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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F02M
管理番号 1354595
審判番号 不服2018-5057  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-12 
確定日 2019-09-10 
事件の表示 特願2016-103249「キャニスタ及びキャニスタベントソレノイドバルブ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月23日出願公開、特開2016-169740、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年1月9日を国際出願日とする特願2015-556672号の一部を平成28年5月24日に新たな特許出願としたものであっ て、平成29年3月15日付け(発送日:平成29年3月21日)で拒絶理由が通知され、平成29年5月15日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成29年8月30日付け(発送日:平成29年9月5日)で拒絶理由通知が通知され、平成29年11月2日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、平成30年1月17日付け(発送日:平成30年1月23日)で拒絶査定がされた。これに対して、平成30年4月12日に拒絶査定不服審判が請求され、平成31年3月26日付け拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知(発送日:平成31年4月2日)され、令和元年5月31日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたものであ る。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年1月17日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。
本願の請求項1及び2に係る発明について、以下の引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2013-185526号公報
2.特開2012-197731号公報
3.特開平11-147421号公報(周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。
1.(サポート要件)本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.(明確性)本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、当審拒絶理由に対する令和元年5月31日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりの発明である。

「【請求項1】
キャニスタ及びキャニスタベントソレノイドバルブであって、
前記キャニスタは、
エンジン側と燃料タンク側とに連通して蒸発燃料を溜める室と、前記室に連通するとともに前記キャニスタベントソレノイドバルブが差し込まれる一つの差込口とを有し、
前記キャニスタベントソレノイドバルブは、
前記キャニスタの前記差込口と接続し、大気側と前記室との間を連通する流路である主流路と、
前記主流路の前記大気側と前記室との間の連通を維持及び遮断する弁体 と、
前記弁体の動作により、前記主流路の連通が遮断された場合に大気側と前記室との間を前記差込口を介して連通する迂回流路と、
前記迂回流路に形成されて、前記室を加圧又は減圧するエアポンプが接続される第1のニップルとを備えた
ことを特徴とするキャニスタ及びキャニスタベントソレノイドバルブ。

【請求項2】
キャニスタ及びキャニスタベントソレノイドバルブであって、
前記キャニスタは、
エンジン側と燃料タンク側とに連通して蒸発燃料を溜める室と、前記室に連通するとともに前記キャニスタベントソレノイドバルブが差し込まれる一つの差込口とを有し、
前記キャニスタベントソレノイドバルブは、
前記キャニスタの前記差込口と接続し、大気側と前記室との間を連通する流路である主流路と、
前記主流路の前記大気側と前記室との間の連通を維持及び遮断する弁体 と、
前記弁体の動作により、前記主流路の連通が遮断された場合に大気側と前記室との間を前記差込口を介して連通する迂回流路と、
前記迂回流路に形成されて、前記室を加圧又は減圧するエアポンプが接続される第1のニップルと、
前記主流路の前記大気側と前記弁体との間に形成された第2のニップルとを備え、
前記第1のニップルは、前記エアポンプを介して前記第2のニップルに接続される
ことを特徴とするキャニスタ及びキャニスタベントソレノイドバルブ。」

第5 原査定についての判断
1.引用文献、引用発明等
(1)引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2013-185526号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付与したものである。以下同様。)。

ア「【0001】
この発明は、給油時に燃料タンク内で発生する蒸発燃料をキャニスタを用いて処理する蒸発燃料処理装置に関し、特に、そのリークの有無を診断する診断装置に関する。」

