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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1355490
審判番号 不服2017-12622  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-25 
確定日 2019-09-18 
事件の表示 特願2015-514378「組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターを使用する異種タンパク質発現方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 5日国際公開、WO2013/178344、平成27年 8月13日国内公表、特表2015-523065〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)5月24日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2012年5月30日、欧州特許庁、2012年5月30日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年5月17日付けの拒絶理由の通知に対し、同年11月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年4月14日付けで拒絶査定がされたところ、同年8月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成29年8月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年8月25日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】エクスビボ若しくはインビボでの遺伝子治療のための、再生医療に使用するためにより未分化状態の細胞へ細胞を再プログラミングするための、又は特異的に分化した細胞状態の細胞へ細胞をプログラミングするための、組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターであって、
ここで組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターが、少なくとも1種の異種核酸配列を含み、
ここで組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターが、ウイルスの転写能を喪失することのないウイルスのゲノム複製能の喪失につながる、変異されたPタンパク質をコードしているウイルスゲノムを含み、当該変異が、センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77における、あるいはセンダイ以外のウイルスの場合、センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77に対応するアミノ酸における、1個又は複数のアミノ酸の欠失である、並びに
ここで該少なくとも1種の異種核酸配列は、細胞の再プログラミング因子若しくはプログラミング因子又は治療的タンパク質をコードしており、
ここで細胞の再プログラミング因子が、Nanog、Oct-3/4、Sox2、c-Myc、Klf4、Lin28、ASCL1、MYT1L、TBX3b、SV40ラージT、hTERT、miR-291、miR-294、miR-295、及びそれらの組合せからなる群から選択され、並びに/又はここで該プログラミング因子が、神経成長因子(NGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インターロイキン-6(IL-6)、骨形成タンパク質(BMP)、ニューロゲニン3(Ngn3)、膵臓及び十二指腸ホメオボックス1(Pdx1)、Mafa、及びそれらの組合せからなる群から選択され、
ここで治療的タンパク質が、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、p91-PHOX、IX因子、VIII因子、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)、β-グロビン(HBB)、ジストロフィン、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)、フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)、グルコシルセラミダーゼ(GBA及びGBA2)、フィブリリン-1(FBN1)、ハンチンチン(HTT)、アポリポタンパクB(apoB)、低密度リポタンパク受容体(LDLR)、低密度リポタンパク受容体アダプタータンパク質1(LDLRAP1)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)、シヌクレインα(SNCA)、パーキン(PRKN)、ロイシン-リッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、PTEN誘導推定キナーゼ1(PINK1)、パーキンソンタンパク質7(DJ-1)、ATPase型13A2(ATP13A2)、癌自殺遺伝子産物、抗血管新生因子、チロシナーゼ-関連タンパク質2(TRP-2)及び癌胎児性抗原(CEA)を含む癌自己抗原、免疫刺激因子、顆粒球-マクロファージコロニー-刺激因子(GM-CSF)及び上皮増殖因子(EGF)を含む増殖因子、インターロイキンIL-2、IL-4、IL-5、IL-12、及びIL-17を含むサイトカイン、免疫抑制物質、並びにそれらの組合せからなる群から選択される、ベクター。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成28年11月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】エクスビボ若しくはインビボでの遺伝子治療のための、再生医療に使用するためにより未分化状態の細胞へ細胞を再プログラミングするための、又は特異的に分化した細胞状態の細胞へ細胞をプログラミングするための、組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターであって、
ここで組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターが、少なくとも1種の異種核酸配列を含み、
ここで組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターが、ウイルスの転写能を喪失することのないウイルスのゲノム複製能の喪失につながる、変異されたPタンパク質をコードしているウイルスゲノムを含み、並びに
ここで該少なくとも1種の異種核酸配列は、細胞の再プログラミング因子若しくはプログラミング因子又は治療的タンパク質をコードしている、ベクター。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「変異」について、「当該変異が、センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77における、あるいはセンダイ以外のウイルスの場合、センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77に対応するアミノ酸における、1個又は複数のアミノ酸の欠失である、」のとおり限定を付加するものであり、また、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「細胞の再プログラミング因子若しくはプログラミング因子又は治療的タンパク質」について、「ここで細胞の再プログラミング因子が、Nanog、Oct-3/4、Sox2、c-Myc、Klf4、Lin28、ASCL1、MYT1L、TBX3b、SV40ラージT、hTERT、miR-291、miR-294、miR-295、及びそれらの組合せからなる群から選択され、並びに/又はここで該プログラミング因子が、神経成長因子(NGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インターロイキン-6(IL-6)、骨形成タンパク質(BMP)、ニューロゲニン3(Ngn3)、膵臓及び十二指腸ホメオボックス1(Pdx1)、Mafa、及びそれらの組合せからなる群から選択され、 ここで治療的タンパク質が、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、p91-PHOX、IX因子、VIII因子、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)、β-グロビン(HBB)、ジストロフィン、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)、フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)、グルコシルセラミダーゼ(GBA及びGBA2)、フィブリリン-1(FBN1)、ハンチンチン(HTT)、アポリポタンパクB(apoB)、低密度リポタンパク受容体(LDLR)、低密度リポタンパク受容体アダプタータンパク質1(LDLRAP1)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)、シヌクレインα(SNCA)、パーキン(PRKN)、ロイシン-リッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、PTEN誘導推定キナーゼ1(PINK1)、パーキンソンタンパク質7(DJ-1)、ATPase型13A2(ATP13A2)、癌自殺遺伝子産物、抗血管新生因子、チロシナーゼ-関連タンパク質2(TRP-2)及び癌胎児性抗原(CEA)を含む癌自己抗原、免疫刺激因子、顆粒球-マクロファージコロニー-刺激因子(GM-CSF)及び上皮増殖因子(EGF)を含む増殖因子、インターロイキンIL-2、IL-4、IL-5、IL-12、及びIL-17を含むサイトカイン、免疫抑制物質、並びにそれらの組合せからなる群から選択される、」のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
原査定の拒絶理由で引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2008-529508号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は合議体による。)。

