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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F16L
管理番号 1354071
異議申立番号 異議2017-701171  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-13 
確定日 2019-06-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6145727号発明「真空断熱材、ならびに、これを用いた断熱容器、住宅壁、輸送機器、水素輸送タンカー、およびLNG輸送タンカー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6145727号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正することを認める。 特許第6145727号の請求項1?3,6,8?12に係る特許を維持する。 特許第6145727号の請求項4,5,7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6145727号の請求項1?12に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)4月14日(優先権主張 2015年4月28日、2015年12月22日 いずれも日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年5月26日に特許権の設定登録がされ、同年6月14日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

平成29年12月13日 :特許異議申立人 佐藤 克彦(以下「申立人
」という。)により請求項1?12に係る特
許に対する特許異議の申立て
平成30年 4月11日付け:取消理由通知書
平成30年 6月15日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成30年 7月12日付け:訂正請求があった旨の通知(特許法第120
条の5第5項)
平成30年 8月 9日 :申立人による意見書の提出
平成30年 9月 4日付け:取消理由通知書(決定の予告)
平成30年11月 8日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成30年12月17日付け:訂正請求があった旨の通知(特許法第120
条の5第5項)
平成31年 1月16日 :申立人による意見書の提出
平成31年 3月27日付け:審尋
平成31年 4月26日 :特許権者による回答書(以下「回答書」とい
う。)の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成30年11月8日になされた訂正請求の趣旨は、本件特許第6145727号の願書に添付した特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲(以下「訂正特許請求の範囲」という。)のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

なお、平成30年6月15日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「少なくとも樹脂成分を含む外被材と、前記外被材の内部において、減圧密閉状態で封入された芯材と、を備え、
前記外被材は、ガスバリア性を有するとともに、
(1)-130℃以上80℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.05Nでの線膨張係数が80×10^(-5)/℃以下、
(2)-140℃以上-130℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が65×10^(-5)/℃以上、
(3)-140℃以上-110℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が20×10^(-5)/℃以上、および、
(4)+50℃以上+65℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が13×10^(-5)/℃以上、
のうち、少なくともいずれかの条件を満たす、
真空断熱材。」と記載されているのを、
「少なくとも樹脂成分を含む外被材と、前記外被材の内部において、減圧密閉状態で封入された芯材と、を備え、
前記外被材は、樹脂層、およびガスバリア層を含む積層フィルムであり、
さらに、前記樹脂層には、前記ガスバリア層の外面側に位置する、少なくとも一層の表面保護層と、前記ガスバリア層の内面側に位置する少なくとも一層の熱溶着層とが含まれ、
前記熱溶着層がポリエチレンからなり、
前記表面保護層がナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、またはポリプロピレンフィルムからなり、
前記外被材は、ガスバリア性を有するとともに、MD方向およびTD方向の双方において、
(3)-140℃以上-110℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が20×10^(-5)/℃以上、および、
(4)+50℃以上+65℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が13×10^(-5)/℃以上、
の条件を満たし、
さらに、前記外被材は、
前記温度範囲における前記TD方向の線膨張係数の平均値をCtdとし、
前記温度範囲における前記MD方向の線膨張係数の平均値をCmdとしたときに、Cmd/Ctdが3以下である、
真空断熱材。」に訂正する(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?3,6,8?12も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に
「前記外被材は、MD方向およびTD方向のうち、少なくとも一方向において、
前記(1)?(4)のうち、少なくともいずれかの条件を満たす」と記載されているのを、
「前記外被材は、前記MD方向および前記TD方向の双方において、さらに、
(1)-130℃以上80℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.05Nでの線膨張係数が80×10^(-5)/℃以下、および、
(2)-140℃以上-130℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が65×10^(-5)/℃以上、
のうち、少なくともいずれかの条件を満たす」に訂正する(請求項3を直接又は間接的に引用する請求項8?12も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6において、引用する請求項番号を、「請求項5」から「請求項1」に訂正する(請求項6を直接又は間接的に引用する請求項8?12も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8において、引用する請求項番号を、「請求項1から請求項7までのいずれか1項」から「請求項1から請求項3、請求項6のいずれか1項」に訂正する(請求項8を直接的に引用する請求項11?12も同様に訂正する。)。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9において、引用する請求項番号を、「請求項1から請求項7までのいずれか1項」から「請求項1から請求項3、請求項6のいずれか1項」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10において、引用する請求項番号を、「請求項1から請求項7までのいずれか1項」から「請求項1から請求項3、請求項6のいずれか1項」に訂正する。

なお、訂正前の請求項1?12は一群の請求項に該当するから、訂正事項1?9に係る請求項1?12についての訂正は、一群の請求項である請求項〔1?12〕について請求されている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1の「外被材」について、訂正前の請求項4?5,7及び本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0022】?【0023】,【0028】,【0058】,【0120】,【0137】?【0138】の記載等に基づいて「外被材」の構成要素及び線膨張係数に関する構成を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項3についての訂正は、訂正前の請求項3の「外被材」について、本件明細書の段落【0058】,【0129】,【0137】?【0138】等に基づいて「外被材」の線膨張係数に関する構成を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3?4,6について
訂正事項3?4,6に係る請求項4?5,7についての訂正は、それぞれ訂正前の請求項4?5,7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項5,7?9について
訂正事項5,7?9に係る請求項6,8?10についての訂正は、それぞれ訂正事項3?4,6によって請求項4?5,7が削除されたことに伴い、それらを引用しないようにして訂正前の請求項6,8?10において引用する請求項数を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするもの及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおり、訂正事項1?9に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正することを認める。


第3 本件訂正発明、本件明細書及び図面の記載
1 本件訂正発明
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められるので、訂正特許請求の範囲の請求項1?3,6,8?12に係る発明(以下それぞれ「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」、・・・「本件訂正発明12」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3,6,8?12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線は訂正箇所を示す。)。
なお、上記「第2」で述べたとおり、請求項4?5,7は削除された。

「【請求項1】
少なくとも樹脂成分を含む外被材と、前記外被材の内部において、減圧密閉状態で封入された芯材と、を備え、
前記外被材は、樹脂層、およびガスバリア層を含む積層フィルムであり、
さらに、前記樹脂層には、前記ガスバリア層の外面側に位置する、少なくとも一層の表面保護層と、前記ガスバリア層の内面側に位置する少なくとも一層の熱溶着層とが含まれ、
前記熱溶着層がポリエチレンからなり、
前記表面保護層がナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、またはポリプロピレンフィルムからなり、
前記外被材は、ガスバリア性を有するとともに、MD方向およびTD方向の双方において、
(3)-140℃以上-110℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が20×10^(-5)/℃以上、および、
(4)+50℃以上+65℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が13×10^(-5)/℃以上、
の条件を満たし、
さらに、前記外被材は、
前記温度範囲における前記TD方向の線膨張係数の平均値をCtdとし、
前記温度範囲における前記MD方向の線膨張係数の平均値をCmdとしたときに、Cmd/Ctdが3以下である、
真空断熱材。
【請求項2】
前記外被材は、-130℃雰囲気下における引張破断強度が、180MPa以上である、
請求項1に記載の真空断熱材。
【請求項3】
前記外被材は、前記MD方向および前記TD方向の双方において、さらに、
(1)-130℃以上80℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.05Nでの線膨張係数が80×10^(-5)/℃以下、および、
(2)-140℃以上-130℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が65×10^(-5)/℃以上、
のうち、少なくともいずれかの条件を満たす
請求項1または請求項2に記載の真空断熱材。
【請求項6】
前記ガスバリア層は、少なくとも一層の金属箔層または金属蒸着層を含む
請求項1に記載の真空断熱材。
【請求項8】
請求項1から請求項3、請求項6のいずれか1項に記載の真空断熱材を用いた断熱構造体を備え、低温物質を保持する
断熱容器。
【請求項9】
請求項1から請求項3、請求項6のいずれか1項に記載の真空断熱材を用いて構成された
住宅壁。
【請求項10】
請求項1から請求項3、請求項6のいずれか1項に記載の真空断熱材を用いて構成された
輸送機器。
【請求項11】
請求項8に記載の断熱容器を備え、
前記低温物質は水素である
水素輸送タンカー。
【請求項12】
請求項8に記載の断熱容器を備え、
前記低温物質は、液化天然ガス(LNG)である
LNG輸送タンカー。」

2 本件明細書及び図面の記載
本件明細書及び図面には、次の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下同様。また、以下「a」?「e」の記載事項は、それぞれ「記載事項a」?「記載事項e」という。)。

a「【0002】
真空断熱材は、ガスバリア性を有する外被材(外包材)の内部に、芯材が減圧密閉されて封入された構成を有している。外被材としては、一般的に、熱融着層、表面保護層およびガスバリア層等の、機能層を積層した積層フィルムが用いられる。
【0003】
真空断熱材は、電化製品または住宅用資材等の民生用製品に広く用いられているが、さらに近年では、産業用製品においても利用が検討されている。産業用製品としては、例えば、ガスタンカー等の船舶、LNG(液化天然ガス)タンク等の低温流体保持用の断熱容器、ならびに、自動車(例えば車体、エンジン、変速機、またはバッテリー等の保温用)が挙げられる。
・・・
【0005】
ところで、産業用製品においては、民生用製品に比べて、真空断熱材に要求される特性が厳しくなる傾向にある。例えば、前述したガスタンカー等の船舶では、常温よりも大幅に低い温度の低温流体を長期間保持するため、真空断熱材は、低温環境下で長期間使用されることになる。また、船舶のメンテナンス時には、常温よりも高い温度に曝されることがあるため、真空断熱材は、低温環境だけでなく、非常に大きな温度差の生じる環境(便宜上、大温度差環境とする。)でも使用されることになる。さらに、船舶では、民生用製品に比べてより長期間の使用(例えば数十年)が想定されるので、真空断熱材にも、より長期の信頼性が求められる。
【0006】
ここで、低温環境では、外気温の変化等に伴って、外被材に伸縮が発生するため、外被材においては、反復的な伸縮応力が発生することとなる。また、大温度差環境では、外被材において、温度差に伴う大きな熱応力が発生する。このように、真空断熱材の長期の信頼性を実現する上では、外被材についても長期的な耐久性が求められる。
【0007】
しかしながら、従来は、真空断熱材において、産業用製品に適用可能となるように、外被材の強度および耐久性のうち、少なくともいずれかを向上させて、外被材の信頼性を、より一層好適化することについては、ほとんど検討されていない。さらに、民生用製品においても、例えば住宅壁では、極寒地での使用にも対応できるように、非常に低い外気温に耐え得る特性が要求されることがある。しかしながら、従来は、真空断熱材に要求される特性として、このような、通常よりも厳しい条件はほとんど想定されていない。
・・・
【発明の概要】
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、真空断熱材において、産業用製品にも適用可能となるように、外被材の信頼性を、より一層好適化するものである。
【0010】
本発明の真空断熱材は、少なくとも樹脂成分を含む外被材と、外被材の内部において、減圧密閉状態で封入された芯材と、を備えている。そして、外被材は、ガスバリア性を有するとともに、(1)-130℃以上80℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.05Nでの線膨張係数が80×10^(-5)/℃以下、(2)-140℃以上-130℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が65×10^(-5)/℃以上、(3)-140℃以上-110℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が20×10^(-5)/℃以上、および、(4)+50℃以上+65℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が13×10^(-5)/℃以上、のうち、少なくともいずれかの条件を満たす構成である。
【0011】
このような構成によれば、真空断熱材が備える外被材は、(1)?(4)のいずれの温度-線膨張係数条件においても、「基準温度範囲」での所定の静的荷重における、線膨張係数の上限値または平均値の下限値が規定されている。これにより、基準温度範囲およびその周辺温度範囲において、外被材の伸縮の程度を良好に制御することができる。そのため、低温環境または大温度差環境が生じる使用条件であっても、長期に亘って外被材の良好な強度および良好な耐久性のうち、少なくともいずれかを実現することが可能となる。その結果、真空断熱材において、産業用製品に適用可能となるように、外被材の信頼性を、より一層好適化することができる。」

