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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B60B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B60B
管理番号 1354960
異議申立番号 異議2019-700471  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-11 
確定日 2019-09-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6438153号発明「ホイールディスクの製造方法、及び、ホイールディスク」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6438153号の請求項1、2、6及び7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6438153号の請求項1?7に係る特許についての出願は、2015年11月17日を国際出願日とする出願であって、平成30年11月22日に特許権の設定登録がされ、同年12月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1、2、6及び7に係る特許に対し、令和元年6月11日に、特許異議申立人神谷高伸(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6438153号の請求項1、2、6及び7に係る発明(以下「本件発明1、2、6及び7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、2、6及び7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
外周部にてホイール軸方向と略平行に車両内側に向けて延びる環状のフランジ部を有するホイールディスクであって、前記フランジ部が、ホイール周方向における異なる複数の範囲に存在しホイール軸方向の長さが基本長で一定の複数の基部と、ホイール周方向において隣り合う前記基部の間に位置しホイール軸方向の長さが前記基本長より短い複数の窓部と、からなるホイールディスクの製造方法であって、前記フランジ部の形成前のディスク素材の外縁部を、ホイール軸方向と略平行になるように周方向の全域に亘って車両内側に向けて折り曲げて前記フランジ部を形成するフランジ部形成工程を含むホイールディスクの製造方法であり、
前記フランジ部形成工程では、
第1外半径の円筒外側面を有する内型の上に前記ディスク素材を同軸的に載置した状態にて、前記内型と、前記第1外半径より大きい第1内半径の円筒内側面を有し前記内型に対して同軸的且つ上方に位置する外型と、を1回のストロークで軸方向に相対的に近づけることによって、前記ディスク素材の外縁部を下方に折り曲げて前記フランジ部が形成され、
前記外型の前記円筒内側面における、ホイール周方向の前記各窓部に対応する範囲、且つ、ホイール軸方向の途中位置から下端までに亘る範囲には、ホイール径方向外側に向かって窪んだ凹部が形成された、ホイールディスクの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のホイールディスクの製造方法において、
前記各凹部の内側面は、前記第1内半径より大きい第2内半径の円筒内側面の一部を構成している、ホイールディスクの製造方法。」
「【請求項6】
外周部にてホイール軸方向と略平行に車両内側に向けて延びる環状のフランジ部を有するホイールディスクであって、前記フランジ部が、ホイール周方向における異なる複数の範囲に存在しホイール軸方向の長さが基本長で一定の複数の基部と、ホイール周方向において隣り合う前記基部の間に位置しホイール軸方向の長さが前記基本長より短い複数の窓部と、からなるホイールディスクであり、
前記フランジ部の各窓部の車両内側の端面が、ホイール径方向外側部分がホイール径方向内側部分に対してより車両内側に位置するようにホイール径方向に対して第1傾き角だけ傾き、前記フランジ部の各基部の車両内側の端面が、ホイール径方向外側部分がホイール径方向内側部分に対してより車両内側に位置するようにホイール径方向に対して第2傾き角だけ傾き、前記第1傾き角が前記第2傾き角より大きい、ホイールディスク。」
「【請求項7】
外周部にてホイール軸方向と略平行に車両内側に向けて延びる環状のフランジ部を有するホイールディスクであって、前記フランジ部が、ホイール周方向における異なる複数の範囲に存在しホイール軸方向の長さが基本長で一定の複数の基部と、ホイール周方向において隣り合う前記基部の間に位置しホイール軸方向の長さが前記基本長より短い複数の窓部と、からなるホイールディスクであり、
前記フランジ部の各窓部の車両内側の端面が、ホイール径方向外側部分がホイール径方向内側部分に対してより車両内側に位置するようにホイール径方向に対して傾き、前記フランジ部の各基部の車両内側の端面が、ホイール径方向に平行である、ホイールディスク。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、次の甲第1?3号証を提出し、以下の申立理由1及び2により請求項1、2、6及び7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開平11-227401号公報
甲第2号証:特開2005-74500号公報
甲第3号証:特開2010-25350号公報

1 申立理由1(特許法第29条第1項第3号)
本件発明1、2及び6は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本件発明1、2及び6に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
なお、本件発明6に係る申立理由1について、申立人は、本件発明6と甲第1号証に記載された発明との対比において相違点が存在するものの、かかる相違点は、周知の技術的事項(甲第2、3号証)に照らして実質的な相違点でない旨主張している。

2 申立理由2(特許法第29条第2項)
本件発明7は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術的事項及び周知の技術的事項(甲第2、3号証)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明7に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

