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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01H |
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管理番号 | 1355686 |
審判番号 | 不服2019-1279 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-01-30 |
確定日 | 2019-10-29 |
事件の表示 | 特願2017-114831「ポンプ装置におけるガスロック検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月21日出願公開、特開2017-223672、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成29年6月12日(優先権主張 平成28年6月13日)の出願であって、平成30年4月24日付けで拒絶理由が通知され、同年6月25日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月30日付けで拒絶査定されたところ、平成31年1月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正(以下、「本件手続補正」という。)がなされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成30年10月30日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願の請求項1?3に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明、及び引用文献2?6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2015-54015号公報 2.特開2002-213365号公報 (周知技術を示す文献;新たに引用された文献) 3.特開平7-119639号公報 (周知技術を示す文献;新たに引用された文献) 4.特開2005-307876号公報 (周知技術を示す文献;新たに引用された文献) 5.特開平7-127577号公報(周知技術を示す文献) 6.特開2003-35266号公報(周知技術を示す文献) 第3 本願発明 本願の請求項1?2に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」?「本願発明2」という。)は、平成31年1月30日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、本願発明1は以下のとおりである。 「 【請求項1】 ガスロック検出装置を備え、最大吐出量が30?60mL/minであるポンプ装置であって、 当該ガスロック検出装置は、 ポンプ作動時における振動伝達部分に設置される検出部と、この検出部の信号を取得してガスロック状態を判断する検出回路とからなり、 前記検出部は、圧電素子を用いて構成されており、 前記検出回路は、検出部から取得した信号における周波数ごとの出力からガスロック状態を判断し、 前記ポンプは筐体内に収容したソレノイド機構によって往復動作するダイヤフラム式電磁定量ポンプであって、 前記ガスロック検出装置の検出部は、ダイヤフラム式電磁定量ポンプにおけるポンプヘッドの近傍であって、前記ソレノイド機構の駆動方向から見て、筐体と投影的に重なる領域に設けられ、 当該ポンプ装置の設置部には、動作時の振動を吸収するクッション部材を設けて、動作時の振動の干渉を阻止することを特徴とするポンプ装置。」 なお、本願発明2は、本願発明1を減縮した発明である。 第4 引用文献の記載事項、引用発明 1 引用文献1について (1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下同様。)。 (1-ア) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、液体を噴射する医療機器の技術に関する。 【背景技術】 【0002】 液体を駆動部で加圧して噴射管から液体を噴射させる医療機器が知られている。このような医療機器は、例えば、駆動部に気泡が介在していると、駆動部が液体に対して加えた圧力が気泡の体積変化によって吸収されてしまい、適切に液体が加圧されないと言った問題がある。液体中の気泡を検出する技術としては下記特許文献1の技術が知られている。」 (1-イ) 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 このような医療機器は、駆動部内の気泡の有無に限らず、機器の種々の状態を検出する技術の開発が課題である。」 (1-ウ) 「【0017】 A.