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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1355884
審判番号 不服2018-13456  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-09 
確定日 2019-10-29 
事件の表示 特願2014- 28695「カラーフィルタおよび有機EL表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年8月24日出願公開,特開2015-152858,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2014-28695号(以下「本件出願」という。)は,平成26年2月18日を出願日とする特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成29年11月24日付け:拒絶理由通知書
平成30年 1月19日付け:意見書
平成30年 1月19日付け:手続補正書
平成30年 6月28日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年10月 9日付け:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項6に係る発明は,それぞれ,平成30年1月19日にされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項6に記載された事項によって特定されるとおりの,以下のものである(以下,請求項1に係る発明を,「本願発明」という。)。
「【請求項1】
有機EL表示装置用のカラーフィルタにおいて,
基材と,
複数の開口部を区画するよう前記基材上に設けられたブラックマトリクス層と,
前記基材の法線方向に沿って見た場合に前記開口部と重なるよう設けられた複数色の着色部および透過率調整部と,を備え,
前記透過率調整部の透過スペクトルにおける,波長380?780nmの範囲内での平均透過率が,30?60%の範囲内であり,前記透過率調整部の透過スペクトルにおける,波長400?500nmの範囲内での透過率の最大値をTmax(%)とし,波長600?700nmの範囲内での透過率の最小値をTmin(%)とするとき,TmaxはTminより大きく,かつ{Tmax-Tmin}が5?20%の範囲内であり,
前記透過率調整部の透過スペクトルにおける,波長600?700nmの範囲内での透過率は,長波長側に向かうにつれて単調に減少している,カラーフィルタ。

【請求項2】
有機EL表示装置用のカラーフィルタにおいて,
基材と,
複数の開口部を区画するよう前記基材上に設けられたブラックマトリクス層と,
前記基材の法線方向に沿って見た場合に前記開口部と重なるよう設けられた複数色の着色部および透過率調整部と,を備え,
前記透過率調整部の透過スペクトルにおける,波長380?780nmの範囲内での平均透過率が,30?60%の範囲内であり,前記透過率調整部の透過スペクトルにおける,波長400?500nmの範囲内での透過率の最大値をTmax(%)とし,波長600?700nmの範囲内での透過率の最小値をTmin(%)とするとき,TmaxはTminより大きく,かつ{Tmax-Tmin}が5?20%の範囲内であり,
前記透過率調整部を構成する透過率調整用材料は,窒化チタンを含む着色材を有する,カラーフィルタ。

【請求項3】
前記透過率調整部を構成する透過率調整用材料は,バインダー材を有し,
窒化チタンを含む前記着色材は,前記バインダー材に分散されている,請求項2に記載のカラーフィルタ。

【請求項4】
有機EL素子用基板と,前記有機EL素子用基板上に設けられた有機EL層とを有する有機EL素子と,
前記有機EL素子に対向するよう配置されたカラーフィルタと,を備え,
前記有機EL素子の前記有機EL層は,陽極と,陰極と,陽極と陰極の間に設けられた有機発光層とを有し,
前記カラーフィルタは,基材と,複数の開口部を区画するよう前記基材上に設けられたブラックマトリクス層と,前記基材の法線方向に沿って見た場合に前記開口部と重なるよう設けられた複数色の着色部および透過率調整部と,を有し,
前記透過率調整部の透過スペクトルにおける,波長380?780nmの範囲内での平均透過率が,30?60%の範囲内であり,
前記透過率調整部の透過スペクトルにおける,波長400?500nmの範囲内での透過率の最大値をTmax(%)とし,波長600?700nmの範囲内での透過率の最小値をTmin(%)とするとき,TmaxはTminより大きく,かつ{Tmax-Tmin}が5?20%の範囲内であり,
前記透過率調整部の透過スペクトルにおける,波長600?700nmの範囲内での透過率は,長波長側に向かうにつれて単調に減少している,有機EL表示装置。

