• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1354903
審判番号 不服2017-17061  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-17 
確定日 2019-09-04 
事件の表示 特願2015-503529「組織厚さコンペンセーティング材料を外科用ステープル留め器具に取り付けるための装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月 3日国際公開、WO2013/148836、平成27年 5月18日国内公表、特表2015-513964〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)3月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012(平成24)年3月28日、米国(US))を国際出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成29年 2月 9日付け:拒絶理由通知書
平成29年 4月25日 :意見書・手続補正書の提出
平成29年 8月14日付け:拒絶査定
平成29年11月17日 :審判請求書・手続補正書の提出
平成30年 4月 5日 :上申書

第2 平成29年11月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年11月17日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線は、当審で付与した。以下同様。)

「【請求項1】
外科用ステープル留め器具であって、
発射動作が加わることに動作可能に応じる複数の外科用ステープルを内部に支持する第1の掴み具と、
前記第1の掴み具に対して移動可能に支持された第2の掴み具であって、前記第2の掴み具に閉鎖動作が加わると前記第2の掴み具の一部が前記第1の掴み具に対して対面関係に移動可能である、第2の掴み具と、
前記外科用ステープルに前記発射動作が加わると、前記外科用ステープル内に捕捉され、異なる外科用ステープル内で異なる圧縮高さを呈するように構成され、前記外科用ステープル内に捕捉された組織の様々な厚さを補い得る組織厚さコンペンセーターと、
前記組織厚さコンペンセーターの対応部分を取り外し可能に機械的に取り付けるための、前記第1及び第2の掴み具のうちの一方上に設けられた少なくとも1つの取付用突出部と、を備え、
前記組織厚さコンペンセーターが、組織と共に前記外科用ステープル内に捕捉されている際に、前記外科用ステープルが前記第2の掴み具により屈曲された状態の高さであるステープルの形成高さをHとした場合、前記組織厚さコンペンセーターは、1/9H以下の高さとなることができ、及び、7/9H以上の高さとなる事ができる、外科用ステープル留め器具。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成29年4月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
外科用ステープル留め器具であって、
発射動作が加わることに動作可能に応じる複数の外科用ステープルを内部に支持する第1の掴み具と、
前記第1の掴み具に対して移動可能に支持された第2の掴み具であって、前記第2の掴み具に閉鎖動作が加わると前記第2の掴み具の一部が前記第1の掴み具に対して対面関係に移動可能である、第2の掴み具と、
前記外科用ステープルに前記発射動作が加わると、前記外科用ステープル内に捕捉され、異なる外科用ステープル内で異なる圧縮高さを呈するように構成され、前記外科用ステープル内に捕捉された組織の様々な厚さを補い得る組織厚さコンペンセーターと、
前記組織厚さコンペンセーターの対応部分を取り外し可能に機械的に取り付けるための、前記第1及び第2の掴み具のうちの一方上に設けられた少なくとも1つの取付用突出部と、を備える、外科用ステープル留め器具。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「組織厚さコンペンセーター」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された文献である、特開2009-6137号公報(平成21年1月15日公開。以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

