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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C25B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C25B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C25B
管理番号 1354908
異議申立番号 異議2018-700527  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-27 
確定日 2019-06-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6253390号発明「アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法並びにアルカリ水電解装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6253390号の特許請求の範囲を、平成31年 4月 8日付けの手続補正書によって補正された平成30年11月 9日付けの訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕、〔8?14〕について訂正することを認める。 本件特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6253390号の請求項1?14に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成25年12月18日に出願され、平成29年12月 8日に特許権の設定登録がされ、同年12月27日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?14に係る特許に対し、平成30年 6月27日に恒川朱美(以下、「申立人A」という。)により特許異議の申立てがされ、同年同月同日に松山徳子(以下、「申立人B」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 9月 5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年 11月 9日に特許権者から意見書及び訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)が提出され、本件訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)に対して、平成31年 1月17日付けで申立人Aから意見書が提出され、同年同月同日付けで申立人Bから意見書が提出され、同年 3月 5日付けで訂正拒絶理由が通知されるとともに審尋がなされ、その指定期間内である同年 4月 8日に特許権者から意見書及び手続補正書の提出がなされたものである。
なお、審尋に対する回答書は提出されなかった。

第2 訂正の適否についての判断

1 平成31年 4月 8日付け手続補正書による補正について
平成31年 4月 8日付け手続補正書は、本件訂正請求書、訂正請求の範囲、及び訂正明細書を対象として補正を行うものであり、訂正請求の範囲に係る補正は、補正前の請求項1、7、8に係る訂正を、請求項を削除する訂正に変更するものであり、訂正明細書に係る補正は、上記請求項に係る補正に整合させるために、補正前の段落【0009】、【0010】に係る訂正を、段落を削除する訂正に変更するとともに、段落【0015】、【0016】について削除する訂正を追加するものであり、本件訂正請求書に係る補正は、上記訂正請求の範囲に係る補正及び上記訂正明細書に係る補正と、本件訂正請求書の請求の理由とを整合させるための補正であるところ、これら補正は、いずれも、審理遅延を生じさせるものではなく、本件訂正請求書の要旨を変更するものには該当しないから、当該補正を認める。

2 訂正の内容
平成31年 4月 8日付け手続補正書によって補正された、本件訂正の内容は以下の訂正事項1?訂正事項22のとおりである。

[訂正事項1]特許請求の範囲の請求項1を削除する。
[訂正事項2]特許請求の範囲の請求項2を削除する。
[訂正事項3]特許請求の範囲の請求項3を削除する。
[訂正事項4]特許請求の範囲の請求項4を削除する。
[訂正事項5]特許請求の範囲の請求項5を削除する。
[訂正事項6]特許請求の範囲の請求項6を削除する。
[訂正事項7]特許請求の範囲の請求項7を削除する。
[訂正事項8]特許請求の範囲の請求項8を削除する。
[訂正事項9]特許請求の範囲の請求項9を削除する。
[訂正事項10]特許請求の範囲の請求項10を削除する。
[訂正事項11]特許請求の範囲の請求項11を削除する。
[訂正事項12]特許請求の範囲の請求項12を削除する。
[訂正事項13]特許請求の範囲の請求項13を削除する。
[訂正事項14]特許請求の範囲の請求項14を削除する。
[訂正事項15]願書に添付した明細書の段落【0009】を削除する。
[訂正事項16]願書に添付した明細書の段落【0010】を削除する。
[訂正事項17]願書に添付した明細書の段落【0011】を削除する。
[訂正事項18]願書に添付した明細書の段落【0012】を削除する。
[訂正事項19]願書に添付した明細書の段落【0013】を削除する。
[訂正事項20]願書に添付した明細書の段落【0014】を削除する。
[訂正事項21]願書に添付した明細書の段落【0015】を削除する。
[訂正事項22]願書に添付した明細書の段落【0016】を削除する。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1?14について
