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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B23K
管理番号 1355621
審判番号 不服2019-10956  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-20 
確定日 2019-10-23 
事件の表示 特願2018-246898「レーザ加工装置及びレーザ加工方法」拒絶査定不服審判事件〔令和1年10月3日出願公開、特開2019-166570、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年12月28日(優先権主張 平成30年3月20日)の出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年 4月 1日 :手続補正書の提出
平成31年 4月 4日付け:拒絶理由通知書
令和 1年 5月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 5月17日付け:拒絶査定
令和 1年 8月20日 :審判請求書の提出


第2 原査定の概要
原査定(令和1年5月17日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
同様に、本願請求項2、6、11-12、16に係る発明は以下の引用文献1-3に基づき、本願請求項7-10、17-20に係る発明は以下の引用文献1-5に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願請求項3-5、13-15に係る発明については、原査定の時点では、拒絶の理由を発見しない。

引用文献等一覧
1.特開2005-193284号公報
2.特開2008-93724号公報
3.特開2008-200745号公報
4.特開2016-139727号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2015-198182号公報(周知技術を示す文献)


第3 本願発明
本願請求項1-20に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明20」という。)は、令和1年5月9日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-20に記載された事項により特定される発明であり、そのうち本願発明1、11は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
ワークの内部に加工用レーザ光を集光することにより、分割予定ラインに沿って前記ワークの内部にレーザ加工領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記加工用レーザ光及び検出用レーザ光を前記ワークに向けて集光する集光レンズと、
前記集光レンズと前記ワークとを前記集光レンズの光軸方向に直交する方向に相対的に移動させることにより、前記加工用レーザ光及び前記検出用レーザ光を前記ワークに対してスキャンするスキャン手段と、
前記集光レンズと前記ワークとの間隔を調整する調整手段と、
前記ワークの主面で反射した前記検出用レーザ光の反射光を検出することで、前記ワークの主面の高さに応じた検出信号を出力する検出手段と、
前記加工用レーザ光及び前記検出用レーザ光のスキャン位置が前記ワークの中央部である場合には、前記検出用レーザ光の集光点が前記ワークの主面の変位に追従するように、前記検出手段が出力した前記検出信号に基づいて前記調整手段を制御する第1制御手段と、
前記加工用レーザ光及び前記検出用レーザ光のスキャン位置が前記ワークの端部である場合には、前記第1制御手段よりも前記ワークの主面の変位に対する追従性を低下させた状態で、前記検出用レーザ光の集光点が前記ワークの主面の変位に追従するように、前記検出手段が出力した前記検出信号に基づいて前記調整手段を制御する第2制御手段と、
を備えるレーザ加工装置。」

「【請求項11】
ワークの内部に加工用レーザ光を集光することにより、分割予定ラインに沿って前記ワークの内部にレーザ加工領域を形成するレーザ加工方法であって、
加工用レーザ光及び検出用レーザ光をワークに向けて集光する集光レンズと、
前記集光レンズと前記ワークとを前記集光レンズの光軸方向に直交する方向に相対的に移動させることにより、前記加工用レーザ光及び前記検出用レーザ光を前記ワークに対してスキャンするスキャン手段と、
前記集光レンズと前記ワークとの間隔を調整する調整手段と、
前記ワークの主面で反射した前記検出用レーザ光の反射光を検出することで、前記ワークの主面の高さに応じた検出信号を出力する検出手段と、
を備えるレーザ加工装置を用いたレーザ加工方法であって、
前記加工用レーザ光及び前記検出用レーザ光のスキャン位置が前記ワークの中央部である場合には、前記検出用レーザ光の集光点が前記ワークの主面の変位に追従するように、前記検出手段が出力した前記検出信号に基づいて前記調整手段を制御する第1制御ステップと、
前記加工用レーザ光及び前記検出用レーザ光のスキャン位置が前記ワークの端部である場合には、前記第1制御ステップよりも前記ワークの主面の変位に対する追従性を低下させた状態で、前記検出用レーザ光の集光点が前記ワークの主面の変位に追従するように、前記検出手段が出力した前記検出信号に基づいて前記調整手段を制御する第2制御ステップと、
を備えるレーザ加工方法。」

また、本願発明2-10は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであり、本願発明1を減縮した発明である。同様に、本願発明12-20は、本願発明11の発明特定事項を全て含むものであり、本願発明11を減縮した発明である。


第4 引用文献、引用発明等

1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
本発明は、レーザ光を照射することで加工対象物を加工するためのレーザ加工方法及びレーザ加工装置に関する。」

イ 「【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のレーザ加工技術においては、次のような解決すべき課題がある。すなわち、加工対象物の外側の位置からレーザ光の照射を開始してレーザ光と加工対象物とをその主面に沿って移動させて加工を行う場合に、測定手段は加工対象物の外側から測定を開始し、加工対象物の内側へと測定を行っていくことになる。そして、この測定によって得られた主面高さの測定値に基づいて集光レンズを駆動すると、加工対象物の端部においてレーザ光の集光点がずれる場合がある。」

ウ 「【0033】
本実施形態のレーザ加工装置について図1を参照しながら説明する。図1に示すように、レーザ加工装置1は、ステージ2(移動手段)上に載置された平板状の加工対象物Sの内部に集光点Pを合わせて加工用レーザ光L1(第1のレーザ光)を照射し、加工対象物Sの内部に多光子吸収による改質領域Rを形成する装置である。ステージ2は、上下方向及び左右方向への移動並びに回転移動が可能なものであり、このステージ2の上方には、主にレーザヘッドユニット3、光学系本体部4及び対物レンズユニット5からなるレーザ出射装置6が配置されている。また、レーザ加工装置1は制御装置7(制御手段)を備えており、制御装置7はステージ2及びレーザ出射装置6に対してそれぞれの挙動(ステージ2の移動、レーザ出射装置6のレーザ光の出射等)を制御するための制御信号を出力する。」