b「【0037】
[外被材が有する条件]
本開示に係る真空断熱材10において、外被材11は、上述の通り、ガスバリア性を有することに加えて、(1)-130℃以上80℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.05Nでの線膨張係数が80×10^(-5)/℃以下、(2)-140℃以上-130℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が65×10^(-5)/℃以上、(3)-140℃以上-110℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が20×10^(-5)/℃以上、および、(4)+50℃以上+65℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が13×10^(-5)/℃以上のうち、少なくともいずれかの条件を満たしている。すなわち、外被材11は、上述の(1)?(4)のうち、いずれかの温度-線膨張係数条件を満たす構成となっている。
【0038】
つまり、真空断熱材10が備える外被材11は、低温域または高温域の「基準温度範囲」において規定された、所定の静的荷重における線膨張係数の上限値または平均値の下限値の条件を満たしている。これにより、低温域または高温域の基準温度範囲およびその周辺温度範囲において、外被材11の伸縮の程度を良好に制御することができる。そのため、低温環境または大温度差環境が生じる使用条件であっても、外被材11の強度および耐久性のうち、少なくともいずれかを長期に亘って良好なものとすることができる。
【0039】
なお、(1)の温度-線膨張係数条件における基準温度範囲(第一基準温度範囲)は-130℃以上80℃以下であり、(2)の温度-線膨張係数条件における基準温度範囲(第二基準温度範囲)は-140℃以上-130℃以下である。また、(3)の温度-線膨張係数条件における基準温度範囲(第三基準温度範囲)は-140℃以上-110℃以下であり、(4)の温度-線膨張係数条件における基準温度範囲(第四基準温度範囲)は+50℃以上+65℃以下である。これらの基準温度範囲に関しては後述する。
【0040】
また、線膨張係数を測定する際の所定の静的荷重は、(1)の温度-線膨張係数条件では0.05Nであり、(2)?(4)の温度-線膨張係数条件では0.4Nである。材料の種類にもよるが、一般に、樹脂系材料において、線膨張係数の測定時に印加する静的荷重の上限値は0.05N程度である。このため、(1)の温度-線膨張係数条件では、静的荷重が0.05Nに設定されている。また、(2)?(4)の温度-線膨張係数条件では、後述するように、応力緩和または伸縮性等を評価する観点から、静的荷重として0.4Nを印加することが望ましい。
【0041】
ここで、上述した(1)?(4)の温度-線膨張係数条件のうち、少なくともいずれかの条件を、説明の便宜上「第1条件」とすると、外被材11は、少なくとも第1条件を満たしていればよい。さらに、「第2条件」として、-130℃雰囲気下における引張破断強度が、180MPa以上であることを満たしていると、より好ましい。外被材11が第1条件および第2条件を満たしていることにより、低温環境での機械的強度を、より好適化することができる。第2条件としては、-130℃雰囲気下における引張破断強度が180MPa以上であればよいが、さらに190MPa以上であると、より好ましい。
【0042】
また、外被材11は、上述した第1条件および第2条件に加えて、さらに「第3条件」として、フィルム状の外被材11のMD方向(機械延伸方向、縦方向)およびTD方向(幅方向、横方向)のうち、少なくとも一方の線膨張係数が、80×10^(-5)/℃以下であることを満たしているとより好ましい。言い換えれば、外被材11における第3条件は、外被材11の方向等の条件に限定されず、少なくともいずれかの箇所で、線膨張係数が80×10^(-5)/℃以下であるという条件である。これにより、低温環境または大温度差環境が生じる使用条件において、外被材11の強度および耐久性のうち、少なくともいずれかを、長期に亘ってより良好なものとすることができる。
【0043】
ここで、外被材11の第3条件が満たされる場合に、MD方向の線膨張係数とTD方向の線膨張係数との比は、特に限定されない。ただし、基準温度範囲における、TD方向の線膨張係数の平均値(TD平均線膨張係数)をCtdとし、基準温度範囲における、MD方向の線膨張係数の平均値(MD平均線膨張係数)をCmdとしたとき、TD平均線膨張係数に対するMD平均線膨張係数の比Cmd/Ctdが、3以下であれば、より好ましい。これにより、低温環境または大温度差環境が生じる使用条件において、外被材11の強度および耐久性のうち、少なくともいずれかを、長期に亘ってさらに良好なものとすることができる。このような、上述の、Cmd/Ctdが所定の値以下であることを満たす条件を、便宜上「第4条件」とする。
【0044】
本開示において、外被材11が第1条件?第4条件を実現するための方法は、特定の方法に限定されない。外被材11を構成する各層の種類、各層およびこれらが積層された積層フィルムの成形方法または成形条件、ならびに、各層に対して使用可能な添加成分の種類または添加量等の諸条件等を調整することで、第1条件?第4条件をそれぞれ適宜実現することができる。前述したように、外被材11は、積層フィルムとして構成されるが、一層のみの単層フィルムとして構成することもできる。しかしながら、外被材11が積層フィルムであれば、この積層フィルムを構成する各層について諸条件を調整することで、前述した第1条件?第4条件を、所望の範囲内に設定しやすくすることができる。」

c「【0047】
本開示に係る真空断熱材10においては、前述したように、外被材11が、前述した第1条件、すなわち、(1)?(4)の温度-線膨張係数条件のうち、少なくともいずれかの条件を満たしている。そのため、本開示に係る真空断熱材10は、この基準温度範囲内での使用が想定される用途に好適に用いることができる。このような用途としては、例えば、後述する、第2の実施の形態または第3の実施の形態に例示される、液化天然ガス(LNG)を輸送するLNGタンカーを挙げることができる。
【0048】
LNGは、通常-162℃程度の低温流体であり、これを内部に保持するLNGタンクは、内部への熱の侵入を抑制するために断熱構造体を備えている。LNGタンカーがLNGを輸送する期間としては、例えば4週間程度が挙げられるが、この間、断熱構造体の外面は、概ね-130℃程度の温度となる。また、LNGを輸送した後のLNGタンカーは、LNGタンク内からLNGが排出されて空になるわけではなく、LNGを一部残すことにより、温度変化が抑制される。したがって、LNGタンカーが就航中であれば、断熱構造体の外面の温度は、-130℃程度の低温となる。
【0049】
一方、LNGタンカーは、数年に一度、メンテナンスドックでメンテナンスを受ける。このとき、LNGタンクは、常温を超える高温に曝されることがあり、例えば、断熱構造体の外面は、+80℃程度になる可能性がある。したがって、LNGタンクの断熱構造体は、-130℃?+80℃の温度差(Δ210℃の温度差)で使用されることを想定する必要がある。断熱構造体に、Δ210℃という大きな温度差が生じると、この温度差に応じた大きな熱応力が発生する。また、LNGタンカー等の船舶は、例えば数十年という長期の使用が想定され得る。そのため、断熱構造体に対しては、大きな熱応力に対応可能であり、かつ、このような熱応力が生じても長期に亘って信頼性を実現することが求められ
る。
【0050】
そこで、本開示に係る真空断熱材10では、第1条件として、(1)の温度-線膨張係数条件、すなわち、外被材11における第一基準温度範囲内(-130℃以上80℃以下の温度範囲内)における、静的荷重0.05Nでの線膨張係数の平均値が80×10^(-5)/℃以下であることが規定されている。これにより、第一基準温度範囲およびその周辺温度範囲において、外被材11の伸縮の程度を良好に抑制することができる。
【0051】
また、発明者らが鋭意検討した結果、外被材11では、低温域において、損失弾性率に応力緩和作用が生じることが望ましいことが明らかとなった。特に、-140℃?-130℃の温度範囲内では、良好な応力緩和作用が生じるように、外被材11には良好な伸縮性を発揮することが求められる。それゆえ、この温度範囲では、外被材11は線膨張係数が、より高い方が望ましい。
【0052】
そこで、本開示に係る真空断熱材10では、温度線膨張係数条件として、(2)の温度-線膨張係数条件、すなわち、外被材11における第二基準温度範囲内(-140℃以上-130℃以下の温度範囲内)における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が65×10^(-5)/℃以上であることが規定されている。これにより、第二基準温度範囲およびその周辺温度範囲において、外被材11の伸縮性を良好に制御することができる。
【0053】
また、本発明者らが鋭意検討した結果、低温域において、外被材11を構成する材料が全てガラス状態になるため、外被材11が脆化しやすくなることが明らかとなった。特に、-140℃?-110℃の温度範囲内では、ガラス状態による脆化の影響が大きいと考えられるため、脆化を緩和するために外被材11が良好な伸縮性を発揮することが求められる。それゆえ、この温度範囲では、外被材11は線膨張係数が、より高い方が望ましい。
【0054】
そこで、本開示に係る真空断熱材10では、温度線膨張係数条件として、(3)の温度-線膨張係数条件、すなわち、外被材11における第三基準温度範囲内(-140℃以上-110℃以下の温度範囲内)における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が20×10^(-5)/℃以上であることが規定されている。これにより、第三基準温度範囲およびその周辺温度範囲において、外被材11の伸縮性を良好に制御することができる。
【0055】
なお、(1)?(3)の温度-線膨張係数条件は、いずれも低温域における温度線膨張係数条件であるが、これらの条件では、上述の通り、基準温度範囲が一部重複している。そのため、本開示に係る真空断熱材10においては、外被材11の低温域における温度-線膨張係数条件として、上述した(1)?(3)の温度-線膨張係数条件のいずれかが満たされていればよい。もちろん、(1)?(3)の温度-線膨張係数条件すべてが満たされてもよい。
【0056】
さらに、前述したように、LNGタンカーのメンテナンス時には、LNGタンクは+80℃程度になる可能性がある。ここで、メンテナンスに際しては、LNGタンクに対して、高温の蒸気が吹き付けられることがある。この蒸気の吹付により、外被材11に、急激な変形または応力が発生し得る。このような変形、または応力の発生が影響する温度範囲として、発明者らの鋭意検討の結果、+50℃?+65℃の範囲が見出された。この温度範囲内では、変形または応力を緩和するために、外被材11が良好な伸縮性を発揮することが求められる。それゆえ、この温度範囲において、外被材11は、線膨張係数が、より高い方が望ましい。
【0057】
そこで、本開示に係る真空断熱材10では、第1条件として、(4)の温度-線膨張係
数条件、すなわち、外被材11における第四基準温度範囲内(+50℃以上+65℃以下の温度範囲内)における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が13×10^(-5)/℃以上であることが規定されている。これにより、第四基準温度範囲およびその周辺温度範囲において、外被材11の伸縮性を良好に制御することができる。
【0058】
なお、本開示に係る真空断熱材10では、高温域の第1条件である(4)の温度-線膨張係数条件が満たされていれば、低温域の第1条件である、上述した(1)?(3)の温度-線膨張係数条件は必ずしも満たされていなくてもよい。もちろん、好ましくは、低温域の(1)?(3)の温度-線膨張係数条件のうち、少なくともいずれかの条件と、高温域の(4)の温度-線膨張係数条件との双方が満たされていればよい。さらに好ましくは、(1)? (4)の全ての温度-線膨張係数条件が満たされていればよい。」

d「【0117】
次に、本開示について、実施例および比較例を用いて、より具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0118】
まず、以下の実施例および比較例における、線膨張係数の温度依存性の評価は、次に示されるように行われる。
【0119】
(線膨張係数の温度依存性の評価)
実施例または比較例の外被材を、所定のサイズに切り出して試料とする。このとき、試料は、外被材の折れがなく、かつ、外被材に付着物の無い部分から採取される。試験機として、実施例1、実施例2、および比較例では、ティー・エー・インスツルメント社製TMA2940型(製品名)が用いられ、実施例3では、ティー・エー・インスツルメント社製Q400EM型(製品名)が用いられている。そして、測定モード:静的引張り、昇温速度:5℃/分、引張応力:0.05N(実施例1、実施例2、および比較例)または、0.4N(実施例3)、試験前槽内温度保持時間:10分の条件で、-140℃から+150℃の範囲内で温度を変化させて試料の線膨張係数を測定する。雰囲気ガス種、およびガス流量については、TMA2940型では、窒素および140mL/分とし、Q400EM型では、アルゴンおよび100mL/分としている。なお、試料のMD方向は、外被材を構成する表面保護層のうち、最外層の結晶配列方向としている。
【0120】
(実施例1)
真空断熱材用の外被材として、ナイロン層/ナイロン層/アルミニウム箔層/ポリエチレン層の四層構造を有する積層フィルムが用いられる。なお、この積層フィルムでは、ナイロン層/ナイロン層の二層が表面保護層であり、アルミニウム箔層がガスバリア層であり、ポリエチレン層が熱溶着層である。この積層フィルムが、12.5±0.5mm×5mmのサイズに切り出されて、上述の通り、熱膨張計数の温度依存性が評価される。この積層フィルムのMD方向の線膨張係数が、図10の実線のグラフで示され、TD方向の線膨張係数が、図10の破線のグラフで示されている。
【0121】
なお、この積層フィルムでは、-130℃雰囲気下における引張破断強度が201MPaであり、MD方向の線膨張係数の最大値が53.5×10^(-5)/℃であり、かつ、基準温度範囲内の平均値(MD平均線膨張係数Cmd)が19.9×10^(-5)/℃である。また、TD方向の線膨張係数の最大値が64.6×10^(-5)/℃であり、かつ、基準温度範囲内の平均値(TD平均線膨張係数Ctd)が13.7×10^(-5)/℃であり、Cmd/Ctdが1.45である。
【0122】
(実施例2)
真空断熱材用の外被材として、ナイロン層/ポリエチレンテレフタレート層/金属蒸着層/金属蒸着層/エチレン-ビニルアルコール共重合体層/ポリエチレン層の六層構造を有する積層フィルムが用いられる。なお、この積層フィルムでは、ナイロン層が表面保護層であり、ポリエチレンテレフタレート層/金属蒸着層/金属蒸着層/エチレン-ビニルアルコール共重合体層の四層がガスバリア層であり、ポリエチレン層が熱溶着層である。この積層フィルムが12.5±0.5mm×5mmのサイズに切り出されて、前述の通り、熱膨張計数の温度依存性が評価される。この積層フィルムのMD方向の線膨張係数が、図11の実線のグラフで示され、TD方向の線膨張係数が図11の破線のグラフで示されている。
【0123】
なお、この積層フィルムでは、-130℃雰囲気下における引張破断強度が209MPaであり、MD方向の線膨張係数の最大値が48.1×10^(-5)/℃であり、かつ、基準温度範囲内の平均値(MD平均線膨張係数Cmd)が20.3×10^(-5)/℃であり、TD方向の線膨張係数の最大値が43.7×10^(-5)/℃であり、かつ、基準温度範囲内の平均値(TD平均線膨張係数Ctd)が16.2×10^(-5)/℃であり、Cmd/Ctdが1.25である。
【0124】
(比較例1)
比較用の外被材として、ナイロン層/ポリエチレン層の二層構造を有する積層フィルムが用いられる。この積層フィルムが12.5±0.5mm×5mmのサイズに切り出されて、前述の通り、熱膨張計数の温度依存性が評価される。この積層フィルムのMD方向の線膨張係数が、図12の実線のグラフで示され、TD方向の線膨張係数が、図12の破線のグラフで示されている。
【0125】
なお、この積層フィルムでは、-130℃雰囲気下における引張破断強度が172MPaであり、MD方向の線膨張係数の最大値が97.3×10^(-5)/℃であり、TD方向の線膨張係数の最大値が48.4×10^(-5)/℃である。
【0126】
(実施例3)
真空断熱材用の外被材として、実施例1と同じ積層フィルムが用いられ、この積層フィルムが、8.0±0.1mm×5mmのサイズに切り出されて、第二基準温度範囲(-140℃以上-130℃以下の温度範囲)、第三基準温度範囲(-140℃以上-110℃以下の温度範囲)および、第四基準温度範囲(+50℃以上+65℃以下の温度範囲)のそれぞれにおいて、線膨張係数の平均値が算出される。その結果が表1に示されている。
【0127】
(比較例2)
真空断熱材用の外被材として、ポリエチレンテレフタレート層/金属蒸着層/ポリエチレンテレフタレート層/金属蒸着層/ポリエチレンテレフタレート層/金属蒸着層/ポリエチレン層の七層構造を有する積層フィルムが用いられている以外は、実施例3と同様に、第二基準温度範囲、第三基準温度範囲および第四基準温度範囲のそれぞれにおいて、線膨張係数の平均値が算出されている。その結果が、表1に示されている。
【0128】
【表1】