「【0003】
(要旨)
有孔層および非有孔層を有するバットレスが本明細書において記載される。多層バットレスは、外科用ステープル止め装置と組み合わせて使用するために適しており、そして、組織の密閉を補助して、流体および気体の漏れを防止する。外科用ステープル止め装置は、少なくとも1つの開口部を備える表面を有するステープルカートリッジを備え、この開口部を通して、ステープルが駆出され得る。外科用ステープル止め装置はさらに、アンビルを備え、このアンビルは、表面を有し、この表面に対して駆出されたステープルが変形され得る。本開示に従うバットレスは、ステープルカートリッジ、アンビル、またはその両方のいずれかに実装され得る。」
「【0008】
本明細書に記載される多層外科用バットレスは、非有孔層および有孔層を有する少なくとも1つの多層外科用バットレスを含むステープル止め装置のステープルカートリッジとステープルアンビルとの間に創傷組織の縁部を近付け、そして、ステープル止め装置を始動して少なくとも1つのステープルに力を加え、そして、ステープルカートリッジの開口部と、少なくとも1つの多層バットレスと、組織と、ステープルアンビル上の開口部とを通して通過させ、組織を密閉することによって、創傷を密閉する際に使用され得る。いったん適所でステープル止めされると、有孔層は、有益に出血を減少させ、創傷を密閉することを補助し、そして、所望される場合、組織の内方増殖を可能にすることを補助し、一方で、非有孔層は、有孔層に対する支えを提供し、そして、癒着の形成を防止するのを補助し得る。さらに、多層バットレスは、必要に応じて、追加の補強部材(以下により詳細に記載されるように、吸収性であっても非吸収性であってもよい)を備え得、多層バットレスに対するさらなる支えを提供し、そして、ステープル止めの間の裂けの防止を補助する。」
「【0009】
バットレスは、ステープルカートリッジおよびアンビルの両方に実装される必要はないことが理解されるべきである。むしろ、バットレスは、ステープルカートリッジのみに実装され、アンビルには実装されないか、または、アンビルには実装され、ステープルカートリッジには実装されないこともある。さらに、本明細書中に記載される多層外科用バットレスは、あらゆる外科用のステープル止め装置、ファスナー止め装置、または、焼成装置にフィットするのに適した、あらゆる形状、大きさまたは寸法に構成され得る。本明細書中に記載される多層バットレス材料を利用し得るステープル止め装置の他の例としては、腹腔鏡ステープラー(例えば、米国特許第6,330,965号および同第6,241,139号(これらの全内容は本明細書中に参考として援用される)を参照のこと)、患者の腸間膜をステープル止めするための横吻合型の代替的なステープル止め装置(例えば、米国特許第5,964,394号(この全内容は本明細書中に参考として援用される))、および、円形のカートリッジとアンビルを用いて、腸間膜に外科吻合ステープル止めを行うための、端から端までを吻合するタイプ(例えば、米国特許第5,915,616号(この全内容は本明細書中に参考として援用される)を参照のこと)が挙げられる。本開示のバットレスはまた、2つの部分から構成されるファスナーを適用する機器と組み合わせて使用され得、この2つの部分から構成されるファスナーの第一の部分は、カートリッジまたは同様の部材内に格納され、そして、始動され、アンビルまたは同様の部材内に配置される2つの部分から構成されるファスナーの第二の部分へと適切に結合され得る。本開示を読んだ当業者は、このような装置と組み合わせて使用するために本開示のバットレスをいかにして適合させるかを容易に想定し、そしてまた、本明細書中に記載されるバットレスと共に使用され得る他の外科用装置も想定する。」
「【0010】
ここで、図3Aおよび3Bを参照すると、バットレス350は、非有孔層360および有孔層370を有するように示される。バットレス350は、複数の層を含み得、この複数の層において、非有孔層および有孔層のあらゆる組み合わせが構成され得ることが想定される。例えば、多層バットレスは、複数の非有孔層と有孔層が交互になる様式で積み重ねられて形成され得る。別の例においては、多層バットレスは、「サンドイッチ様」の様式で形成され得、この様式において、多層バットレスの外側の層は有孔層を備え、そして、内側の層は非有孔層である。さらに、非有孔層および有孔層は、ステープルカートリッジおよびステープルアンビルの表面に関して、あらゆる順序で位置決めされ得ることが想定される。」
「【0032】
いくつかの実施形態において、有孔層は、2つの層を架橋させて、化学結合を形成し、組織を密閉し得る多層バットレス材料を生成する様式で、非有孔層に取り付けられ得る。1つのこのような例としては、非有孔層が作製される予定の材料の溶液を型に注ぎ、そして、ゲル化プロセスの間に、この注いだ溶液に有孔層を適用することが挙げられる。米国特許第6,596,304号(この特許の全内容は、本明細書中に参考として援用される)に記載されるように、有孔層は、コラーゲンから作製された有孔の圧縮体を含み得る。非有孔層は、コラーゲン、ポリエチレンおよびグリセロールを含む生体高分子膜から作製され得る。有孔層は、非有孔膜に追加され得、そして、架橋して、ステープルまたは縫合糸のラインを補強するために適した多層材料を形成することを可能にされ得る。」
「【0039】
ここで、図4を参照すると、多層バットレス350が少なくとも1つのホール390を備える1つの実施形態が示される。このホール390は、ステープルカートリッジ104および/またはステープルアンビル204の上に位置を定められた少なくとも1つのピン400の上に摩擦嵌めするような形状にされ、設計される。ホール390およびピン400は、多層バットレス350をステープルカートリッジ104および/またはステープルアンビル204に着脱可能に取り付けるために設計され、そして、ホール390およびピン400は、あらゆる大きさ、形状または寸法であり得る。」
図4には、ステープルカートリッジ104にバットレス350を取り付けるための複数のピン400を備えた点が開示されている。

