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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1354400
審判番号 不服2018-9036  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-02 
確定日 2019-08-15 
事件の表示 特願2014- 67730「タイヤ内面用離型剤およびそれを用いた空気入りタイヤの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 2日出願公開、特開2015-189074〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月28日の出願であって、平成29年12月19日付け拒絶理由通知に応答して平成30年2月15日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年3月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年7月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1?7に係る発明は、平成30年2月15日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載のとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「水と、DBP吸収量が100cm^(3)/100g以上であるカーボンブラックと、を少なくとも含有してなることを特徴とするタイヤ内面用離型剤。」

第3 原査定の拒絶の理由
拒絶査定の理由は、概略、次のとおりのものを含む。
(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物(引用文献1?3)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献>
1.特開平10-130538号公報
2.特開昭56-112306号公報
3.特開2011-16527号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献1の記載
空気入りタイヤの帯電防止に関するものである引用文献1には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。以下、同様である。)

「【請求項1】 空気入りタイヤ用の水性外部剥離剤であって、脂肪アルコールのポリグリコールエーテルと導電性カーボンブラックを含有する水性外部剥離剤。」

「【0001】充填材としてカーボンブラックの代わりに主に特定のシリカ充填材が入っている空気入りタイヤは優れた走行および摩耗特性を示す。しかしながら、カーボンブラックが入っていないタイヤ(これはまた「グリーンタイヤ(green tyres)」とも呼ばれる)が示す電気抵抗はカーボンブラックが入っているタイヤのそれに比べてかなり高く、従って導電性がかなり低いことから、このようなタイヤは静電的に帯電する傾向がある。タイヤが静電的に帯電しそして車から大地への電荷の放電が邪魔され(タイヤの抵抗が高いと邪魔され)、存在している電荷が導電連結を通して大地に放電されると、有意な外乱(disturbances)および障害がもたらされる可能性がある。この種類の連結は、例えば人が乗るか或は降りることによってか或は燃料ホースを差し込むことなどによって生じ得る。
【0002】カーボンブラックが入っている空気入りタイヤは、クラウン(crown)からビード(bead)で測定して、一般に約10^(6)オームの抵抗値を示す。この測定に関して暫定的仕様が存在しており、これはWDKガイドライン110に規定されている。これに従い、空気入りタイヤが示す漏電抵抗(leakageresistance)が10^(6)オーム未満の場合、これは「静電活性クラスI(electrostatically active Class I)」に属する。
【0003】カーボンブラックが入っていない空気入りタイヤは上記試験を満足させず、それらが示す漏電抵抗は約10^(10)オームである。このことから、この上に示した如き有意な問題がもたらされる可能性がある。従って、電気抵抗を低くする方法が求められている。
【0004】空気入りタイヤの成形および加硫を行う時、タイヤの半加工品の表面に溶液が広がり、この溶液は乾燥時に膜を形成し、この膜が、タイヤが加硫用鋳型に粘着しないようにしている。外部剥離剤と内部剥離剤の間の区別はタイヤの外側用と内側用である。従って、異なる2種類の剥離剤が必要とされる、と言うのは、タイヤの外側と内側は異なる材料を含みそしてこれらの剥離剤が加硫過程で満足させる必要がある要求が異なるからである。多くの外部剥離剤は、基剤として有機溶媒を用いて製造されている。しかしながら、水を基剤とする外部剥離剤を用いる方がかなり有利である。・・・最適な外部剥離剤は追加的機能を果す。これは、鋳型とタイヤ表面の間に捕捉されている空気の小さな気泡を除去し(除去しないと不均一な加硫がもたらされる可能性がある)かつ未加硫ゴムの流れを補助する(その結果として、鋳型が完全に満たされる)。最後に、このような剥離剤は、完成タイヤが目で見て魅力的であることを確保する。
【0005】本発明は、空気入りタイヤの製造で水性外部離型剤を追加的に電気抵抗値が約10^(6)オームの値にまで下がるように修飾することができることを見い出したことを基とする。
【0006】本発明は空気入りタイヤの製造で用いるに適した水性外部剥離剤を提供し、これに脂肪アルコールのポリグリコールエーテルと導電性カーボンブラックを含有させる。脂肪アルコールのポリグリコールエーテル(以下ではまたエーテルと省略する)とカーボンブラックは肯定的な相乗効果をもたらす。このエーテルは、好適には炭素原子数が16から18のアルキルアルコールとエチレングリコールもしくはプロピレングリコールを反応(このC16-C18アルコール1モル当たり5から80モルのエチレングリコールもしくはプロピレングリコール)させた反応生成物である。使用するカーボンブラックは平均粒子直径が20から30nmの導電性ファーネス(furnace)カーボンブラックである。本外部剥離剤に、一般的には、エーテルを1から20重量%および上記カーボンブラックを3から15重量%含有させる。一般的には、乗用車のタイヤ各々に剥離剤が約12から30g、好適には15から25g(これはおおよそエーテルが0.15から5gでファーネスカーボンブラックが0.45から5gに相当する)確認されるような量で用いる。」

