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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1355504
審判番号 不服2018-2627  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-23 
確定日 2019-09-18 
事件の表示 特願2015-535010「薬物流体を含む送達装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月10日国際公開、WO2014/053560、平成27年10月15日国内公表、特表2015-530200〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25)年10月2日(パリ条約による優先権主張 2012年10月4日 欧州特許庁、2012年10月4日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月3日に手続補正がされ、同年5月1日付けの拒絶理由通知に対し、同年8月9日付けで意見書が提出されたが、同年10月20日付けで拒絶査定がされ、その後、平成30年2月23日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1ないし16に係る発明は、平成29年2月3日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項14に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項14】
透明プラスチック容器(101)を含む送達シリンジ(100)であって、該透明プラスチック容器(101)が酸素感受性の医薬有効成分の流体(107)で満たされている、送達シリンジと、
酸素を密封するように前記送達シリンジ(100)を覆う透明酸素密封エンベロープ(119)と、
を備える送達装置であって、
前記透明酸素密封エンベロープ(119)が、エチレン-ビニルアルコールコポリマー障壁を含み、
前記酸素感受性の医薬有効成分の流体(107)が医薬有効成分のエマルションであり、プロポフォールを含むものであり、
前記透明プラスチック容器(101)が、下記のポリマー:環状オレフィンコポリマー、環状オレフィンポリマー、又はCrystal Clear Polymerの少なくとも1つを含むプラスチックから作製されており、
前記透明プラスチック容器(101)の内表面の少なくとも一部がシリコン処理されている、送達装置。」


第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項14に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1?5、7に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2008-67989号公報
引用文献2.特開2006-239048号公報
引用文献3.米国特許出願公開第2005/0009731号明細書
引用文献4.特表2004-526730号公報
引用文献5.国際公開第2011/004137号
引用文献7.国際公開第2011/052115号


第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1
引用文献1には、次の記載がある。
「【0011】
本発明の包装されたプレフィルドシリンジ1は、プレフィルドシリンジ用収納容器2と、収納容器2の外筒収納部21に収納された薬剤充填済外筒5とプランジャ収納部22に収納されたプランジャ6とからなる未組み立て状態のプレフィルドシリンジ4と、収納容器2の開口を剥離可能に封止する封止フィルム3とからなる。薬剤充填済外筒5は、封止された先端部54と、基端部に設けられたフランジ52を有する外筒本体50と、外筒本体内に収納された薬剤7およびガスケット51を備え、外筒5は外筒5のフランジ52が外筒収納部21のフランジ収納部23に収納された状態となっている。プランジャ6は、一端部に設けられたガスケット装着部62と他端部に設けられた押圧部63とを備え、プランジャ6のガスケット装着部62が、プランジャ収納部22のガスケット装着部収納部28に収納された状態となっている。」
「【0014】
外筒本体50は、透明もしくは半透明材料により、必要に応じて、酸素透過性、水蒸気透過性の少ない材料により形成された筒状体である。・・・
【0015】
外筒本体50の形成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ-(4-メチルペンテン-1)、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、環状ポリオレフィンのような各種樹脂が挙げられるが、その中でも成形が容易で耐熱性があることから、ポリプロピレン、環状ポリオレフィンのような樹脂が好ましい。・・・」
「【0017】
外筒内に充填される薬剤7としては、ニトログリセリン、シクロスポリン、ベンゾジアゼピン系薬剤、高濃度塩化ナトリウム注射液、ビタミン剤、ミネラル類、抗生物質などの薬液、ビタミン剤(総合ビタミン剤)、各種アミノ酸、ヘパリンのような抗血栓剤、インシュリン、抗腫瘍剤、鎮痛剤、強心剤、静注麻酔剤、抗パーキンソン剤、潰瘍治療剤、副腎皮質ホルモン剤、不整脈用剤、補正用電解質、抗ウイルス剤、免疫賦活剤等いかなるものでも良いが、静脈へ急速投与すると重大な健康被害が生じる恐れのある薬剤である場合特に有効である。」
「【0027】
収納容器2の材質としては、ある程度の強度と硬度を有することが好ましく、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン/ポリプロピレン樹脂などが好適に使用でき、さらに、それらの透明性を有するものがより好ましい。また、シリンジに収納される薬剤が光の影響を受けやすい場合には、容器本体の形成材料に、各種顔料、紫外線吸収剤を含有させてもよい。さらに、上記樹脂にガス難透過性および水蒸気難透過性を有する樹脂(例えば、ポリ塩化ビニリデン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート)からなる厚さ30?70μm程度の層を備えることが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート/エチレン-ビニルアルコール共重合体/ポリプロピレンの三層からなるもの(ガスバリヤー性仕様)、ポリプロピレン単独からなるものが好適である。
【0028】
収納容器2の上面には、外筒収納部21およびプランジャ収納部22を封止する封止フィルム3が気密に固着されている。具体的には、封止フィルム3は、収納容器2の平坦周縁部20に剥離可能に融着されている。
封止フィルム3は、ガスバリヤー性フィルムと、このガスバリヤー性フィルムの下面の少なくとも外周部分に固着された接着性樹脂層と、ガスバリヤー性フィルムの上面に設けられた表面保護層から形成されているものが好ましい。ガスバリヤー性フィルムは、容器内部からの水分の透過、または外部からの酸素の透過を抑制する。・・・」
「【0030】
・・・
封止フィルム3の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート/エチレン-ビニルアルコール共重合体/延伸ナイロン/接着性樹脂の4層からなるもの(ガスバリヤー性仕様)、ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン/接着性樹脂の3層からなるものが考えられる。」

