• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03G
管理番号 1354534
審判番号 不服2018-6535  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-20 
確定日 2019-08-13 
事件の表示 特願2017-12524「発条発電自動車」拒絶査定不服審判事件〔平成30年7月19日出願公開、特開2018-112176〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年1月10日の出願であって、その手続は以下のとおりである。
平成29年8月22日(発送日) :拒絶理由通知書
平成29年10月18日(提出日):意見書の提出
平成30年1月23日(発送日) :拒絶査定
平成30年4月23日(提出日) :審判請求書の提出
平成31年1月22日(発送日) :拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶 理由」という。)
平成31年3月22日(提出日) :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「発条、歯車等を組み合わせて、発条の反発力が動力として伝達され循環する複数の動力発生装置が一定の時差で次々と継続して車軸を回転させて車体を推進し、同時にその推進力で発電機を稼働させて発生した電力を蓄電することにより、その電力を自車で活用するとともに停車後に家庭等に供給する、発条を動力源とする発電等する自動車。」

第3 当審拒絶理由
当審拒絶理由のうち、理由1の概要は、次のとおりのものである。

1 (実施可能要件)本願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

● 理由1(実施可能要件)について
本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

また、当審拒絶理由のうち、理由3の概要は、次のとおりのものである。

3 (進歩性)本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に理解可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

● 理由3(進歩性)について
・請求項1
・引用文献1ないし引用文献5

引 用 文 献 一 覧

1.実願昭49-5270号(実開昭50-94339号)のマイクロフィルム
2.特開昭59-138782号公報
3.特開2011-236879号公報
4.特開2001-41073号公報
5.特開2014-88106号公報

第4 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)についての検討
当審拒絶理由において、特許法第36条第4項第1号に係る拒絶理由として、以下のとおり指摘した。
「本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、
『発条、歯車等を組み合わせて、発条の反発力が動力として伝達され循環する複数の動力発生装置が一定の時差で次々と継続して車軸を回転させて車体を推進し、同時にその推進力で発電機を稼働させて発生した電力を蓄電することにより、その電力を自車で活用するとともに停車後に家庭等に供給する、発条を動力源とする発電等する自動車。』
というものである。そして、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されるものでなければならない。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明の段落【0009】ないし【0020】の記載は、図1ないし図4の図示事項及び平成29年10月18日付けの意見書における請求人の主張並びに審判請求書における請求人の主張を参酌しても、全体として明確でなく、請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
具体的には、少なくとも以下の点が明確でない。」
そして、具体的に明確でない点を、「1.」ないし「8.」で挙げた。
これに対し、請求人は、平成31年3月22日の意見書において、「1『本願発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されていない。』(理由1)の検討」の中の、「(1)」ないし「(8)」において該「1.」ないし「8.」で挙げた事項について主張し、さらに、「本願発明の詳細な説明は明確かつ十分であると認められる。」と主張した。
そこで、請求人の「(1)」ないし「(8)」に係る主張のうち、「(1)」、「(3)」ないし「(7)」に係る主張を検討すると、

(1)「(1)「帯状の鎖(フックバンド5)」の構造等(図1右上参照)」に係る主張について
請求人は、「中空で中に数個の上が傾斜した土台が等間隔に片方だけ横向き(大輪1の平面方向)に設置された太ワイヤ5aが、一方から挿入され、他方は閉鎖されている。
それらの土台に乗る形で同数の伸縮棒が同じ横向きに小バネに囲まれて配置。太ワイヤ5aの先が閉鎖された奥底と短いバネで連結。太ワイヤ5aの挿入口側は小輪3から伸びた発条の先と連結。該連結部を避けて凹突起を太ワイヤ5aの挿入口側に設置。該凹突起に嵌るように凸突起をフックバンド5の先端に設置する。」と主張する。
該主張をふまえると、「太ワイヤ5a」は「中空」であり、その中に「上が傾斜した土台が数個配置」され、その配置は「等間隔に片方だけ横向きの配置」であり、さらに「土台の数と同数の伸縮棒が横向きに小バネに囲まれて配置」されるとともに、「凹突起が挿入口側に配置」されるものと理解できる。
しかしながら、このように理解できる「太ワイヤ5a」は、本願の発明の詳細な説明及び図面には記載されておらず、示唆もない。このように理解した場合、該主張は本願の発明の詳細な説及び図面の記載に基づくものではない。
仮に記載または示唆されているとしても、当該「太ワイヤ5a」に配置される「伸縮棒」と本願の発明の詳細な説明の段落【0011】に記載される「伸縮棒8本」及び段落【0012】に記載される「伸縮棒」との関係が不明である。また、「上が傾斜した土台」と段落【0012】の「土台の先の傾斜部分」との関係も不明である。そして、太ワイヤ5aは「5a」との符号であるので、フックバンド5の何れかの部分に挿入されていると理解できるが、具体的に挿入される部分が本願の発明の詳細な説明の記載及び図面からは特定できないことから、「太ワイヤ5a」が「凹突起に嵌るように凸突起をフックバンドの先端に設置する」との構成がどのような構成であるか理解することができない。
そうすると、請求人の主張を参酌しても、本願の発明の詳細な説明の段落【0011】、【0012】に記載された事項(当審拒絶理由の理由1の「1.」で指摘した事項)を理解することができない。

