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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C30B
管理番号 1354602
審判番号 不服2017-18607  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-14 
確定日 2019-08-20 
事件の表示 特願2013- 2389「窒化物半導体層の成長方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月22日出願公開、特開2013-142057〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成25年 1月10日(パリ条約による優先権主張2012年1月10日(KR)大韓民国)の出願であって、平成28年11月 4日付けで拒絶理由が通知され、平成29年 2月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成29年 3月 6日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成29年 6月13日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年 8月 7日付けで、平成29年 6月13日付け手続補正書でした補正を却下する旨の補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定がされ、平成29年12月14日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものであり、その後、平成30年11月22日付けで、当審からの拒絶理由が通知され、平成31年 2月21日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1?16に係る発明は、平成31年 2月21日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
反応器内にシリコン基板を用意する段階と、
前記反応器内で前記基板上にバッファ層を形成する段階と、
前記反応器内で、第1温度で前記バッファ層上に前記基板と異なる熱膨脹係数を持つ第1窒化物半導体を成長させる段階と、
前記反応器内でのインサイチュエッチングにより第2温度で前記基板を除去する段階と、
前記基板の除去後に、前記反応器内で前記第1窒化物半導体上に第2窒化物半導体を積層する段階と、
を含み、
前記第1窒化物半導体は、窒化ガリウムであり、
前記バッファ層は、3回対称結晶構造にAlN、TaN、TiN、HfN、AlGaNのうちいずれか一つで形成される窒化物半導体層の成長方法。」
(当審注:「3回対称結晶構造に」は「3回対称結晶構造の」の誤記と認められる。)

3 当審で通知した拒絶理由の概要
当審で通知した拒絶理由の一つは、次のとおりである。

本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献1?5に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(引用文献一覧)
引用文献1:特開2005-64336号公報
引用文献2:特表2004-524690号公報
引用文献3:特開2007-250946号公報
引用文献4:特開2005-22940号公報
引用文献5:特開2003-183100号公報

