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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1354808
審判番号 不服2018-8874  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-27 
確定日 2019-08-29 
事件の表示 特願2017-243917「電子機器、プログラムおよび制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月21日出願公開、特開2019- 28973〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成29年7月28日に出願した特願2017-146837号の一部を平成29年12月20日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年12月20日 上申書,手続補正書の提出
平成30年 1月12日付け 拒絶理由通知書
平成30年 3月 8日 意見書,手続補正書の提出
平成30年 3月19日付け 拒絶査定
平成30年 6月27日 審判請求書,手続補正書の提出

第2 平成30年6月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年6月27日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項4の記載は,次のとおり補正された。(下線は,補正箇所である。)
「【請求項4】
近接センサと、
指紋センサによって自機器に接触して検出された指紋による認証が失敗すると、ディスプレイに前記近接センサによって検出される自機器に触れずに行うジェスチャの入力受付画面を表示させ、前記近接センサによって検出されたジェスチャに基づいて処理を実行するコントローラと、
を備える電子機器。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成30年3月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項4の記載は次のとおりである。
「【請求項4】
近接センサと、
指紋センサによって検出された指紋による認証が失敗すると、ディスプレイに前記近接センサによって検出されるジェスチャの入力受付画面を表示させ、前記近接センサによって検出されたジェスチャに基づいて処理を実行するコントローラと、
を備える電子機器。」

2 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項4に記載された発明を特定するために必要な事項である「指紋センサによって検出された指紋」及び「前記近接センサによって検出されたジェスチャ」について,上記のとおり限定を付加するものであって,補正前の請求項4に記載された発明と補正後の請求項4に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項4に記載される発明(以下,「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-158763号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置に関し、特にセキュリティ方法に関する。」

「【0010】
図1は本発明に係る情報処理装置を示す外観斜視図である。本実施形態では情報処理装置としてノート型のコンピュータ1を例に説明する。コンピュータ1は本体2を備え、本体2にはディスプレイユニット3がヒンジ部4を介して回動可能に取り付けられている。また、ディスプレイユニット3内にはLCD(Liquid Crystal Display)5から構成される表示装置が組み込まれる。本体2内には複数の電子部品を搭載した回路基板が収容されている。本体2の前上面2aには指紋センサ6が取り付けられ、本体2の後上面2bにはキーボード7が取り付けられている。
本体2の後上面2bにはコンピュータ1の電源をオン/オフするための電源スイッチ8も設けられている。
【0011】
図2は本発明の実施形態に係るコンピュータの構成を示すブロック図である。
コンピュータ1には、CPU10、ノースブリッジ11、主メモリ(RAM)12、グラフィックスコントローラ13、VRAM14、サウスブリッジ15、ハードディスクドライブ(HDD)16、BIOS-ROM17、指紋認証デバイス18、エンベデッドコントローラ/キーボードコントローラIC(EC/KBC)20、およびLCD5、指紋センサ6、キーボード7、電源スイッチ8等が設けられている。
【0012】
CPU10は、コンピュータ1の各コンポーネントの動作を制御するプロセッサである。このCPU10は、HDD16から主メモリ(RAM)12にロードされるオペレーティングシステムおよび各種アプリケーションプログラム/ユーティリティプログラムを実行する。主メモリ(RAM)12は、各種データバッファの格納にも用いられる。 また、CPU10は、BIOS-ROM17に格納されたBIOS(Basic Input Output System)も実行する。BIOSはハードウェア制御のためのプログラムである。」

「【0015】
サウスブリッジ15は、USB(Universal Serial bus)バスおよびLPC(Low Pin Count)バスにそれぞれ接続されている。指紋認証デバイス18はフラッシュメモリ18aを内蔵し、USBバスに接続される。指紋センサ6を介して入力された指紋データと、予め登録されフラッシュメモリ18aに格納されたユーザの指紋データとを照合し、照合結果に応じてコンピュータ1の使用の許可/禁止を設定する。」

