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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60Q
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60Q
管理番号 1355372
審判番号 不服2018-9540  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-10 
確定日 2019-09-19 
事件の表示 特願2014-219720号「トラクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月19日出願公開、特開2016- 84095号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年10月28日に出願されたものであって、平成29年11月8日付けで拒絶理由が通知され、平成30年1月9日に意見書及び手続補正書が提出され、同年4月4日付けで拒絶査定がされ、同年7月10日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成31年4月24日付けで拒絶理由(最後)が通知され、令和1年6月24日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 令和1年6月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年6月24日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
本件補正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
(補正前)
「 【請求項1】
キャビンとリヤランプを備えたトラクタにおいて、
前記キャビンは、左右一対の前支柱と、左右一対の後支柱と、前記前支柱及び後支柱に支持されるルーフと、フロントガラスと、リヤガラスと、左右一対のサイドガラスとを備え、
前記リヤランプは、ランプハウジングと、前記ランプハウジングに収容される光源とを備え、
前記後支柱の外面は、外側へ凸状に湾曲しており、
前記ランプハウジングは、前記後支柱の外面に沿うように湾曲して構成され、
前記ランプハウジングは、前記後支柱の長手方向の上端近傍から下端近傍に亘って設けられ、
後方から見た場合に、前記後支柱は、前記リヤランプに覆われて設けられるとともに、
前記サイドガラスは、後端側が二つのヒンジでそれぞれ前記後支柱に取り付けられており、
前記ランプハウジングの上端付近及び下端付近に、凹部が形成され、
前記ランプハウジングの凹部に、前記サイドガラスのヒンジの一部が収容されるように構成されている
ことを特徴とするトラクタ。」
【請求項2】
前記ランプハウジングには、光源への電気配線を通す貫通孔が形成され、
前記電気配線は、前記ルーフ内及び前記後支柱内を通り、前記貫通孔を通って、前記光源に接続されている
ことを特徴とする請求項1に記載のトラクタ。」

(補正後)
「 【請求項1】
キャビンと左右一対のリヤランプを備えたトラクタにおいて、
前記キャビンは、左右一対の前支柱と、左右一対の後支柱と、前記前支柱及び後支柱に支持されるルーフと、フロントガラスと、リヤガラスと、左右一対のサイドガラスとを備え、
前記リヤランプは、ランプハウジングと、前記ランプハウジングに収容される光源とを備え、
前記左右一対の前支柱と前記左右一対の後支柱は、前記キャビンの四隅に配置されており、
前記左右一対の後支柱は、それぞれ後面視にて外側へ凸状に湾曲して構成されており、
前記左右一対のリヤランプは、それぞれ側面視にて前記左右一対の後支柱の後側外面に沿うように湾曲して構成されており、
前記左右一対のリヤランプは、それぞれ後面視にて前記左右一対の後支柱の長手方向の上端近傍から下端近傍に亘って設けられており、
前記左右一対のサイドガラスは、それぞれ後端側が上下二つのヒンジで前記左右一対の後支柱に取り付けられており、
前記左右一対のリヤランプは、それぞれ前記ランプハウジングの上端付近及び下端付近に形成された凹部に前記左右一対のサイドガラスの上下二つのヒンジの一部が収容されるように構成されており、
後方から見た場合に、前記左右一対の後支柱は、それぞれ前記左右一対のリヤランプに覆われるように構成されている
ことを特徴とするトラクタ。
【請求項2】
前記ランプハウジングには、光源への電気配線を通す貫通孔が形成され、
前記電気配線は、前記ルーフ内及び前記後支柱内を通り、前記貫通孔を通って、前記光源に接続されている
ことを特徴とする請求項1に記載のトラクタ。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「リヤランプ」、「前支柱」、「後支柱」、「サイドガラス」、「ヒンジ」について、願書に最初に添付された明細書の段落【0036】、【0050】、【0051】及び【図3】、【図17】等の記載に基づき、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、新規事項の追加はない。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本願の補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、上記「1(補正後)」の【請求項1】に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項等
ア 引用文献1
(ア)記載事項
平成31年4月24日付けで当審が通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)に「引用文献1」として示され、本願の出願日前に頒布された特開2006-137228号公報には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付加した。以下同様。
(1a)「【請求項2】
ランプ(33)を少なくとも左右一側面と前後両面に亘る透明部を有するケース(32)に収納し、同ケース(32)を車両の左右に備える上下方向の支柱(3F)に対し、前記ケース(32)を長手方向に沿わさせながら取り付けた車両のウインカランプ。」

