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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E02F
管理番号 1355535
審判番号 不服2018-1746  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-07 
確定日 2019-10-02 
事件の表示 特願2013-199265「ショベル、及びショベル用管理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月 9日出願公開、特開2015- 63864〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年9月26日の出願であって、平成29年3月24日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同年5月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月27日付けで拒絶査定がなされ(送達日:同年11月7日)、これに対し、平成30年2月7日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成29年5月25日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであって、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「 【請求項1】
運転者が操作して作業を行うショベルであって、
下部走行体と、
前記下部走行体に搭載された上部旋回体と、
前記上部旋回体に配置された内燃機関と、
前記内燃機関の動力により作動油を吐出する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプが吐出する作動油により運転者のレバー操作に応じて駆動する油圧アクチュエータと、
前記上部旋回体に備えられたキャビンと、
動作に関連する物理量を検出するセンサと、
前記キャビン内に設置され、規定動作の指示を運転者に対して表示する表示部と、
運転者のレバー操作に応じた前記油圧アクチュエータによる前記規定動作の実行中における前記センサからの検出値を前記規定動作と対応付けて記憶する記憶部と、
前記規定動作と対応付けられた前記センサからの検出値を管理装置へ送信する送信部と、を備えることを特徴とする、
ショベル。」


第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりのものである。

この出願の請求項1、10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、
また請求項2に係る発明は、下記の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、
また請求項3ないし9に係る発明は、下記の引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、
その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開平10-171523号公報
引用文献2:特開2010-198159号公報
引用文献3:特開2004-132137号公報


第4 引用文献の記載及び引用発明
上記引用文献1(特開平10-171523号公報)には、以下の事項が記載されている(審決で下線を付した。)。

1 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、油圧ショベル、クレーン、ブルドーザ等の作業機械に対して所要の保守を行うための作業機械の保守システムに関する。
【0002】【従来の技術】一般に、作業機械は過酷な状態で使用することが多く、機械各部の損耗が激しい。このため、これら作業機械に対しては適切な保守管理が要望される。この保守管理には高度に専門的な知識を要するので、作業機械メーカー側が保守管理を行うのが通常である。従来の保守管理は、保守員が保守対象の作業機械の作業現場に出向し、当該作業機械を作動させ、その作業機械の所要個所に備えられた各種センサで得られるデータをコントローラおよびデータ書込装置を介してICカードに記録し、このように記録された各種データを解析装置により解析して作業機械の異常又はその兆候を検出することにより行われていた。上記各種センサの設置例を図15に示す。
【0003】図15は作業機械の油圧回路の一部の回路図である。この図で、1はエンジン、1aはエンジン1のガバナレバー、2は油圧ポンプ、2aは油圧ポンプ1のおしのけ容積可変機構、3はパイロットポンプ、4は油圧シリンダ、5は油圧ポンプ2と油圧シリンダ4との間に介在する流量制御弁、6は流量制御弁5を操作するパイロット弁、6aはパイロット弁6の操作レバー、7は作動油タンクである。オペレータが操作レバー6aをいずれかの方向に操作することにより、当該操作方向に応じて流量制御弁5が変位し、油圧ポンプ2の圧油が油圧シリンダ4へ供給されてこれを駆動し、これにより作業部が駆動されて所要の作業が行われる。図中、8、9は操作レバー6aの操作方向を検出する圧力スイッチ、10はガバナレバー1aの変位量を検出する角度センサ、11はエンジン1の回転数を検出する回転数センサ、13は油圧ポンプ1の吐出圧を検出する圧力センサ、14は作動油タンク7の温度を検出する温度センサである。なお、図示されていないが、上記作業部の駆動量(角度)を検出するセンサ等が備えられている。」