エ 「【0039】
また、対物レンズユニット5は、光学系本体部4の下端部に着脱自在に取り付けられている。対物レンズユニット5は、複数の位置決めピンによって光学系本体部4の下端部に対して位置決めされるため、光学系本体4に設定された軸線βと対物レンズユニット5に設定された軸線βとを容易に一致させることができる。この対物レンズユニット5の筐体41の下端には、ピエゾ素子を用いたアクチュエータ43(保持手段)を介在させて、軸線βに光軸が一致した状態で加工用対物レンズ42が装着されている。なお、光学系本体部4の筐体21及び対物レンズユニット5の筐体41には、加工用レーザ光L1が通過する貫通孔が形成されている。また、加工用対物レンズ42によって集光された加工用レーザ光L1の集光点Pにおけるピークパワー密度は1×10^(8)(W/cm^(2))以上となる。
【0040】
更に、対物レンズユニット5の筐体41内には、加工対象物Sの表面S1から所定の深さに加工用レーザ光L1の集光点Pを位置させるべく、測距用レーザ光L2(第2のレーザ光)を出射するレーザダイオード44と受光部45とが配置されている。測距用レーザ光L2はレーザダイオード44から出射され、ミラー46、ハーフミラー47により順次反射された後、軸線β上に配置されたダイクロイックミラー48により反射される。反射された測距用レーザ光L2は、軸線β上を下方に向かって進行し、加工用対物レンズ42を通過して加工対象物Sの表面S1に照射される。なお、加工用レーザ光L1はダイクロイックミラー48を透過する。
【0041】
そして、加工対象物Sの表面S1で反射された測距用レーザ光L2の反射光は、加工用対物レンズ42に再入射して軸線β上を上方に向かって進行し、ダイクロイックミラー48により反射される。このダイクロイックミラー48により反射された測距用レーザ光L2の反射光は、ハーフミラー47を通過して受光部45内に入射し、フォトダイオードを4等分してなる4分割位置検出素子上に集光される。この4分割位置検出素子上に集光された測距用レーザ光L2の反射光の集光像パターンに基づいて、加工用対物レンズ42による測距用レーザ光L2の集光点が加工対象物Sの表面S1に対してどの位置にあるかを検出することができる。4分割位置検出素子上に集光された測距用レーザ光L2の反射光の集光像パターンに関する情報は、制御装置7に出力される。制御装置7はこの情報に基づいて、アクチュエータ43に加工用対物レンズ42を保持する位置を指示する制御信号を出力する。」

オ 「【0043】
制御装置7の機能的な構成を図2に示す。図2に示すように、制御装置7は機能的には、レーザ出射制御部701と、ステージ移動制御部702と、アクチュエータ制御部703と、集光点演算部704と、端部判断部705と、循環メモリ706(変位記憶手段)と、を備える。レーザ出射制御部701は、加工用レーザ光L1及び測距用レーザ光L2の出射を制御する信号をレーザヘッドユニット3のレーザヘッド13及び対物レンズユニット5のレーザダイオード44にそれぞれ出力する部分である。ステージ移動制御部702は、ステージ2の移動を制御する制御信号をステージ2に出力する部分である。アクチュエータ制御部703はアクチュエータ43の駆動を制御する制御信号を対物レンズユニット5のアクチュエータ43に出力する部分である。アクチュエータ制御部703は循環メモリ706にアクチュエータ43の移動量を格納する部分でもある。この移動量は加工対象物Sの主面S1の変位に応じて変化するので、主面S1の変位を表す量として捉えることもできる。集光点演算部704は対物レンズユニット5の受光部45から出力される非点収差信号に基づいて、加工対象物Sと測距用レーザ光L2の集光点との距離を算出する部分である。端部判断部705は受光部45が受光する光量に基づいて、加工用対物レンズ42が加工対象物Sの端部に対応する位置にあるかどうかを判断する部分である。循環メモリ706は、アクチュエータ43の移動量を格納する循環メモリである。循環メモリ706は64チャネルの格納領域を有しており、それぞれの格納領域に移動量を順次格納する。尚、各機能的構成要素の動作については後述する。
【0044】
以上のように構成されたレーザ加工装置1によるレーザ加工方法の概要について説明する。まず、ステージ2上に加工対象物Sを載置し、ステージ2を移動させて加工対象物Sの内部に加工用レーザ光L1の集光点Pを合わせる。このステージ2の初期位置は、加工対象物Sの厚さや屈折率、加工用対物レンズ42の開口数等に基づいて決定される。
【0045】
続いて、レーザヘッド13から加工用レーザ光L1を出射すると共に、レーザダイオード44から測距用レーザ光L2を出射し、加工用対物レンズ42により集光された加工用レーザ光L1及び測距用レーザ光L2が加工対象物Sの所望のライン(切断予定ライン)上をスキャンするようにステージ2を移動させる。このとき、受光部45により測距用レーザ光L2の反射光が検出され、加工用レーザ光L1の集光点Pの位置が加工対象物Sの表面S1から常に一定の深さとなるようにアクチュエータ43が制御装置7によってフィードバック制御されて、加工用対物レンズ42の位置が軸線β方向に微調整される。
【0046】
従って、例えば加工対象物Sの表面S1に面振れがあっても、表面S1から一定の深さの位置に多光子吸収による改質領域Rを形成することができる。このように平板状の加工対象物Sの内部にライン状の改質領域Rを形成すると、そのライン状の改質領域Rが起点となって割れが発生し、ライン状の改質領域Rに沿って容易且つ高精度に加工対象物Sを切断することができる。」