第4 申立理由についての判断
1 各甲号証の記載事項等
(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(1-1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 平板状のディスク素材の絞り成形体からなり、
ディスク軸芯とほぼ平行に延びるフランジ部を有し、
該フランジ部はホイール軸方向内側端縁を有しており、該フランジ部のホイール軸方向内側端縁はその少なくとも一部にホイール軸芯と直交する平面内でホイール周方向に延びる一般部を有しており、
前記フランジ部は前記ホイール軸方向内側端縁の前記一般部において前記ディスク素材の板厚の90%以下の板厚を有しているホイール用軽量化ディスク。
・・・
【請求項4】 前記フランジ部のホイール軸方向内側端縁は、4つの一般部と4つのベンチレーション部を有しており、各ベンチレーション部は隣り合う一般部間に位置し前記一般部が位置する平面からホイール軸方向外側に湾曲しており、
前記フランジ部は少なくとも前記ホイール軸方向内側端縁のうち前記一般部において前記ディスク素材の板厚の90%以下の板厚を有している請求項1記載のホイール用軽量化ディスク。
【請求項5】 前記ベンチレーション部が少なくともベンチレーション中心部のホイール軸方向先端において前記一般部の板厚以下でかつ前記ディスク素材の板厚の100%以下の板厚を有している請求項4記載のホイール用軽量化ディスク。」
(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ホイール用軽量化ディスクとその製造方法に関する。
・・・
【0006】
【発明の実施の形態】図1?図6は本発明の第1実施例(ディスクフランジ部がベンチレーション部を有する場合)のホイール用軽量化ディスクとその製造方法を、図7は本発明の第2実施例(ディスクフランジ部がベンチレーション部を有しない場合)のホイール用軽量化ディスクとその製造方法を、それぞれ、示している。両実施例にわたって共通する部分には、両実施例にわたって同じ符合を付してある。
【0007】まず、両実施例に共通する部分の構成を説明する。本発明実施例のホイール用軽量化ディスク3は、平板状のディスク素材2の絞り成形体からなる。ホイール用軽量化ディスク3は、ディスク外周部に位置しディスク軸芯とほぼ平行に延びるフランジ部3aと、ディスク中央部に位置しディスク軸芯とほぼ直交方向に延びるハブ部3cと、フランジ部3aとハブ部3cと連結するハット部3bとを有する。フランジ部3aはホイール軸方向内側端縁4を有している。フランジ部のホイール軸方向内側端縁4は、その少なくとも一部に、ホイール軸芯と直交する平面内でホイール周方向に延びる一般部4aを有している。フランジ部3aは、ホイール軸方向内側端縁4の一般部4aにおいて、ディスク素材2の板厚の90%以下の板厚を有している。
・・・
【0010】つぎに、本発明の各実施例に特有な部分の構成を説明する。本発明の第1実施例では、図1?図6に示すように、フランジ部3aのホイール軸方向内側端縁4は、4つの一般部4aと4つのベンチレーション部4bからなっている。各一般部4aは、ディスク軸芯と直交する平面内に位置しディスク周方向に延びている。各ベンチレーション部4bは、隣り合う一般部4aの間に位置し、一般部4aを含むディスク軸芯と直交する平面から、ホイール軸方向外側に凹状に湾曲している。
【0011】図3のcおよび図2に示すように、フランジ部3aがベンチレーション部4bをもつ場合には、各ベンチレーション部4bは、少なくともベンチレーション中心部のホイール軸方向内側先端Pにおいて、一般部4aの板厚以下でかつディスク素材2の板厚の100%以下(さらに望ましくは60%以下)、たとえばディスク素材2の板厚の10?60%の板厚を有するように、薄肉化されていてもよい。この場合、ベンチレーション部4bは、ベンチレーション部4bの端縁全長にわたってディスク素材2の板厚の100%以下(さらに望ましくは60%以下)の板厚に薄肉化されていてもよい。図3のa、b、cの組み合わせた薄肉化としてもよく、その組み合わせによって多くの薄肉化パターンが得られる。
・・・
【0013】本発明の第1、第2実施例のホイール用軽量化ディスクの製造方法の共通部分を説明する。図4、図7に示すように、本発明実施例のホイール用軽量化ディスクの製造方法は、平板状のディスク素材2を得る工程と、ディスク素材2をディスク3に絞り加工する工程と、絞り成形と同時またはそれより後にディスク3のフランジ部3aをしごき加工する工程とからなる。
【0014】ディスク素材2を得る工程では、ほぼ正方形の(鋼製またはアルミ製などの)平板1から、4隅をプレス打ち抜きなどにより落とした、またはほぼ円形に打ち抜いた、平板状ディスク素材2を作製する。切り落とされた4つの角部片2´はスクラップとなる。絞り加工では、平板状のディスク素材2を少なくとも1回(通常、4?5回)の絞り工程を経て絞り加工して、フランジ部3aを有しフランジ部3aのホイール軸方向内側端縁4がその少なくとも一部にホイール軸芯と直交する平面内でホイール周方向に延びる一般部4aを有する、ディスク3を製作する。しごき工程では、上記の少なくとも1回の絞り工程の何れかの絞り工程と同時にまたはそれより後に、フランジ部3aを、フランジ部3aが一般部4aにおいてディスク素材2の板厚の90%以下の板厚を有するように、しごく。上記少なくとも1回の絞り工程の何れかの絞り工程にてフランジ部3aを薄肉化する場合は、その絞り加工はしごき加工(板厚の変化をともなう塑性加工)を伴なう絞り加工となる。
【0015】しごき加工は、図5および図6に示すように、ディスク内面形状と同じ外面形状を有する内型5と外型6間の、ディスクフランジ部に対応する位置での、ギャップdが、ディスク素材2の板厚の90%以下に設定されている内型5と外型6を用いて行われる。この金型ギャップは、従来は、素材板厚または絞り時の増肉分を考慮して素材板厚以上に設定されていたが、本発明実施例では、素材2の板厚に薄肉化率を乗じて、素材2の板厚の10?90%、またはそれ以下に設定されている。
【0016】図5は、しごき加工を、外型6として単一の絞りリング6を用いたプレス絞り加工により行う場合を示している。絞りリング6は、内型5に対して上下動される。絞りリング6を用いたしごき加工により図3のb、cのようにフランジ部板厚が変化するディスクを作製する場合は、内型5の外面形状をストレート形状から変化させる。絞りリング6の内周面の先端部には内周側に突出するR部6aが設けられている。絞りリング6がしごき加工中に素材にかじりつくことを防止するために、R部6aの径は小としてあり、かつ、絞りリング6の、R部6aより上の部分は素材から離れる方向に後退した逃げ部7としてある。
・・・
【0018】本発明の各実施例のディスクの製造方法に特有な方法部分を説明する。本発明の第1実施例のディスクの製造方法では、図4に示すように、ディスク素材3を得る工程にて、ほぼ正方形の平板1の4つの角部を該正方形の一辺の長さより大きな径の円で切断して平板状のディスク素材2を得る。ディスク素材2は弧部2aと直線部2bを有し、絞り加工後には弧部2aは一般部4aになり直線部2bはベンチレーション部4bになる。絞り工程では、フランジ部3aのホイール軸方向内側端縁4に、4つの一般部4aと、隣り合う一般部4aの間に位置し一般部が位置する平面からホイール軸方向外側に湾曲する4つのベンチレーション部4bを有する、ディスクを製作する。しごき工程では、フランジ部3aを、フランジ部3aが少なくとも一般部4aにおいてディスク素材2の板厚の90%以下の板厚を有するようにしごく。また、しごき工程では、前記ベンチレーション部4bを、ベンチレーション部4bが少なくともベンチレーション中心部15の軸方向先端において一般部4aの板厚以下でかつディスク素材2の板厚の100%以下(望ましくは、60%以下)の板厚を有するように、しごく。」
(1c)甲第1号証には、以下の図が示されている。

(1-2)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証(摘示(1b)、(1c))には、「ホイール用軽量化ディスクとその製造方法に関する」技術について開示されているところ(段落【0001】)、かかる技術の第1実施例(段落【0006】)として、以下の事項が認定できる。
・ホイール用軽量化ディスク3は、ディスク外周部に位置しディスク軸芯とほぼ平行に延びるフランジ部3aと、ディスク中央部に位置しディスク軸芯とほぼ直交方向に延びるハブ部3cと、フランジ部3aとハブ部3cと連結するハット部3bとを有すること(段落【0007】)
・フランジ部3aのホイール軸方向内側端縁4は、4つの一般部4aと4つのベンチレーション部4bからなっており、各一般部4aは、ディスク軸芯と直交する平面内に位置しディスク周方向に延びており、各ベンチレーション部4bは、隣り合う一般部4aの間に位置し、一般部4aを含むディスク軸芯と直交する平面から、ホイール軸方向外側に凹状に湾曲していること(段落【0010】)
・ホイール用軽量化ディスクは、平板状のディスク素材2を得る工程と、ディスク素材2をディスク3に絞り加工する工程と、絞り成形と同時にディスク3のフランジ部3aをしごき加工する工程とから製造されること(段落【0013】)
・ディスク素材2を得る工程では、ほぼ正方形の平板1から、4隅をプレス打ち抜きなどにより落とした平板状ディスク素材2を作製すること(段落【0014】)
・絞り加工では、平板状のディスク素材2を少なくとも1回の絞り工程を経て絞り加工して、フランジ部3aを有しフランジ部3aのホイール軸方向内側端縁4がその少なくとも一部にホイール軸芯と直交する平面内でホイール周方向に延びる一般部4aを有する、ディスク3を製作すること(段落【0014】)
・しごき工程では、少なくとも1回の絞り工程の何れかの絞り工程と同時にフランジ部3aを、フランジ部3aが一般部4aにおいてディスク素材2の板厚の90%以下の板厚を有するようにしごくものであり(段落【0014】)、ベンチレーション部4bを、ベンチレーション部4bが少なくともベンチレーション中心部15の軸方向先端において一般部4aの板厚以下でかつディスク素材2の板厚の100%以下の板厚を有するようにしごくこと(段落【0018】)
・しごき加工は、ディスク内面形状と同じ外面形状を有する内型5と外型6間の、ディスクフランジ部に対応する位置でのギャップdが、ディスク素材2の板厚の90%以下に設定されている内型5と外型6を用いて行われること(段落【0015】)
・しごき加工を、外型6として単一の絞りリング6を用いたプレス絞り加工により行う場合は、絞りリング6は、内型5に対して上下動されるものであり、絞りリング6の内周面の先端部には内周側に突出するR部6aが設けられているとともに、R部6aより上の部分は素材から離れる方向に後退した逃げ部7としてあること(段落【0016】)

