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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01M
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A01M
管理番号 1354082
異議申立番号 異議2019-700054  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-24 
確定日 2019-07-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6362547号発明「薬剤放散器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6362547号の明細書および特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書および特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6362547号の請求項5に係る特許を維持する。 特許第6362547号の請求項1ないし4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6362547号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成27年1月15日に特許出願され、平成30年7月6日に特許権の設定登録がされ、平成30年7月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1ないし5に係る特許に対し、平成31年1月24日に特許異議申立人大日本除蟲菊株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成31年4月12日付けで取消理由(発送日同年4月18日)が通知され、その指定期間内である令和元年6月12日に意見書の提出及び訂正請求(以下「本件訂正」という。)がなされたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正請求の内容
本件訂正請求は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求めるものであって、次の事項を訂正内容とするものである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項3に記載の薬剤放散器において、
上記容器は縦長に形成され、
上記収容部は、上記容器の上下方向に長く形成されていることを特徴とする薬剤放散器。」と記載されているのを、
「蒸発する薬剤を保持した薬剤保持体と、該薬剤保持体を収容する縦長に形成された容器とを備え、該容器に形成された薬剤放散用の開口部から薬剤を外部に放散させるように構成された薬剤放散器本体と、
上記薬剤放散器本体を吊り下げるための長尺状吊り下げ部材とを備え、該吊り下げ部材は上記薬剤放散器本体に対して着脱自在に取り付けられた薬剤放散器において、
上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側における左側面には、複数の係合凸部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され、
上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側における右側面には、複数の係合凸部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され、
上記容器の内部には、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側を収容する左側収容部と、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側を収容する右側収容部とが共に上下方向に長く形成されるとともに、上記薬剤保持体を収容する空間と上記左側収容部とを区画する左側区画壁と、上記薬剤保持体を収容する空間と上記右側収容部とを区画する右側区画壁とが共に上下方向に長く形成され、
上記容器の上壁部には、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向一方の先端側から挿入される左側挿入孔が上記左側収容部に連通するように形成されるとともに、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向他方の先端側から挿入される右側挿入孔が上記右側収容部に連通するように形成され、
上記左側挿入孔の左縁部が、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側に形成されている上記係合凸部に係合するように形成され、
上記右側挿入孔の右縁部が、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側に形成されている上記係合凸部に係合するように形成され、
上記左側区画壁における上記左側収容部側の面は、上記左側挿入孔の左縁部よりも左側に位置付けられるとともに、該左側収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側を、該長手方向一方の先端側に形成されている上記係合凸部が上記左側挿入孔の左縁部に当接する方向に押し、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側における上記左側挿入孔の左縁部に当接している部分よりも下側を左側へ屈曲させるように形成され、
上記右側区画壁における上記右側収容部側の面は、上記右側挿入孔の右縁部よりも右側に位置付けられるとともに、該右側収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側を、該長手方向他方の先端側に形成されている上記係合凸部が上記右側挿入孔の右縁部に当接する方向に押し、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側における上記右側挿入孔の右縁部に当接している部分よりも下側を右側へ屈曲させるように形成されていることを特徴とする薬剤放散器。」に訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0007】に、
「第1の発明は、
蒸発する薬剤を保持した薬剤保持体と、該薬剤保持体を収容する容器とを備え、該容器に形成された薬剤放散用の開口部から薬剤を外部に放散させるように構成された薬剤放散器本体と、
上記薬剤放散器本体を吊り下げるための長尺状吊り下げ部材とを備えた薬剤放散器において、
上記吊り下げ部材には、複数の第1係合部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され、
上記容器には、上記第1係合部に係合する第2係合部が形成されていることを特徴とする。」
とあるのを、
「第1の発明は、
蒸発する薬剤を保持した薬剤保持体と、該薬剤保持体を収容する縦長に形成された容器とを備え、該容器に形成された薬剤放散用の開口部から薬剤を外部に放散させるように構成された薬剤放散器本体と、
上記薬剤放散器本体を吊り下げるための長尺状吊り下げ部材とを備え、該吊り下げ部材は上記薬剤放散器本体に対して着脱自在に取り付けられた薬剤放散器において、
上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側における左側面には、複数の係合凸部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され、
上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側における右側面には、複数の係合凸部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され、
上記容器の内部には、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側を収容する左側収容部と、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側を収容する右側収容部とが共に上下方向に長く形成されるとともに、上記薬剤保持体を収容する空間と上記左側収容部とを区画する左側区画壁と、上記薬剤保持体を収容する空間と上記右側収容部とを区画する右側区画壁とが共に上下方向に長く形成され、
上記容器の上壁部には、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向一方の先端側から挿入される左側挿入孔が上記左側収容部に連通するように形成されるとともに、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向他方の先端側から挿入される右側挿入孔が上記右側収容部に連通するように形成され、
上記左側挿入孔の左縁部が、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側に形成されている上記係合凸部に係合するように形成され、
上記右側挿入孔の右縁部が、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側に形成されている上記係合凸部に係合するように形成され、
上記左側区画壁における上記左側収容部側の面は、上記左側挿入孔の左縁部よりも左側に位置付けられるとともに、該左側収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側を、該長手方向一方の先端側に形成されている上記係合凸部が上記左側挿入孔の左縁部に当接する方向に押し、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側における上記左側挿入孔の左縁部に当接している部分よりも下側を左側へ屈曲させるように形成され、
上記右側区画壁における上記右側収容部側の面は、上記右側挿入孔の右縁部よりも右側に位置付けられるとともに、該右側収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側を、該長手方向他方の先端側に形成されている上記係合凸部が上記右側挿入孔の右縁部に当接する方向に押し、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側における上記右側挿入孔の右縁部に当接している部分よりも下側を右側へ屈曲させるように形成されていることを特徴とする。」
に訂正する。

明細書の段落【0008】に、
「この構成によれば、例えば、吊り下げ部材の長手方向先端側に位置する第1係合部を容器の第2係合部に係合させると、吊り下げ部材の長手方向中央寄りに位置する第1係合部を第2係合部に係合させる場合に比べて容器から延びる吊り下げ部材が長くなる。これにより、外径が小さな物から大きな物にまで薬剤放散器本体を吊り下げることが可能になるとともに、薬剤放散器本体の設置高さの調整も行うことが可能になる。」
とあるのを、
「この構成によれば、例えば、吊り下げ部材の長手方向先端側に位置する係合凸部を容器の挿入孔の左縁部または右縁部に係合させると、吊り下げ部材の長手方向中央寄りに位置する係合凸部を挿入孔の左縁部または右縁部に係合させる場合に比べて容器から延びる吊り下げ部材が長くなる。これにより、外径が小さな物から大きな物にまで薬剤放散器本体を吊り下げることが可能になるとともに、薬剤放散器本体の設置高さの調整も行うことが可能になる。」
に訂正する。

