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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1354077
異議申立番号 異議2017-701198  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-19 
確定日 2019-07-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6157928号発明「肝臓への脂肪蓄積抑制剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6157928号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕、10、11、12について訂正することを認める。 特許第6157928号の請求項2、10、11、12に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 特許第6157928号の請求項1、3ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6157928号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成25年 5月29日(優先権主張平成24年 5月29日、平成24年11月30日)の出願であって、平成29年 6月16日に特許権の設定登録がされ、同年 7月 5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年12月19日に特許異議申立人 岡田晃明、及び同年12月28日に特許異議申立人 野田澄子により特許異議の申立てがなされ、平成30年 5月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年 7月12日に意見書が提出されるとともに、訂正請求がされた後、平成30年12月 6日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成31年 1月24日に意見書が提出されるとともに、訂正請求がされ、平成31年 4月26日に特許異議申立人 岡田晃明により意見書が提出されたものである。
なお、平成30年 7月12日付けの訂正請求は特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。

第2 訂正の適否についての判断
1 平成31年 1月24日付けの訂正請求の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)?(12)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎」と記載されているのを、「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者における非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2」と記載されているのを、「請求項1」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3いずれか」と記載されているのを、「請求項1または3」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4いずれか」と記載されているのを、「請求項1、3および4いずれか」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?3のいずれか」と記載されているのを、「請求項1または3」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?4のいずれか」と記載されているのを、「請求項1、3および4のいずれか」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?5のいずれか」と記載されているのを、「請求項1、3、4および5のいずれか」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1?8いずれか」と記載されているのを、「請求項1および3?8いずれか」に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項12を削除する。

2 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明における「非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療のための組成物」を「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者における」ものに特定するものである。また、訂正前の請求項2?9は請求項1を引用するものであって、訂正事項1は、請求項2?9に係る発明についても、「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者における」ものに特定するものである。
そして、上記特定に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には、「本発明の脂肪肝予防/治療用医薬組成物は、脂肪肝へ移行しやすい、肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病(Weber-Christian病)、ウォルマン病(Wolman病)、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病(Wilson病)、インド小児肝硬変等に罹患した者における脂肪肝の予防および/または治療のために用いることができる。」(段落0024)との記載があることから、訂正前の請求項1?9に係る発明において、「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー0症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病(Weber-Christian病)、ウォルマン病(Wolman病)、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病(Wilson病)、インド小児肝硬変等に罹患した患者における」非アルコール性脂肪肝又は非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療のための組成物であることは明細書に記載されているものと認める。また、訂正前の請求項2に、「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者における脂肪肝の予防および/または治療のための、請求項1に記載の組成物。」と記載されていることからも、訂正前の請求項1に係る発明には、訂正前の請求項2記載の「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者における」非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療のためのものが含まれているものと認める。
よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項2の削除を求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3
訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項3と先行請求項との引用関係を一部解消し、引用請求項の数を減少することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4
訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項4と先行請求項との引用関係を一部解消し、引用請求項の数を減少することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5
訂正事項5に係る訂正は、訂正前の請求項5と先行請求項との引用関係を一部解消し、引用請求項の数を減少することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項6
訂正事項6に係る訂正は、訂正前の請求項6と先行請求項との引用関係を一部解消し、引用請求項の数を減少することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)訂正事項7
訂正事項7に係る訂正は、訂正前の請求項7と先行請求項との引用関係を一部解消し、引用請求項の数を減少することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(8)訂正事項8
訂正事項8に係る訂正は、訂正前の請求項8と先行請求項との引用関係を一部解消し、引用請求項の数を減少することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(9)訂正事項9
訂正事項9に係る訂正は、訂正前の請求項9と先行請求項との引用関係を一部解消し、引用請求項の数を減少することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(10)訂正事項10
訂正事項10は、請求項10の削除を求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(11)訂正事項11
訂正事項11は、請求項11の削除を求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(12)訂正事項12
訂正事項12は、請求項12の削除を求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(13)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?9は、請求項2?9が先行するすべての請求項を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、請求項1?9についての本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものでありる。

3 小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1?12は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するので、訂正後の請求項[1?9]、10、11、12について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明
上記訂正の結果、本件特許第6157928号の特許請求の範囲の請求項1?12に係る発明は、平成31年 1月24日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?12に記載された以下のとおりのものである(以下、それぞれ、「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」・・・「本件訂正発明12」というか、これらをまとめて「本件訂正発明」という。)。

「【請求項1】
マルチトールを有効成分として含有する、 肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者における非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療のための組成物。
【請求項2】
削除
【請求項3】
脂肪含有量が10重量%以上である食事の食前、食中、食後および食間のいずれかに投与されるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、経口液剤、シロップ剤、経口ゼリー剤、口腔用錠剤、口腔用スプレー剤、口腔用半固形剤および含嗽剤からなる群より選ばれる剤形のものである、請求項1または3に記載の組成物。
【請求項5】
インスリン抵抗性改善薬、抗酸化剤、脂質異常症治療薬、肝庇護薬およびアンジオテンシンII1型受容体拮抗薬からなる群より選ばれる1種以上の薬剤をさらに含む、請求項1、3及び4いずれかに記載の組成物。
【請求項6】
組成物が機能性飲食品である、請求項1または3に記載の組成物。
【請求項7】
組成物がサプリメントである、請求項1、3および4のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
組成物が医薬組成物である、請求項1、3、4および5のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
動物肝臓、サメの肝油、豚肝臓の酵素分解ペプチド、ポリコサノール、葛花、L-オルニチン、ノブドウ、レスベラトロール、クルミ、クルミポリフェノール、α-リポ酸、アーティチョーク、アスタキサンチン、アスパラギン酸、アラニン、イエロードック、ウコン、牡蠣、ガジュツ、ガラナ、甘草、キョウオウ、クロレラ、グリチルリチン、高麗人参、コーヒー、ゴマリグナン、S-アデノシルメチオニン、シジミ、システイン、シリマリン、スピルリナ、チャンカピエドラ、田七人参、フェヌグリーク、セサミン、タウリン、ダンデライオン、フコイダン、マリアアザミ、ラクトフェリン、ラフィノース、霊芝、レシチンおよびローヤルゼリーからなる群より選ばれる1種以上の天然物または天然由来物質をさらに含む、請求項1および3?8いずれかに記載の組成物。
【請求項10】
削除
【請求項11】
削除
【請求項12】
削除 」

第4 当審の判断
1 取消理由通知書に記載した結論及び理由について
1.1 平成30年12月 6日付け取消理由通知書(決定の予告)の概要
当合議体が、平成30年 7月12日付けの訂正請求により訂正された請求項1、3?10に係る特許に対して特許権者に通知した平成30年12月 6日付け取消理由通知書(決定の予告)の結論及び理由は、概略、以下のとおりである。

結論
特許第6157928号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項11、12について訂正することを認める。
特許第6157928号の請求項11、12に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
特許第6157928号の請求項1、3?10に係る特許を取り消す。
特許第6157928号の請求項2に係る特許を維持する。

理由
1.本件出願の請求項1、請求項3のうち請求項1を引用する発明、請求項4のうち、請求項1または請求項3(請求項1を引用するものに限る)を引用する発明、請求項5のうち、請求項1または請求項3?4(請求項1を直接、間接に引用するものに限る)を引用する発明、請求項6?8のうち、請求項1または請求項3?5(請求項1を直接、間接に引用するものに限る)を引用する発明、請求項9のうち、請求項1または請求項3?8(請求項1を直接、間接に引用するものに限る)を引用する発明、請求項10に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

刊行物一覧
刊行物1:国際公開2007/114499号(特許異議申立人 岡田晃明による特許異議申立書の甲第1号証に対応する国際公開公報である)
刊行物2:日薬理誌,Vol.129,p271?275(2007)

なお、平成31年 1月24日付け訂正請求は、上記第2に説示したとおり適法なものとして訂正することが認められた。すなわち、上記訂正が認められた結果、上記理由1において取り消すべきとされた請求項10に係る発明は削除されたから上記理由1のうち、請求項10に係る発明に対するものは解消した。

