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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G
管理番号 1355793
審判番号 不服2018-12767  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-26 
確定日 2019-10-29 
事件の表示 特願2014-528175「固体電解コンデンサ及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 6日国際公開、WO2014/021333、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)7月30日(優先権主張 平成24年7月31日)を国際出願日とする出願であって、平成29年4月27日付けで拒絶理由通知がなされ、平成29年7月10日付けで手続補正がなされ、平成29年11月15日付けで拒絶理由通知がなされ、平成30年4月3日付けで手続補正がなされ、平成30年6月20日付けで平成30年4月3日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶査定(原査定)がなされ、これに対し、平成30年9月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、平成30年4月3日付けの手続補正は却下されているので、平成29年7月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性ポリマーの粒子または粉末と溶媒とを含む分散体を含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成するとともに、該固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、エチレングリコール及びγ-ブチロラクトンを含む混合溶媒と、有機酸、無機酸、及び有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、及びアミン塩から選ばれる溶質と、を含むイオン伝導性物質を充填させた固体電解コンデンサであって、前記エチレングリコールは、混合溶媒に対して10?60wt%添加し、前記γ-ブチロラクトンは、混合溶媒に対して40wt%以下添加したことを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記イオン伝導性物質の混合溶媒に、更にスルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホランから選ばれる少なくとも1種の溶媒を含むイオン伝導性物質を充填させたことを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記分散体の溶媒がエチレングリコールを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性ポリマーの粒子または粉末と溶媒とを含む分散体を含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成する工程と、該固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、混合溶媒に対して10?60wt%のエチレングリコール及び混合溶媒に対して40wt%以下のγ-ブチロラクトンを含む混合溶媒と、有機酸、無機酸、及び有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、及びアミン塩から選ばれる溶質と、を含むイオン伝導性物質を充填させる工程と、を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。」

第3 原査定の概要
原査定(平成30年6月20日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
平成29年7月10日付けの本願請求項1、2及び4に係る発明は、引用文献1、2及び4に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、また、本願請求項3に係る発明は、引用文献1、2、4及び5に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、本願請求項1ないし4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、引用文献に付した番号1、2、4、5は、審判請求書で付与された番号に揃えたものである。

引用文献等一覧
1.特開2008-66502号公報
2.特開2001-185458号公報
4.特開2003-109880号公報
5.特開2012-124239号公報

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、「電解コンデンサ」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。

ア.「【0010】
一方、導電性高分子からなる固体電解質と駆動用電解液の両方を陰極引き出し材料に利用した電解コンデンサが提案されているが、導電性高分子を形成する工程が前述の巻回形の固体電解コンデンサと同じ方法をとるため、耐圧や腐食性に影響を及ぼすドーパントや酸化剤の不純物が存在しており、駆動用電解液の影響で不純物がコンデンサ素子内に拡散しやすく、信頼性が大幅に低下する。また導電性高分子と駆動用電解液を使用した場合、導電性高分子に含まれるドーパントが駆動用電解液中に溶け出す現象、いわゆる脱ドープ反応により電気伝導度が著しく低下し、信頼性が低下する。さらにコンデンサ素子内で化学反応により導電性高分子を重合しているため、誘電体酸化皮膜の欠陥部分に導電性高分子が形成され、ESRは低減されるが、欠陥部分での駆動用電解液の酸化皮膜修復性の効果が発揮できず、高耐圧化は困難である。」

イ.「【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために本発明は、誘電体酸化皮膜が形成された陽極箔と表面拡大化処理された陰極箔とをセパレータを介して巻回することにより構成されたコンデンサ素子と、このコンデンサ素子に含浸された駆動用電解液と、前記コンデンサ素子を収納した有底の外装ケースと、この外装ケースの開口部を封口した封口材とを備え、前記セパレータの繊維表面に導電性高分子微粒子が付着し、かつセパレータの繊維間に導電性高分子微粒子が充填され、さらに陽極箔及び陰極箔の表面にも導電性高分子微粒子が付着したことを特徴とする電解コンデンサとするものである。
【0014】
また、本発明の電解コンデンサの製造方法は、誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と表面拡大化処理された陰極箔とをセパレータを介在させて巻回することによりコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子に駆動用電解液を含浸させた後有底の外装ケースに収納し、この外装ケースの開口部を封口材で封口する電解コンデンサの製造方法において、前記駆動用電解液を含浸させる前に、コンデンサ素子を導電性高分子微粒子の分散液に浸漬し、その後乾燥させて導電性高分子微粒子をセパレータの繊維表面に付着させるとともにセパレータの繊維間にも充填させ、さらに陽極箔及び陰極箔の表面にも導電性高分子微粒子を付着させるようにした製造方法とするものである。」

