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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1355282
審判番号 不服2018-9197  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-03 
確定日 2019-09-12 
事件の表示 特願2016-534742「ユーザ装置、基地局及びアップリンクキャリアアグリゲーション通信方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月12日国際公開、WO2016/072443〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2015年(平成27年)11月5日(優先権主張 平成26年11月7日、平成27年1月28日、平成27年5月14日、平成27年8月14日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年11月30日 手続補正書の提出
平成29年 4月 4日付け 拒絶理由通知書
平成29年 5月30日 意見書、手続補正書の提出
平成29年 7月26日付け 拒絶理由通知書
平成29年 9月13日 意見書、手続補正書の提出
平成29年12月 7日付け 拒絶理由通知書
平成30年 2月 2日 意見書、手続補正書の提出
平成30年 3月28日付け 拒絶査定
平成30年 7月 3日 拒絶査定不服審判の請求、手続補正書の提 出

第2 平成30年7月3日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年7月3日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の概要

本件補正は、平成30年2月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された
「 アップリンクキャリアアグリゲーション機能を有するユーザ装置であって、
基地局との無線通信を制御する無線通信制御部と、
アップリンクキャリアアグリゲーションにより干渉を受ける免許不要帯域を利用する各無線通信システムの種別を前記基地局に報告する被干渉システム情報報告部と、
を有するユーザ装置。」
との発明(以下、「本願発明」という。)を、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された
「 アップリンクキャリアアグリゲーション機能を有するユーザ装置であって、
基地局との無線通信を制御する無線通信制御部と、
アップリンクキャリアアグリゲーションにより干渉を受けるWLAN及びBluetoothの少なくとも1つの種別を前記基地局に報告する被干渉システム情報報告部と、
を有するユーザ装置。」
との発明(以下、「本願補正発明」という。下線は、補正箇所を示す。)に補正することを含むものである。

2.補正の適否

(1)新規事項の有無、シフト補正の有無、補正の目的要件
本願補正発明の「アップリンクキャリアアグリゲーションにより干渉を受けるWLAN及びBluetoothの少なくとも1つの種別を前記基地局に報告する被干渉システム情報報告部」について、本願の出願当初の明細書、特許請求の範囲、図面(以下、「当初明細書等」という。)には、被干渉システム情報報告部がWLAN及びBluetoothの少なくとも1つの種別を前記基地局に報告することは、明記されていない。
一方、本願の当初明細書等の【図17】には、干渉原因通知部が「victimSystemInfo-r11」、すなわちアップリンクキャリアアグリゲーションにより干渉を受けるシステムの種別として、「wlan」、「bluetooth」を基地局に通知することが記載されている。しかしながら、「wlan」、「bluetooth」は、干渉原因の情報ではなく、被干渉システムの情報であるといえる。
してみると、被干渉システム情報報告部が、被干渉システムの情報である「wlan」、「bluetooth」、すなわち「アップリンクキャリアアグリゲーションにより干渉を受けるWLAN及びBluetoothの少なくとも1つの種別」を、基地局に報告することは、本願の当初明細書等に記載された事項に、新たな技術的事項を導入するものでない。
したがって、本件補正は、本願の当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえるから、特許法第17条の2第3項(新規事項)の規定に違反するものではない。

また、本件補正は、アップリンクキャリアアグリゲーションにより干渉を受ける無線通信システムについて、「免許不要帯域を利用する各無線通信システム」から、「WLAN及びBluetoothの少なくとも1つ」に下位概念化する補正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
したがって、本件補正は、第17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反するものではないことも明らかである。

(2)独立特許要件
上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かについて、以下検討する。

ア 本願補正発明
本願補正発明は、上記「1.」で示した本願補正発明のとおりのものと認める。

イ 優先権
本願は、以下の出願を優先権の主張の基礎としている。
特願2014-227473号(出願日 平成26年11月 7日)
特願2015- 14550号(出願日 平成27年 1月28日)
特願2015- 98863号(出願日 平成27年 5月14日)
特願2015-160090号(出願日 平成27年 8月14日)
しかしながら、本願補正発明を特定する事項である「アップリンクキャリアアグリゲーションにより干渉を受けるWLAN及びBluetoothの少なくとも1つの種別を前記基地局に報告する被干渉システム情報報告部」との事項は、特願2015-160090号の当初明細書等に記載されているものの、特願2014-227473号、特願2015-14550号、特願2015-98863号の当初明細書等には記載されていない。
また、請求人からは上記事項について、特願2014-227473号、特願2015-14550号、特願2015-98863号の当初明細書等における具体的な記載等の根拠は何ら示されていない。