ア 「【請求項1】二次転写能力を欠損することなく複製能力の欠損を生じる、遺伝子N、L及びPのうち少なくとも1つに突然変異を有するウイルスゲノムを含有している組換えマイナス鎖RNAウイルス。
【請求項2】パラミクソウイルスであることを特徴とする、請求項1に記載のウイルス。
【請求項3】センダイウイルスであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のウイルス。
【請求項4】突然変異を遺伝子P中に有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項5】突然変異は、遺伝子Pにコードされるタンパク質のN末端部分配列に関することを特徴とする、請求項4に記載のウイルス。
【請求項6】突然変異は、
(a)遺伝子Pにコードされるタンパク質のアミノ酸2?77又は
(b)複製能力を欠損するために十分な(a)の部分配列
の欠失を含むことを特徴とする、請求項5に記載のウイルス。
【請求項7】ウイルスゲノムは、異種遺伝子産物をコードする配列を少なくとも1つ含有していることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項8】異種遺伝子産物は、タンパク質、リボザイム、アンチセンス分子又はsiRNA分子であることを特徴とする、請求項7に記載のウイルス。
【請求項9】異種遺伝子産物は、レポータータンパク質、抗原又は治療タンパク質であることを特徴とする、請求項7又は8に記載のウイルス。
・・・・・・・・・・・・
【請求項17】請求項1から14までのいずれか1項に記載の組換えマイナス鎖RNAウイルスのゲノム又は/及びアンチゲノムをコードするDNA分子。
・・・・・・・・・・・・
【請求項28】次の工程:
(a)遺伝子N、L及びPのうち少なくとも1つに、二次転写能力を欠損することなく、ウイルスゲノム複製能力の欠損を生じる突然変異、及び場合により少なくとも1つの異種遺伝子産物コード配列を含んでいる、マイナス鎖RNA-ウイルスに感染させた細胞を準備する工程、及び
(b)ウイルスの増殖が行われる条件下に細胞を培養する工程
を含む請求項1から14までのいずれか1項に記載のマイナス鎖RNAウイルスの増殖方法。
【請求項29】請求項1から14までのいずれか1項に記載の組換えマイナス鎖RNAウイルス、請求項15に記載のヌクレオカプシド又は請求項16に記載のウイルスゲノムを作用物質として、ならびに場合により製剤学的に通常の担体又は/及び助剤を含有していることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項30】ワクチンとして使用するための請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】単価又は多価ワクチンとしての請求項30に記載の医薬組成物。
【請求項32】ウイルス感染に対するワクチンとしての、例えば、病原性マイナス鎖RNAウイルスでの感染に対するワクチンとしての、請求項30又は31に記載の医薬組成物。
【請求項33】抗腫瘍治療に使用するための請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項34】リスクのある患者で使用するための請求項29から33までのいずれか1項に記載の医薬組成物。」(特許請求の範囲)

イ 「【0024】本発明による組換えマイナス鎖RNA-ウイルスは、遺伝子N、L及びPのうち少なくとも1つに突然変異を有する。突然変異は、遺伝子N、L及びPのうち1つの中での欠失、置換又は/及び挿入であることができ、これらはウイルスの複製欠損を引き起こすが、しかし、転写能力を壊すことはない。突然変異は、複製に必要不可欠である遺伝子N、L及びPによりコードされたタンパク質の部分配列に関わるのに対して、転写に必要不可欠である他の部分配列は機能的に維持されたままである。
【0025】本発明の有利な1実施態様では、組換えウイルスは、遺伝子P中、そのうちでも特に遺伝子PのN-末端部分配列中に突然変異を有する。この突然変異は、少なくとも複製能力に重要であるタンパク質Pのアミノ酸33?41の領域に関わる。さらに、C末端領域(アミノ酸320から)に何の転写機能も阻害しない突然変異を有するのが有利である。この突然変異は、アミノ酸2?77の領域内で複製能力の欠損を導く突然変異であるのが特に有利であり、例えば、(a)遺伝子Pによりコードされたタンパク質のアミノ酸2?77又は(b)(a)の部分配列の複製能力を欠損するために十分である部分配列の欠失である。相応の突然変異は、他のマイナス鎖RNA-ウイルス、例えば、他のパラミクソウイルス、例えばhPIV3のP-タンパク質中でも行うことができる。」(【0024】?【0025】)

ウ 「【0027】突然変異の他に、本発明により組換えウイルスは、有利には少なくとも1つの導入遺伝子、すなわち、少なくとも1つの異種遺伝子産物コード配列を含む。異種遺伝子産物は、タンパク質、例えば、レポータータンパク質、例えば、GFPのような蛍光タンパク質又はそれらの誘導体、又は抗原(これに対して免疫応答が発生する)、又は治療タンパク質、例えば、ウイルス治療用のタンパク質又は官能性RNA-分子、例えばアンチセンスRNA、リボザイム又はRNA干渉作用のあるsiRNA-分子であることができる。異種遺伝子産物は、ウイルス、バクテリア、菌類又は原虫のような病原菌から由来する抗原、腫瘍抗原又は自己抗原であるのが有利である。抗原は、ヒトパラインフルエンザウイルス又はRSVのような異種マイナス鎖RNA-ウイルスから由来するようなウイルス抗原、例えば、hPIV3F及びHNもしくはhRSV F及びGであるのが特に有利である。本発明によるウイルスは、1つ以上の、例えば、2つ又は3つの異種遺伝子産物コード配列を含有できる。」(【0027】)

エ 「【0032】本発明のもう1つの対象は、本発明による組換えマイナス鎖RNA-ウイルスゲノム又はその前駆体、又はウイルス-アンチゲノム又はその前駆体をコードする1本鎖又は二本鎖DNA分子、例えば、cDNA分子である。これに関連して、”前駆体”という用語はDNA分子が異種遺伝子産物コード配列を有さず、単にこのような配列を挿入するためのクローニング部位を有することを意味する。クローニング部位は、1つの制限切断部位、例えば、DNA中の特異的又は非特異的な制限切断部位、又は幾つかの連続した制限切断部位、有利には特異的な制限切断部位を有するマルチプルなクローニング部位である。ウイルスゲノム又は/及び相補配列をコードするDNA分子は、有利には適切な発現調節配列と作動的に連結した形で存在する。
【0033】DNA分子は、有利にはベクター、例えば適切な宿主細胞中、すなわち、ベクター増殖細胞又はプラスミド増殖細胞中、有利には原核細胞、又は真核細胞、特に哺乳類細胞中での繁殖に適切であるプラスミドベクターであり、かつこのために必要不可欠な複製起源、組込配列又は/及び選択マーカー配列のような遺伝子エレメントを有する。」(【0032】?【0033】)

オ 「【0044】本発明のもう1つの対象は、先に挙げたような複製欠損性でかつ転写可能な組換えマイナス鎖RNAウイルス、又はそのヌクレオカプシドを作用物質として、ならびに場合により製剤的に通常の担体又は/及び助剤として含有している医薬組成物である。医薬組成物は、人類医学及び獣医学で使用するために適切である。これらは特にワクチンとして、又は抗腫瘍治療用に使用でき、特に子供、老人又は/及び損傷もしくは衰弱した免疫系を有する人のようにリスクのある患者で使用するためのワクチンとして使用できる。この場合に医薬組成物は、マイナス鎖RNAウイルスをその元のウイルスエンベロープ中に含有できる。」(【0044】)

