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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1355511
審判番号 不服2018-7760  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-06 
確定日 2019-09-18 
事件の表示 特願2017-116430「生体軟組織固定用デバイスおよびその作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月 2日出願公開、特開2017-197846〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)9月9日(優先権主張 平成26年9月9日、平成27年3月12日)を国際出願日とする出願である特願2016-546858号(以下「原出願」という。)が平成29年3月8日付けで手続補正され同年4月28日付けで特許査定された後に、その一部を同年6月14日に新たな特許出願としたものであって、同年6月29日付けで上申書が提出され、同年9月4日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月19日に面接がなされた後、意見書の提出及び手続補正はされず、平成30年3月1日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対して、同年6月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスであって、
前記Mg合金材料は、
Mgに対してCaおよびZnが固溶限度内で含有され、残部がMgおよび不可避的不純物から成り、Znの含有量が0.5原子%以下であり、Caの含有量が0.5原子%以下であり、
平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織であることを特徴とする生体軟組織固定用デバイス。」


第3 原査定における拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

1 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)
本願は分割の実体的要件を満たしていないから、その出願日は、原出願の出願日にまで遡及せず、実際の出願日である平成29年6月14日であって、国際公開第2016/038892号(以下「引用例1」という。)の国際公開日は平成28年3月17日であるので、本願発明は、引用例1によりその出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(以下「引用発明」といい、具体的には後記する。)であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

2 理由3(サポート要件)
本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


第4 当審の判断
1 本願明細書等の記載事項
本願明細書及び図面には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付与し、「・・・」は記載の省略を表すものであって、以下同様である。

(ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の如く、生体内で分解されるデバイス用素材として種々のマグネシウム系合金材料が開発されているが、外科手術用クリップ、ステープラなど生体軟組織固定用デバイスとして用いるための変形性能が不十分であるという問題がある。
【0012】
かかる状況に鑑みて、本発明は、マグネシウム系合金材料から成るデバイスであって、外科手術に際し、切開などにより切断もしくは分離された生体軟組織(臓器、血管など)を締結するデバイスとして用いるための強度および変形性能を備え、かつ、軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解されて排出される生体軟組織固定用デバイスを提供することを目的とする。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、マグネシウムに添加する生体必須元素である亜鉛、カルシウムの添加率(量)、マグネシウム系合金の作製方法を鋭意検討した結果、特定の配合のMg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスが、生体軟組織固定用デバイスとして有用であることの知見を得た。
【0014】
すなわち、本発明の生体軟組織固定用デバイスは、Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスであって、Mg合金材料は、Mgに対してCaおよびZnが固溶限度内で含有され、残部がMgおよび不可避的不純物から成り、Znの含有量が0.5原子%以下であり、Caの含有量が0.5原子%以下であり、平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織で構成される。
かかる構成によれば、生体軟組織固定用デバイスとしての強度および変形性能を備え、かつ、軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解される。
【0015】
ここで、Znの含有量が0.5原子%より多くなると、生体内分解速度が速くなり、生体内に埋入後の分解に伴う多量のガスが発生して、組織回復の遅延の要因となることがわかっている。そのため、Znの含有量を0.5原子%以下に制御する。また、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:1よりもZnの含有量が小さくなると、必要な延性が得られないという問題がある。一方、Ca:Zn=1:3よりもZnの含有量が大きくなると、急速な分解速度を示すという問題がある。
【0016】
本発明の生体軟組織固定用デバイスは、焼鈍処理を行うことにより、平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織で構成され、強度のみならず変形性能を向上できる。なお、平均結晶粒径は、結晶粒組織の画像からリニアインターセプト法により測定している。
【0017】
また、本発明の生体軟組織固定用デバイスは、Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスであって、Mg合金材料は、Mgに対してCaおよびZnが固溶限度内で含有され、残部がMgおよび不可避的不純物から成り、Znの含有量が0.2原子%以上0.4原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは2?3)の関係にあり、平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織がより好ましい。
生体軟組織が癒合する2?8週の期間、組織を結合保持し、1年程度以内に完全分解するような生体内分解速度とするのが最も好ましく、そのためにはZnの含有量を0.2原子%以上0.4原子%以下とし、Ca:Zn=1:x(但し、xは2?3)の関係であるのが良い。
本発明の生体軟組織固定用デバイスは、焼鈍処理を行うことにより、平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織で構成され、強度のみならず変形性能を向上できる。平均結晶粒径は、例えば、結晶粒組織の画像からリニアインターセプト法により測定するとよい。
【0018】
本発明の生体軟組織固定用デバイスは高い曲げ成形性が要求されるため、変形途中に結晶粒組織を分割する界面であって、結晶方位差15°以上の結晶粒界面、もしくは、結晶方位差3°以上15°未満の亜結晶粒界面が形成される材料で構成されるのが良い。結晶方位差15°以上の結晶粒界面は、大傾角粒界と呼ばれる界面であり、変形途中に結晶粒組織が明瞭に分割される。或は、結晶方位差15°未満であっても、亜結晶粒界面であれば、変形途中に結晶粒組織が分割される。なお、亜結晶粒界の結晶方位差の下限値を3°にした理由は、下限値を組織観察により確認できる結晶方位差の限界値として定義し、走査電子顕微鏡(SEM)と組み合わせて電子線を操作しミクロな結晶方位や結晶系を測定できるEBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)を用いて観察可能な最小値(=3°)に設定したからである。
また、Mg合金材料の結晶粒内には、焼鈍処理後の平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織が確認されるよう熱処理にて制御するのが良い。これにより、応力集中に起因する破壊の防止につながり、常温での曲げ成形性を高くすることが可能となる。さらに、成形後は結晶組織が微細化されたことにより、強度が増加する利点を有する。
【0019】
本発明の生体軟組織固定用デバイスは、生体内分解の残存率が埋入後4週間で50?92%であり、分解に伴うガスの発生量が生体埋入時に形成される空隙の体積の2倍以上とならないという特徴がある。
また、本発明の生体軟組織固定用デバイスは、CaおよびZnの含有量をパラメータとして、生体内分解速度が制御できるという特徴がある。」