訂正事項1?14は、それぞれ、請求項1?14を削除するものであるから、上記いずれの訂正事項も、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項15?22について
訂正事項15?22は、訂正事項1?14に係る請求項の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために、それぞれ、段落【0009】?【0016】を削除するものであるから、上記訂正事項15?22は、いずれも、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)独立特許要件について
本件特許に関して、訂正前の全ての請求項(請求項1?14)について特許異議申立てがされているので、訂正事項1?14について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの規定は適用されない。

(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?7は、本件訂正前の請求項1を引用するものであって、訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1?7は一群の請求項である。
本件訂正前の請求項9?14は、本件訂正前の請求項8を引用するものであって、訂正される請求項8に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項8?14は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正は、訂正後の請求項〔1?7〕、〔8?14〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

(5)小括
以上のとおりであるから、平成31年 4月 8日付け手続補正書によって補正された、本件訂正請求書に係る訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?7〕、〔8?14〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

上記のとおり、本件特許に係る全ての請求項(請求項1?14)は、訂正により削除されたため、請求項1?14に係る本件特許に対して、申立人A及び申立人Bがした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなった。
したがって、申立人A及び申立人Bによる本件特許についての異議申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法並びにアルカリ水電解装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水電解装置と、アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水から酸素と水素を生成するためのアルカリ水電解装置が知られている。一般に、アルカリ水電解装置は、1つ以上の電解ユニットを備えている。例えば、特許文献1記載のアルカリ水電解装置の電解ユニットは、電解槽と、電解槽に湛えられた水酸化カリウム(KOH)水溶液等のアルカリ水溶液と、アルカリ水溶液に浸漬された2つのメッシュ状の電極と、2つの電極の間に挟み込まれる形で保持されたイオン透過性を有する隔膜と、各電極のそれぞれに給電する2つの給電電極と、給電電極と電極とを電気的に接続する板バネ状の導電部材とを備えている。上記アルカリ水電解装置において、給電電極から導電部材を介して電極へ給電されて電極間に電圧が掛かると、電解槽の陰極側で水素が発生し、陽極側で酸素が発生する。
【0003】
電解用隔膜として、アスベスト、不織布、イオン交換膜、高分子多孔膜、及び無機物質と有機高分子の複合膜などが従来提案されてきた。例えば、特許文献1には、リン酸カルシウム化合物又はフッ化カルシウムの親水性無機材料と、ポリスルホン、ポリプロピレン、及びフッ化ポリビニリデンから選択される有機結合材料との混合物に、有機繊維布を内在させて成るイオン透過性隔膜が示されている。また、例えば、特許文献2には、アンチモン、ジルコニウムの酸化物及び水酸化物から選択された粒状の無機性親水性物質と、フルオロカーボン重合体、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、及びポリビニルブチラールから選択された有機性結合剤とから成るフィルム形成性混合物中に、伸張された有機性繊維布を含むイオン透過性隔膜が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-144262号公報
【特許文献2】特開昭62-196390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来技術に鑑みてされたものであり、その目的は、アルカリ水電解装置の更なる高性能化及び低コスト化を図るために、ガスバリア性、低い電気抵抗、化学的強度、物理的強度、及び製造性を備えた隔膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
