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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1355601
審判番号 不服2018-10761  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-07 
確定日 2019-10-03 
事件の表示 特願2014-105510「医療機器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月7日出願公開、特開2015-217260〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年5月21日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 1月25日付け :拒絶理由通知書
平成30年 4月 5日 :意見書及び手続補正書
平成30年 5月10日付け :拒絶査定
平成30年 8月 7日 :審判請求書及び手続補正書

第2 平成30年8月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年8月7日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)補正後
平成30年8月7日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、次のとおり補正された。(なお、下線部は補正箇所である。本件補正は、明細書【0087】についての補正も含む。)

「【請求項1】
表面上に少なくとも一層の薬剤層と、該薬剤層の外表面上に三層以上で且つ薬剤を含まない被覆層とを有し、
該被覆層は、水酸基を有する一般式(1)(式中nは、1以上の整数である。)または一般式(2)(式中mは、1以上の整数である。)で表される繰り返し単位を含有する高分子を含有し、該高分子の水酸基の一部が他の官能基に変換されており、
【化1】

【化2】

該高分子は、2%水溶液の粘度が5mPa・s以上1000mPa・s以下の高分子であることを特徴とする医療機器。
【請求項2】
前記高分子は、数平均分子量が30000以上200000以下の高分子であることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
前記高分子は、2%水溶液の粘度が8mPa・s以上650mPa・s以下の高分子であることを特徴とする請求項1または2に記載の医療機器。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位を含有する高分子は、エーテル化度が0.8?2.5の高分子であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の医療機器。
【請求項5】
前記高分子は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の医療機器。
【請求項6】
前記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する高分子は、けん化度が60?99%の高分子であることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の医療機器。
【請求項7】
前記高分子は、ポリビニルアルコール、エチレン-ポリビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール-ポリエチレン共重合体、ポリビニルアルコール-アクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の医療機器。
【請求項8】
前記薬剤層は、疎水性の薬剤を含有していることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の医療機器。
【請求項9】
前記薬剤は、パクリタキセルであることを特徴とする請求項8に記載の医療機器。
【請求項10】
前記医療機器は、カテーテル、ステント、ステントグラフト、チューブ、コイル、クリップ、弁のいずれか1種である請求項1?9のいずれかに記載の医療機器。」

(2)補正前
本件補正前の、平成30年4月5日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲は、次のとおりである。

「【請求項1】
表面上に少なくとも一層の薬剤層と、該薬剤層の外表面上に二層以上で且つ薬剤を含まない被覆層とを有し、
該被覆層は、水酸基を有する高分子を含有し、該高分子の水酸基の一部が他の官能基に変換されていることを特徴とする医療機器。
【請求項2】
前記高分子は、数平均分子量が30000以上200000以下の高分子であることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
前記高分子は、2%水溶液の粘度が5mPa・s以上1000mPa・s以下の高分子であることを特徴とする請求項1または2に記載の医療機器。
【請求項4】
前記高分子は、一般式(1)
【化1】

(式中nは、1以上の整数である。)で表される繰り返し単位を含有する高分子であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の医療機器。
【請求項5】
前記高分子は、エーテル化度が0.8?2.5の高分子であることを特徴とする請求項4に記載の医療機器。
【請求項6】
前記高分子は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項4または5に記載の医療機器。
【請求項7】
前記高分子は、一般式(2)
【化2】

(式中mは、1以上の整数である。)で表される繰り返し単位を含有する高分子であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の医療機器。
【請求項8】
前記高分子は、けん化度が60?99%の高分子であることを特徴とする請求項7に記載の医療機器。
【請求項9】
前記高分子は、ポリビニルアルコール、エチレン-ポリビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール-ポリエチレン共重合体、ポリビニルアルコール-アクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項7または8に記載の医療機器。
【請求項10】
前記薬剤層は、疎水性の薬剤を含有していることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載の医療機器。
【請求項11】
前記薬剤は、パクリタキセルであることを特徴とする請求項10に記載の医療機器。
【請求項12】
前記医療機器は、カテーテル、ステント、ステントグラフト、チューブ、コイル、クリップ、弁のいずれか1種である請求項1?11のいずれかに記載の医療機器。 」

2 補正の適否
本件補正のうち、請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「外表面に二層以上」、及び、「水酸基を有する高分子」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項等(下線は当合議体が付した。)
ア 引用文献4
(ア)原査定の拒絶の理由において引用文献4として引用された国際公開第2013/045126号(以下「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。(訳文は、対応日本語ファミリー文献である特表2014-527884号公報による。)

(摘記4a)
「1 . A catheter balloon with a coating comprising at least one active agent and a top coat consisting of a polyvinyl alcohol - polyethylene glycol graft copolymer.

2. Catheter balloon according to claim 1 , wherein the polyvinyl alcohol - polyethylene glycol graft copolymer consists of 75% polyvinyl alcohol units and 25% polyethylene glycol unita.

10. Catheter balloon according to claim 9, wherein the at least one active agent is selected from the group consisting of:
paclitaxel and paclitaxel derivatives, taxanes, docetaxel, sirolimus, sirolimus derivatives, biolimus A9, pimecrolimus, everolimus, myolimus, novolimus, ridaforolimus, temsirolimus, zotarolimus, tacrolimus, fasudil and epothilones.

13. Balloon catheter comprising a catheter balloon according to any of the claims 1 - 12.
14. Balloon catheter according to claim 13 suitable to prevent or to reduce restenosis. 」(38?41頁、特許請求の範囲)

(和訳:
【請求項1】
少なくとも1つの活性薬剤と、
ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートと
を含むコーティングを有するカテーテルバルーン。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体は、75%ポリビニルアルコール単位と25%ポリエチレングリコール単位とからなることを特徴とする、請求項1に記載のカテーテルバルーン。

【請求項10】
前記少なくとも1つの活性薬剤は、
パクリタキセルおよびパクリタキセル誘導体、タキサン、ドセタキセル、シロリムス、シロリムス誘導体、バイオリムスA9、ピメクロリムス、エベロリムス、ミオリムス、ノボリムス、リダホロリムス、テムシロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、ファスジルおよびエポチロン
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項9に記載のカテーテルバルーン。

【請求項13】
請求項1?12のいずれか1項に記載のカテーテルバルーンを含む、バルーンカテーテル。
【請求項14】
再狭窄を防止または低減するために好適な、請求項13に記載のバルーンカテーテル。)

(摘記4b)
「The present invention is directed to catheter balloons and balloon catheters with such catheter balloons coated with at least one layer containing at least one antiproliferative, immunosuppressive, anti-angiogenic, anti-inflammatory, anti- restenotic and/or anti-thrombotic agent and a top coat consisting of a polyvinyl alcohol - polyethylene glycol graft copolymer as well as the use of these balloon catheters for the prevention of restenoses. 」(1頁3?8行)

(和訳:
【0001】
(説明)
本発明は、少なくとも1つの増殖抑制剤、免疫抑制剤、血管新生抑制剤、抗炎症剤、抗再狭窄剤および/または抗血栓剤を含有する少なくとも1つの層と、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーン、および前記カテーテルバルーンを備えたバルーンカテーテル、ならびに再狭窄を防止するための前記バルーンカテーテルの使用に関する。)