(2)「(3)「遡った車体の推進力」等(図1、2参照)」に係る主張について
請求人は「「遡った車体の推進力」とは、発明車に働く慣性力が、タイヤ17から各歯車等を経由して、大歯車(「動輪▲2▼(審決注:○の中に2、以下同様)」8の同軸に設置)から大輪1に遡ることに他ならない。そして、この場合の「循環」とは、動力の伝達が、大輪1から各歯車等を経てタイヤ17へ、タイヤ17から各歯車等を経て大輪1へ、を繰り返すことである。」と主張する。
しかしながら、「発明車に働く慣性力が、タイヤ17から各歯車等を経由して、大歯車から大輪1に遡ること」とは、どのようなことか理解することができない。単に「タイヤ」が回転するときに働く力を大輪に伝達することと理解したとしても、「動力の伝達が、大輪1から各歯車等を経てタイヤ17へ、タイヤ17から各歯車等を経て大輪1へ、を繰り返す」ことをどのような手段により実施しているかを、本願の発明の詳細な説明からは理解することができない。
本願発明は「自動車」に係る発明であるから、運転者が所望する移動を行うものといえる。してみると、当該移動を実現しつつ「動力の伝達が、大輪1から各歯車等を経てタイヤ17へ、タイヤ17から各歯車等を経て大輪1へ、を繰り返す」ことをどのように両立させているか、本願の発明の詳細な説明の記載の段落【0012】の記載をみても明確に理解することができない。
そうすると、請求人の主張を参酌しても、本願の発明の詳細な説明の段落【0012】に記載された事項(当審拒絶理由の理由1の「3.」で指摘した事項)を理解することができない。

(3)「(4)「方向変換機16」関連(図2参照)」に係る主張について
請求人は「二組の動力発生装置が動力を中央チェーン11から伝達。右側の中央チェーン11は右回転、「中央歯車▲2▼」12も右回転、移動歯車14は左回転。左側の中央チェーン11は左回転、「中央歯車▲2▼」12も左回転、移動歯車14は右回転。これでは、移動歯車14は停止。
そこで、移動歯車14を軸ごと上へ少し移動して、右側の動力歯車13、左側の補助の小歯車に噛合せる。すると、移動歯車14は左回転し、車軸歯車15、タイヤ17へと伝達。
この方向と反対方向へ進む場合は、移動歯車14を軸ごと下へ少し移動すればよい。
以上のように、移動歯車14を軸ごと移動するため、該軸両端の頭を先端が平たい逆円錐状とし、方向変換機16の両側面の穴から余裕をもって首を出させる。その首の出を調節するため、スライド板16a両側横に設けた、厚みの差(高、中、低)がある穴を持つ長方形の板、をスライド板16aと一体にして移動すれば、該軸が上下に移動する。」と主張する。該主張からみて移動歯車14は上下に移動するものと理解できる。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明の段落【0014】には「14を左右に移動させ」と記載されており、該主張は段落【0014】の記載と整合しない。すなわち、請求人の該主張は本願の発明の詳細な説明の記載に基づくものではない。
そうすると、請求人の主張を参酌しても、本願の発明の詳細な説明の段落【0014】に記載された事項(当審拒絶理由の理由1の「4.」で指摘した事項)を理解することができない。

(4)「(5)「サイドブレーキレバー19」等(図3参照)」に係る主張について
請求人は「機能を切り替えるため、該レバーにグリップレバーを内蔵。該レバーを手の内側に握って右にある程度まで倒せば、該レバー内面から出る二凸が固定板19b内面の直径両端の二穴に嵌り、固定板19bを回す。固定板19bが固定板移動歯19cを押し上げ、フックチェーン19aが外れ、始動補助歯車19‘cが四個の始動輪を回して始動する。該レバーを内側に握らずに左に倒せば、サイド歯車19‘aが左回転して、固定板移動歯車19dも左回転して、固定板移動歯19cが押し下がり、固定板19bも下がり、サイドブレーキとなる。該レバーを内側に握って右に倒し過ぎるとフックチェーン19aの発条部を引っ張り過ぎるので、二凸が該レバー内に引っ込むように仕組んでおく。そうすることで、該レバーを倒し過ぎても、該発条部が元の中央に戻ることになる。」と主張する。しかしながら、該主張はサイドブレーキレバー19(始動レバー19‘)の作用或いは機能に係る主張であり、さらに、段落【0016】の「同グリップレバーは、前に倒し切ると自動的に凸の2か所が凹むように設計する。また、19‘は前に倒す時19aの発条部を引っ張っているので、凸の2か所が凹むと同時に中央に戻るようになる。」との関連も不明である(段落【0016】は、グリップレバーを前に倒すことで始動力となり、後方へ引くとサイドブレーキとなるものである。しかしながら、意見書で主張するものは、右に倒せば始動し、左に倒すとサイドレバーになるものである。)。仮に両者が関連しているとしても、該主張における「グリップレバーを手の内側に握って右にある程度まで倒せば・・・・始動する。」、「グリップレバーを内側に握らず左に倒せば・・・・サイドブレーキとなる。」及び「該レバーを内側に握って右に倒しすぎると・・・・二凸が該レバー内に引っ込むように仕組んでおく」との記載に係る事項を実施可能にするための構成を理解することができない。
そうすると、請求人の主張を参酌しても、本願の発明の詳細な説明の段落【0016】に記載された事項(当審拒絶理由の理由1の「5.」で指摘した事項)を理解することができない。

