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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02C
管理番号 1355901
審判番号 不服2018-12670  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-21 
確定日 2019-10-29 
事件の表示 特願2016-515234「眼鏡レンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月29日国際公開、WO2015/163464、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)4月24日(優先権主張 2014年(平成26年)4月24日)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成29年9月21日付け:拒絶理由通知書
平成29年12月25日:意見書、手続補正書の提出
平成30年5月10日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年9月21日:審判請求書、手続補正書の提出
令和元年7月4日:上申書の提出

第2 原査定の概要
原査定の概要は、[A]この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、[B]この出願の請求項1?5に係る発明は、その優先権主張の日(以下、「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、[C]この出願の請求項1?5に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

1.特開2014-48479号公報
2.特開2006-139247号公報
3.特開2008-96886号公報
4.特開2006-267469号公報
5.特開2006-171163号公報

第3 本件発明
本願請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1?5」という。)は、平成30年9月21日に提出された手続補正書で補正された、特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりの、以下のものである。

「 【請求項1】
レンズ基材と、ハードコート層と、を有する眼鏡レンズであって、
前記ハードコート層が、10μm以上50μm以下の膜厚を有し、無機酸化物粒子、シランカップリング剤、及びマトリックス成分中45質量%以上60質量%以下の多官能エポキシ化合物を含む硬化性組成物を硬化して得られるものである、眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記無機酸化物粒子がシリカ粒子である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、ケイ素原子に結合する有機基と、ケイ素原子に結合するアルコキシ基を有する、請求項1又は2に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記多官能エポキシ化合物が、2つ又は3つのエポキシ基を有する、請求項1?3のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
【請求項5】
前記レンズ基材と、前記ハードコート層との間に、干渉縞抑制層を更に有する、請求項1?4のいずれかに記載の眼鏡レンズ。」

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本件優先日前の平成26年3月17日に頒布された刊行物である特開2014-48479号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、下線は合議体が発明の認定等に用いた箇所を付与した。

(1)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズには、レンズ基材の表面にハードコート層が設けられ、ハードコート層の上に反射防止層、さらには、反射防止層の上に防汚層等が設けられるものがある。
レンズ基材に設けられる層のうちハードコート層は主に耐傷性の向上のために用いられる。
・・・(省略)・・・
【0005】
特許文献1では、通常の硬質層を施したレンズと同様の耐傷性を得るために、無機親水性硬質層のモース硬度を5?9としているが、モース硬度にはJIS等による統一された規格はなく、特許文献1において具体的にどのような方法で試験を実施したかの記載がないため、硬度が特定されているとはいえない。通常の硬質層を施した眼鏡レンズは、硬い物と接触した場合に傷が付きやすいので、さらに耐傷性が良好な眼鏡レンズが求められている。
仮に、特許文献1の硬質層が通常の眼鏡レンズよりも高いモース硬度を有するとしても、特許文献1の実施例では、硬質層をレンズ基材に成膜するために、フッ化物に酸を混合するという、危険を伴う方法が記載されているので、そのまま実施例を再現することは不可能である。そのため、特許文献1を参照しても、通常のレンズ以上の耐傷性を有する眼鏡レンズを実現できるとは限らない。
【0006】
本発明の目的は、耐傷性が良好な眼鏡レンズを提供することにある。」

