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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1354718
審判番号 不服2018-17366  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-27 
確定日 2019-09-24 
事件の表示 特願2014- 93291「組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月24日出願公開、特開2015-209415、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年4月30日の出願であって、平成30年2月6日付けで拒絶理由通知がされ、同年4月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月21日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年12月27日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、平成31年3月22日に前置報告がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年9月21日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1?7に係る発明は、以下の引用文献1?7に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2008-169183号公報
2.株式会社マツモト交商,Structure XL,2007年10月1日
3.特開昭59-207976号公報
4.特開平9-118866号公報
5.特開平3-281640号公報
6.特表2007-522080号公報
7.特開2004-339108号公報

第3 本願発明
本願請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」という。)は、平成30年12月27日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
ヒドロキシプロピルデンプンリン酸又はその塩、炭素数16以上22以下の直鎖状飽和アルコールから選ばれる高級アルコール、カチオン界面活性剤及び粉体が配合され、
ヒドロキシプロピルデンプンリン酸及びその塩の配合量が3.0質量%以上、
pHが3.5以下であることを特徴とする浴室内で毛髪に塗布して洗い流す態様で使用される組成物。
【請求項2】
pHが2.0以上3.5以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
粘度が2.0Pa・s以上6.0Pa・s以下である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
炭素数16以上22以下の直鎖状飽和アルコールから選ばれる高級アルコールの配合量が1質量%以上5質量%以下であり、カチオン界面活性剤の配合量が0.4質量%以上6質量%以下であり、粉体の配合量が0.05質量%以上0.5質量%以下である請求項1?3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
pHが3.3以下である請求項1?4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載の組成物を収容した蓋付き容器を有する乳化物収容製品であって、
前記蓋付き容器が、開口部を有する容器と、当該容器の開口部を開閉するための蓋体とを備える乳化物収容製品。
【請求項7】
請求項1?5のいずれか1項に記載の組成物を収容した吐出容器を有する乳化物収容製品であって、
前記吐出容器が、開口部を有する容器と、当該容器の開口部に装着されたポンプディスペンサとを備える乳化物収容製品。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(特開2008-169183号公報)には、次の事項が記載されている(下線は合議体による。)。
(1-1)
「【請求項1】
下記の(A)成分?(C)成分を含有することを特徴とする毛髪処理剤組成物。
(A)成分:デンプンリン酸(スターチホスフェート)類
(B)成分:カチオン性化合物
(C)成分:酸性又は中性アミノ酸類
・・・
【請求項3】
前記毛髪処理剤組成物が以下の(1)?(3)の1項目以上に該当することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の毛髪処理剤組成物。
(1)前記(A)成分の配合量が0.1質量%?3.0質量%の範囲内である。
(2)前記(B)成分の配合量が0.1質量%?5.0質量%の範囲内である。
(3)前記(C)成分の配合量が0.01質量%?3.0質量%の範囲内である。
【請求項4】
前記(A)成分が、少なくともヒドロキシプロピルデンプンリン酸が包含されるヒドロキシアルキルデンプンリン酸から選ばれる少なくとも1種のデンプンリン酸であることを特徴とする請求項1?請求項3のいずれかに記載の毛髪処理剤組成物。」

(1-2)
「【背景技術】
【0002】
従来、デンプンやその誘導体を配合した毛髪処理剤が種々に提案されている。特にデンプンリン酸(スターチホスフェート)を配合した場合、髪のもつれをなくし滑らかにする効果を得られることが知られている。
例えば下記の特許文献1では、特定の炭素数のヒドロキシアルキルデンプンやアシルデンプンを含有するデンプン含有化粧品組成物及び洗浄組成物を開示し、この組成物が整髪特性向上剤として利用できることを記載すると共に、実施例ではその使用時の毛髪の櫛どおりの良さ等を評価している。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本願発明者の研究によれば、上記の各種組成物においてはクリーム剤としてのコクがなく、処理後の毛髪の適切な弾力性が得られず、更には、毛髪の根元の軽さ(毛髪がボリュームを損なわず、ふんわりしている感じ)が得られない等の不具合を伴う。とりわけ、パーマネントウエーブ処理や脱色、染毛処理等によって損傷を受けたダメージ毛に対して、それらの不具合が顕著である。
なお、上記の特許文献1では、その第23頁等に「傷んだ髪での使用テストにおいて、一定の実施形態例でのヘアーリンスで良好な結果が得られた」としているが、「良好な結果」の意味や評価方法が不明である。上記の他の特許文献でも、ダメージ毛に対する適用の記載が一部に散見されるが、ダメージ毛に対する具体的な評価及び効果確認は行っていない。本願発明者が上記従来技術に相当する組成物を具体的に評価したところでは、後述の「実施例」の欄で比較例として述べるように、肯定的な結果を得ていない。
そこで本発明は、デンプンリン酸を配合した毛髪処理剤における上記の問題点(とりわけダメージ毛への適用時の問題点)、具体的には、毛髪処理剤塗布時のコクのなさ、処理後の毛髪の適切な弾力性あるいは柔らかさの不足、毛髪の根元の軽さの不足などの点を良好に解決した毛髪処理剤組成物と、これを用いる毛髪処理方法とを提供することを、解決すべき課題とする。」

