、レトルト処理等の高温高圧加熱処理を施さなくとも常温での流通、保存が可能となり、ゲル状物の物性の変化を最小限に留めることができる。」

「【0029】
〔実施例1〕
ゲル状物は、寒天0.7%、ジェランガム0.3%、カラギーナン0.3%、ヒアルロン酸及び/又はその塩0.05%、クエン酸(結晶)0.1%、グラニュ糖8%、清水90.55%をミキサーに入れて品温80℃で加熱混合撹拌後、品温5℃まで冷却することによりゲル化剤を増粘させゲル状物を調製した。」

「【0030】
〔実施例2〕
ゲル状物は、実施例1の方法に準じ、寒天0.7%、ジェランガム0.3%、カラギーナン0.3%をゼラチン1.3%に、ヒアルロン酸及び/又はその塩0.05%をヒアルロン酸及び/又はその塩0.005%及び清水0.045%に置き換えて調製した。続いて、攪拌機付きニーダーで、牛乳60%、生クリーム17.7%、一片あたり0.1cm^(3)の前記ゲル状物5%、液卵黄2%、上白糖15%、グアーガム0.3%を全体が概均一になるように攪拌混合後、バッチ式アイスクリームフリーザーにてフリージングを行い本発明の冷菓(アイスクリーム類)を得た。得られた冷菓を-15℃の冷凍庫から取り出し、直後に薄いプラスチック片のスプーンをさし入れ評価したところ、スプーン通りが良く好ましかった。ペネトロメーターで貫入値を測定したところ示度は65であった。また、得られた冷菓に配合されたゲル状物の大きさは、大部分が一片あたり0.03?0.1cm^(3)の範囲内であった。」

以上の記載より、特に実施例2(【0030】)の冷菓に配合されたゲル状物に注目すると、甲第3号証には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「ゼラチン1.3%、ヒアルロン酸及び/又はその塩0.005%及び清水0.045%、クエン酸(結晶)0.1%、グラニュ糖8%、清水90.55%を含むゲル状物であって、牛乳、生クリーム、液卵黄、上白糖、グアーガムと撹拌混合後にフリージングされて冷菓とされたゲル状物。」

(イ)甲第5号証には以下の事項が記載されている。


(4ページ右下欄)」


(5ページ左上欄) 」

(ウ)甲第7号証には以下の事項が記載されている。

「I 緒言
ゼラチンゼリーは,溶けやすく口ざわりはよいが,型から取り出すと,室温が高い場合は崩解しやすい.寒天ゼリーは濃度が高いと口溶けがわるく,低いと口ざわりはよいが離漿しやすい.しかしゼラチンより凝固しやすく形を保ちやすい長所がある.両者を混合すれば,長短相補ったゼリーができると思われたのでゼラチンおよび寒天の濃度を変えて実験を行ないゼリーの性状を明らかにしたので報告する.」(271ページ左欄1-9行)

表1?7には、ゼラチンと寒天の濃度を変えて種々の性状を測定した結果が示されており、具体的な濃度の例として、寒天が0.3%で、ゼラチンが1%又は2%のゼリーが示されている。

(エ)甲第2号証には以下の事項が記載されている。
「【0005】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明の起泡性冷凍ゼリー食品は、コラーゲンペプチドとともにゲル化剤および甘味料を含有するものである。本発明において使用することができるゲル化剤としては、特に限定されないが、ローカストビーンガム、キサンタンガム、寒天、ゼラチン、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、蒟蒻マンナンあるいはペクチン、カラギーナン等のゲル化剤を例示することができる。これらのゲル化剤は、一種のみを単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。」





(オ)甲第4号証には以下の事項が記載されている。
「【0007】
ゼリーに使用するゲル化剤は主剤として、カラギーナン、ジェランガム、ネイティブジェランガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、プルラン、ゼラチン、寒天、ファーセラン、アルギン酸類、デンプン類、グルコマンナン、カードラン、タラガム、カラヤガム、アラビアガム、ペクチン及びセルロース誘導体、他のうちいずれか1以上を含むことを特徴とする。」

「【0011】
ゼリーの固形分が25?50%、糖固形分が20?40%、ゲル化物中のゲル化剤製剤の含有量が0.3?2.5%、ゲル化のセット温度は20?60℃に調整することにより、効率的に生産できる冷菓デザート用シートゼリーを得る。」