(2)「【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の第1実施形態にかかる眼鏡レンズの要部を示す。
図1において、眼鏡レンズ1は、プラスチック製のレンズ基材10と、レンズ基材10の表面に設けられたプライマー層11と、プライマー層11の表面に設けられたハードコート層12と、ハードコート層12の表面に設けられた反射防止層13と、反射防止層13の表面に設けられた防汚層14とを有する。
・・・(省略)・・・
【0028】
(ハードコート層)
ハードコート層12は、金属酸化物微粒子を含むハードコート用コーティング組成物(ハードコート液)を用いて、プライマー層11の表面に形成される。金属酸化物微粒子としては、例えば、酸化チタン(TiO_(2))、酸化ケイ素(SiO_(2))、酸化スズ(SnO_(2))あるいは、酸化ジルコニウム(ZnO_(2))等が挙げられる。これらは単体で用いてもよく、あるいは複合微粒子として用いてもよい。
また、ハードコート液における金属酸化物微粒子は、有機ケイ素化合物等を原料とする樹脂バインダー中に分散されることが好ましい。
有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ-アミノプロピルトリアルコキシシラン等があげられる。
【0029】
そして、金属酸化物微粒子と有機ケイ素化合物とを含んだハードコート液を調製する際には、金属酸化物微粒子が分散したゾルと、有機ケイ素化合物とを混合することが好ましい。金属酸化物微粒子の配合量は、ハードコート層12の強度や、屈折率等に合わせて決定される。金属酸化物微粒子は球状でも、複数の粒子がつながった鎖状でもよく、金属酸化物微粒子が分散したゾルとしては、例えば、球状SiO_(2)ゾル(日産化学工業株式会社製製品名「ST-S」)を例示できる。
ハードコート層12は、金属酸化物微粒子と有機ケイ素化合物だけでなく、多官能性エポキシ化合物をさらに含有するものでもよい。多官能性エポキシ化合物としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス-2,2-ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテル等の脂環族エポキシ化合物、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ化合物等が挙げられる。
・・・(省略)・・・
【0031】
ハードコート液の塗布・硬化方法としては、インクジェット法、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、あるいは、フローコート法によりハードコート液を塗布した後、40?200℃の温度で数時間加熱乾燥することにより、ハードコート層12を形成する。例えば、レンズ基材10に形成されたプライマー層11の上から、あるいは、レンズ基材10の上からハードコート液を超音波スプレーし、乾燥させてハードコート層12を形成する。
ハードコート層12の層厚は、6μm以上40μm以下である。層厚が6μm未満では、モース硬度が不足し、十分な耐傷性が得られない。また、層厚の均一化が困難になる等の成膜上の問題から、層厚が40μmを越えることは困難である。ハードコート層12の層厚は、10μm以上40μm以下であることがより好ましい。膜厚が6μm以上10μm未満の場合と比較して、モース硬度をより高めることができるので、耐傷性を向上させることができる。
・・・(省略)・・・
【0039】
次に、本発明の第2実施形態を図3に基づいて説明する。
第2実施形態は反射防止層及び防汚層がなく、ハードコート層の表面がレンズの表面となる点で第1実施形態とは異なる。なお、第2実施形態においては、第1実施形態と同様の構成には第1実施形態と同じ符号を付し、説明を省略する。
図3は本発明の第2実施形態にかかる眼鏡レンズの要部を示す。
図3において、眼鏡レンズ2は、プラスチック製のレンズ基材10と、レンズ基材10の上に設けられたプライマー層11と、プライマー層11の上に設けられたハードコート層22とを有する。なお、第2実施形態では、プライマー層11を省略し、レンズ基材10の上にハードコート層22を設けてもよい。」