(1-3)
「【0010】
・・・
〔毛髪処理剤のpH〕
毛髪処理剤のpHも特段に限定されないが、一般的にはpH3.0?8.0程度が好ましく、特にpH3.5?7.0程度が好ましい。pH3.0未満であると毛髪タンパク質の過収斂による毛髪感触の悪化が懸念され、pH8.0を超えると毛髪タンパク質の分解による毛髪損傷が懸念される。
毛髪処理剤におけるこれらの範囲内のpHを安定的に維持するために、pH緩衝成分を配合することが好ましいが、pH緩衝成分については次の「毛髪処理剤の主な成分」の項で詳しく説明する。
・・・」

(1-4)
「【実施例】
【0018】
以下に、本発明の実施例を比較例と共に説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施例及び比較例によって限定されない。
〔第1実施例:ダメージ毛を対象とする実施例及び比較例〕
末尾の表1に示す実施例1?実施例15、表2に示す比較例1?比較例11、表3に示す実施例16?実施例28、表4に示す実施例29?実施例36に係る組成の毛髪処理剤(ヘアトリートメント)を常法に従って調製した。これらの毛髪処理剤の剤型はクリーム状であり、pHはいずれも3.0?8.0の範囲内である。
【0019】
各表の「成分」の欄において「A」、「B」、「C」と表記した成分はそれぞれ本発明の(A)成分、(B)成分、(C)成分であることを示し、「A比」、「B比」と表記した成分はそれぞれ(A)成分、(B)成分ではないが、これらの成分に対する比較用の成分であることを示す。又、「Dac」と表記した成分は(D)成分の内の有機酸成分であることを、「Dal」と表記した成分は(D)成分の内の有機アルカリ成分であることを、それぞれ示す。各表において、それぞれの成分量を数値で表記しているが、これらの数値は全て「質量%」単位である。
【0020】
なお、表2において、比較例2、3、5、6、9、10は、より好適な実施例を外見上分かり易く表示するという便宜上の理由から、あえて「比較例」として区分したものであり、これらの例は実際には本発明(請求項1に記載の発明)に該当する実施例である。
【0021】
次に、脱色(ブリーチ)処理を3回繰り返した、長さ20cmのヒト直毛の毛束を所要の本数だけ準備した。なお、後述の「毛髪の根元の軽さ」の評価においては、同様の脱色処理を3回繰り返したモデルウィッグの毛髪を準備した。第1実施例において、以下、これらを「毛髪試料」と言う。これらの毛髪試料をシャンプー処理した後、それぞれ50g入り軟膏容器に充填しておいた上記各実施例及び比較例に係るヘアトリートメントを、これらの毛髪試料に対してそれぞれ均一に塗布した。そして各例に係るヘアトリートメントについて、容器からすくい取る際の取り易さ、塗布時のなじみ易さ、塗布時の伸びの良さ、毛髪試料の仕上がり感、毛髪矯正効果、効果の持続性等を評価するため、以下の評価項目を以下の評価方法によって評価した。
【0022】
(クリームのコク)
10名のパネラーが各自、上記各実施例及び比較例に係るヘアトリートメントを毛髪試料に塗布した際に感じたコク感を評価した。クリームにコク、厚みがあり、毛髪に対する効果が十分にありそうに感じた場合を4点、クリームにコク、厚みがあり、毛髪に対する効果がありそうに感じた場合を3点、クリームにコクをあまり感じず、毛髪に対する効果があまりなさそうに感じた場合を2点、クリームに厚みを全く感じず、毛髪に対する効果が全くなさそうに感じた場合を1点とする4段階で評価した。
【0023】
10名のパネラーの採点結果について各実施例及び比較例ごとに平均点を算出し、平均点が3.6以上である場合を◎(優れている)、平均点が2.6?3.5である場合を○(良好)、平均点が1.6?2.5である場合を△(やや悪い)、平均点が1.5以下である場合を×(悪い)とした。その結果を各表の「評価」欄における「クリームのコク」の項に表記した。
【0024】
(毛髪の柔らかさ)
10名のパネラーが各自、上記各実施例及び比較例に係るヘアトリートメントを毛髪試料に塗布し、その直後(約10秒後)に洗い流してから乾燥させた際の毛髪試料の柔らかさを評価した。十分に柔らかく感じた場合を4点、柔らかさを感じた場合を3点、あまり柔らかさを感じなかった場合を2点、全く柔らかさを感じなかった場合を1点とする4段階で評価した。
【0025】
10名のパネラーの採点結果について各実施例及び比較例ごとに平均点を算出し、平均点が3.6以上である場合を◎(優れている)、平均点が2.6?3.5である場合を○(良好)、平均点が1.6?2.5である場合を△(やや悪い)、平均点が1.5以下である場合を×(悪い)とした。その結果を各表の「評価」欄における「毛髪の柔らかさ」の項に表記した。
【0026】
(弾力)