したがって、特願2014-227473号、特願2015-14550号、特願2015-98863号に基づく本願補正発明についての優先権の主張の効果は認められず、以下に検討する特許法第29条第2項に規定する進歩性の判断の基準日は、特願2015-160090号の出願日である平成27年8月14日と認める。

ウ 引用例等の記載事項及び引用発明等

(ア)引用発明
原査定の拒絶の理由で引用されたNTT DOCOMO, INC.、WF on 2UL inter-band CA protection of GNSS(当審仮訳:2ULバンド間CAに係るGNSSの保護のWF)、3GPP TSG-RAN WG4 Meeting #73 R4-147274、2014年11月11日アップロード https://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG4_Radio/TSGR4_73/Docs/R4-147274.zip(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

a 「1. Introduction
In the RAN#72bis meeting, several solutions to address GNSS interference due to IMD of 2UL inter-band CA were discussed but no consensus was reached [1-4]. In this contribution, we discuss how to handle this issue and propose the solution for the Rel-12 timeframe.」(1葉)
(当審仮訳:
1.はじめに
RAN#72bis会議では、2ULバンド間CAのIMDを原因とするGNSS干渉に対処するためのいくつかの解決策が議論されたが、合意には至らなかった[1-4]。 本寄書では、この問題をどのように処理するかを議論し、Rel-12タイムフレームのための解決策を提案する。)

b 「2.1 Solution overview
Firstly, we discuss a solution relying on eNB scheduling with the assistance information from the UE. As discussed in the last meeting, it would be effective for UE to indicate confronting GNSS interference to eNB so that the eNB can take proper action to avoid the interference in the GNSS receiver. Possible actions the eNB can take are:
・Allocate the UL resource blocks among two component carriers with which the IMD does not fall into the frequency range of GNSS receiver.
・Allocate the UL resource block only on a single carrier.
・Apply A-MPR to protect GNSS.
・Deconfigure UL CA or deactivate SCell(s).

2.2 Signalling assistance from UE
For the eNB to take these actions, we propose the following assistance signalling procedure together with the UE.
・Condition on the UE assistance signalling
The eNB should apply the above actions only when the 2UL inter-band CA combination which could interfere in GNSS is configured for the UE. The UE assistance signalling for the appropriate eNB action is required only for that case. For this to work, the eNB should enable the UE to send an assistance information (namely Signalling A below) when the concerning 2UL inter-band CA is configured. If deconfigured, the eNB should also disable the UE to send Signalling A.
・Signalling A (from UE to eNB)
Under the conditions above, UE indicates the following information to eNB.
※GNSS ON/OFF
Alternatively, the UE indicates the GNSS interference problem when the UE detects like the In-Device Coexistence solution specified in RAN2 [7]. However, such a reactive approach may be too late to meet the regulatory requirement to obtain and provide location information. To avoid the GNSS interference proactively, the eNB should be able to know when the GNSS receiver is turned on/off by the UE.
※Tracked GNSS system (GPS, GLONASS, Galileo, etc…) or the center frequency and bandwidth of the GNSS system.
・If eNB can identify the tracked GNSS system or the center frequency and bandwidth of the GNSS system, the impact of restriction due to scheduling can be mitigated as little as possible.
・If UE tracks new GNSS system, it should be indicated accordingly.」(1-2葉)
(当審仮訳:
2.1 解決策の概要
最初に、我々は、UEからの支援情報を用いて、eNBのスケジューリングに頼る解決策を議論する。前回の会議で議論したように、eNBがGNSS受信機における干渉を回避するために適切な行動をとることができるように、UEが直面するGNSS干渉を、eNBに対して示すことが有効だろう。eNBがとり得る行動は以下のとおりである。
・IMDがGNSS受信機の周波数範囲に入らないように、2つのコンポ ーネントキャリアにULリソースブロックを割り当てる。
・シングルキャリアのみにULリソースブロックを割り当てる。
・GNSSを保護するためのA-MPRを適用する。
・UL CAの構成を解除する又はSCell(s)を無効にする。