(ウ)「【0028】
図1は、Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料のCaとZnの含有量を示すグラフを示している。図1に示す5つの試料(Mg合金材料No.1?No.5)について、生体軟組織固定用デバイスとしての有用性について評価した結果を以下に説明する。5つの試料(Mg合金材料No.1?No.5)は下記表1の通りである。
【0029】
【表1】



(エ)「【実施例4】
【0056】
<ラットを用いた血管吻合試験>
実施例4では、実施例2および実施例3のクリップの作製方法とは異なり、熱間押出加工ステップにおいて、熱間押出温度を高くし熱間押出速度を遅くすることにより、押出直後の数10秒間、インゴットを高温状態に晒して、熱間押出加工ステップの直後に焼鈍処理ステップを行って作製したクリップについて、生体内分解性および安全性について確認したので、以下説明する。
【0057】
実施例4のクリップは、実施例1で示した上述の表1におけるNo.1のMg合金材料におけるZnおよびCaの含有量としている。より詳しくは、Mgを99.69原子%に対して、0.1原子%のCa及び0.21原子%のZnを添加して、溶解および鋳造してインゴットを作製し、そのインゴットを均質化熱処理した。熱処理した後のインゴットを、350℃で1段階目の熱間押出加工を施し、直径90mmのインゴットを直径22mmに加工した。直径22mmを切削加工して直径20mmとし、410℃で2段階目の熱間押出加工を施し、V型断面に加工した。2段階目の熱間押出直後に、400?410℃にて数10秒間晒して焼鈍処理を行った。その後、クリップ表面の酸化物を含む不純物を除去した。
【0058】
作製したクリップについて、走査電子顕微鏡(SEM)と組み合わせて電子線を操作し、ミクロな結晶方位や結晶系を測定できるEBSD法を用いた結晶方位解析を行った結果を、図18に示す。図18に示す結晶方位解析結果から、作製したクリップの結晶組織は、等軸結晶粒組織であることを確認した。また、切片法を用いて作製したクリップの結晶組織の平均結晶粒径を測定したところ、クリップのV字谷部付近は28.8(μm)、V字山部付近で31.5(μm)であった。
作製したクリップは、平均結晶粒径が凡そ30(μm)で等軸結晶粒組織であることが確認された。このクリップのV字を閉じた状態では、図7で説明したように、結晶粒内に数μmごとに数度の方位差を有する界面が現れ(サブグレインが形成され)、変形にともない蓄積されるひずみが消失し、応力集中によるクラックの形成が回避されるので(応力集中の緩和)、優れた変形性能を有する。」

(オ)「【図1】



2 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1)分割の適否について
ア 原出願の記載事項
原出願の出願当初及び分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「原出願の明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、原出願についての平成29年3月8日付け手続補正(本願を分割出願する直前)は、特許請求の範囲についての補正のみであり、他に補正はされていないから、出願当初と分割直前の明細書の記載内容は同一である。そして、特許請求の範囲については、(A)として出願当初、(A’)として分割直前のものをそれぞれ以下に摘示するが、上記手続補正は、請求項4及び5の「何れかに記載」を「何れか一項に記載」とし、請求項6及び7の「Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料」を「請求項1に記載のMg-Ca-Znの3元系のMg合金材料」とし、請求項6、7及び9の「Mgに対してZnの含有量」を「Mg合金材料中でZnの含有量」とするものであって、出願当初と分割直前とで、特許請求の範囲に記載された発明は実質的に同一である。また、明細書の記載についても、(B)以降で摘示する。

(A)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスであって、
前記Mg合金材料は、
Mgに対してCaおよびZnが固溶限度内で含有され、残部がMgおよび不可避的不純物から成り、Znの含有量が0.5原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係にあり、
平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織であることを特徴とする生体軟組織固定用デバイス。
【請求項2】
Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスであって、
前記Mg合金材料は、
Mgに対してCaおよびZnが固溶限度内で含有され、残部がMgおよび不可避的不純物から成り、Znの含有量が0.2原子%以上0.4原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは2?3)の関係にあり、
平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織であることを特徴とする生体軟組織固定用デバイス。
【請求項3】
変形途中に前記結晶粒組織を分割する界面であって、結晶方位差15°以上の結晶粒界面、もしくは、結晶方位差3°以上15°未満の亜結晶粒界面が形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体軟組織固定用デバイス。
【請求項4】
生体内分解の残存率が埋入後4週間で50?92%であり、分解に伴うガスの発生量が生体埋入時に形成される空隙の体積の2倍以上とならないことを特徴とする請求項1?3の何れかに記載の生体軟組織固定用デバイス。
【請求項5】
前記CaおよびZnの含有量をパラメータとして、生体内分解速度が制御されたことを特徴とする請求項1?4の何れかに記載の生体軟組織固定用デバイス。
【請求項6】
Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスの作製方法であって、
Mgに対してZnの含有量が0.5原子%以下、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係が成立するように、MgにCaおよびZnを固溶限度内で添加してMg合金材料を調製するステップと、
Mg合金材料を溶解および鋳造してインゴットを作製するインゴット作製ステップと、
インゴットを均質化熱処理する均質化熱処理ステップと、
250?450℃の温度範囲で熱間押出加工を少なくとも1回施す熱間押出加工ステップと、
350?450℃の温度範囲の焼鈍処理を行う焼鈍処理ステップと、
所望のデバイス形状に成型する成型加工ステップと、
デバイス表面の酸化物を含む不純物を除去する表面除去ステップ、
を備えたことを特徴とする生体軟組織固定用デバイスの作製方法。
【請求項7】
Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスの作製方法であって、
Mgに対してZnの含有量が0.5原子%以下、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係が成立するように、MgにCaおよびZnを固溶限度内で添加してMg合金材料を調製するステップと、
Mg合金材料を溶解および鋳造してインゴットを作製するインゴット作製ステップと、
インゴットを均質化熱処理する均質化熱処理ステップと、
250?400℃の温度範囲で熱間押出加工を施す第1の熱間押出加工ステップと、
第1の熱間押出加工ステップにおける温度より高温で、かつ、350?450℃の温度範囲で熱間押出加工を施す第2の熱間押出加工ステップと、
所望のデバイス形状に成型する成型加工ステップと、
デバイス表面の酸化物を含む不純物を除去する表面除去ステップ、
を備えたことを特徴とする生体軟組織固定用デバイスの作製方法。
【請求項8】
前記CaおよびZnの含有量をパラメータとして、生体内分解速度を制御することを特徴とする請求項6又は7に記載の生体軟組織固定用デバイスの作製方法。
【請求項9】
前記Mg合金材料において、Mgに対してZnの含有量が0.2原子%以上0.4原子%以下、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは2?3)の関係が成立する場合、
前記焼鈍処理ステップは、400℃近傍の温度で1?8時間、焼鈍処理を施すことを特徴とする請求項6に記載の生体軟組織固定用デバイスの作製方法。」