第1実施形態: (A1)医療機器の構成: 図1は、本発明の第1実施例としての医療機器10の構成を説明する説明図である。医療機器10は、患部に対して液体を噴射することによって患部の切開または切除を行うメスとして利用される。 【0018】 医療機器10は、液体噴射装置20と、液体供給部50と、液体容器55と、制御部60と、気泡検出部70と、集音装置80とを備える。液体噴射装置20と液体供給部50とは、液体供給流路52によって接続されている。液体供給部50と液体容器55とは、接続チューブ54によって接続されている。本実施例においては、液体供給流路52および接続チューブ54は、樹脂によって形成されている。 【0019】 液体容器55は、液体として生理食塩水を収容している。なお、液体として、医療用の無菌水や、純水など、種々の液体を採用することができる。液体供給部50は、接続チューブ54を介して液体容器55から吸引した液体を、液体供給流路52を介して液体噴射装置20に供給する。 【0020】 液体噴射装置20は、液体供給部50から供給された液体に脈動を付与し、パルス状の液体を噴射させる。使用者は、液体噴射装置20から噴射されるパルス状の液体を患者の患部に当てることによって、患部の切開または切除を行う。 【0021】 液体噴射装置20は、第1ケース31、第2ケース32、第3ケース33、圧電素子35、補強板36、ダイアフラム37、噴射管42を備える。第1ケース31は筒状部材である。第1ケース31の一端は、第2ケース32と接合されている。第1ケース31の他端は、第3ケース33によって密閉されている。第1ケース31の内部に形成される空間には圧電素子35が配設されている。 【0022】 圧電素子35は、積層型圧電素子である。圧電素子35の一方の端部は、補強板36を介してダイアフラム37と固定されている。圧電素子35の他方の端部は、第3ケース33に固定されている。ダイアフラム37は金属薄膜からなり、周縁部が第1ケース31に固定されている。ダイアフラム37と第2ケース32との間には液体室38が形成される。液体室38は、圧電素子35の駆動によって容積が変更される。 【0023】 第2ケース32には、液体を液体室38に流入させる第1の流路39が形成されている。第1の流路39は、液体供給流路52と接続されている。液体供給部50から供給された液体は、液体供給流路52および第1の流路39を介して液体室38に流入する。また、第2ケース32には、液体室38に収容された液体を流出させる第2の流路40が形成されている。第2の流路40は、噴射管42と接続されている。 【0024】 制御部60は、医療機器10全体の動作を制御する。制御部60には、使用者が足元で操作するフットスイッチ62が接続されている。使用者がフットスイッチ62をオンにすると、制御部60は、液体供給部50を制御して、液体噴射装置20(液体室38)へ液体の供給を行わせるとともに。圧電素子35に駆動信号を送信する。圧電素子35は、制御部60から駆動信号を受信すると、所定の周波数で振動する。圧電素子35が振動すると、ダイアフラム37を介して液体室38の容積が変化し、液体室38に収容されている液体が加圧される。所定周波数で加減圧された液体には脈動が付与され、第2の流路40、噴射管42を通ってパルス状の液体として外部に噴射される。 【0025】 パルス状の液体の噴射とは、流量または流速が変動を伴った状態の液体であることを意味する。液体がパルス状に噴射する態様には、噴射と停止とを繰り返しながら噴射する間欠噴射が含まれるが、液体の流量または流速が変動していればよいため、必ずしも間欠噴射である必要はない。 【0026】 振動検出部としての集音装置80は、圧電素子35の駆動によって液体噴射装置20から発生する振動(本実施例では音響振動)を集音する。集音装置80は、集音した振動を電気信号に変換し、振動信号D3として気泡検出部70に入力する。気泡検出部70は、振動信号D3に基づいて液体室38内の気泡の有無や気泡の量の検出を行う。気泡検出部70が液体室38内の気泡を検出した場合、制御部60は、液体室38内の気泡を外部に放出する脱気処理を行う。脱気処理については、後で説明する。 【0027】 (A2)気泡検出部の構成: 図2および図3を用いて、気泡検出部70の構成および動作の詳細を説明する。図2は、気泡検出部70の構成を示すブロック図である。図3は、気泡検出部70が備える各構成の動作を示すタイミングチャートである。 【0028】 図2に示すように、気泡検出部70は、バンドパスフィルター71と、ピークホールド回路72と、遅延回路73と、比較器74と、基準電圧発生器75と、ラッチ76とを備える。気泡検出部70には、タイミング信号D2と振動信号D3とが入力される。タイミング信号D2は、制御部60から気泡検出部70に入力される。タイミング信号D2は、制御部60が圧電素子35に入力する駆動信号D1と同期した二値の信号である(図3参照)。振動信号D3は集音装置80から気泡検出部70に入力される。