アルカリ水電解装置の隔膜には、(1)ガスバリア性、(2)電解効率、(3)化学的強度、(4)物理的強度、(5)製造性の各特性が要求される。上記(1)ガスバリア性は、隔膜を通じてイオンのみを通し、生成したガスの通過や拡散がないことであり、高純度の水素と酸素を回収する上で重要である。ガスバリア性は、隔膜表面の親水性に影響を受ける。上記(2)電解効率とは隔膜が適用されるアルカリ水電解装置の電解効率であって、隔膜表面の親水性と隔膜の電気抵抗に影響を受ける。親水性は、隔膜表面に付着した気泡による電解効率の低下を防止する。隔膜の低い電気抵抗(つまり、高いイオン電導性)は、アルカリ水電解装置の電解効率を向上させ、水素及び酸素の生産性を高めるために重要である。上記(3)化学的強度として、耐熱性及び耐アルカリ性が要求される。要求される耐熱性は、アルカリ水溶液の温度(約80℃)に耐え得る程度である。要求される耐アルカリ性は、アルカリ水溶液の高濃度アルカリ(例えば、25重量%のKOH)に耐え得る程度である。上記(4)物理的強度として、隔膜と電極との間の摩擦に対する耐摩耗性が求められる。上記特許文献1の電解ユニットのように電極と隔膜が接触している場合に、電極表面から気泡が発生することにより電極が振動し、電極と隔膜に摩擦が生じる。隔膜が摩滅すれば、隔膜の交換頻度が高くなり経済的でないばかりか水素及び酸素の生産性を低下させてしまうという不都合が生じる。また、上記(5)製造性として、例えば、2000mm四方程度の大規模な隔膜を工業的に製造可能な製造性が求められる。アルカリ水電解装置は、小規模なものから、例えば、水素製造プラントなどの大規模なものにまで応用可能であり、このような大規模なアルカリ水電解装置においては比較的大面積の隔膜が必要となる。
【0007】
発明者らが種々の隔膜材料を検討したところ、ポリエーテルスルホン及びポリスルホンから成る群から選択された高分子化合物が、アルカリ水電解装置の隔膜として要求される化学的強度(耐熱性及び耐アルカリ性)を十分に備える点で好適であることがわかった。そこで、上記化学的強度に加えてガスバリア性と電解効率に関する要求を満たすために、ポリエーテルスルホン及び/又はポリスルホンのうち、特に、所定の接触角範囲に含まれるものを隔膜の主成分とすることとした。
【0008】
さらに、物理的強度及び製造性に関する要求を満たすために、引張強度や剛性に優れた有機繊維不織布又は有機繊維織布を隔膜の強化層とすることにより、高分子多孔膜のみでは不十分な物理的強度と製造性を補償し、隔膜の要求特性を備えることとした。なお、ポリエーテルスルホン又はポリスルホンを主成分とする高分子多孔膜は或る程度の物理的強度を有するものの、アルカリ水電解装置の隔膜として要求される物理的強度や製造性を満たす程度には至らなかった。
【0009】 削除
【0010】 削除
【0011】 削除
【0012】 削除
【0013】 削除
【0014】 削除
【0015】 削除
【発明の効果】
【0016】 削除
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る隔膜の模式的断面図であり、図1Aは有機繊維布層の片面に高分子多孔質層が形成された隔膜、図1Bは有機繊維布層の両面に高分子多孔質層が形成された隔膜をそれぞれ示している。
【図2】本実施形態に係るアルカリ水電解用隔膜の成膜装置の概略構成を示す図である。
【図3】アルカリ水電解装置が備える電解セルの概要を示す断面図である。
【図4】試験装置の概略構成図である。
【図5】実施例1に係る隔膜の試験結果を示す図である。
【図6】参考例1に係る高分子多孔膜を隔膜としたときの試験結果を示す図である。
【図7】参考例2に係る高分子多孔膜を隔膜としたときの試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るアルカリ水電解装置用の隔膜の模式的断面図であり、図1Aは有機繊維布層の片面に高分子多孔質層が形成された隔膜、図1Bは有機繊維布層の両面に高分子多孔質層が形成された隔膜をそれぞれ示している。図1A,1Bに示されるように、本発明に係るアルカリ水電解用隔膜(以下、単に隔膜ともいう)90は、高分子多孔質層(以下、単に多孔質層ともいう)91と有機繊維布層(以下、単に布層ともいう)92から成り、イオン透過性、液体透過性、及び気体不透過性を有している。図1Aに示されるように、多孔質層91が布層92の片面に形成されていてもよいし、図1Bに示されるように、多孔質層91が布層92の両面に形成されていてもよい。多孔質層91と布層92との界面は、布の組織または構造のすき間に高分子化合物が入り込んだ混合層93となっている。このような混合層93により多孔質層91と布層92が結合されている。
【0019】
多孔質層91の主成分は、ポリエーテルスルホン及びポリスルホンのうち少なくとも一つの高分子化合物であって、濡れやすさを表す接触角が常温で20?90°のものである。上記のポリエーテルスルホンは、ポリエーテルスルホン(アリール基又は末端に後述する親水基及び陽イオン基を有さないもの)、親水性ポリエーテルスルホン、陽イオン性ポリエーテルスルホン、及び陽イオン性の親水性ポリエーテルスルホンの群から選択される1つ以上の高分子化合物である。また、上記のポリスルホンは、ポリスルホン(アリール基又は末端に後述する親水基及び陽イオン基を有さないもの)、親水性ポリスルホン、陽イオン性ポリスルホン、及び陽イオン性の親水性ポリスルホンの群から選択される1つ以上の高分子化合物である。
【0020】
接触角が20°より小さい高分子化合物を主成分とする隔膜は、隔膜表面と電解液との濡れが大きくなり、隔膜の化学的強度が低下する。また、接触角が90°を超える高分子化合物を主成分とする隔膜は、ガスバリア性と電解効率が低く使用に適さない。接触角の測定は、測定する高分子化合物のシート上に水滴を垂らし、水滴と高分子化合物のシートとの角度を常温で測定することによって行う。なお、本明細書において「常温」とは、その溶液に対して特に加熱や冷却を行わない温度であり、具体的には0?40℃、通常は日本薬局方に定められているように15?25℃付近の温度をいう。
【0021】