以上によれば、甲第1号証には、ホイール用軽量化ディスクの製造方法について、次の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明A>
ホイール用軽量化ディスク3の製造方法であって、
ホイール用軽量化ディスク3は、ディスク外周部に位置しディスク軸芯とほぼ平行に延びるフランジ部3aと、ディスク中央部に位置しディスク軸芯とほぼ直交方向に延びるハブ部3cと、フランジ部3aとハブ部3cと連結するハット部3bとを有し、
フランジ部3aのホイール軸方向内側端縁4は、4つの一般部4aと4つのベンチレーション部4bからなっており、各一般部4aは、ディスク軸芯と直交する平面内に位置しディスク周方向に延びており、各ベンチレーション部4bは、隣り合う一般部4aの間に位置し、一般部4aを含むディスク軸芯と直交する平面から、ホイール軸方向外側に凹状に湾曲しており、
ホイール用軽量化ディスクは、平板状のディスク素材2を得る工程と、ディスク素材2をディスク3に絞り加工する工程と、絞り成形と同時にディスク3のフランジ部3aをしごき加工する工程とから製造され、
ディスク素材2を得る工程では、ほぼ正方形の平板1から、4隅をプレス打ち抜きなどにより落とした平板状ディスク素材2を作製し、
絞り加工では、平板状のディスク素材2を少なくとも1回の絞り工程を経て絞り加工して、フランジ部3aを有しフランジ部3aのホイール軸方向内側端縁4がその少なくとも一部にホイール軸芯と直交する平面内でホイール周方向に延びる一般部4aを有する、ディスク3を製作し、
しごき工程では、少なくとも1回の絞り工程の何れかの絞り工程と同時にフランジ部3aを、フランジ部3aが一般部4aにおいてディスク素材2の板厚の90%以下の板厚を有するようにしごくものであり、ベンチレーション部4bを、ベンチレーション部4bが少なくともベンチレーション中心部15の軸方向先端において一般部4aの板厚以下でかつディスク素材2の板厚の100%以下の板厚を有するようにしごくものであり、
しごき加工は、ディスク内面形状と同じ外面形状を有する内型5と外型6間の、ディスクフランジ部に対応する位置でのギャップdが、ディスク素材2の板厚の90%以下に設定されている内型5と外型6を用いて行われ、
しごき加工を、外型6として単一の絞りリング6を用いたプレス絞り加工により行う場合は、絞りリング6は、内型5に対して上下動されるものであり、絞りリング6の内周面の先端部には内周側に突出するR部6aが設けられているとともに、R部6aより上の部分は素材から離れる方向に後退した逃げ部7としてある、
ホイール用軽量化ディスク3の製造方法。」

イ また、甲第1号証の特許請求の範囲の請求項1、4及び5の記載(摘示(1a))によれば、「ホイール用軽量化ディスク」について、次の発明(以下「甲1発明B」という。)が記載されていると認められる。
なお、図番は、便宜のため、その実施の形態(摘示(1b))を参考に付した。
<甲1発明B>
「平板状のディスク素材2の絞り成形体からなり、
ディスク軸芯とほぼ平行に延びるフランジ部3aを有し、
該フランジ部3aはホイール軸方向内側端縁4を有しており、該フランジ部3aのホイール軸方向内側端縁4はその少なくとも一部にホイール軸芯と直交する平面内でホイール周方向に延びる一般部4aを有しており、
前記フランジ部3aは前記ホイール軸方向内側端縁4の前記一般部4aにおいて前記ディスク素材2の板厚の90%以下の板厚を有しているホイール用軽量化ディスク3であって、
前記フランジ部3aのホイール軸方向内側端縁4は、4つの一般部4aと4つのベンチレーション部4bを有しており、各ベンチレーション部4bは隣り合う一般部4a間に位置し前記一般部4aが位置する平面からホイール軸方向外側に湾曲しており、
前記フランジ部3aは少なくとも前記ホイール軸方向内側端縁4のうち前記一般部4aにおいて前記ディスク素材2の板厚の90%以下の板厚を有しており、
前記ベンチレーション部4bが少なくともベンチレーション中心部のホイール軸方向先端において前記一般部4aの板厚以下でかつ前記ディスク素材2の板厚の100%以下の板厚を有している、
ホイール用軽量化ディスク3。」

