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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
管理番号 1354953
異議申立番号 異議2019-700429  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-28 
確定日 2019-09-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6427848号発明「樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6427848号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨

1 本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6427848号(以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2017-201089号、以下「本願」という。)は、平成29年5月18日に特願2017-98918号として出願されたものの一部を平成29年10月17日に特願2017-201089号として新たに出願したものであって、出願人ナミックス株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成30年11月9日に特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、平成30年11月28日に特許掲載公報の発行がされたものである。

2 本件異議申立の趣旨
本件特許につき令和1年5月28日に特許異議申立人末吉直子(以下「申立人」という。)により、「特許第6427848号の特許請求の範囲の請求項1?12に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。

第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1ないし請求項12が記載されている。(以下、請求項1ないし12に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明12」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」という。)

「【請求項1】
1種類以上の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物を含む樹脂組成物を含む、電子部品用である接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグであって、
前記1種類以上の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物のうち、少なくとも1種は分子量が220?10000であり、
前記2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物全体を1としたとき、分子量が220未満のものが占める重量割合が、0.00?0.05であり、
前記2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物が以下の式(I):
【化11】

で表される構造単位を含む化合物である、接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグ。
【請求項2】
2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物全体を1としたとき、分子量が220未満のものが占める重量割合が、0.00?0.01である、請求項1記載の接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグ。
【請求項3】
上記式(I)で表される構造単位を2つ以上含む2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物を少なくとも1種含む、請求項1又は2記載の接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグ。
【請求項4】
前記2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物全体を1としたとき、上記式(I)で表される構造単位を2つ以上含む2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物の重量割合が、0.05?0.95である、請求項3記載の接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグ。
【請求項5】
前記2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物が、下記式(II):
【化12】

(式中、
X^(1)及びX^(2)は、各々独立に、単結合、O又はNR^(3)(式中、R^(3)は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表し、R^(1)及びRは、各々独立に、水素、1価の炭化水素基又は下記式(III):
【化13】

(式中、
X^(3)及びX^(4)は、各々独立に、単結合、O又はNR^(5)(式中、R^(5)は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表し、
Wは、スペーサーを表し、
R^(4)は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表す)
で表される、請求項1?4いずれか一項記載の接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグ。
【請求項6】
さらに、(A)無機充填剤を含む、請求項1?5いずれか一項記載の接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグ。
【請求項7】
さらに、(B)硬化触媒を含む、請求項1?6いずれか一項記載の接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグ。
【請求項8】
さらに、(C)安定化剤を含む、請求項1?7いずれか一項記載の接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグ。
【請求項9】
2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物の樹脂組成物全体に対する重量割合が、0.01?1.00である、請求項1?8いずれか一項記載の接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグ。
【請求項10】
2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物全体を1としたとき、25℃における蒸気圧が0.01mmHg以上であるものの重量割合が、0.00?0.05である、請求項1?9いずれか一項記載の接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグ。
【請求項11】
加熱によって硬化され得る、請求項1?10いずれか一項記載の接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグ。
【請求項12】
請求項1?11いずれか一項記載の接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグの硬化物を含む、半導体装置。」

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、同人が提出した本件異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第8号証を提示し、申立書における申立人の取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由1ないし3が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件特許の1ないし12に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明に甲2?4、7、及び8号証の記載を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2:本件特許の請求項1ないし12に係る発明に関して、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載が不備であり、各請求項に係る発明を当業者が実施することができるように記載されておらず、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないから、請求項1ないし12に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。
取消理由3:本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に照らしてその解決課題が解決するか否か不明であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許に係る請求項1ないし12の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特表2016-506072号公報
甲第2号証:特表2014-503474号公報
甲第3号証:米国特許第3523097号明細書(抄訳添付)
甲第4号証:特表2015-517973号公報
甲第5号証:Chemilian^(TM)L3000 XP Safety Data Sheet(抄訳添付)
甲第6号証:米国特許第2330033号明細書(抄訳添付)
甲第7号証:”Methylene Malonates and Cyanoacrylates: Energy-Efficient, High-Performance Sustainable Adhesive Systems” Forest Products Journal 65(1-2): 48-53 Abstract(抄訳添付)
甲第8号証:Nine Simple Steps to Control Blooming of Adhesives(抄訳添付)
<https://www.designworldonline .com/nine-simple-steps-control-blooming-adhesives/>

第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由1ないし3は、いずれも理由がないから、本件の請求項1ないし12に係る発明についての特許はいずれも維持すべきもの、
と判断する。
以下、各取消理由につき、詳述する。

1 取消理由1について

(1)甲号証に記載された事項及び甲号証に記載された発明

ア 甲1

(ア)甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

(a-1)
「【請求項1】
硬化可能なマトリックス材料、及び
任意で、前記マトリックス材料内に配置された充填剤を含むエレクトロニクス組成物であって、
前記硬化可能なマトリックス材料が、メチレン・マロネート・モノマー、多官能メチレン・モノマー、メチレン・ベータ・ケトエステル・モノマー、メチレン・ベータ・ジケトン・モノマー、及びそれらの組合せからなるグループの少なくとも一部材を含む、前記エレクトロニクス組成物。
・・・
【請求項7】
硬化マトリックス材料、及び
任意で、前記硬化マトリックス材料内に配置された充填剤を含むエレクトロニクス材料であって、
前記硬化マトリックス材料が、メチレン・マロネート・モノマー、多官能メチレン・モノマー、メチレン・ベータ・ケトエステル・モノマー、メチレン・ベータ・ジケトン・モノマー、及びそれらの組合せから選択された化合物から生じたオリゴマーまたはポリマー物質からなる、前記エレクトロニクス材料。
・・・
【請求項9】
前記エレクトロニクス材料が接着性アンダーフィルである、請求項7に記載のエレクトロニクス材料。」

(a-2)
「【0008】
一つの実施形態においては、硬化後にエレクトロニクス材料を提供するエレクトロニクス組成物が提供される。エレクトロニクス材料は、接着剤(結合剤)、コーティング、またはシーラントとして、チップ・パッケージまたは他のエレクトロニクス構造内に統合されてもよい。エレクトロニクス材料のいくつかの模範的な適用は、回路基板及びエレクトロニクス構造上への部品結合、電子部品に対する歪みの軽減、回路基板及びチップ担体のためのアンダーフィル、回路基板へのワイヤ・ボンディング、ワイヤ絶縁、チップ・パッケージ内へのチップ・ボンディング、ハンダ及び回路基板マスキング、コンフォーマルコーティング、チップ保護コーティング、チップのための誘電層、部品及び回路製造、回路リソグラフィのコーティング、回路基板製造のための樹脂(例えば、ガラスと一緒に)、放射線防護、光ファイバー被覆及び/または接着、回路基板及び部品の多孔性シーリング、コンデンサ及び他の部品の製造中のシーラント、ホイル・コーティング、回路基板上へのネジ止め要素などを含む。」

(a-3)
「【0028】
図4は、模範的なチップ製造プロセスを示す。模範的な実施形態においては、エレクトロニクス組成物(例えば、アンダーフィル)が、チップとチップ・サブストレートの間に区画形成されたギャップ内に導入される。その後、エレクトロニクス組成物は、硬化エレクトロニクス材料を形成するために硬化処理される。模範的な実施形態における硬化は、周囲温度で生ずる。他の模範的な実施形態においては、硬化は室温で生ずる。他の模範的な実施形態では、エレクトロニクス組成物を硬化させるのに、軽度の加熱条件を適用できる。
【0029】
本明細書で開示される材料は、広範囲にわたるプラットホームを示す。以下の通り、重要な材料は、メチレン・マロネート・モノマー、メチレン・ベータ・ジケトン・モノマー、メチレン・ベータ・ケトエステル及び多官能モノマーを含み、各々が一つ以上のエキソメチレン反応基を含む。模範的な重合性モノマー材料は、
【化1】

