ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B66B |
---|---|
管理番号 | 1355239 |
審判番号 | 不服2018-14779 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-11-06 |
確定日 | 2019-10-01 |
事件の表示 | 特願2015-115195「調速機用張り車の位置調整方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月 5日出願公開、特開2017- 1778、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年6月5日の出願であって、平成30年2月20日付けの拒絶理由の通知に対し、同年4月20日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年7月26日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対して同年11月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願請求項1?4に係る発明は、以下の引用文献1及び2に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開平8-26626号公報 2.特開平5-32384号公報 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 審判請求時の補正によって、請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項である「支持アーム」について、「前記調速用ロープの前記一端部より高い位置で前記第2ガイドレールに固定される」とあったものを、「前記調速用ロープの前記一端部及び前記他端部より高い位置で前記第2ガイドレールに固定される」(下線は、請求人が付与。)と限定するものであり、かつ、補正前の請求項3に記載された発明とその補正後の請求項3に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、本願の出願当初の明細書の段落【0029】には、「保守員は、図4に示すようにつり合いおもり4の位置がかご1の位置より僅かに高くなるようにかご1を停止させる。例えば、調速用ロープ14の一端部14aが保守員が乗るかご1の上面より高い位置に配置されるようにかご1を停止させる。」と記載されており、また、出願当初の図面の【図4】を参照すると、支持アーム23が、調速用ロープ14の一端部14a及び他端部14bより高い位置でガイドレール5(第2ガイドレール)に固定されていることが分かる。 そうすると、「支持アーム」について、「前記調速用ロープの前記一端部及び前記他端部より高い位置で前記第2ガイドレールに固定される」という事項は、出願当初の明細書及び図面に記載された事項であり、新規事項を追加するものではないといえる。 そして、「第4」から「第6」までに示すように、補正後の請求項1?4に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。 第4 本願発明 本願の請求項1?4に係る発明は、平成30年11月6日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりである(以下「本願発明1」?「本願発明4」という。)。 「【請求項1】 張り車が第1ガイドレールに案内されて上下に移動可能であり、 調速綱車及び前記張り車に巻き掛けられた調速用ロープの一端部が下方からつり合いおもりに固定され、前記調速用ロープの他端部が上方から前記つり合いおもりに固定されたエレベータにおいて、前記張り車の位置を調整する方法であって、 前記つり合いおもりを案内する第2ガイドレールに支持アームを固定する工程と、 前記支持アームに揚重装置を取り付ける工程と、 前記調速用ロープのうち前記一端部から下方に延びる部分に把持装置を固定する工程と、 前記調速用ロープに固定された前記把持装置を前記揚重装置によって引き上げる工程と、 前記つり合いおもりに固定された前記調速用ロープの前記一端部を前記つり合いおもりから外して上方に引き上げた後、前記調速用ロープの前記一端部を前記つり合いおもりに再度固定する工程と、 を備えた調速機用張り車の位置調整方法。 【請求項2】 前記支持アームを前記第2ガイドレールに固定する前に、前記つり合いおもりに固定された前記調速用ロープの前記一端部がエレベータのかごの上面より高い位置に配置されるように前記かごを停止させる工程を更に備えた請求項1に記載の調速機用張り車の位置調整方法。 【請求項3】 前記支持アームは、前記調速用ロープの前記一端部及び前記他端部より高い位置で前記第2ガイドレールに固定される請求項1又は請求項2に記載の調速機用張り車の位置調整方法。 【請求項4】 前記調速用ロープの前記一端部を前記つり合いおもりに再度固定した後、前記把持装置を下降させるように前記揚重装置を操作する工程と、 前記揚重装置を操作しても前記把持装置が下降しなくなった後に、前記把持装置を前記調速用ロープから取り外す工程と、 を更に備えた請求項1から請求項3の何れか一項に記載の調速機用張り車の位置調整方法。」 第5 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【要約】 ・・・(中略)・・・ 【構成】 ガバナロープ6の反かご側となる部分をガイドレール7に取り付けたブラケット11を起点として上方に牽引する長さ短縮機能121付き牽引体12によりかご非常止め装置作動アーム10の締結部2に締結された上端部側61のガバナロープ6を弛緩させ、締結部2から取り外して切詰める。」(下線は当審で付与。