(2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【0001】
本発明は、ホイールリムと接合されてホイールを形成するホイールディスクの製造方法に関するものである。
【0002】
例えば、自動車用ホイールとして、ホイールリムの所定接合部位の内周面に、ホイールディスクに形成されたフランジ部を内嵌して溶接してなる、いわゆる2ピースタイプのホイールが良く知られている。この2ピースタイプのホイールにあって、ホイールディスクの製造工程としては、所定の平板形状の板状基材をプレス加工することにより形成する方法がある。この製造方法では、一般的に、中央領域に凹部を形成してなる受け皿形状とした後、ハブ孔を設けるハブ取付部と、該ハブ取付部から半径方向外側からディスク表面方向に隆起し、かつ飾り孔を設ける隆起部とを具備するディスク主板部を形成する。その後、このディスク主板部の周方に連成された延出部を、ディスク軸方向とほぼ平行となるように折り曲げてフランジ部を形成する。このように、ホイールディスクは、ディスク主板部を成形する絞り加工工程と、フランジ部を成形するフランジ形成工程とにより成形される。
・・・
【0007】
ところで、上述したフランジ部を薄肉化するしごき加工にあって、該フランジ部では、板厚方向で内側に比して外側の変形量が大きくなる、いわゆる剪断変形を生じている。ここで、このしごき加工の、一回の加工量を大きくすると、フランジ部の外表面にひびや割れ等を生じることがある。このため、しごき加工により延伸して薄肉化する薄肉化量は、一回のしごき加工で、加工前の板厚に比して30%を越えないようにすることことが好ましい。さらに、前記ひびや割れ等の不具合の発生率や、加工時の稼働率等を考慮すると、生産工程上にあっては、この薄肉化量が20%を越えないようにすることが、適正にフランジ部を形成する望ましい加工条件であると言える。また、このしごき加工を複数回行うことにより、累積の薄肉化量を大きくすることも可能であるが、累積した変形量が大きくなると、ひびや割れ等の不具合が生じ易くなる。このため、しごき加工を複数回行うようにした場合にあっても、適正なフランジ部を成形するには、当初の板厚の30%を越えないようにすることが好ましい加工条件である。
・・・
【0018】
一方、フランジ形成工程が、しごき加工後の板厚に合致する環幅からなる環状保持リングを、しごき加工による延伸位置に配して該しごき加工を行うことにより、延伸される周端面を周方向に沿って略均一な平面形状とするようにした製造方法が提案される。ここで、一般的に、しごき加工では、材料組織の偏在化やパンチ及びダイス等の加工治具による負荷力の微小な偏り等によって、延伸及び薄肉化量が部分的に変化し易い。そのため、しごき加工による延伸端の周端面は、変化量の多寡によって、延伸方向にうねったような形状になり得る。このような形状の周端面を隅肉溶接すると、周方向で溶接強度が異なることとなり、ホイールの耐久性や走安性が充分に発揮できないことともなり得る。このため、かかる製造方法にあっては、しごき加工によって延伸する周端面を、環状保持リングによって、周方向に沿って均一な平面形状になるように形成したものである。これにより、フランジ形成工程により形成されるフランジ部は、周端面がほぼ均一な平面形状となり、周方向にほぼ均一な強度を充分発揮し得る隅肉溶接を行うことが可能である。尚、この環状保持リングは、しごき加工時に、当該しごき加工により延伸される変形量を考慮して配置する必要があり、変形量が異なると配する位置も異なることとなる。この環状保持リングは、屈曲加工工程でしごき加工する場合や、しごき加工工程のいずれにも用いることができ、好ましくは、全てのしごき加工時に使用することが良い。また、環状保持リングは、内型ダイスと別個のものとすることや、内型ダイスの所定位置に一体的に形成されてなるものとすることのいずれとしても良い。
・・・
【0026】
本発明にかかる、自動車用のホイールディスク5の製造方法を添付図面に従って説明する。
図1は自動車用スチールホイール1の縦断面図である。この自動車用スチールホイール1は、ホイールリム2と、ハブ孔4をその中央に具備するホイールディスク5とからなる2ピースタイプのホイールである。ここで本実施形態例では、ホイールリム2及びホイールディスク5にスチール材を用いた、いわゆるスチールホイールとしている。かかる自動車用スチールホイール1は、ホイールリム2のドロップ部3の内周面に、ホイールディスク5のフランジ部11を内嵌させ、フランジ部11の周端縁12を隅肉溶接によりドロップ部3に接合することにより一体化される。この隅肉溶接には、アーク溶接、レーザー溶接等の公知技術を用いることができる。尚、隅肉溶接の代わりに、スポット溶接して接合することも可能である。
・・・
【0032】
次に、本発明の要部にかかるフランジ形成工程を説明する。
フランジ形成工程にあっては、上述のディスク状品34の延出部35を、ディスク軸方向とほぼ平行に折り曲げる屈曲加工工程を行う。ここで、屈曲加工工程では、折り曲げ加工と共に、該折り曲げ加工により外周となる外側からしごき加工を実行する。次に、屈曲加工工程で形成した屈曲周部36(図5参照)を、しごき加工工程によりしごき加工して、所望のフランジ部11を形成するようにしている。
【0033】
屈曲加工工程にあっては、図5(イ)のように、ディスク状品34のディスク主板部14を、その背面側から支持する第一の内型ダイス20と、表面側から支持するフロートダイ21とにより挟持する。ここで、第一の内型ダイス20とフロートダイ21とは、ディスク状品34の中央に形成されているハブ基孔32により、該ディスク状品34との相対位置を決めている。さらに、この内型ダイス20の、ディスク背面方向の下部に、この屈曲加工工程により形成される屈曲周部36の板厚Pと合致する環幅の環周面25を有する環状保持リング部24が形成されている。ここで、この環状保持リング部24は、屈曲加工工程のしごき加工による延伸変形量を予め算出して得た、屈曲周部36の周端が形成される所定位置に設けられている。そして、所定内径の環状加工部22を備えてなる外型パンチ23を、フロートダイ21の外周面に沿って、ディスク状品34の表面側から背面方向に向かって進行させる。これにより、延出部35を軸方向と略平行になるように折り曲げながら、その外側をしごき加工していき、図5(ロ)のように、屈曲周部36を形成する。ここで、この環状加工部22は曲面形状に形成されており、延出部35の外表面を傷付けることがないようにしている。また、屈曲周部36には、外型パンチ23の環状加工部22の加工内径Fと合致した周径の屈曲外周面37が形成されてなる。尚、この屈曲周部36の周端は、前記環状保持リング部24によって、しごき加工による延伸変形の終了位置が規定され、周方向に亘って平面形状となるような周端面(図示省略)に形成される。
【0034】
この屈曲加工工程は、第一の内型ダイス20と外型パンチ23とにより、延出部35を折り曲げる屈曲加工としごき加工とを行い、所望のフランジ部11の完成外径Lに比して径大な屈曲外周面37を備えた屈曲周部36を形成する。本実施形態例にあっては、第一の内型ダイス20の内周支持面26のダイス外径Dを約337mmとし、外型パンチ23の環状加工部22の加工内径Fを約344.4mmとした。したがって、上述したフランジ部11の完成外径Lの約340mmに比して径大な屈曲外周面37を有する屈曲周部36が形成されている。ここで、屈曲周部36の板厚Pは、約3.7mmとなっており、板状基材30の板厚Tの約4.5mmから約18%薄肉化したこととなる。また、この屈曲加工工程では、延出部35を第一の内型ダイス20の内周支持面26に沿うように折り曲げながら、しごき加工していく工程であるから、内側が内周支持面26によってしごき加工による変形を妨げられる。このため、屈曲周部36は、内側に比して外側の変形量が大きい状態(いわゆる剪断変形状態)となっている。」
(2b)甲第2号証には、以下の図が示されている。



(3)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(3a)「【0016】
本発明者らは、プレス試験機を用いて、SCM415鋼板の絞りしごき試験を行い、カップ成形物の内外径面の面粗度を調査した。この結果、ダイス側(カップ成形物の外径側しごき面)に潤滑性の優れた高粘度プレス加工油を塗布すると、シェル型外輪の内径面となるカップ成形物の内径面における面粗度が外径面よりも細かくなることを見出した。図7にその一例を示すが、ブランク素材の面粗度は表裏面ともRa0.49μm程度であるのに対して、カップ成形物内径面の面粗度はRa0.15μmと非常に細かくなっている。カップ成形物外径面の面粗度はRa0.44μmであり、ブランク素材の面粗度とあまり変わっていない。なお、図7に示すカップ成形物内外径面の面粗度は、いずれも軸方向に測定したものであるが、周方向に測定した面粗度もこれらとほぼ同等である。この結果は、通常の絞りしごき加工で観察されるものと逆であり、通常の絞りしごき加工では、ダイスでしごかれるカップ成形物外径面の方が細かい面粗度となり、内径面の面粗度はブランク素材の面粗度とあまり変わらない。
【0017】
上記の試験結果は、以下のように考えられる。すなわち、カップ成形物外径面の面粗度が素材の面粗度とあまり変わらなかったのは、カップ成形物の外径側しごき面では、加工される素材とダイスが殆ど接触しない略流体潤滑状態であったと考えられる。このようにダイス側の潤滑条件を略流体潤滑状態にすると、ダイスとの摩擦に起因する外径側しごき面での剪断力が殆どなくなって、ポンチとダイスの間のしごき部における応力が板厚方向で均一な圧縮応力状態となり、つぎの図8で検証されるように、素材が板厚方向で均一に減厚変形するようになる。
【0018】
図8は、前記カップ成形物の上端部の板厚断面写真を示す。上記推定を検証するように、ダイス側に潤滑性の優れたプレス加工油を塗布したカップ成形物の上端部は、板厚方向で均一に軸方向へ延伸している。このように、素材が板厚方向で均一に減厚変形して軸方向へ延伸すると、ポンチに接触するカップ成形物の内径面がポンチ表面に沿って軸方向へ相対移動し、この相対移動によるポンチ表面との摺動で内径面の面粗度が細かくなったものと考えられる。一方、通常の絞りしごき加工によるカップ成形物の上端部は、外径面側が著しく軸方向に延伸している。これは、ダイスとの摩擦に起因する剪断力でカップ成形物の外径面側が優先的に減厚変形し、内径面側があまり減厚変形しないからである。このように、内径面側があまり減厚変形しない通常の絞りしごき加工では、カップ成形物の内径面がポンチ表面と殆ど相対移動しないので、その面粗度は素材とあまり変わらない。」
(3b)甲第3号証には、以下の図が示されている。

