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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60W
管理番号 1354869
審判番号 不服2018-13718  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-16 
確定日 2019-09-05 
事件の表示 特願2016-176539「走行制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年3月15日出願公開、特開2018-41379〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年9月9日の出願であって、その手続きの経緯は以下のとおりである。
平成30年 2月27日(発送日):拒絶理由通知書
平成30年 4月20日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 7月24日(発送日):拒絶査定
平成30年10月16日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成30年10月16日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年10月16日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1についてみると、本件補正により補正される前の(すなわち、平成30年4月20日に提出された手続補正書による)下記の(1)の記載を下記の(2)の記載に補正するものである(下線は補正箇所を示す。)。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1

「【請求項1】
運転者の運転操作を要さずに走行可能な自動運転又は運転者の運転操作を補助する自動運転を制御する走行制御装置であって、
前記自動運転における車両の走行に関する制限を設定し、
前記車両が停止状態でない場合若しくは前記車両が徐行状態でない場合又は前記停止状態若しくは前記徐行状態を判定する車速閾値を車速が上回る場合と比較して、前記車両が前記停止状態である場合若しくは前記車両が前記徐行状態である場合又は前記車速が前記車速閾値を下回る場合における前記制限を緩和し、
信号機が赤信号である場合、前記車両が走行可能な走行可能領域を制限する
ことを特徴とする走行制御装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1

「【請求項1】
運転者の運転操作を要さずに走行可能な自動運転又は運転者の運転操作を補助する自動運転を制御する走行制御装置であって、
前記自動運転における車両の発進、減速又は旋回に関する車体挙動量の上限値を設定し、
前記車両が停止状態でない場合若しくは前記車両が徐行状態でない場合又は前記停止状態若しくは前記徐行状態を判定する車速閾値を車速が上回る場合と比較して、前記車両が前記停止状態である場合若しくは前記車両が前記徐行状態である場合又は前記車速が前記車速閾値を下回る場合における前記車体挙動量の前記上限値を緩和し、
信号機が赤信号である場合、前記車両が走行可能な走行可能領域を制限し、
前記車体挙動量には、前記車両のヨーレートが含まれる
ことを特徴とする走行制御装置。」

2 本件補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明における「車両の走行に関する制限」という発明特定事項について、「車両の発進、減速又は旋回に関する車体挙動量の上限値」及び「前記車体挙動量には、前記車両のヨーレートが含まれる」と限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

3 独立特許要件
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2012-116366号公報(以下「引用文献1」という。)には、「走行支援装置」に関して、図面(特に図1、2、6及び7)とともに次の記載がある(なお、下線部は当審が付与したものである。以下同様。)。

(ア)「【0001】
本発明は、自車両の走行を支援する走行支援装置に関する。」

(イ)「【0015】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る走行支援装置を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態の走行支援装置10は、走行支援ECU(Electronic Control Unit)3を備えている。走行支援ECU3は、CPU[Central Processing Unit]や各種メモリなどからなり、走行支援装置10を統括制御する。走行支援ECU3は、メモリに格納されている各アプリケーションプログラムをロードし、CPUで実行することによって後述する各種機能を実現する。この走行支援ECU3には、例えば、車輪速センサ11、表示装置21、スピーカ22及びアクチュエータ23が接続されている。
【0016】
車輪速センサ11は、自車両の車輪の回転速度を検出するセンサである。車輪速センサ11は、検出した車輪の回転速度を車輪速信号として走行支援ECU3へ送信する。
【0017】
走行支援ECU3は、自車両状態取得部31、履歴保存部32、効率値算出部(効率値算出手段)33、制限操作量設定部(制約条件変更手段)34、走行支援制御部35及び標準制限操作量DB36を備えている。
【0018】
自車両状態取得部31は、車輪速センサ11の計測値を所定時間毎(例えば、1秒毎)に参照し、自車両の車速を取得する。なお、自車両の車速は、車輪速センサ11ではなく、GPS等の車載機器を用いたり、路上に設置されたセンサからの情報を受信して取得してもよい。自車両状態取得部31は、取得された自車両の車速を履歴保存部32に出力する。
【0019】
履歴保存部32は、自車両状態取得部31により取得された自車両の車速の履歴を所定時間にわたり保存する。すなわち、履歴保存部32は、時系列の自車両の車速を履歴として保存する。所定時間として、例えば、20分間が用いられる。なお、履歴保存部32は、該所定時間より古い履歴を逐次削除することで、保存容量を節約することが好ましい。
【0020】
効率値算出部33は、履歴保存部32により保存された、自車両の車速の履歴に基づいて、障害物がない環境下における自車両の行動に対する遅延度である効率値を算出する。効率値算出部33は、例えば、障害物がない環境下における自車両の行動の所要時間と、現在又は将来の環境下における自車両の行動の所要時間とを比較することで、障害物がない環境下における自車両の行動を基準として時間的な遅延の度合いを示す遅延度を求め、効率値を算出する。例えば、効率値算出部33は、標準的な道路環境を障害物がない環境下とし、この標準的な道路環境における効率値を0(基準値)とする。そして、効率値算出部33は、現在又は将来の環境下における自車両の行動の所要時間が、障害物がない環境下における自車両の行動の所要時間と比較して遅延度を求め、遅延度に基づいて自車両の効率値を-1から1までの値として算出する。効率値算出部33は、算出した効率値を制限操作量設定部34に出力する。」

