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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1354711
審判番号 不服2018-11771  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-03 
確定日 2019-09-17 
事件の表示 特願2014-106919「演算処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月10日出願公開、特開2015-222520、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成26年5月23日の出願であって,平成28年8月19日に手続補正書が提出され,平成29年8月25日付けで拒絶の理由が通知され,同年10月6日に意見書とともに手続補正書が提出され,平成30年3月30日付けで拒絶の理由が通知され,同年6月5日に意見書とともに手続補正書が提出され,同年6月29日付けで拒絶査定(謄本送達日同年7月3日)がなされ,これに対して同年9月3日に審判請求がなされ,令和1年6月10日付けで当審より拒絶の理由が通知され,同年7月8日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。


第2 原査定の概要

原査定(平成30年6月29日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(特許法第36条第4項第1号)について
(省略)

●理由3(特許法第29条第2項)について
・請求項 1
・引用文献等 1
(省略)

・請求項 2-6
・引用文献等 1-2
(省略)

<引用文献等一覧>
1.特開2011-198205号公報
2.特開平4-149743号公報


第3 本願発明

本願請求項1乃至5に係る発明(以下「本願発明1」乃至「本願発明5」という。)は,特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された,次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
同時に同一の演算を行い、かつ相互に出力データを監視する機能を有する複数の演算部と、
前記複数の演算部それぞれが同時に同一の演算を行った出力データを一時記憶し、一時記憶した当該出力データを前記複数の演算部のいずれか一つからの指示により外部に出力する機能を有する出力制御部と、
前記複数の演算部それぞれに設ける電源と
を備え、
前記複数の演算部それぞれに設ける電源のいずれか一つは、対応する前記演算部に加えて前記出力制御部にも電力を供給する
ことを特徴とする演算処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の演算処理装置であって、
前記複数の演算部のいずれかは、相互に監視する前記出力データが一致する場合に前記出力制御部に対して前記指示を出す
ことを特徴とする演算処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の演算処理装置であって、
前記複数の演算部それぞれは、他の前記複数の演算部に対してリセット信号を送信する機能を有する
ことを特徴とする演算処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の演算処理装置であって、
前記複数の演算部それぞれは、相互に監視する前記出力データが不一致の場合に前記リセット信号を送信する
ことを特徴とする演算処理装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の演算処理装置であって、
前記複数の演算部それぞれは、前記リセット信号を受信すると自らの演算を停止する
ことを特徴とする演算処理装置。」


第4 引用例

1 引用例1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2011-198205号公報(平成23年10月6日公開。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)

A 「【0019】
まず、図1及び図2を参照して、本発明に係る二重系制御システム1の構成について説明する。
図1は二重系制御システム1の装置構成を示すブロック図、図2は二重系制御システム1に使用されるコンピュータPC_A,PC_Bの内部構成を示すブロック図である。
本実施の形態では、一例として鉄道の転てつ機4の制御端末として、本発明に係る二重系制御システム1を利用する例を説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明の二重系制御システム1は、2台のコンピュータPC_A,PC_Bが通信回線2によって接続されて構成される。各コンピュータPC_A,PC_Bには、それぞれ車上装置9との通信を行うための通信部18A,18Bが設けられる。以下、コンピュータPC_A及び通信部18Aを備えて構成される系をA系、コンピュータPC_B及び通信部18Bを備えて構成される系をB系と呼ぶ。
A系及びB系のコンピュータPC_A,PC_Bは、ともに汎用のパーソナルコンピュータが使用される。
通信回線2は2台のコンピュータPC_A,PC_Bを通信接続する回線であり、例えばLAN(Local Area Network)等により構成される。コンピュータPC_A,PC_B間の通信は確実に行なわれる必要があるため有線接続されることが望ましいが、無線で接続してもよい。
【0021】
また、図1に示すように、A系及びB系のコンピュータPC_A,PC_Bの出力(OUT_A1とOUT_B1、OUT_A2とOUT_B2)は、論理積演算回路7に入力され、論理積が演算され、演算結果が制御対象となる機器(例えば、転てつ機4)に出力される。すなわち、両系で一致する出力(制御情報)のみが制御対象となる機器に出力される。
図1に示す論理積演算回路7では、PC_Aからの出力OUT_A1とPC_Bからの出力OUT_B1との論理積が演算され、PC_Aからの出力OUT_A2とPC_Bからの出力OUT_B2との論理積が演算される。また、後述するウォッチドッグタイマ(WDT_A、WDT_B)からの出力も、上述の出力OUT_A1とOUT_B1、OUT_A2とOUT_B2との論理積が演算される。これにより、A系及びB系からの制御情報の出力タイミングの同期が取られるとともに、処理結果の一致が検査される。」

B 「【0027】
なお、上述のアプリケーションプログラムのうち、制御対象とする機器(例えば、転てつ機4)の制御に関する処理プログラム、自己診断処理プログラム、作動状態監視プログラムに関しては、各系で同一のプログラムが塔載される。これは、同一の処理を各系で実行し、照合することでそれらの整合性を確認し、処理の異常を検知するためである。
また、オペレーティングシステムについては、各系で同一としてもよいし、異なるものとしてもよい。各系で異なるオペレーティングシステムを塔載する場合には、オペレーティングシステムのバグによる同時誤りを防止することができる。」