【0129】
(実施例および比較例の対比)
図10?図12に示されるように、実施例1および実施例2の積層フィルム(外被材)は、-130℃?+80℃の基準温度範囲において、MD方向およびTD方向のいずれも、線膨張係数が80×10^(-5)/℃を下回っている。よって、実施例1および実施例2の積層フィルムを外被材として用いた真空断熱材では、第一基準温度範囲(-130℃?+80℃の温度範囲)およびその周辺温度範囲において、外被材の伸縮の程度を、良好に抑制することが可能となっている。したがって、これらの積層フィルムは、低温環境または大温度差環境であっても、良好な強度および良好な耐久性のうち、少なくともいずれかを実現し得る外被材であることが分かる。
【0130】
一方、比較例1の積層フィルムでは、MD方向において-80℃?-70℃の付近で線膨張係数が97×10^(-5)/℃を示している。そのため、この温度付近では伸縮が激しくなるため、低温環境または大温度差環境において良好な強度および良好な耐久性のうち、少なくともいずれかを実現することが難しく、外被材として好ましくないことが分かる。
【0131】
また、表1に示されるように、実施例3の積層フィルム(外被材)は、第二基準温度範囲(-140℃以上-130℃以下の温度範囲)、第三基準温度範囲(-140℃以上-110℃以下の温度範囲)、および第四基準温度範囲(+50℃以上+65℃以下の温度範囲)では、いずれも、平均値が所定の線膨張係数の下限値を上回っている。これに対して、比較例2の外被材は、第二基準温度範囲、第三基準温度範囲、および第四基準温度範囲のいずれも、平均値が所定の線膨張係数の下限値を下回っている。外被材が(2)?(4)のいずれかの温度-線膨張係数条件を満たせば、対応する基準温度範囲およびその周辺温度範囲において、外被材の伸縮性を良好に制御することが可能となる。
【0132】
なお、本発明は、上述した実施の形態の記載に限定されるものではなく、請求の範囲に示された範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態または複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても、本開示の技術的範囲に含まれる。」

e 本件特許の願書には以下の図面が添付されている。
【図10】(注:実施例1に対応) 【図11】(注:実施例2に対応)

【図12】(注:比較例1に対応)


第4 平成30年9月4日付け取消理由通知書(決定の予告)の概要
当審が平成30年9月4日付けで通知した取消理由(以下「本件取消理由」という)の要旨は、次のとおりである。

[取消理由1](明確性)本件特許は、平成30年6月15日になされた訂正後の請求項1?4,6?12の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
[取消理由2](実施可能要件、委任省令要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
[取消理由3](新規性)平成30年6月15日になされた訂正後の請求項1,6?12に係る発明は、本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であり、同請求項1,6?7に係る発明は、本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
[取消理由4](進歩性)平成30年6月15日になされた訂正後の請求項1,3,6?12に係る発明は、本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び本件特許の優先日前に頒布された刊行物2に記載された技術的事項に基いて、同請求項1,3,6?7に係る発明は、本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2に記載された発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて、同請求項8?12に係る発明は、引用文献2に記載された発明、刊行物2に記載された技術的事項及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。


第5 本件取消理由における刊行物及び引用文献
1 取消理由2(実施可能要件)において技術常識の根拠として示された刊行物について
(1)刊行物
ア 刊行物1
宮崎英敏、橋本忍、安達信泰、太田敏孝
「セラミックス材料の室温付近における熱膨張」、セラミックス基盤工学研究センター年報(2009)、2009年発行、名古屋工業大学セラミックス基盤工学研究センター、Vol.9、p.43-48

イ 刊行物2
「化学便覧 応用化学編」
社団法人日本化学会、1990年7月15日発行、丸善株式会社
特に第1122頁?1127頁

ウ 刊行物3
「ポリマーフロンティア21シリーズNo.27 透明プラスチックの最前線」社団法人高分子学会行事委員会、2006年10月5日発行、株式会社エヌ・ティー・エス
特に第94頁?105頁

エ 刊行物4
「各種材料における熱分析の測定データ集」
高野宏美、2008年5月30日、株式会社技術情報協会
特に第56頁?59頁、80?83頁

なお、刊行物1?4は、それぞれ、申立人による特許異議申立書(以下「特許異議申立書」という。)の甲第4,8,6,7号証である。

(2)各刊行物に記載された事項
ア 刊行物1の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物1(甲第4号証)には以下の事項が記載されている。

(1a)第46頁第1行?末行
「図14および図15はいくつかのポリマーの熱膨張曲線を示す。ポリマーは重合度等により物性が変化すると思われるので、この測定結果が一般的な物性を表しているかどうかは不明であるが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂は、測定温度範囲ではいずれも一定の熱膨張変化を示した。」

(1b)第46頁の図14


(1c)第47頁第9行?第13行
「表1は、図5?図16の熱膨張曲線から計算した室温付近の低温域における線熱膨張係数と室温から高温まで測定された線熱膨張係数の文献値およびこれまでに著者らが測定した値との比較を示す。」

(1d)第47頁の表1


イ 刊行物2の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物2(甲第8号証)には以下の事項が記載されている。

(2a)第1122?1123頁の表15.49
「線膨張係数[10- 6 K- 1 ]」が
・「メラミンホルムアルデヒド」「セルロース充填」について「40?45」
・「メラミンホルムアルデヒド」「ガラス繊維強化」について「15?28」
・「ポリアミド」「6-ナイロン」「キャスト」について「90」
・「ポリアミド」「6,6-ナイロン」「成形材料」について「80」
・「ポリアミド」「6,6-ナイロン」「33%ガラス繊維強化」について「15?20」
・「ポリアミド」「芳香族ポリアミド」「無定形,透明,共重合体」について「28」
・「ポリアミド」「芳香族ポリアミド」「アラミド成形部品,非充填」について「40」
・「ポリカーボネート」「高粘度」について「68」
・「ポリカーボネート」「低粘度」について「68」
であること。

(2b)第1124?1125頁の表15.49
「線膨張係数[10- 6 K- 1 ]」が
・「ポリカーボネート」「30%ガラス繊維強化」について「22」
・「ポリエステル(熱可塑性)」「ポリブチレンテレフタレート(PBT)」「無充填」について「60?95」
・「ポリエステル(熱可塑性)」「ポリブチレンテレフタレート(PBT)」「30%ガラス繊維強化」について「25」
・「ポリエステル(熱可塑性)」「ポリエチレンテレフタレート(PET)」「無充填」について「65」
・「ポリエステル(熱可塑性)」「ポリエチレンテレフタレート(PET)」「30%ガラス繊維強化」について「25」
・「ポリエステル(熱可塑性)」「透明共重合体」について「51」
・「ポリエステル(熱硬化性・アルキド)」「キャスト」「硬化性」について「55?100」
・「ポリエステル(熱硬化性・アルキド)」「ガラス繊維強化」「織布」について「15?30」
・「ポリエステル(熱硬化性・アルキド)」「ガラス繊維強化」「SMC(シート成形材料)」について「20」
・「ポリエステル(熱硬化性・アルキド)」「アルキド成形物」「ガラス繊維強化」について「15?33」
・「ポリエチレン・エチレン共重合体」「低密度・中密度」「ポリエチレン・ホモポリマー」「枝分かれ」について「100?220」
であること。

(2c)第1126?1127頁の表15.49
「線膨張係数[10- 6 K- 1 ]」が
・「ポリエチレン・エチレン共重合体」「低密度・中密度」「エチレン共重合体」「エチレン-酢酸ビニル」について「160?200」
・「ポリエチレン・エチレン共重合体」「低密度・中密度」「エチレン共重合体」「エチレン-アクリル酸エチル」について「160?250」
・「ポリエチレン・エチレン共重合体」「高密度」「ポリエチレン・ホモポリマー」について「59?110」
・「ポリエチレン・エチレン共重合体」「高密度」「超高分子量」について「130」
・「ポリエチレン・エチレン共重合体」「高密度」「30%ガラス繊維強化」について「48」
・「ポリイミド」「熱可塑性」「無添加」について「45?56」
・「ポリイミド」「熱可塑性」「40%グラファイト充填」について「38」
・「ポリプロピレン」「ホモポリマー」について「81?100」
・「ポリプロピレン」「共重合体」について「68?95」
・「ポリプロピレン」「40%タルク充填ホモポリマー」について「55?80」
・「ポリプロピレン」「40%ガラス繊維強化ホモポリマー」について「27?32」
・「ポリスチレン・スチレン共重合体」「ポリスチレンホモポリマー」「高流動性・中流動性」について「50?83」
・「ポリスチレン・スチレン共重合体」「ポリスチレンホモポリマー」「耐熱性」について「68?85」
であること。

ウ 刊行物3の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物3(甲第6号証)には以下の事項が記載されている。

(3a)第95頁第9行?第96頁(注:図27、表8は省略し、「填」の字は旧字体を新字体に置き換えた。)
「一方、線膨張係数の方は、測定方向により異なる場合があります。高分子の場合は、高配向した材料では繊維軸方向に対して負になることもあります。繊維軸に対して垂直方向では正ですから、体膨張係数としては正です。この原因は、高配向した分子鎖において各原子の熱振動が起こると、いろいろな方向に動くわけですからこれ以上ほとんど伸びることができない分子鎖の場合は、末端間距離が減少するしかありません。これを簡単に示したのが図27です。ちょうどピンと張った糸を何箇所かでゆらしたのと同じ状態になり、糸は縮むしかありません。
これを充填材として利用すればかなり線膨張係数を下げることができます。図28には液晶性高分子の線膨張係数を、表8には炭素繊維の線膨張係数を示しておきます。ただし、これらを充填材として用いた場合は、透明化は難しいと思います。



(3b)第101頁第4行?第102頁第5行(注:図35は省略し、表9は文末に移動した。)
「問題はこの方法で、線膨張係数がどれだけ下がるかですが、実際に測定した結果を表9に示します。分子量15万のPMMAをプレス延伸すると、大体数%線膨張係数が下がります。それに対して、440万の超高分子量のPMMAでは20%ほど下がります。両方とも熱処理をしますとちゃんと元の形に戻りますから、延伸効率は両方とも100%です。超高分子量の方が線熱膨張係数が著しく低下するのは、分子鎖の拘束の度合いが違うからではないかと考えています。もっと分かりやすくいうと、次のようではないかと考えています。プレス延伸はTgより少し高い温度つまりゴム状態で延伸して、それをそのまま冷却します。延伸
時には高い圧力をかけ、それをそのままの状態で冷却して配向が緩和しないように構造固定しているわけです。図36(a)に貯蔵弾性率E’の温度依存性を示します。ガラス状態ではE’の値はほとんど同じですが、Tg より少し上の温度では超高分子量のものの方が大きくなっています。それゆえ、延伸に必要とされる圧力が大きく異なります(図36(b)参照)。これが分子鎖の拘束力にかかわっており、それが線膨張の低下に影響していると考えることができます。配向させるだけではなく、分子鎖に以下に拘束をかけるかが線膨張の低下に影響することになります。



(3c)第102頁下から3行?第103頁(注:図36は省略した。)
「PCでもプレス延伸できることが分かりました。上記のPMMAでは5倍延伸でしたが、PCでは3倍延伸で4割以上線膨張係数を下げることができ、現時点ではβ?3.8×10- 5 (℃- 1 )が達成できています(図37参照。)。プレス圧縮力のより大きいプレス機を使えばさらに向上させることができると考えています。
これに対して、PSでは同じ延伸倍率でせいぜい8%しか低下しません。やはり分子鎖の1次構造が影響していると考えられます。ただし、配向度を見ますと(表10参照)、PCもPSも変わりません。にもかかわらず線膨張係数は大きく異なっています。分子配向だけではやはり違いを説明することができないということです。



エ 刊行物4の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物4(甲第7号証)には以下の事項が記載されている。

(4a)第80頁第1行?末行
「[1] ポリエチレンフィルム ?伸縮挙動に及ぼす補強剤の影響?
分析の概要
ポリエチレンフィルムは,包装材など広く使用されている。通常ポリエチレンフィルムには機能性を向上させるためにいろいろな物質が添加されているが,そのひとつのフィルムの強度を向上させるために添加する補強剤がある。ここでは,TMAにより補強剤の配合比の異なるポリエチレンフィルムを測定した例1 )を示す。
実験
試料は,補強剤が10%,20%,および30%配合された3種類のポリエチレンフィルムで,いずれも厚さ40μmのものを用いた。
装置はTMAを用い,測定モードは引っ張りモードとし、引っ張り荷重を2g一定,昇温速度5℃/minで測定を行った。