1.1.1 本件訂正発明1について
(1)本件訂正発明1
本件訂正発明1は、前記第3において示したとおりのものである。

(2)刊行物の記載事項
(2)-1 刊行物1の記載事項
ア 「肥満の予防および治療は、健康の維持・増進において非常に重要な課題である。肥満は、2型糖尿病、高血圧症、高脂血症等を引き起こす。さらにこれらの疾病は、脳卒中や虚血性心疾患等の基礎疾患でもある。現在、これらの疾病は、肥満によって引き起こされるインスリン抵抗性を基盤とする、一連の代謝異常状態と解されている。」(第1頁第9?13行)

イ 「「動脈硬化」の危険因子と言えばコレテロールが有名だが、最近の研究では肥満(特に内臓脂肪)が様々な生活習慣病を引き起こし、より動脈硬化になりやすいことがわかってきている。このようなことから、様々な疾病を引き起こす要因とも言える肥満を予防することは、健常人においても有用である。」(第1頁最下行から第2頁4行)

ウ 「本発明の抗脂肪蓄積用組成物は、血中脂肪、体脂肪、内臓脂肪、皮下脂肪の蓄積を抑制する効果を持つため、肥満、2型糖尿病、高血圧症、高脂血症、脳卒中、虚血性心疾患などの予防および/または治療に有用である。」(第5頁第13?15行)

エ 「糖アルコールは、糖のアルデヒド基が還元されてアルコールになった構造を有する化合物の総称である。糖アルコールを経口的に摂取した場合、体内に吸収されるのは約半分であり、残りは大腸に到達し、腸内細菌の発酵に使用される (Geoffrey Livesey、 Health potential of polyols as sugar replacers, with emphasis on low glycemic properties. 、Nutrition Research Reviews.,16、ppl63-191(2003))。また、吸収されても、糖と代謝経路が異なり、エネルギーになりにくいため、低カロリーの甘味料として注目されている。
本発明の抗脂肪蓄積用組成物に用いる糖アルコールは、特に限定されるものではないが、例えば、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、ラクチトール、マンニトール、パラチニット(還元パラチノース)などを挙げることができる。」(第7頁第20行?第8頁第5行)

オ 「本発明の抗脂肪蓄積用組成物は血中脂肪、体脂肪、内臓脂肪、皮下脂肪の蓄積を抑制する効果を持つ組成物として、肥満、肥満の合併症、糖尿病、シンドロームX、インスリン抵抗性の異常に基づく疾患(高インスリン血症など)、高血圧症、高脂血症、動脈硬化、高尿酸血症、痛風、脂肪肝、胆石症、呼吸器疾患(睡眠時無呼吸症候群、Pickwick症候群など)、循環器系疾患(脳卒中、虚血性心疾患、狭心症、心筋梗塞、うっ血性心不全、汎発性血管内凝固症候群、心肥大など)、骨・関節障害(変形性関節症、腰椎すベり症、腰椎の前彎増強など)、不妊症、月経異常、子宮癌、神経疾患(坐骨神経痛など)、慢性腎炎などの予防および/または治療への応用が可能である。すなわち、飲食品、医薬品への添加が可能で味覚や安全性にすぐれた抗脂肪蓄積用組成物を簡便に提供できる利点がある。」(第13頁第6?16行)

カ 「本発明の抗脂肪蓄積用組成物を医薬品として使用する場合には、種々の形態で投与することができる。その形態として、例えば、錠剤、カプセル 剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与を挙げることができるが、経管、静注など他の形態であってもよい。」(第16頁第8行?11行)

キ 「[実施例1](キシリトールの抗脂肪蓄積効果測定)
( 1 ) 材料および方法
C57BL/6マウス(雄性、5週齢入荷、6週齢試験開始、n=9/群)を群分けして対照群(以下、AIN群ともいう)とXyl群を設けた。対照群には試験食としてAIN-93M飼料を与えた。また、Xyl群には、AIN-93M飼料に含まれるショ糖の一部をキシリトール(以下、Xylともいう)に置き換えた、キシリトール添加AIN-93M飼料を試験食として与えた。なお、キシリトール添加AIN-93M飼料では添加したXyl分のショ糖を減じて、試験食中の糖質量をAIN-93M飼料と等しくした。表1に各試験食の配合表を示す。各群に、前述の試験食を自由摂取させて約2ヶ月間飼育した後、試験開始日より58日後に剖検を行った。飼育期間中および剖検時に以下の項目について測定を行った。測定結果の統計解析はEXCELを用いたStudentのt検定で行った。<試験期間中測定項目 >
(A) 体重、 摂餌量および摂水量:試験開始日および試験開始日より4、8、11、15、18、22、25、29、32、36、39、43、46、50、53、57日後に測定した。

(B) 筋肉量および脂肪量:試験開始前 (試験開始日より6日前)、試験中期(試験開始日より25日後)、試験後期 (試験開始日より53日後) に X線 CTにより測定した。具体的には、マウスにイソフルレン (フォーレン(登録商標)、大日本製薬株式会社製)を吸入させ麻酔下にて、X線CT装置(実験動物用X線CTラシータ(登録商標)LT-100、アロカ株式会社製)を用いて、筋肉量(g)および脂肪(内臓脂肪および皮下脂肪) 量(g)を測定した。さらにそれらの値を測定時の体重で除して、相対筋肉量(g/g体重)および相対脂肪量(g/g 体重)を求めた。<剖検時測定項目 >
脂肪量:精巣周囲、後腹膜および腸間膜の脂肪を採取し、その湿重量 (g)を測定し、その値を体重で除して、相対脂肪量(g/g体重)を求めた。
[表1]



上記表1は各試験食100kcal当たりの配合量(g)を示す。また、表1に記載の改変AIN-93Mとは、米国国立栄養研究所(AIN) から1993年に発表されたマウスやラットにおける栄養研究用の標準精製飼料であるAIN-93Mよりコーンスターチおよびショ糖を除いたものをいう。なお、AIN-93Mは成長期を過ぎた成熟動物用の標準精製飼料である。
(2 )結果および考察
体重および平均摂取熱量:結果を第1図に示す。両群とも体重は順調に増加し、群間に有意な差は認められなかった。試験期間中の平均摂餌量(g/body, day)から以下の式(数式1:AIN-93M飼料および数式2:キシリトール添加AIN-93M飼料)により試験期間中の平均摂取熱量(kcal/body,day)を算出したところ、対照群およびXyl群でそれぞれ12.7および12.3kcal/body,dayとなり、ほぼ同等であった。

[数式1]
平均摂取熱量(kcal/body,day)=平均摂餌量(g/body,day)×3.58(kcal/g飼料)
[数式2]
平均摂取熱量(kcal/body,day)=平均摂餌量(g/body,day)×3.55(kcal/ g 飼料)

相対筋肉量および相対脂肪量:結果を第2図に示す。X線CTの結果から求めた相対筋肉量は試験開始前では差がなく、飼育期間の経過にしたがってXyl群が対照群に比べて高い値を示す傾向にあった。試験後期では、Xyl群は対照群に比べて有意に(p<0.05)高い値を示した。X線CTの結果から求めた相対脂肪量は、試験開始前では差がなく、飼育期間の経過にしたがってXyl群が対照群に比べて低い値を示す傾向にあった。試験後期では、Xyl群は対照群に比べて有意に(p<0.05) 低い値を示した。
剖検時の相対脂肪量:結果を第3図に示す。後腹膜および腸間膜の相対脂肪量は、Xyl群が対照群に比べて低い値を示す傾向にあつた。精巣周囲の相対脂肪量は、Xyl群は対照群に比べて有意(p<0. 05)に低い値を示し、X線CT測定と同様の結果が得られた。
以上のように、体重増加および摂取熱量が同等であるにも関わらず、Xyl群は対照群に比べて脂肪蓄積量が有意に低いことが認められた。マウス・ラット用精製飼料の糖質の一部をXylに置換することによって、体脂肪の蓄積を抑制できることが明らかとなった。」(第16頁第23行?第19頁第14行)

