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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1355593
審判番号 不服2018-9312  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-05 
確定日 2019-10-03 
事件の表示 特願2014-140663号「端子金具、及び、端子金具付き電線」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月 1日出願公開、特開2016- 18671号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成26年7月8日の出願であって、平成30年3月9日付けで通知された拒絶の理由に対し、平成30年4月23日に意見書及び手続補正書が提出された後、平成30年5月24日付けで拒絶査定がされ(発送日:平成30年5月29日)、これに対し、平成30年7月5日に本件拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成30年9月27日に上申書が提出されたものである。

2 平成30年7月5日の手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1) 本件補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「一端に開口を有する筒状に形成され前記開口側から電線の導体の端末が挿入され圧着される導体圧着部を備え、
前記導体圧着部は、当該導体圧着部の内外面を貫通する貫通丸孔部を有し、
前記貫通丸孔部は、前記導体圧着部の周方向に沿って複数で、かつ、前記電線の延在方向と直交する方向に対して互いに対向する部分にそれぞれ複数形成されることを特徴とする、
端子金具。」
と補正された(下線は補正箇所を示す。本件補正後の前記請求項1に係る発明を、以下、「本願補正発明」という。)。

(2) 本件補正の目的
本件補正は、請求項1に係り、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「貫通丸孔部」について、それが「電線の延在方向と直交する方向に対して互いに対向する部分にそれぞれ複数」形成されるものであることの限定事項を付加したものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)を目的とするものに該当するので、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3) 引用例
ア 本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭47-128058号(実開昭49-83580号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア) 「端子の一端電線挿入口に電線の導体部を挿入して圧着接続する圧着端子において、圧着端子1の内面の圧着部分2から3に導体挿入口4方向にむかって開いたテーパ部を形成しそのテーパ部に凹凸を形成したことを特徴とする圧着端子。」(実用新案登録請求の範囲)

(イ) 「以下図に於いて本考案の実施例を説明する。
図は本考案による圧着端子の要部断面図を示す。図に於いて圧着端子1の圧着部の内面2から3は導体5を挿入する挿入口4方向ヘテーパ状に開いた円錐状をなし、内面に数個のネジ山が切られている。外部からPなる力で端子1の圧着部を圧縮すると圧縮量が小さい間は内径の小さい部分のネジ山が導体5に喰込み、圧縮量が大きくなると圧着部の内面2から3は更に内径の大きいネジ山のある部分に移行して喰込む。したがって圧縮量が小さい場合、内径の小さい部分のネジ山で導体5は圧着され、また圧縮量が大きい場合でも内径の大きい部分のネジ山によって圧着されて細線と端子との接続を確実に且容易に行なうことが出来る。
以上説明した如く本考案による圧着端子を使用して圧着接続すると、広範囲の圧縮量により圧着工具の管理を容易にし、最高の接続強さを保持して安定した接続が得られる効果を生じる。」(明細書2ページ6行-同3ページ3行)

(ウ) 図




(エ) 図には、圧着端子1に電線を挿入した圧着接続前の状態を示す断面図が示されており、当該図の記載内容から電線の導体5の端末が挿入口4に挿入されていることが看てとれる。

(オ) これらの事項を総合すると、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。

「一端に挿入口を有する内面形状が円錐状をなし前記挿入口に電線の導体が挿入され圧着接続される圧着部を備え、
前記圧着部は、
導体に喰込む数個のネジ山が内面に切られており、
圧縮量が小さい場合、内径の小さい部分のネジ山で導体は圧着され、また圧縮量が大きい場合でも内径の大きい部分のネジ山によって圧着されて細線と端子との接続を確実に且容易に行なうことが出来る
圧着端子。」

イ 本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭46-2829号(実開昭47-2488号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(カ) 「偏平部とシリンダー部とより成る銅の端子片において該シリンダー部の胴周部分の随意個所に任意個数の歯止め孔を設けアルミ線の端を上記シリンダー部に挿通して上記シリンダー部諸共圧潰縮締することを特徴とするアルミ線用圧着端子部。」(実用新案登録請求の範囲)