4 引用文献について
(1)引用文献1の記載事項(下線は当審が付した。以下同じ。)
ア 「【請求項1】
シリコン(Si)基板に、下地層を形成して又は形成せずにハイドライド気相成長法により第1のIII族窒化物系化合物半導体層を形成する第1層形成工程と、
第1層形成工程の終了後又は第1層形成工程と重ねてシリコン基板を裏面からエッチングによりその略全部を除去するシリコン基板除去工程とを有し、
前記第1層形成工程においては、反応温度を1000℃以下とし、
前記第1のIII族窒化物系化合物半導体層の成長速度を50?150μm/hとすることを特徴とするIII族窒化物系化合物半導体基板の製造方法。」
イ 「【請求項3】
前記シリコン基板除去工程ののちに行われる、前記第1のIII族窒化物系化合物半導体層の成長面側の表面の異物を除去するクリーニング工程と、
当該クリーニング工程ののちに行われる、表面の異物を除去された前記第1のIII族窒化物系化合物半導体層の上に、ハイドライド気相成長法により第2のIII族窒化物系化合物半導体を形成する第2層形成工程とを有し、
前記第2層形成工程においては、反応温度を1000℃以上として、第2のIII族窒化物系化合物半導体を積層した第1のIII族窒化物系化合物半導体層を得ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のIII族窒化物系化合物半導体基板の製造方法。」
ウ 「【請求項12】
前記下地層が単層の場合は当該下地層、前記下地層が2層以上の積層構造から成る場合その最下層が、有機金属気相成長法(MOVPE)により形成された、アルミニウムを含むIII族窒化物系化合物半導体層であることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載のIII族窒化物系化合物半導体基板の製造方法。」
エ 「【0016】
シリコン基板にハイドライド気相成長法によりIII族窒化物系化合物半導体を製造する際、その成長温度を1000℃以下、成長速度を50?150μm/hとすることで、シリコン基板を除去した状態で、シリコン基板側に凸(以下、単に下に凸と言う場合がある)ではなく、極めて曲率半径が高いか、III族窒化物系化合物半導体の成長面側に凸(以下、単に上に凸と言う場合がある)となったIII族窒化物系化合物半導体基板を得ることができることが本願発明者らによって見出された(請求項1)。・・・
【0017】
更には、シリコン基板をエッチング後、1000℃以上で第2のIII族窒化物系化合物半導体層を成長させることで、第2のIII族窒化物系化合物半導体層を成長しない場合に上に凸となるような第1のIII族窒化物系化合物半導体から成る基板を平坦化することが可能となる。・・・」
オ 「【0020】
シリコン基板は本来的に不要であるので、シリコン基板除去工程においてはシリコン基板を完全に除去することが好ましい。また、下地層も、特に基板の主要部と異なる組成の場合は勿論であるが、シリコン基板からの歪をうけている可能性が高いので、やはり全て除去することが好ましい。更には、第1のIII族窒化物系化合物半導体層の裏面もシリコン基板からの歪をうけている可能性や、場合によっては窒化シリコンの浸食などもあり得るので一部除去することが好ましい。これにより、クラックや割れの無い第1のIII族窒化物系化合物半導体層を得ることができる。また、これらは、第2のIII族窒化物系化合物半導体層を成長させる場合はそれ以前に行うことが好ましい。」
カ 「【実施例1】
【0027】
まず、洗浄し、予備加熱した(111)面を主面とするシリコン(Si)基板1を用意した(図1の(a))。次にシリコン(Si)基板1の上面にMOVPEにより膜厚0.2?0.3μmのAl_(0.2)Ga_(0.8)N層2、膜厚0.5μmのGaN層3を順に形成する(図1の(b))。このとき原料はトリメチルアルミニウム(Al(CH_(3))_(3))、トリメチルガリウム(Ga(CH_(3))_(3))、アンモニア(NH_(3))を用いた。本実施例ではAl_(0.2)Ga_(0.8)N層2とGaN層3が下地層に相当する。
【0028】
次に、Al_(0.2)Ga_(0.8)N層2及びGaN層3を形成したシリコン(Si)基板1を裏面から独立してHClガスエッチ可能なハイドライド気相成長(HVPE)装置に設置した。HVPE装置の気相成長側、ガスエッチング側とも温度を900℃に設定した。こうして金属ガリウムと塩化水素により発生させるGaCl_(3)とアンモニアにより、シリコン(Si)基板1上面からGaN層10のハイドライド気相成長を900℃で行った(第1層形成工程)。次に、シリコン(Si)基板1裏面を塩化水素によりガスエッチングした(シリコン基板除去工程)(図1の(c))。
【0029】
シリコン(Si)基板1を完全にガスエッチしたのちもガスエッチングを継続し、MOVPEにて形成したAl_(0.2)Ga_(0.8)N層2及びGaN層3、更にはGaN層10の裏面約50μmをも除去して、膜厚約400μmのGaN層10を得た(図1の(d))。」
キ 「【実施例2】
【0031】
実施例1と同様にシリコン(Si)基板1、Al_(0.2)Ga_(0.8)N層2及びGaN層3、更にはGaN層10の裏面約50μmをもガスエッチした、厚さ400μmのGaN層10を、HVPE装置から取り出さずに、ガリウムの供給源であるガリウムボートを通さずに塩化水素ガスを供給して、GaN層10の表面(成長していた表面)側をクリーニングした。次に、GaN層10のクリーニング処理した表面(成長していた側)を成長面とし、温度を1075℃に昇温して、金属ガリウムと塩化水素により発生させるGaCl_(3)とアンモニアにより、GaN層10の上面からGaN層20のハイドライド気相成長を行った(第2層形成工程)。こうして、表面にGaN層20を有するGaN層10から成る基板を得た。」