を含む。
【0030】
この場合、選択式中におけるR及びR’、R_(1)及びR_(2)、R_(3)及びR_(4)、R_(5)及びR_(6)は、C1-C15アルキル、C2-C15アルケニル、ハロ-(C1-C15アルキル)、C3-C6シクロアルキル、ハロ-(C3-C6シクロアルキル)、ヘテロシクリル、ヘテロシクリル-(C1-C15アルキル)、アリール-(C1-C15アルキル)、ヘテロアリールまたはヘテロアリール-(C1-C15アルキル)、あるいはアルコキシ-(C1-15アルキル)からなるグループから独立的に選択される。任意で、それらの各々は、C1-C15アルキル、ハロ-(C1-C15アルキル)、C3-C6シクロアルキル、ハロ-(C3-C6シクロアルキル)、ヘテロシクリル、ヘテロシクリル-(C1-C15アルキル)、アリール、アリール-(C1-C15アルキル)、ヘテロアリール、C1-C15アルコキシ、C1-C15アルキルチオ、ヒドロキシル、ニトロ、アジド、シアノ、アシロキシ、カルボキシ、またはエステルで置換されてもよい。
【0031】
または、この場合、選択式中、R及びR’、R_(1)及びR_(2)、またはR_(3)及びR_(4)は、それらが5-7員複素環を形成するように結合される原子と共に採用される。それらは任意で、C1-C15アルキル、ハロ-(C1-C15アルキル)、C3-C6シクロアルキル、ハロ-(C3-C6シクロアルキル)、ヘテロシクリル、ヘテロシクリル-(C1-C15アルキル)、アリール、アリール-(C1-C15アルキル)、ヘテロアリール、C1-C15アルコキシ、C1-C15アルキルチオ、ヒドロキシル、ニトロ、アジド、シアノ、アシロキシ、カルボキシまたはエステルによって置換されてもよい。」

(a-4)
「【0042】
特定のモノマー及びモノマー混合物を、模範的な充填剤との適合性について試験した。結果を以下にまとめる。
【0043】
適合性テスト:混合モノマーを持つ多様なシリカ・サンプル
【0044】
目標:サンプルTXD026144中の10重量%のシリカ含有量(DEMMモノマー中の最高10重量%の二官能モノマーを含むモノマー混合物)
・・・
【0046】
メチレン・マロネート・モノマーの改良型合成方法は、メチレン・マロネートの改良型合成方法に関する公開特許出願に開示されている。それらは、WO2012/054616「不純物を実質的に含まないメチレン・マロネートの合成(Synthesis of Methylene Malonates Substantially Free of Impurities)」、及びWO2012/054633「熱伝達剤の存在の下での急速な回復を用いた合成またはメチレン・マロネート(Synthesis or Methylene Malonates Using Rapid Recovery in the Presence of a Heat Transfer Agent)」であり、各文献の全文は参照により本明細書に援用される。それらに開示の合成手順は、これまで達成できなかった高品質メチレン・マロネート及び他の硬化可能な組成物の収率を改善する。他の模範的なモノマーの種類は、本発明の特定の発明者によって達成され、例えば、共に特許出願中のPCT/US12/06830「多官能モノマー、多官能モノマー製造方法、重合性組成物及びそれから形成される製品(Multifunctional Monomers,Methods For Making Multifunctional Monomers,Polymerizable Compositions And Products Formed Therefrom)」、PCT/US12/60837「メチレン・ベータ-ケトエステル・モノマー、メチレン・ベータ-ケトエステル・モノマー製造方法、重合性組成物及びそれから形成される製品(Methylene Beta-Ketoester Monomers,Methods for Making Methylene Beta-Ketoester Monomers,Polymerizable Compositions and Products Formed Thereform)」、及びPCT/US12/60840「メチレン・ベータ-ジケトン・モノマー、メチレン・ベータ-ジケトン・モノマー製造方法、重合性組成物及びそれから形成される製品(Methylene Beta-Diketone Monomers,Methods for Making Methylene Beta-Diketone Monomers,Polymerizable Compositions and Products Formed Therefrom)」に開示されている。各々は、本明細書中にその全文が援用される。」

(a-5)
「【0052】
本明細書中で開示される模範的な実施形態は、エレクトロニクス材料として使用するための硬化可能な組成物、樹脂、または調合物を含み、(a)エキソメチレン官能性を含む硬化可能なマトリックス材料、及び(b)少なくとも一つの充填剤、例えばCTE改質剤を含む。模範的な実施形態においては、硬化可能なマトリックス材料は、適切なイニシエータまたはアクチベータへの暴露によって、アニオン重合に修正可能である。したがって、塩基または化学的に塩基性を示す材料を、硬化イニシエータまたはアクチベータとして利用してもよい。」

(a-6)
「【0062】
種々の電子部品をいろいろなサブストレートに付加するために、模範的な調合物が用いられてもよい。適切な電子部品は、ダイ、コンデンサ、レジスタなどを含むが、これらに限定されるものではない。さらに、MEMSデバイスをサブストレート及び/またはチップに接着して連結させるのにアンダーフィルが使用できる、と考えられる。本明細書中で用いる用語「ダイ」は、多様なプロセスによって所望の集積回路デバイスに変形されるワークピースを意味する。ダイは、通常、半導体、非半導体またはそれらの組合せから製造可能なウェーハーから切り離される。適切なサブストレートは、プリント回路基板及びフレキシブル回路を含むが、これに限定されるものではない。本明細書で開示される方法によって調製されるエレクトロニクス・アセンブリは、サブストレートに結合されたパッケージも含む。「パッケージ」は、薄い回路基板上に配置されてカプセル化された集積回路に言及する。パッケージは、典型的に基板の底に、サブストレートとの電気的インターコネクトを形成するのに使用されるハンダボールを含む。」

(イ)甲1に記載された発明
甲1には、請求項1の記載からみて、
「硬化可能なマトリックス材料、及び
任意で、前記硬化マトリックス材料内に配置された充填剤を含むエレクトロニクス組成物であって、
前記硬化可能なマトリックス材料が、メチレン・マロネート・モノマー、多官能メチレン・モノマー、メチレン・ベータ・ケトエステル・モノマー、メチレン・ベータ・ジケトン・モノマー、及びそれらの組合せからなるグループの少なくとも一部材を含む、前記エレクトロニクス組成物」に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

イ 甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。

(b-1)
「【請求項1】
メチレンマロナートモノマーの調製方法であって、
(a)マロン酸エステルをホルムアルデヒド源と;場合により酸性または塩基性触媒の存在下で;および場合により酸性または非酸性溶媒の存在下で反応させて、反応複合体を形成すること;および
(b)反応複合体またはこの一部分をエネルギー移動手段と接触させ、メチレンマロナートモノマーを含む気相を生成させること;および
(c)メチレンマロナートモノマーを気相から単離すること
を含む、方法。
・・・
【請求項75】
請求項1または請求項17に記載の方法に従って調製されるメチレンマロナートモノマーを含む生産物であって、接着剤、コーティング、シーラント、複合材、または界面活性剤である生産物。
【請求項76】
さらに酸性安定剤、フリーラジカル安定剤、金属イオン封鎖剤、硬化促進剤、レオロジー改良剤、可塑剤、チキソトロープ剤、天然ゴム、合成ゴム、充填剤、強化剤またはこの組合せを含む、請求項75に記載の生産物。」

(b-2)
「【0004】
メチレンマロナートは、一般式(I):
【0005】
【化1】

(式中、RおよびR’は同じであっても異なっていてもよく、ほぼどのような置換基または側鎖をも表し得る。)
を有する化合物である。かかる化合物は1886年以降から知られており、この年に、メチレンマロン酸ジエチルの形成が最初にW.H.Perkin,Jr.によって示された(Perkin,Ber.19,1053(1886))。」