カ 「【0058】
(加工工程) 引き続いて、加工用レーザ光L1及び測距用レーザ光L2を照射して改質領域を形成する加工工程について説明する。
【0059】
図4(A)?図4(C)と同様に図3のII-II断面を示す図6(A)?図6(C)を参照しながら説明する。尚、理解を容易にするために図6(A)?図6(C)においては断面を示すハッチングを省略する。図6(A)は図4(C)の状態から引き続いて、切断予定ラインC_(1)において加工用対物レンズ42が改質領域の形成を開始した状態を示している。アクチュエータ43は図4(C)で設定された伸び量で固定されている。図4(C)から図6(A)の状態に差し掛かる前に加工用レーザ光L1及び測距用レーザ光L2が照射される。加工用対物レンズ42が図中矢印Eの方向に移動するようにステージ2が移動する。
【0060】
測距用レーザ光L2はダイシングフィルム2aにおいては反射率が低く反射される全光量は少ないが、加工対象物Sにおいては反射される全光量が増大する。すなわち、受光部45(図1参照)の4分割位置検出素子が検出する測距用レーザ光L2の反射光の全光量が多くなるので、反射光の全光量が予め定められた閾値を超えた場合に加工対象物Sの切断予定ラインC_(1)と加工用対物レンズ42が交差する位置にあるものと判断できる。従って、受光部45(図1参照)の4分割位置検出素子が検出する全光量が予め定められた閾値よりも大きくなった場合に、加工用対物レンズ42が切断予定ラインC_(1)の一端に相当する位置にあるものとして(図7(A)に相当する状態になってものとして)、その時点でのアクチュエータ43の伸び量の保持を解除して、所定の間隔ごと(例えば、各サンプリングポイントごと)に非点収差信号がステップS06で保持した基準値となるようにアクチュエータ43の伸び量制御を開始する。従って、加工用対物レンズ42が図6(A)中の矢印E方向に移動すると図6(B)に示す状態になる。図6(B)に示すように、区間F(一端部)においては一定の加工高さで改質領域Rが形成されることになる。この区間Fにおいて一定の加工高さで改質領域Rが形成されると、その後、加工用対物レンズ42は切断予定ラインC_(1)に沿って移動し、加工用レーザ光L1によって改質領域Rを形成する。この間、測距用レーザ光L2の反射光から得られる非点収差信号が上記基準値となるようにアクチュエータ43が調整される。
【0061】
図6(B)に示す状態から更に加工用対物レンズ42が図6(A)中矢印Eの方向に移動すると、図6(C)に示すように加工用対物レンズ42は切断予定ラインC_(1)の他端に差し掛かる。加工用対物レンズ42が加工対象物Sから外れた位置に至ると、図6(A)を参照しながら説明したのとは逆の状態となり、受光部45(図1参照)の4分割位置検出素子が検出する測距用レーザ光L2の反射光の全光量が少なくなる。従って、受光部45(図1参照)の4分割位置検出素子が検出する全光量が予め定められた閾値よりも小さくなった場合に、加工用対物レンズ42が切断予定ラインC_(1)の一端に相当する位置にあるものとして(図6(C)に相当する状態になってものとして)、その時点でのアクチュエータの伸び量を保持する。アクチュエータ43の伸び量を保持したまま加工用対物レンズ42が図6(C)中のX_(2)の位置に至るようにステージ2が移動し、次の切断予定ラインC_(2)の加工に備える(移行ステップ)。」

キ 「【0070】
制御装置7の端部判断部705は、受光部45から出力される信号に基づいて、加工用対物レンズ42が加工対象物Sの端部に差し掛かったかどうかを判断する(ステップS13)。端部判断部705は、加工用対物レンズ42が加工対象物Sの端部に差し掛かったと判断すると、アクチュエータ制御部703に対してアクチュエータ43の伸縮を開始して、非点収差信号が保持している基準値に等しくなるように、制御信号を出力するように指示する指示信号を出力する。アクチュエータ制御部703はアクチュエータ43に伸縮を開始して、非点収差信号が保持している基準値に等しくなるための、制御信号を出力する(ステップS14)。この制御信号の出力に応じてアクチュエータ43は加工対象物Sの表面S1の変位に応じて伸縮して、測距用レーザ光L2の集光点位置が基準位置となるように加工用対物レンズ42を保持する。従って、加工対象物Sの表面S1の変位に応じた位置に改質領域Rが形成される(図6(B)参照)。
【0071】
端部判断部705は、受光部45から出力される信号に基づいて、加工用対物レンズ42が加工対象物Sの他端に差し掛かったかどうかを判断する(ステップS15)。端部判断部705は、加工用対物レンズ42が加工対象物Sの端部に差し掛かったと判断すると、アクチュエータ制御部703に対してアクチュエータ43の伸縮を停止する制御信号を出力するように指示する指示信号を出力する。この指示信号の出力に応じて、アクチュエータ制御部703はアクチュエータ43に対して伸縮を停止して保持状態とするための制御信号を出力する(ステップS16)。この制御信号の出力に応じてアクチュエータ43は伸縮を停止する。ステージ移動制御部702は、加工用対物レンズ42が切断予定ラインC_(1)の延長線上の点X2に差し掛かると、ステージ2に対して移動を停止するように制御信号を出力する(ステップS17)。その後、循環メモリ706に格納されているアクチュエータ43の伸縮量の内、最初の5チャネル分のメモリに格納されているアクチュエータ43の伸縮量の平均値を算出し、この平均値となるようにアクチュエータ43の伸縮量を固定する(ステップS18)。
【0072】
上述した準備工程及び加工工程は、加工対象物Sの全ての切断予定ラインC_(1)?C_(n)それぞれで行われ、切断予定ラインC_(1)?C_(n)それぞれに沿って改質領域Rが形成される。
【0073】
本実施形態では、初期位置に加工用対物レンズ42を保持して加工用レーザ光L1を照射してレーザ加工を開始するので、加工対象物Sの端部の形状変動の影響を極力排除することができる。
【0074】
加工用対物レンズ42を初期位置に保持した状態で加工対象物Sの端部に改質領域を形成した後に加工用対物レンズ42を保持した状態を解除して、加工用対物レンズ42と加工対象物Sとの距離が一定となるように調整しながら改質領域を形成するので、加工対象物Sの表面S1から一定の距離隔てた位置に改質領域を安定して形成できる。」