明細書の段落【0010】に、
「この構成によれば、吊り下げ部材の長手方向先端側を容器の挿入孔に挿入した状態で、吊り下げ部材の第1係合部を挿入孔の周縁部に係合させることで吊り下げ部材の長さ調整が容易に行える。」
とあるのを、
「また、吊り下げ部材の長手方向先端側を容器の挿入孔に挿入した状態で、吊り下げ部材の係合凸部を挿入孔の周縁部に係合させることで吊り下げ部材の長さ調整が容易に行える。」
に訂正する。

明細書の段落【0012】に、
「この構成によれば、吊り下げ部材の長手方向先端側を容器の収容部に収容した状態で、吊り下げ部材の第1係合部が容器の挿入孔の周縁部に確実に当接して係合するようになるので、第1係合部が挿入孔の周縁部から離脱しにくくなる。」
とあるのを、
「また、吊り下げ部材の長手方向先端側を容器の収容部に収容した状態で、吊り下げ部材の係合凸部が容器の挿入孔の周縁部に確実に当接して係合するようになるので、係合凸部が挿入孔の周縁部から離脱しにくくなる。」
に訂正する。

明細書の段落【0014】に、
「この構成によれば、吊り下げ部材の長手方向先端側を容器の挿入孔から収容部に収容するときに、吊り下げ部材の先端側が案内部によって収容部の奥側へ案内されるので、収容時の作業性が良好になる。」
とあるのを、
「また、吊り下げ部材の長手方向先端側を容器の挿入孔から収容部に収容するときに、吊り下げ部材の先端側が案内部によって収容部の奥側へ案内されるので、収容時の作業性が良好になる。」
に訂正する。

明細書の段落【0016】に、
「この構成によれば、容器を縦長に形成することで、薬剤放散用の開口部を広い範囲に設けて薬剤の放散効率を高めることが可能になる。そして、収容部が上下方向に長いので、長い吊り下げ部材を用いて外径の大きな物に薬剤放散器本体を吊り下げ可能にする場合に、その長い吊り下げ部材が不要なときに吊り下げ部材の先端側を収容部に収容して十分に短くした状態で使用することが可能になる。」
とあるのを、
「また、容器を縦長に形成することで、薬剤放散用の開口部を広い範囲に設けて薬剤の放散効率を高めることが可能になる。そして、収容部が上下方向に長いので、長い吊り下げ部材を用いて外径の大きな物に薬剤放散器本体を吊り下げ可能にする場合に、その長い吊り下げ部材が不要なときに吊り下げ部材の先端側を収容部に収容して十分に短くした状態で使用することが可能になる。」
に訂正する。

明細書の段落【0017】に、
「第1の発明によれば、薬剤放散器本体を吊り下げるための長尺状吊り下げ部材に複数の第1係合部を形成し、容器に形成した第2係合部に第1係合部を係合可能に構成したので、容器から延びる吊り下げ部材の長さを調整することができる。これにより、薬剤放散器本体を様々な外径の物に吊り下げることができるとともに、薬剤放散器本体の設置高さを任意に調整することができるので、利便性を向上できる。」
とあるのを、
「第1の発明によれば、薬剤放散器本体を吊り下げるための長尺状吊り下げ部材に複数の係合凸部を形成し、容器に形成した挿入孔の左縁部または右縁部に係合凸部を係合可能に構成したので、容器から延びる吊り下げ部材の長さを調整することができる。これにより、薬剤放散器本体を様々な外径の物に吊り下げることができるとともに、薬剤放散器本体の設置高さを任意に調整することができるので、利便性を向上できる。」
に訂正する。

明細書の段落【0018】に、
「第2の発明によれば、容器に形成した挿入孔の周縁部に吊り下げ部材の第1係合部を係合させるようにしたので、吊り下げ部材の長さ調整を容易に行うことができる。」
とあるのを、
「また、容器に形成した挿入孔の周縁部に吊り下げ部材の係合凸部を係合させるようにしたので、吊り下げ部材の長さ調整を容易に行うことができる。」
に訂正する。

明細書の段落【0019】に、
「第3の発明によれば、収容部に収容されている吊り下げ部材の長手方向先端側を、吊り下げ部材の第1係合部が容器の挿入孔の周縁部に当接する方向に押すようにしたので、第1係合部が挿入孔の周縁部から離脱しにくくなる。これにより、吊り下げ部材の長さが不用意に変化してしまうのを抑制することができる。」
とあるのを、
「また、収容部に収容されている吊り下げ部材の長手方向先端側を、吊り下げ部材の係合凸部が容器の挿入孔の周縁部に当接する方向に押すようにしたので、係合凸部が挿入孔の周縁部から離脱しにくくなる。これにより、吊り下げ部材の長さが不用意に変化してしまうのを抑制することができる。」
に訂正する。

明細書の段落【0020】に、
「第4の発明によれば、吊り下げ部材の長手方向先端側を収容部の奥側へ案内するための案内部を設けたので、吊り下げ部材の長手方向先端側を収容部に収容するときの作業性を良好にすることができる。」
とあるのを、
「また、吊り下げ部材の長手方向先端側を収容部の奥側へ案内するための案内部を設けたので、吊り下げ部材の長手方向先端側を収容部に収容するときの作業性を良好にすることができる。」
に訂正する。

明細書の段落【0021】に、
「第5の発明によれば、容器を縦長にしたことで薬剤放散用の開口部を広い範囲に設けて薬剤の放散効率を高めることができる。そして、収容部を上下方向に長くしたことで、長い吊り下げ部材を用いて外径の大きな物に薬剤放散器本体を吊り下げ可能にする場合に、その長い吊り下げ部材が不要なときに吊り下げ部材の先端側を収容部に収容して十分に短くした状態で使用することができるので、長さの調整範囲を拡大することができる。」
とあるのを、
「また、容器を縦長にしたことで薬剤放散用の開口部を広い範囲に設けて薬剤の放散効率を高めることができる。そして、収容部を上下方向に長くしたことで、長い吊り下げ部材を用いて外径の大きな物に薬剤放散器本体を吊り下げ可能にする場合に、その長い吊り下げ部材が不要なときに吊り下げ部材の先端側を収容部に収容して十分に短くした状態で使用することができるので、長さの調整範囲を拡大することができる。」
に訂正する。