カ 「【0068】3.複製欠損センダイウイルス-ベクター(SeVV)の製造
それぞれタンパク質N、P及びLの遺伝子が欠失した複製欠損センダイウイルスをコードするcDNA構築物pSeVV-eGFP-ΔN、-ΔP及び-ΔLを製造した。このために、rule of sixを維持しながら、それぞれ遺伝子N、P又はLの読取り枠を欠失しなくてはならず、その際、非コード転写カセットは適切な位置で保持されたままでなくてはならなかった(図8A)。
【0069】欠失したORFの代わりに制限切断部位の挿入により、各cDNA構築物pSeVV-eGFP-ΔN、-ΔP及び-ΔL中に後で使用するために、もう1つの機能的転写カセットを提供することにした。必要な場合には、この中にもう1つの導入遺伝子を挿入できる。
【0070】複製欠損SeVVの更なる変異体として、N-末端の短くなったPタンパク質をコードし、アミノ酸2?77が欠損している欠失突然変異体pSeVV-eGFP-PΔ2-77を製造した(図8B)。
【0071】pSeVV-eGFP-ΔN、-ΔP及び-ΔLのクローニングは全て同じ原則に従って実施した。pSeVV-eGFP-ΔPのクローニングは、実例を挙げて以下のパラグラフで詳細に説明することにする。これに関連して、pSeVV-eGFP-ΔNと-ΔLのクローニングにおける違いだけを表にまとめた。
【0072】3.1 cDNA構築物pSeVV-eGFP-ΔPとpSeVV-eGFP-PΔ2-77のクローニング
P-タンパク質のORFを、複製可能なウイルスpSeV-eGFPのcDNA構築物から取り除き、複製欠損ベクターをコードする新たなcDNA pSeVV-eGFP-ΔPを製造した。P-ORFの代わりに、XhoI-制限切断部位を組込んだ。
【0073】pSeVV-eGFP-ΔPのクローニングに関して、PCR ΔP IとPCR ΔP IIという名称の2個のPCR-断片を製造し、引き続き融合した。両方のPCR-反応のための鋳型としてpSeV-eGFPを使用した。断片PCRΔP I(1272 bp)では、フォワード-プライマーΔP I(=N-578;表3)により、特異的SphI-部位の前のN ORFの領域内で、鋳型とのハイブリダイゼーションが達成された。リバース-プライマーΔP I(+)は、P遺伝子の5’-NTR領域内でPのATG-コードの前まで鋳型とハイブリダイズされ、かつそこで制限切断部位XhoIが挿入された。
【0074】断片PCRΔP IIは1938 bpから成り、ここでも鋳型としてpSeVを使用した。フォワード-プライマーΔP IIをP配列の5’-NTRの一部とハイブリダイズし、かつXhoI-切断部位につなげた。PCR ΔP II(+)のリバース-プライマーは、特異的Eco47 III部位の後ろのF遺伝子のORF内で結合し、さらに1つの人工的なMluI-部位を有した。
【0075】2のPCR-断片ΔPIとΔP IIをXhoI-部位により組合せた。N ORFの部分配列、組込まれたXhoI-制限切断部位を有する非コードP-転写カセット、MならびにF ORFの四分の一から成る融合産物を制限酵素SphI及びMiuIで切断し、中間クローニングし、かつ配列が正しいことが証明された。正しい配列を有するサブクローンから、3006 bpの大きなSphI?Eco47III断片を切断し、これは同じ処理をしたベクターpSeV-eGFP中にライゲーションした。配列検査後に相応のpSeVV-eGFP-ΔPクローン(ゲノムウイルスcDNA)を複製欠損SeVV-eGFP-ΔPの製造用に準備した(図9)。
【0076】欠失突然変異体pSeVV-eGFP-PΔ2-77をクローニングするために、2個の変異誘発プライマーを用いるPCRを使用した。フォワードプライマー”XhoI PΔ2-77”は、XhoI-部位を有し、ATG-開始コドンならびにPタンパク質のアミノ酸78?86のコドンが続いていた。リバースプライマー”PΔ2-77(+)XhoI”は、Pタンパク質の最後の10コドンとXhoI-部位を有した。アミノ酸76個だけ短くなったPタンパク質のN末端の読取り枠は、鋳型pSeVから出発してrule of sixを維持しながらPCRにより製造した。2つのクローニング工程により、XhoIで切断された1488bpの大きな断片を元のP-ORFの位置でpSeVV-eGFP-ΔPの非コード転写カセット中に挿入した。配列検査後にゲノムcDNAクローンも複製欠損SeVV-eGFP-PΔ2-77の製造用に準備した(図9)。
【0077】P ORF中のコドン2?77の欠失は、非構造タンパク質の場合にV及びWタンパク質でもN-末端が短くなる結果となり、かつC-ファミリーまたC’だけ(同様に切断された)によりコードされたままであった;タンパク質C、Y1及びY2は、欠失した開始コドンゆえに、もはや短くなったmRNAから翻訳されることができなかった。」(【0068】?【0077】)

キ 「【0111】6.変性SeVV-eGFP-ΔPcDNA構築物の製造
標的細胞中でP遺伝子欠失SeVVの転写能力を場合によっては改善するために、元のP-読取り枠の位置で、N末端がアミノ酸76個だけ短くなった形のPタンパク質をコードする、もう1つの組換え構築物を製造した(”pSeVV-eGFP-PΔ2-77”;項目3.1と図8B参照)。
【0112】SeVV-eGFP-PΔ2-77粒子の産生とそれらの増殖は、項目4.1及び5.4と同様に行った。
【0113】6.1 H29ヘルパー細胞中でのSeVV-eGFP-PΔ2-77の成長挙動
SeVV-eGFP-PΔ2-77に感染したH29ヘルパー細胞中では、N末端がアミノ酸76個たけ短くなったウイルスコードPΔ2-77タンパク質を細胞性コードPタンパク質と一緒に合成した。
【0114】ウイルス複製に対する短くなったPタンパク質PΔ2-77の発現の影響を調べるために、SeVV-eGFP-ΔPの成長速度で記載した方法と同様に、SeVV-eGFP-PΔ2-77、SeV-eGFP-ΔP又はコントロールウイルスSeV-eGFPでH29細胞の感染(MOI=3)を実施した。個々の調製物の上澄みを120時間にわたり、後代ウイルス滴定量の細胞感染価試験により、eGFP発現細胞の数について測定した。
【0115】SeV-eGFP感染H29細胞(陽性コントロール)から、120時間の期間内に平均して80個のウイルス粒子が遊離されたが、その際にH29細胞によるPタンパク質のトランス相補化は、この場合には必要ではなかった。SeVV-eGFP-PΔ2-77は、SeV-eGFP-ΔPのようにほぼ同じ効率でH29トランス相補化系において増殖できた:感染したH29細胞から120時間後に約20×10^(6)個のウイルス粒子がSeVV-eGFP-ΔP又はSeVV-eGFP-PΔ2-77から遊離され、これはH29細胞1つ当たり、P突然変異体の遊離ウイルス粒子約40個の数に相当した。」(【0111】?【0115】)