以下同様。) (2)「【0002】 【従来の技術】図2はエレベータガバナ機構の概略図で、1は昇降路9内を釣合錘8とつるべ式にガイドレール7に沿って上下動するかご、2はかご1の上方へのみ回動可能となっている非常止め装置作動アームとガバナロープ6の締結部で、ロープ6は上端および下端をそれぞれかご非常止め装置作動アーム2に締結されるとともに、上プーリ3およびロープ張力を賦与する錘5を有する下プーリ4にループ状に巻き掛けられて張力系を形成している。」 (3)「【0006】そこで前記実開昭60-167070号公報に提案されているように、昇降路内の固定物、例えばガイドレールに一端を係止し、中間にターンバックルのような短縮機能付きのロープ等により錘付き下プーリを持ち上げることも考えられるが、ピット内作業や2人作業は避けられず、また非常止め装置作動アーム締結部2と下プーリ4間のロープ、即ち下端側62を引き上げることも考えられるが、そのときは非常止め装置作動アームが上方に回動して非常止め装置が作動するおそれがある。」 (4)「【0011】図1は図2における要部説明図で、10はかご1の上方へのみ回動可能となっている非常止め装置作動アームで、通常は締結部2を介してロープ6に連結されている。11はガイドレール7に取り付けられたブラケット、12は一端をブラケット11にフック122で係止され他端に内面がゴム等の柔軟材を配したロープ把持体123を備え、中間に長さ短縮用ターンバックル121を有している牽引体で、他の符号は前記図2と同一の部分を示すので説明を省略する。」 (5)「【0012】このような構成とすればガバナロープ6の切詰めは1人作業が可能となる。その手順は(1)エレベータを最下階の1階床上の階のレベルに停止させ、(2)ピットに入り、(3)ロープ伸び寸法を確認し、(4)かご上に乗り、(5)ガイドレール7にブラケット11を取り付け、(6)牽引体12の一端をフック122によりブラケット11に係止し、他端をロープ把持体123により反かご側のロープ部分6に固結する。(7)ターンバックルによりガバナロープ6を引き上げてロープ6の上端部を緩ませ、(8)ロープ6を締結部2から取り外し、(9)ガバナロープ6を切詰め、(10)ロープ6を締結部2に取り付け、(11)ターンバックルによりロープ6の張力を緩めてブラケット11、牽引体12等を取り外して元通りにした後、(12)ピットに入り、(13)ガバナロープの長さを確認し、(14)ピットから出て試運転をしてガバナロープ6の切詰め作業を終了する。」 (6)【図2】を参照すると、ガバナロープ6は、その下端側62が下方から、その上端部側61が上方から、それぞれ、かご1の非常止め装置作動アーム10の締結部2に固定されていることが分かる。 (7)上記の記載事項及び図面の記載を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、「エレベータガバナロープの切詰め方法」に関して、実施例として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「下プーリ4があり、 上プーリ3及び前記下プーリ4に巻き掛けられたガバナロープ6の下端側62が下方から非常止め装置作動アーム10の締結部2に固定され、前記ガバナロープ6の上端部側61が上方から前記非常止め装置作動アーム10の締結部2に固定されたエレベータにおいて、ガバナロープの切詰め方法であって、 かご1が沿って上下動するガイドレール7にブラケット11を取り付けることと、 前記ブラケット11に長さ短縮用ターンバックル121を有している牽引体12の一端を係止することと、 前記ガバナロープ6の反かご側にロープ把持体123を固結することと、 前記ガバナロープ6に固結された前記ロープ把持体123を前記長さ短縮用ターンバックル121によって引き上げることと、 前記非常止め装置作動アーム10の締結部2からガバナーロープ6を取り外し、ガバナーロープ6を切り詰め、ガバナーロープ6を非常止め装置作動アーム10の締結部2に再度固定する、 ガバナロープの切詰め方法。」 2 引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【0021】図5は乗かごガバナーロープ9を複数本の主ロープ4,重量補償用ロープ7の中に案内シーブ20を設けて配置した実施例である。乗かごの中心付近に連結される主ロープ4a,重量補償用ロープ7aは昇降路の中心に配置されて昇降路壁までの距離が長くて大振幅で振幅するが、ガバナーロープ9を混在させることによってそれぞれのロープの振動エネルギーを吸収し、安定したエレベータの運転が可能となる。」 (2)「【0023】図7は釣り合い錘用ガバナーロープ10を用いて、複数本の主ロープ4b,重量補償用ロープ7bの配列の中にこのロープ4b,7b,10の大変位の振動を防止しようとしたものである。上下端のガバナーロープの分離方法は上記の図5,図6と同じである。」 (3)【図5】には、かご用ガバナーロープ9を乗りかご5に接続したものが、【図7】には、釣り合い錘用ガバナーロープ9を釣り合い錘6に接続したものが、それぞれ記載されている。 第6 対比、判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「下プーリ4」は、本願発明1の「張り車」に相当する。 以下同様に、「上プーリ3」は、「調速綱車」に、 「ガバナロープ6」は、「調速用ロープ」に、 ガバナーロープ6の「下端側62」及び「上端部側61」は、それぞれ調速用ロープの「一端部」及び「他端部」に、 「ブラケット11」は、「支持アーム」に、 「ブラケット11を取り付けること」は、「支持アームを固定する工程」に、 「長さ短縮用ターンバックル121を有している牽引体12」は、「揚重装置」に、 「長さ短縮用ターンバックル121を有している牽引体12の一端を係止すること」は、「揚重装置を取り付ける工程」に、 「ロープ把持体123」は、「把持装置」に、 「固結」することは、「固定」することに、 「ロープ把持体123を固結すること」は、「把持装置を固定する工程」に、 「長さ短縮用ターンバックル121によって引き上げること」は、「揚重装置によって引き上げる工程」に、それぞれ相当する。 