(3)「【実施例】
・・・(省略)・・・
【0042】
[実施例1]
1.ハードコート液の調製
ステンレス製容器内に、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、製品名「TSL8350」)46重量部、0.05N-HCl42重量部を投入し、十分に撹拌した。次にSiO_(2)ゾル(日産化学工業株式会社製の球状SiO_(2)ゾル、製品名「ST-S」)を86重量部、シリコーン系界面活性剤(東レダウコーニング株式会社製、製品名「L7604」)を300ppm、Fe系触媒0.2重量部、Al系触媒0.8重量部を加え十分に撹拌した。さらに、固形分が25%となるようにMeOHを混合・撹拌し、ハードコート液を得た。
【0043】
2.積層工程
[1]レンズ基材10
レンズ基材10として、屈折率1.67の眼鏡用のプラスチックレンズ基材(セイコーオプティカルプロダクツ株式会社製、製品名「セイコースーパーソブリン(SSV)」)を用意した。
[2]ハードコート層12
スプレーコート装置として、超音波スプレーコーティングシステム「EXACTA COAT」(SONO-TEK社製)を用い、超音波スプレーコート法により前述の調製したハードコート層形成材料の流量、液固形分を調整し、レンズ基材10の表面(凹面及び凸面)に塗膜形成した。得られた塗膜を125℃で5時間焼成して中心部膜厚(層厚)が6.5μmであるハードコート層12を得た。
・・・(省略)・・・
【0047】
[実施例3]
実施例1に対してハードコート層12の層厚を10.0μmに変更した。他の条件は実施例1と同じである。
・・・(省略)・・・
【0048】
[実施例4]
実施例1に対してハードコート層12の層厚を20.0μmに変更した。他の条件は実施例1と同じである。
・・・(省略)・・・
【0049】
[実施例5]
実施例1に対してハードコート層12の層厚を40.0μmに変更した。他の条件は実施例1と同じである。
・・・(省略)・・・
【0050】
[実施例6]
実施例1に対して層構成を変更した。つまり、眼鏡レンズ2を、レンズ基材10の上にハードコート層22を設けた構成とし、反射防止層13と防汚層14とを省略した。レンズ基材10の材料、及びハードコート層22の組成は実施例1のハードコート層12と同じであり、ハードコート層22の層厚も実施例1のハードコート層12の層厚と同じ6.5μmである。
・・・(省略)・・・
【0051】
[実施例7]
実施例6に対してハードコート層22の層厚を10.0μmに変更した。他の条件は実施例6と同じである。
・・・(省略)・・・
【0052】
[実施例8]
実施例6に対してハードコート層22の層厚を20.0μmに変更した。他の条件は実施例6と同じである。
・・・(省略)・・・
【0053】
[実施例9]
実施例6に対してハードコート層22の層厚を40.0μmに変更した。他の条件は実施例6と同じである。
・・・(省略)・・・
【0066】
【表1】

【0067】
表1でも示される通り、レンズ基材10と、レンズ基材10に直接または他の層を介して設けられた層厚が6.5μm以上40μm以下のハードコート層12と、ハードコート層12に設けられた反射防止層13と、反射防止層13に設けられた防汚層14と、を備えた実施例1?5と、同様の層構成でハードコート層の層厚が2μm以上5μm以下である比較例1、2とを比較すると、モース硬度が3の研磨部材で引掻き試験をした際に傷がつく比較例1、2に対し、実施例1?5の眼鏡レンズ1はモース硬度が3の研磨部材では傷がつかない。すなわち、層厚を6.5μm以上とすることで、従来よりも耐傷性が良好な眼鏡レンズ1が実現できた。また、比較例5は、特許文献1で開示された眼鏡レンズに近似したものであるが、比較例5ではモース硬度が比較例1、2と同程度であった。従って、実施例1?5の眼鏡レンズ1は、比較例5より耐傷性が良好であると言える。さらに、参考例のモース硬度も2.5であったことからも、従来の眼鏡レンズのモース硬度は大きいもので2.5程度と言える。従って、モース硬度を3以上とすることで、従来よりも対傷性の高い眼鏡レンズを実現できる。
【0068】
レンズ基材10と、レンズ基材10に直接または他の層を介して設けられた層厚が6.5μm以上40μm以下のハードコート層22とを備えた実施例6?9と、同様の層構成でハードコート層の層厚が2μm以上5μm以下である比較例3、4とを比較すると、モース硬度が3の研磨部材で引掻き試験をした際に比較例3、4は傷がつくのに対し、実施例6?9は傷がつかない。すなわち、層厚を6.5μm以上とすることで、反射防止層及び防汚層が無い場合においても、眼鏡レンズの耐傷性が良好なものとなる。」