(1b)「【0011】
最初に図1?図4に基づいて、請求項1に係るウインカランプについて説明する。
トラクタの車体11は、図1に示すように、左右前輪12及び左右後輪13を備え、前側のボンネット14内にエンジンを内装し、このエンジンの駆動によって前記前後輪12,13を駆動して走行する構成となっている。また、このトラクタの車体11上には、ステアリングハンドルや操縦席を覆うキャビン18を搭載する構成となっており、このキャビン18は、フロア19の左右両端部に立設する左右フロントピラー3Fと、フェンダ20後部上に立設する左右リヤピラー3Rと、この左右前後のピラー3F,3Rの上端部同士を接続する水平フレーム及びこの上部に取り付けるキャビンルーフ1等から構成されている。また前記左右のフロントピラー3F,3F間にはフロントガラス21を設け、左右リヤピラー3R,3R間にはリヤガラス22を設け、左右両側のフロントピラー3Fとリヤピラー3Rとの間にはドアガラス23を前記リヤピラー3Rに対し回動自在に備える構成となっている。」

(1c)「【実施例2】
【0018】
次に図5?図9に基づいて、請求項2に係るウインカランプについて説明する。
尚、請求項1の構成と共通する箇所は説明を省略する。
このウインカランプ5は、図5と図6に示すように、前記キャビン18のフロントピラー3Fに沿って備える構成としている。」

(1d)「【0019】
前記フロントピラー3Fは、図5の(B)と(C)に示すように、断面視、瓢箪形状のパイプ部材から構成され、この前内面に沿ってフロントガラス21の側端縁がシール材を介して接合され、後側面に沿って開閉のドアガラス23の前端縁を接当する構成となっている。またこれらフロントガラス21とドアガラス23との間隔部で、フロントピラー3Fの外周部4において、このフロントピラー3Fの上下方向に沿って長くしてウインカランプ5を形成している。またランプ33の周囲を覆うランプカバー32は、前記ドアガラス23の外側面よりも外方へ且つフロントガラス21よりも前方へ膨拡させた形状とし、この内面にレンズを形成すると共に、上下端部を緩傾斜面32a,32bとして前記ピラー3Fの表面に対して連続面を形成している。」

(1e)「【0024】
また更に図9に示すように、ストップランプ45や、サイドリフレクタ等と一体的に構成しても良い。このストップランプ45のホルダベース46は、該ホルダベース31と一体構成として、電球47、49を配置する。又、この外周を覆うランプカバー48、50も、前記ランプカバー32と一体的構成とすることもできる。これらホルダベース31、46や、これを覆うランプカバー32、48、50等からなる所謂コンビネーションランプは、リヤピラー3Rの周囲を囲うように断面凹形状形態に形成している。この凹状断面形態のコンビネーションランプをリヤピラー3Rの外側面に沿わせて嵌合させて取付ける。このようなウインカランプ5は、リヤピラー3Rの外周面に沿って囲うように形成されて、外方へ大きく突出することなく、外側面32Sや、前側面32F、後側面32R等からの透光域を広くすることができる。」

(1f)【図9】は次のとおりである。


(イ)認定事項
(1g)引用文献1の【図9】(記載事項(1f))に係る例においても、段落【0011】(記載事項(1b))に記載されるトラクタの車体11の構成を有するものであることは明らかである(なお、【図9】に係る例も【図5】、【図6】に係る例も同じ【実施例2】として記載されるところ(記載事項(1c))、【図5】、【図6】に係る例を説明する段落【0019】(記載事項(1d))の「前記フロントピラー3Fは・・・この前内面に沿ってフロントガラス21の側端縁がシール材を介して接合され、後側面に沿って開閉のドアガラス23の前端縁を接当する構成となっている。」という記載からみても、【図9】に係る例においても「ドアガラス23」は「リヤピラー3R」に対し回動自在になっていると解される。)

