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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02C
管理番号 1354570
審判番号 不服2018-8802  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-27 
確定日 2019-09-12 
事件の表示 特願2014-531613「サングラス用偏光レンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月27日国際公開、WO2014/030603、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)8月19日(優先権主張平成24年8月21日)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成29年8月18日付け:拒絶理由通知書
平成29年10月3日:意見書の提出
平成30年3月23日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年6月27日:審判請求書、手続補正書の提出
令和元年6月13日付け:拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由通知」という。)
令和元年7月29日:意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出

第2 原査定の概要
原査定の概要は、この出願の請求項1?8に係る発明は、その優先権主張の日(以下、「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

1.国際公開第2011/049108号
2.特開平9-178944号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、[A]この出願の請求項1、4?6及び8に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、[B]この出願の請求項1、4?8に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、「C」この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、というものである。

1.国際公開第2011/049108号
3.特開2011-16920号公報

第4 本件発明
本願請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」という。)は、本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される発明であり、本件発明1?7は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性有機色素で延伸染色した偏光フィルムの両面に接着層を介して透明な保護シートを貼り合わせ、球面或いは非球面に加工した曲げ偏光レンズまたは前記の曲げ偏光レンズの凹面にレンズ用透明樹脂を射出成形したサングラス用偏光レンズにおいて、前記延伸染色して得られた偏光フィルムの、光吸収波長の青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)における二色比が5?14の範囲であり、かつその差が5以内となるように二色性有機色素を組み合わせて染色してなるものであることを特徴とするサングラス用偏光レンズ。
【請求項2】
前記の二色比が青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)の光吸収波長においてその差が3以内となるように二色性有機色素を組み合わせたものである請求項1記載のサングラス用偏光レンズ。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが、3.5?6倍に一軸延伸されたものである請求項1記載のサングラス用偏光レンズ。
【請求項4】
前記透明な保護シートが、芳香族ポリカーボネート、ポリアクリレート、アセチルセルロース、ポリアミド、及び芳香族ポリカーボネートと脂環式ポリエステルとの組成物からなる群より選択される1つ以上である、請求項1記載のサングラス用偏光レンズ。
【請求項5】
前記透明な保護シートが、リタデーション3000nm以上で厚み0.1?1mmである芳香族ポリカーボネート樹脂のフィルムまたはシートである請求項1記載のサングラス用偏光レンズ。
【請求項6】
前記接着層に、ポリウレタンプレポリマーとヒドロキシ(ポリ)アクリレートとを含む硬化剤からなる2液型の熱硬化性ポリウレタン樹脂を用いるものである請求項1記載のサングラス用偏光レンズ。
【請求項7】
前記レンズ用透明樹脂が、芳香族ポリカーボネート、ポリアミドまたはポリアクリレートである請求項1記載のサングラス用偏光レンズ。」

第5 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載事項
当審拒絶理由通知に引用され、本件優先日前の2011年4月28日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された国際公開第2011/049108号(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、下線は合議体が発明の認定等に用いた箇所を付与した。他の文献についても同様である。

(1)「背景技術
[0002] 水面、雪面、路面などの反射光からくるまぶしさを和らげ、見やすくする目的で、偏光子付きサングラス、ゴーグル、矯正レンズなどの光学物品が好適に利用されている。
・・・(省略)・・・
[0004] これらに用いる偏光子としては、樹脂フィルム、典型的にはポリビニルアルコール(PVA)フィルムを一方向に延伸しつつヨウ素または2色性染料で染色して偏光性を付与したものが知られている。
・・・(省略)・・・
[0005] 上記した機能層をサングラス、ゴーグルや、矯正レンズ等の光学物品に適用する方法の一つとして、偏光性、調光性またはこの両機能性の層の両面に保護層を設けた機能性シートを用いる方法がある。
この保護層として用いる透明なプラスチック材料としては、熱可塑性樹脂があげられ、芳香族ポリカーボネート、ポリメチルメタアクリレート、透明ナイロン、アセチルセルロースなどが例示される。
この中で、耐衝撃性の点からは、芳香族ポリカーボネートが、また、ポリメチルメタクリレート、透明ナイロン、脂環を主鎖に持つ炭化水素系の樹脂、アセチルセルロースなど、耐クラック性、ファション性、その他の種々の要求から用いられている。
[0006] 機能層と保護層との積層一体化は、通常、硬化性樹脂接着剤を用いて行われているが、機能層と保護層との接着不良に基づくトラブルも時として見られる。
特に、芳香族ポリカーボネートを保護層とする場合、この接着不良は、芳香族ポリカーボネート製の保護層の接着剤層からの剥離として観察される場合が多い。
芳香族ポリカーボネートには、溶剤クラックの発生の問題がある。このため用いる溶剤によっては、芳香族ポリカーボネート上に接着剤層を形成できないのみでなく、残存溶剤もクラック発生の原因となる。しかし、溶剤除去のための過剰の乾燥処理などは、通常、接着力を劣化させる。また、良好な接着のための被接着面両面への接着層の形成などにも制限があった。
[0007] この点の改良として芳香族ポリカーボネートの接着面に、接着剤に対する保護層を形成したものを用いる方法が容易に考えられる。芳香族ポリカーボネートを保護層とする機能性シートの場合、通常の接着用の予備処理として、プラズマ処理など行われている。
しかし、接着剤に対する保護層を形成することに直接言及した記載は見出していない。
他の目的、例えば、機能性シートを用いた熱硬化性レンズの製造方法においては、機能性シートの表面に硬化性樹脂モノマー液に耐性を持つ塗膜、例えば、硬化性のアクリル系樹脂などの膜を形成したものを用いる方法がある(特許文献2、3)。
[0008] 上記した機能性シートを用いてサングラスやゴーグル、矯正レンズなどの光学物品を製造する方法は、通常、まず、前記機能性シートを所望の曲面に成形加工したレンズとするか、または、曲面に成形加工して曲げ品を製造し、金型に装着し、裏面に透明なプラスチック材料を射出成形したレンズとする。次に、レンズに、所望により、ハードコート、反射防止、その他の表面処理が施され後、適宜、玉摺り(外形加工)、穴あけ、ネジ締め等の工程を経て、光学物品は組み立てられている。
その際、透明なプラスチック材料の層には取り扱い中の擦傷、曲げ、圧縮、引っ張り、ねじれ、温度や湿度の変化による不均一な変形などの応力が加わる。それらの中で透明なプラスチック材料の表面層の擦傷性の問題がある。この擦傷性に対する耐性が低いと擦り傷のついた製品が発生しやすく、製品歩留まりの低下に繋がる。
・・・(省略)・・・
発明が解決しようとする課題
[0011] 機能性シートを製造した後に、ハードコート処理などを行う方法でも十分とは言えずある程度の確率で擦り傷が発生していた。また、後加工を必要とする場合には、その工程に適用可能なものとの制限があった。ハードコートなどの表面処理を省いた製品もあり、この製品においても擦り傷がよりつき難いものがより好ましいものであった。また、層間接着力の向上は、そのための工程を追加する方法により改善可能と思われるが、当然、この工程を必要としないものが好ましいものであった。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、機能層と保護層との接着性を改善し、保護層の擦り傷への耐性を向上させた偏光性或いはフォトクロミック性の機能層を有する機能性シートおよびそれを用いたレンズを提供することを課題とする。」