ウ.「【0019】
また、駆動用電解液にアミジン塩を電解質として使用することにより、長時間の高温試験後でもコンデンサ内部にアミジン塩が残留するため、酸化皮膜の修復性は維持される。これにより、長期の高温試験後でもショートが発生せず信頼性が高いコンデンサが得られる。また、駆動用電解液に酸成分が塩基成分より多く存在することで、高温試験においても導電性高分子の劣化が抑制される。これは、導電性高分子に含まれるドーパント材料の脱ドープを抑制していることに起因している。通常ドーパントは、スルホン酸などの酸性の物質を使用しているため、駆動用電解液中のアミジンなどのアルカリ成分があると導電性高分子から電解液側へ移動しやすくなる。このような脱ドープ反応により、導電性高分子の電気伝導度が著しく低下するため、駆動用電解液に酸成分を塩基成分より多く存在させ、酸性状態にすることで脱ドープを抑制し、信頼性の高いコンデンサを得ることが可能となる。」

エ.「【0030】
また、前記導電性高分子微粒子は、その微粒子を分散させた分散液を用いてセパレータ3に付着・充填させる。この分散液の溶剤としては、水や低級アルコールなどの低粘度の溶剤が好ましい。さらに揮発性が高いほうが、コンデンサ素子に微粒子の溶剤を含浸した後、溶剤を除去しやすいため、導電性高分子微粒子の充填効果が高まる。」

オ.「【0033】
前記駆動用電解液の溶媒として、・・・(中略)・・・等を用いることができる。これらの中で、γ-ブチロラクトンやエチレングリコール、スルホランが熱的に安定であり、高温の環境下でコンデンサの信頼性試験を行った場合でも、駆動用電解液の蒸発が少ないため、導電性高分子を用いた電解コンデンサにおいてドライアップ時の耐ショート性に優れた性能を発揮する。
【0034】
また、電解質成分の塩基成分としては、アルキル置換アミジン基を有する化合物で、イミダゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、脂環式アミジン化合物(ピリミジン化合物、イミダゾリン化合物)が挙げられ、また、アルキル置換アミジン基を有する化合物の4級塩を用いることもでき、炭素数1?11のアルキル基またはアリールアルキル基で4級化されたイミダゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、脂環式アミジン化合物(ピリミジン化合物、イミダゾリン化合物)が挙げられる。特にアミジン化合物は酸と溶融塩を形成するため、低揮発性であり、駆動用電解液のドライアップ時に電解質が残存しやすいため、耐ショート性に優れた性能を示す。また第4級アンモニウム塩を比べて、アルカリ性が低いため高温高湿度での耐漏液性に優れ、さらに脱ドープ性も良好である。第3級アミンなどもアルカリ性が低いため脱ドープ反応には効果的であり、低揮発性の溶媒と組み合わせることによりドライアップ時の耐ショート性を確保することができる。
【0035】
また電解質の酸成分としては、脂肪族カルボン酸:([飽和カルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、1,6-デカンジカルボン酸、5,6-デカンジカルボン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸]、[不飽和カルボン酸、例えばマレイン酸、フマル酸、イコタン酸、アクリル酸、メタクリル酸、オレイン酸])、芳香族カルボン酸:(例えばフタル酸、サリチル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、安息香酸、レゾルシン酸、ケイ皮酸、ナフトエ酸)等で、これらの中で好ましいのは電導度が高く熱的にも安定な、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、マレイン酸、サリチル酸、安息香酸、レゾルシン酸等の有機酸が好ましい。無機系のホウ素を利用した有機酸との錯体も脱ドープ反応の抑制に効果があるため使用可能である。これらのカルボン酸以外にも・・・(中略)・・・、無機酸であるリン酸誘導体やホウ酸誘導体などを前記の塩基成分のモル数以上に加えることで電解液の酸性度が増加し、脱ドープ反応の抑制に効果を発揮することができる。」