測定機器
TMAは,エスアイアイ・ナノテクノロジー製のTMA熱機械分析装置を用いた。

測定条件
測定モード:引張モード
試料寸法:長さ5mm×幅3mm×厚さ40μm
荷重:2g
昇温速度:5℃/min」

(4b)第81頁の図1




2 取消理由3?4(新規性及び進歩性)における引用文献について
(1)引用文献
ア 引用文献1
国際公開第2014/132661号

イ 引用文献2
国際公開第2014/097630号

ウ 刊行物2
刊行物2は上記「1(1)イ」のとおりである。

なお、引用文献1?2及び刊行物2は、それぞれ特許異議申立書の甲第1?2号証及び甲第8号証である。

(2)各引用文献に記載された事項及び発明
ア 引用文献1
本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(甲第1号証)には、以下の事項が記載されている。
(1A)「[0083]
[真空断熱材]
次に、本実施の形態で用いられる真空断熱材20Aの具体的な構成の一例について具体的に説明する。真空断熱材20Aは、図3に示すように、芯材21、外包材(外被材)22、および吸着剤23を備えている。芯材21および吸着剤23は、外包材22の内部に減圧密閉状態(略真空状態)で封入されている。外包材22はガスバリア性を有する袋状の部材であり、本実施の形態では、2枚の積層シート220を対向させてその周囲を封止部24により封止することで、袋状となっている。また、封止部24は、内部に芯材21が存在せず積層シート220同士が接触しているので、真空断熱材20Aの本体から外周に向かって延伸するヒレ状に形成されている。
[0084]
芯材21は、繊維状の部材であり、本実施の形態では、例えば、平均繊維径が4μmの遠心法で生成したガラス繊維を焼成したものが用いられる。ガラス繊維等の無機繊維を芯材21として用いることで、有機繊維を用いた場合よりも難燃性を向上することができる。また、ガラス繊維は、焼成しないものであってもよいが、焼成したもののほうが、真空断熱材20Aの安定性を向上することができる。
[0085]
真空断熱材20Aの内側面は、常温よりも100℃以上低い低温に曝される可能性があるので、内側面の外包材22には低温による脆化が生じるおそれがある。これに対して、焼成したガラス繊維を用いることで、外包材22の脆化による破袋が万が一発生したとしても、芯材21の寸法変化の程度を有効に抑制することができる。
[0086]
外包材22内部を減圧したときには、芯材21に寸法変形が生じる。焼成していないガラス繊維であれば、その寸法変形は2倍以上(一般的には約5?6倍程度)となるので、外包材22が破袋して芯材21が寸法変形を起こしたときには、真空断熱材20Aの厚さが大きくなる。これに対して、焼成したガラス繊維を用いた場合には、その寸法変形は1.2倍程度、多くても1.5倍以下に抑制することができる。それゆえ、芯材21が寸法変形を起こしたとしても真空断熱材20Aに与える影響を抑制することができる。
[0087]
また、本実施の形態では、遠心法によって製造されたガラス繊維を芯材21として用いているが、ガラス繊維の製造方法は遠心法に限定されず、公知の製造方法、例えば抄造法(予め水に分散させたガラス繊維を、紙を漉くように成形して脱水する方法)等を採用することもできる。例えば、抄造法という製造方法そのものが、ガラス繊維の厚さを小さくするような方法であるため、抄造法によるガラス繊維を芯材21として用いても、その寸法変形が小さくなりやすい。それゆえ、外包材22が破袋したとしても、芯材21の寸法変形によって発生する影響を抑制することが可能となる。
[0088]
積層シート220は、本実施の形態では、表面保護層221、ガスバリア層222、および熱溶着層223の3層がこの順で積層された構成となっている。具体的には、例えば、表面保護層221としては、厚さ35μmのナイロンフィルムが挙げられ、ガスバリア層222としては、厚さ7μmのアルミニウム箔が挙げられ、熱溶着層223としては、厚さ50μmの低密度ポリエチレンフィルムが挙げられる。」

(1B)「[請求項1]
常温を下回る温度で保存される低温物質を保持するために用いられ、
容器筐体と、
当該容器筐体の外側に配置される断熱構造体と、を備え、
前記断熱構造体は、前記容器筐体から外側に向かって順に設けられる、第一断熱層、第二断熱層、および第三断熱層を含む多層構造体であり、
前記第三断熱層は、複数の真空断熱材を備えていることを特徴とする、
断熱容器。」

(1C)「[0004]
ところで、より高い断熱性能を有する断熱材の一つとして、無機系材料からなる繊維状の芯材を用いた真空断熱材が知られている。一般的な真空断熱材は、ガスバリア性を有する袋状の外包材の内部に、前記芯材を減圧密閉状態で封入した構成が挙げられる。この真空断熱材の適用分野としては、例えば、家庭用冷蔵庫等の家電製品、業務用冷蔵設備、あるいは、住宅用の断熱壁等が挙げられる。」

(1D)「[0057]
[断熱容器]
本実施の形態1では、本発明に係る断熱容器の代表的な一例として、図1Aに示すように、LNG輸送タンカー100に設けられるLNG用の球形タンク101を挙げて説明する。図1Aに示すように、本実施の形態におけるLNG輸送タンカー100は、球形独立タンク方式のタンカーであって、複数の球形タンク101(図1Aでは合計5つ)を備えている。複数の球形タンク101は、船体102の長手方向に沿って一列に配列している。個々の球形タンク101は、図1Bに示すように、断熱容器104を備え、この断熱容器104の内部は、液化天然ガス(LNG)を貯留(保持)する内部空間(流体保持空間)となっている。また、球形タンク101の大部分は、船体102により外部支持され、その上方はカバー103により覆われている。」

(1E)「[0217]
(実施の形態9)
前記実施の形態1?8のいずれにおいても、断熱容器内で保持される低温物質はLNGであったが、本発明はこれに限定されず、低温物質は、常温を下回る温度で保存される物質であればよく、好ましくは、常温よりも100℃以上低い温度で保持される流体であればよい。本実施の形態9では、LNG以外の低温物質として水素ガスを例示する。水素ガスを液化して保持する水素タンクの一例について、図22を参照して具体的に説明する。
[0218]
図22に示すように、本実施の形態に係る水素タンク140は、コンテナ型であって、基本的には、前記実施の形態1で説明した球形タンク101、あるいは、前記実施の形態8で説明した地上式LNGタンク120と同様の構成を有している。すなわち、水素タンク140は、枠状の支持体141内にタンク本体である断熱容器144が設けられており、この断熱容器144は、低温物質を保持する容器筐体146と、この容器筐体146の外側に設けられる断熱構造体145とを備えている。容器筐体146および断熱構造体145の具体的な構成は、前記実施の形態1?7で説明した通りであり、特に断熱構造体145は、前記実施の形態1?7のいずれかの構成、または、これら実施の形態の構成を適宜組み合わせた構成を好適に採用することができる。」

(1F)引用文献1には以下の図が記載されている。


以上の記載事項(1A)?(1F)を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

「芯材21、外包材(外被材)22、および吸着剤23を備え、
外包材22はガスバリア性を有する袋状の部材であり、2枚の積層シート220を対向させてその周囲を封止部24により封止することで、袋状となっており、
積層シート220は、表面保護層221、ガスバリア層222、および熱溶着層223の3層がこの順で積層された構成となっており、
表面保護層221は、ナイロンフィルム、ガスバリア層222は、アルミニウム箔、熱溶着層223は、低密度ポリエチレンフィルムである
真空断熱材20A。」

イ 引用文献2
本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2(甲第2号証)には、以下の事項が記載されている。

(2A)「[請求項1]
無機繊維を含む芯材と、
内面に第1熱溶着層を有する第1ラミネートフィルムと、
内面に第2熱溶着層を有する第2ラミネートフィルムと、を備え、
前記第1熱溶着層の密度が前記第2熱溶着層の密度よりも小さいことを特徴とする、真空断熱材。」

(2B)「[0026]
(実施の形態1)
本実施の形態1に係る真空断熱材は、無機繊維を含む芯材と、内面に第1熱溶着層を有する第1ラミネートフィルムと、内面に第2熱溶着層を有する第2ラミネートフィルムと、を備え、第1熱溶着層の密度が第2熱溶着層の密度よりも小さいことを特徴とする。
[0027]
これにより、対向するラミネートフィルム(外被材)の熱溶着層の密度を変えることによって、密度の小さい第1熱溶着層が夾雑物シール性とガラスに対する耐ピンホール性を真空断熱材に付与することが可能となる。また、相対的に密度の高い第2熱溶着層が真空断熱材へ侵入するガス又は水蒸気の量を低く抑えるといった作用を付与することが可能となる。
[0028]
また、本実施の形態1に係る真空断熱材の製造方法は、内面に第1熱溶着層を有する第1ラミネートフィルムと、内面に第1熱溶着層よりも密度の大きい第2熱溶着層を有する第2ラミネートフィルムと、を作製する(A)と、第1ラミネートフィルムの内面と第2ラミネートフィルムの内面とを互いに接触するように配置して積層体を作製する(B)と、積層体における周縁部の少なくとも一部を加熱圧縮して、第1熱溶着層と第2熱溶着層を熱溶着させる(C)と、を備える。
[0029]
以下、本実施の形態1に係る真空断熱材の一例について、図1及び図2を参照しながら説明する。
[0030]
[真空断熱材の構成]
図1は、本実施の形態1に係る真空断熱材の概略構成を模式的に示す断面図である。図2は、図1に示す真空断熱材の封止部を拡大した断面図である。
[0031]
図1に示すように、本実施の形態1に係る真空断熱材1は、矩形状に形成されていて、繊維を含む芯材2と、吸着剤3と、第1ラミネートフィルム4aと、第2ラミネートフィルム4bと、を備えている。芯材2及び吸着剤3は、第1ラミネートフィルム4a及び第2ラミネートフィルム4bで構成されている袋内に収納されていて、減圧密封されている。
[0032]
また、真空断熱材1は、第1ラミネートフィルム4a及び第2ラミネートフィルム4bの周縁部を熱溶着した封止部8を備えている。なお、封止部8において、後述する第1ラミネートフィルム4aの第1熱溶着層5aと第2ラミネートフィルム4bの第2熱溶着層5bが熱溶着して、1つの層になった部分を熱溶着層5という場合がある。
[0033]
芯材2は、真空断熱材1の骨材として微細空間を形成する役割を果たし、真空排気後の真空断熱材1の断熱部を形成するものである。本実施の形態1においては、芯材2として、ガラス繊維(例えば、グラスウール)が用いられている。
[0034]
なお、本実施の形態1においては、芯材2として、ガラス繊維を用いたが、これに限定されない、例えば、ロックウール、アルミナ繊維、及び金属繊維等の無機繊維、又はポリエチレンテレフタレート繊維等の公知の材料を用いてもよい。また、金属繊維を用いる場合は、金属の中でも比較的熱伝導性が低い金属からなる金属繊維を用いてもよい。
[0035]
繊維自体の弾性が高く、また繊維自体の熱伝導率が低く、かつ、工業的に安価なグラスウールを用いることが望ましい。さらに、繊維の繊維径は小さいほど真空断熱材の熱伝導率が低下する傾向にあるため、より小さい繊維径の繊維を用いることが望ましいが、汎用的でないため繊維のコストアップが予想される。したがって、真空断熱材用の繊維として一般的に使用されている比較的安価な平均繊維径が3μm?6μm程度の集合体からなるグラスウールがより望ましい。
[0036]
吸着剤3は、真空包装後に芯材2の微細空隙から真空断熱材1中へ放出された残留ガス成分、及び真空断熱材1内へ侵入する水分又は気体を吸着除去する役割を果たすものである。吸着剤3としては、水分を吸着除去する水分吸着剤と大気ガス等のガスを吸着する気体吸着剤が挙げられる。
[0037]
水分吸着剤としては、例えば、酸化カルシウム、又は酸化マグネシウム等の化学吸着物質、或いは、瀬尾ライトのような物理吸着物質を用いることができる。また、気体吸着剤は、気体中に含まれる非凝縮性気体を吸着できる吸着材料と容器で構成されている。
[0038]
吸着材料としては、ジルコニウム、バナジウム及びタングステンからなる合金、鉄、マンガン、イットリウム、ランタンと希土類元素の1種の元素を含む合金、Ba-Li合金、並びに、金属イオンとイオン交換したゼオライト等が挙げられる。これらの吸着材料は、空気中の概ね75%を有する窒素を常温状態で吸着できるため、吸着剤3として使用すると、真空断熱材1は、高い真空度を得ることができる。
[0039]
容器の材料としては、アルミニウム、鉄、胴、ステンレス等の金属材料が挙げられ、特に、コスト及び取り扱いを考慮するとアルミニウムが望ましい。
[0040]
図2に示すように、第1ラミネートフィルム4aは、第1熱溶着層5a、ガスバリア層6a、及び表面保護層7aを有していて、内面側から外面側に向かって、この順で配置されている。同様に、第2ラミネートフィルム4bは、第2熱溶着層5b、ガスバリア層6b、及び表面保護層7bを有していて、内面側から外面側に向かって、この順で配置されている。なお、第1ラミネートフィルム4a及び第2ラミネートフィルム4bは、外部から真空断熱材1内部への大気ガス侵入を抑制する役割を果たし、真空断熱材1の真空度を維持する役割を果たすものである。
[0041]
第1熱溶着層5a及び第2熱溶着層5bは、第1ラミネートフィルム4a及び第2ラミネートフィルム4bを互いに溶着し、真空断熱材1内部の真空を保持する役割を果たすものである。また、第1熱溶着層5a及び第2熱溶着層5bは、芯材2又は吸着剤3による真空断熱材1内部からの突刺し等からガスバリア層6a、6bを保護する役割を果たすものである。
[0042]
第1熱溶着層5a及び第2熱溶着層5bは、熱可塑性樹脂からなる熱溶着フィルムで構成されていて、第1熱溶着層5aは、第2熱溶着層5bよりも密度が小さくなるように構成されている。
[0043]
なお、熱溶着フィルムの材質としては、特に限定されないが、低密度ポリエチレンフィルム、直鎖低密度ポリエチレンフィルム、中密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、又はポリアクリロニトリルフィルム等の熱可塑性樹脂、或いはそれらの混合体が使用できる。その中でも、安価であり、かつ、ラミネート加工しやすいポリエチレンを選定するのが望ましい。第1熱溶着層5a及び第2熱溶着層5bは、同一の材質で構成されていてもよく、異なる材質で構成されていてもよい。
[0044]
第1熱溶着層5aは、熱溶着強度及び柔軟性を増加させ、夾雑物シール性及び耐ピンホール性を向上させる観点から、密度が0.910?0.925g/cm^(3) であってもよい。また、第2熱溶着層5bは、真空断熱材1内へ透過するガス又は水蒸気の量を減少させる観点から、密度が0.935?0.950g/cm^(3) であってもよい。
[0045]
ガスバリア層6a及びガスバリア層6bは、高いバリア性を有する1種類もしくは2種以上のフィルムから構成される層であり、第1ラミネートフィルム4a及び第2ラミネートフィルム4bに優れたガスバリア性を付与するものである。
[0046]
ガスバリア層6a及びガスバリア層6bとしては、アルミニウム箔又は銅箔等の金属箔、ポリエチレンテレフタレートフィルム又はエチレン-ビニルアルコール共重合体へアルミニウム又は銅等の金属原子もしくはアルミナ又はシリカ等の金属酸化物を蒸着したフィルム、金属原子又は金属酸化物を蒸着した面にコーティング処理を施したフィルム等が使用できる。なお、本実施の形態1においては、ガスバリア層6a及びガスバリア層6bは、金属箔で構成されている。
[0047]
表面保護層7a及び表面保護層7bは、それぞれ、外力から第1ラミネートフィルム4a及び第2ラミネートフィルム4b、特に、ガスバリア層6a、6bの傷つき又は破れを防ぐ役割を果たすものである。
[0048]
表面保護層7a及び表面保護層7bとしては、ナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム等の公知の材料が使用でき、1種類のフィルムを重ねて使用してもよく、2種類以上のフィルムを重ねて使用してもよい。なお、本実施の形態1においては、表面保護層7aは、2枚のフィルム70a、71aを重ねて使用している。同様に、表面保護層7bは、2枚のフィルム70b、71bを重ねて使用している。
[0049]
[真空断熱材の製造方法]
次に、本実施の形態1に係る真空断熱材1の製造方法の一例について説明する。
[0050]
まず、矩形状の第1ラミネートフィルム4aと矩形状の第2ラミネートフィルム4bを作製し、第1ラミネートフィルム4aの第1熱溶着層5aと第2ラミネートフィルム4bの第2熱溶着層5bが互いに対向するように配置して、積層体を作製する。
[0051]
次に、第1ラミネートフィルム4a及び第2ラミネートフィルム4bの周縁部の3辺を加熱しながら押圧して、第1熱溶着層5aと第2熱溶着層5bを熱溶着させて、袋状のラミネートフィルムを作製する。
[0052]
ついで、袋状のラミネートフィルムの開口部から芯材2及び吸着剤3を挿入し、真空包装機を用いて、袋状のラミネートフィルム内部を真空引きしながら、開口部に位置する第1熱溶着層5aと第2熱溶着層5bを熱溶着して、真空断熱材1が得られる。
[0053]
[真空断熱材の評価試験]
次に、本実施の形態1に係る真空断熱材1について、熱溶着層の密度を変えたときの効果について確認した評価試験の結果を以下に示す。
[0054]
なお、評価の優劣は真空断熱材用の熱溶着層として一般的に利用されている直鎖低密度ポリエチレンフィルム(密度0.923g/cm^(3) )を用いた比較例1の結果を基準とし、ピンホールの発生度合いが、比較例1と比較して20%以内の増加に収まり、かつ、60℃の恒温槽に1ヶ月放置した後の熱伝導率が、比較例1よりも小さければ優位性があると判断した。
[0055]
(実施例1)
厚さ15μmのナイロンフィルム70aと厚さ25μmのナイロンフィルム71aを表面保護層7aとし、厚さ6μmのアルミ箔をガスバリア層6aとし、厚さ50μmの直鎖低密度ポリエチレンフィルム(密度0.923g/cm^(3) )を第1熱溶着層5aとして、それぞれの層をウレタン接着剤で接着し、第1ラミネートフィルム4aを作製した。
[0056]
また、厚さ15μmのナイロンフィルム70bと厚さ25μmのナイロンフィルム71bを表面保護層7bとし、厚さ6μmのアルミ箔をガスバリア層6bとし、厚さ50μmの直鎖低密度ポリエチレンフィルム(密度0.935g/cm^(3) )を第2熱溶着層5bとして、それぞれの層をウレタン接着剤で接着し、第2ラミネートフィルム4bを作製した。
[0057]
そして、このようにして作製した第1ラミネートフィルム4a及び第2ラミネートフィルム4bを第1熱溶着層5a及び第2熱溶着層5bが互いに対向するように配置して、熱溶着し、熱溶着強度を測定したところ、幅15mmあたり82.4Nであった。
[0058]
また、上記のように作製した第1ラミネートフィルム4a及び第2ラミネートフィルム4bからなる袋内にガラスのショット(ガラスが繊維化されなかった塊)を50mg封入し、真空パックした後に、ピンホール探知機(ピンホール探知機TRC-220A(サンコウ電子製)、以下の実施例及び比較例においても、同じ機器を使用)を使用して、ピンホールの個数をカウントしたところ、1m^(2)あたり2.1個であり、比較例1と同等の耐ピンホール性であることが判明した。
[0059]
さらに、上記のように作製した第1ラミネートフィルム4a及び第2ラミネートフィルム4bをそれぞれ、幅300mm、長さ400mmとなるよう切り出し、短辺が開口部となるよう互いに熱溶着し袋を製作した。なお、袋を製作する過程では、長辺部分の一箇所に平均繊維径が4μmのガラス繊維を数本、第1熱溶着層5a及び第2熱溶着層5bとともに熱溶着した。
[0060]
そして、この袋内にガラス繊維からなる幅250mm、長さ320mmの芯材2を吸着剤3とともに挿入し、開口部を減圧空間で熱溶着し、真空断熱材1を10枚作製した。この真空断熱材1の熱伝導率を熱伝導率計(熱伝導率測定装置HC-074 300(英弘精機製)、以下の実施例及び比較例においても、同じ機器を使用)で計測したところ、平均値は0.0020W/mKであった。また、この真空断熱材1を60℃の恒温槽に1ヶ月間放置した後に、熱伝導率を再度測定したところ、平均値は0.0039W/mKであった。」