明細書の段落【0009】、【0011】、【0013】および【0015】の記載を、何れも削除する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1ないし4について
訂正事項1ないし4は、請求項1ないし4を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項5が請求項3を、請求項3が請求項2を、請求項2が請求項1を引用する記載であるところ、請求項1ないし3を引用しないものとした上で、「第1係合部」を「係合凸部」、「第2係合部」を「挿入孔の左縁部または右縁部」に限定し、収容部、挿入孔の左縁部および右縁部の構成を限定するものであるから、引用関係の解消と特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるともいえる。
また、段落【0046】には薬剤放散器の使用態様として「薬剤放散器1は、薬剤放散器本体10から吊り下げ部材40を取り外した状態で使用することもできる。この場合、薬剤放散器本体10を置いて使用する。」と記載されており、この記載から、本件訂正事項5における長尺状吊り下げ部材が薬剤放散器本体に対して着脱自在であることが導き出される。
また、段落【0027】には第1係合部の具体的構成として、「吊り下げ部材40の長手方向一方の先端側には、複数の係合凸部(第1係合部)44が吊り下げ部材40の長手方向に並ぶように形成されている。係合凸部44は、吊り下げ部材40を使用状態としたときに外側へ向けて突出している。隣り合う係合凸部44は吊り下げ部材40の長手方向に間隔をあけて配置されている。また、吊り下げ部材40の長手方向他方の先端側にも同様な係合凸部(第1係合部)45が吊り下げ部材40の長手方向に並ぶように形成されている。」と記載されており、図面の図10には、係合凸部44が左側面に、係合凸部45が右側面に形成された態様が記載されている。これらの記載から、本件訂正事項5の「吊り下げ部材の長手方向一方の先端側における左側面には、複数の係合凸部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され」及び「吊り下げ部材の長手方向他方の先端側における右側面には、複数の係合凸部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され」ていることが導き出される。
また、段落【0036】には左側収容部の具体的構成として、「容器20の内部には、その左側に、吊り下げ部材40の長手方向の一方の先端側を収容する左側収容部S1が左側挿入孔27に連通するように形成されている。左側収容部S1は、容器20の上下方向に長く形成されている。」と記載されており、また、段落【0037】には「容器20の内部には、該容器20の左側に、薬剤保持体収容空間Rと左側収容部S1とを区画するための左側区画壁33が設けられている。左側区画壁33は、前側カバー部21の内面から後側カバー部22の内面まで延びるとともに、底壁部26内面から上方へ向かって左側壁部23と略平行に延びている。」と記載されている。さらに、段落【0039】には、「また、容器20の内部には、該容器20の右側に、薬剤保持体収容空間Rと右側収容部S2とを区画するための右側区画壁34が設けられている。右側収容部S2は、左側収容部S1と同様に構成されている。右側区画壁34は、左側区画壁33と同様に、前側カバー部21の内面から後側カバー部22の内面まで延びるとともに、底壁部26内面から上方へ向かって延びている。」と記載されている。この記載および図面の図8や図9の記載から、本件訂正事項5の「容器の内部には、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側を収容する左側収容部と、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側を収容する右側収容部とが共に上下方向に長く形成されるとともに、上記薬剤保持体を収容する空間と上記左側収容部とを区画する左側区画壁と、上記薬剤保持体を収容する空間と上記右側収容部とを区画する右側区画壁とが共に上下方向に長く形成され」ていることが導き出される。
また、段落【0033】には「壁部25の左側及び右側には、それぞれ左側挿入孔27及び右側挿入孔28が形成されている。左側挿入孔27には、吊り下げ部材40の長手方向一方の先端側が挿入され、右側挿入孔28には、吊り下げ部材40の長手方向他方の先端側が挿入される。」と記載されており、この記載および図面の図8や図9の記載から、本件訂正事項5の「容器の上壁部には、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向一方の先端側から挿入される左側挿入孔が上記左側収容部に連通するように形成されるとともに、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向他方の先端側から挿入される右側挿入孔が上記右側収容部に連通するように形成され」ていることが導き出される。
また、段落【0035】には「左側挿入孔27の周縁部において左縁部27aは本発明の第2係合部であり、前後方向に延び、吊り下げ部材40の長手方向一方の先端側に形成された係合凸部44に係合するようになっている。また、右側挿入孔28の周縁部において右縁部28aは本発明の第2係合部であり、前後方向に延び、吊り下げ部材40の長手方向他方の先端側に形成された係合凸部45に係合するようになっている。」と記載されており、この記載および図8の記載から、本件訂正事項5の「左側挿入孔の左縁部が、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側に形成されている上記係合凸部に係合するように形成され、上記右側挿入孔の右縁部が、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側に形成されている上記係合凸部に係合するように形成され」ていることが導き出される。
また、段落【0038】には「左側区画壁33における左側収容部S1側の面(左側収容部S1の内面)33aは、左側挿入孔27の左縁部27aよりも左側に位置している。これにより、左側区画壁33の面33aは、左側収容部S1に収容されている吊り下げ部材40の長手方向一方の先端側を、係合凸部44が左側挿入孔27の左縁部27aに当接する方向に押すように作用するので、吊り下げ部材40は、左側挿入孔27の左縁部27aに当接している部分よりも下側が左に屈曲する。」と記載され、段落【0040】には「右側区画壁34における右側収容部S2側の面(右側収容部S2の内面)34aは、右側挿入孔28の右縁部28aよりも右側に位置している。これにより、右側区画壁34の面34aは、右側収容部S2に収容されている吊り下げ部材40の長手方向他方の先端側を、係合凸部45が右側挿入孔28の左縁部28aに当接する方向に押すように作用するので、吊り下げ部材40は、右側挿入孔28の右縁部28aに当接している部分よりも下側が右に屈曲する。」と記載され、段落【0044】には「吊り下げ部材40の長手方向一方の先端側が容器20の左側区画壁33の面33aによって左側へ押されているので、吊り下げ部材40の係合凸部44が左側挿入孔27の左縁部27aに当接して確実に係合する。同様に、吊り下げ部材40の長手方向他方の先端側が容器20の右側区画壁34の面34aによって右側へ押されているので、吊り下げ部材40の係合凸部45が右側挿入孔28の右縁部28aに当接して確実に係合する。」と記載されている。これらの記載と図面の図9の記載から、本件訂正事項5の「上記左側区画壁における上記左側収容部側の面は、上記左側挿入孔の左縁部よりも左側に位置付けられるとともに、該左側収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側を、該長手方向一方の先端側に形成されている上記係合凸部が上記左側挿入孔の左縁部に当接する方向に押し、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側における上記左側挿入孔の左縁部に当接している部分よりも下側を左側へ屈曲させるように形成され、」及び「上記右側区画壁における上記右側収容部側の面は、上記右側挿入孔の右縁部よりも右側に位置付けられるとともに、該右側収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側を、該長手方向他方の先端側に形成されている上記係合凸部が上記右側挿入孔の右縁部に当接する方向に押し、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側における上記右側挿入孔の右縁部に当接している部分よりも下側を右側へ屈曲させるように形成されている」ことが導き出される。
したがって、訂正事項5は、新規事項の追加に該当しない。
また、上記で説示したように、訂正事項5は「第1係合部」を「係合凸部」、「第2係合部」を「挿入孔の左縁部または右縁部」に限定し、収容部、挿入孔の左縁部および右縁部の構成を限定するものであって発明のカテゴリー、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。

(3)訂正事項6について
訂正事項6は、上記訂正事項1ないし5に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1ないし6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号、第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 訂正後の請求項5に係る発明
上記訂正請求により訂正された請求項5に係る発明(以下「本件発明5」等という。)は、以下のとおりのものである。(下線は訂正箇所を示す。)

