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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1355831
審判番号 不服2018-10560  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-02 
確定日 2019-11-05 
事件の表示 特願2016-214465「相互接続された空隙を有する低屈折率拡散体要素」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 2日出願公開、特開2017- 45062、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
特願2016-214465号は、2011年(平成23年)10月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年(10月20日 米国))を国際出願日とする特願2013-534965号の一部を平成28年11月1日に新たな出願としたものであって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成28年12月1日付け :手続補正書
平成29年7月6日付け:拒絶理由通知書
平成29年10月6日付け :意見書、誤訳訂正書
平成29年10月26日付け:拒絶理由通知書
平成30年3月15日付け :意見書
平成30年3月23付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。))
平成30年8月2日付け :審判請求書、手続補正書
(この手続補正書を、以下「本件手続補正書」といい、当該本件手続補正書による補正を以下「本件補正」という。)
平成30年9月10日付け:前置報告書
令和元年8月16日付け :上申書

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、本件手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のもの(以下「本願発明」という。)である。

「光学拡散体層であって、
ポリマー結合剤と、
前記ポリマー結合剤中に分散された複数の金属酸化物粒子と、
複数の相互接続された空隙と、
前記ポリマー結合剤中に分散された複数のヘーズ生成粒子と
を含み、
前記光学拡散体層が1.3以下の有効屈折率を有し、
前記光学拡散体層が少なくとも40%の光学ヘーズを有し、
前記複数のヘーズ生成粒子が1マイクロメートル?10マイクロメートルの範囲の平均の横方向寸法を有し、前記複数の金属酸化物粒子が500ナノメートル以下の平均の横方向寸法を有する、
光学拡散体層。」

第3 引用例、引用発明等
1 引用例1
(1)引用例1の記載
本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布され、原査定において引用例1として引用された刊行物である特開2009-80256号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムの一面側に、表面が凹凸形状を有する表面凹凸層を含む防眩層を設けた防眩フィルムであって、
前記表面凹凸層は、長径が1.0μm以上20μm以下、短径が0.5μm以上10μm以下であり、当該長径/短径の比(アスペクト比)が1.0より大きく5.0以下である扁平状の透光性微粒子を含有し、
当該表面凹凸層の凹凸形状の凸部の膜厚は、前記透光性微粒子の短径+5μm以下、当該防眩層の凸部と凹部の膜厚差(凸部の膜厚-凹部の膜厚)は5μm以下、且つ、隣接する凹部間の距離は3μm以上50μm以下であることを特徴とする、防眩フィルム。」

イ 「【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ(LCD)、陰極管表示装置(CRT)、又はプラズマディスプレイ(PDP)等のディスプレイ(画像表示装置)の前面に設置し、外光の反射を防止し、映像を見えやすくする目的等で使用される防眩フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
映像の見えやすさを表す表示性能の一つの指標として、コントラストがある。このコントラストには、明所コントラストと暗所コントラスト(C/R)の二つの性質がある。明所コントラストとは、蛍光灯や太陽光等の外部から照射される光(外部光)存在下の明表示の輝度を暗表示の輝度で割った値であり、外部光存在下での表示性能を示す。一方、暗所コントラストとは、暗室で測定されるバックライト等の表示装置自体からの光のみの明表示の輝度を暗表示の輝度で割った値であり、表示装置自体での表示性能を示す。一般的にコントラストといった場合は、暗所コントラストを指し、以下、本明細書においても、特別の記載がない限り、コントラストは暗所コントラストを意味する。
【0003】
上記の様なディスプレイ等においては、外部光のディスプレイ表面での反射を防止するため、すなわち、明所コントラストを向上させるために、透明フィルムを基材とし、微細な凹凸表面を有する防眩層を有する防眩フィルムがディスプレイ表面に設けられている。
【0004】
斯かる防眩フィルムには、大粒径又は凝集性の粒子を含む樹脂組成物を透明基材の表面に塗工することによって、表面に凹凸形状を有する防眩層を形成するタイプ、前記粒子を含まず、スピノーダル分解により、相分離構造を形成し、硬化性樹脂を硬化させることによって表面に凹凸形状を有する防眩層を形成するタイプ、又は層表面に凹凸をもったフィルムをラミネートして凹凸形状を転写することによって、表面に凹凸形状を有する防眩層を形成するタイプなどがある(特許文献1)。
【0005】
このような防眩フィルムを画像表示装置表面に使用した場合、表面の凹凸形状が微細なレンズの役割を果たすため、透過光が防眩フィルムの凹凸形状面を透過するとき、表示される画素等を乱してしまう「ギラツキ」と呼ばれる状態を生じ易いという問題がある。
【0006】
このギラツキを解消する方法としては、鮮明度を高める目的で表面凹凸を緻密にしたり、又は、防眩層を形成する樹脂と屈折率差のある内部散乱粒子を添加することにより防眩フィルムに内部散乱効果を付与する等の方法が知られている。
【0007】
【特許文献1】特開2006-103070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の防眩フィルムでは、防眩層に含まれる球状の内部散乱粒子を凝集させることによって、内部散乱効果を得ながら、防眩層表面の凹凸形状を形成し、明所コントラストを向上しようとしていた。しかしながら、当該球状の内部散乱粒子の凝集により形成される防眩層の表面凹凸は凹凸のピッチ(間隔)が短く、鋭い形状となり、明所コントラストは低かった。そのため、従来の防眩フィルムでは、明所コントラストの向上に効果的な表面凹凸形状の形成が困難であった。
【0009】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものであり、防眩層が、防眩層表面の凹凸形状の形成による明所コントラスト向上の機能の他に、ギラツキ防止等のその他の機能を効果的に併せ持つことが可能な防眩フィルムを提供することを目的とする。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
・・・中略・・・
【0011】
前記表面凹凸層において、扁平状の透光性微粒子は、当該扁平状の形状を有するため、外光の反射を抑えるのに効果的な凹凸形状のピッチを得ながら、必要最低限の膜厚を有する凹凸形状を形成することができる。表面凹凸層を極薄膜とできるため、空間的余地が生じ、当該表面凹凸層と透明基材フィルムの間に内部散乱層、防眩層と透明基材フィルムの間にハードコート層の様な他の機能を有する層、及び防眩層の表面に低屈折率層や防汚染層等の他の機能を有する層を更に形成することが可能となる。
従来の防眩フィルムでは、凹凸形状の形成と内部散乱の発生という二つの役割を一層において、球状の内部散乱粒子で行っていたため、層表面の凹凸形状のピッチが短くなり、明所コントラストが低く、層の膜厚も厚くなってしまっていた。
【0012】
前記表面凹凸層に含まれる扁平状の透光性微粒子は、長径が1.0μm以上20μm以下、短径が0.5μm以上10μm以下であり、当該長径/短径の比(アスペクト比)が1.0より大きく5.0以下である。斯かる形状を有する当該透光性微粒子は、当該表面凹凸層の膜厚を薄くするように配列しやすい。そのため、当該透光性微粒子の形状に沿って表面凹凸層が形成され、凸部の膜厚は、前記透光性微粒子の短径+5μm以下、当該表面凹凸層の凸部と凹部の膜厚差(凸部の膜厚-凹部の膜厚)は、5μm以下、且つ、隣接する凹部間の距離は3μm以上50μm以下となる。斯かる表面凹凸を有することにより、本発明の防眩フィルムは、極薄膜の表面凹凸層を有しながら、優れた明所コントラストを得ることができる。
・・・中略・・・
【0018】
本発明に係る防眩フィルムにおいては、前記表面凹凸層の上に更に低屈折率層が設けられていることが、最表面の屈折率を低下させ、防眩フィルムの視認性を高められるため好ましい。
【0019】
本発明の一実施形態である防眩層表面(防眩層の透明基材フィルムとは反対側)に低屈折率層を有する防眩フィルムにおいては、前記表面凹凸層は、酸化チタン、ジルコニア、酸化亜鉛、アルミナよりなる群から選ばれる少なくとも1種の無機微粒子を含有し、且つ、当該無機微粒子の平均粒径は、5nm以上100nm以下であることが、当該表面凹凸層の屈折率を高められ、当該表面凹凸層の表面に設けられた低屈折率層の屈折率を相対的に低下させ、防眩フィルムの視認性を高められるため好ましい。
【0020】
本発明に係る防眩フィルムにおいては、可視光領域における最低反射率が2.5%以下であることが、十分な視認性が得られるため好ましい。」