(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)ア、イ、カ及びキの記載事項のうち、実施例2のGaN層から成る基板を得る方法に注目して整理すると、引用文献1には、
「(111)面を主面とするシリコン基板を用意し、前記シリコン基板の上面にMOVPEによりAl_(0.2)Ga_(0.8)N層、GaN層を順に形成する下地層の形成工程と、
Al_(0.2)Ga_(0.8)N層及びGaN層の下地層を形成したシリコン基板を裏面から独立してHClガスエッチ可能なハイドライド気相成長(HVPE)装置に設置し、
シリコン基板上面からGaN層10のハイドライド気相成長を900℃で行う第1層形成工程と、
次に、シリコン基板裏面を塩化水素により900℃でガスエッチングするシリコン基板除去工程と、
シリコン基板を完全にガスエッチしたのちもガスエッチングを継続し、MOVPEにて形成したAl_(0.2)Ga_(0.8)N層及びGaN層の下地層、更にはGaN層10の裏面約50μmをも除去して、GaN層10を得る工程と、
シリコン基板、Al_(0.2)Ga_(0.8)N層及びGaN層の下地層、更にはGaN層10の裏面約50μmをガスエッチしたGaN層10を、HVPE装置から取り出さずに、GaN層10の上面からGaN層20のハイドライド気相成長を1075℃で行う第2層形成工程を含む、表面にGaN層20を有するGaN層10から成る基板を得る方法。」
の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)引用文献2の記載事項
ア 「【0012】
2つの成長方法(MOCVDとHVPE)が、1つの反応システムに組み込まれているので、基板上での成長を中断することも、あるいはリアクタから試料を取り出すこともなく、2つの方法の間で切り替えが可能である。この特徴はまた効率を増し、本発明の方法のコストを低下させる。本発明のシステムおよび方法によれば、AlNおよび薄いInN層を、厚いGaNの(HVPEによる)成長に使用されるものと同一のリアクタで、(MOCVDにより)都合よく成長させることが可能である。・・・」
イ 「【0016】
本発明の1つの利点は、それが、MOCVDモードとHVPEモード間で切り替え可能であるため、1つのリアクタから別のものに移し替える際に起こる、生成する構造体の汚染を引き起こす可能性が少ないハイブリッド成長システムを提供することである。本発明の別の利点は、それが、第1の層がハイブリッド・リアクタ内でMOCVDにより形成され、同じリアクタ内で第2の層がHVPEにより形成される、第1および第2のIII-V族窒化物層を形成する方法を提供することである。・・・」
ウ 「【0041】
図6Aは本発明の別の実施形態によるハイブリッド成長法に含まれる一連の工程を概略的に示しており、工程60はハイブリッド成長システムのリアクタに基板を配置することを含む。・・・。
【0042】
工程64は、基板上にMOCVDを実施するための適切な試薬をリアクタに供給することを含む。MOCVD用試薬は、ハイブリッド成長システムのリアクタにそれらを供給するための適切な技術と合わせて、本明細書にすでに記載された。工程66は、MOCVDにより基板上に第1の層を形成することを含む。基板上に成長させる第1の層は通常、AlN、GaN、InNなどのIII-V族窒化物、あるいはこれらのアロイである。工程66の後、工程68は、本明細書にすでに記載された技術と方法に通常従って、ハイブリッド成長システムのリアクタにHVPE試薬を供給することを含む。工程68の前に、第1の層の上にさらに少なくとも1層(工程70)を成長させるのに適切であると思われるように、リアクタ温度が調節されるであろう。少なくとも1つの加熱ユニットにより、あるいは、たとえば、少なくとも1つの加熱ユニットに対するリアクタの位置を変えることにより、リアクタの温度を調節することができる。
【0043】
工程70は、第1の層の上にさらに少なくとも1層を形成することを含む。HVPEだけで、あるいはHVPEとMOCVDの組合せにより、このさらなる少なくとも1層を生成させることができる。さらなる少なくとも1層は通常III-V族窒化物あるいは2種以上のIII-V族窒化物のアロイである。本発明の現在好ましい実施形態によれば、このさらなる少なくとも1層として、GaNおよび/またはGaNのアロイが含まれる。」

