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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
管理番号 1354804
審判番号 不服2018-5732  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-25 
確定日 2019-08-29 
事件の表示 特願2013-163188「ポリエステルフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年2月16日出願公開、特開2015-30828〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成25年8月6日を出願日とする特許出願であって、平成30年1月29日付けで拒絶査定がなされたのに対して、平成30年4月25日に拒絶査定不服の審判請求がなされると同時に手続補正書が提出され、平成31年3月26日付けで当審から拒絶の理由が通知され、令和元年5月30日に意見書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1?2に係る発明(以下、各々「本願発明1」?「本願発明2」、まとめて「本願発明」という。)は、平成30年4月25日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものである。

3 本願明細書の記載
本願の明細書には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0001】
本発明は、工業用などに用いられるポリエステルフィルムおよびその製造方法に関するものである。詳しくは、優れた加熱白化防止性を有するポリエステルフィルムに関するものである。」

(2)「【0012】
本発明のポリエステルフィルムは、加熱加工後の透明性に優れ、オリゴマーの析出が少ないため高温での後加工処理が可能であることから、高品位が必要とされる光学用途をはじめとした工業用途において好適に使用できる。
また、ポリエステル樹脂のカルボキシル末端の増加を伴い難いため、溶融成形時の耐熱性や、長期使用における耐久性を有し、実用性に優れる。」

(3)「【0019】
(フィルムの固有粘度)
本発明のポリエステルフィルムは、それを構成する樹脂の固有粘度(単位:dl/g)が0.60以上である。固有粘度は好ましくは0.62以上、更に好ましくは0.64以上である。オリゴマーの析出を抑制するためには、オリゴマー再生抑制効果およびオリゴマー移動抑制の両方の効果が重要であるが、フィルムを構成する樹脂の固有粘度が0.60未満であると、その両方の効果が損なわれ、加熱加工時の外観不良(白化)が発生する。なお、本発明においては、かかるメカニズムを勘案して、フィルムの固有粘度は、ポリエステルフィルム全体としての固有粘度が上記数値範囲にあることによって上述のような効果が奏されるものである。よって、フィルムが後述する積層フィルムの態様である場合は、積層フィルム全体としての固有粘度が上記数値範囲にあればよい。積層フィルムの態様においては、少なくとも該積層フィルムを構成する表裏1層ずつの最外層を構成するポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度が、好ましくは0.60以上、より好ましくは0.62以上、さらに好ましくは0.64以上、特に好ましくは0.66以上である態様が好ましい。最も好ましい態様は、2層の最外層を構成するポリエチレンテレフタレート樹脂が上記好ましい範囲を満たすとともに、内層を構成するポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度が、好ましくは0.60以上、より好ましくは0.62以上、さらに好ましくは0.64以上である態様である。なお、ここで内層が複数層である場合は、内層全体のバルクとしての固有粘度が上記好ましい範囲であればよい。
【0020】
また、本発明のポリエステルフィルムは、それを構成する樹脂の固有粘度が0.72以下であることが好ましい。これにより押出成形において樹脂にかかる負荷を小さくし、剪断発熱を抑制することができる。それによりかかる発熱による樹脂の熱分解を抑制することができる。かかる観点から、固有粘度は、より好ましくは0.70以下、さらに好ましくは0.68以下である。本発明によれば、このように固有粘度が過剰に高くない樹脂を用いながらオリゴマーの抑制ができる。

