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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1355364
審判番号 不服2018-7920  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-08 
確定日 2019-09-19 
事件の表示 特願2013-120545「非水系電池」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月18日出願公開、特開2014-238958〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年6月7日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年11月28日付け 拒絶理由通知書
平成29年 4月 4日 意見書,手続補正書の提出
同年 8月30日付け 拒絶理由(最後)通知書
同年10月27日 意見書,手続補正書の提出
平成30年 3月 2日 平成29年10月27日付け手続補正の却
下の決定,拒絶査定(原査定)
同年 6月 8日 審判請求書,手続補正書の提出
平成31年 4月11日付け 平成30年6月8日付け手続補正の却下の
決定,拒絶理由通知書
令和 元年 6月14日 意見書,手続補正書の提出

第2 本願発明

本願の請求項1?3に係る発明(以下、順に「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、令和1年6月14日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
複数の正極板と複数の負極板と複数のセパレータとを積層した電極積層体を有する非水系電池であって、
前記複数のセパレータは、ポリオレフィンで構成される微多孔性樹脂膜から成り、セパレータの延伸方向がMD方向と同じ方向であり、MD方向に対して平行方向および垂直方向に切断されて4つの辺部を有する正方形または長方形に形成され、延伸方向およびMD方向に対して垂直な辺は切断時に熱を加えて形成され、MD方向に対して平行な辺は熱が加えられていないことを特徴とする非水系電池。
【請求項2】
正極板と接続された正極端子および負極板と接続された負極端子が外装体の一辺から引き出され、かつ端子の引き出し方向が前記MD方向と同方向であることを特徴とする請求項1記載の非水系電池。
【請求項3】
前記外装体はラミネートフィルムであり、前記正極端子と前記負極端子は前記ラミネートフィルム同士を熱封止する辺から突出していることを特徴とする請求項2記載の非水系電池。」

第3 拒絶の理由

平成31年4月11日付けで当審が通知した拒絶理由のうち理由3(進歩性欠如)は、次のとおりのものである。
平成29年4月4日付け手続補正書によって補正された請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物である引用文献1,2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[引用文献]
1 特開2005-50583号公報
2 特開2002-273684号公報

第4 引用文献の記載事項

1 引用文献1の記載事項

(1)引用文献1には、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。

「【0002】
・・・
リチウムイオン二次電池は、正極材にリチウム含有金属酸化物、負極材に炭素材料を用い、その間に絶縁性の多孔性セパレータを交互に積層した構造体に電解液を含浸させ、ケース(金属缶、アルミラミネートフィルム等)で密閉した構造となっている。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池は、例えば図12に示すような工程で製造される。すなわち、ロール状の正極Pとロール状の負極Nを所定の長さに切断し、積層位置に移載する。一方、ロール状のセパレータSをグリッパフィード方式で一定寸法巻き出して切断し、切断されたセパレータSをトランスファで所定位置に移載する。そして、正極P、セパレータS、負極Nを積層位置において所定の順序で積層し構造体Lを形成する。次に、正極Pと負極Nに接続された電極Pa,Naを成形・切断し、タブTを溶接する。
【0004】
この構造体Lを別工程で成形したアルミラミネートGに入れ、電解液を注液し、構造体Lに含浸させる。この後、仮シールを行い、ガス抜き穴部分を切断し、本シールを行って完成する。」
「【0030】
セパレータ供給装置90は、図7に示すように、シート状のセパレータSが巻回されているロール91と、シート状のセパレータSに一定の張力を付与する張力調整機構92と、シート状のセパレータSを所定の長さに切断するセパレータカット装置93とを備えている。
【0031】
セパレータカット装置93は、角柱状に形成されるとともに各面に個別の配管経路を介して吸引力を発生する吸引孔94aを有するサクションドラム94と、このサクションドラム94を図7中R方向に90度ずつ間欠回転させる回転機構(不図示)と、サクションドラム94の角部に対向して設けられたヒートカット95とを備えている。ヒートカット95は、サクションドラム94に巻回されたシート状のセパレータSを切断する機能を有している。」
「【0044】
次に、セパレータSの供給について説明する。ロール91からシート状のセパレータSをセパレータカット装置93に導入し、シート状のセパレータSをサクションドラム94で巻き取る。なお、シート状のセパレータSは吸引孔94aからの吸引力により表面に吸着されている。そして、ヒートカット95によりシート状のセパレータSを溶融し切断する。」
「【図7】