(5)「(6)「フットブレーキレバー20」等(図3参照)」に係る主張について
請求人は、「フットブレーキレバー20の矢印状の根本から繋がった横U字型の中太二本線、と上部C‐C横概観図の中太二本線がパイプに相当。符号番号8は「動輪▲2▼」で、側動輪13aとブレーキ輪20aを結ぶ線上に位置し、同じ位置関係の左側のものとで、二本存在。フットブレーキ20は、動力を伝える二本の「動輪▲2▼」8の回転を抑えるもの。ゼンマイ内蔵のブレーキ輪20a二個を「動輪▲2▼」8と同軸に設置し、各々のブレーキ輪20aの下からU字型の楔が空気圧で押し上げることで各々のブレーキ輪20aの底に押し当り「動輪▲2▼」8を圧迫。ブレーキ輪20a内蔵のゼンマイが元に戻る力で該軸の回転を制止。それを制御するのがバネスイッチ。ゼンマイが巻き込みと弛緩を繰り返すように、該スイッチが働く。該軸にゼンマイの根本を固定、ゼンマイの先に凸を作り、それが嵌る凹をブレーキ輪20a内側外周に作る。先の凸の底辺部に穴を開け、該穴に小バネを通して該穴に繋ぎ、最外から二周目のゼンマイにも別穴を作って繋ぐ。これで、ゼンマイが巻き込まれてくると、外から一周目と二周目の隙間が小バネの力でより狭まり、先の凸が内側外周の凹から外れる。外れたら弛緩して先の凸が該凹に嵌って、再びゼンマイを巻き込み始めて、弛緩と巻き込みを繰り返す。」と主張する。
しかしながら「「動輪▲2▼」で、側動輪13aとブレーキ輪20aを結ぶ線上に位置し、同じ位置関係の左側のものとで、二本存在」については、本願の発明の詳細な説明及び図面には記載されておらず示唆されているともいえない。すなわち、当該記載を含む請求人の主張は、本願の発明の詳細な説明に基づくものではない。仮に当該記載が本願の発明の詳細な説明又は図面に記載あるいは示唆されていたとしても、請求人の該主張は、本願の発明の詳細な説明に記載も示唆もない「先の凸の底辺部に穴を開け、該穴に小バネを通して該穴に繋ぎ、最外から二周目のゼンマイにも別穴を作って繋ぐ。これで、ゼンマイが巻き込まれてくると、外から一周目と二周目の隙間が小バネの力でより狭まり、先の凸が内側外周の凹から外れる。」事項が含まれるものであるから、結局、本願の発明の詳細な説明に基づくものではないといえる。
そうすると、請求人の主張を参酌しても、本願の発明の詳細な説明の段落【0016】に記載された事項(当審拒絶理由の理由1の「6.」で指摘した事項)を理解することができない。

(6)「(7)アクセル等(図3参照)」に係る主張
請求人は「【0018】は、アクセルに関する記載。小輪3は、発条を巻き込んだ太目の軸。発明車の動力源は、この発条の反発力。アクセルペダル23を踏み込んで小輪3の巻き込みを強くすれば、その分フックバンド5に掛かる発条の反発力も大きくなる。」と主張する。
しかしながら、「小輪3は、発条を巻き込んだ太目の軸」であるとしても、何故「小刻みに」(段落【0018】を参照。)アクセルペダル23を踏み込むとフックバンド5の反発力が増すのかが理解できない。また、「小刻み」に踏み込む場合とそうでない踏み込みとの違いが理解できない。
そうすると、請求人の主張を参酌しても、本願の発明の詳細な説明の段落【0018】に記載された事項(当審拒絶理由の理由1の「7.」で指摘した事項)を理解することができない。

したがって、平成31年3月22日の意見書による請求人の主張を踏まえても、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

第5 特許法第29条第2項(進歩性)についての検討
「第4」で上述したように、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないが、予備的に、本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすと仮定して、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしているかについての検討を行う。

1 引用文献の記載事項
(1) 引用文献1
当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用文献1(実願昭49-5270号(実開昭50-94339号)のマイクロフィルム)には、「J・H原動機」に関して、図面(特に第1図ないし第3図を参照。)とともに以下の事項が記載されている(なお、下線部は当審が付した。以下同様。)。

ア 「センマイ(審決注:「ゼンマイ」の誤記と認める。)とハズミ車との組合せにより他の力を借りないで動く原動機を用いる実用的な機械(自動車、発電機等)」(明細書1ページ5行ないし8行)

イ 「第一図は本考案を自動車に取り付けた図である。
従来の原動機は地下資源を消費して行く物であった為これらの地下資源が世界的に不足し始めて来ている為本考案は現在使用されている玩具のゼンマイとハズミ車の力を合せた物である。
1によって2のギアの組合せを利用して軽い力で3のゼンマイを巻く、そして3のもどる力を4のギアの組合せによって5のハズミ車をより速く回転させる。6によってその力を調整して7のギアの組合せにより8を使って10を回転させる。9は3のもどる力を一カ所に集め働きをする。」(明細書1ページ10行ないし19行)

ウ 「4は、変速機(2)」(明細書2ページ7行)

エ 「9は、3用のプロペラシャフト
10は、後輪」(明細書2ページ12及び13行)

以上から、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ゼンマイ3のもどる力と変速機4のギアの組合せによってハズミ車5をより速く回転させ、後輪10を回転させる、ゼンマイ3とハズミ車5との組合せにより他の力を借りないで動く原動機を用いる実用的な機械(自動車、発電機等)。」

(2) 引用文献2
当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用文献2(特開昭59-138782号公報)には、図面(特に、第1図ないし第3図を参照。)とともに次の事項が記載されている。

ア 「この発明は,多段に設けたゼンマイを同時又は順次制御して長い作動時間をもつ,多段にしたゼンマイに関する。
従来,ゼンマイを動力源にした玩具や時計や蓄音機など多数あり電池が不要で大変便利である。然しこの欠点は,負荷が大きい物は動作時間が短かい事である。過去に数個のゼンマイを容器に収納しゼンマイの膨大で切替え,容器を軸にして回転する蓄音機もあったが,この発明は軸に2条程度螺刻した雄ねじとこれに螺合するゼンマイ軸とが,夫夫の回転方向で固接又は切離される特性に保持機構を付加し,多段に設けたゼンマイを同時に又は順次制御する構造のもので,簡易に螺刻でき然も故障のないねじを制御の主体に,ゼンマイを多段にして動作時間の長いゼンマイの提供を目的とする。以下これを図面について説明する。」(1ページ左欄10行ないし右欄4行)

以上から、上記引用文献2には次の技術(以下「引用文献2の記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「多段に設けたゼンマイを順次制御すること。」

