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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1355619
審判番号 不服2019-30  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-04 
確定日 2019-10-23 
事件の表示 特願2015-552166「発光サファイアをダウンコンバータとして使用するLED」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月24日国際公開、WO2014/111822、平成28年 3月17日国内公表、特表2016-508294、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月2日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 平成25年1月16日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 7月17日 :手続補正書の提出
平成28年12月28日 :手続補正書の提出
平成29年11月16日付け:拒絶理由通知書(最初)
平成30年 5月21日 :意見書の提出
平成30年 8月27日付け:拒絶査定
平成31年 1月 4日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1-20に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明20」という。)は、平成28年12月28日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-20に記載される発明であり、そのうち本願発明1は以下のとおりのものである。

「【請求項1】
N型層、一次光を放出する活性層、及びP型層を有する発光ダイオード(LED)半導体層と、
前記LED半導体層の発光面の上に取り付けられた、前記半導体層用の成長基板ではない発光サファイアと
を有し、
前記LED半導体層及び前記発光サファイアはLEDダイの一部を形成し、前記発光サファイアは、所定の光吸収帯及びルミネッセンス発光帯を持つFライク中心を生じさせる酸素空孔を含有し、
前記発光サファイアは、前記Fライク中心を介して、前記一次光の一部を吸収し且つ前記一次光をダウンコンバートして二次光を放出することで、前記LEDダイからの発光が少なくとも前記一次光と前記二次光との組み合わせを含むようにする、
発光デバイス。」

なお、本願発明2-20の概要は以下のとおりである。
本願発明2-14は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明15は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明16-20は、本願発明15を減縮した発明である。

第3 原査定の概要
この出願の請求項1-20に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2004-363149号公報
2.国際公開第2010/079779号
3.特表2005-514301号公報
4.Subrata Sanyal, et al.,“Anisotropy of optical absorption and fluorescence in A_(l2)O_(3):C,Mg crystals”,Journal of Applied Physics,2005年8月8日,
Vol.98,No.3,p.033518-1?033518-12
5.特開2002-335010号公報
6.特開2002-344021号公報

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2004-363149号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。以下同じ。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、蛍光体及びこれを含んだ発光素子及びこれらの製造方法に関するものであり、さらに詳しく言えば、例えば発光ダイオードなどの半導体発光素子から放出された放射光を可視光に変換するための薄膜蛍光体及びこれを集積化した発光素子及びその製造方法に関するものである。」

「【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明の発光素子は、不純物を添加した母材基板と、前記母材基板に接する形で形成された半導体発光素子とを有し、前記母材基板は前記半導体発光素子からの励起光により可視領域にて発光するものである。この構成により、発光素子からの励起光を結合効率よく母材基板に照射することができる。したがって、高効率な白色光照明装置を実現することができる。」