ク 「 [実施例4] (キシリトールおよびパラチノースによる体脂肪蓄積抑制効果の測定)
(1)材料および方法
C57BL/6マウス(雄性、6週齢試験開始) を環境馴化後、 体重を指標に各群6匹の6群に分け、表5に示す試験食を各群の動物に自由摂取させ、この日を試験開始日として約2ヶ月間試験食による飼育を行った。動物は試験開始日より59日後から1晩絶食し、試験開始日より60日後に剖検を行った。いずれの期間も水は自由摂取とした。飼育期間中および剖検時に以下の項目について測定を行った。測定結果の統計解析には統計ソフトStat Light(ユックムス社)を用い、検定は Tukey-Kramer multiple comparison testにて行った。<試験期間中測定項目〉
(A)体重:試験開始日および試験開始日より4、8、10、14、18、22、25、28、32、36、39、43、46、50、53、56、59日後に測定した。摂餌量、摂水量:前記体重測定と同日に残餌および残水量を測定し、摂餌量、摂水量を算出した。
(B)筋肉量および脂肪量:試験開始前 (試験開始日より7又は6日前)、試験中期(試験開始日より 28又は29日後)、試験後期(試験開始日より56又は57日後)にX線CTにより測定した。具体的には、マウスにイソフルレン(フォーレン(登録商標)、大日本製薬株式会社製)を吸入させ麻酔下にて、X線CT装置(実験動物用X線CTラシータ(登録商標)LT-100、アロカ社製)を用いて、筋肉量(g)および脂肪(内臓脂肪および皮下脂肪)量(g)を測定した。さらにそれらの値を測定時の体重で除して、相対筋肉量(g/g体重)および相対脂肪量(g/g体重)を求めた。<剖検時測定項目>
脂肪量:精巣周囲、後腹膜および腸間膜の脂肪を採取し、その湿重量(g)を測定した。さらに、その値を体重で除して、相対脂肪量(g/g体重)を求めた。
臓器重量:膵臓、肝臓、脾臓、腎臓を摘出し、その湿重量(g)を測定した。さらに、その値を体重で除して、相対臓器重量(g/g体重)を求めた。

[表5]



群構成および試験食を表5に示す。ここでは各試験食27.9g当たりの配合量(g)を示す。また、表5に記載の改変AIN-93Mとは、米国国立栄養研究所(AIN)から1993年に発表されたマウスやラットにおける栄養研究用の標準精製飼料であるAIN-93Mよりコーンスターチおよびショ糖を除いたものをいう。なお、AIN-93Mは成長期を過ぎた成熟動物用の標準精製飼料である。いずれの試験食も粉餌の状態である。
(2)結果および考察
体重:結果を第9図に示す。各群ともに体重は順調に増加した。試験開始日より56日後に併用高用量群と対照群の間に有意な差が認められたが、有意な差が認められたのはこの1日のみであったため、試験期間を通して体重推移に試験食は影響を及ぼさなかったと判断した。
摂餌量:結果を表6に示す。

[表6]



表6中、各摂取熱量は以下の数式4 にて算出した。

[数式4]
1日あたりの平均摂餌量=試験期間中の合針摂餌量/試験日数(=59)
(g/body,day) (g/body) (day)

1日あたりの平均摂取熱量=1日あたりの平均摂餌量×飼料1gあたりの熱量
(kcal/body,day) (g/body,day) (kcal/g飼料)

試験期間中のマウス1匹あたりの合計摂餌量には各群間に有意な差は認められなかった。また、試験期間中のマウス1匹あたり1日の平均摂餌量、摂餌量および飼料1gあたりの熱量から求めた平均摂取熱量についても各群間に有意な差は認められなかった。
筋肉量および脂肪量:結果を第10図に示す。
第10図中、右に表示している「1 対照群」 ? 「6 併用高用量群」 の順は、グラフの左端の 「1 対照群」 から右端の 「6 併用高用量群」までの順に対応している。図11?図13についても同様である。
X線CTから求めた相対筋肉量には、試験前において各群間に有意な差は認められなかったが、試験中期にキシリトール低用量群(p<0.05)、併用低用量群(p<0.05)、キシリトール高用量群(p<0. 05)および併用高用量群(p<0.01)が対照群に比較して有意な高値を示した。また、試験後期には併用高用量群(p<0. 01)が対照群に比較して有意な高値を示した。
X線CTから求めた相対脂肪量は、試験前において各群間に有意な差は認められなかったが、試験中期にキシリトール低用量群(p<0.05)、併用低用量群(p<0.05)、キシリトール高用量群(p<0. 05)および併用高用量群(p<0.01)が対照群に比較して有意な低値を示した。また、試験後期には併用高用量群(P<0.01)が対照群に比較して有意な低値を示した。
剖検時の相対蔵器重量:いずれの臓器も、群間に有意な差を認めなかった。剖検時の相対脂肪量:結果を第11図(精巣周囲)、第12図(腸間膜)、および第13図(後腹膜)に示す。第11図に示すように、精巣周囲の相対脂肪量は、対照群と比較して、対照群以外の全群で低値を示し、併用高用量群(P<0.05)では有意な差が認められた。
第12図に示すように、後腹膜の相対脂肪量は、対照群と比較して、対照群以外の全群で低値を示し、併用低用量群(p<0.05)、キシリトール高用量群(p<0.05)および併用高用量群(p<0.01)では有意な差が認められた。
第13図に示すように、腸間膜の相対脂肪量は、対照群と比較して、対照群以外の全群で低値を示し、併用低用量群(p<0.05)および併用高用量群(p<0. 01)では有意な差が認められた。
以上のように、体重推移、摂取熱量および相対臓器重量において、各群間に差は認められなかった。体重あたりの筋肉量および脂肪量、あるいは剖検時の3種類の脂肪重量において、キシリトールおよび併用群に有意な低値が認められ、パラチノース群に低値傾向が認められた。とりわけ、試験食 27.9g中にパラチノース7.00gおよびキシリトール0.90gを含有した併用高用量群においては、 試験食27.9g中にパラチノース7.00gおよびキシリトール0.45gを含有した併用低用量群と比較して、パラチノースとキシリトールの相乗効果が顕著にみられた。」(第25頁第20行?第30頁第1行)

(2)-2 刊行物2の記載事項
ア 「近年、内臓脂肪型肥満を背景に糖尿病、高脂血症、高血圧症を生じるメタボリックシンドロームに注目が集まり、病態の解明が進められてきた。内臓脂肪組織の脂肪細胞は、アディポサイトカインと呼ばれる脂肪細胞特異的サイトカインや各種サイトカインを分泌して全身臓器に作用し、エネルギー代謝や免疫をコントロールしている。しかし、肥満に伴い脂肪細胞内の貯蔵脂質が過剰になると脂肪細胞は肥大し、アディポサイトカインの分泌に異常をきたす。これがメタボリックシンドロームの病因だとされている。このメタボリックシンドロームの肝における表現型である脂肪性肝疾患は、肝細胞に中性脂肪が沈着して、肝障害をきたす疾患である。」(第271頁左欄下から11行?右欄2行)

イ 「脂肪性肝疾患といえば、以前はアルコールによる肝障害を原因とするものが多かったが、糖尿病、肥満によっても同様な障害が生じることがわかり、現在ではアルコール摂取歴がないにもかかわらず、アルコール性肝障害に類似した脂肪性肝障害を認める症例を非アルコール性脂肪性肝疾患(Non Alcoholic fatty liver disease:NAFLD)と呼んでいる。NAFLDは組織学的に脂肪沈着のみを認める単純性脂肪肝、脂肪化に壊死・炎症、繊維化を伴う脂肪性肝炎(Non-Alcoholic steatohepatitis:NASH)とに分けられ、NASHはNAFLDの中の重症型と考えられている(1)。」(第271頁右欄4行?下から6行)

ウ 「

」(第272頁 図2)

エ 「TNF-αは脂肪組織や骨格筋のインスリン抵抗性を惹起し、脂肪肝の形成を促進すると同時に、肝細胞のアポトーシスを誘導して肝細胞傷害を生じることで、NASHの発症・進展に関与していると考えられる(図3)。」(第273頁左欄第1?3行)

オ 「アディポネクチンは骨格筋や肝における糖代謝と脂肪酸代謝を亢進させることにより、インスリン感受性増強作用を発揮し、脂肪肝形成を抑制する(図4)。」(第273左欄下から第4行?最下行)

カ「レプチンが肝障害の増悪因子である可能性が示された(20)。・・・レプチンが肝障害促進および繊維化促進因子として作用しているものと考えられる(図6)。」(第273頁右欄第最下行?第275頁左欄第1行)