(3) 引用文献3
当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用文献3(特開2011-236879号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列した複数個のゼンマイバネを巻き上げた後、順次連続してほどき、一本の出力軸に回転運動を出力する機構。
【請求項2】
請求項1の出力軸に、増速歯車を介して直流発電機を接続した発電システム。」

イ 「【0004】
本発明では、ゼンマイバネの巻上げとほどき機能を備えた構造体を複数個持ち備えた機構とする。そして1つの構造体のゼンマイバネがほどき終ったとき、次の構造体のゼンマイバネに伝達して連続的にほどき続く機構を作る。これにより比較的小型のゼンマイバネで大きい回転出力トルクを、長い時間得ることが出来るようにすることを目指した。
【発明が解決しようとする手段】
【0005】
次のような機構を作り出すことで、本発明の目的を達成する手段とした。
(1)一個のゼンマイバネの巻数には、限界があるので、複数個のゼンマイバネを直列配置。
(2)一個のゼンマイバネがほどき終ったとき、次のゼンマイバネのほどきが始まるための作用方法として、作用力の小さいピンを採用。
(3)複数個のゼンマイバネの回転出力を一本の主軸に伝えるためのカム輪を設計。
(4)上記のピンの作用力として、予め歪みを与えておいた板バネのスナップ作用を利用。
【発明の効果】
【0006】
ゼンマイバネの巻芯に装置した駆動ピンの作動により、ゼンマイバネのほどき停止及び開始を行った。一つのゼンマイバネのほどきが終ったときに跳ね返りバネのスナップ作用の動作によって巻芯に装置した移動ピンを移動させて、次のゼンマイバネのほどき作用を開始することを可能とした。」

以上から、上記引用文献3には次の事項が記載されていると認められる。

「複数個のゼンマイバネを巻き上げた後、順次連続してほどくこと。」

(4) 引用文献4
当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用文献4(特開2001-41073号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0002】
【従来の技術】近年は自動車を利用したオートキャンプがさかんであるが、照明器具、調理器具又はTV等の各種の家庭用電化製品をキャンプ地でも利用するためには、小型エンジンを駆動源として利用した携帯型の発電機を持参していくのが一般的である。しかし、携帯型の発電機は大きな車内スペースを占有してしまうし、また小型エンジンが露出しており発電の際に騒音が生じるなど、不便な点もある。この点、車両に外部コンセント(外部端子)を設けて、車載のバッテリの電力や、エンジンを駆動源とする車載の発電機で発電した電力を、各種の家庭用電化製品の電源として利用できれば、携帯型の発電機を持参する必要がなくなり便利である。」