「【0038】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について、図面を参照して以下に説明する。
【0039】
図1は本発明の実施形態における蛍光体及びこれを集積化した発光素子を示す図面である。
【0040】
本発明の、蛍光体を集積化した発光素子は、一般式がB_(x)Ga_(1-x-y-z)Al_(y)In_(z)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表されるIII族窒化物半導体からなる少なくとも一つの半導体層を含む発光素子101、その発光素子101から放出された青色光によって励起されて550nm付近(以下、緑色発光領域という)及び650nm付近(以下、赤色発光領域という)に発光ピークを有する波長を発光する母材基板102、メタルステム103、発光素子101を包囲する樹脂モールド104である。母材基板102はサファイアよりなり、発光素子101から放出された青色光を白色光に変換するために、母材基板中の不純物は深さ方向に対して、高濃度に不純物が添加された領域とその高濃度領域よりも低濃度に不純物が添加された領域を持つように形成されている。さらに、母材基板中の不純物は高濃度に添加された領域とその高濃度領域よりも低濃度に添加された領域を比較した場合に、発光素子101からの励起光の入射方向に対して高濃度領域の方が低濃度領域よりも深く、個々の領域がいずれも発光素子101からの励起光によって発光する。ここで、不純物の濃度が高濃度であることとは、母材基板102から放出される発光色が長波長、すなわち赤色発光領域であることを示す。したがって、母材基板102中に550nm付近及び650nm付近に発光ピークを有する波長を発光する領域が形成されており、発光素子101から放出された青色光が母材基板102中の赤色発光領域の不純物を励起し、さらに緑色発光領域の不純物も励起する。その結果、発光素子101から青色光、母材基板102から赤色及び緑色光がそれぞれ放出され白色光を得ることができる。
【0041】
図2(a)?(d)は本発明の実施形態における蛍光体及びこれを集積化した発光素子の製造工程図である。図2(a)に示すように、母材基板201中にイオン注入法を用いて不純物であるSiイオン202を打ち込む。
【0042】
イオン注入法では加速電圧を変化させることにより、打ち込むイオンの深さを変化させることができる。本発明では、このイオン注入時の加速電圧を調整することにより、母材基板201に注入するSiイオン202の深さを制御し、発光素子から放出される青色光によって励起される不純物Siを赤色発光領域及び緑色発光領域の二領域に分ける。
【0043】
また、母材基板201での発光色は、Si注入量を制御することで紫外域から赤外域まで発光可能となる。本工程では、母材基板201中で発光した赤色光が吸収されないようにするために、緑色光を実現するために必要なイオン注入工程よりも先に赤色発光に必要なイオン注入工程を行うことが望ましい。その際、イオン注入の加速電圧は母材基板201中に深く形成するために180?200keVの範囲で、注入量は1?3×10^(17)cm^(-2)とする必要がある。
【0044】
次に図2(b)に示すように、緑色光に実現するために必要なイオン注入を母材基板201中に行う。その際、すでに注入された赤色発光領域203よりも表面付近に浅く形成するために、イオン注入の加速電圧は50?80keVの範囲で、注入量は1?3×10^(16)cm^(-2)とする必要がある。
【0045】
次に図2(c)に示すように、イオン注入されたSiを母材基板201中で直径1?10nmの粒子状に形成させるために、熱アニールを行う。効果的にSi粒子を形成するためには、700℃以上、30分間、窒素雰囲気中で熱アニールを行うことが望ましい。
【0046】
次に図2(d)に示すように、赤色発光領域203及び緑色発光領域204が形成された母材基板201を発光素子205上に実装する。ここでは、発光素子205からの励起光を結合効率よく母材基板201に照射することができるように、発光素子205と母材基板201を紫外線硬化樹脂などで密着させる。この結果、発光素子205から放出された青色光が母材基板201中のSiを励起し、赤色光及び緑色光がそれぞれ放出され、合成光出力光として白色光が出力される。」

したがって、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「少なくとも一つの半導体層を含む半導体発光素子と、
半導体発光素子上に実装されたサファイアよりなる母材基板と、
を有し、
母材基板にイオン注入法を用いて不純物であるSiイオンを打ち込み、
発光素子から放出された青色光が母材基板中のSiを励起し、赤色光及び緑色光がそれぞれ放出され、合成光出力光として白色光が出力される発光素子。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(国際公開第2010/079779号)には、次の事項が記載されている。

「[0001]
本発明は、酸化物中の酸素空孔による色中心(カラーセンター)を利用した紫外から可視域の波長可変レーザー発振酸化物結晶の作製方法に関する技術である。」

