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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1355588
審判番号 不服2018-6299  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-08 
確定日 2019-10-03 
事件の表示 特願2017-113345「医療器具の遠隔操作装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月27日出願公開、特開2018-202032〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年6月8日に出願された特願2017-113345号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成29年12月 7日付け:拒絶理由通知
平成30年 1月25日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 3月13日付け:拒絶査定
平成30年 5月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年 6月26日 :上申書の提出

第2 平成30年5月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年5月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「床面上に設置される基台と、
前記基台上に設けられる支持機構と、
撮像部により撮像した画像を表示するスコープ型の表示部と、
関節および前記関節をロック状態とするためのロック機構を含み、前記表示部を支持する表示部支持アームと、
前記床面上において前記基台から離間した位置の操作者により操作可能なように前記支持機構により支持される、医療器具を遠隔で操作するための操作ハンドルと、
前記関節のロック状態を解除するために、前記スコープ型の表示部の側面または背面に設けられた把持部に設けられた解除機構と、を備える、医療器具の遠隔操作装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年1月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「床面上に設置される基台と、
前記基台上に設けられる支持機構と、
撮像部により撮像した画像を表示するスコープ型の表示部と、
関節を含み、前記表示部を支持する表示部支持アームと、
前記床面上において前記基台から離間した位置の操作者により操作可能なように前記支持機構により支持される、医療器具を遠隔で操作するための操作ハンドルと、
前記関節をロック状態とするロック機構と、
前記関節のロック状態を解除する解除機構とを備える、医療器具の遠隔操作装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1について、発明を特定するために必要な事項である「関節をロック状態とするためのロック機構を含む」対象を「表示部支持アーム」とする限定を付加するとともに、「解除機構」に関し、「スコープ型の表示部の側面または背面に設けられた把持部に設けられた」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載される発明の、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、米国特許出願公開第2015/0025547号明細書(2015年1月22日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(日本語訳は当審で付与した。)。

「[0023] In still yet another aspect, the systems, etc., are directed to a local surgical cockpit comprising a local surgical console configured for transmitting surgical movements of an operator operating the local surgical console to a remote surgery site, and comprising a local surgical instrument comprising at least three input fingers configured to provide input to a corresponding at least three remote surgical fingers configured to manipulate a remote surgical instrument at a remote operation site. The at least three input fingers can be configured to be manipulated by a single hand of an operator operating the local surgical instrument.」
([0023] さらに別の態様では、システム等は、局所手術用コンソールを操作するオペレータの外科手術動作を遠隔手術部位に伝達するように構成された局所手術用コンソール、及び遠隔操作部位で遠隔手術器具を操作するように構成された少なくとも3本の遠隔外科用指に入力可能とする少なくとも3本の入力指からなる局所手術器具を対象としている。少なくとも3本の入力指は、局所手術器具を操作するオペレータの片手で操作されるように構成することができる。)

「[0055] FIG. 1 depicts an exemplary cockpit and console according to various aspects and features discussed herein. Cockpit 2 comprises a surgical console 25 comprising screens, input devices and the like, and a structural frame 4 disposed on a base 6. The frame 4 provides physical support, directly or indirectly through other components, to the console components of the cockpit 2 such as robotic arms 20 and head mounted display 22 (HMD), and provides adjustable mounting capabilities for every desired element. ・・・」
([0055] 図1は、本明細書で説明する様々な態様および特徴の模範的なコックピットおよびコンソールを示している。コックピット2は、スクリーン、入力デバイスなどを含む手術用コンソール25と、ベース6上に配置された構造フレーム4を備えている。フレーム4は、ロボットアーム20とヘッドマウントディスプレイ22(HMD)といったコックピット2のコンソールコンポーネントに、直接的または他の構成要素を介して間接的に物理的な支持を提供するとともに、所望の構成要素に調整可能な据え付け機能を提供する。・・・)