イ「【0012】
図1は、この発明に係る診断装置を備えた蒸発燃料処理装置の一実施例を示す構成説明図である。図示せぬ車両に、内燃機関1が搭載されているとともに、密閉型の燃料タンク2が設けられており、給油時に燃料タンク2内で発生した蒸発燃料を処理するために、キャニスタ3を用いた蒸発燃料処理装置が設けられている。上記燃料タンク2は、先端の給油口5aにフィラーキャップ4が着脱可能に装着された給油管部5を備えており、また、内燃機関1の燃料噴射装置6へ燃料を供給する燃料ポンプユニット7が燃料タンク2内部に収容されている。
【0013】
上記キャニスタ3は、合成樹脂製のケース11によってUターン形状に流路が形成され、その内部に活性炭等からなる吸着材12が充填されたものであって、Uターン形状をなす流路の流れ方向の一端部に、蒸発燃料の流入部となるチャージポート13と、燃料成分を含むパージガスの流出部となるパージポート14と、が設けられており、流れ方向の他端部に、パージの際に外気を取り込むためのドレンポート15が設けられている。
【0014】
上記チャージポート13は、蒸発燃料通路16を介して燃料タンク2の上部空間に接続されている。なお、この蒸発燃料通路16の燃料タンク2側の先端部は、燃料液面が高い位置にあるときに液体燃料が蒸発燃料通路16内に溢れ出ることを防止するFLVバルブ20を介して燃料タンク2の上部空間に連通している。そして、上記蒸発燃料通路16の通路途中には、該蒸発燃料通路16を開閉する封鎖弁21が設けられている。この封鎖弁21は、原則として給油時以外はキャニスタ3と燃料タンク2との間を遮断して燃料タンク2を密閉状態とするためのものであって、非通電時に閉となる常閉型電磁弁から構成されている。
【0015】
上記パージポート14は、内燃機関1の吸気系、例えば吸気通路17のスロットル弁18下流側に、パージ通路19を介して接続されている。上記パージ通路19には、内燃機関1へのパージガスの導入を制御するパージ制御バルブ23が設けられており、未暖機時やフューエルカット時など所定の条件のときにはパージガスの導入を禁止する構成となっている。上記パージ制御バルブ23は、やはり常閉型電磁弁から構成されている。なお、このパージ制御バルブ23は単純にオン・オフ的に開閉制御される構成であってもよく、あるいは、いわゆるデューティ比制御によってパージガスの流量を連続的に可変制御し得る構成であってもよい。
【0016】
上記ドレンポート15には、先端が大気開放されたドレン通路25が接続されており、かつこのドレン通路25に、該ドレン通路25を開閉するドレンカットバルブ26が設けられている。このドレンカットバルブ26は、非通電時に開となる常開型電磁弁から構成されている。このドレンカットバルブ26は、後述するリーク診断の際に系を閉じるほか、例えば、キャニスタ3の破過を何らかの手段で検知した場合などに閉じられ得るが、基本的には開状態となってドレン通路25を開放している。また、上記ドレン通路25には、上記ドレンカットバルブ26と並列に、キャニスタ3へ向けて大気を圧送するポンプ27が設けられている。このポンプ27としては、キャニスタ3と燃料タンク2とを含む系内を加圧し得るものであれば、どのような形式のものであってもよいが、オフ状態で気体の通流が生じない構成とすることが望ましい。
【0017】
上記の封鎖弁21、パージ制御バルブ23、ドレンカットバルブ26、およびポンプ27は、内燃機関1の種々の制御(例えば、燃料噴射量制御、噴射時期制御、点火時期制御、スロットル弁18の開度制御など)を行うエンジンコントロールユニット31によって適宜に制御され、後述するように、給油時の吸着処理、運転中のパージ処理、車両運転停止後のリーク診断、などが実行される。また、系内の圧力を検出する圧力センサとして、燃料タンク2にタンク圧センサ32が取り付けられており、パージ通路19のパージ制御バルブ23よりも上流側(キャニスタ3側)にエバポレーションシステム圧(以下、エバポ圧と略記する)センサ33が取り付けられている。すなわ ち、この実施例では、系内の圧力を検出する圧力センサとして2つの圧力センサを具備しており、一方のタンク圧センサ32は、封鎖弁21により2分される系内の燃料タンク2側の領域の圧力(以下、これをタンク圧と呼ぶ )、詳しくは燃料タンク2の上部空間の圧力を検出し、また他方のエバポ圧センサ33は、封鎖弁21により2分される系内のキャニスタ3を含む領域(ドレンカットバルブ26とパージ制御バルブ23と封鎖弁21とで囲まれた領域)の圧力(ここではエバポ圧と呼ぶ)を検出する。
【0018】
上記のように構成された蒸発燃料処理装置は、基本的に、給油時に発生する蒸発燃料のみがキャニスタ3に吸着され、給油時以外は、燃料タンク2が密閉状態に保たれる。すなわち、例えば図示せぬフューエルリッドオープナー(給油口5aを覆う車体のリッドの開閉機構)などの操作に基づき、給油時であるとエンジンコントロールユニット31が認識したときには、ドレンカットバルブ26が開いている状態において、パージ制御バルブ23が閉、封鎖弁21が開、となり、燃料タンク2内とキャニスタ3のチャージポート13とが連通状態となる。従って、給油に伴って燃料タンク2内で発生した蒸発燃料は、キャニスタ3に導入され、その吸着材12に吸着される。」