(キ)「以下図について此れを説明すれば、1は銅の端子片で偏平座部Bと壜状部(シリンダー部)Cとよりなり、このシリンダー部Cには本考案においては、その胴周部分の随意個所に任意の歯止め孔Hを形成したことを特徴とするもので、CA線2の端をC部に挿通した上で適宜の縮締圧潰工具を用いてC部をCA線諸共圧潰するものである。かくすればCA線の表層部は上記歯止め孔H内にはみ出し、入り込んで隆起ロツク部分hが多数形成される。むろんCA線端はC部の口端からもはみ出すことはあるとしても、H孔に向つてはみ出し易いことと、この結果生ずるロツク部分hによる歯止め効果によつてC部の口端へのはみ出しは抑制されることは自明であり、同時にC部内におけるCA線の圧潰縮締に対する反力も増強されることになる。このようにして本案によればCA線端は右にも左にも移動し得ない形となり、また接触状態は良好に改善され、且つ長期の使用においても相互結着状態に弛緩を生ずることなき効果がある。尚、孔Hはテーパー状でなくともよろしく、また貫通孔とも限らない。」(明細書2ページ12行-同3ページ12行)

(ク) 第1図及び第2図




(ケ) 第1図はCA線2端に銅の圧着端子片1を取付けた構造を示し、第2図は端子部の縦断面を示しており、特に、符号「H」の引き出し線が、シリンダー部Cの上下及び側部に延びていることに着目すると、第1図及び第2図の記載内容から、シリンダー部Cの胴周部分の随意個所として軸方向及び周方向に丸い歯止め孔Hが複数個所に形成されていることが看てとれる。

(コ) これらの事項を総合すると、引用例2には次の技術的事項(以下「引用例2記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

「CA線諸共圧潰する圧着端子部のシリンダー部Cは、その胴周部分に貫通孔の丸い歯止め孔Hを有し、
C部をCA線諸共圧潰すれば、CA線の表層部は歯止め孔H内にはみ出し、入り込んで隆起ロツク部分hが多数形成され、
歯止め孔Hは、シリンダー部Cの胴周部分の随意個所として軸方向及び周方向の複数個所に形成される圧着端子部。」

ウ 本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された特開平4-160770号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(サ) 「導線を圧着接続する圧着端子において、その導線挿入孔の内壁面に、これに対して垂直方向の複数の凹孔を、該導線挿入孔の軸方向に沿って形成したことを特徴とする圧着端子。」(2.特許請求の範囲)

(シ) 「第1図及び第2図は本発明の一実施例を示す。
同図において、1は円形の導線挿入孔2が形成された例えばりん青銅から成るコネクタのピンコンタクトの圧着端子で、これは断面円形をなし、その直径上に導線挿入孔2を通る該孔2の径より僅かに小さい円形の貫通孔3が圧着端子1の導線挿入孔2の軸方向に沿って2個所に形成されている。
この圧着端子の導線挿入孔2に、第3図及び第5図に示すように、例えば軟銅線単線から成る導線4を挿入し、型で上下方向から圧着端子1に圧力を加えると、圧着端子1と導線4は、第6図に示すように変形して圧着端子1は導線4に圧着し、貫通孔3と導線挿入孔2とが交叉することにより形成される角部5は、第7図示のように、導線4に食い込み、導線4の貫通孔3対応部は貫通孔3内に侵入する。かくして、導線4は、2つの貫通孔3の間では2つの貫通孔侵入部によって内部応力を発生し、圧着端子1と導線4の材料の相違に基づく線膨張係数の違いにより、環境の変化で圧着端子1と導線4との間に隙間が発生しようとするとき、前記内部応力で導線4は圧着端子1の伸縮に追従するため、圧着端子1と導線4との間に隙間が生じない。また前記角部5は導線挿入孔2の上下にできこれが圧着端子に上下方向から圧力を加えたときに導線4に食い込むので、圧着端子1及び導線4に酸化皮膜があった場合、これを破ることができる。」(2ページ右上欄7行-左下欄15行)