イ 「【0018】本実施形態においては、通常の走行の際の車両各部の制御状態である通常のモードとは別に、停車中に外部給電を行う際の制御状態である発電モードを有し、後者を選択するための手動スイッチであるマニュアル発電スイッチ27が設けられている。また、外部給電のための発電モードで発電していることを乗員に知らせるためのモードインジケータ29が備えられている。
【0019】このように構成された本実施形態の車両においては、車両発進時や低速走行時には第1のモータジェネレータ3をモータとして機能させモータ出力のみで走行し、また通常走行時にはエンジン1を始動させてエンジン出力で走行する。上坂路や加速時等エンジン1に高負荷がかかる時にはエンジン1に加え第1のモータジェネレータ3をモータとして機能させ両動力源により走行する。車両減速時や制動時には、第1のモータジェネレータ3を発電機として機能させ、バッテリ13に電力を回生する。なお、この電力回生の際に入力クラッチ2をオフ状態とすることにより、第1のモータジェネレータ3からの電力の回生を効率よく行うことができる。
【0020】図6に示す本実施形態における制御装置の処理フローチャートを用いて、以下に外部給電のための発電手順を説明する。
【0021】まず、ECU17は、上述した各種センサの入力信号を処理する(ステップS10)。次に、マニュアル発電スイッチ27がオン状態かどうかを判定する(ステップS20)。乗員が外部給電のために第2のモータジェネレータ9による発電若しくはバッテリ13からの放電を行いたい場合は、マニュアル発電スイッチ27をオンにして外部給電のための発電モードを選択し、このマニュアル発電スイッチ27からECU17に送られる信号によってオン/オフが判定される。マニュアル発電スイッチ27がオフ状態の場合は、外部電源コンセント23からの電力取出しを禁止する(ステップS140)。この場合はECU17から切替スイッチ25をオンにする信号が送られず、切替スイッチ25がオフ状態にあるため外部電源コンセント23から電力を取出すことができない。なお、本実施形態では、後述のとおり、発電モードが実行中であることを条件に、SOCが所定値を下回るとエンジン1を始動しバッテリ13へ充電する構成としているので、このことと、マニュアル発電スイッチ27がオンされている場合にのみ外部給電を行う(ステップS20,S140)ようにしたこととにより、バッテリ13内の電力が外部給電により全て消費される事態を回避できる。
【0022】ステップS20にてマニュアル発電スイッチ27がオンの場合は、続いてシフトレバー位置がPポジション(停車位置)かどうかを、シフトポジションセンサ19の検出信号に基いて判定する(ステップS30)。ステップS30においてシフトレバー位置がPポジション以外である場合には、発電を開始せず、外部電源コンセント23からの電力取出を禁止する(ステップS140)。また、モードインジケータ29を消灯し、外部電源コンセント23が使用できない状態にあることを乗員に認識させる(ステップS150)。このようにシフトレバー位置がPポジションの場合にのみ発電を行うこととしたのは、Pポジションの場合には車両が停車中であってエンジン1の回転数を自由に制御できる状態といえるからである。他方、シフトレバー位置がPポジションにあるときは、続いてSOCが所定値A%以上かどうかを、バッテリ13に設けられたSOCセンサ(図示せず)からの信号に基いて判定する(ステップS40)。
【0023】SOCが所定値A%以上のときは、バッテリ13の容量が充分であるため、発電を開始しない。所定値A%未満のときは、入力クラッチ2を強制的にオフにする(ステップS50)。すなわち、入力クラッチ2がオフ状態にあるときにはオフ状態が継続され、オン状態のときには強制的にオフ側に操作すべく、入力クラッチコントロールソレノイド53に対し所定の操作出力が行われる。
【0024】続いて、専用制御ロジックによりエンジン1を駆動させる(ステップS60)。ここで専用制御ロジックとは、例えば触媒温度センサ31により触媒近傍の排気ガス温度を検出し、排気ガス温度が所定の触媒活性温度より低い場合に、エンジン回転数を増加させて排気ガス温度を高める制御のように、外部給電の際に用いられる専用の制御状態をいう。エンジン回転数の制御はスロットルバルブの開閉によって行われる。このような専用制御ロジックの実行により、排気ガス浄化用の触媒が常に十分な活性化温度範囲に維持される。
【0025】また、図7に示す第2のモータジェネレータ9の特性図におけるモータ効率の最高点で発電できるように、モータトルクと回転数を制御してもよい。図7は横軸にモータ回転数NM、縦軸にモータトルクTMをとった場合のモータ効率ηMが示されている。図に示すように回転数NM及びトルクTMが増大するほどモータ効率ηMは増大し、ある回転数NM及びトルクTMの範囲で極大となる。
【0026】さらに、排気ガス温度が触媒活性温度以上となるエンジン1の最低回転数N1以上の回転数であって、最も第2のモータジェネレータ9のモータ効率が良くなる点で発電できるようモータトルク又はモータ回転数を制御してもよい。尚、このような専用制御ロジックは、外部電源コンセント23と特別なマニュアル発電スイッチ27を設けた本実施形態に限らず、これらを有しない一般のハイブリッド車にも、例えば歯車変速機5の変速比を適切に制御する構成とすることによって適用することが可能である。
【0027】続いて、専用補機駆動が実施される(ステップS70)。専用補機駆動とはここでは、外部給電のための発電と無関係の装置、例えばエアコンや電動オイルポンプ7を作動させないような外部給電時に専用の制御をいい、ここでこのような制御を実施するのは、シフトレバーがPポジションに操作されている停車中には電動オイルポンプ7を駆動して歯車変速機5を変速操作する必要がないからである。またエアコンを作動させないので電力消費を節約できる。
【0028】続いてステップS60にいう専用制御ロジックに基いて、所定のモータトルク・回転数にて第2のモータジェネレータ9が駆動され発電が行われる(ステップS80)。第2のモータジェネレータ9で発電された電力はインバータ11により所定の電圧に落とされ、外部電源コンセント23へ送られる。このとき、余剰に発電された電力はバッテリ13へ送られ、バッテリ13を充電する(ステップS90)。尚、このように余剰に発電された電力を利用してバッテリ13を充電することに加え、バッテリ13のSOCがステップS40における所定値A%より低い基準値B%を下回った場合に積極的に充電を行う構成としてもよい。
【0029】続いて外部電源コンセント23からの電力の取出が許可される(ステップS100)。この場合ECU17から切替スイッチ25へ信号が送られ、切替スイッチ25がオンに切り替えられインバータ11から外部電源コンセント23へ送電が行われる。そして、ECU17から発電モードインジケータ29へ点灯信号が送られ、発電モードインジケータ29が点灯する(ステップS110)。これにより乗員は、外部給電が可能な状態であることを知ることができる。
【0030】他方、ステップS40においてSOCが所定値A%以上と判定された場合、エンジン1が作動している場合にはこれを停止する(ステップS120)。従って、このときは発電は行われない。次にバッテリ13の放電モードが設定され(ステップS130)、これによりバッテリ13の電力がインバータ11を介して外部電源コンセント23へ送られる。ステップS100およびステップS110の処理は同じである。尚、バッテリ13の放電の結果、SOCが所定値A%を下回ると、ステップS40で再び否定判定され、ステップS60より専用制御ロジックでエンジン1が駆動され、再び第2のモータジェネレータ9による発電が開始される。」

以上から、上記引用文献4には次の事項が記載されていると認められる。

「エンジン1を駆動させ、モータジェネレータ9が駆動され発電が行われ、バッテリ13を充電し、通常走行の際の通常モードと別の停車中の発電モードにおいて、バッテリ13の電力が外部電源コンセント23に送られ、家庭用電化製品の電源として利用されること。」

(5) 引用文献5
当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用文献5(特開2014-88106号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関により駆動される発電機から外部電気機器に電力変換を行い電力を供給する車両用電力供給システムであって、
前記発電機によって充電され、前記外部電気機器が要求する電力の増加に対応して前記外部電気機器に電力を供給するバッテリと、
前記車両の走行停止状態を検出する停止状態検出手段と、
前記バッテリ及び前記発電機から前記外部電気機器への供給電流を検出する電流検出手段と、
前記電流検出手段の検出結果を用いて、前記発電機の発電電流に対する前記供給電流の過不足状態から前記バッテリの充放電状態を算出する供給電流超過判定手段と、
前記電流検出手段の検出結果を用いて、前記供給電流の変化量を算出する供給電流変化判定手段と、
前記停止状態検出手段が前記車両の走行停止状態を検出したとき、前記供給電流超過判定手段及び前記供給電流変化判定手段の算出結果に基づいて前記内燃機関の回転速度を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用電力供給システム。
【請求項2】
前記供給電流超過判定手段は、前記供給電流と前記発電電流の差分を積算し、この積算値を前記算出結果とする
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用電力供給システム。
【請求項3】
前記供給電流超過判定手段は、前記供給電流と前記発電電流の差分から差分算出時に前記バッテリが充電状態か放電状態かを判断し、この差分を前記算出結果とする
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用電力供給システム。
【請求項4】
前記電流検出手段は前記バッテリ及び前記発電機から前記外部電気機器への供給電流の代わりに前記バッテリの充放電電流を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用電力供給システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記内燃機関の吸気量を制御することで、内燃機関の回転速度を制御する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の車両用電力供給システム。
【請求項6】
前記内燃機関の温度を検出する温度検出手段を備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段の検出結果に基づいて、前記内燃機関の停止又は前記内燃機関の回転速度の抑制を行う
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の車両用電力供給システム。
【請求項7】
前記外部電気機器への電力供給時に、前記外部電気機器への電力供給に不必要な車載電装品への電力供給を停止することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の車両用電力供給システム。
【請求項8】
前記発電機によって前記外部電気機器に電力を供給することなく前記バッテリに電力を供給する自己充電モードを有する
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の車両用電力供給システム。
【請求項9】
前記制御手段は、前記自己充電モードにおいて、前記バッテリの充電が完了すると前記内燃機関の停止及び前記制御手段への電力供給を停止する
ことを特徴とする請求項8に記載の車両用電力供給システム。
【請求項10】
前記車両用電力供給システムは自動二輪車に採用される
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の車両用電力供給システム。」