(4)「【図1】

・・・(省略)・・・
【図3】



2 引用発明1-1
前記1の記載事項(2)及び(3)に基づけば、引用文献1の実施例3?5には、「眼鏡レンズ1」に関する事項が記載されている。そうしてみると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1-1」という。)が記載されていたと認められる。なお、段落【0043】に記載の「ハードコート層形成材料」は、「ハードコート液」の誤記として、発明を認定した。

「 プラスチック製のレンズ基材10と、レンズ基材10の表面に設けられたプライマー層11と、プライマー層11の表面に設けられたハードコート層12と、ハードコート層12の表面に設けられた反射防止層13と、反射防止層13の表面に設けられた防汚層14とを有する眼鏡レンズであって、
ハードコート層は、ステンレス製容器内に、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、HClを投入し、撹拌し、次にSiO_(2)ゾル、シリコーン系界面活性剤を加え、撹拌して、さらに、固形分が25%となるようにMeOHを混合・撹拌して、ハードコート液を得て、
調製したハードコート液を、レンズ基材10の表面(凹面及び凸面)に塗膜形成し、塗膜を焼成して得た、層厚10.0μm、20.0μmまたは40.0μmのハードコート層である、
眼鏡レンズ1。」

3 引用発明1-2
前記1の記載事項(2)及び(3)に基づけば、引用文献1の実施例7?9には、「眼鏡レンズ1」に関する事項が記載されている。そうしてみると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1-2」という。)が記載されていたと認められる。

「 プラスチック製のレンズ基材10と、レンズ基材10の表面に設けられたプライマー層11と、プライマー層11の表面に設けられたハードコート層12とを有する眼鏡レンズであって、
ハードコート層は、ステンレス製容器内に、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、HClを投入し、撹拌して、次にSiO_(2)ゾル、シリコーン系界面活性剤を加え、撹拌し、さらに、固形分が25%となるようにMeOHを混合・撹拌して、ハードコート液を得て、
調製したハードコート液を、レンズ基材10の表面(凹面及び凸面)に塗膜形成し、塗膜を焼成して得た、層厚10.0μm、20.0μmまたは40.0μmのハードコート層である、
眼鏡レンズ1。」

4 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本件優先日前の平成18年6月1日に頒布された刊行物である特開2006-139247号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。

(1)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡などに用いられるプラスチック製またはガラス製のレンズの染色に関するものである。
【背景技術】
【0002】
視力矯正用レンズおよびサングラス等の色付きの眼鏡レンズは、基材あるいは基板を構成するプラスチックレンズあるいはガラスレンズを染色したものがある。また、レンズを染色する代わりに、基板に積層された機能層、例えば、ハードコート層を染色することが検討されている。機能層を染色するタイプのレンズは、レンズ基板に影響を与えずに色を付けることができ、その濃度調整も可能である。このため、ユーザの要望に合わせて多種多様な色の眼鏡レンズを提供できる。
・・・(省略)・・・
【0007】
そこで、本発明においては、過去において蓄積された、非染色のレンズの生産技術を、さらに有効に活用できるレンズおよびその製造方法を提供することを目的としている。また、ユーザが希望する色に着色されたレンズを、短納期および低コストで供給できるレンズおよびその製造方法を提供することを目的としている。」