【0028】
(オリゴマー分率)
本発明のポリエステルフィルムは、フィルム中の環状3量体オリゴマーの重量分率(WCy3)(単位:重量%)と環状4量体オリゴマーの重量分率(WCy4)(単位:重量%)の比(重量分率比)WCy3/WCy4が5以下であることが必要である。
【0029】
この重量分率比が5を超えると、加熱工程での外観悪化(白化)が特に顕著になる。かかる観点から、重量分率比は4以下が好ましく、より好ましくは3.5以下、更に好ましくは3以下である。環状オリゴマーの重量分率比を上記の範囲とするためには、たとえば特開平3-47830号公報に記載の水処理などを行い重合触媒の活性を十分に低下させるとともに、その樹脂を十分に乾燥した後に適切な熱履歴を与え、それを用いてフィルムを成形することで達成することができる。樹脂への熱履歴の与え方としては、(1)チップを一度溶融し、(例えばストランド状に)押出して再チップ化する方法、(2)チップを溶融押出後、例えば製膜装置等にてフィルム等に成形した後、該成形物を粉砕・再溶融し、(例えばストランド状に)押出して再チップ化する方法などが挙げられる。(2)に記載した方法は特に好ましく、更には熱履歴を与えた樹脂と与えない樹脂と適当な比率で混合して用いることにより効率的に環状オリゴマーの重量分率比を規定の範囲に調整することが出来る。すなわち、適切な熱履歴を経たものは、WCy3/WCy4の比率が小さくなる傾向にあるので、そのような樹脂の含有量を増やすと全体としてWCy3/WCy4の比率が小さくなる傾向を利用すればよい。以下、一例として具体的な方法を例示する。この方法は工程1から工程3までの3つの工程を経てフィルムを製造する方法である。
【0030】
[工程1]
まず、工程1として、上述した本発明における好ましいポリエステル樹脂を用い、それを溶融押出して樹脂組成物1を製造する。なお、ここでポリエステル樹脂は前述のポリエチレンテレフタレート樹脂である。また、本発明において「溶融押出により」とは、ダイ等から溶融樹脂を放出することを指すものとする。
【0031】
樹脂組成物1は、例えば繊維状であってもよく、フィルム状であってもよく、その他三次元立体形状であってもよい。なお、本発明においてその他三次元立体形状とは、繊維状ともフィルム状とも言えないものであって、例えば立方体等の多面体や球等の曲面体や、あるいは箱状のもの、フィルム状とは言えないシート状や板状のもの等を含むものである。
【0032】
樹脂組成物1は、ポリエステル樹脂90?100質量%を含む。ここで含有量は、得られる樹脂組成物1の質量100質量%に対する含有量である。かかる質量比率範囲とすることによって、続く工程2における熱処理により、含有オリゴマーを低減させることができ、最終的に工程3において環状三量体および環状四量体の重量分率が本発明規定の範囲にある樹脂成形体4を得ることができる。
【0033】
樹脂組成物1の溶融押出においては、その溶融押出条件は、用いるポリエステル樹脂の融点や、得ようとする樹脂組成物1の形状や特性に応じて適宜定めればよい。なお、ここで得られる樹脂組成物1は、間接的に、最終的に得ようとする樹脂成形体4の原料となるものであり、よって外観等の特性はそれほど重要ではないものであるが、樹脂の劣化という観点からは、劣化物が少なく、また加水分解によるポリマー鎖の切断が少ない方が好ましい。よって、かかる工程における溶融押出温度は高すぎない方が好ましい。また、生産性が低すぎると、間接的にではあるが、樹脂成形体4を製造するための原料が不足することとなるため、ある程度の生産性は必要である。よって、温度条件が低すぎないことが好ましい。また、溶融押出時間も、長すぎると劣化物が増大し、短すぎると未溶融物が増大する傾向等を勘案して、適宜設定すればよい。例えば5?30分である。
【0034】
[工程2]
工程1に続いて、工程2として、上記工程1で得られた樹脂組成物1を、上記樹脂組成物1を構成するポリエステルの融点をTmとして、Tm以上、Tm+60℃以下の温度で溶融混練し、溶融押出し、樹脂組成物2を製造する。なお、ここで「溶融混練し」とは、押出機におけるスクリュー部において、樹脂を混練しながら前方に移動させる態様を含むものである。
【0035】
なお、工程1で得られた樹脂組成物1がペレット状であれば、それをそのまま押出機に投入して、工程2に用いることができる。樹脂組成物1が繊維状、フィルム状、その他三次元立体形状のものである場合は、粉砕等により押出機に投入できる形体としてから、押出機に投入すれば良い。また、粉砕したものを、圧力をかけてペレット状にするいわゆる造粒をして用いることもできる。