上記記載事項A及びBから,引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「2台のコンピュータPC_A,PC_Bが通信回線2によって接続されて構成される二重系制御システムであって,
各コンピュータPC_A,PC_Bには,それぞれ車上装置9との通信を行うための通信部18A,18Bが設けられ,
コンピュータPC_A,PC_Bは,ともに汎用のパーソナルコンピュータが使用され,
コンピュータPC_A,PC_Bの出力(OUT_A1とOUT_B1,OUT_A2とOUT_B2)は,論理積演算回路7に入力され,論理積が演算され,演算結果が制御対象となる機器(例えば,転てつ機4)に出力され,両系で一致する出力(制御情報)のみが制御対象となる機器に出力され,
コンピュータPC_AとコンピュータPC_Bで同一のプログラムが塔載され,同一の処理を各系で実行し,照合することでそれらの整合性を確認し,処理の異常を検知する
二重系制御システム。」

2 引用例2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開平4-149743号公報(平成4年5月22日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

C 「従来のデータ処理装置は以上のように構成されているので、複数のデータ処理構成要素に共通に働く外乱、例えば外来ノイズや、電源電圧変動、周囲温度変動によるデータ処理装置の誤動作が検出されず、データ処理装置の処理結果を保証することが難しいなどの問題点があった。」(2ページ右下欄5乃至10行)

D 「マイクロプロセッサ1には電源供給線12から直接電源が供給され、マイクロプロセッサ2には電源供給線12から電源降圧手段としての抵抗器13を通して電源電圧が供給されている。
…(中略)…
外乱の無い通常状態では、基本クロック位相の差異も、電源電圧の差異も、又、第2図に示す放熱フィン17,18の放熱面積の違いから発生する素子の動作温度差異も全て動作保証環境条件内であるため両マイクロプロセッサ1,2は正常に処理結果を出力し、比較器3での比較結果は一致している。」(3ページ右下欄2行乃至4ページ左上欄2行)

E 「外来ノイズが丁度MPU1基本クロックT2の先頭部分で発生し、マイクロプロセッサ1が誤動作した場合でも、MPU2基本クロックT2の先頭部分では遅延線15による位相遅れの為、外来ノイズを検知することなく、正常な処理結果を出力できる。
この結果、2つのマイクロプロセッサ1,2の処理結果が異り、比較器3は比較不一致信号8を出力し、誤動作割込を割込制御装置4経由で発生し、両方のマイクロプロセッサ1,2は誤動作割込処理を実行することになる。」(4ページ左上欄14行乃至右上欄4行)


第5 対比・判断

1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

(あ)引用発明の「ともに汎用のパーソナルコンピュータが使用され」る「コンピュータPC_A,PC_B」は,本願発明1の「複数の演算部」に相当し,また引用発明の「二重系制御システム」は,演算処理を行う装置であるといえるから,引用発明と本願発明1とは,“演算処理装置”である点で一致する。

(い)引用発明は,「コンピュータPC_AとコンピュータPC_Bで同一のプログラムが塔載され,同一の処理を各系で実行し,照合することでそれらの整合性を確認し,処理の異常を検知する」ものであり,当該「照合することでそれらの整合性を確認し,処理の異常を検知する」ことは,「相互に出力データを監視する機能を有」しているといえるから,上記(あ)の認定を踏まえ,引用発明と本願発明1とは,“同時に同一の演算を行い,かつ相互に出力データを監視する機能を有する複数の演算部”を備える点で一致するといえる。

(う)引用発明は,「コンピュータPC_A,PC_Bの出力(OUT_A1とOUT_B1,OUT_A2とOUT_B2)は,論理積演算回路7に入力され,論理積が演算され,演算結果が制御対象となる機器(例えば,転てつ機4)に出力され,両系で一致する出力(制御情報)のみが制御対象となる機器に出力され」るものであり,当該各コンピュータが実行した結果が出力されることは自明であり,また,「コンピュータPC_A,PC_Bの出力」の「論理積」を「論理積演算回路7」で「演算」するために,所定のバッファ等を用いて「一時記憶」を行う程度のことは常套手段であるから,引用発明と本願発明1とは,下記の点(相違点1)で相違するものの,“前記複数の演算部それぞれが同時に同一の演算を行った出力データを一時記憶し,一時記憶した当該出力データを外部に出力する機能を有する出力制御部”に相当する構成を有する点で一致するといえる。

(え)引用発明の「コンピュータPC_A,PC_Bは,ともに汎用のパーソナルコンピュータが使用され」ているが,当該「コンピュータPC_A,PC_B」は,それぞれ対応する電源を有することは明らかであるから,引用発明と本願発明1とは,“複数の演算部それぞれに設ける電源”を有する点で一致するといえる。