イ 対比・判断
(ア)本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「ゼラチン1.3%」は、本件発明1の「ゼラチン1.0?2質量%」に相当する。ゼラチンを用いたゲル状物はゼリーといえるので、甲3発明の「フリージングされて冷菓とされたゲル状物」は、本件発明1の「冷凍ゼリー」に相当する。
よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
ゼラチン1.0?2質量%(但し、ゼラチンが1.0?1.1質量%のとき、寒天は0.3質量%ではない)を含む、冷凍ゼリー。
[相違点1]
本件発明1が寒天0.05?0.3質量%を含むのに対し、甲3発明は寒天を含まない点。
[相違点2]
本件発明1は、固形分が25?35質量%であるのに対し、甲3発明は、固形分が、9.405%(=1.3%+0.005%+0.1%+8%)である点。

(イ)上記相違点1について検討する。
甲第3号証には、ゲル状物に寒天を配合すること(【請求項1】)、寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンの合計含有量を0.5?3%とすること(【請求項2】)が記載されているものの、寒天とゼラチンを共に配合することは記載されていない。
また、甲第5号証には、ゼラチン0.8又は1.1%と寒天0.3%を添加した野菜ゼリーが例示されているものの(表4)、添加量を種々変えた場合の評価結果についての試験例の一部でしかなく、ゼラチン0.8又は1.1%と寒天0.3%を添加した場合の評価結果は低いものであるうえ、「寒天の添加量は、ゼリー重量に対して0.4?0.6%が良好である。混合比率はゼラチン:寒天=1:1.0?2.0が良好である。」(5ページ右上欄2?4行)との記載もあることからすれば、ゼラチン1.3%を含む甲3発明に対し、寒天0.05?0.3質量%を含ませることを動機付けるものとはいえない。
甲第7号証には、ゼラチン1%又は2%と寒天0.3%を添加したゼリーが例示されるとともに(表1?7)、寒天を用いないゼラチンゼリーについての記載もある(271ページ左欄1-9行)が、同号証も、ゼラチンと寒天の濃度を変えてゼリーの性状を種々測定した結果を示すものにすぎず、寒天を0.3%添加することが特に推奨されているわけではなく、むしろ、「ゼリーの経時的変形状態とともに実用的なゼリーの寒天とゼラチンの濃度は,表7太枠内のものである.」(275ページ左欄9-10行)との記載があり、表7も参照すれば、寒天について実用的な濃度とされているのは、0.5?0.9%であることから、甲3発明に対し、寒天0.05?0.3質量%を含ませることを動機付けるものとはいえない。
甲第2号証、甲第4号証も、ゼラチン1.0?2質量%及び寒天0.05?0.3質量%を含むゼリーを開示するものではないし、甲3発明に寒天0.05?0.3質量%を含ませることを示唆する周知技術も認められない。
したがって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲3発明及び甲第2?5、7号証に記載された事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(ウ)上記相違点2について検討する。
甲第2号証(表3、表4)には、調合水を69.41%、69.65%(固形分30.59%、30.35%)含むゼリーが示され、甲第4号証には、「ゼリーの固形分が25?50%」(【0011】)との記載がある。
しかし、甲3発明は、甲第3号証において一実施例として記載されていたにすぎないものであって、その固形分含有量の9.405%は、本件発明1の25?35質量%と比べて相当低いものである。そして、甲第3号証には、ゲル状物の固形分を調整する旨の記載はない。
また、甲3発明の固形分を調整することは、甲第5号証、甲第7号証にも示唆されていないし、周知技術であるともいえない。
そうすると、上記甲第2?5、7号証の記載や周知技術を考慮しても、甲第3号証において一実施例として記載されていたにすぎない甲3発明について、その固形分に着目して、含有量を9.405%から25?35質量%へと変更する動機付けは認め難い。
したがって、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲3発明及び甲第2?5、7号証に記載された事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(エ)そして、本件明細書によれば、本件発明1は、「ゼラチンのみを含むゼリーは弾力性が強く、自然な食感にならないが、ゼラチンに寒天を組み合わせることで、冷凍ゼリーの食感が大幅に向上する。」(【0009】)、「固形分が少なすぎると歯入りが悪くなり、固形分が多すぎると口溶けが悪くなる。」(【0016】)というものであるところ、【表2】には、ゼラチン量と寒天量がそれぞれ所定の範囲のときに、冷凍ゼリーの歯入り、食感、口溶けが向上していることが示され、【表5】には、固形分が所定範囲のときに、冷凍ゼリーの歯入り、食感、口溶けが向上していることが示されている。
なお、上記【表2】、【表5】は、ゼラチンや寒天の種類が不明であり、グァーガムやローカストビーンガムも配合された冷凍ゼリーについての評価結果を示すものであるが、ゼラチン量と寒天量、あるいは、固形分以外の条件をそろえて評価しているから、この評価結果は、ゼラチン量、寒天量、固形分を、それぞれ所定範囲とすることで、冷凍ゼリーの歯入り、食感、口溶けが向上するとの効果を示すものといえる。
また、特許権者の平成31年2月4日付け意見書で提示された【表B】は、グァーガムやローカストビーンガムを配合しない冷凍ゼリーについての評価結果を示すものであって、この結果からも、上記効果が裏付けられているといえる。
そうすると、本件発明1は、相違点1及び2に係る構成を採用することにより、冷凍ゼリーの歯入り、食感、口溶けが向上するとの効果を奏するものであるから、これら相違点が単なる設計事項であるということもできない。