ク 上記記載事項オ及び図6(A)から、ステージ2により、加工用対物レンズ42と加工対象物Sとを加工用対物レンズ42の光軸方向に直交する方向(矢印E)に相対的に移動させ、加工用レーザ光L1及び測距用レーザ光L2を加工対象物Sに対して移動することが看取される。

ケ 図6(A)から、加工用レーザ光L1と測距用レーザ光L2のスキャン位置は同一の位置であることが看取される。

図6(A)


コ 上記記載事項キ及び図6(B)から、区間Fが、ワークにおける半径方向の最外部を含む所定の領域であることが看取される。

図6(B)


したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。


<引用発明>
「加工対象物Sの内部に加工用レーザ光L1を集光することにより、切断予定ラインC_(1)に沿って前記加工対象物Sの内部に改質領域Rを形成するレーザ加工装置1であって、
前記加工用レーザ光L1及び測距用レーザ光L2を前記加工対象物Sに向けて集光する加工用対物レンズ42と、
前記加工用対物レンズ42と前記加工対象物Sとを前記加工用対物レンズ42の光軸方向に直交する方向に相対的に移動させることにより、前記加工用レーザ光L1及び前記測距用レーザ光L2を前記加工対象物Sに対してスキャンするステージ2と、
前記加工用対物レンズ42と前記加工対象物Sとの間隔を調整するアクチュエータ43と、
前記加工対象物Sの表面S1で反射した前記測距用レーザ光L2の反射光を検出することで、前記加工対象物Sの表面S1の高さに応じた集光像パターンに関する情報を出力するレーザダイオード44及び受光部45と、
加工開始時においてアクチュエータ43は一定の伸び量で固定され、
受光部45が検出する全光量が予め定められた閾値よりも大きくなった場合に、加工用対物レンズ42が切断予定ラインC_(1)の一端に相当する位置にあるものとして、アクチュエータ43の伸び量の保持を解除して、加工用対物レンズ42と加工対象物Sとの距離が一定となるようにアクチュエータ43の伸び量を制御する制御装置7
を備えるレーザ加工装置1。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0038】
また、HF信号増幅回路102は、入力した信号を増幅してフォーカスエラー信号生成回路104へ出力する。そして、フォーカスエラー信号生成回路104は、サーボ用レーザ光の焦点位置のガラス基板18の表面からのずれであるフォーカスエラー信号を生成してフォーカスサーボ回路106へ出力する。そして、フォーカスサーボ回路122は、サーボ用レーザ光の焦点位置をガラス基板18の表面に合わせるための制御信号を生成しドライブ回路108へ出力する。ドライブ回路108は、入力した信号に基づいて光加工ヘッド200にある対物レンズを対物レンズの光軸と平行な方向に駆動させ、サーボ用レーザ光焦点位置をガラス基板18の表面に合わせる。このような制御により、サーボ用レーザ光の焦点はガラス基板18のガイド溝18aを追従するように移動する。
【0039】
また、加工用レーザ光Lwに関しては、まず、コントローラ600の指示により、発光信号生成回路204で発光タイミング等が制御された発光信号が生成され、その発光信号が加工用レーザ駆動回路202により加工用レーザ光Lwの駆動信号にされ、光加工ヘッド200にある加工用レーザ光源からウェハー5の加工面5aに向かって加工用レーザ光Lwが出射される。そして、レーザ光源の後にあるコリメーティングレンズの位置を調整することで、サーボ用レーザ光Lsの焦点位置がガラス基板18の表面に合っている状態で、加工用レーザ光Lwの焦点位置がウェハー5の加工面5aに合うようになっている。すなわち、サーボ用レーザ光の焦点がガラス基板18のガイド溝18aを追従するように移動すれば、加工用レーザ光Lwの焦点は、ウェハー5の加工面5aに合ったままガイド溝18aと同じピッチで移動しレーザ加工を行うことになる。」

したがって、上記引用文献2には、レーザ微細加工装置において、以下の技術的事項(以下、「引用文献2の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

「サーボ用レーザ光Lsの焦点位置がガラス基板18の表面に合うように、HF信号増幅回路102が出力した信号に基づいてドライブ回路108を制御することで、加工用レーザ光Lwの焦点位置をウェハー5の加工面5aに合うようにする。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0005】
そこで、ターンテーブルにセットする加工対象物の固定治具を、固定治具の中心から離間して複数の装着孔が設けられているようにし、この装着孔に加工対象物を装着して加工用レーザ光の照射により一度にレーザ加工できる数を増やすとともに、回転中心において高精度な加工が困難であるという問題を考慮する必要がないようにすることが試みられている。
【特許文献1】特開2001-133987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような固定治具による方法においては、加工対象物を固定治具の装着孔にセットした際、加工対象物と固定治具の境界に存在する段差や隙間によりフォーカスエラー信号が大きく乱れ、フォーカスサーボが外れる可能性がある。
【0007】
光加工ヘッドの光学系を調整することによりフォーカスサーボが外れることを抑えることはある程度できるが、レーザ光焦点の加工対象物の加工面への追従性が悪くなるため、通常のフォーカスサーボの場合に比べて加工精度が落ちてしまう。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、固定治具に固定治具の中心から離間して複数の加工対象物を装着して加工用レーザ光の照射によりレーザ微細加工を行う場合において、加工対象物と固定治具の境界に段差や隙間があってもフォーカスサーボが外れないと共に、加工対象物の加工精度を維持しつつフォーカスサーボを行うことが可能なレーザ微細加工装置及びレーザ微細加工装置のフォーカスサーボ方法を提供することにある。」