(摘記4c)
「It is an objective of the present invention to apply at least one active agent onto a catheter balloon in such a manner that a coating is created which can be effectively transferred to the vessel wall but is easily detached from the balloon during inflation so that a therapeutic effect concerning reduction of restenosis can be achieved best. 」(3頁13?16行)

(和訳:
【0011】
本発明の目的は、血管壁に効果的に移送され得るが膨張中にはバルーンから容易に分離されるコーティングを創出し、再狭窄低減の治療効果を最適に達成できるように、少なくとも1つの活性薬剤をカテーテルバルーン上に塗布することである。)

(摘記4d)「The top coat consists preferably of a polyvinyl alcohol - polyethylene glycol graft copolymer and thus does preferably not contain any active substance or any other ingredient or component of the coating. The active agent layer or also named as active agent coat may consist of the pure active agent, preferably paclitaxel, or may comprise further components such as shellac,…. The layer consisting of the active agent or comprising the active agent is below the top coat and can be directly on the balloon surface or can be applied on an additional base layer which is below the active agent layer and preferably the base layer is directly coated on the balloon surface. 」(4頁1?12行)

(和訳:
【0014】
トップコートは、好ましくは、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなり、従って好ましくは、活性物質またはその他のコーティング材料の構成成分を含有しない。活性薬剤層(または活性薬剤コートとも呼ばれる)は、純粋な活性薬剤、好ましくはパクリタキセルからなり、またはさらにセラック、…等のさらなる構成成分を含んでもよい。活性薬剤からなるまたは活性薬剤を含む層は、トップコートの下に位置し、且つバルーン表面上に直接位置する。または、前記層は、活性薬剤層の下に位置するさらなるベース層上に塗布することができ、前記ベース層は好ましくはバルーン表面上に直接コーティングされる。)

(摘記4e)
「Said graft copolymer of the top coat may also comprise 0.1 % to 0.5%, preferably 0,3%, colloidal silica to improve its flow properties. The preferred polyvinyl alcohol - polyethylene glycol graft copolymer dissolves readily in acidic, neutral and alkaline aqueous media, wherein the resulting solutions have a comparatively low viscosity. The molecular weight of the graft copolymer is between 30,000 Daltons to 60,000 Daltons, more preferred between 40,000 Daltons to 50,000 Daltons, still more preferred between 42,000 and 48,000 Dalton and is most preferably around 44,000 - 46,000 Daltons. A clear colourless flexible film remains after evaporation of the water, when an aqueous solution of the graft copolymer is applied on a smooth surface. Other preferred variations of top coat components can comprise polyvinyl acetate dispersion (27%) stabilized with povidone (2,7%) and sodium lauryl sulphate (0,3%) or methyl methacrylate and diethylaminoethyl methacrylate copolymer dispersion, wherein the solids concentration is approximately 30%.
A particularly preferred embodiment of the present invention is a catheter balloon with a coating comprising paclitaxel and a top coat consisting of a polyvinyl alcohol - polyethylene glycol graft copolymer. In one embodiment of the invention the material of the top coat is also present in the active-agent layer where it is mixed with the active agent.」(5頁1?18行)

(和訳:
【0020】
トップコートの前記グラフト共重合体は、流動性を向上させるため、0.1%?0.5%、好ましくは0.3%のコロイド状シリカをさらに含んでもよい。好ましいポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体は、酸性、中性、アルカリ性の水性媒体中で容易に溶解する。この場合、得られる溶液の粘度は比較的低い。グラフト共重合体の分子量は、30,000ダルトン?60,000ダルトン、より好ましくは40,000ダルトン?50,000ダルトン、さらにより好ましくは42,000?48,000ダルトン、最も好ましくは約44,000?46,000ダルトンである。グラフト共重合体の水溶液を平滑表面に塗布した場合、水の蒸発後に無色透明の柔軟性のある膜が残る。その他の好ましいトップコート構成成分の変形例として、ポビドン(2.7%)とラウリル硫酸ナトリウム(0.3%)で安定化させたポリ酢酸ビニル分散液(27%)またはメチルメタクリレートとジエチルアミノエチルメタクリレートの共重合体分散液が挙げられる。この場合、固形物濃度は約30%である。
【0021】
本発明の特に好ましい実施形態は、パクリタキセルと、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとを含むコーティングを有するカテーテルバルーンである。本発明の一実施形態では、トップコートの材料は、活性薬剤と混合されて活性薬剤層にも存在する。)

(摘記4f)
「Thus, all embodiments of the present invention comprise a top coat which is on top of the layer consisting of or comprising the active agent which is preferably paclitaxel. This top coat preferably covers completely the below layer of the active agent or containing the active agent. The top coat consists of a polyvinyl alcohol - polyethylene glycol graft copolymer and does preferably not contain any active agent and also not any polyethoxylated surfactant or polyethoxylated emulsifier and also no shellac. This special kind of top coat seems to be important to secure the coating on the catheter balloon and to prevent wash off and release of the active agent, especially paclitaxel, during insertion of the to the stenotic vessel region, but also to ensure and support the transfer of the active agent to and into the vessel during dilatation. Consequently, the polyvinyl alcohol - polyethylene glycol graft copolymer top coat seems to be an essential part of the present invention. 」(8頁4?15行)

(和訳:
【0028】
従って、本発明の全実施形態は、好ましくはパクリタキセルである活性薬剤からなる層または前記活性薬剤を含む層の上部に位置するトップコートを含む。このトップコートは、好ましくは、活性薬剤の下層または活性薬剤を含有する下層を完全に覆う。トップコートは、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなり、好ましくは、活性薬剤、ポリエトキシル化界面活性剤またはポリエトキシル化乳化剤、およびセラックを含有しない。この特殊な種類のトップコートは、カテーテルバルーン上にコーティングを固定し、狭窄血管領域への挿入中の活性薬剤、特にはパクリタキセルの洗い流しと放出を防止する一方で、膨張中の活性薬剤の血管中への移送を確実にし、且つ支援するために重要であると考えられる。従って、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートは、本発明の必須部分と考えられる。)

(摘記4g)
「An amount of 0.1μg to 250μg of top coat per mm ^(2) of the surface of the catheter balloon to be coated can be applied onto the active agent coating of the catheter balloon, while an amount up to 20 μg/mm ^(2) of the compound forming the top coat are sufficient in order to achieve the desired efficient transfer of the at least one active agent to the vessel wall tissue. Preferably the amount of the compound forming the top coat per mm ^(2) balloon surface is between 1 .0μ g/mm ^(2) and 15.0 μg/mm^( 2) , more preferably between 1 .5μg/mm ^(2) and 10.0μg/mm^( 2) , still more preferably between 2.0μg/mm ^(2) and 5.0μg/mm^( 2) , and most preferably between 2.5μg/mm ^(2) and 3.5μg/mm ^(2) . 」(26頁12?19行)

(和訳:
【0084】

コーティングするカテーテルバルーンの表面1mm^(2)当たり0.1μg?250μgの量のトップコートをカテーテルバルーンの活性薬剤コーティング上に塗布することができるが、少なくとも1つの活性薬剤を血管壁組織に効率的に移送するという所望の効果を達成するには、トップコート形成化合物の量は20μg/mm^(2)以下で十分である。バルーン表面1mm^(2)当たりのトップコート形成化合物の量は、好ましくは1.0μg/mm^(2)?15.0μg/mm^(2)、より好ましくは1.5μg/mm^(2)?10.0μg/mm^(2)、さらにより好ましくは2.0μg/mm^(2)?5.0μg/mm^(2)、最も好ましくは2.5μg/mm^(2)?3.5μg/mm^(2)である。)

(摘記4h)
「The following figures and examples illustrate potential embodiments of the invention without limiting the scope of the invention to said precise examples.