10名のパネラーが各自、上記各実施例及び比較例に係るヘアトリートメントを毛髪試料に塗布し、その直後(約10秒後)に洗い流してから乾燥させた際の毛髪試料の弾力を評価した。十分に弾力を感じた場合を4点、弾力を感じた場合を3点、あまり弾力を感じなかった場合を2点、全く弾力を感じなかった場合を1点とする4段階で評価した。
【0027】
10名のパネラーの採点結果について各実施例及び比較例ごとに平均点を算出し、平均点が3.6以上である場合を◎(優れている)、平均点が2.6?3.5である場合を○(良好)、平均点が1.6?2.5である場合を△(やや悪い)、平均点が1.5以下である場合を×(悪い)とした。その結果を各表の「評価」欄における「弾力」の項に表記した。
【0028】
(毛髪の根元の軽さ)
10名のパネラーが各自、上記各実施例及び比較例に係るヘアトリートメントを毛髪試料に塗布し、その直後(約10秒後)に洗い流してから乾燥させた際の毛髪試料の根元の軽さを評価した。十分に根元の軽さを感じ、ボリュームを損なわずふんわりしていた場合を4点、根元の軽さを感じ、ふんわりしていた場合を3点、根元の軽さをあまり感じず、ふんわり感に欠けていた場合を2点、根元の軽さを全く感じず、毛髪がしぼんでいた場合を1点とする4段階で評価した。
【0029】
10名のパネラーの採点結果について各実施例及び比較例ごとに平均点を算出し、平均点が3.6以上である場合を◎(優れている)、平均点が2.6?3.5である場合を○(良好)、平均点が1.6?2.5である場合を△(やや悪い)、平均点が1.5以下である場合を×(悪い)とした。その結果を各表の「評価」欄における「毛髪の根元の軽さ」の項に表記した。
【0030】
(評価結果)
表1、表3及び表4に示す評価結果から分かるように、実施例1?実施例36はいずれの評価項目においても非常に高い評価結果であった。
又、表2に示す評価結果から分かるように、実質的に本発明の実施例である比較例2、3、5、6、9、10は、必須成分のいずれかの配合量が過少あるいは過剰であるため、必須成分のいずれかの配合を欠く比較例1、4、7、8、11との比較では全体として高い評価結果であるものの、表1、表3及び表4に示す各実施例との比較では相対的に低い評価に止まっている。
更に、表2に示す評価結果の全体から、以下の諸点を指摘することができる。
1)(A)成分の配合量が過少であると、クリームのコク、仕上がり後の毛髪の必要な弾力性を確保できず、過剰であると、クリームのコクは多少得られるが、適切な弾力性とならずに毛髪の柔らかさが失われる。(A)成分を配合しない場合や、(A)成分に代えて「A比」成分を配合した場合は、仕上がり後の毛髪の弾力は得られない。
【0031】
2)(B)成分の配合量が過少であると、クリームのコク、仕上がり後の毛髪の弾力性がいずれも得られず、過剰であると、クリームが水っぽくなってコクが感じられず適切な弾力性も得られない。(B)成分に代えて「B比」成分を配合した場合も、(B)成分の配合量が過少である場合と同等の結果である。
3)(C)成分の配合量が過少であると、クリームのコクは多少得られるが、仕上がり後の毛髪の弾力性が全く得られず、過剰であると、適切な弾力性とならずに毛髪の柔らかさが失われ、クリームのコクも得られない。(C)成分を配合しない場合は、クリームのコク、仕上がり後の毛髪の弾力は、いずれも得られない。
〔第2実施例:健常毛を対象とする実施例及び比較例〕
長さ20cmのヒト黒毛であって、毛髪のダメージ要因である脱色処理やパーマネントウエーブ処理を未だ受けていない未処理毛の毛束を所要の本数だけ準備した。又、「毛髪の根元の軽さ」の評価のためには、ダメージ要因である上記処理を未だ受けていない未処理のモデルウィッグの毛髪を準備した。
これらの毛束又はモデルウィッグの毛髪をシャンプー処理した後、それぞれ50g入り軟膏容器に充填しておいた前記実施例1(表1)、実施例16(表3)、実施例29(表4)及び比較例1、比較例7、比較例8(いずれも表2)に係るヘアトリートメントを第1実施例の場合と同様に塗布し、かつ、第1実施例の場合と同様の評価項目について、同様の評価方法及び評価基準で評価した。これらの評価結果を末尾の表5に示す。
その結果、表5に示すように、実施例1、実施例16及び実施例29については、第1実施例の場合と全く同等の評価結果を得た。
これに対して、比較例1、比較例7、比較例8では、「クリームのコク」は当然ながら第1実施例の場合と同等の評価であったが、「毛髪の柔らかさ」、「弾力」、「毛髪の根元の軽さ」の各評価項目の評価結果がいずれも「△」となった。即ち、上記の各実施例との対比において、第1実施例の場合ほどの極めて大きな評価結果の差異はなかったものの、やはり顕著な評価結果の差異が見られた。