「[0010]
本発明者は、鋭意研究の結果、カーボン坩堝中で、高真空・還元雰囲気下、イオン性酸化物結晶の融点(マグネシアでは2800℃、アルミナでは2050℃)よりも低い1600℃程度の熱処理により、これらイオン性酸化物中に多量の発光性酸素空孔を導入できることを見出し、本発明を完成したものである。
[0011]
上記課題を達成すべく、本発明に係るレーザー発振酸化物結晶の作製方法は、イオン性酸化物結晶に対して、10^(-3)(Pa)以下の高真空・還元雰囲気下、酸化物結晶の融点より低い温度で熱処理を行うことにより、イオン性酸化物結晶中に発光性酸素空孔を導入することを特徴とする。 ここで、イオン性酸化物結晶は、例えば、マグネシア(MgO),アルミナ(Al_(2)O_(3)),二酸化珪素(SiO_(2))や、マグネシア(MgO)-アルミナ(Al_(2)O_(3))-二酸化珪素(SiO_(2))の三成分系の組成を有する酸化物結晶などである。イオン性酸化物結晶に対して、10^(-3)(Pa)以下の高真空・還元雰囲気下で、イオン性酸化物結晶の融点よりも低い温度で熱処理を施すことにより、イオン性酸化物結晶中に多量の発光性酸素空孔を導入して、紫外?可視領域の幅広い波長域における波長可変レーザー発振酸化物結晶を生成することができる。
[0012]
特に、アルミナ(Al_(2)O_(3))やマグネシア(MgO)に対して、10^(-3)(Pa)以下の高真空・還元雰囲気下、酸化物結晶の融点より低い温度で熱処理を行うことにより、レーザー発振のような鋭い発光ピークを出現させることができる。詳細は後述の実施例で示すように、本発明の作製方法を施したイオン性酸化物に対して、励起パルスレーザー光(Nd:YAGレーザーの4倍波,266nm)をレーザー発振閾値となるエネルギー以上のポンプエネルギーで照射すると、イオン性酸化物結晶がレーザー発振を生じるようになる。」

「[0039]
図3(b)に示すように、球状試料を粉砕してX線回折(XRD)測定を行ったところ、得られた物質は原料の酸化物と同じく、アルミナ(Al_(2)O_(3))であることが確認できた。また、キセノンランプの分光光を光源として定常状態発光スペクトルを測定したところ、生成物質は、235nmおよび259nmに励起光ピークを有する328nmの発光バンド(PL1)と、214nmに励起光ピークを有する408nmの発光バンド(PL2)の2種の発光バンドを有することが確認できた。これらの2種の発光バンドは、これまでに報告されているアルミナ(Al_(2)O_(3))中のF+センター(PL1に相当)およびFセンター(PL2に相当)の発光挙動と一致した。
[0040]
以上の結果は、アルミナ(Al_(2)O_(3))粉体をカーボン坩堝中で1600℃の真空下で加熱することにより、アルミナ(Al_(2)O_(3))が通常の融点(2050℃)以下で溶融し、かつ、溶融過程で酸素空孔であるF+センターおよびFセンターが導入されることを示している。」

したがって、上記引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「235nmおよび259nmの励起光ピーク、328nmの発光バンドを有する酸素空孔であるF^(+)センターと、214nmの励起光ピーク、408nmの発光バンドを有する酸素空孔であるFセンターとが導入されたアルミナ(Al_(2)O_(3))からなる波長可変レーザー発振酸化物結晶。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特表2005-514301号公報)には、次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、光学データ記憶への適用を意図するドープした酸化アルミニウム結晶質材料に関する。」

「【0108】
本発明の1つの好適な実施態様の酸化アルミニウム材料の1つの重要な特徴は、近くのMg不純物原子により電荷補償されたF^(+)中心の形態における高濃度の単一および二重の酸素空格子点である。Mg^(2+)イオンによって電荷補償されたF^(+)-中心を、F^(+)(Mg)-中心と示す。この中心は、230および255nmの少なくとも2つの吸収帯によって特徴づけられ(図4を参照のこと)、そして5nsよりも短い寿命(図6を参照のこと)の330nmのルミネセンス帯を有する(図5を参照のこと)。これらの欠損のうちの2つのクラスタリングは、2つのF^(+)-中心および2つのMg不純物原子から構成される集合空格子点欠損を形成し、これは、本発明に重要な欠損の生成を生じる。本明細書では、この欠損は、F_(2)^(2+)(2Mg)と示され、そして2つの局在した電子を有する。本発明の集合酸素空格子点欠損は、435nmの領域の青色吸収-励起帯に寄与する(図4および図7を参照のこと)。これは、520nmの領域の緑色蛍光帯によって特徴づけられ(図7を参照のこと)、そして9±3nsの寿命を示す(図8を参照のこと)。この迅速な緑色ルミネセンスを示すAl_(2)O_(3):C,Mg結晶は、上で詳述した本発明の好適な方法に従って高い還元性雰囲気中で成長し、そして結晶に可視の緑色を与える青色吸収帯を有するいくつかのUV吸収帯により特徴づけられる。
【0109】
他の特に好適な実施態様では、本発明のAl_(2)O_(3):C,Mg結晶質材料は、750±5nmの領域の蛍光発光帯(図9を参照のこと)、80±10nsの蛍光減衰時間(図10を参照のこと)、および335±5nmの領域の吸収/励起帯(図9および図11を参照のこと)を示す。」