・段落【0013】に記載された「・・・(中略)・・・陽極箔と・・・(中略)・・・陰極箔とをセパレータを介して巻回することにより構成されたコンデンサ素子と、このコンデンサ素子に含浸された駆動用電解液と、・・・(中略)・・・を備え、前記セパレータの繊維表面に導電性高分子微粒子が付着し、かつセパレータの繊維間に導電性高分子微粒子が充填され、さらに陽極箔及び陰極箔の表面にも導電性高分子微粒子が付着したことを特徴とする電解コンデンサ」について、下線を付した「前記セパレータの繊維表面に導電性高分子微粒子が付着し、かつセパレータの繊維間に導電性高分子微粒子が充填され、さらに陽極箔及び陰極箔の表面にも導電性高分子微粒子が付着した」構成は、段落【0014】によれば、「駆動用電解液を含浸させる前に、コンデンサ素子を導電性高分子微粒子の分散液に浸漬し、その後乾燥」させることによって得られるものである。
したがって、引用文献1には「陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回することにより構成されたコンデンサ素子と、このコンデンサ素子に含浸された駆動用電解液とを備え、前記駆動用電解液を含浸させる前に、コンデンサ素子を導電性高分子微粒子の分散液に浸漬し、その後乾燥させて導電性高分子微粒子をセパレータの繊維表面に付着させるとともにセパレータの繊維間にも充填させ、さらに陽極箔及び陰極箔の表面にも導電性高分子微粒子を付着させた電解コンデンサ」が記載されている。

・段落【0030】によれば、導電性高分子微粒子の分散液は、導電性高分子微粒子のほかに溶剤を含んでいる。

・段落【0010】によれば、引用文献1に記載された電解コンデンサにおいて導電性高分子は固体電解質を構成する。

・段落【0033】によれば、引用文献1には、駆動用電解液の溶媒に、γ-ブチロラクトンやエチレングリコールを用いることが記載されている。

・段落【0019】によれば、駆動用電解液は酸成分と塩基成分を有するものであり、段落【0034】によれば、塩基成分としてアミンが用いられ、段落【0035】によれば、酸成分として有機酸、又は無機酸であるリン酸誘導体やホウ酸誘導体が用いられる。

上記摘示事項および図面を総合勘案すると、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回することにより構成されたコンデンサ素子と、このコンデンサ素子に含浸された駆動用電解液とを備え、前記駆動用電解液を含浸させる前に、コンデンサ素子を導電性高分子微粒子と溶剤とを含む分散液に浸漬し、その後乾燥させて導電性高分子微粒子からなる固体電解質をセパレータの繊維表面に付着させるとともにセパレータの繊維間にも充填させ、さらに陽極箔及び陰極箔の表面にも導電性高分子微粒子からなる固体電解質を付着させた電解コンデンサであって、前記駆動用電解液は、溶媒としてγ-ブチロラクトンやエチレングリコール、酸成分として有機酸又は無機酸、塩基成分としてアミンが用いられる、電解コンデンサ。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。

ア.「【0007】また本発明のアルミニウム電解コンデンサは、駆動用電解液として、水を主溶媒とし、有機極性溶媒を副溶媒とする溶媒に、主溶質としてカルボン酸の塩を溶解し、さらにリン酸イソプロピル、p-二トロベンジルアルコール、多価アルコール類を添加剤として添加してなるものを使用したことを特徴とする。
【0008】副溶媒として使用される有機極性溶媒としては、エチレングリコールが好ましいが、γーブチロラクトンなどのラクトン類や、グリセリンなどの他のグリコール類を単独でまたは混合して使用してもよい。」

イ.「【0018】
【実施例】下記のような実施例1?11、比較例1?9の駆動用電解液を作製した。なおリン酸イソプロピルは、リン酸モノイソプロピルとリン酸ジイソプロピルを混合したものを使用した。
・・・(中略)・・・
【0029】
<実施例11>
アジピン酸アンモニウム 10.0重量%
アジピン酸 2.0重量%
マンニット 1.0重量%
p-二トロベンジルアルコール 1.5重量%
リン酸イソプロピル 2.0重量%
水 45.0重量%
エチレングリコール 18.5重量%
γーブチロラクトン 20.0重量% 」