(お)以上,(あ)乃至(え)の検討から,引用発明と本願発明1とは,次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
同時に同一の演算を行い,かつ相互に出力データを監視する機能を有する複数の演算部と,
前記複数の演算部それぞれが同時に同一の演算を行った出力データを一時記憶し,一時記憶した当該出力データを外部に出力する機能を有する出力制御部と,
前記複数の演算部それぞれに設ける電源とを備える
演算処理装置。

〈相違点1〉
本願発明の「出力制御部」が,「前記複数の演算部のいずれか一つからの指示により」出力データを「外部に出力する」ものであるのに対し,引用発明は,「コンピュータPC_A,PC_Bの出力(OUT_A1とOUT_B1,OUT_A2とOUT_B2)は,論理積演算回路7に入力され,論理積が演算され,演算結果が制御対象となる機器(例えば,転てつ機4)に出力され」るものであって,いずれかのコンピュータからの指示によって出力データを外部に出力することは特定されていない点。

〈相違点2〉
本願発明が,「前記複数の演算部それぞれに設ける電源のいずれか一つは、対応する前記演算部に加えて前記出力制御部にも電力を供給する」ものであるのに対し,引用発明の電源の「いずれか一つ」が,「出力制御部にも電力を供給する」ことが特定されていない点。

(2) 相違点についての判断

事案に鑑み,先に相違点2について検討する。
本願発明1は,鉄道用信号・保安システム,発電所などの高い安全性が求められる分野において,演算処理を行うシステムは,演算部を多重化してその処理結果を照合し,一致していれば正常動作を継続し,不一致であればシステムとして安全な状態に遷移するように,一連の制御を実行していて,複数の演算部が同時に同一の誤った出力をする要因を排除する必要があり,その要因の1つとして,電源の一時的な電圧変動があり(本願明細書段落2),別々に供給する電源が同時に同様の電圧変動を起こした場合,演算部が同時に同一の誤ったデータを出力することにより,出力制御部においてその誤ったデータを検出できずに外部に出力する可能性があることを技術的背景とし,フェールセーフ演算処理装置において,複数の演算処理部に供給する電源に一時的な電圧変動が発生しても,誤った演算結果を出力する可能性を排除することを目的としたものであって(同段落4),とりわけ,「前記複数の演算部それぞれに設ける電源のいずれか一つ」を,「対応する前記演算部に加えて前記出力制御部にも電力を供給する」ことによって,電源に接続する負荷の大きさに意図的に差をつけ,演算部A(12)および演算部B(13)において同時に同種の異常事態を引き起こす可能性を低減し,電源異常が生じても,演算部A(12)および演算部B(13)が同時に同一の誤ったデータを出力することを防ぐものである。(同段落17)
一方,引用発明は,「コンピュータPC_A,PC_B」がそれぞれ独立した電源を有することは自明であるといえるものの,このような電源の負荷の差をつけることは想定されておらず,そのような技術思想は引用例2の上記記載事項C乃至Eにおいても開示されていない。
したがって,上記その余の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2乃至5について
本願発明2乃至5は,請求項1をさらに限定するものであって,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 当審拒絶理由の概要

<特許法36条4項1号について>
当審より,令和1年7月8日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)前の請求項2に,「前記複数の演算部それぞれに設ける電源の中で少なくとも一つの電源を残る他の電源と異なる電源容量にする」と特定される一方,本件補正前の請求項1には,「電源」につき,どの電源容量がどのようなものであるかを特定していない一方で,電源容量が同じ電源を用いることを前提とした実施例1を基準として,2つの電源それぞれに接続される負荷を実施例1と同じ状態(一方に対して他方をより大きくする)としたときに,一方の電源,とりわけ,負荷として接続される構成が多い方につながる「電源B(45)」の「電源容量」を「大き」くすることによって,図3や本件明細書段落18乃至23等で説明される,主に負荷の過渡応答に有意な差をつける点について,どのような機序によって同様な効果,すなわち「負荷の大きさに意図的に差をつけ」て,「演算部A」および「演算部B」が「同時に同一の誤ったデータを出力することを防ぐ」効果を奏することとなるのか,明細書の発明の詳細な説明に記載されていない旨,通知したが,本件補正前の請求項2は削除され,この拒絶理由は解消した。

<特許法36条6項2号について>
当審より,本件補正前請求項2が引用する本件補正前請求項1に特定される,「複数の演算部それぞれに設ける電源」の「電源容量」について,これが同じであるのか否かが明確でない旨,通知したが,本件補正前の請求項2は削除され,この拒絶理由は解消した。


第7 原査定についての判断

令和1年7月8日付けの補正により,本件補正後の請求項1乃至5は,上記第3に示すとおり補正され,本件補正後の本願発明1乃至5は,上記第5に示したとおり,当業者であっても,原査定における引用文献1及び2(上記引用例1及び2)に基づいて容易に発明できたものではない。
また,上記第6で示したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件補正後の請求項1乃至5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであって,特許法36条4項1号の規定に違反してなされたものとすることはできない。
したがって,原査定を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-09-02 
出願番号 特願2014-106919(P2014-106919)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (G06F)
P 1 8・ 537- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 宏一  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 山崎 慎一
松平 英
発明の名称 演算処理装置  
代理人 特許業務法人第一国際特許事務所  

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