(1f)【請求項2】(記載事項(1a))、段落【0011】(記載事項(1b))、【0019】(記載事項(1d))、【0024】(記載事項(1e))の記載からみて、引用文献1の【図9】に係る例の「トラクタ」は、「キャビン18」と「ストップランプ45や、サイドリフレクタ等と一体的に構成されたウインカランプ5からなる左右のコンビネーションランプ」を備えたものといえる。

(ウ)記載された発明
上記(ア)及び(イ)から、引用文献1には、特に【図9】に係る例に対応するものとして次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「キャビン18と、ストップランプ45や、サイドリフレクタ等と一体的に構成されたウインカランプ5からなる左右のコンビネーションランプを備えたトラクタにおいて、
前記キャビン18は、フロア19の左右両端部に立設する左右フロントピラー3Fと、フェンダ20後部上に立設する左右リヤピラー3Rと、この左右前後のフロントピラー3F,リヤピラー3Rの上端部同士を接続する水平フレーム及びこの上部に取り付けるキャビンルーフ1等から構成され、前記左右のフロントピラー3F,3F間にはフロントガラス21を設け、左右リヤピラー3R,3R間にはリヤガラス22を設け、左右両側のフロントピラー3Fとリヤピラー3Rとの間にはドアガラス23を前記リヤピラー3Rに対し回動自在に備える構成となっており、
前記ストップランプ45のホルダベース46は、前記ウインカランプ5のホルダベース31と一体構成として、電球47、49を配置するものであり、又、この外周を覆うランプカバー48、50も、前記ウインカランプ5のランプカバー32と一体的構成としたものであり、これらホルダベース31、46や、これを覆うランプカバー32、48、50等からなるコンビネーションランプは、リヤピラー3Rの周囲を囲うように断面凹形状形態に形成し、この凹状断面形態のコンビネーションランプをリヤピラー3Rの外側面に沿わせて嵌合させて取付けるトラクタ。」

イ 引用文献2
当審拒絶理由に「引用文献2」として示され、本願の出願日前に頒布された特開2006-193049号公報には、次の事項が記載されている。
(2a)「【0018】
まず、本発明の一実施例に係る作業車両をトラクタとして、その全体構成について説明する。」

(2b)「【0028】
一方、図4、図5、図7に示すように、キャビン21側部に設けられた側方用方向指示器52・52は左右の中央フレーム24・24の上部に形成された取付部24a・24aにそれぞれ固定され、照射光を機体側方や後方へ照射するように配置されている。また、左右の各中央フレーム24の方向指示器52よりも前方には前記ドアガラス33を支持する上下一対のヒンジ35・35が取り付けられている。そしてさらに、前記中央フレーム24に上下方向に延出されたカバー53が取り付けられ、該カバー53により各ヒンジ35の取付部が覆われている。」

(2c)「【0032】
また、図8、図9に示すように、キャビン21において、前記左右の各中央フレーム24上で上下一対のヒンジ35・35を覆うカバー53の内部に側方用方向指示器52を配置し、その側面と後面のみが外部に露出するように構成することもできる。すなわち、前記カバー53の後側角部に機体側方及び後方に臨む開口部53aが設けられ、該開口部53aから側方用方向指示器52がその側面と後面のみが外部に露出するように、カバー53の内部に配置された状態で中央フレーム24に取り付けられる。」

(2d)【図8】は次のとおりである。


(2e)【図9】は次のとおりである。


(イ)記載された技術的事項
上記(ア)より、引用文献2には次の技術的事項(以下「引用文献2技術」という。)が記載されているものと認める。
「トラクタのキャビン21において、左右の各中央フレーム24上でドアガラス33を支持する上下一対のヒンジ35・35を覆うカバー53の内部に側方用方向指示器52を配置し、その側面と後面のみが外部に露出するように構成し、前記カバー53の後側角部に機体側方及び後方に臨む開口部53aが設けられ、該開口部53aから側方用方向指示器52がその側面と後面のみが外部に露出するように、カバー53の内部に配置された状態で中央フレーム24に取り付けられる」技術。