2.2 UEからのシグナリング支援
eNBがこれらの行動をとるために、UEと共に以下の支援シグナリング手順を提案する。
・UE支援シグナリングの条件
eNBは、GNSSに干渉し得る2ULバンド間CAの組み合わせがUEのために構成されている場合にのみ、上記動作を適用すべきである。適切なeNBの動作のためのUEの支援シグナリングはその場合にのみ必要とされる。これが機能するためには、関連する2ULバンド間CAが構成されているときに、eNBは、UEが支援情報(すなわち、以下の“シグナリングA”)を送信できるようにするべきである。構成解除された場合、eNBはまた、UEがシグナリングAを送信できないようにするべきである。
・シグナリングA(UEからeNBへ)
上記条件下で、UEは、eNBに以下の情報を示す。
※GNSS ON/OFF
1つの方法として、UEは、GNSS干渉問題を、RAN2[7]で規定されたデバイス内共存ソリューションと同様に検出した場合に示す。しかしながら、そのような反応的アプローチは、位置情報を取得し提供するための規制要件を満たすには遅すぎるかもしれない。GNSS干渉を予防的に回避するために、eNBは、いつGNSS受信機がUEによってオン/オフされるかを知ることができなければならない。
※トラックされたGNSSシステム(GPS、GLONASS、Galileoなど)、またはGNSSシステムの中心周波数と帯域幅。
・eNBがトラックされたGNSSシステム又はGNSSシステムの中心周波数と帯域幅を識別できる場合、スケジューリングによる制限の影響を、可能な限り小さく抑えることができる。
・UEが新しいGNSSシステムをトラックする場合は、適切に、それが示されるべきである。)

上記記載及び当業者の技術常識を考慮すると、引用例1には、次の技術的事項が記載されている。

(a) 上記bの記載によれば、関連する2ULバンド間CAが構成されているときに、eNBは、UEが“シグナリングA”を送信できるようにする。2ULバンド間CAが構成されていることから、UEが2ULバンド間CA機能を有することは、当業者にとって明らかである。したがって、引用例1には、「2ULバンド間CA機能を有するUE」が記載されているといえる。

(b) 上記bの記載によれば、UEはシグナリングAをeNBに送信するといえる。ここで、UEがeNBにシグナリングを送信するために、eNBとの無線通信を制御すること、また、UEが機能を実現するために、機能部を有することは技術常識であるから、引用例1には、「eNBとの無線通信を制御する機能部」を有するUEが記載されているといえる。

(c) 上記bの記載によれば、eNBがGNSS受信機における干渉を回避するために適切な行動をとることができるように、GNSSに干渉する2ULバンド間CAの組み合わせがUEのために構成されている場合、UEは、シグナリングAに含まれるGNSS(GPS、GLONASS、Galileoなど)をeNBに示すといえる。ここで、上記aの記載によれば、GNSS受信機における干渉は、2ULバンド間CAのIMDを原因とするGNSS干渉といえるから、引用例1には、「eNBが2ULバンド間CAのIMDを原因とするGNSS干渉を回避するために適切な行動をとることができるように、2ULバンド間CAのIMDにより干渉を受けるGNSS(GPS、GLONASS、Galileoなど)をeNBに示す機能部」を有するUEが記載されているといえる。

したがって、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「 2ULバンド間CA機能を有するUEであって、
eNBとの無線通信を制御する機能部と、
前記eNBが2ULバンド間CAのIMDを原因とするGNSS干渉を回避するために適切な行動をとることができるように、2ULバンド間CAのIMDにより干渉を受けるGNSS(GPS、GLONASS、Galileoなど)を前記eNBに示す機能部と、
を有するUE。」

(イ)公知技術
原査定の拒絶の理由で引用されたQualcomm Incorporated、In-Device Coexistence Improvements (for UL inter-band CA interference on GNSS receiver)(当審仮訳:(GNSS受信機でのULバンド間CA干渉のための)デバイス内共存に係る改善)、3GPP TSG-RAN WG2 Meeting #88 R2-145162、2014年11月 8日アップロードhttps://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG2_RL2/TSGR2_88/Docs/R2-145162.zip(以下、「公知例2」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

