• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01G
管理番号 1354392
審判番号 不服2017-16706  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-09 
確定日 2019-08-15 
事件の表示 特願2016-514054「固体電解コンデンサ、および固体電解コンデンサの改良された製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月20日国際公開、WO2014/186439、平成28年 7月28日国内公表、特表2016-522573〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)5月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年5月17日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月14日付けで拒絶理由通知がなされ、同年5月24日付けで意見書が提出されたが、同年10月5日付けで拒絶査定がされた。これに対して同年11月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、平成30年4月9日付けで上申書が提出され、同年11月2日付け当審の拒絶理由通知(最後)に対して、平成31年2月20日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。


第2 拒絶の理由の概要
平成30年11月2日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は次のとおりのものである。

1)本件出願の請求項1ないし57に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて利用可能となった下記の引用文献1ないし4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2)請求項1の記載に「その上に誘電体」とあるが、「その」より前の記載に「その」に対応する記載がなく「その」が何を指しているかが不明であるから、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

引用文献1.特開2011-238739号公報
引用文献2.特開2010-87401号公報
引用文献3.特表2012-517113号公報
引用文献4.特開2007-27767号公報


第3 平成31年2月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について

本件補正は、上記平成30年11月2日付けで当審が通知した最後の拒絶理由の理由2)に対応するために、請求項1、23の記載を補正するものであって、特許法第17条の2第5項第4号に規定する明りょうでない記載の釈明をしようとするものである。さらに、本件補正は、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものともいえない。
したがって、本件補正は適法になされたものである。


第4 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成31年2月20日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
コンデンサの製造方法であって、
陽極を供給する工程と、
誘電体を前記陽極上に形成する工程と、
コンデンサ前駆体を形成するために、スラリーから前記誘電体上に導電性ポリマーの第1の層を供給する工程と、
前記第1の層上に、分散体から1以上の導電性ポリマーのさらなる層を供給する工程と、
50℃以上200℃以下の温度および25?100%の相対湿度で、前記コンデンサ前駆体を処理する工程と、
を有する、コンデンサの製造方法。」


第5 引用発明・引用文献の技術
(1)引用文献1
当審で通知した平成30年11月2日付け拒絶理由に引用された引用文献1には、図面とともに以下の記載がある。(下線部は当審において付加した。以下同じ)

ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ及びその製造方法、より詳細には、カーボン層を具有する固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。」

イ.「【背景技術】
【0002】
従来、固体電解コンデンサ1は、図1(B)に示すように、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン等の弁作用金属からなる陽極素子2と、陽極素子2の表面を酸化して形成された誘電体層3と、誘電体層3上に形成された半導体層5と、半導体層5の表面に形成されたカーボン層6と、カーボン層6上に形成された金属ペースト層7と、を具備する。図1(A)に示すとおり、金属ペースト層7に陰極端子8が、陽極素子2に接続されたリード線12に陽極端子14が接続されている。
【0003】
しかしながら、半導体層5は撥水性が強く、水を溶媒とするカーボンペーストを用いようとした場合は、カーボン層6の未塗布部が生じやすくなる。その結果、半導体層5とカーボン層6との間の界面抵抗が大きくなり、等価直列抵抗(以後ESRと示すことがある)の上昇を招き、また、そのばらつきも大きくなるという課題があった。」