2 「【0006】【発明が解決しようとする課題】しかし、作業現場は騒音が激しくかつ電波状況も悪い場合が通常であり、保守員がオペレータに所要の態様の運転を依頼しても確実にこれを伝えることが困難な場合が多く、又、作業機械の自動運転は、事故が生じないように予め何らかの手段を講じなければならず手間と時間を要し、そのような手段を講じてもまだ完全に安全であるとはいえないという問題がある。
【0007】本発明の目的は、上記従来技術における課題を解決し、確実に所要の態様の運転操作を行わせることができ、ひいては、確実に所要のデータを得ることができる作業機械の保守システムを提供することにある。」

3 「【0008】【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、請求項1の発明は、作業機械に、この作業機械を構成する各部の状態のデータを採取するデータ採取手段と、このデータ採取手段で採取したデータを格納する作業機械側データ記憶手段と、外部とのデータの授受を行う作業機械側送受信手段とを備えるとともに、前記作業機械の保守を行う管理部に、外部とのデータの授受を行う管理部側送受信手段と、前記作業機械側送受信手段および前記管理部側送受信手段を介して入力されたデータを格納する管理部側データ記憶手段とを備えた作業機械の保守システムにおいて、前記管理部に、前記作業機械の各種操作の内容を指示する操作内容指示手段を設け、かつ、前記作業機械に、前記管理部側送受信手段および前記作業機械側送受信手段を介して受信された前記操作内容指示手段の指示内容を表示する作業機械側操作内容表示手段を設けたことを特徴とする。
【0009】又、請求項2の発明は、請求項1記載の作業機械の保守システムにおいて、前記作業機械に、当該作業機械の操作内容を送信する操作内容報知手段を設け、かつ、前記管理部に、前記作業機械側送受信手段および前記管理部側送受信手段を介して入力された前記操作内容報知手段で報知された操作内容を表示する管理部側操作内容表示手段を設けたことを特徴とする。」

4 「【0011】30は作業機械に備えられる機械側保守装置を示し、機械側制御部31、操作指示ランプ群32(後述)、操作内容スイッチ群33(後述)、操作終了スイッチ34(後述)、データ確定スイッチ35(後述)、通信コントローラ36、およびそのアンテナ36aを備えている。機械側制御部31は、中央処理ユニット(CPU)311、CPU311の処理手順を格納するリードオンリメモリ(ROM)312、演算制御等の結果を格納するランダムアクセスメモリ(RAM)313、クロック314、ランプ番号記憶部315(後述)、データ格納アドレス記憶部316、操作内容指示コード記憶部317(後述)、および入出力インタフェース318で構成されている。
【0012】なお、40は作業機械の各種の制御を行うための運転コントローラであり、マイクロコンピュータで構成されている。この運転コントローラ40は、作業機械に備えられている各種センサの検出値や各種スイッチの状態を取り込んで記憶部の所定のアドレスに格納し、上記検出値やスイッチの状態に基づいて作業機械の所要の制御、例えば油圧ショベルの水平掘削制御等を行う。」

5 「【0013】図2は作業機械である油圧ショベルの側面図である。この図で、50は油圧ショベル、51はクローラを備えた下部走行体、52は下部走行体51に旋回可能に設けられた上部旋回体、52aは上部旋回体52に配置された運転室、53はブーム、54はアーム、55はバケットである。図示されていないが、ブーム53、アーム54、バケット55の回転中心には角度センサが取り付けられており、それら角度センサの検出値もブーム角、アーム角、バケット角として運転コントローラ40の記憶部の所定のアドレスに格納される。30は図1に示す機械側保守装置であり、運転室52aに設けられている。36aは図1に示すアンテナである。」

6 「【0016】図4は機械側保守装置の操作指示ランプ群、操作内容スイッチ群、操作終了スイッチ、およびデータ確定スイッチの斜視図である。・・・操作指示ランプ32a、32b、32cは、それぞれ、油圧ショベルの「ブーム上げ単独操作」、「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」、「走行の単独操作」の指示を表示する場合に用いられ、・・・
【0018】図5は機械側保守装置の操作内容スイッチ群、操作終了スイッチ、およびデータ確定スイッチの斜視図である。・・・この図の例では、操作指示ランプ群32に代えて操作指示表示部320が設けられる。管理部側から指示された操作指示の内容は操作指示表示部320に文字等により表示される。・・・」

