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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1355805
審判番号 不服2018-15011  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-09 
確定日 2019-10-09 
事件の表示 特願2015-507219「高度分岐α-D-グルカン」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日国際公開、WO2013/158992、平成27年7月9日国内公表、特表2015-519312〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年4月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年4月19日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の主な経緯は以下のとおりである。

平成28年12月 9日付け:拒絶理由通知書
平成29年 6月20日 :手続補正書、意見書
同年10月16日付け:拒絶理由通知書
平成30年 5月 1日 :手続補正書、意見書
同年 7月 3日付け:拒絶査定
同年11月 9日 :審判請求書
同年12月10日付け:拒絶理由通知書
平成31年 3月11日 :手続補正書、意見書

第2 本願発明
本願の請求項1ないし21に係る発明は、平成31年3月11日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項18に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項18】
溶質化合物の溶解性、溶解速度、および/または安定性を向上させる方法であって、少なくとも1種類の高度分岐α-D-グルカンまたはその修飾型と、前記溶質化合物とを混合して混合物を形成することを含み、
前記修飾は、アセトキシ、リン酸、オクテニルコハク酸、コハク酸、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシエチル、カチオン基、カルボキシメチル、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレンオキシド、またはこれらの組み合わせから選択される化学基によるものであり、
前記高度分岐α-D-グルカンはパーセンテージ分岐密度が約7%より大きく、樹状構造を有していて、
前記高度分岐α-D-グルカンに対する前記溶質化合物の質量比が約100:1から約1:1000の範囲であり、前記溶質化合物は前記高度分岐α-D-グルカンの分岐部に取り込まれる、
方法。」

第3 拒絶の理由
平成30年12月10日付けで当審が通知した拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献4(Journal of Controlled Release,2011年,Vol.150,p.150-156)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。

第4 引用文献4の記載及び引用発明
1 引用文献4には、次の事項が記載されている。
(摘記1)「ABSTRACT
In this work, carbohydrate nanoparticles were created to prolong the efficacy of antimicrobial peptide against pathogens. Nisin and Listeria monocytogenes were used as the peptide and pathogen models, respectively, and phytoglycogen(PG)-based nanoparticles were developed as carriers of nisin. PG from su1 mutant maize was subjected to β-amylolysis as well as subsequent succinate or octenyl succinate substitutions. The goal was to minimize the loss of peptide during storage and meanwhile realize an effective release in the presence of bacteria.」(「要約」の項、本文1?6行)
(訳:
要約
この研究では、病原菌に対する抗菌ペプチドの効力を延長するために、炭水化物のナノ粒子を作製した。ペプチド及び病原菌モデルとして、ナイシンとListeria monocytogenesをそれぞれ用い、ナイシンの担体としてフィトグリコーゲン(PG)に基づくナノ粒子を開発した。su1変異トウモロコシから得たPGを、β-アミロリシス及びその後のコハク酸又はオクテニルコハク酸置換に供した。この研究の目的は、保存中のペプチドの損失を最小限に抑え、一方で、細菌の存在下での有効な放出を実現することであった。」

(摘記2)「Phytoglycogen(PG) is a water-soluble glycogen-like α-D-glucan in plants. The largest source of PG is the maize mutant su1, a major genotype of sweet corn. The sul mutation leads to a deficiency in SU1, an isoamylase-type starch debranching enzyme (DBE) [20]. …In the absence of DBE, the highly branched PG is formed to replace starch.」(150頁右欄下から3行?151頁左欄5行)
(訳:
フィトグリコーゲン(PG)は、植物中の水溶性グリコーゲン様α-D-グルカンである。PGの最も大きな供給源は、スイートコーンの主要な遺伝子型であるトウモロコシ変異体su1である。su1変異は、イソアミラーゼタイプのデンプン脱分岐酵素(DBE)であるSU1の欠乏につながる[20]。…DBEが存在しないと、高度に分岐したPGが、デンプンに代わり形成される。)

(摘記3)「2.1 Materials
Sweet Corn Silver Queen (a su1 line) was purchased from Burpee Co.(…).」(151頁左欄下から13行?11行)
(訳:
スイートコーン シルバークイーン(su1系統)は、Burpee社(…)から購入した。)

(摘記4)「2.2 Methods
2.2.1 Extraction of PG
Sweet corn kernels were ground into grits and then mixed with six weights of deionized water. The suspension was homogenized using a high-speed blender(…)and then centrifuged at 8000g for 20min. The supernatant was collected and passed through a 270-mesh sieve. Three volumes of ethanol were added to the supernatant to precipitate polysaccharides. After centrifugation and decanting, the precipitate was suspended using ethanol and filtrated to dehydrate for three cycles. The solid material obtained after removing the residual ethanol was PG.