ク 「【0116】7.SeVV-eGFP-ΔPとSeVV-eGFP-PΔ2-77の遺伝子発現の比較ならびに感染した標的細胞中でのタンパク質合成の定量化
感染した標的細胞中でベクターSeVV-eGFP-PΔ2-77がSeVV-eGFP-ΔPと比べて強い導入遺伝子発現を示すかどうかを調べるために、レポーター遺伝子eGFPならびにHNタンパク質のウイルスコード発現を詳細にキャラクタリゼーションした。
【0117】5×10^(5)個のベロ細胞をSeVV-eGFP-PΔ2-77に感染させ(MOI=1)、その際、p.i.2日目に、約70%蛍光ベロ細胞が観察できた(記載なし)。このことは、これらのウイルスベクター変異体の殆どのRNP-複合体が標的細胞中で測定可能な転写を誘発できることを意味する。
【0118】7.1 FACS-分析によるeGFP発現の定量化
レポーター遺伝子eGFPがSeVV-eGFP-PΔ2-77中に挿入された転写カセットは、後で医学分野で使用する際に病原体、例えば、所望のウイルスの抗原をコードするべきである。これらの抗原発現は、患者において保存的免疫応答を引き起こすために十分でなくてはならない。
【0119】標的細胞を感染した各SeVV-eGFP-PΔ2-77ヌクレオカプシドが検出可能な導入遺伝子発現を行えることを証明するために、同じ数のH29とベロ細胞を同量のウイルス粒子に感染させ、かつFACS(蛍光活化細胞選別)分析によりFACS-フローサイトメターを使用しながら、eGFP発現H29細胞もしくはベロ細胞の数を比較した。全細胞数に対する感染細胞の蛍光シグナルをプロットすることにより、データをコンピューターヒストグラム法により評価した。
【0120】2.5×10^(5)個のベロ細胞又はH29細胞をSeVV-eGFP-PΔ2-77又はP遺伝子欠失ウイルスSeVV-eGFP-ΔP(MOI=1)に感染させた。プローブのFACS分析は、感染の24時間後に行った。感染細胞をPBS中に取り、かつフローサイトメトリーにより蛍光細胞の数を計算した。結果は、蛍光ベロ細胞とH29細胞の割合[%]として図11に挙げられている。
【0121】H29ヘルパー細胞をSeVV-eGFP-ΔPに感染させた24時間後に、eGFP-発現H29細胞の86%がFACS分析により検出できた。ここで、Pタンパク質の細胞性合成は、新たなP:L-複合体の形成、ひいては新たなmRNAの産生を促進した。このことは、感染細胞中でeGFP-タンパク質の合成を生じた。これに対してベロ細胞をSeVV-eGFP-ΔPに感染させた場合には、p.i.24時間目でも、それ以降の時点でも更なる試験調製物中でeGFP-タンパク質の発現は検出できなかった。SeVV-eGFP-ΔPヌクレオカプシドによりトランスフェクトしたP:L-複合体は、MOI=1で感染させた場合には感染したベロ細胞中で検出可能な発現を引き起こすことができなかった。
【0122】これに対してSeVV-eGFP-PΔ2-77に感染した24時間後に、FACS分析により80%弱のeGFP発現H29細胞及び同じく75%のeGFP発現ベロ細胞を同定できた。H29細胞の感染の際に、eGFPmRNAの転写をPタンパク質の細胞合成により、ひいては新たなP:L-複合体により促進できる。ベロ細胞をSeVV-eGFP-PΔ2-77に感染させた際に、N末端が短くなったPタンパク質PΔ2-77の新たな合成により転写が強くなった。
【0123】この結果から、転写能力のあるSeVV-eGFP-PΔ2-77の数により重要な確証が得られた:H29細胞とベロ細胞はMOI=1で感染した。理論的に生じる細胞の多重感染は、両方の調製物中で統計的に同様に殆ど可能性がなかった。p.i.24時間目では、80%弱のeGFP-発現H29細胞と、約75%のeGFP-発現ベロ細胞が同定された。これにより、Pヘルパー細胞中で導入遺伝子発現が可能な短いP変異体PΔ2-771を有する各RNP-複合体は、感染した標的細胞中でも同様に導入遺伝子発現をもたらすという推論を導き出すことができた。これに対してP ORFの完全欠失がある変異体SeVV-eGFP-ΔPは、この特性を満たさなかった。
【0124】7.2 感染した標的細胞中で発現したHN-タンパク質の機能試験
血球吸着(HAD)試験を用いて、個々の感染細胞においてヒト赤血球の結合の効果及びウイルスHN-タンパク質の露出の効果を検出した(図12)。
【0125】5×10^(5)個のベロ細胞を低いMOI=0.5でSeVV-eGFP-PΔ2-7に感染させた。これに対して、SeVV-eGFP-ΔPの場合に個々の蛍光細胞を総じて観察できるようにするために、10倍高いMOI=5でベロ細胞を感染させなくてはならなかった。吸着1時間後に、DMEM+10%FCS含有の培地交換を行った。引き続き、細胞を33℃で数日インキュベートした。両方のベクター変異体の導入遺伝子発現は、まずeGFP-蛍光により再び追跡した。p.i.5日目と9日目に、HAD-試験系列を実施し、ヒト赤血球の形成を手かがりにウイルスHNタンパク質の露出を分析した。
【0126】MOI=5のSeVV-eGFP-ΔPの場合に、統計的にベロ細胞の99.3%が感染したにもかかわらず、顕微鏡で0.01%のeGFP-陽性細胞だけが観察できるに過ぎなかった(図12左上)。これに対して、SeVV-eGFP-PΔ2-77では、MOI=5の場合に緑色蛍光が期待通りに細胞の40%で見られた(図12左下)。
【0127】SeVV-eGFP-ΔPに感染した2日後には、半分のeGFP-陽性細胞(感染した5×10^(5)のうち25個)は、赤血球がその表面上に結合できた(図12上中央)。更なるインキュベーションと再度HAD試験の後には、感染細胞上で赤血球吸着は何も起こらなかった。2番目の複製欠損SeVV変異体SeVV-eGFP-PΔ2-77では、はるかに改善された結果が得られた:感染5日後に、感染細胞(MOI=0.5)の約40%は、赤血球がその表面に結合できた(図12下中央)。この場合に、個々の細胞では、10?70個の複合赤血球の様々な結合活性が観察できた。従って、SeVV-eGFP-PΔ2-77に感染した細胞(p.i.5日目)はHNタンパク質が細胞表面上に露出でき、機能的HAD-試験は陽性として評価できることが示された。同時に、様々な量の結合赤血球を手がかりに、感染細胞中でHN-タンパク質の効果的発現を算出できた。
【0128】感染細胞を33℃でさらにインキュベートし、その際、HN-タンパク質のノイラミニダーゼ活性が感染細胞に結合した赤血球の剥離を生じた。前記細胞を洗浄して剥離した赤血球を取り除き、かつさらに33℃で4日間インキュベートした。p.i.9日目に、さらにHAD-試験を実施した。今度は約30%のHAD-陽性ベロ細胞だけが検出された。この場合に結合した赤血球の数は、細胞1つ当たり赤血球5?20個に減った。
【0129】またp.i.9日目では、複製欠損変異体SeVV-eGFP-PΔ2-77により依然として十分な機能性HNが合成された。これに対して、P ORFの完全欠失がある変異体SeVV-eGFP-ΔPは、この特性を満たさなかった。
【0130】7.3 ウェスタンブロット分析によるeGFP発現の定量化
細胞の全タンパク質の一連の希釈系列を用いてウェスタンブロット分析により、複製可能なSeV-eGFPと比較して、複製欠損SeV-ベクターのeGFP発現の半定量的評価を実施した。
【0131】5×10^(5)個のベロ細胞をSeV-eGFP又はSeVV-eGFP-PΔ2-77に感染させた(MOI=3)。p.i.24時間目に、細胞の溶解を行った;細胞抽出物を一連の希釈系列(1:2)で20μgから2.5μgの全体量までSDS-PAGE中で解かした。タンパク質をPVDF膜上にトランスフェクトし、かつ初めにウイルスコードeGFP-タンパク質(26kDa)をウェスタンブロット分析により検出した(図13)。
【0132】蛍光タンパク質eGFPは、ウェスタンブロット分析を用いて、SeV-eGFP及びSeVV-eGFP-PΔ2-77感染ベロ細胞中の両方で検出できた。eGFPシグナルの強さの比較により、複製欠損SeVV-eGFP-PΔ2-77から算出した発現が複製可能なSeV-eGFPに比べて約16倍減少したと言うことができる。
【0133】この場合に16倍の減少は僅かであり、かつ変性Pタンパク質であるにもかかわらず、SeVV-eGFP-PΔ2-77は極めて効果的な二次転写をもたらしたと言うことができる。
【0134】7.4 ウェスタンブロット分析によるHN-発現の評価
SeV HN-タンパク質はeGFPタンパク質とは異なり膜貫通型の表面タンパク質であり、かつ重要な抗原決定因子である。SeVV-eGFP-PΔ2-77感染細胞中でHN-タンパク質の発現強さを相対的に定量化することにより、SeV HN-抗原の発現の強さについて証言が可能である。
【0135】細胞の全タンパク質の一連の希釈系列を用いてウェスタンブロット分析により、複製可能なSeV-eGFPと比較して、複製欠損SeV-ベクターのHN発現の半定量的評価を実施した。ベロ細胞5×10^(5)個ごとに、2つの平行調製物中で、SeV-eGFP又はSeVV-eGFP-PΔ2-77(MOI=1)に感染させ、かつ24時間もしくは48時間インキュベートした。この後に、細胞の溶解を行った;細胞抽出物を一連の希釈系列(1:2)で16μgから2μgの全体量までSDS-PAGE中で溶かした。タンパク質をPVDF膜上にトランスフェクトし、かつウイルスコードHN-タンパク質(60kDa)を単クローンHN抗体を用いて検出した(図14)。
【0136】HNタンパク質は、SeV-eGFP感染ベロ細胞の場合に両方のインキュベーション時間の後に全てのレーン中(16?2μg全タンパク質;左右のレーン2?5番目)で効果的に検出できた。SeVV-eGFP-PΔ2-77の場合には、HNタンパク質のバンドが16μg及び8μgの全タンパク質を有するレーン(レーン7、8)でも目視できたが、弱い強さであった。SeV-eGFP-に対するSeVV-eGFP-PΔ2-77感染ベロ細胞中でのHN発現の相対的定量化は、16及び8μgの全タンパク質対2μgの全タンパク質の比較により行い(左右のレーン7と8、対レーン5)、かつインキュベーション時間とは無関係にP欠失変異体の8?16倍のHN発現の推定した減少を可能にした。これは、SeVV-eGFP-PΔ2-77感染標的細胞中で比較的に高い転写率を生じ、ひいては一般にウイルス複製欠損ベクターの高い導入遺伝子発現を生じさせることができる。
【0137】両方の測定値(eGFPタンパク質とHNタンパク質)を含めて、平均して10倍の発現の減少から始めることができる。」(【0116】?【0137】)