したがって、段落【0007】、【0008】、【0018】及び【0029】によれば、上記引用文献2には、「駆動用電解液において、水を主溶媒として、有機極性溶媒を副溶媒とし、副溶媒としてエチレングリコールにγーブチロラクトンを混合して使用するとともに、エチレングリコールは混合溶媒に対して22.2重量%(=18.5/(45.0+18.5+20.0))、γーブチロラクトンは混合溶媒に対して24.0重量%(=20.0/(45.0+18.5+20.0))添加する」技術的事項が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
平成30年6月20日付けの補正の却下の決定で引用された引用文献3(特開昭61-182212号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、「発明の概要」、「発明の効果」及び「発明の具体的説明」に対して付与された下線を除き、下線は当審で付与したものである。

「発明の概要
本発明者等は、上記問題点を解決する新規な電解液を見い出すべく、各種溶媒及び溶質の組合せた電解液につき鋭意検討を行い本発明を完成した。
即ち、本発明は、γ-ブチロラクトンとエチレングリコールとの混合溶媒にγ-レゾルシル酸アンモニウムを溶解したことを特徴とする電解コンデンサ用電解液を提供するものである。
発明の効果
本発明の電解コンデンサ用電解液は、広い温度範囲にわたって非常に低い比抵抗を示し、使用温度範囲の広い電解コンデンサ用電解液となる。
発明の具体的説明
本発明の電解液は、溶媒としてγ-ブチロラクトンとエチレングリコールとの混合溶媒を、溶質としてγ-レゾルシル酸アンモニウムを使用する。
溶媒として用いるγ-ブチロラクトンとエチレングリコールは、任意の割合で混合して用いることができるが、γ-ブチロラクトンとエチレングリコールの混合割合が重量比で90:10?10:90の範囲で用いるのが好ましく、80:20?30:70の範囲が特に好ましい。」(第2ページ左上欄第6行?右上欄第7行)

したがって、第2ページ左上欄第6行?右上欄第7行によれば、上記引用文献3には、「γ-ブチロラクトンとエチレングリコールとの混合溶媒にγ-レゾルシル酸アンモニウムを溶解した電解コンデンサ用電解液において、γ-ブチロラクトンとエチレングリコールの混合割合が重量比で80:20?30:70の範囲となるようにする」技術的事項が記載されている。


4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。

「【0011】そして、以下のような駆動用電解液を用いる。
【0012】本発明の電解液は、スルホランを含有するものであるが、この他に、プロトン性極性溶媒、非プロトン性溶媒、及びこれらの混合物を用いることができる。
・・・(中略)・・・
【0017】ここで、前記の電解液においてγ-ブチロラクトンとの混合溶媒を用い、溶質として四級化環状アミジニウムイオンをカチオン成分とする塩を用いると、高温寿命特性が良好でさらに誘電損失、低温特性も良好な電解コンデンサを得ることができる。また、γ-ブチロラクトンの混合溶媒中の含有率が60%より小さい場合は寿命特性がさらに向上し、20%より大きい場合は誘電損失、低温特性が向上するので、γ─ブチロラクトンの含有率は20?60%が好ましい。
【0018】さらに、このような電解液に溶媒としてエチレングリコールを加え、ほう酸、マンニットを添加すると耐電圧特性が向上する。添加量は、電解液全体に対して、ほう酸を0.5?2.5wt%、マンニットを0.5?2.5wt%を添加すると好適である。この範囲未満では、耐電圧特性が低下し、この範囲を越えると、電導度が低下する。また、添加するマンニットの量は、ほう酸の添加量1に対して、1.0?2.0が好ましい。この範囲未満では、高温保存下での電導度が低下し、この範囲を越えると初期の電導度が低下する。以上の電解液を用いることによって高温寿命特性が良好で50V以上の耐電圧特性を有し、さらに低温特性も良好な電解コンデンサを実現することができる。」

したがって、段落【0011】、【0012】、【0017】及び【0018】によれば、上記引用文献4には、「駆動用電解液として、スルホランとγ-ブチロラクトンとの混合溶媒を用い、γ-ブチロラクトンの混合溶媒中の含有率が20?60%であり、さらにエチレングリコールを加える」技術的事項が記載されている。