2 当審の判断
2-1 申立理由1(特許法第29条第1項第3号)について
(1)本件発明1について
(1-1)対比
本件発明1と甲1発明Aとを対比する。
ア 甲1発明Aの「フランジ部3a」及び「ディスクフランジ部」は、その技術的意義において、本件発明1の「フランジ部」に相当し、以下同様に、「ホイール用軽量化ディスク3」は「ホイールディスク」に、「ホイール用軽量化ディスク3の製造方法」は「ホイールディスクの製造方法」に相当する。
イ 甲1発明Aの「フランジ部3a」は、「ディスク外周部に位置しディスク軸芯とほぼ平行に延びる」ものであるところ、それが環状をなし、車両内側に向けて伸びることも図1?3(摘示(1c))に示されるとおり明らかであり、さらに、上記「ディスク外周部」及び「ディスク軸芯」は、甲1発明Aの「外周部」及び「ホイール軸方向」と同義といえるから、上記「フランジ部3a」は、上記アをも踏まえると、甲1発明Aの「外周部にてホイール軸方向と略平行に車両内側に向けて延びる環状のフランジ部」に相当するものといえる。

(ア)甲1発明Aは、「フランジ部3aのホイール軸方向内側端縁4は、4つの一般部4aと4つのベンチレーション部4bからなっており、各一般部4aは、ディスク軸芯と直交する平面内に位置しディスク周方向に延びており、各ベンチレーション部4bは、隣り合う一般部4aの間に位置し」て構成されるものであるから、上記「フランジ部3a」は、上記イをも踏まえると、「ディスク軸芯とほぼ平行に延びる」一般部4aを備える部位(以下「部位A」という。)と、「ディスク軸芯とほぼ平行に延びる」ベンチレーション部4bを備える部位(以下「部位B」という。)を有することが明らかであり、上記部位A及び部位Bは、その形状、構造からみて、本件発明1の「基部」及び「窓部」にそれぞれ相当するものといえ、さらに、上記部位Aが、ホイール周方向における異なる複数の範囲に存在すること、及び上記部位Bが、ホイール周方向において隣り合う一般部4aの間に位置することも明らかである。
(イ)また、甲1発明Aの「各一般部4a」は、「ディスク軸芯と直交する平面内に位置しディスク周方向に延びて」構成されるものであるところ、かかる構成によって、上記部位Aにおけるホイール軸方向の長さが基本長で一定となることも図1や図3に示されているとおりである。
(ウ)さらに、甲1発明Aの「各ベンチレーション部4b」は、「一般部4aを含むディスク軸芯と直交する平面から、ホイール軸方向外側に凹状に湾曲して」構成されるものであるところ、かかる構成によって、上記部位Bにおけるホイール軸方向の長さが上記部位Aにおける上記基本長より短くなることも図1や図3に示されているとおりである。
(エ)してみると、甲1発明Aの「ホイール用軽量化ディスク3」における「フランジ部3aのホイール軸方向内側端縁4」を「4つの一般部4aと4つのベンチレーション部4bからなって」構成することは、上記アをも踏まえると、本件発明1の「ホイールディスク」における「前記フランジ部が、ホイール周方向における異なる複数の範囲に存在しホイール軸方向の長さが基本長で一定の複数の基部と、ホイール周方向において隣り合う前記基部の間に位置しホイール軸方向の長さが前記基本長より短い複数の窓部と、からなる」とういう構成に相当するものといえる。

(ア)甲1発明Aにおいて、「ホイール用軽量化ディスクは、平板状のディスク素材2を得る工程と、ディスク素材2をディスク3に絞り加工する工程と、絞り成形と同時にディスク3のフランジ部3aをしごき加工する工程とから製造され」るものであるから、本件発明Aの「平板状ディスク素材2」、「平板状のディスク素材2」及び「ディスク素材2」は、フランジ部3aの形成前のディスク素材と位置付け得るものである。
(イ)そして、甲1発明Aは、「ディスク素材2をディスク3に絞り加工する工程と、絞り成形と同時にディスク3のフランジ部3aをしごき加工する工程」によって、フランジ部3aを形成することが明らかであるから、上記「絞り加工する工程」及び「しごき加工する工程」は、本件発明1の「フランジ部形成工程」に相当するものといえる。
(ウ)さらに、甲1発明Aの「フランジ部3a」は、「ディスク外周部に位置しディスク軸芯とほぼ平行に延びる」ものであるところ、それが周方向の全域に亘って車両内側に向けて伸びることも図1?3(摘示(1c))に示されるとおりであるから、上記「絞り加工する工程」及び「しごき加工する工程」によって、平板状のディスク素材2の外縁部が、ホイール軸方向と略平行になるように周方向の全域に亘って車両内側に向けて折り曲げてフランジ部3aが形成されることも明らかである。
(エ)したがって、甲1発明Aの「ディスク素材2をディスク3に絞り加工する工程と、絞り成形と同時にディスク3のフランジ部3aをしごき加工する工程」は、本件発明1の「前記フランジ部の形成前のディスク素材の外縁部を、ホイール軸方向と略平行になるように周方向の全域に亘って車両内側に向けて折り曲げて前記フランジ部を形成するフランジ部形成工程」に相当するものといえる。

(ア)甲1発明Aは、「絞り加工では、平板状のディスク素材2を少なくとも1回の絞り工程を経て絞り加工し」、また、「しごき工程では、少なくとも1回の絞り工程の何れかの絞り工程と同時にフランジ部3aを、フランジ部3aが一般部4aにおいてディスク素材2の板厚の90%以下の板厚を有するようにしごく」ことを前提とし、「しごき加工は、ディスク内面形状と同じ外面形状を有する内型5と外型6間の、ディスクフランジ部に対応する位置でのギャップdが、ディスク素材2の板厚の90%以下に設定されている内型5と外型6を用いて行われ」るものであるから、甲1発明Aの「少なくとも1回の絞り加工する工程」及び「しごき加工する工程」は、上記「内型5と外型6」を用いて「同時に」行われるものとして特定することができる。
(イ)また、甲1発明Aの「内型5と外型6」は、「ディスク内面形状と同じ外面形状を有」し、「ディスクフランジ部に対応する位置でのギャップdが、ディスク素材2の板厚の90%以下に設定されている」ところ、上記イで述べたとおり「フランジ部3a」が環状をなし、車両内側に向けて伸びるように構成されるものであることをも踏まえると、「内型5」が、第1外半径の円筒外側面を有すること、「外型6」が上記第1外半径より大きい第1内半径の円筒内側面を有することも明らかである。
(ウ)さらに、甲1発明Aの「フランジ部3a」は、「ディスク外周部に位置しディスク軸芯とほぼ平行に延びる」ものであるところ、その製造は、「しごき加工を、外型6として単一の絞りリング6を用いたプレス絞り加工により行う場合は、絞りリング6は、内型5に対して上下動される」こととして特定されることから、上記(ア)(イ)をも踏まえると、内型5の上に平板状ディスク素材2が同軸的に載置した状態にて、内型5と、内型5に対して同軸的且つ上方に位置する外型6としての単一の絞りリング6と、を1回のストロークで軸方向に相対的に近づけることによって、平板状ディスク素材2の外縁部を下方に折り曲げてフランジ部3aが形成されるものとして特定し得ることも明らかである。
(エ)してみると、甲1発明Aにおける上記「内型5と外型6」による「絞り加工する工程」及び「しごき加工する工程」は、本件発明1の「前記フランジ部形成工程では、第1外半径の円筒外側面を有する内型の上に前記ディスク素材を同軸的に載置した状態にて、前記内型と、前記第1外半径より大きい第1内半径の円筒内側面を有し前記内型に対して同軸的且つ上方に位置する外型と、を1回のストロークで軸方向に相対的に近づけることによって、前記ディスク素材の外縁部を下方に折り曲げて前記フランジ部が形成され」という構成に相当するものといえる。