エ 「【発明の効果】
【0022】
本発明に係る防眩フィルムは、扁平状の透光性微粒子を含有する表面凹凸層を含む防眩層を有する。当該表面凹凸層は前記透光性微粒子の扁平状の形状に沿って形成されるため、当該表面凹凸層の凹凸形状のピッチが長くなり、明所コントラストを向上させながら、表面凹凸層の薄膜化が可能となる。また、当該表面凹凸層の薄膜化により、当該表面凹凸層の透明基材フィルム側に内部散乱層、ハードコート層等の他の機能を有する層の形成が可能な防眩フィルムを提供することができる。」

オ 「【0028】
<1.透明基材フィルム>
透明基材フィルムは、平滑性、耐熱性を備え、機械的強度に優れたものが好ましい。透明基材フィルムを形成する材料の具体例としては、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、又は、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂が挙げられ、好ましくはポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、セルローストリアセテートが挙げられる。
・・・中略・・・
【0032】
<2.防眩層>
本発明に係る防眩層は、表面が凹凸形状を有する表面凹凸層を少なくとも含み、当該表面凹凸層の透明基材フィルム側に隣接して内部散乱層を設けても良い。内部散乱層を設ける場合は、当該内部散乱層及び表面凹凸層は、2層同時塗布であっても良いし、内部散乱層を形成した後、表面凹凸層を形成しても良い。
【0033】
<2-1.表面凹凸層>
本発明に係る表面凹凸層は、表面に凹凸形状を有することにより、前記防眩層の明所コントラストを向上させる機能を有する。当該表面凹凸層は、表面凹凸層形成用組成物を硬化させて得られる。当該表面凹凸層形成用組成物は、必須成分として、扁平状の透光性微粒子、及びバインダー成分を含み、必要に応じて適宜、その他の防眩性微粒子、重合開始剤、溶剤等のその他の成分を含有させても良い。
【0034】
<2-1-1.扁平状透光性微粒子>
本発明に係る扁平状の透光性微粒子は、当該扁平状の形状を有するため、表面凹凸層が当該透光性微粒子の扁平状形状に沿って形成されやすく、緩やか(凹凸のピッチが長い)、且つ、薄い表面凹凸形状の層を形成する機能を有する。凹凸のピッチが長いため、外光の反射を効果的に抑えることができる。また、表面凹凸層を極薄膜とできるため、空間的余地が生じ、当該表面凹凸層と透明基材フィルムの間に内部散乱層、更には、防眩層と透明基材フィルムの間にハードコート層の様な他の機能を有する層を更に形成することが可能となる。
・・・中略・・・
【0043】
<2-1-2.表面凹凸層のバインダー成分>
本発明に係る表面凹凸層形成用組成物において、バインダー成分は、表面凹凸層に製膜性を付与する。
【0044】
バインダー成分としては、硬化性有機樹脂が好ましく、塗膜とした時に光が透過する透光性のものが好ましい。その具体例としては、紫外線若しくは電子線で代表される電離放射線により硬化する樹脂である電離放射線硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂と溶剤乾燥型樹脂(熱可塑性樹脂など、塗工時に固形分を調整するための溶剤を乾燥させるだけで、被膜となるような樹脂)との混合物、又は熱硬化型樹脂の三種類が挙げられ、好ましくは電離放射線硬化型樹脂が挙げられる。
【0045】
電離放射線硬化型樹脂の例としては、(メタ)アクリレート基等のラジカル重合性官能基を有する化合物、例えば、(メタ)アクリレート系の、単量体(モノマー)、又は高分子骨格にモノマーを導入したポリマーが挙げられる。より具体的には、(メタ)アクリレート系単量体としては、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6‐ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、高分子骨格にモノマーを導入したポリマーとしては、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等を高分子骨格とし、当該高分子骨格に(メタ)アクリレート基を導入したポリマーが挙げられる。
(メタ)アクリレート系化合物以外の例としては、スチレン、メチルスチレン、N‐ビニルピロリドン等の単官能又は多官能単量体、又はビスフェノール型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、芳香族ビニルエーテル、脂肪族ビニルエーテル等のオリゴマー又はプレポリマー等のカチオン重合性官能基を有する化合物が挙げられる。
・・・中略・・・
【0055】
<2-1-4.表面凹凸層形成用組成物の調製>
本発明に係る表面凹凸層形成用組成物は、一般的な調製法に従って、上記成分を混合し分散処理することにより調製される。混合分散には、ペイントシェーカー又はビーズミル等を用いることができる。透光性微粒子が溶剤中に分散された状態で得られる場合には、その分散状態のまま、前記バインダー成分、溶剤を含むその他の成分を適宜加え、混合し分散処理することにより調製される。
・・・中略・・・
【0143】
<3.防眩フィルム>
本発明に係る防眩フィルムは、必須要素として、前記透明基材フィルム、及び少なくとも前記表面凹凸層を含む防眩層を含む。当該防眩層は、防眩性を向上する等の目的で、前記透明基材フィルムと前記表面凹凸層との間に内部散乱層を有しても良く、当該内部散乱層と前記表面凹凸層を併せて防眩層とすることが好ましい。また、本発明においては、前記防眩層の表面(観察者側)に低屈折率層や防汚染層等のその他の機能層を設けても良く、防眩フィルムの反射防止性能を更に向上するために、前記防眩層(表面凹凸層)の表面に低屈折率層を設けることが好ましい。さらに、耐擦傷性等のその他の機能を付与する目的で、少なくとも表面凹凸層を含む防眩層と前記透明基材フィルムの間にハードコート層、中屈折率層、高屈折率層等のその他の機能を有する層を設けても良い。」