「【図12】



(2)前記(1)によれば、引用文献1には、以下の事項が記載されている。

ア 図12の「電極構造」において、「正極P」と「負極N」が「セパレータS」を介して交互に積層された構造を看取することができるから、リチウムイオン二次電池は、複数の絶縁性の多孔性セパレータを介して、複数の正極と複数の負極とを、交互に積層した構造体に電解液を含浸させ、アルミラミネートフィルムのケースで密閉した構造の電池である(【0002】?【0004】)。

イ このようなリチウムイオン二次電池の多孔性セパレータは、巻回されているロールから巻き出したシート状の多孔性セパレータを一定寸法巻き出して切断されるものであることが、図12の「電極構造」から看取でき、図7からは、上記切断は、セパレータカット装置(93)に設けられたヒートカット(95)による溶融切断で行われること(【0030】?【0031】、【0044】)を看取することができる。
さらに、図7及び図12からは、上記溶融切断は、巻き出し方向と垂直な方向に行われ、切断後の多孔性セパレータの形状は矩形状となることが看取できる。

ウ また、図12によれば、正極及び負極のそれぞれに接続された電極Pa及び電極Na(【0003】)は、前記巻き出し方向と平行な方向に前記アルミラミネートフィルムからなるケースから引き出されていることを看取できる。

エ 以上によれば、引用文献1には、以下の「引用発明」が記載されているものと認められる。

(引用発明)
複数の絶縁性の多孔性セパレータを介して、複数の正極と複数の負極とを、交互に積層した構造体に電解液を含浸させ、アルミラミネートフィルムのケースで密閉した構造のリチウムイオン二次電池であって、
前記多孔性セパレータは、巻回されているロールから巻き出したシート状の多孔性セパレータを、セパレータカット装置に設けられたヒートカットにより巻き出し方向と垂直な方向に矩形状に溶融切断して形成されたものであり、
前記正極及び負極のそれぞれに接続された電極Pa及び電極Naは、前記巻き出し方向と平行な方向に前記アルミラミネートフィルムのケースから引き出された、
前記リチウムイオン二次電池。

2 引用文献2の記載事項

(1)引用文献2には、以下の記載がある。

「【0001】
・・・従来、電池セパレータ用材料として、樹脂製のフィルム状物(フィルムやシート等)が広く用いられてきた。この樹脂製フィルム状物の製造工程の一例を簡単に説明すると、混練工程、圧延工程、第1スリット工程、延伸工程、第2スリット工程の順に行われる。混練工程において、樹脂組成物のペレットを製造し、これを圧延工程にて所定のフィルム状物に圧延する。このフィルム状物をいったん幅方向で2つにスリットし、幅方向に延伸する。この延伸工程によりサブミクロンオーダーの微細な孔が形成され、多孔質のフィルム状物を得る。そして、この多孔質のフィルム状物を第2スリット工程にて、所望の幅寸法になるようにスリットする。」
「【0006】・・・フィルム状物はロール巻き状に繰り出しロールに巻きつけられており、繰り出しロールを回転することにより順次フィルム状物を繰り出す。繰り出されたフィルム状物は、スリット刃により所要幅にスリットされる。スリットされたフィルム状物は、巻き取りロールに順次巻き取られていく・・・」
「【0013】・・・前記スリット刃はカミソリ刃であり・・・」
「【0022】尚、スリット刃としては、カミソリ刃の他に丸刃を用いることもできる。・・・」