【0036】
樹脂組成物2の溶融混練および溶融押出においては、それらの条件は、上記態様を満足した上で、その他の条件は、用いるポリエステル樹脂の融点や、得ようとする樹脂組成物2の形状や特性に応じて適宜定めればよい。なお、ここで得られる樹脂組成物2は、最終的に得ようとする樹脂成形体4の原料となるものであり、よって外観等の特性はそれほど重要ではないものであるが、樹脂の劣化という観点からは、劣化物が少なく、また加水分解によるポリマー鎖の切断が少ない方が好ましい。かかる観点からは、温度条件は高すぎない方が好ましい。また、生産性が低すぎると、樹脂成形体4を製造するための原料が不足することとなるため、ある程度の生産性は必要である。かかる観点からは、温度条件が低すぎないことが好ましい。また、溶融押出時間も、長すぎると劣化物が増大し、短すぎると未溶融物が増大する傾向等を勘案して、適宜設定すればよい。例えば5?30分である。
【0037】
工程2の具体例として、上記工程1で得られた樹脂組成物1としてのフィルム1を、上記フィルム1を構成するポリエステルの融点をTmとして、Tmを超え、Tm+60℃以下の温度範囲にある温度tで溶融混練し、溶融押出し、樹脂組成物2としてのペレット2を製造する工程が挙げられる。
【0038】
[工程3]
工程2に続いて、工程3として、上記工程2で得られた樹脂組成物2を含む樹脂組成物3を作成し、上記樹脂組成物1を構成するポリエステルの融点をTmとして、Tm以上、Tm+60℃以下の温度で溶融混練し、溶融押出し、樹脂成形体4としてのフィルム4を製造する。
【0039】
樹脂組成物3における樹脂組成物2の含有量は適宜設定してよい。また、樹脂組成物2が回収再生原料である場合は、樹脂組成物3における樹脂組成物2の含有量はすなわち回収率となり、得られる樹脂成形体4の特性が許す限り多く添加することによって、コストダウンとなり、生産性向上となり好ましい。かかる観点から、樹脂組成物3における樹脂組成物2の含有量は、例えば15質量%以上であり、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上である。上限は100質量%である。なお、ここで含有量は、得られる樹脂組成物3の質量に対する含有量である。
【0040】
樹脂組成物3は、樹脂組成物2を含有するものであるが、その余の成分は、主たる成分がポリエステル樹脂であり、そして従たる成分として、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、得ようとする樹脂成形体4の構成や特性により適宜選択した成分を含有することができる。ここで、「主たる成分」とは、その余の成分中の通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であることを表す。かかるポリエステル樹脂や適宜選択される成分として、例えば樹脂組成物1を構成するポリエステル樹脂を挙げることができる。樹脂組成物3を構成するその余の成分としてのポリエステル樹脂と、樹脂組成物1を構成するポリエステル樹脂とは、同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。ポリエステル樹脂を採用するに際しては、かかるポリエステル樹脂をペレット状にして用いると良い。
【0041】
なお、工程2で得られた樹脂組成物2がペレット状であれば、それをそのまま押出機に投入して、工程3に用いることができる。樹脂組成物2が繊維状、フィルム状、その他三次元立体形状のものである場合は、粉砕等により押出機に投入できる形体としてから、押出機に投入すれば良い。また、粉砕したものを、圧力をかけてペレット状にするいわゆる造粒をして用いることもできる。
【0042】
かくして、樹脂成形体4としてのフィルム4を製造することができる。このようにして得られたフィルム4は、上述したWCy3/WCy4の比率範囲を満足するものである。なお、積層フィルムの態様においては、各層においてこのような熱履歴を経た樹脂の含有量を調整して、さらに必要に応じて最外層と内層との厚み比率も調整して、全体としてWCy3/WCy4の比率を本発明が規定する範囲となるように調整することができる。
また本発明においては、WCy3は1重量%以下が好ましく、より好ましくは0.85重量%以下である。」