(2C)引用文献2には以下の図が記載されている。


以上の記載事項(2A)?(2C)を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

「無機繊維を含む芯材2と、
内面に第1熱溶着層を有する第1ラミネートフィルム4aと、
内面に第2熱溶着層を有する第2ラミネートフィルム4bと、を備え、
前記第1熱溶着層の密度が前記第2熱溶着層の密度よりも小さい真空断熱材1であって、
芯材2は、第1ラミネートフィルム4a及び第2ラミネートフィルム4bで構成されている袋内に収納されていて、減圧密封されており、
第1ラミネートフィルム4aは、第1熱溶着層5a、ガスバリア層6a、及び表面保護層7aを有していて、内面側から外面側に向かって、この順で配置され、同様に、第2ラミネートフィルム4bは、第2熱溶着層5b、ガスバリア層6b、及び表面保護層7bを有していて、内面側から外面側に向かって、この順で配置されており、
ナイロンフィルム70aとナイロンフィルム71aを表面保護層7aとし、アルミ箔をガスバリア層6aとし、直鎖低密度ポリエチレンフィルムを第1熱溶着層5aとして、第1ラミネートフィルム4aを作製し、ナイロンフィルム70bとナイロンフィルム71bを表面保護層7bとし、アルミ箔をガスバリア層6bとし、直鎖低密度ポリエチレンフィルムを第2熱溶着層5bとして、第2ラミネートフィルム4bを作製した
真空断熱材1。」

ウ 刊行物2
刊行物2に記載された事項は、上記「1(2)イ」に記載したとおりである。


第6 当審の判断
1 取消理由1(明確性)について
(1)取消理由1(明確性)の概要
訂正前の請求項1に係る発明における「前記外被材は」「(1)-130℃以上80℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.05Nでの線膨張係数が80×10^(-5)/℃以下、(2)-140℃以上-130℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が65×10^(-5)/℃以上、(3)-140℃以上-110℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が20×10^(-5)/℃以上、および、(4)+50℃以上+65℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が13×10^(-5)/℃以上、のうち、少なくともいずれかの条件を満たす」という発明特定事項について、条件(1)?(4)の選択肢で表現されており、その選択肢の性質又は機能については、対象の温度範囲がいずれも異なる上、本件明細書の段落【0048】?【0057】(記載事項c)の記載を踏まえると、条件(1)を満たすことの意義は、「第一基準温度範囲およびその周辺温度範囲において、外被材11の伸縮の程度を良好に抑制すること」であり、条件(2)を満たすことの意義は、「第二基準温度範囲およびその周辺温度範囲において、外被材11の伸縮性を良好に制御すること」であり、条件(3)を満たすことの意義は、「第三基準温度範囲およびその周辺温度範囲において、外被材11の伸縮性を良好に制御すること」であり、条件(4)を満たすことの意義は、「第四基準温度範囲およびその周辺温度範囲において、外被材11の伸縮性を良好に制御すること」であると理解されることから、条件(1)では、「外被材11の伸縮の程度を良好に抑制する」ために、線膨張係数の上限値のみを規定するのに対して、条件(2)?(4)では、「外被材11の伸縮の程度を良好に制御する」ために線膨張係数の平均値の下限値のみを規定しているところ(当審注:平成30年9月4日付け取消理由通知書(決定の予告)の第23頁第3行及び第24頁末行の「良好に抑制する」(二箇所)は「良好に制御する」の誤記である。)、両者はその意義が異なるのみならず、相反する技術思想ともいえるから、訂正前の請求項1に係る発明は選択肢中に相反する技術思想を包含していること、また条件(2),(3)では、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値について、-140℃以上-130℃以下の温度範囲内という重複する範囲を有するにもかかわらず、特定し得る線膨張係数が整合していないことから、訂正前の請求項1は条件(1)?(4)の選択肢で表現する該発明特定事項のため、一の発明、すなわち一の技術思想を把握できるとはいえない。
よって、訂正前の請求項1及び訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する訂正前の請求項2?4,6?12に係る発明は明確とはいえない。

(2)本件訂正について
ア 請求項1について
本件訂正(訂正事項1)により、訂正後の請求項1における「外被材」の線膨張係数の条件について、「(3)-140℃以上-110℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が20×10^(-5)/℃以上、および、(4)+50℃以上+65℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が13×10^(-5)/℃以上、の条件を満た」すものに特定された。
イ 請求項3について
本件訂正(訂正事項2)により、訂正後の請求項3における「外被材」の線膨張係数の条件について、「(1)-130℃以上80℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.05Nでの線膨張係数が80×10^(-5)/℃以下、(2)-140℃以上-130℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が65×10^(-5)/℃以上、のうち、少なくともいずれかの条件を満たす」ものに特定された。

(3)判断
ア 請求項1について
本件訂正発明1は、条件(3)及び(4)を満たすものに特定されたことにより選択肢を含まないものとなり、上記「(1)」でも述べたとおり本件明細書の段落【0048】?【0057】の記載(記載事項c)をも踏まえると「外被材11の伸縮の程度を良好に抑制する」ためのものといえる。
してみると、条件(3)及び(4)を満たすものに特定された本件訂正発明1から一の発明、すなわち一の技術思想を把握できることは明らかである。

イ 請求項3について
本件訂正発明3は、条件(1)及び(2)の少なくともいずれかの条件を満たすものに特定されたので選択肢を含むものの、請求項3は請求項1を引用するので、本件訂正発明3は条件(3)及び(4)を満たすものを前提とするものであって、その選択肢は、条件(1),(3)?(4)を満たすものと、条件(2)?(4)を満たすものと、条件(1)?(4)を満たすものの三つに限定される。
してみると、該三つの選択肢は、いずれも上記「ア」で述べたように「外被材11の伸縮の程度を良好に抑制する」ためのものであって一の発明、すなわち一の技術思想を把握できる条件(3)及び(4)を満たすものの範囲内のものといえることから、本件訂正発明3は、一の発明、すなわち一の技術思想を把握できないとまでいえない。

(4)平成31年1月16日に申立人から提出された意見書について
ア 該意見書(第2頁下から第2行?第6頁第17行)において申立人は訂正後の請求項1について、条件(3)と条件(4)とを組み合わせを採用する発明の意義が本件明細書中に一切記載がなく、認められない旨の主張をし(以下「主張1」という。)、また本件明細書における条件の1つ1つについての意味についての記載から条件(3)及び条件(4)はいずれもLNG輸送タンカーに用いる真空断熱材において技術的意味をなす条件であるのに訂正後の請求項1は単なる「真空断熱材」に係る発明であるために「住宅壁用の真空断熱材」等、汎用の真空断熱材を広く含むものであり、そこに発明としての技術的意義は認められない旨の主張(以下「主張2」という。)をしている。
しかしながら、本件明細書の段落【0048】?【0057】の記載(記載事項c)を踏まえると、条件(3)を満たすことの意義は「第三基準温度範囲およびその周辺温度範囲において、外被材11の伸縮性を良好に制御すること」であり、条件(4)を満たすことの意義は、「第四基準温度範囲およびその周辺温度範囲において、外被材11の伸縮性を良好に制御すること」であると理解でき、条件(3)及び(4)は共通して「外被材11の伸縮の程度を良好に抑制する」ためのものといえるので該主張1は採用できない。また訂正後の請求項1において「LNG輸送タンカーに用いる真空断熱材」というような用途を特定せずに「真空断熱材」と一般的に表現しているものの、その一般的な表現の用語の存在によって請求項1に係る発明を不明確にするものでないので、単に一般的な表現であることのみを根拠として明確性違反とまでいえないことから該主張2も採用できない。
なお、補足すると、「審査基準第II部 第2章 第3節 明確性要件 2.3留意事項」には、「(2)請求項に用途を意味する記載のある用途発明において、用途を具体的なものに限定せずに一般的に表現した請求項の場合については、その一般的表現の用語の存在が請求項に係る発明を不明確にしないときは、単に一般的な表現であることのみ、すなわち概念が広いということのみを根拠として、審査官が明確性要件違反と判断することは適切でない。例えば、請求項が、「?からなる病気X 用の医薬(又は農薬)」ではなく、単に「?からなる医薬(又は農薬)」等のように表現されている場合に、一般的な表現であることのみを根拠として、審査官が明確性要件違反と判断することは適切でない。また、組成物において、請求項に用途又は性質による特定がないものについても、単に用途又は性質の特定がないことのみをもって、審査官が明確性要件違反と判断することは適切でない。」と記載されている。