ウ.「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る固体電解コンデンサ及びその製造方法に関して詳細に説明する。以下に示す実施の形態は、本発明を例示するものであって、限定するものではない。なお、各図において、共通する部材、構成要素については同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0013】
以下、本発明に係る固体電解コンデンサの製造方法に関して詳細に説明する。
【0014】
1.ソケット挿入工程
図2の(I)に示すように、リード線12付き陽極素子2をソケット11に挿入する。リード線12の周りには例えばテフロンリング13を装着し、後続の半導体層形成工程でのリード線12への半導体層形成を防止する。
【0015】
2.化成工程
図2の(II)に示すように、不図示の化成用給電端子を陽極に、化成溶液30中に設けた不図示の外部電極を陰極にし、陽極素子2と外部電極間に所定の電圧を印加して誘電体層3を形成する。
【0016】
3.酸化剤含浸工程
図2の(III)に示すように、誘電体層3が形成された陽極素子2を酸化剤含浸液31に浸漬し後段の半導体層形成初期に重合開始点となる酸化剤4を誘電体層3表面に付着させる。酸化剤4としては、例えば、アリールスルホン酸またはその塩、アルキルスルホン酸またはその塩、各種高分子スルホン酸またはその塩等の公知の酸化剤を用いることができる。
【0017】
4.半導体層形成工程
図3の(IV)に示すように、酸化剤4が付着した陽極素子2を半導体層5の前駆物質である半導体層形成溶液32に浸漬し、化学重合により、誘電体層3表面に導電性高分子からなる半導体層5を形成する。なお、図2の(III)の酸化剤含浸工程で形成された酸化剤4は、半導体層形成工程において、半導体層5に取り込まれる。
【0018】
5.再化成工程
図3の(V)に示すように、重合時に劣化した誘電体層3を修復するために、半導体層5が形成された陽極素子2を再化成溶液33に浸漬し、所定の電圧印加により再化成する。
【0019】
6.カーボン層形成工程
図3の(VI)に示すように、半導体層5が形成された陽極素子2を、カーボンペースト34に浸漬し、引き上げ後、乾燥硬化させて半導体層5上にカーボン層6を形成する。なお、カーボンペースト34は、水を溶媒とし、カーボンブラック等のカーボン粒子と樹脂が含まれている。また、カーボン層6の形成は、通常採用される公知のペースト層の形成方法、例えば、ディップ法、スプレー法、ローラー法、スクリーン印刷法等により行えばよい。
【0020】
7.加湿処理工程
半導体層5上に形成されたカーボン層6を加湿処理に供する。加湿処理は、好ましくは相対湿度65%?95%、より好ましくは85%?95%の環境下で行う。これにより、界面抵抗を低減し、ESRを低減できる。また、加湿処理は、65℃?95℃の温度範囲で、2時間?48時間行うことが好ましい。これにより、カーボン粒子の再配列と樹脂の再溶解が十分に進行し、ESRを低減しバラツキを抑制できると考えられる。加湿処理は、カーボン層6の形成後であればいつ行ってもよいが、金属ペースト層7の形成前に行うことが特に好ましい。これにより、ESRのばらつきをより小さくできることに加え、効率よく短時間で効果を得ることができる。」

上記記載事項および図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「固体電解コンデンサの製造方法であって、
化成用給電端子を陽極に、化成溶液30中に設けた外部電極を陰極にし、陽極素子2と外部電極間に所定の電圧を印加して誘電体層3を形成する化成工程と、
誘電体層3が形成された陽極素子2を酸化剤含浸液31に浸漬し後段の半導体層形成初期に重合開始点となる酸化剤4を誘電体層3表面に付着させる酸化剤含浸工程と、
酸化剤4が付着した陽極素子2を半導体層5の前駆物質である半導体層形成溶液32に浸漬し、化学重合により、誘電体層3表面に導電性高分子からなる半導体層5を形成する半導体層形成工程と、
半導体層5が形成された陽極素子2を、カーボンペースト34に浸漬し、引き上げ後、乾燥硬化させて半導体層5上にカーボン層6を形成するカーボン層形成工程と、
半導体層5上に形成されたカーボン層6を、相対湿度65%?95%、65℃?95℃の温度範囲で、2時間?48時間行う加湿処理を行うことで、カーボン粒子の再配列と樹脂の再溶解を十分に進行させESRを低減させる加湿処理工程と、
を有する、固体電解コンデンサの製造方法。」