a 「4 Conclusion
To protect GNSS reception while simultaneously transmitting on multiple uplink component carriers, we propose the following to extend existing IDC solution. An example ASN.1 change of the signaling message is included in the Appendix.
Proposal 1: RAN2 is respectfully requested to consider the following options as RAN4 has been discussing the same issue.
a)Use the existing signaling for UE to recommend to the network to stop UL scheduling on SCell when the UL intermod interference problem happens.
b)Introduce new signaling for UE to indicate to the eNB about the UL intermod interference problem.
c)Introduce new signaling for UE to send assistance information to help eNB avoid allocating problematic RB combinations in UL.
(中略)
Appendix: Example 36.331 signalling changes for the proposals
6.2.2Message definitions
- InDeviceCoexIndication
The InDeviceCoexIndication message is used to inform E-UTRAN about IDC problems which can not be solved by the UE itself, as well as to provide information that may assist E-UTRAN when resolving these problems.
Signalling radio bearer: SRB1
RLC-SAP: AM
Logical channel: DCCH
Direction: UE to E UTRAN」(3-4葉)
(当審仮訳:
同時に複数のアップリンクコンポーネントキャリア上で送信しながら、GNSS受信を保護するために、既存のIDCソリューションを拡張するために以下を提案する。シグナリングメッセージASN.1の変更の例は付録に含まれている。
提案1:RAN4が同じ問題について議論してきたので、RAN2は以下の選択肢を考慮することを尊重して要求される。
a)UL相互変調干渉問題が発生したときにSCellでのULスケジューリングを停止することをネットワークに推奨するためにUEのための既存のシグナリングを使用する。
b)UL相互変調干渉問題についてeNBに知らせるために、UEに新しいシグナリングを導入する。
c)eNBがULにおいて問題のあるRBの組み合わせを割り当てることを回避するのを助けるために支援情報を送信するためのUEのための新しいシグナリングを導入する。
(中略)
付録:提案する36.331シグナリングの変更例
6.2.2 メッセージの定義
-InDeviceCoexIndication
InDeviceCoexIndicationメッセージは、UE自身によって解決できないIDC問題について、E-UTRANに通知するために使用されるとともに、これらの問題を解決する際に、E-UTRANを支援し得る情報を提供するために使用される。
シグナリング無線ベアラ:SRB1
RLC-SAP;AM
論理チャネル:DCCH
方向:UEからE-UTRAN)

b 「
InDeviceCoexIndication message


」(4-5葉)
(当審仮訳:
InDeviceCoexIndicationメッセージ
(メッセージ略)
)

上記aの記載によれば、UE自身によって解決できないIDC問題であるUL相互変調干渉問題について、InDeviceCoexIndicationメッセージをUEがE-UTRANに通知するといえる。また、上記bのInDeviceCoexIndicationメッセージによれば、InDeviceCoexIndicationメッセージには、victimSystemType、すなわち干渉を受けるシステムの種別が列挙される。
したがって、公知例2には、以下の技術(以下、「公知技術」という。)が記載されているものと認める。

「UL相互変調干渉問題について、UEがE-UTRANに干渉を受けるシステムの種別を通知すること。」

(ウ)周知事項1
無線通信に係る標準化プロジェクト3GPPの技術報告書である3GPP TR 36.860 V0.3.0、2013年9月30日アップデート、https://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG4_Radio/TSGR4_68Bis/docs/R4-134778.zip(以下、「周知例8」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「When 2ULs inter-band CA UE is operating with other systems such as WiFi, Bluetooth and GNSS system, the harmonics and intermodulation products can have impact on these systems. Table 5.2.1-2 is given which is for the general IMD/harmonics analysis to coexist with ISM bands and GNSS system. From this table, the harmonics and IMD issues can be summarized.」(8ページ)
(当審仮訳:
2ULバンド間CAのUEがWiFi、ブルートゥース、GNSSシステムのような他のシステムとともに動作している時、高調波及び相互変調の産物がこれらのシステムに影響を及ぼし得る。表5.2.1-2は、ISMバンドとGNSSシステムとが共存するための一般的なIMD/高調波分析のためのものである。この表から、高調波及びIMD問題がまとめられ得る。)

上記記載及び当業者の技術常識によれば、周知例8に記載の「相互変調の産物」がIMD(相互変調歪み)であることは、当業者にとって明らかであるから、2ULバンド間CAの高調波及びIMDがWiFi、ブルートゥース、GNSSに影響、すなわち干渉を及ぼすといえる。
したがって、「2ULバンド間CAのIMDが、WiFi、ブルートゥース、GNSSに干渉すること。」は、例えば、3GPPの技術報告書である周知例8にも示されているように、無線通信技術の分野において周知事項(以下、「周知事項1」という。)であると認められる。