(ス) 第1図-第7図




(セ) 上記「(シ)」の記載を参照すると、上記「(ス)」の第1図-第7図の記載内容から、「貫通孔3は、圧着端子1の周方向に沿って2つ、すなわち複数で、かつ、導線4の延在方向と直交する方向に対して互いに対向する部分にそれぞれ、第2図において左右の2箇所、すなわち複数形成されていること」が看てとれる。

(ソ) これらの事項を総合すると、引用例3には次の技術的事項(以下「引用例3記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

「導線4に圧着する圧着端子1が、圧着端子1を貫通する円形の貫通孔3を有し、貫通孔3は、圧着端子1の周方向に沿って複数で、かつ、導線4の延在方向と直交する方向に対して互いに対向する部分にそれぞれ複数形成されること。」

エ 本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された特開平7-153502号公報(以下、「引用例4」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(タ) 「【0005】図11は、完全に組立てられて圧着された従来例の端子の斜視図である。図12は、図11の端子の圧着前の分解斜視図である。図11及び図12を参照すると、従来例の腐蝕防止用に封止された端子11は、インサートスリーブ4を受容する為の開口端3を有する中空のバレル2を含む。インサートスリーブ4は、スリットが設けられており複数の穴5を有する。傾斜のついた挿入リング6は、インサートスリーブ4の後部でバレル2に受容され、ケーブルCのワイヤの撚り線7(導体)の挿入或いは導入を容易にしている。端子1は更に平坦な舌片8を有し、舌片8には取付用の孔9が穿設されている。端子1は無垢の銅から作られるのが望ましいが、アルミニウムから製造して銅、錫、銀めっき等をしてもよい。ケーブルCは湿気を通さない絶縁性の外被を有し、必要ならば、この外被は耐摩耗性の外被によって更に覆われてもよい。
【0006】これらの部品が組立てられた後、図11に示す如く端子1は圧着されワイヤの撚り線7を保持する。圧着過程では、前述の米国特許第3,955,044 号公報の中で説明した如く、ワイヤの撚り線7はインサートスリーブ4の穴5を通って押し出される。
【0007】図11及び図12に示す如く、単一のケーブルCの撚り線7を成端する以外にも、2本の個別のケーブルの各撚り線7間を突き合せ接続(スプライス)してもよい。それ故、本発明では”端子”と「スプライス」という用語は互換性のある同じ用語として使用する。
【0008】意図した目的を十分達成する一方で、限度的な用途に於いては、インサートスリーブは圧着前にワイヤの撚りによって回転を起こしやすい。これによって圧着工程中に端子に亀裂が生じることがある。
【0009】従って、本発明の目的は従来技術、特に圧着過程に於いて端子の回転によりある条件下で位置ずれすることによる端子の亀裂を減少させることである。」

(チ) 【図12】




(ツ) 【図12】の記載内容から、インサートスリーブ4を貫通する丸い穴5が、インサートスリーブ4の周方向に沿って複数で、かつ、ケーブルCの延在方向と直交する方向に対して互いに対向する部分にそれぞれ複数形成されることが看てとれる。

(テ) これらの事項を総合すると、引用例4には次の技術的事項(以下「引用例4記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

「ケーブルCの撚り線7に圧着するインサートスリーブ4が、インサートスリーブ4を貫通する丸い穴5を有し、穴5は、インサートスリーブ4の周方向に沿って複数で、かつ、ケーブルCの延在方向と直交する方向に対して互いに対向する部分にそれぞれ複数形成されること。」