7 「【0026】一方、油圧ショベルの機械側保守装置30は、上記コマンドを受信すると、後述する図11のフローチャートに示す動作により、当該受信に応じて「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」を示す操作指示ランプ32bを発光させ又は当該複合操作を操作指示表示部320に表示し、オペレータはこれを確認し、操作内容スイッチ群33のうち対応する操作内容スイッチ33bを押した後、油圧ショベルを操作してブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作を行う。この複合操作により所要のセンサ又はスイッチからのデータがサンプリングされて順次運転コントローラ40の記憶部の所定のアドレスに格納される。機械側制御部31は後述する図11のフローチャートに示す動作により所要のデータを採取し、これを順次管理部側制御部21へ送信する。
【0027】このようにして機械側制御部31から管理部側制御部21へ送信されるデータ群が図13に示されている。このデータ群は、シリアル番号(送信順に付されたデータ群の番号)D_(1) 、操作内容コード(この場合上記複合操作を表す「02」)D_(2)、操作終了フラグ(操作終了時「1」)D_(3)、各センサやスイッチのデータD_(4)、時刻のデータ(データT)D_(5)、およびデータ群終了フラグ(EOD)D_(6)で構成されている。以下の例では、上記データ群の送信はシリアル番号毎に実行されるが、必ずしもシリアル番号毎に送信する必要はなく、1つの操作内容に対するデータをまとめて送信することもできる。・・・なお、図14では、他の操作(操作内容コード「03」)におけるデータ群も示されている。
【0028】・・・管理部側制御部21のCPU211は・・・
【0029】・・・CPU211は・・・表示部24に送信されたデータを出力して表示させる(手順S22)。・・・図14に表示の一例が示されている。図中、240は表示部24の表示画面を示す。最初に油圧ショベルの操作内容「ブーム上げ、旋回」が示され、その下に、左から順に、送信された「シリアル番号」、「操作開始、終了状態」、「ポンプ吐出圧」データ、「エンジン回転数」データ、「圧力スイッチ」の状態、・・・「ポンプ傾転角」データが表示されている。このようにして1つの操作に対するデータの収集が終了し、他の操作が必要な場合には再度上記の処理を繰り返す。
【0030】次に、機械側制御部31の動作を図11に示すフローチャートにより説明する。油圧ショベルのオペレータは、保守員から保守作業を開始する旨の連絡を受けると機械側制御部31の作動をスタートさせる。・・・
【0031】次いで、CPU311は管理部側制御部21からのコマンドの受信を待ち(手順S_(31))、受信されるとコマンド中から操作内容指示コード(この場合「02」)を抽出し(手順S_(32))、これに基づいて・・・図5に示す操作指示表示部320に操作内容を表示する(手順S_(34))。オペレータは操作指示ランプ32bの点灯をみて、図4に示す対応する操作内容スイッチ33bを押し、その後油圧ショベルの「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」を行う。
【0032】一方、CPU311はオペレータによる操作内容スイッチのONを待ち(手順S_(35))、操作内容スイッチがONされるとその番号に基づいて操作内容指示コード記憶部317から当該番号に対応する操作内容指示コード(この場合「02」)を取り出してこれを記憶した後、データ格納アドレス記憶部316から、送信されたコマンドの1番目のセンサ又はスイッチの番号に対する運転コントローラ40のデータ記憶部のアドレスを読み出し(手順S_(36))、当該アドレスに格納されているデータを取り出して一旦記憶し(手順S_(37))、・・・
【0033】・・・終了フラグを確認すると、CPU311は、現在の番号n(シリアル番号)、さきに記憶している操作内容指示コード(「02」)、操作終了フラグ(後述する)、上記の処理で抽出した各データ、その時点におけるクロック314による時刻データ、およびこれらデータの最後に付した終了フラグにより図14に示すデータ群を作成し(手順S_(40))、このデータ群を通信コントローラ36へ出力し(手順S_(41))、管理部側制御部21へ送信する。・・・」