「【0017】
図3は本発明の実施形態に係る認証動作を示すフローチャートである。コンピュータ1を使用する際には、キーボード7によるパスワード入力や指紋認証デバイス18による認証処理を行う。ユーザはまず第1の個人認証デバイスにより認証処理を行う(ステップ1-1)。この時の認証処理は、キーボード7によるパスワード入力であっても指紋センサ6による入力であっても良い。以下では、第1の個人認証デバイスとしてキーボード7を使用した例を説明する。ユーザによりパスワードが入力されると、入力されたパスワードと予め登録されたパスワードとを照合し、登録されたパスワードと一致した場合は(ステップ1-2のYes)、認証成功と判断し(ステップ1-3)、以後、ユーザはコンピュータ1を使用することができる。認証に成功した時に、使用不能となっている個人認証デバイスがある時は(ステップ1-4のYes)、使用不能となっている個人認証デバイスを使用可能とする(ステップ1-5)。
【0018】
入力されたパスワードが、登録されたパスワードと一致しない時は(ステップ1-2のNo)、認証回数をカウントする(ステップ1-6)。認証回数をカウントし、既定回数に達していない時は(ステップ1-7のNo)、ユーザは既定回数までは繰り返しキーボード7によってパスワードを入力することができる。認証回数が既定回数に達した時は(ステップ1-7のYes)、キーボード7以外に使用することの可能な個人認証デバイスがあるかどうか判断する(ステップ1-8)。指紋認証デバイスなど、キーボード7以外に使用可能な個人認証デバイスがある時は(ステップ1-8のYes)、キーボード7によるパスワード入力を禁止し(ステップ1-9)、キーボード7によるパスワード入力が不可能であることをユーザに通知するため、例えば図4に示すようなメッセージをLCD5に表示する(ステップ1-10)。メッセージを表示した後、使用が禁止されていないデバイスによる認証処理を行い(ステップ1-11)、入力されたデータが正しいかどうかを判断する(ステップ1-2)。複数の個人認証デバイスで認証処理を行った結果、それぞれの個人認証デバイスによる認証回数が既定回数に達して使用が禁止され、使用可能な個人認証デバイスがない時は(ステップ1-8のNo)、認証失敗と判断する(ステップ1-11)。認証失敗と判断されると、キーボード7や指紋センサ6による以後の認証処理が不可能となる。」

【図3】

上記記載から,以下のことがいえる。
(a)段落【0017】の記載から,引用文献1には,第1の個人認証デバイスとして指紋認証デバイス18による認証処理についても記載されているといえる。
(b)そして,段落【0018】の記載から,第1の個人認証デバイスによる認証処理,即ち,指紋認証デバイスによる認証の失敗が規定回数に達した場合に,指紋認証デバイスによる認証が不可能であることをユーザに通知し,使用が禁止されていないデバイスによる認証を行うことが記載されている。

(イ) してみると,引用文献1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「本体の前上面に取り付けられた指紋センサと,
指紋センサを介して入力された指紋データと,予め登録されフラッシュメモリ18aに格納されたユーザの指紋データとを照合し,照合結果に応じてコンピュータの使用の許可/禁止を設定する指紋認証デバイスと,
各コンポーネントの動作を制御するCPUを有し,
指紋認証デバイスによる認証の失敗が規定回数に達した場合に,指紋認証デバイスによる認証が不可能であることをユーザに通知し,
使用が禁止されていないデバイスによる認証を行う,
コンピュータ。」

イ 引用文献2
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された特開2015-201174号公報(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
開示技術は、ユーザ認証方法、システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
パスワードや個人認証番号(PIN)は、パーソナルコンピュータやモバイルコンピューティングデバイス、オンラインアカウントへのアクセスを獲得する最も広く用いられている方法である。広く用いられている方法であるため、ユーザに十分に理解されている。
・・・ 中 略 ・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、知識ベースのシステムには欠点がある。例えば、あるシステムは、適切なセキュリティを確保するため、ユーザに複雑なパスワードを覚えることを求める。また、多くのパスワード保護デバイスやアカウントが進化するにつれ、ユーザは、複数のパスワードやパスワード変形を覚える必要があり、ログオンプロセスの心理的負担が増える。場合によっては、ユーザはセキュリティを無視して、パスワードのすべてを書き留める。
【0005】
従前のパスワード入力はまた、“ショルダーハック”による攻撃に陥りやすい。この問題は、公衆の監視システムやモバイルデバイスの使用増加により悪化している。更には、従前のタッチベースのPIN入力スキームは、(攻撃者が他人のモバイルデバイスの近くに存在する場合、)攻撃者がタッチスクリーンの汚れによってPINや他のアクセスコードを推測することができる “スマッジアタック”による攻撃に陥りやすい。
【0006】
ある生体認証システムは近距離では動作しないので、モバイルデバイスや人が座っている間は上手く動作しない。また、単一基準点を用いる生体認証は、セキュアで十分な一意性を提供することができない。ある生体認証システムはタッチスクリーンのジェスチャを用いる。そのようなシステムは2次元でのジェスチャに限られ、スクリーン内の動作に限られる。これは、小さなモバイルデバイスにおいてとりわけ制限される。また、そのようなシステムはスマッジアタックの影響を受けやすい。
【0007】
本発明は、関連する知識ベースまたはジェスチャベースの認証スキームよりも高い正確性を持ち、ショルダーハック攻撃やスマッジアタックに対して対応可能な3D(3次元)空中ハンドジェスチャを用いた生体ユーザ認証方法、システム、及びプログラムを提供する。」