キ 「前述のごとく、内臓脂肪型肥満では、内臓脂肪組織の肥大した脂肪細胞からTNF-αなどのアディポサイトカインが分泌され、その結果インスリン抵抗性が惹起されている。このインスリン抵抗性の存在により、筋肉では糖・脂肪代謝が低下し、脂肪組織では脂肪酸の放出が促進されるため、糖や脂肪酸が肝臓へと過剰に供給される。そして、肝臓では脂肪酸の生合成が亢進し、脂肪組織から供給された脂肪酸と合わせて、肝細胞内に過剰に脂肪が蓄積する。・・・以上の各過程を改善することを目的とした薬物治療がNASHの治療となる。その作用機構から考えた場合、薬物療法は大きく以下の4つのカテゴリーに分けられると考える。丸付き数字1 インスリン抵抗性の改善(インスリン抵抗性改善薬)、丸付き数字2 脂肪酸生合成の抑制と肝内に蓄積した脂肪酸の燃焼(高脂血症薬)、丸付き数字3 脂肪酸の代謝過程で生じた酸化ストレスからの保護(抗酸化剤や肝庇護剤)である(図8)(22,23)。これらが現在の一般的な治療であるが、今後の新たな治療剤としては、丸付き数字4 抗NASH作用を持つアディポネクチンのレセプターに対するアゴニストや抗TNF-α剤などを検討すべきだろう。また、近年、伊東細胞にアンジオテンシンII(ATII)レセプターが存在し、ATIIにより伊東細胞が活性化され、コラーゲンなどの細胞外マトリックする産生が増強することが報告され、降圧薬として知られるアンジオテンシンIIレセプター拮抗や区が、NASHにおける肝繊維化抑制薬としても作用する可能性があり(24)、今後の臨床応用が期待される(図8)。」(p275左欄3.薬物療法の可能性、の項)

(3)刊行物1に記載された発明
前記(2)-1において指摘した刊行物1の記載によれば、刊行物1には、「キシリトールを有効成分として含有する、抗脂肪蓄積用組成物」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(4)対比
引用発明における「キシリトール」、本件訂正発明1の「マルチトール」は、共に、「糖アルコール」の一種であるから、本件訂正発明1と引用発明とは、
「糖アルコールを有効成分として含有する組成物」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1
本件訂正発明1の組成物が「非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療のための」組成物と特定されているのに対して、引用発明の組成物は「抗脂肪蓄積用」組成物である点

相違点2
本件訂正発明1の糖アルコールが「マルチトール」であるのに対して、引用発明の糖アルコールは「キシリトール」である点

相違点3
本件訂正発明1の組成物が「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者における」非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療のための組成物」と特定されているのに対して、引用発明はそのような特定がされていない点

(5)判断
平成31年 1月24日付けの訂正請求により、本件訂正発明1の「非アルコ-ル性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療のための組成物」は、「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者における」と特定するものとなった。したがって、相違点1の「非アルコ-ル性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療」は、上記疾患に罹患した患者におけるものに限られる。そこで、以下においては、組成物が予防および/または治療の対象とする疾患に関する相違点1と同対象とする患者に関する相違点3について併せて検討する。

ア 相違点1、相違点3について
刊行物1には、標準精製飼料であって((2)-1 キ、ク、特に、表1、表6)、かつ肥満の抑制に配慮した成熟マウスの維持用の標準飼料であると伺えるAIN-93M(乙第4号証、乙第5号証(いずれも優先日後に開示もしくは頒布されたもの))の脂質は改変せずに糖質の一部を改変した試験食を摂取したマウスを用いて、キシリトールの抗脂肪蓄積効果を測定した試験結果が実施例1、4として記載されている((2)-1 キ、ク)。それら実施例1、4記載のX線CT測定において求められた相対脂肪量は、内臓脂肪と皮下脂肪との合計量に基づく値であり、また、同剖検において求められた相対脂肪量は、第3図、第11図?第13図に記載されるように精巣周囲、後腹膜、腸間膜について脂肪量を測定し、図面の簡単な説明の項に記載のとおり、(g/g体重)をパーセンテージにて示したものである((2)-1 キ、ク)。そして、精巣周囲、後腹膜、腸間膜の脂肪は、一般に、腹腔内脂肪として認識されている(必要なら、糖尿病、40巻、8号、p539?546、1997、特にp544左欄6?7行)。マウスの腹腔とは、体腔の横隔膜より尾側をいい、腹腔内には肝臓や腸などの臓器が収まっており、内臓脂肪組織は腹腔内に存在する脂肪組織であることは本件優先日当時の技術常識である(必要なら、応用数理、21巻、2号、p97?109、2011、特に、p102 3.3マウス体内の脂肪組織の分類、の項参照)。すなわち、腹腔内脂肪は内臓脂肪として理解されているものである(必要なら、さらに、日本内科学会雑誌、第94巻、第4号、p188?203、2005、特にp191左欄 1)内臓脂肪(腹腔内脂肪)蓄積、の項参照)。
以上によれば、刊行物1に記載されたキシリトールの抗脂肪蓄積効果は、健康な状態又は環境条件下にある成熟マウスの体脂肪、内臓脂肪の蓄積について確認されたものであるといえる。
ところで、上記刊行物1に例示されている脂肪肝は、たとえば、刊行物2に、「脂肪性肝疾患は、肝細胞に中性脂肪が沈着して肝障害をきたす疾患である。」((2)-2 ア)と記載されているように、肝細胞に脂肪が蓄積する疾患であることは本件優先日当時に広く知られているところであり、刊行物2記載のこの技術的知見を有し、健康な状態又は環境条件下にある成熟マウスの体脂肪、内臓脂肪の蓄積について確認された刊行物1に記載されたキシリトールの抗脂肪蓄積効果に接した当業者であれば、引用発明に含まれるキシリトールが、健康な状態又は環境条件下にあるヒト、非ヒト動物における内臓脂肪の蓄積抑制効果を発揮することにより内臓脂肪型肥満を予防でき、また、肥満を予防すれば肥満によって生じる脂肪性肝疾患、すなわち脂肪肝を予防できることを理解するといえる。そして、内臓脂肪型肥満によって生じる脂肪性肝障害を認める症例は、非アルコール性脂肪性肝疾患、より具体的には、非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪性肝炎であることは、刊行物2に記載されている((2)-2 イ)ように本件優先日当時すでに知られているから、上記したキシリトールが肥満によって生じる脂肪肝を予防できることを理解する当業者はまた、非アルコール性脂肪肝を予防できることを理解するといえる。
よって、引用発明の抗脂肪蓄積組成物を、その健康な状態又は環境条件下にあるヒト、非ヒト動物における内臓脂肪型肥満を予防し、結果として、内臓脂肪型肥満によって生じる脂肪肝、すなわち非アルコール性脂肪肝の予防のための組成物として応用することは当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認める。また、非アルコール性脂肪肝を予防することができるならば、該脂肪肝が重症化した脂肪肝炎へと発展する可能性はないから、非アルコール性脂肪肝炎に対しても予防しうることを期待し、非アルコール性脂肪肝炎の予防のための組成物とすることは当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認める。
しかし、本件訂正発明1は、上記のとおり、「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者」を適用対象とするものであり、上記において当業者が理解するといえると説示した、健康な状態又は環境条件下にあるヒト、非ヒト動物を適用対象とするものではない。
一方、刊行物1に記載されたキシリトールの抗脂肪蓄積効果は、上記のとおり、標準精製飼料を摂取させたマウスを用いた試験における体脂肪、内臓脂肪の蓄積について確認されたものであり、肥満、糖尿病、高脂血症等の請求項1記載の疾患に罹患した患者やそれら疾患のモデル動物に対する抗脂肪蓄積について確認されたものではないから、キシリトールが上記疾患患者やモデル動物に対してどの程度の抗脂肪蓄積効果を奏するのかは不明である。また、健康な状態又は環境条件下にある被験体において、キシリトールが内臓脂肪の蓄積を抑制し、肥満を予防することから非アルコール性脂肪肝を予防できることを期待し得るといえたからといって、もはや健康な状態又は環境条件下にあるとはいえない、肥満、糖尿病、高脂血症等の請求項1記載の疾患に罹患した患者においても、脂肪肝を予防および/または治療するために十分な程度に内臓脂肪の蓄積を抑制することができると直ちにいえるものではない。
たとえば、内蔵脂肪型肥満では、脂肪組織で脂肪酸の放出が促進され、また、肝臓では脂肪酸の生合成が亢進し、肝細胞内に過剰に脂肪が蓄積することに加えて((2)-2 キ)、脂肪細胞は肥大し、アディポサイトカインの分泌に異常をきたし、メタボリックシンドローム、あるいはメタボリックシンドロームの肝における表現型である脂肪性肝疾患を発症することとなる((2)-2 ア)。ここでみられるアディポサイトカイン分泌の変化とは、たとえば、TNF-α、レプチン、レジスチンの上昇、アディポネクチンの低下である((2)-2 ウ(図2))。刊行物2の記載によれば、TNF-αは脂肪肝の形成を促進する因子、レプチンは肝障害促進及び繊維化促進因子であり、また、アディポネクチンは脂肪肝形成を抑制する因子であると理解され、上記変化は、いずれも脂肪肝形成を上昇させる要因として作用するものである((2)-2 エ?カ)。しかし、キシリトールをはじめとする糖アルコールが、アディポサイトカインの分泌を脂肪肝形成を低下させる方向へと変化させる作用を有することは刊行物1、2に記載されていないし、他にそのような作用を有することを記載した証拠や本件優先日当時の技術常識も見いだせない。また、抗脂肪蓄積作用とアディポサイトカインを脂肪肝の形成を低下させる方向へと変化させる作用との間に正の相関があるとの技術常識が本件優先日当時に存在していたものとも認められない。
そうすると、刊行物1に、引用発明の抗脂肪蓄積用組成物について、「本発明の抗脂肪蓄積用組成物は血中脂肪、体脂肪、内臓脂肪、皮下脂肪の蓄積を抑制する効果を持つ組成物として、肥満、肥満の合併症、糖尿病、シンドロームX、インスリン抵抗性の異常に基づく疾患(高インスリン血症など)、高血圧症、高脂血症、動脈硬化、高尿酸血症、痛風、脂肪肝、・・・などの予防および/または治療への応用が可能である。すなわち、飲食品、医薬品への添加が可能で味覚や安全性にすぐれた抗脂肪蓄積用組成物を簡便に提供できる利点がある。」((2)-1 オ)との記載があるとはいえ、ひとたび内臓脂肪型肥満状態を呈し、脂肪肝形成に関連する上記サイトカインが脂肪肝形成を上昇させる方向へと変化している以上、健康な状態又は環境条件下にある被験体において確認できる程度の内臓脂肪の蓄積抑制作用が、内臓脂肪型肥満に罹患した患者における非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎を予防および/または治療するために十分であるとはいえない。
また、上記のとおり、キシリトールが糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者に対してどの程度の抗脂肪蓄積効果を奏するのかは不明であるから、健康な状態又は環境条件下にある被験体において確認できる程度の内臓脂肪の蓄積抑制作用が、それら患者における非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎を予防および/または治療するために十分であるか必ずしも明らかではない、と当業者は理解する。
そうすると、引用発明において、「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者」を適用対象とすることは、当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認めることはできない。

したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 効果について
本件明細書の試験例1、試験例2は、高脂肪飼料、及び飲料水として蒸留水(群2)、2.5%ショ糖水溶液(群3)、2.25%マルチトール水溶液(群4)、4.5%マルチトール水溶液(群5)のいずれかを摂取したマウスについて、(イ)肝臓の脂肪空胞面積、(ロ)血中AST、(ハ)血中ALT、(ニ)血中ケトン体を測定したところ、(イ)では、群4、5が群2に対し有意に小さかったこと、(ロ)の群4が群3よりも低減される傾向にあり、群5が正常レベル(通常飼料、蒸留水摂取マウス)まで低減したこと、(ハ)では、群4は群3よりも低減される傾向にあり、群5が群3に対し有意に低減したこと、(ニ)では、群4、5は群3に対し増加していたことが記載されている。上記試験例において、高脂肪飼料を摂取したマウスは、通常飼料を摂取したマウスに比べて肝臓の脂肪空胞面積に増加がみられたものであるから、本件明細書には、マルチト-ルの投与が、肝臓にすでに脂肪が蓄積したマウスにおいて抗脂肪蓄積効果を奏したことの具体的な記載がある。
また、本件明細書の試験例3は、脂肪肝を発症したNASHマウスについて、(イ)脂肪蓄積面積%、(ロ)繊維化面積%、(ハ)炎症面積%を測定したところ、(イ)では、8週齢マルチトール低用量群(群3)が5週齢ショ糖群(群S2)と比較して有意に低い値を示したこと、8週齢マルチトール高用量群(群4)が5週齢(群S2)と比較して有意に低い値を示したこと、(ロ)では、ショ糖群(群2)と比較して、群3および群4が低値となる傾向を示したこと、(ハ)では、群2と比較して、群4は低値となる傾向を示したことが記載されているから、本件明細書には、マルチトールの投与が、マウスの非アルコール性脂肪肝の治療に効果を奏したことの具体的な記載がある。
そして、上記試験例における試験結果はいずれも、肝臓に脂肪蓄積が生じていると認められるマウスに対するマルチトールの効果を確認したものであるから、本件明細書には、マルチトールが、アディポサイトカインが脂肪肝の形成を上昇させる方向へと変化した疾患に罹患した被験体における脂肪肝を予防および/または治療できることが具体的な結果により示されているといえる。これに対して、肥満、糖尿病、高脂血症等の請求項1記載の疾患に罹患した患者は、もはや健康な状態又は環境条件下にあるとはいえず、健康な状態又は環境条件下にある被験体において、キシリトールが内臓脂肪の蓄積を抑制し、肥満を予防することから非アルコール性脂肪肝を予防できることを期待し得るとしても、それとは異なる状態または環境下にある、肥満、糖尿病、高脂血症等の請求項1記載の疾患に罹患した患者においても、内臓脂肪の蓄積を抑制すれば脂肪肝を予防することができるとか、治療することができると直ちにいえるものではないことは前記アにおいて説示のとおりである。
よって、本件明細書記載の上記本件訂正発明1の効果は、刊行物1、2に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識から当業者が予測できるものではない。

ウ 特許異議申立人 岡田晃明の意見について
特許異議申立人 岡田晃明は、以下(i)?(iv)の理由から、本件訂正発明1、3?9は、依然として刊行物1、2及び特許異議申立人 岡田晃明が提出した甲第3号証に対して進歩性を有しないと主張する。
(i)刊行物1には、「本発明の抗脂肪蓄積用組成物は血中脂肪、体脂肪、内臓脂肪、皮下脂肪の蓄積を抑制する効果を持つ組成物として、肥満、肥満の合併症、糖尿病、シンドロームX、インスリン抵抗性の異常に基づく疾患(高インスリン血症など)、高血圧症、高脂血症、動脈硬化、高尿酸血症、痛風、脂肪肝、・・・などの予防および/または治療への応用が可能である。」((2)-1 オ)と記載され、刊行物1記載の抗脂肪蓄積用組成物が肥満、糖尿病、高脂血症等の治療や脂肪肝の治療が可能であることが開示されているから、肥満、糖尿病、高脂血症等に罹患した患者に、刊行物1記載の抗脂肪蓄積用組成物を投与する動機付けがあるし、また、投与した場合に、脂肪肝の治療も可能になることを容易に予測できる。
(ii)刊行物2の「NASHの治療の基本は、食事療法と運動療法によって生活習慣の改善を行い、背景にある肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧を是正することである」との記載(刊行物2、特に、272頁左欄7?10行)、及び、「NASHの治療は、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などに対する治療が重要である」(日本内科学会雑誌、98(7)、1756?1762頁、特許異議申立人 岡田晃明が提出した甲第3号証に相当、特に、1757頁14?15行)との記載によれば、非アルコール性脂肪肝の治療の基本はメタボリックシンドローム治療であること、非アルコール性脂肪肝に関連する疾患が肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧等であることが理解されるから、当業者が請求項1記載の具体的な疾患を選択する動機付けを与える。
(iii)肥満やメタボリックシンドロームにあってアディポサイトカインの分泌異常が起こるとしても、たとえば、肥満やインスリン抵抗性を呈するNASH症例では、レプチン抵抗性を有し、脂肪の蓄積が進むこととなるから、キシリトール等の糖アルコールに脂肪蓄積抑制効果が認められれば、脂肪肝の形成を低下させる方向へ導くこと、すなわち非アルコール性脂肪肝や非アルコール性脂肪肝炎の予防および/又は治療の効果が期待できることは当業者にとって明らかである。
(iv)本件明細書に記載される試験結果は、せいぜい高脂肪飼料に含有される脂肪がマルチトールの脂肪蓄積抑制効果によって肝臓への蓄積が抑制されたことを示すのみであって、公知技術から想到し得ない本件訂正発明の顕著な効果を証明するものではない。