(イ)上記記載事項及び開示事項から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
【0008】の「ステープル止め装置のステープルカートリッジとステープルアンビルとの間に創傷組織の縁部を近付け、そして、ステープル止め装置を始動して少なくとも1つのステープルに力を加え、そして、ステープルカートリッジの開口部と、少なくとも1つの多層バットレスと、組織と、ステープルアンビル上の開口部とを通して通過させ、組織を密閉することによって、創傷を密閉する際に使用され得る。」との記載からみて、外科手術用ステープル装置の技術分野における常識を踏まえると、ステープル止め装置は、医師等による始動動作が加わることで力が加えられる少なくとも一つのステープルを内部に有するステープルカートリッジを備えているといえる。また、ステープルカートリッジとステープルアンビルの間にバットレスと組織を挟み込んで組織を密閉するものであることから、組織を密閉するにあたってバットレスはステープル内に捕捉されることは明らかであり、さらに、ステープルアンビルはステープルカートリッジに対して移動可能に支持されており、ステープルカートリッジとステープルアンビルに閉鎖動作が加わるとステープルアンビルがステープルカートリッジに対して対面するように移動可能であるといえる。
【0009】の「バットレスは、ステープルカートリッジおよびアンビルの両方に実装される必要はないことが理解されるべきである。むしろ、バットレスは、ステープルカートリッジのみに実装され、アンビルには実装されないか、または、アンビルには実装され、ステープルカートリッジには実装されないこともある。」との記載から、バットレスは、ステープルカートリッジ及びアンビルの一方に実装されていればよいといえ、【0039】の「このホール390は、ステープルカートリッジ104および/またはステープルアンビル204の上に位置を定められた少なくとも1つのピン400の上に摩擦嵌めするような形状にされ、設計される。ホール390およびピン400は、多層バットレス350をステープルカートリッジ104および/またはステープルアンビル204に着脱可能に取り付けるために設計され」との記載とあわせみるに、ピンはステープルカートリッジ及びステープルアンビルの一方に備えられていればよいといえ、また、バットレスは、ステープルカートリッジ及びステープルアンビルの一方に着脱可能に機械的に取り付けられるといえる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「ステープル止め装置であって、
始動動作が加わることで力が加えられる少なくとも一つのステープルを内蔵するステープルカートリッジと、
前記ステープルカートリッジに対して移動可能に支持されたステープルアンビルであって、前記ステープルカートリッジと前記ステープルアンビルに閉鎖動作が加わると前記ステープルアンビルがステープルカートリッジに対して対面するように移動可能であるステープルアンビルと、
ステープルに始動動作が加わると、ステープル内に捕捉されるバットレスと、
前記バットレスを着脱可能に機械的に取り付けるための、前記ステープルカートリッジ及び前記ステープルアンビルの一方に設けられた少なくとも1つのピンと、を備えた、ステープル止め装置。」