「【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示は、短距離深度カメラによって追跡され、コンピューティングデバイス付近で行われた空中ボディジェスチャ(例えば、ハンドジェスチャ)を用いた新規認証システムについて説明する。ユーザの手の特定箇所(例えば、指先や手中央)を追跡することにより、ユーザは個人認証ジェスチャを生成し、それを生体セキュリティレイヤとして用いることができる。開示システムは、認証について高い正確性を期すため、説明するユーザの生体(例えば、どのようにユーザが現われるか)、ユーザの動作スタイル(例えば、どのようにユーザが振る舞うか)、ジェスチャベースの認証秘匿(例えば、ユーザは何を知るか)を統合する。ジェスチャベースの認証は、知識ベースの認証の標準に加えまたはその代わりに用いることができる。多くの実装は片手のジェスチャを利用するが、他の実装は、手に加えまたはその代わりに(例えば、両手、手と腕、顔等)他の身体部位を利用する。
【0031】
ある実装は、関連する知識ベースまたはジェスチャベースの認証スキームよりも高い正確性を持つ。また、開示の実装はショルダーハック攻撃に対してより対応できる。さらに、開示の認証技術はタッチレスであるため、スマッジアタックに対して本質的に対応ができる。
【0032】
本開示には、(1)深度センサを用いたジェスチャ入力データのセグメント化、(2)、ジェスチャデータの前処理と特徴ベクトルの生成(3)登録データのジェスチャテンプレートの構成、(4)ジェスチャ入力の時間変化によるジェスチャテンプレートの更新、の技術を含む。
【0033】
ある実装では、深度センサはコンピューティングデバイスに備っている。ある実装では、深度センサはコンピューティングデバイスの一部として統合されている。ここで用いられる通り、深度センサは、関連付けられたドライバソフトウエアを用いてオブジェクトの3D位置を決定するために、用いられるデータを生成するどのようなデバイスであってもよい。適切なドライバソフトウエアを用いるときには、例えば、ビデオカメラやビデオセンサまたはイメージセンサが、深度センサであってよい。コンピューティングデバイスには、デスクトップコンピュータやラップトップコンピュータ、スマートフォン等を含む。深度センサは、デバイス付近でユーザが行ったハンドジェスチャを観測することができる。ユーザは平均化された複数のサンプルを用いて“ジェスチャパスワード”を一般に生成し、ジェスチャパスワードは後にユーザ認証に用いられる。」

(イ)上記記載から,引用文献2には以下の事項(以下,「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

「コンピュータデバイス付近で行われた空中ボディジェスチャを,コンピュータデバイスに備わった深度センサにより追跡し,認証に用いること。」

ウ 周知技術
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2016/132876号公報(以下,「引用文献5」という。)には,図面とともに次の記載がある。

「[0029] 検知しない場合は、メッセンジャーアプリケーション113は引き続き未読メッセージの古い順から読み上げるように音声情報を出力し(S307)、最新メッセージの読み上げ制御が終了した場合、表示部108および外部表示部109に図4(d)のように最後の送信者の表示をさせたまま、返信操作待ちの状態になる(S309)。返信操作待ちの状態では、メッセンジャーアプリケーション113は外部表示部109に図5(a)のように、ジェスチャーによる返信操作が可能であることを示すアイコン501を表示させる。」

(イ)原査定の拒絶の理由に引用された特開2015-231518号公報(以下,「引用文献6」という。)には,図面とともに次の記載がある。

「【0030】
入力受付処理部305は、上記入力受付条件判定部304において現在の操作者の状態がジェスチャ・音声による操作情報の入力受付条件を満たしていると判定された場合に、ジェスチャ入力受付モードを設定して、ジェスチャ・音声入力を受付中であることを示すアイコン41を、モニタ3の表示画面に表示する。そして、センサユニット6のカメラ61により得られた操作者の画像データ、及びマイクロフォン62により得られた操作者の音声データから、それぞれ操作者のジェスチャ及び音声を認識する。そして、この認識したジェスチャ及び音声により表される操作情報の妥当性を判断し、妥当であれば当該ジェスチャ及び音声により表される操作情報を受け付ける。」

(ウ)上記(ア)及び(イ)の記載から,以下の事項は周知技術(以下,「周知技術」という。)であるといえる。

「ジェスチャの入力を受け付ける際に,表示画面にジェスチャの入力を受付中であることを示すアイコンを表示すること。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「指紋センサ」及び「コンピュータ」は,それぞれ本件補正発明の「指紋センサ」及び「電子機器」に相当する。