イ 「【0006】
本発明に係る車両用電力供給システムは、内燃機関により駆動される発電機から外部電気機器に電力変換を行い電力を供給する車両用電力供給システムであって、発電機によって充電され、外部電気機器が要求する電力の増加に対応して外部電気機器に電力を供給するバッテリと、車両の走行停止状態を検出する停止状態検出手段と、バッテリ及び発電機から外部電気機器への供給電流を検出する電流検出手段と、電流検出手段の検出結果を用いて、発電機の発電電流に対する供給電流の過不足状態からバッテリの充放電状態を算出する供給電流超過判定手段と、電流検出手段の検出結果を用いて、供給電流の変化量を算出する供給電流変化判定手段と、停止状態検出手段が車両の走行停止状態を検出したとき、供給電流超過判定手段及び供給電流変化判定手段の算出結果に基づいて内燃機関の回転速度を制御する制御手段とを備えるものである。」

ウ 「【0010】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る車両用電力供給システムの概要を示す図であり、実施の形態1では以降、車両の例として自動二輪車を用いている。
図1において、内燃機関であるエンジン1の出力軸には発電機2が接続されている。エンジン1の出力軸が燃料の燃焼により回転すると、発電機2が回り発電が行われる。この発電した電力は、整流器及びレギュレータ3で、交流から直流に変換し、一定電圧(例えば12vまたは24v)となるように調整される。エンジン1は車速信号やギア信号、モードSW信号等の各種信号を元に、エンジンマネジメントシステム4(以降、EMSと略記)によって、電子スロットル5、インジェクタ6、点火プラグ7等を制御して駆動している。
【0011】
発電し調整された電力は、バッテリ8に充電される、又はヘッドライト等の電装品9に給電される、又は外部電気機器として冷蔵庫や電子レンジ等の家庭用電気機器10に給電される。これら充電と給電は同時に行われることもあり、レギュレータ3にはバッテリ8が満充電しているときに過充電させない役割もある。ここで、家庭用電気機器10に給電される際は、DC-AC変換器11により直流電力を家庭用電気機器10が使用できる交流電力に変換する。電装品9又は家庭用電気機器10に供給される電力(以降、供給電力と略記)は電力モニタ装置12に検出されており、電力モニタ装置12はEMS4に接続し、供給電力をEMS4に通知している。」

以上から、上記引用文献5には次の事項が記載されていると認められる。

「エンジン1により駆動される発電機2によって充電されるバッテリ8から電力を電装品9に給電し、車両の走行停止時には家庭用電気機器10に給電すること。」

2 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ゼンマイ3」は、その機能及び技術的意義からみて本願発明の「発条」に相当し、同様に、「変速機4のギアの組合せ」は「歯車」に相当する。
してみると、引用発明の「ゼンマイ3のもどる力を変速機4のギアの組合せによってハズミ車5をより速く回転させ、後輪10を回転させる」と本願発明の「発条、歯車等を組み合わせて、発条の反発力が動力として伝達され循環する複数の動力発生装置が一定の時差で次々と継続して車軸を回転させて車体を推進し、」とは、その機能及び技術的意義からみて「発条、歯車等を組み合わせて、発条の反発力が動力として伝達される動力発生装置が車軸を回転させて車体を推進し、」という限りで一致する。
また、引用発明の「ゼンマイ3とハズミ車5との組合せにより他の力を借りないで動く原動機を用いる実用的な機械(自動車、発電機等)」と本願発明の「発条を動力源とする発電等する自動車」とは、「発条を動力源とする自動車」という限りで一致する。

したがって、両者は、
「発条、歯車等を組み合わせて、発条の反発力が動力として伝達される動力発生装置が車軸を回転させて車体を推進する、発条を動力源とする自動車。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は、「循環する複数の動力発生装置が一定の時差で次々と継続して車軸を回転させて車体を推進」するのに対し、引用発明は、「動力発生装置が車軸を回転させて車体を推進」させるものではあるが、「循環する複数の動力発生装置が一定の時差で次々と継続して車軸を回転させる」ものではない点。

[相違点2]
本願発明は、「同時にその推進力で発電機を稼働させて発生した電力を蓄電することにより、その電力を自車で活用するとともに停車後に家庭等に供給する」、「発電等する自動車」であるのに対し、引用発明はかかる事項を備えていない点。

3 判断
上記相違点について検討する。
相違点1について検討する。
引用文献2の記載事項は以下のとおりである。
「多段に設けたゼンマイを順次制御すること。」
また、引用文献3の記載事項は以下のとおりである。
「複数個のゼンマイバネを巻き上げた後、順次連続してほどくこと。」