(2)「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のレンズは、レンズ基材と、このレンズ基材上に、直に、またはプライマー層を介して積層され、金属酸化物微粒子、有機ケイ素化合物および多官能エポキシ化合物を主成分として含むハードコート層と、このハードコート層に積層された、多孔質シリカ微粒子および有機ケイ素化合物を主成分として含む反射防止層とを有する。
・・・(省略)・・・
【0020】
この製造方法は、レンズの基本的な機能に関わる構造、すなわち、各種の機能層までを成膜したレンズに対して、それを染色する工程を有する。したがって、保管、在庫、あるいは流通している染色前のレンズに対して、適当な場所、あるいは適当な者、たとえば販売店、さらにはユーザ自身が、ユーザが希望する色にレンズを染色することができる。
【0021】
このように、本発明により、染色レンズを、非染色のレンズの製造技術をフルに活かして製造することができる。したがって、染色レンズを、歩留まりが良く、低コストで製造できる。
・・・(省略)・・・
【0023】
すなわち、本発明のレンズのハードコート層は、硬く、傷が付きにくいものが望ましく、さらに、染料の保持能力に優れていることが望ましい。したがって、シラン化合物などのように硬度に寄与する成分に多官能エポキシ化合物を加えることが望ましい。多官能エポキシ化合物は、さらに、柔軟性あるいは接着性に寄与するので、基板や、ハードコート層上の反射防止層との密着性の向上を期待できる。
【0024】
本発明のレンズの多孔性の反射防止層を得るためには、多孔質シリカ微粒子および有機ケイ素化合物を主成分として含むことが望ましい。
・・・(省略)・・・
【0031】
ハードコート層または反射防止層に含まれるシラン化合物は、下記の一般式(A)で表される有機ケイ素化合物であることが好ましい。
R^(1)R^(2)_(n)SiX^(1)_(3-n ) (A)
(式中、nは0または1である。)
【0032】
ここで、R^(1)は、重合可能な反応基または加水分解可能な官能基をもつ有機基である。重合可能な反応基の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、アミノ基等が挙げられ、加水分解可能な官能基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基。
【0033】
R^(2)は炭素数1?6の炭化水素基である。具体例としては、以下のようなものが挙げられる。メチル基、エチル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基等が挙げられる。
【0034】
また、X^(1)は加水分解可能な官能基であり、以下のものが挙げられる。メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基。」

(3)「【0057】
(実施例3)
(ハードコート層)
ハードコート層を成膜するための塗布液H3は、以下のように調製した。プロピレングリコールメチルエーテル156部、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)688部を混合した後、γ?グリシドキシプロピルトリメトキシシラン71部、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業(株)製、商品名デナコールEX313)63部を混合し、混合液を得た。この混合液に、0.1N塩酸水溶液20部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後、一昼夜熟成させた。その後、この混合液に、Fe(III)アセチルアセトネート4部、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L-7001)0.3部を添加して、塗布液H3を得た。
【0058】
この塗布液H3を、ディッピング方式(引き上げ速度35cm毎分)により、レンズ基板(SSV、プライマー層なしレンズ)に塗布した。塗布後、レンズを80℃で30分間風乾し、さらに、120℃で120分焼成を行い、2.5μm厚のハードコート層付きレンズを得た。
・・・(省略)・・・
【0065】
(実施例4)
(ハードコート層)
ハードコート層を成膜するための塗布液H4は、以下のように調製した。プロピレングリコールメチルエーテル207部、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)625部を混合した後、γ?グリシドキシプロピルトリメトキシシラン71部、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業(株)製、商品名デナコールEX313)75部を混合し、混合液を得た。この混合液に、0.1N塩酸水溶液20部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後、一昼夜熟成させた。その後、この混合液に、Fe(III)アセチルアセトネート2.3部、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L-7001)0.3部を添加し、塗布液H4を得た。
【0066】
この塗布液H4を、ディッピング方式(引き上げ速度35cm毎分)により、レンズ基板(SSV、プライマー層なしレンズ)に塗布した。塗布後、レンズを80℃で30分間風乾し、さらに、120℃で120分焼成を行い、2.5μm厚のハードコート層付きレンズを得た。
・・・(省略)・・・
【0102】
図1から分かるように、実施例1から6により製造された、染色されたレンズは、染色性、耐熱性、反射防止効果、密着性、耐擦傷性の全ての評価結果が「◎」であった。したがって、染色性が非常に良く、耐擦傷性も非常に高いレンズであることが分かった。さらに、耐久性能と色性能とを両立して得ることができる染色レンズであることが分かった。したがって、これらの実験により、反射防止層および撥水層が形成された後に染色できるレンズが得られることが分かった。」