カ 「【0149】
<5.低屈折率層>
低屈折率層は、外部光(例えば、蛍光灯、自然光等)が防眩フィルムの表面にて反射する際、多層膜での光の干渉効果によってその反射率を低くするという役割を果たす層である。本発明の好ましい態様によれば、防眩層表面に低屈折率層を設けることが好ましい。低屈折率層は、当該低屈折率層の屈折率が当該層の下の層の屈折率より低いものである。
本発明の好ましい態様によれば、低屈折率層に隣接する防眩層(表面凹凸層)の屈折率が1.5以上であり、低屈折率層の屈折率が1.45以下であり、好ましくは1.42以下で構成されてなるものが好ましい。
・・・中略・・・
【0154】
<5-2.中空粒子>
低屈折率層は、当該層の屈折率を低下させる等の目的で、前記電離放射線硬化性樹脂の他、中空粒子を含有しても良い。当該中空粒子とは、外殻層を有し、外殻層に囲まれた内部が多孔質組織、又は空洞である粒子をいう。当該多孔質組織、及び当該空洞には空気(屈折率:1)が含有されており、当該中空粒子を低屈折率層に含有させることで、当該層の屈折率を低減することができる。
【0155】
本発明に係る中空粒子の材料は、無機系、有機系のものを使用することができる。生産性や強度等を考慮し、無機材料であることが好ましい。この場合には、外殻層が無機材料で形成されることになる。
【0156】
中空粒子を無機材料で形成する場合、中空粒子の材料は、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、及び金属ハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。中空粒子を上記材料とすれば、外殻が高強度で外圧により潰れにくい粒子が得られる。さらに好ましいのは、中空粒子の材料を、金属酸化物又は金属ハロゲン化物で形成することであり、特に好ましいのは、金属酸化物又は金属フッ化物で形成することである。これら材料を用いると、さらに高強度、且つ、低屈折率な中空粒子を得られる。
【0157】
ここで、金属酸化物等に用いる金属元素としては、Na、K、Mg、Ca、Ba、Al、Si、Bが好ましく、Mg、Ca、Al及びSiがさらに好ましい。斯かる金属元素を用いることにより、低屈折率、且つ、他の元素に比べて製造が容易な中空粒子が得られる。上記金属元素は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0158】
空隙(多孔質組織、又は空洞)を有する有機系の微粒子の具体例としては、特開2002-80503号公報で開示されている技術を用いて調製した中空ポリマー微粒子が好ましく挙げられる。
【0159】
低屈折率層において、中空粒子を金属酸化物で形成する場合、材料の屈折率や生産性を考慮し、シリカ(二酸化珪素:SiO_(2))からなる中空粒子を用いることが特に好ましい。中空シリカ粒子は、微細な空隙を内部に有しており、屈折率1の空気が当該粒子内部に含まれている。そのため、当該粒子自体の屈折率が前記電離放射線硬化性樹脂及び後述する中実粒子に比べて低く、当該中空粒子を含有する低屈折率層の屈折率を低下させることができる。すなわち、空隙を有する中空シリカ粒子は、内部に気体を有しないシリカ粒子(屈折率n=1.46程度)に比べると、屈折率が1.20?1.45と低く、低屈折率層の屈折率を1.45以下にすることができる。
・・・中略・・・
【0172】
<8.添加剤>
上記各層は、更に別の機能を有していてもよく、例えば、帯電防止剤、屈折率調整剤、防汚染剤、硬度調整剤等の機能付加成分を含んでなる組成物により形成されてもよい。機能付加成分は、上記各層のうち、特に表面凹凸層に含有させることが好ましい。
【0173】
<8-1.帯電防止剤(導電剤)>
上記各層、特に表面凹凸層中に、帯電防止剤を含有させることにより、防眩フィルムの表面における塵埃付着を有効に防止することができる。帯電防止剤の具体例としては、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、第1?第3アミノ基等のカチオン性基を有する各種のカチオン性化合物、スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基、ホスホン酸塩基等のアニオン性基を有するアニオン性化合物、アミノ酸系、アミノ硫酸エステル系等の両性化合物、アミノアルコール系、グリセリン系、ポリエチレングリコール系等のノニオン性化合物、スズ及びチタンのアルコキシドのような有機金属化合物並びにそれらのアセチルアセトナート塩のような金属キレート化合物等が挙げられ、さらに上記に列記した化合物を高分子量化した化合物が挙げられる。また、第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、又は金属キレート部を有し、且つ、電離放射線により重合可能なモノマー、若しくはオリゴマー、又は官能基を有するカップリング剤のような有機金属化合物等の重合性化合物も帯電防止剤として使用できる。
【0174】
また、前記帯電防止剤の他の例としては、導電性微粒子が挙げられる。当該導電性微粒子の具体例としては、金属酸化物からなるものを挙げることができる。そのような金属酸化物としては、ZnO(屈折率1.90、以下、カッコ内の数値は屈折率を表す。)、CeO_(2)(1.95)、Sb_(2)O_(2)(1.71)、SnO_(2)(1.997)、ITOと略して呼ばれることの多い酸化インジウム錫(1.95)、In_(2)O_(3)(2.00)、Al_(2)O_(3)(1.63)、アンチモンドープ酸化錫(略称;ATO、2.0)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(略称;AZO、2.0)等を挙げることができる。前記導電性微粒子の平均粒径は、0.1nm?0.1μmであることが好ましい。斯かる範囲内であることにより、前記導電性微粒子をバインダーに分散した際、ヘイズがほとんどなく、全光線透過率が良好な高透明な膜を形成可能な組成物が得られる。
【0175】
<8-2.屈折率調整剤>
防眩層に、屈折率調整剤を添加することにより、防眩層表面の反射防止特性を調整できる。当該屈折率調整剤には、低屈折率剤、中屈折率剤、高屈折率剤等が挙げられる。
【0176】
<8-2-1.低屈折率剤>
低屈折率剤は、その屈折率が防眩層より低いものである。好ましくは、防眩層の屈折率が1.5以上であり、低屈折率剤の屈折率が1.5未満であり、好ましくは1.45以下で構成されるものが好ましい。
具体的には、低屈折率層の説明において挙げた低屈折率剤を好ましく用いることができる。低屈折率剤を含有させた表面凹凸層の膜厚は、当該層が最外層となり、耐擦傷性や硬度が必要であるため、1μmよりも厚いことが好ましい。」