(2)前記(1)によれば、電池セパレータ用材料として用いられる「ロールに巻きつけられた樹脂製のフィルム状物」では、巻き出し方向と平行な二つの辺は、カミソリ刃や丸刃等のスリット刃による切断によって形成されるものであることが、従来から広く知られていたと認められる。

第5 当審の判断

1 本願発明1について

(1)本願発明1と引用発明との対比

ア 本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「複数の正極」及び「複数の負極」は、それぞれ、本願発明1の「複数の正極板」及び「複数の負極板」に相当する。

イ ここで、本願の発明の詳細な説明の【0005】には、「電池用セパレータは巻き出し方向(MD方向:Machine Direction)の引っ張り強度は強いが、TD(Tranverse Direction)方向(MD方向に対し垂直方向)の引っ張り強度は弱い。」と記載されているから、本願発明1の「MD方向」とは「巻き出し方向」を意味すると解することができる。
そして、以上のことは、下記の周知文献1?6に記載されるとおり、リチウムイオン二次電池の分野において、セパレータの「MD方向」がセパレータフィルム製造工程での長尺巻取り方向を意味するという本願出願時における当業者の技術常識とも一致する。
したがって、引用発明の「巻き出し方向」は、本願発明1の「セパレータの延伸方向」および「MD方向」に相当する。

[周知文献]
1 特開2005-171230号公報
(特に【0003】,【0005】を参照。)
2 特開2012-119225号公報(特に【0012】を参照。)
3 特開2012-226921号公報(特に【0017】を参照。)
4 特開2004-323820号公報(特に【0008】を参照。)
5 特開2003-59540号公報(特に【0023】を参照。)
6 特開2013-80636号公報(特に【0033】を参照。)

ウ 引用発明の「矩形状」の「複数の絶縁性の多孔性セパレータ」は、「溶断切断」によって形成されるものであるから、樹脂膜であると認められる。
したがって、引用発明の「巻き出し方向と垂直な方向に矩形状に溶融切断して形成された」「複数の絶縁性の多孔性セパレータ」は、本願発明1の「多孔性樹脂膜から成り、セパレータの延伸方向がMD方向と同じ方向であり、MD方向に対して平行方向および垂直方向に切断されて4つの辺部を有する正方形または長方形に形成され、延伸方向およびMD方向に対して垂直な辺は切断時に熱を加えて形成され」た「多孔樹脂膜の」「複数のセパレータ」に相当する。

エ ここで、引用発明において、「ロール」状に「巻回されている」「シート状の多孔性セパレータ」の巻き出し方向と平行な二つの辺が、切断時に熱を加えられたものであるか否かは、引用文献1には記載されていない。
しかし、前記「第4」「2」「(2)」で検討したとおり、電池セパレータ用材料として用いられる「ロールに巻きつけられた樹脂製のフィルム状物」では、巻き出し方向と平行な二つの辺は、カミソリ刃や丸刃等のスリット刃による切断によって形成されるものであることが、従来から広く知られていたと認められるから、引用発明における「ロール」状に「巻回されている」「シート状の多孔性セパレータ」の巻き出し方向と平行な二つの辺についても、カミソリ刃や丸刃等のスリット刃によって切断されて形成されたものと認められ、熱を加えることによって切断されたものではないものと認められる。

オ 以上によれば、引用発明の「巻回されているロールから巻き出」され「巻き出し方向と垂直な方向に矩形状に溶融切断して形成された」「複数の絶縁性の多孔性樹脂膜から成り、セパレータの延伸方向がMD方向と同じ方向であり、MD方向に対して平行方向および垂直方向に切断されて4つの辺部を有する正方形または長方形に形成され、延伸方向およびMD方向に対して垂直な辺は切断時に熱を加えて形成され、MD方向に対して平行な辺は熱が加えられていない」「多孔樹脂膜の」「複数のセパレータ」に相当する。