【請求項5】
有機EL素子用基板と,前記有機EL素子用基板上に設けられた有機EL層とを有する有機EL素子と,
前記有機EL素子に対向するよう配置されたカラーフィルタと,を備え,
前記有機EL素子の前記有機EL層は,陽極と,陰極と,陽極と陰極の間に設けられた有機発光層とを有し,
前記カラーフィルタは,基材と,複数の開口部を区画するよう前記基材上に設けられたブラックマトリクス層と,前記基材の法線方向に沿って見た場合に前記開口部と重なるよう設けられた複数色の着色部および透過率調整部と,を有し,
前記透過率調整部の透過スペクトルにおける,波長380?780nmの範囲内での平均透過率が,30?60%の範囲内であり,
前記透過率調整部の透過スペクトルにおける,波長400?500nmの範囲内での透過率の最大値をTmax(%)とし,波長600?700nmの範囲内での透過率の最小値をTmin(%)とするとき,TmaxはTminより大きく,かつ{Tmax-Tmin}が5?20%の範囲内であり,
前記透過率調整部を構成する透過率調整用材料は,窒化チタンを含む着色材を有する,
有機EL表示装置。

【請求項6】
前記透過率調整部を構成する透過率調整用材料は,バインダー材を有し,
窒化チタンを含む前記着色材は,前記バインダー材に分散されている,請求項5に記載の有機EL表示装置。」

3 原査定について
原査定の拒絶の理由は,本件出願の請求項1?請求項6に係る発明は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:特開2012-185992号公報
引用文献3:特開2013-164457号公報
引用文献4:「チタンブラック」,[online],掲載日不明,三菱マテリアル電子化成株式会社,インターネット<URL:https://www.mmc-ec.co.jp/biz/titan_black/>
引用文献5:特開2005-99541号公報
(当合議体注:主引用例は引用文献1であり,引用文献3?引用文献5は,周知技術(チタンブラックの透過スペクトル等)を示す文献である。)

