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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1355199
審判番号 不服2018-1819  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-08 
確定日 2019-09-11 
事件の表示 特願2015-521580「ブロードキャスト配信の間の情報を分配するための方法および構成」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月16日国際公開、WO2014/011097、平成27年10月29日国内公表、特表2015-531185〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)4月11日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2012年7月9日 中国、2012年8月8日 中国)を国際出願日とする出願であって、その出願の経緯は以下のとおりである。

平成28年2月18日 手続補正書の提出
平成29年2月3日付け 拒絶理由通知書
平成29年5月9日 意見書、手続補正書、誤訳訂正書の提出
平成29年11月30日付け 拒絶査定
平成30年2月8日 拒絶査定不服審判の請求
平成30年11月28日付け 拒絶理由通知書(当審)
平成31年2月20日 意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
平成31年2月20日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「無線通信システムにおいて、ブロードキャストセッションで少なくとも一つのユーザ機器(UE)へデータを送信する、ブロードキャストマルチキャストサービスセンター(BM-SC)において実行される方法であって、
少なくとも一つのUEにデータを送信することを決定すること(510)と、
前記データの送信のために適用されるFEC(前方誤り訂正)冗長度の量を示すFEC冗長度レベルを決定すること(520)と、
前記UEが前記FEC冗長度レベルに基づいて早期の所定のアクションを始動することができるように、前記UEに前記データと前記FEC冗長度レベルの指標を送信すること(530)と、
を含む、方法。」

第3 当審の拒絶理由通知書の概要
当審が平成30年11月28日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、
「理由4.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
というものであり、請求項1に対して以下の9.を主引用例とし、10.を周知例として引用している。

9.特開2007-74413公報
10.3GPP TS 26.346 V11.1.0, 3rd Generation Partnership Project; Technical Specification Group Services and System Aspects; Multimedia Broadcast/Multicast Service (MBMS); Protocols and codecs(Release 11), インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/Specs/archive/26_series/26.346/26346-b10.zip>, 2012年6月29日アップロード

第4 引用発明、周知事項
1 引用発明
当審拒絶理由に引用された特開2007-74413号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、無線ネットワークにおけるマルチキャスト配信とオンデマンド配信とを併用してコンテンツを配信する、あるいは受信する、コンテンツ配信装置およびコンテンツ受信装置、ならびにコンテンツ配信システム、コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線ネットワークにおけるコンテンツ配信サービスが注目されている。メールマガジン等、メールベースでのテキスト情報の配信だけでなく、音楽や動画などのマルチメディアコンテンツの配信も行われている。今後も、ユーザの嗜好やコンテンツの多様化により、無線ネットワークにおけるコンテンツ配信サービスにおける技術向上が望まれる。
ところで、無線ネットワークを用いたコンテンツ配信は、ネットワーク内の基地局を介して行われるため、ほぼ同じ場所に位置する複数のクライアント(端末)に対して双方向通信でコンテンツを個別に配信(以下、オンデマンド配信という)することは、帯域効率の点で好ましくない。そこで、1つの基地局から複数のクライアントに対して、同一コンテンツを同報配信(以下、マルチキャスト配信という)する技術について従来から検討されている。
【0003】
しかしながら、無線ネットワークによれば、時々、無線信号がクライアントに届かない不感地帯が存在する。このとき、マルチキャスト配信されるコンテンツを受信中のクライアントは、1以上のパケットを受信できない状態(パケット損失)が発生する。
そこで、マルチキャスト配信におけるパケット損失対策として、伝送中のパケット損失によるエラーを検出し、自己修復を行う伝送誤り制御方式であるFEC(Forward Error Correction)が利用される。FECでは、伝送したいK個のパケット(コンテンツ)を符号化し、N(≧K)個の符号化データとして伝送する。これにより、伝送中にパケット損失が発生しても、クライアントは、N個の符号化データのうち、少なくともK個の符号化データを受信すれば、本来のK個のパケットに復元できる。但し、この符号化処理により、伝送するデータ量が増大するため、ネットワークにかかる負荷も増大してしまう。また、クライアントの受信状態がさらに悪化し、K個の符号化データを受信できなかった場合、クライアントは、本来のK個のパケットへの復元ができない。ここで、符号化前のパケットの数Kと符号化後におけるデータの数Nの比であるN/Kを、冗長度と呼ぶ。
(中略)
【0006】
本発明は上記事情に基づいてなされたものであり、無線ネットワークにおけるマルチキャスト配信とオンデマンド配信とを併用したコンテンツ配信システムにおいて、マルチキャスト配信データに対して冗長性を付加することによりパケット損失対策を施し、また、マルチキャスト時にクライアントが受信できなかったデータをオンデマンド配信することのできる、コンテンツ配信装置およびコンテンツ受信装置、ならびにコンテンツ配信システム、コンピュータプログラムを提供することを目的とする。
また、上記した冗長性の付加によってネットワーク上を流れるデータ伝送量が増大するにもかかわらず、クライアントのパケット損失状況に応じて、冗長性を動的に制御し、オンデマンド配信のためのデータ伝送量を低減することで、結果的にネットワーク上の総伝送量を低減させる、コンテンツ配信装置およびコンテンツ受信装置、ならびにコンテンツ配信システム、コンピュータプログラムを提供することも目的とする。」(4?5ページ)