2.2.2 Preparation of PGβ-dextrin
Twenty grams of PG was dissolved in 400mL pH6.0, 50mM sodium acetate buffer. One hundred microliters of β-amylase(1,800U/mL) was added to the solution. The reaction was conducted in shaking water bath (60℃,70rpm)for 10h. Three volumes of ethanol were added to the reactant. After the centrifugation and decanting, the precipitate was suspended using ethanol and filtrated for three cycles. The solid obtained after removing the residual ethanol was PGβ-dextrin(PGB).」(151頁左欄下から4行?右欄16行)
(訳:
2.2 方法
2.2.1 PGの抽出
スイートコーン穀粒を粉砕してグリットにし、次いで脱イオン水6重量部と混合した。この懸濁液を高速ブレンダー(…)を使用して均質化し、次いで8000gで20分間遠心した。上清を回収し、270メッシュ篩を通過させた。上清に3容量のエタノールを加えて多糖類を沈殿させた。遠心分離しデカントした後、沈殿物をエタノールを用いて懸濁し脱水のために濾過する工程を3サイクル行った。残留エタノールを除去した後に得られた固体物質はPGであった。

2.2.2 PGβ-デキストリンの調製
20gのPGを、400mL pH6.0の50mM酢酸ナトリウム緩衝液に溶解した。100マイクロリットルのβ-アミラーゼ(1,800U/mL)をその溶液に添加した。振とう水浴(60℃、70rpm)中で10時間反応を行った。3容量のエタノールを反応液に添加した。遠心分離しデカントした後、沈殿物をエタノールを用いて懸濁し濾過する工程を3サイクル行った。残留エタノールを除去した後に得られた固体は、PGβ-デキストリン(PGB)であった。)

(摘記5)「2.2.3 Structure analysis of PG and PGB
….The chain length distribution of PG and PGB was characterized using the procedure described by Shin et al.[35].」(151頁右欄17?22行)
(訳:
2.2.3 PG及びPGBの構造分析
…PG及びPGBの鎖長分布は、シンらの文献[35]に記載された手順で特定する。)

「[35] J.Shin , … , J.Agric.Food Chem. 56 (2008) 10879-10886 」(156頁右欄下から12行?9行)
(訳:
[35]J.シン,… ,J.Agric.Food Chem. 56 (2008) 10879-10886 )

(摘記6)「2.2.4 Substitution of PG and PGB
Substitution of PG and PGB with octenyl succinate group was described by Scheffler et al.[24]. Substitution with succinate group was essentially the same except that succinic anhydride was used in the replacement of 1-octenyl succinic anhydride. The materials collected were PG succinate(PG-S), PG octenyl succinate(PG-OS), ….」(151頁右欄23行?30行)
(訳:
2.2.4 PG及びPGBの置換
オクテニルコハク酸基によるPGおよびPGBの置換は、Schefflerらによって記載されている[24]。コハク酸基を用いた置換は、コハク酸無水物を1-オクテニルコハク酸無水物の代わりに使用した以外は、本質的に同じであった。回収した物質は、PG-コハク酸誘導体(PG-S)、PG-オクテニルコハク酸誘導体(PG-OS)…であった。)

(摘記7)「2.2.8 Nisin loading to nanoparticles
A centrifugal ultrafiltration device (Microcep,…) with molecular weight cut-off of 300kD was used to evaluate the nisin loading to nanoparticles. In principle, non-loaded nisin molecules can pass through the membrane, whereas those loaded cannot. For the test, a 2.7 mL solution of PG or each of its derivatives(1.0mg/mL) and 0.3mL nisin solution(200μg/mL), both in sodium acetate buffer(50mM, pH5.5), were mixed and incubated for 30 min at room temperature. For each mixture, and aliquot of 2.7mL was transferred to a Microsep tube and centrifuged (1000g at 15℃ for 2h). From the filtrate, an aliquot of 800 μL was used to test the amount of nisin using the Broadford assay kit (…). Nisin solutions(2,4,8,10,12,14,16,18, and 20 μg/mL) were used as the standards. 」(151頁右下欄7行?152頁左欄6行)
(訳:
2.2.8 ナノ粒子へのナイシンの担持
300kDの分子量カットオフを有する遠心限外濾過装置(Microcep、…)を、ナノ粒子へのナイシン担持について評価するために使用した。原則として、担持されていないナイシン分子は、膜を通過することができるが、担持されたものは、膜を通過することができない。試験のために、PG又はその誘導体の溶液(1.0mg/mL)2.7mL、及び、ナイシンの溶液(200μg/mL)0.3mLを、両者とも酢酸ナトリウム緩衝液(50mM、pH5.5)の溶液として、混合し、室温で30分間インキュベートした。各混合物毎に、2.7mLの試料をMicrosepチューブに移し、遠心分離した(1000g、15℃で2時間)。濾液から800μLの試料を用いて、Broadfordアッセイキット(…)を使用してナイシンの量を測定した。ナイシン溶液(2,4,8,10,12,14,16,18μg/mL及び20μg/mL)を標準規格として使用した。)