8 「【0035】このように、本実施の形態では、管理側の保守員が操作スイッチにより機械側のオペレータに操作指示ランプで操作の内容を指示し、かつ、オペレータは操作内容スイッチにより管理側の操作終了ランプに操作内容を知らせるようにしたので、オペレータは保守員の指示と異なる操作を行うことはなく、仮に、異なる操作をしても保守員がこれを知ることができ、保守員は保守用の正確なデータを得ることができる。又、作業機械の操作はオペレータにより行われるので、自動運転におけるような危険を生じることはない。・・・」

9 図1は次のものである。


10 図2は次のものである。


11 図5は次のものである。


12 図11は次のものである。


13 図13は次のものである。


14 上記7の摘記を参照して、図13から、シリアル番号(データ群の番号)D_(1)と、操作内容コードD_(2)と、各センサのデータD_(4)と、が対応づけられたデータ群が作成されていることが看て取れる。

15 図14は次のものである。


16 図15は次のものである


17 エンジンなどの動力源の動力により作動油を吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出する作動油によりオペレータのレバー操作に応じて駆動する油圧アクチュエータを備えることは文献を示すまでもなく油圧ショベルの技術常識であり、また引用文献1には、上記1の摘記及び上記16の図15に示されるとおり、油圧ショベル等の作業機械が、エンジン1及びエンジン1と接続された油圧ポンプ2、油圧シリンダ4、油圧ポンプ2と油圧シリンダ4との間に介在する流量制御弁5、操作レバー6aを有し、オペレータが操作レバー6aをいずれかの方向に操作することにより、当該操作方向に応じて流量制御弁5が変位し、油圧ポンプ2の圧油が油圧シリンダ4へ供給されてこれを駆動し、これにより作業部が駆動されて所要の作業が行われることが記載されているから、引用文献1に記載の油圧ショベルも、エンジンの動力により作動油を吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出する作動油によりオペレータのレバー操作に応じて駆動する油圧アクチュエータを備えると解され、そして上記7に摘記した「ポンプ吐出圧」データ、「エンジン回転数」データ、「ポンプ傾転角」データは、前記油圧ポンプの吐出圧、前記油圧ポンプの動力源である前記エンジンの回転数、前記油圧ポンプの傾転角であると解される。
さらに、油圧ショベルにおいて油圧ポンプの動力源であるエンジンが上部旋回体に配置されることは文献を示すまでもなく技術常識であるから、引用文献1に記載のエンジンも上部旋回体52に配置されると解される。

18 上記1ないし17からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「クローラを備えた下部走行体51と、
下部走行体51に旋回可能に設けられた上部旋回体52と、
上部旋回体52に配置されたエンジンと、
前記エンジンの動力により作動油を吐出する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプが吐出する作動油によりオペレータのレバー操作に応じて駆動する油圧アクチュエータと、
上部旋回体52に配置された運転室52aと
前記油圧ポンプの吐出圧、前記エンジンの回転数、前記油圧ポンプの傾転角等を検出する各種センサと、
を備える、
オペレータにより操作が行われる作業機械である油圧ショベル50であって、
保守を行うための所要の態様の操作である「ブーム上げ単独操作」、「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」、「走行の単独操作」等の操作指示をオペレータに対し表示する操作指示表示部320と、CPU311を有する機械側制御部31と、通信コントローラ36とを有し、運転室52aに設けられる機械側保守装置30を備え、
CPU311を有する機械側制御部31は、
操作指示された前記所要の態様の操作に対応する操作内容指示コード、及び、その操作指示をみてオペレータが行う前記所要の態様の操作により所要のセンサからサンプリングされた前記油圧ポンプの吐出圧、前記エンジンの回転数、前記油圧ポンプの傾転角等のデータを記憶し、
記憶した前記操作内容指示コード、各センサのデータから、シリアル番号(データ群の番号)D_(1)と、操作内容コードD_(2)と、各センサのデータD_(4)とが対応づけられたデータ群を作成し通信コントローラ36へ出力して、管理部側制御部21へ送信するものである、
油圧ショベル50。」