(2)「【0017】
図1は、本発明の実施形態におけるコンテンツ配信システムのシステム構成および動作概念を示す図である。
図1において、符号1はコンテンツ配信装置としてのサーバ、符号2はコンテンツ受信装置としての複数のクライアントであり、無線ネットワーク3および基地局4を介して接続される。上記構成から成るコンテンツ配信システムは、以下の2つの機能を持つハイブリッド型のコンテンツ配信形態をとる。
一つは、サーバ1から基地局4を通じ、その無線通信範囲以内に存在するクライアント2に対してマルチキャスト配信するプッシュ型配信機能である。この場合、コンテンツは、カルーセル状に連続的に配信される。他の一つは、各クライアント2がオンデマンドでコンテンツを要求すると、サーバ1がユニキャスト配信するプル型配信機能である。
【0018】
また、各クライアント2は、ユーザのプロフアイル情報を保持しており、適宜、サーバ1にアップロードする。プロファイル情報には、ユーザのコンテンツに対する嗜好情報(好き嫌いの度合)や、コンテンツの視聴時の行動情報などを含む。また、各クライアント2は、必要なときにコンテンツも個別に要求する。
ここで、無線ネットワーク3では、電波事情により、時々、無線信号がクライアント2に届かない状態に陥る可能性がある。このとき、受信中のクライアント2では、1以上のパケットを受信できず、オリジナルコンテンツを復元できなくなる。このため、本発明では、パケット損失が発生することを想定し、プッシュ型配信の際、配信データに冗長性を持たせることとした。このため、サーバ1に対し、配信データの冗長度を動的に決定するためのコンテンツ配信戦略を策定する機能を付加している。詳細は後述する。
【0019】
図2は、伝送中のパケット損失によるエラーを検出し、自己修復を行う伝送誤り制御方式であるFECの一種である消失符号を適用した際の概念図を示す。
ここでは、伝送したい1つのオリジナルコンテンツをR個のパケットに分割し、さらに、それらK個のパケットを1つのブロックとする。このとき、各パケットおよびブロックのサイズは一定であり、1つのブロックサイズに満たない場合は、パディング処理を行う。そして、各ブロック内に含まれるK個のパケットに対して符号化処理を行い、N(≧K)個の符号化データを生成し、その符号化データを配信する。ここでは、N/Kを符号化による「冗長度」と呼ぶ。
【0020】
符号化データを受信するクライアント2は、本来、N個の符号化データが含まれた各プロック内で、少なくともK個の符号化データを受信できた場合、そのブロックは受信成功であり、オリジナルコンテンツを構成するパケットにデコードできる。これにより、伝送中にエラーが発生し、各ブロック内の符号化データをある程度受信できなくても、クライアント2は、K個以上の符号化データを受信できれば、オリジナルデータの復元が可能となる。
一方、クライアント2の受信状態が悪化し、各ブロックにおける符号化データをK個受信できなかった場合、クライアント2は、そのブロック自体を破棄する。さらに、クライアント2は、サーバ1に対して同ブロックをオンデマンドで要求し、その配信を待って受信する。つまり、パケット損失が頻繁に発生し、クライアント2が受信する符号化データ数が少なくなるような環境においても、符号化による冗長度を上げると、オリジナルデータの復元が可能となる。
【0021】
しかしながら、符号化データの総数が増大するため、無線ネットワーク3上のデータ伝送量が増大し、伝送効率を低下させる。つまり、符号化による冗長度と伝送量にはトレードオフの関係が存在するため、効率の良い冗長度を決定する必要がある。また、多くのクライアント2の受信環境が悪いときは、プル型によるデータ伝送量が増大し、特に、携帯電話網全体の伝送効率を悪化してしまう。
そこで、冗長度を決定する方法として、一般的には、クライアント数、パケット損失状態などが異なるさまざまな環境を想定し、クライアント2がどのような受信状況であっても、パケット損失が発生しないような冗長度をあらかじめ決定しておき、常にその状態を維持する。つまり、基地局4単位で利用状況などを観測し、最繁時(最悪時)の状態に合わせて、冗長度を決定する。しかし、携帯電話を利用するユーザの行動、あるいはユーザの周囲の環境は多種多様であり、基地局4単位で異なるだけでなく、1つの基地局4が管理する領域であっても時間帯によってユーザ数などが変化するため、常に最繁時(最悪時)を想定した冗長度を設定しておくことは、無線ネットワーク3上のデータ伝送効率を低下させる。