(2)「発明を実施するための形態
[0018] 以下、本発明の機能性シートに関して説明する。
本発明の機能性シートは、(a)偏光性或いは調光性の機能層、(b)少なくとも片面の保護層が芳香族ポリカーボネート樹脂層とアクリル系樹脂層との共押出しシート或いはフィルムである保護層、および適宜、(c)機能層aと保護層b、または機能層a相互を接着するための接着層とからなる。
また、この機能性シートを曲げ加工してなるレンズ、並びに、機能性シートを曲げ加工し金型に装着し、透明熱可塑性樹脂を射出成形してなる成形レンズである。
[0019] [偏光性の機能層]
本発明の偏光性の機能層は、ポリビニルアルコール系樹脂のフィルムを二色性の有機染料で染色および延伸して製造されたものを通常用いる。
このポリビニルアルコール類としては、ポリビニルアルコール(PVA)、PVAの酢酸エステル構造を微量残したもの及びPVA誘導体または類縁体であるポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物等が例示され、特にPVAが好ましい。このフィルムを一方向に延伸させつつ、2色性の有機染料を含浸もしくは吸着させ、適宜、固定し、乾燥して偏光のフィルムとする。
PVAフィルムの重量平均分子量は、50,000?350,000、好ましくは、分子量150,000?300,000である。原料PVAフィルムの厚みは、通常100?300μm程度であり、これを延伸・染色してなるPVA偏光フィルムは、通常10?50μmである。
PVAフィルムの延伸倍率は2?8倍であり、目的に応じて適宜選択されるが、延伸後の強度の点から3?5倍が好ましい。
・・・(省略)・・・
[0027] 保護層の厚さは50μm?2mm、好ましくは100μm?1mmである。
共押出しシート或いはフィルムの場合、アクリル系樹脂層の厚みは、全厚みの50%未満で10μm以上であり、通常、10μm?500μm、好ましくは20?100μmの範囲から選択する。
[0028] また、共押出しシート或いはフィルムのリタデーションの値は、100nm以下または3000nm以上の範囲のものを選択する。
リタデーション値が100nm以下の場合、主鎖に対して垂直方向に向いた芳香環をもつモノマーを共重合(例えば、フルオレン基置換のビスフェノール、スチレングラフトビスフェノールAポリカーボネートなど)することにより、光弾性率を小さくしたものを用いて製造した共重合ポリカーボネート樹脂を用いたものが好ましい。
通常の芳香族ポリカーボネート樹脂(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを用いたもの)の場合、リタデーションの値が3000nm以上20000nm以下、好ましくは4000nm以上、特に5000nm以上のものを選択する。なお、高いリタデーション値をもつものとは、分子配向に基づく大きな歪(残留応力)をもつことであり、一般的に残留応力の小さいものに比較して耐クラック性に劣るという欠点も有する。
・・・(省略)・・・
[0034] [接着剤層]
本発明では、保護層と機能層との接着、機能層として偏光フィルム層と調光性(フォトクロミック)フィルムとを用いる場合の相互接着に接着剤層を用いる。
使用される接着剤としては、アクリル樹脂系材料、ウレタン樹脂系材料、ポリエステル樹脂系材料、メラミン樹脂系材料、エポキシ樹脂系材料、シリコーン系材料等が挙げられる。特に芳香族ポリカーボネートとの接着性、及び、偏光層や調光層との接着性から、ウレタン樹脂系材料であるポリウレタンプレポリマーと硬化剤からなる2液型の熱硬化性ウレタン樹脂が好ましい。
・・・(省略)・・・
[0038] [レンズの製造]
上記で製造した、偏光、調光、または偏光・調光である機能性シートを用いて、アクリル系樹脂層が凸面表面となるように外形加工し加熱加圧下に曲げ加工してレンズとするか、または、同様にして外形加工し曲げ加工した後、凸面側を金型に装着し、凹面側に透明な熱可塑性樹脂を射出成形して成形レンズとする。
射出成形せずに曲げたままでレンズとして用いる場合には、それ自体で強度をもつことが必須であり、また、両面が製品の表面となる。ゆえに、保護層に用いるシートは厚手のものとし、両表面がアクリル系樹脂となる構成として製造した機能性シートを選択する。厚みは、両面の合計で0.8mm以上、好ましくは1?3mmである。また、通常の芳香族ポリカーボネートを用いた共押しシートの場合、高リタデーションのものが好ましい。
[0039] 次に、射出成形して成形レンズとする場合、射出成形する側の機能性シート表面には溶融樹脂が充填されるので、擦り傷のように異物でない欠点は消失すること、及び、通常射出成形に用いる芳香族ポリカーボネートとの密着性や光学特性の点から、芳香族ポリカーボネートを表面層としたものが好ましい。射出樹脂が充填される側は機能性層を保護するに十分な厚みがあればよいものである。
また、通常、凸面である金型との接触面は、通常、成形レンズとされた後、その表面に各種機能性層を形成してレンズとされる。これらから、このような表面処理工程に好適な表面層を持ったものが好適であり、たとえば、柔軟性のあるアクリル系共重合体層を持つものを金型側として用いる。
用いる機能性シートの厚みは、両面の合計で0.3mm以上、好ましくは0.4?0.9mmである。
[0040] 本発明において、上記のように、偏光層を持つ機能性シートを選択し、また、通常の芳香族ポリカーボネートを用いた共押しシートを選択する場合、高リタデーションの共押しシートを選択することが好ましい。
最も一般的な、通常の芳香族ポリカーボネート樹脂、すなわち、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを主なモノマーとするポリカーボネート樹脂は、大きな光弾性定数を有する。
このため、この大きな光弾性定数を有するポリカーボネート樹脂を用いた場合、低リタデーションを保つような特別の操作を用いない場合、枠への固定、温度変化などによる応力や曲げ加工その他にて発生した応力が残り、偏光層をもつ機能性シートでは、この応力により発生した複屈折によって干渉縞が観察されるようになる。
これに対して、十分に大きなリタデーションのものを用いたもの場合、このような応力によって、新たに干渉縞が観察されるようにはならない。これは、十分に大きなリタデーションのものでは、応力複屈折の値による変化は無視できるもので、その方向が実質的に変化しないことを用いたものである。
・・・(省略)・・・
[0043] 図3は、実施例1、2に相当する本発明の機能性シートを用いた曲げレンズ(実施例6)を示す概略断面図である。図2のa,bを用いて曲げ加工したものであり、両面に番号2の硬質アクリル系樹脂層2を持ち、耐擦り傷性が向上したものである。
・・・(省略)・・・
[0044] 上記で製造したレンズは、そのままで、または、さらに、適宜、反射防止層、ハードコート層、防汚層、防曇層等の各種機能性層を形成した、また、染色などにて例えばグラディエイション、その他の意匠を付与したレンズとされ、サングラスやゴーグルまたは矯正めがねレンズ等に好適に使用される。
なお、本発明の機能性シートは、そのままで耐擦り傷性の改良されたものとして、または、適宜、反射防止層、ハードコート層、防汚層、防曇層等の各種機能性層を形成して、偏光板、フォトクロミック板、偏光・フォトクロミック板などに用いることができる。」