「【0009】タイヤの半加工品を被覆するに特に好適な生成物に下記の組成を持たせる:充填材として・・・非晶質シリカゲル粉末(Daraclar 920)を一般に3-20重量%、特に8.75重量%、平均粒子直径が12nmの火成シリカ(Aerosil 200)を一般に0-2重量%、特に0.5重量%、
*ファーネスカーボンブラック(導電性)(Printex 3またはPrintex V)を一般に1-20重量%、特に4.5重量%または
*25%ファーネスカーボンブラック分散物(導電性)(DerussolAN 1/25 L)を一般に4-70重量%、・・・シリカゾルを一般に0.3-15重量%(SiO_(2)として計算)、25%ポリエチレン分散物(Permaid Di)を一般に0-8重量%、・・・帯電防止剤および分散剤として*脂肪アルコールのポリグリコールエーテル(C_(16)-C_(18)アルコール+6モルのEO/モル)(Rhenosin RC 100)を一般に1-20重量%、・・・、湿潤剤および分散剤としてリグノスルホン酸カルシウムを一般に0.2-10重量%、・・・、脂肪酸メチルタウリドナトリウム塩を一般に0.1-3重量%、消泡剤としてトリイソブチルホスフェート(Etingal A)を一般に0.5重量%、・・・殺生物剤として1,2-ベンジルイソチアゾリン-3-オン(Proxel GXL)を一般に0.01-0.05重量%・・・、水として、水を一般に30-80重量%、特に58.83重量%。
【0010】静電活性は主に脂肪アルコールのグリコールエーテルと導電性のファーネスカーボンブラックによるものであり、これらは一緒になって肯定的な相乗効果をもたらす。」

2.引用発明
引用文献1の請求項1の記載(上記1.参照)から、引用文献1には、次の発明が記載されているといえる。

「空気入りタイヤ用の水性外部剥離剤であって、脂肪アルコールのポリグリコールエーテルと導電性カーボンブラックを含有する水性外部剥離剤。」(以下、「引用発明」という。)

3.引用文献2の記載
アース式タイヤに関するものである引用文献2には、以下の記載がある。

(1)特許請求の範囲
「車輌、航空機、運搬機器、その他の機械類(以下車輛等という)に使用するタイヤに、ビード部からトレッド部に到るタイヤ本体に電気伝導物質を埋没又は付着せしめ、車輌等に発生した静電気を自動的に放電する性能を保有せしめたアース式タイヤ。」

(2)1頁左下欄下から10行?2頁左上欄1行
この発明は、車輛等に使用するタイヤに、電気伝導性を持たせ、車輌等に発生した静電気を自動的に放電せしめ、車輌等のスパーク事故防止および車輌等に人体が接触することによっておこる感電を防止する目的を以て造られた タイヤの構造に関するものである。
従来の、車輛等に使用するタイヤは、ゴム及び合成ゴム等の電気絶縁材料を以て製造されておりこのため車輛等は、空気との摩擦その他により、静電気を異状に帯電し、この防止の為に車輛等の本体に、チェーン・電線等を取付け、これを接地せしめる方法を取っていた。
然しながらこの方法では、チェーン・電線等の跳上り摩耗切断等によって、その効果が不確実になることがあるので、これに代る対策として発明したものである。
いま、その構造を説明すると、
(イ) リムに接するタイヤのビード部分(1)に電気伝導物質(2)を取り付ける。
(ロ) (2)の部分に接続する電気伝導性の物質を(3)のようにタイヤの内部に埋没又は(4)のように表面に又は(8)のようにタイヤの内面に付着せしめ、これをタイヤのトレッド面(5)に達するようにする。
(ハ) 次に、この効果を高めるため、タイヤのトレッド溝(6)の内面に電気伝導物質を含む層の(7)を造る。
以上(イ)(ロ)(ハ)によつて造られたタイヤを車輌等に装着する事により、車輪リム部分からタイヤへタイヤから直接接地することによって継続的に放電効果を得るものてあります。」