【0022】
そこで、本発明においては、クライアント2から送信されるパケット損失情報を元に、最適な冗長度を随時決定することとする。つまり、サーバ1は、クライアント2がオンデマンドで要求するプロックデータの伝送量(以下、オンデマンド伝送量という)と、マルチキャストで配信するデータの伝送量(以下、マルチキャスト伝送量という)の総和(以下、総伝送量という)を求め、それを最小にする冗長度を決定する。
【0023】
以下、具体的に説明する。ここでは、クライアントi(0≦i≦M-1)は、冗長度用パラメータK、冗長度用パラメータN、コンテンツサイズCのそれぞれを既知であるものと仮定し、これらの情報は、随時配信されるものとする。
また、各クライアント2は、パケット損失率piを常に計算可能であると仮定する。ここで、パケット損失率とは、オリジナルコンテンツを分割した際のパケット数に対して、受信できなかったパケット数の割合を示す。
【0024】
まず、ある時刻t1からコンテンツのプッシュ型配信が開始される。ここで、冗長度を、N(t1)/K(t1)、符号化データ長をL、符号化データのヘッダ長をHとすれば、伝送時のブロック数B(t1)は以下の演算式(1)で表される。
(中略)
【0050】
図4、図5は、本発明の実施形態に係るコンテンツ配信システムの動作を説明するために引用したフローチャートであり、サーバ1(図4)、クライアント2(図5)に実装されるコンピュータプログラムのそれぞれの処理手順も示している。
以下、図4、図5に示すフローチャートを参照しながら、図3に示す本発明の実施形態に係るコンテンツ配信システムの動作について詳細に説明する。
【0051】
図4に示すサーバ1の動作から説明する。まず、符号化演算部11は、冗長度決定演算部17の指示の下、DB10からマルチキャスト配信すべきオリジナルコンテンツを取得し、冗長度αに基づく(第1の)符号化データ群を生成し、プッシュ型送信部13に転送する(ステップS41)。プッシュ型送信部13は、符号化演算部11により転送された符号化データ群をマルチキャスト配信する(ステップS42)。
なお、プッシ型送信部13は、冗長度αとオリジナルコンテンツのデータ量に関する情報を符号化データ群のヘッダ領域に書込み、無線ネットワーク3を介して接続されるクライアント2に対してこの符号化データ群をマルチキャスト配信する。
【0052】
上記した符号化データ群のマルチキャスト配信の結果、クライアント2により生成されるパケット損失情報は、プル型送受信部14を経由してパケット損失情報受信部15により収集される(ステップS44“Yes”)。ここで、伝送量推定演算部16は、上記した演算式(5)、(6)に従う演算を実行することによりオンデマンド伝送量を推定し(ステップS45)、補完演算部12を介して取得される符号化データを、プル型送受信部14を経由して要求のあったクライアント2にオンデマンド配信する(ステップS46)。
【0053】
冗長度決定演算部17は、上記した1周期分のコンテンツの配信終了と同時に、クライアント2に対してオンデマンド配信する(第2の)符号化データ群におけるデータ伝送量の総和と、マルチキャスト配信する(第1の)符号化データ群におけるデータ伝送量の総和とを最小にする冗長度αを算出して、都度符号化演算部11に指示し、以降の符号化演算部11による符号化データの生成に反映させている(ステップS47)。
すなわち、冗長度決定演算部17は、上記した演算式(10)に従う演算を実行し、オンデマンド伝送量とマルチキャスト伝送量の総和を最小にする冗長度αを動的に決定することで、クライアントのパケット損失状況に応じたオンデマンド側のデータ伝送量の低減をはかっている。以上の処理は、コンテンツ配信が終了するまで繰り返される(ステップS43“Yes”)。」(7?13ページ)