(b-3)
「【0011】
また、Coover et al.による米国特許第3,221,745号明細書(「’745特許」)には、メチレンマロン酸のモノマージアルキルエステルが、示されたところによると、重合に影響を及ぼし、接着剤の有用性を障害する不純物を伴うが少量であるため、高純度で調製される。’745特許には、あらゆる不純物が100ppm(parts-per-million)未満、好ましくは10ppm未満のレベルまで除去されると記載されている。該モノマーは、ジアルキルアルコキシ-メチレンマロナートのオレフィン結合を水素化触媒の存在下で水素化し、反応生成物を熱分解することによって調製される。’745特許には、このような高純度物質は数秒以内にインサイチュで急速に重合して堅固な結合を形成すると記載されている。実際、’745特許では、Coover et al.による関連米国特許第3,523,097号明細書(「’097特許」)と同様、貯蔵寿命を向上させるため、および未熟な重合を抑制するための酸性安定剤の使用が必要とされる。しかしながら、熱分解反応の高温条件は、不要で有害な副生成物の形成が常にもたらされ、ホルムアルデヒドを用いるクネベナーゲル反応と比べてずっとより高価で困難なメチレンマロナートの調製のための合成方法である。従って、’745および’097特許の方法によって示されたとおりに形成されるモノマーは、実現可能な商業製品および工業製品の生産における使用に実用的でない。」

(b-4)
「【0235】
フリーラジカル安定剤には、放置時に物質のフリーラジカル重合を安定化または阻害できる任意の物質が包含され得る。一実施形態において、フリーラジカル安定剤は、フェノール系フリーラジカル安定剤、例えば、HQ(ヒドロキノン)、MEHQ(メチル-ヒドロキノン)、BHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)およびBHA(ブチル化ヒドロキシアニソール)である。一部の特定の実施形態において、フリーラジカル安定剤は、0.1ppmから10,000ppm;0.1ppmから3000ppm;または0.1ppmから1500ppmの濃度で存在させる。一部の特定の他の実施形態では、特に、本発明の物質に対してフリーラジカル硬化または紫外線硬化が使用される場合、フリーラジカル安定剤は、0.1ppmから1000ppm;0.1ppmから300ppm;または0.1ppmから150ppmの濃度で存在させる。
【0236】
金属イオン封鎖剤には、酸塩含有物質(紙または木材など)の結合を向上させることができる任意の物質が包含される。かかる金属イオン封鎖剤としては、限定されないが、クラウンエーテル、シリルクラウン、カリクサレンおよびポリエチレングリコールが挙げられる。また、金属イオン封鎖剤は、物質の硬化速度を制御するために表面に適用された酸塩である表面促進剤の有用性を向上させるものである。
【0237】
硬化促進剤には、本発明のメチレンマロナートモノマーの硬化速度を加速させることができる任意の物質が包含される。また、硬化促進剤には、本発明のメチレンマロナートモノマーの容量によって硬化を加速することができる任意の物質が包含される。かかる硬化促進剤としては、限定されないが、酢酸ナトリウムもしくは酢酸カリウム;アクリル酸、マレイン酸もしくは他の酸のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、銅塩およびコバルト塩;テトラブチルアンモニウムフルオリド、クロリドもしくはヒドロキシドなどの塩;または化学的に塩基性の物質、例えば、アミンおよびアミド、またはポリマー結合酸の塩、安息香酸塩、2,4-ペンタンジオン酸塩、ソルビン酸塩、またはプロピオン酸塩が挙げられる。かかる硬化促進剤は、本発明の組成物に直接添加してもよく、本発明の組成物の添加前に結合対象の物質に適用してもよい。」

(b-5)
「【0293】
[実施例4]
熱移動物質でのスラリーの加熱、ditert.ブチル-2-メチレンマロナートの合成および特性評価、触媒としてZn(OAc)_(2)、2H_(2)Oを使用
材料
トルエン、パラホルムアルデヒド、Zn(OAc)_(2)、2H_(2)OはAcros Organicsから購入し、受領した状態のまま使用した。マロン酸ditert.ブチルはAlfa Aesarから購入し、受領した状態のまま使用した。
【0294】
実験手順
3つ口RBF(内部にメカニカルスターラーを有する。)を、まず乾燥させて無水状態にし、熱電対とディーン・スターク装置(冷却器に接続)を装着した。
【0295】
1)次いで、反応溶媒である100mLのトルエンをこのRBFに移した。54gのマロン酸ditert.ブチル(DTBM)(0.25モル)、2.2gのZn(OAc)_(2)二水和物(0.01モル)、15g(0.5モル)のパラホルムアルデヒドをすべて、この反応媒体に逐次添加した。
2)反応混合物の初期の色は乳白色であった。次いで、反応混合物を65℃まで30分間加熱した。
3)30分間加熱後、反応温度を100℃まで上昇させ、さらに30分間維持した。
4)10分後、反応混合物は透明になり、出発物質の完全な変換が示された(これはGCによっても示された。)
5)出発物質の完全な変換後、中間生成物を水およびトルエン画分とともに留去した。
6)次いで、反応混合物中に一定のN_(2)流を通しながら、反応温度を110℃まで上昇させた。初期に水の形成が観察され、フラスコ内部で収集した。
7)5から6mlの水/トルエン混合物の収集後、温度を140℃まで上昇させ、このとき、ほとんどのトルエンが、非常にわずかな量の2-メチレンマロン酸ditertブチルとともに収集された。
8)温度をさらに180℃まで上昇させ、このとき、生成し始めた純粋な2-メチレンマロン酸ditert.ブチルの収集を開始した。
9)一定のN_(2)を吹き込みながら、180から200℃の温度範囲内で、ほとんどの2-メチレンマロン酸ditert.ブチルを収集した。
10)28.5gの純粋な2-メチレンマロン酸ditert.ブチルを回収し、全収率は約50%であった。
11)モノマーの純度をGC/MSおよび1H NMRによって確認した。
12)このモノマーを、100ppmのHQとともに1000ppmのクロロジフルオロ酢酸を用いて安定化させた。」

ウ 甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。(なお、訳文については、申立人提出のものによった。以下同様。)

(c-1)
「The present invention relates to methylenemalonate adhesive compositions and to novel composite bonded articles comprising at least two elements bonded together with a polymeric methylenemalonate composition. 」(第1欄第26行?第29行)
(申立人訳:「本発明は、メチレンマロネート接着剤組成物、及びポリマー化したメチレンマロネート接着剤組成物により接着された少なくとも2つの要素を含む、新規の複合接着体に関する。」)

(c-2)
「EXAMPLE 5
An adhesive composition was prepared with di-n-butyl methylenemalonate, B.P. 88℃. at 0.5 mm. The adhesive composition consisted essentially of di-n-butyl methylenemalonate (90 parts by weight),poly methyl methacrylate (7 parts by weight), and di-n-butyl sebacate (3 parts by weight). This adhesive composition was spread in a thin film between two pieces of steel and a steel-to-steel tensile bond having a bond strength of 1545 p. s. i. was formed. 」(第4欄第68行?第5欄第2行)
(申立人訳:「実施例5
0.5mmにおける沸点が88℃であるジ-n-ブチル メチレンマロネートを用いて、接着剤組成物を調製した。接着剤組成物は実質的にジ-n-ブチル メチレンマロネート(90重量部)、ポリ(メチルメタクリレート)(7重量部)、及びセバシン酸ジ-n-ブチル(3重量部)からなる。この接着剤組成物は、2片の鋼鉄の間に薄膜状に広げられ、1545psiの接着強度を有する鋼鉄-鋼鉄間引張接着が形成された。」)

(c-3)
「EXAMPLE 6
Di-n-octyl metylenemalonate, B.P. 145-165℃. at .05-.15 mm., when spread in a thin film between two pieces of steel gave a steel-to-steel tensile bond strength of 500 p. s. i. 」(第5欄第3行?第8行)
(申立人訳:「実施例6
.05-.15mmにおける沸点が145-165℃であるジ-n-オクチル メチレンマロネートを2片の鋼鉄の間に薄膜上に広げると、500psiの接着強度を有する鋼鉄-鋼鉄間引張接着が得られた。」)

(c-4)
「EXAMPLE 7
An adhesive composition was prepared with methyl n-octyl methylenemalonate, B.P. 105-115℃. at 0.75 mm. The adhesive composition consisted essentially of methyl n-octyl methylenemalonate (92 parts by weight), poly(methyl methacrylate) (5 parts by weight), and dimethyl sebacate (3 parts by weight). This adhesive composition was spread in a thin film between two pieces of steel and a steel-to-steel tensile bond having a bond strength of 1235 p. s. i. was formed. 」
(申立人訳:「実施例7
0.75mmにおける沸点が105-115℃であるメチル n-オクチル メチレンマロネートを用いて、接着剤組成物を調製した。接着剤組成物は実質的にメチル n-オクチル メチレンマロネート(92重量部)、ポリ(メチルメタクリレート)(5重量部)、及びセバシンジメチル(3重量部)からなる。この接着剤組成物は、2片の鋼鉄の間に薄膜状に広げられ、1235psiの接着強度を有する鋼鉄-鋼鉄間引張接着が形成された。」)

