• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C09K
管理番号 1354739
審判番号 不服2018-15119  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-14 
確定日 2019-09-24 
事件の表示 特願2015-525091「蛍光体及び発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月 8日国際公開、WO2015/001860、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成26年5月21日(優先権主張 平成25年7月3日 日本)を国際出願日とする出願であって、平成30年4月10日付けで拒絶理由が通知され、同年6月4日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月9日付けで拒絶査定がされ、同年11月14日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年8月9日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1?3に係る発明は、下記の引用文献1?4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.国際公開第2005/052087号
2.特開2004-018545号公報
3.特開2010-235912号公報
4.国際公開第2012/119689号

第3 本願発明
本願請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、平成30年6月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりの発明である。

「 【請求項1】
一般式:M1_(a)M2_(b)M3_(c)M4_(d)N_(e)O_(f)で表され、
M1がEuであり、M2がCa及びSrであり、M3がAlであり、M4がSiであり、Nは窒素であり、Oは酸素であり、
a?fは、0.00001≦a≦0.15、a+b=1、0.5≦c≦1.5、0.5≦d≦1.5、c+d=2、2.5≦e≦3.0、0≦f≦0.5であり、
主結晶相が(Sr,Ca)AlSiN_(3)結晶相であり、
平均粒径が1μm以上30μm以下、厚さが平均粒径の1/3以下の平板状であり、
M2元素におけるSrの比率(Sr/(Sr+Ca))が0.83以上0.95以下である、蛍光体。
【請求項2】
Alに対するSiのモル比(Si/Al)が0.82以上1.00以下である請求項1記載の蛍光体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の蛍光体と、発光素子を有する発光装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている。
(1-1)「 1. 少なくともM元素と、A元素と、D元素と、E元素と、X元素 (ただし、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybからなる群から選れる1種または2種以上の元素、Aは、M元素以外の2価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、4価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、3価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素、Xは、O、N、Fからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素)とを含む組成を有し、CaAlSiN_(3)と同一の結晶構造を有する無機化合物からなることを特徴とする蛍光体。
2. 組成式M_(a)A_(b)D_(c)E_(d)X_(e)(ただし、式中a+b=lであり、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素、Aは、M元素以外の2価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、4価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、3価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素、XはO、N、Fからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素)で示され、パラメータa、c、d、eが、
0.00001≦ a ≦0.1 ・・・・・・・・・・・・・・・(i)
0.5≦ c ≦ 4 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ii)
0.5≦ d ≦ 8 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(iii)
0.8×(2/3+4/3×c+d)≦ e ・・・・・・・・・・(iv)
の条件を全て満たす組成で表され、CaAlSiN_(3)と同一の結晶構造を有する無機化合物からなることを特徴とする請求項1記載の蛍光体。」(請求の範囲)
(1-2)「

」(第33ページ)
(1-3)「

」(第43ページ)
(1-4)「実施例8?15;
実施例8?15として、Caの一部または全てをSrで置き換えた組成の無機化合物を作製した。
表1、表2、表3に示す組成の他は実施例1と同様の手法で蛍光体を作製した。X線回折測定によれば合成した粉末は、CaAlSiN_(3)と同一の結晶構造を持つ無機化合物であることが確認された。合成した無機化合物の励起および発光スぺクトルを測定したところ図6、図7(実施例8?11)、図8、図9(実施例12?15)、および表6に示す様に、350nmから600nmの紫外線および可視光で励起されて、570nmから700nmの範囲に発光のピークを持つ赤色の蛍光体であることが確認された。なお、Sr添加量が多くなると発光輝度が低下するが、発光のピーク波長がCa単独添加よりも短波長側に移動するので、600nmから650nmの範囲にピーク波長を持つ蛍光体を得たい場合は、Caの一部をSrで置換することは有効である。」(第44ページ第11?24行)
(1-5)




そうすると、引用文献1には、摘示(1-1)の式に含まれる実施例14の蛍光体(摘示(1-2))が具体的に記載されている。
したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「組成式Eu_(0.008)Ca_(0.1984)Sr_(0.7936)Si_(1)Al_(1)N_(3)であり、CaAlSiN_(3)と同一の結晶構造を有する無機化合物からなる蛍光体」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている
(2-1)「【請求項3】
蛍光体粒子が2枚の主平面からなる平板状粒子であって、アスペクト比が1.5?5.0からなる微粒子であることを特徴とする蛍光体。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の事項が記載されている。
(3-1)「【請求項1】
下記式[1]で表されることを特徴とする蛍光体。
M^(I)M^(IV)_(2)N_(3):Q ・・・[1]
(ここで、M^(I)はLi、Na、K、Rb、及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属元素を示し、M^(IV)は周期表第4族又は第14族に属する4価の金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素を示し、QはMn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。)
【請求項2】
M^(I)にNaを含み、M^(IV)にSiを含み、QにEuを含むことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
中心発光波長が550nm?675nmであることを特徴する請求項1又は2に記載の蛍光体。
【請求項4】
結晶粒子形状が薄板状であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の蛍光体。」

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、次の事項が記載されている。
なお、摘記事項の後ろに当審の仮訳を掲載した。
(4-1)「Die plattchenformigen Leuchtstoffe konnen in Dicken von 50 nm bis zu etwa 20 μm, vorzugsweise zwischen 150 nm und 5 μm, grostechnisch hergestellt werden. Der Durchmesser betragt dabei von 50 nm bis 20 μm. Er besitzt in der Regel ein Aspektverhaltnis (Verhaltnis des Durchmessers zur Teilchendicke) von 1 : 1 bis 400 : 1 , und insbesondere 3 : 1 bis 100 : 1.