(3)


上記(1)?(3)の各記載及び当該技術分野の技術常識を考慮すると、
ア 上記(2)の段落0017の記載によれば、コンテンツ配信システムは、「コンテンツ配信装置としてのサーバ」と、コンテンツ受信装置としての複数のクライアントが、無線ネットワーク及び基地局を介して接続される構成から成り、サーバから基地局を通じ、その無線通信範囲以内に存在するクライアントに対してマルチキャスト配信を行うから、当該コンテンツ配信システムは、「無線通信システム」といえる。
そして、上記(1)の段落0002、上記(2)の段落0051?0053、上記(3)の図3及び図4の記載によれば、「少なくとも1つのクライアント(端末)へコンテンツをマルチキャスト配信する、」サーバ「において実行される方法」が記載されている。
よって、引用例には、「無線通信システムにおいて、少なくとも1つのクライアント(端末)へコンテンツをマルチキャスト配信する、コンテンツ配信装置としてのサーバにおいて実行される方法」が記載されている。

イ 上記(2)の段落0024の記載によれば、コンテンツのプッシュ型配信が開始され、上記(2)の段落0017の記載によれば、プッシュ型配信はマルチキャスト配信で行われるから、サーバは、コンテンツのプッシュ型配信を開始するために、「少なくとも1つのクライアント(端末)にコンテンツをマルチキャスト配信することを決定する」といえる。
上記(2)の段落0051及び上記(3)の図3の記載によれば、サーバの符号化演算部は、冗長度決定演算部の指示の下、DBからマルチキャスト配信すべきオリジナルコンテンツを取得し、冗長度αに基づく(第1の)符号化データ群を生成し、プッシュ型送信部に転送する。そして、プッシュ型送信部は、符号化演算部により転送された符号化データ群をクライアントに対してマルチキャスト配信する。
ここで、冗長度αは、サーバの冗長度決定演算部に指示されるから、サーバは、「当該コンテンツのマルチキャスト配信のために適用される、冗長度αを決定する」といえる。
そして、上記(1)の段落0003の記載によれば、冗長度は、FEC(Forward Error Correction)において符号化前のパケットの数Kと符号化後のデータの数Nの比であるN/Kであるから、サーバは、「FEC(Forward Error Correction)において符号化前のパケットの数Kと符号化後のデータの数Nの比である」冗長度を決定するといえる。
よって、サーバは、「当該コンテンツのマルチキャスト配信のために適用される、FEC(Forward Error Correction)において符号化前のパケットの数Kと符号化後のデータの数Nの比である冗長度αを決定する」といえる。

ウ 上記(2)の段落0051の記載によれば、サーバのプッシュ型送信部は、冗長度αに関する情報を符号化データ群のヘッダ領域に書き込み、無線ネットワークを介して接続されるクライアントに対してこの符号化データ群をマルチキャスト配信する。
ここで、上記(2)の段落0051より、符号化データ群は、冗長度αに基づき「符号化したコンテンツ」である。
よって、サーバは、「前記クライアント(端末)に符号化した前記コンテンツと前記冗長度αに関する情報をマルチキャスト配信する」といえる。

以上を総合すると、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「無線通信システムにおいて、少なくとも1つのクライアント(端末)へコンテンツをマルチキャスト配信する、コンテンツ配信装置としてのサーバにおいて実行される方法であって、
少なくとも1つのクライアント(端末)にコンテンツをマルチキャスト配信することを決定することと、
前記コンテンツのマルチキャスト配信のために適用される、FEC(Forward Error Correction)において符号化前のパケットの数Kと符号化後のデータの数Nの比である冗長度αを決定することと、
前記クライアント(端末)に符号化した前記コンテンツと前記冗長度αに関する情報をマルチキャスト配信することと、
を含む方法。」