エ 対比及び判断

本願補正発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。

(ア)引用発明の「2ULバンド間CA機能」は、本願補正発明の「アップリンクキャリアアグリゲーション機能」に含まれる。また、引用発明の「UE」は、本願補正発明の「ユーザ装置」に相当する。
したがって、引用発明の「2ULバンド間CA機能を有するUE」は、本願補正発明の「アップリンクキャリアアグリゲーション機能を有するユーザ装置」に含まれる。

(イ)引用発明の「eNB」は、本願補正発明の「基地局」に相当する。引用発明の「eNBとの無線通信を制御する機能部」における「機能部」を「無線通信制御部」と称することは任意である。
したがって、引用発明の「eNBとの無線通信を制御する機能部」は、本願補正発明の「基地局との無線通信を制御する無線通信制御部」に相当する。

(ウ)引用発明の「2ULバンド間CAのIMDにより干渉を受ける・・・」における「干渉」は、本願補正発明の「アップリンクキャリアアグリゲーションにより干渉を受ける・・・」における「干渉」に含まれる。
また、本願補正発明の「WLAN及びBluetooth」と、引用発明の「GNSS(GPS、GLONASS、Galileoなど)」とは、無線通信システムという点で共通する。
さらに、UEがUE自身の情報をeNBに示すことは、報告に他ならない。そうすると、引用発明の「・・・2ULバンド間CAのIMDにより干渉を受けるGNSS(GPS、GLONASS、Galileoなど)を前記eNBに示す機能部」における「機能部」は、2ULバンド間CAのIMDにより干渉を受けるGNSS、すなわち被干渉システムを報告するものであるから、当該「機能部」を、「被干渉システム情報報告部」と称することは任意である。
したがって、本願補正発明の「アップリンクキャリアアグリゲーションにより干渉を受けるWLAN及びBluetoothの少なくとも1つの種別を前記基地局に報告する被干渉システム情報報告部」と、引用発明の「2ULバンド間CAのIMDにより干渉を受けるGNSS(GPS、GLONASS、Galileoなど)を前記eNBに示す機能部」とは、「アップリンクキャリアアグリゲーションにより干渉を受ける無線通信システムを前記基地局に報告する被干渉システム情報報告部」という点で共通する。

以上のことから、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「 アップリンクキャリアアグリゲーション機能を有するユーザ装置であって、
基地局との無線通信を制御する無線通信制御部と、
アップリンクキャリアアグリゲーションにより干渉を受ける無線通信システムを前記基地局に報告する被干渉システム情報報告部と、
を有するユーザ装置。」

(相違点1)
一致点の「アップリンクキャリアアグリゲーションにより干渉を受ける無線通信システム」について、本願補正発明は、「WLAN及びBluetoothの少なくとも1つ」であるのに対して、引用発明は、「GNSS(GPS、GLONASS、Galileoなど)」である点

(相違点2)
一致点の「被干渉システム情報報告部」が基地局に報告する無線通信システムの情報の属性について、本願補正発明は、「種別」であるのに対して、引用発明は、「種別」であることが明確でない点

上記相違点について検討する。

(相違点1)
上記ウ(ウ)で認定した「周知事項1」のとおり、「2ULバンド間CAのIMDが、WiFi、ブルートゥース、GNSSに干渉すること。」は周知である。さらに、無線通信技術の分野において、被干渉システムである無線通信システムが異なるとしても、同じ干渉原因に対して、同じ処理により干渉を回避することは、常套手段である。してみると、引用発明において、eNBが2ULバンド間CAのIMDを原因とするGNSS干渉を回避するための処理と同じ処理により、2ULバンド間CAのIMDを原因とするWiFi、ブルートゥースへの干渉を回避するために、基地局に報告する被干渉システムである無線通信システムを、WiFi、ブルートゥースとすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点2)
上記ウ(イ)で認定したとおり、「UL相互変調干渉問題について、UEがE-UTRANに干渉を受けるシステムの種別を通知すること。」は、公知技術であって、「UL相互変調干渉」がULバンド間CAのIMDを原因とする干渉であることは、当業者にとって明らかである。してみると、引用発明と公知技術は、いずれもULバンド間CAのIMDを原因とする干渉を解決するものであるから、引用発明に公知技術を採用することに格別の困難性はなく、阻害要因も見出せない。
したがって、引用発明に公知技術を採用し、基地局に報告する被干渉システムの情報の属性を「種別」とすることは当業者が適宜なし得たことである。

