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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60N |
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管理番号 | 1355850 |
審判番号 | 不服2019-793 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-01-22 |
確定日 | 2019-10-30 |
事件の表示 | 特願2014-214849号「車両用シート」拒絶査定不服審判事件〔平成28年5月12日出願公開、特開2016-74398号、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年10月2日の出願であって、平成30年8月3日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月3日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月15日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、平成31年1月22日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献1及び2に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 引用文献1:特開昭61-37118号公報 引用文献2:特開平2-37052号公報 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正(平成31年1月22日付けの手続補正)は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 審判請求時の補正によって、請求項1の「リンク部材」に関して、「平板状の」リンク部材、「前後の」リンク部材は、下端が前記基体「の内側面」に軸着される、及び、「前後のリンク部材は、前記パン型クッションフレームの側面部と基体内側面との間に挟まれて配置され、リンク部材の一面が前記パン型クッションフレームの側面部に、リンク部材の他面が基体内側面にそれぞれ摺接可能に構成される傾斜して軸着される」という事項を追加する補正、並びに、請求項1に他の事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、当該事項は、願書に最初に添付した明細書(段落【0014】、【0017】及び図3等)に記載された事項であり、新規事項を追加するものではない。 そして、以下の「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1に係る発明は独立特許要件を満たすものである。 第4 本願発明 本願請求項1に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」という。)は、平成31年1月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 車床側の基体に対して昇降可能なシートクッションを備えた車両用シートにおいて、 前記シートクッションは、パッドを保持する底部と、この底部から連なる側面部とを形成するパン型クッションフレームを有し、 前記パン型クッションフレームの側面部と前記基体との前後をそれぞれ平板状のリンク部材により連結するとともに、 前記基体は、前記パン型クッションフレームの側面部に沿って平行に配設され、 前後のリンク部材は、上端が前記パン型クッションフレームの側面部に、傾斜して直交方向に軸着されて直接連結され、下端が前記基体の内側面に、傾斜して軸着されるとともに、 前後のリンク部材は、前記パン型クッションフレームの側面部と基体内側面との間に挟まれて配置され、リンク部材の一面が前記パン型クッションフレームの側面部に、リンク部材の他面が基体内側面にそれぞれ摺接可能に構成されることを特徴とする車両用シート。」 第5 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について (1)引用文献1に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審が付した。以下同様である。なお、「ブラケツト」を「ブラケット」と記載するように、音読みのとおり、大文字を小文字に修正したものを以下の摘記とする。)。 (1a) 「特許請求の範囲 前後方向に延長するブラケットの前部及び後部に、前部支点及び後部支点をそれぞれ中心として回動できる前部回動アーム及び後部回動アームを取付け、それぞれの回動アームの遊端を前部枢支点及び後部枢支点としてこれら各枢支点をクッションフレームの前部及び後部にそれぞれ枢支すると共に、前部枢支点を前部支点より上方位置に選定し、後部枢支点を後部支点より下方位置に選定したことを特徴とするスイングクッションシート。」(1ページ左下欄3?12行) (1b) 「発明の目的 本発明は、上述した点に鑑み、比較的簡単な構成で長身者(足の長い人)及び短身者(足の短かい人)にそれぞれ適用できるシートを提供したものである。 発明の概要 本発明は前後方向に延長するブラケットの前部及び後部に、前部支点及び後部支点をそれぞれ中心として回動できる前部回動アーム及び後部回動アームを取付け、それぞれの回動アームの遊端を前部枢支点及び後部枢支点としてこれら各枢支点をクッションフレームの前部及び後部にそれぞれ枢支すると共に、前部枢支点を前部支点より上方位置に選定し、後部枢支点を後部支点より下方位置に選定したものであって、シートクッションを前方に移動させることにより、シートクッションの後部を下げ、いわゆるヒップポイントを降下させて長身者に好適となし、シートクッションを後方に移動させることにより、ヒップポイントを上げ、短身者に好適なようにしたものである。」(1ページ右下欄10行?2ページ左上欄9行) (1c) 「実施例 以下、図面について本発明によるシートの一例を説明するに、本例は左右ほゞ対称に形成されるので、その一方について説明し、他方には対応部分に同一符号を附して示す。 (1)はガイドレール装置であって、前後方向に延長し、その上に同様に前後方向に延長してブラケット(2)が取付けられており、操作レバー(3)によってロックを解除した状態で、ブラケット(2)が前後動可能となり、任意の位置で操作レバー(3)より手を離すことによって再度その位置にブラケット(2)がロックされるようになされている。かかる手段は周知であるから、その詳細な説明を省略する。 このブラケット(2)の前後において、それぞれ前部及び後部の支点即ち軸(4)及び(5)により前部回動アーム(6)及び後部回動アーム(7)が回動可能に取付けられている。この場合、前部回動アーム(6)の軸(4)は左右のブラケット(2)間に差渡された共通軸(前側リンク)に構成され、左右の前部回動アーム(6)は、この共通軸(4)に対して回転的に一体となされている。尚左右の後部回動アーム(7)の遊端間は、ロッド(8)により互に連結されている。」(2ページ左上欄10行?同ページ右上欄11行) (1d) 「前部回動アーム(6)の遊端には前部枢支点としての軸(9)が突出され、後部回動アーム(7)の遊端附近には更に取付けブラケット(10)が軸(11)により自由に回動できるように取付けられており、且つ全体としてL字状に折曲げられている。そしてこの取付けブラケット(10)にはピン(12)が形成されている。 (13)はクッションフレームであって、着座した人のヒップの形状にほゞ沿うように後部が前部より低く落ち込んだ形状に形成されている。そしてこのクッションフレーム(13)の側面の前部と後部とにおいて、それぞれ前部及び後部の支持片(14)及び(15)が取付けられ、共に透孔(16)及び(17)が形成されている。そして前部回動アーム(6)の軸(9)が支持片(14)の透孔(16)内に、取付けブラケット(10)のピン(12)が支持片(15)の透孔(17)にそれぞれ係合されている。 更に第2図より明らかなように、前部枢支点即ち軸(9)を、前部支点即ち軸(4)より上方にして且つ後方に位置するように選定したとき、後部枢支点即ち軸(11)が、後部支点即ち軸(5)より下方にして且つ後方に位置するように選定される。」(2ページ右上欄12行?同ページ左下欄11行) (2)引用文献1に記載された発明 ア 車両の座席シートにおいて、シートクッションの下方部分にフレームが存在することは技術常識であり、第1図の記載をこの技術常識に照らすと、摘記(1a)の「クッションフレーム」は、「シートクッションの」「クッションフレーム13」であると認められる。 イ 摘記(1d)の「(13)はクッションフレームであって、着座した人のヒップの形状にほゞ沿うように後部が前部より低く落ち込んだ形状に形成されている。そしてこのクッションフレーム(13)の側面の前部と後部とにおいて、それぞれ前部及び後部の支持片(14)及び(15)が取付けられ、」という記載と、第1図を参照すると、摘記(1a)の「各枢支点を」「クッションフレームの前部及び後部にそれぞれ枢支する」という構成は、実質的には、「各枢支点9、11を」、着座した人のヒップの形状にほゞ沿うように後部が前部より低く落ち込んだ形状に形成されている、クッションフレーム13の側面の前部と後部とにおいて、それぞれ取付けられた支持片14及び支持片15を介して、「クッションフレーム13の前部及び後部にそれぞれ枢支する」という構成であることが明らかである。 