振動信号D3は、集音装置80が液体噴射装置20から発生する音を電気信号に変換した信号である。 【0029】 バンドパスフィルター71は、振動信号D3を入力し、所定の周波数帯域の信号のみを抽出して特定周波数信号D4としてピークホールド回路72に入力する。ピークホールド回路72は、バンドパスフィルター71から入力される特定周波数信号D4のピーク値を記憶する。ピークホールド回路72は、記憶した特定周波数信号D4のピーク値を電圧値として表したピーク値信号D6を、比較器74に入力する。 【0030】 比較器74は、ピークホールド回路72から入力されたピーク値信号D6と、所定の基準電圧値とを比較する。基準電圧値は、基準電圧発生器75によって生成され、基準電圧信号D7として比較器74に入力される。比較器74は、ピーク値信号D6の電圧値と基準電圧信号D7の電圧値とを比較し、比較結果を二値の信号(以下、比較信号D8)としてラッチ76に出力する。比較器74は、ピーク値信号D6の電圧値が基準信号より高い場合に、比較信号D8の値をONにする。 【0031】 ラッチ76は、比較信号D8とタイミング信号D2とを入力する。ラッチ76は、タイミング信号D2が「ON」のタイミングで比較信号D8の値を読み込み、読み込んだ値を気泡検出信号D9として制御部60に入力する。 【0032】 遅延回路73は、タイミング信号D2を制御部60から入力する。遅延回路73は、タイミング信号D2を遅延させた信号(以下、クリア信号D5とも呼ぶ)をピークホールド回路72に入力する。ピークホールド回路72は、クリア信号D5に同期して、記録した特定周波数信号D4のピーク値をクリアする。 【0033】 ここで、振動信号D3について説明する。上述のように、振動信号D3は、圧電素子35の駆動によって液体噴射装置20から発生する振動(本実施例では音響振動)が集音装置80で集音され電気信号に変換された信号である。図4は、実際の振動信号D3の実測結果を示す説明図である。図4(A)は、液体室38に気泡が無い場合の振動信号D3を示している。図4(B)は、液体室38に気泡が存在する場合の振動信号D3を示している。図4(A-1)および(B-1)は、横軸を時間、縦軸を振幅として振動信号D3を示した。図4の(A-2)および(B-2)は、横軸を周波数、縦軸を振幅スペクトル(音圧スペクトル)として振動信号D3を示した。 【0034】 図4において、(A-1)と(B-1)とを比較して分かるように、液体室38に気泡が存在する場合は、液体室38に気泡が無い場合より、振動信号D3の振幅のピーク値が大きい。また、図4において(A-2)と(B-2)とを比較して分かるように、特定の周波数成分の振幅スペクトル(音圧スペクトル)に大きなピーク(図中のピークP1)が観察される。本実測においては、ピークP1の周波数は3.7kHzであった。このように、液体室38内の気泡の有無や気泡の量によって、液体噴射装置20が発生する振動の特性が異なる。 【0035】 気泡検出部70は、ピークP1を検出することによって、液体室38内の気泡の有無や気泡の量を検出する。具体的には、気泡検出部70のバンドパスフィルター71の通過帯域をピークP1の周波数が含まれる周波数帯域に設定し、比較器74に入力される基準電圧をピークP1が検出可能な値に設定することによって、気泡検出部70は、液体室38内の気泡の有無や気泡の量を検出することができる。」 (1-エ) 「【0040】 B.第2実施形態: 本発明の第2実施形態について説明する。図6は、第2実施形態における医療機器10aの構成を示す説明図である。第2実施形態と第1実施形態との違いは、振動検出部として振動センサー82を採用した点である。医療機器10aのその他の構成は、第1実施例における医療機器10と同じであるので、振動センサー82以外の医療機器10aの構成についての説明は省略する。 【0041】 振動センサー82は、第3ケース33に固定されており、液体噴射装置20の振動を検出する。振動センサー82は、検出した振動を電気信号に変換して振動信号D3aとして気泡検出部70に入力する。本実施形態においては、振動センサー82は、圧電素子である。振動センサー82によって生成された振動信号D3aは、第1実施形態において集音装置80によって生成された振動信号D3と同じく、液体室38内の気泡の有無や気泡の量によって、振動特性が異なる。 【0042】 たとえば、液体室38内に気泡が存在しない場合、圧電素子35が液体室38を加圧する際に液体室内の液体から反力を受ける。その反力によって、第3ケース33にひずみが生じ、振動波形となって表れる。逆に、液体室38内に気泡が存在する場合、圧電素子35が液体に対して加えた圧力が気泡の体積変化によって吸収されてしまい、圧電素子35が液体から受ける反力が減少する。これによって第3ケース33のひずみも減少し、振動特性が変わる。また、気泡の量に応じて圧電素子35が液体から受ける反力の減少量が異なり、これによって第3ケース33のひずみ量が異なる。 