5.引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。

ア.「【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、上記高分子スルホン酸をドーパントとする導電性高分子を含む分散液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、該コンデンサ素子を特定のアルコール系溶剤に浸漬し、引き上げた後、乾燥するときは、エッジ部分の導電性高分子の層の厚みが他の部分の導電性高分子の層の厚みより薄くなることを抑制でき、それによって、漏れ電流の発生を防止できる固体電解コンデンサを製造することができることを見出し、それに基づいて本発明を完成するに至った。」

イ.「【0044】
上記のように、導電性高分子を含む分散液中に高沸点溶剤を含有させておくと、乾燥して導電性高分子を得るときに、その製膜性を向上させ、それによって、導電性を向上させ、固体電解コンデンサの固体電解質として用いたときに、ESRを小さくさせることができる。これは、例えば、固体電解コンデンサの作製にあたって、コンデンサ素子を導電性高分子を含む分散液に浸漬し、引き上げて乾燥したときに、高沸点溶剤も脱け出ていくが、その高沸点溶剤が脱け出る際に、形成される導電性高分子の層の厚み方向の層密度を高くさせ、それによって、導電性高分子間の面間隔が狭くなり、導電性高分子の導電性が高くなって、固体電解コンデンサの固体電解質として用いたときにESRの小さいものにさせることができるようになるものと考えられる。
【0045】
上記高沸点溶剤としては、沸点が150℃以上のものが好ましく、そのような高沸点溶剤の具体例としては、例えば、・・・(中略)・・・、エチレングリコール(沸点:198℃)、ジエチレングリコール(沸点:244℃)などが挙げられるが、特にジメチルスルホキシドが好ましい。そして、この高沸点溶剤の含有量としては、分散液中の導電性高分子に対して質量基準で5?3,000%(すなわち、導電性高分子100質量部に対して高沸点溶剤が5?3,000質量部)が好ましく、特に20?700%が好ましい。」

したがって、段落【0013】、【0044】及び【0045】によれば、上記引用文献5には、「コンデンサ素子を浸漬する分散液であって導電性高分子を含む分散液中に、高沸点溶剤としてエチレングリコールを含有させる」技術的事項が記載されている。

第5 当審の判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア.引用発明における「陽極箔」及び「陰極箔」は、それぞれ、本願発明1における「陽極電極箔」及び「陰極電極箔」に相当する。したがって、引用発明における「陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回することにより構成されたコンデンサ素子」は、本願発明1の「陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子」に相当する。

イ.引用発明における「導電性高分子微粒子」、「溶剤」及び「分散液」は、それぞれ、本願発明1の「導電性ポリマーの粒子または粉末」、「溶媒」及び「分散体」に相当する。
そして、引用発明は、「コンデンサ素子を導電性高分子微粒子と溶剤とを含む分散液に浸漬し、その後乾燥させて導電性高分子微粒子からなる固体電解質をセパレータの繊維表面に付着させるとともにセパレータの繊維間にも充填させ、さらに陽極箔及び陰極箔の表面にも導電性高分子微粒子からなる固体電解質を付着させた」ものであるから、本願発明1と同様に、「コンデンサ素子に、導電性ポリマーの粒子または粉末と溶媒とを含む分散体を含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質を形成」している。

ウ.引用発明の「駆動用電解液」は、酸成分と塩基成分を有していることから、本願発明1の「イオン伝導性物質」に相当する。
そして、引用発明では、駆動用電解液を含浸させる前に導電性高分子微粒子からなる固体電解質を付着させているから、導電性高分子からなる固体電解質が付着されたコンデンサ素子を、駆動用電解液(イオン伝導性物質)に含浸させている。
また、引用発明では、コンデンサ素子に駆動用電解液(イオン伝導性物質)が含浸されているから、駆動用電解液(イオン伝導性物質)がコンデンサ素子内の空隙部に充填されているのは自明である。
したがって、引用発明と本願発明1とは、「該固体電解質が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に」、「イオン伝導性物質を充填させた電解コンデンサ」である点で共通する。