第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

(1) 引用発明の「オペレータ」は本願発明の「運転者」に相当し、引用発明の「オペレータにより操作が行われる作業機械である油圧ショベル50」は、本願発明の「運転者が操作して作業を行うショベル」に相当する。

(2) 引用発明の「クローラを備えた下部走行体51」、「下部走行体51に旋回可能に設けられた上部旋回体52」、「上部旋回体52に配置されたエンジン」、「エンジンの動力により作動油を吐出する油圧ポンプ」、「油圧ポンプが吐出する作動油によりオペレータのレバー操作に応じて駆動する油圧アクチュエータ」、「上部旋回体52に配置された運転室52a」は、それぞれ本願発明の「下部走行体」、「前記下部走行体に搭載された上部旋回体」、「上部旋回体に配置された内燃機関」、「内燃機関の動力により作動油を吐出する油圧ポンプ」、「油圧ポンプが吐出する作動油により運転者のレバー操作に応じて駆動する油圧アクチュエータ」、「上部旋回体に備えられたキャビン」に相当する。

(3) 本願発明の「動作に関連する物理量を検出するセンサ」における「動作に関連する物理量」とは、「前記油圧アクチュエータによる前記規定動作の実行中における前記センサからの検出値」という記載から、油圧アクチュエータの動作に関連する物理量を意味すると解される。
そして引用発明の「各種センサ」が検出する「前記油圧ポンプの吐出圧、前記エンジンの回転数、前記油圧ポンプの傾転角等」は、油圧アクチュエータの動作に関連する量であり、かつ「物理量」という用語の一般的な意味(物理系の性質を表現し、その測定法、大きさの単位が規定された量。位置・質量・エネルギーなど。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版])に沿うものである。
よって、引用発明の「前記油圧ポンプの吐出圧、前記エンジンの回転数、前記油圧ポンプの傾転角等を検出する各種センサ」は、本願発明の「動作に関連する物理量を検出するセンサ」に相当する。

(4) 本願発明の「規定動作の指示」とは、「運転者のレバー操作に応じた前記油圧アクチュエータによる前記規定動作の実行」という記載から、油圧アクチュエータを規定動作させる操作の指示を意味すると解される。
そして引用発明において、ブームや上部旋回体やクローラが油圧アクチュエータにより動作するものであることは明らかであるから、引用発明の「保守を行うための所要の態様の操作は、ブームや上部旋回体やクローラ等を動作させる油圧アクチュエータに規定の動作(「ブーム上げ単独操作」、「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」、「走行の単独操作」等)をさせる操作であり、また引用発明の「操作指示表示部320」は、「運転室52aに設けられる機械側保守装置30」に備わるものであるから、運転室52aに設けられるものである。
よって、引用発明の、「運転室52aに設けられる機械側保守装置30」に備わる、「保守を行うための所要の態様の操作である「ブーム上げ単独操作」、「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」、「走行の単独操作」等の操作指示をオペレータに対し表示する操作指示表示部320」は、本願発明の「前記キャビン内に設置され、規定動作の指示を運転者に対して表示する表示部」に相当する。