(ウ)「【0021】
制限操作量設定部34は、自車両の制限操作量(制約条件)を設定する。制限操作量とは、走行支援装置が走行支援可能な最大又は最小の操作量であり、例えば転舵角、操舵角速度、ブレーキ操作量、前後方向加速度又は横方向加速度等を制限するものである。制限操作量設定部34は、標準制限操作量DB36を参照可能に構成されている。標準制限操作量DB36には、標準的な道路環境において用いられる制限操作量である標準制限操作量が予め格納されている。この標準制限操作量は、一般的な運転者が日常の運転で用いている操作量の制限に基づいて決定されるものである。
【0022】
制限操作量設定部34は、効率値算出部33により算出された効率値と標準制限操作量DB36を参照して取得した標準制限操作量とに基づいて、制限操作量を設定する。制限操作量設定部34は、効率値が0よりも小さい場合には制限操作量が大きくなるように設定する。すなわち、この場合は自車両の操作量の制限が緩和される。一方、効率値が0以上の場合には、標準制限操作量を制限操作量とする。なお、効率値が0よりも大きい場合には、標準制限操作量よりも制限操作量を小さくしても良い。このようにすることで、運転者又は乗員の乗り心地を向上させる走行支援を実施することができる。
【0023】
ここで、説明理解の容易性を考慮して、制限操作量と車両の快適性及び利便性との関係について、図2を参照して説明する。走行支援装置10が走行支援を実施するにあたり、図2(a)に示すように、走行支援装置10がとりうる進路は大量に存在する。走行支援装置10は、図2(b)、(c)、(d)に示すように、それぞれ安全性、交通ルール、快適性・利便性の順に進路を絞り込むことにより進路を決定する。制限操作量設定部34は、制限操作量を変更することで、図2(d)で示される快適性及び利便性による進路の制約を変更する。制限操作量設定部34が制限操作量を緩く設定した場合には、快適性よりも利便性が優先される。すなわち、運転支援として操作できる最大の操作量を大きくするほど、あるいは最小の操作量を小さくするほど、車両の乗り心地よりも車両の走行能力を発揮することが重視される。従って、制限操作量設定部34が制限操作量を緩く設定した場合には、走行支援装置10は、標準的な制限操作量と比較してより遠くに行ける進路、又は、より早くいける進路を選択することができる。」

(エ)「【0027】
アクチュエータ23は、走行支援ECU3から出力される走行支援信号に基づいて、ドライバーの運転操作に介入して、自車両のブレーキやアクセルを駆動させるブレーキアクチュエータやアクセルアクチュエータである。」