(3)図面の簡単な説明及び第2図
「4. 図面の簡単な説明
・・・
第2図は本発明タイヤの切断面
1はタイヤのビート部分
2はリムに接する面に構成した電気伝導物質を合む接続部分
3はタイヤ本体中に埋没した電気伝導物質
4はタイヤ表面に付着せしめた電気伝導物質
5はタイヤのトレンド6はタイヤのトレッド溝
7はタイヤトレッド溝に付着構成せしめた電気伝導物質を含む層
8はタイヤ内面に付着せしめた電気伝導物質」






4.引用文献3の記載
タイヤに関するものである引用文献3には、以下の記載がある。

「【0001】
本発明は、タイヤに関し、とくに電気導電性および転がり抵抗性能を向上させたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
車輌走行をおこなうと、走行時などにより発生した静電気が車輌に装着されているタイヤに蓄積し、例えば、マンホールなどの金属部上を走行したときに放電現象が発生する、あるいは給油の際に放電して引火するなどの問題があり、電気導電性に優れたタイヤが要求されてきた。
・・・
【0005】
一般的にタイヤの転がり抵抗を低減させる(転がり抵抗性能を向上させる)技術としては、タイヤ中の補強用充填剤としてシリカを多く使用することが知られており、例えば、特許文献3には、タイヤのトレッド部、ブレーカー部、サイドウォール部、プライ部、クリンチエイペックスおよびビードエイペックスに、シリカを配合することが開示されている。しかし、得られたタイヤは充分な電気導電性を有するものではなかった。
【0006】
このように、電気導電性および転がり抵抗性能を両方向上させたタイヤは、現在まで得られていなかった。
・・・
【0008】
本発明は、電気導電性および転がり抵抗性能を向上させたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、トレッド部、サイドウォール部、ブレーカー部またはプライ部において、固有抵抗値が10^(9)Ω・cm以上で、補強用充填剤中のシリカの含有率が70重量%以上であり、前記タイヤ部材とともに、さらに、導電性ゴム層を有するタイヤであって、該導電性ゴム層が、(a)ビード部に接し、サイドウォール部とプライ部との間を経て、トレッド部の接地面まで連続して配置され、固有抵抗値が10^(8)Ω・cm以下、および厚さ0.1?5mmである導電性ゴム層、または(b)ビード部に接し、サイドウォール部とプライ部との間、ならびにトレッド部とブレーカー部との間またはトレッド部内に連続して配置され、固有抵抗値が10^(8)Ω・cm以下、および厚さ0.1?5mmである導電性ゴム層であるタイヤに関する。
【0010】
また、前記タイヤにおいて、前記導電性ゴム層は、・・・ジブチルフタレート吸油量(当審注;これは、「DBP吸油量」を意味する。)が100?700ml/100gであるカーボンブラックを含有することが好ましい。」

「【0040】
・・・DBP吸油量が100ml/100g未満では、カーボンブラックを使用する場合、導電性ゴム層の電気導電性を確保するために、多量のカーボンブラックが必要となり、タイヤ製造時の加工性が低下する傾向がある。」

「【0028】
本発明のタイヤが有する導電性ゴム層は、(a)ビード部に接し、サイドウォール部とプライ部との間を経て、トレッド部の接地面まで連続して配置された導電性ゴム層(以下、導電性ゴム層(a)とする)、または(b)ビード部に接し、サイドウォール部とプライ部との間、ならびにトレッド部とブレーカー部との間またはトレッド部内に連続して配置された導電性ゴム層(以下、導電性ゴム層(b)とする)である。
【0029】
導電性ゴム層(a)または(b)はそれぞれ、ビード部のなかでもビードエイペックスと接していることが好ましく、なかでもビードエイペックスと接したうえで、リムに接していることが好ましい。導電性ゴム層(a)または(b)がリムに接していることにより、走行時において、少しずつ電気を放出して、電気の蓄積を抑止するという効果が得られる。」