イ 引用文献4
(ア)原査定の拒絶の理由で例示された、本願の優先日前に頒布された文献である、特開2001-37763号公報(平成13年2月13日公開。以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【0015】本発明の好適な実施形態によれば、発泡材片52は好ましくは弾力性で生吸収性の発泡材により製造される。この発泡材はステープルラインに沿って均一に圧力を分配して、切断された組織に沿って実質的な止血または止気を生じさせる。また、この発泡材は薄弱なまたは病的な組織の場合にもステープルをその上に保持するための媒体となる。また、この発泡材は衝撃を吸収し、外傷を減少する。」
「【0016】支持材(buttress)として使用されるための適切な発泡材は、その発泡材が圧縮性負荷を分配するとともに組織の厚さのばらつきを補償することができ、それにより止血および止気のための有効なガスケットとして作用するように弾力性で柔軟であることが必要である。」
「【0030】本発明による開口血管を有する組織切断部に沿って止血を行う方法を、ステープル適用装置10の動作の説明に従って以下説明する。ステープル適用および切断すべき組織または器官壁の部分を上方顎部材20と下方顎部材40との間に配置しクランプし、ラッチ部材38を図2に示すようなラッチ位置にする。カートリッジ50およびアンビル先端部62の少なくとも一方、好ましくは両方が、上述のように発泡材52を備えている。一例として、図4に示すように、組織部分70および72が上方顎部材20と下方顎部材40との間に配置されクランプされる。」
「【0031】組織部分を両顎部材間にクランプした後に、発射ノブ42を前進させることによりステープル適用装置10を発射して、押ブロックおよびナイフ刃組立体30を作動する。発射ウェッジ32がステープルカートリッジ50を通して先端方向に前進してステープル駆動装置と係合し、開口部53を通して2対の離間した平行なステープルラインにおいてステープル51を次々に駆動する。ステープル51はアンビル部60に係る対応するステープル形成ポケット63と接触して、ほぼB字形状または平坦形状のステープルを形成する。図4を参照すると、形成されるステープルが組織部分70および72および発泡材52の片を貫通する。同時に、ナイフ刃34がアンビル部60およびステープルカートリッジ50内に形成された縦方向スロットを通して先端方向に前進して、2対の離間した平行なステープルラインの間で両顎部材間に把持された当該組織部分を切断する。」
「【0032】発射ウェッジ32が十分に前進してカートリッジ50内のステープルの全てを形成し終えた後、発射ノブ42の後退により押ブロックおよびナイフ刃組立体30がそのスタート位置に戻る。次に、ステープル適用装置10が組織部分からクランプ解除され取外されるように、ラッチ部材38をラッチ解除位置に移動させて顎部材20および40を分離し、発泡材片をアンビル先端部62および/またはカートリッジ50から剥離する。」
「【0033】図5および図6に示すように、ステープル51は発泡材片52および組織部分70および72を貫通してその間に挟み込む。発泡材片52はステープルラインに沿って圧力を均一に分配し、それにより、切断された組織に沿ってステープル脚の周囲で実質的な止血および止気を生じさせる。発泡材片を構成する材料の吸収性の性質のため、発泡材片を手術時に体内に残留させることができ、また発泡材が生吸収性でない場合に起こり得るような異物反応の危険性が排除される。」

(イ)上記記載事項から、引用文献4には、次の技術的事項(以下、「技術4」という。)が記載されているものと認められる。
「ステープルとともに用いられる止血等のための発泡材において、発泡材が圧縮性及び弾力性を有し、ステープルが発泡材及び組織を貫通して挟み込んだときに、発泡材が圧縮性負荷を分配するとともに組織の厚さのばらつきを補償する発泡材。」