The inventors could show in a proof-of-principle study that among the devices tested, the balloon according to the invention comprising paclitaxel, shellac, Cremophor # ELP (polyethoxylated castor oil) and a top coat of PVA-PEG (Group 3) allows for the accumulation of therapeutic active agent concentrations in the arterial wall for at least 5 days, with peak tissue accumulation after 48 hours post deployment. Already one hour after vasodilatation using the balloon according to the invention comprising paclitaxel, shellac, Cremophor # ELP (polyethoxylated castor oil) and a top coat of PVA-PEG the average amount of paclitaxel in the arterial tissue was around 300 ng active agent/mg tissue. Similar results shows Group 2 testing a balloon coating of paclitaxel together with Cremophor # ELP (polyethoxylated castor oil) and a top coat of PVA-PEG. The average amount of paclitaxel in the arterial tissue for Group 4 comprising a balloon coating of paclitaxel together with Cremophor # ELP (polyethoxylated castor oil) and a top coat of PEG after 1 hour were considerably less and even worse were the results of Group 5 using a catheter balloon coating of paclitaxel together with Cremophor # ELP (polyethoxylated castor oil) and a top coat of PVA. Worst results (around 5 and 10 ng active agent/mg tissue) showed study Groups 1 and 6 using a catheter balloon without any top coat. In summary the proof-of-principle study shows that after vasodilatation using a paclitaxel eluting catheter balloon a top coat increases the amount of paclitaxel transferred to and incorporated by the arterial tissue. Further it could be shown that a top cot consisting of a polyvinyl alcohol - polyethylene glycol graft copolymer is more efficient that a top coat of polyvinyl alcohol or polyethylene glycol. Therefore the present invention relates to a catheter balloon coated with at least one active agent and a top coat on said active agent consisting of a polyvinyl alcohol-polyethylene glycol graft copolymer which seems to be to optimal top coat material for a paclitaxel coated catheter balloon. 」(30頁9行?末行。なお、「#」は、〇囲いのRの上付き文字を表す。以下同様。)

(和訳:
【0102】
以下の図および実施例は、可能な本発明の実施形態を示すが、本発明の範囲は前記詳細な実施例に制限されない。
発明者らは、原理実証研究において、試験を行った装置のなかで、パクリタキセル、セラック、Cremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)、およびPVA-PEGのトップコートを含む本発明のバルーン(グループ3)は、少なくとも5日間の動脈壁内の治療活性薬剤濃度の蓄積が可能であり、ピーク組織蓄積は配置後48時間であることを示すことができた。パクリタキセル、セラック、Cremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)、およびPVA-PEGのトップコートを含む本発明のバルーンを使用した血管拡張の1時間後には、動脈組織中のパクリタキセルの平均量は、組織1mg当たり活性薬剤約300ngであった。パクリタキセルおよびCremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)とPVA-PEGのトップコートのバルーンコーティングを試験するグループ2は、同様の結果を示す。パクリタキセルおよびCremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)とPEGのトップコートのバルーンコーティングを含むグループ4は、1時間後の動脈組織中のパクリタキセルの平均量がかなり少なかった。パクリタキセルおよびCremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)とPVAのトップコートのカテーテルバルーンコーティングを使用するグループ5の結果はさらに悪かった。トップコートを有さないカテーテルバルーンを使用する研究グループ1および6は、最悪の結果(組織1mg当たり活性薬剤約5および10ng)を示した。要約すると、パクリタキセル溶出性カテーテルバルーンを使用した血管拡張の後、トップコートは、動脈組織に移送され取り込まれるパクリタキセルの量を増加させることを原理実証研究は示している。さらに、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートは、ポリビニルアルコールまたはポリエチレングリコールのトップコートよりも効率的であることを示すことができた。従って、本発明は、少なくとも1つの活性薬剤と、前記活性薬剤上のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンに関する。ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体は、パクリタキセルでコーティングされるカテーテルバルーンの最適なトップコート材料と考えられる。」

(摘記4i)
「Example 5: Proof-of-principle study for the effective active agent transfer of 6 different paclitaxel-eluting balloons (referred to as DEB) in a healthy rabbit model

Six different catheter balloons with the following coatings and carrier matrices were evaluated:
Device 1 : paclitaxel-eluting balloon "Group 1 ", 3.0x20mm, 3.0μg/mm ^(2) Paclitaxel, 0.5μg/mm^( 2) Shellac, 2.5μg/mm^( 2) Cremophor # ELP (polyethoxylated castor oil) together in one layer
Device 2: paclitaxel-eluting balloon "Group 2", 3.0x20mm, 3.0μg/mm^( 2) Paclitaxel, 3.0μg/mm^(2) Cremophor # ELP (polyethoxylated castor oil) together in one layer and 3.0μg/mm ^(2) PVA-PEG as a top-coat
Device 3: paclitaxel-eluting balloon "Group 3 (referred to as DEB RESTORE)", 3.0x20mm, 3.0 μg/mm ^(2) Paclitaxel, 0.5μg/mm ^(2) Shellac, 2.5μg/mm ^(2) Cremophor # ELP (polyethoxylated castor oil) and 3.0μg/mm ^(2) PVA-PEG as a top-coat
Device 4: paclitaxel-eluting balloon "Group 4", 3.0x20mm, 3.0μg/mm ^(2) Paclitaxel, 3.0μg/mm 2 Cremophor # ELP (polyethoxylated castor oil) and 3.0μg/mm ^(2) PEG (average molecular weight of PEG within the range of 11 ,000 to 12,000 Daltons) as a top-coat
Device 5: paclitaxel-eluting balloon "Group 5", 3.0x20mm, 3.0μg/mm ^(2 ) Paclitaxel, and 3.0μg/mm ^(2) PVA as a top-coat (average molecular weight of PVA within the range of 30,000 Daltons to 35,000 Daltons)
Device 6: paclitaxel-eluting balloon "Group 6", 3.0x20mm, 3.0μg/mm ^(2) Paclitaxel together with 3μg/mm ^(2) Cremophor # ELP (polyethoxylated castor oil) 」(33頁4?28行)

(和訳:
【0104】

実施例5:健康なウサギモデルにおける6つの異なるパクリタキセル溶出性バルーン(DEBと称される)の効率的な活性薬剤の移送に関する原理実証研究

【0105】
以下のコーティングおよび担体マトリックスを有する6つの異なるカテーテルバルーンを評価した:
装置1:パクリタキセル溶出性バルーン「グループ1」、3.0×20mm、パクリタキセル3.0μg/mm^(2)、セラック0.5μg/mm^(2)、Cremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)2.5μg/mm^(2)を含む一層
装置2:パクリタキセル溶出性バルーン「グループ2」、3.0×20mm、パクリタキセル3.0μg/mm^(2)、Cremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)3.0μg/mm^(2)を含む一層、およびトップ-コートとしてのPVA-PEG3.0μg/mm^(2)
装置3:パクリタキセル溶出性バルーン「グループ3(DEB RESTORE)と称される」、3.0×20mm、パクリタキセル3.0μg/mm2、セラック0.5μg/mm^(2)、Cremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)2.5μg/mm^(2)、およびトップ-コートとしてのPVA-PEG3.0μg/mm^(2)
装置4:パクリタキセル溶出性バルーン「グループ4」、3.0×20mm、パクリタキセル3.0μg/mm^(2)、Cremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)3.0μg/mm^(2)、およびトップ-コートとしてのPEG(PEGの平均分子量は11,000?12,000ダルトン)3.0μg/mm^(2)
装置5:パクリタキセル溶出性バルーン「グループ5」、3.0×20mm、パクリタキセル3.0μg/mm^(2)、およびトップ-コートとしてのPVA(PVAの平均分子量は30,000ダルトン?35,000ダルトン)3.0μg/mm^(2)
装置6:パクリタキセル溶出性バルーン「グループ6」、3.0×20mm、パクリタキセル3.0μg/mm^(2)およびCremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)3μg/mm^(2 ) )