「[0059] As shown in this embodiment, the frame 4 is articulatable and provides the ability to removably attach and adjust peripheral devices such as monitors 24, HMDs 22 and forearmrests 18 and input devices 34 and for such peripheral devices to articulate in unison with respect to a stationary base 6 and/or seat 8. For example, when the seat position is modified, the location of the display and input device 34 move accordingly so that the relative position of the peripheral devices to the surgeon stays substantially the same. ・・・
[0060] Articulated mechanical linkages and interfaces can be provided in the frame 4 for desired subsystems such as (1) two sets of articulated linkages 28, 30 for attaching the displays 50 such as an array of screens or monitors (one such monitor 24 is shown in FIG. 1 and FIG. 2 connected to articulated linkage 28) and the HMD 22, which is connected to HMD articulated linkage 30; (2) two interfaces 32 to support the arms and the input device 34; (3) a footrest support interface 36 to support the foot pedals 38 and the footrest 12; and, (4) a seat interface 40 to support the seat 8. All of these interfaces can be fully adjustable. Additional interfaces include headrest support interface 42 and backrest support interface 44. Friction based mechanical joints, or other suitable connectors, lock the cockpit 2 in the desired position. Interfaces that change their position frequently, such as interface 28 for the HMD 22, can be locked in place by electro-mechanical brakes.」
([0059] この実施形態に示すように、フレーム4は関節運動可能であり、モニタ24、HMD22、前部のアームレスト18、入力装置34などの周辺機器を取り外し可能かつ調整可能とし、そのような周辺機器が固定ベース6および/又はシート8に対して調和して関節運動する能力を提供する。例えば、シート位置が変更されたとき、ディスプレイ及び入力装置34の位置は変更に応じて移動し、外科医にとって周辺機器の位置はほぼ同じとなる。・・・
[0060] 関節でつながれた機械的結合及びインタフェースは、以下の望ましいサブシステムをフレーム4に提供する。(1)整列されたスクリーンやモニタ(1つのそのようなモニタ24は図1、2に示され関節接続されたリンク28により接続される)および関節接続されたリンク30により連結されたHMD22が取り付けられる2組の関節接続されたリンク28、30、(2)アームと入力装置34を支持する2つのインターフェイス32、(3)足ペダル38とフットレスト12を支持するフットレストサポートインターフェイス36、(4)シート8を支持するシートインターフェイス40。これら全てのインターフェイスは完全に調節可能である。追加のインターフェースは、ヘッドレストサポートインターフェース42および背もたれを支持するインターフェース44を含む。機械的な関節や他の適切な連結による摩擦は、コックピット2を望ましい配置に固定する。HMD22のインターフェイス28のような、しばしばその位置を変更するインターフェイスは、電気機械的ブレーキによりロックされる。)

「[0065] FIG. 1 shows a frame-mounted HMD 22; FIG. 6 depicts a head-borne HMD 22 comprising a headset 90. The embodiment in FIG. 6 comprises a head strap 46 and a vertical strap 48 and 3-D audio input device 80. The display 50 is disposed in front of the eyes of a user.」
([0065] 図1は、フレームに取り付けられたHMD22を示し、図6は、ヘッドセット90を備えるHMD22を示している。図6の実施形態は、ヘッドストラップ46、垂直ストラップ48および音声入力装置80を備えている。ディスプレイ50は、ユーザの眼の前方に配置されている。)

「[0068] More specifically, FIG. 14 depicts an exemplary conceptual layout of the visual information displayed by the cockpit 2 to the surgeon. ・・・Information will flow to this display 50 from the endoscope/camera(s) targeting the remote surgical site 52 and remote target 56 within such site. In some embodiments, the display in FIG. 14 as well as haptic feedback and other information from the remote surgical site and/or operating room are transmitted to multiple local surgical cockpits. This allows, e.g., surgeons in completely different locales to operate simultaneously on a single surgical site with the same visual display, as depicted in FIG. 14 , or with visual displays containing identical core information as well as additional custom information as desired by the surgeon. ・・・」
([0068] より具体的には、図14は、コックピット2の外科医に表示される視覚情報の例示的なの概念的レイアウトを示す。・・・情報は、遠隔手術部位52およびそのような部位内の遠隔標的56に目標を定めた内視鏡/カメラからこのディスプレイ50に流れる。いくつかの実施形態では、図14の表示ならびに遠隔手術部位および/又は手術室からの触覚フィードバックおよび他の情報は、複数の局所手術コックピットに送信される。これにより、例えば全く異なる場所にいる外科医が、図14に示すように同じ視覚的表示で、または外科医によって望まれるような同一のコア情報および追加のカスタム情報を含む視覚的表示で単一の手術部位で同時に手術できる。・・・)