イ 「【0024】
以下、本発明の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。本発明の形態におけるレーザ微細加工装置は、光加工ヘッドから出射される加工用レーザ光をディスク状の加工対象物に照射し、加工対象物の加工面に微細なピットを作製するものである。」

ウ 「【0026】
図1?図3において、ウェハー5は、LEDウェハー等のディスク状の加工対象物で、表面が微細ピットを作製する加工面である。ウェハー固定治具10は、ディスク状で、ウェハー5を挿嵌可能な装着孔10aが複数穿設されている。この装着孔10aは、ウェハー固定治具10の回転中心から離間して設けられている。ターンテーブル12は、ウェハー5を回転させるテーブルであり、全面に図示しない吸引口を複数備え、ウェハー固定治具10とウェハー5を吸着可能に構成されている。」

エ 「【0034】
光加工ヘッド200は、内部に設けられたレーザ光源202から微細ピットを作製するための加工用レーザ光を出射するものである。光加工ヘッド200においてレーザ光源202から出射されコリメートレンズ204により平行光になったレーザ光は、偏光ビームスプリッタ206で殆ど透過し、ビームスプリッタ208で半分程度が透過し、1/4波長板210で円偏光となって対物レンズ212で集光され、ウェハー5またはウェハー固定治具10に照射される。
【0035】
そして、反射光は、対物レンズ212で平行光となり1/4波長板210で偏光方向が出射光から90度変わり、ビームスプリッタ208で半分程度が透過、半分程度が反射して、反射光は集光レンズA220、シリンドリカルレンズA222を介してフォトディテクタA224に集光する。集光レンズA220,シリンドリカルレンズA222は、ウェハー5とウェハー固定治具10の境界に存在する段差の3?10倍のS字検出距離になるように設置されている。以下、集光レンズA220、シリンドリカルレンズA222及びフォトディテクタA224を総称して受光光学系Aと言う。
【0036】
ビームスプリッタ208を透過した反射光は、偏光ビームスプリッタ206で殆どが反射し、反射光は、集光レンズB230、シリンドリカルレンズB232を介してフォトディテクタB234に集光する。集光レンズB230、シリンドリカルレンズB232は、一般的な光ディスク装置の場合と同程度のS字検出距離になるように設置されている。以下、集光レンズB230、シリンドリカルレンズB232及びフォトディテクタB234を総称して受光光学系Bと言う。
【0037】
信号強度変化検出回路104は、光加工ヘッド200のフォトディテクタA224が出力する信号を加算し増幅してローパスフィルタを通した後、所定レベルより大きいまたは小さいで2値化信号にする。そして、2値化信号がLOWからHIGHになったときは、検出信号Aを出力し、検出信号がHIGHからLOWになったときは検出信号Bを出力する。
【0038】
HF信号増幅回路A106、フォーカスエラー信号生成回路A108、フォーカスサーボ回路A110は、レーザ光がウェハー固定治具10を照射しているときにフォーカスサーボに使用される回路である。フォーカスサーボ回路A110のカットオフ周波数は通常のフォーカスサーボの場合より小さく設定されており(ウェハー5とウェハー固定治具10の隙間により発生する信号成分の周波数の2.5分の1?15分の1相当)、ウェハー5とウェハー固定治具10の境界をレーザ光が移動してもフォーカスサーボが外れないようになっている。
【0039】
HF信号増幅回路B112、フォーカスエラー信号生成回路B114、フォーカスサーボ回路B116は、レーザ光がウェハー5を照射しているときにフォーカスサーボに使用される回路である。フォーカスサーボ回路B116は、通常の光ディスク装置におけるフォーカスサーボと同様の条件で設定されている。」

オ 「【0041】
このように構成されたレーザ微細加工装置1において、作業者は図3に示すようにウェハー5のエッジ数mmに反射率の高い膜5aをつけ、ウェハー固定治具10の装着孔10aに装着した後、入力装置604から加工を指示する。尚、この場合、ウェハー固定治具10の表面の反射率は高く、ウェハー5は低いとする。」

カ 「【0043】
以後、信号強度変化検出回路104は、レーザ光が高反射率の箇所から低反射率の箇所へ移ったときに検出信号Bを出力し、低反射率の箇所から高反射率の箇所へ移ったときに検出信号Aを出力し、それにより信号切替回路102が出力する信号を変更するので、ウェハー5上にレーザ光が照射されているときは、受光光学系BとHF信号増幅回路B112、フォーカスエラー信号生成回路B114及びフォーカスサーボ回路B116でフォーカスサーボが行われ、ウェハー固定治具10上にレーザ光が照射されているときは受光光学系AとHF信号増幅回路A106、フォーカスエラー信号生成回路A108及びフォーカスサーボ回路A110でフォーカスサーボが行われる。
【0044】
そして、ウェハー5のエッジ数mmに反射率の高い膜5aをつけてあるので、フォーカスサーボの切り替えは、この膜5aとウェハー5の間の境界で行われるため、ウェハー5とウェハー固定治具10の間の境界をレーザ光が通過するときは、必ず受光光学系AとHF信号増幅回路A106、フォーカスエラー信号生成回路A108及びフォーカスサーボ回路A110によるフォーカスサーボが行われ、このフォーカスサーボはS字検出距離が長く、カットオフ周波数が小さく設定され、フォーカスサーボが外れにくいフォーカスサーボであるのでウェハー5とウェハー固定治具10の境界にある段差や隙間でフォーカスサーボが外れないようにすることができる。そして、ウェハー5上にレーザ光が照射されているときに、受光光学系BとHF信号増幅回路B112、フォーカスエラー信号生成回路B114及びフォーカスサーボ回路B116により行われるフォーカスサーボは、S字検出距離やカットオフ周波数が通常の光ディスク装置におけるフォーカスサーボと同程度に設定され、追従性がよいフォーカスサーボであるので、ウェハー5の加工精度を維持しつつフォーカスサーボを行うことができる。」