次に示す[化1]はポリエーテルスルホン(PES)の化学構造である。親水性ポリエーテルスルホンは、[化1]に示されたポリエーテルスルホンのアリール基、あるいは末端(頭部及び/又は尾部)に親水性官能基(以下、単に親水基という)又は親水性グラフト鎖を有している。親水基は、水酸基、カルボキシル基、及びスルホン酸基等から成る群から選択された官能基である。親水性グラフト鎖はポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)等から成る群から選択された親水性高分子である。なお、上記親水基には、陽イオン性の親水基も含まれ得る。陽イオン性の親水基を有するポリエーテルスルホン、すなわち、陽イオン性の親水性ポリエーテルスルホンは、親水性と陽イオン性の両特性を備えた高分子化合物である。また、陽イオン性ポリエーテルスルホンは、[化1]に示されたポリエーテルスルホンのアリール基、あるいは末端(頭部及び/又は尾部)に陽イオン性官能基(以下、単に陽イオン基という)を有している。陽イオン基は、例えば、アミノメチル基、アミノエチル基などの陽イオン性アミノ基等である。
【0022】
【化1】

【0023】
親水性ポリエーテルスルホンにおける親水基又は親水性グラフト鎖の数は、重合繰り返し単位当たり1?100%であることが好ましく、1?50%の範囲であることがより好ましい。親水基又は親水性グラフト鎖の数が重合繰り返し単位当たり1%より少ないポリエーテルスルホンは親水性が低くなる。また、親水基又は親水性グラフト鎖の数が重合繰り返し単位当たり100%より多いポリエーテルスルホンは化学的安定性に乏しい。
【0024】
親水性ポリエーテルスルホンの分子量は10,000?500,000の範囲であることが好ましく、40,000?300,000の範囲であることがより好ましい。分子量が10,000より小さいと多孔質層の物理的強度が著しく不足し、多孔質層形成が困難になる。また、分子量が500,000を超えるものは、実質的に入手が困難である。
【0025】
陽イオン性ポリエーテルスルホンにおける陽イオン基の数は、重合繰り返し単位当たり1?100%であることが好ましく、1?50%の範囲であることがより好ましい。陽イオン基の数が重合繰り返し単位当たり1%より少ないポリエーテルスルホンは帯電性が低くなる。また、陽イオン基の数が重合繰り返し単位当たり100%より多いポリエーテルスルホンは有機溶媒への溶解性が乏しい。
【0026】
陽イオン性ポリエーテルスルホンの分子量は10,000?1,000,000の範囲であることが好ましく、40,000?800,000の範囲であることがより好ましい。分子量が10,000より小さいと多孔質層の物理的強度が著しく不足し、多孔質層形成が困難になる。また、分子量が1,000,000を超えるものは、実質的に入手が困難である。
【0027】
ポリエーテルスルホンの接触角は常温で85?90°であるが、親水性ポリエーテルスルホンは親水基により所望の接触角を安定的に有する高分子化合物となり得る。この親水性ポリエーテルスルホンを多孔質層の主成分とすることにより、隔膜の親水性を調整することが可能となる。また、陽イオン性ポリエーテルスルホンを多孔質層の主成分とすることにより、隔膜のイオン透過性を調整することが可能となる。また、陽イオン性の親水性ポリエーテルスルホンを多孔質層の主成分とすることにより、隔膜に親水性と陽イオン性の両特性を付与することができ、隔膜に優れたイオン透過性を付与することが可能となる。
【0028】
次に示す[化2]はポリスルホン(PSF)の化学構造である。親水性ポリスルホンは、[化2]に示されたポリスルホンのアリール基、あるいは末端(頭部及び/又は尾部)に親水基又は親水性グラフト鎖を有している。親水基は、水酸基、カルボキシル基、及びスルホン酸基等から成る群から選択された官能基である。なお、上記親水基には、陽イオン性の親水基も含まれ得る。陽イオン性の親水基を有するポリスルホン、すなわち、陽イオン性の親水性ポリスルホンは、親水性と陽イオン性の両特性を備えた高分子化合物である。また、陽イオン性ポリスルホンは,[化2]に示されたポリスルホンのアリール基、あるいは末端(頭部及び/又は尾部)に陽イオン基を有している。陽イオン基は、例えば、アミノメチル基、アミノエチル基などの陽イオン性アミノ基等である。
【0029】
【化2】

【0030】
親水性ポリスルホンにおける親水基又は親水性グラフト鎖の数は、重合繰り返し単位当たり1?100%であることが好ましく、1?40%の範囲であることがより好ましい。親水基又は親水性グラフト鎖の数が重合繰り返し単位当たり1%より少ないポリスルホンは親水性が低くなる。また、親水基又は親水性グラフト鎖の数が重合繰り返し単位当たり100%より多いポリスルホンは化学的安定性に乏しい。
【0031】
親水性ポリスルホンの分子量は10,000?500,000の範囲であることが好ましく、40,000?300,000の範囲であることがより好ましい。分子量が10,000より小さいと多孔質層の物理的強度が著しく不足し、多孔質層形成が困難になる。また、分子量が500,000を超えるものは、実質的に入手が困難である。
【0032】
陽イオン性ポリスルホンにおける陽イオン基の数は、重合繰り返し単位当たり1?100%であることが好ましく、1?50%の範囲であることがより好ましい。陽イオン基の数が重合繰り返し単位当たり1%より少ないポリスルホンは帯電性が低くなる。また、陽イオン基の数が重合繰り返し単位当たり100%より多いポリスルホンは有機溶媒への溶解性が乏しい。
【0033】
陽イオン性ポリスルホンの分子量は10,000?500,000の範囲であることが好ましく、40,000?300,000の範囲であることがより好ましい。分子量が10,000より小さいと多孔質層の物理的強度が著しく不足し、多孔質層形成が困難になる。また、分子量が500,000を超えるものは、実質的に入手が困難である。
【0034】