2 周知事項
当審拒絶理由に引用された、3GPPの標準規格文書である3GPP TS 26.346 V11.1.0, 3rd Generation Partnership Project; Technical Specification Group Services and System Aspects; Multimedia Broadcast/Multicast Service (MBMS); Protocols and codecs(Release 11), インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/Specs/archive/26_series/26.346/26346-b10.zip>, 2012年6月29日アップロード(以下、「周知例」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

(1)「Introduction
MBMS is a point-to-multipoint service in which data is transmitted from a single source entity to multiple recipients. Transmitting the same data to multiple recipients allows network resources to be shared.
The MBMS bearer service offers two modes:
・Broadcast Mode.
・Multicast Mode.
MBMS user services can be built on top of the MBMS bearer service.
(中略)

3.1 Definitions
(中略)
MBMS user services: MBMS User Service may use more than one Multimedia Broadcast/Multicast Service (bearer service) and more than one Broadcast and/or Multicast session
(中略)

3.2 Abbreviations
(中略)
BM-SC Broadcast-Multicast - Service Centre
(中略)

4.4 Functional Entities to support MBMS User Services
4.4.1 MBMS User Service Architecture
Figure 3 depicts the MBMS network architecture showing MBMS related entities involved in providing MBMS user services.
(中略)


MBMS User Service architecture is based on an MBMS receiver on the UE side and a BM-SC on the network side.
(中略)
The BM-SC and UE may exchange service and content related information either over point-to-point bearers or MBMS bearers whichever is suitable. To that end the following MBMS procedures are provided:
(中略)
・MBMS-based delivery of data/content from the BM-SC to the UE over IP multicast or over IP unicast.
(中略)
- The data/content is optionally protected by an forward error correction code」(10?21ページ)

([当審仮訳]:
導入
MBMSは、単一のソース・エンティティから複数の受信者へデータを送信するポイントツーマルチポイント・サービスである。同じデータを複数の受信者に送信することにより、ネットワークリソースを共有することができる。
MBMSベアラサービスは、2つのモードを提供する:
・ブロードキャストモード
・マルチキャストモード
MBMSユーザサービスは、MBMSベアラサービスの上に構築することができる。
(中略)
3.1 定義
MBMSユーザサービス:MBMSユーザサービスは、複数のマルチメディアブロードキャスト/マルチキャストサービス(ベアラサービス)及び複数のブロードキャスト及び/又はマルチキャストセッションを使用することができる。
(中略)

3.2 省略形
(中略)
BM-SC ブロードキャストマルチキャストサービスセンター
(中略)

4.4 MBMSユーザサービスをサポートするための機能エンティティ
4.4.1 MBMSユーザサービスアーキテクチャ
図3は、MBMSユーザサービスを提供することに関与するMBMS関連エンティティを示すMBMSネットワークアーキテクチャを示す。

(図3、図3bは省略)
図3:GPRSのためのMBMSネットワークアーキテクチャモデル
図3b:EPSのためのMBMSネットワークアーキテクチャモデル

MBMSユーザサービスアーキテクチャは、UE側のMBMS受信機と、ネットワーク側のBM-SCとに基づいている。
(中略)
BM-SCおよびUEは、ポイントツーポイントベアラまたはMBMSベアラのいずれかで、サービスおよびコンテンツ関連情報を交換することができる。この目的のために、以下のMBMS手順が提供される:
(中略)
・BM-SCからUEへのIPマルチキャストまたはIPユニキャストによるMBMSベースのデータ/コンテンツの配信。
(中略)
-データ/コンテンツは、前方誤り訂正符号によって任意選択的に保護される。)

上記(1)の記載より、以下のことがいえる。
図3及び図3bの記載によれば、MBMSユーザサービスを提供するためのMBMSネットワークアーキテクチャは、BM-SC、コアネットワーク、GERANやUTRANやE-UTRAN、及び、MBMS受信機からなるから、MBMSは、「無線通信システムにおいて」サービスを提供するといえる。
そして、MBMSユーザサービスは、「ブロードキャストセッション及び/又はマルチキャストセッションを使用して、ブロードキャストマルチキャストサービスセンター(BM-SC)からUEへ」MBMSベースの「データ/コンテンツの配信を行」う。
ここで、「データ/コンテンツは、前方誤り訂正符号(forward error correction code)によって保護される」。