エ 甲4
甲4には、以下の事項が記載されている。

(d-1)
「【請求項1】
式:
【化1】

(式中、
R^(1)およびR^(2)の各例は、独立してC_(1)-C_(15)アルキル、C_(2)-C_(15)アルケニル、ハロ-(C_(1)-C_(15)アルキル)、C_(3)-C_(6)シクロアルキル、ハロ-(C_(3)-C_(6)シクロアルキル)、ヘテロシクリル、ヘテロシクリル-(C_(1)-C_(15)アルキル)、アリール、アリール-(C_(1)-C_(15)アルキル)、ヘテロアリールもしくはヘテロアリール-C_(1)-C_(15)アルキル)またはアルコキシ-(C1-15アルキル)であり、これらの各々は、場合によりC_(1)-C_(15)アルキル、ハロ-(C_(1)-C_(15)アルキル)、C_(3)-C_(6)シクロアルキル、ハロ-(C_(3)-C_(6)シクロアルキル)、ヘテロシクリル、ヘテロシクリル-(C_(1)-C_(15)アルキル)、アリール、アリール-(C_(1)-C_(15)アルキル)、ヘテロアリール、C_(1)-C_(15)アルコキシ、C_(1)-C_(15)アルキルチオ、ヒドロキシル、ニトロ、アジド、シアノ、アシルオキシ、カルボキシまたはエステルで置換されてよい;
[A]は、-(CR^(A)R^(B))_(n)-、-(CR^(A)R^(B))_(n)-O(C=O)-(CH_(2))_(1)-_(15)-(C=O)O-(CR^(A)R^(B))_(n)-、-(CH_(2))_(n)-[CY]-(CH_(2))_(n)、ポリブタジエニル連結基、ポリエチレングリコール連結基、ポリエーテル連結基、ポリウレタン連結基、エポキシ連結基、ポリアクリル酸連結基またはポリカーボネート連結基を表す;
R^(A)もしくはR^(B)の各例は、独立してH、C_(1)-C_(15)アルキル、C_(2)-C_(15)アルケニル、式:
【化2】

または
【化3】

(式中、
Lは、アルキレン、アルケニレン、ハロアルキレン、シクロアルキレン、シクロアルキレン、ヘテロシクリレン、ヘテロシクリルアルキレン、アリール-アルキレン、ヘテロアリーレンもしくはヘテロアリール-(アルキレン)またはアルコキシ-(アルキレン)からなる群から選択される連結基であり、これらの各々は、場合により分枝状であってよく、およびこれらの各々は、場合によりアルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、ハロシクロアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロシクリル-(アルキル)、アリール、アリール-(アルキル)、ヘテロアリール、C_(1)-C_(15)アルコキシ、C_(1)-C_(15)アルキルチオ、ヒドロキシル、ニトロ、アジド、シアノ、アシルオキシ、カルボキシ、エステルで置換されてよく、これらの各々は、場合により分枝状であってよい;
R^(3)は、独立して上記のR^(2)に規定した群から選択される;および
R^(4)は、アルキル、アルケニル、ハロアルキル、シクロアルキル、ハロシクロアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロシクリルアルキル)、アリール-(アルキル)、ヘテロアリールもしくはヘテロアリール-(アルキル)またはアルコキシ-(アルキル)であり、これらの各々は、場合により分枝状であってよく、これらの各々は、場合によりアルキル、ハロアルキル)、シクロアルキル、ハロシクロアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロシクリル-(アルキル)、アリール、アリール-(アルキル)、ヘテロアリール、C_(1)-C_(15)アルコキシ、C_(1)-C_(15)アルキルチオ、ヒドロキシル、ニトロ、アジド、シアノ、アシルオキシ、カルボキシ、エステルで置換されてよく、これらの各々は、場合により分枝状であってよい。)によって表される成分である;
[CY]は、アルキル、アルケニル、ハロアルキル、シクロアルキル、ハロシクロアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロシクリル-(アルキル)、アリール-(アルキル)、ヘテロアリールもしくはヘテロアリール-(アルキル)またはアルコキシ-(アルキル)基を表す、
nの各例は、独立して1から25の整数である;および
Qの各例は、-O-もしくは直接結合を表す。)を有する多官能性モノマー。」
・・・
【請求項33】
請求項1から15または32のいずれか一項に記載の多官能性モノマーを含み、接着剤、コーティング組成物、インクおよびシーラントからなる群の少なくとも1つである、重合性組成物。
【請求項34】
請求項1から15または32のいずれか一項に記載の多官能性モノマーを含む重合性組成物であって、酸性安定剤、フリーラジカル安定剤、金属イオン封鎖剤、硬化促進剤、レオロジー改質剤、可塑化剤、チキソトロープ剤、天然ゴム、合成ゴム、充填剤、強化剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加物を含む、重合性組成物。」

(d-2)
「【0129】
硬化促進剤には、本発明の多官能性モノマーの硬化速度を加速できる任意の物質が含まれる。硬化促進剤には、本発明の多官能性モノマーの硬化貫通容積(cure through volume)を加速できる任意の物質もまた含まれる。当該の硬化促進剤には、酢酸ナトリウムもしくはカリウム;ナトリウム、カリウム、リチウム、銅およびコバルトのアクリル酸塩、マレイン酸塩もしくは他の酸性塩;例えばテトラブチルアンモニウムフルオリド、クロリドもしくはヒドロキシド;または化学的塩基性物質、例えばアミンおよびアミド、またはポリマー結合酸の塩、またはベンゾエート塩、2,4-ペンタンジオネート塩、ソルベート塩、もしくはプロピオネート塩が含まれるがこれらに限定されない。当該の硬化促進剤は、本発明の組成物に直接的に加えられる、または本発明の組成物を添加する前に結合対象の物質へ適用できる。」

(d-3)
「【0156】
3)手順:
a.適切なサイズの丸底フラスコを洗浄して乾燥させる。
b.触媒(例、Novazym 435)を20重量%の容積の出発物質(例、ジエチルメチレンマロネートDEMM);適切な量の出発物質(例、DEMM)および適切な量のOH含有連結基(例、ジオール、ポリオール、ポリマー樹脂など)を含むフラスコに加える。ジオールについては、出発物質は、適正な化学量論的量+所望の過剰を保証するためにジオールの5倍モル比で加える。
c.適切な撹拌機構、真空設定および収集装置を提供する。
d.反応容器を真空下および緩徐に撹拌しながら加熱する。真空を利用して副生成物として生成されたアルコールを取り出す。
e.反応の進行を監視するために適切な時間間隔(例、4時間、6時間、8時間)で反応サンプルを収集する。適切な安定剤を用いて反応複合体を安定化させる(サンプルを最初にH-NMRおよびTLCを用いて分析して生成物の形成を証明した。)。
f.反応複合体は、触媒をろ過しながら非反応性ボトル(例、HDPE)へ移す。
g.適切な分離技術を使用して反応生成物(例、多官能性モノマー)を過剰な出発物質(例、DEMM)から単離して除去する。」

(d-4)
「【0174】
[実施例2]
DEMMおよびシクロヘキサンジメタノール(CHDM)のエステル交換による反応
DEMMおよびシクロヘキサンジメタノールを用いて本明細書に開示した反応スキームを実施した。以下のモノマーを入手した。
【0175】
【化29】