(2)引用文献2
当審で通知した平成30年11月2日付け拒絶理由に引用された引用文献2には、図面とともに以下の記載がある。

ア.「【0049】
(コンデンサの製造方法)
次に、本発明のコンデンサの製造方法の第1の実施形態例について説明する。
本実施形態例のコンデンサの製造方法は、陽極11の表面を酸化処理し、誘電体層12を形成して、コンデンサ用基材10aを得る工程と、コンデンサ用基材10aの誘電体層12の表面に固体電解質層14を形成する工程と、固体電解質層14の表面に陰極13を形成する工程とを有する。
【0050】
コンデンサ用基材10aを得る工程にて、陽極11の表面を電解酸化する方法としては、例えば、アジピン酸アンモニウム水溶液などの電解液中にて、電圧を印加して陽極11の表面を酸化する方法などが挙げられる。
【0051】
固体電解質層14を形成する工程では、コンデンサ用基材10aの誘電体層12に導電性高分子溶液を塗布し、熱風加熱乾燥、赤外線加熱乾燥、真空乾燥などの乾燥方法により乾燥して導電性高分子膜を形成する成膜処理を2回以上繰り返す。その際、導電性高分子溶液は、π共役系導電性高分子とポリアニオンと溶媒とを含有する溶液を使用する。
この工程では、2回目以降の少なくとも1回の成膜処理に用いる導電性高分子溶液として、1回目の成膜処理に用いる導電性高分子溶液より粘度が高い溶液を用いる。以下、1回目の成膜処理に用いる導電性高分子溶液を低粘度溶液といい、2回目以降の少なくとも1回の成膜処理に用いる、低粘度溶液より粘度が高い溶液のこと高粘度溶液という。また、n回目の成膜処理で成膜された導電性高分子膜を導電性高分子膜(n)と表記する。例えば、1回目の成膜処理で成膜された導電性高分子膜を導電性高分子膜(1)と表記する。各導電性高分子膜(n)が積層されたものが、固体電解質層14である。」

イ.「【0078】
(1)導電性高分子溶液(I),(II),(III)の調製
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、1,000mlのイオン交換水に27.5gのポリスチレンスルホン酸(質量平均分子量;約250,000)を溶かした溶液とを25℃で混合した。
これにより得られた混合溶液を25℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと4.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液を添加し、一晩攪拌して反応させた。
得られた反応液を透析して、未反応モノマー、酸化剤残渣、酸化触媒残渣を除去して約1.7質量%のポリスチレンスルホン酸/ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)複合体を含む複合体水溶液(I)を得た。
得られた100gの複合体水溶液(I)に、0.3gのイミダゾールと、10gのジエチレングリコールを添加して、混合溶液を得た。
得られた混合溶液を、高圧分散処理により、25℃において40mPa・sの溶液粘度になるように分散して、導電性高分子溶液(I)を得た。
また、導電性高分子溶液(I)をさらに高圧分散処理して、25℃において25mPa・sの導電性高分子溶液(II)、18mPa・sの導電性高分子溶液(III)を調製した。
導電性高分子溶液(I)?(III)の25℃における25℃でのpHは8であった。」

(3)引用文献3
当審で通知した平成30年11月2日付け拒絶理由に引用された引用文献3には、図面とともに以下の記載がある。

ア.「【0201】
実施例3:本発明に係るプロセスによるコンデンサの製造
3.1. 酸化された電極体の製造:
18,000μFV/gの比容量を有するタンタル粉末を、タンタルワイヤを組み込んでペレットへとプレスし、1.5mm×2.9mm×4.0mmの寸法を有する電極体を形成するために焼結した。これらの多孔性電極体のうちの10個を、リン酸電解質の中で100Vまでアノード酸化し、誘電体を形成した。
【0202】
3.2 固体電解質の製造
100gの、実施例1から得た分散液Bおよび4gのジメチルスルホキシド(DMSO)を、撹拌機を具えたビーカーの中で勢いよく混合し、分散液B1を得た。
【0203】
酸化された電極体を、この分散液B1の中に1分間含浸した。このあと120℃で10分間乾燥した。含浸および乾燥をさらに9回行った。
【0204】
3.3 本発明の架橋剤e)を使用したポリマー外層の製造
これらのコンデンサ体を、実施例2から得た溶液1に含浸し、次いで120℃で10分間乾燥した。
【0205】
このコンデンサ体を実施例1からの分散液Cに含浸し、次いで120℃で10分間乾燥した。」