(A’)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスであって、
前記Mg合金材料は、
Mgに対してCaおよびZnが固溶限度内で含有され、残部がMgおよび不可避的不純物から成り、Znの含有量が0.5原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係にあり、
平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織であることを特徴とする生体軟組織固定用デバイス。
【請求項2】
Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスであって、
前記Mg合金材料は、
Mgに対してCaおよびZnが固溶限度内で含有され、残部がMgおよび不可避的不純物から成り、Znの含有量が0.2原子%以上0.4原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは2?3)の関係にあり、
平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織であることを特徴とする生体軟組織固定用デバイス。
【請求項3】
変形途中に前記結晶粒組織を分割する界面であって、結晶方位差15°以上の結晶粒界面、もしくは、結晶方位差3°以上15°未満の亜結晶粒界面が形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体軟組織固定用デバイス。
【請求項4】
生体内分解の残存率が埋入後4週間で50?92%であり、分解に伴うガスの発生量が生体埋入時に形成される空隙の体積の2倍以上とならないことを特徴とする請求項1?3の何れか一項に記載の生体軟組織固定用デバイス。
【請求項5】
前記CaおよびZnの含有量をパラメータとして、生体内分解速度が制御されたことを特徴とする請求項1?4の何れか一項に記載の生体軟組織固定用デバイス。
【請求項6】
請求項1に記載のMg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスの作製方法であって、
Mg合金材料中でZnの含有量が0.5原子%以下、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係が成立するように、MgにCaおよびZnを固溶限度内で添加してMg合金材料を調製するステップと、
Mg合金材料を溶解および鋳造してインゴットを作製するインゴット作製ステップと、
インゴットを均質化熱処理する均質化熱処理ステップと、
250?450℃の温度範囲で熱間押出加工を少なくとも1回施す熱間押出加工ステップと、
350?450℃の温度範囲の焼鈍処理を行う焼鈍処理ステップと、
所望のデバイス形状に成型する成型加工ステップと、
デバイス表面の酸化物を含む不純物を除去する表面除去ステップ、
を備えたことを特徴とする生体軟組織固定用デバイスの作製方法。
【請求項7】
請求項1に記載のMg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスの作製方法であって、
Mg合金材料中でZnの含有量が0.5原子%以下、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係が成立するように、MgにCaおよびZnを固溶限度内で添加してMg合金材料を調製するステップと、
Mg合金材料を溶解および鋳造してインゴットを作製するインゴット作製ステップと、
インゴットを均質化熱処理する均質化熱処理ステップと、
250?400℃の温度範囲で熱間押出加工を施す第1の熱間押出加工ステップと、
第1の熱間押出加工ステップにおける温度より高温で、かつ、350?450℃の温度範囲で熱間押出加工を施す第2の熱間押出加工ステップと、
所望のデバイス形状に成型する成型加工ステップと、
デバイス表面の酸化物を含む不純物を除去する表面除去ステップ、
を備えたことを特徴とする生体軟組織固定用デバイスの作製方法。
【請求項8】
前記CaおよびZnの含有量をパラメータとして、生体内分解速度を制御することを特徴とする請求項6又は7に記載の生体軟組織固定用デバイスの作製方法。
【請求項9】
前記Mg合金材料において、Mg合金材料中でZnの含有量が0.2原子%以上0.4原子%以下、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは2?3)の関係が成立する場合、
前記焼鈍処理ステップは、400℃近傍の温度で1?8時間、焼鈍処理を施すことを特徴とする請求項6に記載の生体軟組織固定用デバイスの作製方法。」

(B)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の如く、生体内で分解されるデバイス用素材として種々のマグネシウム系合金材料が開発されているが、外科手術用クリップ、ステープラなど生体軟組織固定用デバイスとして用いるための変形性能が不十分であるという問題がある。
【0012】
かかる状況に鑑みて、本発明は、マグネシウム系合金材料から成るデバイスであって、外科手術に際し、切開などにより切断もしくは分離された生体軟組織(臓器、血管など)を締結するデバイスとして用いるための強度および変形性能を備え、かつ、軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解されて排出される生体軟組織固定用デバイスを提供することを目的とする。」