(イ)引用発明の「指紋認証デバイス」は,「指紋センサを介して入力された指紋データと,予め登録されフラッシュメモリ18aに格納されたユーザの指紋データとを照合し,照合結果に応じてコンピュータの使用の許可/禁止を設定する」から,引用発明の「指紋認証デバイスによる認証」は,「指紋センサ」が,指を「指紋センサ」に接触することにより指紋を読み取るセンサであることを考慮すると,本件補正発明の「指紋センサによって自機器に接触して検出された指紋による認証」に相当する。
そうすると,引用発明の「指紋認証デバイスによる認証の失敗が規定回数に達した場合に」,「使用が禁止されていないデバイスによる認証を行う」ことと,本件補正発明の「指紋センサによって自機器に接触して検出された指紋による認証が失敗すると、ディスプレイに前記近接センサによって検出される自機器に触れずに行うジェスチャの入力受付画面を表示させ、前記近接センサによって検出されたジェスチャに基づいて処理を実行する」こととは,「指紋センサによって自機器に接触して検出された指紋による認証が失敗すると,他の機器により認証を実行する」点で共通する。

(ウ)引用発明の「CPU」は,各コンポーネントの制御を行っているから,本件補正発明の「コントローラ」に相当する。

(エ)そうすると,本件補正発明と引用発明とは以下の点で一致し,又相違する。

[一致点]
「指紋センサによって自機器に接触して検出された指紋による認証が失敗すると,他の機器により認証を実行するコントローラを備える電子機器。」

[相違点1]
本件補正発明が「近接センサ」を備え,「指紋センサによって自機器に接触して検出された指紋による認証が失敗すると,他の機器により認証を実行する」際に,「前記近接センサによって検出されたジェスチャに基づいて処理を実行する」のに対して,引用発明は「近接センサ」を備えておらず,また,「近接センサ」を備えていないために,「指紋センサによって自機器に接触して検出された指紋による認証が失敗すると,他の機器により認証を実行する」際に,「前記近接センサによって検出されたジェスチャに基づいて処理を実行する」ことを行っていない点。

[相違点2]
本件補正発明が「近接センサ」を備え,「指紋センサによって自機器に接触して検出された指紋による認証が失敗すると,他の機器により認証を実行する」際に,「ディスプレイに前記近接センサによって検出される自機器に触れずに行うジェスチャの入力受付画面を表示させ」ているのに対して,引用発明は「近接センサ」を備えておらず,また,「近接センサ」を備えていないために,「指紋センサによって自機器に接触して検出された指紋による認証が失敗すると,他の機器により認証を実行する」際に,「ディスプレイに前記近接センサによって検出される自機器に触れずに行うジェスチャの入力受付画面を表示させ」ることを行っていない点。

(4)判断
以下,各相違点について検討する。
ア [相違点1]について
引用文献2記載事項にあるように,「コンピュータデバイス付近で行われた空中ボディジェスチャを,コンピュータデバイスに備わった深度センサにより追跡し,認証に用いること」は,公知の技術であり,引用発明において「深度センサ」を備えるようにし,「深度センサ」を使ったジェスチャによる認証を,引用発明の「使用が禁止されていないデバイスによる認証」に採用することは,当業者が容易に想到することである。
そして,「深度センサ」は,コンピュータデバイス付近で行われた空中ボディジェスチャを追跡するものであるから,本件補正発明の「近接センサ」に相当する。
そうすると,引用発明において,「近接センサ」を備え,[相違点1]に係る処理を実行するようにすることに格別の困難性は認められない。

イ [相違点2]について
ジェスチャの入力を受け付ける際に,表示画面にジェスチャの入力を受付中であることを表示することは周知技術(上記(2)ウ参照。)であり,また,引用発明においても「指紋認証デバイスによる認証が不可能であることをユーザに通知」しているように,各種のメッセージを表示することを行っているから,上記アで検討したように,引用発明において,「近接センサ」を備え,[相違点1]に係る処理を実行する際に,使用者の利便性を考慮して,[相違点2]に係る表示を行うようにすることは,当業者が容易になし得ることである。

ウ そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献2記載事項並びに周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

エ したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用文献2記載事項並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正発明についてのむすび
よって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年6月27日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成30年3月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項4に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,その請求項4に記載された事項により特定される前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1ないし12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

<引用文献等一覧>
1.特開2008-158763号公報
2.特開2015-201174号公報
3.特開2014-146862号公報
4.特開2012-216053号公報
5.国際公開第2016/132876号
6.特開2015-231518号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1,2,5及び6並びにその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明の「指紋センサによって自機器に接触して検出された指紋」及び「前記近接センサによって検出された自機器に触れずに行うジェスチャ」の,「検出」及び「ジェスチャ」について,それぞれ「自機器に接触して」及び「自機器に触れずに行う」との限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用発明及び引用文献2記載事項並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び引用文献2記載事項並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-06-27 
結審通知日 2019-07-02 
審決日 2019-07-16 
出願番号 特願2017-243917(P2017-243917)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩橋 龍太郎  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 小田 浩
稲葉 和生
発明の名称 電子機器、プログラムおよび制御方法  
代理人 河合 隆慶  
代理人 杉村 憲司  

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