してみると、「発条の反発力が動力として伝達される複数の動力発生装置が一定の時差で次々と継続して動力を伝達すること」は本願の出願前の周知技術(以下、「周知技術1」という。)であるといえる。
そして、引用発明と周知技術1とは、発条の反発力を動力として駆動させるための技術である点で共通する。引用発明において、周知技術1を踏まえてゼンマイ3を複数とし、一定の時差で次々と継続して車軸を回転させるようにすることに、格別な技術的な困難性を見出すこともできない。
また、平成31年3月22日の意見書における「特に、「循環」について三つの視点から考察し、請求の範囲を明確にする。
第一に、「・・・発条の反発力が動力として」と、「循環する」との関係を考察。そこで、中輪2が反転して動力を発生させる処から見る。その発生動力が「動輪▲1▼」4から「動輪▲2▼」8へ伝わり、更に「中央歯車▲1▼」9と大歯車(同軸に設置)に分かれる。後者に伝わる発生動力は、遡って大輪1を加速し次の発生動力となるため、「動力が循環」している。
第二に、「・・・循環する」が「複数の動力発生装置が一定の時差で次々と継続して車軸を回転させて車体を推進・・」にどう関わるか考察する。動力発生装置の単位を基とすると、発明車では八基が一組となって現行車のエンジンに相当。その複数の八基を擁する一組(発明車では二組)のエンジン相当が、一基毎予め巻き込みに八段階の等差を持ち、等時差で動力の発生を同一組内で順番に繰り返す。これは、「一定の時差で次々と継続して車軸を回転させて車体を推進・・」という現象であるため、「動力の循環」と言える。
第三に、発明車の内部と外部の環境を考察する。発明車の動力源は、発条の反発力だけなので、何も工夫や斬新な発想がなければ一回限りの発進で停止。それを防ぐには動力の強化や発生の頻度を多くすることが重要。つまり、より多くの複数の基の夫々が、動力を連続して発生する、ことを繰り返すサイクル、つまり循環が必要である。」との主張を踏まえ、「循環する」について検討すると、「1」、(1)、(イ)で上述したように、引用文献1には、「9は3のもどる力を一カ所に集め働きをする。」(明細書1ページ19行を参照。)との記載がある。そして、第二図のプロペラシャフト9に係る図示内容からみて、引用文献1はゼンマイ3のもどる力をプロペラシャフト9により集め、変速機2のギアの組み合わせにより伝達していると理解できる。そして、変速機2のギアの組み合わせはゼンマイ3を巻くためのものである。してみると、引用文献1にはゼンマイ3のもどる力が「循環する」ことが示唆されているということができる。
また、周知技術1は「発条の反発力が動力として伝達される複数の動力発生装置が一定の時差で次々と継続して動力を伝達すること」、すなわち、「複数の動力発生装置」が一定の時差で次々と継続して作動する、或いは「複数の動力発生装置の夫々が、動力を連続して発生する」ものであるから、請求人が主張する第二の「動力の循環」及び第三の「循環」を含む技術といえる。
してみると、引用発明において、周知技術1を踏まえてゼンマイ3を複数とし、一定の時差で次々と継続して車軸を回転させるようしたものを「車両の反発力が動力として伝達され循環する」ようにすることは、当業者の通常の創作能力に範囲で容易に想到し得たことである。
そうすると、引用発明において、周知技術1を踏まえて相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

相違点2について検討する。
引用文献4の記載事項は以下のとおりである。
「エンジン1を駆動させ、モータジェネレータ9が駆動され発電が行われ、バッテリ13を充電し、通常走行の際の通常モードと別の停車中の発電モードにおいて、バッテリ13の電力が外部電源コンセント23に送られ、家庭用電化製品の電源として利用されること。」
引用文献5の記載事項は以下のとおりである。
「エンジン1により駆動される発電機2によって充電されるバッテリ8から電力を電装品9に給電し、車両の走行停止時には家庭用電気機器10に給電すること。」
してみると、「その推進力で発電機を稼働させて発生した電力を蓄電することにより、その電力を自車で活用するとともに停車後に家庭等に供給する」、「発電等する自動車」は本願の出願前の周知技術(以下、「周知技術2」という。)であるといえる。
また、一般に自動車は車両を推進させる動力源を用いて発電する発電機を備え、発電機を稼働させて発生した電力を蓄電し、その電力を活用することは例示するまでもない技術常識であるから、実用的な機械である引用発明について、該技術常識を踏まえて発電機を稼働させて発生した電力を蓄電し、活用できることは、当業者が理解し得たことである。
そうすると、引用発明において、周知技術2を踏まえて、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者の通常の創作能力の範囲で容易になし得たことである

また、本願発明は、全体としてみても、引用発明、周知技術1及び周知技術2から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明、周知技術1及び周知技術2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 請求人の主張について
平成31年3月22日の意見書において、請求人は次のとおり主張する。
「(2)引用発明等との比較検討
(ア)引用発明等との共通点を検討するも、以下のとおり無い。
引用文献(1?3)は、ゼンマイ(形状、機能でバネと別物)に関するもの、同文献(4?5)は、内燃機関により駆動する発電機や電力供給システムに関するもの。従って、発想、対象、形態、目的、効果の全てにおいて、共通点は存在しない。
(イ)念のため、引用発明等との類似点を検討するも、以下のとおり相違している。
(一)該ゼンマイは、金属の弾性体である点でバネと類似している。しかし、引用発明1では、ゼンマイの戻る力が一過性で継続性がなく、適用が自動車と発電機で別々。引用文献2では、多段のゼンマイで長時間とするが継続性がなく、適用対象は不明。引用文献3では、複数ゼンマイでも一過性で継続性がなく、適用も発電機に特化。
(二)該発電機や電力供給システムは、発明車の一部を構成している点で類似。しかし、引用文献4では、内燃機関と駆動力制御に関する形態で、エネルギー循環もない。引用文献5では、内燃機関と電流の制御に関する形態で、エネルギー循環もない。」
しかしながら、引用文献3に「ゼンマイバネ」と記載されている(「1」「(3)」を参照。)ように、「ゼンマイ」が発条に包含されるものであることは技術常識である。また、本願の発明の詳細な説明の段落【0011】の「3はその軸に末端が固定された発条が巻込みと解放を繰り返すもので、同発条の先端は5に連結。」されるものであるから、3の発条はゼンマイと同様の機能を奏する構成といえる。また、引用発明はゼンマイ3を原動機として用いるものであるから、本願発明の3の発条と同じ技術的意義を持つ構成である。機能及び技術的意義からみて引用発明の「ゼンマイ3」は、本願発明の「発条」に相当する。
また、(二)の「エネルギー循環」については、相違点1の検討で上述した通り、引用発明及び周知技術1に基づき当業者が容易になし得たことといえる。
したがって、請求人の当該主張は当を得ない。