本件発明5
「蒸発する薬剤を保持した薬剤保持体と、該薬剤保持体を収容する縦長に形成された容器とを備え、該容器に形成された薬剤放散用の開口部から薬剤を外部に放散させるように構成された薬剤放散器本体と、
上記薬剤放散器本体を吊り下げるための長尺状吊り下げ部材とを備え、該吊り下げ部材は上記薬剤放散器本体に対して着脱自在に取り付けられた薬剤放散器において、
上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側における左側面には、複数の係合凸部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され、
上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側における右側面には、複数の係合凸部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され、
上記容器の内部には、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側を収容する左側収容部と、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側を収容する右側収容部とが共に上下方向に長く形成されるとともに、上記薬剤保持体を収容する空間と上記左側収容部とを区画する左側区画壁と、上記薬剤保持体を収容する空間と上記右側収容部とを区画する右側区画壁とが共に上下方向に長く形成され、
上記容器の上壁部には、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向一方の先端側から挿入される左側挿入孔が上記左側収容部に連通するように形成されるとともに、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向他方の先端側から挿入される右側挿入孔が上記右側収容部に連通するように形成され、
上記左側挿入孔の左縁部が、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側に形成されている上記係合凸部に係合するように形成され、
上記右側挿入孔の右縁部が、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側に形成されている上記係合凸部に係合するように形成され、
上記左側区画壁における上記左側収容部側の面は、上記左側挿入孔の左縁部よりも左側に位置付けられるとともに、該左側収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側を、該長手方向一方の先端側に形成されている上記係合凸部が上記左側挿入孔の左縁部に当接する方向に押し、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側における上記左側挿入孔の左縁部に当接している部分よりも下側を左側へ屈曲させるように形成され、
上記右側区画壁における上記右側収容部側の面は、上記右側挿入孔の右縁部よりも右側に位置付けられるとともに、該右側収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側を、該長手方向他方の先端側に形成されている上記係合凸部が上記右側挿入孔の右縁部に当接する方向に押し、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側における上記右側挿入孔の右縁部に当接している部分よりも下側を右側へ屈曲させるように形成されていることを特徴とする薬剤放散器。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して平成31年4月12日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
(2)本件特許の請求項1および2に係る発明は、本件特許出願前に頒布された甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)本件請求項1ないし5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定に違反してされたものである。

3 刊行物(特許異議申立人が提出した証拠)
甲第1号証:意匠登録第1447145号公報
甲第2号証:実願昭49-56080号(実開昭50-145322号)のマイクロフィルム
甲第3号証:実願昭51-128584号(実開昭53-47302号)のマイクロフィルム
甲第4号証:特開2013-132216号公報
甲第5号証:特開2014-135910号公報

4 取消理由通知に記載した取消理由(第29条第1項第3号第29条第2項第36条第6項第1号)について
(1)第29条第1項第3号第29条第2項について
本件発明5について、特許法第29条第1項第3号第29条第2項に基づく取消理由の通知は行われていない。尚、本件発明5について、特許法第29条第1項第3号第29条第2項に基づく申立ての理由はなされていない。

(2)第36条第6項第1号について
ア 訂正前の請求項1ないし5について、取消理由の通知に、「本件発明1には「上記吊り下げ部材には、複数の第1係合部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され、上記容器には、上記第1係合部に係合する第2係合部が形成されている」と記載されている。しかしながら、吊り下げ部材が薬剤保持体を収容する容器に着脱できるように構成された部材であるのか、または、吊り下げ部材が薬剤保持体を収容する容器に着脱できないように第1係合部と第2係合部とが係合するように構成された部材であるのかについて記載されていない。・・・したがって、本件発明1が上記部材を備える場合、本件発明1が課題を解決できることを当業者が認識できない。」としたのに対し、本件発明5には、「該吊り下げ部材は上記薬剤放散器本体に対して着脱自在に取り付けられた薬剤放散器」と記載されており、吊り下げ部材が薬剤保持体を収容する容器に着脱できるように構成された部材であるといえる。

イ 訂正前の請求項1ないし5について、取消理由の通知に、「本件発明1には「上記吊り下げ部材には、複数の第1係合部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され、上記容器には、上記第1係合部に係合する第2係合部が形成されている」点について、・・・ 、第1係合部としての、吊り下げ部材の長手方向一方の先端側に形成された「複数の係合凸部」と、第2係合部としての、左側挿入孔の周縁部における「左縁部」もしくは「右縁部」、及び、右側挿入孔の周縁部における「右縁部」もしくは「左縁部」とが係合する手段は記載されているが、それ以外の手段は記載されていないので、本件発明1が上記以外の手段を備える場合、本件発明1が課題を解決できることを当業者が認識できない。 」としたのに対し、本件発明5には、「上記左側挿入孔の左縁部が、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側に形成されている上記係合凸部に係合するように形成され、上記右側挿入孔の右縁部が、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側に形成されている上記係合凸部に係合するように形成され」と記載されており、第1係合部としての、吊り下げ部材の長手方向一方の先端側に形成された「複数の係合凸部」と、第2係合部としての、左側挿入孔の周縁部における「左縁部」もしくは「右縁部」、及び、右側挿入孔の周縁部における「右縁部」もしくは「左縁部」とが係合する手段は記載されているといえる。

ウ 訂正前の請求項2ないし5について、取消理由の通知に、「本件発明2には「上記容器には、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向先端側から挿入される挿入孔が形成され」る点について、・・・、左側挿入孔及び右側挿入孔を形成する手段は記載されているが、それ以外の手段は記載されていないので、本件発明2が上記以外の手段を備える場合、本件発明2が課題を解決できることを当業者が認識できない。」としたのに対し、本件発明5には、「上記容器の上壁部には、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向一方の先端側から挿入される左側挿入孔が上記左側収容部に連通するように形成されるとともに、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向他方の先端側から挿入される右側挿入孔が上記右側収容部に連通するように形成され」と記載されており、左側挿入孔及び右側挿入孔を形成する手段は記載されているといえる。