(オ)申立人は、証拠として、次に示す甲第6、8号証も提出している。
甲第6号証:cookpad「体に良いダイエット 寒天ゼラチンゼリー」
甲第8号証:特開2011-142834号公報
しかし、上記甲第6、8号証も、相違点1、相違点2に係る本件発明1の構成を示唆するものではないから、これらの証拠を考慮しても、上記(イ)、(ウ)の判断は左右されない。

(カ)申立人は、本件明細書に開示されている実施例は、いずれもグァーガムやローカストビーンガムを含む態様であるから、グァーガムやローカストビーンガムを含まない態様についての効果は認められない旨を主張する(平成31年4月1日付け意見書7?8ページ)。しかし、グァーガムやローカストビーンガムを含む態様についての実施例であっても、前述のとおり、ゼラチン量と寒天量、あるいは、固形分以外の条件をそろえて評価していることから、ゼラチン量、寒天量、固形分が効果に寄与していることが認められるのであって、グァーガムやローカストビーンガムを含まない場合に、ゼラチン量、寒天量、固形分が効果に寄与しないとする根拠もないから、上記申立人の主張は採用できない。
また、申立人は、特許権者が意見書で提示した【表B】の結果は採用されるべきでない旨を主張する(平成31年4月1日付け意見書8?9ページ)。しかし、本件明細書の記載から本件発明1の効果が推認できるから、特許権者が提示した上記結果を参酌することは許されるというべきであって、上記申立人の主張は採用できない。

(キ)よって、本件発明1は、甲3発明及び甲第2?5、7号証に記載された事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ク)また、本件発明2、3、6、7、9は、本件発明1を更に限定した発明であるから、同様に、甲3発明及び甲第2?5、7号証に記載された事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明1?3、6、7、9は、甲3発明及び甲第2?5、7号証に記載された事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)36条4項1号
申立人は、発明の詳細な説明の記載は、使用しうるゼラチン及び寒天の種類が記載されていないため、特許法36条4項1号の要件を満たしていない旨を主張する(特許異議申立書35?37ページ)。
しかし、ゼラチン及び寒天の種類が記載されていなくとも、ゼリーに一般的に使用される適宜のゼラチン及び寒天を使用することにより、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明の冷凍ゼリーを作ることができると認められる。よって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法36条4項1号の要件を満たすから、申立人の上記主張は採用できない。
(2)36条6項2号
申立人は、本件発明1?9の「ゼラチン」及び「寒天」は、種類が特定されておらず、明確でないため、特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号の要件を満たしていない旨を主張する(特許異議申立書37ページ)。
しかし、特許請求の範囲に種類が特定されていない以上、ゼラチン及び寒天の種類を問わないことが明らかであるから、本件発明は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号の要件を満たす。よって、申立人の上記主張は採用できない。

8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1?3、6、7、9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3、6、7、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項4、5、8に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチン1.0?2質量%及び寒天0.05?0.3質量%(但し、ゼラチンが1.0?1.1質量%のとき、寒天は0.3質量%ではない)を含み、かつ、固形分が25?35質量%である、冷凍ゼリー。
【請求項2】
さらにグアーガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の冷凍ゼリー。
【請求項3】
乳酸菌、ビフィズス菌、風味原料、ビタミン、コラーゲンからなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含む、請求項1又は2に記載の冷凍ゼリー。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
請求項3に記載の原料を50℃以下で添加する請求項3に記載の冷凍ゼリー。
【請求項7】
乳酸菌及び/又はビフィズス菌の生菌を含み、pH3.0?7.0である、請求項3に記載の冷凍ゼリー。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
請求項3に記載の原料を45℃以下で添加する請求項6に記載の冷凍ゼリー。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-19 
出願番号 特願2013-160478(P2013-160478)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A23G)
P 1 651・ 536- YAA (A23G)
P 1 651・ 16- YAA (A23G)
P 1 651・ 121- YAA (A23G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 飯室 里美  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 井上 哲男
紀本 孝
登録日 2017-05-26 
登録番号 特許第6147132号(P6147132)
権利者 江崎グリコ株式会社
発明の名称 冷凍ゼリー  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
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