以上によれば、本件発明1と甲1発明Aとは、
「外周部にてホイール軸方向と略平行に車両内側に向けて延びる環状のフランジ部を有するホイールディスクであって、前記フランジ部が、ホイール周方向における異なる複数の範囲に存在しホイール軸方向の長さが基本長で一定の複数の基部と、ホイール周方向において隣り合う前記基部の間に位置しホイール軸方向の長さが前記基本長より短い複数の窓部と、からなるホイールディスクの製造方法であって、前記フランジ部の形成前のディスク素材の外縁部を、ホイール軸方向と略平行になるように周方向の全域に亘って車両内側に向けて折り曲げて前記フランジ部を形成するフランジ部形成工程を含むホイールディスクの製造方法であり、
前記フランジ部形成工程では、
第1外半径の円筒外側面を有する内型の上に前記ディスク素材を同軸的に載置した状態にて、前記内型と、前記第1外半径より大きい第1内半径の円筒内側面を有し前記内型に対して同軸的且つ上方に位置する外型と、を1回のストロークで軸方向に相対的に近づけることによって、前記ディスク素材の外縁部を下方に折り曲げて前記フランジ部が形成される、ホイールディスクの製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点A>
「外型」の構成について、本件発明1は、「前記外型の前記円筒内側面における、ホイール周方向の前記各窓部に対応する範囲、且つ、ホイール軸方向の途中位置から下端までに亘る範囲には、ホイール径方向外側に向かって窪んだ凹部が形成され」るものであるのに対し、甲1発明Aは、「単一の絞りリング6」として構成され、「絞りリング6の内周面の先端部には内周側に突出するR部6aが設けられているとともに、R部6aより上の部分は素材から離れる方向に後退した逃げ部7としてある」点。

(1-2)判断
ア 上記(1-1)のとおり、本件発明1と甲1発明Aとは、上記相違点Aで相違するものであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明A)である、ということはできない。
イ 申立人は、上記相違点Aについて、甲1発明Aにおける外型6としての絞りリング6は、軸方向の途中位置に内周側に突出するR部6aを含む突出部が全周にわたり設けられており、絞りリング6は、突出部より軸方向下端までに亘る範囲についてホイール径方向外側に向かって窪んだ凹部が形成された形状となるから、かかる構成と上記相違点Aに係る本件発明1の構成とは一致する旨主張する(特許異議申立書17頁17?27行)。
しかし、甲第1号証(摘示(1b)(1c))の「絞りリング6の内周面の先端部には内周側に突出するR部6aが設けられている。絞りリング6がしごき加工中に素材にかじりつくことを防止するために、R部6aの径は小としてあり、かつ、絞りリング6の、R部6aより上の部分は素材から離れる方向に後退した逃げ部7としてある。」(段落【0016】)及び図5の図示内容によれば、申立人が「ホイール径方向外側に向かって窪んだ凹部が形成された形状」と称する部位は、「絞りリング6の内周面」と解するのが相当であって、そもそも「窪んだ凹部」と位置付けられる構成ではないし、仮に、「突出するR部6a」を基準として「窪んだ凹部」と評価し得たとしても、かかる部位は、申立人も自認するとおり、外型(絞りリング6:なお、括弧内に甲1発明Aの対応語句を記す。)の円筒内側面の「全周にわたって」設けられているから、外型(絞りリング6)の円筒内側面における、「ホイール周方向の各窓部(ベンチレーション部4b)に対応する範囲」を特定して設けた構成ということもできない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明A)であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定して発明を特定したものであるから、本件発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明(甲1発明A)であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。

(3)本件発明6について
(3-1)対比
本件発明6と甲1発明Bとを対比する。
ア 甲1発明Bの「フランジ部3a」及び「ホイール用軽量化ディスク3」は、その技術的意義において、本件発明6の「フランジ部」及び「ホイールディスク」にそれぞれ相当する。
イ 甲1発明Bの「フランジ部3a」は、「ディスク軸芯とほぼ平行に延びる」ものであるところ、それがホイール用軽量化ディスク3の外周部において環状をなし、車両内側に向けて伸びることも図1?3(摘示(1c))に示されるとおり明らかであり、さらに、上記「ディスク軸芯」は、甲1発明Aの「ホイール軸方向」と同義といえるから、上記「フランジ部3a」は、上記アをも踏まえると、甲1発明Bの「外周部にてホイール軸方向と略平行に車両内側に向けて延びる環状のフランジ部」に相当するものといえる。

(ア)甲1発明Bは、「前記フランジ部3aのホイール軸方向内側端縁4は、4つの一般部4aと4つのベンチレーション部4bを有しており、各ベンチレーション部4bは隣り合う一般部4a間に位置し」て構成されるものであるから、上記「フランジ部3a」は、上記イをも踏まえると、「ディスク軸芯とほぼ平行に延びる」一般部4aを備える部位(以下「部位A」という。)と、「ディスク軸芯とほぼ平行に延びる」ベンチレーション部4bを備える部位(以下「部位B」という。)を有することが明らかであり、上記部位A及び部位Bは、その形状、構造からみて、本件発明6の「基部」及び「窓部」にそれぞれ相当するものといえ、さらに、上記部位Aが、ホイール周方向における異なる複数の範囲に存在すること、及び上記部位Bが、ホイール周方向において隣り合う一般部4aの間に位置することも明らかである。
(イ)また、甲1発明Bの「一般部4a」は、「ホイール軸芯と直交する平面内でホイール周方向に延びる」ように構成されるものであるところ、かかる構成によって、上記部位Aにおけるホイール軸方向の長さが基本長で一定となることも図1や図3に示されているとおりである。
(ウ)さらに、甲1発明Bの「ベンチレーション部4b」は、「隣り合う一般部4a間に位置し前記一般部4aが位置する平面からホイール軸方向外側に湾曲して」構成されるものであるところ、かかる構成によって、上記部位Bにおけるホイール軸方向の長さが上記部位Aにおける上記基本長より短くなることも図1や図3に示されているとおりである。
(エ)してみると、甲1発明Bの「ホイール用軽量化ディスク3」における「前記フランジ部3aのホイール軸方向内側端縁4」を「4つの一般部4aと4つのベンチレーション部4bを有して」構成することは、上記アをも踏まえると、本件発明6の「ホイールディスク」における「前記フランジ部が、ホイール周方向における異なる複数の範囲に存在しホイール軸方向の長さが基本長で一定の複数の基部と、ホイール周方向において隣り合う前記基部の間に位置しホイール軸方向の長さが前記基本長より短い複数の窓部と、からなる」とういう構成に相当するものといえる。

以上によれば、本件発明6と甲1発明Bとは、
「外周部にてホイール軸方向と略平行に車両内側に向けて延びる環状のフランジ部を有するホイールディスクであって、前記フランジ部が、ホイール周方向における異なる複数の範囲に存在しホイール軸方向の長さが基本長で一定の複数の基部と、ホイール周方向において隣り合う前記基部の間に位置しホイール軸方向の長さが前記基本長より短い複数の窓部と、からなるホイールディスク。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点B>
本件発明6は、「前記フランジ部の各窓部の車両内側の端面が、ホイール径方向外側部分がホイール径方向内側部分に対してより車両内側に位置するようにホイール径方向に対して第1傾き角だけ傾き、前記フランジ部の各基部の車両内側の端面が、ホイール径方向外側部分がホイール径方向内側部分に対してより車両内側に位置するようにホイール径方向に対して第2傾き角だけ傾き、前記第1傾き角が前記第2傾き角より大きい」ものであるのに対し、甲1発明Bは、そのように特定されていない点。