キ 「【0065】
レーザ微細加工装置3は、レーザ微細加工装置1と同様にまずフォーカスサーボ引き込みが行われる。その後、エッジ検出回路122は、レーザ光がウェハー5とウェハー固定治具10の境界を通過し、ウェハー5のエッジから数mmの箇所に来たときに信号Bを出力し、レーザ光がウェハー5とウェハー固定治具10の境界を通過する手前のウエハー5のエッジから数mmの箇所に来たときに信号Aを出力し、それにより信号切替回路102が出力する信号を切り替えるので、実施例1と同様、ウェハー5上にレーザ光が照射されているときは受光光学系BとHF信号増幅回路B112、フォーカスエラー信号生成回路B114及びフォーカスサーボ回路B116でフォーカスサーボが行われ、ウェハー固定治具10上にレーザ光が照射されているときは受光光学系AとHF信号増幅回路A106、フォーカスエラー信号生成回路A108及びフォーカスサーボ回路A110でフォーカスサーボが行われる。また、ウェハー5とウェハー固定治具10の間の境界をレーザ光が通過するときは、必ず受光光学系AとHF信号増幅回路A106、フォーカスエラー信号生成回路A108及びフォーカスサーボ回路A110によるフォーカスサーボ(即ちS字検出距離が長く、カットオフ周波数が小さく設定され、フォーカスサーボが外れにくいフォーカスサーボ)が行われるので、ウェハー5とウェハー固定治具10の境界にある段差や隙間でフォーカスサーボが外れないようにすることができ、受光光学系BとHF信号増幅回路B112、フォーカスエラー信号生成回路B114及びフォーカスサーボ回路B116によるフォーカスサーボは、S字検出距離やカットオフ周波数が通常の光ディスク装置におけるフォーカスサーボと同程度に設定され、追従性がよいフォーカスサーボであるので、ウェハー5の加工精度を維持しつつフォーカスサーボを行うことができる。」

ク 「【0067】
光加工ヘッド240は、加工用レーザ光とサーボ用レーザ光の2つを照射する。2つのレーザ光は波長を異ならせているため(例えば加工用レーザ光は400nm付近の青色レーザ、サーボ用レーザ光は650nm付近の赤色レーザ)、ダイクロイックミラーで合成され、2つのレーザ光による反射光はダイクロイックミラーで分離される。そしてそれぞれの反射光を受光する受光光学系A、受光光学系Bが設けられている。
【0068】
サーボ用レーザ光による反射光は受光光学系AとHF信号増幅回路A106、フォーカスエラー信号生成回路A108及びフォーカスサーボ回路A110によるフォーカスサーボに用いられ、加工用レーザ光による反射光は、受光光学系BとHF信号増幅回路B112、フォーカスエラー信号生成回路B114及びフォーカスサーボ回路B116によるフォーカスサーボに用いられる。」
【0069】
このように構成されたレーザ微細加工装置4において、作業者は実施例1と同様に、ウェハー5のエッジに高反射率の膜5aをつけ、ウェハー固定治具10の装着孔10aに装着した後、入力装置604から加工を指示する。レーザ微細加工装置4は、レーザ微細加工装置1と同様にフォーカスサーボ引き込みを行う。その後、信号強度変化検出回路104は、レーザ光が高反射率の箇所から低反射率の箇所へ移ったときに検出信号Bを出力し、低反射率の箇所から高反射率の箇所へ移ったときに検出信号Aを出力し、それにより信号切替回路102の出力を切り替えるので、ウェハー5上にレーザ光が照射されているときは、加工用レーザ光による反射光を用いて受光光学系BとHF信号増幅回路B112、フォーカスエラー信号生成回路B114及びフォーカスサーボ回路B116でフォーカスサーボが行われる。
【0070】
ウェハー固定治具10上にレーザ光が照射されているときは、サーボ用レーザ光による反射光を用いて受光光学系AとHF信号増幅回路A106、フォーカスエラー信号生成回路A108及びフォーカスサーボ回路A110でフォーカスサーボが行われる。また、ウェハー5とウェハー固定治具10の間の境界をレーザ光が通過するときは、必ず受光光学系AとHF信号増幅回路A106、フォーカスエラー信号生成回路A108及びフォーカスサーボ回路A110によるフォーカスサーボが行われるのでウェハー5とウェハー固定治具10の境界にある段差や隙間でフォーカスサーボが外れないようにすることができ、受光光学系BとHF信号増幅回路B112、フォーカスエラー信号生成回路B114及びフォーカスサーボ回路B116によるフォーカスサーボは、追従性がよいフォーカスサーボであるので、ウェハー5の加工精度を維持しつつフォーカスサーボを行うことができる。」

したがって、上記引用文献3の記載事項について、簡便のため、「受光光学系BとHF信号増幅回路B112、フォーカスエラー信号生成回路B114及びフォーカスサーボ回路B116」を「B回路」、「受光光学系AとHF信号増幅回路A106、フォーカスエラー信号生成回路A108及びフォーカスサーボ回路A110」を「A回路」とすると、上記引用文献3には、以下の技術的事項(以下、「引用文献3の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