ウ 引用文献5
(ア)原査定の拒絶の理由で例示された、本願の優先日前に頒布された文献である、特開2009-189845号公報(平成21年8月27日公開。以下、「引用文献5」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【0003】
場合によって、組織層は比較的薄かったり、多量の水分を含有していたり、および/または厚みが不均一なことがあり、ステープルが組織内で上手く留まらない原因となる。この問題を改善するために、支持体の要素を利用して組織を支持し、組織を挟んでステープル留めすることができる。少なくとも一つの実施形態では、第一ジョー部材および第二ジョー部材が手術部位に挿入される前に、支持体の要素を第一ジョー部材および第二ジョー部材に取り外し可能に取り付けることができる。種々の実施形態において、支持体の要素は、支持体の表面領域上にアンビルによって加えられる圧縮力を分散し、組織内で組織のより均一な圧縮形状を形成できる。少なくとも一つの実施形態では、組織の均一な圧縮形状によって、組織内で適切なステープル留めが行われる可能性が高くなる。」
「【0015】
種々の実施形態において、手術器具のエンドエフェクタは第一ジョー部材と第二ジョー部材を含むことができ、第一ジョー部材と第二ジョー部材のうち少なくとも一方は、他方のジョー部材に対して移動するように構成され、それらの間に組織を挟むことができる。種々の実施形態において、図4から図11を参照すると、第一ジョー部材20はステープルカートリッジ22を含むことができ、加えて、第二ジョー部材24はアンビル26を含むことができる。少なくとも一つの実施形態において、ステープルカートリッジ22は、内部に複数のステープルキャビティ30を画定するデッキ28を含むことができる。アンビル26はアンビルカバー27とアンビル面32を含むことができ、アンビル面32には複数のアンビルポケット34が画定されている。種々の実施形態において、各ステープルキャビティ30は内部にステープルを取り出し可能に収納するよう構成でき、各アンビルポケット34は、ステープルが配備されると、ステープルの少なくとも一部を変形するよう構成できる。種々の実施形態において、ステープルカートリッジとアンビルのうち少なくとも一方が一つ以上の把持特徴部35、すなわちリッジを含むことができ、エンドエフェクタ内の組織を把持するよう構成できる。」
「【0016】
上記に加えて、図4から図11を参照すると、エンドエフェクタ組立体14は支持体36および/または36’の少なくとも一つの要素を含むことができ、これらは第一ジョー部材と第2ジョー部材の中間に位置するよう構成でき、さらに、例えばデッキ28および/または面32のうち一方に取り外し可能に保持させることができる。少なくとも一つの実施形態では、第一ジョー部材と第二ジョー部材の間に組織が挟まれると、支持体の要素の表面は組織に接触するよう構成できる。この実施形態では、支持体の表面は組織に対して圧縮締め付け力を分布し、組織から余分な水分を取り除き、および/またはステープルの結合を改善することができる。種々の実施形態において、一つ以上の支持体の要素をエンドエフェクタ組立体に位置することができる。少なくとも一つの実施形態では、図11を参照すると、支持体36aの要素の一つをステープルカートリッジ22に取り付け、支持体36a’の要素の一つをアンビル24に取り付けることができる。少なくとも一つの他の実施形態では、例えば、支持体36の二つの要素をデッキ28に位置し、支持体36’の要素の一つを面32に位置することができる。他の種々の実施形態において、適切な数の支持体の要素をエンドエフェクタ組立体に配置することができる。いずれにせよ、種々の実施形態において、一つ以上の支持体の要素は、例えば生体吸収性材料、生体分解性材料、および/または溶解性材料で形成し、治癒過程で吸収、分解、および/または溶解することができる。少なくとも一つの実施形態では、一つ以上の支持体の要素は、例えば少なくとも部分的に治療薬を含むことができ、時間と共に治療薬が放出され、組織の治癒に役立つことができる。さらに種々の実施形態において、一つ以上の支持体の要素は、例えば非吸収性材料および/または非溶解性材料を含むことができる。」

(イ)上記記載事項及び開示事項から、引用文献5には、次の技術的事項(以下、「技術5」という。)が記載されているものと認められる。
「ステープルとともに用いられる組織からの水分を取り除く支持体において、支持体の表面領域上にアンビルによって加えられる圧縮力を分散し、組織内で組織のより均一な圧縮形状を形成し、ステープルの結合を改善する支持体。」

(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比するに、引用発明の「ステープル止め装置」は、その機能及び作用を踏まえると、本件補正発明の「外科用ステープル留め器具」に相当し、以下同様に、「始動動作が加わることで力が加えられる」は「発射動作が加わることに動作可能に応じる」に、「ステープル」は「外科用ステープル」に、「内蔵する」は「内部に支持する」に、「ステープルカートリッジ」は「第1の掴み具」に、「ステープルアンビル」は「第2の掴み具」に、「対面するように」は「対面関係に」に、「バットレス」は「組織厚さコンペンセーター」に、「着脱可能に」は「取り外し可能に」に、「ピン」は「取付用突出部」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「少なくとも一つのステープル」は、外科用ステープラー装置においてステープルカートリッジ内には複数のステープルを備えることが常套手段であることを踏まえると、本件補正発明の「複数の外科用ステープル」に相当する。
引用発明の「前記ステープルカートリッジと前記ステープルアンビルに閉鎖動作が加わると」は、ステープルカートリッジはステープルアンビルに対して相対的に移動するものであることから、実質的にはステープルアンビルに閉鎖動作が加わっていることと同じであるといえる。そうすると、引用発明の「前記ステープルカートリッジと前記ステープルアンビルに閉鎖動作が加わると」は、本件補正発明の「前記第2の掴み具に閉鎖動作が加わると」に相当する。