キ 「【実施例】
【0179】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。尚、実施例中、部は別途記載しない限り重量部を表す。
【0180】
下記製造例に従い、表面凹凸層形成用組成物、内部散乱粒子、及び内部散乱層形成用組成物を調整した。尚、透光性微粒子は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、又はシリカのものを透光性微粒子A、チタニアによる球状のものを透光性微粒子Bとした。
【0181】
<製造例1.表面凹凸層形成用組成物(1)の調製>
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)(商品名:PET-30、日本化薬(株)製):42.5重量部
光重合開始剤(商品名:イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製):2重量部
シリコーン(レベリング剤):1重量部
PMMA(扁平状透光性微粒子A)(長径4.5μm、短径2.5μm、アスペクト比1.8):12重量部
トルエン:34重量部
上記材料を十分混合し、組成物として調製した。この組成物を孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して固形分30質量%の表面凹凸層形成用組成物(1)を調製した。
【0182】
<製造例2.表面凹凸層形成用組成物(2)の調製>
透光性微粒子B(チタニア、平均粒径20nm)5.0重量部を加えた以外は、製造例1と同様にして、組成物を調製した。この組成物を孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して固形分30質量%の表面凹凸層形成用組成物(2)を調製した。
【0183】
<製造例3.表面凹凸層形成用組成物(3)の調製>
透光性微粒子Aを平均粒径2.5μm、アスペクト比1.0の球状粒子(シリカ)とした以外は、製造例1と同様にして、組成物を調製した。この組成物を孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して固形分30質量%の表面凹凸層形成用組成物(3)を調製した。
【0184】
<製造例4.表面凹凸層形成用組成物(4)の調製>
透光性微粒子Aを平均粒径3.5μm、アスペクト比1.0の球状粒子(PMMA)とした以外は、製造例1と同様にして、組成物を調製した。この組成物を孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して固形分30質量%の表面凹凸層形成用組成物(4)を調製した。
・・・中略・・・
【0203】
<実施例1.防眩フィルムの作製>
トリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フィルム(株)製、商品名:TF80UL、厚さ80μm)を透明基材フィルムとして用い、内部散乱層形成用組成物(1)を、フィルム上にコーティング用巻線ロッド(メイヤーズバー)#8を用いて乾燥膜厚8μmとなるように塗布し、70℃のオーブン中で2分間加熱乾燥し、溶剤分を蒸発させた後、紫外線を照射線量が130mJになるよう照射して塗膜を硬化させ内部散乱層を形成し、当該内部散乱層上に、表面凹凸層形成用組成物(1)を前記内部散乱層形成用組成物(1)と同様の方法で塗布、乾燥し、表面凹凸層を形成し、当該表面凹凸層上に、前記低屈折率層形成用組成物を前記内部散乱層形成用組成物(1)と同様の方法で塗布、乾燥し、低屈折率層を形成し、表面凹凸層の膜厚が5.5μm、内部散乱層の膜厚が8.0μm、低屈折率層の膜厚が0.1μmの防眩フィルムを作製した。
【0204】
<実施例2.防眩フィルムの作製>
実施例1において、表面凹凸層形成用組成物(1)を、表面凹凸層形成用組成物(2)とした以外は、実施例1と同様にして、表面凹凸層の膜厚が5.5μm、内部散乱層の膜厚が8.0μmの防眩フィルムを作製した。
・・・中略・・・
【0219】
<比較例1.防眩フィルムの作製>
表面凹凸層形成用組成物(1)を、表面凹凸層形成用組成物(3)とした以外は、実施例1と同様にして、表面凹凸層の膜厚が5.5μm、内部散乱層の膜厚が8.0μmの防眩フィルムを作製した。
【0220】
<比較例2.防眩フィルムの作製>
表面凹凸層形成用組成物(1)を、表面凹凸層形成用組成物(4)とした以外は、実施例1と同様にして、表面凹凸層の膜厚が5.5μm、内部散乱層の膜厚が8.0μmの防眩フィルムを作製した。」

ク 「【0223】
上記、各実施例、及び各比較例で得られた防眩フィルムについて、下記1乃至3の評価を行った。その結果、並びに防眩フィルムの表面凹凸層、及び内部散乱層の膜厚を表2に示す。
【0224】
評価1 正面コントラスト低下率
(偏光板の作製)
得られた防眩フィルムを55℃、2規定の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液で2分間、けん化した後、片面に上記透明基材フィルム(TF80UL)を貼り合わせた偏光板に、防眩フィルムの塗工面でない側を偏光子表面に貼合し、偏光板(A)を作製した。
(正面コントラスト(C/R)低下率測定)
ソニー製 BRAVIA 27インチのパネルの液晶セル表面側に偏光板(A)を、液晶セル裏面側には、偏光子両側にトリアセチルセルロースを貼合した偏光板をクロスニコル配置になるように貼合し、トプコンテクノハウス社製BM-5輝度計を用いてコントラストを測定した。
【0225】
評価2 最低反射率
得られた防眩フィルムをクロスニコルの偏光板に張り合わせた後、島津製作所(株)製分光光度計(MPC-3100)を用いて、380?780nmの波長領域における、積分球を用いた反射率を測定し、この間における最低反射率を測定した。
【0226】
評価3 クラック性
得られた防眩フィルムを直径0.5cmの金属ロールに巻きつけたときのクラック発生の有無を目視により確認し、以下の基準にて評価した。
評価基準
評価○:クラックなし
評価×:クラックあり
【0227】
評価4 表面状態
得られた防眩フィルムをクロスニコルの偏光板に張り合わせた後、蛍光灯存在下で表面状態を観察した。
評価○:異状なし
評価×:白味を帯びている、又は防眩性なし
【0228】
表2より、得られた防眩フィルムのギラツキを同程度にして上記の評価1乃至3を行ったところ、実施例13のように、最低反射率が低く、明所コントラストに優れた防眩フィルムが得られた。さらに、内部散乱層に、コア-シェル粒子、微粒子内包粒子、又は外郭付着粒子を含有させた実施例1乃至12では、最低反射率が低く、明所コントラストに優れ、且つ、コントラストの低下も抑えられた防眩フィルムが得られた。
扁平状の透光性微粒子ではなく、球状の透光性微粒子を用いた比較例1及び2では、実施例と同程度にギラツキを抑えると、防眩フィルムの表面の状態が白味を帯びて観察された。
表面凹凸層の凸部の膜厚を厚くし、表面凹凸形状を鋭くした比較例3では、実施例と同程度にギラツキを抑えると、防眩フィルムの表面の状態が白味を帯びて観察された。
表面凹凸層の凸部間の間隔(ピッチ)を50μmよりも長い60μmとした比較例4では、所望の防眩性が得られなかった。」

(当合議体注:表2は以下のものである。)


(2)引用例1に記載された発明
ア 引用発明1-1
引用例1の【請求項1】(上記(1)ア)には、「透明基材フィルムの一面側に、表面が凹凸形状を有する表面凹凸層を含む防眩層を設けた防眩フィルム」の発明が記載されているところ、引用例の【0001】の記載(同イ)からみて、この「防眩フィルム」は、「画像表示装置の前面に設置し、外光の反射を防止し、映像を見えやすくする目的等で使用される」ものである。
また、引用例1の【0033】及び【0055】の記載(同オ)からみて、上記「表面凹凸層」は、「必須成分として、扁平状の透光性微粒子及びバインダー成分を含み、必要に応じて適宜、その他の防眩性微粒子、重合開始剤、溶剤等を混合し分散処理することにより調整された、表面凹凸層形成用組成物を硬化させて得られ」るものと理解される。
さらに、引用例1の【0044】及び【0045】(同オ)からみて、上記「バインダー成分」として、「ペンタエリスリトールトリアクリレート等の電離放射線により硬化する樹脂である電離放射線硬化型樹脂」が挙げられており、【0179】?【0184】(同キ)に記載された製造例1?製造例4においても、もっぱら「ペンタエリスリトールトリアクリレート」が使用されている。
そうしてみると、引用例1には、引用例1でいう「本発明」に対応する、次の発明が記載されている(以下「引用発明1-1」という。)。

「 透明基材フィルムの一面側に、表面が凹凸形状を有する表面凹凸層を含む防眩層を設けた防眩フィルムであって、
前記表面凹凸層は、長径が1.0μm以上20μm以下、短径が0.5μm以上10μm以下であり、当該長径/短径の比(アスペクト比)が1.0より大きく5.0以下である扁平状の透光性微粒子を含有し、
当該表面凹凸層の凹凸形状の凸部の膜厚は、前記透光性微粒子の短径+5μm以下、当該防眩層の凸部と凹部の膜厚差は5μm以下、且つ、隣接する凹部間の距離は3μm以上50μm以下であり、
表面凹凸層は、必須成分として、扁平状の透光性微粒子及びバインダー成分を含み、必要に応じて適宜、その他の防眩性微粒子、重合開始剤、溶剤等を混合し分散処理することにより調整された、表面凹凸層形成用組成物を硬化させて得られ、
バインダー成分は、ペンタエリスリトールトリアクリレート等の電離放射線硬化型樹脂であり、
画像表示装置の前面に設置し、外光の反射を防止し、映像を見えやすくする目的等で使用される、防眩フィルム。」