ウ 図1には、「ドレン通路25は、ドレンカットバルブ26を設けたドレン通路の一方と、これに並列な、ポンプ27を備えたドレン通路25の他方」が示されており、また、イの【0013】段落の「上記キャニスタ3は、合成樹脂製のケース11によってUターン形状に流路が形成され、その内部に活性炭等からなる吸着材12が充填されたものであって、」との記載を併せてみると、「ドレン通路25は、大気側と合成樹脂製ケース11の内部との間を連通するもの」であることが示されている。

上記記載及び図示内容を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「キャニスタ3及び常開型電磁弁からなるドレンカットバルブ26であっ て、
前記キャニスタ3は、
内燃機関と燃料タンク2とに接続され蒸気燃料を吸着材12に吸着させる合成樹脂製ケース11の内部と、前記合成樹脂製ケース11の内部に連通するとともに前記ドレンカットバルブ26が接続されるドレンポート15とを設け、
前記ドレンカットバルブ26は、
前記キャニスタ3の前記ドレンポート15と接続し、大気側と前記合成樹脂製ケース11の内部との間を連通するドレン通路25の一方と、
前記ドレン通路25の一方の前記大気側と前記合成樹脂製ケース11の内部との間を開閉する常開型電磁弁とを備え、
前記大気側と前記合成樹脂製ケース11の内部との間で連通する前記ドレン通路25の一方と並列なドレン通路25の他方と、
前記ドレン通路の他方に、前記合成樹脂製ケース11の内部を加圧し得るポンプ27が設けられた
キャニスタ3及び常開型電磁弁からなるドレンカットバルブ26。」

(2)引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2012-197731号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0014】
以下、本発明の実施形態の燃料蒸気漏れ検出装置について図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態の燃料蒸気漏れ検出装置を用いた蒸発燃料処理装置を図1から図3に示す。
図1に示すように蒸発燃料処理装置1は、燃料タンク2、キャニスタ3、および燃料蒸気漏れ検出装置11などを備える。エンジン100に燃料を供給する燃料タンク2とキャニスタ3とは第1パージ管4で接続されている。キャニスタ3と吸気通路5のスロットルバルブ6近傍とは第2パージ管7で接続されている。第2パージ管7にはパージ弁8が設置されている。燃料タンク2内で発生する蒸発燃料は、第1パージ通路4を通りキャニスタ3内の活性炭の吸着材に吸着される。パージ弁8は電磁弁であり、パージ弁8の開度が制御されることによりキャニスタ3から吸気通路5にパージされる蒸発燃料量が調整される。
【0015】
燃料蒸気漏れ検出装置11は、キャニスタ3と接続している。燃料蒸気漏れ検出装置11は、「切換弁」としてのタンク封鎖弁50、「加減圧手段」としての加圧ポンプ30、逆止弁部40などを備える。
【0016】
タンク封鎖弁50は、大気と連通する大気通路52、第1通路53、キャニスタ3とキャニスタ通路9を介して接続するキャニスタ接続通路55、および第2通路54を有している四方弁である。タンク封鎖弁50は、「制御手段」としてのECU20の指令により、大気通路52と第1通路53とを連通、またはキャニスタ接続通路55と第2通路54とを連通に切り換え る。タンク封鎖弁50の構造については後述する。
【0017】
加圧ポンプ30は、「モータ部」としてのモータ32により駆動する電気式ポンプである。加圧ポンプ30には、タンク封鎖弁50の第1通路53と接続する第1ポンプ通路36、およびタンク封鎖弁50の第2通路54と接続する第2ポンプ通路37が接続している。加圧ポンプ30には、フィルタ通路35を介してポンプフィルタ34が設置されている。ポンプフィルタ34は、加圧ポンプ30が吸引する空気に含まれる異物を除去する。加圧ポンプ30を駆動するモータ32には「電流検出手段」としての電流計33が設置されている。電流計33は、モータ32に流れる電流値を検出する。第2ポンプ通路37は、特許請求の範囲に記載の「第2接続通路」に相当する。」