【0043】 本実施形態においては、第1実施形態と同じく、液体室38に気泡が存在する場合の振動信号D3aに現れる振動特性を気泡検出部70で検出する。具体的には、バンドパスフィルター71の通過帯域と、基準電圧発生器75から比較器74に入力する基準電圧の電圧値とを調整することによって、気泡検出部70は、液体室38に気泡が存在する場合の振動信号D3aの振動特性を検出することができる。制御部60は、気泡検出部70から入力される気泡検出信号D9に基づいて脱気処理を行う。 【0044】 以上説明したように、第2実施形態における医療機器10aは、圧電素子35の駆動によって発生する振動を振動センサー82によって検出するので、振動の検出手段として比較的簡易な構成とすることができる。また、小型の振動センサー82を採用することによって、液体噴射装置20全体の小型化を実現することができる。」 (1-オ) 図6 (2)上記(1-ア)?(1-オ)の記載を踏まえれば、上記引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のため、引用発明の認定に使用した引用文献1の段落番号等を、括弧内に付記してある。 「a)液体噴射装置20と、液体供給部50と、液体容器55と、制御部60と、気泡検出部70と、振動センサー82とを備える医療機器10aである患部に対して液体を噴射することによって患部の切開または切除を行うメスの液体噴射装置20、気泡検出部70及び振動センサー82であって、(【0017】、【0018】、【0040】) b)液体噴射装置20は、第1ケース31、第2ケース32、第3ケース33、圧電素子35、補強板36、ダイアフラム37、噴射管42を備え、第1ケース31は筒状部材であり、第1ケース31の一端は、第2ケース32と接合されており、第1ケース31の他端は、第3ケース33によって密閉されており、第1ケース31の内部に形成される空間には圧電素子35が配設されており、(【0021】) c)圧電素子35の一方の端部は、補強板36を介してダイアフラム37と固定されており、圧電素子35の他方の端部は、第3ケース33に固定されており、ダイアフラム37と第2ケース32との間には液体室38が形成され、液体室38は、圧電素子35の駆動によって容積が変更され、(【0022】) d)第2ケース32には、液体を液体室38に流入させる第1の流路39が形成されており、第1の流路39は、液体供給流路52と接続されており、液体供給部50から供給された液体は、液体供給流路52および第1の流路39を介して液体室38に流入し、また、第2ケース32には、液体室38に収容された液体を流出させる第2の流路40が形成されており、第2の流路40は、噴射管42と接続され、(【0023】) e)圧電素子35は、制御部60から駆動信号を受信すると、所定の周波数で振動し、ダイアフラム37を介して液体室38の容積が変化し、液体室38に収容されている液体が加圧され、所定周波数で加減圧された液体には脈動が付与され、第2の流路40、噴射管42を通ってパルス状の液体として外部に噴射され、(【0024】) f)振動検出部としての振動センサー82は、第3ケース33に固定されており、液体噴射装置20の振動を検出するもので、圧電素子であり、振動センサー82によって生成された振動信号D3aは、気泡検出部70に入力され、気泡検出部70は、振動信号D3aに基づいて液体室38内の気泡の有無や気泡の量の検出を行うもので、(【0026】、【0040】、【0041】) g)液体室38内に気泡が存在しない場合、圧電素子35が液体室38を加圧する際に液体室内の液体から反力を受け、その反力によって、第3ケース33にひずみが生じ、振動波形となって表れるが、逆に、液体室38内に気泡が存在する場合、圧電素子35が液体に対して加えた圧力が気泡の体積変化によって吸収されてしまい、圧電素子35が液体から受ける反力が減少し、これによって第3ケース33のひずみも減少し、振動特性が変わり、(【0042】) h)気泡検出部70は、バンドパスフィルター71と、ピークホールド回路72と、遅延回路73と、比較器74と、基準電圧発生器75と、ラッチ76とを備え、(【0028】) i)気泡検出部70のバンドパスフィルター71の通過帯域をピークP1の周波数が含まれる周波数帯域に設定し、比較器74に入力される基準電圧をピークP1が検出可能な値に設定することによって、気泡検出部70は、液体室38内の気泡の有無や気泡の量を検出する、(【0035】) j)液体噴射装置20、気泡検出部70及び振動センサー82。」 2 引用文献5について (1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5には、次の事項が記載されている。 (5-ア) 「【0005】このダイヤフラムポンプは、ダイヤフラム101の強制振動を利用するものであり、ポンプ本体111自身が振動するとともに大きな騒音を出す。そのため、ポンプ本体111をクッション113などで支持し、ハウジング112内で振動を吸収するように工夫されている。」 (5-イ) 「【0022】また、図1に示されるパッキン27は別部材であるフレーム1とケーシング2および3のあいだに適宜設けられている。このパッキン27は合成ゴム、天然ゴムなどで製作され、気密性の他に防振性を有している。さらに、フレーム1の取り付け台25の下に、クッションとなりうるゴム材、発泡スチロール、段ボールなどの防振材26を設けることによって、さらなる防音効果を高めることができる。」 3 引用文献6について (1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献6には、次の事項が記載されている。 (6-ア) 「【0019】(ポンプ本体2の構成説明)図1に示されるようにタンク容器200の上面には、板状の底部基台プレート7が、密封状態となるように被着固定される。この板状の底部基台プレート7の略中央付近の上に、電磁石ケース10が設置されている。電磁石ケース10は、一般に、底部基台プレート7の上に直接載置されるのではなく、実質的にクッション作用が働くように、例えば、防振ゴム9を介して設置されている。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)本願発明1と引用発明とを対比する。 ア (ア)引用発明の「a)」「液体噴射装置20」は、「液体噴射装置20と、液体供給部50と、液体容器55と、制御部60と、気泡検出部70と、振動センサー82とを備える医療機器10aである患部に対して液体を噴射することによって患部の切開または切除を行うメスの液体噴射装置20」であって、「b)」「第1ケース31、第2ケース32、第3ケース33、圧電素子35、補強板36、ダイアフラム37、噴射管42を備え」、その「e)圧電素子35は、制御部60から駆動信号を受信すると、所定の周波数で振動し、ダイアフラム37を介して液体室38の容積が変化し、液体室38に収容されている液体が加圧され、所定周波数で加減圧された液体には脈動が付与され、第2の流路40、噴射管42を通ってパルス状の液体として外部に噴射され」るから、引用発明の「液体噴射装置20」がポンプ機能を有していることは明らかである。 したがって、引用発明の「液体噴射装置20」は、本願発明1の「ポンプ装置」に相当する。 (イ)引用発明の「a)」「気泡検出部70と、振動センサー82」は、「医療機器10aである」「メス」が備えており、「g)」「液体室38内に気泡が存在する場合、圧電素子35が液体に対して加えた圧力が気泡の体積変化によって吸収されてしまい、圧電素子35が液体から受ける反力が減少し、これによって第3ケース33のひずみも減少し、振動特性が変わ」るのであるから、ガスロック発生前の気泡の発生も検知できるといえるので、ガスロックを検知できることは自明といえる。 したがって、引用発明の「気泡検出部70と、振動センサー82」は、本願発明1の「ガスロック検出装置」に相当する。 (ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、 引用発明の「液体噴射装置20と、液体供給部50と、液体容器55と、制御部60と、気泡検出部70と、振動センサー82とを備える」「メスの液体噴射装置20、気泡検出部70及び振動センサー82」と、 本願発明1の「ガスロック検出装置を備え、最大吐出量が30?60mL/minであるポンプ装置」とは、 「ガスロック検出装置を備えるポンプ装置」で共通する。 イ (ア)引用発明の「f)」「振動センサー82は」、「振動検出部としての」ものであり、「第3ケース33に固定されており、液体噴射装置20の振動を検出するもので、圧電素子であ」るから、本願発明1の「ポンプ作動時における振動伝達部分に設置される検出部」であって「圧電素子を用いて構成されて」いるものに相当する。 (イ)引用発明の「f)」「気泡検出部70」は、「振動センサー82によって生成された振動信号D3a」が、「入力され」「振動信号D3aに基づいて液体室38内の気泡の有無や気泡の量の検出を行うもので」あるから、本願発明1の「この検出部の信号を取得してガスロック状態を判断する検出回路」に相当する。 (ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、引用発明の「f)」「振動検出部としての振動センサー82」と「気泡検出部70」は、本願発明1の「ポンプ作動時における振動伝達部分に設置される検出部と、この検出部の信号を取得してガスロック状態を判断する検出回路とからな」り、「前記検出部は、圧電素子を用いて構成されてお」る「当該ガスロック検出装置」に相当する。 ウ 上記イ(イ)を踏まえると、引用発明の「i)気泡検出部70のバンドパスフィルター71の通過帯域をピークP1の周波数が含まれる周波数帯域に設定し、比較器74に入力される基準電圧をピークP1が検出可能な値に設定することによって、気泡検出部70は、液体室38内の気泡の有無や気泡の量を検出する」ことは、本願発明1の「前記検出回路は、検出部から取得した信号における周波数ごとの出力からガスロック状態を判断」することに相当する。 