「【0131】
本発明のAl_(2)O_(3):C,Mg材料における「書き込み」および「読み取り」操作中の好ましい電子プロセスを、図16のような帯の図を用いて説明する。データ記憶媒体として使用するための本発明の好ましいドープされたAl_(2)O_(3)材料は、正確な所望の特徴を有する高濃度のトラッピング部位および蛍光中心を含むように形成され得る。データ記憶媒体は、一般的に、「0」および「1」状態に対応して割り当てられる少なくとも2つの安定な物理的状態で存在する。到着または消去されたAl_(2)O_(3)媒体の最初の配置(論理的0状態)は、435±5nmの領域における強い吸収帯によって特徴づけられる高濃度のF_(2)^(2+)(2Mg)-中心を有する。上記の結晶欠損をイオン化するために十分に高い適切な光子エネルギーhν_(1)(または波長λ_(1))および強度の書き込みレーザー光(「書き込み」ビーム)の照射によって、予め存在する電子欠損にトラップされるべき遊離の電子を生成し得る。Al_(2)O_(3):C,Mgにおけるトラップは、熱放出することなく周囲温度で長時間にわたり電荷担体を保つために十分に深い。量子系のこの第2の状態は、ここでは、準安定「荷電」配置(論理的「1」状態)である。媒体の状態を「読み取る」ために、書き込み光または他の光子エネルギーhν_(2)(または波長λ_(2))と同じ刺激光が適用され、そして光子エネルギーhν_(3)(または波長λ_(3))の蛍光光子が検出される。蛍光1ビット記録の場合、書き込まれたビットは蛍光強度の減少を生じるが、書き込まれていないスポットは元の強い蛍光を生じる。
・・・(中略)・・・
【0135】
データの書き込みは、上記のF_(2)^(2+)(2Mg)-中心による435±40nm青色レーザー光の2光子吸収を用いて行われ得る(図16を参照のこと)。第1の光子は中心に局在する2つの電子のうちの1つを励起状態に励起するが、第2の光子は励起状態と伝導帯との間の第2の遷移を行い、そのため、中心の光イオン化が行われる。書き込みプロセスの最後の段階は、他の欠損による、すなわち他のF_(2)^(2+)(2Mg)-中心による、またはF^(+)(Mg)-中心による、または炭素不純物による、上記の光電子の局在化(またはトラッピング)である。これらのフォトクロミック変換の結果は、(a)3つの局在化電子を有しそして335nmのUV吸収帯によって特徴づけられる、他の荷電状態の集合欠損、F_(2)^(+)(2Mg)-中心、の生成、または(b)205nmのUV吸収帯を有する中性のF-中心の生成、または(c)190℃のTLピークに寄与する炭素関連トラップである。3つのすべてのプロセスにより、光学的に深くそして熱安定な電子状態の形成を生じ、そして長期データ記憶のために本発明の好適な実施態様で使用され得る。第1のプロセス(a)は、光吸収帯の光子変換の効率から決定されたより高い確率を有する。光イオン化の結果として、F_(2)^(2+)(Mg)-中心は、620nmの吸収帯を有するF_(2)^(3+)(Mg)に変換し、そして放出された電子は、3つの局在化電子を有しそして335nmの吸収帯および750nmの発光帯によって特徴づけられるF_(2)^(+)(Mg)-中心に変換する他のF_(-2)2+(Mg)-中心によってトラップされる。
【0136】
本発明は、データを読み取るための2つのタイプの蛍光プロセスを提供する(図16を参照のこと)。タイプ1すなわち「負の」プロセスは、435±40nmの青色レーザー光励起を用いるF_(2)^(2+)(2Mg)-中心の元の緑色蛍光の刺激を含む。この励起の強度は、好ましくは、2光子吸収を避けるために著しく低下するが、情報の確実な検出に十分な緑色蛍光を生じるには十分である。書き込み中に2光子イオン化を受けた少量のAl_(2)O_(3)結晶(ボクセル)は蛍光の減少を示すかまたは蛍光を示さないが、未書き込みのボクセルは、高い強度の緑色蛍光を示す。
【0137】
データを読み取るための本発明のタイプ2の読み出しプロセス、いわゆる「正の」読み出しプロセスは、読み取り中に生じたF_(2)^(+)(2Mg)-中心の蛍光を刺激するために335±40nmのレーザー励起を用いることを含む。この励起の強度もまた、好ましくは、2光子吸収を避けるために著しく低下する。80nsの寿命を有する750nmの領域でのF_(2)^(+)(2Mg)-中心の蛍光の強度は、バイナリーまたは多重レベルデータ記憶のための「読み出し」プロセス中のデータの尺度として用いられる。」