ポリスルホンの接触角は常温で85?90°であるが、親水性ポリスルホンは親水基により所望の接触角を安定的に有する高分子化合物となり得る。この親水性ポリスルホンを多孔質層の主成分とすることにより、隔膜の親水性を調整することが可能となる。また、陽イオン性ポリスルホンを多孔質層の主成分とすることにより、隔膜のイオン透過性を調整することが可能となる。また、陽イオン性の親水性ポリスルホンを多孔質層の主成分とすることにより、隔膜に親水性と陽イオン性の両特性を付与することができ、隔膜に優れたイオン透過性を付与することが可能となる。
【0035】
多孔質層は、酸化チタン(TiO_(2))、酸化ジルコニウム(ZrO_(2))及びこれらの混合物から選択された親水性無機材料をさらに含んでいてもよい。これらの親水性無機材料を多孔質層が含有することにより、隔膜のイオン電導性の更なる向上が見込まれる。
【0036】
布層は、ポリプロピレン(PP)とポリフェニレンサルファイド(PPS)から選択される有機繊維不織布又は有機繊維織布で形成されている。ポリプロピレンは、物理的強度が高く、絶縁性、耐熱性及び耐アルカリ性を有している。ポリフェニレンサルファイドは、物理的強度が高く、耐熱性及び耐アルカリ性を有している。上記特性を有するポリプロピレン不織布及び織布、並びに、ポリフェニレンサルファイド不織布及び織布は、アルカリ水電解装置の隔膜に要求される物理的強度と化学的強度を十分に備えており、隔膜材料として好適である。また、このような有機繊維不織布又は有機繊維織布を用いることにより、後述するように隔膜の製造性を付与することができる。
【0037】
次に示す表1は、サンプル番号S1?S6までの各有機繊維不織布の特性(材料及び密度)と、隔膜材料としての評価結果を示している。サンプル番号S1?S6の各有機繊維不織布上に親水性ポリエーテルスルホンから成る高分子多孔膜層を形成したもの作製し、その電解効率と成膜状況に基づいてサンプル番号S1?S6の各不織布を評価した。
【0038】
【表1】

【0039】
サンプルS2では、著しく低い電解効率が表れ、また、有機繊維不織布から高分子多孔膜層が剥離するという現象が生じた。上記評価結果によれば、隔膜の布層を形成する有機繊維不織布は0.1?0.7g/cm^(3)の密度を有するものが好適であり、0.3?0.6g/cm^(3)の密度を有するものが特に望ましい。密度が0.1g/cm^(3)に満たない有機繊維不織布を使用した隔膜は良好なガスバリア性が得られず、また、密度が0.7g/cm^(3)を超える有機繊維不織布を使用した隔膜は電解効率の不足や成膜不良が生じることがある。
【0040】
〔アルカリ水電解用隔膜の製造方法〕
本実施形態に係る隔膜は、上記高分子化合物と有機繊維布を用いて相分離法により製造される。図2は、本実施形態に係るアルカリ水電解用隔膜の成膜装置1の概略構成を示す図である。この成膜装置1では、隔膜を連続的に製造することができる。
【0041】
図2に示されるように、成膜装置1は、塗工ユニット5と、薬液槽6と、布21の原反ロールである巻出ドラム2と、製品(隔膜)が巻き取られる巻取ドラム12と、巻取ドラム12を浸水させる水槽13とを備えている。成膜装置1は、更に、巻出ドラム2から、塗工ユニット5及び薬液槽6を経由して巻取ドラム12に至る布21及び製品の移動経路を形成する複数のガイドローラ3,4,7,11と、布21(製品)を移動経路に沿って搬送する駆動ローラ8及びニップローラ9と、搬送される製品を所望の大きさに切断するスリッタ10とを備えている。
【0042】
塗工ユニット5は、製膜原液22が流出するスリットを備えており、移動する布21の表面に製膜原液22を所定厚さで塗布するものである。塗工ユニット5では、布21の選択された一面及び両面のうち一方に製膜原液22を塗布することができる。塗工ユニット5には、図示しない給液装置から製膜原液22が供給されている。給液装置では、有機溶媒に粉末状の高分子化合物と、多孔質層の構造(孔径、孔分布等)に作用する添加剤を溶解させることにより製膜原液22が調製される。
【0043】
製膜原液22の高分子化合物の濃度は、製膜原液の重量を基準(100%)として、12.5?30重量%、好ましくは15?25重量%である。製膜原液22の高分子化合物の濃度が12.5重量%未満では十分な強度の膜(多孔質層)が得られない。また、製膜原液22の高分子化合物の濃度が30重量%を超えると生成される孔の孔径が過度に小さくなり、隔膜が適用される電解装置の電解効率が悪化する。
【0044】
製膜原液における有機溶媒は、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、親水性ポリエーテルスルホン、親水性ポリスルホン、陽イオン性ポリエーテルスルホン、及び陽イオン性ポリスルホンを溶解させ、且つ、水との混和性を有する有機溶媒であることが必要である。このような有機溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)及びこれらの混合物から成る群から選択することができる。
【0045】
上記成膜装置1において、巻出ドラム2から巻き出された布21は、移動経路に沿って塗工ユニット5に至る。布21が塗工ユニット5を通過する間に、布21の両面又は片面に製膜原液22が塗布される。塗布された製膜原液22の一部は布21に含浸している。製膜原液22が塗布された布21は、続いて、薬液槽6で薬液(非溶媒)23に浸漬される。なお、ここでは製膜原液22が塗布された布21ごと薬液23に浸漬させるが、少なくとも製膜原液22が薬液23と接触する態様であればよい。薬液槽6では、布21に塗布された製膜原液22の相分離が生じ、高分子化合物の多孔質構造が形成される。このようにして、製膜原液22中の高分子化合物が凝固して布21上に多孔質層が形成される。なお、コスト等の点から薬液(非溶媒)は水であることが好ましい。
【0046】
上記のように多孔質層が形成された布21は、駆動ローラ8とニップローラ9の間に挟まれて厚みが均一に整えられるとともに余分な水分が除去され、さらに、スリッタ10で適切な大きさに切断されたのち、巻取ドラム12に巻き取られる。巻取ドラム12は水槽13で水に浸漬されており、巻取ドラム12に巻き取られた製品(アルカリ水電解用隔膜)は湿潤状態で保持される。