(C)「【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、マグネシウムに添加する生体必須元素である亜鉛、カルシウムの添加率(量)、マグネシウム系合金の作製方法を鋭意検討した結果、特定の配合のMg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスが、生体軟組織固定用デバイスとして有用であることの知見を得た。
【0014】
すなわち、本発明の生体軟組織固定用デバイスは、Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスであって、Mg合金材料は、Mgに対してCaおよびZnが固溶限度内で含有され、残部がMgおよび不可避的不純物から成り、Znの含有量が0.5原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係にあり、平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織で構成される。
かかる構成によれば、生体軟組織固定用デバイスとしての強度および変形性能を備え、かつ、軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解される。
【0015】
ここで、Znの含有量が0.5原子%より多くなると、生体内分解速度が速くなり、生体内に埋入後の分解に伴う多量のガスが発生して、組織回復の遅延の要因となることがわかっている。そのため、Znの含有量を0.5原子%以下に制御する。また、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:1よりもZnの含有量が小さくなると、必要な延性が得られないという問題がある。一方、Ca:Zn=1:3よりもZnの含有量が大きくなると、急速な分解速度を示すという問題がある。
【0016】
本発明の生体軟組織固定用デバイスは、焼鈍処理を行うことにより、平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織で構成され、強度のみならず変形性能を向上できる。なお、平均結晶粒径は、結晶粒組織の画像からリニアインターセプト法により測定している。
【0017】
また、本発明の生体軟組織固定用デバイスは、Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスであって、Mg合金材料は、Mgに対してCaおよびZnが固溶限度内で含有され、残部がMgおよび不可避的不純物から成り、Znの含有量が0.2原子%以上0.4原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは2?3)の関係にあり、平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織がより好ましい。
生体軟組織が癒合する2?8週の期間、組織を結合保持し、1年程度以内に完全分解するような生体内分解速度とするのが最も好ましく、そのためにはZnの含有量を0.2原子%以上0.4原子%以下とし、Ca:Zn=1:x(但し、xは2?3)の関係であるのが良い。
本発明の生体軟組織固定用デバイスは、焼鈍処理を行うことにより、平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織で構成され、強度のみならず変形性能を向上できる。平均結晶粒径は、例えば、結晶粒組織の画像からリニアインターセプト法により測定するとよい。
【0018】
本発明の生体軟組織固定用デバイスは高い曲げ成形性が要求されるため、変形途中に結晶粒組織を分割する界面であって、結晶方位差15°以上の結晶粒界面、もしくは、結晶方位差3°以上15°未満の亜結晶粒界面が形成される材料で構成されるのが良い。結晶方位差15°以上の結晶粒界面は、大傾角粒界と呼ばれる界面であり、変形途中に結晶粒組織が明瞭に分割される。或は、結晶方位差15°未満であっても、亜結晶粒界面であれば、変形途中に結晶粒組織が分割される。なお、亜結晶粒界の結晶方位差の下限値を3°にした理由は、下限値を組織観察により確認できる結晶方位差の限界値として定義し、走査電子顕微鏡(SEM)と組み合わせて電子線を操作しミクロな結晶方位や結晶系を測定できるEBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)を用いて観察可能な最小値(=3°)に設定したからである。
また、Mg合金材料の結晶粒内には、焼鈍処理後の平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織が確認されるよう熱処理にて制御するのが良い。これにより、応力集中に起因する破壊の防止につながり、常温での曲げ成形性を高くすることが可能となる。さらに、成形後は結晶組織が微細化されたことにより、強度が増加する利点を有する。
【0019】
本発明の生体軟組織固定用デバイスは、生体内分解の残存率が埋入後4週間で50?92%であり、分解に伴うガスの発生量が生体埋入時に形成される空隙の体積の2倍以上とならないという特徴がある。」

(D)「【0028】
図1は、Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料のCaとZnの含有量を示すグラフを示している。図1に示す5つの試料(Mg合金材料No.1?No.5)について、生体軟組織固定用デバイスとしての有用性について評価した結果を以下に説明する。5つの試料(Mg合金材料No.1?No.5)は下記表1の通りである。
【0029】
【表1】



(E)「【実施例4】
【0056】
<ラットを用いた血管吻合試験>
実施例4では、実施例2および実施例3のクリップの作製方法とは異なり、熱間押出加工ステップにおいて、熱間押出温度を高くし熱間押出速度を遅くすることにより、押出直後の数10秒間、インゴットを高温状態に晒して、熱間押出加工ステップの直後に焼鈍処理ステップを行って作製したクリップについて、生体内分解性および安全性について確認したので、以下説明する。
【0057】
実施例4のクリップは、実施例1で示した上述の表1におけるNo.1のMg合金材料におけるZnおよびCaの含有量としている。より詳しくは、Mgを99.69原子%に対して、0.1原子%のCa及び0.21原子%のZnを添加して、溶解および鋳造してインゴットを作製し、そのインゴットを均質化熱処理した。熱処理した後のインゴットを、350℃で1段階目の熱間押出加工を施し、直径90mmのインゴットを直径22mmに加工した。直径22mmを切削加工して直径20mmとし、410℃で2段階目の熱間押出加工を施し、V型断面に加工した。2段階目の熱間押出直後に、400?410℃にて数10秒間晒して焼鈍処理を行った。その後、クリップ表面の酸化物を含む不純物を除去した。
【0058】
作製したクリップについて、走査電子顕微鏡(SEM)と組み合わせて電子線を操作し、ミクロな結晶方位や結晶系を測定できるEBSD法を用いた結晶方位解析を行った結果を、図18に示す。図18に示す結晶方位解析結果から、作製したクリップの結晶組織は、等軸結晶粒組織であることを確認した。また、切片法を用いて作製したクリップの結晶組織の平均結晶粒径を測定したところ、クリップのV字谷部付近は28.8(μm)、V字山部付近で31.5(μm)であった。
作製したクリップは、平均結晶粒径が凡そ30(μm)で等軸結晶粒組織であることが確認された。このクリップのV字を閉じた状態では、図7で説明したように、結晶粒内に数μmごとに数度の方位差を有する界面が現れ(サブグレインが形成され)、変形にともない蓄積されるひずみが消失し、応力集中によるクラックの形成が回避されるので(応力集中の緩和)、優れた変形性能を有する。」