【表1】



上記記載事項(1-4)の段落【0018】及び表1の実施例11の記載からみて、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「pHは3.0?8.0の範囲内にある、以下の組成及び成分配合比を有するヘアトリートメント。
(質量%)
ヒドロキシプロピルデンプンリン酸 3
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 2
タウリン 0.1
L-酒石酸 0.01
L-アルギニン 0.01
ステアリルアルコール 2
セタノール 2
マカデミアナッツ油 1
ジメチコン(100mm^(2)/s) 1
PG 1
グリセリン 0.5
メチルパラベン 0.2
香料 0.2
水 残量」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2(株式会社マツモト交商,Structure XL,2007年10月1日)には、次の事項が記載されている。
(2-1)
「(ストラクチャーXL)
天然植物由来のノニオン性乳化安定化剤
【機能・特徴】
★スターチ特有の溶解機構。
★冷水に容易に分散。
★安定性良好(pH、耐塩性、経時)。
★他原料との相溶性良好。
★チクソトロピー粘性。
★さっぱりとした感触。
・・・
【商品情報】
商品名:STRUCTURE XL
表示名称:ヒドロキシプロピルデンプンリン酸」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3(特開昭59-207976号公報)には、次の事項が記載されている。
(3-1)
「特許請求の範囲
(1)ベンゼンカルボン酸又はその塩の存在下に3価金属化合物単独または3価金属化合物と亜鉛化合物の混合物を加えて有効成分としたでんぷん懸濁液を最終的に鉱酸処理して水に分散もしくは溶解せしめてなる粘度低下防止効果を付与せしめたことを特徴とするでんぷん糊組成物
(2)前記ベンゼンカルボン酸又はその塩および3価金属化合物を有効成分とするでんぷん懸濁液の鉱酸処理物がPH3.7?6.0の糊剤である特許請求の範囲第(1)項記載のでんぷん糊組成物」

(3-2)(1頁右下欄11行?14行)
「本発明はでんぷん糊組成物、さらに詳しくは改良された天然でんぷん糊の粘度低下を防止しうるアミラーゼ(でんぷん分解酵素)阻害物質を含有するでんぷん糊組成物に関する。」

(3-3)(2頁左上欄1行?10行)
「でんぷん糊の分解に関する微生物は自然界に広く分布すると共に実際には容器附着菌および空気中の雑菌類などによりでんぷん糊の使用中に微生物の生産するアミラーゼ又は消化酵素や唾液によってその混入により粘度低下現象を生じて糊としての接着性が著しく低下し使用不能に陥りやすい。この現象は糊のPHが3.7以下あるいは9.0以上の時は非常に発生し難いがPH域3.7?9.0の間ではアミラーゼによる粘度低下が発生し易いことが知られている。」

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4(特開平9-118866号公報)には、次の事項が記載されている。
(4-1)
「【請求項1】 ペースト状に溶かれた澱粉糊において、酵素の不活性化処理が施されたことを特徴とする澱粉糊。
・・・
【請求項4】 前記酵素不活性化処理として、ペースト状に溶かれた澱粉糊のpHが、酵素を不活性化するpHに保持されていることを特徴とする請求項1に記載の澱粉糊。
【請求項5】 ペースト状に溶かれた澱粉糊のpHが、3.5?4.5又は8.5?10.0に保持されていることを特徴とする請求項1又は4に記載の澱粉糊。」