イ 「【0040】
基準値Isの検出が完了すると、図2に示すようにタンク封鎖弁50はキャニスタ接続通路55と第2通路54との接続に切り換える。具体的には、コイル56に通電することで、可動コア57が図2の左方向に移動する。移動する可動コア57はオリフィスハウジング523の底部524に当接することで大気通路52と第1通路53とを遮断する。一方、弁軸59を介して可動コア57と接続している弁部材58は左方向に移動することで、第2通路54とキャニスタ接続通路55とが連通する。これにより、燃料タンク2およびキャニスタ3と接続した加圧ポンプ30は、燃料タンク2およびキャニスタ3内を加圧する。なお、図2中の矢印は空気の流れを示す。
【0041】
図4(b)に示すように、加圧ポンプ30を駆動するモータ32の電流値は、タンク封鎖弁50において大気通路52と第1通路53との連通から第2通路54とキャニスタ接続通路55との連通に切り換えた時刻t1から変化する。時刻t1以降において図4(b)の実線で示すように電流計33が検出する電流値が基準値Is以上になる場合、燃料タンク2またはキャニスタ3からの燃料蒸気を含む空気の漏れは許容量以下であると判断される。一方、図4(b)の破線で示すように電流計33が検出する電流値が基準値Isより小さくなる場合、燃料タンク2またはキャニスタ3からの燃料蒸気を含む空気漏れが許容量を超過していると判断される。すなわち、燃料タンク2またはキャニスタ3の壁面に空気が漏れる穴が形成されているため、燃料タンク2またはキャニスタ3内の空気が大気に流出していると判断される。これにより、燃料タンク2の気密は十分に確保されていないと判断される。なお、このとき、燃料タンク2またはキャニスタ3と接続する第2ポンプ通路37の圧力は第1逆止弁41が開弁しない所定の圧力P1以下となっている。
【0042】
燃料蒸気を含む空気漏れの検出が完了すると、ポンプ30を停止する。第2ポンプ通路37の圧力が大気圧に回復したことを検出した後、燃料蒸気漏れ検出工程を終了する。
【0043】
(効果)
次に第1実施形態の燃料蒸気漏れ検出装置11の効果について説明する。
(A)燃料蒸気漏れ検出装置11では、大気と加圧ポンプ30とを接続、または燃料タンク2およびキャニスタ3と加圧ポンプ30とを接続を切り換えるタンク封鎖弁50によって燃料蒸気漏れを検出している。タンク封鎖弁50により、燃料蒸気漏れを検出しない場合、または基準となる大気圧を検出する場合、燃料タンク2およびキャニスタ3を大気と遮断することができる。
一方、燃料タンク2またはキャニスタ3における燃料蒸気漏れを検出する場合、タンク封鎖弁50が接続を切り替えることで燃料タンク2またはキャニスタ3と加圧ポンプ30とを接続する。これにより、燃料蒸気漏れを検出することができる。
したがって、1つの弁によって燃料タンク2またはキャニスタ3を封鎖するとともに燃料蒸気漏れを検出することができることから、燃料蒸気漏れ検出装置11を小さくすることができる。」

上記記載及び図示内容を総合すると、引用文献2には次の技術事項(以下「引用文献2技術事項」という。)が記載されている。

「キャニスタ3及びそれに連通する四方弁のタンク封鎖弁50であって、
前記キャニスタ3は、
エンジン100側と燃料タンク2側とに連通して蒸発燃料を溜めるキャニスタ3と、前記キャニスタ3に連通するとともにタンク封鎖弁50が接続されるキャニスタ通路9とを有し、
前記タンク封鎖弁50は、
通常、大気通路52と第1通路53とを連通することによりキャニスタを大気から遮断し、燃料蒸気漏れを検出する場合、キャニスタ接続通路55と加圧ポンプ30に接続された第2通路54とを連通することにより、ポンプ30に接続された第2通路54とキャニスタ3との間をキャニスタ通路9を介して連通する、第2弁部材58
を有するキャニスタ3及びそれに接続するタンク封鎖弁50。」