【0047】
上記のようにして製造される隔膜は、布21を基礎としているため、製造途中で多孔質層が破断したり伸びたりすることがないので、成膜装置1における布21の厳密な搬送速度調整は不要であり、また、従来と比較して製造速度を高めることが可能である。さらに、幅広の布21の原反ロールを用いることにより、従来使用されている隔膜と比較して大規模なもの(例えば、一辺が2000mmの正方形)を製造することができる。このように、隔膜は布層を有することにより、製造性が高められている。
【0048】
上記のようにして製造される隔膜の厚さは、布21に塗布される製膜原液の厚みで調整される。隔膜の厚さは、布層の厚さにもよるが、100?700μmであることが好ましい。隔膜の厚さが100μm未満であると、アルカリ水電解用の隔膜に要求される物理的強度が不十分となるおそれがある。隔膜の厚さが700μmを超えると、隔膜の電気抵抗が上昇しやすくなり電解効率が低下する。
【0049】
なお、上記実施形態では、図1に示す成膜装置1を用いて隔膜を連続的に製造しているが、隔膜の製造方法はこれに限定されるものではない。例えば、ガラス板等の不活性材料から成る平滑面上に布を広げ、その上に、製膜原液を所定の厚さで均一に塗布し、製膜原液を相分離し、平滑面から布を剥離することにより、隔膜を製造してもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、多孔質層を形成するために、製膜原液22が塗布された布21を薬液23に浸漬しているが、これに代えて、布21に塗布された製膜原液22を加湿空気と接触させるようにしてもよい。
【0051】
上記のように製造された隔膜は、例えば、次に説明するアルカリ水電解装置に使用される。図3は、アルカリ水電解装置が備える電解セル30の概要を示す断面図である。
【0052】
図3に示されるように、電解セル30は、隔膜33を挟んで陽極室48と陰極室49が設けられた電解槽29を備えている。陽極室48と陰極室49には、電解液の供給口と、電解後の電解液と気体(水素又は酸素)の排出口がそれぞれ設けられている。電解槽29の隔膜33より陽極室48側には、陽極組立体31が設けられている。陽極組立体31には、メッシュ状の陽極31a、陽極31aの周囲に設けられた陽極枠31b、及び陽極枠31bに設けられた接続端子31cが備えられている。一方、電解槽29の隔膜33より陰極室49側には、陰極組立体32が設けられている。陰極組立体32には、メッシュ状の陰極32a、陰極32aに対し隔膜33と反対側に設けられた陰極枠32b、陰極枠32bに設けられた接続端子32c、及び陰極32aと陰極枠32bの間に設けられた導電性を有する弾性体32dが備えられている。弾性体32dによって陰極32aが隔膜33へ押し付けられており、陽極31aと隔膜33、隔膜33と陰極32aはそれぞれ密着している。このように電解セル30は、溶液抵抗の低いゼロギャップ構造となっている。なお、本実施形態に係る弾性体32dは板バネであるが、弾性体32dは板バネに限定されない。
【0053】
上記構成の電解セル30において、多孔質層の面が陽極31aへ向き、布層の面が陰極32aへ向くように、隔膜33が配置されている。仮に、隔膜33の布層の面が陽極31aへ向くように配置されると、陽極31aで発生した酸素が隔膜33の布層に付着して隔膜33の電気抵抗が高くなり、電解効率が低下するので好ましくない。
【0054】
〔実施例〕
(実施例1)
末端に水酸基を有するポリエーテルスルホン(スミカエクセル(登録商標)5003PS、住友化学株式会社製、接触角65?74°、重合繰り返し単位当たりの水酸基の数=89%)を親水性ポリエーテルスルホンとして用い、PPS不織布(トルコンペーパー(登録商標)PS0100、東レ株式会社製、厚さ0.21mm、密度0.48?0.55g/cm^(3))を布として用いて、非溶媒誘起相分離法により実施例1に係る隔膜を得た。具体的には、まず、上記親水性ポリエーテルスルホンを、その濃度が15重量%となるようにN-メチル-2-ピロリドン(大伸化学株式会社製)に加えて、24時間撹拌して十分に均一な溶液とし、その後24時間静置して溶液中の気泡を十分に除去して製膜原液を調製した。次いで、ガラス板上に広げた布上に製膜原液を均一厚さで塗布し、製膜原液が塗布されたガラス板を薬液(水)に浸漬させて有機溶媒を除去し、ガラス板から布を剥離して、隔膜を得た。実施例1に係る隔膜の厚みは500-700μmであった。
【0055】
(実施例2)
ポリスルホン(ultrason(登録商標)S6010、BASFジャパン株式会社製、分子量50,000、接触角85?90°、重合繰り返し単位当たりの水酸基の数=0)と、PPS不織布(トルコンペーパー(登録商標)PS0100、東レ株式会社製)とを用いて、非溶媒誘起相分離法により実施例2に係る隔膜を得た。具体的には、ポリエーテルスルホンを、その濃度が15重量%となるようにN-メチル-2-ピロリドン(大伸化学株式会社製)に加え、実施例1と同様にして成膜原液を調製し、この製膜原液を用いて実施例1と同様にして隔膜を得た。実施例2に係る隔膜の厚みは500-700μmであった。
【0056】
〔参考例〕
参考例として、アルカリ水電解装置用の隔膜を構成する多孔質層を模擬した高分子多孔質膜を作製した。
【0057】
(参考例1)