また、本願補正発明の作用効果も、引用発明、公知技術、周知事項1から当業者が予測し得る範囲内のものである。

そうすると、本願補正発明は、引用発明、公知技術、周知事項1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条7項の規定に違反するので、同法第159条1項の規定において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1.本願発明

本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年2月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、上記「第2」の「1.」で示した本願発明のとおりのものと認める。

2.原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由の概要は、
「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
というものであり、請求項1に対して、下記1-2が引用されるとともに、周知技術を示す文献として、下記5-7が提示されている。

1.NTT DOCOMO, INC.,WF on 2UL inter-band CA protection of GNSS [online],3GPP TSG-RAN WG4 Meeting #73 R4-147274,2014年11月11日,[retrieved on 2015.12.25], Retrieved from the Internet
2.Qualcomm Incorporated,In-Device Coexistence Improvements (for UL inter-band CA interference on GNSS receiver),3GPP TSG-RAN WG2 Meeting #88 R2-145162 [online],[retrieved on 2017.12.06], Retrieved from the Internet: ,2014年11月 8日,第1-8頁
5.特表2014-527380号公報
6.特表2013-520879号公報
7.国際公開第2014/053939号

3.引用発明等

(1)引用発明
引用例1に記載された引用発明は、上記「第2」の「2.」の「(2)」の「ウ」の「(ア)」で認定したとおりのものと認める。

(2)公知技術
公知例2に記載された公知技術は、上記「第2」の「2.」の「(2)」の「ウ」の「(イ)」で認定したとおりのものと認める。

(3)周知事項2
原査定の拒絶の理由で引用された特表2014-527380号公報(以下、「周知例5」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)
「【0019】
ユーザ機器102は、異なる無線技術を採用する複数のトランシーバを含む。図1の例では、トランシーバは、モバイル無線規格(MWS)トランシーバ及び工業・科学・医療(ISM)帯域トランシーバを含む。他の実施形態では、その代わりに、他の数のトランシーバ及び無線技術の他の組み合わせを採用することができる。例えば、MWSトランシーバは、ロング・ターム・エボリューション(LTE)トランシーバ、マイクロ波アクセスの世界規模相互運用(WiMAX:Worldwide Interoperability for Microwave Access)トランシーバ等を含むことができ、そしてISM帯域トランシーバは、WiFiトランシーバ、ブルートゥース・トランシーバ、ZigBee(登録商標)トランシーバ等を含むことができる。トランシーバは、2つのMWSトランシーバまたは2つのISMトランシーバを含むことができる。ISM帯域機器は、全地球測位システム(GPS:global positioning system)受信機、周波数変調(FM:frequency modulation)ラジオ受信機等の受信専用デバイスも含むことができる。」

原査定の拒絶の理由で引用された特表2013-520879号公報(以下、「周知例6」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)
「【0017】
第1のアンテナ235は、ワイヤレス通信デバイス200の右下部分に位置付けられていてもよく、第2のアンテナ240は、ワイヤレス通信デバイス200の右上部分に位置付けられていてもよい。第1のアンテナ235は、セルラアンテナ、GSM(登録商標)アンテナ、CDMAアンテナ、WCDMAアンテナ、または、ライセンスされているスペクトルを使用して動作可能な他の何らかのアンテナであってもよい。第2のアンテナ240は、WiFiアンテナ、GPSアンテナ、または、ライセンスされていないスペクトルを使用して動作可能な他の何らかのアンテナであってもよい。電源245は、図2で示されているコンポーネントまたはモジュールに電力を供給する。例示の目的のために、図1で示されている各ノードA、B、C、および、Dは、図2で示されているようなワイヤレス通信デバイス200である。」