(4-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば事務用糊、工作糊などの紙工用接着剤、壁紙施工用等に使用される澱粉糊に関する。」

(4-3)
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、澱粉糊では、しばしば粘度の低下現象が起こり、使用できない事態が発生していた。具体的には、例えばペースト状の澱粉糊又は粉末状の澱粉糊は現場で水を加えて調製し、所望の濃度にして塗布する。大量に糊を調製し、これを現場の環境で翌日に持ち越した場合、粘度が著しく低下し、粘着性も殆ど喪失する事態が発生していた。
【0005】この粘度が低下し、粘着性も喪失した澱粉糊には、防腐剤が混合されているので、微生物の繁殖は認められなかった。
【0006】本発明者らは、この現象を詳細に検討したところ、微生物の分泌する澱粉分解酵素が澱粉を分解し、粘度低下を引き起こすことを突き止めた。即ち、微生物が糊中に混入して薬剤が菌を殺すまでの間に酵素が糊中に分泌されるので粘度低下が生じてしまうことが確認された。このことは澱粉糊中に相当量の防腐剤,防カビ剤の添加を行っていても粘度低下が生じる例が良く発生していることを示している。
【0007】この問題を解決するため、鋭意検討したところ、酵素不活性化剤の添加と共に糊のpHを3.5?4.5又は8.5?10.0の範囲に調製することで粘度低下を防止できることを見出した。」

5.引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5(特開平3-281640号公報)には、次の事項が記載されている。
(5-1)
「特許請求の範囲
(1)タマリンドシードガム又はプルランを澱粉糊液の老化防止用添加剤として使用することを特徴とする澱粉糊液の老化防止方法。
(2)前記澱粉糊液が酵素変性澱粉、酸化変性澱粉又は熱変性澱粉である請求項(1)記載の方法。」

(5-2)(1頁右下欄2行?6行)
「〔産業上の利用分野〕
本発明はサイズプレス液、コーティング塗料、内面添加組成物などの用途に有効に使用することのできる澱粉糊液の老化防止方法に関するものである。」

(5-3)(3頁右下欄4行?4頁左上欄2行)
「実施例1
水241部に、タピオカ澱粉100部に対して0.1%のタマリンドシードガムをあらかじめ混合した粉末を撹拌しながら加え、10%硫酸でpHを6.0にした。1%α-アミラーゼ水溶液9部を加えた後、70℃に加熱して糊化及び酵素変性を行った。酵素の作用により糊化液粘度が低下してくるので約200 cpsになった時点で濃度を調整し、B型精度を測定した。酵素の作用により粘度低下が進むので、175cpsになった時点で10%硫酸によりpHを3.0にして酵素を失活させた。10分間撹拌しながら酵素を完全に失活させた後、10%苛性ソーダでpHを7.0に調整した。濃度を調整し、40%の澱粉糊化液を得た。少量の糊液を採取し、30℃の水槽に保管し、1時間後糊液温度が30℃になっていることを確認し、B型精度を測定した。更に、老化防止の効果を明確にするた約30℃の水槽に1昼夜保存後のB型粘度を測定し、その結果を表1に示す。」

6.引用文献6について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献6(特表2007-522080号公報)には、次の事項が記載されている。
(6-1)
「【請求項1】
パーソナルケア組成物であって、
a)該組成物の好ましくは0.01?20重量%、より好ましくは0.5?20重量%の疎水性に修飾された干渉顔料;
b)該組成物の好ましくは1?80重量%の分散された油相;及び
c)連続水性相、好ましくは水を含み;
その際、前記疎水性に修飾された干渉顔料が、総粒子重量の少なくとも6重量%の疎水性コーティングを含む、パーソナルケア組成物。
・・・
【請求項9】
ビタミン、日焼け止め剤、増粘剤、防腐剤、抗ニキビ薬剤、酸化防止剤、皮膚沈静及び回復剤、キレート化剤及び金属イオン封鎖剤、芳香剤、精油、皮膚感覚剤、顔料、パールエッセンス剤、レーキ、着色剤、及びこれらの混合物から成る群から選択される1つ以上の有益剤を含む、請求項1?8に記載の組成物。」

(6-2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、外見及び角質表面の感触を改善するためのパーソナルケア組成物の分野に関する。より具体的には、本発明は、優れた皮膚の輝き、皮膚の保湿、及びコンディショニングを提供する、洗い流せるパーソナルケア組成物に関する。」