(i)について
特許異議申立人 岡田晃明が指摘する刊行物1の記載((2)-1 オ)は、脂肪蓄積が関連する疾患あるいは症状等として、肥満、糖尿病、高脂血症、脂肪肝等を羅列するにすぎず、肥満、糖尿病、高脂血症等の請求項1記載の疾患に罹患した患者の脂肪肝や肝炎を具体的に記載するものではない。また、刊行物1のその他の記載をみても、キシリトール等の糖アルコールが、肥満、糖尿病、高脂血症等の請求項1記載の疾患に罹患した患者やモデル動物に対する抗脂肪蓄積効果を奏することについて試験結果等の具体的な記載はないし、また、非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療の効果を奏することについて推認しうるに足る記載もみあたらず、刊行物1の上記記載は、実証されたものではなく、キシリトール等の糖アルコールを含有する抗脂肪蓄積用組成物の、肥満、糖尿病、高脂血症等の予防および/または治療への期待を単に述べるにすぎないものである。
また、前記ウに説示したとおり、健康な状態又は環境条件下にある被験体において、キシリトールが内臓脂肪の蓄積を抑制し、肥満を予防することから非アルコール性脂肪肝を予防できることを期待し得るといえたからといって、それとは異なる状態または環境下にある、肥満等に伴いすでに内臓脂肪が蓄積されている被験体において、内臓脂肪の蓄積を抑制すれば脂肪肝を予防することができるとか、治療することができると直ちにいえるものではない。
よって、特許異議申立人 岡田晃明の上記主張は理由がない。

(ii)について
非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の治療において、肥満、糖尿病、高脂血症等の疾患の治療が重要であることが本件優先日当時知られるところであったとしても、刊行物1、2、あるいはその他の特許異議申立人 岡田晃明が提出した証拠からは、せいぜいキシリトールが健康な状態又は環境条件下にあるヒト、非ヒト動物における肥満の予防効果を奏する程度の抗脂肪蓄積抑制効果を有するといえるにすぎず、キシリトール等の糖アルコールが、肥満、糖尿病、高脂血症等の疾患に対し治療効果を奏することが記載されているもしくは記載されているに等しいと認めることはできないし、健康な状態又は環境条件下にある被験体において確認できる程度の内臓脂肪の蓄積抑制作用が、肥満、糖尿病、高脂血症等の疾患に罹患した患者における非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎を予防および/または治療するために十分であるか必ずしも明らかではないと当業者が理解することは、前記アで説示のとおりであるから、特許異議申立人 岡田晃明の上記主張は理由がない。

(iii)について
特許異議申立人 岡田晃明の主張は、キシリトール等の糖アルコールが肥満、糖尿病、高脂血症等の請求項1記載の疾患に罹患した患者における肝などの内臓の脂肪蓄積抑制効果を奏することがすでに知られていることを前提として、キシリトール等の糖アルコールを、肥満、糖尿病、高脂血症等の請求項1記載の疾患に罹患した患者における非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療に適用することを容易に想到しうるというものである。
しかし、キシリトール等の糖アルコールが上記効果を奏することについて刊行物1に具体的な記載がないことは上記(i)について、において説示のとおりであり、また、刊行物2、あるいはその他の特許異議申立人 岡田晃明が提出したいずれの証拠をみても、キシリトール等の糖アルコールが上記効果を奏することは記載されていないから、特許異議申立人 岡田晃明の主張は、その前提が事実に基づくものであると認めることはできない。
加えて、レプチン抵抗性の状態にあっては、レプチンは肝障害促進及び繊維化因子として作用しているものと考えられるのであるから((2)-2 カ)、たとえ脂肪の蓄積が抑制されるとしても、肝障害や繊維化を抑制することができるとはいえない。
よって、特許異議申立人 岡田晃明の上記主張は理由がない。

(iv)について
刊行物1には、キシリトールが、健康な状態又は環境条件下にある被験体における内臓脂肪の蓄積を抑制することにより内臓脂肪型肥満を予防し、それゆえ、肥満によって生じる非アルコール性脂肪肝を予防できることが具体的に記載されているにとどまるのに対して、本件明細書には、前記ウ 効果について、において説示したとおり、マルチトールが、肝臓にすでに脂肪が蓄積した被験体、すなわち、アディポサイトカインが脂肪肝の形成を上昇させる方向へと変化した疾患に罹患した被験体における脂肪肝を予防および/または治療できることが具体的な結果により示されているといえる。そして、そのような効果が、刊行物1、2に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識から当業者が予測できるものではないことは、上記ア 相違点1、相違点3について、においてすでに説示のとおりであり、本件訂正発明1の上記効果は、特許異議申立人 岡田晃明が主張する公知技術から予測しうるものではない。
よって、特許異議申立人 岡田晃明の上記主張は理由がない。

(6)まとめ
したがって、本件訂正発明1は、刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

1.1.2 本件訂正発明3?9について
(1)本件訂正発明3?9
本件訂正発明3?9は、前記第3において示したとおりのものであり、本件訂正発明1を引用しさらに限定した発明であるから、上記本件訂正発明1についての判断と同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
2.1 特許異議申立人 岡田晃明は、特許異議申立書において、以下の甲第1号証?甲第6号証及び参考資料1、2を提出の上、訂正前の特許請求の範囲の請求項1?12に係る発明に関し、(i)新規性欠如、(ii)進歩性欠如を主張する。
なお、平成31年 1月24日付け訂正請求は、上記第2に説示したとおり適法なものとして訂正することが認められた。すなわち、上記訂正が認められた結果、請求項2、10?12は削除されたから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により上記請求項に係る特許についての特許異議申立ては却下すべきものである。

甲第1号証:国際公開2007/114499号(取消理由通知で引用した刊行物1に対応する再公表公報)
甲第2号証:澱粉科学、第21巻、第4号、第322頁?第327頁、1974年
甲第3号証:日本内科学会雑誌、第98巻、第7号、平成21年7月10日、第1756頁?1762頁
甲第4号証:栄養学雑誌、第30巻、第4号、第145頁?152頁、1972年
甲第5号証:キーワードでわかる臨床栄養 改訂版、WEB版、2011年8月10日発行
(http://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/)
甲第6号証:特開2009-256309号公報
参考資料1:JASBRA アルコール性肝障害診断基準 2011年版
(http://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/sankou.html)
参考資料2:日本内科学会雑誌、第101巻、第8号、平成24年8月10日、第2316頁?2321頁

(1)申立理由(i)について
特許異議申立人 岡田晃明が提出した甲第1号証は、取消理由通知(審決の予告)で引用した刊行物1に対応する再公表公報であり、両刊行物の記載内容は同じであるから、同甲号証には、前記1.1.1(3)で認定したとおりの発明(引用発明)が記載されていると認められる。そして、本件訂正発明1、3?9が、刊行物1に記載された発明ではないことは、前記1に説示したとおりである。
したがって、本件訂正発明1、3?9は、特許異議申立人 岡田晃明が提出した甲第1号証に記載された発明ではないので、特許異議申立人 岡田晃明による新規性欠如との主張は理由がない。

