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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1355552 |
審判番号 | 不服2018-12714 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-09-25 |
確定日 | 2019-09-26 |
事件の表示 | 特願2015-558622「窒化物半導体発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月30日国際公開、WO2015/111134〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年(2015年)1月21日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。 平成28年 7月28日 :手続補正書 平成29年 1月20日 :手続補正書 平成29年11月14日付け:拒絶理由通知書 平成30年 1月21日 :意見書・手続補正書 平成30年 6月18日付け:拒絶査定 平成30年 9月25日 :審判請求書・手続補正書 第2 原査定における拒絶の理由の概要 原査定は、次の拒絶の理由を含むものである。 本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2008-53263号公報(以下「引用文献1」という。) 2.国際公開第2011/007816号(以下「周知例2」という。) 3.Daniel A. Steigerwald, et al.,“Illumination With Solid State Lighting Technology”,IEEE JOURNAL ON SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTRONICS,2002年4月,Vol.8, No.2,p.310-320(以下「周知例3」という。) 4.Max Shatalov, et al.,“Large Chip High Power Deep Ultraviolet Light-Emitting Diodes”,Applied Physics Express,2010年,No.062101,p.1-3(以下「周知例4」という。) 5.特開2002-280610号公報(以下「周知例5」という。) 6.特開2009-054780号公報(以下「周知例6」という。) 第3 平成30年9月25日に提出された手続補正書による補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成30年9月25日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正は、本件補正前の請求項1である、 「サファイア基板と、前記サファイア基板の表面上に形成された複数の窒化物半導体層を有する発光素子構造部を備えてなり、 前記サファイア基板を通して前記発光素子構造部からの発光を素子外部に出力する、平面視形状が正方形または長方形のチップに分割された裏面出射型の窒化物半導体発光素子であって、 前記発光素子構造部が、光を出射する活性層と、前記活性層よりも前記サファイア基板から離れた位置に形成されて前記活性層よりもバンドギャップが小さいコンタクト層とを備え、 前記チップの前記平面視形状の各辺の平均長が400μm以上であり、 前記サファイア基板の前記表面に垂直な側面部分における垂直方向の長さであるT値が、前記平均長の0.45倍以上1倍以下であることを特徴とする窒化物半導体発光素子。」 を、 本件補正後の請求項1である、 「サファイア基板と、前記サファイア基板の表面上に形成された複数の窒化物半導体層を有する発光素子構造部を備えてなり、 前記サファイア基板を通して前記発光素子構造部からの発光を素子外部に出力する、平面視形状が正方形または長方形のチップに分割された裏面出射型の窒化物半導体発光素子であって、 前記発光素子構造部が、光を出射する活性層と、前記活性層よりも前記サファイア基板から離れた位置に形成されて前記活性層よりもバンドギャップが小さいコンタクト層とを備え、前記活性層から前記コンタクト層に向けて出射された光が、前記コンタクト層で吸収され、前記サファイア基板を通して素子外部に出力されない構造であり、 前記チップの前記平面視形状の各辺の平均長が400μm以上であり、 前記サファイア基板の前記表面に垂直な側面部分における垂直方向の長さであるT値が、前記平均長の0.45倍以上1倍以下であることを特徴とする窒化物半導体発光素子。」 