【0176】
NMR:使用したシクロヘキサンジメタノールは、シスおよびトランスの混合物であり、これは出発物質のNMRスペクトルが2セットのピークを示すことを意味している。図3は、反応生成物の^(1)H NMRスペクトルである。未反応出発物質は、3.3から3.4ppmでマロネート不純物に極めて近いことを明らかにするであろう。しかし、アルコールの大部分が反応したことは明白である。^(13)CおよびDEPT-135スペクトルを図4に示し、比較のために、反応生成物のオーバーレイおよびシクロヘキサンジメタノール出発物質のAldrichライブラリースペクトルを図5に示した。出発物質のシフトは、上記に示した生成物と一致している。さらに、NMRは、より高次のオリゴマーの存在を容易に除外することはできないであろう。
【0177】
[実施例3]
DEMMおよびポリ-テトラヒドロフラン(poly-THF)のエステル交換による反応
DEMMおよびポリ-テトラヒドロフランを用いて本明細書に開示した反応スキームを実施した。以下のモノマーを入手した。
【0178】
【化30】

【0179】
NMR:使用したpoly(THF)出発物質は平均分子量250を有するが、これはn=3の平均繰返し単位に相当する。^(1)H NMRスペクトルは図6に示した。未反応アルコール基は3.6ppmで出現するであろうが、3.6ppmはさらにまたエーテルピークが出現する場所でもあるので、この未反応アルコールの構造をこのスペクトルから識別することを困難にする。
【0180】
^(13)C NMRスペクトルおよびDEPT-135スペクトルは図7に示した。65ppmでのピークは、エステルに起因する。未反応アルコールは、エチルエステルピークに極めて近い62ppmで出現するであろう。しかし、定量的^(13)C NMR実験は該エチルの14ppmピークに対して62ppmピークの追加領域をほとんど示していないが、これは存在する未反応アルコールが極めて少ないことを示し、上記に示した構造を支持している。
【0181】
[実施例4]
DEMMおよび1,8-オクタンジオールのエステル交換による反応
DEMMおよび1,8-オクタンジオールを用いて本明細書に開示した反応スキームを実施した。以下のモノマーを入手した。
【0182】
【化31】

【0183】
^(1)H NMRスペクトル(図8)および^(13)C NMRおよびDEPT-135スペクトル(図9)は、ジオールおよびDEMMの完全エステル交換の証拠を示している。二重結合(^(1)Hにおける6.4ppmでのピークおよび^(13)Cスペクトルにおける134および135ppmでのピーク)もまた無傷である。
【0184】
[実施例5]
DEMMおよび1,10-デカンジオールのエステル交換による反応
DEMMおよび1,8-オクタンジオールを用いて本明細書に開示した反応スキームを実施した。以下のモノマーを入手した。
【0185】
【化32】

【0186】
^(1)H NMRスペクトル(図10)および^(13)C NMRおよびDEPT-135スペクトル(図11)は、ジオールとDEMMとの完全エステル交換の証拠を示している。二重結合(^(1)Hにおける6.4ppmでのピークおよび^(13)Cスペクトルにおける134および135ppmでのピーク)もまた無傷である。」

オ 甲5
甲5には、本件特許の実施例で用いられているジヘキシルメチレンマロネートの性状等に関するデータシートが記載されており、「セクション9. 物理的及び化学的物性」(SECTION 9. PHYSICAL AND CHEMICAL PROPERTIES)(第3頁)には、ジヘキシルメチレンマロネートの外観(Appearance)が無色透明の液体(Clear colornless liquid)であることが記載されている。

カ 甲6
甲6には、以下の事項が記載されている。

(e-1)
「This invention relates to the production of organic plastic masses having valuable and characteristic properties that make them especially suitable for use in industry, for example in molding , laminating, casting, coating and adhesive applications and for other purposes. The invention is concerned more particularly with a novel method of preparing methylene malonic esters. 」(第1頁左欄第1行?第8行)
(申立人訳:「本発明は、価値のある特徴的な性質を有し、特に工業用途、例えば成形、積層、キャスティング、コーティング、接着剤及びその他の用途に適した有機プラスチック材料の製造に関する。本発明は、とりわけメチレンマロン酸エステルの新規製造方法に関する。」)

(e-2)
「Example 13
20 parts methylene dihexylmalonate, when mixed with 80 parts
(a) Diethyl itaconate」
(b) Diallyl oxalate
(c) Vinyl acetate
(d) Ethyl acrylate, or
(e) Methyl methacrylate
and treated with 1 part benzoyl peroxide at 50-100℃. for 9-54 hours gave,
respectively:
(a) A moderately viscous copolymer.
(b) A rubbery gel.
(c) A soft, translucent gel.
(d) A stiff, rubbery copolymer.
(e) A hard, opaline copolymer」(第5頁左欄第1?第19行)
(申立人訳:「実施例13
20部のメチレンジヘキシルマロネートを80部の(a)イタコン酸ジエチル、(b)シュウ酸ジアリル、(c)酢酸ビニル、(d)アクリル酸エチル、又は(e)メタクリル酸メチルと混合し、50-100℃で9?54時間、1部の過酸化ベンゾイルで処理したところ、それぞれ(a)中程度に粘性のコポリマー、(b)ゴム状のゲル、(c)柔らかい半透明のゲル、(d)堅いゴム状コポリマー、(e)堅い乳白色のコポリマーが得られた。」)

キ 甲7
甲7には、以下の事項が記載されている。

(f-1)
「More robust and eco-friendly adhesive options are growing in demand. Monomer-based adhesive systems provide an alternative to solventborne adhesives residentially and industrially used. The systems discussed here include cyanoacrylates and methylene malonates. 」(第1行?第3行)
(申立人訳:「より強靱で環境に優しい接着剤の選択肢の需要が増している。モノマーベースの接着剤系は、住居的及び工業的に使用されている溶剤型接着剤に代わるものを提供する。本論文で論じられる系は、シアノアクリレート及びメチレンマロネートを含む。」)

(f-2)
「Similar to cyanoacrylates, methylene malonetes provide supplementary environmental resistance that increases the range of overall industrial application.」(第6行?第7行)
(申立人訳:「シアノアクリレートと同様に、マロン酸メチレンは補足的な耐環境性を提供し、全体的な工業的応用の範囲を拡大する。」

ク 甲8
甲8には、以下の事項が記載されている。

(g-1)
「Cyanoacrylates (CAs) are one-part instant adhesives that fix rapidly and cure at room temperature.」(第1頁第1行)
(申立人訳:「シアノアクリレート(CA)は、室温で急速に固着し、硬化する一液型の瞬間接着剤である。」)

(g-2)
「Blooming occurs when unreacted cyanoacrylate monomers evaporate and become airborne. Because they are heavier than air, these molecules tend to fall back onto the surface of part outside of the bond line in the form of white flakes. In great numbers, these flakes create a hazy or frosted appearance on the part. 」(第2頁第7行?第10行)
(申立人訳:「未反応のシアノアクリレートモノマーが蒸発して空気中に浮遊すると白化が起こる。シアノアクリレートモノマーは空気より重いので、これらの分子は白いフレークの形でボンド部の外側の部品の表面に落下する傾向がある。多くの場合、これらのフレークは部品に曇った又は白くなった外観を作り出す。」)

(g-3)
「The following tips can help reduce or eliminate the potential for blooming or frosting of instant adhesives.
1. Use low-odor, low-bloom instant adhesives - These adhesives use cyanoacrylate monomers with higher molecular weights than those of traditional CAs, which make them less likely to become airborne than standard cyanoacrylate monomers, reducing blooming and chemical odors.」(第2頁第19行?第24行)
(申立人訳:「次のヒントは、瞬間接着剤の白化やフロスティングの可能性を減らす、又はなくすのに役立つ。
1.低臭気、低白化の瞬間接着剤を使用-これらの接着剤は、従来のCAよりも高分子量のシアノアクリレートモノマーを使用しているため、標準的なシアノアクリレートモノマーよりも空気中に浮遊する可能性が低くなり、白化及び化学臭が減少する。」)

(2)本件発明1についての対比・検討
以下、本件発明1と甲1発明とをそれぞれ対比して検討を行う。

ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の「メチレン・マロネート・モノマー」は、甲1【0029】の【化1】の化学構造式

からみて、本件発明1の「式(I)で表される構造単位を含む化合物」を包含する。

してみると、本件発明1と甲1発明とは、
「1種類以上の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物を含む樹脂組成物であって、
前記2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物が以下の式(I):
【化11】