(F)「【図1】



イ 分割の適否についての判断
A 分割出願が適法であるための実体的要件としては、(i)もとの出願の明細書又は図面に二以上の発明が包含されていたこと、(ii)新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書又は図面に記載された発明の一部であること、(iii)新たな出願に係る発明は、もとの出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であることを要する(知財高判平成28年(行ケ)第10263号、同平成28年(行ケ)第10278号参照)。

B つまり、本願は、原出願との関係で、上記(i)?(iii)の分割の要件を満たさなければならないところ、事案に鑑み要件(iii)について検討することとし、本願発明が、原出願の明細書等において「Znの含有量が0.5原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係にあり」とされていたのを、「Znの含有量が0.5原子%以下であり、Caの含有量が0.5原子%以下であり」に変更するものであって、変更した後の「Znの含有量が0.5原子%以下であり、Caの含有量が0.5原子%以下であり」との事項が、原出願の明細書等に記載された事項の範囲内でないことについて以下に示す。

C 原出願の明細書等に記載された発明が解決しようとする課題は、上記ア(B)から、「かかる状況に鑑みて、本発明は、マグネシウム系合金材料から成るデバイスであって、外科手術に際し、切開などにより切断もしくは分離された生体軟組織(臓器、血管など)を締結するデバイスとして用いるための強度および変形性能を備え、かつ、軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解されて排出される生体軟組織固定用デバイスを提供すること」(【0012】)といえる。

D そして、その解決手段として、上記ア(C)から、「すなわち、本発明の生体軟組織固定用デバイスは、Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスであって、Mg合金材料は、Mgに対してCaおよびZnが固溶限度内で含有され、残部がMgおよび不可避的不純物から成り、Znの含有量が0.5原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係にあり、平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織で構成される。かかる構成によれば、生体軟組織固定用デバイスとしての強度および変形性能を備え、かつ、軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解される。」(【0014】)、「ここで、Znの含有量が0.5原子%より多くなると、生体内分解速度が速くなり、生体内に埋入後の分解に伴う多量のガスが発生して、組織回復の遅延の要因となることがわかっている。そのため、Znの含有量を0.5原子%以下に制御する。また、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:1よりもZnの含有量が小さくなると、必要な延性が得られないという問題がある。一方、Ca:Zn=1:3よりもZnの含有量が大きくなると、急速な分解速度を示すという問題がある。」(【0015】) とするものである。

E これに対して、本願の明細書に記載された発明が解決しようとする課題は、後記ウBに述べるものであって、原出願の明細書等に記載された発明が解決しようとする課題と同一である。

F そして、その解決手段として、上記1(イ)から「すなわち、本発明の生体軟組織固定用デバイスは、Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスであって、Mg合金材料は、Mgに対してCaおよびZnが固溶限度内で含有され、残部がMgおよび不可避的不純物から成り、Znの含有量が0.5原子%以下であり、Caの含有量が0.5原子%以下であり、平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織で構成される。かかる構成によれば、生体軟組織固定用デバイスとしての強度および変形性能を備え、かつ、軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解される。」(【0014】)とするものである。

G すると、本願発明と、原出願の明細書等に記載された発明とは、解決しようとする課題が同一なのに、その解決手段として、それら発明のMg合金材料の成分組成として、後者は「Znの含有量が0.5原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係」(以下「原出願組成」ということがある。)まで必要なのに、前者は「Znの含有量が0.5原子%以下であり、Caの含有量が0.5原子%以下」(以下「本出願組成」ということがある。)で十分である、といえることになる。

H しかしながら、 原出願組成と重複しない範囲で本出願組成であれば本願発明の課題が解決できることを記載ないし示唆する記載は、本願明細書中に見いだせない。

I そこで、本願明細書等に記載の実施例についてみてみると、Zn及びCaの含有量の比率について、上記1(ウ)において、「Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料のCaとZnの含有量を示すグラフ」として示される同(オ)の【図1】をみると、Zn及びCaの含有量の具体的合金組成について、同(エ)も併せてみれば、実施例A?Dとして、Caの含有量とZnの含有量とが、原子%で、0.10%と0.21%(実施例A)、0.10%と0.31%(実施例B)、0.16%と0.36%(実施例C)、0.31%と0.30%(実施例D)であることが理解される。

J ここで、一般に、合金は、合金を構成する元素が同じであっても配合量が異なることにより金属組織が異なり、性質が異なること、合金は、その性質及び特性の基礎となる金属組織の形成の予測性が低く、効果の予測性が低い技術分野に該当することが認められることからすると、合金は、所定の含有量を有する合金元素の組み合わせが一体のものとして技術的意義を有するのであって、所与の特性が得られる組み合わせについては、実施例に示された実際に作製された具体的な合金組成を考慮してはじめて理解できるという技術常識があるといえる(要すれば、知財高判平成23年(行ケ)第10100号、同平成24年(行ケ)第10151号、同平成29年(行ケ)第10121号等を参照。)。

K そして、上記Jの合金についての技術常識に基づくと、上記Iにおいて検討した本願明細書等の記載において、上記実施例A?DのCaとZnの含有量は、「Znの含有量が0.5原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係にあり」に包含されるものであって、「Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係」にないCaとZnの含有量について実際に作製された具体的な合金組成は示されていない以上、出願時の技術常識に照らして、当該関係にないCa及びZnの含有量を有するMg合金材料の成分組成が、本願発明の課題が解決できるものであるということはできない。

L 以上のことをより理解しやすくするために、原出願の請求項に記載された発明についてみてみると、原出願の明細書等に記載された事項は、原出願の請求項1に記載された発明に集約されるものであって、原出願の明細書等におけるZn及びCaの含有量についての「Znの含有量が0.5原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係」は、上記ア(F)の図1において、Znの原子%の変数を[Zn]、Caの原子%の変数を[Ca]と表すとすると、[Ca]=1/3×[Zn]、[Ca]=[Zn]及び[Zn]=0.5の3つの直線において囲まれる領域(以下「領域α」という。)にある含有量であることを示しているものである。