(4)「



5 引用発明2-1
前記4の記載事項(3)に基づけば、引用文献2の実施例3には、「ハードコート層付きレンズ」に関する事項が記載されている。そうしてみると、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2-1」という。)が記載されていたと認められる。

「 プロピレングリコールメチルエーテル、ルチル型酸化チタン複合ゾルを混合した後、γ?グリシドキシプロピルトリメトキシシラン71部、グリセロールポリグリシジルエーテル63部を混合し、混合液を得、混合液に、Fe(III)アセチルアセトネート、シリコーン系界面活性剤を添加して、塗布液H3を得、
塗布液H3を、レンズ基板に塗布し、風乾し、さらに、焼成を行って得られる、
2.5μm厚のハードコート層付きレンズ。」

6 引用発明2-2
前記4の記載事項(3)に基づけば、引用文献2の実施例4には、「ハードコート層付きレンズ」に関する事項が記載されている。そうしてみると、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2-2」という。)が記載されていたと認められる。

「 プロピレングリコールメチルエーテル、ルチル型酸化チタン複合ゾルを混合した後、γ?グリシドキシプロピルトリメトキシシラン71部、グリセロールポリグリシジルエーテル75部を混合し、混合液を得、混合液に、Fe(III)アセチルアセトネート、シリコーン系界面活性剤を添加し、塗布液H4を得、
塗布液H4を、レンズ基板に塗布し、風乾し、さらに、焼成を行って得られる、
2.5μm厚のハードコート層付きレンズ。」

7 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本件優先日前の平成20年4月24日に頒布された刊行物である特開2008-96886号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載事項がある。

(1)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズおよびそのレンズを染色してなるカラーレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、ガラスレンズに比べて軽量であり、成形性、加工性、染色性等に優れ、しかも割れにくく安全性も高いため、眼鏡レンズ分野において急速に普及し、その大部分を占めている。また、近年では薄型化、軽量化のさらなる要求に応えるべく、チオウレタン系樹脂やエピスルフィド系樹脂等の高屈折率素材が開発されている。
・・・(省略)・・・
【0004】
・・・(省略)・・・
そこで本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高屈折率、高耐熱性であり染色性にも優れるプラスチックレンズおよびそのレンズを染色してなるカラーレンズの製造方法を提供することを目的とする。」