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された上記引用文献1は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,引用文献1に付されていた下線は消去し,替わりに,引用発明の認定や判断等に活用した箇所に下線を付した。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL表示装置用のカラーフィルタにおいて,
基材と,
前記基材上に設けられたブラックマトリクス層と,
前記ブラックマトリクス層間に設けられた複数色の着色層および透過率調整部と,を備え,
前記透過率調整部は,少なくとも1色の着色材が分散された感光性樹脂からなることを特徴とするカラーフィルタ。
【請求項2】
前記複数色の着色層は,特定の波長域の光のみを選択的に透過させ,
前記透過率調整部は,可視光域の光を波長域に依らず略均一に透過させることを特徴とする請求項1に記載のカラーフィルタ。
【請求項3】
前記透過率調整部は,黒色着色材が分散された感光性樹脂からなることを特徴とする請求項1または2に記載のカラーフィルタ。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,有機EL表示装置用のカラーフィルタに関する。また本発明は,当該カラーフィルタを備えた有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,平面ディスプレイ等の分野において,陽極と陰極との間に有機発光層を挟持して構成された有機EL層を含む有機EL素子が提案されており,その応用研究が盛んに行われている。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の特許文献7乃至9により提案されている従来の技術においては,外光の反射が防がれる一方で,有機EL素子から発光される光の透過が妨げられてしまうという問題がある。
…(省略)…
【0012】
本発明は,このような課題を効果的に解決し得るカラーフィルタおよび有機EL表示装置を提供することを目的とする。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による有機EL表示装置用の第1のカラーフィルタは,基材と,前記基材上に設けられたブラックマトリクス層と,前記ブラックマトリクス層間に設けられた複数色の着色層および透過率調整部と,を備え,前記透過率調整部は,少なくとも1色の着色材が分散された感光性樹脂からなることを特徴とするカラーフィルタである。
…(省略)…
【発明を実施するための形態】
【0028】
第1の実施の形態
…(省略)…
【0035】
カラーフィルタ
次に,カラーフィルタ10について説明する。図1に示すように,カラーフィルタ10は,観察者側の面11aおよび有機EL素子側の面11bを有する基材11と,基材11上に設けられたブラックマトリクス層12と,ブラックマトリクス層12間に設けられた複数色の着色層13,14,15および透過率調整部16と,を備えている。ブラックマトリクス層12,着色層13,14,15および透過率調整部16は,基材11の有機EL素子側の面11b上に設けられている。
…(省略)…
【0037】
図2Aは,図1の有機EL表示装置50のカラーフィルタ10を矢印IIA-IIA方向から見た図であり,図2Bは,図1の有機EL表示装置50の有機EL素子40を矢印IIB-IIB方向から見た図である。図2Bに示すように,有機EL層44は,各々が有機EL素子40の単位画素に対応する複数の単位有機EL層44aからなっており,各単位有機EL層44aには駆動用配線48が接続されている。また図2Aに示すように,ブラックマトリクス層12はマトリックス状のパターンを有しており,ブラックマトリクス層12によって画定される複数の区画がそれぞれ,有機EL素子40の単位画素に対応している。また,ブラックマトリクス層12によって画定される複数の区画には,着色層13,14,15または透過率調整部16のいずれかが配置されている。
…(省略)…
【0042】
(透過率調整部)
一方,透過率調整部16は,可視光域の光を波長域に依らず略均一に透過させる部分となっている。例えば透過率調整部16は,透過率調整部16に入射した白色光が4500?12000Kの色温度を有する光として出射されるよう構成されている。このような特性を有する透過率調整部16をブラックマトリクス層12間に設けることにより,カラーフィルタ10に着色層13,14,15のみが設けられている場合に比べて,カラーフィルタ10全体としての透過率を向上させることができる。これによって,有機EL素子40の発光強度を過度に高めることなく有機EL表示装置50の輝度を増加させることができる。このことにより,有機EL素子40の素子寿命を長くすることができる。
【0043】
次に,透過率調整部16の構成要素について説明する。本実施の形態において,透過率調整部16は,透光性を有する感光性樹脂中に黒色着色材を分散させることにより構成される着色材含有層17からなっている。
【0044】
透光性を有する感光性樹脂のタイプが特に限られることはなく,ネガ型感光性樹脂およびポジ型感光性樹脂のいずれも用いることができる。
…(省略)…
【0045】
一方,黒色着色材は,着色材含有層17の透過率を調整するために感光性樹脂中に分散される材料である。このような黒色着色材としては,ブラックマトリクス層12の場合と同様にカーボンブラックやチタンブラック等が用いられる。
【0046】
感光性樹脂中の黒色着色材の含有比率は,カラーフィルタ10における所望の透過率や透過スペクトルの形状に応じて適宜設定される。
…(省略)…
【0051】
上述のように,着色材含有層17は,可視光域の光を波長域に依らず略均一に透過させる層となっている。このため輝度調整光L_(out)(A)により,カラーフィルタ10から出射する光の強度を可視光域のほぼ全域にわたって増加させることができ,これによって,有機EL表示装置50の輝度を増加させることができる。なお着色材含有層17の平均透過率は,好ましくは50?70%の範囲内となっており,例えば60%となっている。ここで「平均透過率」とは,対象となる要素の透過スペクトルを可視光域全域にわたって平均することにより得られる値である。例えば着色材含有層17の平均透過率とは,図3に示すような着色材含有層17の透過スペクトルS_(A)を可視光域全域にわたって平均することにより得られる値である。実施例において後述する平均反射率についても同様である。
…(省略)…
【実施例】
【0084】
…(省略)…
【0090】
(実施例1)
被測定層53として,透光性を有する感光性樹脂中に着色材を分散させることにより構成される着色材含有層17からなる透過率調整部16を準備した。着色材含有層17の材料としては,適切な溶媒と,着色材を含む固形分とからなる感光性樹脂を用いた。着色材含有層17全体に対する固形分の重量%は20.1%となっており,また固形分に対する着色材の比率は1.7%となっていた。着色材としては,黒色着色材(Carbon BK)を用いた。
【0091】
上述の予備評価の場合と同様にして,可視光域における透過率調整部16の透過スペクトルおよび反射スペクトルを測定した。結果を図14に示す。併せて,透過光の輝度および色温度と,反射光の輝度とを測定した。
…(省略)…
【0094】
(実施例3)
被測定層53として,透光性を有する感光性樹脂中に複数色の着色材を分散させることにより構成される着色材含有層17からなる透過率調整部16を準備した。着色材含有層17の材料としては,適切な溶媒と,複数色の着色材を含む固形分とからなる感光性樹脂を用いた。着色材含有層17全体に対する固形分の重量%は20.2%となっており,また固形分に対する複数色の着色材の比率は2.52%となっていた。複数色の着色材における,各色の着色材の内訳は,黒色着色材(Carbon BK)(67%),B15:6(25%),Y150(8%)となっていた。なお本実施例においても,上述の実施例2の場合と同様に,透過率調整部16の透過光の色温度が約6500Kとなることを目標として,複数色の着色材における各色の着色材の比率を選択した。
【0095】
可視光域における透過率調整部16の透過スペクトルおよび反射スペクトルを測定した。結果を図16に示す。併せて,透過光の輝度および色温度と,反射光の輝度とを測定した。」