(5) 引用発明における「その操作指示をみてオペレータが行う前記所要の態様の操作により所要のセンサからサンプリングされた前記油圧ポンプの吐出圧、前記エンジンの回転数、前記油圧ポンプの傾転角等のデータ」は、上記(4)を踏まえると、本願発明における「油圧アクチュエータによる前記規定動作の実行中における前記センサからの検出値」に相当する。
さらに引用発明においては、操作内容コードD_(2)と各センサのデータD_(4)とが対応づけられたデータ群を作成するのであるから、そのもととなる記憶されていた操作内容指示コード及び各センサのデータは互いに対応付けて記憶されていたものと解される。
よって、引用発明の「保守を行うための所要の態様の操作である「ブーム上げ単独操作」、「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」、「走行の単独操作」等の操作指示」「された前記所要の態様の操作に対応する操作内容指示コード、及び、その操作指示をみてオペレータが行う前記所要の態様の操作により所要のセンサからサンプリングされた前記油圧ポンプの吐出圧、前記エンジンの回転数、前記油圧ポンプの傾転角等のデータを記憶し、記憶した前記操作内容指示コード、各センサのデータから、シリアル番号(データ群の番号)D_(1)と、操作内容コードD_(2)と、各センサのデータD_(4)とが対応づけられたデータ群を作成」する「CPU311を有する機械側制御部31」と、
本願発明の「運転者のレバー操作に応じた前記油圧アクチュエータによる前記規定動作の実行中における前記センサからの検出値を前記規定動作と対応付けて記憶する記憶部」とは、
「運転者の操作に応じた前記油圧アクチュエータによる前記規定動作の実行中における前記センサからの検出値を前記規定動作と対応付けて記憶する記憶部」という点で共通する

(6) 引用発明の「管理部側制御部21」は本願発明の「管理装置」に相当し、そして引用発明において「管理部側制御部21へ送信」される「シリアル番号(データ群の番号)D_(1)と、操作内容コードD_(2)と、各センサのデータD_(4)とが対応づけられたデータ群」は、本願発明において「管理装置へ送信」される「前記規定動作と対応付けられた前記センサからの検出値」に相当する。
よって、引用発明の「シリアル番号(データ群の番号)D_(1)と、操作内容コードD_(2)と、各センサのデータD_(4)とが対応づけられたデータ群」を「管理部側制御部21へ送信」する「CPU311を有する機械側制御部31」及び「通信コントローラ36」は、本願発明の「前記規定動作と対応付けられた前記センサからの検出値を管理装置へ送信する送信部」に相当する。

以上(1)ないし(6)より、本願発明と、引用発明とは、
「運転者が操作して作業を行うショベルであって、
下部走行体と、
前記下部走行体に搭載された上部旋回体と、
前記上部旋回体に配置された内燃機関と、
前記内燃機関の動力により作動油を吐出する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプが吐出する作動油により運転者のレバー操作に応じて駆動する油圧アクチュエータと、
前記上部旋回体に備えられたキャビンと、
動作に関連する物理量を検出するセンサと、
前記キャビン内に設置され、規定動作の指示を運転者に対して表示する表示部と、
運転者の操作に応じた前記油圧アクチュエータによる前記規定動作の実行中における前記センサからの検出値を前記規定動作と対応付けて記憶する記憶部と、
前記規定動作と対応付けられた前記センサからの検出値を管理装置へ送信する送信部と、を備えることを特徴とする、
ショベル。」
で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
油圧アクチュエータによる規定動作の実行について、本願発明では「運転者のレバー操作に応じた」実行と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がされていない点。

2 判断
(1) 相違点1について
引用発明では、いわば通常時の操作では、油圧アクチュエータはオペレータのレバー操作に応じて駆動され、そして引用文献1全体をみても、油圧アクチュエータの具体的な操作具として記載されているのはレバーのみ(上記第4の1の摘記及び16の図15中の「操作レバー6a」。)である。さらに、操作指示をみてオペレータが行う上記所要の態様の操作の操作時に、通常時の操作であるレバー操作以外で操作を行うとの記載はない。加えて、油圧ショベルにおいてはオペレータのレバー操作で油圧アクチュエータを駆動することは文献を示すまでもなく技術常識であることも踏まえれば、引用発明において、上記操作指示をみてオペレータが行う操作も、通常時の操作であるレバー操作によって行うものとし、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2) 請求人の主張について
審判請求書(「(3)本願発明が特許されるべき理由」の「2-3.請求項に関わる発明と引用文献との対比」)において、以下の主張がされている。