(4)引用文献3の記載事項
ア 「【0014】
請求項1ないし請求項3の発明によれば、MOCVD装置の機能とHVPE装置の機能とを兼ね備えた複合的なIII族窒化物の作製装置が実現される。係る作製装置によれば、ガスの供給態様と加熱態様とを適宜に切り替えることで、一の基板上への結晶成長を行う場合に、MOCVD法による結晶成長とHVPE法による結晶成長とを適宜に切り替えつつ行うことができるので、両手法の長所を活かしたより自由度の高い結晶成長が可能となる。
【0015】
請求項4および請求項5の発明によれば、MOCVD法による結晶成長とHVPE法による結晶成長とを適宜に切り替えつつ行うことで、いずれか一方の方法のみを使用する場合や、それぞれの手法による結晶成長を別の装置で行う場合よりもコスト面あるいは品質面に優れたIII族窒化物結晶の積層構造体を得ることができる。」
イ 「【0016】
<第1の実施の形態>
<装置構成>
図1は、本実施の形態に係るIII族窒化物結晶の作製装置10の構造を概念的に示す断面模式図である。作製装置10は、略水平方向に長手方向を有する、例えば石英製やSUSステンレス製の反応管11を備える。反応管11の内部には、略水平な載置面を有するサセプタ12が設けられてなる。サセプタ12の載置面上に下地基板13を載置した状態で、反応管11の一方端側に備わる供給系14から所定のガスを供給し、下地基板13の上方の空間で所定の気相反応を生じさせることによって、下地基板13の上にIII族窒化物結晶をエピタキシャル形成させることができる。・・・
・・・
【0025】
特に、供給管14bからの第2ガスg2の供給を停止し、第1ガスg1および第3ガスg3、あるいはさらに第4ガスg4を適宜の流量で供給し、第1ヒータ16では加熱を行わず第2ヒータ17による下地基板13の加熱を行うようにする場合には、下地基板13の上方で第1ガスg1中のTMAと第3ガスg3中のNH_(3)との気相反応が生じ、III族窒化物であるAlNが下地基板13上に析出することになる。これはすなわち、MOCVD法による結晶成長が実現されていることになる。ゆえに、作製装置10は、MOCVD装置としての機能を有していると言える。このように、MOCVD法での結晶成長を実現する使用態様をMOCVDモードと称することとする。
【0026】
また、供給管14aからの第1ガスg1の供給を停止し、第2ガスg2および第3ガスg3、あるいはさらに第4ガスg4を適宜の流量で供給し、第1ヒータ16によるボート15の近傍の加熱と第2ヒータ17による下地基板13の加熱とをいずれも行うようにする場合には、供給管14bの内部で第2ガスg2中のHClとボート15に載置した金属Al粉末との反応で生じたAlClxと、供給管14cから供給される第3ガスg3中のNH_(3)との気相反応が下地基板13の上方で生じ、III族窒化物であるAlNが下地基板13上に析出することになる。これはすなわち、HVPE法による結晶成長が実現されていることになる。ゆえに、作製装置10は、HVPE装置としての機能を有していると言える。このように、HVPE法での結晶成長を実現する使用態様をHVPEモードと称することとする。
【0027】
よって、本実施の形態に係る作製装置10においては、下地基板13を載置した後、MOCVDモードとHVPEモードとを切り替えつつ行うことで、MOCVD法による結晶成長とHVPE法による結晶成長とを同一の装置内で連続的に行うことができる。これにより、いずれか一方の手法のみを使用する場合や、それぞれの手法による結晶成長を別の装置で行う場合よりも、コスト面あるいは品質面に優れたIII族窒化物結晶(厳密にはその積層構造体)を得ることができるようになる。」

(5)引用文献4の記載事項
ア 「【0004】
・・・その大きな格子不整合性を緩和するために、GaNと同一の結晶構造(六方晶系)を有し、結晶が成長し易い窒化アルミニウム(AlN)等の単結晶薄膜をまず低温でサファイア上に作製し、それを緩衝層として、その上に高温でGaNのヘテロエピタキシャル薄膜を作製する方法等が取られている(非特許文献4参照)。・・・」