続いて、図面を参照しつつ上記の各記載について検討する。
ア)【0011】の「包装されたプレフィルドシリンジ1は、プレフィルドシリンジ用収納容器2と、収納容器2の外筒収納部21に収納された薬剤充填済外筒5とプランジャ収納部22に収納されたプランジャ6とからなる未組み立て状態のプレフィルドシリンジ4と、収納容器2の開口を剥離可能に封止する封止フィルム3とからなる。薬剤充填済外筒5は、・・・外筒本体50と、外筒本体内に収納された薬剤7およびガスケット51を備え、・・・」の記載によれば、プレフィルドシリンジ4は外筒本体50を含むものといえるし、また、包装されたプレフィルドシリンジ1は、プレフィルドシリンジ4と、収納容器2と、封止フィルム3とを備えるものといえる。
さらに、「外筒5」は「薬剤充填済」であるところ、「充填」の字義からして、外筒本体50が薬剤7により満たされていることも分かる。
イ)図1の図示によれば、プレフィルドシリンジ4は、収納容器2及び封止フィルム3により覆われることが看取できる。
ウ)【0014】の「外筒本体50は、透明もしくは半透明材料により、・・・形成された筒状体である。」、【0015】の「外筒本体50の形成材料としては、・・・環状ポリオレフィンのような樹脂が好ましい。」の各記載から、外筒本体50は、透明な外筒本体50であり、環状ポリオレフィンの樹脂から作製されているものといえる。
エ)【0027】の「収納容器2の材質としては、・・・透明性を有するものがより好ましい。・・・さらに、上記樹脂にガス難透過性および水蒸気難透過性を有する樹脂(例えば、ポリ塩化ビニリデン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート)からなる厚さ30?70μm程度の層を備えることが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート/エチレン-ビニルアルコール共重合体/ポリプロピレンの三層からなるもの(ガスバリヤー性仕様)・・・が好適である。」の記載によれば、収納容器2は、透明性を有する材質から成り、ガス難透過性を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体の層を含むものといえる。
オ)【0027】の「ガス難透過性および水蒸気難透過性を有する樹脂(例えば、ポリ塩化ビニリデン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート)」、【0028】の「封止フィルム3は、ガスバリヤー性フィルムと、・・・から形成されているものが好ましい。ガスバリヤー性フィルムは、容器内部からの水分の透過、または外部からの酸素の透過を抑制する。」、【0030】の「封止フィルム3の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート/エチレン-ビニルアルコール共重合体/延伸ナイロン/接着性樹脂の4層からなるもの(ガスバリヤー性仕様)」の各記載によれば、封止フィルム3は、外部からの酸素の透過を抑制するものであって、ガス難透過性を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体の層を含むものといえる。
カ)【0017】の「外筒内に充填される薬剤7としては、・・・静注麻酔剤」の記載によれば、引用文献1には、「包装されたプレフィルドシリンジ1」として、充填される薬剤7が「静注麻酔剤」である「包装されたプレフィルドシリンジ1」も記載されているものといえる。

以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「外筒本体50を含むプレフィルドシリンジ4であって、外筒本体50が薬剤7で満たされている、プレフィルドシリンジ4と、
プレフィルドシリンジ4を覆う収納容器2及び封止フィルム3と、
を備える包装されたプレフィルドシリンジ1であって、
前記収納容器2が、透明性を有する材質から成り、ガス難透過性を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体の層を含み、
前記封止フィルム3が、外部からの酸素の透過を抑制するものであって、ガス難透過性を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体の層を含み、
前記薬剤7が静注麻酔剤であり、
前記外筒本体50は透明な外筒本体50であり、環状ポリオレフィンの樹脂から作製されている、包装されたプレフィルドシリンジ1。」