M 他方、本願発明は、Zn及びCaの含有量について「Znの含有量が0.5原子%以下であり、Caの含有量が0.5原子%以下」と特定されており、これは、同図1において、[Zn]=0、[Zn]=0.5、[Ca]=0、[Ca]=0.5の4つの直線において囲まれた領域(以下「領域A」という。)にある含有量であることを示しているものである。

N してみると、本願発明は、Zn及びCaの含有量について、原出願の請求項1に記載された発明における領域αに加えて、Ca:Zn=1:3よりもZnの含有量が大きい場合、つまり、同図1において[Zn]=0.5、[Ca]=0、[Ca]=1/3×[Zn]の3つの直線で囲まれる領域(以下「領域β」という。)、並びに Ca:Zn=1:1よりもZnの含有量が小さい場合、つまり、[Zn]=0、[Ca]=0.5、[Ca]=[Zn]の3つの直線で囲まれる領域(以下「領域γ」という。)の両方の領域であるβ及びγも含むものとなっている。

O したがって、本願発明は、原出願の明細書等に記載された領域αに、領域β及びγを加えて領域Aの含有量範囲としたものであるから、Zn及びCaの含有量について、領域β及びγの範囲という新たな技術的事項を導入するものであって、原出願の明細書等に記載に記載された事項の範囲内でない。

ウ 審判請求人の主張について
A 審判請求人は、以下のとおり主張している(審判請求書第12?15頁)。

「(ウ)知財高裁の大合議判決(平成18年(行ケ)10563号)を受けて改訂された審査基準の「4.特許請求の範囲の補正 4.2各論」では、「(c)請求項の発明特定事項の一部を削除して概念的に上位の事項に補正する場合や、請求項の発明特定事項の一部を限定する補正であって限定した事項が当初明細書に記載された事項の概念的に上位の事項に該当する場合において、補正事項が、当初明細書等に明示的に記載された事項、当初明細書等の記載から自明な事項のいずれにも該当しない場合であっても、この補正により新たな技術上の意義が追加されないことが明らかな場合は新たな技術的事項を導入するものではないので、補正は許される。」と記載されています。また、審査基準の「附属書A 新規事項を追加する補正に関する事例集」の〔事例8〕では、請求項1に記載された「位置座標及びユーザー情報」を「位置情報」とする補正は、「ユーザー情報」は任意付加的な事項であって、新たな技術的事項を導入するものではないことから、補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内であるとされています。
上記判例及び審査基準に照らし、本願発明について、以下のとおり検討します。
(エ)先ず、審査官殿は『・・・CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係」の場合に、「平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織であること」とすることにより、課題(a)を解決していることが記載されている。』と認定されています。
しかしながら、上申書に記載のとおり、明細書の段落[0016]には、「本発明の生体軟組織固定用デバイスは、焼鈍処理を行うことにより、平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織で構成され、強度のみならず変形性能を向上できる」と記載されています。そして、変形性能と、20?250μmの等軸結晶粒組織とに相関関係がある点についても、段落[0037]で説明しています。
以上のとおり、「Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係」の場合に「平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織」を構成できるとは、原出願の当初明細書及び原出願の分割直前の明細書には、記載及び示唆する記載もありません。
(オ)次に、審査官殿は『そして、合金の特性はその組成に大きく影響を受けるものであり、その組成から特性を予測することは困難であることが一般的である。すると、実施例、比較例、参考例等により示されていない「Caの含有量が0.5原子%以下」の全範囲で上記課題が解決していることは自明な事項であるとは認められず、新たな技術的事項を導入するものである。』と認定されています。
しかしながら、焼鈍処理を行うことにより平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織が構成され、強度のみならず変形性能を向上できることは、成分は同じであるMg-Ca-Znの3元系の合金の加熱条件を変えることで、強度及び変形性能が変わることから明らかであります(段落[0034]及び図4、段落[0036]及び図6、段落[0038]及び図21、段落[0039]及び図22、段落[0040]及び図23参照)。
また、上記図4は表1に記載の実施例Aの組成、上記図6は表1に記載の実施例Bの組成、上記図22は表1に記載の実施例Cの組成、上記図23は表1に記載の実施例Dの組成で、Mg-Ca-Znの組成比が異なる場合、「真ひずみ」は焼鈍時間により調整できることが示されています。
したがって、所期の特性が得られるように、Mg-Ca-Znの組成比に応じて焼鈍時間を調整することは、原出願の当初明細書及び原出願の分割直前の明細書から自明であり、本願発明は、新たな技術的事項を導入するものではないと思料いたします。
(カ)次に、審査官殿は『しかし、課題(b)は、「軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解されて排出されること」であるため、所定の期間中に生体内でデバイスが形状を維持し機能を発揮する必要があるものと認められるが、出願人の主張する段落0015には「CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:1よりもZnの含有量が小さくなると、必要な延性が得られないという問題がある。一方、Ca:Zn=1:3よりもZnの含有量が大きくなると、急速な分解速度を示すという問題がある。」と記載されていることから、Ca:Zn=1:3よりもZnの含有量が大きい場合には、上記課題(b)が解決できていないものと認められるため、実施例、比較例、参考例等により示されていない「Ca:Zn=1:3よりもZnの含有量が大きい」ことは、新たな技術的事項を導入するものである。』と認定されています。
しかしながら、先ず、原出願の当初明細書及び原出願の分割直前の明細書の段落[0005]の「また、従来公知のマグネシウム系合金材料として、希土類元素を用いず安価で、生体毒性の問題もない元素からなるMg-Ca-Znの3元系のMg合金材料が知られているが(特許文献2を参照)、元素添加量が多いため、生体内での分解速度が速いことが懸念される。」との記載、および、段落[0017]の「・・・生体軟組織が癒合する2?8週の期間、組織を結合保持し、1年程度以内に完全分解するような生体内分解速度とするのが最も好ましく、そのためにはZnの含有量を0.2原子%以上0.4原子%以下とし、Ca:Zn=1:x(但し、xは2?3)の関係であるのが良い。本発明の生体軟組織固定用デバイスは、焼鈍処理を行うことにより、平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織で構成され、強度のみならず変形性能を向上できる。・・・」との記載から、
・Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料は、生体内で分解されること、
・CaおよびZnの添加量、並びに、Ca:Znの比は、生体内の分解速度に影響を与えるが、平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織を構成するために必要の事項ではないこと、
は明らかであると思料いたします。
(キ)そして、原出願の当初明細書及び原出願の分割直前の明細書の段落[0012]には「かかる状況に鑑みて、本発明は、マグネシウム系合金材料から成るデバイスであって、外科手術に際し、切開などにより切断もしくは分離された生体軟組織(臓器、血管など)を締結するデバイスとして用いるための強度および変形性能を備え、かつ、軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解されて排出される生体軟組織固定用デバイスを提供することを目的とする。」と記載されています。
しかしながら、本願発明で解決しようとする課題の中で、「軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解されて排出される」の部分については、治癒後に生体内で完全分解されて排出されれば課題は解決することができ、本願発明は、完全分解されて排出される期間を具体的に規定するために、CaおよびZnの添加量、並びに、Ca:Znの比を設定することを課題としているわけではありません。そして、上記(カ)に記載のとおり、「Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料」は元々生体内で分解されることから、Ca:Znの比を特に設定しなくても、段落[0011]および[0012]に記載の課題は達成することができます。つまり、原出願の当初明細書及び原出願の分割直前の明細書に記載されている「Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係」は、課題を解決するために必須の構成ではなく、任意付加事項であります。
したがって、拒絶理由通知書において、審査官殿は[発明が解決しようとする課題]の段落[0011]および[0012]に記載の課題ではなく、任意付加事項である段落[0015]の記載を引用し、本願発明は課題(b)を解決できないと認定されていますが、当該認定は明らかに失当であると思料いたします。
(ク)以上のとおり、「Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係」を削除し「Caの含有量が0.5原子%以下であり」とする補正は、
・「焼鈍処理を行うことにより、平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織で構成され、強度のみならず変形性能を向上できる」、
・「軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解されて排出される」、
という技術的事項を変更するものではなく、且つ、新たな技術的事項を導入するものではありません。
したがって、上記(ウ)に記載の判例・基準に基づき本願発明を検討すると、任意付加事項である「Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係」を削除する補正は新たな技術的事項を導入するものではないことから、補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内であると思料いたします。 」