カ さらに、引用発明の「リチウムイオン二次電池」は、電解質に非水系溶媒を用いる非水系電池の一種であるから、本願発明1の「非水系電池」に相当する。

キ したがって、本願発明1と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
複数の正極板と複数の負極板と複数のセパレータとを積層した電極積層体を有する非水系電池であって、
前記複数のセパレータは、多孔性樹脂膜から成り、セパレータの延伸方向がMD方向と同じ方向であり、MD方向に対して平行方向および垂直方向に切断されて4つの辺部を有する正方形または長方形に形成され、延伸方向およびMD方向に対して垂直な辺は切断時に熱を加えて形成され、MD方向に対して平行な辺は熱が加えられていないことを特徴とする非水系電池。

(相違点)
本願発明1では、「複数のセパレータは、ポリオレフィンで構成される微多孔性樹脂膜から成」るのに対して、引用発明のセパレータは、「複数の絶縁性の多孔性セパレータ」からなる点。

(2)相違点についての判断

ア 前記(1)の相違点について検討すると、リチウムイオン二次電池の技術分野において、多孔性セパレータとして、ポリオレフィンで構成される微多孔性樹脂膜を用いることは、下記の周知文献7?10に記載されるとおり、本願出願時、当業者にとって周知の技術的事項であったと認められるから、引用発明における「複数の絶縁性の多孔性セパレータ」として、ポリオレフィンで構成される微多孔性樹脂膜を用いることは、当業者であれば、容易になし得たことである。

[周知文献]
7 特開2013-110069号公報(特に【0029】を参照。)
8 特開2013-105519号公報(特に【0026】を参照。)
9 国際公開第2013/076996号(特に[0116]を参照。)
10 特開2013-105673号公報(特に【0112】を参照。)

イ また、引用発明においても、絶縁性の多孔性セパレータは巻き出し方向(MD方向)に対して垂直な辺は溶断切断されおり、これによって、切断部分のセパレータの空孔が閉塞されることは当業者にとって技術的に明らかであって、その結果、溶断切断された辺の外力に対する耐性が向上することも、当業者であれば予測できることであるから、本願発明1の効果は、格別顕著なものということはできない。

ウ 審判請求人は、引用文献1,2に関し、令和元年6月14日付け意見書において、「引用文献1には、セパレータの延伸方向がMD方向と同じ方向であること、および、セパレータの延伸方向に対して垂直な辺が切断時に熱を加えて形成されることは、記載および示唆されていません。 引用文献2も同様に、セパレータの延伸方向がMD方向と同じ方向であること、および、セパレータの延伸方向に対して垂直な辺が切断時に熱を加えて形成されることは、記載および示唆されていません。」と主張している。
しかし、前記「(1)」「イ」で検討したとおり、本願の発明の詳細な説明の【0005】には、本願発明における「MD方向」が「巻き出し方向」を意味することが記載されており、このことは、本願出願時における当業者の技術常識でもあったことに照らせば、引用文献1,2におけるセパレータの巻き出し方向が本願発明でいう「MD方向」と一致することは明らかである。
よって、上記主張を採用することはできない。

2 本願発明2と引用発明との対比

本願発明2と引用発明とを対比すると、引用発明において「前記正極及び負極のそれぞれに接続された電極Pa及び電極Naは、前記巻き出し方向と平行な方向に前記アルミラミネートフィルムのケースから引き出され」ていることは、本願発明2の「正極板と接続された正極端子および負極板と接続された負極端子が外装体の一辺から引き出され、かつ端子の引き出し方向が前記MD方向と同方向であること」に相当するから、本願発明2と引用発明との間に新たな相違点は生じない。

3 本願発明3と引用発明との対比

本願発明3と引用発明とを対比すると、引用発明においても、「アルミラミネートフィルムのケース」が熱封止によって「密閉した構造」になっていることは技術的に明らかであるから、本願発明3と引用発明との間に新たな相違点は生じない。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明1?3は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1,2に記載された発明並びに出願時における当業者の技術常識及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
 
審理終結日 2019-06-24 
結審通知日 2019-06-25 
審決日 2019-08-01 
出願番号 特願2013-120545(P2013-120545)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 長谷山 健
土屋 知久
発明の名称 非水系電池  
代理人 小林 博通  

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