イ 該意見書(第6頁下から第7行?第7頁第15行)において申立人は訂正後の請求項3について、訂正後の請求項3に含まれる「条件(1)(3)(4)態様」について条件(1)では、「外被材11の伸縮の程度を良好に抑制する」ために、線膨張係数の上限値のみを規定するのに対して、条件(3)および条件(4)では、「外被材11の伸縮の程度を良好に制御する」ために、線膨張係数の平均値の下限値のみを規定しており、両者はその意義が異なるのみならず、相反する技術思想である旨の主張をしている。しかしながら、その「条件(1)(3)(4)態様」は条件(3)及び(4)により「外被材11の伸縮の程度を良好に抑制する」ものの範囲内においてさらに条件(1)により「外被材11の伸縮の程度を良好に抑制する」ものに特定するのであるから、「条件(1)(3)(4)態様」自体に何ら相反する技術思想の選択肢はないので該主張は採用できない。

(5)小括
以上より、請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?3,6,8?12に係る発明並びに請求項3及び請求項3を直接又は間接的に引用する請求項8?12に係る発明は、一の発明、すなわち一の技術思想を把握できないとまでいえず、不明確でないので特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものでない。

2 取消理由2(実施可能要件)について
(1)取消理由2(実施可能要件)の概要
本件明細書の段落【0120】?【0127】(記載事項d)に実施例として特定の積層フィルムを構成する各層の種類が記載されているものの、具体的な分子構造、分子等の特性、成形方法、成形条件、添加成分、及びそれらの選択や調整の手法については一切記載されていないので、刊行物1?4に示される技術常識を踏まえると、本件明細書の実施例を参考として、訂正前の請求項1に係る発明の「樹脂成分を含む外皮材」を製造しようとしても、各層の具体的な分子構造、分子量等の特性、成形方法、成形条件、添加成分の極めて多数の組合せの中から、特定の線膨張係数を示す組合せを見出すための試行錯誤を要することが明らかである。
加えて、訂正前の請求項1に係る発明の条件(1)?(4)は、温度範囲の特定をも有するものであるところ、条件(1)?(4)のような、所定の温度範囲における特定の線膨張係数を示す組合せを見出すためには、当該所定の温度範囲のすべてにおいて線膨張係数を確認する必要もあるのであるから、訂正前の請求項1?4、6?12に係る発明の条件(1)?(4)のうち少なくともいずれかを満たす「樹脂成分を含む外被材」を製造するには、当業者に過度な試行錯誤を要するものと認められる。
さらに、実施例1、2における積層フィルム以外の種類で構成された積層フィルムについては、上記に加えて、積層フィルムを構成する各層の種類の組合せを選択するための試行錯誤をも要するのであるから、当業者にさらなる試行錯誤を要することが明らかである。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、訂正前の請求項1?4,6?12に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(2)本件訂正について
本件訂正(訂正事項1)により、訂正後の請求項1における「外被材」の構成要素について、「前記外被材は、樹脂層、およびガスバリア層を含む積層フィルムであり、さらに、前記樹脂層には、前記ガスバリア層の外面側に位置する、少なくとも一層の表面保護層と、前記ガスバリア層の内面側に位置する少なくとも一層の熱溶着層とが含まれ、前記熱溶着層がポリエチレンからなり、前記表面保護層がナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、またはポリプロピレンフィルムからな」るものに特定され、また「外被材」の線膨張係数の条件について、「(3)-140℃以上-110℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が20×10^(-5)/℃以上、および、(4)+50℃以上+65℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が13×10^(-5)/℃以上、の条件を満た」すものに特定され、さらに「外被材」のTD方向とMD方向の線膨張係数の関係について、「前記外被材は、前記温度範囲における前記TD方向の線膨張係数の平均値をCtdとし、前記温度範囲における前記MD方向の線膨張係数の平均値をCmdとしたときに、Cmd/Ctdが3以下である」ものに特定された。

(3)審尋及び回答書について
ア 取消理由2(実施可能要件)についての審尋の趣旨
平成30年9月4日付けの取消理由通知書(決定の予告)における取消理由2(実施可能要件)に対し、特許権者は平成30年11月8日に提出した意見書において、乙第5号証(国立研究開発法人 物質・材料研究開発機構(NIMS)「NIMS 物質・材料データベース」)を示した上で、「このように、本件特許の優先日より前に既に利用可能であった公知のWebサービスを利用すれば、線膨張係数(熱膨張)等の熱物性に基づいて、当該熱物性を有する積層型の複合材料の材料及び構造の候補をシミュレーションにより探索することが可能です。それゆえ、本件特許の優先日より前から、線膨張係数等の熱物性からデータベースに基づいて、複合材料の材料および構造をシミュレーションにより予測することが可能であることは明らかですので、本件特許発明を実施するために当業者が過度の試行錯誤を強いられることはありません。さらに、本件特許の訂正後の請求項1では、積層型の複合材料である外被材において、特に樹脂層についてその材料を具体的に特定致しましたので、公知のデータベースおよびシミュレーションを利用することで、当業者は過度の試行錯誤を必要とせずに訂正後の請求項1における(3)および(4)の条件を満たす積層構造の候補を探索することができます。したがって、本件明細書における発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に適合するものであることは明らかです。」(第5頁下から第6行?第6頁第9行)と主張した。
この主張に対して、申立人は、平成31年1月16日に提出された意見書(第7頁末行?第10頁第9行)において、乙第5号証には本件訂正発明1の要件を満たす外被材を製造するための具体的な方法は全く記載されていないので、乙第5号証をみた当業者であっても該外被材を製造するにあたって各層の具体的な分子構造、分子量等の特性、成形方法、成形条件、添加成分などをどのように設定すればよいのかを見出すためには、過度の試行錯誤を強いられる旨を主張した。
そこで当審は特許権者に釈明を求めるために平成31年3月27日付けで審尋を通知した。

イ 回答書による釈明
審尋に対し、特許権者は解析ツールに関して乙第7?9号証を提出した上で回答書(第2頁第6行?第4頁第6行)で取消理由2(実施可能要件)についての釈明として以下の旨の主張をしている。
本件訂正により本件訂正発明1は積層型の複合材料である外被材について、表面保護層と熱溶着層についてその材料を特定したので、樹脂層の候補は限られ、かつこれら樹脂層の線膨張係数については例えば刊行物1?4等に例示されるように公知なので、古典積層板理論及びこれに基づいた複合則により線膨張係数を理論的に計算することで実測値に近似する理論値が得られることは技術常識であり、また本件訂正発明1の条件(3)及び(4)を満たすか否かについて本件特許の図10?12に示すような線膨張係数の挙動が明らかになれば判断可能なので、適宜設定した温度間隔毎に理論値を計算すれば所定の温度範囲内における線膨張係数の挙動を確認することは可能なので、「所定の温度範囲のすべてにおいて線膨張係数を確認」しなくても多層構造の外被材が条件(3)及び(4)を満たすか判断できることは技術常識である。
また乙5号証に示すシステムが平成31年4月24日時点でシステムメンテナンスのため機能が停止されており、再開時期も未定であるため、乙第5号証に代えて、乙第7号証及び乙第8号証を提出してサイバネットシステム株式会社により本件特許の優先日前に提供されている複合材料の材料特性等の解析ツール「Multiscale.Sim」(登録商標)を示すとともに、乙第10号証を提出してその解析ツールによる外被材のモデルのシミュレーションについてとその解析値、複合則に基づく理論値及び実測値の比較とを示した上で、公知の解析ツール又は構成則を利用すれば、公知の材料データから条件(3)及び(4)を満たす材料及び積層構造の候補を探索できることは技術常識なので、本件特許発明を実施するために当業者は過度の試行錯誤を強いられることはない。

(4)判断
回答書及び乙第7?9号証をみるに、回答書の第3頁第19?22行及び乙第9号証の第3頁の「2.対象形状」に示される、表面保護層としてナイロン15μm及びナイロン25μm、ガスバリア層としてアルミ箔6μm、熱用着層としてリニアポリエチレン(LDPE、低密度ポリエチレン)50μmをこの順で積層した構造のモデル(本件明細書の実施例1(段落【0120】)及び実施例3(段落【0126】)のナイロン層/ナイロン層/アルミニウム箔層/ポリエチレン層の四層構造の材料と同様と理解される。)に対して、公知の解析ツール「Multiscale.Sim」(登録商標)を用いることで、任意の温度での各材料の特性(線膨張係数、ヤング率及びポアソン比)から積層型の複合材料の線膨張係数を求められることが理解される。また該モデルに対して、乙第9号証の第9?11頁に示される構成則を用いることで、任意の温度での各材料の特性(線膨張係数、ヤング率及び体積分率)から積層型の複合材料の線膨張係数を求められることが理解される。
そして、上記「(2)」のとおり、本件訂正により、本件訂正発明1において「外被材」の構成要素である「熱溶着層」と「表面保護層」について「前記熱溶着層がポリエチレンからなり、前記表面保護層がナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、またはポリプロピレンフィルムからな」るというように樹脂材料が特定されたこと、また例えば刊行物1?4から材料単体の任意の温度における線膨張係数やヤング率等の特性は技術常識であるか、技術常識でないとしても見い出すのに過度の試行錯誤を要しないものといえること、さらに本件訂正発明1の条件(3)及び(4)で特定された温度範囲について、精度を踏まえて適宜設定可能な任意の温度間隔毎に公知の解析ツール又は構成則を用いて線膨張係数を求めることで、該温度範囲における線膨張係数の挙動を求めること自体にも過度な試行錯誤を要するとまではいえないことを踏まえると、該解析ツール又は構成則を用いて本件訂正発明1における線膨張係数の条件を満たす組合せを見出すことに過度な試行錯誤を要するとまではいえない。
本件訂正発明1の発明特定事項を全て含む本件訂正発明2?3,6,8?12においても同様である。

(5)小括
以上より、本件特許の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1?3,6,8?12を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとまでいえず、実施可能要件について特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものでない。

3 取消理由2(委任省令要件)について
(1)取消理由2(委任省令要件)の概要
本件明細書には、「樹脂成分を含む外被材」が条件(1)?(4)のうち少なくともいずれかを満たすものとすることの意義について、本件明細書の段落【0005】?【0009】,【0011】の記載(記載事項a)、段落【0048】?【0058】の記載(記載事項c)の記載を踏まえると、条件(1)?(4)のうち少なくともいずれかを満たせば、「低温環境」または「大温度差環境」が生じる使用条件で「長期に亘って」外被材が「良好な強度」及び「良好な耐久性」を得られる旨が一応記載されているものの、上記条件(1)?(4)と「長期に亘って」外被材が「良好な強度」及び「良好な耐久性」を得られることとの関係について、理論的に説明した記載はないし、技術常識であるともいえず、また、本件明細書には上記条件(1)?(4)の効果を確認した実験データが一切記載されていないから、「樹脂成分を含む外被材」が上記条件(1)?(4)のうち少なくともいずれかを満たすものとすることの意義を実験データに基づき理解できるともいえない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、訂正前の請求項1?4,6?12に係る発明が解決しようとする課題及びその解決手段が、発明の技術上の意義を理解できる程度に記載されたものでない。

(2)本件訂正について
上記「2(2)」で述べたとおりである。

(3)審尋及び回答書について
ア 取消理由2(委任省令要件)についての審尋の趣旨
平成30年9月4日付け取消理由通知書(決定の予告)における取消理由2(委任省令要件)に対し、特許権者は平成30年11月8日に提出した意見書の「5(6)取消理由2のうち委任省令要件について」において、「なお、本件特許発明に関しては、LNGタンカーにおける外被材の想定温度/現行のタンカーの運用に基づいて、加速劣化試験として、-130℃および室温条件下(23℃±2℃)でのサイクル試験を240回行うことによって、本件特許発明の外被材において引張破断強度および弾性率(剛性)等の物性に実質的な変化がないことを確認済です。取消理由通知書では、実験データが記載されていないことが指摘されていますが、もし必要であれば、本件明細書の説明内容および前述した補足の説明内容を裏付けるために、特許権者は、実験データの提出や技術常識等についての口頭説明を行う準備があります。」(第9頁第13?21行)と述べている。
この主張について、当審は、実験データから長期に亘って外被材が良好な強度及び良好な耐久性が得られることが示されるのか確認するために、特許権者に審尋を通知し、釈明を求めた。

イ 回答書による釈明
審尋に対し、加速劣化試験の実験結果を示す乙第10号証を提出した上で回答書(第4頁第7?24行)で取消理由2(委任省令要件)に対する釈明として、以下の旨の主張をしている。
乙第10号証では、本件訂正発明1に対応する多層構造の外被材について、LNG運搬船を40年間使用することを想定した加速劣化試験の実験結果を示し、ヤング率、線膨張係数、引張破断強度及び材料厚みの測定結果から、本件訂正発明1における外被材が長期に亘って良好な強度及び良好な耐久性を得られることは明らかである。