(4)引用文献4
当審で通知した平成30年11月2日付け拒絶理由に引用された引用文献4には、図面とともに以下の記載がある。

ア.「【0072】
固体電解質中におけるポリチオフェンのためのものと同じ好ましい構造特性が、分散物a)中にある一般式(I)、(II)で示される反復単位または一般式(I)および(II)で示される反復単位を有する導電性ポリマーに粒子b)のポリチオフェンに当てはまる。」

イ.「【0131】
浸漬によりコンデンサ本体に分散物a)を適用する場合、浸漬の前に、より高い粘度の薄膜を分散物a)の表面上に形成するのが有利であり得る。次に、コンデンサ本体をこの種の分散物a)中により深く浸漬し、浸漬および乾燥を1回またはそれ以上繰り返せば、コンデンサ本体のエッジおよび角部の被覆が非常に改善され、乾燥ポリマーフィルムのふくれ(ブリスター)が防止される。すなわち、コンデンサ本体は、例えば、最初の工程で半分のみ分散物a)に浸漬し、次いで乾燥することができる。第2の浸漬工程で、コンデンサ本体を分散物a)に完全に浸漬し、乾燥する。分散物a)の表面上へのより高い粘度の薄膜の形成は、例えば、開放雰囲気中に放置するだけで行うことができる。膜の形成は、分散物a)を加熱することにより、あるいは熱風または熱放射により分散物表面を加熱することにより、促進することができる。」

上記引用文献2、3、4の記載事項及び図面、及び、この分野の技術常識を考慮すると、引用文献2、3、4には、次の周知の技術事項(以下、「周知の技術」という。)が開示されていると認められる。

「コンデンサにおける導電性のポリマー層を、分散体(スラリー)から導電性ポリマーの第1の層を形成し、さらに、分散体から該第1の層の上に1以上の導電性ポリマーの層を形成することで複数層として形成すること。」


第6 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「固体電解コンデンサ」は、本願発明の「コンデンサ」に相当する。

b.引用発明の「陽極素子2」、「誘電体層3」は、それぞれ、本願発明の「陽極」、「誘電体」に相当する。
そして、引用発明の「化成工程」は、陽極素子2に誘電体層3を形成する工程であるから、本願発明の「誘電体を前記陽極上に形成する工程」に相当する。
また、引用発明の「化成工程」の前には、「化成工程」で用いる陽極素子2が供給されている必要があることから、引用発明においても、本願発明の「陽極を供給する工程」に相当する構成を有しているものと認められる。

c.引用発明の「加湿処理工程」で用いられる「半導体層5上に形成されたカーボン層6」を有する部品は、コンデンサの製造方法の途中の工程の製品であるから、コンデンサの前駆体といえ、本願発明の「コンデンサ前駆体」に相当する。
また、引用発明の「導電性高分子」は、本願発明の「導電性ポリマー」に相当する。
そして、引用発明の「半導体層形成工程」は、加湿処理工程で用いられる前記部品を形成するために、誘電体層3表面に導電性高分子からなる半導体層5を化学重合により形成する工程であるから、本願発明の「コンデンサ前駆体を形成するために」、「前記誘電体上に導電性ポリマーの」「層を供給する工程」に相当する。

但し、前記「導電性ポリマーの層を供給する工程」が、本願発明では、「コンデンサ前駆体を形成するために、スラリーから前記誘電体上に導電性ポリマーの第1の層を供給する工程と、前記第1の層上に、分散体から1以上の導電性ポリマーのさらなる層を供給する工程」とからなるのに対して、引用発明では、化学重合により導電性高分子の層を形成する工程であってそのような特定がされていない点。

d.引用発明の「加湿処理工程」は、65℃?95℃の温度範囲、相対湿度65%?95%で、半導体層5上に形成されたカーボン層6を有する部品を加湿処理する工程であるから、本願発明の「50℃以上200℃以下の温度および25?100%の相対湿度で、前記コンデンサ前駆体を処理する工程」に相当する。

e.引用発明の「固体電解コンデンサの製造方法」は、上記bないしdのとおり、陽極を供給し、その上に誘電体と導電性ポリマーを形成し、コンデンサ前駆体を処理しているから、本願発明の「コンデンサの製造方法」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)