(オ)「【0028】
次に、本実施形態に係る走行支援装置の動作について説明する。図6は、本実施形態に係る走行支援装置の動作を示すフローチャートである。図6に示す一連の走行支援処理は、例えば走行支援ECU3において予め設定された所定周期で繰り返し実行される。なお、以下では制限操作量として標準制限操作量が予め設定されているものとする。
【0029】
まず、走行支援が開始されると、自車両状態取得部31は、走行情報を取得する(S11)。自車両状態取得部31は、走行情報として、少なくとも車輪速センサ11の出力結果に基づいて自車両の車速を取得する。
【0030】
次に、履歴保存部32は、S11の処理で取得された自車両の車速の履歴を所定時間にわたり保存する(S12)。そして、効率値算出部33は、履歴保存部32により保存されている自車両の車速の履歴を読み出し、読み出された車速の履歴に基づいて効率値を算出する(S13)。効率値算出部33の効率値算出方法について、2つの方法を例として以下に示す。
【0031】
第1の方法は、自車両が低速で走行している時間に応じて効率値を決定するものである。この場合、信号待ちの場合にも効率値が低下することになるので、自車両が低速(例えば5km/h以下)になってから所定時間(例えば1分間)効率値を低下させないようにすることが好ましい。
【0032】
第2の方法は、自車両の平均速度に基づいて効率値を決定するものである。この方法では、履歴保存部32により保存される自車両の車速の履歴を、例えば直近の5分間、5?10分前、10?15分前、15?20分前のように時系列に4分割し、それぞれの範囲における平均車速v0,v1,v2,v3を求める。続いて、下記の式(1)に示すように平均車速v0とv0,v1,v2の平均値との差分を求める。
d=v0-(v1+v2+v3)/3 (1)
差分dが0以上であれば差分dの値に応じて効率値を増加させる。一方、差分dが0未満であれば差分dの値に応じて効率値を減少させる。また、効率値を増減させるまでに所定の時間のマージンを設けることで、効率値を安定させることができる。
【0033】
続いて、制限操作量設定部34は、S13の処理で算出された効率値が低下しているか否かを判断する(S14)。制限操作量設定部34は、効率値が低下していると判断した場合には、効率値に応じて制限操作量を緩和する(S15)。一方、制限操作量設定部34は、効率値が低下していないと判断した場合には、制限操作量は変更しない。以上で、図6に示す一連の処理を終了し、制限操作量を用いて走行支援が実行される。
【0034】
図6に示す制御処理を実行することにより、効率値算出部33により自車両の効率値が算出され、制限操作量設定部34により効率値が低いほど制約条件が緩和される。このように、自車両にとっての効率値を勘案して、自車両に許される行動の幅を広げることができる。これにより、車両の行動が、固定された制限値の上限に縛られることがないため、運転者又は乗員が多少乗り心地を犠牲にしても旅行時間等を優先させたいと感じる場面において、適切な運転支援が行われ、結果として運転者又は乗員に違和感を与えることを回避できる。例えば、図7に示す状況を用いて具体的に説明する。図7は、自車両V0が交差点を右折するために停車している場面を示している。対向車両の交通流が大きく、自車両が安全に右折するために必要な車間距離がとれないため、自車両は右折が可能な車間距離がとれるまで交差点内で停止しているものとする。この場合、障害物がない環境下、すなわち対向車両が存在しない場合の行動に比較して、現在の状況では自車両V0の車速がほぼ0となる停止状態であるため効率値が低下する。そうすると、制限操作量設定部34により制限操作量が緩和され、例えば、自車両V0が選択できる前後方向加速度と横加速度の制限が緩和される。例えば、通常の発進加速度の最大を0.1G、横Gの最大を0.2Gと設定していた場合には、発進加速度の最大を0.15G、横Gの最大を0.3Gと設定する。これにより、右折に必要となる車間距離が短縮されるので、右折可能な機会(タイミング)を増やすことができる。結果、早期に右折を行うことが可能になる。また、右折後に通常通り走行を行っている際には、効率値が0付近に戻るため、急激な操作が実施されずに快適性を維持した走行支援が実施される。

(カ)「【0037】
以上、第1実施形態に係る走行支援装置10によれば、効率値算出部33により障害物がない環境下における自車両の行動に対する遅延度を示す効率値が算出され、制限操作量設定部34により効率値が低いほど制約条件が緩和される。このように、効率値が低く、走行支援を実行する必要性が高い場合には、走行支援装置10に許される行動の幅を広げることにより、乗り心地等の快適性を常に追求するのではなく、状況に応じて目的地到着時間の短縮等の利便性が著しく損なわれることを回避することができる。よって、運転者又は乗員に与える違和感を低減することが可能となる。
【0038】
また、第1実施形態に係る走行支援装置10によれば、制限操作量設定部34により効率値が低いほど自車両の操作量に関する条件が緩和された上で、走行支援が実行される。このように、効率値が低下している場合に、走行支援装置10に許される操作量の幅を広げることにより、運転者又は乗員に与える違和感を低減することができる。」