へと補正することを含むものである(下線は、補正箇所である。)。 2 本件補正の目的 上記1で認定した補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「発光素子構造部」の構造について、「前記活性層から前記コンタクト層に向けて出射された光が、前記コンタクト層で吸収され、前記サファイア基板を通して素子外部に出力されない構造であ」るとの限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の技術分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(いわゆる独立特許要件を満たしているか)、すなわち、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうかについて、以下、項を改めて、検討する。 3 独立特許要件の適否の判断 (1)本件補正発明の認定 本件補正発明は、上記1において、本件補正後の請求項1として記載されたとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項の認定 ア 原査定における拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である引用文献1(特開2008-53263号公報)には、次の事項が記載されていると認められる(下線は、当審が付した。)。 「【発明を実施するための最良の形態】」、 「図1から図5は本発明の一実施形態を示すもので、図1はLED素子の概略模式断面図である。」(【0016】)、 「図1はLED素子の模式断面図である。以下、LED素子1の構成について説明する。 図1に示すように、発光素子としてのLED素子1は、サファイア基板10と、サファイア基板10上に積層されたIII族窒化物系化合物半導体層20と、を備えている。本実施形態においては、LED素子1はフリップチップ型である。III族窒化物系化合物半導体層20は、バッファ層21、n型層22、発光層を含む層23及びp型層24がこの順でサファイア基板10上に形成されている。そして、LED素子1は、p電極25がp型層24上に形成され、n電極26がn型層22上に形成されている。LED素子1は、p電極25及びn電極26が電力が供給されると、発光層を含む層23から青色領域にピーク波長を有する光を出射する。」(【0017】)、 「ここで、III族窒化物系化合物半導体とは、一般式としてAl_(X)Ga_(Y)In_(1-X-Y)N(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦X+Y≦1)で表され、AlN、GaN及びInNのいわゆる2元系、Al_(X)Ga_(1-X)N、Al_(X)In_(1-X)N及びGa_(X)In_(1-X)N(以上において0<X<1)のいわゆる3元系を包含する。すなわち、III族窒化物系化合物半導体として、窒化ガリウム系化合物半導体を例示することができる。ここで、III族元素の少なくとも一部をボロン(B)、タリウム(Tl)等で置換しても良く、また、窒素(N)の少なくとも一部もリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等で置換できる。」(【0018】)、 「本実施形態においては、バッファ層21はAlNからなり、n型層22はn型不純物としてSiをドープしたGaNからなり、p型層24はp型不純物としてMgをドープしたGaNからなる。バッファ層21はこれに限定されることはなく、材料としてはGaN、InN、AlGaN、InGaN及びAlInGaN等を用いてもよい。また、n型層22及びp型層24をGaNで形成しているが、これらを形成するのにAlGaN、InGaN又はAlInGaNを用いてもよい。さらに、n型不純物としてGe、Se、Te、C等を用いてもよいし、p型不純物としてZn、Be、Ca、Sr、Ba等を用いてもよい。」(【0019】)、 「また、発光層を含む層23は、多重量子井戸構造をとっており、InGaNからなる複数の発光層と、これらの間に介在しGaNからなるバリア層とを有している。発光層とバリア層については、発光波長に応じてGaN、InN、AlGaN、InGaN及びAlInGaNが適宜選択される。」(【0020】)、 「また、p電極25は、金を含む材料で構成されており、p型層25の上に蒸着により形成される。n電極26は、AlとVの2層で構成され、p型層24を形成した後、p型層24、発光層を含む層23及びn型層22の一部をエッチングにより除去し、蒸着によりn型層23上に形成される。