エ 図1


オ 図2A及び図2B
図2A:


図2B:


カ 図3


キ 図14


ク 図16


(2) 引用発明
ア 引用発明
引用文献1の【0001】,【0035】及び【図1】からは,カラーフィルタ10の全体構成が理解され,【0037】及び【0042】?【0046】からは,それぞれ,ブラックマトリクス層12及び透過率調整部16の構成が理解され,また,【0051】からは,着色剤含有層17の好ましい平均透過率が理解される。
そうしてみると,引用文献1には,次の「カラーフィルタ10」の発明を把握することができる(以下「引用発明」という。)。
「 基材11と,基材11上に設けられたブラックマトリクス層12と,ブラックマトリクス層12間に設けられた複数色の着色層13,14,15及び透過率調整部16とを備えた有機EL表示装置用のカラーフィルタ10であって,
ブラックマトリクス層12は,マトリックス状のパターンを有しており,ブラックマトリクス層12によって画定される複数の区画には,着色層13,14,15又は透過率調整部16のいずれかが配置され,
透過率調整部16は,透光性を有する感光性樹脂中に黒色着色材を分散させることにより構成される着色材含有層17からなり,黒色着色材としては,ブラックマトリクス層12の場合と同様にカーボンブラックやチタンブラック等が用いられ,感光性樹脂中の黒色着色材の含有比率は,カラーフィルタ10における所望の透過率や透過スペクトルの形状に応じて適宜設定され,
着色材含有層17の平均透過率は,好ましくは50?70%の範囲内となっており,例えば60%となっていて,ここで「平均透過率」とは,対象となる要素の透過スペクトルを可視光域全域にわたって平均することにより得られる値である,
カラーフィルタ10。」