(3-2)判断
ア 上記(3-1)のとおり、本件発明6と甲1発明Bとは、上記相違点Bで相違するものであるから、本件発明6は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明B)である、ということはできない。
イ 申立人の主張について
(ア)申立人は、上記相違点Bに係る本件発明6の構成について、甲1発明Bが当然有している構成であり、本件特許発明6と甲1発明2とに実質的な相違点がない旨、より具体的には、
甲1発明Bのフランジ部は、一般部4a、ベンチレーション部4bのいずれの部分においてもしごき加工され薄肉化されたものであるところ(段落【0018】)、フランジ部を薄肉化するしごき加工にあって、該フランジ部では、板厚方向で内側に比して外側の変形量が大きくなること(剪断変形を生じていること)は周知の技術的事項(甲第2、3号証)であるから、しごき加工される甲1発明Bのフランジ部の一般部4a、ベンチレーション部4bのいずれの部分も板厚方向のホイール径方向外側が、ホイール径方向内側より車両内側により多く延伸変形していることは当業者に明らかであり、さらに、甲1発明Bのフランジ部は、一般部4aの部分に比べ、ベンチレーション部4bの部分の板厚が薄くなるようにしごき加工されたものであるところ(段落【0011】、【0018】)、絞り加工およびしごき加工の結果生ずる甲1発明Bのベンチレーション部4bの端縁の傾き角1と一般部4aの端縁の傾き角2とを比較すると、絞り加工時に周辺部の一般部4aの肉が流れ込み、しごき加工により一般部4aより板厚が小さくなるベンチレーション部4bの部分の方が、一般部4bの部分に比べ、しごき加工のための力がより大きく加えられて剪断変形が大きくなり、ベンチレーション部4bの端縁の傾き角1の方が一般部4aの端縁の傾き角2より大きくなることは当業者に明らかであるから、上記相違点Bは実質的な相違点ではない、旨主張するので(特許異議申立書19頁下から11行?21頁12行)、以下検討する。
(イ)甲1発明Bは、「前記フランジ部3aは少なくとも前記ホイール軸方向内側端縁4のうち前記一般部4aにおいて前記ディスク素材2の板厚の90%以下の板厚を有しており、前記ベンチレーション部4bが少なくともベンチレーション中心部のホイール軸方向先端において前記一般部4aの板厚以下でかつ前記ディスク素材2の板厚の100%以下の板厚を有して」構成されるものであるから、確かに、申立人が主張するとおり、一般部4aの部分に比べ、ベンチレーション部4bの部分の板厚が薄くなるように構成されたものと理解することもできるが、甲第1号証には、上記一般部4a及びベンチレーション部4bの端面に、それぞれ第1の傾き角及び第2の傾き角を形成するとともに、第1傾き角を第2傾き角より大きく構成することは記載も示唆もなされていない。
(ウ)また、甲第1号証(摘示(1b))の「図3のcおよび図2に示すように、フランジ部3aがベンチレーション部4bをもつ場合には、各ベンチレーション部4bは、少なくともベンチレーション中心部のホイール軸方向内側先端Pにおいて、一般部4aの板厚以下でかつディスク素材2の板厚の100%以下(さらに望ましくは60%以下)、たとえばディスク素材2の板厚の10?60%の板厚を有するように、薄肉化されていてもよい。」(段落【0011】)及び「絞りリング6を用いたしごき加工により図3のb、cのようにフランジ部板厚が変化するディスクを作製する場合は、内型5の外面形状をストレート形状から変化させる。」(段落【0016】)との記載によれば、甲1発明Bにおいて、「前記ベンチレーション部4bが少なくともベンチレーション中心部のホイール軸方向先端において前記一般部4aの板厚以下でかつ前記ディスク素材2の板厚の100%以下の板厚を有して」構成するためには、内枠5の外形形状をストレート形状から変化させる必要があるが、そのように変化させた内枠5の外形形状は記載されておらず、その外形形状を明確に特定することができないから、甲1発明Bのフランジ部3bにおいて、申立人が主張するような「しごき加工」、すなわち、ベンチレーション部4bの部分の方が、一般部4bの部分に比べ剪断変形が大きくなり、ベンチレーション部4bの端縁の傾き角1の方が一般部4aの端縁の傾き角2より大きくなるとするようなしごき加工が行われるとまで断ずることはできない。
(エ)これについて補足すれば、申立人が主張するように、甲第2号証の段落【0007】及び【0034】(摘示(2a))や甲第3号証の段落【0018】(摘示3a)及び図8(摘示(3b))の記載により、フランジ部を薄肉化するしごき加工にあって、該フランジ部では、板厚方向で内側に比して外側の変形量が大きくなること(剪断変形を生じること)が周知の技術的事項ということができたとしても、甲第2号証には、「さらに、この内型ダイス20の、ディスク背面方向の下部に、この屈曲加工工程により形成される屈曲周部36の板厚Pと合致する環幅の環周面25を有する環状保持リング部24が形成されている。・・・屈曲周部36には、外型パンチ23の環状加工部22の加工内径Fと合致した周径の屈曲外周面37が形成されてなる。尚、この屈曲周部36の周端は、前記環状保持リング部24によって、しごき加工による延伸変形の終了位置が規定され、周方向に亘って平面形状となるような周端面(図示省略)に形成される。」(段落【0033】)とも記載され、内型ダイス20の外形形状によっては、屈曲周部36の終端面の形状が規定されることも技術的に明らかであるし、また、甲第3号証(摘示(3a))には、「このようにダイス側の潤滑条件を略流体潤滑状態にすると、ダイスとの摩擦に起因する外径側しごき面での剪断力が殆どなくなって、ポンチとダイスの間のしごき部における応力が板厚方向で均一な圧縮応力状態となり、つぎの図8で検証されるように、素材が板厚方向で均一に減厚変形するようになる。・・・図8は、前記カップ成形物の上端部の板厚断面写真を示す。上記推定を検証するように、ダイス側に潤滑性の優れたプレス加工油を塗布したカップ成形物の上端部は、板厚方向で均一に軸方向へ延伸している。」(段落【0017】?【0018】)とも記載され、しごき加工の条件(潤滑条件)によっては、しごき部における応力が板厚方向で均一な圧縮応力状態となり、カップ成形物の上端部は、板厚方向で均一に軸方向へ延伸することも技術的に明らかである。
そうすると、上記(ウ)で述べたとおり、甲1発明Bにおいて、「前記ベンチレーション部4bが少なくともベンチレーション中心部のホイール軸方向先端において前記一般部4aの板厚以下でかつ前記ディスク素材2の板厚の100%以下の板厚を有して」構成するためには、内枠5の外形形状をストレート形状から変化させる必要があるところ、甲第1号証には、そのように変化させた内枠5の外形形状は記載されていないし、さらに、しごき加工の条件も不明であるから、上記周知の技術的事項を考慮しても、甲1発明Bにおいて、一般部4aより板厚が小さくなるベンチレーション部4bの部分の方が、一般部4bの部分に比べ、しごき加工のための力がより大きく加えられて剪断変形が大きくなり、ベンチレーション部4bの端縁の傾き角1の方が一般部4aの端縁の傾き角2より大きくなる、とまでいうことはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 以上のとおりであるから、本件発明6は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明B)であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。