(6-3)
「【0077】
(その他の任意成分)
任意成分のその他の非限定例には、ビタミン及びその誘導体(例えば、アスコルビン酸、ビタミンE、トコフェリルアセテートなど);日焼け止め剤;増粘剤(例えば、多価アルコールアルコキシエステル、クローダ(Croda)からクロシックス(CROTHIX)として入手可能);クレンジング組成物の抗菌の完全性を保持するための防腐剤;抗ニキビ薬剤(レゾルシノール、サリチル酸など);酸化防止剤;皮膚沈静及び回復剤、例えばアロエベラ抽出物、アラントインなど;キレート化剤及び金属イオン封鎖剤;及び美観上の目的に好適な剤、例えば芳香剤、精油、皮膚感覚剤、顔料、パールエッセンス剤(例えば、雲母及び二酸化チタン)、レーキ、着色剤など(例えば、丁子油、メントール、カンファー、ユーカリ油、及びオイゲノール)、抗菌剤、及びこれらの混合物から成る群から選択される有益剤が挙げられる。これらの物質は、当業者に明らかであるように、必要な効果を提供するために十分な範囲で用い得る。」

7.引用文献7について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献7(特開2004-339108号公報)には、次の事項が記載されている。
(7-1)
「【請求項1】
(A)炭素数2?5のヒドロキシアルキル変性澱粉同士が架橋された架橋物、炭素数2?5のヒドロキシアルキル変性澱粉と炭素数2?18のアシル変性澱粉とが架橋された架橋物及び炭素数2?18のアシル変性澱粉同士が架橋された架橋物から選択された少なくとも一種と
(B)水溶性高分子材料
を含んで成る水性組成物であって、
化粧料に配合される水性組成物。
・・・
【請求項20】
請求項1?19のいずれかに記載の水性組成物を含んで成る化粧料。
【請求項21】
洗浄用化粧料、頭髪用化粧料、メイクアップ化粧料、スキンケア化粧料として使用される請求項20に記載の化粧料。
【請求項22】
洗浄用化粧料は、シャンプー、リンス、コンディショナー、ハンドソープ、ボディソープ、洗顔料及びメイクアップクレンザーから選択された少なくとも一種であることを特徴とする請求項21記載の化粧料。」

(7-2)
「【0084】
本発明に係る化粧料は、必要に応じて適宜種々の添加剤等、例えば、水、エタノール等の低級アルコール、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、アミノ酸系界面活性剤、脂肪酸石鹸、油脂、ロウ、炭化水素油、エステル油、高級アルコール、多価アルコール、シリコン類(又はシリコーン類)、紛体、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤、香料、酸化防止剤、pH調整剤、キレート剤、清涼剤、抗炎症剤及び美肌用成分(例えば、美白剤、細胞賦活剤、肌荒れ防止剤及び血行促進剤等)等を含むことができる。」

(7-3)
「【0098】
「紛体」とは、通常化粧料に使用されるものであれば、特に制限されるものではなく、紛体の形状(例えば、球状、針状及び板状等)、粒子径(煙霧状、微粒子及び顔料級等)、粒子構造(多孔質及び無孔質等)等を問わず、使用することができる。
「無機紛体」として、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、合成雲母、マイカ、カオリン、セリサイト、白雲母、金雲母、紅雲母、黒雲母、リチア雲母、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、ヒドロキシアパタイト、バーミキュライト、ハイジライト、ベントナイト、モンモリナイト、ヘクライト、ゼオライト、セラミックスパウダー、第二リン酸カルシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ボロン及びシリカ等を例示することができる。
【0099】
「有機紛体」として、例えは、ポリアミドパウダー、ポリエステルパウダー、ポリエチレンパウダー、ポリプロピレンパウダー、ポリスチレンパウダー、ポリウレタンパウダー、ベンゾグアナミンパウダー、ポリメチルベンゾグアナミンパウダー、テトラフルオロエチレンパウダー、ポリメチルメタクリレートパウダー、セルロース、シルクパウダー、ナイロンパウダー、12ナイロン、6ナイロン、スチレン-アクリル酸共重合体、ジビニルベンゼン-スチレン共重合体、ビニル樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ケイ素樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、微結晶繊維紛体、コメデンプン及びラウロイルリジン等を例示することができる。
紛体は、単独で又は組み合わせて使用することができる。」

(7-4)
「【0115】
【実施例】
下記の表1?4に示した成分を表1?4に示した割合で配合し、均一に成るまで撹拌して、実施例1?15及び比較例1?12の試料を作成した。尚、表中に記載の数値は、有効成分の値(即ち、水性媒体を除く部分)であり、重量%を示す。
得られた試料の特性は、下記の方法で測定した。」

(7-5)





8.引用文献8について
前置報告において引用された引用文献8(特開2005-336126号公報)には、次の事項が記載されている。
(8-1)
「【請求項1】
ヒドロキシプロピルスターチリン酸と水性増粘剤と染料とを含有することを特徴とする染毛料。」