第5 本願発明と引用発明との対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明を対比する。
(ア) 本願明細書の【0003】?【0004】に、「空気入りタイヤを加硫成形するときは、未加硫のグリーンタイヤを金型内にセットした後、そのタイヤ内側に風船様のブラダーを挿入し、そのブラダーを膨張させることによりグリーンタイヤを金型内面に押圧させた状態にする。そして、加硫終了後はブラダーを収縮させ、そのブラダーを加硫済みのタイヤ内面から離脱させる。」、「このような加硫操作において、グリーンタイヤ内面とブラダーとの離型性を良好にすることは重要であ」り、「従来、この離型性を良好に維持するため、グリーンタイヤ内面には離型剤が塗布される」と記載されるとおり、本願発明の「タイヤ内面用離型剤」は、空気入りタイヤの加硫成形時に、タイヤ(内面)とタイヤの加硫成形用の部材(ブラダー)との離型性を良好にするために使用されるものである。
一方、引用文献1の【0004】に、「空気入りタイヤの成形および加硫を行う時、タイヤの半加工品の表面に溶液が広がり、両者は、タイヤが加硫用鋳型に粘着しないようにしている。外部剥離剤と内部剥離剤の間の区別はタイヤの外側用と内側用である」と記載されるとおり、引用発明の「空気入りタイヤ用の水性外部剥離剤」も、空気入りタイヤの加硫成形時に、タイヤ(外側)とタイヤの加硫成形用の部材(鋳型)との離型性を良好にするために使用されるものである。
そうすると、引用発明の「空気入りタイヤ用の水性外部剥離剤」は、本願発明の「タイヤ内面用離型剤」と、タイヤとタイヤの加硫成形用の部材との離型性を良好にするための剤、すなわち、「タイヤ用離型剤」である限りにおいて一致しているといえる。

(イ) 引用発明の「空気入りタイヤ用の水性外部剥離剤」は「水性」とあるとおり、「水」を含有するものである。

そうすると、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「水と、カーボンブラックと、を少なくとも含有してなるタイヤ用離型剤。」

<相違点1>
タイヤ用離型剤が、本願発明では「タイヤ内面用」であるのに対し、引用発明では「(タイヤ)外部(用)」である点。
<相違点2>
タイヤ用離型剤に含まれるカーボンブラックについて、本願発明では「DBP吸収量が100cm^(3)/100g以上」と特定されているのに対して、引用発明ではかかる特定はない点。

2.判断
(1)相違点1について検討する。
引用文献1に記載のとおり、引用発明は、従来、タイヤが静電的に帯電し、タイヤの抵抗が高い等により車から大地への電荷の放電が邪魔された場合に、存在している電荷が導電連結を通して大地に放電されることで障害がもたらされる可能性がある問題があったのを解決することを目的としており、そのために、タイヤの製造工程において加硫成形用の部材(鋳型)とタイヤの外部(外側)が粘着しないようにするために使用されている外部剥離剤に、導電性のカーボンブラック等を含有させてタイヤの電気抵抗を下げ、かかる障害が起こらないようにする(つまり、タイヤの帯電を防ぐ)技術に関するものである(【0001】、【0004】、【0005】及び【0010】)。
ところで、引用文献2には、車輌のスパーク事故等の障害を防止することを目的として、タイヤに導電性を付与してタイヤへの帯電を防ぐ技術が開示されており、タイヤに導電性を付与するための電気伝導物質を、タイヤの表面のみならず、内面にも付着させることが記載されている(上記第4の3.参照)。
そうすると、引用文献1の【0004】にも記載のとおり、タイヤの製造工程において、加硫成形用の部材とタイヤが粘着しないようにするための剥離剤は、通常、タイヤの外側のみではなく、内側(内面)にも付与されるものであるから、引用文献2の記載に接した当業者であれば、静電活性成分である導電性カーボンブラックと脂肪アルコールのポリグリコールエーテルを含有し、タイヤに付与することでタイヤの電気抵抗を下げ帯電を防ぐことができる引用発明の水性外部剥離剤の技術を、タイヤの内側(内面)用の剥離剤として用いること、すなわち、引用発明(水性外部剥離剤)をタイヤ内面用離型剤とすることを容易に想到し得ると認められる。
また、そのことによる本願発明の効果も、引用文献1及び2の記載から当業者が容易に予測し得たことである。