ケ 「【0138】8.標的細胞中でのSeVV-eGFP-PΔ2-77の複製欠損
ベロ細胞を複製可能なSeV-eGFPに感染させた場合には、これに続いて2日で初めに感染した強い蛍光細胞の周辺に、1000個までの更なる蛍光細胞から成るスポットが生じた。ベロ細胞中でSeVV-eGFP-PΔ2-77の複製欠損を立証するために、ベロ細胞の自然な分裂速度を考慮して、初めに感染した標的細胞の周辺で緑色蛍光細胞が生じないことを確認することにした。ベロ細胞は平均して24時間ごとに分裂した。ベロ細胞をSeVV-eGFP-PΔ2-77に感染させた場合には、約24時間後に検出可能なeGFP-発現が見られた。さらにインキュベーションフェーズの24時間後にも、これらの初めに感染した蛍光ベロ細胞から、自然分裂により幾つかの場合に2つの(弱い)蛍光娘細胞が生じた。この観察結果は、10^(1)?10^(4)個のウイルス粒子が感染した標的細胞から生じたウイルス増殖とは関係がなく、よって隣接する細胞を感染できる。他方で、感染細胞の自然な分裂速度は、細胞分裂の数が増すにつれて減少したeGFP-発現強さに影響を与えた。この観察結果は、ウイルスベクターSeVV-eGFP-PΔ2-77がゲノム複製欠損であるということ、すなわち、新たなゲノムが何も合成されていないことを示している。感染細胞の幾つかの連続した細胞分裂が、最後には停止するまで蛍光強さの連続的な減少を生じる場合には、ウイルス増殖は排除されることになる。
【0139】標的細胞中でSeVV-eGFP-PΔ2-77の複製欠損を最終的に持続させるために、最後の試験を実施した:
T75-フラスコを?20×10^(6)個のベロ細胞で覆った。これらの細胞はインキュベーションフェーズを開始するために既に高密度で播かれていたので、その結果もはや強い分裂活性はなかった。これらのベロ細胞をMOI=0.001でSeVV-eGFP-PΔ2-77に感染させた。1時間のインキュベーション時間の後、5%FCS含有DMEM(少ない分裂活性)による培地交換を行い、かつベロ細胞を33℃でインキュベートした(P1)。p.i.2日目では、選択したMOIに相応して、初めに個々に存在する数千の感染蛍光ベロ細胞が観察できた。高い細胞密度ゆえに、それに続く4日のインキュベーションで、殆ど細胞分裂しなかった。すなわち、初めの感染細胞の数は、蛍光により一定のままで検出された。この時間内にウイルス粒子が形成された場合には、これに隣接する細胞を感染させることができた。このことは、蛍光の増大により反映されていた。8日後にも、周辺細胞の欠損した新たな感染ゆえにウイルスベクターの伝播を排除できた。細胞に新たな培地を与えるために、上澄液を取り出し、かつベロ細胞を新たな培地で覆った。インキュベーション開始から12日後に、培地の底からベロ細胞が剥がれた。全体の試験期間の間に、ウイルスベクターの複製は増大する蛍光細胞の形で観察することができなかった。従って、隣接するベロ細胞における一次感染細胞によるSeVV-eGFP-PΔ2-77の伝播を新規ウイルスゲノムならびにウイルス粒子の産生により排除できた。よって、SeVV-eGFP-PΔ2-77を複製欠損ウイルスベクターと称するべきである。
【0140】結論:
先に挙げた結果は、標的を定めたポリメラーゼ複合体の成分の遺伝子操作により、ウイルスコード遺伝子を転写できるが、ウイルスゲノムをもはや複製しない複製欠損マイナス鎖RNAウイルスを製造できたということを示している。
【0141】センダイウイルスの場合には、ポリメラーゼ補助因子リンタンパク質の遺伝子が完全に欠損しているか(”SeVV-eGFP-ΔP”)又はアミノ酸2?77のコドンが取り除かれていた(”SeVV-eGFP-PΔ2-77”)特殊な2つの変異体をさらに詳しく試験した。2つのSeVベクターは、Pタンパク質をトランスの形で提供しない細胞(いわゆる標的細胞)中で複製欠損であるが、しかしその遺伝子発現性が著しく異なる。
【0142】MOI=5のSeVV-eGFP-ΔPの場合には、統計的にベロ細胞の0.7%だけが感染せずに残った(99.3%は少なくとも1つのRNP複合体を含有した)にもかかわらず、顕微鏡では0.01%だけのeGFP-陽性細胞が観察できた。このことから、SeVV-eGFP-ΔPの15以上のRNPが1つの感染した標的細胞中に同時に存在する場合に、目視可能な導入遺伝子発現を生じることが計算により結論付けられた。
【0143】このP遺伝子欠損SeVVは、類似した狂犬病ΔP変異体のように似た弱い発現を示した(上記Shoji等)。両方のベクターは感染した標的細胞中で、ウイルス粒子から持ち込まれたポリメラーゼ複合体により一次転写できるだけである。しかしベクターの治療用途には、コードした導入遺伝子もしくは抗原の強い発現が望ましい。この条件は、複製欠損変異体SeVV-eGFP-PΔ2-77を用いて満たすことができ、これは複製可能なSeV と比べて、平均して10倍少ない発現能力を標的細胞中でもたらす。ベクターゲノム中、N末端が短くなったPタンパク質の遺伝子の存在により、一次転写だけではなく、二次転写も可能である。これは、新たに生じるベクターコードPΔ2-77タンパク質を含有する変性ポリメラーゼ複合体により成就するが、これらはポリメラーゼの複製様式は促進しない。
【0144】感染した標的細胞中のタンパク質合成の定量化により、複製欠損ウイルスベクターSeVV-eGFP-PΔ2-77が、ウイルスコード遺伝子の効果的な転写と発現を実行できることが証明された。この場合に、3’近位の導入遺伝子(eGFP)が効果的に合成されるだけではなく、ゲノム位置6に存在するHN-遺伝子も感染の少なくとも9日後に転写され、かつタンパク質が感染した標的細胞において機能的に露出した。」(【0138】?【0144】)