「[0081] Turning to FIGS. 10-13 , the master input device 34 is a multi degree of freedom (DOF) haptic device including two subsystems: (a) an articulated haptic arm 62 and (b) a three fingers haptic hand 64. Three capabilities that input device 34 typically includes to facilitate the fundamental control of surgical tools by the surgeon through the cockpit 2 comprise: (1) positioning and orientation of the tool tip in space requires 6 parameters - Cartesian position (x,y,z), and angular orientation (x y z θ, θ, θ); (2) scaling factors introduced such that the motion of the surgeon hands controlling the input device 34 can be scaled down (attenuate) or up (amplify) with respect to the robot; and, (3) indexing (“clutching”), which allows the surgeon to disengage the input device 34 from the robot to reposition his/her arms and engage again.」
([0081] 図10-13に移ると、マスタ入力装置34は、2つのサブシステム、(a)関節式触覚アーム62及び(b)3本指の触覚ハンド64、を含む多自由度(DOF)触覚装置である。外科医によるコックピット2を介した外科用器具の基本的な制御を容易にする以下の3つの機能を有する。(1)空間における器具先端の位置決めおよび配向は、6つのパラメータ-デカルト位置(x,y,z)および角度配向(x y z θ, θ, θ)を必要とする、(2)ロボットに対して入力装置34を制御する外科医の手の動きを縮小(減衰)または拡大(増幅)できるように導入された倍率、(3)割り出し(「クラッチ」)、これにより外科医は入力装置34をロボットから外して腕を再配置して再び係合することができる。)

「図1



「図6



(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 段落[0065]の「図6は、ヘッドセット90を備えるHMD22を示している。図6の実施形態は、ヘッドストラップ46、垂直ストラップ48および音声入力装置80を備えている。ディスプレイ50は、ユーザの眼の前方に配置されている。」との記載、段落[0068]の「より具体的には、図14は、コックピット2の外科医に表示される視覚情報の例示的なの概念的レイアウトを示す。・・・情報は、遠隔手術部位52およびそのような部位内の遠隔標的56に目標を定めた内視鏡/カメラからこのディスプレイ50に流れる。」との記載から、内視鏡が目標を定めた情報は、HMD22のディスプレイ50に表示される、といえる。

b 段落[0060]の「関節でつながれた機械的結合及びインタフェースは、以下の望ましいサブシステムをフレーム4に提供する。(1)整列されたスクリーンやモニタ(1つのそのようなモニタ24は図1、2に示され関節接続されたリンク28により接続される)および関節接続されたリンク30により連結されたHMD22が取り付けられる2組の関節接続されたリンク28、30」、「これら全てのインターフェイスは完全に調節可能である。」、「機械的な関節や他の適切な連結による摩擦は、コックピット2を望ましい配置に固定する。HMD22のインターフェイス28のような、しばしばその位置を変更するインターフェイスは、電気機械的ブレーキによりロックされる。」との記載から、HMD22は機械的に関節接続されたリンク30によりフレーム4に取り付けられるとともに、機械的な関節は電気機械的ブレーキによりロックされる、といえるとともに、ロック解除を行う機能を備えている、といえる。

c 段落[0023]の「システム等は、局所手術用コンソールを操作するオペレータの外科手術動作を遠隔手術部位に伝達するように構成された局所手術用コンソール、及び遠隔操作部位で遠隔手術器具を操作するように構成された少なくとも3本の遠隔外科用指に入力可能とする少なくとも3本の入力指からなる局所手術器具を対象としている。」との記載、段落[0059]の「この実施形態に示すように、フレーム4は関節運動可能であり、モニタ24、HMD22、前部のアームレスト18、入力装置34などの周辺機器を取り外し可能かつ調整可能とし、そのような周辺機器が固定ベース6および/又はシート8に対して調和して関節運動する能力を提供する。例えば、シート位置が変更されたとき、ディスプレイ及び入力装置34の位置は変更に応じて移動し、外科医にとって周辺機器の位置はほぼ同じとなる。」との記載、段落[0081]の「マスタ入力装置34は、2つのサブシステム、(a)関節式触覚アーム62及び(b)3本指の触覚ハンド64、を含む多自由度(DOF)触覚装置である。」との記載及び図1から、ベース6からオペレータは離間してコックピット2に着座している点が見て取れることから、ベースから離間した位置のオペレータにより操作できるようにフレーム4に設けられる、遠隔手術器具を操作するように構成された3本の入力指を含む入力装置34が記載されている、といえる。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ベース6と、
ベース6上に配置されたフレーム4と、
内視鏡が目標を定めた情報は、HMD22のディスプレイ50に表示され、
HMD22は機械的に関節接続されたリンク30によりフレーム4に取り付けられるとともに、機械的な関節は電気機械的ブレーキによりロックされ、
ベース6から離間した位置のオペレータにより操作できるようにフレーム4に設けられる、遠隔手術器具を操作するように構成された3本の入力指を含む入力装置34を備えるとともに、
ロック解除を行う機能を備えている、遠隔手術器具を操作する局所手術用コンソール。」