で表される構造単位を含む化合物。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1では「1種類以上の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物のうち、少なくとも1種は分子量が220?10000である」のに対して、甲1発明では2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物の分子量につき特定されていない点

相違点2:本件発明1では「2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物全体を1としたとき、分子量が220未満のものが占める重量割合が、0.00?0.05であ」るのに対して、甲1発明では2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物全体を1としたときの分子量が220未満のものが占める重量割合につき特定されていない点

相違点3:本件発明1では「樹脂組成物」を含む「電子部品用である接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグ」とあるのに対し、甲1発明では、エレクトロニクス組成物であるものの、電子部品用である接着剤、封止材、フィルム又はプリプレグであることは特定されていない点

イ 相違点についての検討
事案に鑑み、まず、上記相違点1、2につき併せて検討する。

(ア)上記相違点1、2について検討する。
まず甲1の記載を検討する。
甲1発明に係る「メチレン・マロネート・モノマー」は、摘記(a-3)に示したように、例えば【化1】に示された構造式を有する化合物であり、該化合物は、【0030】の「選択式中におけるR・・・(略)・・・は、C1-15アルキル・・・(略)・・・」とあるように、R等がC1アルキルからC15アルキルまで包含するという、分子量が220以下の低分子から分子量が220以上化合物を含む高分子のものまで広範に包含する形態が開示されているものの、甲1発明に係る「メチレン・マロネート・モノマー」の有する具体的な分子量の範囲が「220?10000である」点、及び「メチレン・マロネート・モノマー」全体を1としたとき、「分子量が220未満のものが占める重量割合が、0.00?0.05」である点につき、当業者が認識できるような記載または示唆はない。
次に甲2?4の記載について検討する。
甲2にはメチレンマロナートモノマーとしてditert.-ブチル-2-メチレンマロナート等が開示されており(実施例4)、接着材用途に適用可能であること(請求項75)も記載されている。
甲3には、ジ-n-ブチル メチレンマロネート、ジ-n-オクチル メチレンマロネート又はメチル n-オクチルメチレンマロネートを含む接着剤組成物が、2片の鋼鉄を強固に接着できること(実施例5?7)が記載されている。ここで、甲2及び甲3で開示される「ditert.-ブチル-2-メチレンマロナート(分子量:228.3)、ジ-n-ブチル メチレンマロネート(分子量:228.3)、ジ-n-オクチル メチレンマロネート(分子量:340.5)又はメチル n-オクチルメチレンマロネート(分子量:242.3)は、いずれも分子量が220?10000の範囲内であり、単独でモノマーとして用いた場合には2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物全体を1としたとき、分子量が220未満のものが占める重量割合は0となる」、すななち「分子量が220未満のものが占める重量割合が、0.00?0.05」である点については、申立人が主張するとおりであるといえる。
さらに、甲4には、本件発明1の式(1)で表される構造単位を2つ有し、かつ分子量が220?10000の範囲であるモノマーが合成されており(実施例2?5)、接着剤等の用途に適用可能であること(請求項33)についても記載されており、これらのモノマーについても、甲2及び甲3で検討したとおり、「分子量が220未満のものが占める重量割合が、0.00?0.05」であるといえる。

しかしながら、甲1発明において硬化マトリックス材料として示した「メチレン・マロネート・モノマー」について、甲1の【化1】、【0030】に示されているように、「選択式中におけるR及びR’、R_(1)及びR_(2)、R_(3)及びR_(4)、R_(5)及びR_(6)は、C1-C15アルキル」等とあり、分子量が220未満のものから220以上のものも包含するものである(摘記(a-3))。また、甲1発明において「メチレン・マロネート・モノマー」の有する具体的な分子量の範囲が「220?10000である」点、及び「メチレン・マロネート・モノマー」全体を1としたとき、「分子量が220未満のものが占める重量割合が、0.00?0.05」であるものを特に用いる点につき、当業者が認識できるような記載または示唆はない。
そうすると、いくら甲2?4に「分子量が220?10000の範囲内」で「分子量が220未満のものが占める重量割合が、0.00?0.05」のメチレン・マロネート・モノマーが記載されていたとしても、甲1発明において、メチレンマロナートモノマーとして該分子量が「220?10000の範囲内」であって、「分子量が220未満のものが占める重量割合が、0.00?0.05」である化合物を開示した甲2?甲4に記載された公知の技術を組み合わせるべき動機が存するものとは認められない。
また、甲1発明に係る「メチレン・マロネート・モノマー」の有する具体的な分子量の範囲が「220?10000である」点、及び「メチレン・マロネート・モノマー」全体を1としたとき、「分子量が220未満のものが占める重量割合が、0.00?0.05」である点につき規定することは、甲1には「メチレン・マロネート・モノマー」の分子量が特に高いものを用いることが示唆されていないことからみて、当業者が適宜なしうるものということはできない。

このように、相違点1及び2を構成することは、当業者が容易に想到できたものではないが、念のため、効果について検討しておく。
本件発明1の効果につき本件特許明細書の実施例(比較例)の記載に基づき検討すると、2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物の分子量の範囲が「220?10000」であり、さらに2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物全体を1としたとき、「分子量が220未満のものが占める重量割合が、0.00?0.05」である化合物の実施例の場合が、分子量が220未満であり、かつ分子量が220未満のものが占める重量割合が0.05より多い場合に比して、いずれも硬化温度が25℃と低く、接着強度が高く、かつ付着物が見られないことから見て取れる。一方、甲1?4にはこのような効果は記載されていない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物の分子量の範囲が「220?10000」であり、さらに2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物全体を1としたとき、「分子量が220未満のものが占める重量割合が、0.00?0.05」である化合物を規定したことにより、特段の効果を奏しているものと認められる。
なお、甲7、甲8については、それぞれ「メチレンマロネートとシアノアクリレートが共に接着剤に用いられること」、「シアノアクリレートモノマーの分子量が高いことで標準的なシアノアクリレートモノマーよりも空気中に浮遊する可能性が低くなり、白化及び化学臭が減少する」ことを示す技術文献であり、上記分子量や分子量が220未満のものの割合に係る事項につき論及するものではないから、これらの記載をみたとしても、本件発明1は効果を有するものといえる。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、相違点3について検討するまでもなく、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明及び甲2?4、7及び8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

よって、本件発明1、すなわち、本件の請求項1に係る発明につき、申立人が主張する取消理由1は、理由がない。

(3)本件発明2?12について
本件発明2?12は、いずれも本件発明1を引用しているものであるところ、上記(2)でそれぞれ説示したとおりの理由により、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2?4、7及び8に記載された技術的事項の組み合わせに基いて、当業者が容易に発明できたものであるということができないから、本件発明2?12についても、甲1に記載された発明及び甲2?3、7及び8に記載された技術的事項の組み合わせに基いて、当業者が容易に発明することができたものであるということができない。

(4)取消理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、いずれも、甲1に記載された発明及び甲2?4、7及び8に記載された技術的事項の組み合わせに基いて、当業者が容易に発明することができたものであるということができない。
よって、本件の請求項1ないし12に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、取消理由1は、理由がない。

2 取消理由2について

(1)前提
特許法第36条第4項第1号(いわゆる「実施可能要件」)は、
「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。

これは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。

そして、物の発明について実施をすることができるとは、その物を作れ、かつ、その物を使用することができることであって、発明の詳細な説明には、これらが可能となるように、具体的には、「物の発明」について明確に説明されていること、「その物を作れる」ように記載されていること、及び、「その物を使用できる」ように記載されていることを満たすように記載されている必要があるといえる。

また、機能、特性等によって物を特定しようとする記載を含む請求項に関して、その物を作れるように記載されているとは、その物の有する機能、特性等からその物の構造等を予測することが困難な技術分野において、機能、特性等で特定された物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物及びその物から技術常識を考慮すると製造できる物以外の物について、当業者が明細書及び図面の記載並びに原出願時の技術常識を考慮しても、どのように作るか理解できない場合、例えば、そのような物を作るために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある場合は、実施可能要件違反となる。
そこで、この点について以下に検討する。