「コンデンサの製造方法であって、
陽極を供給する工程と、
誘電体を前記陽極上に形成する工程と、
コンデンサ前駆体を形成するために、前記誘電体上に導電性ポリマーの層を供給する工程と、
50℃以上200℃以下の温度および25?100%の相対湿度で、前記コンデンサ前駆体を処理する工程と、
を有する、コンデンサの製造方法。」

(相違点)
「導電性ポリマーの層を供給する工程」が、本願発明では、「コンデンサ前駆体を形成するために、スラリーから前記誘電体上に導電性ポリマーの第1の層を供給する工程と、前記第1の層上に、分散体から1以上の導電性ポリマーのさらなる層を供給する工程」からなるのに対して、引用発明では、化学重合であってそのような特定がされていない点。


第7 検討
上記相違点について検討する。
引用文献2、3、4にも記載されるように、コンデンサにおける導電性のポリマー層を、分散体(スラリー)から導電性ポリマーの第1の層を形成し、さらに、分散体から該第1の層の上に1以上の導電性ポリマーの層を形成することで複数層として形成することは周知の技術である。
また、引用文献1の段落【0003】に「・・・、半導体層5は撥水性が強く、水を溶媒とするカーボンペーストを用いようとした場合は、カーボン層6の未塗布部が生じやすくなる。・・・」と記載されるように、引用発明は、半導体層5とカーボン層6間の接触を課題とするものであるから、半導体層(導電性のポリマー層)自体の形成をどのような方法で行うかは当業者が設計時に適宜選択なし得た事項に過ぎない。
したがって、引用発明の化学重合による半導体層(導電性のポリマー層)の形成に代えて、周知の技術を適用し、本願発明の相違点の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

この点について、審判請求人は平成31年2月20日付け意見書において、
引用文献1の処理工程では、未反応の酸化剤および残存モノマーを除去することによりコンデンサを改良すると考えられます。しかし、引用文献2?4には、酸化剤も未反応モノマーも存在しませんので、それらを除去する工程を当業者は想定できません。また、本発明によって解決される問題は被覆層の層間剥離であって、請求項に記載の処理は1つの導電性ポリマー層の隣接する導電性ポリマー層への接着を改善し、それによって隣接する層の界面での層間剥離に起因する問題を抑制する旨を主張している。
しかしながら、引用文献1には、段落【0020】に引用発明の「加湿処理工程」がカーボン粒子を再配列し樹脂の再溶解を十分に進行させESRを低減させることは記載されているが、他に「処理工程」に関する記載はなく、さらに、未反応の酸化剤および残存モノマーを除去することによりコンデンサを改良することに関しても記載はされていないから、引用文献1の処理工程が、未反応の酸化剤および残存モノマーを除去することによりコンデンサを改良すると考えることはできない。
また、本願の明細書の段落【0004】、【0005】、【0023】-【0025】の記載、及び平成30年4月9日付け上申書で主張するように、層間剥離は、プライマー層(架橋剤、弱イオン酸性対イオン)が隣接したポリマー層の間に供給されることで生じるものであるが、本願の請求項1の記載には、プライマー層が供給されることに関しては記載されておらず、請求項1に記載の処理が層間剥離の問題を抑制するとは認められない。
よって、審判請求人の主張を採用することはできない。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明、周知の技術に基づいて当業者が予想できる範囲のものである。

したがって、本願の請求項1に係る発明は、上記引用発明、及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第8 むすび
以上のとおりであって、本願の請求項1に係る発明は、上記引用発明、及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-03-13 
結審通知日 2019-03-19 
審決日 2019-04-03 
出願番号 特願2016-514054(P2016-514054)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01G)
P 1 8・ 537- WZ (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 多田 幸司上谷 奈那馬場 慎田中 晃洋  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山澤 宏
鈴木 圭一郎
発明の名称 固体電解コンデンサ、および固体電解コンデンサの改良された製造方法  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