(3)「実施例
[0045] 以下、本発明を実施例で説明する。
[保護層]
共押シート1(図1a参照):
PC/PMMA共押出しシート(PMMA:メチルメタクリレート、三菱ガス化学株式会社製)をバッチ式の延伸機で温度160℃の加熱下に延伸して、厚み0.7mm(PMMA層の厚さ100μm)、リタデーション値約5500nmとした。
このシートはPCとPMMAとの境界に傾斜構造が生じており、境界での光の反射は比較的少ない。
共押シート2(図1b参照):
PMMA/PC/C-PMMA共押出しシート(C-PMMA:メチルメタクリレート、メチルアクリレートおよびブチルアクリレート共重合体、三菱ガス化学株式会社製)を前記と同様にして1軸延伸して、厚み0.7mm、リタデーション値約5500nm(PMMA層の厚さ100μm、C-PMMAの厚さ約30μm)とした。
このシートも前記と同様に境界に傾斜構造が生じているものである。
[0046] 共押シート3(図1a参照):
厚さ0.3mmのPC/PMMAの2層共押出しシート(PMMA層の厚さ60μm、三菱ガス化学株式会社製)を準備した。このシートは前記と同様に境界に傾斜構造が生じているものである。
共押シート4(図1a参照):
PC/PMMAの2層共押出しシート(三菱ガス化学株式会社製)を前記と同様にして1軸延伸して、厚み0.3mm、リタデーション値約5500nm(PMMA:メチルメタクリレート、メチルアクリレート共重合体、厚さ約50μm)とした。
このシートは前記と同様に境界に傾斜構造が生じているものである。
[0047] 共押シート5(図1c参照):
C-PMMA/PC/C-PMMAの3層共押出しシート(三菱ガス化学株式会社製)を前記と同様にして1軸延伸して、厚み0.3mm、リタデーション値約5500nm(C-PMMA層の厚さ約30μm)とした。
このシートも前記と同様に境界に傾斜構造が生じているものである。
共押シート6(図1d参照):
PC/C-PMMA共押出しシート(三菱ガス化学株式会社製)を前記と同様にして1軸延伸して、厚み0.3mm、リタデーション値約5500nm(C-PMMA層の厚さ約30μm)とした。
このシートも前記と同様に境界に傾斜構造が生じているものである。
[0048] 上記とは別にビスフェノールAポリカーボネート(PC)製、厚み0.3mmの通常のもの、並びに厚みが0.3mmと0.7mmでリタデーション値約5500nmのシートを準備した。
[0049] [偏光フィルム(偏光層)]
PVAフィルム(クラレ株式会社製、商品名VF-PS#7500)を35℃の水に浸漬させてフィルムに含まれるグリセリンを除去した。次いでスミライトレッド4B-P(C.I.28160)0.35g/L、クリソフェニン(C.I.24895)0.18g/L、スミライトスプラブルーG(C.I.34200)1.33g/L及び無水硫酸ナトリウム5g/Lを含む35℃の水溶液に3分間浸漬させ、この染色時とその後で一方向に4倍延伸させた。この染色フィルムを酢酸ニッケル2.5g/Lおよびホウ酸6.0g/Lを含む35℃の水溶液に3分間浸漬させた。そのフィルムを緊張状態が保持された状態のまま室温下で3分間乾燥した後、110℃で3分間加熱処理し、偏光フィルムを得た。
・・・(省略)・・・
[0051] [接着剤組成物]
ポリウレタンプレポリマー50重量部に対し、硬化剤5重量部、溶媒として酢酸エチル60重量部を使用して接着剤組成物を調製した。
実施例1(図2a参照)