コ 「【0145】9.複製欠損RNA-ワクチンによるマウスモデル中で誘発した免疫応答の測定
特にP遺伝子中の欠失(”PΔ2-77”)により、新たなゲノムの合成を可能にしない変性ウイルスポリメラーゼ複合体を生じることが示された。同時に、このような複製欠損ウイルスに感染した後に、標的細胞中で媒介されたウイルス遺伝子発現は、複製可能なウイルスでの感染と比べて約10倍低かった。
【0146】ワクチンベクターとして複製欠損マイナス鎖RNAウイルスの十分なイムノゲンの特性を検出するために、2組の異種ウイルスの抗原もしくは抗原決定基(ヒトパラインフルエンザウイルスTyp 3、hPIV3及び呼吸系発疹ウイルス、RSV)をウイルスゲノム中に挿入した:このために、元の表面タンパク質FとHNの遺伝子がキメラFタンパク質とHNタンパク質SeV/hPIV3をコードする遺伝子と置換されている複製欠陥SeV PΔ2-77を構築した。キメラのFタンパク質は、558個のアミノ酸を有し、かつhPIV3の細胞外ドメイン(アミノ酸493個)、SeVの膜間ドメイン(アミノ酸23個)及びSeVの細胞質ドメイン(アミノ酸42個)から成る。キメラのHNタンパク質は、579個のアミノ酸を有し、かつSeVの細胞質ドメイン(アミノ酸35個)、SeVの膜間ドメイン(アミノ酸25個)ならびにhPIVの細胞外ドメイン(アミノ酸519個)から成る。キメラのFタンパク質とキメラHNタンパク質のアミノ酸配列は、配列プロトコールでは配列番号27及び28と称した。
【0147】ウイルスゲノム中へのキメラ遺伝子の挿入により、新たな抗原性が作られると同時にそれらの産生の際にウイルス粒子の効率的な組立てが保障された。
【0148】2つのウイルス遺伝子の間に組込まれた更なる発現カセット中で、RSVの表面タンパク質Fのコード化を行った。これにより、構築物が二価ワクチンに広げられた。
【0149】これらの新規ワクチンを動物モデルでテストした。Balb/Cマウスのグループを3週間の間隔で、2種の異なるウイルスプレパレーション(グループAもしくはC、それぞれ104感染単位)で3回鼻腔内免疫し、コントロール群(B)はワクチンの代わりにPBSを含有させた。3回目の免疫化の後に、粘膜免疫応答の分析のために鼻洗浄液(NW)を獲得し、ならびに気管支肺胞洗浄(BAL)を行い、かつ体液性免疫応答を分析するために血清を単離した。hPIV3ならびにRSVに対して特異的に誘発された免疫グロブリンIgAとIgGの量をELISAにより測定した。複製欠損ワクチンプロトタイプは、hPIV3に対して特異的なIgA抗体の著しい誘発を引き起こし(図15A)、抗RSV IgA抗体の誘発は僅かであった(表示無し)。体液性免疫応答の誘発は、両方のウイルスの表面抗原に対して、特異的IgGの量が2倍異なる比較可能な滴定量をもたらした(図15B)。抗hPIV3-IgGの更なる分析は、誘発された抗体が中和特性(滴定量1/64)を有することを示した。これに対して、予想通りに、コンロトールグループでは何の特異的IgAもしくはIgG誘発も確認できなかった。
【0150】本発明によるワクチンは、体液性ウイルス抗原に対して特異的粘膜応答と体液免疫応答を誘発できた。更なる実験は、リンパ球免疫マウスがインターフェロンγを産生したのに対して、IL-5は検出できなかったことを示した。この調査結果は、二価の複製欠損RNAワクチンが長い持続的免疫性にとって必要条件であるT細胞免疫応答を引き起こせることを示している。
【0151】結論
抗原のコード配列中に2組の異種ウイルスを挿入した変性ベクターで実験動物を感染させた後、中和抗体の誘発が検出された。このことは、新しいタイプのワクチンを開発するための複製欠陥マイナス鎖RNAウイルスの可能性を示している。」(【0145】?【0151】)