エ.引用発明の駆動用電解液は、酸成分として有機酸又は無機酸、塩基成分としてアミンを用いているから、有機酸又は無機酸のアミン塩を溶質とするもの、すなわち、「有機酸、無機酸、及び有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、及びアミン塩から選ばれる溶質」の一つを溶質とするものと認められる。また、引用発明の駆動用電解液の溶媒には、γ-ブチロラクトンやエチレングリコールが用いられている。
したがって、引用発明の「駆動用電解液」と本願発明1の「イオン伝導性物質」とは、「エチレングリコールやγ-ブチロラクトンを含む溶媒と、有機酸、無機酸、及び有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、及びアミン塩から選ばれる溶質と、を含む」点で共通する。
ただし、イオン伝導性物質(駆動用電解液)の溶媒について、本願発明1では、エチレングリコール「及び」γ-ブチロラクトンを含む「混合」溶媒であり、さらに、「前記エチレングリコールは、混合溶媒に対して10?60wt%添加し、前記γ-ブチロラクトンは、混合溶媒に対して40wt%以下添加した」ものである旨特定されているのに対し、引用発明では、エチレングリールやγ-ブチロラクトンであることが特定されているものの、それらを「混合」されたものである旨特定されていない点で相違する。

したがって、本願発明1と引用発明とは、
「陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性ポリマーの粒子または粉末と溶媒とを含む分散体を含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質を形成するとともに、該固体電解質が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、エチレングリコールやγ-ブチロラクトンを含む溶媒と、有機酸、無機酸、及び有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、及びアミン塩から選ばれる溶質と、を含むイオン伝導性物質を充填させた電解コンデンサ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
イオン伝導性物質の溶媒について、本願発明1では、エチレングリコール「及び」γ-ブチロラクトンを含む「混合」溶媒であり、さらに、「前記エチレングリコールは、混合溶媒に対して10?60wt%添加し、前記γ-ブチロラクトンは、混合溶媒に対して40wt%以下添加した」ものである旨特定されているのに対し、引用発明では、エチレングリコールやγ-ブチロラクトンであることが特定されているものの、それらが「混合」されたものである旨特定されていない点。
[相違点2]
本願発明1では、固体電解質「層」が形成されていることが特定されているのに対し、引用発明では形成されている固体電解質が「層」になっていることが特定されていない点。
[相違点3]
本願発明1では、「固体」電解コンデンサである旨特定されているのに対し、引用発明では、電解コンデンサである旨特定されている点。

(2)相違点についての判断
ア.相違点1について
a.引用発明と引用文献2に記載された技術的事項との組合せについて
「第4 引用文献、引用発明等」の「2.引用文献2について」に記載のとおり、引用文献2には、駆動用電解液において、水を主溶媒として、有機極性溶媒を副溶媒とし、副溶媒としてエチレングリコールにγーブチロラクトンを混合して使用するとともに、エチレングリコールは混合溶媒に対して22.2重量%(=18.5/(45.0+18.5+20.0))、γーブチロラクトンは混合溶媒に対して24.0重量%(=20.0/(45.0+18.5+20.0))添加するという技術的事項が記載されている。
しかしながら、引用発明は、固体電解質を有し、且つ、水を駆動電解液の主溶媒とはしていない電解コンデンサであるのに対して、引用文献2に記載された技術的事項は、固体電解質を有せず、且つ、水を駆動電解液の主溶媒とする電解コンデンサに関するものである。このように引用文献2に記載された技術的事項とは前提の異なる引用発明において、引用文献2に記載された駆動用電解液の溶媒を採用すべき動機はない。
さらに、本願明細書の段落【0023】には、「エチレングリコールおよびγ-ブチロラクトンからなる混合溶媒を用いた場合、後述する実施例からも明らかな通り、エチレングリコールを含まない溶媒を用いた場合と比較して、初期のESRが低下するとともに、長時間の使用において静電容量の変化率(ΔCap)が小さいことが判明している。その理由は、エチレングリコールは、導電性ポリマーのポリマー鎖の伸張を促進する効果があるため、電導度が向上し、ESRが低下したと考えられる。また、γ-ブチロラクトンやスルホランよりも、エチレングリコールのようなヒドロキシル基を有するプロトン性溶媒のほうがセパレータや電極箔、導電性ポリマーとの親和性が高いため、電解コンデンサ使用時の電解質溶液が蒸散する過程において、セパレータや電極箔、導電性ポリマーと電解質溶液との間で電荷の受け渡しが行われやすく、ΔCapが小さくなると考えられる。」と記載されている。また、本願明細書の表2、表3、表5には、固体電解質を有する電解コンデンサにおいて、イオン伝導性物質の溶媒としてγ-ブチロラクトンに加えてエチレングリコールが含まれることにより、電解コンデンサの特性が向上することが示されている。一方、引用文献2に記載された技術的事項は、固体電解質を有する電解コンデンサにおける駆動用電解液に関する技術的事項ではないから、仮に、引用発明において引用文献2に記載された駆動用電解液の溶媒を採用したとしても、固体電解質の存在を前提とした本願発明1が奏する上述のような効果は予測し得ない。