エ (ア)引用発明の「b)」「第1ケース31は筒状部材であり、第1ケース31の一端は、第2ケース32と接合されており、第1ケース31の他端は、第3ケース33によって密閉されており、第1ケース31の内部に形成される空間には圧電素子35が配設されて」いることから、引用発明の「第1ケース31、第2ケース32、第3ケース33」からなるケースは、本願発明1の「筐体」に相当する。 (イ)引用発明の「b)液体噴射装置20は、第1ケース31、第2ケース32、第3ケース33、圧電素子35、補強板36、ダイアフラム37、噴射管42を備え、」「c)圧電素子35の一方の端部は、補強板36を介してダイアフラム37と固定されており、圧電素子35の他方の端部は、第3ケース33に固定されており、ダイアフラム37と第2ケース32との間には液体室38が形成され、液体室38は、圧電素子35の駆動によって容積が変更され」ることから、引用発明の液体噴射装置20は圧電素子によって往復動作するダイヤフラム式ポンプといえる。 (ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、 引用発明の「b)」「第1ケース31、第2ケース32、第3ケース33、圧電素子35、補強板36、ダイアフラム37、噴射管42を備え、」「c)圧電素子35の一方の端部は、補強板36を介してダイアフラム37と固定されており、圧電素子35の他方の端部は、第3ケース33に固定されており、ダイアフラム37と第2ケース32との間には液体室38が形成され、液体室38は、圧電素子35の駆動によって容積が変更され」る「液体噴射装置20」と、 本願発明1の「前記ポンプは筐体内に収容したソレノイド機構によって往復動作するダイヤフラム式電磁定量ポンプ」とは、 「前記ポンプは筐体内に収容した駆動機構によって往復動作するダイヤフラム式ポンプ」で共通する。 オ (ア)上記エ(ア)及び(イ)を踏まえると、引用発明の「c)圧電素子35の一方の端部は、」「ダイアフラム37と固定されており、圧電素子35の他方の端部は、第3ケース33に固定されており、」「第2ケース32」は、「ダイアフラム37」「との間に」「液体室38が形成され、液体室38は、圧電素子35の駆動によって容積が変更され」るものであるから、引用発明の「第2ケース32」は、本願発明1の「ポンプヘッド」であって、「駆動方向から見」た「筐体」といえる。 同様に、引用発明の「c)」「第3ケース33」は「圧電素子35の他方の端部」が「固定されて」いることから、本願発明1の「駆動方向から見」た「筐体」といえる。 (イ)上記(ア)、イ(ア)及びエ(ウ)を踏まえると、引用発明の「f)」「振動検出部としての振動センサー82が」「第3ケース33に固定されて」いることと、 本願発明1の「前記ガスロック検出装置の検出部は、ダイヤフラム式電磁定量ポンプにおけるポンプヘッドの近傍であって、前記ソレノイド機構の駆動方向から見て、筐体と投影的に重なる領域に設けられ」ていることとは、 「前記ガスロック検出装置の検出部は、ダイヤフラム式ポンプにおけるポンプヘッドの近傍であって、前記駆動機構の駆動方向から見て、筐体と投影的に重なる領域に設けられ」ていることで共通する。 (2)よって、本願発明1と引用発明とは、 「ガスロック検出装置を備えるポンプ装置であって、 当該ガスロック検出装置は、 ポンプ作動時における振動伝達部分に設置される検出部と、この検出部の信号を取得してガスロック状態を判断する検出回路とからなり、 前記検出部は、圧電素子を用いて構成されており、 前記検出回路は、検出部から取得した信号における周波数ごとの出力からガスロック状態を判断し、 前記ポンプは筐体内に収容した駆動機構によって往復動作するダイヤフラム式ポンプであって、 前記ガスロック検出装置の検出部は、ダイヤフラム式ポンプにおけるポンプヘッドの近傍であって、前記駆動機構の駆動方向から見て、筐体と投影的に重なる領域に設けられたポンプ装置。」 の発明である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) ポンプ装置が、本願発明1では、「最大吐出量が30?60mL/minである」のに対して、引用発明では、そのようか特定がない点。 (相違点2) ポンプ装置内で「往復動作する」「筐体内に収容した駆動機構」とダイヤフラム式ポンプの種類について、本願発明1では、「ソレノイド」であり、ダイヤフラム式電磁定量ポンプであるのに対して、引用発明では、「圧電素子」であるが、ダイヤフラム式ポンプの種類は特定されていない点。 (相違点3) ポンプ装置について、本願発明1は、「設置部」を備え「設置部には、動作時の振動を吸収するクッション部材を設けて、動作時の振動の干渉を阻止する」のに対して、引用発明は、「設置部」を備えておらず、また、設置部に設けられるクッション部材も備えていない点。 (3)相違点についての判断 ア 事案に鑑みて、相違点3について先に検討する。 