(3) 引用文献5の記載
原査定の拒絶の理由において引用された上記引用文献5は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶のシール材を紫外線硬化樹脂によって形成し,紫外線照射によってシール材を硬化させてなる液晶パネルにおいて,ブラックマトリックス(黒色格子,以下,BMとも云う)の外枠部分の紫外線透過性を高めることによって,幅広のシール材を用いることできるようにしてシール効果を高めた液晶パネルと,その製造方法に関する。
…(省略)…
【0010】
BM電極基板14は外側のCF基板15と内側のブラックマトリックス(BM)16を有し,遮光材によって黒色格子状の上記BM16が形成されている。該遮光材は,樹脂に金属薄膜を設けたものや,遮光性充填材を樹脂に配合したものなど,従来の遮光材料を用いることができるが,少なくともBM16の外枠部分(周縁部)には紫外線透過性の黒色酸化チタン粉末が含有している。なお,その他のBMの材質や構造等は特に限定されず,一般的な材料によって形成することができる。
【0011】
上記チタンブラック粉末は,例えば,一般式:TiNxOy(0≦x<1.5および0.16<y<2),または(1.0≦x+y<2.0および2x<y)で表される組成を有する。このチタンブラック粉末を含有したBM電極基板の周縁部は,カーボンブラックを含有したものよりも紫外線に対しては透過性が良く,可視光に対しては十分な遮光性を有する。
【0012】
具体的には,一例として,分散媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を用いた25wt%濃度のチタンブラック分散液(TB製品名:13M-C)を1万倍に希釈した液について,近紫外線から可視光に対する透過率を測定すると,図4(当合議体注:「図4」は「図3」の誤記である。)に示すように,350nm?400nmの近紫外線に対する透過率は約30?35%であり,550nm以上の波長に対する透過率は約30%以下である。一方,カーボンブラックを用いた同様の分散液は,近紫外線に対する透過率が22%程度と低く,しかも可視光域に向かって透過率が次第に高くなり,600nm以上の可視光域ではチタンブラックのほうがカーボンブラックよりも透過率が低く,従って遮光性が良い。
【0013】
またアクリル重合樹脂を用い,この樹脂1重量部に対して,チタンブラック1重量部,またはカーボンブラック2重量部を混合した黒色顔料溶液をおのおの調製し,希釈溶剤(PGMEA)を加えて所定膜厚に成膜し,450nmおよび570nmの測定波長によって光学濃度(OD値)を測定(マクベス社OD計:TR-1224)し,570nm波長のOD値に対する450nm波長のOD値の比を求めると,図4の結果が得られる。
この結果に示すように,チタンブラックを用いたものは,測定波長570nmのOD値(OD_(570nm))が3.5のとき,測定波長450nmのOD値(OD_(450nm))が3.0以下である。一方,カーボンブラックを用いたものは,OD_(570nm)値が3.5のとき,OD_(450nm)値は4.0以上であり,チタンブラックよりも格段に高い。
【0014】
本発明の液晶パネルに用いるブラックマトリックスは,その周縁部がチタンブラック粉末を含有することによって,測定波長570nmのOD値(OD_(450nm))が3.5のとき,測定波長450nmのOD値(OD_(450nm))が3.0以下であるものが好ましい。使用するチタンブラックはこれを含有したBM周縁部が上記OD値を有るものであれば良く,その組成や粒度,および樹脂への混合量は特に限定されない。」

イ 図3


ウ 図4


2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりである。
ア カラーフィルタ
引用発明は,「有機EL表示装置用のカラーフィルタ10」である。
ここで,引用発明の「カラーフィルタ」及び「有機EL表示装置」は,その文言が意味するとおりのものである。
したがって,引用発明の「カラーフィルタ10」は,本願発明の「カラーフィルタ」に相当する。また,引用発明の「カラーフィルタ10」は,本願発明の「カラーフィルタ」における,「有機EL表示装置用の」という要件を満たす。