イ 引用発明1-2
引用例1の【0219】及び【0220】(前記(1)キ)の記載からは、引用例1でいう「本発明」に対する「比較例」として、次の発明が理解される(以下「引用発明1-2」という。)。

「 引用発明1-1の透光性微粒子に替えて、平均粒径2.5μm、アスペクト比1.0の球状粒子(シリカ)及び平均粒径3.5μm、アスペクト比1.0の球状粒子(PMMA)のうちのいずれかの透光性微粒子を含有する、
防眩フィルム。」

2 引用例6?9
(1)引用例6の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定において引用例6として引用された刊行物である特開2010-79053号公報(以下「引用例6」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、透明性に優れた低屈折率膜を提供することを目的とする。また、当該低屈折率膜を有し、高い透明性と優れた反射防止効果とを有する反射防止膜を提供することを目的とする。さらに、上記低屈折率膜または反射防止膜を有し、透明性に優れた透明部材、蛍光ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは、低屈折率膜の構成について検討を行い、当該低屈折率膜を、シリケート成分により酸化物微粒子間を相互に連結し微粒子間に空隙を形成した3次元網目構造とすると、透明性に優れた低屈折率膜が得られることを見出し、本発明に想到した。
また、本発明者らは、酸化物微粒子の粒子径を制御したり、酸化物微粒子と結合剤(シリケート成分)との比率を制御したりすることにより、優れた透明性を維持しながら、機械的強度や耐擦傷性にも優れた低屈折率膜が得られることを見出した。
【0010】
さらに、本発明者らは、このような低屈折率膜を反射防止膜に用いることで、高い透明性、優れた反射防止効果が得られることを見出した。そして、当該反射防止膜についても種々の改良を加えることで膜強度を向上させることできることを見出した。」

イ 「【0014】
[低屈折率膜]
本発明の低屈折率膜は、図1に示すように酸化物微粒子10とシリケート成分12とを 含み、酸化物微粒子10同士がシリケート成分12を介して連結されてなる3次元網目構 造を有している。シリケート成分12は酸化物微粒子10相互を結合して膜体を形成する が、酸化物微粒子10間全体にはシリケート成分が充填されることなく、粒子間には空隙 が存在する。この空隙を有する3次元網目構造により、本発明の低屈折率膜は、構成する酸化物微粒子およびシリケート成分のそれぞれに比べて、屈折率の低下が図られ優れた透明性を発揮することができる。
・・・中略・・・
【0018】
酸化物微粒子の平均1次粒子径は、0.01?0.10μmであることが好ましく、0 .01?0.08μmであることがより好ましい。1次粒子の平均粒子径が0.01μm 以上であると、微細粒子相互の間隔が狭くなりすぎることがなくなって空隙を形成することが容易になり、膜の屈折率を十分に小さくすることが可能となる。一方、0.10μm以下であると、散乱による光の乱反射を防ぐことが可能となり、低屈折率膜のヘーズ値が上昇して高い透明性が得られなくなるのを防ぐことができる。また、その結果、反射防止膜とした場合、良好な反射防止効果が発揮されやすくなる。
なお、平均1次粒子径は、日機装社製のマイクロトラック粒度分布測定装置MT300 0IIシリーズ、HORIBA社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950 などにより測定することができる。」

(2)引用例7の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定において引用例7として引用された刊行物である特開2007-284622号公報(以下「引用例7」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた反射防止性及び防汚性を発現する反射防止膜を提供するものであり、特に、空隙を有する低屈折率層の上に、その空隙を維持したまま形成することが可能である表面保護層を有しており、優れた反射防止性及び防汚性を発現する反射防止膜を提供するものである。」

イ 「【0072】
微粒子としては二酸化ケイ素(シリカ)微粒子、二酸化チタン微粒子、酸化アルミニウム微粒子、酸化ジルコニウム微粒子、有機ポリマーラテックスなどが挙げられる。この中で最も適しているのは、屈折率が低くかつ十分な強度を有するシリカ微粒子である。
【0073】
上記微粒子の形状は限定されず、球状、板状、針状、複数のこれらの形状のものがつながって鎖状または枝分かれした鎖状になったもの、複数のこれらの形状のものが凝集してブドウの房状になったものなどを用いることができる。なお「鎖状」とは、一般に「(短)繊維状」、「パールネックレス状」と呼ばれるものも含む。これら粒子の形状は、例えば透過電子顕微鏡で観察することによって確認できる。
【0074】
これらの中でも、球状でないもの、すなわち、板状、針状、鎖状、枝分かれした鎖状、ブドウの房状のものを用いると、隣接する粒子間により多くの空隙が生じ、屈折率の低い低屈折率層を得ることができるので好ましい。
【0075】
また、屈折率をより低いものにするためにシリカ微粒子の内部に独立気泡を有する中空シリカ微粒子を用いることが好ましい。
【0076】
球状、針状または板状の微粒子を用いる場合、平均粒子径は10nm?200nmの範囲であることが好ましい。平均粒子径とは、窒素吸着法(BET法)により測定された比表面積(m^(2)/g)から、平均粒子径=(2720/比表面積)の式によって与えられた値である。微粒子の平均粒子径が10nm未満では、反射防止膜の十分な強度を得るのが困難な場合があり、平均粒子径が200nmを越えるとヘイズが発生しやすくなったり、透視像の解像度が低下しやすくなる場合がある。
・・・中略・・・
【0078】
微粒子の平均粒子径が10nm未満では、反射防止膜の十分な強度を得るのが困難な場合があり、平均粒子径が30nmを越えると、膜の表面粗さ(Ra)が大きくなり、ヘイズが発生しやすくなったり、透視像の解像度が低下しやすくなり、視認性が低下する場合がある。また平均長さが30nm未満では、反射防止膜の十分な強度を得るのが困難な場合があり、平均長さが200nmを越えるとヘイズが発生しやすくなったり、透視像の解像度が低下しやすくなり、視認性が低下する場合がある。
【0079】
これらの微粒子の中でも鎖状および/または枝分かれした鎖状のものを用いると、隣接する粒子間にさらに多くの空隙が生じ、屈折率が1.40未満、条件によっては1.30未満ときわめて低い低屈折率層を得ることができるほか、微粒子1個当たりの、他の微粒子と接触し結着する点の数が多くなるため、低屈折率層の強度が高くなるので好ましい。それらの中でも、特に二次元または三次元的に湾曲した形状を有するものが最も好ましい。このような微粒子の例としては、例えばシリカ微粒子の場合には日産化学工業株式会社製の「スノーテックス(登録商標)-OUP」、「スノーテックス(登録商標)-UP」、「スノーテックス(登録商標)-PS-S」、「スノーテックス(登録商標)-PS-SO」、「スノーテックス(登録商標)-PS-M」、「スノーテックス(登録商標)-PS-MO」、日本国触媒化成工業株式会社製の「ファインカタロイドF-120」等が挙げられる。これらの鎖状のシリカ微粒子は緻密なシリカ主骨格からなり、鎖状かつ三次元的に湾曲した形状を有する。
【0080】
上記のような空隙を有する反射防止膜の表面に塗布する場合、表面保護層の厚さは、5?50nmの範囲が好ましく、10?30nmの範囲がより好ましい。5nmを下回ると表面保護層としての十分な機能が発現しないおそれがあり、逆に50nmを越えると表面保護層が反射防止性能に及ぼす効果が無視できなくなり、反射率が十分に低下しなくなるおそれがある。」