(摘記8)「



Fig.4. Schematic of phytoglycogen(A) and phytoglycogen β-dextrin(B) nanoparticles, Beta-amylolysis occurs at the surface of phytoglycogen nanoparticle, removing a certain amount of maltosyl units from long external chains to yield phytoglycogenβ-dextrin.」(153頁右欄)
(訳:
図4.フィトグリコーゲン(A)及びフィトグリコーゲンβ-デキストリン(B)のナノ粒子の構造、ベータアミロリシスがフィトグリコーゲンナノ粒子の表面で起こり、長い外部鎖からある量のマルトシル単位を除去してフィトグリコゲンβ-デキストリンを生成する。)

合議体注:図4において、AがPG(フィトグリコーゲン)で、BがPGB(フィトグリコーゲンβ-デキストリン)である。

(摘記9)「3.4 Nisin loading to nanoparticles
In this study, the loading of nisin to the nanoparticles was evaluated by measuring the concentration of nisin in the filtrate of ultrafiltration. The total nisin concentration in the original preparation was 20μg/mL. For PG and PGB, the nisin concentration in the filtrate was 19μg/mL (Fig.6), suggesting negligible capability of non-substituted nanoparticles for loading nisin. 」(154頁右欄6行?12行)
(訳:
3.4 ナノ粒子へのナイシンの担持
この研究において、ナノ粒子へのナイシンの担持は、限外濾過をした濾液中のナイシンの濃度を測定することによって評価した。元の調製物中の全ナイシン濃度は、20μg/mLであった。PG及びPGBを用いた場合は、濾液中のナイシン濃度は19μg/mLであった(図6)ことは、置換されていないナノ粒子がナイシンを担持する能力は、無視できる程度であることを示唆する。)

(摘記10)「


Fig.6. Amount of non-loaded nisin indicated by nisin concentrations of the filtrates collected from the centrifugal ultrafiltration of preparations containing 20μg/mL nisin. Mean values are shown with error bars of standard deviations(n=3). 」(154頁右欄)
(訳:
図6.20μg/mLのナイシンを含有する調製物の遠心限外濾過から得られた濾液中のナイシン濃度によって示される、担持されていないナイシンの量。平均値は標準偏差(n=3)のエラーバーとともに示されている。)

(摘記11)「 3.6 Prolonged nisin efficacy」(155頁左欄13行)
「Antimicrobial activity during the 21-day storage at 4℃ is compared among various nisin preparetions(Fig.10). In general, nanoparticle-containing preparations showed reduced depletion of nisin activity compared to the solution of free nisin. The effect of PG and PGB was rather low, corresponding to their lack of capability to adsorb nisin(Figs.6 and 8). For Substituted nanoparticles, octenyl succinate substitution correlated to a greater effect than succinate in reducing nisin depletion.」(155頁右欄1行?156頁左欄2行)
(訳:
3.6 延長されたナイシンの効力

4℃、21日間の保存期間中の抗菌活性を種々のナイシン調製物間で比較する(図10)。概して、ナノ粒子含有調製物は、遊離ナイシンの溶液と比較して、ナイシンの活性低下を抑制した。ナイシンの吸着能がないことに対応して(図6及び8)、PG及びPGBの効果はかなり低かった。置換されたナノ粒子について、オクテニルコハク酸置換は、コハク酸置換よりも、ナイシンの活性低下を抑制する効果が大きかった。)