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 後者の「キャビン18」は前者の「キャビン」に相当し、以下同様に、「トラクタ」は「トラクタ」に、「フロントピラー3F」は「前支柱」に、「リヤピラー3R」は「後支柱」に、「キャビンルーフ1」は「ルーフ」に、「フロントガラス21」は「フロントガラス」に、「リヤガラス22」は「リヤガラス」に、「ドアガラス23」は「サイドガラス」にそれぞれ相当する。

イ 後者の「ストップランプ45や、サイドリフレクタ等と一体的に構成されたウインカランプ5からなるコンビネーションランプ」は、「前記ストップランプ45のホルダベース46は、前記ウインカランプ5のホルダベース31と一体構成として、電球47、49を配置するものであり、又、この外周を覆うランプカバー48、50も、前記ウインカランプ5のランプカバー32と一体的構成としたものであり、これらホルダベース31、46や、これを覆うランプカバー32、48、50等からなる」という構成を有するものであって、引用文献1の段落【0024】(記載事項(1e))の記載より「後側面32R」にも透光するものであり、トラクタの後方に配置されるものであるから、前者の「リヤランプ」に相当するといえる。
また、「電球47、49」は「光源」に相当する。
そして、後者の一体構成とされた「ホルダベース46」と「ホルダベース31」と、一体的構成とされた「ランプカバー32、48、50」は、それらを併せたものに「電球47、49」が収容されるのであるから、前者の「ランプハウジング」に相当するといえる。

ウ 上記ア、イを踏まえると、後者の「キャビン18と、ストップランプ45や、サイドリフレクタ等と一体的に構成されたウインカランプ5からなる左右のコンビネーションランプを備えたトラクタ」は、前者の「キャビンと左右一対のリヤランプを備えたトラクタ」に相当するといえる。

エ 上記アを踏まえると、後者の 「前記キャビン18は、フロア19の左右両端部に立設する左右フロントピラー3Fと、フェンダ20後部上に立設する左右リヤピラー3Rと、この左右前後のフロントピラー3F,リヤピラー3Rの上端部同士を接続する水平フレーム及びこの上部に取り付けるキャビンルーフ1等から構成され、前記左右のフロントピラー3F,3F間にはフロントガラス21を設け、左右リヤピラー3R,3R間にはリヤガラス22を設け、左右両側のフロントピラー3Fとリヤピラー3Rとの間にはドアガラス23を前記リヤピラー3Rに対し回動自在に備える構成となって」いるということは、前者の「前記キャビンは、左右一対の前支柱と、左右一対の後支柱と、前記前支柱及び後支柱に支持されるルーフと、フロントガラスと、リヤガラスと、左右一対のサイドガラスとを備え」ていることに相当するといえる。

オ 引用文献1の【図9】(記載事項(1f))の記載より、後者の「リヤコンビネーションランプ」は、「リヤピラー3R」の後面視にて、その長手方向の上端近傍から下端近傍に亘って設けられていることが看取できる。
また後者の「凹状断面形態のコンビネーションランプをリヤピラー3Rの外側面に沿わせて嵌合させて取付ける」ことについては、該【図9】の記載も参酌すると、後方から見た場合に、リヤピラー3Rは、コンビネーションランプに覆われように構成されていること、及び、コンビネーションランプは、側面視にてリヤピラー3Rの後側外面に沿うように構成されていることが理解できる。
そして、該【図9】には左側の「リヤピラー3R」側しか明示はないが、右側の「リヤピラー3R」側も左右対称とした同様の構成となっていることは自明のことである。
そうすると、上記ア?ウも踏まえると、後者の「前記ストップランプ45のホルダベース46は、前記ウインカランプ5のホルダベース31と一体構成として、電球47、49を配置するものであり、又、この外周を覆うランプカバー48、50も、前記ウインカランプ5のランプカバー32と一体的構成としたものであり、これらホルダベース31、46や、これを覆うランプカバー32、48、50等からなるコンビネーションランプは、リヤピラー3Rの周囲を囲うように断面凹形状形態に形成し、この凹状断面形態のコンビネーションランプをリヤピラー3Rの外側面に沿わせて嵌合させて取付ける」ことと、前者の「前記リヤランプは、ランプハウジングと、前記ランプハウジングに収容される光源とを備え」、「前記左右一対の後支柱は、それぞれ後面視にて外側へ凸状に湾曲して構成されており、前記左右一対のリヤランプは、それぞれ側面視にて前記左右一対の後支柱の後側外面に沿うように湾曲して構成されており、前記左右一対のリヤランプは、それぞれ後面視にて前記左右一対の後支柱の長手方向の上端近傍から下端近傍に亘って設けられており」、「後方から見た場合に、前記左右一対の後支柱は、それぞれ前記左右一対のリヤランプに覆われるように構成されている」こととは、「前記リヤランプは、ランプハウジングと、前記ランプハウジングに収容される光源とを備え」、「前記左右一対のリヤランプは、それぞれ側面視にて前記左右一対の後支柱の後側外面に沿うように構成されており、前記左右一対のリヤランプは、それぞれ後面視にて前記左右一対の後支柱の長手方向の上端近傍から下端近傍に亘って設けられており」、「後方から見た場合に、前記左右一対の後支柱は、それぞれ前記左右一対のリヤランプに覆われるように構成されている」ということの限度で一致するといえる。