(3)引用例8の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定において引用例8として引用された刊行物である特開2005-352121号公報(以下「引用例8」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0001】
本発明は、空隙部を有する繊維状無機微粒子により、低屈折率層が構成された反射防止膜に関する。」

イ 「【0005】
本発明は、優れた反射防止効果と高い膜強度を有する反射防止膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、低屈折率層中に、空隙部を有する繊維状無機微粒子と特定のシラン化合物を含む反射防止膜が、低い反射率と高い膜強度を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0007】
[1] 低屈折率層中に、(1)空隙部を有する繊維状無機微粒子と、(2)加水分解基含有シラン、その加水分解物およびその重縮合物から選ばれた少なくとも1種、とを含むことを特徴とする反射防止膜。
・・・中略・・・
[7] 動的光散乱法によって測定される繊維状無機微粒子の平均粒子径が5nm以上400nm以下であることを特徴とする[1]に記載の反射防止膜。」

ウ 「【0021】
ケイ酸、トリメチルシラノール、トリフェニルシラノール、ジメチルシランジオール、ジフェニルシランジオール等のシラン、あるいは末端や側鎖にヒドロキシル基を有するポリシロキサン等。また、オルトケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸カリウム、オルトケイ酸リチウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、メタケイ酸リチウム、オルトケイ酸テトラメチルアンモニウム、オルトケイ酸テトラプロピルアンモニウム、メタケイ酸テトラメチルアンモニウム、メタケイ酸テトラプロピルアンモニウム等のケイ酸塩や、これらを酸やイオン交換樹脂に接触させることにより得られる活性シリカ等のシラン。
本発明においては、繊維状無機微粒子を、上記の分散媒に分散・溶解し、さらに上記の加水分解基含有シランやその他の添加物と混合して低屈折率層用塗布組成物を製造する。繊維状無機微粒子は、乾燥により粉体とする工程を経ることなく、始めからゾルとして調製しておくことが、塗膜のヘーズが低くなるため、好ましい。
・・・中略・・・
【0024】
本発明においては、繊維状無機微粒子を含むシリカと加水分解基含有シランが共存下に 加水分解・脱水縮合することにより、シリカ表面が加水分解基含有シランによって表面修 飾され、シリカの強度が改善されるとともに、塗膜形成の際に加水分解基含有シランに由 来するシラノールの結合によって繊維状無機微粒子同士が結合されるため、繊維状無機微 粒子微同士の接着強度を向上させることができるものと考えられる。そのため、加水分解 基含有シランを予め加水分解・脱水縮合させてポリシロキサンとしたものと繊維状無機微 粒子を含むシリカとを混合する場合に比べて、より高強度の反射防止膜となすことができる。」

エ 「【0052】
次に、本発明の低屈折率層について、説明する。
本発明の低屈折率層は、少なくとも空隙部を有する繊維状無機微粒子を含むことにより、繊維状無機微粒子内と、隣接する繊維状無機微粒子同士の間に間隙が形成され、そのため低い屈折率を有する。単球状のシリカのみを用いた場合に比べ、低屈折率層に含まれる間隙の総体積をより大きくさせることができ、それゆえ1.10以上1.30未満と非常に低い屈折率を有する低屈折率層を形成することができる。
本発明の低屈折率層の屈折率は1.22以上1.30未満であることが好ましく、より好ましくは1.22以上1.28未満の範囲である。光学基材として多用されている、屈折率が1.49?1.67の透明プラスチック基板を用いる場合、屈折率が1.30以上と大きい場合は反射率の低減が不十分となる。また、1.22よりも小さくても反射率の低減が不十分となる上、密度が低くなりすぎるために膜の機械的強度が不十分となる場合がある。」

オ 「【0082】
[実施例1]
あらかじめH+型にしておいたカチオン交換樹脂(アンバーライト(登録商標)IR-120B)864gを水864gに分散した中に、3号水ガラス(SiO_(2)=29重量%、Na_(2)O=9.5重量%)288gとアルミン酸ナトリウム(Al_(2)O_(3)=54.9重量%)0.228gを水576gで希釈した溶液を加えた。これを、十分撹拌した後、カチオン交換樹脂を濾別して活性シリカ水溶液1728gを得た。この活性シリカ水溶液のSiO_(2)濃度は5.0重量%、Si/Al元素比は450であった。
【0083】
104gの旭電化社製プルロニックP123を水2296gに溶解させ、35℃湯浴中で撹拌しながら、上記の活性シリカ水溶液1600gを一定の添加速度で、10分で添加した。この混合物のpHは3.5であった。このときの、水/P123の重量比は38.5で、P123/SiO_(2)の重量比は1.3であった。この混合物を35℃で15分撹拌後、95℃で静置し24時間反応させた。
・・・中略・・・
【0085】
・・・中略・・・
次に、塗布組成物(B)をスピンコート法により、上記の透明プラスチック基板上に室温にて塗布を行い、続いて熱風循環乾燥機にて、120℃、2分間の乾燥を行って、繊維状無機微粒子からなる低屈折率層と透明プラスチック基板により構成される積層体を得た。該積層体は、波長550nmにて最小反射率を示し、低屈折率層のない場合に3.5%であったものが、0.10%に抑制された。低屈折率層の屈折率n=1.25であった。鉛筆強度は2Hであった。ヘーズは、0.8%と良好であった。
【0086】
[実施例2]
実施例1のゾル(A)1gを攪拌しながら、エタノール10.68gをゆっくり加えた後、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:サイラエースS710、登録商標、チッソ株式会社製、)0.15g、イルガキュア369(登録商標、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)15mg、1.64%硝酸水溶液を70mgを添加して、塗布組成物(C)を得た。
次に、塗布組成物(C)を用いて、実施例1と同様にして透明プラスチック基板上に塗布を行い、続いて熱風循環乾燥機にて、120℃、2分間の乾燥を行った。次いで、実施例1の紫外線硬化装置を用いて、出力160W、コンベア速度4.6m/分、光源距離10mmにて紫外線照射(紫外線照射積算光量360mJ/cm^(2))を行って、繊維状無機微粒子からなる低屈折率層と透明プラスチック基板により構成される積層体を得た。該積層体は、波長550nmにて最小反射率を示し、0.10%であった。低屈折率層の屈折率n=1.25であった。鉛筆強度はHであった。ヘーズは、0.7%と良好であった。
【0087】
[実施例3]
実施例1のゾル(A)1gを攪拌しながら、エタノール10.68gをゆっくり加えた後、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン((商品名:サイラエースS710、登録商標、チッソ株式会社製)0.05g、イルガキュア369(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、登録商標)5.0mg、アクリル系紫外線硬化樹脂(商標、サンラッドRC-600、三洋化成工業株式会社製、固形分100重量%)0.10g、1.64%硝酸水溶液を23mgを添加して、塗布組成物(D)を得た。
次に、塗布組成物(D)を用いて、実施例2と同様の方法で、繊維状無機微粒子からなる低屈折率層と透明プラスチック基板により構成される積層体を得た。該積層体は、波長550nmにて最小反射率を示し、0.20%であった。低屈折率層の屈折率n=1.27であった。鉛筆強度はHであった。ヘーズは、0.8%と良好であった。」

第4 対比・判断
1 本願発明について
(1)本願発明と引用発明1-1との対比
本願発明と引用発明1-1とを対比すると、以下のとおりとなる。
ア ポリマー結合剤
引用発明1-1の「バインダー成分」は、「ペンタエリスリトールトリアクリレート等の電離放射線硬化型樹脂である」。
ここで、「バインダー」は、その語義から、「結合剤」ということができる。また、引用発明1-1の「バインダー」は、その成分からみて、「樹脂」すなわち「ポリマー」といえる。
そうしてみると、引用発明1-1の「バインダー」は、本願発明の「ポリマー結合剤」に該当する。