[0052] 上記で得た偏光フィルムの片面に、上記接着剤組成物をコーターを用いて塗布し、110℃で5分間乾燥させた後、上記厚み0.7mmの2層の共押シート1のPC側をラミネーターを用いて積層した。次いで得られた積層物の偏光フィルム面に接着剤層を同様にして形成した後、2枚目の上記共押シート1のPC側を積層した。次に室温で1日以上、さらに70℃で1日乾燥させて、両表面がPMMAである厚み1.5mmのPMMA*PC/接着剤層/偏光フィルム/接着剤層/PC*PMMAの偏光シートを得た。
得られた偏光シートの鉛筆硬度試験JIS-K-5600-5-4を実施したところ、鉛筆硬度3Hであることが確認された。
・・・(省略)・・・
実施例2(図2b参照)
[0054] 上記厚み0.7mmの3層の共押シート2のC-PMMA側に上記接着剤組成物をコーターを用いて塗布し、110℃で5分間乾燥させた後、上記で得た偏光フィルムをラミネーターを用いて積層した。この偏光フィルムの面に、前記と同様に接着剤組成物を塗布し乾燥させた共押シート2のC-PMMA側の塗布面を重ね積層した。次に室温で1日以上、さらに70℃で1日乾燥させて、両表面がPMMAである厚み1.5mmのPMMA*PC*C-PMMA/接着剤層/偏光フィルム/接着剤層/C-PMMA*PC*PMMAの偏光シートを得た。
実施例1と同様に鉛筆硬度試験行ったところ、鉛筆硬度3Hであることが確認された。
なお、この接着剤組成物をPC面に塗布し乾燥した場合には、微細クラックの発生が観察されることが多いが、本実施例の場合には微細なクラックの発生は見られなかった。
実施例3(図2c参照)
[0055] 実施例1で使用した共押シート1の代わりに、片面の保護シートに厚み0.3mmの共押シート4(2)、その反対面の保護シートに厚み0.3mmの高リタデーションPCフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして、厚み0.6mmのPMMA*PC/接着剤層/偏光フィルム/接着剤層/PCの偏光シートを得た。
実施例1と同様に鉛筆硬度試験行ったところ、PMMA側の鉛筆硬度3H、PC側の鉛筆硬度Bであった。
実施例4(図2d参照)
[0056] 上記厚み0.3mmの3層の共押シート5のC-PMMA面上に上記接着剤組成物をコーターを用いて塗布し、110℃で5分間乾燥させた後、上記で得た偏光フィルムをラミネーターを用いて積層した。この偏光フィルムの面に、C-PMMA面上に同様に接着剤組成物を塗布し乾燥させた上記厚み0.3mmの2層の共押シート6のC-PMMA側の塗布面を重ね積層した。次に室温で1日以上、さらに70℃で1日乾燥させて、厚み0.6mmのC-PMMA*PC*C-PMMA/接着剤層/偏光フィルム/接着剤層/C-PMMA*PCの偏光シートを得た。
実施例1と同様に鉛筆硬度試験行ったところ、C-PMMA側の鉛筆硬度H、PC側の鉛筆硬度Bであった。
なお、この接着剤組成物をPC面に塗布し乾燥した場合には、微細クラックの発生が観察されることが多いが、本実施例の場合にも実施例2と同様に微細なクラックの発生は見られなかった。
・・・(省略)・・・
実施例6(図3参照)
[0058] 実施例1および2の厚み1.5mmの偏光シートを用い、延伸方向80mm、その垂直な方向の幅を55mmの長方形の4角をカットしたカプセル型に打ち抜いた。
これを真空吸引付きでシリコンゴムシート被覆を備えた凹球面曲げ型(曲率半径66.81mm、ベースカーブ7.932)を用い、表面温度145℃に設定した雌型のシリコンゴムシート上にカット片を載せ、真空吸引を開始し、次にシリコンゴムシート被覆した雄型にて加圧することにより球面曲げ加工を行った。なお、ここで言うベースカーブとは、レンズ前面の曲率であり、530をミリメータ単位の曲率半径で除した値のことである。
所望形状への打ち抜き、曲げ加工性共に良好であり、表面の擦り傷の生じ難い曲げレンズが得られた。」