2 引用文献4
引用文献4には、図面とともに次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、麻酔液体製剤、そして特に鎮静催眠剤、例えばプロポフォール、及びスルホアルキルエーテルシクロデキストリンを含む非経口製剤並びにこの製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
プロポフォール(2,6-ジイソプロピルフェノール又は2,6-ビス(1-メチルエチル)-フェノール)は、麻酔又は鎮静作用の誘導及び維持に使用するための注射可能な強い短時間作用性の非バルビツレート鎮静催眠剤である。治療用量のプロポフォールを静脈注射すると、通常、注射開始から40秒以内に急速に麻酔が誘導される。他の急速作用する静脈麻酔剤と同様に、血液-脳平衡の半減期は約1?3分であり、これが急速に麻酔が誘導される原因である。
【0003】
プロポフォールは、酸化プロセスを受けて二量体、4,4' -ジヒドロキシ-5,5',3,3'-テトライソプロピル-ビフェニルを生成することがある。この二量体は、プロポフォール含有溶液中で黄色を呈するため目視により低濃度で検出される。プロポフォールの分解は、光、酸化又は二価もしくは三価カチオンの存在によって触媒作用を及ぼされるフリーラジカル反応によって生じると考えられる。
【0004】
現在、市販のプロポフォールのDIPRIVAN^((R))製剤は、乳化剤として脂質及び卵レシチンを含む不透明な水中油型エマルジョンである。DIPRIVAN^((R))エマルジョン型製剤は、pH7.0?8.5で10mg/mlのプロポフォール、100mg/mlのダイズ油、22.5mg/mlのグリセロール、12mg/mlの卵レシチン及び0.005%w/vのエデト酸二ナトリウム(EDTA)を含む。その製剤は、使い捨て容器中に窒素ヘッドスペース下でパックされる。滅菌製品の場合であっても、USP規格下で抗微生物的に保存された製品でないため、DIPRIVAN(R)製剤は、微生物の成長を助ける可能性がある。また、製剤は、卵成分に対するアレルギー反応、及び中頻度から高頻度にわたる注射時の痛みの発生に関する問題を有する。」
「【0007】
慣用のエマルジョン型製剤と比較して改善された安定性を有すると伝えられる様々なプロポフォール製剤が多数の他の特許に開示されている。Georgeの米国特許第6,028,108号は、プロポフォール及びペンテテートを含んでなる水中油型エマルジョン製剤を開示している。・・・」
「【0108】
上記二量体の形成に関する本発明の液体製剤の化学安定性は、酸化防止剤を加える、液体担体のpHを調整する、及び/又は製剤中の酸素の存在を除去するか又は最小限にすることによって高めることができる。また、化学安定性は、液体製剤を固体製剤に転化することによっても高めることができる。」
「【0112】
プロポフォールは酸化分解を受けて二量体を形成するので、液体製剤では、一般に酸素が除去される。例えば、液体製剤の入った容器のヘッドスペースは、不活性ガス、例えば窒素又はアルゴンでヘッドスペースをパージするか又は液体製剤を通して不活性ガスをバブリングすることによって酸素を含まないようにされている。長期貯蔵するには、液体製剤は酸素を含まない又は酸素が低減された環境で貯蔵するのが好ましい。液体製剤は、一般に約5.0ppm未満の酸素を含む。しかし、製剤からの酸素の除去は、適切な安定製剤を形成するために必要であるわけではない。
【0113】
また、プロポフォールは、光触媒作用による分解を受ける。従って、液体製剤は、一般に耐光性の又は光を通さない容器中に保存される。適切な容器、例えばバイアル瓶、ビン、シリンジ又はアンプルは、琥珀色のガラス、遮光プラスチック、又は紙、プラスチック、ホイル、金属又は他にカバーガラス及び/又はプラスチックで作ることができる。酸化防止剤、耐光性の又は光を通さない容器及び酸素を含まない又は酸素の低減された環境を組合せて使用するとプロポフォールの分解が最も防止される。」

これらの記載によれば、引用文献4には、次の技術的事項が記載されている。
a プロポフォールは、静脈注射の麻酔剤である(【0002】)。
b プロポフォールは、エマルジョン型製剤として慣用されている(【0004】、【0007】)。
c プロポフォールは酸化分解を受けて二量体を形成するので、化学安定性のため、液体製剤は酸素を含まない又は酸素が低減された環境で貯蔵するのが好ましい(【003】、【0108】、【0112】、【0113】)。