イ 基材,ブラックマトリクス,着色部,透過率調整部
引用発明の「カラーフィルタ10」は,「基材11と,基材11上に設けられたブラックマトリクス層12と,ブラックマトリクス層12間に設けられた複数色の着色層13,14,15及び透過率調整部16とを備え」ている。また,「ブラックマトリクス層12」は,「マトリックス状のパターンを有しており,ブラックマトリクス層12によって画定される複数の区画には,着色層13,14,15又は透過率調整部16のいずれかが配置され」ている。
上記の構成からみて,引用発明の「カラーフィルタ10」は,基材と,ブラックマトリクス層と,複数色の着色部及び透過率調整部を具備するといえる。また,上記の「基材11」と「ブラックマトリクス層12」の積層関係及び「ブラックマトリクス層12」の形状からみて,引用発明の「ブラックマトリクス層12」は,複数の開口部を区画するよう基材上に設けられたものといえる。さらに,上記の「ブラックマトリクス層12」と「複数色の着色層13,14,15及び透過率調整部16」の位置関係からみて,引用発明の「複数色の着色層13,14,15及び透過率調整部16」は,基材の法線方向に沿って見た場合に上記開口部と重なるよう設けられたものといえる。
したがって,引用発明の「基材11」,「ブラックマトリクス層12」,「複数色の着色層13,14,15」及び「透過率調整部16」は,それぞれ,本願発明の「基材」,「ブラックマトリクス層」,「複数色の着色部」及び「透過率調整部」に相当する。また,引用発明の「ブラックマトリクス層12」は,本願発明の「ブラックマトリックス層」における「複数の開口部を区画するよう前記基材上に設けられた」という要件を満たす。さらに,引用発明の「複数色の着色層13,14,15及び透過率調整部16」は,本願発明の「複数色の着色部および透過率調整部」における「前記基材の法線方向に沿って見た場合に前記開口部と重なるよう設けられた」という要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 有機EL表示装置用のカラーフィルタにおいて,
基材と,
複数の開口部を区画するよう前記基材上に設けられたブラックマトリクス層と,
前記基材の法線方向に沿って見た場合に前記開口部と重なるよう設けられた複数色の着色部および透過率調整部と,を備えるカラーフィルタ。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,次の点で相違する。
(相違点)
「透過率調整部の透過スペクトル」が,本願発明は,[A]「波長380?780nmの範囲内での平均透過率が,30?60%の範囲内であり」,[B]「波長400?500nmの範囲内での透過率の最大値をTmax(%)とし,波長600?700nmの範囲内での透過率の最小値をTmin(%)とするとき,TmaxはTminより大きく,かつ{Tmax-Tmin}が5?20%の範囲内であり」,[C]「波長600?700nmの範囲内での透過率は,長波長側に向かうにつれて単調に減少している」という構成を具備するのに対して,引用発明は,上記[A]については,「好ましくは50?70%の範囲内」,「例えば60%」の「平均透過率」(対象となる要素の透過スペクトルを可視光域全域にわたって平均することにより得られる値)であり,上記[B]及び[C]については,特定されていない(「黒色着色材」が,「ブラックマトリクス層12の場合と同様にカーボンブラックやチタンブラック等」である)点。
(当合議体注:「平均透過率」については,引用文献1の【0051】の「着色材含有層17の平均透過率とは,図3に示すような着色材含有層17の透過スペクトルS_(A)を可視光域全域にわたって平均することにより得られる値である。」という記載,及び図3のグラフの横軸の波長範囲,並びに,図14及び図16のグラフの横軸の波長範囲からみて,「波長380?780nm」が引用発明における「可視光域」である蓋然性が高いところではあるが,一応,上記かぎ括弧のとおり相違点とする。)

(3) 判断
引用発明の「透過率調整部16は,透光性を有する感光性樹脂中に黒色着色材を分散させることにより構成される着色材含有層17からなり,黒色着色材としては,ブラックマトリクス層12の場合と同様にカーボンブラックやチタンブラック等が用いられ」る。
ア 黒色着色剤について
(ア) カーボンブラックの場合
当業者が,「黒色着色剤」として「カーボンブラック」を採用した場合の透過スペクトルの形状は,前記[B]及び[C]の要件を満たさないと考えられる(引用文献1の【0090】,【0091】及び【図14】を参照。)。
ところで,カーボンブラックの色味が赤いことは周知であるから,当業者が色味の修正を試みることは容易と考えられる。しかしながら,引用文献1には,実施例3として,【0094】及び【0095】に記載の態様が開示されている。そして,この実施例3を参考に色味を調整したとしても,引用文献1の【図16】からみて,上記[B]及び[C]の要件を満たすことにはならない(本願発明の構成に到らない。)。
したがって,当業者が,「黒色着色剤」として「カーボンブラック」を採用した場合においては,本願発明の構成を具備するものには到らない。