(4)「特許請求の範囲
[請求項1] 偏光性或いは調光性の機能層とその両面に芳香族ポリカーボネート樹脂シート或いはフィルムからなる保護層を用いてなる機能性シートにおいて、少なくとも片面の前記保護層が芳香族ポリカーボネート樹脂層の片面或いは両面にアクリル系樹脂層を有する共押出しシート或いはフィルムであって、前記機能性シートの少なくとも片面がアクリル系樹脂層であることを特徴とする機能性シート。」

(5)「

・・・(省略)・・・

・・・(省略)・・・



2 引用発明
前記1の記載事項(3)に基づけば、引用文献1には、実施例1の「偏光シート」を用いてなる実施例6の「曲げレンズ」が開示されている。また、前記1(2)の記載([0044])からみて、この「曲げレンズ」は、「サングラスに使用される」ものであってもよい。そうしてみると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていたと認められる。

「 芳香族ポリカーボネート樹脂(PC)層の片面にアクリル系樹脂層としてメチルメタクリレート(PMMA)を有する共押出しシートをバッチ式の延伸機で温度160℃の加熱下に延伸して、厚み0.7mm(PMMA層の厚さ100μm)、リタデーション値約5500nmとした共押シート1を得、
PVAフィルム(クラレ株式会社製、商品名VF-PS#7500)を35℃の水に浸漬させてフィルムに含まれるグリセリンを除去し、次いでスミライトレッド4B-P(C.I.28160)0.35g/L、クリソフェニン(C.I.24895)0.18g/L、スミライトスプラブルーG(C.I.34200)1.33g/L及び無水硫酸ナトリウム5g/Lを含む35℃の水溶液に3分間浸漬させ、この染色時とその後で一方向に4倍延伸させ、この染色フィルムを酢酸ニッケル2.5g/Lおよびホウ酸6.0g/Lを含む35℃の水溶液に3分間浸漬させ、そのフィルムを緊張状態が保持された状態のまま室温下で3分間乾燥した後、110℃で3分間加熱処理して、偏光フィルムを得、
得た偏光フィルムの片面に、接着剤組成物をコーターを用いて塗布し、乾燥させた後、厚み0.7mmの2層の共押シート1のPC側をラミネーターを用いて積層し、得られた積層物の偏光フィルム面に接着剤層を同様にして形成した後、2枚目の上記共押シート1のPC側を積層し、乾燥させて、両表面がPMMAである厚み1.5mmのPMMA*PC/接着剤層/偏光フィルム/接着剤層/PC*PMMAの偏光シートを得、
偏光シートを用い、延伸方向80mm、その垂直な方向の幅を55mmの長方形の4角をカットしたカプセル型に打ち抜き、真空吸引付きでシリコンゴムシート被覆を備えた凹球面曲げ型を用い、球面曲げ加工を行って得られる、
サングラスに使用される曲げレンズ。」

3 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本件優先日前の平成9年7月11日に頒布された刊行物である特開平9-178944号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。

「【発明の詳細な説明】
【0001】本発明は、共役二重結合を有するポリマーの偏光層が備わっていて(排他的にポリアセチレンを含有するポリマーマトリックスを除いて)表面がシリケートで密閉されている熱安定性を示す柔軟な偏光子に関する。本発明はまた被覆層を追加的に接着させた上記偏光子にも関する。
・・・(省略)・・・
【0005】従って、本発明の目的は、この上で述べた条件に合致する積層偏光子(排他的にポリアセチレンを含有するポリマーマトリックスを排除し、共役二重結合を有するポリマーを基とする)を製造することであった。
・・・(省略)・・・
【0023】該偏光コア層は共役二重結合を有するポリマー類の偏光子であり、ここでは、ポリアセチレンを排他的に含有するポリマーマトリックスを排除し、そしてこの層が示す最大偏光度Pは少なくとも90%、好適には少なくとも95%、特に好適には少なくとも98%でありそして最大二色比Q_(E)は5以上、好適には10以上である(両方とも可視光の範囲を基準)。
・・・(省略)・・・
【0027】本発明に従う積層偏光子は以下に示す如き卓越した特性を数多く有することを特徴とする:
1. 光透過率が高いこと、
2. 光堅牢度が高いこと、
3. 偏光コア層が熱安定性を示すこと、
4. 機械的特性が優れていること。
【0028】本発明に従う偏光子は、偏光フィルムが利用されている用途分野全部で用いるに適切であり、特に光学(例えば偏光顕微鏡、写真、サングラスおよびスキーグラスの反射防止処理など)、並びに表示装置、例えば時計、ポケット計算器、ラップトップ(laptops)、コンピューター、指示器、投影表示装置、ビデオゲーム、カムコーダー(camcorder)およびフラットスクリーンテレビなどで用いるに適切である。」