(2) 本件発明1について
本件発明1は、「1種類以上の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物を含む樹脂組成物を含む、電子部品用である接着剤、封止剤、フィルム又はプリプレグ」であって、該「1種類以上の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物」につき、特定の特性を有する化合物を用いるというものであるといえる。

(3)検討の対象
申立人は、申立書(第33頁第3行?最終行)において、本件発明1?12は、1種以上の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物を含む樹脂組成物を含む「フィルム」に関し、実施可能要件を満たさない旨を主張するので、ここでは本件発明1のうち、「フィルム」についてのみ検討する。

(4)検討
本件特許明細書及び図面の記載並びに原出願時の技術常識を考慮すれば、当業者が「1種類以上の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物を含む樹脂組成物」を用いた「フィルム」を作ることができるかという点について検討すると、本件特許明細書には、本件発明1の樹脂組成物に硬化触媒を配合することができ、該硬化触媒は樹脂組成物が硬化する際の触媒として作用することが記載されており(【0051】、【0055】?【0058】)、さらに「本発明の樹脂組成物を含むフィルムは、本発明の樹脂組成物から公知の方法により得ることができる。例えば、本発明の樹脂組成物を溶剤で希釈してワニスとし、これを支持体の少なくとも片面に塗布し、乾燥させた後、支持体付きのフィルム、または、支持体から剥離したフィルムとして提供することができる。」(【0077】)と記載されているように、フィルムを製造する方法について開示されている。また、硬化性化合物を含有する組成物に硬化剤や触媒を配合して硬化させることは本件特許の出願時において広く行われる技術である。
してみると、請求項1に係る「フィルム」について、本件特許明細書中の記載や原出願時の技術常識を考慮すれば、当業者に過度の試行錯誤を強いることなく実施可能であるというべきものである。

(5)申立人の主張
申立人は、本件特許明細書の実施例においてフィルムは製造されておらず、フィルムの製造方法については本件特許明細書の【0077】に記載されたとおりであり、また、本件特許明細書の実施例で主に用いられるジヘキシルメチレンマロネートは甲5に記載されたように室温で液状であるから、上記発明の詳細な説明に記載のフィルムの製造方法では、フィルムに成形することができないし、2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物以外の任意の成分の言及が【0052】?【0065】にあるものの、フィルムの形成のために必要な成分や含有量は不明であるため、本件特許明細書の出願時の技術常識を参酌し得たとしても、本件特許1?12の「フィルム」を製造するためには当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤が必要となる旨を主張する。
しかしながら、申立人のいうとおり、ジヘキシルメチレンマロネートが室温で液体であったとしても、上述したような方法によりフィルムを製造することができるといえるので、申立人の主張は採用できない。

よって、本件特許明細書には、本件発明1に係るフィルムについて、上記に示したように当業者に過度の試行錯誤を強いることなく実施可能であることが記載されているから、本件発明1につき実施できないとまではいうことができないし、同項を引用する請求項2ないし12についても同様である。

(6)取消理由2についてのまとめ
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許を実施することができる程度に記載されているというべきものであり、特許法第36条第4項第1号の規定にを満たすものであるから、申立人の主張する取消理由2は、理由がない。

3 取消理由3について

(1)前提
特許法第36条第6項第1号(いわゆる「サポート要件」)については、
「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、明細書のサポート要件の存在は、特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である。」(知的財産高等裁判所、平成17年(行ケ)第10042号、同年11月11日特別部判決)との見地において検討すべきものであるから、以下、上記の見地に立って、検討することとする。

(2)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

ア 「【0007】
本件発明は上記した従来技術の問題点を解決するため、80℃以下の低温、好ましくは室温で硬化可能であり、かつ、使用(塗布)時または硬化時において揮発する成分の少ない、イメージセンサモジュールや電子部品の製造時に使用する一液型接着剤として好適な樹脂組成物の提供を目的とする。」

イ 「【0033】
本発明の樹脂組成物は、2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物を1種類又は2種類以上、好ましくは、2種類以上含む。本発明の樹脂組成物に含まれる2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物のうち、少なくとも1種は、分子量が220?10000であり、より好ましくは、220?5000、さらに好ましくは、220?2000、最も好ましくは、220?1000である。2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物の分子量が220未満の場合は、25℃における蒸気圧が高すぎてしまう懸念がある。一方、2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物の分子量が10000を超えると、樹脂組成物の粘度が高くなり、作業性が低下するほか、充填剤の添加量が制限されるなどの弊害を生じる。
・・・
【0036】
本発明の樹脂組成物は、分子量が220未満の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物を含むことができる。本発明の樹脂組成物に含まれる2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物全体を1としたとき、分子量が220未満のものの重量割合は、好ましくは、0.00?0.05、より好ましくは、0.00?0.03、さらに好ましくは、0.00?0.02である。最も好ましくは、本発明の樹脂組成物は、分子量が220未満の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物を実質上含まない。ここで、「実質上含まない」とは、本発明の樹脂組成物に含まれる2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物全体を1としたとき、分子量が220未満のものの重量割合が、0.00?0.01、好ましくは、0.00?0.001であることをいう。分子量が比較的小さい2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物の含有率が高くなると、周辺部材への汚染だけでなく、作業環境の悪化や、硬化物の物性の低下、被着材との密着力の低下などの懸念が高まる。」

ウ 「【実施例】
【0080】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。本発明は、以下の実施例及び比較例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、接着剤に含まれる成分の割合は、重量部で示している。
【0081】
[蒸気圧の計算]
本発明に用いる2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物のうち幾つかの態様について、各温度における蒸気圧を、HSPiP(4th Edition 4.1.05 Y-MB法)を用いて計算を行った。表1に、ジメチルメチレンマロネート(DMeMM)、ジエチルメチレンマロネート(DEtMM)、ジプロピルメチレンマロネート(DPrMM)、ジブチルメチレンマロネート(DBtMM)、ジペンチルメチレンマロネート(DPeMM)、ジヘキシルメチレンマロネート(DHeMM)、ジシクロヘキシルメチレンマロネート(DCHeMM)、及びペンタンジオールジエチルメチレンマロネート(PD-XL)についての各温度における蒸気圧(単位:mmHg)を示す。また、比較として用いたアクリレート樹脂(フェニルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート(PO-A)、及びジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート(DCP-A))についても同様に表1に記載した。
【0082】
【表1】

【0083】
表1より、分子量が220以上の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物は蒸気圧が低く、とくに25℃における蒸気圧がほぼ0.01mmHg以下であることがわかる。25℃における蒸気圧が0.01mmHg以下の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物は、室温での硬化時に揮発が少なく、周囲部材への汚染が少ない。
【0084】
[接着剤の調整]
以下の実施例及び比較例において使用した接着剤の原料は、以下のとおりである。
2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物:DEtMM(SIRRUS社製、上記式(IV)においてR^(1)=R^(2)=C_(2)H_(5))、DHeMM(SIRRUS社製、上記式(IV)においてR^(1)=R^(2)=n-C_(6)H_(13))、PD-XL(SIRRUS社製、上記式(IV)においてR^(1)=C_(2)H_(5)、R^(2)=上記式(V)、W=-(CH_(2))_(5)-、R^(4)=C_(2)H_(5))
(A)無機充填材:SE5200SEE(アドマテック社製)
(B)硬化触媒:トリエチルアミン(和光純薬製)
なお、比較例には、上記2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物に代え、フェニルアクリレート(東京化成工業株式会社社製)、フェノキシエチルアクリレート(PO-A、共栄社化学株式会社製)又はジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート(DCP-A、共栄社化学株式会社製)を用いたものもある。
【0085】
上記2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物又はアクリレート、及び場合により(A)?(B)成分を、表2及び表3に示す配合比で混合することで接着剤を調製した。調製した接着剤について、以下の特性を測定した。
【0086】
1.付着物の評価
アルミニウムパン(直径:5mm、高さ:5mm)に接着剤を0.05g入れ、上部開口部を全て覆うようにカバーガラス(18×18mm)を乗せた。表2又は3に記載の硬化温度にて12時間放置した後、カバーガラスへの付着物の有無および、付着物があった場合はそれが液状であるか、固形であるかを、目視ならびにピンセットによる指触にて確認した。
【0087】
2.接着強度の評価
SUS板上に直径2mm程度となるように接着剤を点塗布し、この上に2×1mmのアルミナチップを積載した。表2又は3に記載の硬化温度にて12時間放置した後、25℃において、ボンドテスター(Dage社製、シリーズ4000)で接着強度を評価した。
【0088】
【表2】