B しかしながら、本願の発明の詳細な説明の記載は、上記1のとおりであって、上記1(ア)の特に【0012】の記載から、本願発明が解決しようとする課題(以下「本願課題」という。)は、「マグネシウム系合金材料から成るデバイスであって、外科手術に際し、切開などにより切断もしくは分離された生体軟組織(臓器、血管など)を締結するデバイスとして用いるための強度および変形性能を備え、かつ、軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解されて排出される生体軟組織固定用デバイスを提供すること」であると認められるところ、本願課題のうち、「軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解されて排出される生体軟組織固定用デバイスを提供すること」という課題については、単に生体内で完全分解されて排出されるだけでなく、生体内で完全に排出されるのが「軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後」であることも含んでいるものであって、つまり、軟組織の癒合前もしくは切開部組織の治癒前に、生体軟組織固定用デバイスが完全分解されて排出されることがないようにすることも、発明が解決しようとする課題ということができる。

C そして、上記1(イ)の【0015】には、「CaおよびZnの含有量が原子比で、・・・Ca:Zn=1:3よりもZnの含有量が大きくなると、急速な分解速度を示すという問題がある。」と記載されており、さらに、同【0017】における「生体軟組織が癒合する2?8週の期間、組織を結合保持し、1年程度以内に完全分解するような生体内分解速度とするのが最も好ましく、そのためにはZnの含有量を0.2原子%以上0.4原子%以下とし、Ca:Zn=1:x(但し、xは2?3)の関係であるのが良い。」との記載も踏まえれば、軟組織の癒合前もしくは切開部組織の治癒前に、生体軟組織固定用デバイスが完全分解されて排出されることがないようにするためには、分解速度の調節が必要であると認められる。

D ここで、上記した「Ca:Zn=1:3よりもZnの含有量が大きくなると、急速な分解速度を示す」における「急速な分解速度」では、軟組織の癒合前もしくは切開部組織の治癒前に分解してしまう蓋然性が高いものであって、課題を解決するための手段として、少なくとも、「Ca:Zn=1:3よりもZnの含有量が大きく」ならないようにすることが必要であるから、「Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係」が、発明による課題の解決には関係がないとも、任意の付加的な事項であるともいえない。

E また、審判請求人は、平成29年6月29日付け上申書において、「分割後の特許請求の範囲の変更内容の説明」として、以下のとおり主張している。

「(1)請求項1について
(ア)分割出願の請求項1は、分割直前の請求項1に対応しています。
(イ)分割直前の「CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係にあり」を「Caの含有量が0.5原子%以下であり」とする変更は、原出願の当初明細書及び原出願の分割直前の請求項1の「Znの含有量が0.5原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係にあり」との記載に基づきます。「Znの含有量が0.5原子%以下」であること、および、「Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)」の記載から、「Caの含有量が0.5原子%以下」であることは明らかであると思料いたします。」

F しかしながら、審判請求人は、本願発明において「Caの含有量が0.5原子%以下」であることが、原出願の明細書等における「Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)」に基づくものとしていることから、「Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)」が「Caの含有量が0.5原子%以下」であることの根拠である以上、「Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)」の関係が、任意付加事項であるとすることはできない。