上記記載事項ア?エ及びカ?ケから、引用文献1には、「組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターであって、
ここで組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターが、少なくとも1種の異種遺伝子産物コード配列を含み、
ここで組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターが、ウイルスの転写能を喪失することのないウイルスのゲノム複製能の喪失につながる、変異されたPタンパク質をコードしているウイルスゲノムを含み、当該変異が、センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77又はその部分配列の欠失である、並びに
ここで該少なくとも1種の異種遺伝子産物コード配列は、腫瘍抗原又は治療タンパク質をコードしている、
ベクター。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明1、2及び3について
本件補正発明を、「エクスビボ若しくはインビボでの遺伝子治療のための、組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターであって、 ここで組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターが、少なくとも1種の異種核酸配列を含み、 ここで組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターが、ウイルスの転写能を喪失することのないウイルスのゲノム複製能の喪失につながる、変異されたPタンパク質をコードしているウイルスゲノムを含み、当該変異が、センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77における、あるいはセンダイ以外のウイルスの場合、センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77に対応するアミノ酸における、1個又は複数のアミノ酸の欠失である、並びに ここで該少なくとも1種の異種核酸配列は、治療的タンパク質をコードしており、 ここで治療的タンパク質が、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、p91-PHOX、IX因子、VIII因子、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)、β-グロビン(HBB)、ジストロフィン、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)、フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)、グルコシルセラミダーゼ(GBA及びGBA2)、フィブリリン-1(FBN1)、ハンチンチン(HTT)、アポリポタンパクB(apoB)、低密度リポタンパク受容体(LDLR)、低密度リポタンパク受容体アダプタータンパク質1(LDLRAP1)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)、シヌクレインα(SNCA)、パーキン(PRKN)、ロイシン-リッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、PTEN誘導推定キナーゼ1(PINK1)、パーキンソンタンパク質7(DJ-1)、ATPase型13A2(ATP13A2)、癌自殺遺伝子産物、抗血管新生因子、チロシナーゼ-関連タンパク質2(TRP-2)及び癌胎児性抗原(CEA)を含む癌自己抗原、免疫刺激因子、顆粒球-マクロファージコロニー-刺激因子(GM-CSF)及び上皮増殖因子(EGF)を含む増殖因子、インターロイキンIL-2、IL-4、IL-5、IL-12、及びIL-17を含むサイトカイン、免疫抑制物質、並びにそれらの組合せからなる群から選択される、ベクター。」に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)、「再生医療に使用するためにより未分化状態の細胞へ細胞を再プログラミングするための、組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターであって、 ここで組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターが、少なくとも1種の異種核酸配列を含み、 ここで組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターが、ウイルスの転写能を喪失することのないウイルスのゲノム複製能の喪失につながる、変異されたPタンパク質をコードしているウイルスゲノムを含み、当該変異が、センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77における、あるいはセンダイ以外のウイルスの場合、センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77に対応するアミノ酸における、1個又は複数のアミノ酸の欠失である、並びに ここで該少なくとも1種の異種核酸配列は、細胞の再プログラミング因子をコードしており、 ここで細胞の再プログラミング因子が、Nanog、Oct-3/4、Sox2、c-Myc、Klf4、Lin28、ASCL1、MYT1L、TBX3b、SV40ラージT、hTERT、miR-291、miR-294、miR-295、及びそれらの組合せからなる群から選択される、ベクター」に係る発明(以下、「本件補正発明2」という。)、「特異的に分化した細胞状態の細胞へ細胞をプログラミングするための、組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターであって、 ここで組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターが、少なくとも1種の異種核酸配列を含み、 ここで組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターが、ウイルスの転写能を喪失することのないウイルスのゲノム複製能の喪失につながる、変異されたPタンパク質をコードしているウイルスゲノムを含み、当該変異が、センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77における、あるいはセンダイ以外のウイルスの場合、センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77に対応するアミノ酸における、1個又は複数のアミノ酸の欠失である、並びに ここで該少なくとも1種の異種核酸配列は、プログラミング因子をコードしており、 ここで該プログラミング因子が、神経成長因子(NGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インターロイキン-6(IL-6)、骨形成タンパク質(BMP)、ニューロゲニン3(Ngn3)、膵臓及び十二指腸ホメオボックス1(Pdx1)、Mafa、及びそれらの組合せからなる群から選択される、ベクター」に係る発明(以下、「本件補正発明3」という。)に分け、そのうちの本件補正発明1について、以下、検討する。

イ 本件補正発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「異種遺伝子産物コード配列」は、本件補正発明1の「異種核酸配列」に相当し、引用発明の「センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77又はその部分配列の欠失」は、本件補正発明1の「センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77における、1個又は複数のアミノ酸の欠失」に相当する。
したがって、本件補正発明1と引用発明は、「組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターであって、
ここで組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターが、少なくとも1種の異種核酸配列を含み、
ここで組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターが、ウイルスの転写能を喪失することのないウイルスのゲノム複製能の喪失につながる、変異されたPタンパク質をコードしているウイルスゲノムを含み、当該変異が、センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77における、1個又は複数のアミノ酸の欠失である、並びに
ここで該少なくとも1種の異種核酸配列は、治療的タンパク質をコードしている、
ベクター。」である点で一致し、両者は以下の点でのみ相違する。

相違点:本件補正発明1は、エクスビボ若しくはインビボでの遺伝子治療のためのものであり、異種核酸配列によりコードされる治療的タンパク質が、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、p91-PHOX、IX因子、VIII因子、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)、β-グロビン(HBB)、ジストロフィン、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)、フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)、グルコシルセラミダーゼ(GBA及びGBA2)、フィブリリン-1(FBN1)、ハンチンチン(HTT)、アポリポタンパクB(apoB)、低密度リポタンパク受容体(LDLR)、低密度リポタンパク受容体アダプタータンパク質1(LDLRAP1)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)、シヌクレインα(SNCA)、パーキン(PRKN)、ロイシン-リッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、PTEN誘導推定キナーゼ1(PINK1)、パーキンソンタンパク質7(DJ-1)、ATPase型13A2(ATP13A2)、癌自殺遺伝子産物、抗血管新生因子、チロシナーゼ-関連タンパク質2(TRP-2)及び癌胎児性抗原(CEA)を含む癌自己抗原、免疫刺激因子、顆粒球-マクロファージコロニー-刺激因子(GM-CSF)及び上皮増殖因子(EGF)を含む増殖因子、インターロイキンIL-2、IL-4、IL-5、IL-12、及びIL-17を含むサイトカイン、免疫抑制物質、並びにそれらの組合せからなる群から選択されるものであるのに対し、引用発明は、用途について特定されておらず、異種核酸配列によりコードされるタンパク質が、腫瘍抗原又は治療タンパク質であり、治療タンパク質について特定のタンパク質が記載されていない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
癌胎児性抗原(CEA)などの癌抗原をコードする遺伝子を含む、センダイウイルスベクターなどのマイナス鎖RNAウイルスベクターを、エクスビボ若しくはインビボでの遺伝子治療のために使用することは、本願優先日前周知技術である(国際公開第03/029475号の第44頁第18行?第25行、第55頁第11行?第24行、第67頁第4行?第6行、国際公開第2005/042737号の[0085]、[0092]、国際公開第2005/067981号[0010]、[0067]参照)から、引用発明において、腫瘍抗原として、癌胎児性抗原(CEA)などの癌抗原を用い、エクスビボ若しくはインビボでの遺伝子治療のために使用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、IL-2、IL-4、GM-CSFなどのサイトカインをコードする遺伝子を含む、センダイウイルスベクターなどのマイナス鎖RNAウイルスベクターを、エクスビボ若しくはインビボでの遺伝子治療のために使用することは、本願優先日前周知技術である(国際公開第2005/042737号[0085]、[0095]、国際公開第2005/067981号[0010]、[0013]、国際公開第2008/136438号[0021]、[0080]?[0081]参照)から、引用発明において、治療タンパク質として、IL-2、IL-4、GM-CSFなどのサイトカインを用い、エクスビボ若しくはインビボでの遺伝子治療のために使用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、引用文献1には、組換えマイナス鎖RNAウイルスのPタンパク質のアミノ酸2?77の欠失により、ウイルスの転写能を欠損することなく、複製能を欠損させることができ、患者の治療に使用できることが記載されており(上記記載事項イ、オ、ク?コ)、また、「複製欠損ウイルスベクターSeVV-eGFP-PΔ2-77が、ウイルスコード遺伝子の効果的な転写と発現を実行できることが証明された。この場合に、3’近位の導入遺伝子(eGFP)が効果的に合成されるだけではなく、ゲノム位置6に存在するHN-遺伝子も感染の少なくとも9日後に転写され、かつタンパク質が感染した標的細胞において機能的に露出した」ことが記載されている(上記記載事項ケ)から、本件補正発明1の「改善された安全性プロファイルを示し、且つ十分に長い期間にわたり異種核酸配列を効率的に発現することが可能である」という効果は、引用文献1の記載から予測できる範囲内のものであり格別顕著なものということはできない。