(イ)上記(ア)の記載によれば、引用文献4には、少なくとも1つの活性薬剤を含有する活性薬剤層と、該活性薬剤層の上にポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合からなるトップコートとを有するバルーンカテーテルが開示され(摘記4a、4d)、当該バルーンカテーテルは、再狭窄の防止などのために用いられるもので(摘記4a、4b)、トップコートは、狭窄血管領域への挿入中の活性薬剤の洗い流しと放出を防止する一方で、膨脹中の活性薬剤の血管中への移送を確実にし、且つ支援するために重要であり(摘記4f)、実施例におけるトップコートには、活性薬剤は含まれていない(摘記4h、4i;装置2及び装置3)。
また、カテーテルバルーンの表面1mm^(2)当たり0.1μg?250μgの量のトップコートを塗布することができ(摘記4g)、当該グラフト共重合体は、分子量は30,000ダルトンから60,000ダルトンであり、水性媒体に容易に溶解し、得られる溶液の粘度は比較的低く、当該グラフト共重合体の水溶液を平滑表面に塗布した場合、水の蒸発後に無色透明の柔軟性のある膜が残ること(摘記4e)が記載されている。
そうすると、引用文献4には、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。

「少なくとも1つの活性薬剤を含有する活性薬剤層と、該活性薬剤層の上にポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合からなる、薬剤を含まないトップコートとを有する、バルーンカテーテル。」

イ 引用文献3
(ア)原査定の拒絶の理由において引用文献3として引用された国際公開第2013/007653号(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。(訳文は、対応日本語ファミリー文献である特表2014-526916号公報による。)

(摘記3a)
「1. Catheter balloon coated with at least one fatty acid, oil or fat and sirolimus.

11 . Catheter balloon according to any of the claims 1 - 10, wherein the coating further comprises a top coat.

12. Catheter balloon according to claim 1 1 , wherein the top coat is selected from the group consisting of: polyacrylic acid and polyacrylates such as polymethylemethacrylate, polybutyl methacrylate, polyacrylamide, polyacrylonitriles, polyamides, polyether amides, polyethylenamine, polyimides, polycarbonates, polycarbourethanes, polyvinyl ketones, polyvinyl halogenides, polyvinyliden halogenides, polyvinyl ethers, polyvinyl aromates, polyvinyl esters, polyvinyl pyrollidones, polyvinyl alcohol, polyvinyl alcohol-polyethylene glycol graft copolymer, polyoxymethylenes, polyethylene, polypropylene, polytetrafluoroethylene, polyurethanes, polyolefine elastomers, polyisobutylenes, EPDM gums, fluorosilicones, carboxymethyl chitosane, polyethyl enterephthalate, polyvalerates, carboxymethyl cellulose, cellulose, rayon, rayontriacetates, cellulose nitrates, cellulose acetates, hydroxyethyl cellulose, cellulose butyrates, cellulose acetate-butyrates, ethylvinyl acetate copolymers, polysulfones, polyethersulfones, epoxy resins, ABS resins, EPDM gums, silicon prepolymers, silicones such as polysiloxanes, polyvinyl halogenes and copolymers, cellulose ethers, cellulose triacetates, chitosane, chitosane derivatives, natural polymers, polymerizable oils such as linseed oil and copolymers and/or mixtures thereof.

13. Catheter balloon according claim 1 1 or 12, wherein the top coat is selected from the group consisting of: polyvinyl alcohol-polyethylene glycol graft copolymer.

14. Balloon catheter comprising a catheter balloon according to any of the claims 1 - 13.

15. Balloon catheter according to claim 14 suitable to prevent or to reduce restenosis. 」

(和訳:
【請求項1】
少なくとも1つの脂肪酸、油または脂肪、およびシロリムスによりコーティングされたカテーテルバルーン。

【請求項11】
前記コーティングはさらにトップコートを含む、請求項1から10のいずれか1項に記載のカテーテルバルーン。
【請求項12】
前記トップコートは、ポリアクリル酸、およびポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなどのポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリエチレンアミン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリカーボウレタン、ポリビニルケトン、ポリビニルハロゲン化物、ポリビニリデンハロゲン化物、ポリビニルエーテル、ポリビニルアロメート、ポリビニルエステル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体、ポリオキシメチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリオレフィンエラストマー、ポリイソブチレン、EPDMゴム、フルオロシリコーン、カルボキシメチルキトサン、ポリエチレンテレフタレート、ポリバレレート、カルボキシメチルセルロース、セルロース、レーヨン、レーヨントリアセテート、セルロースナイトレート、セルロースアセテート、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースブチレート、セルロースアセテート‐ブチレート、エチルビニルアセテート共重合体、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、エポキシ樹脂、ABS樹脂、EPDMゴム、シリコーンプレポリマー、ポリシロキサンなどのシリコーン、ポリビニルハロゲンおよび共重合体、セルロースエーテル、セルローストリアセテート、キトサン、キトサン誘導体、天然ポリマー、アマニ油などの重合性油、ならびに、それらの共重合体および/または混合物からなる群から選択される、請求項11に記載のカテーテルバルーン。
【請求項13】
前記トップコートは、ポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなる群から選択される、請求項11または12に記載のカテーテルバルーン。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載のカテーテルバルーンを含むバルーンカテーテル。
【請求項15】
再狭窄を防止または低減するのに適した、請求項14に記載のバルーンカテーテル。)

(摘記3b)
「The object of the present invention is to provide a matrix for controlled release of sirolimus during dilatation. Thus object of the present invention is to provide a sirolimus eluting catheter balloon which is highly efficient in the treatment and prevention of restenosis.