(4) 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
用語の意味・内容や技術的意義からして、引用発明の「挿入口」は本願補正発明の「開口」に相当し、以下同様に、引用発明の「内面形状が円錐状をなし」た態様は、本願補正発明の「筒状に形成され」た態様に、引用発明の「挿入口に電線の導体が挿入され」た態様は、本願補正発明の「開口側から電線の導体の端末が挿入され」た態様に、引用発明の「圧着接続される」態様は、本願補正発明の「圧着される」態様に、引用発明の「圧着部」は、本願補正発明の「導体圧着部」に、引用発明の「圧着端子」は、本願補正発明の「端子金具」に、それぞれ相当する。
また、本願補正発明の「導体圧着部は、当該導体圧着部の内外面を貫通する貫通丸孔部を有し、前記貫通丸孔部は、前記導体圧着部の周方向に沿って複数で、かつ、前記電線の延在方向と直交する方向に対して互いに対向する部分にそれぞれ複数形成される」態様と、引用発明の「圧着部は、導体に喰込む数個のネジ山が内面に切られており、圧縮量が小さい場合、内径の小さい部分のネジ山で導体は圧着され、また圧縮量が大きい場合でも内径の大きい部分のネジ山によって圧着されて細線と端子との接続を確実に且容易に行なうことが出来る」態様とは、本願の明細書の段落【0022】の「そして、端子金具付き電線1は、導体圧着部31において、圧着本体部34に形成されるエッジ部35を構成する各貫通丸孔部38が、当該導体圧着部31に圧着された導体21に引っ掛かり食い込むことで、導体21が導体圧着部31から抜けにくくすることができ、端子金具3と電線2との保持力を向上することができる。そしてさらに、端子金具付き電線1は、導体圧着部31において、例えば、エッジ部35を構成する各貫通丸孔部38の角部によって導体21の表面の酸化皮膜が破られ、あるいは削り取られることで、導体21の導電面(新生面)が導体圧着部31に極めて低い電気抵抗で接触し、端子金具3と導体21とが接触導通する。これにより、端子金具付き電線1は、端子金具3と導体21との接触抵抗を安定させることができ、導通性能を向上することができる。また、端子金具付き電線1は、端子金具3と導体21とがエッジ部35を構成する各貫通丸孔部38を介して接触することで接触面積が増大するので、この点でも電気抵抗を低減し、接触抵抗を安定させることができ、導通性能を向上することができる。」との記載内容からして、本願補正発明の「貫通丸孔部」が少なくとも導体に食い込むものであることからすると、「導体圧着部は、導体に食い込む部位が複数形成される」態様の限りにおいて一致している。

したがって、両者は、
「一端に開口を有する筒状に形成され前記開口側から電線の導体の端末が挿入され圧着される導体圧着部を備え、
前記導体圧着部は、導体に食い込む部位が複数形成される、
端子金具。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
「導体圧着部は、導体に食い込む部位が複数形成される」態様に関し、本願補正発明では、「導体圧着部は、当該導体圧着部の内外面を貫通する貫通丸孔部を有し、前記貫通丸孔部は、前記導体圧着部の周方向に沿って複数で、かつ、前記電線の延在方向と直交する方向に対して互いに対向する部分にそれぞれ複数形成される」ものであるのに対して、引用発明では、「圧着部は、導体に喰込む数個のネジ山が内面に切られており、圧縮量が小さい場合、内径の小さい部分のネジ山で導体は圧着され、また圧縮量が大きい場合でも内径の大きい部分のネジ山によって圧着されて細線と端子との接続を確実に且容易に行なうことが出来る」ものである点。