4 引用文献3の記載事項
当審拒絶理由に引用され、本件優先日前の平成23年1月27日に頒布された刊行物である特開平2011-16920号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載事項がある。

(1)「【背景技術】
【0002】
偏光子は、偏光又は自然光から特定の直線偏光を透過させる機能を有する光学部材である。偏光子は、例えば、液晶表示装置の構成部材や、偏光サングラスのレンズなどに使用されている。
汎用的な偏光子は、例えば、ヨウ素で染色したポリビニルアルコールフィルムを延伸することにより得られる。
また、リオトロピック液晶性化合物を含む溶液を基材上に塗工する方法(溶液流延法)により得られる偏光子も知られている。
・・・(省略)・・・
【0006】
本発明の目的は、良好なリオトロピック液晶性を有するジスアゾ化合物を提供することである。
本発明の他の目的は、比較的二色比の高い偏光子を簡易に且つ確実に製造できる偏光子の製造方法を提供することである。
・・・(省略)・・・
【発明の効果】
【0016】
本発明のジスアゾ化合物は、溶液中において、良好なリオトロピック液晶相を安定的に示す。このため、本発明のジスアゾ化合物は、例えば、二色比の高い偏光子を簡易に且つ確実に得るための好適な材料となる。
また、本発明の偏光子は、複素6員環を有するジスアゾ化合物を含むので、比較的二色比が高い。かかる偏光子は、例えば、画像表示装置の構成部材として好適である。
さらに、本発明の偏光子の製造方法によれば、溶液流延法により、二色比の高い偏光子を簡易に且つ確実に製造できる。
・・・(省略)・・・
【0058】
本発明の偏光子の二色比は、好ましくは、3以上であり、より好ましくは5以上であり、特に好ましくは10以上である。」

(2)「【0081】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに説明する。」
・・・(省略)・・・
【0085】
[製造例2]
上記5-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸に代えて、7-アミノ-4-ナフトール-2-スルホン酸を用いたこと以外は、上記製造例1と同様にして、下記式(XIV)で表されるジスアゾ化合物を得た。
【0086】
【化18】

【0087】
[製造例3]
上記3-アミノフタルヒドラジドに代えて、4-アミノフタルヒドラジド(慣用名:イソルミノール)を用いたこと、及び、上記5-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸に代えて、8-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸を用いたこと以外は、上記製造例1と同様にして、下記式(XV)で表されるジスアゾ化合物を得た。
【0088】
【化19】

・・・(省略)・・・
【0090】
[実施例2]
上記式(XIV)のジスアゾ化合物をイオン交換水に溶解させることにより、ジスアゾ化合物の濃度が20質量%の水溶液を得た。この水溶液を偏光顕微鏡で観察したところ、ネマチック液晶相を示していた。
この水溶液を、さらにイオン交換水で希釈し、ジスアゾ化合物の濃度が7質量%の水溶液(塗工液)を調製した。この塗工液を、実施例1と同様にして、ノルボルネン系ポリマーフィルム上に塗工し、乾燥することによって、偏光子を作製した。
得られた偏光子の厚みは、0.4μmであった。この偏光子の二色比は、5.3であった。
【0091】
[実施例3]
上記式(XV)のジスアゾ化合物をイオン交換水に溶解させることにより、ジスアゾ化合物の濃度が20質量%の水溶液を得た。この水溶液を偏光顕微鏡で観察したところ、ネマチック液晶相を示していた。
この水溶液を、さらにイオン交換水で希釈し、ジスアゾ化合物の濃度が7質量%の水溶液(塗工液)を調製した。この塗工液を、実施例1と同様にして、ノルボルネン系ポリマーフィルム上に塗工し、乾燥することによって、偏光子を作製した。
得られた偏光子の厚みは、0.4μmであった。この偏光子の二色比は、10.2であった。
【0092】
実施例1及び3の偏光子は、実施例2の偏光子に比して、二色比が高かった。この結果から、一般式(I)又は(II)のR1が1,4-ナフチレン基であるジスアゾ化合物を用いれば、比較的二色比の高い偏光子を得ることができる。
また、実施例1の偏光子は、実施例3の偏光子に比して、二色比が高かった。この結果から、一般式(I)のR1が1,4-ナフチレン基であるジスアゾ化合物を用いれば、より二色比の高い偏光子を得ることができる。
【0093】
【表1】



5 引用文献Aの記載事項
当審拒絶理由に引用され、本件優先日前の平成8年10月15日に頒布された刊行物である特開平8-269375号公報(以下、「引用文献A」という。)には、以下の記載事項がある。