(2)「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
・・・(省略)・・・
本実施形態のプラスチックレンズは、屈折率が1.65以上、かつ、ASTM D648記載の試験方法において、圧力が1.8MPa下における荷重たわみ温度が150℃以上のレンズ基材上にプライマー層、染色されたハードコート層、反射防止層および防汚層(撥水層)を有する。
・・・(省略)・・・
【0023】
(3.ハードコート層)
ハードコート層は、レンズ基材表面に形成されたプライマー層上に形成される。ハードコート層は、下記(a)?(c)成分を含有するコーティング組成物(ハードコート層形成用組成物)により形成されている。
(a)金属酸化物微粒子
(b)有機ケイ素化合物
(c)1分子中に、エポキシ基、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基から選ばれる官能基を、少なくとも2個以上有することを特徴とする、多官能化合物
【0024】
(a)成分としては、粒径1?100nmのAl、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、Tiから選ばれる酸化物の単独微粒子および/またはこれらの複合微粒子から選ばれる1種又は2種以上の混合物がハードコート層の高屈折率化の点で好ましい。特に、Tiの酸化物、すなわち酸化チタンは屈折率が他の金属酸化物より高いので好ましい。また、酸化チタンとしては、プライマー層と同様に、光活性のないルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを用いることが耐光性の観点より好ましい。
【0025】
(b)成分の有機ケイ素化合物としては、下記式(1)に示す化合物を用いると、ハードコート層における(a)成分の強固なバインダー樹脂となるため好ましい。
R^(1)R^(2)_(n)SiX^(1)_(3-n) (1)
(式中、R^(1)は、重合可能な反応基を有する有機基であり、R^(2)は炭素数1?6の炭化水素基であり、X^(1)は加水分解性基であり、nは0または1である。)
・・・(省略)・・・
【0029】
(c)成分の1分子中に、エポキシ基、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基から選ばれる官能基を、少なくとも2個以上有することを特徴とする、多官能化合物は、ハードコート層の染色性を向上させるとともに、プライマー層に対するハードコート層の密着性を向上させて、ハードコート層の耐水性およびプラスチックレンズとしての耐衝撃性を向上させることができる。これらの多官能化合物としては、1分子中に同じ官能基(例えばエポキシ基)を2個以上有しても良いし、1分子中に異なる官能基(例えばエポキシ基とアクリル基)を合計で2個以上有してもよい。
・・・(省略)・・・
これらの多官能化合物の中でも、染色性とハードコート層の擦傷性、ハードコート層の外観上に白濁やクラックといった欠陥の出にくさ等を考慮すると、多官能エポキシ化合物が好ましい。
・・・(省略)・・・
【0032】
また、コーティング液の塗布・硬化方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、あるいは、フローコート法によりコーティング液を塗布した後、40?200℃の温度で数時間加熱乾燥することにより、ハードコート被膜を形成する。なお、ハードコート層の膜厚は、0.05?30μmであることが好ましい。膜厚が0.05μm未満では、基本性能が実現できない。また、膜厚が30μmを越えると表面の平滑性が損なわれたり、光学歪みが発生してしまう場合がある。なお、ハードコート層の屈折率は、干渉縞の発生を避けるため、レンズ基材、プライマー層の屈折率に合わせることが好ましい。」

(3)「【実施例】
【0047】
次に、本発明の実施形態に基づく実施例および比較例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものはない。具体的には、以下に示す方法で眼鏡用のプラスチックレンズを製造した後、耐熱性、染色性などの評価を行った。
【0048】
[実施例1]
(1-1)レンズ基材(ポリサルホン樹脂製)の作製
・・・(省略)・・・
【0050】
(1-2)プライマー層の形成
(プライマー層形成用組成物の調整)
・・・(省略)・・・
(プライマー層形成工程)
このプライマー層形成用組成物に前記した(1-1)により作製したレンズ基材を浸漬して、引き上げ速度15cm/minで塗布を行った。塗布後のレンズ基材に対し100℃で20分間加熱硬化処理を行い、レンズ基材上に膜厚1.0μmのプライマー層を形成した。
【0051】
(1-3)ハードコート層の形成
(ハードコート層形成用組成物の調整)
ブチルセロソルブ73g、メタノール148g、およびγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン57gを混合した。この混合液に0.1N塩酸水溶液18gを攪拌しながら滴下した。さらに3時間攪拌後、一昼夜熟成させた。この液にメタノール分散SiO_(2)微粒子ゾル(触媒化成工業株式会社製、商品名「オスカル1132」固形分濃度30%)146g、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、商品名「デナコールEX-421」)50g、過塩素酸マグネシウム3g、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名「L-7001」)0.16g、フェノール系酸化防止剤(川口化学工業株式会社製、商品名「アンテージクリスタル」)0.6gを添加し4時間撹拌後、一昼夜熟成させてハードコート層形成用組成物とした。
(ハードコート層形成工程)
ハードコート層形成用組成物に前記した(1-2)によりプライマー層を形成したレンズ基材を浸漬して、引き上げ速度30cm/minで塗布を行った。塗布後のレンズ基材に対し125℃で3時間加熱硬化処理を行い、レンズ基材上に膜厚2.5μmのハードコート層を形成した。このようにして形成したハードコート層をHC1という。
【0052】
(1-4)無機系反射防止層の形成
前記(1-3)で得られたハードコート層形成後のレンズ基材上に以下の手法により反射防止層を形成して、評価用のプラスチックレンズとした。
・・・(省略)・・・
さらに無機系反射防止層上に含フッ素シラン化合物からなる防汚層(撥水膜)を真空蒸着法により成層した。
・・・(省略)・・・
【0064】
[結 果]
【表1】