(4)「【0058】
以下の実施例および比較例で用いたポリエステルの製造方法は次のとおりである。
<ポリエステルの製造>
[エステル(A)の製造方法]
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒としてマンガン0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04部を添加した後、三酸化アンチモン0.04部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、固有粘度0.65dl/gに相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステル(A)としてのポリエチレンテレフタレート樹脂を得た。得られたポリエステル(A)の固有粘度は0.68dl/gであった。
【0059】
[ポリエステル(B)の製造方法]
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酸化ゲルマニウム0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04部を添加した後、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、固有粘度0.68dl/gに相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステル(B)としてのポリエチレンテレフタレート樹脂を得た。得られたポリエステル(B)の固有粘度は0.50dl/gであった。
【0060】
[ポリエステル(C)の製造方法]
ポリエステル(B)の製造後に、ポリエステル(B)中に含有されるオリゴマーを低減させるために、固相重合にて固有粘度を向上させた。固相重合後のポリエステル樹脂を水蒸気含有窒素ガス雰囲気下で150℃の温度に3分間以上加熱し、ポリエステル(C)を得た。得られたポリエステル(C)の固有粘度は0.75dl/gであった。
【0061】
[ポリエステル(D)の製造方法]
ポリエステルCを使用し、樹脂温290℃で溶融押出しポリエステルシートを得た。次にこのシートを粉砕し、金属製の容器内で150℃の熱風を吹き込みながら4時間熱処理をした後に温度280?310℃にて再溶融、ストランド状に押出してチップ化し、ポリエステル(D)を得た。得られたポリエステル(D)の固有粘度は0.65dl/gであった。
【0062】
[ポリエステル(E)の製造方法]
ポリエステルAを使用し、樹脂温290℃で溶融押出しポリエステルシートを得た。次にこのシートを粉砕し、金属製の容器内で150℃の熱風を吹き込みながら4時間熱処理をした後に温度280?310℃にて再溶融、ストランド状に押出してチップ化し、ポリエステル(E)を得た。得られたポリエステル(E)の固有粘度は0.62dl/gであった。
【0063】
[実施例1]
A層の原料として上記ポリエステル(C)と(D)を80:20(重量比、以下同様)の割合で混合したポリエステル原料、および、B層の原料として上記ポリエステル(C)と(D)を50:50の割合で混合したポリエステル原料を、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、A層を最外層(表層)、B層を内層(芯層)として、40℃に冷却したキャスティングドラム上に、2種3層(A/B/A)の層構成で共押出し冷却固化させて無配向シートを得た。次いで、同時2軸延伸機を用いて、延伸温度100℃にて縦方向に3.2倍、横方向に3.6倍延伸し、225℃で熱処理を行った後、縦方向に1%、横方向に2%弛緩し、厚さ100μmの積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの各層の厚みは、15/70/15μmであった。
【0064】
[比較例4]
A層の原料として上記ポリエステル(D)を用い、B層の原料として上記ポリエステル(C)と(D)を30:70の割合で混合したポリエステル原料を用い、それぞれの溶融押出温度を290℃とする以外は実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを得た。
【0065】
[比較例5]
A層の原料として上記ポリエステル(C)と(D)を90:10の割合で混合したポリエステル原料、および、B層の原料として上記ポリエステル(C)と(D)を60:40の割合で混合したポリエステル原料を用い、それぞれの溶融押出温度を280℃とする以外は実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを得た。
【0066】
[比較例1]
A層の原料として上記ポリエステル(A)を用い、B層の原料として上記ポリエステル(A)と(E)を60:40の割合で混合したポリエステル原料を用い、それぞれの溶融押出温度を280℃とする以外は実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを得た。
【0067】
[比較例2]
A層の原料として上記ポリエステル(C)と(D)を50:50の割合で混合したポリエステル原料、および、B層の原料として上記ポリエステル(C)と(D)を20:80の割合で混合したポリエステル原料を用い、それぞれの溶融押出温度を305℃とする以外は実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを得た。
【0068】
[比較例3]
上記ポリエステル(A)と(E)を60:40の割合で混合したポリエステル原料を用いて、押出機で285℃にて単層で溶融押出し、40℃に冷却したキャスティングドラム上で冷却固化させて無配向シートを得た。以降は実施例1と同様にして厚さ100μmのポリエステルフィルムを得た。
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。表1にある通り、本発明のポリエステルフィルムは、加熱後の透明性に優れたものであった。
【0069】
【表1】