原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2014/053939号(以下、「周知例7」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)
「 Wi-Fi uses frequency band 2400-2495 MHz in the ISM band. This band is divided into 14 channels, where each channel has a bandwidth of 22MHz, and 5 MHz separation from other channel with an exception of channel number 14 where separation is 12 MHz. The transmitter of LTE band 40 will affect receiver of WiFi and vice-versa. Since band 7 is a Frequency Division
Duplexing (FDD) band so there is no impact on LTE receiver from Wi-Fi transmitter but Wi-Fi receiver will be affected by LTE Uplink (UL) transmitter. Bluetooth operates between 2402-2480 MHz, in 79 channels of 1 MHz bandwidth each. Therefore similar to Wi-Fi, there are interference between band 40 and Bluetooth as well as interference from band 7 UL to Bluetooth Receiver (RX).
Furthermore, the reception of GNSS in the ISM band, e.g. Indian Regional Navigation Satellite System that operates 2483.5-2500MHz, can be affected by band 7 UL transmission.」(第3ページ、第10-23行)

(当審仮訳:
WiFiはISMバンド内の周波数帯域2400-2495MHzを使用する。この帯域は14チャネルに分割されており、各チャネルは、22MHzの帯域幅を有し、分離間隔が12MHzであるチャネル番号14を除いて、他のチャネルから5MHzの分離間隔を有する。LTEバンド40の送信機は、WiFiの受信機に影響を及ぼすことになり、逆もまた同様になる。バンド7は周波数分割複信(FDD)帯域であり、そのためWiFi送信機からのLTE受信機に対する影響は生じないが、WiFi受信機はLTEアップリンク(UL)送信機による影響を受けることになる。Bluetoothは、2402-2480MHzの間で、各々1MHzの帯域幅の79チャネルにおいて動作する。したがって、WiFiと同様に、バンド7ULからBluetooth受信機(RX)への干渉のみならず、バンド40とBluetoothとの間にも干渉が生じる。
更に、ISMバンドにおけるGNSS、例えば、2483.5?2500MHzで動作するインド地域航法衛星システムの受信は、バンド7UL送信に影響され得る。)

周知例5-7によれば、GNSSはISM帯域(ISMバンド)を利用する無線通信システムであり、ISM帯域は、WiFiやブルートゥースなどに使用されていることから、免許不要帯域といえる。
したがって、「GNSSは、免許不要帯域を利用する無線通信システムであること。」は、例えば、周知例5-7にも示されるとおり、無線通信技術における周知事項(以下、「周知事項2」という。)である。

4.対比及び判断

本願発明は、本願補正発明から、上記「第2」の「2.」の「(2)」の「エ」で示した、本願補正発明と引用発明との相違点1に係る基地局に報告する被干渉システムについて、「WLAN及びBluetoothの少なくとも1つ」を「免許不要帯域を利用する各無線通信システム」との上位概念にしたものである。
したがって、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

(一致点)
上記「第2」の「2.」の「(2)」の「エ」で示した、本願補正発明と引用発明との一致点と同一である。

(相違点1)
一致点の「アップリンクキャリアアグリゲーションにより干渉を受ける無線通信システム」について、本願発明は「免許不要帯域を利用する各無線通信システム」であるのに対して、引用発明は「GNSS(GPS、GLONASS、Galileoなど)」であって、「免許不要帯域を利用する各無線通信システム」であることが明確でない点

(相違点2)
上記「第2」の「2.」の「(2)」の「エ」で示した、本願補正発明と引用発明との相違点2と同一である。

上記相違点について検討する。

(相違点1)
上記「3.」の「(3)」で認定した周知事項2のとおり、「GNSSは、免許不要帯域を利用する無線通信システムであること。」は、周知事項であるから、引用発明の「GNSS(GPS、GLONASS、Galileoなど)」は、免許不要帯域を利用する各無線通信システムといえる。
したがって、上記相違点1は,本願発明と引用発明との実質的な相違点ではない。

(相違点2)
上記「第2」の「2.」の「(2)」の「エ」で示した相違点2に係る検討のとおり、本願発明の上記相違点2に係る構成は、引用発明及び公知技術から、当業者が適宜なし得ることである。

また、本願発明の作用効果も、引用発明、公知技術、周知事項2から当業者が予測し得る範囲内のものである。
よって、本願発明は、引用発明、公知技術、周知事項2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-05 
結審通知日 2019-07-09 
審決日 2019-07-29 
出願番号 特願2016-534742(P2016-534742)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田部井 和彦  
特許庁審判長 中木 努
特許庁審判官 長谷川 篤男
山本 章裕
発明の名称 ユーザ装置、基地局及びアップリンクキャリアアグリゲーション通信方法  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 石原 隆治  

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