G よって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。

エ 分割の適否についてのまとめ
(ア)以上のとおりであるから、「Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイス」において、「Znの含有量が0.5原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係にあり」を「Znの含有量が0.5原子%以下であり、Caの含有量が0.5原子%以下であり」と変更することは、原出願の明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであって、本願発明は、原出願の明細書等に記載された事項の範囲内であるとはいえず、上記要件(iii)を満たさないから、本願は適法に分割出願されたものではない。

(イ)したがって、本願について出願日の遡及は認められないから、本願の出願日は、実際に出願がなされた平成29年6月14日であると認められる。

(2)引用例の開示事項及び引用発明
ア 引用例の開示事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記引用例1は、原出願の国際公開であって、上記(1)アのとおりの開示がある。

イ 引用発明
上記(1)ア(A)の請求項1に着目すると、引用例1には、以下の引用発明が開示されている。

<引用発明>
「Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスであって、
前記Mg合金材料は、
Mgに対してCaおよびZnが固溶限度内で含有され、残部がMgおよび不可避的不純物から成り、Znの含有量が0.5原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係にあり、
平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織である生体軟組織固定用デバイス。」

ウ 対比・判断
(ア)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料から成るデバイスであって、
前記Mg合金材料は、
Mgに対してCaおよびZnが固溶限度内で含有され、残部がMgおよび不可避的不純物から成り、Znの含有量が0.5原子%以下であり、
平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織である生体軟組織固定用デバイス。」

<相違点>
Caの含有量について、本願発明は、「0.5原子%以下」であるのに対し、引用発明は、「CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係」にある点

(イ)相違点についての判断
A 引用発明における「Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)」は、「Ca:Zn=1/x:1(但し、xは1?3)」であり、「Znの含有量が0.5原子%以下」であるところ、Caの含有量は0.5/x(但し、xは1?3)原子%以下であって、Caの含有量は0.5原子%以下となることは明らかであるから、相違点は実質的なものではない。

B よって、本願発明は、引用発明である。

C 仮に相違点が実質的なものであったとしても、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)理由1(新規性)及び理由2(進歩性)についてのまとめ
したがって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


3 理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)発明の詳細な説明に記載された発明について
ア 本願課題については、上記2(1)ウBのとおりであるところ、上記1(イ)の記載から、本願課題を解決するための手段について、「平均結晶粒径が20?250μmの等軸結晶粒組織」とすることにより、「応力集中に起因する破壊の防止につながり、常温での曲げ成形性を高くすることが可能となる。さらに、成形後は結晶組織が微細化されたことにより、強度が増加する利点を有」し、「強度のみならず変形性能を向上できる」ものであり、これにより「外科手術に際し、切開などにより切断もしくは分離された生体軟組織(臓器、血管など)を締結するデバイスとして用いるための強度および変形性能を備え」た「生体軟組織固定用デバイスを提供すること」という課題については解決できるものと理解できる。

ウ しかしながら、上記2(1)ウC及びDのとおり、「軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解されて排出される生体軟組織固定用デバイスを提供すること」という課題については、軟組織の癒合前もしくは切開部組織の治癒前に、生体軟組織固定用デバイスが完全分解されて排出されることがないようにするために、少なくとも、Zn及びCaの含有量について、「Ca:Zn=1:3よりもZnの含有量が大きく」ならないようにすること、つまり、図1における領域βを含まない含有量範囲とすることが必要であって、これも本願課題を解決できると認識できる範囲に含まれるものと理解できる。

エ この点について、上記1(ウ)の表1の実施例A?Dを見ても、「Znの含有量が0.5原子%以下であり、CaおよびZnの含有量が原子比で、Ca:Zn=1:x(但し、xは1?3)の関係」を満たすものしか示されていないことから、上記理解を覆すことができるものではない。

オ そして、出願時の技術常識に照らして、本願発明において「Ca:Zn=1:3よりもZnの含有量が大きく」ならないようにしなくても、本願課題を解決できると認識できる範囲であるということもできない。

(3)発明の詳細な説明に記載された発明と本願発明との対比
上記第2のとおり、本願発明は、「Ca:Zn=1:3よりもZnの含有量が大きく」ならないようにすることについて特定されていないから、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。

(4)審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、以下のとおり主張している(審判請求書第18?19頁)。

「審査官殿は[発明が解決しようとする課題]の段落[0011]および[0012]に記載の課題ではなく、任意付加事項である段落[0015]の記載を引用し、本願発明は『「軟組織の癒合後もしくは切開部組織の治癒後に生体内で完全分解されて排出される」ことが解決できていないものと認められる。』と認定されています。
したがって、審査官殿の認定は、平成17年(行ケ)10042号で判示されている「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」との判断手法と明らかに異なっており、失当であると思料いたします。
そして、上記「(2-2)(カ)および(キ)」に記載のとおり、「Mg-Ca-Znの3元系のMg合金材料」は元々生体内で分解されることから、Ca:Znの比を特に設定しなくても、段落[0011]および[0012]に記載の「本願発明の課題」を解決することは十分認識できると思料致します。」

イ しかしながら、上記(2)ウのとおり、本願課題は、軟組織の癒合前もしくは切開部組織の治癒前に、生体軟組織固定用デバイスが完全分解されて排出されることがないようにすることも含むものと理解でき、その課題を解決するために、少なくとも「Ca:Zn=1:3よりもZnの含有量が大きく」ならないようにすることが必要であるといえるから、審判請求人の上記主張を採用することはできない。

(5)理由3(サポート要件)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
さらに、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-08 
結審通知日 2019-07-16 
審決日 2019-08-01 
出願番号 特願2017-116430(P2017-116430)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C22C)
P 1 8・ 113- Z (C22C)
P 1 8・ 537- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 松本 要
亀ヶ谷 明久
発明の名称 生体軟組織固定用デバイスおよびその作製方法  
代理人 松本 征二  

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