「【0027】黄色直接染料としては、・・・(省略)・・・C.I.ダイレクトイエロー12(C.I.24895、商品例:クリソフェニン、日本化薬株式会社製)、・・・(省略)・・・が挙げられる。
【0028】赤色直接染料としては、・・・(省略)・・・C.I.ダイレクトレッド81(C.I.28160)、・・・(省略)・・・が挙げられる。
【0029】青色直接染料としては、・・・(省略)・・・C.I.ダイレクトブルー78(C.I.34200、商品例:カヤルスブルーG、日本化薬株式会社製)、・・・(省略)・・・が挙げられる。」

第6 対比・判断
1 本件発明1
(1)対比
ア サングラス用偏光レンズ
引用発明の「曲げレンズ」は、「偏光フィルム」を具備するから、「偏光レンズ」である。また、引用発明の「曲げレンズ」は、「サングラスに使用される」ものであるから、「サングラス用」の「曲げレンズ」である。そうしてみると、引用発明の「曲げレンズ」は、本件発明1の「サングラス用偏光レンズ」に相当する。

イ 偏光フィルム
引用発明の「偏光フィルム」は、「PVAフィルム(クラレ株式会社製、商品名VF-PS#7500)を35℃の水に浸漬させてフィルムに含まれるグリセリンを除去し、次いでスミライトレッド4B-P(C.I.28160)0.35g/L、クリソフェニン(C.I.24895)0.18g/L、スミライトスプラブルーG(C.I.34200)1.33g/L及び無水硫酸ナトリウム5g/Lを含む35℃の水溶液に3分間浸漬させ、この染色時とその後で一方向に4倍延伸させ、この染色フィルムを酢酸ニッケル2.5g/Lおよびホウ酸6.0g/Lを含む35℃の水溶液に3分間浸漬させ」て得られるものである。
ここで、引用発明の「PVAフィルム」は、技術常識からみて、「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」である。
また、引用発明の「スミライトレッド4B-P(C.I.28160)」、「クリソフェニン(C.I.24895)」及び「スミライトスプラブルーG(C.I.34200)」は、技術常識からみて、二色性有機色素である(当合議体注:引用文献Aの段落【0027】?【0029】の記載からみて、引用発明の「スミライトレッド4B-P(C.I.28160)」、「クリソフェニン(C.I.24895)」及び「スミライトスプラブルーG(C.I.34200)」は、それぞれ、本願明細書の段落【0040】において例示された「C.I.Direct Red 81」、「C.I.Direct Yellow 12」及び「C.I.Direct Blue 78」に該当する二色性有機色素である。)。
加えて、引用発明の「偏光フィルム」は、その製法からみて、「延伸染色」されていることは明らかである。
そうしてみると、引用発明の「偏光フィルム」は、本件発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性有機色素で延伸染色した偏光フィルム」に相当する。

ウ サングラス用偏光レンズの作製
引用発明の「偏光シート」は、「偏光フィルムの片面に、接着剤組成物をコーターを用いて塗布し、乾燥させた後」「共押シート1のPC側をラミネーターを用いて積層し、得られた積層物の偏光フィルム面に接着剤層を同様にして形成した後、2枚目の上記共押シート1のPC側を積層」して得られる「PMMA*PC/接着剤層/偏光フィルム/接着剤層/PC*PMMA」の「偏光シート」である。
上記の積層関係及び材質からみて、引用発明の「共押シート1」が「保護シート」であることは明らかである。
また、引用発明の「曲げレンズ」は、「偏光シート」を「真空吸引付きでシリコンゴムシート被覆を備えた凹球面曲げ型を用い、球面曲げ加工を行って得られる」ものである。
そうしてみると、引用発明の「曲げレンズ」は、本件発明1の「偏光フィルムの両面に接着層を介して透明な保護シートを貼り合わせ、球面或いは非球面に加工した曲げ偏光レンズまたは前記の曲げ偏光レンズの凹面にレンズ用透明樹脂を射出成形したサングラス用偏光レンズ」という要件を満たす。

エ 二色性有機色素を組み合わせて染色
上記イに記載のとおり、引用発明の「偏光フィルム」は、「スミライトレッド4B-P(C.I.28160)」、「クリソフェニン(C.I.24895)」及び「スミライトスプラブルーG(C.I.34200)」により染色されているから、本件発明1の「二色性有機色素を組み合わせて染色してなる」という要件を満たす。

(2)一致点
以上より、本件発明1と引用発明は、以下の点で一致する。

「ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性有機色素で延伸染色した偏光フィルムの両面に接着層を介して透明な保護シートを貼り合わせ、球面或いは非球面に加工した曲げ偏光レンズまたは前記の曲げ偏光レンズの凹面にレンズ用透明樹脂を射出成形したサングラス用偏光レンズにおいて、二色性色素を組み合わせて染色してなるものであるサングラス用偏光レンズ。」

(3)相違点
本件発明1と引用発明は、以下の点で相違する。

(相違点)
偏光フィルムの二色比が、本件発明1は、「光吸収波長の青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)における二色比が5?14の範囲であり、かつその差が5以内」であるのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。