本願発明の「動作時の振動の干渉を阻止する」ことに関して、本願明細書には以下の記載がある。 「【0058】 なお、上記の実施の形態に関連し、前記ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40の設置部となる脚部46の下面には、緩衝材(例えば、ゴムからなるクッション)を設ける事もできる。これにより、当該ポンプの動作時の振動が干渉する事なくなり、検出部11は正確に動作時の振動を取得する事ができる。本実施形態におけるポンプ装置は、その設置部に、動作時の振動を吸収するクッション部材を設けることが望ましい。即ち、当該ポンプ装置を架台その他の平坦な部分に設置する際には、ポンプ装置の設置面に、ゴムやスポンジ等の弾性材料からなるクッション部材を設けるのが望ましい。かかるクッション部材を設ける事により、当該ポンプ装置の作動音が、架台などの設置面で反響する事が無くなり、当該ポンプ装置におけるダイヤフラム、又はこれを動作させる動力部の音又は振動を正確に取得する事ができる。」 つまり、「動作時の振動の干渉を阻止する」とは、「当該ポンプ装置の作動音が、架台などの設置面で反響する事」を無くすることを意味し、本願発明は、「動作時の振動の干渉を阻止する」ことで、検出部が正確に動作時の振動を取得するという効果を奏するものである。 ところで、引用発明において、設置部は設けられてはいないが、仮に設置部が設けられるとしても、引用発明は、術者が使用するメスであり、術者が使用している時、つまり動作時には、設置された状態ではなく、架台などの設置面で反響することは想定されるものではない。 してみると、引用発明には、「動作時の振動の干渉を阻止する」ためのクッション部材を設ける動機付けは存在しない。 また、引用文献5及び6に記載されているように、ダイヤフラムポンプにクッション部材を設けることが周知技術であるとしても、「防音効果」(引用文献5)や「クッション作用が働く」こと(引用文献6)を目的としてクッション部材を設けることが周知技術であって、仮に周知技術を引用発明に適用したとしても、検出部が正確に動作時の振動を取得するという効果を予測することができるものとはいえない。 イ 引用文献2は、仕切板の表裏に吐出室と吸込室の二つの流体室を有しているダイアフラムポンプに関する文献であり、ソレノイドを用いることの記載はあるが「動作時の振動を吸収するクッション部材を設けて、動作時の振動の干渉を阻止する」「設置部」について開示するものではない。 ウ 引用文献3は、仕切板の表裏に吐出室と吸込室の二つの流体室を有しているダイアフラムポンプに関する文献であり、「動作時の振動を吸収するクッション部材を設けて、動作時の振動の干渉を阻止する」「設置部」について開示するものではない。 エ 引用文献4は、第1の加振子により加振される第1のダイアフラムの他に、第2の加振子で第2のダイアフラムを加振することで、ポンプ室内の液体が吸入口から排出口に流れ易くし、ポンプ室内の気泡の排出性能を向上するダイヤフラムポンプに関する文献であり、「動作時の振動を吸収するクッション部材を設けて、動作時の振動の干渉を阻止する」「設置部」について開示するものではない。 オ そうすると、引用発明及び引用文献2?6の記載事項から、当業者であっても上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想起し得たとはいえない。 カ したがって、本願発明1は、相違点1及び2を検討するまでもなく、当業者であっても引用発明及び引用文献2?6の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 本願発明2について 本願発明2は、本願発明1を減縮した発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明及び引用文献2?6の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第6 原査定について 審判請求時の補正により、本願発明1?2は「当該ポンプ装置の設置部には、動作時の振動を吸収するクッション部材を設けて、動作時の振動の干渉を阻止する」という特定事項を有するものとなっており、当業者であっても、原査定において引用された引用文献1?6に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-10-16 |
出願番号 | 特願2017-114831(P2017-114831) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G01H)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 素川 慎司 |
特許庁審判長 |
森 竜介 |
特許庁審判官 |
渡戸 正義 信田 昌男 |
発明の名称 | ポンプ装置におけるガスロック検出装置 |
代理人 | 黒沼 吉行 |