a 「・・・引用文献1には、操作内容スイッチ33a、33b、33cを押すと、それぞれに対応する動作が行われることが開示されるだけであります(段落0026等参照)。このように、引用文献1では、分析用の規定動作の場合には、実作業とは異なる入力手段(スイッチ33a、33b、33c)から出力手段(アクチュエータ)までのセンサの検出値を記憶しているだけです。つまり、引用文献1では、入力手段(レバー)から出力手段(アクチュエータ)までの操作系を含めたシステム全体の状況を検出し、把握することはできません。・・・引用文献1では、操作内容スイッチ33a、33b、33cを押すと、それぞれのスイッチに対応した所定の駆動対象の所定の態様の駆動・・・が自動で行われることになります。このため、狭い作業現場では、スイッチを押した後に、ショベルが自動で所定の動作を行ってしまうと、周辺機器に当接してしまう恐れがあります。」

b 「・・・アクチュエータの駆動は運転者のレバー操作に依存してしまうため、運転者のレバー操作のバラツキつきが生じ易くなります。そこで、本願発明ではわざわざ、「キャビン内の表示部に規定動作を表示」させております。これにより、運転者は表示された規定動作を目視にて確認しつつレバー操作ができるため、運転者によるレバー操作のバラツキを抑制することが可能になります。・・・引用文献1では「キャビン内の表示部に規定動作を表示」させることすら、行っておりません。」

これら主張について検討する
まずaの主張について、請求人は、引用文献1の操作内容スイッチ33a、33b、33cが、これらを押すと、対応する動作が行われる(あるいは、対応した所定の駆動対象の所定の態様の駆動が自動で行われる)ものであることを前提に主張を行っている。
しかし、引用文献1には、「【0016】・・・操作内容スイッチ33a、33b、33cは、・・・油圧ショベルで「ブーム上げ単独操作」、「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」、「走行の単独操作」を行ったことを知らせる場合に用いられる。」と、操作内容スイッチは、所要の態様の運転の操作を「行ったことを知らせる」のに用いられるスイッチと記載され、これらを押すと対応する動作が(自動で)行われるスイッチとは記載されていない。
さらに操作内容スイッチと油圧ショベルの操作との関係についてのフローをみても、オペレータは、操作内容スイッチを押した後、油圧ショベルの操作を行うと記載され(上記摘記の「【0026】・・・「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」・・・を操作指示表示部320に表示し、オペレータはこれを確認し、操作内容スイッチ群33のうち対応する操作内容スイッチ33bを押した後、油圧ショベルを操作してブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作を行う。」及び「【0031】・・・操作指示表示部320に操作内容を表示する(手順S_(34))。オペレータは・・・対応する操作内容スイッチ33bを押し、その後油圧ショベルの「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」を行う。」。)、操作内容スイッチを押すと対応する動作が(自動で)行われることの記載はない。
また機械側保守装置30(のCPU311)が、操作内容スイッチがONになることにより行う処理をみても、送信するためのデータ記憶であり(上記摘記の「【0032】・・・CPU311はオペレータによる操作内容スイッチのONを待ち(手順S_(35))、操作内容スイッチがONされるとその番号に基づいて操作内容指示コード記憶部317から当該番号に対応する操作内容指示コード(この場合「02」)を取り出してこれを記憶し・・・【0033】・・・終了フラグを確認すると、・・・記憶している操作内容指示コード(「02」)、・・・抽出した各データ・・・により・・・データ群を作成し(手順S_(40))、このデータ群を通信コントローラ36へ出力し(手順S_(41))、管理部側制御部21へ送信する。」。)、油圧ショベルに対応する動作を行わせるとの記載はない。
以上のように引用文献1には請求人主張のような記載はなく、請求人の主張は根拠がない。