また、当該意見書において、請求人は次のとおり主張している。
「(一)相違点1 (イ)(一)で相違点が明確となった引用文献2,3の記載事項の一部表現をもって、本願発明を出願前の周知技術と断定することはできないと考える。
仮に、周知技術だとしても、更なる疑問点が生じる。一つ目は、本願発明の拒絶理由2で「循環する」が明確でないと否定しながら、この相違点の検討に当たっては積極的に検討材料としていること。二つ目は、(イ)(一)で相違点が明確となった引用文献1の記載や図面をもって検討材料としていること。三つ目は、該引用文献1で何故、『ゼンマイのもどる力が「循環する」ことが示唆されている』と断定できるのか、客観的な説明がなされていないこと。以上の諸々の疑問点を踏まえると、「引用発明・・・本願発明1の発明特定事項・・・当業者であれば容易に想到し得た」と結論づけることは論理的に無理がある。
以上の総合的な検討の結果、相違点1は存在すると認められる。」
しかしながら、引用文献2及び引用文献3に周知技術1が記載されていることは明らかである。そして、周知技術1が周知でないとする特段の事情を請求人の主張から見出すこともできない。また、「循環する」については、当審拒絶理由において、「9は3のもどる力を1カ所に集め働きをする」との記載及び第二図のプロペラシャフト9に係る図示内容からみて、引用文献1に示唆されているとし、さらに、相違点1の検討において、上述のとおり、当該意見書における請求人の主張を踏まえて更なる検討をしている。
したがって、請求人の当該主張も当を得ない。

さらに、当該意見書において、請求人は次のとおり主張している。
「(二)相違点2 (イ)(二)で、相違点が明確となった引用文献4,5の記載事項の部分表現をもって、本願発明を出願前の周知技術と断定することは、できないと考える。
更に、本願発明を周知技術や技術常識と断じるには、明らかな事実誤認がある。
一つは、本願発明では、「・・その推進力{発条の反発力が動力源}で発電機を稼働・・」としているのに対し、引用文献4では「{ガソリン等使用}エンジン1を駆動・・・が駆動され発電が行われ・・・・」、引用文献5では[{ガソリン等使用}エンジン1により駆動される発電機・・・」と全く異なる事実を同一と判断していることである。言い換えれば、動力源が弾性エネルギーか燃焼エネルギーか、の違いを無視している。発電機とモーターは逆関係と言われるようにエネルギーと電力は切っても切れない程重要な関係だ。したがって、動力源の違いを決して無視できないのに、それを度返視しているのは、明らかな事実誤認である。
もう一つは、該通知書では「一般に自動車・・動力源{ガソリンエンジン等}を用いて発電する発電機・・電力を蓄電し・・その電力を活用する」ことは技術常識だとしている。しかしながら、この技術常識も動力源はガソリンエンジン等を指しており、規模・目的がハイブリット車等に内蔵される自車内用(主に発電)及び車外用(小規模電気機器)に対応するものである。本願発明は、発条の反発力を動力源とし、自車で発電した電力の100%を走行以外に使い、家庭等へも給電する本格的ものとしている。これも、従来の技術常識を超えたものであり、事実誤認である。
上記の検討の結果、「引用発明・・・本願発明1の発明特定事項・・・当業者の通常の創作能力の範囲内で容易になし得た」とは認められない。また、「本願発明1は、・・予測し得ない格別な効果を奏するものではない。」とは、到底言えない。
以上の総合的な検討の結果、相違点2は存在すると認められる。」
しかしながら、引用文献4及び引用文献5に周知技術2が記載されていることは明らかである。そして、請求人の主張から、周知技術2が周知でないとする特段の事情を見出すことはできない。また、当審拒絶理由では、引用発明において、周知技術2を踏まえて相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことを論じている。引用発明は実用的な機械(自動車、発電機等)である。そして、上述したとおり、一般に実用的な自動車において、車両を推進させる動力源を用いて発電する発電機を備え、発電機を稼働させて発生させた電力を蓄電し、活用することは例示するまでもない技術常識であるから、実用的な機械(自動車、発電機等)である引用発明に技術常識を踏まえ実用的な機能を持たせることは、当業者の通常の創作能力の範囲で想到し得たことである。したがって、請求人の当該主張も当を得ない。

そうすると、意見書における請求人の上記主張は、いずれも当を得ない。

第6 むすび
「第4」において述べたとおり、本願は、特許法第36条第4号第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶すべきである。
仮に、本願が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているとしても、「第5」において述べたとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-06-05 
結審通知日 2019-06-11 
審決日 2019-06-24 
出願番号 特願2017-12524(P2017-12524)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (F03G)
P 1 8・ 121- WZ (F03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬戸 康平  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 水野 治彦
鈴木 充
発明の名称 発条発電自動車  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