(イ) チタンブラックの場合
次に,当業者が,「黒色着色剤」として「チタンブラック」を採用した場合について検討する。
引用文献4及び引用文献5に記載された「チタンブラック」の型番は,いずれも「13-MC」で同一であるが,その透過スペクトルの形状は一致しない(ランベルト・ベールの法則に基づいて透過率を換算しても,一致しない。)。そこで,測定条件が明示され,OD値からみてより精度が高いと認められる引用文献5に基づいて検討する。
引用文献5には,「分散媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を用いた25wt%濃度のチタンブラック分散液(TB製品名:13M-C)を1万倍に希釈した液」の,「近紫外線から可視光に対する透過率」の測定結果が示されている(【0012】及び【図3】)。そして,この透過スペクトルのグラフから看取される,本願発明の「Tmax-Tmin」に対応する値は,約「22%」である(当合議体注:図3のグラフからみて,波長400?500nmの範囲内での透過率の最大値である「Tmax」は約42?43%と理解され,また,波長600?700nmの範囲内での透過率の最小値である「Tmin」は約20?21%と理解され,両者の差は約22%と計算される。)。ただし,当業者ならば,「チタンブラック」を使用して引用発明の「カラーフィルタ12」を具体化するに際し,平均透過率が「例えば60%」となるよう,その含有量や膜厚を調整すると考えられる。しかしながら,このような仮定に基づいて調整後の「Tmax-Tmin」を概算しても,上記「22%」の値が,上記[B]の要件である,5?20%の範囲に必ず入るとまではいえない。
(当合議体注:概算は,引用文献5の図3の透過スペクトルを,ランベルト・ベールの法則に基づいて換算することにより行い,ひとまず,感光性樹脂等の影響は無視した。)
また,引用文献5の【0011】及び【0014】の記載から理解されるとおり,チタンブラックはその組成や粒度等に応じて透過スペクトルが変化しうる。この点を考慮すると,なおさら,当業者が,「黒色着色剤」として「チタンブラック」を採用した場合において,上記[B]の要件を満たすとまではいえない。
ところで,引用文献1の【0042】には「例えば透過率調整部16は,透過率調整部16に入射した白色光が4500?12000Kの色温度を有する光として出射されるよう構成されている。」と記載されている。そして,色温度を高めにすることを望む当業者ならば,引用発明の「黒色着色剤」として「チタンブラック」を採用するといえる。しかしながら,この場合に上記[B]の要件を満たすとまではいえないことは,すでに述べたとおりである。

(ウ) 額縁部と表示領域の色差について
「モバイル電子機器の表示装置で,画面消灯時,室内光下,太陽光下において,カバーガラスの額縁部(加飾部)の反射色と表示領域の反射色との色差をなくして,意匠性を向上させる」という課題は,公知である(平成29年11月24日付け拒絶理由通知書において先行技術文献として挙げられた特開2013-178425号の【0023】,以下「参考文献1」という。)。しかしながら,参考文献1においては,カーボンブラックと顔料の組み合わせを前提に,その色差が抑えられている(【0026】,【0041】,【0080】及び【0106】?【0111】)。
額縁部と表示領域の色差をなくすという技術課題は,引用発明において相違点に係る本願発明の構成(特に,上記[B]及び[C]の要件)を採用する動機付けとはならない(参考文献1には,以下ウで述べる,本願発明の【0036】に記載のような技術課題は開示されていない。)。