したがって、周知例には、
「無線通信システムにおいて、ブロードキャストセッション及び/又はマルチキャストセッションを使用して、ブロードキャストマルチキャストサービスセンター(BM-SC)からUEへデータ/コンテンツの配信を行い、データ/コンテンツは、前方誤り訂正符号(forward error correction code)によって保護される。」ことが記載されており、当該事項は、周知例が3GPPの標準規格文書であることから、当業者にとって技術常識といえる周知事項である。

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明の「クライアント(端末)」は、本願発明の「ユーザ機器(UE)」に相当する。
引用発明の「コンテンツ」は、本願発明の「データ」に相当する。
引用発明の「マルチキャスト配信する」ことは、コンテンツをマルチキャストにより送信することといえるから、本願発明と「送信する」点で一致する。
本願の外国語明細書の翻訳文の段落0003の記載によれば、本願発明の「ブロードキャストマルチキャストサービスセンター(BM-SC)」は、コンテンツを分配することによりMBMSまたはeMBMSを提供可能な要素であることが例示されているから、「ブロードキャストとマルチキャストによりコンテンツを配信する装置」を含んでいる。よって、本願発明の「ブロードキャストマルチキャストサービスセンター(BM-SC)」と、引用発明の「コンテンツ配信装置としてのサーバ」は、「コンテンツを配信する装置」といえる点で一致している。
よって、引用発明の「無線通信システムにおいて、少なくとも1つのクライアント(端末)へコンテンツをマルチキャスト配信する、コンテンツ配信装置としてのサーバにおいて実行される方法」は、本願発明と、「無線通信システムにおいて、少なくとも一つのユーザ機器(UE)へデータを送信する、コンテンツを配信する装置において実行される方法」との点で一致している。

2 引用発明の「少なくとも1つのクライアント(端末)にコンテンツをマルチキャスト配信することを決定すること」は、本願発明と、「少なくとも一つのUEにデータを送信することを決定すること(510)」との点で一致している。

3 引用発明の「FEC(Forward Error Correction)において符号化前のパケットの数Kと符号化後のデータの数Nの比である冗長度α」は、符号化前のパケットの数Kと符号化後のデータの数Nの比によってFEC冗長度の量を示すといえるから、本願発明の「FEC(前方誤り訂正)冗長度の量を示すFEC冗長度レベル」に相当する。
よって、引用発明の「前記コンテンツのマルチキャスト配信のために適用される、FEC(Forward Error Correction)において符号化前のパケットの数Kと符号化後のデータの数Nの比である冗長度αを決定すること」は、本願発明と、「前記データの送信のために適用されるFEC(前方誤り訂正)冗長度の量を示すFEC冗長度レベルを決定すること(520)」との点で一致している。

4 引用発明の「符号化した前記コンテンツ」は、本願発明と「前記データ」との点で一致する。
本願発明のFEC冗長度レベルの「指標」は、平成29年5月9日の誤訳訂正書によって、外国語明細書の「indication」の訳を「表示」から「指標」に訂正したことに伴い、補正されたものである。また、同誤訳訂正書によって、「indicated」の訳を「表示された」から「示された」に訂正し、また、外国語特許請求の範囲の請求項1の「indicative」、同請求項3の「indicating」を、外国語特許請求の範囲の翻訳文の請求項1、3ではそれぞれ「示す」と訳している。したがって、本願発明の「指標」は、「示すもの」という意味を含むと解される。
そして、引用発明の「冗長度αに関する情報」は、冗長度αをクライアントに示す情報であるから、「冗長度αに関する指標」ということができる。
そして、上記3より、引用発明の「FEC(Forward Error Correction)において符号化前のパケットの数Kと符号化後のデータの数Nの比である冗長度α」は、本願発明の「FEC(前方誤り訂正)冗長度の量を示すFEC冗長度レベル」に相当するから、引用発明の「前記冗長度αに関する情報」は、本願発明の「前記FEC冗長度レベルの指標」に相当する。
よって、引用発明の「前記クライアント(端末)に前記コンテンツと前記冗長度αに関する情報をマルチキャスト配信すること」は、本願発明と、「前記UEに前記データと前記FEC冗長度レベルの指標を送信すること(530)」との点で一致している。