カ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりと認める。
〔一致点〕
「キャビンと左右一対のリヤランプを備えたトラクタにおいて、
前記キャビンは、左右一対の前支柱と、左右一対の後支柱と、前記前支柱及び後支柱に支持されるルーフと、フロントガラスと、リヤガラスと、左右一対のサイドガラスとを備え、
前記リヤランプは、ランプハウジングと、前記ランプハウジングに収容される光源とを備え、
前記左右一対のリヤランプは、それぞれ側面視にて前記左右一対の後支柱の後側外面に沿うように構成されており、
前記左右一対のリヤランプは、それぞれ後面視にて前記左右一対の後支柱の長手方向の上端近傍から下端近傍に亘って設けられており、
後方から見た場合に、前記左右一対の後支柱は、それぞれ前記左右一対のリヤランプに覆われるように構成されている
トラクタ。」

〔相違点1〕
本件補正発明が、「前記左右一対の前支柱と前記左右一対の後支柱は、前記キャビンの四隅に配置されており」という事項、「前記左右一対の後支柱は、それぞれ後面視にて外側へ凸状に湾曲して構成されており」という事項、左右一対のリヤランプは、それぞれ側面視にて左右一対の後支柱の後側外面に沿うように「湾曲して」構成されているという事項を有しているのに対し、引用発明は、それら事項を有していない点。

〔相違点2〕
本件補正発明が、「前記左右一対のサイドガラスは、それぞれ後端側が上下二つのヒンジで前記左右一対の後支柱に取り付けられており、前記左右一対のリヤランプは、それぞれ前記ランプハウジングの上端付近及び下端付近に形成された凹部に前記左右一対のサイドガラスの上下二つのヒンジの一部が収容されるように構成されており」という事項を有しているのに対し、引用発明は、ヒンジの特定がなく、したがって、「ホルダベース46」、「ホルダベース31」及び「ランプカバー32、48、50」(ランプハウジング)とヒンジとの関係も特定されていない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
まず、相違点1に係る本件補正発明の、左右一対のリヤランプは、それぞれ側面視にて左右一対の後支柱の後側外面に沿うように「湾曲して」構成されているという事項について検討するに、「左右一対のリヤランプ」は、「左右一対の後支柱の後側外面」に対し「外面に沿うように」構成されていることから、「左右一対の後支柱の後側外面」自体も、側面視にて湾曲して構成されていることが理解できる。
ここで、トラクタのキャビンにおいて、左右一対の前支柱と左右一対の後支柱を、キャビンの四隅に配置し、左右一対の後支柱は、それぞれ後面視にて外側へ凸状に湾曲して構成し、左右一対の後支柱の後側外面は、側面視にて湾曲して構成したものは、本願の出願前の周知技術(例えば、特開2009-113663号公報(特に段落【0010】、【0021】、【0022】及び【図3】?【図7】参照。)、特開2009-113664号公報(特に段落【0008】、【0019】、【0020】及び【図3】?【図7】参照。)、特開2011-208770号公報(特に段落【0014】及び【図7】?【図9】参照。)、特開2011-225110号公報(特に段落【0015】及び【図1】、【図8】、【図9】参照。)等。)といえるものである。
そして、引用発明においてもこのような周知技術を採用し、「フロントピラー3F」(前支柱)及び「リヤピラー3R」(後支柱)を「キャビン18」(キャビン)の四隅に配置し、左右の「リヤピラー3R」に、後面視にて外側へ凸状に湾曲して構成し、その後側外面を側面視にて湾曲して構成した形状のものとすることは、当業者であれば所望により適宜なし得たことにすぎない。
その場合、引用発明は、「凹状断面形態のコンビネーションランプをリヤピラー3Rの外側面に沿わせて嵌合させて取付ける」ものであって、「コンビネーションランプ」は「リヤピラー3R」の後側外面に沿うように構成されるものであるから(上記「(3)オ」参照。)、上記周知技術を採用したならば、「コンビネーションランプ」(リヤランプ)は、当然「リヤピラー3R」(後支柱)の後側外面に沿うように「湾曲して」構成されるものになる。
したがって、引用発明において、上記周知技術を採用して、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