したがって、上記引用文献3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「435nmの領域の青色吸収-励起帯及び520nmの領域の緑色蛍光帯を有し、2つのF^(+)-中心及び2つのMg不純物原子から構成される集合酸素空格子点欠損(F_(2)^(2+)(2Mg)-中心)を含むAl_(2)O_(3):C,Mg結晶からなる光学データ記憶媒体。」

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(“Anisotropy of optical absorption and fluorescence in Al_(2)O_(3):C,Mg crystals”)には、次の事項が記載されている。

「Spectroscopic properties of recently discovered fluorescent sapphire single crystals (Al_(2)O_(3):C,Mg), developed for volumetric optical data storage, are investigated. Polarized optical absorption, excitation-emission spectra, and quantum yield of fluorescence of the crystal in two different photonic states are studied. The spatial distribution of intensity and polarization ratio of the fluorescence associated with the 435/520- and 620/750-nm excitation-emission bands, characteristic of the two photonic states of the crystal, display strong anisotropy. ・・・(中略)・・・ The anisotropic properties of optical absorption and fluorescence suggest a model of double oxygen vacancy.」(第1ページ要約)
「最近発見され、容積光学データ記憶用に開発された蛍光サファイア単結晶(Al_(2)O_(3):C,Mg)の分光特性が研究されている。2つの異なる光学状態における、結晶の偏光吸収、励起・発光スペクトル、及び蛍光収量が研究されている。結晶の2つの光学状態に特徴的な、435/520nm及び620/750nmの励起/発光帯に関連する蛍光の強度及び偏光比の空間的分布は強い異方性を示す。・・・(中略)・・・光吸収及び蛍光の異方性は、二重酸素空孔モデルを示唆している。」(当審仮訳)

「The basic electronic point defects in α-Al_(2)O_(3) are single oxygen vacancy F and F^(+) centers (trapping two or one electrons) and aggregate oxygen vacancies, in the form of dimer F_(2), F_(2)^(+), and F_(2)2+centers (two nearest- or next-nearest-neighbor oxygen vacancies trapping two to four electrons; the superscript denotes the effective charge of the defects with respect to the ideal lattice).」(第1ページ左欄第15-21行)
「α-Al_(2)O_(3)における基本的な電子点欠陥は、F及びF^(+)中心(これらは2つ又は1つの電子をトラップする。)の単一酸素空孔、又は二量体F_(2)、F_(2)^(+)、及びF_(2)^(2+)中心(これらは2?4個の電子をトラップする、2つの最も近接した又は次に近接した酸素空孔である。ここで、上付き文字は理想的な格子に対する空孔の実効的な電荷を示す。)の形をとる凝集酸素空孔である。」(当審仮訳)

「The high quantum yield of fluorescence is advantageous for various luminescence applications, for example, in volumetric optical data storage and radiation field imaging.」(第12ページ左欄第5-9行)
「蛍光の高い量子収率は、様々なルミネセンス用途、例えば容積光学データ記憶及び放射線フィールドイメージングに有利である。」(当審仮訳)