4 当審の判断
(1)いわゆる実施可能要件について
ア 上記3に示した本願明細書の各記載に鑑みても、本願請求項1の「WCy3/WCy4が3以下」という規定を満たすように本願発明1に係るポリエステルフィルムを得るためには、具体的にどのようにすればよいのか、本願実施例1の手法(すなわち、【0059】?【0061】及び【0063】に記載される手法)以外、明らかでない。

イ 例えば、実施例をみても、使用されるポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度を「0.60dl/g以上0.72dl/g以下」に調整したからといって、「WCy3/WCy4が3以下」を達成することができるとはいえない。
また、上記3(3)に示した工程1?3を経たからといって、比較例2、4、5の記載に鑑みると、必ずしも「WCy3/WCy4が3以下」を達成することができるともいえない。
あるいは、ポリエチレンテレフタレート樹脂の合成において、【0059】、【0060】、更には【0061】に記載されるように、固有粘度を0.68dl/g、0.50dl/g、0.75dl/g、0.65dl/gと変動させるようにすれば「WCy3/WCy4が3以下」を達成することができるのかも判然としない。

ウ 審判請求人は、令和元年5月30日提出の意見書において、「前記本願明細書の段落0029にある『水処理などを行い重合触媒の活性を十分に低下させるとともに、その樹脂を十分に乾燥した後に適切な熱履歴を与え』ることで調整できることは本願明細書に明示されており、例えば2軸押出装置の繰返し溶融や熱水での処理などでWCy3/WCy4の比率を変化できることは当業者であれば技術水準として認識しておりますので、WCy3/WCy4の比率が異なる樹脂を用意することは当業者であれば容易にできます。そして、本願明細書の段落0029には、さらに適当な比率で混合して用いることにより効率的に環状オリゴマーの重量分率比を規定の範囲に調整できることまで記載されていますので、当業者であれば本願発明1に係るポリエステルフィルムを、本願実施例1の手法以外でも得ることは明らかに可能です。」と主張するところ、この主張について以下に検討する。

(ア)実施例1及び比較例4において使用されるポリエステル(D)は、「ポリエステル(C)を使用し、樹脂温290℃で溶融押出」(【0061】)という「工程1」(上記3(3))を施したポリエステルシートから、「このシートを粉砕し、金属製の容器内で150℃の熱風を吹き込みながら4時間熱処理をした後に温度280?310℃にて再溶融、ストランド状に押出してチップ化し」(【0061】)という「工程2」(上記3(3))に相当する熱履歴を受け、工程1及び2を経ていないポリエステル(C)と混合されて「工程3」(実施例1、比較例4の溶融押出工程)を受けているものと解される。
加えて、実施例1は、
「A層の原料として上記ポリエステル(C)と(D)を80:20(重量比、以下同様)の割合で混合したポリエステル原料、および、B層の原料として上記ポリエステル(C)と(D)を50:50の割合で混合したポリエステル原料」(【0063】)を用いることされ、比較例4は、
「A層の原料として上記ポリエステル(D)を用い、B層の原料として上記ポリエステル(C)と(D)を30:70の割合で混合したポリエステル原料を用い(る)」(【0064】)こととされている。

(イ)すなわち、実施例1及び比較例4は共に、工程1及び2という熱履歴を受けたポリエステル(D)と該熱履歴を受けていないポリエステル(C)を用いること、更には、該熱履歴を受けたポリエステル(D)の該熱履歴を受けていないポリエステル(C)に対する存在比において、実施例1は比較例4よりも少ないことが示されている。
そして、本願明細書【0029】には、「適切な熱履歴を経たものは、WCy3/WCy4の比率が小さくなる傾向にあるので、そのような樹脂の含有量を増やすと全体としてWCy3/WCy4の比率が小さくなる傾向を利用すればよい。以下、一例として具体的な方法を例示する。この方法は工程1から工程3までの3つの工程を経てフィルムを製造する方法である。」と記載されており、実施例1及び比較例4はこの「適切な熱履歴を経たもの」、更には、比較例4は実施例1に対し、「そのような樹脂の含有量を増や」したものと認められ、上記のように「WCy3/WCy4の比率が小さくなる」と解される。

(ウ)しかし、適切な熱履歴を経た「そのような樹脂の含有量を増や」したにもかかわらず、「WCy3/WCy4の比率が小さくなる傾向」は現れておらず、ましてや「適切な熱履歴を経たもの」が「WCy3/WCy4が3以下」となるとはいえないことは、実施例1と比較例4の対比から明らかである。
加えて、上記ポリエステル(C)及び(D)や、これらを混合したポリエステル原料はどの程度の「WCy3/WCy4」の値を有するものなのか明らかでなく、これらがどのような「WCy3/WCy4」の値を有していても、製造されたポリエステルフィルムは必ず「WCy3/WCy4が3以下」となるのか、何ら明らかでなく、上記意見書におけるいかなる主張を勘案しても、必ずそのようになるという技術常識も存在しない。