イ 相違点2について
引用文献2技術の「ヒンジ35・35」は、「カバー53」で覆われるものであり、また、引用文献2の【図8】(記載事項(2d))の記載からみても、当該「カバー53」には凹部に相当するものを有していることは明らかである。そうすると、引用文献2技術は、ドアガラス33(サイドガラス)は、後端側が二つのヒンジ35でそれぞれ中央フレーム24(支柱)に取り付けられており、ランプハウジングではなく「カバー53」ではあるが、中央フレーム24を覆う部材の上端付近及び下端付近に、凹部が形成され、前記中央フレーム24を覆う部材の凹部に、ドアガラス33のヒンジ35・35の一部が収容されるように構成されているといえるものである。
ここで、引用発明も「左右両側のフロントピラー3Fとリヤピラー3Rとの間にはドアガラス23を前記リヤピラー3Rに対し回動自在に備える構成」となっているものであるから、引用文献1に直接的な記載はなくとも、ヒンジが左右のリヤピラー3R側に取り付けられることは自明のことといえる。そして、引用文献1の各図面は模式図的に細部が省略されて記載されているが、「ホルダベース46」、「ホルダベース31」及び「ランプカバー32、48、50」が、「リヤピラー3R」の車両外側の全面を覆っていれば、「ヒンジ」を直接「リヤピラー3R」に取付けられないことになり、強度等に支障をきたしかねないことは当業者にとって自明なことであり、また、ヒンジの数や配置位置については、必要に応じて適宜設定し得ることにすぎない。
したがって、引用発明において、2つのヒンジを「リヤピラー3R」に取り付けるべく、上記引用文献2技術を参考にして、「ホルダベース46」、「ホルダベース31」及び「ランプカバー32、48、50」(ランプハウジング)の上端付近及び下端付近に凹部を形成して、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2技術及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ 以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明、引用文献2技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和1年6月24日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1、2に係る発明は、平成30年7月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1(補正前)」の【請求項1】に記載のとおりのものである。

2 当審拒絶理由
当審拒絶理由の概要は、この出願の請求項1、2に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1、2に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


引用文献1:特開2006-137228号公報
引用文献2:特開2006-193049号公報

3 引用文献
当審拒絶理由で引用された引用文献1、2の記載事項等は、上記「第2[理由]2(2)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]2」で検討した本件補正発明から、「リヤランプ」、「前支柱」、「後支柱」、「サイドガラス」、「ヒンジ」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2[理由]2(3)、(4)」に記載したとおり、引用発明、引用文献2技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明、引用文献2技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-17 
結審通知日 2019-07-23 
審決日 2019-08-05 
出願番号 特願2014-219720(P2014-219720)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60Q)
P 1 8・ 575- WZ (B60Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 當間 庸裕  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
島田 信一
発明の名称 トラクタ  
代理人 矢野 寿一郎  

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