ウ 上記ア、イ及び摘記(1a)?(1d)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 [引用発明] 「前後方向に延長するブラケット2の前部及び後部に、前部支点4及び後部支点5をそれぞれ中心として回動できる前部回動アーム6及び後部回動アーム7を取付け、 それぞれの回動アーム6、7の遊端を前部枢支点9及び後部枢支点11としてこれら各枢支点9、11を、 着座した人のヒップの形状にほゞ沿うように後部が前部より低く落ち込んだ形状に形成されている、シートクッションのクッションフレーム13の側面の前部と後部とにおいて、それぞれ取付けられた支持片14及び支持片15を介して、 クッションフレーム13の前部及び後部にそれぞれ枢支すると共に、前部枢支点9を前部支点4より上方位置に選定し、後部枢支点11を後部支点5より下方位置に選定した、 シートクッションを前方に移動させることにより、シートクッションの後部を下げ、ヒップポイントを降下させて長身者に好適となし、シートクッションを後方に移動させることにより、ヒップポイントを上げ、短身者に好適なようにしたものである、 スイングクッションシート。」 2 引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。 (2a) 「(発明が解決しようとする課題) 前記公知例は、内歯環状板と移動部材側の外歯調節輪との咬み合いのため、製造は面倒であるばかりでなく、高価となり、また、ガタ付があった。 本願は、製造容易、安価かつガタの発生しない無段階調節装置を工夫したものである。 (課題を解決するための手段) よって本発明は、・・・座席シート1を前後移動させるスライドレール5側に固定案内横筒11を固着し、該固定案内横筒11内には前記座席シート1のフレーム2側に取付けた回転横筒14を挿入し、該回転横筒14に回動アーム23の下端部を固定し、該回動アーム23の上端部に前記座席シート1のフレーム2を軸着し、前記固定案内横筒11の内周面には母線方向の案内溝12を形成し、前記回転横筒14の外周面には傾斜カム長孔15を形成し、該傾斜カム長孔15には先端が前記案内溝12に係合する係合突起20を挿通させ、該係合突起20には該係合突起20を横移動させうる操作部材を設けた車両用シートの高さ無段階調節装置、および、・・・座席シート1を前後移動させるスライドレール5側に固定案内横筒11’を固着し、該固定案内横筒11’内には座席シート1のフレーム2側に取付けた回転横筒14’を挿入し、該回転横筒14’に回動アーム23の下端部を固定し、該回動アーム23の上端部に前記座席シート1のフレーム2を軸着し、前記回転横筒14’の外周には母線方向の案内孔12’を形成し、前記固定案内横筒11’の外周面には傾斜カム長孔15’を形成し、前記傾斜カム長孔15’には先端が前記案内孔12’より突出する係合突起20’を挿通させ、該係合突起20’には該係合突起20’を横移動させうる操作部材を設けた車両用シートの高さ無段階調節装置としたものである。」(2ページ左上欄1行?同ページ右上欄15行) (2b) 「(実施例) 本発明の一実施例を図により説明すると、1は座席シート、2は前記座席シート1の箱フレームであり、該箱フレーム2の上面にクッション部材3を載置し、該クッション部材3の表面を表皮部材4により包囲する。 5は車体側に取付けた一対のスライドレールであり、前記座席シート1を車体に対して前後移動調節自在に取付ける。 前記各スライドレール5の前側には、それぞれ一対の取付板6の下部を固着する。各取付板6には一対の前側回動アーム7の基部を軸8によりそれぞれ軸着する。前記各前側回動アーム7の先端部は、前記箱フレーム2の前側下面に設けた一対の取付部9に軸10によりそれぞれ軸着する。 前記左右いずれか一方のスライドレール5の後端部には、後側回動アーム26の基部を軸27により軸着し、後側回動アーム26の先端を前記座席シート1の箱フレーム2に軸28により軸着する。他方のスライドレール5の後端部には左右方向の固定案内横筒11の下面を固着する。」(2ページ右上欄16行?同ページ左下欄17行) (2c) 「したがって、前記箱フレーム2と前記前側回動アーム7と後側回動アーム23とスライドレール5とにより平行リンクが形成され、前記後側回動アーム23が回動すると、座席シート1はスライドレール5に対して上下動する。 29は前側回動アーム7と前側回動アーム7の中間部に両端を固着した左右支持杆、30は後側回動アーム23と後側回動アーム26の中間部に両端を固着した左右支持杆である。」(3ページ左上欄18行?同ページ右上欄6行) 第6 対比・判断 1 対比 (1) ア 引用発明の「前後方向に延長するブラケット2」、「シートクッション」及び「スイングクッションシート」は、それぞれ、本願発明1の「車床側の基体」、「シートクッション」及び「車両用シート」に相当する。 