(キ)「【0093】
また、第1実施形態では、制限操作量設定部34が、効率値を参照して制限操作量を設定しているが、予め効率値に応じた制限操作量を標準制限操作量DB36に格納しておいてもよい。なお、本明細書における走行支援とは、運転者への注意喚起や介入制御を実施することによる運転支援のみでなく、自動運転を含むものである。よって、本発明に係る走行支援装置は、自動運転システムに搭載され、制限操作量に基づいて自動運転を行う装置として構成されてもよい。」

上記記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

<引用発明>
「自動運転又は運転者への介入制御を実施することによる運転支援を行う走行支援装置であって、
前記自動運転又は前記運転支援における車両の前後方向加速度、ブレーキ操作量、転舵角、操舵角速度又は横方向加速度に関する制限操作量を設定し、
車両が交差点を右折するために停車している場合に、対向車両が存在しない場合の行動に比較して、効率値が低下し、前後方向加速度と横方向加速度の制限操作量が緩和される、
走行制御装置。」

イ 引用文献2
同じく原査定に引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2007-219743号公報(以下「引用文献2」という。)には、「自動車用走行制御システム」に関して、次の記載がある。

(ア)「【0029】
信号点灯情報取得プログラムは、自車両が上記接近条件を充足することで起動し、図5に示すようにまず、S31にてこのときCCDカメラ12aが撮影した画像を取得し、S32にてその画像の監視領域2内に存在する信号機50の点灯色(点灯情報)を認識する画像処理がなされ、その点灯色が赤、黄、青のいずれかであるかを特定してプログラムを終了する(S33?S38)。これにより、自車両が次に接近する目標信号機の点灯情報が取得される。なお、こうした信号機の点灯情報は、信号機から自車両に無線送信されて検知されるものであってもよい。なお、接近条件として、CCDカメラ12a前方視野撮影した画像の監視領域2に映る点灯色の径(直径又は半径)の大きさを用いることも可能であり、その径が予め定められた値以上にあるときに信号点灯情報が取得されるように構成されていてもよい。」

(イ)「【0033】
S4にて自車両が走行中であった場合には、S5に進み、目標信号機に一番近いところにいるか否かを判定する。即ち、その目標信号機と自車両との間に他車両が存在せず、自車両が先頭車両となって目標信号機に接近しているか否かを判定する。これは、前方監視装置12による前方車両認識結果と、S3において自動車用ナビゲーション装置20により得た信号機の位置情報に基づいて判定される。S5にて自車両が目標信号機に対して先頭にいると判定された場合には、S6にて目標信号機の点灯状態を判定し、赤であればS7に進んで減速制御を行なって自車両を停止させ(停止制御)、S23に進む。赤以外であればS8に進み、レーザーレーダ10が検知する車間距離が、外部メモリ13dの記憶する臨界範囲(クルーズ検知エリア)内に入っているか否かを判定する。入っている場合にはS9にて前方車両の追従走行が実行され、S23に進む。入っていない場合にはS10にて現在の走行状態が継続され、S23に進む。」

上記記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

<引用文献2記載事項>
「目標信号機の点灯状態を判定し、赤であれば減速制御を行なって自車両を停止させること。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「自動運転」は前者の「運転者の運転操作を要さずに走行可能な自動運転」に相当し、以下同様に、「運転者への介入制御を実施することによる運転支援」は「運転者の運転操作を補助する自動運転」に、「走行支援装置」は「走行制御装置」に、それぞれ相当する。
したがって、後者の「自動運転又は運転者への介入制御を実施することによる運転支援を行う走行支援装置」は前者の「運転者の運転操作を要さずに走行可能な自動運転又は運転者の運転操作を補助する自動運転を制御する走行制御装置」に相当する。
後者の「車両の前後方向加速度、ブレーキ操作量、転舵角、操舵角速度又は横方向加速度に関する制限操作量」は、走行支援装置が走行支援可能な最大の操作量のことであるから、「車両の発進、減速又は旋回に関する車体挙動量の上限値」に相当する。
後者の「車両が交差点を右折するために停車している」は、前者の「停止状態」に相当し、同様に、「対向車両が存在しない場合の行動」は、交差点において右折動作を伴いつつ走行を継続する行動であるから、「停止状態でない」ことに相当する。
したがって、後者の「車両が交差点を右折するために停車している場合に、対向車両が存在しない場合の行動に比較して、効率値が低下し、前後方向加速度と横方向加速度の制限操作量が緩和される」と、前者の「前記車両が停止状態でない場合若しくは前記車両が徐行状態でない場合又は前記停止状態若しくは前記徐行状態を判定する車速閾値を車速が上回る場合と比較して、前記車両が前記停止状態である場合若しくは前記車両が前記徐行状態である場合又は前記車速が前記車速閾値を下回る場合における前記車体挙動量の前記上限値を緩和し」とは、「車両が停止状態でない場合と比較して、前記車両が前記停止状態である場合における車体挙動量の上限値を緩和」するという限りで一致する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、次の一致点、相違点がある。