3 引用文献7
引用文献7には、図面とともに次の記載がある。
「【要約】
【課題】簡単な構成によりシリンジ本体の内周面のすべり性を向上させて、ガスケットの安定した円滑な摺動性を確保する。 【解決手段】本発明のシリンジ1は、液体Lを注入する合成樹脂製のシリンジ本体3と、該シリンジ本体3に注入された液体Lを押し出すプランジャ5と、該プランジャ5の先端部7に取り付けられるガスケット9と、を具備し、前記シリンジ本体3の内周面14にはシリコンが塗布されていて、該シリコンの塗布後にコロナ放電処理が施されることによって構成されている。」
「[0002] 体内に薬液等の液体を注入する場合に、薬液等を封入したシリンジ(プレフィルドシリンジともいう)が使用されている。シリンジは液体を注入するシリンジ本体(シリンジバレルともいう)と、該シリンジ本体内に注入された液体を押し出すプランジャと、該プランジャの先端部に取り付けられるガスケットと、を具備することによって構成されている。
前記シリンジの性能を求める一つの要因としてシリンジ本体とガスケットとの間の接触面のすべり性がある。前記接触面のすべり性が悪いとガスケットの低速時の摺動抵抗値が大きくなったり、ガスケットにびびるような抵抗を生じさせてガスケットの動きを悪くする。従って、前記接触面のすべり性が悪いシリンジを透析装置等の定速注入器で使用した場合には、抵抗値のリミットを越えて異常信号を発信させたり、ガスケットを過度に変形させて液漏れ等を生じさせることになる。
[0003] 前記接触面のすべり性が悪くなる主要因は、シリンジ本体がすべり性が悪い合成樹脂である環状ポリオレフィン樹脂等を原料として多く成形されていることにある。そこで、下記の特許文献1に示すようにシリンジ本体の内壁面にシリコンを噴射し塗布する技術が従来から行われており、前記接触面のすべり性の改善が図られている。」

これらの記載によれば、引用文献7には、次の技術的事項が記載されている。
「環状ポリオレフィン樹脂から成形されたプレフィルドシリンジにおけるシリンジ本体の内周面にシリコンの塗布、コロナ放電処理を施しすべり性を向上させる事項。」


第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア)引用発明の「外筒本体50」は、「薬剤7で満たされ」ることから、容器の一種といえ、しかも、「透明な外筒本体50であり、」「樹脂から作製されている」のであるから、本願発明の「透明プラスチック容器(101)」に相当する。
また、引用発明の「プレフィルドシリンジ4」、「包装されたプレフィルドシリンジ1」は、その文言、機能等からみて、本願発明の「送達シリンジ(100)」、「送達装置」に、それぞれ相当する。
イ)引用発明の「外筒本体50」は、「環状ポリオレフィンの樹脂から作製されている」のであるから、引用発明は、「透明プラスチック容器(101)が、下記のポリマー:環状オレフィンコポリマー、環状オレフィンポリマー、又はCrystal Clear Polymerの少なくとも1つを含むプラスチックから作製されており」なる事項を具備する点で本願発明と一致する。
ウ)引用文献1【0003】に「予め薬液が充填されるいわゆるプレフィルドシリンジ」とあるように、引用発明の「薬剤7」は流体といえるので、引用発明の「薬剤7」は、「医薬有効成分の流体」という点で、本願発明の「酸素感受性の医薬有効成分の流体」と共通する。
また、プロポフォールが静注麻酔剤の一種であることは技術常識であるから、本願発明の「酸素感受性の医薬有効成分の流体(107)が医薬有効成分のエマルションであり、プロポフォールを含むものであり」と引用発明の「薬剤7が静注麻酔剤であり」とは、“医薬有効成分の流体が静注麻酔剤を含む”点で共通する。
エ)引用発明の「収納容器2」は「透明性を有する材質から成」るところ、「封止フィルム3」と共に「プレフィルドシリンジ4を覆う」ことから、引用発明の「収納容器2及び封止フィルム3」は、両者で透明性を有する一のエンベロープを成しているものといえる。
また、引用発明では、「収納容器2」も「封止フィルム3」も、「ガス難透過性を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体の層を含」むところ、「ガス難透過性を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体の層」が、酸素を通し難いことは技術常識であるから、引用発明の「収納容器2及び封止フィルム3」から成る一のエンベロープは、酸素を密封する機能を有するものといえる。
よって、引用発明の「プレフィルドシリンジ4を覆う収納容器2及び封止フィルム3」は、本願発明の「酸素を密封するように前記送達シリンジ(100)を覆う透明酸素密封エンベロープ(119)」に相当し、また、引用発明は、「透明酸素密封エンベロープ(119)が、エチレン-ビニルアルコールコポリマー障壁を含」む点で、本願発明と一致する。