Die Plattchenausdehnung (Lange x Breite) ist von der Anordnung abhangig. Plattchen eignen sich auch als Streuzentren innerhalb der Konversionsschicht, insbesondere dann, wenn sie besonders kleine Abmessungen aufweisen.」(第9ページ第27行?第10ページ第4行)

「薄片形態の蛍光物質は、大きな工業スケールで、50nmから約20μm、好ましくは150nmおよび5μmの間の厚さで製造することができる。ここで直径は、50nmから20μmである。
それは、一般に、1:1から400:1、およびとくに3:1から100:1のアスペクト比(直径の粒子厚さに対する比)を有する。

薄片の寸法(長さ×幅)は、配置に依存する。薄片はまた、とくに小さな寸法を有する場合にはとくに、変換層内での散乱の中心としても好適である。」

第5 判断
1 本願発明1について
(1)対比
引用発明の組成式Eu_(0.008)Ca_(0.1984)Sr_(0.7936)Si_(1)Al_(1)N_(3)は、本願発明の一般式M1_(a)M2_(b)M3_(c)M4_(d)N_(e)O_(f)においてM1がEuであり、M2がCa及びSrであり、M3がAlであり、M4がSiであり、a=0.008、b=0.992(=0.1984+0.7936)、c=1、d=1、e=3、f=0の場合に相当するから、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点及び相違点を認めることができる。
(一致点)
「 一般式:M1_(a)M2_(b)M3_(c)M4_(d)N_(e)O_(f)で表され、
M1がEuであり、M2がCa及びSrであり、M3がAlであり、M4がSiであり、Nは窒素であり、Oは酸素であり、
a?fは、0.00001≦a≦0.15、a+b=1、0.5≦c≦1.5、0.5≦d≦1.5、c+d=2、2.5≦e≦3.0、0≦f≦0.5であり、
主結晶相が(Sr,Ca)AlSiN_(3)結晶相である蛍光体。」

(相違点)
蛍光体について、本願発明1では平均粒径が1μm以上30μm以下、厚さが平均粒径の1/3以下の平板状であり、M2元素におけるSrの比率(Sr/(Sr+Ca))が0.83以上0.95以下であると特定されているのに対し、引用発明では平均粒径や形状が特定されておらず、上記比率が0.8(=0.7936/0.992)である点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討すると、摘記(1-4)には、「Sr添加量が多くなると発光輝度が低下するが、発光のピーク波長がCa単独添加よりも短波長側に移動するので、600nmから650nmの範囲にピーク波長を持つ蛍光体を得たい場合は、Caの一部をSrで置換することは有効である。」と記載されており、Sr添加量を増加すること、すなわち、Sr/(Sr+Ca)比率を高めることの教示が認められる。
しかしながら、当該教示は、あくまで、ある程度の発光強度の確保を前提とするものと解すべきところ、摘記(1-5)の図8をみると、当該比率が0.8である実施例14(引用発明)においては、ある程度の発光強度が確保されていると看取できるものの(ただし、実施例1に比べるとかなり発光強度は低下している。)、当該比率が1である実施例15においては、当該発光強度が確保されているとは言い難い。そのため、同図の記載に接した当業者は、引用発明におけるSr/(Sr+Ca)比率を高めれば、ピーク波長をシフトすることはできても、その発光強度は大きく低下してしまうと考えるのが合理的である。
そうである以上、上記教示があるからといって、これが直ちに、引用発明における上記比率を高め、もって本願発明1の規定内のものとする論拠(動機付け)になるとは認められない。
また、引用文献2?4には、確かに、平板状の蛍光体が記載されているが(摘記2-1、3-1、4-1)、これらの引用文献の記載を参酌しても、引用発明の蛍光体をどのようにして平板状にするのかは不明であるから、当該蛍光体を、平均粒径が1μm以上30μm以下、厚さが平均粒径の1/3以下の平板状とすることは、当業者といえども容易に想到することはできない事項というべきである。
そして、本願発明1では、M2元素におけるSrの比率(Sr/(Sr+Ca))が0.83以上0.95以下とし、蛍光体を平板状とすることにより、相対発光ピーク強度を高くすることができ(本願明細書の[0030][表1]の実施例1?5を参照した。)、一方、審判請求書記載の追加比較例AのようにM2元素におけるSrの比率(Sr/(Sr+Ca))が0.8であるものは、蛍光体が平板状とならず、相対発光ピーク強度も低いことから、本願発明1は、M2元素におけるSrの比率(Sr/(Sr+Ca))を0.83以上0.95以下とし、蛍光体を平板状とすることにより、引用発明などからは予測し得ない格別の作用効果を奏するものと認められる。
よって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2、3について
本願発明2、3も、本願発明1の発明特定事項のすべてを備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

3 小括
以上のとおり、本願発明1?3は、当業者が引用文献1?4に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-09-10 
出願番号 特願2015-525091(P2015-525091)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C09K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 貴浩  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 川端 修
瀬下 浩一
発明の名称 蛍光体及び発光装置  
代理人 内田 直人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