(摘記12)「


Fig.10. Retention of nisin activity during the 21-day 4℃ storage in the BHI-agar deep-well model for phytoglycogen-based (A) and phytoglycogen β-dextrin-based (B) derivatives. Nisin activity was quantified using the size of inhibitory ring. Mean values are shown with error bars of standard deviations(n=3). 」
155頁右欄)
(訳:
図10.フィトグリコーゲンの誘導体(A)及びフィトグリコーゲンβ-デキストリンの誘導体(B)のBHI-agar deep-wellモデルにおける、4℃で21日間保持した場合のナイシン活性の保持。ナイシンの活性は、阻止円の大きさにより測定した。平均値は標準偏差(n=3)のエラーバーとともに示されている。)

2 上記1のとおり、引用文献4には、
(i)フィトグリコーゲン(PG)は、植物中の水溶性グリコーゲン様α-D-グルカンであり、その最も大きな供給源は、スイートコーンの主要な遺伝子型であるトウモロコシ変異体su1であるところ、su1変異があると、高度に分岐したフィトグリコーゲン(PG)が形成されること(摘記2)、
(ii)su1変異トウモロコシであるスイートコーンシルバークイーンの穀粒から得られたフィトグリコーゲン(PG)のコハク酸誘導体(PG-S)又はオクテニルコハク酸誘導体(PG-OS)の溶液(1.0mg/mL)2.7mLと、抗菌性ペプチドであるナイシンの溶液(200μg/mL)0.3mLとを、いずれも酢酸ナトリウム緩衝液として、両者を混合した後遠心すると、ナイシンはPG-S又はPG-OSのナノ粒子に担持されること(摘示3、4、6、7、9、10)、
(iii)ナイシンが担持されたPG-S又はPG-OSは、4℃、21日間保存中のナイシンの抗菌活性低下を抑制すること(摘記1、11、12)、
が記載されている。
そうすると、引用文献4には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ナイシンの保存中の抗菌活性低下を抑制する方法であって、su1変異トウモロコシであるスイートコーンシルバークイーンの穀粒から得られた、α-D-グルカンである高度に分岐したフィトグリコーゲンの誘導体(コハク酸誘導体又はオクテニルコハク酸誘導体)の溶液(1.0mg/mL)を2.7mLと、ナイシンの溶液(200μg/mL)を0.3mLとを、混合した後遠心し、ナイシンが担持されたフィトグリコーゲンの誘導体(コハク酸誘導体又はオクテニルコハク酸誘導体)のナノ粒子とする、方法。」

3 引用文献4に記載された参考文献35(J.Shin et al., J. Agric. Food Chem. 56 (2008) 10879-10886)には、下記Table3(表3)が記載され、シルバークイーンから得られたフィトグリコーゲンの分岐密度は、9.1%であったことが記載されている。



第5 対比・判断
1 対比
本願発明は、「溶質化合物の溶解性、溶解速度、および/または安定性を向上させる方法」に係る発明であるところ、このうち「溶質化合物の」「安定性を向上させる方法」に係る発明と、引用発明とを、対比する。
引用発明の「ナイシン」は、本願発明の「溶質化合物」に相当する。
引用発明の「α-D-グルカンである高度に分岐したフィトグリコーゲン」は、本願発明の「高度分岐α-D-グルカン」に相当し、引用文献4の図4Aに示された構造図(摘示(刊8))からみて、本願発明の「樹状構造を有してい」るものに相当する。
また、引用発明の「フィトグリコーゲンの誘導体(コハク酸誘導体又はオクテニルコハク酸誘導体)」は、本願発明の「α?Dグルカン」「その修飾型」であり、「前記修飾は、」「オクテニルコハク酸、コハク酸」「から選択される化学基によるもの」に相当する。
さらに、引用発明においては、フィトグリコーゲンの誘導体2.7mg(2.7mL×1.0mg/mL)とナイシン60μg(0.3mL×200μg/mL)を混合していることから、フィトグリコーゲンの誘導体に対するナイシンの質量比は、計算すると「45:1」(2.7mg:60μg)となり、本願発明の高度分岐α-D-グルカンに対する溶質化合物の質量比である「約100:1から約1:1000の範囲」に包含される。
そして、引用発明の「ナイシンの保存中の抗菌活性低下を抑制する方法」と、本願発明の「溶質化合物の」「安定性を向上させる方法」とは、少なくとも「溶質化合物の物性を変化させる方法」である点で共通する。
そうすると、両発明は、
「溶質化合物の物性を変化させる方法であって、少なくとも1種類の高度分岐α-D-グルカンの修飾型と、前記溶質化合物とを混合して混合物を形成することを含み、
前記修飾は、オクテニルコハク酸 、コハク酸、またはこれらの組み合わせから選択される化学基によるものであり、
前記高度分岐α-D-グルカンは、樹状構造を有していて、
前記高度分岐α-D-グルカンに対する前記溶質化合物の質量比が約100:1から約1:1000の範囲である、方法。」
である点で一致し、次の相違点1?3において、一応相違する。