以上によれば、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
透明プラスチック容器を含む送達シリンジであって、該透明プラスチック容器が医薬有効成分の流体で満たされている、送達シリンジと、
酸素を密封するように前記送達シリンジを覆う透明酸素密封エンベロープと、
を備える送達装置であって、
前記透明酸素密封エンベロープが、エチレン-ビニルアルコールコポリマー障壁を含み、
前記医薬有効成分の流体が、静注麻酔剤を含むものであり、
前記透明プラスチック容器が、下記のポリマー:環状オレフィンコポリマー、環状オレフィンポリマー、又はCrystal Clear Polymerの少なくとも1つを含むプラスチックから作製されている、送達装置。

(相違点1)
本願発明では、医薬有効成分の流体が、「酸素感受性の医薬有効成分の流体」であり、かつ「医薬有効成分のエマルションであり、プロポフォールを含むものであ」るのに対し、引用発明では、医薬有効成分の流体が静注麻酔剤ではあるものの、当該流体が、「酸素感受性」であるのか否か不明であり、また「医薬有効成分のエマルションであり、プロポフォールを含むものであ」るのか否かも不明な点。

(相違点2)
本願発明では、「透明プラスチック容器の内表面の少なくとも一部がシリコン処理されている」のに対し、引用発明では、このような処理がなされているのか否か不明な点。


第6 判断
1 相違点1について
引用文献1には、薬剤7の酸素感受性に関し、明示的な記載はないが、「外筒本体50は、透明もしくは半透明材料により、必要に応じて、酸素透過性、水蒸気透過性の少ない材料により形成された筒状体である。」(【0014】)、「具体的には、ポリエチレンテレフタレート/エチレン-ビニルアルコール共重合体/ポリプロピレンの三層からなるもの(ガスバリヤー性仕様)・・・が好適である。」(【0027】)、「ガスバリヤー性フィルムは、容器内部からの水分の透過、または外部からの酸素の透過を抑制する。」(【0028】)の記載からみて、引用発明において、薬剤7として酸素感受性の薬剤が用いられることは、実質的に示唆されているものといえる。
他方、上記「第4」の「2」で示したように、引用文献4には、静注麻酔剤としてプロポフォールが記載されている。
さらに、引用文献4の記載に接した当業者は、プロポフォールがエマルジョン型製剤として慣用されていることについて、また、同製剤を酸素を含まないか又は酸素が低減された環境で貯蔵するのが好ましいことから、プロポフォールが酸素感受性の薬剤であることについて、それぞれ認識できるところである。
そうすると、引用文献1の上記示唆や引用文献4に記載の技術的事項を踏まえれば、引用発明における薬剤につき、その静注麻酔剤の具体的な種類として、慣用の静注麻酔剤である酸素感受性のプロポフォールを選択するとともに、その薬剤をエマルジョン型の製剤として用いることにより、「医薬有効成分のエマルションであり、プロポフォールを含む」「酸素感受性の医薬有効成分の流体」とすることは、当業者が容易になし得たことである。

2 相違点2について
引用文献7には、上記の「環状ポリオレフィン樹脂から成形されたプレフィルドシリンジにおけるシリンジ本体の内周面にシリコンの塗布、コロナ放電処理を施しすべり性を向上させる事項」が記載されているところ、この「シリコンの塗布、コロナ放電処理」は“シリコン処理”といい得るものである。
引用発明のプレフィルドシリンジにあっても、外筒本体50の内周面におけるすべり性向上は、当然に望まれる事項であるから、引用発明に引用文献7に記載の技術的事項を適用し、相違点2における本願発明に係る特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

3 効果について
本願発明の効果も、引用文献1、4、7の記載内容から当業者が予測し得る程度のものであって、格別なものとはいえない。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献4、7に記載の技術事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-04-12 
結審通知日 2019-04-16 
審決日 2019-05-08 
出願番号 特願2015-535010(P2015-535010)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 将彦  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 関谷 一夫
莊司 英史
発明の名称 薬物流体を含む送達装置  
代理人 籾井 孝文  

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