してみれば、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
「外科用ステープル留め器具であって、
発射動作が加わることに動作可能に応じる複数の外科用ステープルを内部に支持する第1の掴み具と、
前記第1の掴み具に対して移動可能に支持された第2の掴み具であって、前記第2の掴み具に閉鎖動作が加わると前記第2の掴み具が前記第1の掴み具に対して対面関係に移動可能である、第2の掴み具と、
前記外科用ステープルに前記発射動作が加わると、前記外科用ステープル内に捕捉される組織厚さコンペンセーターと、
前記組織厚さコンペンセーターの対応部分を取り外し可能に機械的に取り付けるための、前記第1及び第2の掴み具のうちの一方上に設けられた少なくとも1つの取付用突出部と、を備えた、外科用ステープル留め器具。」

(相違点1)
第1の掴み具に対して対面関係に移動可能であるものが、本件補正発明においては、第2の掴み具の一部であるのに対して、引用発明においては、一部という限定がない点。

(相違点2)
組織厚さコンペンセーターについて、本件補正発明においては、異なる外科用ステープル内で異なる圧縮高さを呈するように構成され、前記外科用ステープル内に捕捉された組織の様々な厚さを補い得るのに対して、引用発明においては、そのような構成を有するか明らかでない点。

(相違点3)
組織厚さコンペンセーターについて、本件補正発明においては、組織と共に前記外科用ステープル内に捕捉されている際に、前記外科用ステープルが前記第2の掴み具により屈曲された状態の高さであるステープルの形成高さをHとした場合、前記組織厚さコンペンセーターは、1/9H以下の高さとなることができ、及び、7/9H以上の高さとなる事ができるという構成を有するのに対して、引用発明においては、そのような構成を有するか明らかでない点。

(4)判断
ア 相違点1について
第1の掴み具に対して対面関係に移動可能であるものを、第2の掴み具の一部とすることは、当業者が必要に応じて設定することのできる単なる設計事項に過ぎない。

イ 相違点2について
引用文献1の【0010】には「バットレス350は、非有孔層360および有孔層370を有する」と、【0032】には「有孔層は、コラーゲンから作製された有孔の圧縮体を含み得る。」と記載されていることから、引用発明のバットレスは圧縮性を有することは明らかである。そして、技術4及び5からみて、ステープルとともに用いられる止血等のための部材において、圧縮性を有することで、圧縮性負荷を分配するとともに組織のさまざまな厚さを補い得ることは、周知の技術であるといえる。
してみると、この周知の技術を踏まえると、引用発明のバットレスは圧縮性を有することから、外科用ステープル内に捕捉された組織のさまざまな厚さを補い得るよう構成されるものであるといえるので、上記相違点2は実質的な相違点ではないといえる。
また、仮に、上記相違点2が実質的な相違点であったとしても、引用発明2のバットレスにおいてこの周知の技術を適用することで、上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者にとって何ら困難性はない。

ウ 相違点3について
ステープル内に組織とバットレスを捕捉することから、バットレスの高さと組織の厚さを加えたものがステープルの高さHとなる。つまり、上記相違点3に係る事項は、「2H/9以下の組織」又は「8H/9以上の組織」に対してステープルを使用することを意味している。
そして、引用発明のステープルの高さを「2H/9以下の組織」又は「8H/9以上の組織」に対して使用することを妨げる理由もないことから、引用発明のバットレスは、1/9H以下の高さとなることができ、及び、7/9H以上の高さとなる事ができるといえる。
してみると、相違点3は、実質的な相違点でないということになる。