イ 光学拡散体層
引用発明1-1の「表面凹凸層」においては、「表面凹凸層の凹凸形状の凸部の膜厚は、前記透光性微粒子の短径+5μm以下」であり、当該「凸部と凹部の膜厚差は5μm以下、且つ、隣接する凹部間の距離は3μm以上50μm以下であ」る。
上記形状及び光学に関する技術知識に照らしてみると、引用発明1-1の「表面凹凸層」は、「画像表示装置」からの光の一部を拡散する光学的機能を具備していることは明らかである。
(当合議体注:「防眩層」それ自体は、外部光の反射による眩しさを防止するための層である(引用例1の【0003】)が、技術的には、上記のとおり理解することができる。)
したがって、引用発明1-1の「表面凹凸層」は、その光学的機能からみて、本願発明の「光学拡散体層」に該当するといえる。

ウ ヘーズ生成粒子
引用発明1-1の「表面凹凸層」は、「長径が1.0μm以上20μm以下、短径が0.5μm以上10μm以下であり、当該長径/短径の比(アスペクト比)が1.0より大きく5.0以下である扁平状の透光性微粒子を含有」し、前記イで述べた凹凸形状を具備する。また、「表面凹凸層は、必須成分として、扁平状の透光性微粒子及びバインダー成分を含み、必要に応じて適宜、その他の防眩性微粒子、重合開始剤、溶剤等を混合し分散処理することにより調整された、表面凹凸層形成用組成物を硬化させて得られ」たものである。
上記の製造工程からみて、引用発明1-1の「凹凸形状」は、引用発明1-1の「バインダー」に分散された複数の「透光性微粒子」の形状によってもたらされたものである。そして、引用発明1-1の「凹凸形状」により多少なりとも「表面ヘーズ」が発生することは、技術的にみて明らかである(引用例1の【0012】の記載からも、確認できる事項である。なお、透光性微粒子とバインダーの屈折率は通常、一致しないから、内部ヘーズも発生すると推認される。)。
したがって、引用発明1-1の「扁平状の透光性微粒子」は、その光学的機能からみて、本願発明の「ヘーズ生成粒子」に相当する。
そして、上記の点及び上記ア?イを総合すれば、引用発明1-1における「扁平状の透光性微粒子を含有」する「表面凹凸層」と、本願発明の「光学拡散体層」は、「ポリマー結合剤中に分散された複数のヘーズ生成粒子とを含」む「光学拡散体層」の点で共通する。

エ 一致点及び相違点
上記ア?ウによれば、本願発明と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。
(一致点)
「光学拡散体層であって、
ポリマー結合剤と、
前記ポリマー結合剤中に分散された複数のヘーズ生成粒子と
を含む、
光学拡散体層。」

(相違点1)
「光学拡散体層」が、本願発明は、「前記ポリマー結合剤中に分散された複数の金属酸化物粒子」及び「複数の相互接続された空隙」を含み、「1.3以下の有効屈折率を有し」、かつ、「前記複数の金属酸化物粒子が500ナノメートル以下の平均の横方向寸法を有する」のに対して、引用発明1-1は、このように特定されたものではない点。

(相違点2)
「複数のヘーズ生成粒子」の「平均の横方向寸法」が、本願発明では、「1マイクロメートル?10マイクロメートルの範囲」であるのに対して、引用発明1-1では、そのような範囲で特定されたものではない点。

(2)引用発明1-1を主引用発明とした場合の進歩性の判断
事案に鑑み、上記相違点1について検討する。
ア 引用例1の【0020】の記載によれば、引用発明1-1に接した当業者は、防眩フィルムの可視光領域における反射率をさらに抑制して、十分な視認性を得ることを課題として認識するものである。さらに、当該課題を解決する手段として、引用例1の【0159】、【0172】、【0175】?【0176】には、シリカからなる中空粒子を表面凹凸層の添加剤(低屈折率剤)として採用し、当該表面凹凸層を最外層とすることが示唆されている。

イ また、引用例6?8に記載されているように、(ア)平均粒子径がナノメートルサイズのシリカ等の微粒子を含有し、複数の相互接続された空隙を有する網目構造からなる低屈折率膜が、反射防止効果を高めて、視認性を向上する機能を有すること、(イ)上記網目構造を採用することにより、低屈折率膜の屈折率を1.30未満に調整できること(引用例7の【0079】及び引用例8の【0052】参照。)は、いずれも本願の優先日前において当業者に周知の技術(以下「周知技術1」という。)であったと認められる。
加えて、反射防止膜の性質として、外界(屈折率1.0)及び透明基材フィルム(例:屈折率1.5)に接する層(防眩層)の屈折率が、両者の屈折率の相乗平均に近い(例:屈折率1.22)ほど、表面反射率が抑制されることは技術常識の範疇である。

ウ 以上を踏まえて、引用発明1-1において、当業者が上記相違点1に係る構成を、本願の優先日前に容易に発明をすることができたものであるか、以下検討する。

エ 当審は、以下に示すとおり、上記アの示唆及び周知技術1並びに技術常識を踏まえても、本願発明が引用発明1-1から容易に発明をすることができたとはいえないと判断する。


(ア) 引用例1には、引用発明1-1の「表面凹凸層」の光学へーズを「少なくとも40%」にすることについて、記載がなく、示唆もない。

(イ) また、引用発明1-1の発明が解決しようとする課題は、「防眩層が、防眩層表面の凹凸形状の形成による明所コントラスト向上の機能の他に、ギラツキ防止等のその他の機能を効果的に併せ持つことが可能な防眩フィルムを提供すること」(【0009】)にあるといえる。そして、このような課題に接した当業者は、明所コントラストの改善や、ギラツキ防止に関心を寄せるとしても、光学ヘーズを「少なくとも40%」という程度にまで高くすることに関心を寄せるとはいえない。また、本件優先日前の当業者の技術常識によると、「画像表示装置の前面に設置し、外光の反射を防止し、映像を見えやすくする目的等で使用される、防眩フィルム」の光学ヘーズを「少なくとも40%」という程度にまで高めることは、一般的なものではない。
そうしてみると、引用発明1-1の発明が解決しようとする課題や、防眩フィルムに一般的に求められる性能を勘案したとしても、引用発明1-1の「表面凹凸層」の光学ヘーズを「少なくとも40%」とする動機付けがあるとはいえない。

(ウ) ところで、表面凹凸層への添加剤の一例である帯電防止剤について、引用例1には、「導電性微粒子の平均粒径は、0.1nm?0.1μmであることが好ましい。斯かる範囲内であることにより、前記導電性微粒子をバインダーに分散した際、ヘイズがほとんどなく、全光線透過率が良好な高透明な膜を形成可能な組成物が得られる。」(【0174】)と記載されている。当該記載は、低屈折率剤の平均粒径に直接言及したものではないものの、「ヘイズがほとんどなく」という条件が、添加剤の平均粒径を選択する際の目安になることを示していると理解される。そして、このような理解は、「ディスプレイ(画像表示装置)の前面に設置し、外光の反射を防止し、映像を見えやすくする目的等で使用される」、引用発明1-1の「防眩フィルム」に要求される一般的な光学特性、すなわち、映像を見えやすくする特性(視認性)、高透明性等に照らしても妥当といえる(引用例1の【0001】及び【0174】等を参照。)。
さらに、周知技術1を開示する引用例6?8のいずれの文献にも、ヘーズ値が上昇すると、高い透光性が得られなくなること、透視像の解像度が低下しやすくなり、視認性が低下する等の好ましくない事態を招来することが記載されている。したがって、当業者は、引用発明1-1において、周知技術1をそのまま採用することは想定し難いと考えられる。
また、仮に引用発明1-1において周知技術1を採用する当業者を想定した場合であっても、引用発明1-1の「表面凹凸層」の光学ヘーズを「少なくとも40%」とする構成には到らないと考えれる。