したがって、上記引用文献4には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「435/520nm及び620/750nmの励起/発光帯の2つの光学状態を持ち、F及びF^(+)中心の単一酸素空孔又はF_(2)、F_(2)^(+)、及びF_(2)^(2+)中心の凝集酸素空孔を含む、容積光学データ記憶や放射線フィールドイメージング等の様々なルミネセンス用途に用いられる蛍光サファイア単結晶。」

5 引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(特開2002-335010号公報)には、次の事項が記載されている。

「【0045】
他にも青色、青緑色や緑色を吸収して赤色が発光可能な蛍光体としては、Eu及び/又はCrで付活されたサファイア(酸化アルミニウム)蛍光体やEu及び/又はCrで付活された窒素含有Ca-Al_(2)O_(3)-SiO_(2)蛍光体(オキシナイトライド蛍光硝子)等が挙げられる。これらの蛍光体を利用して発光素子からの光と蛍光体からの光の混色により白色光を得ることもできる。」

したがって、上記引用文献5には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「青色、青緑色や緑色を吸収して赤色が発光可能な蛍光体であるEu及び/又はCrで付活されたサファイア(酸化アルミニウム)蛍光体及びEu及び/又はCrで付活された窒素含有Ca-Al_(2)O_(3)-SiO_(2)蛍光体(オキシナイトライド蛍光硝子)。」

6 引用文献6について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6(特開2002-344021号公報)には、次の事項が記載されている。

「【0011】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施の形態について説明する。本実施の形態の発光装置は、青色光を発光する発光素子101を、例えば硝子エポキシからなる回路基板104上に設け、透光性を有するエポキシ樹脂107で封止したものであり、そのエポキシ樹脂107の中にセリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体1と、クロム又はチタンのいずれか1つを少なくとも含むアルミナ蛍光体2とが分散して含有されていることを特徴としている。」

したがって、上記引用文献6には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「樹脂中に分散して含有されたセリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体及びクロム又はチタンのいずれか1つを少なくとも含むアルミナ蛍光体。」

第5 当審の判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比する。

イ 引用発明の「少なくとも一つの半導体層を含む半導体発光素子」は、本願発明1の「発光ダイオード(LED)半導体層」に相当する。

ウ 引用発明の「母材基板」は「半導体発光素子上に実装され」るものであることから、当該「母材基板」は半導体発光素子の「発光面の上に取り付けられ」ているといえるとともに、当該「母材基板」が「半導体層用の成長基板でない」ことは明らかである。そうすると、引用発明の「半導体発光素子上に実装されたサファイアよりなる母材基板」は、本願発明1の「前記LED半導体層の発光面の上に取り付けられた、前記半導体層用の成長基板ではない発光サファイア」に相当する。

エ 引用発明においては、「母材基板」が「半導体発光素子上に実装され」ており、「半導体発光素子」及び「母材基板」は一体として発光素子のチップを形成しているといえるから、引用発明は、本願発明1の「前記LED半導体層及び前記発光サファイアはLEDダイの一部を形成」するという構成を有していると認められる。

オ 引用発明の「青色光」、「赤色光及び緑色光」は、それぞれ本願発明1の「一次光」、「二次光」に相当するから、引用発明の「発光素子から放出された青色光が母材基板中のSiを励起し、赤色光及び緑色光がそれぞれ放出され、合成光出力光として白色光が出力される」という構成は、本願発明1の「前記一次光の一部を吸収し且つ前記一次光をダウンコンバートして二次光を放出することで、前記LEDダイからの発光が少なくとも前記一次光と前記二次光との組み合わせを含むようにする」という構成に相当する。

カ 引用発明の「発光素子」は、本願発明1の「発光デバイス」に相当する。

キ したがって、本願発明1と引用発明とを対比したときの一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「発光ダイオード(LED)半導体層と、
前記LED半導体層の発光面の上に取り付けられた、前記半導体層用の成長基板ではない発光サファイアと
を有し、
前記LED半導体層及び前記発光サファイアはLEDダイの一部を形成し、
前記発光サファイアは、前記一次光の一部を吸収し且つ前記一次光をダウンコンバートして二次光を放出することで、前記LEDダイからの発光が少なくとも前記一次光と前記二次光との組み合わせを含むようにする、
発光デバイス。」