<相違点1>
高度分岐α-D-グルカンが、本願発明においては、「パーセンテージ分岐密度が約7%より大き」いものであるのに対して、引用発明においては、パーセンテージ分岐密度は不明である点。
<相違点2>
本願発明においては、溶質化合物は高度分岐α-D-グルカンの「分岐部に取り込まれる」のに対し、引用発明においては、溶質化合物に相当するナイシンは、高度分岐α-Dグルカンの修飾型に相当するフィトグリコーゲンの誘導体に「担持される」点。
<相違点3>
物性を変化させる方法が、本願発明においては、「安定性を向上させる方法」であるのに対し、引用発明においては、「保存中の抗菌活性低下を抑制する方法」である点。

2 判断
(1)相違点1について
ア 引用発明におけるフィトグリコーゲンは、「su1変異トウモロコシであるスイートコーンシルバークイーンの穀粒」から得られたものであるところ、引用文献4には、フィトグリコーゲンの構造分析を、参考文献35に記載された手順で行ったことが記載されている(摘示(刊5))。そして、参考文献35には、シルバークイーンから得られたフィトグリコーゲンの分岐密度は9.1%であることが記載されている(上記第4の3)。
そうすると、引用発明におけるフィトグリコーゲンは、シルバークイーンの穀粒から得られたものであるから、その分岐密度は9.1%であり、「パーセンテージ分岐密度が約7%より大き」いものであると認められる。

イ また、本願明細書の発明の詳細な説明には、「【0020】 分岐したα-D-グルカンの分岐密度は、還元末端分析、NMR、クロマトグラフィー分析などの複数の方法で求められる。Shin et al., Journal of Agricultural and Food Chemistry, 56: 10879-10886 (2008)(当審注:引用文献4に記載された参考文献35)、…を参照のこと。…【0021】 いくつかの実施形態では、α-D-グルカンは、フィトグリコーゲンである。フィトグリコーゲンは、植物によって作られる水溶性でグリコーゲン様のα-D-グルカンである。フィトグリコーゲンの最も大きな源のひとつが、スイートコーンの主要な遺伝子型であるトウモロコシ変異体sugary-1(su1)の穀粒である。su1変異は、イソアミラーゼタイプのデンプン脱分枝酵素(DBE)であるSU1の欠乏につながる…。…DBEが存在しないと、高度分岐フィトグリコーゲンが形成され、デンプン顆粒を置き換える。ほとんどの粒子が40?50nm前後の範囲である。」と記載され、本願明細書の全ての実施例において、「sul含有スイートコーンの熟した穀粒」(【0067】?【0069】)から得られたフィトグリコーゲンを用いている。
これらの記載によれば、本願明細書の実施例における「sul含有スイートコーンの熟した穀粒」から得られるフィトグリコーゲンは、本願発明において特定された「パーセンテージ分岐密度が約7%より大き」いものであると解される。
そうすると、引用発明におけるフィトグリコーゲンは、「su1変異トウモロコシであるスイートコーンシルバークイーンの穀粒」という、本願明細書の実施例における「sul含有スイートコーンの熟した穀粒」と実質的に同じ材料から得られたものであるから、引用発明におけるフィトグリコーゲンも、本願発明と同様に「パーセンテージ分岐密度が約7%より大き」いものであると認められる。