b.引用発明と引用文献3に記載された技術的事項との組合せについて
「第4 引用文献、引用発明等」の「3.引用文献3について」に記載のとおり、引用文献3には、γ-ブチロラクトンとエチレングリコールとの混合溶媒にγ-レゾルシル酸アンモニウムを溶解した電解コンデンサ用電解液において、γ-ブチロラクトンとエチレングリコールの混合割合が重量比で80:20?30:70の範囲となるようにする技術的事項が記載されている。
しかしながら、引用文献3に記載された技術的事項は、固体電解質を有する電解コンデンサにおける駆動用電解液に関する技術的事項ではないから、固体電解質を有する電解コンデンサである引用発明において、駆動用電解液の溶媒として、引用文献3に記載された電解コンデンサ用電解液の溶媒を採用する動機はなく、仮に、引用発明において引用文献3に記載された駆動用電解液の溶媒を採用したとしても、固体電解質の存在を前提とした本願発明1が奏する上述のような効果(「a.引用発明と引用文献2に記載された技術的事項との組合せについて」を参照。)は、当業者が予測し得たものではない。

c.引用発明と引用文献4に記載された技術的事項との組合せについて
「第4 引用文献、引用発明等」の「4.引用文献4について」に記載のとおり、引用文献4には、駆動用電解液として、スルホランとγ-ブチロラクトンとの混合溶媒を用い、γ-ブチロラクトンの混合溶媒中の含有率が20?60%であり、さらにエチレングリコールを加える技術的事項が記載されている。
しかしながら、引用文献4に記載された技術的事項は、固体電解質を有する電解コンデンサにおける駆動用電解液に関する技術的事項ではないから、固体電解質を有する電解コンデンサである引用発明において、駆動用電解液の溶媒として、引用文献4に記載された駆動用電解液の溶媒を採用する動機はない。また、引用文献4に記載された技術的事項は、エチレングリコールを混合溶媒に対して10?60wt%添加することは特定されていないから、引用発明において、引用文献4に記載された駆動用電解液の溶媒を採用したとしても、エチレングリコールを混合溶媒に対して10?60wt%添加する構成を有する上記相違点1に係る構成に想到することはできない。
さらに、引用文献4に記載された技術的事項は、上述のとおり、固体電解質を有する電解コンデンサにおける駆動用電解液に関する技術的事項ではないから、仮に、引用発明において、引用文献4に記載された駆動用電解液の溶媒を採用したとしても、固体電解質の存在を前提とした本願発明1が奏する上述のような効果(「a.引用発明と引用文献2に記載された技術的事項との組合せについて」を参照。)は、当業者が予測し得たものではない。

d.引用発明と引用文献5に記載された技術的事項との組合せについて
「第4 引用文献、引用発明等」の「5.引用文献5について」に記載のとおり引用文献5には、コンデンサ素子を浸漬する分散液であって導電性高分子を含む分散液中に、高沸点溶剤としてエチレングリコールを含有させる技術的事項が記載されているが、引用文献5は、駆動用電解液又はイオン伝導性得物質の溶媒について記載されたものではなく、上記相違点1に係る構成とすることは記載されていない。
したがって、引用発明に対して引用文献5に記載された技術的事項を組み合わせることによって上記相違点1に係る構成に想到することはできない。

e.判断
以上aないしdの通り、本願発明1の相違点1に係る構成については、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基づいて容易に想到できたものではない。

イ.小括
上記「ア.相違点1について」の「e.判断」に記載したとおりであるから、相違点2、3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2、3について
本願発明2、3は、本願発明1を減縮した発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2ないし5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明4について
本願発明4は、本願発明1に対応する方法の発明であるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2ないし5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし4は、当業者が引用発明及び引用文献2ないし5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-17 
出願番号 特願2014-528175(P2014-528175)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 多賀 和宏田中 晃洋堀 拓也  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 山澤 宏
石坂 博明
発明の名称 固体電解コンデンサ及びその製造方法  
代理人 木内 光春  

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