ここで、p電極25及びn電極26の材質もまた適宜に変更が可能である。」(【0021】)、 「図2は、LED素子の模式外観斜視図である。 図2に示すように、サファイア基板10は、平面視にて正方形を呈する直方体状に形成される。ここで、サファイア基板10の厚さdは、サファイア基板10の研磨状態を調整することにより任意に設定することができる。また、サファイア基板10の側面10aはレーザ加工により形成されており、平面視における一辺の長さaもまた任意に設定することができる。」(【0022】)、 「以上のように構成されたLED素子1において、サファイア基板10の厚さdと一辺の長さaを変化させて取得したデータを図3及び図4に示す。図3の横軸は一辺の長さaに対する厚さdの割合であり、縦軸はLED素子1から出射される光の配光角度の相対値である。また、図4の横軸は一辺の長さaに対する厚さdの割合であり、縦軸はLED素子1から出射される光の全体光量の相対値である。」(【0023】)、 「ここで、図3及び図4のデータを取得する手順を説明する。まず、一辺の長さaに対する厚さdが異なるサファイア基板10のLED素子1を複数作成し、作成されたLED素子1ごとにから出射された光の強度を光度測定積分球にて測定する。図5に示すように、LED素子1の発光部分からサファイア基板10に対して垂直な方向を0°とし、この垂直方向を基準としLED素子1の発光部分を中心にして-90°から+90°までの範囲の光の強度を取得する。ここで、図5はデータ取得の実験状態を示す説明図である。このとき取得された光の強度のうち、最大値に対する所定割合の強度が得られている角度を求めてこれを配光角度とする。本実施形態においては、光の強度の最大値を1としたときに、相対的に0.8の強度が得られている角度を配光角度としている。そして、横軸における所定値を基準とし、配光の相対角度を縦軸としたものが図3である。また、横軸における所定値を基準とし、全光量の相対値を縦軸としたものが図4である。」(【0024】)、 「ここで、図3及び図4には、上述のようにして取得された実験値とともに本願発明者による解析値を示している。解析値については、光線追跡方法を用い、模擬的にLED素子1における光学系を設定することにより取得した。図3に示すように、厚さdの寸法aに対する割合が0.3?0.6の範囲で上方に凸となる曲線が得られ、この範囲で配光角度が良好となっている。」(【0025】)、 「このように、本実施形態のLED素子1によれば、厚さdの寸法aに対する割合を0.3?0.6とすることにより、出射光の配光範囲を広くすることができる。」(【0026】)、 「ここで、図6はLED素子を実装基板にフリップチップ実装した光源装置の模式図である。また、図8は従来のLED素子を実装基板にフリップチップ実装した光源装置の模式図であって、(a)は光がサファイア基板内と半導体層内へ繰り返し進入して減衰する状態を示し、(b)は光がサファイア基板内から半導体層内へ進入した光が半導体層内に閉じ込められて減衰する状態を示している。」(【0027】)、 「図6に示すように従来のLED素子302に比して厚さdの割合が一辺の長さaに対して大きく形成されていることから、図6中の矢印に示すように、III族窒化物系化合物半導体層20から出射した光がサファイア基板10の底面10bに到達する前に側面10aに到達する確率が高く、サファイア基板10の底面10bにて全反射する光量を減じられ、従来に比して光取り出し効率が向上している。」(【0028】)、 「ここで、図8の光源装置300は、サファイア基板303及びIII族窒化物系化合物半導体層304を有する従来のLED素子302が実装基板301に搭載されている。ここで、図8の(a)及び(b)は、それぞれ、半導体層304から出射してサファイア基板303内を進む光が、サファイア基板303の半導体層304と反対側の表面へ入射角θ_(1)をもって進入し、この光が反射して半導体層304へ入射する状態を示している。ここで、サファイア基板303の屈折率をn_(3)とし、サファイア基板303と隣接する部材(例えば、空気、封止部材等)の屈折率をn_(1)とすると、サファイア基板303における半導体層304と反対側の表面で反射する条件は、θ_(1)>sin^(-1)(n_(3)/n_(1))である。 図8(a)及び(b)に示すように、半導体層304へ入射した光は、サファイア基板303と半導体層304の界面で屈折した後、半導体層304内を進んで実装基板301にて全反射し、サファイア基板303へ入射角θ_(2)をもって進入する。