ウ 上記[B]及び[C]の要件による効果ついて
上記[B]の要件に関して,本願発明の【0036】には,「有機EL表示装置50からの光の色味が観察者にどのように認識されるかは,人間の目の網膜にある,赤色,緑色および青色の三原色をそれぞれ感じる錐体の分光感度に依存する。ここで,緑色の錯体および赤色の錯体の感度は,橙色付近で大きくオーバーラップしている。このような人の目の特性を考慮すると,光の強度が同等である場合,青色の光源に比べて,緑色や赤色の光源の方が,人の目には強く検出されることになる。従って,表示領域Dからの反射光のa^(*)およびb^(*)をゼロに近づけるためには,透過率調整部16を,青色の光に比べて緑色や赤色の光を透過させにくいように構成することが有効であると考えられる。このような点を考慮し,本件発明者らは,透過率調整部16の透過スペクトルS_(A)における,波長400?500nmの範囲内での透過率の最大値をTmax(%)とし,波長600?700nmの範囲内での透過率の最小値をTmin(%)とするとき,{Tmax-Tmin}が5?20%の範囲内となるよう,透過率調整部16を構成することを提案する。」と記載されている。また,上記[C]の要件に関して,本願発明の【0039】及び【0040】には,それぞれ,「窒化チタンの透過スペクトルS_(TiN)の一例を図3Bに示す。図3Aおよび3Bに示すように,窒化チタンの透過スペクトルS_(TiN),および窒化チタンを含む透過率調整部16の透過スペクトルS_(A)においては,波長400?500nmの範囲内に透過率の最大値が位置している。また透過スペクトルS_(TiN)およびS_(A)においては,波長400?500nmの範囲内の最大値よりも長波長側に向かうにつれて透過率が単調に減少している。」及び「図3Bには,参考として,ブラックマトリクス層に含まれる着色材として一般に用いられているカーボンブラックの透過スペクトルS_(carbon)が点線で示されている。また図3Bには,青色の着色材と紫色の着色材とを65:35の比率で混合した材料の透過スペクトルS_(B:V=65:35)が一点鎖線で示されている。透過スペクトルS_(carbon)およびS_(B:V=65:35)のいずれにおいても,波長600?700nmの範囲内における透過率が,波長400?500nmの範囲内における透過率に対して比較的に大きくなっている。従って,カーボンブラックや,青色の着色材と紫色の着色材との混合物を用いて透過率調整部16を構成した場合,電源OFF時の表示領域Dの色味が,赤味を帯びたものになることが考えられる。」と記載されている。
(当合議体注:【図3A】及び【図3B】は以下の図である。)
図3A:


図3B:


これに対して,引用文献1には,上記のような知見は記載も示唆もされていない。そして,引用発明の「黒色着色剤」は,「カーボンブラック」であっても良いものである。
以上勘案すると,本願発明は,上記[B]及び[C]の要件によって,引用文献1に記載のない知見に基づく,異質な効果を奏するものと理解される。

エ 小括
以上ア?ウを勘案すると,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

(4) 請求項2?請求項6に係る発明について
本件出願の請求項2及び請求項3に係る発明は,上記相違点で挙げた[B]の要件及び[D]「前記透過率調整部を構成する透過率調整用材料は、窒化チタンを含む着色材を有する」という要件を具備する。そして,上記(3)で述べたとおりであるから,引用発明を出発点として,上記[B]の要件及び[D]の要件の双方を満たす構成に到るとはいえない。また,本件出願の請求項4?請求項6に係る発明は,請求項1又は請求項2に係る発明の「カラーフィルタ」を備えてなる,「有機EL表示装置」の発明であるから,これら発明も,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

第3 むすび
以上のとおり,本件出願の請求項1?請求項6に係る発明は,当業者が,引用文献1に記載された発明及び(引用文献3?引用文献5から理解される)周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができない。
したがって,原査定の理由によっては,本件出願を拒絶することができない。
また,他に,本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-16 
出願番号 特願2014-28695(P2014-28695)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩井 好子  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 樋口 信宏
河原 正
発明の名称 カラーフィルタおよび有機EL表示装置  
代理人 永井 浩之  
代理人 朝倉 悟  
代理人 岡村 和郎  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 中村 行孝  

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