エ 訂正前の請求項3ないし5について、取消理由の通知に、「本件発明3には「上記容器の内部には、上記吊り下げ部材の長手方向先端側を収容する収容部が上記挿入孔に連通するように形成され、上記収容部の内面は、該収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向先端側を、上記第1係合部が上記挿入孔の周縁部に当接する方向に押すように形成されている」点について、・・・、 容器の内部には、吊り下げ部材の長手方向の先端側を収容する収容部が挿入孔に連通するように形成され、薬剤保持体収容空間と収容部とを区画するための区画壁が設けられ、区画壁における収容部側の面(収容部の内面)は、挿入孔の縁部よりも左側もしくは右側に位置しており、これにより、区画壁の面は、収容部に収容されている吊り下げ部材の長手方向の先端側を、係合凸部が挿入孔の左縁部もしくは右縁部に当接する方向に押すように作用するので、吊り下げ部材は、挿入孔の左縁部もしくは右縁部に当接している部分よりも下側が左もしくは右に屈曲することによって、係合凸部が挿入孔の左縁部もしくは右縁部に確実に係合して離脱しにくくなる手段は記載されているが、それ以外の手段は記載されていないので、本件発明3が上記以外の手段を備える場合、本件発明3が課題を解決できることを当業者が認識できない。」としたのに対し、本件発明5には、「上記容器の上壁部には、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向一方の先端側から挿入される左側挿入孔が上記左側収容部に連通するように形成されるとともに、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向他方の先端側から挿入される右側挿入孔が上記右側収容部に連通するように形成され」、「上記左側区画壁における上記左側収容部側の面は、上記左側挿入孔の左縁部よりも左側に位置付けられるとともに、該左側収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側を、該長手方向一方の先端側に形成されている上記係合凸部が上記左側挿入孔の左縁部に当接する方向に押し、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側における上記左側挿入孔の左縁部に当接している部分よりも下側を左側へ屈曲させるように形成され、上記右側区画壁における上記右側収容部側の面は、上記右側挿入孔の右縁部よりも右側に位置付けられるとともに、該右側収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側を、該長手方向他方の先端側に形成されている上記係合凸部が上記右側挿入孔の右縁部に当接する方向に押し、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側における上記右側挿入孔の右縁部に当接している部分よりも下側を右側へ屈曲させるように形成されている」と記載されており、容器の内部には、吊り下げ部材の長手方向の先端側を収容する収容部が挿入孔に連通するように形成され、薬剤保持体収容空間と収容部とを区画するための区画壁が設けられ、区画壁における収容部側の面(収容部の内面)は、挿入孔の縁部よりも左側もしくは右側に位置しており、これにより、区画壁の面は、収容部に収容されている吊り下げ部材の長手方向の先端側を、係合凸部が挿入孔の左縁部もしくは右縁部に当接する方向に押すように作用するので、吊り下げ部材は、挿入孔の左縁部もしくは右縁部に当接している部分よりも下側が左もしくは右に屈曲することによって、係合凸部が挿入孔の左縁部もしくは右縁部に確実に係合して離脱しにくくなる手段は記載されているといえる。