「レーザ微細加工装置において、ウェハー5のエッジ数mmに反射率の高い膜5aをつけ、フォーカスサーボの切り替えをこの膜5aとウェハー5の間の境界で行うものであって、ウェハー5上にレーザ光が照射されているときには、追従性のよいフォーカスサーボであるB回路でのフォーカスサーボが行われ、ウェハー固定治具10上にレーザ光が照射されているときはA回路でフォーカスサーボが行われ、ウェハー5とウェハー固定治具10の間の境界をレーザ光が通過するときは、A回路でフォーカスサーボが行うことで、ウェハー5とウェハー固定治具10の境界にある段差や隙間でフォーカスサーボが外れないようにする。」


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
引用発明における「加工対象物S」は、本願発明1における「ワーク」に相当し、以下同様に、「加工用レーザ光L1」は「加工用レーザ光」に、「切断予定ラインC_(1)」は「分割予定ライン」に、「改質領域R」は「レーザ加工領域」に、「レーザ加工装置1」は「レーザ加工装置」に、「測距用レーザ光L2」は「検出用レーザ光」に、「加工用対物レンズ42」は「集光レンズ」に、「ステージ2」は「スキャン手段」に、「アクチュエータ43」は「調整手段」に、「集光像パターンに関する情報」は「ワークの主面の高さに応じた検出信号」に、「レーザダイオード44及び受光部45」は「検出手段」に、それぞれ相当する。
また、引用文献1の「受光部45により測距用レーザ光L2の反射光が検出され、加工用レーザ光L1の集光点Pの位置が加工対象物Sの表面S1から常に一定の深さとなるようにアクチュエータ43が制御装置7によってフィードバック制御されて」(引用文献1の記載事項オの段落【0045】)との記載及び加工用レーザ光L1と測距用レーザ光L2のスキャン位置は同一の位置であること(引用文献1の記載事項ケ)からみて、測距用レーザ光L2は加工対象物Sの表面S1と常に一定の深さとなる位置に追従するものであるから、引用発明の「加工用対物レンズ42と加工対象物Sとの距離が一定となるようにアクチュエータ43の伸び量を制御する制御装置7」は、本願発明1の「前記検出用レーザ光の集光点が前記ワークの主面の変位に追従するように、前記検出手段が出力した前記検出信号に基づいて前記調整手段を制御する第1制御手段」に、相当する。
また、引用発明の「加工開始時においてアクチュエータ43は一定の伸び量で固定され」る制御を行うことと、本願発明1の「前記第1制御手段よりも前記ワークの主面の変位に対する追従性を低下させた状態で、前記検出用レーザ光の集光点が前記ワークの主面の変位に追従するように、前記検出手段が出力した前記検出信号に基づいて前記調整手段を制御する第2制御手段」とは、「前記第1制御手段とは異なる制御により前記調整手段を制御する第2制御手段」である限りでは共通している。
また、引用発明の「受光部45が検出する全光量が予め定められた閾値よりも大きくなった場合」とは、引用発明において加工用レーザ光L1と測距用レーザ光L2のスキャン位置は同一の位置であること(引用文献1の上記記載事項ケ)に鑑みれば、本願発明1の「前記加工用レーザ光及び前記検出用レーザ光のスキャン位置が前記ワークの中央部である場合」及び「前記加工用レーザ光及び前記検出用レーザ光のスキャン位置が前記ワークの端部である場合」と、「前記加工用レーザ光及び前記検出用レーザ光のスキャン位置に基づいて」なされる場合である限りでは共通している。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「ワークの内部に加工用レーザ光を集光することにより、分割予定ラインに沿って前記ワークの内部にレーザ加工領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記加工用レーザ光及び検出用レーザ光を前記ワークに向けて集光する集光レンズと、
前記集光レンズと前記ワークとを前記集光レンズの光軸方向に直交する方向に相対的に移動させることにより、前記加工用レーザ光及び前記検出用レーザ光を前記ワークに対してスキャンするスキャン手段と、
前記集光レンズと前記ワークとの間隔を調整する調整手段と、
前記ワークの主面で反射した前記検出用レーザ光の反射光を検出することで、前記ワークの主面の高さに応じた検出信号を出力する検出手段と、
前記加工用レーザ光及び前記検出用レーザ光のスキャン位置に基づいて、前記検出用レーザ光の集光点が前記ワークの主面の変位に追従するように、前記検出手段が出力した前記検出信号に基づいて前記調整手段を制御する第1制御手段と、
前記加工用レーザ光及び前記検出用レーザ光のスキャン位置に基づいて、前記第1制御手段とは異なる制御により前記調整手段を制御する第2制御手段と、
を備えるレーザ加工装置。」

(相違点)
本願発明1は、加工用レーザ光及び検出用レーザ光のスキャン位置(以下、「スキャン位置」という。)が、「ワークの中央部にある場合」に「第1制御手段」による制御を行い、「ワークの端部である場合」に「前記第1制御手段よりも前記ワークの主面の変位に対する追従性を低下させた状態で、前記検出用レーザ光の集光点が前記ワークの主面の変位に追従するように、前記検出手段が出力した前記検出信号に基づいて前記調整手段を制御する第2制御手段」による制御を行うものであるのに対し、引用発明では、加工開始時においてアクチュエータ43は一定の伸び量で固定される制御を行い、受光部45が検出する全光量が予め定められた閾値よりも大きくなった場合に、加工用対物レンズ42が切断予定ラインC_(1)の一端に相当する位置にあるとして、アクチュエータ43の伸び量の保持を解除して制御を切り替えている点。