次に上記bの主張について検討する。
上記第5の1で検討したとおり、「キャビン内に設置され、規定動作の指示を運転者に対して表示する表示部」を備える点で引用発明は本願発明と一致しており、「引用文献1では「キャビン内の表示部に規定動作を表示」させることすら、行っておりません。」との請求人の主張は採用できない。

ここで、請求人の「アクチュエータの駆動は運転者のレバー操作に依存してしまうため、運転者のレバー操作のバラツキつきが生じ易くなります。そこで、本願発明ではわざわざ、「キャビン内の表示部に規定動作を表示」させております。これにより、運転者は表示された規定動作を目視にて確認しつつレバー操作ができるため、運転者によるレバー操作のバラツキを抑制することが可能になります。」という主張は、本願発明を、表示部に規定動作の画像を表示するという特定を有するものと解しての主張であると仮に解釈し、以下予備的に検討する。
まず、本願請求項1の記載から、本願発明が、表示部に規定動作の画像を表示するという特定を有するものかどうかみると、本願請求項1の記載は(請求人主張のように「規定動作を表示」というものではなく)「規定動作の指示を運転者に対して表示する」という記載であって、画像を表示するという記載はない。
さらに、この本願請求項1の「指示を・・・表示」という記載が、本願明細書等の記載を参酌すれば、表示部に(規定動作の)画像を表示することを特定していると解されるものかどうか検討すると、本願明細書には「【0062】・・・画像表示装置40の画像表示部41に「姿勢を点線の位置に併せてください」という指示が表示されている。併せて、側面視におけるショベルの外形の画像が表示され、・・」、「【0063】・・・画像表示装置40の画像表示部41に「フルレバーで一気にアームを閉じて下さい」という指示が表示されている。併せて、側面視におけるショベルの外形の画像が表示され、・・・」、「【0070】・・・画像表示装置40の画像表示部41に「フルレバーで一気にバケットを閉じて下さい」という指示が表示されている。併せて、側面視におけるショベルの外形の画像が表示され、・・・」、及び「【0074】・・・画像表示装置40の画像表示部41に「旋回停止の指示がでるまで旋回を続けて下さい」という指示が表示されている。併せて、平面視におけるショベルの外形の画像と旋回方向が表されている。」と、指示の表示は文字であり、かつ「指示が表示されている。併せて、・・・画像が表示され」と、指示の表示と画像の表示とを区別した具体例が列挙されている(加えて、特許請求の範囲でも、請求項3に「前記規定動作の指示は、前記表示部にショベルの外形の画像と併せて表示される・・・。」と、指示の表示と画像の表示とを区別した記載がされている。)。このように、本願明細書等を参照しても、本願請求項1の「指示を・・・表示」という記載により、画像を表示することが特定されると解することはできない。
よって、請求人の主張は採用できない。

加えて補足すると、仮に、本願発明が、画像を表示することが特定されるものであったとしても、作業機において、運転室内に設けた表示手段に、画像を表示して操作者による操作を支援することは当業者にとり周知であり(原査定の拒絶の理由で引用した特開2004-132137号公報の【請求項6】、【0085】、【0095】、【0124】-【0125】、【0203】、図8、図13等参照。)、その上引用文献1には、操作指示表示部320に表示される操作指示は「文字等」であり文字のみに限られるものではないことが記載されているから(上記第4の6の摘記のとおり、「【0018】・・・操作指示の内容は操作指示表示部320に文字等により表示される。」。)、引用発明に上記周知技術を適用して画像を表示する構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(6) 小括
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-11-30 
結審通知日 2018-12-04 
審決日 2018-12-19 
出願番号 特願2013-199265(P2013-199265)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 喜々津 徳胤大熊 靖夫  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 須永 聡
前川 慎喜
発明の名称 ショベル、及びショベル用管理装置  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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