(3)引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開平11-147421号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「 【0010】また、車両に搭載された燃料タンク14の底部にはドレンプラグ15がねじ込まれている一方、内筒6のニップル13にゴムホース16の一端が取り付けられている。」

上記記載及び図示内容を総合すると、引用文献3には次の技術事項(以下「引用文献3技術事項」という。)が記載されている。
「車両に搭載された燃料タンク14に設けたニップル13にゴムホース16を取り付けること。」

2.対比・判断
(1)本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「常開型電磁弁からなるドレンカットバルブ26」は、その機能・作用からみて、本願発明1の「キャニスタベントソレノイドバルブ」に相当し、以下同様に、「内燃機関1と燃料タンク2とに接続され」は「エンジン側と燃料タンク側とに連通して」 に、「蒸気燃料を吸着材12に吸着させる」は「蒸発燃料を溜める」 に、「合成樹脂製ケース11の内部」は「室」に、「ドレン通路25の一方」は「流路である主流路」に、「開閉する常開型電磁弁」は「連通を維持及び遮断する弁体」に、「ドレン通路25の一方と並列なドレン通路25の他方」は「迂回流路」に、「加圧し得るポンプ27」は「加圧又は減圧するエアポンプ」に、それぞれ相当する。
また、後者の「ドレンカットバルブ26が接続されるドレンポート15とを設け」と、前者の「キャニスタベントソレノイドバルブが差し込まれる一つの差込口とを有し」とは、その機能・作用からみて、「キャニスタベントソレノイドバルブが接続される一つの開口とを有し」の限りで一致する。
また、後者の「大気側と合成樹脂製ケース11の内部との間で連通するドレン通路25の一方と並列なドレン通路25の他方」は、前者のキャニスタベントソレノイドバルブの「弁体の動作により、主流路の連通が遮断された場合に大気側と室との間を差込口を介して連通する迂回流路」とは、上記相当関係及び機能・作用からみて、「大気側と室との間で連通する迂回流路」の限りで一致する。
また、後者の「ドレン通路の他方に、合成樹脂製ケース11の内部を加圧し得るポンプ27が設けられた」と、前者のキャニスタベントソレノイドバルブの「迂回流路に形成されて、室を加圧又は減圧するエアポンプが接続される第1のニップルとを備えた」とは、上記相当関係及びその機能・作用からみて、「迂回流路に、室を加圧又は減圧するエアポンプを備えた」の限りで一致する。

すると、両者は、
「 キャニスタ及びキャニスタベントソレノイドバルブであって、
前記キャニスタは、
エンジン側と燃料タンク側とに連通して蒸発燃料を溜める室と、前記室に連通するとともに前記キャニスタベントソレノイドバルブが接続される一つの開口とを有し、
前記キャニスタベントソレノイドバルブは、
前記キャニスタの前記開口と接続し、大気側と前記室との間を連通する流路である主流路と、
前記主流路の前記大気側と前記室との間の連通を維持及び遮断する弁体とを備え、
前記大気側と前記室との間を前記開口を介して連通する迂回流路と、
前記迂回流路に、前記室を加圧又は減圧するエアポンプを備えた
キャニスタ及びキャニスタベントソレノイドバルブ。」
で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
「キャニスタベントソレノイドバルブが接続される一つの開口」に関し て、本願発明1は、キャニスタベントソレノイドバルブが「差し込まれる」「差込口」であるのに対し、引用発明は、ドレンカットバルブ26とドレンポート15との接続態様が不明である点。

[相違点2]
キャニスタベントソレノイドバルブに関し、本願発明1は、「弁体の動作により、主流路の連通が遮断された場合に」大気と連通する「迂回流路」及び迂回流路に形成されたエアポンプが接続される「第1のニップル」を有するのに対し、引用発明は、ドレンカットバルブ26にそのような構成を有しない点。