【0089】
(結果の考察)
単官能2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物であるDHeMM(実施例1)および、2官能体であるPD-XLで一部置き換えたもの(実施例2及び3)は25℃において硬化し、十分な接着強度を発現した。特に、2官能体であるPD-XLを含む実施例2及び3は、実施例1よりもさらに接着強度が高かった。また、これらにおいて明らかな付着物は見られなかった。
【0090】
一般に接着剤として広く用いられているアクリレート樹脂である単官能アクリレート樹脂PO-Aは、本配合において、25℃、80℃いずれの場合も硬化せず、接着強度を発現しなかった(比較例1及び2)。なお、25℃において明らかな付着物は見られなかったが、80℃においては液状の付着物が確認された。
2官能アクリレート樹脂であるDCP-Aも25℃において硬化せず、接着強度を発現しなかった(比較例3)。
【0091】
【表3】

【0092】
(結果の考察)
蒸気圧が高い単官能2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物であるDEtMMをおよそ5重量%配合したものでは、明らかな付着物は観察されず、硬化による十分な接着強度が発現した(実施例4)。
DEtMMをおよそ10重量%以上配合した場合でも、硬化によって十分な接着強度を発現したものの、付着物評価においてカバーガラスには明らかな曇りが見られ、ピンセットによる指触で付着物は固形であることが確認された(比較例4及び5)。
【0093】
DHeMMは触媒量を減らしても十分な接着強度が発現し、付着物は見られなかった(実施例5)。
DHeMMはフィラーを含有しても十分な接着強度が発現し、付着物は見られなかった(実施例6及び7)。
【0094】
単官能アクリレート樹脂であるフェニルアクリレートは、硬化せず、接着強度を発現しなかったばかりか、液状の付着物も確認された(比較例6)
【0095】
以上より、一般に接着剤として広く用いられているアクリレート樹脂は、25℃において硬化せず、接着剤として使用できないことがわかった。また、2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物を含む接着剤であっても、分子量が220?10000であるものを少なくとも1種含まない場合、または、前記2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物全体を1としたとき、分子量が220未満のものが占める重量割合が、0.00?0.05ではない場合は、硬化後に周囲に付着物を残し、イメージセンサモジュールや電子部品の製造時に用いる一液型接着剤には適してないことがわかった。
【0096】
すなわち、比較例は、低温で硬化が可能でない、及び/または、硬化後に周囲に付着物を残すという問題がある一方、本願発明の実施例だけが、低温で硬化可能であり、かつ、硬化した後に周囲に付着物を残さないので、イメージセンサモジュールや電子部品の製造時に用いる一液型接着剤として好適である。」

(3)本件発明1について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物の分子量が220未満の場合は、25℃における蒸気圧が高すぎてしまう懸念がある」(【0033】)と記載されており、該記載から、低分子量の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物を含有することで、樹脂組成物の蒸気圧が上昇することが理解でき、蒸気圧が高い状態となることにより、揮発する成分が増加することも当業者にとって、その技術常識に照らして自明である。
また、本件特許明細書の実施例には、本件請求項1の220?10000の分子量の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物に相当する、ジヘキシルメチレンマロネート(DHeMM)を用いた例が記載されており、「単官能2-メチレン-1,3-ジカルボニル化合物であるDHeMM(実施例1)および、2官能体であるPD-XLで一部置き換えたもの(実施例2及び3)は25℃において硬化し、十分な接着強度を発現した。」(【0089】)の記載からみて、25℃という低温で硬化することも示されているし、「すなわち、比較例は、低温で硬化が可能でない、及び/または、硬化後に周囲に付着物を残すという問題がある一方、本願発明の実施例だけが、低温で硬化可能であり、かつ、硬化した後に周囲に付着物を残さないので、イメージセンサモジュールや電子部品の製造時に用いる一液型接着剤として好適である」(【0096】)と記載されたとおり、本件発明1の組成物が低温で硬化可能であり、かつ、硬化した後に周囲に付着物を残さないので、電子部品の製造時に用いる一液型接着剤として好適なことも具体的に示されている。

してみると、本件請求項1の220?10000の分子量の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物を含有する、すなわち、220未満の低分子量の2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物を含有しない本件発明1であれば、「80℃以下の低温、好ましくは室温で硬化可能であり、かつ、使用(塗布)時または硬化時において揮発する成分の少ない、イメージセンサモジュールや電子部品の製造時に使用する一液型接着剤として好適な樹脂組成物の提供」するとの課題(【0007】)を解決できると認識できるものと認める。
したがって、本件請求項1は、同項に記載された事項で特定される発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができる。

(4)申立人の主張について
申立人は、申立書(第34頁第1行?第35頁第8行)において、本件発明の課題は「80℃以下の低温、好ましくは室温で硬化可能であり、かつ、使用(塗布)時または硬化時において揮発する成分の少ない、イメージセンサモジュールや電子部品の製造時に使用する一液型接着剤として好適な樹脂組成物の提供」にあるところ、「電子部品用」であることを除く本件請求項1に記載された事項を具備する甲6に記載された、メチレンジヘキシルメチレンマロネート(分子量:284.4)、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル等の混合物を、過酸化ベンゾイルで処理した接着剤の用途等に適した組成物に係る技術を提示した上で、当該技術の場合には、アクリル酸エチルやメタクリル酸メチル等の低分子量の室温で比較的高い蒸気圧を示す化合物を多く含むので、本件発明1の「使用(塗布)時または硬化時において揮発する成分が少ない」との課題が解決できるものではなく、物に含まれ得る他の成分の種類及び含有量につき何ら規定されていない本件の請求項1の記載では、「使用(塗布)時または硬化時において揮発する成分が少ない」との課題が解決できないものまで含んでいると主張する。

しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記のとおり、「2-メチレン1,3-ジカルボニル化合物の分子量が220未満の場合は、25℃における蒸気圧が高すぎてしまう懸念がある」(【0033】)と記載されており、また申立人が主張するアクリル酸エチルメタクリル酸エチルを配合することについては本件特許明細書には何も記載がされていない。そして、本件特許明細書の該記載から、低分子量の化合物を含有することで、樹脂組成物の蒸気圧が上昇することが作用機序として記載されているのであるから、当該記載に照らして、本件発明1において、当業者は該アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル等の重合性モノマーはいうにおよばず、その他の添加剤であろうとも、あえて課題解決を妨げるような低分子量の室温で比較的高い蒸気圧を示す化合物を極力配合しないものと解するのが自然であって、例えば、甲6に記載された上記技術は、本件発明1から除外されるものと解するのが自然である。
してみると、当業者において、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に照らし、請求項1に記載された事項で特定される本件発明が、本件発明の解決課題、すなわち「80℃以下の低温、好ましくは室温で硬化可能であり、かつ、使用(塗布)時または硬化時において揮発する成分の少ない、イメージセンサモジュールや電子部品の製造時に使用する一液型接着剤として好適な樹脂組成物の提供を目的とする」ことを達成・解決できるであろうと認識することができるから、本件請求項1に記載された事項で特定される発明について、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができる。

したがって、申立人の上記主張は採用する事ができず、上記(3)を検討したところを左右するものではない。

(5)取消理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし12の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものといえるから、申立人が主張する取消理由3は、理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし12に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1ないし12に係る発明についても特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-08-28 
出願番号 特願2017-201089(P2017-201089)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C08F)
P 1 651・ 121- Y (C08F)
P 1 651・ 537- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三原 健治江間 正起  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 大▲わき▼ 弘子
橋本 栄和
登録日 2018-11-09 
登録番号 特許第6427848号(P6427848)
権利者 ナミックス株式会社
発明の名称 樹脂組成物  
代理人 特許業務法人 津国  

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