2-2 申立理由2(特許法第29条第2項)について
(1)対比
本件発明7と甲1発明Bとを対比する。
本件発明7は、本件発明6と「外周部にてホイール軸方向と略平行に車両内側に向けて延びる環状のフランジ部を有するホイールディスクであって、前記フランジ部が、ホイール周方向における異なる複数の範囲に存在しホイール軸方向の長さが基本長で一定の複数の基部と、ホイール周方向において隣り合う前記基部の間に位置しホイール軸方向の長さが前記基本長より短い複数の窓部と、からなるホイールディスクであり」という構成の点で共通するものであるところ、上記「2-1(3)(3-1)」の対比関係を踏まえると、本件発明7と甲1発明Bとは、
「外周部にてホイール軸方向と略平行に車両内側に向けて延びる環状のフランジ部を有するホイールディスクであって、前記フランジ部が、ホイール周方向における異なる複数の範囲に存在しホイール軸方向の長さが基本長で一定の複数の基部と、ホイール周方向において隣り合う前記基部の間に位置しホイール軸方向の長さが前記基本長より短い複数の窓部と、からなるホイールディスク。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点C>
本件発明7は、「前記フランジ部の各窓部の車両内側の端面が、ホイール径方向外側部分がホイール径方向内側部分に対してより車両内側に位置するようにホイール径方向に対して傾き、前記フランジ部の各基部の車両内側の端面が、ホイール径方向に平行である」ものであるのに対し、甲1発明Bは、そのように特定されていない点。

(2)判断
ア 申立人は、上記相違点Cに係る本件発明7の構成について、甲1発明Bのフランジ部は、ベンチレーション部4bにおいてしごき加工され薄肉化されたものであるところ、フランジ部を薄肉化するしごき加工にあって、該フランジ部では、板厚方向で内側に比して外側の変形量が大きくなる、いわゆる剪断変形を生じていることは周知の技術的事項(甲第2、3号証)であるから、しごき加工される甲1発明Bのフランジ部のベンチレーション部4bは板厚方向のホイール径方向外側が、ホイール径方向内側より車両内側により多く延伸変形していることは当業者に明らかであり、また、甲第2号証の段落【0018】には、しごき加工による延伸端の周端面は、周端面を隅肉溶接する観点から周方向に沿って均一な平面形状になるように形成することが好ましいことが記載されているところ、甲1発明Bは、フランジ部の一般部4aにおいて、ホイールリムと隅肉溶接されるものであることが当業者には明らかである(甲第2号証の段落【0002】)。したがって、甲1発明Bに甲第2号証記載の上記技術的事項を適用して、フランジ部の一般部4aの端縁を周方向に沿って均一な平面形状とすることは、当業者が容易に想到することができたことであるから、本件発明7は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術的事項及び周知の技術的事項(甲第2、3号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、旨主張するので(特許異議申立書22頁16行?23頁20行)、以下検討する。
イ 甲1発明Bは、「前記フランジ部3aは少なくとも前記ホイール軸方向内側端縁4のうち前記一般部4aにおいて前記ディスク素材2の板厚の90%以下の板厚を有しており、前記ベンチレーション部4bが少なくともベンチレーション中心部のホイール軸方向先端において前記一般部4aの板厚以下でかつ前記ディスク素材2の板厚の100%以下の板厚を有して」構成されるものであるところ、甲第1号証には、「図5は、しごき加工を、外型6として単一の絞りリング6を用いたプレス絞り加工により行う場合を示している。絞りリング6は、内型5に対して上下動される。絞りリング6を用いたしごき加工により図3のb、cのようにフランジ部板厚が変化するディスクを作製する場合は、内型5の外面形状をストレート形状から変化させる。」(段落【0016】)及び「しごき工程では、前記ベンチレーション部4bを、ベンチレーション部4bが少なくともベンチレーション中心部15の軸方向先端において一般部4aの板厚以下でかつディスク素材2の板厚の100%以下(望ましくは、60%以下)の板厚を有するように、しごく。」(段落【0018】)と記載されているから、確かに、申立人が主張するとおり、甲1発明Bのフランジ部(フランジ3a)は、窓部(ベンチレーション部4b)においてしごき加工され薄肉化されたものと理解することもできるが、甲第1号証には、窓部(ベンチレーション部4b)の車両内側の端面が、ホイール径方向外側部分がホイール径方向内側部分に対してより車両内側に位置するようにホイール径方向に対して傾くように構成するとともに、基部(一般部4a)の車両内側の端面が、ホイール径方向に平行であるように構成することは、記載も示唆もなされていない。
ウ また、甲第2号証の段落【0007】及び【0034】(摘示(2a))や甲第3号証の段落【0018】(摘示3a)及び図8(摘示(3b))の記載により、フランジ部を薄肉化するしごき加工にあって、該フランジ部では、板厚方向で内側に比して外側の変形量が大きくなる、いわゆる剪断変形を生じることが周知の技術的事項ということができたとしても、甲第1号証には、「絞りリング6を用いたしごき加工により図3のb、cのようにフランジ部板厚が変化するディスクを作製する場合は、内型5の外面形状をストレート形状から変化させる。」(段落【0016】)と記載されているとおり、甲1発明Bにおいて、「前記ベンチレーション部4bが少なくともベンチレーション中心部のホイール軸方向先端において前記一般部4aの板厚以下でかつ前記ディスク素材2の板厚の100%以下の板厚を有して」構成する場合には、内型5の外面形状をストレート形状から変化させて構成することが予定されているところ、そのように変化させて構成した内型5の具体的な構成は不明であるから、甲1発明Bのベンチレーション部4bの車両内側の端面が、ホイール径方向外側部分がホイール径方向内側部分に対してより車両内側に位置するようにホイール径方向に対して傾くように構成されるものとまで断ずることはできないし、仮に上記周知の技術的事項を適用することで、ベンチレーション部4bの車両内側の端面を、ホイール径方向外側部分がホイール径方向内側部分に対してより車両内側に位置するようにホイール径方向に対して傾くように構成できたとしても、一般部4aの車両内側の端面を、ホイール径方向に平行に構成することはできない。
そして、申立人は、甲第2号証の段落【0018】には、しごき加工による延伸端の周端面は、周端面を隅肉溶接する観点から周方向に沿って均一な平面形状になるように形成することが好ましいことが記載されているところ、甲1発明Bは、フランジ部の一般部4aにおいて、ホイールリムと隅肉溶接されるものであることが当業者には明らかであるから(甲第2号証の段落【0002】)、甲1発明Bに甲第2号証記載の上記技術的事項を適用して、フランジ部の一般部4aの端縁を周方向に沿って均一な平面形状とすることは、当業者が容易に想到することができたとも主張するが、そもそも甲第2号証には、フランジ部の各窓部の車両内側の端面が、ホイール径方向外側部分がホイール径方向内側部分に対してより車両内側に位置するようにホイール径方向に対して傾くように構成しつつも、フランジ部の各基部の車両内側の端面が、ホイール径方向に平行であるように構成することは記載も示唆もなされていないから、甲1発明Bに、甲第2、3号証に記載された上記周知の技術的事項に加え、甲第2号証の段落【0002】に記載された技術的事項を適用しても、上記相違点Cに係る本件発明7の構成に至るものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 以上のとおりであるから、本件発明7は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明B)及び甲第2、3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないもの、ということはできない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2、6及び7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2、6及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-08-26 
出願番号 特願2017-551426(P2017-551426)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B60B)
P 1 652・ 113- Y (B60B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高島 壮基  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 氏原 康宏
岡▲さき▼ 潤
登録日 2018-11-22 
登録番号 特許第6438153号(P6438153)
権利者 中央精機株式会社
発明の名称 ホイールディスクの製造方法、及び、ホイールディスク  

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