(4)判断
回答書及び乙第10号証をみるに、乙第10号証の第1頁下から第6行?第2頁第7行及び第2頁の図1に示される、最外層の表面保護層として二軸延伸ナイロン(OP)製15μm、その下の表面保護層として二軸延伸ナイロン(OP)製25μm、ガスバリア層としてアルミ箔製6μm、熱用着層としてリニアポリエチレン(LDPE、低密度ポリエチレン)製50μmをこの順で積層した構造(本件明細書の実施例1(段落【0120】)及び実施例3(段落【0126】)のナイロン層/ナイロン層/アルミニウム箔層/ポリエチレン層の四層構造の材料と同様と理解される。)であって、-140℃以上-110℃以下の温度範囲内における静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値がMD方向で44.4×10^(-5)/℃(本件明細書の段落【0120】の表1における「実施例3」の「第三 -140℃以上-110℃」の温度範囲のときの値「44.4」と一致している。)、TD方向で34.2×10^(-5)/℃で、+50℃以上+65℃以下の温度範囲内における静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値がMD方向で19.5×10^(-5)/℃(本件明細書の段落【0120】の表1における「実施例3」の「第四 +50℃以上+65℃」の温度範囲のときの値「19.5」と一致している。)、TD方向で24.4×10^(-5)/℃であり、TD方向の線膨張係数の平均値をCtdとし、MD方向の線膨張係数の平均値をCmdとしたときに-140℃以上-110℃以下の温度範囲でのCmd/Ctdが1.3で、+50℃以上+65℃以下の温度範囲でのCmd/Ctdが0.8である試料に対し、ヒートショック処理(加速処理)を、6回/年のメンテナンスを40年行うことを想定して240回印加する加速劣化試験の結果として示された、ヤング率、線膨張係数(-130℃?+24℃)、引張破断強度(-130℃)及び材料厚みの測定結果から、本件訂正発明1における外被材が長期に亘って良好な強度及び良好な耐久性を得られるものと理解される。
してみると、「外被材」が条件(3)及び(4)を満たすことと「長期に亘って」外被材が「良好な強度」及び「良好な耐久性」を得られることとの関係が該実験結果から理解されるので、本件訂正発明1に備えられる「外被材」が条件(3)及び(4)を満たすことの意義が理解できないといえない。
本件訂正発明1の発明特定事項を全て含む本件訂正発明2?3,6,8?12においても同様である。

(5)小括
以上より、本件特許の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1?3,6,8?12が解決しようとする課題及びその解決手段が、発明の技術上の意義を理解できる程度に記載されたものでないとまでいえず、委任省令要件について特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものでない。

4 取消理由3(新規性)及び取消理由4(進歩性)について
(1)本件訂正発明
本件訂正後の本件訂正発明1?3,6,8?12は、上記「第3 1」において示したとおりのものである。

(2)対比・判断
ア 本件訂正発明1について
(ア)主引用発明を引用発明1とした場合
a 対比
本件訂正発明1と引用発明1とを対比する。

(a)引用発明1の「芯材21」、「外包材(外被材)22」、「積層シート220」、「表面保護層221」、「ガスバリア層222」、「熱溶着層223」、「ナイロンフィルム」、「低密度ポリエチレンフィルム」、「真空断熱材20A」は、その意味、機能または構造からみて、本件訂正発明1の「芯材」、「外被材」、「積層フィルム」、「表面保護層」、「ガスバリア層」、「熱溶着層」、「ナイロンフィルム」、「ポリエチレン」、「真空断熱材」にそれぞれ相当する。 引用文献1として

(b)引用発明1の「表面保護層221」及び「熱溶着層223」による層は、それぞれ「ナイロンフィルム」及び「低密度ポリエチレンフィルム」であるから、上記「(a)」をも踏まえると、本件訂正発明1の「表面保護層」と「熱溶着層」を含む「樹脂層」に相当する。

(c)引用発明1の「外包材(外被材)22」は「ナイロンフィルム」である「表面保護層221」と「低密度ポリエチレンフィルム」である「熱溶着層223」とを含むことから、引用発明1の「真空断熱材20A」が「外包材(外被材)22」を備えることは、上記「(a)」をも踏まえると、本件訂正発明1の「真空断熱材」が「少なくとも樹脂成分を含む外被材」を備えることに相当する。

(d)引用発明1の「芯材21」及び「外包材(外被材)22」は「真空断熱材20A」に備えられるものであるので、「芯材21」を「外包材(外被材)22」の内部において減圧密閉状態で封入されることは明らかである。そうすると、引用発明1の「真空断熱材20A」が「芯材21」を備えることは、上記「(a)」をも踏まえると、本件訂正発明1の「真空断熱材」が「前記外被材の内部において、減圧密閉状態で封入された芯材」を備えることに相当する。

(e)引用発明1の「外包材22はガスバリア性を有する袋状の部材であり、2枚の積層シート220を対向させてその周囲を封止部24により封止することで、袋状となっており、積層シート220は、表面保護層221、ガスバリア層222、および熱溶着層223の3層がこの順で積層された構成となっており、表面保護層221は、ナイロンフィルム、ガスバリア層222は、アルミニウム箔、熱溶着層223は、低密度ポリエチレンフィルムである」という構成は、その積層順及び上記「(a),(b)」をも踏まえると、本件訂正発明1の「前記外被材は、樹脂層、およびガスバリア層を含む積層フィルムであり、さらに、前記樹脂層には、前記ガスバリア層の外面側に位置する、少なくとも一層の表面保護層と、前記ガスバリア層の内面側に位置する少なくとも一層の熱溶着層とが含まれ、前記熱溶着層がポリエチレンからなり、前記表面保護層がナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、またはポリプロピレンフィルムからなり、前記外被材は、ガスバリア性を有する」という構成に相当するものといえる。

以上のことから、本件訂正発明1と引用発明1とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点1>
「少なくとも樹脂成分を含む外被材と、前記外被材の内部において、減圧密閉状態で封入された芯材と、を備え、
前記外被材は、樹脂層、およびガスバリア層を含む積層フィルムであり、
さらに、前記樹脂層には、前記ガスバリア層の外面側に位置する、少なくとも一層の表面保護層と、前記ガスバリア層の内面側に位置する少なくとも一層の熱溶着層とが含まれ、
前記熱溶着層がポリエチレンからなり、
前記表面保護層がナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、またはポリプロピレンフィルムからなり、
前記外被材は、ガスバリア性を有する、
真空断熱材。」

<相違点1-1>
「外被材」に関し、
本件訂正発明1は、「MD方向およびTD方向の双方において、
(3)-140℃以上-110℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が20×10^(-5)/℃以上、および、
(4)+50℃以上+65℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が13×10^(-5)/℃以上、
の条件を満た」すのに対し、
引用発明1は、そのように特定されていない点。

<相違点1-2>
「外被材」に関し、
本件訂正発明1は、「前記温度範囲における前記TD方向の線膨張係数の平均値をCtdとし、
前記温度範囲における前記MD方向の線膨張係数の平均値をCmdとしたときに、Cmd/Ctdが3以下である」のに対し、
引用発明1は、そのように特定されていない点。

b 判断
まず相違点1-1について検討する。
刊行物2には、複数種のナイロンやポリエチレン等の線膨張係数が示されているものの、相違点1-1に係る本件訂正発明1の構成は開示されていない。
また他の刊行物1,3?4及び引用文献2並びに異議申立書のその他の甲号証をみても、相違点1-1に係る本件訂正発明1の構成は開示されていない。
さらに他に、引用発明1の「外被材」が「ナイロンフィルム」である「表面保護層」、アルミニウム箔(本件訂正発明1を引用する本件訂正発明6の「金属箔層」に相当する。)である「ガスバリア層」、「ポリエチレン」である「熱溶着層」を積層してなるものであれば、相違点1-1に係る本件訂正発明1の構成における条件(3)?(4)を満たすのが明らかであることや、引用発明1の「外被材」から条件(3)?(4)を満たすものに容易に想到し得ることを示すような技術常識等の根拠は認められない。
よって、相違点1-1に係る本件訂正発明1の構成は、当業者であっても引用発明1及び刊行物2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるといえない。
したがって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用発明1と同一でなく、また当業者であっても引用発明1及び刊行物2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるといえない。

(イ)主引用発明を引用発明2とした場合
a 対比
本件訂正発明1と引用発明2とを対比する。

(a)引用発明2の「芯材2」、「第1熱溶着層5a」及び「第2熱溶着層」、「ガスバリア層6a」及び「ガスバリア層6b」、「表面保護層7a」及び「表面保護層7b」、「第1ラミネートフィルム4a」及び「第2ラミネートフィルム4b」、「ナイロンフィルム70aとナイロンフィルム71a」及び「ナイロンフィルム70bとナイロンフィルム71b」、「直鎖低密度ポリエチレンフィルム」、「真空断熱材1」は、その意味、機能または構造からみて、本件訂正発明1の「芯材」、「熱溶着層」、「ガスバリア層」、「表面保護層」、「積層フィルム」、「ナイロンフィルム」、「ポリエチレン」、「真空断熱材」にそれぞれ相当する。

(b)引用発明2において「ナイロンフィルム70aとナイロンフィルム71aを表面保護層7aとし」、「直鎖低密度ポリエチレンフィルムを第1熱溶着層5aとし」、「ナイロンフィルム70bとナイロンフィルム71bを表面保護層7bとし」、「直鎖低密度ポリエチレンフィルムを第2熱溶着層5bとして」いることから、かかる「表面保護層7a」及び「第1熱溶着層5a」並びに「表面保護層7b」及び「第2熱溶着層5b」は、本件訂正発明1の「樹脂層」に相当する。

(c)引用発明2の「真空断熱材1」が備える「内面に第1熱溶着層を有する第1ラミネートフィルム4a」は「ナイロンフィルム70aとナイロンフィルム71aを表面保護層7aとし、アルミ箔をガスバリア層6aとし、直鎖低密度ポリエチレンフィルムを第1熱溶着層5aとして」作製され、「真空断熱材1」が備える「内面に第2熱溶着層を有する第2ラミネートフィルム4b」は「第1ラミネートフィルム4aを作製し、ナイロンフィルム70bとナイロンフィルム71bを表面保護層7bとし、アルミ箔をガスバリア層6bとし、直鎖低密度ポリエチレンフィルムを第2熱溶着層5bとして」作製されるものなので、少なくとも樹脂成分が含まれていること、また「ガスバリア層6a」及び「ガスバリア層6b」を含むことによりガスバリア性を有することは明らかであるから、かかる「第1ラミネートフィルム4a」及び「第2ラミネートフィルム4b」は、上記「(a),(b)」をも踏まえると、本件訂正発明1の「真空断熱材」が備える「少なくとも樹脂成分を含む外被材」に相当し、また本件訂正発明1の「樹脂層、およびガスバリア層を含む積層フィルムであ」る「外被材」にも相当し、さらに本件訂正発明1の「ガスバリア性を有する」「外被材」にも相当する。

(d)引用発明2の「真空断熱材1」が備える「無機繊維を含む芯材2」は、「第1ラミネートフィルム4a及び第2ラミネートフィルム4bで構成されている袋内に収納されていて、減圧密封されて」いるものであるから、上記「(a),(c)」をも踏まえると、本件訂正発明1の「真空断熱材」が備える「前記外被材の内部において、減圧密閉状態で封入された芯材」に相当する。

(e)引用発明2の「第1ラミネートフィルム4aは、第1熱溶着層5a、ガスバリア層6a、及び表面保護層7aを有していて、内面側から外面側に向かって、この順で配置され、同様に、第2ラミネートフィルム4bは、第2熱溶着層5b、ガスバリア層6b、及び表面保護層7bを有していて、内面側から外面側に向かって、この順で配置されており、ナイロンフィルム70aとナイロンフィルム71aを表面保護層7aとし、アルミ箔をガスバリア層6aとし、直鎖低密度ポリエチレンフィルムを第1熱溶着層5aとして、第1ラミネートフィルム4aを作製し、ナイロンフィルム70bとナイロンフィルム71bを表面保護層7bとし、アルミ箔をガスバリア層6bとし、直鎖低密度ポリエチレンフィルムを第2熱溶着層5bとして、第2ラミネートフィルム4bを作製した」という構成は、その積層順及び上記「(a)?(c)」をも踏まえると、本件訂正発明1の「前記外被材は、樹脂層、およびガスバリア層を含む積層フィルムであり、さらに、前記樹脂層には、前記ガスバリア層の外面側に位置する、少なくとも一層の表面保護層と、前記ガスバリア層の内面側に位置する少なくとも一層の熱溶着層とが含まれ、前記熱溶着層がポリエチレンからなり、前記表面保護層がナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、またはポリプロピレンフィルムからなり」という構成に相当するものといえる。

以上のことから、本件訂正発明1と引用発明2とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点2>
「少なくとも樹脂成分を含む外被材と、前記外被材の内部において、減圧密閉状態で封入された芯材と、を備え、
前記外被材は、樹脂層、およびガスバリア層を含む積層フィルムであり、
さらに、前記樹脂層には、前記ガスバリア層の外面側に位置する、少なくとも一層の表面保護層と、前記ガスバリア層の内面側に位置する少なくとも一層の熱溶着層とが含まれ、
前記熱溶着層がポリエチレンからなり、
前記表面保護層がナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、またはポリプロピレンフィルムからなり、
前記外被材は、ガスバリア性を有する、
真空断熱材。」

<相違点2-1>
「外被材」に関し、
本件訂正発明1は、「MD方向およびTD方向の双方において、
(3)-140℃以上-110℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が20×10^(-5)/℃以上、および、
(4)+50℃以上+65℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が13×10^(-5)/℃以上、
の条件を満た」すのに対し、
引用発明2は、そのように特定されていない点。

<相違点2-2>
「外被材」に関し、
本件訂正発明1は、「前記温度範囲における前記TD方向の線膨張係数の平均値をCtdとし、
前記温度範囲における前記MD方向の線膨張係数の平均値をCmdとしたときに、Cmd/Ctdが3以下である」のに対し、
引用発明2は、そのように特定されていない点。

b 判断
まず相違点2-1について検討する。
刊行物2には、複数種のナイロンやポリエチレン等の線膨張係数が示されているものの、相違点2-1に係る本件訂正発明1の構成は開示されていない。
また他の刊行物1,3?4及び引用文献1並びに異議申立書のその他の甲号証をみても、相違点2-1に係る本件訂正発明1の構成は開示されていない。
さらに他に、引用発明2の「外被材」が「ナイロンフィルム」である「表面保護層」、アルミニウム箔(本件訂正発明1を引用する本件訂正発明6の「金属箔層」に相当する。)である「ガスバリア層」、「ポリエチレン」である「熱溶着層」を積層してなるものであれば、相違点2-1に係る本件訂正発明1の構成における条件(3)?(4)を満たすのが明らかであることや、引用発明2の「外被材」から条件(3)?(4)を満たすものに容易に想到し得ることを示すような技術常識等の根拠は認められない。
よって、相違点2-1に係る本件訂正発明1の構成は、当業者であっても引用発明2及び刊行物2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるといえない。
したがって、相違点2-2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用発明2と同一でなく、また引用発明2及び刊行物2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるといえない。