イ 引用文献2
(ア)原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2005-292452号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「【0018】
以下、本発明の第1の実施の形態を図1乃至図9を参照して説明する。図1は手術時に患者の術部Pの拡大観察画像を表示する本実施の形態の画像観察装置を示すものである。図1中で、参照符号1は術部Pの観察画像を撮像する撮像装置である。この撮像装置1には撮像カメラ2と、この撮像カメラ2を自由に移動調整可能に支持する支持装置、例えば多関節アーム3とが設けられている。撮像カメラ2には術部Pの観察像を電子画像として拡大3次元画像を撮像する左右一対のCCD44L,44R(図3参照)を備えた観察光学系が内蔵されている。
【0019】
また、術部Pの近傍位置には撮像装置1とは異なる場所に術部Pの観察画像を表示する表示パネル(表示手段)4が配設されている。この表示パネル4は、例えばフレネル凹面鏡パネルで構成され、支持架台(架台部)5によって3次元的に移動可能に支持されている。」

「【0028】
表示パネル支持アーム42は、図2に示すようにL字状に屈曲され、横アーム42aと縦アーム42bとを有するL字状アームによって形成されている。そして、表示パネル支持アーム42の横アーム42aが縦アーム35の下端部に取り付けられている。
【0029】
表示パネル支持アーム42の縦アーム42bの下端部にはパネルホルダ42cが固定されている。このパネルホルダ42cには、表示パネル4が取付けられている。さらに、表示パネル支持アーム42の横アーム42aには、画像投影手段を構成する左右一対のプロジェクター43L、43Rが取付けられている。
【0030】
また、縦アーム42bには略L字状のグリップアーム42dの一端部が連結されている。このグリップアーム42dの他端部には表示パネル4の横方向に配置されるグリップ部42eが連結されている。このグリップ部42eには2つの操作ボタン42f、42gが上下に並設されている。上側の操作ボタン42fは後述する第1のスイッチ48、下側の操作ボタン42gは後述する初期位置設定スイッチ58をそれぞれオンオフ操作するものである。」

「【0033】
図4は、支持架台5の操作アーム8の動作を制御する、例えばワークステーションなどの制御部46の接続状態を示す。この制御部46には、第1電磁ブレーキ9b、第2電磁ブレーキ21b、第3電磁ブレーキ31b、第4電磁ブレーキ38b、第5電磁ブレーキ41b、第1モータ31m、第2モータ38m、第3モータ41mがそれぞれ接続されているとともに、支持架台5の操作用の第1のスイッチ48が接続されている。
【0034】
第1のスイッチ48は、第1電磁ブレーキ9b、第2電磁ブレーキ21b、第3電磁ブレーキ31b、第4電磁ブレーキ38b、第5電磁ブレーキ41bをオンオフ操作するものである。第1のスイッチ48のオン操作時には上記各電磁ブレーキ9b,21b,31b,38b,41bによる操作アーム8の各軸受部9,21,31,38,41のロックが解除され、操作アーム8が3次元的に自由に移動可能に切替え操作される。さらに、第1のスイッチ48のオフ操作時には上記各電磁ブレーキ9b,21b,31b,38b,41bによって操作アーム8の各軸受部9,21,31,38,41がロックされ、操作アーム8が固定状態に切替え操作される。」