It is further an objective of the present invention to apply sirolimus onto a catheter balloon in such a manner that a coating is created which can be effectively transferred to the vessel wall but is easily detached from the balloon during inflation so that a therapeutic effect concerning reduction of restenosis can be achieved.」(3頁33行?4頁2行)

(和訳:
【0014】
本発明の目的は、拡張術中にシロリムスを制御放出するためのマトリクスを提供することである。したがって、本発明の目的は、再狭窄の治療および予防において高度に効率的なシロリムス溶出カテーテルバルーンを提供することである。
【0015】
本発明の更なる目的は、再狭窄の低減に関する治療効果を達成することができるように、効果的に血管壁に運ばれ得るが拡張中のバルーンから容易に離脱するコーティングを作成するような方法で、シロリムスをカテーテルバルーンに塗布することである。)

(摘記3c)
「The invention is further directed to a catheter balloon comprising a coating with at least one fatty acid, especially with at least one free unsaturated fatty acid and more preferably free omega fatty acid, oil or fat and sirolimus, wherein the coating comprises a top coat. The top coat is applied to protect the coating of sirolimus from premature dissolution and mechanical damage. Therefore the top coat is advantageous, because it protects the coating from a "wash off' effect and saves it for the instant release of active agent at the position of action. Preferred components of the top coating are … and particularly preferred is a top coat of a polyvinyl alcohol-polyethylene glycol graft copolymer consisting of 75% polyvinyl alcohol units and 25% polyethylene glycol units which has preferably an average molecular weight within the range of 40,000 Daltons to 50,000 Daltons.」(22頁24行?23頁11行)

「The term "top layer" or "top coat" as used herein refers to a layer of the balloon coating free of any active agent which overlays the at least one sirolimus containing layer.」(23頁25?27行)

(和訳:
【0082】
…トップコートは、シロリムスコーティングを早期溶解および機械的損傷から保護するために塗布される。したがって、トップコートはコーティングを「ウォッシュオフ」効果から保護し、活性薬剤を作用部位で直ちに放出できるよう保持するため有益である。トップコートの好ましい成分は、…である。より好ましいのは、ポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体であり、特に好ましいのは、好ましくは40,000ダルトンから50,000ダルトンの範囲内の平均分子量を有する、75%のポリビニルアルコール単位および25%のポリエチレングリコール単位からなるポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートである。)
(【0084】…本明細書で使用される「最上層」または「トップコート」という用語は、少なくとも1つのシロリムス含有層を覆ういかなる活性薬剤をも含まないバルーンコーティング層を指す。)

(摘記3d)
「Example 9: Coating of a catheter balloon with sirolimus, a-linolenic acid and shellac in a two layer system with addition of a top coat
The balloon of a balloon catheter is cleaned as described in the example 6. After cleaning a first layer of 0.25 % by weight of sirolimus, α-linolenic acid and shellac dissolved in DMSO is continuously sprayed on the balloon surface of a rotating balloon catheter. This layer is dried for 4.5 hours at room temperature. Subsequently the second layer of an ethanol solution with 0.1 % polyvinyl alcohol- polyethylene glycol graft copolymer is sprayed on this first layer. The balloon catheter with the coated balloon is dried over 24 hours at 50℃. The average coating mass is determined to be 0.25 mg ± 0.02 mg. Optionally the coated catheter balloon may be folded and an uncoated or active agent-coated stent may be crimped on the folded catheter balloon. 」(32頁7?18行)

(和訳:
【0119】
実施例9:トップコートを付加した2層システムにおける、シロリムス、α‐リノレン酸、およびセラックによるカテーテルバルーンのコーティング
バルーンカテーテルのバルーンは、実施例6に記載のとおり洗浄される。洗浄後、DMSOに溶解した0.25重量%のシロリムス、α‐リノレン酸、およびセラックの第1層は、回転するバルーンカテーテルのバルーン表面に、連続的にスプレーされる。この層は室温で4.5時間乾燥される。続いて、0.1%のポリビニルアルコール‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含むエタノール溶液の第2層がこの第1層上にスプレーされる。コーティングされたバルーンを有するバルーンカテーテルは50℃で24時間以上乾燥される。平均コーティング質量は0.25mg±0.02mgであると測定される。任意選択的には、コーティングされたカテーテルバルーンは折りたたまれてもよく、未コーティングの、または活性薬剤でコーティングされたステントは折りたたまれたカテーテルバルーンに圧着されてもよい。)

(摘記3e)
「Example 12: Study of restenosis inhibition by sirolimus after angioplasty and stent implantation in the coronary arteries of pigs
The balloon surfaces of balloon catheters suitable for vessel dilatation has been coated as described in table 9. After drying a common, uncoated metal stent was crimped on each balloon catheter. The balloon catheter together with the stents were sterilized packed into protective covers and stored until usage at roomtemperature.

For stimulation of restenosis caused by tissue hyperplasia coronary vessels (LAD and LCx) of 50 pigs were stretched using a balloon catheter. The animals used were female and castrated male pigs of Yorkshire breed. The weight of the animals at the beginning of the experiment ranged between 24 to 35 kg; the age of the animal was about 1 2 to 1 5 weeks. The group size was five animals each.

The vessel dilatation of LAD and LCx using balloon dilatation was performed for 30 seconds in the ratio balloon / artery in the range of 1 .2 to 1 and 1 .3 to 1 and was repeated once. Thereafter, the crimped stents were implanted into the vessel wall so that a stent was implanted in LAD and LCx of each animal. For the balloon dilatation balloons coated according to the invention were used. Table 9 shows an overview of the used coatings and coating methods.


After 28 days angiography was carried out at the LAD and LCx of the animals. Stenosis grad gives the percent reduction of the lumen diameter in the area of the stent to the lumen diameter immediately after implantation of the stent. Values are expressed as mean values ± standard deviation. Differences compared to group 1 which was treated with balloon catheters with uncoated balloons were considered significant at a value of P <0.05. The results are shown in Table 10.


」(33頁4行?34頁6行、表10)

(和訳:
【0122】
実施例12:プタの冠動脈における血管形成術およびステント留置術後のシロリムスによる再狭窄抑制の実験
血管拡張術に適したバルーンカテーテルのバルーン表面は表9に記載のとおりコーティングされた。乾燥後、一般的な、未コーティングの金属製ステントが各バルーンカテーテルに圧着された。ステントを伴うバルーンカテーテルは滅菌され保護カバーに梱包され、常温で使用されるまで保管された。
【0123】
組織過形成により引き起こされた再狭窄を刺激するために、50頭のブタの冠血管(LAD(左冠動脈前下行枝))およびLCx(左冠動脈回旋枝))がバルーンカテーテルを使って引き伸ばされた。使用動物はヨークシャー種のメスおよび去勢されたオスのブタであった。実験開始時の動物の体重は24から35kgの範囲で、動物の年齢はおよそ12から15週であった。群の大きさは各5頭であった。
【0124】
バルーン拡張術を用いたLADおよびLCxの血管拡張は、1.2対1から1.3対1までの範囲のバルーン/動脈比で30秒間行われ、1度繰り返された。その後、圧着されたステントが血管壁に挿入され、ステントは各動物のLADおよびLCxに留置された。バルーン拡張術には、本発明によりコーティングされたバルーンが使用された。表9に使用コーティングおよびコーティング法の概要を示す。
【0125】
【表9】


【0126】
28日後に動物のLADおよびLCxで血管造影が行われた。狭窄度は、ステント領域の管腔径の、ステント留置直後の管腔径に対する減少のパーセントを示す。数値は平均値±標準偏差として表される。未コーティングのバルーンを有するバルーンカルーテルで治療された群1と比べた差は、P値<0.05で有意と認められた。結果を表10に示す。
【0127】
【表10】


)

(イ)上記(ア)の記載によれば、引用文献3には、少なくとも1つの脂肪酸、油または脂肪、およびシロリムスを含むコーティングの上に、トップコートを有するバルーンカテーテルが開示され(摘記3a)、当該バルーンカテーテルは、再狭窄の防止などのために用いられるもので(摘記3b)、トップコートは、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、カルボキシメチルセルロース等から選択される、活性薬剤を含まないコーティング層を指し、シロリムスコーティングを早期溶解および機械的損傷から保護し、活性薬剤(シロリムス)を作用部位で直ちに放出できるように保持するため有益であること(摘記3a、3c)が記載されている。
そうすると、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「少なくとも1つ脂肪酸、油または脂肪、およびシロリムスを含むコーティングの上に、活性薬剤を含まないトップコートを有する、バルーンカテーテル。」