したがって、本件請求項5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

5 請求項1ないし4に対する特許異議の申立てについて
上記第2のとおり、請求項1ないし4を削除する本件訂正が認められたので、請求項1ないし4に対する本件特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
したがって、請求項1ないし4に対する本件特許異議の申立ては、不適法な特許異議の申立てであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、平成31年4月12日付け取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件請求項5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1ないし4に対する本件特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
薬剤放散器
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば虫忌避剤等の薬剤を空気中に放散する薬剤放散器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の薬剤放散器としては、薬剤を含浸させることによって保持した薬剤保持体と、薬剤保持体を収容する容器とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1、2の薬剤放散器の容器は板状をなしており、正面側と背面側とにそれぞれ薬剤放散用の開口部が形成されている。また、薬剤保持体は、容器の形状に対応して薄いネット状に形成され、容器の内部で動かないように固定されている。薬剤保持体の薬剤が容器の開口部から外部に放散されて薬剤による虫忌避効果を得ることができるようになっている。特許文献2の薬剤放散器の上部にはフックが取り付けられており、このフックによって薬剤放散器を吊り下げて使用することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-29173号公報
【特許文献2】特開2011-19507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献2のように薬剤放散器にフックを取り付けることで薬剤放散器を吊り下げて使用することができるのであるが、特許文献2のフックは予めS字状に成形されたものであり、例えば大径の棒状の物に吊り下げようとした場合には吊り下げることができない。また、使用環境等によっては、薬剤放散器の設置高さを調整したい場合があるが、特許文献2のフックでは薬剤放散器の設置高さの調整を行うことができない。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、薬剤放散器本体を様々な外径の物に吊り下げることができるようにするとともに、薬剤放散器本体の設置高さを任意に調整することができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、吊り下げ部材に複数の係合部を設け、これら係合部を容器に係合させることができるようにした。
【0007】
第1の発明は、
蒸発する薬剤を保持した薬剤保持体と、該薬剤保持体を収容する縦長に形成された容器とを備え、該容器に形成された薬剤放散用の開口部から薬剤を外部に放散させるように構成された薬剤放散器本体と、
上記薬剤放散器本体を吊り下げるための長尺状吊り下げ部材とを備え、該吊り下げ部材は上記薬剤放散器本体に対して着脱自在に取り付けられた薬剤放散器において、
上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側における左側面には、複数の係合凸部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され、
上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側における右側面には、複数の係合凸部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され、
上記容器の内部には、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側を収容する左側収容部と、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側を収容する右側収容部とが共に上下方向に長く形成されるとともに、上記薬剤保持体を収容する空間と上記左側収容部とを区画する左側区画壁と、上記薬剤保持体を収容する空間と上記右側収容部とを区画する右側区画壁とが共に上下方向に長く形成され、
上記容器の上壁部には、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向一方の先端側から挿入される左側挿入孔が上記左側収容部に連通するように形成されるとともに、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向他方の先端側から挿入される右側挿入孔が上記右側収容部に連通するように形成され、
上記左側挿入孔の左縁部が、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側に形成されている上記係合凸部に係合するように形成され、
上記右側挿入孔の右縁部が、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側に形成されている上記係合凸部に係合するように形成され、
上記左側区画壁における上記左側収容部側の面は、上記左側挿入孔の左縁部よりも左側に位置付けられるとともに、該左側収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側を、該長手方向一方の先端側に形成されている上記係合凸部が上記左側挿入孔の左縁部に当接する方向に押し、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側における上記左側挿入孔の左縁部に当接している部分よりも下側を左側へ屈曲させるように形成され、
上記右側区画壁における上記右側収容部側の面は、上記右側挿入孔の右縁部よりも右側に位置付けられるとともに、該右側収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側を、該長手方向他方の先端側に形成されている上記係合凸部が上記右側挿入孔の右縁部に当接する方向に押し、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側における上記右側挿入孔の右縁部に当接している部分よりも下側を右側へ屈曲させるように形成されていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、例えば、吊り下げ部材の長手方向先端側に位置する係合凸部を容器の挿入孔の左縁部または右縁部に係合させると、吊り下げ部材の長手方向中央寄りに位置する係合凸部を挿入孔の左縁部または右縁部に係合させる場合に比べて容器から延びる吊り下げ部材が長くなる。これにより、外径が小さな物から大きな物にまで薬剤放散器本体を吊り下げることが可能になるとともに、薬剤放散器本体の設置高さの調整も行うことが可能になる。
【0009】
(削除)
【0010】
また、吊り下げ部材の長手方向先端側を容器の挿入孔に挿入した状態で、吊り下げ部材の係合凸部を挿入孔の周縁部に係合させることで吊り下げ部材の長さ調整が容易に行える。
【0011】
(削除)
【0012】
また、吊り下げ部材の長手方向先端側を容器の収容部に収容した状態で、吊り下げ部材の係合凸部が容器の挿入孔の周縁部に確実に当接して係合するようになるので、係合凸部が挿入孔の周縁部から離脱しにくくなる。
【0013】
(削除)
【0014】
また、吊り下げ部材の長手方向先端側を容器の挿入孔から収容部に収容するときに、吊り下げ部材の先端側が案内部によって収容部の奥側へ案内されるので、収容時の作業性が良好になる。
【0015】
(削除)
【0016】
また、容器を縦長に形成することで、薬剤放散用の開口部を広い範囲に設けて薬剤の放散効率を高めることが可能になる。そして、収容部が上下方向に長いので、長い吊り下げ部材を用いて外径の大きな物に薬剤放散器本体を吊り下げ可能にする場合に、その長い吊り下げ部材が不要なときに吊り下げ部材の先端側を収容部に収容して十分に短くした状態で使用することが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、薬剤放散器本体を吊り下げるための長尺状吊り下げ部材に複数の係合凸部を形成し、容器に形成した挿入孔の左縁部または右縁部に係合凸部を係合可能に構成したので、容器から延びる吊り下げ部材の長さを調整することができる。これにより、薬剤放散器本体を様々な外径の物に吊り下げることができるとともに、薬剤放散器本体の設置高さを任意に調整することができるので、利便性を向上できる。
【0018】
また、容器に形成した挿入孔の周縁部に吊り下げ部材の係合凸部を係合させるようにしたので、吊り下げ部材の長さ調整を容易に行うことができる。
【0019】
また、収容部に収容されている吊り下げ部材の長手方向先端側を、吊り下げ部材の係合凸部が容器の挿入孔の周縁部に当接する方向に押すようにしたので、係合凸部が挿入孔の周縁部から離脱しにくくなる。これにより、吊り下げ部材の長さが不用意に変化してしまうのを抑制することができる。
【0020】
また、吊り下げ部材の長手方向先端側を収容部の奥側へ案内するための案内部を設けたので、吊り下げ部材の長手方向先端側を収容部に収容するときの作業性を良好にすることができる。
【0021】
また、容器を縦長にしたことで薬剤放散用の開口部を広い範囲に設けて薬剤の放散効率を高めることができる。そして、収容部を上下方向に長くしたことで、長い吊り下げ部材を用いて外径の大きな物に薬剤放散器本体を吊り下げ可能にする場合に、その長い吊り下げ部材が不要なときに吊り下げ部材の先端側を収容部に収容して十分に短くした状態で使用することができるので、長さの調整範囲を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態1に係る薬剤放散器を正面側から見た斜視図である。