エ 更に、【0024】には、「フィルムの最外層の厚み(1層の厚み)は、好ましくは0.5μm以上30μm以下であり、より好ましくは1.0μm以上25μm以下、さらに好ましくは3μm以上20μm以下である。最外層が0.5μm未満では、オリゴマー移動抑制の向上効果が低くなる結果、加熱加工後の環状オリゴマーの析出が多くなる傾向にありフィルムが外観を損なう場合がある。一方、厚みの上限は、フィルムの最外層がオリゴマーの移動を抑制できる厚さであれば良いため30μm以下でよく、20μm以下でも十分な効果を発揮する。」と記載されているが、この記載からみて、三層以上の構造を有するものは、最外層の厚みを「0.5μm以上30μm以下」とすれば、内層にどの程度環状オリゴマーが含まれていても、内層からの移動を一定程度抑制できるものと解される。
そうすると、内層がどうあろうが、最外層の「WCy3/WCy4」の値の程度が、「優れた加熱白化防止性」(上記3(1))や「加熱加工後の透明性に優れ、オリゴマーの析出が少ないため高温での後加工処理が可能」(上記3(2))といった点を達成可能となるものと解される。そうであっても、依然として係る最外層の「WCy3/WCy4」の値はどのようにすれば調整できるのかは、上記ウで検討したとおり、見当が付かない。

オ このため、本願の発明の詳細な説明からは、請求項1に規定される、フィルム中の「WCy3/WCy4が3以下」であるポリエステルフィルムがどのようにして得ることができるのか、当業者であったとしても理解することができない。
よって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
そして、請求項1を引用する請求項2に係る発明についても同様、本願の発明の詳細な説明は、係る発明を実施しうる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

(2)いわゆるサポート要件について
ア 本願発明は上記2で認定したとおりであり、また、本願の発明の詳細な説明には上記3(1)?(4)の記載がある。

イ 本願発明は、「優れた加熱白化防止性」(上記3(1))や「加熱加工後の透明性に優れ、オリゴマーの析出が少ないため高温での後加工処理が可能…溶融成形時の耐熱性や、長期使用における耐久性を有し、実用性に優れる」(上記3(2))といった点を、その解決課題の一つとするものであると認められる。

ウ この点に関し、実施例1のポリエステルフィルムは、その「ヘーズの上昇幅(ΔHz)」から、加熱白化防止性や加熱加工後の透明性に優れることや、耐久性に優れることが確認されているが、ポリエステルの合成経路【0059】?【0061】、更にはフィルムの製造工程【0063】以外、すなわち実施例1以外によって得られた「WCy3/WCy4が3以下」のフィルムが上記課題を解決するものとなるのか否か明らかでない。また、上記課題を解決できると認識することが可能な技術常識も存在しない。
このため、本願発明は、上記イに示すような本願発明の課題を解決することを、当業者が認識できるように記載されているとはいえない。

エ 審判請求人は、上記意見書において、「合成経路やフィルムの製造工程が違ったとしても、オリゴマーを内包する樹脂は同じであること、出願当初の本願明細書の実施例1?3と比較利1とを対比すると、以下の表1の如くになり、WCy3/WCy4と△Hzとの間に関連性が認められること、そして本願明細書の段落0028や0029には、WCy3/WCy4の重量分率比が大きくなると、加熱工程での外観悪化(白化)が顕著になることも明確に記載していることから、合成経路やフィルムの製造工程が違ったとしても、周りを取り囲む樹脂が同じであれば、WCy3/WCy4の重量分率比を小さくすることで、△Hzを小さくできると当業者は認識するはずです。」と主張する。
しかし、上記(1)ウに示したとおり、実施例1と比較例4を対比すると、適切な熱履歴を経た「そのような樹脂の含有量を増や」したにもかかわらず、「WCy3/WCy4の比率が小さくなる傾向」は現れておらず、ましてや「適切な熱履歴を経たもの」が「WCy3/WCy4が3以下」となるとはいえないことに鑑みると、例え合成経路やフィルムの製造工程が同一であっても、オリゴマーを内包する樹脂は同じとはいえないし、「WCy3/WCy4が3以下」となるための傾向も理解できない。
そうであれば、△Hzとの間の関連性の前提となる「WCy3/WCy4」の重量分率比を3以下とすることについて、実施例1以外に、発明の詳細な説明に具体的に記載されているとはいえないから、上記の傾向を勘案することは到底不可能である。このため、上記主張を勘案することはできない。

オ よって、請求項1?2に係る発明は、その課題を解決することができると当業者が認識できるように、発明の詳細な説明に記載したものであるということができない。

5 むすび
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、本願請求項1?2に係る発明について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願の特許請求の範囲の請求項1?2についての記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-06-25 
結審通知日 2019-07-02 
審決日 2019-07-16 
出願番号 特願2013-163188(P2013-163188)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C08G)
P 1 8・ 536- WZ (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡谷 祐哉松浦 裕介  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 橋本 栄和
大熊 幸治
発明の名称 ポリエステルフィルム  
代理人 為山 太郎  

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