(2)相違点2について検討する。
車輌のタイヤへの静電気の蓄積に起因する放電の問題の解決を目的として、タイヤの電気伝導性を向上させる(つまり、電気抵抗を下げる)技術に関する引用文献3には、タイヤに導電性を付与するためのカーボンブラックとして、DBP吸油量が100?700ml/100gのものが好ましいことが記載されている。
そうすると、引用発明の導電性カーボンブラックとして、引用文献3に記載の技術を採用すること、すなわち、タイヤの導電性の付与に好適とされるDBP吸油量が100?700ml/100g(つまり、100?700cm^(3)/100g)のものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

(3)請求人は、審判請求書の3.(b)(4?5頁)において、以下の主張をする。
「引用文献1は、空気入りタイヤ用の水性外部剥離剤であって、脂肪アルコールのポリグリコールエーテルと導電性カーボンブラックを含有する水性外部剥離剤を開示している(請求項1)。しかし、引用文献1の段落0004を参照すると、『外部剥離剤と内部剥離剤の間の区別はタイヤの外側用と内側用である。』と記載され、引用文献1では、外部剥離剤とはタイヤの外側に適用されるものであり、内部剥離剤とは区別されると明記されている。さらに段落0004には、『異なる2種類の剥離剤が必要とされる、と言うのは、タイヤの外側と内側は異なる材料を含みそしてこれらの剥離剤が加硫過程で満足させる必要がある要求が異なるからである。』と記載され、外部剥離剤は内部剥離剤に置き換えられないことが示唆されている。したがって、外部剥離剤に関する引用文献1に記載の発明と、本願のタイヤ内面用離型剤に関する発明とは、全く異なる技術である。」
「本願明細書の段落0018を参照すると、本願発明のタイヤ内面用離型剤は、タイヤインナーライナーとの親和性に優れるため、電気抵抗の低下効果に優れるという、引用文献には開示または示唆されていない効果を奏することができる。」

そこで、検討すると、請求人が主張するとおり、タイヤの外側と内側は異なる材料を含んでいることから、その違いに応じて外部剥離剤と内部剥離剤の組成を異なるものとすることは、技術常識であるといえる。
しかしながら、引用発明のカーボンブラックは導電性の成分、また、脂肪アルコールのポリグリコールエーテルは帯電防止剤及び分散剤として機能する成分であり、両者は、ともにタイヤに静電活性を付与してタイヤの電気抵抗を下げるための成分であって、併用することで相乗的な効果がもたらされるものである(【0005】、【0006】、【0009】及び【0010】)。
すなわち、引用発明の水性外部剥離剤に含まれるこれらの成分は、剥離性を良好にするためにタイヤの外部(外側)の材料に応じて含有された剥離剤成分ではなく、従来から知られる外部剥離剤に、タイヤの電気抵抗を下げるための追加成分として添加される成分であると理解される。
そうすると、従来から、タイヤの外側用と内側用で異なった剥離剤が必要とされており、そのために、剥離剤中に含まれる、剥離性を良好にするための成分をタイヤの材料に応じて異なるものとすることが技術常識であるとしても、そのことにより、タイヤの電気抵抗を下げるために剥離剤に添加される追加成分であるカーボンブラック等の静電活性付与成分についてまで、異なるものとすることにはならない。
しかも、引用発明の水性外部剥離剤に含まれる上記の静電活性成分が、タイヤの内部剥離剤成分として適さないといった技術常識があるとも認められない。(このことは、本願明細書に先行技術文献として記載される特許文献1(特開2008-279659号公報)に、タイヤ内面用離型剤がカーボンブラック粉末を含むこと(請求項1、5及び【0026】)や、ポリオキシアルキレン系の非イオン系界面活性剤等の分散剤を含むこと(【0015】?【0017】)について言及されていることとも符合する。)
さらに、本願発明の効果に関し、本願明細書の記載を検討しても、本願発明で特定される上記2成分がタイヤインナーライナーとの親和性の点で格別に優れることは理解できないし、カーボンブラック等の静電活性付与成分を含む剥離剤によりタイヤの電気抵抗を下げることができることは、引用文献1から予測し得る効果に過ぎない。
よって、請求人の上記主張はいずれも採用できない。

(4)以上のとおりであるから、本願発明は引用文献1に記載された発明及び引用文献1?3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献1?3に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-06-13 
結審通知日 2019-06-18 
審決日 2019-07-02 
出願番号 特願2014-67730(P2014-67730)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田代 吉成  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 渕野 留香
大島 祥吾
発明の名称 タイヤ内面用離型剤およびそれを用いた空気入りタイヤの製造方法  
代理人 野田 茂  

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