末端に水酸基を有するポリエーテルスルホン(スミカエクセル(登録商標)5003PS、住友化学株式会社製)を用いて、非溶媒誘起相分離法により参考例1に係る高分子多孔質膜を得た。具体的には、まず、上記親水性ポリエーテルスルホンをその濃度が15重量%となるようにN-メチル-2-ピロリドン(大伸化学株式会社製)に加え、24時間撹拌して十分に均一な溶液とし、その後24時間静置して溶液中の気泡を十分に除去して製膜原液を調製した。次いで、その製膜原液を平滑なガラス板に所定の厚さで均一に塗布し、製膜原液が塗布されたガラス板を薬液(水)に浸漬させて有機溶媒を除去し、ガラス板から成膜物を剥離して、高分子多孔質膜を得た。参考例1に係る高分子多孔質膜の厚みは150-250μmであった。
【0058】
(参考例2)
スルホン酸基を有するポリスルホンを用いて、非溶媒誘起相分離法により参考例2に係る高分子多孔質膜を得た。具体的には、上記親水性ポリスルホンをその濃度が15重量%となるようにN-メチル-2-ピロリドン(大伸化学株式会社製)に加え、参考例1と同様にして成膜原液を調製し、この製膜原液を用いて参考例1と同様にして高分子多孔質膜を得た。参考例2に係る高分子多孔質膜の厚みは150-250μmであった。
【0059】
(参考例3)
ポリスルホン(ultrason(登録商標)S6010、BASFジャパン株式会社製)を用いて、非溶媒誘起相分離法により参考例3に係る高分子多孔質膜を得た。具体的には、ポリエーテルスルホンをその濃度が15重量%となるようにN-メチル-2-ピロリドン(大伸化学株式会社製)に加え、参考例1と同様にして成膜原液を調製し、この製膜原液を用いて参考例1と同様にして高分子多孔質膜を得た。
【0060】
〔比較例〕
上記実施例及び参考例の比較対象となる比較例1を、市販の塩素苛性ソーダ製造向け食塩電解用弗素系イオン交換膜(フレミオン(登録商標)F8020SP、旭硝子株式会社製)とした。
【0061】
〔隔膜の性能試験〕
実施例1及び2に係る隔膜の性能と、参考例1,2及び3に係る高分子多孔質膜の性能を、図4に概略的に示される試験装置50により測定した。試験装置50は、電解セル30、電解液貯槽51、直流電源装置65、及びコンピュータ66等を備えている。電解液貯槽51では、電解液であるKOH水溶液が生成・貯蔵されている。電解液貯槽51から、配管55を通じて電解セル30の陽極室48へ電解液が供給される。また、電解液貯槽51から、配管58を通じて電解セル30の陰極室49へ電解液が供給される。コンピュータ66の制御により、直流電源装置65から電解セル30の電極へ所定の直流が流される。なお、図示しないが、電解セル30の陽極31aと陰極32aの間にかかる電圧を計測する電圧計と、酸素過電圧と水素過電圧を計測する過電圧計測装置が試験装置50に備えられており、これらの計測結果はコンピュータ66により解析される。電解セル30の陽極室48では水電解により酸素が生成し、配管61を通じて陽極室48からKOH水溶液と酸素が排出される。電解セル30の陰極室49では水電解により水素が生成し、配管62を通じて陰極室49からKOH水溶液と水素が排出される。排出された水素中の酸素濃度及び酸素中の水素濃度は、図示しない濃度測定装置により計測される。
【0062】
電解液貯槽51から電解セル30へ供給される電解液(KOH水溶液)の濃度は25重量%、温度は80℃とした。本試験装置の電極として陽極には純ニッケルメッシュ、陰極には水素発生用活性陰極を使用した。電源装置65から電解セル30へ供給される電流密度は40A/dm^(2)とした。上記構成の試験装置50を用いて、セル電圧計測装置でセル電圧、発生酸素中の水素濃度、発生水素中の酸素濃度、酸素過電圧、及び水素過電圧を計測した。なお、実施例1及び2に係る隔膜の性能試験では電解槽の電解面積が1dm^(2)の電解セル30を用い、参考例1,2及び3に係る隔膜の性能試験では電解槽の電解面積が0.2dm^(2)の電解セル30を用いた。
【0063】
上記試験装置50に実施例1及び2に係る隔膜、並びに比較例1に係るイオン交換膜を適用させて、アルカリ水電解を2000時間行ったときの、平均セル電圧、発生酸素中の水素濃度、発生水素中の酸素濃度、及び透水性(透過水量)の測定結果が表2に示されている。表2に示された平均セル電圧は、各測定値を80℃での電圧値に補正し、各補正値と比較例1の補正値との差を算出したものである。なお、実施例に係るアルカリ水電解用隔膜、比較例に係るイオン交換膜、及び参考例に係る高分子多孔膜の透水性は、ろ過装置(ADVANTEC社製,攪拌型ウルトラホルダーUHP-43K)を用いて計測された透過水量で表されている。ろ過装置は、ガスボンベを用いて所定の水圧を膜に負荷して、透過水を得るように構成されたものである。このろ過装置の所定の位置に膜(アルカリ水電解用隔膜、イオン交換膜、又は高分子多孔膜)を設置し、この膜に対して不活性(窒素)ガスを用いて0.2MPaの水圧を10?20s間負荷し、透過水を生成する。この間、透過水の流量を電子天秤を用いて3回計測し、計測された透過水の流量の平均値をその膜の透過水量とし、この透過水量で膜の透水性を評価することとした。したがって、透水性はガス圧、膜の面積、測定時間、及び透過水量を用いて算出された値となる。
【0064】
【表2】

【0065】
表2からわかるように、実施例1及び2では、比較例1と比較してセル電圧が低いという結果が得られた。つまり、アルカリ水電解装置の隔膜として、実施例1又は2の隔膜を用いれば、比較例1に係るイオン交換膜を用いた場合と比較して、より高い電解効率が得られる。また、実施例1及び2では、発生水素中平均酸素濃度ならびに発生酸素中平均水素濃度のいずれもが0.1%以下という低い値を示した。つまり、実施例1及び2に係る隔膜は、比較例1に係るイオン交換膜と同様に十分に高いガスバリア性を有している。特に、実施例1に係る隔膜は、実施例2に係る隔膜より優れたガスバリア性を有している。そして、比較例1では透水性がゼロであるのに対し、実施例1及び2では透水性が認められる。このことから、実施例1及び2に係る隔膜は、高いガスバリア性と透水性を併せ備えているので、アルカリ水電解装置の隔膜として好適である。
【0066】