このときに光がサファイア基板303へ進入する条件は、半導体層304の屈折率をn_(2)とすると、θ_(2)<sin^(-1)(n_(1)/n_(2))である。この場合、図8(a)に示すように、光はサファイア基板303内と半導体層304内へ繰り返し進入して減衰する。また、θ_(2)>sin^(-1)(n_(1)/n_(2))である場合、図8(b)に示すように、光は半導体層内に閉じ込められて減衰する。このように、従来のフリップチップ型のLED素子302では、III族窒化物系化合物半導体層304から出射された光は、LED素子302内で全反射及び屈折を繰り返し、減衰した状態で外部へ放射されるため、光取り出し効率が悪い。」(【0029】)、 「また、図6に示すように、この光源装置101によれば、LED素子1がフリップチップ実装されることから、III族窒化物系化合物半導体層20側が実装基板101側となるので、発光層を含む層23にて生じた熱を実装基板101へ放散することができる。 また、光の主取出面がサファイア基板10側となりサファイア基板10を通じて発光層を含む層23からの光を取り出す必要があるところ、サファイア基板10が前述の寸法に形成されていることから、LED素子1をフリップチップ実装した従来のものに比して、光量が格段に向上する。」(【0030】)、 「また、前記実施形態においては、LED素子1のサファイア基板10が平面視にて正方形状に形成されたものを示したが、平面視にて長方形状に形成されるものであってもよい。この場合、平面視における短辺の寸法に対して厚さが0.3?0.6であれば、出射光の配光範囲を広くすることができる。また、青色光を発するLED素子1に本発明を適用したものを示したが、例えば緑色光を発するLED素子であってもよいし、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。」(【0035】) イ 上記アによれば、図1及び図2に記載されたLED素子について、次の事実が認められる。 (ア)発光素子としてのLED素子1は、サファイア基板10と、サファイア基板10上に積層されたIII族窒化物系化合物半導体層20と、を備えている(【0017】)。 (イ)LED素子1はフリップチップ型である(【0017】)。 (ウ)サファイア基板10は、平面視にて正方形を呈する直方体状に形成されている(【0022】)。 (エ)サファイア基板10の厚さdは、任意に設定することができ、平面視における一辺の長さaもまた任意に設定することができる(【0022】)。 (オ)厚さdの寸法aに対する割合を0.3?0.6とすることにより、出射光の配光範囲を広くすることができる(【0026】)。 (カ)従来のLED素子302に比して厚さdの割合が一辺の長さaに対して大きく形成されていることから、III族窒化物系化合物半導体層20から出射した光がサファイア基板10の底面10bに到達する前に側面10aに到達する確率が高く、サファイア基板10の底面10bにて全反射する光量を減じられ、従来に比して光取り出し効率が向上している(【0028】)。 ウ 上記イで認定した事実によれば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「LED素子1であって、 サファイア基板10と、サファイア基板10上に積層されたIII族窒化物系化合物半導体層20と、を備えており、 LED素子1はフリップチップ型であり、 サファイア基板10は、平面視にて正方形を呈する直方体状に形成されており、 サファイア基板10の厚さdは、任意に設定することができ、平面視における一辺の長さaもまた任意に設定することができ、 厚さdの寸法aに対する割合を0.3?0.6とすることにより、出射光の配光範囲を広くすることができ、 従来のLED素子302に比して厚さdの割合が一辺の長さaに対して大きく形成されていることから、III族窒化物系化合物半導体層20から出射した光がサファイア基板10の底面10bに到達する前に側面10aに到達する確率が高く、サファイア基板10の底面10bにて全反射する光量を減じられ、従来に比して光取り出し効率が向上している、 LED素子1。」 (3)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 ア 本件補正発明の「サファイア基板と、前記サファイア基板の表面上に形成された複数の窒化物半導体層を有する発光素子構造部を備えてなり、 前記サファイア基板を通して前記発光素子構造部からの発光を素子外部に出力する、平面視形状が正方形または長方形のチップに分割された裏面出射型の窒化物半導体発光素子であって、」との特定事項について (ア)引用発明の「サファイア基板10」は、本件補正発明の「サファイア基板」に相当する。 (イ)引用発明の「サファイア基板10上に積層されたIII族窒化物系化合物半導体層20」は、層の個数が「複数」であることが明らかであるから、本件補正発明の「前記サファイア基板の表面上に形成された複数の窒化物半導体層を有する発光素子構造部」に相当するといえる。 (ウ)引用発明は、「フリップチップ型」であるから、本件補正発明でいう「前記サファイア基板を通して前記発光素子構造部からの発光を素子外部に出力する」ものということになるとともに、「裏面出射型」ということになる。 (エ)引用発明は、「サファイア基板10は、平面視にて正方形を呈する直方体状に形成されて」いるから、本件補正発明でいう「平面視形状が正方形または長方形のチップに分割された」ものといえる。 (オ)引用発明の「III族窒化物系化合物半導体層20と、を備えて」いる「LED素子1」は、本件補正発明の「窒化物半導体発光素子」に相当する。 (カ)よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。 イ 本件補正発明の「前記発光素子構造部が、光を出射する活性層と、前記活性層よりも前記サファイア基板から離れた位置に形成されて前記活性層よりもバンドギャップが小さいコンタクト層とを備え、前記活性層から前記コンタクト層に向けて出射された光が、前記コンタクト層で吸収され、前記サファイア基板を通して素子外部に出力されない構造であり、」との特定事項について (ア)引用発明の「III族窒化物系化合物半導体層20」(本件補正発明の「発光素子構造部」に相当。)が、本件補正発明でいう「光を出射する活性層」を備えることは、明らかである。 (イ)しかしながら、引用発明の「III族窒化物系化合物半導体層20」は、「前記活性層よりも前記サファイア基板から離れた位置に形成されて前記活性層よりもバンドギャップが小さいコンタクト層とを備え、前記活性層から前記コンタクト層に向けて出射された光が、前記コンタクト層で吸収され、前記サファイア基板を通して素子外部に出力されない構造」とはいえない。 ウ 本件補正発明の「前記チップの前記平面視形状の各辺の平均長が400μm以上であり、」との特定事項について (ア)引用発明は、「平面視にて正方形を呈する」ものであるから、その「一辺の長さa」は、本件補正発明の「平面視形状の各辺の平均長」に相当する。 (イ)そうすると、引用発明は、「前記チップの前記平面視形状の各辺の平均長が」所定の長さ「であ」るけれども、その所定の長さが、400μm以上であるのかは、不明である。 エ 本件補正発明の「前記サファイア基板の前記表面に垂直な側面部分における垂直方向の長さであるT値が、前記平均長の0.45倍以上1倍以下である」との特定事項について (ア)引用発明の「サファイア基板10の厚さd」は、本件補正発明の「前記サファイア基板の前記表面に垂直な側面部分における垂直方向の長さであるT値」に相当する。 (イ)引用発明は、「厚さdの寸法aに対する割合」が「0.3?0.6」であるから、本件補正発明の用語を用いると、T値が、平均長の0.3倍以上0.6倍以下ということになる。 (ウ)そうすると、引用発明は、「前記サファイア基板の前記表面に垂直な側面部分における垂直方向の長さであるT値が、前記平均長」に対して所定範囲の倍率となるものであるけれども、その所定範囲は、重複部分(0.45?0.6)があるものの、完全には一致しない。 オ 本件補正発明の「窒化物半導体発光素子」との特定事項について 上記ア(オ)のとおり、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。 (4)一致点及び相違点の認定 上記(3)でした認定によれば、本件補正発明と引用発明とは、 「サファイア基板と、前記サファイア基板の表面上に形成された複数の窒化物半導体層を有する発光素子構造部を備えてなり、 前記サファイア基板を通して前記発光素子構造部からの発光を素子外部に出力する、平面視形状が正方形または長方形のチップに分割された裏面出射型の窒化物半導体発光素子であって、 前記発光素子構造部が、光を出射する活性層を備える構造であり、 前記チップの前記平面視形状の各辺の平均長が所定の長さであり、 前記サファイア基板の前記表面に垂直な側面部分における垂直方向の長さであるT値が、前記平均長に対して所定範囲の倍率となるものである窒化物半導体発光素子。」