(8-2)
「【0019】
本発明によれば、各温度における粘度に大きな差がなく(温度依存性がない)、粘度が経時で安定、特に強酸性領域(pH1.5?4.0)においても粘度が経時で安定であり、また、流動性に富み一塊りになってのたれ落ちすることがなく、金属塩と併用されても流動性に問題なく、また、使用に当たっては、毛髪上での延びがよく、べたつきがない優れた使用性、使用感触を有し、かつ使用後の染毛料の洗い落としに手間がかからない優れた染色効果を発揮する染毛料が得られる。」

9.引用文献9について
前置報告において引用された引用文献9(特開2006-69952号公報)には、次の事項が記載されている。
(9-1)
「【請求項1】
キシログルカン、低級アルコール及び粉末を含有することを特徴とするゲル状化粧料。」

(9-2)
「【0001】
本発明は、優れた弾力性を有した経時安定性に優れたゲル状化粧料であって、使用に当たっては、化粧料のとれがよく、みずみずしい使用感を有し、べたつきのない、優れた使用性のゲル状化粧料に関する。」

(9-3)
「【0021】
本発明において用いられる粉末は、通常化粧料に配合される粉末であれば特に制限されない。粉末の例を挙げれば、例えば、マイカ(雲母)、合成マイカ、タルク、カオリン、セリサイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、無水ケイ酸(シリカ)、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化コバルト、群青、紺青、酸化チタン、酸化亜鉛、雲母チタン、酸化鉄雲母チタン、オキシ塩化ビスマス、窒化ホウ素、赤色228号、赤色226号、青色404号等の有機顔料、ポリエチレン末、ポリメチルメタクリレート、ナイロン粉末、オルガノポリシロキサンエラストマー、ポリメチルシルセスキオキサンパウダー、ウールパウダー、シルクパウダー、結晶セルロース、酢酸セルロース末等が挙げられる。粉末は1種または2種以上が任意に選択されて配合される。
【0022】
粉末の含有量は、ゲル状化粧料全量中0.1?70.0質量%が好ましい。この範囲において、本発明の効果が充分に発揮されるゲル状化粧料が得られる。含有量が0.1質量%未満であると化粧料のとれが悪くなる傾向にある。一方、70.0質量%を越えると化粧料のみずみずしい使用感が充分得られなくなり、さらにゲル状化粧料を製造しずらくなる。さらに好ましい粉末の含有量はゲル状化粧料全量中1.0?60.0質量%である。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1におけるヒドロキシプロピルデンプンリン酸の配合量は3質量%であり、本願発明1におけるヒドロキシプロピルデンプンリン酸の配合量の規定は「3.0質量%以上」であるから、両者は、3質量%である点で一致する。
本願明細書の段落【0022】には、カチオン界面活性剤として、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリドが例示されていることから、引用発明1の「塩化ステアリルトリメチルアンモニウム」は、本願発明1の「カチオン界面活性剤」に相当する。
本願明細書の段落【0018】には、高級アルコールとして、セチルアルコール、すなわち、セタノール、及びステアリルアルコール等の直鎖状飽和アルコールが例示されており、セタノールは炭素数が16、ステアリルアルコールは炭素数が17であるから、引用発明1の「セタノール」及び「ステアリルアルコール」は、ともに本願発明1の「炭素数16以上22以下の直鎖状飽和アルコールから選ばれる高級アルコール」に相当する。
引用発明1の「ヘアトリートメント」は、本願発明1の「浴室内で毛髪に塗布して洗い流す態様で使用される組成物」に相当する。
引用発明1のヘアトリートメントのpHは3.0?8.0の範囲内にあるものの、具体的な値が不明であって、引用文献1には、引用発明1のヘアトリートメントのpHが、本願発明1における規定と重複するpH3.0?3.5の範囲にあるという根拠となる記載も見当たらない。

そうすると、本願発明1と引用発明1は次の点で一致し、次の点で相違するといえる。
(一致点)
ヒドロキシプロピルデンプンリン酸、炭素数16以上22以下の直鎖状飽和アルコールから選ばれる高級アルコール及びカチオン界面活性剤が配合され、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸及びその塩の配合量が3.0質量%である浴室内で毛髪に塗布して洗い流す態様で使用される組成物。

(相違点1)
pHが、本願発明1では3.5以下であるのに対し、引用発明1では、3.0?8.0の範囲内にあるものの、具体的な値は不明である点。

(相違点2)
本願発明1は粉体が配合されているのに対し、引用発明1は粉体が配合されていない点。

(相違点3)
引用発明1は、タウリン、L-酒石酸、L-アルギニン、マカデミアナッツ油、ジメチコン、PG、グリセリン、メチルパラベン、香料が配合されるのに対し、本願発明1は、これらの成分が配合されることは特定されていない点。