事情に鑑み、相違点2について検討するに、引用文献2技術事項のタンク封鎖弁50は、四方弁であって、通常、大気通路52と第1通路53とを連通することによりキャニスタを大気から遮断し、燃料蒸気漏れを検出する場合、キャニスタ接続通路55と加圧ポンプ30に接続された第2通路54とを連通することによりキャニスタ3内を加圧するものである。即ち、引用発明2のタンク封止弁50は、2つの流入口(いずれもポンプ)と、2つの流出口(大気またはキャニスタ)という構造の四方弁であるが、キャニスタに対しては、ポンプが接続された第2通路54を維持及び遮断する第2弁部材58のみが有効であり、大気との連通状態への切換えを含むものではない。
一方、引用発明は、大気またはポンプの2つの並列の流路をキャニスタに連通させようとするものではある。
そうすると、引用文献2技術事項は、蒸気燃料の漏れを診断する機能を有するものの、その具体的機能は、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項と異なるものというべきである。
してみると、引用発明において、ドレンカットバルブに代えて、引用発明2の四方弁であるタンク封鎖弁を適用・置換したとしても、その手法及び構造・機能が相違するから、「弁体の動作により、主流路の連通が遮断された場合に」大気と連通する「迂回流路」及び迂回流路に形成されたエアポンプが接続される「第1のニップル」を設けるという、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)であれども困難というべきである。
また、引用文献3技術事項は、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を開示するものでも示唆するものでもない。さらに、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は、本願の出願日前における周知技術ともいえない。 そうすると、相違点1の判断を示すまでもなく、本願発明1は、引用発 明、引用文献2技術事項及び引用文献3技術事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(2)本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに「主流路の大気側と弁体との間に形成された第2のニップルとを備え、第1のニップルは、エアポンプを介して第2のニップルに接続される」という発明特定事項を付加したものである。
そうすると、本願発明1についての判断と同様の理由により、本願発明2は、引用発明、引用発明2及び引用文献3記載事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

3.小括
以上のとおりであるから、本願発明1及び2は、原査定における引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由についての判断
1.特許法第36条第6項第1号について
令和元年5月31日の手続補正により、請求項1及び請求項2をそれぞれ独立請求項とした上で、「キャニスタ」についてはそれぞれ、「蒸発燃料を溜める室」「に連通するとともにキャニスタベントソレノイドバルブが差し込まれる1つの差込口とを有」すること、「前記キャニスタの前記差込口と接続し、大気側と前記室との間を連通する流路である主流路」、「前記主流路の前記大気側と前記室との間の連通を維持及び遮断する弁体」及び「前記弁体の動作により、前記主流路の連通が遮断された場合に大気側と前記室との間を前記差込口を介して連通する迂回流路」を特定し、末尾を「キャニスタ及びキャニスタベントソレノイドバルブ」と補正された結果、この拒絶の理由は解消された。

2.特許法第36条第6項第2号について
令和元年5月31日の手続補正により、請求項1及び請求項2をそれぞれ独立請求項とした上で、請求項1及び請求項2について「前記弁体の動作により、前記主流路の連通が遮断された場合に大気側と前記室との間を前記差込口を介して連通する迂回流路」及び「前記迂回流路に形成されて、前記室を加圧又は減圧するエアポンプが接続される第1のニップル」と補正され、請求項2について「前記主流路の前記大気側と前記弁体との間に形成された第2のニップルとを備え、前記第1のニップルは、前記エアポンプを介して前記第2のニップルに接続される」と補正された結果、この拒絶の理由は解消された。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、原査定の理由及び当審が通知した理由によって、拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶する理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-08-28 
出願番号 特願2016-103249(P2016-103249)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (F02M)
P 1 8・ 121- WY (F02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小林 勝広  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 齊藤 公志郎
渋谷 善弘
発明の名称 キャニスタ及びキャニスタベントソレノイドバルブ  
代理人 井上 和真  
代理人 田澤 英昭  
代理人 坂元 辰哉  
代理人 辻岡 将昭  
代理人 濱田 初音  
代理人 中島 成  

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