ウ ポリビニルアルコールについての技術常識
(ア)原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用された「医薬品添加物事典 2007,p.275」には、以下の事項が記載されている。

「ポリビニルアルコール(完全けん化物)

【概要】…ポリ酢酸ビニルをけん化して得た重合物で、…、けん化度は97mol%以上である。」

「ポリビニルアルコール(部分けん化物)

【概要】…ポリ酢酸ビニルをけん化して得た重合物で、…、けん化度は78?96mol%である。」

(イ)上記(ア)の記載によれば、本願出願前に、ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをけん化して得た重合物であり、けん化度は完全けん化度であれば97%以上、部分けん化物であれば78?96%程度であり、ポリビニルアルコールには、ある程度けん化されていない部分(水酸基が-OCOCH_(3)に変換されている。)があることは技術常識であった。

エ コーティング液の粘度についての周知技術
(ア)国際公開第2014/066760号(国際公開日 2014年5月1日)には、次の事項が記載されている。(原文は英文なので訳文で示す。訳文は、対応日本ファミリー文献である特表2016-504058号公報による。)

「【請求項12】
コーティング方法であって、
回転機構を用いて500回転/分を超える速度で医療器具を回転させるステップと、
前記医療器具に流体アプリケータを接触させるステップと、
前記流体アプリケータを用いて前記器具にコーティング液を塗布するステップと、を含む、方法。

【請求項17】
前記コーティング液が、1?50センチポアズの粘度を有する、請求項12?16及び18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記コーティング液が、50?5000センチポアズの粘度を有する、請求項12?17のいずれか1項に記載の方法。」(原文:請求項12,17,18)

「【0095】
コーティング液
本明細書の実施形態に関連して使用されるコーティング液は、限定されるものではないが、1つ以上の活性剤、担体剤、溶媒(水性及び/又は非水性)、ポリマー(分解性又は非分解性ポリマーを含む)、モノマー、マクロマー、賦形剤、光反応化合物、及び架橋剤を含む様々な成分を含み得ることを理解されたい。コーティング液の成分の相対量は、様々な因子によって決まる。
【0096】
コーティング液は、コーティング液が塗布される医療器具に様々な機能特性を付与するように配合することができる。一例として、コーティング液は、潤滑性;抗感染性、治療性、及び耐久性などを付与するように配合することができる。」(原文:28頁12?20行)

(イ)国際公開第2007/116959号には、次の事項が記載されている。

「請求の範囲
[12] 基板上に皮膚を穿孔可能な複数のマイクロニードルを備えたマイクロニードルデバ イスのコーティング方法であって、前記マイクロニードルおよび Zまたは基板の一部 または全面にポリビュルアルコールを包含するコーティング担体をコ一ティングする 工程と、前記コーティング担体を乾燥させ固着する工程とを含むことを特徴とするマイ クロニードルデバイスのコーティング方法。

[14] 前記コーティング担体の固着前の前記ポリビニルアルコールの粘度が1?60,000cpsであり、かつその平均重合度が200?3500である請求項12または13記載のマ イクロニードルデバイスのコーティング方法。」

「[0019] コーティング担体中のポリビニルアルコール含量は、1?20重量%であり、特に3?8重量%が好ましい。また、このコーティング担体は、液だれすることのないようある程度の粘性が必要であり、粘度として1?60,000cps程度必要である。より好ましい粘度は、30?30,000cpsであり、更に粘度が100?20,000cpsであると最も好ましい。」

(ウ)上記(ア)及び(イ)によれば、本願出願前に、種々の医療機器に対するコーティングを行うに当たり、塗布性等を考慮して、コーティング液の粘度を、1?数千mPa・s(cps)程度の粘度に調整することは周知技術であった。

オ 塗布回数についての慣用技術
(ア)特開昭57-89868号公報には、次の事項が記載されている。

「実施例12
-自己支持性キトサンフイルムのヘパリン化
キトサンフィルムを、表面処理されていないポリプロピレン上に1%酢酸水溶液中の2%キトサン溶液をコーテイングすることにより作る。約50?約250ミクロンの望ましい厚さ、好ましくは約100?約150ミクロンの厚さを得るために数回のコーテイングが必要とされる。乾燥されたフイルムは容易にはがされ、そして次に1%ヘパリンナトリウム溶液(…)中に室温で20時間沈められる。このフィルムを取り出し、蒸留水で完全にすすぐ。トルイデンプルーによる着色及びIR分析は、フィルム内のヘパリンの存在を立証する。このフィルムは、人工心肺、左心室補助装置及び心臓弁において便用されることが考えられる。」(9頁左下欄5?20行)

(イ)特表2011-510110号公報には、次の事項が記載されている。

「【0027】
本発明の或る好ましい実施形態は、異なる機能をもつ層が一体結合された多層設計の留置尿ドレナージカテーテルを提供する。」

「【0037】
一実施形態では、細長ロッドすなわち「成形品(form)」が第1液体コーティング材料中に浸漬され、コーティング材料の層を成形品上に形成する。成形品は、カテーテルのドレナージルーメン118の形状および寸法を有している。この第1コーティング層は、カテーテルの内層すなわちゴム引き層130を形成する。ひとたび第1層130が乾燥されたならば、細長ワイヤが、第1層130の外面に長手方向に取付けられる。次に、第1層130およびワイヤを備えた成形品が、第2コーティング材料中に浸漬され、中間層すなわちビルドアップ層132を形成する。適当な厚さの中間層132を形成するには第2コーティング材料中への多数回の浸漬が必要である。次に、膨張ルーメン140を第2層132の周囲の大気に連通させる膨張アイ144が、第2層132の遠位端の近くに形成される。次に、ビルドアップ層132が乾燥される。次の浸漬により仕上げ層134が形成されかつ乾燥される。」

(ウ)国際公開第2013/090693号には、次の事項が記載されている。(原文は英文なので訳文で示す。訳文は、対応日本語ファミリー文献である特表2015-506732号公報による。)

「【請求項1】
構成部分として、カテーテル本体及び少なくとも1つのコネクターを含むカテーテルであって、カテーテル本体が、外側表面と、少なくとも250:1のアスペクト比を有する少なくとも1つの内腔であり、その上に親水性ポリマー層を含む内腔内表面を有する内腔とを有し、親水性ポリマー層が、少なくとも約50nmの平均乾燥厚さを有することを特徴とするカテーテル。」

「【0295】 例示的な一実施形態において、1?5(重量/重量)%のウレタンを含む溶液を、適切な重量のウレタンペレットをテトラヒドロフランなどの適切な有機溶媒に溶解すること、及びその溶液をメタノールなどの第2溶媒で希釈することによって、調製することができる。最終メタノール濃度は、好ましくは、10%?90%、より好ましくは15%?85%、最も好ましくは60%である。過酸化ベンゾイル又は過酸化ジクミルなどの1種又は複数の適切な開始剤分子を、ポリマー溶液に典型的には約0.25%?約10%の濃度で添加する。しかし、0.25%未満及び10%を超える濃度も採用できる。任意の所望の基体をポリマー/開始剤の溶液に、所望のコーティング厚さ及び/又は開始剤表面濃度が達成されるまで、1回又は複数回曝露することができる。基体が複数回曝露されるなら、溶媒は、典型的には、溶液への各曝露の間に、コーティングされた基体から例えば蒸発によって除去される。最終曝露の後に、基体を、重合反応混合物中に配置するに先立って、少なくとも10分間静置させて残留溶媒を蒸発させてもよい。 」(日本語ファミリー文献では【0226】)