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1]「光を出射する活性層を備え」た「前記発光素子構造部」について、本件補正発明は、さらに、「前記活性層よりも前記サファイア基板から離れた位置に形成されて前記活性層よりもバンドギャップが小さいコンタクト層とを備え、前記活性層から前記コンタクト層に向けて出射された光が、前記コンタクト層で吸収され、前記サファイア基板を通して素子外部に出力されない」構造であるのに対し、引用発明は、そうではない点。 [相違点2]「前記チップの前記平面視形状の各辺の平均長」である所定の長さについて、本件補正発明は、「400μm以上」であるのに対し、引用発明は、そうであるのか不明である点。 [相違点3]「T値」の「前記平均長」に対する倍率に係る所定範囲について、本件補正発明は、0.45倍以上1倍以下であるのに対し、引用発明は、0.3倍以上0.6倍以下である点。 (5)相違点1及び3の判断 ア 事案にかんがみ、相違点1及び3をまとめて判断する。 イ まず、引用発明における「III族窒化物系化合物半導体層20」には、任意の構造のものを採用できるといえる。この点は、引用文献1の【0035】に、「青色光を発するLED素子1に本発明を適用したものを示したが、例えば緑色光を発するLED素子であってもよいし、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能である」と記載されていることからみても、明らかである。 次に、深紫外光を発するLED素子において、活性層よりもサファイア基板から離れた位置に、p型GaN層からなるコンタクト層を設けることは周知技術(必要ならば、例えば、周知例6(【0038】及び図12の「Mgドープのp型GaN層65」)や平山秀樹、「AlGaN系深紫外LED」、光学、2011年、40巻9号、485?464頁(図13)を参照。)である。加えて、そのようなp型GaNコンタクト層が、活性層よりもバンドギャップが小さいものであることは自明であるし、また、当該p型GaNコンタクト層が、活性層からp型GaNコンタクト層に向けて出射された光を吸収して、サファイア基板を通して素子外部に出射されないようにするものであることも周知である(例えば、上記各周知例のうち、後者のものを参照。)。 そうすると、引用発明における「III族窒化物系化合物半導体層」構造として、深紫外光を発する「III族窒化物系化合物半導体層」構造を採用するようにして、相違点1に係る構成を得ることは、当業者が適宜なし得たことである。 ウ(ア)ところで、引用発明におけるa(本件補正発明の「平均長」に相当。)とd(本件補正発明の「T値」に相当。)との関係は、引用文献1の【0024】及び【0025】にあるように、aに対するdが異なるサファイア基板10を備えたLED素子1を複数作成して光の強度を実測したり、光線追跡方法を用いたりすることを通じて、得られたものである。 そうすると、当業者は、引用発明において深紫外光を発する「III族窒化物系化合物半導体層」構造を採用した場合(上記イ)においても、光の強度を実測したり、光線追跡法(この場合、p型GaNコンタクト層が活性層からp型GaNコンタクト層に向けて出射された光を吸収するのであるから、これを考慮することは当然である。)を用いたりすることを通じて、aとdとの関係を得ることができるのである。 そして、その結果、当業者は、当該場合におけるd/aと全光量の相対値との関係を得ることができる。 (イ)しかるに、光取り出し効率を向上させること自体は、ごくありふれた課題である。そうすると、当業者は、引用発明において深紫外光を発する「III族窒化物系化合物半導体層」構造を採用した場合においても、光取り出し効率を向上させる観点から、d/aの適切な値を適宜選択することができるというべきである。 そして、そのようにして選択された値は、相違点3で特定された数値範囲に属するということができる。なぜならば、引用発明は、その特定事項からみて、サファイア基板の厚さを大きくすることでサファイア基板の側面から出射する光を増加させることを通じて、光取り出し効率を向上するという技術思想を含むといえるところ、かかる技術思想は、本件補正発明の技術思想(本願明細書の【0020】等)と共通するからである。 (ウ)このようにして、当業者は、引用発明において深紫外光を発する「III族窒化物系化合物半導体層」構造を採用した場合において、相違点3で特定された数値範囲に属するところの、「平均長」に対する「T値」の倍率の値に至ることができる。 エ したがって、当業者は、引用発明、引用文献1に記載された技術的事項及び上記周知技術に基づいて相違点1及び3の構成に容易に想到し得る。 (6)相違点2の判断 引用発明は、「サファイア基板10」の「平面視における一辺の長さaもまた任意に設定することができ」るものである。 