「図1



「図2



(イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術(以下「引用文献2技術」という。)が記載されていると認められる。
「支持アーム42の縦アーム42bの下端部に、術部Pの観察画像を表示する表示パネル4が取付けられるとともに、略L字状のグリップアーム42dが取り付けられ、グリップアーム42dの下端には操作アーム8のロック解除を行う第1のスイッチ48を有するグリップ部42eが設けられた技術。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「ベース6」は、その文言の意味、機能または構成等からみて、本件補正発明の「基台」に相当する。以下同様に、「配置された」は「設けられる」に、「フレーム4」は「支持機構」に、「内視鏡が目標を定めた情報」は「撮像部により撮像した画像」に、「HMD22のディスプレイ50」は「スコープ型の表示部」に、「機械的な関節」は「関節」に、「電気機械的ブレーキ」は「ロック機構」に、「ロックされ」は「ロック状態とする」に、「取り付けられる」は「支持する」に、「リンク30」は「表示部支持アーム」に、「オペレータ」は「操作者」に、「設けられる」は「支持される」に、「遠隔手術器具を操作する」は、「医療器具を遠隔で操作する」に、「遠隔手術器具を操作する局所手術用コンソール」は「医療器具の遠隔操作装置」にそれぞれ相当する。
(イ)引用発明の「ベース6」は、その上にフレーム4をはじめとする各種機構を配置するとともにオペレータが乗り込み、遠隔手術を実施するものであるから、床面上に設置されることは明らかである。
(ウ)上記(イ)のとおり、引用発明の「ベース6」は、床面上に設置されることは明らかであるから、引用発明の「ベースから離間した位置のオペレータ」は、床面上においてベースから離間した位置に存在することは明らかである。
(エ)引用発明の「3本の入力指を含む入力装置34」は、本件補正発明の「操作ハンドル」と、医療機器の遠隔操作の入力部となる機構である限りにおいて一致する。
(オ)引用発明の「ロック解除を行う機能」は、本件補正発明の「関節のロック状態を解除するため」の「解除機構」といえる。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「床面上に設置される基台と、
前記基台上に設けられる支持機構と、
撮像部により撮像した画像を表示するスコープ型の表示部と、
関節および前記関節をロック状態とするためのロック機構を含み、前記表示部を支持する表示部支持アームと、
前記床面上において前記基台から離間した位置の操作者により操作可能なように前記支持機構により支持される、医療機器の遠隔操作の入力部となる機構と、
前記関節のロック状態を解除するための解除機構と、を備える、医療器具の遠隔操作装置。」

【相違点1】
医療機器の遠隔操作の入力部となる機構として、本件補正発明は「操作ハンドル」であるのに対して、引用発明では「3本の入力指を含む入力装置」である点。

【相違点2】
本件補正発明の解除機構は、スコープ型の表示部の側面または背面に設けられた把持部に設けられたのに対して、引用発明では設置箇所が特定されていない点。

(4)判断
上記相違点について判断する。
ア 相違点1について
遠隔操作の入力機構として、操作ハンドルを用いることは、例を挙げるまでもなく、この種の装置における常套手段であることから、引用発明の入力装置34を操作ハンドルとすることは、当業者が容易に想到できたものである。

イ 相違点2について
引用文献2には(2)イ(イ)の引用文献2技術、すなわち、操作アーム8のロック解除を行う第1のスイッチ48をグリップ部42eに設けることが記載されているところ、引用文献2の図2におけるグリップ部42eと表示パネル4との位置関係を踏まえると、引用文献2技術のグリップ部42eは、表示パネル4の近傍に設けられたものといえる。
また、表示パネルの側面にスイッチを有するグリップを取り付けることは、本願の出願前において周知の技術的事項である(必要あらば、例えば特表2003-517883号公報の図16、17参照。)。
ここで、引用発明における「ディスプレイ50」と引用文献2技術の「表示パネル4」は、いずれも撮像された画像を表示するという同様の機能を奏していることから、引用発明の「ディスプレイ50」に、引用文献2技術の「スイッチ48を有するグリップ部42e」を設けることは当業者が容易に想到できたものであり、その適用に当たり上記周知の技術的事項を踏まえ、相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到できたものである。

また、請求人は平成30年6月26日付け上申書において、関節のロック状態を解除するために、スコープ型の表示部の側面または背面に設けられた把持部に設けられた解除機構という構成により、操作者がスコープ型の表示部を覗き込みながらでも、スコープ型の表示部の側面または背面に設けられた把持部の解除機構を容易に認識して操作することができる格別な効果を奏する、旨主張するが、当該効果は引用発明、引用文献2技術及び本願の出願前において周知の技術的事項から予測できる程度のものであって、格別なものとはいえないことから、出願人の上記主張は当を得たものではなく、採用することはできない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年1月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定されるとおりの、前記第2[理由]1(2)に記載されたものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、前記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、「関節をロック状態とするためのロック機構を含む」対象を「表示部支持アーム」とした限定を削除するとともに、「解除機構」に関し、「スコープ型の表示部の側面または背面に設けられた把持部に設けられた」との限定を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、本件補正発明と引用発明との相違点である上記相違点1において相違し、その余の点で一致するものである。
そして、上記相違点1は前記第2[理由]2(4)アにおける検討内容と同様の理由により当業者が容易に想到できたものであるところ、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-02 
結審通知日 2019-08-06 
審決日 2019-08-19 
出願番号 特願2017-113345(P2017-113345)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大屋 静男  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 井上 哲男
沖田 孝裕
発明の名称 医療器具の遠隔操作装置  
代理人 宮園 博一  

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