以上を総合すると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、相違している。

(一致点)
「無線通信システムにおいて、少なくとも一つのユーザ機器(UE)へデータを送信する、コンテンツを配信する装置において実行される方法であって、
少なくとも一つのUEにデータを送信することを決定すること(510)と、
前記データの送信のために適用されるFEC(前方誤り訂正)冗長度の量を示すFEC冗長度レベルを決定すること(520)と、
前記UEに前記データと前記FEC冗長度レベルの指標を送信すること(530)と、
を含む、方法。」

(相違点1)
本願発明は、無線通信システムにおいて、「ブロードキャストセッションで少なくとも一つのユーザ機器(UE)へデータを送信する、ブロードキャストマルチキャストサービスセンター(BM-SC)」において実行される方法であるのに対して、引用発明は「少なくとも1つのクライアント(端末)へコンテンツをマルチキャスト配信する、コンテンツ配信装置としてのサーバ」において実行される方法である点。すなわち、本願発明は「ブロードキャストセッションで」送信する「ブロードキャストマルチキャストサービスセンター(BM-SC)」であるのに対して、引用発明は「マルチキャスト」配信を行う「コンテンツ配信装置としてのサーバ」である点。

(相違点2)
本願発明は「前記UEが前記FEC冗長度レベルに基づいて早期の所定のアクションを始動することができるように、前記UEに前記データと前記FEC冗長度レベルの指標を送信する」のに対して、引用発明には「前記UEが前記FEC冗長度レベルに基づいて早期の所定のアクションを始動することができるように」との特定がされていない点。

第6 判断
上記各相違点について判断する。
(相違点1について)
上記「2 周知事項」のとおり、「無線通信システムにおいて、ブロードキャストセッション及び/又はマルチキャストセッションを使用して、ブロードキャストマルチキャストサービスセンター(BM-SC)からUEへデータ/コンテンツの配信を行い、データ/コンテンツは、前方誤り訂正符号(forward error correction code)によって保護される。」ことは、当業者にとって技術常識といえる周知事項である。してみれば、引用発明の無線通信システムにおいて、「コンテンツを配信する装置としてのサーバ」に換えて、「ブロードキャストマルチキャストサービスセンター(BM-SC)」を採用し、FEC(前方誤り訂正)を用いてコンテンツを送信することは、当業者が容易に想到することができた事項である。
また、引用例の段落0002には、「1つの基地局から複数のクライアントに対して、同一コンテンツを同報配信(以下、マルチキャスト配信という)する」と記載されているように、マルチキャストとブロードキャストはいずれも同報(同時に多数の相手に同じ通知をすること。(大辞林 第三版))といえる点で共通し、マルチキャストは特定の複数の通信相手に対して同報し、ブロードキャストは不特定の複数の通信相手に対して同報するものであるが、引用例には特定の通信相手に限定してマルチキャスト配信することは記載されていないから、引用発明のマルチキャストによる同報配信を、通信相手を特定しないブロードキャストによる同報配信とすることに格別困難な点はない。
よって、引用発明の無線通信システムにおいて、「ブロードキャストセッションで」少なくとも一つのユーザ機器(UE)へデータを送信する、「ブロードキャストマルチキャストサービスセンター(BM-SC)」において実行される方法、とすることは、当業者が容易になしうることである。

(相違点2について)
本願発明は、「ブロードキャストマルチキャストサービスセンター(BM-SC)において実行される方法」であるところ、本願発明の「前記UEが前記FEC冗長度レベルに基づいて早期の所定のアクションを始動することができるように」との発明特定事項は、UEの動作を特定する一方で、ブロードキャストマルチキャストサービスセンター(BM-SC)の動作を何ら特定していないから、上記発明特定事項は、無線通信システムにおいて、サブコンビネーションの発明であるブロードキャストマルチキャストサービスセンター(BM-SC)を特定するための意味を有しないものである。
したがって、相違点2は、実質的に相違点ではない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-04-10 
結審通知日 2019-04-12 
審決日 2019-04-25 
出願番号 特願2015-521580(P2015-521580)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H04W)
P 1 8・ 121- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 廣川 浩  
特許庁審判長 岩間 直純
特許庁審判官 羽岡 さやか
本郷 彰
発明の名称 ブロードキャスト配信の間の情報を分配するための方法および構成  
代理人 永川 行光  
代理人 高柳 司郎  
代理人 渡邉 未央子  
代理人 下山 治  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康徳  
代理人 大塚 康弘  

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