(2)相違点についての判断
まず、上記相違点3について検討すると、本願明細書の段落【0024】には、「(任意原料)上記の通り、本実施形態の組成物には任意原料が配合される。当該任意原料は、油剤、紛体、多価アルコール、低級アルコール、糖類、シリコーン、高分子化合物、アミノ酸、動植物抽出物、微生物由来物、ビタミン、無機化合物、香料、防腐剤などである。」と記載されていることから、本願発明1は他の成分を配合することは排除しておらず、この点は、実質的な相違点とはいえない。

次に、上記相違点1について検討する。
本願発明1は、pHが3.5以下であることを規定するものであるところ、この技術的意義について、本願明細書をみると、本発明者等は、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸の配合量が多い程、粘度の経時的な低下が認められるという問題があることを認識し(段落【0005】)、本願発明1の課題として、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸が高配合量であるときに認められやすい粘度低下を抑えられる組成物を提供することを設定し(段落【0006】)、粘度低下の原因はアミラーゼの混入によるものであるという知見を得て、さらに、pHを3.5以下に設定することにより、粘度低下を抑制できることを見出して、本願発明1を完成させたことが記載されている(段落【0007】及び【0009】)。
引用発明1は、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸を含むものであるが、そもそも、引用発明1において、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸が高配合量であるときに認められる粘度低下を抑制しなければならないという課題を有していること、ましてや、粘度低下の原因がアミラーゼの混入によるものであることは、引用文献1の全記載を参酌しても認められない。
ここで、引用文献3?5には、澱粉糊はアミラーゼにより粘度が低下することは記載されているものの、これらの文献は接着剤に関する技術分野に属するものであって、本願発明1と技術分野が異なるものであるし、また、本願発明1の構成成分であるヒドロキシプロピルデンプンリン酸を含むものでもないから、引用文献3?5の記載を根拠にして、引用発明1に、アミラーゼの混入による粘度低下の課題があると認識できるものではない。
そうすると、引用発明1において、そのpHを、アミラーゼが機能しないような低いpHである3.5以下とする動機付けがあるとは認められない。
また、引用文献7には、実施例において調製した種々の試料のpHが5.0?8.5の範囲内にあることが示されているが(上記記載事項(7-5))、特に、組成物を安定化するためにpHを調整したものでもないし、そのpHも本願発明1で規定する3.5以下を含まないものであるから、引用発明1において、そのpHを3.5以下とすることを動機付けるものではない。
さらに、引用文献8には、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸を含む染毛料が強酸性領域(pH1.5?4.0)においても粘度が経時で安定であることが記載されているものの、引用文献8は染毛料に関する技術分野に属するものであって、本願発明1と技術分野が異なるものであるし、また、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸が強酸性領域で粘度が安定であるからといって、引用発明1の組成物のpHを低くすることは動機付けられない。
また、引用文献2、6、9をみても、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸を含む組成物において、pHを3.5以下とすることを動機付けるような記載を見出すことはできない。

そして、本願発明1は、組成物のpHを3.5以下にすることにより、本願明細書の実施例(段落【0031】?【0036】)に例示されるように、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸が高配合量であっても、組成物の粘度低下を抑制することができるという予想外の優れた効果を奏するものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、上記相違点2について判断するまでもなく、引用発明1並びに引用文献2?7及び前置報告で引用された引用文献8、9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2?5について
本願発明2?5は、本願発明1をさらに限定したものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明1並びに引用文献2?7及び前置報告で引用された引用文献8、9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.本願発明6及び7について
本願発明6は、本願発明1?5のいずれかに記載の組成物を収容した蓋付き容器を有する乳化物収容製品に係る発明であり、また、本願発明7は、本願発明1?5のいずれかに記載の組成物を収容した吐出容器を有する乳化物収容製品に係る発明であるから、上記1.で述べた理由と同じ理由により、引用発明1並びに引用文献2?7及び前置報告で引用された引用文献8、9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1及びこれを引用する本願発明2?4、6、7は「pHが3.5以下」という事項を有するものとなっており、また、本願発明5及びこれを引用する本願発明6、7は、「pHが3.3以下」という事項を有するものとなっており、上記第5のとおり、本願発明1?7は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1?7に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-09-10 
出願番号 特願2014-93291(P2014-93291)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 池田 周士郎  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 關 政立
冨永 みどり
発明の名称 組成物  
代理人 加藤 秀忠  

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