引用発明の「非常止め装置作動アーム10の締結部2」と、本願発明1の「つり合いおもり」とは、ロープにより作動又は引き上げられるから、「負荷」という限りにおいて共通する。 また、引用発明の「ガバナロープの切詰め方法」と、本願発明1の「調速機用張り車の位置調整方法」とは、「調整する方法」である限りにおいて共通する。 更に、引用発明の「かご1が沿って上下動するガイドレール7」と、本願発明1の「つり合いおもりを案内する第2ガイドレール」とは、「ガイドレール」である限りにおいて共通する。 以上のことから、本願発明1と引用発明とは次の点で一致する。 「張り車があり、 調速綱車及び前記張り車に巻き掛けられた調速用ロープの一端部が下方から負荷に固定され、前記調速用ロープの他端部が上方から前記負荷に固定されたエレベータにおいて、調整する方法であって、 ガイドレールに支持アームを固定する工程と、 前記支持アームに揚重装置を取り付ける工程と、 前記調速用ロープに把持装置を固定する工程と、 前記調速用ロープに固定された前記把持装置を前記揚重装置によって引き上げる工程と、 を備えた調整する方法。」 一方で、両者は次の点で相違する。 [相違点1] 本願発明1においては、張り車は、「第1ガイドレールに案内されて上下に移動可能」であるのに対して、 引用発明においては、下プーリ4は、レールに案内されて上下に移動可能であるか否かは明らかでない点。 [相違点2] 負荷に関して、本願発明1においては、「つり合いおもり」であるのに対して、 引用発明においては、「非常止め装置作動アーム10の締結部2」である点。 [相違点3] 本願発明1においては、支持アームを固定するガイドレールは、「つり合いおもりを案内する第2ガイドレール」であり、 把持装置を固定する箇所は、「調速用ロープのうち前記一端部から下方に延びる部分」であり、 更に、「前記つり合いおもりに固定された前記調速用ロープの前記一端部を前記つり合いおもりから外して上方に引き上げた後、前記調速用ロープの前記一端部を前記つり合いおもりに再度固定する工程」を備える「調速機用張り車の位置調整方法」であるのに対して、 引用発明においては、ブラケット11を取り付けるガイドレールは、「かご1が沿って上下動するガイドレール7」であり、 ロープ把持体123を固結する箇所は、ガバナロープ6の下端側62ではなく、「ガバナロープ6の反かご側」であり、 更に、「非常止め装置作動アーム10の締結部2からガバナーロープ6を取り外し、ガバナーロープ6を切り詰め、ガバナーロープ6を非常止め装置作動アーム10の締結部2に再度固定する」、「ガバナロープの切詰め方法」である点。 (2)判断 事案に鑑みて、 上記相違点3について先に検討する。 引用発明は、ロープ把持体123を、「ガバナロープ6の反かご側」に固結しているところ、当該ロープ把持体123を、本願発明1が前提としている「調速用ロープの一端部が下方からつり合いおもりに固定され」たものにおいて、「調速用ロープのうち前記一端部から下方に延びる部分」に固定することについては、引用文献1に記載も示唆もされていない。 そして、引用発明は、ロープ把持体123をガバナロープ6の反かご側に固定しているものだから、引用発明を、つり合いおもり用ガバナロープに適用しても、「一端部から下方に延びる部分に把持装置を固定する」という本願発明1の構成に至らない。 また、相違点3に係る本願発明1の構成は、上記引用文献2にも記載されておらず、本願出願前において周知の技術であったともいえない。 したがって、引用発明において、相違点3に係る本願発明1の構成とすることは、引用文献1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 なお、引用文献1には、「また非常止め装置作動アーム締結部2と下プーリ4間のロープ、即ち下端側62を引き上げることも考えられるが、そのときは非常止め装置作動アームが上方に回動して非常止め装置が作動するおそれがある。」(前記「第5 1(3)」)との記載があるとしても、当該記載は、引用発明をして「下端側62を引き上げること」、すなわちロープ把持体123を固結する箇所を、ガバナロープ6の下端側62とすることを示唆するものとはいえない。 よって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明並びに引用文献1及び2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2?4について 本願発明2?4は、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同じ理由により、引用発明並びに引用文献1及び2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 第7 原査定について 以上のことから、本願発明1?4は、原査定において引用された引用文献1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-09-17 |
出願番号 | 特願2015-115195(P2015-115195) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B66B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 今野 聖一 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
小関 峰夫 尾崎 和寛 |
発明の名称 | 調速機用張り車の位置調整方法 |
代理人 | 高田 守 |
代理人 | 高橋 英樹 |
代理人 | 小澤 次郎 |