【図2】薬剤放散器の正面図である。
【図3】薬剤放散器の右側面図である。
【図4】図2におけるIV-IV線断面図である。
【図5】薬剤放散器の平面図である。
【図6】薬剤放散器の底面図である。
【図7】吊り下げ部材を容器から抜いた場合の図1相当図である。
【図8】図5におけるVIII-VIII線断面図である。
【図9】吊り下げ部材を長くした場合の図8相当図である。
【図10】吊り下げ部材を挿入する前の図8相当図である。
【図11】実施形態2に係る図8相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る薬剤放散器1を示すものである。薬剤放散器1は、薬剤放散器本体10と、薬剤放散器本体10を吊り下げるための長尺状吊り下げ部材40とを備えている。薬剤放散器本体10は、蒸発する薬剤を保持した薬剤保持体11と、該薬剤保持体11を収容する容器20とを備えており、容器20に形成された多数の薬剤放散用の開口部20aから薬剤を容器20の外部に放散させるように構成されている。薬剤保持体11は、例えば不織布等で構成することができ、プリーツ状をなすように折り曲げ成形されている。プリーツの山と谷の連続する方向は容器20の左右方向である。薬剤保持体11には、常温で徐々に揮発する性質を有する薬剤を含浸させている。薬剤の種類は特に限定されないが、例えは虫忌避剤、殺虫剤、消臭剤、除菌剤、芳香剤等を挙げることができ、これらのうち1種のみであってもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0025】
尚、この実施形態の説明では、使用状態の薬剤放散器1の正面側を前側とし、背面側を後側とし、使用状態の薬剤放散器1を正面から見たときの左側を薬剤放散器1の左側とし、右側を薬剤放散器1の右側とする。従って、薬剤放散器1の幅方向は左右方向となる。
【0026】
吊り下げ部材40は、可撓性を有する樹脂材等で構成することができる。吊り下げ部材40は、図1等に示すように下方に開放する略U字状に曲げた状態で使用される。吊り下げ部材40の長手方向中央部(屈曲した部分)は、長手方向先端側に比べて幅の広い幅広部41とされている。図8に示すように、吊り下げ部材40の長手方向先端側の厚みは、幅広部41の厚みに比べて薄く設定されている。吊り下げ部材40の長手方向一方の先端には、先端凸部42が、吊り下げ部材40を使用状態としたときに外側へ向けて突出するように形成されている。また、吊り下げ部材40の長手方向他方の先端には、先端凸部43が同様に外側へ向けて突出するように形成されている。
【0027】
吊り下げ部材40の長手方向一方の先端側には、複数の係合凸部(第1係合部)44が吊り下げ部材40の長手方向に並ぶように形成されている。係合凸部44は、吊り下げ部材40を使用状態としたときに外側へ向けて突出している。隣り合う係合凸部44は吊り下げ部材40の長手方向に間隔をあけて配置されている。また、吊り下げ部材40の長手方向他方の先端側にも同様な係合凸部(第1係合部)45が吊り下げ部材40の長手方向に並ぶように形成されている。
【0028】
図1や図2に示すように、容器20は、全体として上下方向に長い箱状をなしており、樹脂材で構成されている。容器20の正面に位置する前側カバー部21は、内部の薬剤保持体11を正面側から覆うように形成されており、多数の花形のモチーフを縦横に連結して構成されたものである。前側カバー部21を構成するモチーフの間には、多数の薬剤放散用の開口部20aが形成されている。この薬剤放散用の開口部20aは、容器20の内部に設けられている薬剤保持体収容空間R(図8に示す)と連通している。図5及び図6に示すように、前側カバー部21は、左右方向中央部が最も前に位置するように全体として緩やかに湾曲している。
【0029】
容器20の背面に位置する後側カバー部22は前側カバー部21と同様に構成されており、多数の薬剤放散用の開口部20aが薬剤保持体収容空間Rと連通するように形成されている。後側カバー部22は、左右方向中央部が最も後に位置するように全体として緩やかに湾曲している。
【0030】
図2に示すように、容器20の左側壁部23及び右側壁部24は上下方向に延び、互いに略平行である。前側カバー部21及び後側カバー部22の左縁部は、左側壁部23よりも左側へ突出しており、また、前側カバー部21及び後側カバー部22の右縁部は、右側壁部24よりも右側へ突出している。
【0031】
容器20の上壁部25及び底壁部26は左右方向に延び、互いに略平行である。前側カバー部21及び後側カバー部22の上縁部は、上壁部25よりも上側へ突出しており、また、前側カバー部21及び後側カバー部22の下縁部は、底壁部26よりも下側へ突出している。
【0032】
容器20は、該容器20の正面側を構成する正面部材30と、該容器20の背面側を構成する背面部材31とを組み合わせて構成されている。正面部材30は、前側カバー部21と、左側壁部23、右側壁部24、上壁部25及び底壁部26の正面側に位置する部分とで構成されている。背面部材31は、後側カバー部22と、左側壁部23、右側壁部24、上壁部25及び底壁部26の背面側に位置する部分とで構成されている。正面部材30と背面部材31とは、爪嵌合等の嵌合構造によって一体化するようになっている。
【0033】
上壁部25の左側及び右側には、それぞれ左側挿入孔27及び右側挿入孔28が形成されている。左側挿入孔27には、吊り下げ部材40の長手方向一方の先端側が挿入され、右側挿入孔28には、吊り下げ部材40の長手方向他方の先端側が挿入される。
【0034】
左側挿入孔27及び右側挿入孔28は略矩形状とされている。左側挿入孔27及び右側挿入孔28の左右方向の寸法は、吊り下げ部材40の先端側の厚み寸法よりも長く設定されており、吊り下げ部材40の先端側を、それぞれ左側挿入孔27及び右側挿入孔28の内方で左右方向に動かすことができるようになっている。
【0035】
図8に示すように、左側挿入孔27の周縁部において左縁部27aは本発明の第2係合部であり、前後方向に延び、吊り下げ部材40の長手方向一方の先端側に形成された係合凸部44に係合するようになっている。また、右側挿入孔28の周縁部において右縁部28aは本発明の第2係合部であり、前後方向に延び、吊り下げ部材40の長手方向他方の先端側に形成された係合凸部45に係合するようになっている。
【0036】
容器20の内部には、その左側に、吊り下げ部材40の長手方向の一方の先端側を収容する左側収容部S1が左側挿入孔27に連通するように形成されている。左側収容部S1は、容器20の上下方向に長く形成されている。
【0037】
容器20の内部には、該容器20の左側に、薬剤保持体収容空間Rと左側収容部S1とを区画するための左側区画壁33が設けられている。左側区画壁33は、前側カバー部21の内面から後側カバー部22の内面まで延びるとともに、底壁部26内面から上方へ向かって左側壁部23と略平行に延びている。
【0038】
左側区画壁33における左側収容部S1側の面(左側収容部S1の内面)33aは、左側挿入孔27の左縁部27aよりも左側に位置している。これにより、左側区画壁33の面33aは、左側収容部S1に収容されている吊り下げ部材40の長手方向一方の先端側を、係合凸部44が左側挿入孔27の左縁部27aに当接する方向に押すように作用するので、吊り下げ部材40は、左側挿入孔27の左縁部27aに当接している部分よりも下側が左に屈曲する。よって、係合凸部44が左側挿入孔27の左縁部27aに確実に係合して離脱しにくくなる。
【0039】
また、容器20の内部には、該容器20の右側に、薬剤保持体収容空間Rと右側収容部S2とを区画するための右側区画壁34が設けられている。右側収容部S2は、左側収容部S1と同様に構成されている。右側区画壁34は、左側区画壁33と同様に、前側カバー部21の内面から後側カバー部22の内面まで延びるとともに、底壁部26内面から上方へ向かって延びている。
【0040】
右側区画壁34における右側収容部S2側の面(右側収容部S2の内面)34aは、右側挿入孔28の右縁部28aよりも右側に位置している。これにより、右側区画壁34の面34aは、右側収容部S2に収容されている吊り下げ部材40の長手方向他方の先端側を、係合凸部45が右側挿入孔28の左縁部28aに当接する方向に押すように作用するので、吊り下げ部材40は、右側挿入孔28の右縁部28aに当接している部分よりも下側が右に屈曲する。よって、係合凸部45が右側挿入孔28の右縁部28aに確実に係合して離脱しにくくなる。
【0041】
容器20の内部には、吊り下げ部材40の長手方向一方の先端側を左側収容部S1の奥側(下側)へ案内するための左側案内部35が設けられている。左側案内部35は、左側区画壁33の上部に連続しており、左側区画壁33の上部から上方へ向かって上側へ行くほど右に位置するように傾斜しながら延びている。左側案内部35の上部は、左側挿入孔27の周縁部において右縁部27bに連続している。
【0042】
また、容器20の内部には、吊り下げ部材40の長手方向他方の先端側を右側収容部S2の奥側(下側)へ案内するための右側案内部36が設けられている。右側案内部36は、右側区画壁34の上部に連続しており、右側区画壁34の上部から上方へ向かって上側へ行くほど左に位置するように傾斜しながら延びている。右側案内部36の上部は、右側挿入孔28の周縁部において左縁部28bに連続している。
【0043】
吊り下げ部材40を薬剤放散器本体10に取り付ける場合には、吊り下げ部材40をその先端側から容器20の左側挿入孔27及び右側挿入孔28に挿入する。このとき、左側挿入孔27の右縁部27bには左側案内部35が連続し、また、右側挿入孔28の左縁部28bには右側案内部36が連続しているので、吊り下げ部材40の先端側が左側案内部35及び右側案内部36によってそれぞれ左側収容部S1及び右側収容部S2の奥側へスムーズに案内される。よって、吊り下げ部材40の取付作業性が良好になる。
【0044】