<相違点1>
発光ダイオード(LED)半導体層の構成について、本願発明1では、「N型層、一次光を放出する活性層、及びP型層を有する」のに対し、引用発明では、含まれる半導体層が明示されていない点。

<相違点2>
発光サファイアで「一次光をダウンコンバートして二次光を放出する」構成について、本願発明1では、発光サファイアが「所定の光吸収帯及びルミネッセンス発光帯を持つFライク中心を生じさせる酸素空孔を含有し」、「前記Fライク中心を介して」行われるのに対し、引用発明では、サファイアよりなる母材基板中のSiを励起することにより行われる点。

(2)相違点2についての判断
ア 事案に鑑み、相違点2から判断する。

イ 引用文献2に記載されたアルミナ(Al_(2)O_(3))からなる酸化物結晶は、波長可変レーザーに用いられるものであり、励起光を吸収して、励起光より長波長で発光するものではあるが、引用文献2において励起光の波長として具体的に記載されているのは、214nm、235nm、259nmといった紫外の波長のみである。
してみると、引用文献2に記載された酸化物結晶が青色光を波長変換するために利用できるものとは認識できないから、半導体発光素子からの青色光を波長変換することを前提とする引用発明における発光領域が形成された母材基板に換えて、引用文献2に記載された酸化物結晶を適用することには、困難があるといわざるを得ない。

ウ 引用文献3に記載されたAl_(2)O_(3):C,Mg結晶は、435nmの領域の青色吸収-励起帯及び520nmの領域の緑色蛍光帯を有するものであるが、引用文献3には、当該結晶を光学データ記憶に用いることしか記載されておらず、波長変換のために用いることは記載されていない。そして、引用文献3の【0131】-【0137】に記載された書き込み及び読み取りのプロセスを参酌しても、光学データ記憶という用途は、Al_(2)O_(3):C,Mg結晶における、435nm付近の吸収・励起帯の有無及び335nm付近の吸収・励起帯の有無が切り替えられるという機能・特性に着目して見出されたものであって、蛍光を観測しているのはそれらの吸収・励起帯の有無を確認するためにすぎない。したがって、引用文献3の記載から、当該結晶を波長変換のために用いるという示唆は見出せない。
してみると、引用文献3に記載された結晶を、技術分野が異なり、着目している機能・特性も異なる、波長変換のための構成として用いることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

エ 引用文献4には、蛍光サファイア単結晶を様々なルミネセンス用途に利用できることが示唆されているが、具体的に例示されているのは、容積光学データ記憶及び放射線フィールドイメージングのみであり、波長変換のために用いることは明示的に記載されていない。そして、容積光学データ記憶については、上記における引用文献3に係る検討と同様、着目する機能・特性が異なるものであるし、放射線フィールドイメージングについては、具体的にどのようなものを想定しているのかが定かではないものの、少なくとも可視光を波長変換する機能を利用したものであるとはいえない。
してみると、引用文献4に記載された結晶を、引用発明における波長変換のための構成として用いることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

オ 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(特開2002-335010号公報及び引用文献6(特開2002-344021号公報)は、相違点2に関連して引用されたものではなく、Fライク中心を生じさせる酸素空孔を含有する発光サファイアに関する記載は認められない。

カ.したがって、引用文献2-5に記載された技術事項を参酌しても、引用発明1において、相違点2に係る本願発明1の構成を備えることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(3)小括
よって、上記相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2-6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2-14について
本願発明2-14も、上記相違点2に係る、本願発明1の「発光サファイアは、所定の光吸収帯及びルミネッセンス発光帯を持つFライク中心を生じさせる酸素空孔を含有」するという構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献2-6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

3 本願発明15-20について
本願発明15-20は、上記相違点2に係る、本願発明1の「発光サファイアは、所定の光吸収帯及びルミネッセンス発光帯を持つFライク中心を生じさせる酸素空孔を含有」するという構成に対応する構成を備える方法の発明であるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献2-6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-20は、当業者が引用発明及び引用文献2-6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-08 
出願番号 特願2015-552166(P2015-552166)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大和田 有軌  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 近藤 幸浩
瀬川 勝久
発明の名称 発光サファイアをダウンコンバータとして使用するLED  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  

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