(6)引用文献5の記載事項
ア 「【0302】Siはダイヤモンド構造の立方晶系である。GaAsは閃亜鉛鉱構造(Zinc Blende)型の立方晶系である。GaNは六方晶系である。そのC面は3回回転対称性をもつ。立方晶系は(111)面だけが3回対称性をもつ。それでSiとGaAsは三回対称性の(111)面の基板を用いる。GaAsの(111)面はGa面とAs面の区別がある。ここではGa面を使う。A面というのは3族面でここではGa面である。サファイヤは三方晶系でGaNと同じ晶系である。c軸方向に成長させるためサファイヤはC面(0001)をもつ単結晶を基板とする。」

5 当審の判断
(1)本願発明と引用1発明の対比
本願発明と引用1発明を対比すると、引用1発明の「下地層」、「GaN層10」、「GaN層20」、「シリコン基板を裏面から独立してHClガスエッチ可能なハイドライド気相成長(HVPE)装置」、「表面にGaN層20を有するGaN層10から成る基板を得る方法」は、それぞれ、本願発明の「バッファ層」、「基板と異なる熱膨脹係数を持つ第1窒化物半導体」、「第2窒化物半導体」、「反応容器」、「窒化物半導体層の成長方法」に相当する。
また、引用1発明の「ガスエッチング」は、「シリコン基板を裏面から独立してHClガスエッチ可能なハイドライド気相成長(HVPE)装置」で行われていることから、本願発明の「インサイチュエッチング」に相当する。
さらに、引用1発明の「第2層形成工程」は、「シリコン基板」等を「ガスエッチした」「GaN層10」を「HVPE装置から取り出さずに」、「GaN層10の上面から」「GaN層20のハイドライド気相成長」を行っていることから、本願発明の「前記基板の除去後に、前記反応器内で前記第1窒化物半導体上に第2窒化物半導体を積層する段階」に相当する。
したがって、本願発明は、引用1発明と、
「シリコン基板を用意する段階と、
前記基板上にバッファ層を形成する段階と、
反応器内で、第1温度で前記バッファ層上に前記基板と異なる熱膨脹係数を持つ第1窒化物半導体を成長させる段階と、
前記反応器内でのインサイチュエッチングにより第2温度で前記基板を除去する段階と、
前記基板の除去後に、前記反応器内で前記第1窒化物半導体上に第2窒化物半導体を積層する段階と、
を含み、
前記第1窒化物半導体は、窒化ガリウムである窒化物半導体層の成長方法」の点で一致し、以下の相違点1及び相違点2で相違している。
(相違点1)
「基板を用意する段階と、前記基板上にバッファ層を形成する段階」について、本願発明では、「第1窒化物半導体を成長させる段階」、「基板を除去する段階」及び「第2窒化物半導体を積層する段階」と同じ反応容器内で行われているのに対して、引用1発明では、第1層形成工程(第1窒化物半導体を成長させる段階)、シリコン基板除去工程(基板を除去する段階)及び第2層形成工程(第2窒化物半導体を積層する段階)が行われる「ハイドライド気相成長(HVPE)装置」と別のMOVPE装置で行われている点。
(相違点2)
「バッファ層」について、本願発明では、「3回対称結晶構造にAlN、TaN、TiN、HfN、AlGaNのうちいずれか一つで形成される」ものであるのに対して、引用1発明では、「Al_(0.2)Ga_(0.8)N層及びGaN層の下地層」である点。