ウ 上記ア及びイのとおり、引用発明におけるフィトグリコーゲンは、「パーセンテージ分岐密度が約7%より大き」いものであると認められるから、相違点1は、実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
本願発明の「分岐部に取り込まれる」ことについて、本願明細書の【0052】には、「本開示は、溶質化合物の溶解性および/または溶解速度を向上させる方法を提供する。この方法は、有効量の少なくとも1種類の高度分岐α-D-グルカンまたはその修飾型と溶媒とを混合する工程と、溶質化合物と第2の溶媒とを混合する工程と、これらの2つを一緒に加える工程と、を含む。…溶媒を使用するプロセスでも溶媒の無いプロセスでも、いったん溶質化合物を高度分岐α-D-グルカンと一緒にすると、溶解性の向上が呈示される。溶媒は、比較的極性の溶媒であってもよく、いくつかの実施形態では、水性溶媒(たとえば、水)であり、いくつかの実施形態では、水性溶媒と非水性溶媒との混合物である。本明細書に記載するように、高度分岐α-D-グルカンを溶質化合物に加えると、溶質化合物がα-D-グルカンの分枝部に会合するか取り込まれるため、溶質化合物が高度分岐α-D-グルカンと一緒に可溶化する。」と記載され、溶質化合物がα-D-グルカンの分岐部に取り込まれる状態とするために、「高度分岐α-D-グルカンを溶質化合物に加える」こと以外に、特殊な操作を行うことは記載されていない。
また、上記【0052】に記載された「溶質化合物の溶解性および/または溶解速度を向上させる方法」に対応する実施例1においては、ケルセチン又はクルクミンのストック溶液を、フィトグリコーゲンの水性分散液に加え、攪拌した後遠心して、溶解しないケルセチン又はクルクミンを除去したことが記載されており(【0070】)、フィトグリコーゲンオクテニルコハク酸(PG-OS)についても同様の処理をしている(【0074】)ものと解される。
また、アモルファス形態の安定性に関する実施例5においては、フィトグリコーゲンコハク酸(PG-S)とグリセオフルビンとを、DMSOとともに乳鉢と乳棒を用いて混合した後、真空乾燥しDMSOを除去して複合体を形成している。
実施例1及び5のいずれにおいても、特段、ケルセチン又はクルクミンが「分岐部に取り込まれる」状態となっていることを、何らかの分析手段により確認したわけではない。
したがって、本願発明における「分岐部に取り込まれる」状態とは、本願明細書の実施例1や5に記載されたような方法により得られた、フィトグリコーゲンとケルセチン又はクルクミンとの関係を、「分岐部に取り込まれる」状態であると表現していると理解できる。
そうすると、引用発明においても、本願明細書の実施例1に記載された方法と同様に、フィトグリコーゲンの誘導体の溶液と、ナイシンの溶液とを、混合した後遠心しており、遠心の負荷をかけてもフィトグリコーゲンの誘導体からはずれないくらいにはナイシンが取り込まれているといえることから、引用発明において、ナイシンは、フィトグリコーゲンの「分岐部に取り込まれる」状態となっているといえる。
したがって、相違点2は、実質的な相違点ではない。

(3)相違点3について
本願明細書の発明の詳細な説明には、安定性を向上させる方法について、「高度分岐α-D-グルカンまたはその修飾型との複合体を形成した溶質化合物は、高度分岐α-D-グルカンが存在しないときより、結晶化、酸化、還元、構造の変化、劣化および分解、酵素反応、化学反応、またはこれらの組み合わせに対する耐性が高い。…溶質化合物および高度分岐α-D-グルカンを含む組成物は、長期間、一実施形態では室温にて1ヶ月以上にわたって、もうひとつの実施形態では1年以上にわたって、優れた安定性を示す。」(【0056】)と記載されていることから、本願発明の「溶質化合物の」「安定性を向上させる方法」とは、溶質化合物の「劣化」に対する「耐性が高い」ものとする方法を包含すると解される。
そして、引用発明の「ナイシン保存中の抗菌活性低下を抑制する方法」は、「保存中の抗菌活性低下」という「劣化」に対する「耐性が高い」ものとする方法であるといえることから、本願発明の「溶質化合物の」「安定性を向上させる方法」に相当するといえる。
したがって、相違点3は、実質的な相違点ではない。

(4)小括
以上によれば、本願発明と引用発明との間には、実質的な相違点は見出せず、本願発明は、引用文献4に記載された発明であるといわざるを得ない。

3 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成31年3月11日付け意見書において、「審判官の補正の示唆に従い、新請求項1において特定された事項を新請求項18に組み入れました。従いまして、補正後の本願発明は最早拒絶理由2及び3に該当しないものと思料いたします。」と主張する。

しかしながら、平成30年12月10日付けの当審拒絶理由通知書において示した補正の示唆とは異なり、請求項18において、修飾の化学基として、引用発明が備える発明特定事項である「オクテニルコハク酸、コハク酸」を組み入れる補正を行った。
したがって、審判官の補正の示唆に従った旨の主張は誤りであり、上記2のとおり、拒絶の理由は解消していない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-04-26 
結審通知日 2019-05-07 
審決日 2019-05-27 
出願番号 特願2015-507219(P2015-507219)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 祥子  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 藤原 浩子
淺野 美奈
発明の名称 高度分岐α-D-グルカン  
代理人 一色国際特許業務法人  

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