(5)審判請求人の主張
審判請求人は、平成29年10月5日提出の手続補正書により補正された審判請求書において、「本願明細書の段落0104において、本願ウイルスベクターが長期間のタンパク質発現を呈し、GFPマーカー遺伝子からの蛍光が、少なくとも30日の期間に渡り中度にしか減衰せず、30日以降も顕著に高かったことが言及されています。 また、本願明細書の段落0109において、N-末端アミノ酸2?77を欠く切断型Pタンパク質を含むウイルスを用いた形質導入が、5日後も非常に高く、8日後であっても優位なmRNA発現を呈したことが言及されています。 更に、本願明細書の段落0110において、Pタンパク質におけるアミノ酸2から77の欠失を持つ複製-欠損ウイルスから観察された長期間の組換え遺伝子の発現が驚異的知見であったと言及されています。従来、ウイルスヌクレオキャプシドの半減期は約24時間と報告されていたため、ウイルスは、より長期間の発現を要する遺伝子治療や細胞の(再)プログラミング等の用途に適さないと一般的に認識されていたことも言及されています。」と主張している。
しかしながら、引用文献1には、「5×10^(5)個のベロ細胞をSeVV-eGFP-PΔ2-77に感染させ(MOI=1)、その際、p.i.2日目に、約70%蛍光ベロ細胞が観察できた(記載なし)。このことは、これらのウイルスベクター変異体の殆どのRNP-複合体が標的細胞中で測定可能な転写を誘発できることを意味する。」、「2番目の複製欠損SeVV変異体SeVV-eGFP-PΔ2-77では、はるかに改善された結果が得られた:感染5日後に、感染細胞(MOI=0.5)の約40%は、赤血球がその表面に結合できた(図12下中央)。この場合に、個々の細胞では、10?70個の複合赤血球の様々な結合活性が観察できた。従って、SeVV-eGFP-PΔ2-77に感染した細胞(p.i.5日目)はHNタンパク質が細胞表面上に露出でき、機能的HAD-試験は陽性として評価できることが示された。・・・・・・・・・感染細胞を33℃でさらにインキュベートし、その際、HN-タンパク質のノイラミニダーゼ活性が感染細胞に結合した赤血球の剥離を生じた。前記細胞を洗浄して剥離した赤血球を取り除き、かつさらに33℃で4日間インキュベートした。p.i.9日目に、さらにHAD-試験を実施した。今度は約30%のHAD-陽性ベロ細胞だけが検出された。・・・・・・・・・またp.i.9日目では、複製欠損変異体SeVV-eGFP-PΔ2-77により依然として十分な機能性HNが合成された。」(以上、上記記載事項ク)、「感染した標的細胞中のタンパク質合成の定量化により、複製欠損ウイルスベクターSeVV-eGFP-PΔ2-77が、ウイルスコード遺伝子の効果的な転写と発現を実行できることが証明された。この場合に、3’近位の導入遺伝子(eGFP)が効果的に合成されるだけではなく、ゲノム位置6に存在するHN-遺伝子も感染の少なくとも9日後に転写され、かつタンパク質が感染した標的細胞において機能的に露出した。」(上記記載事項ケ)と記載されており、少なくとも9日後における遺伝子の発現が確認されているから、引用文献1においても、「長期間の組換え遺伝子の発現」が観察されているものと認められるので、「従来、ウイルスヌクレオキャプシドの半減期は約24時間と報告されていたため、ウイルスは、より長期間の発現を要する遺伝子治療や細胞の(再)プログラミング等の用途に適さないと一般的に認識されていた」との審判請求人の上記主張は採用できない。

(6)小括
したがって、本件補正発明1は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年8月25日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?11に係る発明は、平成28年11月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は、本願の請求項1?11に係る発明は、本願の優先日前に頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特表2008-529508号公報
引用文献2:Experimental Hematology,2011,Vol.39,No.1, p.47-54
引用文献3:J.Biol.Chem.,2011,Vol.286,No.6, p.4760-4771
引用文献4:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2011,Vol.108,No.34,p.14234-14239
引用文献5:国際公開第2010/134526号
引用文献6:国際公開第2010/008054号

3 引用文献の記載事項
原査定の拒絶理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、「当該変異が、センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77における、あるいはセンダイ以外のウイルスの場合、センダイウイルスのPタンパク質のアミノ酸2から77に対応するアミノ酸における、1個又は複数のアミノ酸の欠失である、」、「ここで細胞の再プログラミング因子が、Nanog、Oct-3/4、Sox2、c-Myc、Klf4、Lin28、ASCL1、MYT1L、TBX3b、SV40ラージT、hTERT、miR-291、miR-294、miR-295、及びそれらの組合せからなる群から選択され、並びに/又はここで該プログラミング因子が、神経成長因子(NGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インターロイキン-6(IL-6)、骨形成タンパク質(BMP)、ニューロゲニン3(Ngn3)、膵臓及び十二指腸ホメオボックス1(Pdx1)、Mafa、及びそれらの組合せからなる群から選択され、 ここで治療的タンパク質が、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、p91-PHOX、IX因子、VIII因子、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)、β-グロビン(HBB)、ジストロフィン、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)、フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)、グルコシルセラミダーゼ(GBA及びGBA2)、フィブリリン-1(FBN1)、ハンチンチン(HTT)、アポリポタンパクB(apoB)、低密度リポタンパク受容体(LDLR)、低密度リポタンパク受容体アダプタータンパク質1(LDLRAP1)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)、シヌクレインα(SNCA)、パーキン(PRKN)、ロイシン-リッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、PTEN誘導推定キナーゼ1(PINK1)、パーキンソンタンパク質7(DJ-1)、ATPase型13A2(ATP13A2)、癌自殺遺伝子産物、抗血管新生因子、チロシナーゼ-関連タンパク質2(TRP-2)及び癌胎児性抗原(CEA)を含む癌自己抗原、免疫刺激因子、顆粒球-マクロファージコロニー-刺激因子(GM-CSF)及び上皮増殖因子(EGF)を含む増殖因子、インターロイキンIL-2、IL-4、IL-5、IL-12、及びIL-17を含むサイトカイン、免疫抑制物質、並びにそれらの組合せからなる群から選択される、」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-04-12 
結審通知日 2019-04-16 
審決日 2019-05-07 
出願番号 特願2015-514378(P2015-514378)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 敬司  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 澤田 浩平
高堀 栄二
発明の名称 組換えマイナス鎖RNAウイルスベクターを使用する異種タンパク質発現方法  
代理人 青木 篤  
代理人 中島 勝  
代理人 大島 浩明  
代理人 三橋 真二  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 武居 良太郎  

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