イ 本件訂正発明3,6,8?12について
本件訂正発明3,6,8?12は本件訂正発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮するものである。
そうすると、上記「ア」と同様の理由により、本件訂正発明6,8?12は引用発明1と同一でなく、また本件訂正発明6は引用発明2と同一でない。
さらに、上記「ア」と同様の理由により、本件訂正発明3,6,8?12は、引用発明1及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて、本件訂正発明3,6は、引用発明2及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて、本件訂正発明8?12は、引用発明2、刊行物2に記載された技術的事項及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるといえない。

(3)小括
以上より、本件訂正発明1,6,8?12は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでないので、その発明に係る特許は取り消すべきものでない。
また本件訂正発明1,3,6,8?12は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでないので、その発明に係る特許は取り消すべきものでない。

5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条柱書について
申立人は、特許異議申立書(第2頁第4行?第10行及び第15頁第3行?第22頁第1行)において、訂正前の請求項1?12に係る発明は、当業者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていないので、いわゆる未完成発明に該当し、かかる特許は特許法第29条の規定(特許法第29条柱書き)に違反してされたものであるから、特許を取り消すべきものである旨主張している。
しかしながら、上記「2?3」を踏まえると、条件(3)及び(4)を満たす本件訂正発明1?3,6,8?12について「低温環境」または「大温度差環境」が生じる使用条件で「長期に亘って」外被材が「良好な強度」及び「良好な耐久性」という効果を奏するものを、反復実施可能であると認められるので、当業者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていないとまではいえない。
したがって、特許異議申立人の主張は理由がない。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
特許異議申立人は、特許異議申立書(第2頁第19行?第3頁第5行及び第33頁第2行?第39頁末行)において、訂正前の請求項1?11に係る発明は、LNG輸送タンカー以外の用途に用いる真空断熱材を含むものであるが、本件明細書には、LNG輸送タンカーに用途を限定した真空断熱材に関する条件の技術的根拠しか記載されていないので、発明の詳細な説明に記載した発明を越えて一般化した発明を含むものであり、かかる特許は特許法第36条第6項の規定(特許法第36条第6項第1号)に違反してされたものであるから、特許を取り消すべきものである旨主張している。
しかしながら、本件明細書の段落【0003】?【0009】の記載(記載事項a)等を参照すると、本件訂正発明1?3,6,8?12は、電化製品または住宅用資材等の民生用製品に比べて、温度対応や長期使用に関して要求される特性が厳しくなる産業用製品の真空断熱材にも適用可能となるように、外被材の信頼性を、より一層好適化するためのものといえる。そして要求される特性が厳しい産業用製品の一つであるLNG輸送タンカーにおいて外被材の信頼性をより一層好適化する真空断熱材は、電化製品または住宅用資材等の民生用製品として広く用いられている真空断熱材に比べ、温度対応や長期使用の面で他の産業用製品や通常より厳しい条件の民生用製品においても外被材の信頼性を多少なりとも好適化するものと解されること、また他の産業用製品として「地上式LNGタンク」(段落【0090】等)「地下式LNGタンク」(段落【0090】等)、「水素ガス」を保持する「断熱容器」(段落【0092】等)等が具体的に開示されており、通常より厳しい条件の民生用製品として「極寒冷地の住宅等」の「住宅壁」(段落【0107】等)が具体的に開示されていることを踏まえると、本件訂正発明12以外の本件訂正発明1?3,6,8?11がLNG輸送タンカーに用途を限定していないことをもって、本件訂正発明1?3,6,8?11の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとまでいえない。
したがって、特許異議申立人の主張は理由がない。

(3)特許法第29条第1項第1号(新規性)について
特許異議申立人は、甲第1?2,8?13号証を提出し、特許異議申立書(第4頁第1?22行及び第56頁第1行?第63頁末行)において、訂正前の請求項1,3,5?12に係る発明は、その発明の前提となる芯材と外被材を備える真空断熱材が甲第1号証や甲第2号証に開示されていることから、甲第8?10号証でありふれた材料について示した上で、公然知られた発明であるとし、訂正前の請求項2に係る発明は、さらに甲第11?12号証でありふれた材料について示した上で公然知られた発明であるとし、訂正前の請求項4に係る発明は、さらに甲第13号証でポリイミドからなる樹脂フイルムの物性について示した上で公然知られた発明であるとし、したがって訂正前の請求項1?12に係る特許は特許法第29条の規定(特許法第29条第1項第1号)に違反してされたものであるから、取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:上記「第5 2(1)ア」で引用文献1としたものである。
甲第2号証:上記「第5 2(1)イ」で引用文献2としたものである。
甲第8号証:上記「第5 1(1)イ」で刊行物2としたものである。
甲第9号証:カプトンの種類と特徴 東レ・デュポン株式会
社作成のWeb頁
甲第10号証:材料定数の温度依存性を考慮したアルミニウム合金と鋼と
の複合円筒の熱応力の考察
甲第11号証:(株)渡邊商事/高低温引張性質 (株)渡邊商事作成の
Web頁
甲第12号証:プラスチックの極低温機械的特性評価
甲第13号証:AURUM 超耐熱・熱可塑性ポリイミド樹

しかしながら、この主張は、甲第8?13号証で一般的な材料について示した上で、本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証(引用文献1)や甲第2号証(引用文献2)により訂正前の請求項1?12に係る発明の新規性を否定するものであるから、実質的には特許法第29条第1項第3号に該当することを主張したものといえる。そして同法第29条第1項第3号については、上記「4」で述べたとおりである。したがって、本件訂正発明1,6,8?12は引用発明1と同一でなく、本件訂正発明1,6は引用発明2と同一でないから、本件訂正発明1,6,8?12は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでないので、その発明に係る特許は取り消すべきものでない。
また本件訂正発明2?3は本件訂正発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮するものなので、本件訂正発明2?3も引用発明1及び引用発明2と同一でない。よって、本件訂正発明2?3も、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでないので、その発明に係る特許は取り消すべきものでない。

(4)特許法第29条第1項第2号(新規性)及び第29条第2項(進歩性)について
特許異議申立人は、訂正前の請求項1,3?5,8に係る特許について、甲第14?17号証を提出し、特許異議申立書(第4頁下から第5行?第5頁第9行及び第64頁第2行?第67頁末行)において、本件特許の出願前にパナソニック株式会社製の冷蔵庫(品番:NR-F477TM-N形、製造番号:A2910013、2013年製造)に係る発明が公然実施をされており、訂正前の請求項1,3?5,8に係る発明は、当該公然実施をされた発明であるから、かかる特許は特許法第29条の規定(特許法第29条第1項第2号)に違反してされたものであり、特許を取り消すべきものである旨主張している。
また、訂正前の請求項1?12に係る発明は、当該公然実施された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、かかる特許は特許法第29条の規定(特許法第29条第2項)に違反してされたものであり、特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第14号証:冷蔵庫用の真空断熱材の線膨張係数測定の結果報告書
甲第15号証:冷蔵庫から真空断熱材を取り出す作業を説明する書面
甲第16号証:冷蔵庫のプレスリリース パナソニック株式会社作成のW
eb頁
甲第17号証:『感想』パナソニック NR-F477TM-W[ハーモ
ニーホワイト] 価格.comのWeb頁
しかしながら、本件訂正発明1?3,6,8?12は、
「少なくとも樹脂成分を含む外被材と、前記外被材の内部において、減圧密閉状態で封入された芯材と、を備え、
前記外被材は、樹脂層、およびガスバリア層を含む積層フィルムであり、
さらに、前記樹脂層には、前記ガスバリア層の外面側に位置する、少なくとも一層の表面保護層と、前記ガスバリア層の内面側に位置する少なくとも一層の熱溶着層とが含まれ、
前記熱溶着層がポリエチレンからなり、
前記表面保護層がナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、またはポリプロピレンフィルムからなり」という構成(以下「構成A」という。)、
「前記外被材は」「MD方向およびTD方向の双方において、
(3)-140℃以上-110℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が20×10^(-5)/℃以上、および、
(4)+50℃以上+65℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が13×10^(-5)/℃以上、
の条件を満たし」という構成(以下「構成B」という。)及び
「前記外被材は、
前記温度範囲における前記TD方向の線膨張係数の平均値をCtdとし、
前記温度範囲における前記MD方向の線膨張係数の平均値をCmdとしたときに、Cmd/Ctdが3以下である」という構成(以下「構成C」という。)を有するものであるが、甲第14?第17号証を参照しても、公然実施された発明が構成A?Cのそれぞれを有するものと解すべき合理性はない。
さらに構成A?Cを有する本件訂正発明1?3,6,8?12は、公然実施された発明に基づいて当業者が容易に想到できるものでもない。
したがって、特許異議申立人の主張は理由がない。

(5)特許法第29条第1項第3号(新規性)及び第29条第2項(進歩性)について
特許異議申立人は、訂正前の請求項1に係る特許について、甲第18号証、甲第19号証、甲第13号証及び甲第10号証を提出し、特許異議申立書(第5頁第11行?末行及び第68頁第2行?第70頁末行)において、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第19号証、甲第13号証及び甲第10号証の記載事項を踏まえると、本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第18号証に記載された発明であるから、かかる特許は特許法第29条の規定(特許法第29条第1項第3号)に違反してされたものであり、取り消すべきものである旨主張している。
また、訂正前の請求項1?12に係る発明は、甲第18号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、かかる特許は特許法第29条の規定(特許法第29条第2項)に違反してされたものであり、特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第18号証:特開2008-240924号公報
甲第19号証:極低温?高温まで/ポリイミド樹脂 東洋メタルポリケミ
カル株式会社作成のWeb頁
甲第13号証:上記「(3)」で示したとおりである。
甲第10号証:上記「(3)」で示したとおりである。
しかしながら、本件訂正発明1?3,6,8?12は構成A?Cを有するものであるが、甲第18号証、甲第19号証、甲第13号証及び甲第10号証をみても構成A?Cについて開示されてないし、また構成A?Cを有する本件訂正発明1?3,6,8?12は、甲第18号証、甲第19号証、甲第13号証及び甲第10号証の記載事項に基づいて当業者が容易に想到できるものでもない。
したがって、特許異議申立人の主張は理由がない。


第7 むすび
以上のとおり、請求項1?3,6,8?12に係る特許は、本件取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって取り消すことはできない。さらに、他に請求項1?3,6,8?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また請求項4?5,7に係る特許は、上記のとおり、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項4?5,7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも樹脂成分を含む外被材と、前記外被材の内部において、減圧密閉状態で封入された芯材と、を備え、
前記外被材は、樹脂層、およびガスバリア層を含む積層フィルムであり、
さらに、前記樹脂層には、前記ガスバリア層の外面側に位置する、少なくとも一層の表面保護層と、前記ガスバリア層の内面側に位置する少なくとも一層の熱溶着層とが含まれ、
前記熱溶着層がポリエチレンからなり、
前記表面保護層がナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、またはポリプロピレンフィルムからなり、
前記外被材は、ガスバリア性を有するとともに、MD方向およびTD方向の双方において、
(3)-140℃以上-110℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が20×10^(-5)/℃以上、および、
(4)+50℃以上+65℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が13×10^(-5)/℃以上、
の条件を満たし、
さらに、前記外被材は、
前記温度範囲における前記TD方向の線膨張係数の平均値をCtdとし、
前記温度範囲における前記MD方向の線膨張係数の平均値をCmdとしたときに、Cmd/Ctdが3以下である、
真空断熱材。
【請求項2】
前記外被材は、-130℃雰囲気下における引張破断強度が、180MPa以上である、請求項1に記載の真空断熱材。
【請求項3】
前記外被材は、前記MD方向および前記TD方向の双方において、さらに、
(1)-130℃以上80℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.05Nでの線膨張係数が80×10^(-5)/℃以下、および、
(2)-140℃以上-130℃以下の温度範囲内における、静的荷重0.4Nでの線膨張係数の平均値が65×10^(-5)/℃以上、
のうち、少なくともいずれかの条件を満たす
請求項1または請求項2に記載の真空断熱材。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記ガスバリア層は、少なくとも一層の金属箔層または金属蒸着層を含む
請求項1に記載の真空断熱材。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
請求項1から請求項3、請求項6のいずれか1項に記載の真空断熱材を用いた断熱構造体を備え、低温物質を保持する
断熱容器。
【請求項9】
請求項1から請求項3、請求項6のいずれか1項に記載の真空断熱材を用いて構成された
住宅壁。
【請求項10】
請求項1から請求項3、請求項6のいずれか1項に記載の真空断熱材を用いて構成された
輸送機器。
【請求項11】
請求項8に記載の断熱容器を備え、
前記低温物質は水素である
水素輸送タンカー。
【請求項12】
請求項8に記載の断熱容器を備え、
前記低温物質は、液化天然ガス(LNG)である
LNG輸送タンカー。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-19 
出願番号 特願2017-506428(P2017-506428)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (F16L)
P 1 651・ 121- YAA (F16L)
P 1 651・ 536- YAA (F16L)
P 1 651・ 113- YAA (F16L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 土屋 正志黒田 正法  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 中村 泰二郎
一ノ瀬 覚
登録日 2017-05-26 
登録番号 特許第6145727号(P6145727)
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 真空断熱材、ならびに、これを用いた断熱容器、住宅壁、輸送機器、水素輸送タンカー、およびLNG輸送タンカー  
代理人 鎌田 健司  
代理人 前田 浩夫  
代理人 鎌田 健司  
代理人 特許業務法人有古特許事務所  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  
代理人 前田 浩夫  

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