〔一致点〕
「運転者の運転操作を要さずに走行可能な自動運転又は運転者の運転操作を補助する自動運転を制御する走行制御装置であって、
前記自動運転における車両の発進、減速又は旋回に関する車体挙動量の上限値を設定し、
前記車両が停止状態でない場合と比較して、前記車両が前記停止状態である場合における前記車体挙動量の前記上限値を緩和する、
走行制御装置。」

〔相違点1〕
車体挙動量の上限値を緩和する点に関し、本願補正発明は、「車両が停止状態でない場合若しくは前記車両が徐行状態でない場合又は前記停止状態若しくは前記徐行状態を判定する車速閾値を車速が上回る場合と比較して、前記車両が前記停止状態である場合若しくは前記車両が前記徐行状態である場合又は前記車速が前記車速閾値を下回る場合」に行うのに対して、引用発明は、車両が停止状態でない場合と比較して、車両が前記停止状態である場合に行う点。

〔相違点2〕
本願補正発明は、「信号機が赤信号である場合、車両が走行可能な走行可能領域を制限」するのに対し、引用発明は、かかる構成を備えていない点。

〔相違点3〕
本願補正発明は、「車体挙動量には、車両のヨーレートが含まれる」のに対し、引用発明は、制限操作量にヨーレートが含まれるか否かが不明である点。

(4)当審の判断
上記相違点1ないし3について検討する。

ア 相違点1について
相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項は、車体挙動量の上限値を緩和する場合が、車両が停止状態でない場合若しくは前記車両が徐行状態でない場合又は前記停止状態若しくは前記徐行状態を判定する車速閾値を車速が上回る場合、のいずれか一つと比較して、車両が前記停止状態である場合若しくは前記車両が前記徐行状態である場合又は前記車速が前記車速閾値を下回る場合、のいずれか一つの場合におけるものである。
そして、引用発明は、車両が停止状態でない場合と比較して、車両が停止状態である場合に、車体挙動量の前記上限値を緩和するものであるから、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を満たしていることになる。 したがって、上記相違点1は実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について
自動運転において「目標信号機の点灯状態を判定し、赤であれば減速制御を行なって自車両を停止させること」は、周知技術といえる(例えば、上記引用文献2記載事項を参照。)。
そして、引用発明と周知技術とは、走行制御装置に関する技術である点で共通する。
さらに、引用発明に周知技術を適用することについての格別な阻害要因を見いだすこともできない。
そうすると、引用発明において、上記周知技術を考慮し、「信号機が赤信号である場合、車両が走行可能な走行可能領域を制限」して、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
引用発明は、車両の横方向加速度に関する制限操作量を設定するものである。
そして、ヨーレートは、横方向加速度とともに、車体の旋回の挙動に関するパラメータであるということが技術常識である。
そうすると、引用発明において、上記技術常識を踏まえ、車体挙動量として、車両のヨーレートも選択して、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

エ 効果について
本願補正発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

オ まとめ
上記アないしエにより、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本願補正発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年10月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成30年4月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1及び3に記載された事項に基いて、その出願前にその発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2012-116366号公報
引用文献3:特開2007-219743号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された、引用文献1及び引用文献3(なお、原査定の引用文献3は、本審決における「引用文献2」である。)並びにその記載事項は、前記第2の[理由]3(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願補正発明は、前記第2の[理由]2で検討したとおり、本願発明に発明特定事項を付加して限定したものであるから、本願発明は、本願補正発明の発明特定事項の一部を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2の[理由]3(3)(4)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-08 
結審通知日 2019-07-09 
審決日 2019-07-25 
出願番号 特願2016-176539(P2016-176539)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60W)
P 1 8・ 121- Z (B60W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 賢明神山 貴行川口 真一  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 齊藤 公志郎
鈴木 充
発明の名称 走行制御装置  
代理人 坂井 志郎  
代理人 関口 亨祐  
代理人 千馬 隆之  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 仲宗根 康晴  
代理人 宮寺 利幸  

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