(エ)上記(ア)?(ウ)の記載によれば、本願出願前に、カテーテル等の医薬機器の表面をコーティング液で被覆するに当たり、所望の被覆の厚みとするために、数回に分けて被覆を行うことは、慣用の技術であった。

(3)本件補正発明と引用発明4との対比・判断
ア 対比
本件補正発明のうち、一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子を含有する発明と、引用発明4とを対比する。
引用発明4の「少なくとも1つの活性薬剤を含有する活性薬剤層」、「活性薬剤を含まない」「トップコート」及び「バルーンカテーテル」は、それぞれ本件補正発明の「少なくとも一層の薬剤層」、「被覆層」及び「医療機器」に相当する。
引用発明4の「ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体」は、本件補正発明の「水酸基を有する」「一般式(2)(式中mは、1以上の整数である。)で表される繰り返し単位を含有する高分子」に相当する。
そうすると、本件補正発明と引用発明4との一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「表面上に少なくとも一層の薬剤層と、該薬剤層の外表面上に薬剤を含まない被覆層とを有し、該被覆層は、水酸基を有する一般式(2)(式中mは、1以上の整数である。)で表される繰り返し単位を含有する高分子を含有する、医療機器。」

<相違点1>
本件補正発明は、「高分子の水酸基の一部が他の置換基に変換されて」いるのに対し、引用発明4は、そのような特定をしていない点。

<相違点2>
本件補正発明は、「2%水溶液の粘度が5mPa・s以上1000mPa・s以下の高分子」であるのに対し、引用発明4は、粘度を特定していない点。

<相違点3>
本件補正発明は、被覆層が「三層以上」であるのに対し、引用発明4は、トップコート(被覆層)の層数を特定していない点。

イ 判断
(ア)相違点1について
上記(2)ウのとおり、本願出願前に、 ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをけん化して得た重合物であり、けん化度は完全けん化度であれば97%以上、部分けん化物であれば78?96%程度であり、ポリビニルアルコールには、ある程度けん化されていない部分(水酸基が-OCOCH_(3)に変換されている)があることは技術常識であった。
そうすると、引用発明4のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体におけるポリビニルアルコール部分は、その水酸基の一部が-OCOCH_(3)に変換されている状態であるものと理解するのが相当である。
このような理解は、本願明細書の実施例5においても、「ポリビニルアルコール」を用いており、特段、その水酸基が他の官能基に変換されていることは記載されていないこととも整合する。
したがって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

(イ)相違点2について
引用文献4には、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体は、酸性、中性、アルカリ性の水性媒体中で容易に溶解し、得られる溶液の粘度は比較的低いこと、また、当該グラフト共重合体の分子量は、30,000ダルトン?60,000ダルトンであり、グラフト共重合体の水溶液を平滑表面に塗布した場合、水の蒸発後に無色透明の柔軟性のある膜が残ることが記載され(摘記4e)、実施例においては、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートの溶液を塗布して乾燥することにより、トップコートを形成している(摘記4h、4i)。
そして、上記(2)エのとおり、本願出願前に、種々の医療機器に対するコーティングを行うに当たり、塗布性等を考慮して、コーティング液の粘度を、1?数千mPa・s(cps)程度の粘度に調整することは周知技術であった。
そうすると、引用発明4において、トップコートの溶液の粘度を、塗布性等を考慮して好適なものとなるように設定することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎず、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体の「2%水溶液の粘度が5mP・s以上1000mP・s以下」程度となるように設定することに、特段の創意工夫を要したとはいえない。

(ウ)相違点3について
上記(2)オのとおり、本願出願前に、カテーテル等の医薬機器の表面を高分子で被覆するに当たり、所望の被覆の厚みとするために、数回に分けて被覆を行うことは、慣用の技術であった。
そうすると、引用文献4には、バルーンカテーテルの表面1mm^(2)当たり0.1μg?250μgの量のトップコートを塗布することができるとされており(摘記4g)、この数値の範囲内で、トップコートの役割(狭窄血管領域への挿入中の活性薬剤の洗い流しと放出を防止し、膨脹中の活性薬剤の血管中への移送を確実にし、且つ支援すること。摘記4f)を果たすことができる程度の量とするために、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートの溶液を数回、例えば、3回に分けて被覆を行うことによりトップコートを3層以上とすることは、当業者が必要に応じてなし得た事項にすぎない。

(エ)効果について
本件補正発明が、被覆層のない場合や被覆層が2層以下の場合に比べ、より、病変部位へ薬剤を送達でき薬剤の溶出を抑制できるという効果(図4)は、層の数が増えると層の厚みが増すことや、引用文献4に記載されたトップコートの役割(摘記4f)から、当業者が予測可能なものといえる。
そして、本願明細書の実施例5において、被覆層を形成する溶液として9.1%のポリビニルアルコール水溶液を用いたことが記載されているものの、2%のポリビニルアルコール水溶液の粘度は記載されていないこと、及び、被覆層を形成する溶液又は2%水溶液の粘度を変化させた場合の効果について具体的に示されていないことから、本件補正発明の「2%水溶液の粘度が5mP・s以上1000mP・s以下の高分子」という数値範囲に、臨界的な意義は見出せない。
したがって、本件補正発明の効果は、当業者が予測できない格別顕著なものとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件補正発明は、引用文献4に記載された発明、技術常識、及び周知・慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(4)本件補正発明と引用発明3との対比・判断
ア 対比
本件補正発明と引用発明3とを対比する。
引用発明3の「少なくとも1つの脂肪酸、油または脂肪、およびシロリムスを含むコーティング」、「活性薬剤を含まないトップコート」及び「バルーンカテーテル」は、それぞれ本件補正発明の「少なくとも一層の薬剤層」、「被覆層」及び「医療機器」に相当する。
そうすると、本件補正発明と引用発明3との一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「表面上に少なくとも一層の薬剤層と、該薬剤層の外表面上に薬剤を含まない被覆層とを有する、医療機器。」

<相違点1’>
本件補正発明は、被覆層が、「水酸基を有する一般式(1)(式中nは、1以上の整数である。)または一般式(2)(式中mは、1以上の整数である。)で表される繰り返し単位を含有する高分子を含有し、該高分子の水酸基の一部が他の官能基に変換されて」いるものであるのに対し、引用発明3は、トップコート(被覆層)の成分の構造を特定していない点。

<相違点2’>
本件補正発明は、被覆層に含有される高分子が「2%水溶液の粘度が5mPa・s以上1000mPa・s以下」であるのに対し、引用発明3は、粘度を特定していない点。