イ 引用発明は、「回動できる前部回動アーム6及び後部回動アーム7」の構成により、「前後方向に延長するブラケット2」に対して、「シートクッションのクッションフレーム13」が移動するといえるから、「前後方向に延長するブラケット2」に対して、「シートクッション」も移動することが明らかである。 引用発明の「シートクッションを後方に移動させることにより、ヒップポイントを上げ」る構成、及び、「シートクッションを前方に移動させることにより、シートクッションの後部を下げ」る構成は、本願発明1の「昇降可能」な構成に相当する。 これらのことと、上記アを踏まえると、引用発明の「シートクッションを前方に移動させることにより、シートクッションの後部を下げ、ヒップポイントを降下させて長身者に好適となし、シートクッションを後方に移動させることにより、ヒップポイントを上げ、短身者に好適なようにしたものである、スイングクツシヨンシート」は、本願発明1の「車床側の基体に対して昇降可能なシートクッションを備えた車両用シート」に相当する。 (2) クッションフレームがパッドを保持することは技術常識であるところ、引用発明の「クッションフレーム13」は、「着座した人のヒップの形状にほゞ沿うように後部が前部より低く落ち込んだ形状に形成されている」構造となっているから、「クッションフレーム13」の「低く落ち込んだ形状」となっている底部によってパッドを保持することが明らかであり、「着座した人のヒップの形状にほゞ沿うように」、パン型すなわちフライパンのような平なべ型となっていることも明らかである。 このことと、上記(1)アを踏まえると、引用発明の「側面」を備え「着座した人のヒップの形状にほゞ沿うように後部が前部より低く落ち込んだ形状に形成されている、シートクッションのクッションフレーム13」の構成は、本願発明1の「前記シートクッションは、パッドを保持する底部と、この底部から連なる側面部とを形成するパン型クッションフレームを有」する構成に相当する。 (3) 上記(1)及び(2)から、 引用発明の「前後方向に延長するブラケット2の前部及び後部に、前部支点4及び後部支点5をそれぞれ中心として回動できる前部回動アーム6及び後部回動アーム7を取付け、 それぞれの回動アーム6、7の遊端を前部枢支点9及び後部枢支点11としてこれら各枢支点9、11を、 着座した人のヒップの形状にほゞ沿うように後部が前部より低く落ち込んだ形状に形成されている、シートクッションのクッションフレーム13の側面の前部と後部とにおいて、それぞれ取付けられた支持片14及び支持片15を介して、 クッションフレーム13の前部及び後部にそれぞれ枢支すると共に、前部枢支点9を前部支点4より上方位置に選定し、後部枢支点11を後部支点5より下方位置に選定した」構成と、 本願発明1の「前記シートクッションは、パッドを保持する底部と、この底部から連なる側面部とを形成するパン型クッションフレームを有し、 前記パン型クッションフレームの側面部と前記基体との前後をそれぞれ平板状のリンク部材により連結する」構成とは、 「前記シートクッションは、パッドを保持する底部と、この底部から連なる側面部とを形成するパン型クッションフレームを有し、 前記パン型クッションフレームの側面部と前記基体との前後をそれぞれリンク部材により連結する」構成の限りで共通している。 以上から、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「車床側の基体に対して昇降可能なシートクッションを備えた車両用シートにおいて、 前記シートクッションは、パッドを保持する底部と、この底部から連なる側面部とを形成するパン型クッションフレームを有し、 前記パン型クッションフレームの側面部と前記基体との前後をそれぞれリンク部材により連結する 車両用シート。」 <相違点1> 「前後」の「リンク部材」に関して、本願発明1は、「平板状の」リンク部材であり、前後のリンク部材は、「上端が前記パン型クッションフレームの側面部に、傾斜して直交方向に軸着されて直接連結され、下端が前記基体の内側面に、傾斜して軸着されるとともに、」「前記パン型クッションフレームの側面部と基体内側面との間に挟まれて配置され、リンク部材の一面が前記パン型クッションフレームの側面部に、リンク部材の他面が基体内側面にそれぞれ摺接可能に構成される」のに対して、引用発明は、「前後方向に延長するブラケット2の前部及び後部に、前部支点4及び後部支点5をそれぞれ中心として回動できる前部回動アーム6及び後部回動アーム7を取付け、それぞれの回動アーム6、7の遊端を前部枢支点9及び後部枢支点11としてこれら各枢支点9、11を」、「シートクッションのクッションフレーム13の側面の前部と後部とにおいて、それぞれ取付けられた支持片14及び支持片15を介して」、「クッションフレーム13の前部及び後部にそれぞれ枢支すると共に、前部枢支点9を前部支点4より上方位置に選定し、後部枢支点11を後部支点5より下方位置に選定し」て構成される点。 <相違点2> 本願発明1は、「前記基体は、前記パン型クッションフレームの側面部に沿って平行に配設され」ているのに対して、引用発明はそのように特定されていない点。 2 相違点についての判断 相違点1について検討する。 (1) 引用発明は、「回動アーム6、7」の「各枢支点9、11」を、「支持片14及び支持片15を介して」、「クッションフレーム13の前部及び後部にそれぞれ枢支する」構成を備えているから、上記相違点1のとおり、本願発明1の「前後のリンク部材は、上端が前記パン型クッションフレームの側面部に」「直交方向に軸着されて直接連結され」る構成を備えていない。 さらに、引用発明は、「後部枢支点11を後部支点5より下方位置に選定した」構成、すなわち、「後部回動アーム7」の上端が「ブラケット2」に枢支され下端側が「クッションフレーム13」側に枢支される構成(第2図も参照)を備え、その構成によって、「シートクッションを前方に移動させることにより、シートクッションの後部を下げ、ヒップポイントを降下させて長身者に好適となし、シートクッションを後方に移動させることにより、ヒップポイントを上げ、短身者に好適なようにしたものである、スイングクツシヨンシート」の構成(以下「構成A」という。)が得られているものである。 したがって、引用発明において、「クッションフレーム13」や「ブラケット2」に対して、「後部回動アーム7」の枢支の位置を変更し、本願発明1の「前後のリンク部材は、上端が前記パン型クッションフレームの側面部に」「直交方向に軸着されて直接連結され」る構成を採用すると、上記構成Aと矛盾することになるから、そのような構成を採用することには、阻害要因があるといえる。 (2) 引用文献2には、「前記各前側回動アーム7の先端部は、前記箱フレーム2の前側下面に設けた一対の取付部9に軸10によりそれぞれ軸着する。」(摘記(2b)及び第1図)と記載されているが、引用文献2には、上記相違点1に係る本願発明1の構成に含まれている、「前後のリンク部材は、上端が前記パン型クッションフレームの側面部に」「直交方向に軸着されて直接連結され」る構成は記載されていない。 そして、引用文献2の「座席シート1」の「平行リンク」の構造は、「前側回動アーム7と前側回動アーム7の中間部に両端を固着した左右支持杆」「29」を備えている(摘記(2c)、第1図)ことから、取付部9を介することなく、箱フレーム2の前側の側面に軸10を直接取り付ける構成を採用すると、座席シート1が下降した際に、箱フレーム2の前側の下部と左右支持杆29とが干渉してしまう虞があり、そのような構成を採用することには、阻害要因もあるといえる。 さらに、引用文献2の「座席シート1」は、「平行リンク」によって「スライドレール5に対して上下動する」ものであるから、上記(1)で述べたとおりであって、引用発明に、引用文献2の「平行リンク」の構成を採用することにも阻害要因があるといえる。 また、引用文献2には、「前記左右いずれか一方のスライドレール5の後端部には、後側回動アーム26の基部を軸27により軸着し」ている構成が記載されている(摘記(2b)及び第2図)が、上記相違点1に係る本願発明1の構成に含まれている、「前後のリンク部材」は、「下端が前記基体の内側面」に「軸着される」構成は記載されていない。 (3) さらに、上記相違点1に係る本願発明1の構成に含まれている、「前記パン型クッションフレームの側面部と基体内側面との間に挟まれて配置され、リンク部材の一面が前記パン型クッションフレームの側面部に、リンク部材の他面が基体内側面にそれぞれ摺接可能に構成される」ことは、引用文献1にも引用文献2にも、記載も示唆もされていない。 (4) 上記(1)?(3)のとおりであるから、上記相違点1に係る本願発明1の構成を想到することは、当業者であっても容易になし得たとはいえない。 (5) したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 第7 原査定について 審判請求時の補正により、本願発明1は、上記相違点に係る本願発明1の構成を有するものとなっており、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-10-07 |
出願番号 | 特願2014-214849(P2014-214849) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B60N)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 永安 真 |
特許庁審判長 |
中川 真一 |
特許庁審判官 |
出口 昌哉 島田 信一 |
発明の名称 | 車両用シート |
代理人 | 山田 和明 |