(2)申立理由(ii)について
甲第1号証には前記申立理由(i)について、の項で説示したとおりの記載がある。
甲第2号証には、糖尿病患者へのマルチトールの使用は中性脂肪の増加をきたさないこと(p326右欄24?30行)が記載されているし、甲第4号証には、糖尿病の治療の根本は食事療法であること、マルチトール負荷による血糖の上昇が軽微であり、同量のブドウ糖投与による血糖の上昇に比べて有意の差が認められることや、血中インスリンの増量もブドウ糖に比べて有意に低いことが認められたことから、マルチトールは、糖尿病患者の甘味品として有用なものと考えられることが記載されている(p152 まとめの項)。これら記載によればマルチトールは糖尿病患者への適用に利点を有することを当業者は理解すると認められる。
しかし、甲第1号証記載の発明は、糖尿病患者における糖アルコール(マルチトール)の適用に係るものではないから、甲第1号証記載の発明に甲第2号証もしくは甲第4号証記載の技術的手段を適用する動機付けは見いだせない。
また、甲第3号証には、腹部超音波検査におけるブドウ糖負荷試験において、脂肪肝を合併する割合が、正常型では47%程度であるのに対し、糖尿病型では76%であること(p1757右欄1?4行)、脂肪肝等の肝臓病と糖尿病・脂質異常症などの代謝性疾患との間に関連性があること(p1756左欄1、2行)が報告されており、NASHの治療は、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などに対する治療が重要であることや(p1757左欄14、15行)、肝臓に眼を向けた糖尿病管理の重要性が増してきているものと考えられること(p1758左欄21?24行)が記載されている。しかし、同号証には、NASHの治療はもちろん、関連性があるとされている代謝性疾患の治療にいかなる物質を用いるかについて何ら記載されるところはないから、糖アルコールに関する甲第1号証記載の発明に着目する根拠は見いだせない。そして、甲第2号証、甲第4号証には、マルチトールが肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧の治療に有効であることは記載されていないから、たとえ、甲第3号証の記載内容と甲第2号証、甲第4号証の記載内容を当業者が併せみたとしても、NASHの治療に有効な物質として糖アルコール(マルチトール)を着想することは格別の創意を要さずなし得たと認めることはできない。
したがって、本件訂正発明1は、特許異議申立人 岡田晃明が提出した甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、本件訂正発明3?9は請求項1を直接、間接に引用して本件訂正発明1をさらに限定した発明である。そして、甲第5号証には、本件訂正発明5においてさらに含むと規定される薬剤に関する記載が、甲第6号証には、本件訂正発明9においてさらに含むと規定される天然物または天然由来物質に関する記載があるにとどまるから、本件訂正発明1についてと同様の理由により、同甲第1号証?甲第4号証、場合によりさらに甲第5号証、甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
以上のとおり、本件訂正発明1、3?9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないので、特許異議申立人 岡田晃明による進歩性欠如との主張は理由がない。

2.2 特許異議申立人 野田澄子は、特許異議申立書において、以下の甲第1号証?甲第9号証を提出の上、訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2、4、6?8、及び12に係る発明に関して、(i)新規性欠如を、訂正前の特許請求の範囲の請求項1?12に係る発明に関して、(ii)(iii)進歩性欠如、(v)サポート要件違反、(vi)実施可能要件違反を、訂正前の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明に関して、(iv)明確性要件違反を主張する。
なお、平成31年 1月24日付け訂正請求は、上記第2に説示したとおり適法なものとして訂正することが認められた。すなわち、上記訂正が認められた結果、請求項2、10?12は削除されたから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により上記請求項に係る特許についての特許異議申立ては却下すべきものである。

甲第1号証:特開2003-334025号公報
甲第2号証:特開2004-33170号公報
甲第3号証:国際公開2004/89964号
甲第4号証:特開2005-281188号公報
甲第5号証:国際公開2002/96399号
甲第6号証:特開2009-185004号公報
甲第7号証:特開2012-201593号公報
甲第8号証:国際公開2011/154833号
甲第9号証:医薬品添加物事典 2007、日本医薬品添加剤協会編集、株式会社薬事日報社発行、2007年7月25日、283頁

(1)申立理由(i)、(ii)について
特許異議申立人 野田澄子が提出した、甲第1号証?甲第6号証には、マルチトールを含有する、脂質調節剤、脂肪肝抑制効果を有する健康食品、脂肪分解促進剤、脂肪肝治療剤又は肝障害の予防又は治療剤に係る発明が記載されており、それら用途は、本件訂正発明1、4、及び6?8の「非アルコール性脂肪肝を予防および/または治療のための」、「非アルコール性脂肪肝炎予防のための」に相当するものと認める。
しかし、甲第1号証?甲第6号証記載の上記発明は、「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者における」用途のものではないか、仮に上記用途のものであるとしても、「非アルコール性脂肪肝を予防および/または治療のための」、「非アルコール性脂肪肝炎予防のための」との用途に係る作用を発揮する成分、すなわち有効成分として、各々、「麦若葉末とポリデキストロース」、「麦若葉末とリン脂質結合ダイズペプチド」、「環状四糖5含水結晶」、「コージオリゴ糖」、「4-(3’,4,-ジヒドロキシフェニル)-ブタン-2-オン」、「チャの花部又はその抽出物」を含有するものであり、マルチトールを有効成分とするものではない。
したがって、本件訂正発明1、4、及び6?8は、特許申立人 野田澄子が提出した甲第1号証?甲第6号証に記載された発明ではないので、特許異議申立人 野田澄子による新規性欠如との主張は理由がない。
また、甲第1号証?甲第6号証のいずれにも、マルチトールが上記した用途に関連する作用を有することに関して記載も示唆もないから、マルチトールを有効成分とすることを当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認めることはできない。
したがって、本件訂正発明1、3?9は、特許申立人 野田澄子が提出した甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないので、特許異議申立人 野田澄子による進歩性欠如との主張は理由がない。

(2)申立理由(iii)について
特許異議申立人 野田澄子が提出した、甲第7号証には、セイヨウニンジンボクエキスを有効成分として含有する、糖尿病性脂肪肝の予防、改善又は治療用組成物が(特許請求の範囲)、また、同甲第8号証には、式Iの化合物 R_(1)-S-CH_(2)-CH_(2)-HN-R_(2)-R_(3)(I)(式中の符号省略)もしくは薬学的に許容しうるその塩を有効成分として含有する組成物がNASHの治療、予防、および/または改善に使用されうることが(特許請求の範囲、段落0007、0020)記載されている。それら用途は、本件訂正発明1、3?9の「糖尿病に罹患した患者における」、「非アルコール性脂肪肝の予防および/または治療のための」、「非アルコール性脂肪肝炎の予防のための」に相当するものと認める。
しかし、甲第7号証、甲第8号証のいずれにも、マルチトールを含有する組成物について具体的な記載はない。もっとも、甲第7号証には、必要に応じて、マルチトール等の賦形剤、吸着剤、着色料、香料等を使用してもよい(段落0019)ことが、また、甲第8号証には、上記式Iの化合物を1以上の薬学的に許容しうるキャリア、ビヒクル、もしくは希釈剤を含有する薬学的組成物として提供すること(段落0008)、好適なフィラーとして、糖アルコールが、また、その一例としてマルチトールが記載されている(段落0084)が、それら甲各号証はいずれも、組成物に配合もしくは添加する一種の賦形剤としてのマルチトールの使用について言及するにとどまる。甲第9号証に記載されるように、マルチトールが甘味剤や賦形剤として医薬品に添加される成分であることは本件優先日当時広く知られていたと認められるものの、甲第7号証、甲第8号証のいずれにも、マルチトールが糖尿病性脂肪肝の予防、改善又は治療のための用途やNASHの治療、予防、および/または改善作用を有することに関して記載も示唆もないから、マルチトールを有効成分として甲第7号証、甲第8号証記載の発明に配合もしくは添加することを当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認めることはできない。
したがって、本件訂正発明1、3?9は、特許異議申立人 野田澄子が提出した甲第7号証もしくは甲第8号証に記載された発明、並びに本件優先日当時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないので、特許異議申立人 野田澄子による進歩性欠如との主張は理由がない。

(3)申立理由(iv)について
「マルチトールを有効成分として含有する」との規定は、本件訂正発明1、3?9においては「非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療のための組成物」を修飾しており、該組成物は、「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者における非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療のための」ものである。
そして、「有効」とは、一般に、「ききめのあること。効力のあること。役に立つこと。」を意味する(必要なら、新村 出編 広辞苑 第五版 第2710頁「有効」の項、1998年11月11日発行 株式会社岩波書店)。
そうすると、本件訂正発明1、3?9の「マルチトールを有効成分として含有する」との規定は、マルチトールそれ自体が「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者における非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療」作用を発揮する成分であることを意味していることは明らかであり、本件明細書の発明の詳細な説明に当該用語について定義する記載がなくとも当業者はその技術的意味を理解することができるといえる。