(4)判断
ア 本件発明1が、特許法第29条第1項第3号に該当するかについて検討する。
引用文献1には、引用発明の「曲げレンズ」の「光吸収波長の青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)における二色比が5?14の範囲であり、かつその差が5以内」であることを示す測定結果は開示されていない。
また、引用文献1には、引用発明の「曲げレンズ」の「光吸収波長の青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)における二色比が5?14の範囲であり、かつその差が5以内」であることを推認させるような記載もない。
加えて、本件発明1の実施例である、本願実施例2?4と引用発明とは、偏光フィルムに含有させる染料の材料組成が異なるから、引用発明は本願実施例2?4と、光吸収波長の青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)における二色比及びその差の値が異なると推測される。
そうしてみると、引用発明は、光吸収波長の青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)における二色比及びその差の値について、本件発明1と一致するとは考え難く、本件発明1の上記相違点に係る構成を具備している蓋然性が高いということはできないから、上記相違点は、実質的な相違点である。

イ 次に、本件発明1が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないかについて検討する。
引用文献1の段落[0011]には、「機能層と保護層との接着性を改善し、保護層の擦り傷への耐性を向上させた偏光性或いはフォトクロミック性の機能層を有する機能性シートおよびそれを用いたレンズを提供することを課題とする。」と記載されていることから、引用発明は、「機能層と保護層との接着性を改善」すること及び「保護層の擦り傷への耐性を向上」させることが所望の効果であると考えられる。
一方、本件発明1は、本願明細書の段落【0020】の記載に基づけば、「成形前後での色調や透過率の変化が大きいと、色調や透過率が変化する量が一定にならなく、成形した製品間で色調や透過率の差が生じてしまうという問題」を解決しようとする発明である。
そして、本願明細書の段落【0066】には、「光吸収波長の青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)において二色比が5?14の範囲になるように二色性色素による染色を行った偏光フィルムを用いた、芳香族ポリカーボネート偏光レンズにおいては、加工前後での色差が小さく、曲げ加工前後での色調と透過率の変化が小さいことがわかる。」及び「さらに、光吸収波長の青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)において二色比の差が5以内になるように二色性色素による染色を行った偏光フィルムを用いた、芳香族ポリカーボネート偏光レンズにおいては、クロスニコル配置時の色調もほぼ黒色で、かつ、加工前後での色差が小さく、曲げ加工前後での色調と透過率の変化が小さい」と記載されており、実施例2?4(段落【0065】【表1】及び【表2】)もそのことを裏付けている。
そうしてみると、引用文献1に記載された課題は、上記相違点を克服する動機づけとはならない。また、引用文献1にはこの他に、「曲げレンズ」の光吸収波長の青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)における二色比及びその差の値について、本件発明1に記載の条件を満たすように調整する動機づけとなりうる記載はない。
加えて、本件発明1の上記相違点に係る構成とすることが、本件優先日前において当該技術分野において周知又は公知であったかについて検討する。
引用文献2に記載された発明の課題又は効果は、段落【0027】に記載のとおり、偏光子の「光透過率が高いこと」、「光堅牢度が高いこと」、「偏光コア層が熱安定性を示すこと」、「機械的特性が優れていること」であり、引用文献3に記載された発明の課題又は効果は、段落【0006】に記載のとおり、「比較的二色比の高い偏光子を簡易に且つ確実に製造できる偏光子の製造方法を提供すること」である。
そうしてみると、引用文献2及び引用文献3に記載された課題も、上記相違点を克服する動機づけとはならない。また、引用文献2及び引用文献3にはこの他に、光吸収波長の青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)における二色比及びその差の値について、本件発明1に記載の条件を満たすように調整する動機づけとなりうる記載はない。
加えて、引用文献2には、「偏光コア層」の「最大二色比Q_(E)は5以上、好適には10以上」である「偏光子」が記載され、当該「偏光子」を「サングラス・・・(省略)・・・などで用いる」ことが記載されている。また、引用文献3には、二色比が5.3又は10.2である「偏光子」が記載されており、当該「偏光子」を、「偏光サングラスのレンズ」に使用することが記載されている。
しかしながら、引用文献2及び引用文献3には、「光吸収波長の青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)において二色比」及び「その差」が記載されていない。そして、引用発明に引用文献2又は引用文献3に記載された技術事項を組み合わせても、本件発明1の構成には到らない。
そうしてみると、上記相違点を克服する動機づけとなるような事項が、本件優先日前において当該技術分野において周知であったということができず、また、上記相違点に対応する構成が公知であったということもできない。

(5)小括
以上のとおりであるから、引用発明において、本件発明1の上記相違点に係る構成とすることは、当業者であっても、容易に想到し得たということはできない。
したがって、本件発明1は、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

2 本件発明2?7
本件発明2?7は、「光吸収波長の青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)における二色比が5?14の範囲であり、かつその差が5以内」とする構成と同一の構成を備えるものである。したがって、本件発明2?7も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

第7 特許法第36条第6項第2号について
本件発明1が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないかについて検討する。
本件補正により、本件発明1の「二色比」は、「光吸収波長の青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)における」二色比であることが明確になった。
したがって、本件発明1が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
そして、本件発明2?7についても同様である。

第8 むすび
以上のとおり、本件発明1?7と引用発明とは、発明の構成に差異がないとはいえない。また、本件発明1?7は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということもできない。加えて、本件発明1?7は、明確でないともいえない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-09-02 
出願番号 特願2014-531613(P2014-531613)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 高松 大
宮澤 浩
発明の名称 サングラス用偏光レンズ  
代理人 奥谷 雅子  
代理人 奥谷 雅子  

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