また、実施例1に係る隔膜を試験装置50に適用させて、水電解を2000時間行ったときの、セル電圧、酸素過電圧、及び水素過電圧の測定結果が図5に示されている。図5は、縦軸がセル電圧(V)及び過電圧(mV)を表し、横軸が電解時間(h)を表している。図5に示された平均セル電圧は、試験開始後60?84時間では比較例1に対して-0.34Vであり、試験開始後2089?2113時間では比較例1に対して-0.38Vであった。このように、長時間(2000時間以上)の運転において、比較的低いセル電圧が維持されていることがわかる。また、酸素過電圧及び水素過電圧も、長時間(2000時間以上)の運転において、比較的低い値で維持されている。電解電圧は理論電解電圧、過電圧、及び溶液抵抗の和で表されることから、実施例1に係る隔膜の低い溶液抵抗が維持されていることによって、比較的低いセル電圧(すなわち、高い電解効率)が維持されていることがわかる。
【0067】
上記試験装置50に参考例1,2及び3に係る高分子多孔膜、並びに比較例1に係るイオン交換膜を隔膜として適用させて、水電解を72時間行ったときの、平均セル電圧、発生酸素中の平均水素濃度、及び透水性(透過水量)の測定結果が表3に示されている。表3に示された平均セル電圧は、各測定値を80℃での電圧値に補正し、各補正値と比較例1の補正値との差を算出したものである。
【0068】
【表3】

【0069】
表3からわかるように、参考例1,2及び3では、比較例1と比較してセル電圧が低いという結果が得られた。つまり、アルカリ水電解装置の隔膜として、参考例1,2及び3のいずれかの高分子多孔膜を用いれば、比較例1に係るイオン交換膜を用いた場合と比較して、より高い電解効率が得られる。したがって、アルカリ水電解装置に、参考例1,2及び3のいずれかの高分子多孔膜と同成分の多孔質層を有する隔膜を用いれば、比較例1に係るイオン交換膜を隔膜として用いる場合と比較して、高い電解効率が期待できる。
【0070】
また、参考例1及び3では、比較例1と比較して、発生水素中の平均酸素濃度が低いという結果が得られた。参考例2では、比較例1と比較して、発生水素中の平均酸素濃度がやや高いという結果が得られた。しかし、参考例2の発生水素中の平均酸素濃度の値は、アルカリ水電解装置の隔膜として好適な値である。つまり、参考例1,2及び3に係る高分子多孔膜は、アルカリ水電解装置の隔膜として十分に高いガスバリア性を有している。さらに、比較例1では透水性がゼロであるのに対し、参考例1,2及び3では透水性が認められる。したがって、参考例1,2及び3のいずれかの高分子多孔膜と同成分の多孔質層を有する隔膜は、アルカリ水電解装置の隔膜として好適なガスバリア性と透水性を併せ備えることが期待できる。
【0071】
参考例1に係る高分子多孔膜を隔膜として試験装置50に適用させて水電解を72時間行ったときの、セル電圧測定結果が図6に示されている。また、参考例2に係る高分子多孔膜を隔膜として試験装置50に適用させて水電解を72時間行ったときの、セル電圧測定結果が図7に示されている。図6及び図7の表は、縦軸がセル電圧(V)を表し、横軸が電解時間(h)を表している。図6及び図7から、参考例1,2に係る高分子多孔膜を隔膜としてアルカリ水電解を行ったときに、比較的低いセル電圧、すなわち、高い電解効率が72時間に亘って維持されていることがわかる。
【符号の説明】
【0072】
1 成膜装置
2 巻出ドラム
3,4,7,11 ガイドローラ
5 塗工ユニット
6 薬液槽
8 駆動ローラ
9 ニップローラ
10 スリッタ
12 巻取ドラム
13 水槽
30 電解セル
31 陽極組立体
31a 陽極
31b 陽極枠
31c 接続端子
32 陰極組立体
32a 陰極
32b 陰極枠
32c 接続端子
32d 弾性体
33 隔膜
35 電解槽
48 陽極室
49 陰極室
50 試験装置
51 電解液貯槽
90 アルカリ水電解用隔膜
91 高分子多孔質層
92 有機繊維布層
93 混合層
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (削除)
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 (削除)
【請求項5】 (削除)
【請求項6】 (削除)
【請求項7】 (削除)
【請求項8】 (削除)
【請求項9】 (削除)
【請求項10】 (削除)
【請求項11】 (削除)
【請求項12】 (削除)
【請求項13】 (削除)
【請求項14】 (削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-05-30 
出願番号 特願2013-261099(P2013-261099)
審決分類 P 1 651・ 113- XA (C25B)
P 1 651・ 121- XA (C25B)
P 1 651・ 537- XA (C25B)
最終処分 決定却下  
前審関与審査官 関口 貴夫  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 土屋 知久
池渕 立
登録日 2017-12-08 
登録番号 特許第6253390号(P6253390)
権利者 ティッセンクルップ・ウーデ・クロリンエンジニアズ株式会社 川崎重工業株式会社 デノラ・ペルメレック株式会社
発明の名称 アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法並びにアルカリ水電解装置  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  
代理人 特許業務法人有古特許事務所  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  

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