<相違点3’>
本件補正発明は、被覆層が「三層以上」であるのに対し、引用発明3は、トップコート(被覆層)の層数を特定していない点。

イ 判断
(ア)相違点1’について
引用文献3には、トップコートの成分として、ポリビニルアルコールやポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体等が挙げられており(摘記3a)、特に好ましい成分として、平均分子量が40,000ダルトンから50,000ダルトンであるポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体が記載され(摘記3c)、実施例9においては、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体をスプレーしてトップコートを形成している(摘記3d)。
そうすると、引用発明3において、トップコートとして、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、又は、それと類似の構造を有するポリビニルアルコールを用いることは、当業者が適宜なし得る事項である。

また、上記(2)ウのとおり、本願出願前に、 ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをけん化して得た重合物であり、けん化度は完全けん化度であれば97%以上、部分けん化物であれば78?96%程度であり、ポリビニルアルコールには、ある程度けん化されていない部分(水酸基が-OCOCH_(3)に変換されている)があることは技術常識であった。
そうすると、引用文献3のポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体におけるポリビニルアルコール部分、又は、ポリビニルアルコールは、その水酸基の一部が-OCOCH_(3)に変換されている状態であるものと理解するのが相当である。
このような理解は、本願明細書の実施例5においても、「ポリビニルアルコール」を用いており、特段、その水酸基が他の官能基に変換されていることは記載されていないこととも整合する。
したがって、引用発明3において、相違点1’に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が適宜なし得る事項である。

(イ)相違点2’について
上記(2)エのとおり、本願出願前に、種々の医療機器に対するコーティングを行うに当たり、塗布性等を考慮して、コーティング液の粘度を、1?数千mPa・s(cps)程度の粘度に調整することは周知技術であった。
そうすると、引用発明3において、トップコートの溶液の粘度を、塗布性等を考慮して好適なものとなるように設定することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎず、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールグラフト共重合体又はポリビニルアルコールの「2%水溶液の粘度が5mP・s以上1000mP・s以下」程度となるように設定することに、特段の創意工夫を要したとはいえない。

(ウ)相違点3’について
上記(2)オのとおり、本願出願前に、カテーテル等の医薬機器の表面を高分子で被覆するに当たり、所望の被覆の厚みとするために、数回に分けて被覆を行うことは、慣用の技術であった。
そうすると、引用発明3において、シロリムスコーティングを早期溶解および機械的損傷から保護し、活性薬剤(シロリムス)を作用部位で直ちに放出できるように保持できるようなトップコートの厚さとするために、トップコートの溶液を数回、例えば、3回に分けて被覆を行うことにより、トップコートを3層以上とすることは、当業者が必要に応じてなし得た事項にすぎない。

(エ)効果について
上記(3)イ(エ)に示したとおり、本件補正発明の効果は、当業者が予測できない格別顕著なものとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件補正発明は、引用文献3に記載された発明、技術常識、及び周知・慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(5)審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、「引用例4では被覆層の量はバルーンカテーテルの表面1mm^(2)当たり0.1μg?250μgの量とされておりますが、引用例4の実施例における実際の被覆層(トップコート)の量は「3.0μg/mm^(2)」のみです([0105])。
そして、引用例4の実施例ではウサギを使ってその効果が確認されておりますが([0105])、実際にヒトに適用する場合、バルーンカテーテルなどの医療機器はウサギの場合とは比べ物にならないほど長い距離を血管中で移動させなければならないため、「3.0μg/mm^(2)」程度の被覆層量ではまったく足りません。」(審判請求書6頁7?17行)と主張する。

しかしながら、引用文献4には、バルーンカテーテルの表面1mm^(2)当たり0.1μg?250μgの量のトップコートを塗布することができるとされており(摘記4g)、この数値の範囲内で、ヒトに適用する場合には、トップコートの役割(狭窄血管領域への挿入中の活性薬剤の洗い流しと放出を防止し、膨脹中の活性薬剤の血管中への移送を確実にし、且つ支援すること。摘記4f)を果たすことができる程度の単位面積当たりの被覆量とすることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
なお、本件補正発明においては、「三層以上」という層の数が特定されているものの、被覆層の量の具体的な数値範囲は特定されていないので、審判請求人の上記主張は、本件補正発明の容易想到性とは、直接は関係がない。

イ 審判請求人は、「引用例4に記載の技術では、十分量の被覆層を形成することができません。
その理由として、水酸基を有する親水性高分子の水溶液は、高濃度になると粘性が大きくなって流動性が失われることによりゲル化することから、薬剤層上に良好に塗布できなくなることがございます。…
よって、薬剤層上に高分子の被覆層を形成する場合には、高分子水溶液の濃度をある程度抑制する必要があります。
ところが、引用例4には被覆層を一層のみ形成すること、即ち比較的低濃度の高分子溶液を一回のみ塗布することしか記載されていないため、引用例4に記載の技術では十分量の被覆層を形成することができず、ヒトに実際に適用する場合には患部まで薬剤を送達できないおそれがあります。」(審判請求書6頁18行?7頁7行)と主張する。

しかし、上記(2)エ及びオに示した周知・慣用技術を考慮すれば、引用発明4において、塗布性等を考慮してコーティング液の粘度を調整し、十分量のトップコートを形成するために数回に分けて被覆を行うことは当業者が容易になし得たものであることは、上記(3)で述べたとおりである。

ウ 審判請求人は、「引用例4の発明は実用的な面から十分なものではなく、本願発明は引用例4の発明に比して顕著に優れた効果を奏するものであるといえます。」(審判請求書6頁7?8行)と主張する。

しかしながら、上記(3)で述べたとおり、引用発明4において相違点2及び3に係る本願発明の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たものであり、引用発明4において相違点1?3に係る本願発明の発明特定事項を備えたものに比べて、当業者が予測できない格別顕著な効果を奏するとはいえない。

エ 審判請求人は、引用文献3についても、引用文献3に記載の技術では、十分量の被覆層を良好に形成することができず、ヒトに実際に適用する場合には患部まで薬剤を送達できないおそれがある旨を主張する(審判請求書8頁14行?9頁11行)。

しかし、上記(2)エ及びオに示した周知・慣用技術を考慮すれば、引用発明3において、塗布性等を考慮してコーティング液の粘度を調整し、十分量のトップコートを形成するために数回に分けて被覆を行うことは当業者が容易になし得たものであることは、上記(4)で述べたとおりである。

オ したがって、審判請求人の主張はいずれも採用できない。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年8月7日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成30年4月5日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?3,7,8,10?12に係る発明は、引用文献4に記載された発明及び引用文献2の記載(技術常識)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項1?12に係る発明は、引用文献3に記載された発明及び引用文献2の記載(技術常識)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献の記載事項等
原査定の拒絶理由で引用された引用文献4及び3の記載事項は、前記第2[理由]2(2)ア及びイに記載したとおりである。
また、本願出願前のポリビニルアルコールについての技術常識(引用文献2)、コーティング液の粘度についての周知技術及び塗布回数についての慣用技術は、前記第2[理由]2(2)ウ?オに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明の発明特定事項を全て含むものである。本件補正発明が、前記第2[理由]に記載したとおり、引用文献4又は3に記載された発明、技術常識及び周知・慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献4又は3に記載された発明、技術常識、及び周知・慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-01 
結審通知日 2019-08-06 
審決日 2019-08-22 
出願番号 特願2014-105510(P2014-105510)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61L)
P 1 8・ 575- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 井上 典之
特許庁審判官 前田 佳与子
藤原 浩子
発明の名称 医療機器  
代理人 植木 久一  
代理人 菅河 忠志  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 植木 久彦  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  

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