そして、この実施形態に係る薬剤放散器1では、吊り下げ部材40の容器20から突出した部分の長さを調整することができる。すなわち、図1に示すように吊り下げ部材40の容器20から突出した部分の長さを最も短くする場合には、吊り下げ部材40の長手方向一方の先端側を容器20の左側収容部S2の奥側へ深く挿入するとともに、吊り下げ部材40の長手方向他方の先端側を容器20の右側収容部S1の奥側へ深く挿入する。その後、吊り下げ部材40を左側収容部S2及び右側収容部S1から抜く方向に引っ張ると、吊り下げ部材40の長手方向一方の先端側が容器20の左側区画壁33の面33aによって左側へ押されているので、吊り下げ部材40の係合凸部44が左側挿入孔27の左縁部27aに当接して確実に係合する。同様に、吊り下げ部材40の長手方向他方の先端側が容器20の右側区画壁34の面34aによって右側へ押されているので、吊り下げ部材40の係合凸部45が右側挿入孔28の右縁部28aに当接して確実に係合する。よって、吊り下げ部材40の先端側が容器20から抜けることはない。
【0045】
図9に示すように吊り下げ部材40の長さを長くする場合には、吊り下げ部材40の長手方向一方を左側挿入孔27の内部で右側に偏位させる。これにより、吊り下げ部材40の係合凸部44が左側挿入孔27の左縁部27aから離脱するので、吊り下げ部材40の長手方向一方を容器20の左側収容部S1から抜くことができる。吊り下げ部材40の長さが所望長さとなったら抜くのを止めて吊り下げ部材40から手を離す。すると、上述のように吊り下げ部材40の係合凸部44が左側挿入孔27の左縁部27aに当接して係合する。同様に、吊り下げ部材40の長手方向他方も容器20の右側収容部S2から抜いて長さを調整することができる。係合凸部44、45が複数形成されているので、吊り下げ部材40の長さは多段階に調整できる。
【0046】
また、薬剤放散器1は、薬剤放散器本体10から吊り下げ部材40を取り外した状態で使用することもできる。この場合、薬剤放散器本体10を置いて使用する。
【0047】
以上説明したように、この実施形態に係る薬剤放散器1によれば、薬剤放散器本体10を吊り下げるための吊り下げ部材40に複数の係合凸部44、45を形成し、容器20に係合凸部44、45を係合可能にしたので、容器20から延びる吊り下げ部材40の長さを調整することができる。これにより、薬剤放散器本体10を様々な外径の物に吊り下げることができるとともに、薬剤放散器本体10の設置高さを任意に調整することができるので、利便性を向上できる。
【0048】
(実施形態2)
図11は、本発明の実施形態2に係る薬剤放散器1を示すものである。この実施形態2の薬剤放散器1は、実施形態1のものに対し、吊り下げ部材40の係合凸部44、45の係合方向が異なっている。以下、実施形態1と同一の部分には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。
【0049】
すなわち、実施形態2の吊り下げ部材40の係合凸部44、45は、吊り下げ部材40を使用状態としたときに内側へ向けて突出するように形成されている。また、先端凸部42、43も同様に内側へ向けて突出している。
【0050】
容器20の内部には、左側内壁部38と、右側内壁部39とが設けられている。左側内壁部38は、左側壁部23と左側区画壁33との間に位置しており、左側区画壁33と略平行に延びている。左側内壁部38における左側収容部S1側の面(左側収容部S1の内面)38aは、左側挿入孔27の右縁部27bよりも右側に位置している。これにより、左側内壁部38の面38aは、左側収容部S1に収容されている吊り下げ部材40の長手方向一方の先端側を、係合凸部44が左側挿入孔27の右縁部27bに当接する方向に押すように作用するので、係合凸部44が左側挿入孔27の右縁部27bに確実に係合する。
【0051】
また、右側内壁部39は、右側壁部24と右側区画壁34との間に位置しており、右側区画壁34と略平行に延びている。右側内壁部39における右側収容部S2側の面(右側収容部S2の内面)39aは、右側挿入孔28の左縁部28bよりも左側に位置している。これにより、右側内壁部39の面39aは、右側収容部S2に収容されている吊り下げ部材40の長手方向他方の先端側を、係合凸部45が右側挿入孔28の左縁部28bに当接する方向に押すように作用するので、係合凸部45が右側挿入孔28の左縁部28bに確実に係合する。実施形態2では、左側挿入孔27の右縁部27b及び右側挿入孔28の左縁部28bが本発明の第2係合部になる。
【0052】
また、左側案内部35は、左側内壁部38の上部から上方へ向かって上側へ行くほど左に位置するように傾斜しながら延びている。左側案内部35の上部は、左側挿入孔27の周縁部において左縁部27aに連続している。右側案内部36は、右側内壁部39の上部から上方へ向かって上側へ行くほど右に位置するように傾斜しながら延びている。右側案内部36の上部は、右側挿入孔28の周縁部において右縁部28aに連続している。
【0053】
この実施形態2も実施形態1と同様に容器20から延びる吊り下げ部材40の長さを調整することができる。
【0054】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明したように、本発明に係る薬剤放散器は、例えば吊り下げて使用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 薬剤放散器
10 薬剤放散器本体
11 薬剤保持体
20 容器
27 左側挿入孔
27a 左縁部(第2係合部)
28 右側挿入孔
28a 右縁部(第2係合部)
33a 左側区画壁の面
34a 右側区画壁の面
35 左側案内部
36 右側案内部
40 吊り下げ部材
44 係合凸部(第1係合部)
45 係合凸部(第1係合部)
S1 左側収容部
S2 右側収容部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
蒸発する薬剤を保持した薬剤保持体と、該薬剤保持体を収容する縦長に形成された容器とを備え、該容器に形成された薬剤放散用の開口部から薬剤を外部に放散させるように構成された薬剤放散器本体と、
上記薬剤放散器本体を吊り下げるための長尺状吊り下げ部材とを備え、該吊り下げ部材は上記薬剤放散器本体に対して着脱自在に取り付けられた薬剤放散器において、
上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側における左側面には、複数の係合凸部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され、
上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側における右側面には、複数の係合凸部が該吊り下げ部材の長手方向に並ぶように形成され、
上記容器の内部には、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側を収容する左側収容部と、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側を収容する右側収容部とが共に上下方向に長く形成されるとともに、上記薬剤保持体を収容する空間と上記左側収容部とを区画する左側区画壁と、上記薬剤保持体を収容する空間と上記右側収容部とを区画する右側区画壁とが共に上下方向に長く形成され、
上記容器の上壁部には、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向一方の先端側から挿入される左側挿入孔が上記左側収容部に連通するように形成されるとともに、上記吊り下げ部材が該吊り下げ部材の長手方向他方の先端側から挿入される右側挿入孔が上記右側収容部に連通するように形成され、
上記左側挿入孔の左縁部が、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側に形成されている上記係合凸部に係合するように形成され、
上記右側挿入孔の右縁部が、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側に形成されている上記係合凸部に係合するように形成され、
上記左側区画壁における上記左側収容部側の面は、上記左側挿入孔の左縁部よりも左側に位置付けられるとともに、該左側収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側を、該長手方向一方の先端側に形成されている上記係合凸部が上記左側挿入孔の左縁部に当接する方向に押し、上記吊り下げ部材の長手方向一方の先端側における上記左側挿入孔の左縁部に当接している部分よりも下側を左側へ屈曲させるように形成され、
上記右側区画壁における上記右側収容部側の面は、上記右側挿入孔の右縁部よりも右側に位置付けられるとともに、該右側収容部に収容されている上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側を、該長手方向他方の先端側に形成されている上記係合凸部が上記右側挿入孔の右縁部に当接する方向に押し、上記吊り下げ部材の長手方向他方の先端側における上記右側挿入孔の右縁部に当接している部分よりも下側を右側へ屈曲させるように形成されていることを特徴とする薬剤放散器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-06-26 
出願番号 特願2015-5774(P2015-5774)
審決分類 P 1 651・ 853- YAA (A01M)
P 1 651・ 537- YAA (A01M)
P 1 651・ 121- YAA (A01M)
P 1 651・ 851- YAA (A01M)
P 1 651・ 113- YAA (A01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
須永 聡
登録日 2018-07-06 
登録番号 特許第6362547号(P6362547)
権利者 フマキラー株式会社
発明の名称 薬剤放散器  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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