(5)判断
上記<相違点>について検討する。
引用例2記載事項の「CA線」は「導体」といえるし、同様に、「シリンダー部C」は「導体圧着部」といえるし、「シリンダー部Cは、その胴周部分に貫通孔の丸い歯止め孔Hを有」することは「導体圧着部の内外面を貫通する貫通丸孔部を有」するといえるし、「歯止め孔Hは、シリンダー部Cの胴周部分の随意個所として軸方向及び周方向の複数個所に形成される」ことは「貫通丸孔部は、導体圧着部の軸方向及び周方向に沿って複数形成される」といえる。そして、引用例2記載事項の「歯止め孔Hは、シリンダー部Cの胴周部分の随意個所として軸方向及び周方向の複数個所に形成される」ことと「C部をCA線諸共圧潰すれば、CA線の表層部は歯止め孔H内にはみ出し、入り込んで隆起ロツク部分hが多数形成され」ることとを併せると、それらは結局、「導体圧着部は、導体に食い込む部位が複数形成される」ことといえる。
そして、引用発明の「圧着部は、内面に導体に喰込む数個のネジ山が切られている」ことは、導体に喰込む数個のネジ山が圧着部の周方向に沿って連続して設けられているといえ、また、数ピッチのネジ山を設けることや、いわゆる多条ネジを設けることを示唆するといえる。さらに、「内面形状が円錐状をなし」た引用発明において、「圧着部は、導体に喰込む数個のネジ山が内面に切られており、圧縮量が小さい場合、内径の小さい部分のネジ山で導体は圧着され、また圧縮量が大きい場合でも内径の大きい部分のネジ山によって圧着されて細線と端子との接続を確実に且容易に行なうことが出来る」のであるから、引用発明は、内径の小さい部分と大きい部分とに亘ってネジ山が設けられるといえる。
また、引用例3記載事項の「圧着端子1」及び引用例4記載事項の「インサートスリーブ4」は、それぞれ「導体を圧着する部材」といえるし、引用例3記載事項の「導線4」及び引用例4記載事項の「ケーブルC」は、それぞれ「電線」といえる。そして、引用例3記載事項の「円形の貫通孔3」及び引用例4記載事項の「貫通する丸い穴5」は、それぞれ「導体を圧着する部材の内外面を貫通する貫通丸孔部」といえる。そうすると、引用例3記載事項及び引用例4記載事項からすれば、「導体を圧着する部材が、当該導体を圧着する部材の内外面を貫通する貫通丸孔部を有し、前記貫通丸孔部は、前記導体圧着部の周方向に沿って複数で、かつ、前記電線の延在方向と直交する方向に対して互いに対向する部分にそれぞれ複数形成されること」は、本願出願前周知の技術的事項といえる。
そうすると、上記周知の技術的事項も考慮すれば、引用発明の導体に食い込む部位である「ネジ山」に替えて、引用例2記載事項の導体に食い込む部位である「貫通孔の丸い歯止め孔H」とし、引用発明の「導体圧着部は、導体に食い込む部位が複数形成される」態様の、導体に喰込む数ピッチあるいは多条のネジ山が圧着部の周方向に沿って連続して設けられ、内径の小さい部分と大きい部分とに亘ってネジ山が設けられるといえる態様として、引用例2記載事項の「CA線諸共圧潰する圧着端子部のシリンダー部Cは、その胴周部分に貫通孔の丸い歯止め孔Hを有し」「歯止め孔Hは、シリンダー部Cの胴周部分の随意個所として軸方向及び周方向の複数個所に形成される」態様とすることで、すなわち、「導体圧着部の内外面を貫通する貫通丸孔部を有し、貫通丸孔部は、導体圧着部の軸方向及び周方向に沿って複数形成される」といえる態様とすることで、引用発明をして本願補正発明の上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。

そして、本願補正発明の効果は、本願の明細書の記載(審判請求書にて引用されている記載を含む)をみても、当業者にとって格別予想外であるとはいえず、引用発明並びに上記引用例2記載事項及び上記周知の技術的事項から予測し得る程度のものと認められる。

よって、本願補正発明は、引用発明並びに上記引用例2記載事項及び上記周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
なお、平成30年9月27日に提出された上申書の内容を検討したが、この(5)の判断を左右するものではない。

(6) むすび
以上のとおりであって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願発明について
(1) 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項に係る発明を「本願発明」という。)は、平成30年4月23日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載からすると、以下のとおりのものと認められる。

「一端に開口を有する筒状に形成され前記開口側から電線の導体の端末が挿入され圧着される導体圧着部を備え、
前記導体圧着部は、当該導体圧着部の内外面を貫通する貫通丸孔部を有し、
前記貫通丸孔部は、前記導体圧着部の周方向に沿って複数形成されることを特徴とする、
端子金具。」

(2) 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用例1:実願昭47-128058号(実開昭49-83580号)のマイクロフィルム
引用例2:実願昭46-2829号(実開昭47-2488号)のマイクロフィルム

(3) 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1ないし2の記載事項並びに引用発明及び引用例2記載事項は、上記「2(3)ア、イ」のとおりである。