特許異議申立人 野田澄子は、本件訂正発明1、3?7、9は医薬品に限定されておらず食品も包含する。そして、食品分野では有効成分として配合される成分はなく、権利が及ぶ範囲を明確に理解できないと主張する。しかし、本件訂正発明1、3?7、9はいずれも、「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者における非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療のため」という用途を発明特定事項とする組成物に係る発明であるから、本件訂正発明1、3?7、9に係る組成物は、食品の形態である場合であっても、上記特定の用途に適した食品であるものに限られる。そうすると、たとえば、マルチトールが賦形剤として用途の特定のない食品に配合又は添加されている場合には、本件訂正発明1、3?7、9の「有効成分として」、すなわち、「肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者における非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療」作用を発揮する成分として含有する場合に該当しないことは明らかであるから、特許異議申立人 野田澄子が主張する、権利が及ぶ範囲が明確に理解できない、ということはない。また、他に訂正後の各請求項の記載に不明確な点は見出せない。
特許異議申立人 野田澄子は、また、医薬分野では、有効成分とは、通常、医療用医薬品に関しては「JAPIC医療用医薬品集」に、一般用医薬品に関しては「一般用医薬品の区分リスト」に記載されている成分を指すと解釈されているが、本件訂正発明8は、本件訂正発明1に従属し、被従属項である本件訂正発明1は医薬品に限られないから、マルチトールは上記通常の意味の有効成分として配合されているとは一義的に解釈できず、その権利が及ぶ範囲が不明確であるとも主張する。しかし、本件訂正発明8が医薬組成物に限定されている以上、請求項8が請求項1の従属項であり、該請求項1に飲食品が包含されているとしても、本件訂正発明8に医薬品でないものが含まれる余地はないから、上記請求人の主張はその前提において誤りがある。
したがって、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものであり、特許異議申立人 野田澄子による明確性要件違反との主張は理由がない。

(4)申立理由(v)及び(vi)について
本件明細書の発明の詳細な説明には、非アルコール性脂肪性肝炎に対する予防および/または治療効果を確認するための試験として、段落0066?0067に8週齢における肝繊維化抑制の結果及び段落0068?0069に8週齢における肝炎症抑制の結果が記載されている。そして、上記試験結果によれば、ショ糖群(群2)と比較して、マルチトール低用量群(群3)及び高用量群(群4)は有意な差は認められなかったが、シリウスレッド染色(繊維化面積%の算出)において群3及び群4が低値となる傾向を示したこと、F4/80免疫染色(炎症面積%の算出)において群4は低値となる傾向を示したことから、群3及び群4に肝組織の繊維化抑制効果が、また、群4に肝組織の抗炎症効果が示唆されたと記載されている。すなわち、上記記載によれば、1群当たり雄8匹のマウスを用いて、マルチトール低用量群(群3)では、飼料としてHFD32-M(マルチトール6.08%)、水として純水を、また、高用量群(群4)では、飼料としてHFD32-M(マルチトール6.08%)、水としてマルチトール水溶液1.62%)を自由摂取させて飼育する試験条件下において、マルチトール低用量群は、脂肪性肝炎において観察される症状である肝繊維化に対し有意な抑制作用を有することが確認されたが、肝炎症に対しては有意な抑制作用を有することが確認されなかったことが本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認められる。
ところで、脂肪性肝炎とは、肝細胞の脂肪化に壊死・炎症、繊維化を伴う疾患であることは前記1において説示のとおり、本件出願時における技術常識である。
そうすると、少なくとも、マルチトール低用量群が、非アルコール性脂肪性肝炎の症候である肝繊維化に対し有意な抑制作用を有することが上記のとおり本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認められるのであるから、その限りにおいて、マルチトール低用量群は非アルコール性脂肪性肝炎に対する効果を有するものといえる。
また、本件明細書の発明の詳細な説明の段落0021に記載されるとおり、投与量は、脂肪肝の程度、年齢、性別等の条件に応じて適宜選択されることは本件出願時における技術常識であり、上記試験条件下においては、マルチトール低用量群に肝炎症に対して有意な抑制作用が確認されなかったとはいえ、非アルコール性脂肪性肝炎の予防および/または治療のためにマルチトールを用いる場合にあっては、当然に、対象に所望の効果をもたらす用量を投与すべきことは当然であるといえる。そして、本件訂正発明1、3?9には、マルチトールの投与量について規定されるところはなく、またマルチトール高用量群、あるいはそれ以上の用量を用いた場合には肝繊維化及び肝炎症の両者に対して有意な抑制作用を有することが確認されているのであるから、所期の課題を達成しうることは明らかであるといえる。したがって、本件訂正発明1、3?9には、発明の課題を解決できない範囲が包含されるとも、明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1、3?9を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとも、いえない。
したがって、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものであり、明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号の要件を満たすものであって、特許異議申立人 野田澄子によるサポート要件違反及び実施可能要件違反との主張は理由がない。

3 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1、3?9に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件訂正発明1、3?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2、10、11、12に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人 岡田晃明、及び特許申立人 野田澄子による特許異議の申立てについて、請求項2、10、11、12に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチトールを有効成分として含有する、肥満、糖尿病、脂質異常症、高脂血症、高血圧、耐糖能異常症、メタボリックシンドローム、脂肪ジストロフィー症、βリポ蛋白欠損症、ウェーバー-クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠性急性脂肪肝、ウィルソン病およびインド小児肝硬変からなる群より選ばれる1種以上の疾患に罹患した患者における非アルコール性脂肪肝または非アルコール性脂肪肝炎の予防および/または治療のための組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
脂肪含有量が10重量%以上である食事の食前、食中、食後および食間のいずれかに投与されるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、経口液剤、シロップ剤、経口ゼリー剤、口腔用錠剤、口腔用スプレー剤、口腔用半固形剤および含嗽剤からなる群より選ばれる剤形のものである、請求項1または3に記載の組成物。
【請求項5】
インスリン抵抗性改善薬、抗酸化剤、脂質異常症治療薬、肝庇護薬およびアンジオテンシンII1型受容体拮抗薬からなる群より選ばれる1種以上の薬剤をさらに含む、請求項1、3および4いずれかに記載の組成物。
【請求項6】
組成物が機能性飲食品である、請求項1または3に記載の組成物。
【請求項7】
組成物がサプリメントである、請求項1、3および4のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
組成物が医薬組成物である、請求項1、3、4および5のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
動物肝臓、サメの肝油、豚肝臓の酵素分解ペプチド、ポリコサノール、葛花、L-オルニチン、ノブドウ、レスベラトロール、クルミ、クルミポリフェノール、α-リポ酸、アーティチョーク、アスタキサンチン、アスパラギン酸、アラニン、イエロードック、ウコン、牡蠣、ガジュツ、ガラナ、甘草、キョウオウ、クロレラ、グリチルリチン、高麗人参、コーヒー、ゴマリグナン、S-アデノシルメチオニン、シジミ、システイン、シリマリン、スピルリナ、チャンカピエドラ、田七人参、フェヌグリーク、セサミン、タウリン、ダンデライオン、フコイダン、マリアアザミ、ラクトフェリン、ラフィノース、霊芝、レシチンおよびローヤルゼリーからなる群より選ばれる1種以上の天然物または天然由来物質をさらに含む、請求項1および3?8いずれかに記載の組成物。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-27 
出願番号 特願2013-113122(P2013-113122)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 参鍋 祐子横山 敏志  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 穴吹 智子
淺野 美奈
登録日 2017-06-16 
登録番号 特許第6157928号(P6157928)
権利者 上野製薬株式会社
発明の名称 肝臓への脂肪蓄積抑制剤  
代理人 田中 光雄  
代理人 櫻井 陽子  
代理人 坂田 啓司  
代理人 松谷 道子  
代理人 山崎 宏  
代理人 櫻井 陽子  
代理人 田中 光雄  
代理人 松谷 道子  
代理人 山崎 宏  
代理人 坂田 啓司  
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