エ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献4及び5によって示される周知の技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年11月17日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年4月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明、並びに、引用文献4及び5で示される周知の技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2009-6137号公報
引用文献4:特開2001-37763号公報
引用文献5:特開2009-189845号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、4及び5の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「組織厚さコンペンセーター」について、「前記組織厚さコンペンセーターが、組織と共に前記外科用ステープル内に捕捉されている際に、前記外科用ステープルが前記第2の掴み具により屈曲された状態の高さであるステープルの形成高さをHとした場合、前記組織厚さコンペンセーターは、1/9H以下の高さとなることができ、及び、7/9H以上の高さとなる事ができる」という限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 上申書の主張について
請求人は、平成30年4月5日に提出した上申書において、次の補正案を提出するとともに、「補正案の請求項1に係る発明は、以下の作用効果を奏します。
外科用ステープルにより捕捉されている組織の厚さに関わらず、外科用ステープルの発射済み形状内に補足されている組織に対し、組織厚さコンペンセーターの圧縮力を確実に適用することができる。
これに対し、引用文献1、4、及び、5の何れも、補正案の請求項1に係る発明のこの構成を開示も示唆もしておりません。
たとえ引用文献1、4、及び、5を組み合わせても、補正案の請求項1に係る発明のこの構成を得ることはできません。
そのため、補正案の請求項1に係る発明は、引用文献1、4、及び、5に基づき容易に発明できたものではないと思料致します。」と主張する。
(補正案)
「[請求項1]
外科用ステープル留め器具であって、
発射動作が加わることに動作可能に応じる複数の外科用ステープルを内部に支持する第1の掴み具と、
前記第1の掴み具に対して移動可能に支持された第2の掴み具であって、前記第2の掴み具に閉鎖動作が加わると前記第2の掴み具の一部が前記第1の掴み具に対して対面関係に移動可能である、第2の掴み具と、
前記外科用ステープルに前記発射動作が加わると、前記外科用ステープル内に捕捉され、異なる外科用ステープル内で異なる圧縮高さを呈するように構成され、前記外科用ステープル内に捕捉された組織の様々な厚さを補い得る組織厚さコンペンセーターと、 前記組織厚さコンペンセーターの対応部分を取り外し可能に機械的に取り付けるための、前記第1及び第2の掴み具のうちの一方上に設けられた少なくとも1つの取付用突出部と、を備え、
前記組織厚さコンペンセーターが、組織と共に前記外科用ステープル内に捕捉されている際に、前記外科用ステープルが前記第2の掴み具により屈曲された状態の高さであるステープルの形成高さをHとした場合、前記組織厚さコンペンセーターは、1/9Hの高さとなることができ、及び、7/9Hの高さとなる事ができ、
前記外科用ステープルが未発射形状における変形前高さを有し、前記組織厚さコンペンセーターが圧縮されていない状態における未圧縮厚さを有し、前記組織厚さコンペンセーターの前記未圧縮厚さは、前記外科用ステープルの前記変形前高さよりも大きい、外科用ステープル留め器具。」

補正案によって本件補正発明に新たに追加された事項である「前記外科用ステープルが未発射形状における変形前高さを有し、前記組織厚さコンペンセーターが圧縮されていない状態における未圧縮厚さを有し、前記組織厚さコンペンセーターの前記未圧縮厚さは、前記外科用ステープルの前記変形前高さよりも大きい」について検討する。
引用文献1の【0003】の「多層バットレスは、外科用ステープル止め装置と組み合わせて使用するために適しており、そして、組織の密閉を補助して、流体および気体の漏れを防止する。」との記載から、引用発明のバットレスは、組織を圧迫密閉して止血等を促すという技術的課題を解決するためのものである。そうすると、引用発明のバットレスは、このような課題を解決できるよう設計されるものと理解すべきであり、引用発明のバットレスの厚さをどの程度とするかは、必要に応じて設定することのできる単なる設計事項に過ぎず、ステープルの変形前の厚さよりも大きくすることを阻害する要因もない。
よって、請求人の主張は採用することができない。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-03-27 
結審通知日 2019-04-02 
審決日 2019-04-15 
出願番号 特願2015-503529(P2015-503529)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 哲男宮下 浩次  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 二階堂 恭弘
芦原 康裕
発明の名称 組織厚さコンペンセーティング材料を外科用ステープル留め器具に取り付けるための装置及び方法  
代理人 大島 孝文  
代理人 加藤 公延  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