(4) 対比
本願発明は、前記「2」で検討した本願補正発明における「貫通丸孔部」について、それが「電線の延在方向と直交する方向に対して互いに対向する部分にそれぞれ複数形成される」ものであると特定していた点を削除したものに実質的に相当する。そうすると、本願補正発明は本願発明の構成をすべて備えるから、前記「2 (4)」にて検討したことからすれば、本願発明と引用発明とは、
「一端に開口を有する筒状に形成され前記開口側から電線の導体の端末が挿入され圧着される導体圧着部を備え、
前記導体圧着部は、導体に食い込むものが複数形成される、
端子金具。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点’>
「導体圧着部は、導体に食い込むものが複数形成される」態様に関し、本願発明では、「導体圧着部は、当該導体圧着部の内外面を貫通する貫通丸孔部を有し、前記貫通丸孔部は、前記導体圧着部の周方向に沿って複数形成される」ものであるのに対して、引用発明では、「圧着部は、導体に喰込む数個のネジ山が内面に切られており、圧縮量が小さい場合、内径の小さい部分のネジ山で導体は圧着され、また圧縮量が大きい場合でも内径の大きい部分のネジ山によって圧着されて細線と端子との接続を確実に且容易に行なうことが出来る」ものである点。

(5)判断
上記<相違点’>について検討する。
引用例2記載事項の「CA線」は「導体」といえるし、同様に、「シリンダー部C」は「導体圧着部」といえるし、「シリンダー部Cは、その胴周部分に貫通孔の丸い歯止め孔Hを有」することは「導体圧着部の内外面を貫通する貫通丸孔部を有」するといえるし、「歯止め孔Hは、シリンダー部Cの胴周部分の随意個所として軸方向及び周方向の複数個所に形成される」ことは「貫通丸孔部は、導体圧着部の軸方向及び周方向に沿って複数形成される」といえる。そして、引用例2記載事項の「歯止め孔Hは、シリンダー部Cの胴周部分の随意個所として軸方向及び周方向に複数形成される」ことと「C部をCA線諸共圧潰すれば、CA線の表層部は歯止め孔H内にはみ出し、入り込んで隆起ロツク部分hが多数形成され」ることとを併せると、それらは結局、「導体圧着部は、導体に食い込む部位が複数形成される」ことといえる。
そして、引用発明の「圧着部は、内面に導体に喰込む数個のネジ山が切られている」ことは、導体に喰込む数個のネジ山が圧着部の周方向に沿って連続して設けられているといえる。
そうすると、引用発明の導体に食い込む部位である「ネジ山」に替えて、引用例2記載事項の導体に食い込む部位である「貫通孔の丸い歯止め孔H」とすることで、引用発明の「導体圧着部は、導体に食い込む部位が複数形成される」態様である、導体に喰込む数個のネジ山が圧着部の周方向に沿って連続して設けられている態様として、引用例2記載事項の「CA線諸共圧潰する圧着端子部のシリンダー部Cは、その胴周部分に貫通孔の丸い歯止め孔Hを有し」「歯止め孔Hは、シリンダー部Cの胴周部分の随意個所として軸方向及び周方向の複数個所に形成される」態様とすること、すなわち、「導体圧着部の内外面を貫通する貫通丸孔部を有し、貫通丸孔部は、導体圧着部の軸方向及び周方向に沿って複数形成される」といえる態様とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の効果は、本願の明細書の記載をみても、当業者にとって格別予想外であるとはいえず、引用発明及び上記引用例2記載事項から予測し得る程度のものと認められる。

よって、本願発明は、引用発明及び上記引用例2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6) むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、本願は同法第49条第2号の規定に該当し、本願の他の請求項2ないし3に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をされるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-25 
結審通知日 2019-07-30 
審決日 2019-08-19 
出願番号 特願2014-140663(P2014-140663)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01R)
P 1 8・ 121- Z (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 学  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 田村 嘉章
内田 博之
発明の名称 端子金具、及び、端子金具付き電線  
代理人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所  

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