(2)相違点の検討
上記相違点1について検討する。
引用文献2の上記4(3)ア?ウの記載事項、及び、引用文献3の上記4(4)ア及びイの記載事項によれば、同一の反応容器内で、MOVPEによる結晶成長とHVPEによる結晶成長をそれぞれ実施することで、それぞれの結晶成長を別の装置で行うよりもコスト面に優れ、装置の移し替える際に起こる汚染を防止して、品質に優れた積層構造体が得られることは、公知の技術的事項である。
したがって、引用1発明において、コストや品質を向上させるために、引用1発明のMOVPEによる下地層の形成工程、すなわち、基板を用意する段階と、前記基板上にバッファ層を形成する段階を、第1層形成工程、シリコン基板除去工程及び第2層形成工程が行われる「ハイドライド気相成長(HVPE)装置」と同じ反応容器で行うことは、当業者が容易に想到し得ることである。
次に、上記相違点2について検討する。
引用文献4の上記4(5)アの記載事項によれば、窒化ガリウムや窒化アルミニウムは六方晶系の結晶構造を有するものであり、その混晶であるAlGaNも六方晶系の結晶構造を有することは明らかであるし、また、引用文献5の上記4(6)アの記載事項によれば、六方晶系のC面や立方晶系の(111)面が3回対称結晶構造であることは技術常識であるから、シリコン基板の(111)面に形成されている、引用1発明の「Al_(0.2)Ga_(0.8)N層及びGaN層の下地層」が「3回対称結晶構造」であることは明らかである。
そして、引用文献1には、上記4(1)ア及びウに摘示したとおり、シリコン基板に下地層を形成して、ハイドライド気相成長法(HVPE)により第1のIII族窒化物系化合物半導体層を形成するに際して、当該下地層は、有機金属気相成長法(MOVPE)により形成された、アルミニウムを含むIII族窒化物系化合物半導体層の単層でも、アルミニウムを含むIII族窒化物系化合物半導体層を最下層とする2層以上の積層構造でも良いことが記載されているから、引用1発明の「Al_(0.2)Ga_(0.8)N層及びGaN層」の2層の積層構造である「下地層」を、「Al_(0.2)Ga_(0.8)N層」の単層からなる下地層、すなわち、3回対称結晶構造のAlGaN層に変更することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)本願発明の効果の検討
本願発明の奏する効果は、「基板上における窒化物半導体層の成長時、格子定数差や熱膨脹係数差によって生じる引張応力によるクラックやボーイング(bowing)を低減させることができ、高品質のフリースタンディング窒化物半導体基板が製造できる。」(段落【0040】)ことと認められるところ、このような効果は、引用文献1の段落【0016】?【0017】(上記4(1)エ参照)及び段落【0020】(上記4(1)オ参照)に記載されているように、引用1発明において既に達成されているものであって、当業者が予期し得ないものであるといえない。

(4)請求人の主張の検討
請求人は、平成31年 2月21日付けの意見書において、『引用文献1の段落[0024]には、「シリコン基板に形成する下地層としては、最も好適なものはMOVPEによりAlGaN層とGaN層とからなる2層構造である。シリコン基板に直接形成しやすいのはAlGaN層であるが、表面が平坦になりにくく、MOVPEからHVPEへの装置間の搬送において表面が酸化されやすい。そこでシリコン基板にAlGaN層を形成したのちGaN層を形成することで、表面が平坦となり、酸化等の悪影響を回避することができる。」と記載されています。そして、実施例では、AlGaN層の単層ではなく、「Al_(0.2)Ga_(0.8)N層及びGaN層の下地層」が使用されています(例えば、実施例1[0027])。
このように、引用文献1は、むしろAlGaN層を単層で使用することを教示していないといえます。すなわち、当業者が、引用文献1に基づき、本願のバッファ層を「Al_(0.2)Ga_(0.8)N層」単層とすることはないと思料いたします。』と主張している。
しかしながら、引用文献1には、上記(2)で検討したとおり、アルミニウムを含むIII族窒化物系化合物半導体層の単層を下地層とすることも記載されている。そして、引用文献1の段落【0024】及び実施例1の記載は、AlGaN層とGaN層とからなる2層構造が、最も好適な下地層であることを示しているにすぎない。
なお、上記(2)で検討したとおり、MOVPE装置とHVPE装置を共通の装置とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるから、その場合に段落【0024】に示された装置間の搬送による酸化が生じないことは当業者に自明なことといえる。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1?5に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、当審拒絶理由により拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-03-19 
結審通知日 2019-03-25 
審決日 2019-04-05 
出願番号 特願2013-2389(P2013-2389)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村岡 一磨  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 金 公彦
宮澤 尚之
発明の名称 窒化物半導体層の成長方法  
代理人 崔 允辰  
代理人 実広 信哉  
代理人 木内 敬二  
代理人 阿部 達彦  

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