(エ) また、引用例1の【0011】には、「従来の防眩フィルムでは、凹凸形状の形成と内部散乱の発生という二つの役割を一層において、球状の内部散乱粒子で行っていたため、層表面の凹凸形状のピッチが短くなり、明所コントラストが低く、層の膜厚も厚くなってしまっていた。」と記載されている。また、発明の効果に関して、引用例1の【0022】には、「本発明に係る防眩フィルムは、扁平状の透光性微粒子を含有する表面凹凸層を含む防眩層を有する。当該表面凹凸層は前記透光性微粒子の扁平状の形状に沿って形成されるため、当該表面凹凸層の凹凸形状のピッチが長くなり、明所コントラストを向上させながら、表面凹凸層の薄膜化が可能となる。また、当該表面凹凸層の薄膜化により、当該表面凹凸層の透明基材フィルム側に内部散乱層、ハードコート層等の他の機能を有する層の形成が可能な防眩フィルムを提供することができる。」と記載されている。
上記【0011】の記載からみて、引用発明1-1の「表面凹凸層」に、凹凸形状の形成に加えて、内部散乱の発生という役割を担わせることには、阻害要因がある。また、仮に引用発明1-1の防眩フィルムにおいて、内部散乱の発生を望むのであれば、上記【0022】の記載(特に、下線部を参照。)に接した当業者ならば、「表面凹凸層」ではなく、透明基材フィルム側の「内部散乱層」に光学ヘーズを持たせるように設計すると考えられることから、この点において、本願発明の構成には到らないといえる。

カ 以上ア?オによれば、引用発明1-1において、表面凹凸層の「光学ヘーズ」が「少なくとも40%」となるように選択することは、引用発明1-1の防眩フィルムに要求される光学特性(上記オ(ウ)の下線部を参照。)に反することとなるため、容易に発明をすることができたとは言い難い。

キ 以上ア?カを総合すると、本願発明は、当業者であっても引用発明1-1及び引用例6?8に記載された周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ク そして、相違点1について、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことは上記のとおりである。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本願発明は、当業者であっても引用発明1-1及び引用例6?8に記載された周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本願発明と引用発明1-2の対比
本願発明と引用発明1-2との相違点は、本願発明と引用発明1-1の相違点と同一である。

(4)引用発明1-2を主引用発明とした場合の進歩性の判断
相違点についての判断は、引用発明1-1を主引用発明とした場合の判断と同様である。(上記(2)を参照。)
したがって、本願発明は、当業者であっても引用発明1-2及び引用例6?8に記載された周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 原査定について
1 原査定の概要
原査定は、平成29年10月6日付け誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項3に係る発明は、以下の引用文献1?5に記載された発明、並びに、引用文献6?9に記載された周知の技術に基づいて、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであって、その概略は以下の(1)及び(2)のものである。
(当合議体注:引用文献1及び6?8は、「第3 引用例、引用発明等」における、「引用例1」及び「引用例6?8」とそれぞれ同一の文献である。)

(1)引用例1を主引用文献とした拒絶の理由の概要
引用例1に記載された、表面凹凸層を含む防眩層を設けた防眩フィルムの発明において、引用例の【0175】等の記載にしたがって、さらに反射率を低くするために、引用例6?8に例示される周知技術(反射を低減させるものにおいて、ナノメートルサイズの金属酸化物粒子(シリカ等)を含有させて相互接続された網目状の空隙を有する構造を採用すること)を採用して、前記表面凹凸層の有効屈折率を「1.3未満」とすることは当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)引用例2?5のうちいずれか1つの文献を主引用文献とした拒絶の理由の概要
引用文献9等に例示されるように、光学フィルムの技術分野において、1つの層に複数の機能を兼用させることは周知技術であるから、引用例2?5のうちいずれかの1つの文献に記載された、ハードコート層(または光拡散層)及び低屈折率層を有する防眩性反射防止フィルムの発明において、ハードコート層(または光拡散層)に低屈折率層の機能を付与すべく、引用例6?8に例示される周知技術(反射を低減させるものにおいて、ナノメートルサイズの金属酸化物粒子(シリカ等)を含有させて相互接続された網目状の空隙を有する構造を採用すること)を採用して、前記ハードコート層(または光拡散層)と低屈折率層とを1つの層となし、当該1つの層の有効屈折率を「1.3未満」とすることは当業者が容易に発明をすることができたものである。

引用文献等一覧

1.特開2009-80256号公報
2.特開2009-47938号公報(以下「引用例2」という。)
3.特開2007-41547号公報(以下「引用例3」という。)
4.特開2010-134002号公報(以下「引用例4」という。)
5.特開2010-231117号公報(以下「引用例5」という。)
6.特開2010-79053号公報
7.特開2007-284622号公報
8.特開2005-352121号公報
9.特開2008-122837号公報

2 原査定についての判断
審判請求時の本件補正により、補正前の請求項1に「前記光学拡散体層が少なくとも40%の光学ヘーズを有し」という技術事項が追加されるとともに、補正前の請求項2?3が削除された。
したがって、以下では本件補正後の請求項1に係る発明について、原査定の理由が維持できるか否かについて検討する。

(1)引用例1を主引用文献とした拒絶の理由について
上記のとおり、本件補正により光学ヘーズの下限値についての数値限定が付加されたことから、本拒絶の理由が維持できないことは、上記「第4 対比・判断」で説示したとおりである。

(2)引用例2?5のうちいずれか1つの文献を主引用文献とした拒絶の理由について
引用文献9等に例示される周知技術を知得し、引用例1の【0176】の記載に接した当業者が、引用例2?5のうちのいずれか1つの文献に記載された発明(上記「第5 1(2)」の下線部を参照。)において、ハードコート層(または光拡散層)に低屈折率層の機能を付与して1つの層とすることを検討することまではいえたとしても、その検討過程において、引用例2の【0007】、【0014】、【0021】、【0030】?【0031】、引用例3の【0110】、引用例4の【0216】及び引用例5の【0012】の各記載に接した当業者が、当該1つの層の光学ヘーズを「少なくとも40%」となるように設計することは想定し難いことである。
したがって、本件補正によって、本拒絶の理由は解消された。

(3)小括
以上(1)及び(2)のとおり、本願発明は、当業者が、引用文献1に記載された発明、あるいは、引用文献2?5のうちのいずれか1つの文献に記載された発明及び引用文献6?9に記載された周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。
よって、原査定の理由を維持することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-23 
出願番号 特願2016-214465(P2016-214465)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 里村 利光
河原 正
発明の名称 相互接続された空隙を有する低屈折率拡散体要素  
代理人 青木 篤  
代理人 河原 肇  
代理人 加藤 憲一  
代理人 高橋 正俊  
代理人 三橋 真二  
代理人 胡田 尚則  

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