(2)相違点についての判断
ア.相違点について検討する。
まず、本願発明1の「ワークの端部」の解釈について、「端部」とは端の部分を意味するものであり、技術常識に鑑みれば、ワークの端部とは、ワークの半径方向における最外部のみを意味するとも、ワークの半径方向における最外部を含む所定の領域を意味するとも解釈できるところ、該「ワークの端部」について本願明細書に明確な定義はない。しかしながら、本願明細書の段落【0054】に、「ワーク端部R1においては、ワーク中央部R2(ワーク端部R1を除いた部分)に比べてワーク表面の変位が大きくなる。」(下線部は、当審合議体が付した。以下、同様。)、段落【0086】に、「また、本実施形態では、低追従AF制御が適用されるワーク端部R1の範囲が固定されていてもよいし変更可能であってもよい。例えば、予め設定した複数の範囲の中から所望の範囲をユーザが図示しない入力装置(キーボードやマウスなど)を介して選択できるように構成してもよい。また、加工対象となるワークWの種類等に応じて、ユーザがワーク端部R1を任意の範囲で自由に変更できるように構成してもよい。」と記載され、図4に「ワークの端部R1」がワークにおける半径方向の最外部を含む所定の領域であることが図示されていることに鑑みると、本願発明1において、「ワークの端部」とは、ワーク上において、半径方向における最外部を含むユーザが予め設定した所定の領域を意味するものと解される。そして、「ワークの中央部」とは、ワーク全体から該「ワーク端部」を除いた部分と解される。

(本願の図4)


イ.これに対して、引用発明は、受光部45が検出する全光量が予め定められた閾値よりも大きくなった場合に、加工用対物レンズ42が切断予定ラインC_(1)の一端に相当する位置にあるとして、制御を切り替えるものであるから、引用発明は、加工対象物S内において、予め「端部(領域)」と「中央部(領域)」とを区分けした上で、異なる制御を行うことを意図しているものではなく、切断予定ラインC_(1)の一端(加工対象物Sにおける半径方向の最外部)を検知して制御を切り替えることを意図しているものにすぎない。
ここで、引用文献1の上記記載事項カの段落【0060】には、「図6(B)に示すように、区間F(一端部)においては一定の加工高さで改質領域Rが形成されることになる。」との記載があり、引用文献1の上記記載事項コに記載したとおり、該区間Fはワークにおける半径方向の最外部を含む所定の領域であることが看取されるものの、該区間Fは、受光部45が検出する全光量が予め定められた閾値よりも大きくなるか否かとの判断手法を用いることにより必然的に生じているものであり、引用文献1の上記記載事項イに記載されている課題に鑑みれば、該区間Fはなるべく小さくすることが望ましい(加工用のレーザ光の集光点が切断予定ラインからずれている区間をなるべく小さくすることが望ましい)と理解できるものであるから、引用文献1の「区間F」は、本願発明1の「ワークの端部」に相当しないというべきである。
加えて、引用発明は、加工対象物S上では常に同じ制御手段を用いるものであって、予め「端部(領域)」と「中央部(領域)」に区分けした上で、加工対象物Sにおける該「端部(領域)」について「前記第1制御手段よりも前記ワークの主面の変位に対する追従性を低下させた状態で、前記検出用レーザ光の集光点が前記ワークの主面の変位に追従するように、前記検出手段が出力した前記検出信号に基づいて前記調整手段を制御する第2制御手段」による制御を行う動機付けは見当たらず、引用発明から上記相違点に係る本願発明1の構成とすることが単なる設計事項であると解することもできない。

ウ.また、上記のとおり、引用文献3に、ウェハー5のエッジ数mmに反射率の高い膜5aをつけ、フォーカスサーボの切り替えをこの膜5aとウェハー5の間の境界で行うものであって、ウェハー5上にレーザ光が照射されているときには、追従性のよいフォーカスサーボであるB回路でのフォーカスサーボが行われ、ウェハー固定治具10上にレーザ光が照射されているときはA回路でフォーカスサーボが行われ、ウェハー5とウェハー固定治具10の間の境界をレーザ光が通過するときは、A回路でフォーカスサーボが行うことで、ウェハー5とウェハー固定治具10の境界にある段差や隙間でフォーカスサーボが外れないようにするとの技術的事項が記載されているものの、本願発明1のように「端部(領域)」と「中央(領域)」とで制御手段を異ならせるものではない。

エ.さらに、引用文献3の技術的事項は、加工対象物の加工面に微細なピットを作製するレーザ微細加工装置におけるものであって、ワークを切断予定ラインに沿って切断する引用発明とは、技術分野が異なるものである。
また、引用文献2にも、相違点に係る本願発明1の構成は記載されていない。

オ.したがって、引用発明、引用文献2-3の技術的事項により、相違点に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。

キ.したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明11について
本願発明11の「レーザ加工方法」は、「前記加工用レーザ光及び前記検出用レーザ光のスキャン位置が前記ワークの中央部である場合には、前記検出用レーザ光の集光点が前記ワークの主面の変位に追従するように、前記検出手段が出力した前記検出信号に基づいて前記調整手段を制御する第1制御ステップと、前記加工用レーザ光及び前記検出用レーザ光のスキャン位置が前記ワークの端部である場合には、前記第1制御ステップよりも前記ワークの主面の変位に対する追従性を低下させた状態で、前記検出用レーザ光の集光点が前記ワークの主面の変位に追従するように、前記検出手段が出力した前記検出信号に基づいて前記調整手段を制御する第2制御ステップ」との構成を備え、実質的に、本願発明1の相違点と同じ相違点を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-3の技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明2-10、12-20について
本願発明2-10、12-20は、本願発明1、11の発明特定事項の全てを含むものであり、本願発明1、11の相違点と同じ相違点を備えるものであるから、本願発明1、11と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-3の技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-20は、当業者が引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-10 
出願番号 特願2018-246898(P2018-246898)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 奥隅 隆  
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 大山 健
栗田 雅弘
発明の名称 レーザ加工装置及びレーザ加工方法  
代理人 松浦 憲三  

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