他方で、平面視における一辺の長さaが400μm以上であるLED素子は周知である(例えば、周知例3(315頁のFig.11)や周知例4(062101-1頁の左欄下から5行?右欄3行・Fig.1)を参照。)。 そうすると、引用発明において、「サファイア基板10」の「平面視における一辺の長さa」を400μm以上とすることは、当業者が適宜設計し得たことにすぎない。 (7)請求人の主張について ア 請求人は、審判請求書において、相違点3に係る構成は、相違点1に係る構成を前提としたものであるから、相違点1と相違点3とは密接不可分である旨主張する。 しかるところ、相違点1と相違点3との関連性を踏まえて検討したとしても、相違点1及び3が格別ではないことは、上記(5)で説示したとおりである。 イ 請求人は、引用文献1には、図4の全光量の相対値のデータに基づいて寸法aに対する厚さdの数値範囲を限定することについて、一切の開示も示唆もされていない旨主張する。 しかしながら、上記(5)ウ(イ)で説示したとおりである。 ウ 請求人は、本件補正発明が、相違点3に係る構成を得ることで、「チップの平面視形状が正方形か長方形かに関係なく、また、チップサイズに関係なく、チップ内部から出射された光の内、最大限取り出し得る光の約95%以上を、高効率にチップ外に取り出すことが可能となる」という顕著な効果を奏する旨主張する。 しかしながら、上記効果と関連する技術思想は、引用発明にも備わっている。すなわち、上記(5)ウ(イ)で認定したとおり、本件補正発明と引用発明は、サファイア基板の厚さを大きくすることでサファイア基板の側面から出射する光を増加させることを通じて、光取り出し効率を向上するものであるという意味で、技術思想が共通するものである。そして、請求人が主張する上記効果は、かかる技術思想と関連すると解される。よって、上記技術思想と関連する上記効果は、引用発明にも備わっているといえる。 したがって、上記効果が格別であるとは言い難い。 エ 以上のとおりであるから、請求人の主張を採用することはできない。 (8)独立特許要件の適否の小括 したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献1に記載された技術的事項及び上記各周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない。 4 補正の却下の決定についてのむすび 以上の次第で、本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第4 本願発明について 1 本願発明の認定 本件補正は、上記第3のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年1月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第3の[理由1]1で本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 原査定における拒絶の理由の概要 原査定における拒絶の理由の概要は、上記第2のとおりである。 3 引用文献の記載事項等の認定 原査定における拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、上記第3の[理由]3(2)で認定したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、上記第3の[理由]3で検討した本件補正発明から、「前記活性層から前記コンタクト層に向けて出射された光が、前記コンタクト層で吸収され、前記サファイア基板を通して素子外部に出力されない構造であ」るとの限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第3の[理由]3で判断したとおり、引用発明、引用文献1に記載された技術的事項及び上記各周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由で、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-07-18 |
結審通知日 | 2019-07-23 |
審決日 | 2019-08-09 |
出願番号 | 特願2015-558622(P2015-558622) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 島田 英昭 |
特許庁審判長 |
瀬川 勝久 |
特許庁審判官 |
山村 浩 近藤 幸浩 |
発明の名称 | 窒化物半導体発光素子 |
代理人 | 政木 良文 |