【0065】
表1の結果から、実施例1?5の眼鏡レンズは、耐熱性や耐擦傷性が良好なだけでなく、ハードコート層の染色性に優れるため、レンズ基材自体が難染色性であっても容易にカラーレンズを提供できる。」

8 引用発明3
前記7の記載事項(3)に基づけば、引用文献3の実施例1には、「眼鏡用のプラスチックレンズ」に関する事項が記載されている。そうしてみると、引用文献3には、以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていたと認められる。

「 レンズ基材上にプライマー層を形成し、
ブチルセロソルブ、メタノール、およびγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン57gを混合し、混合液に塩酸水溶液を攪拌しながら滴下し、この液にメタノール分散SiO_(2)微粒子ゾル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル50g、過塩素酸マグネシウム、シリコーン系界面活性剤、フェノール系酸化防止剤を添加し撹拌後、ハードコート層形成用組成物とし、
ハードコート層形成用組成物に、プライマー層を形成したレンズ基材を浸漬して、塗布を行い、加熱硬化処理を行って、レンズ基材上に膜厚2.5μmのハードコート層を形成し、
ハードコート層形成後のレンズ基材上に、反射防止層を形成し、
反射防止層上に防汚層を成層して得られる、
眼鏡用のプラスチックレンズ。」

9 引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本件優先日前の平成18年10月5日に頒布された刊行物である特開2006-267469号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載事項がある。

(1)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズを染色液に浸漬して染色するプラスチックレンズの染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズ、特に眼鏡用プラスチックレンズは、ファッション性の付与および目の保護のために着色して用いられる。着色の方法としては、染料を溶媒に分散させた染色液にプラスチックレンズを浸漬して染色する方法が、簡便性、色の選択幅の広さ、ハーフおよびグラデーション染色を行なうことができる等の理由で広く使用されている。
・・・(省略)・・・
【0005】
本発明の目的は、染色ムラ等の発生が少ないプラスチックレンズの染色方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプラスチックレンズの染色方法は、プラスチックレンズを染色液に浸漬して染色するプラスチックレンズの染色方法であって、前記染色液1リットルに対して、フッ素系界面活性剤を0.02?2.0g添加したことを特徴とする。」

(2)「【0013】
プラスチックレンズの基材の表面上には、ハードコート膜またはプラスチックレンズの基材とハードコート膜との接着の役目を果たすプライマー層が形成されていてもよい。
染色は、プラスチックレンズの基材自体に行なってもよいし、プラスチックレンズの上に形成されたハードコート膜に対して行なってもよい。プライマー層が設けられていれば、ハードコート膜とプライマー層とに染色を行なう。
【0014】
染色可能なハードコート膜は、硬度を持たせるための無機微粒子、無機化合物と有機化合物とのカップリング剤およびバインダーとしての有機ケイ素化合物、染色成分としての多官能性エポキシ化合物、および硬化触媒を含有するハードコート用組成物から形成されている。
・・・(省略)・・・
【0017】
有機ケイ素化合物は、ハードコート用組成物中の固形分の10?70重量%、特に20?60重量%の範囲であることが好ましい。配合量が少なすぎると反射防止膜との密着性が不十分となりやすい場合がある。一方、配合量が多すぎると、硬化被膜にクラックを生じさせる原因となる場合がある。
【0018】
多官能性エポキシ化合物は、ハードコート膜の染色成分として機能するものである。また、多官能性エポキシ化合物は、ハードコート膜の耐水性、耐温水性、を向上させることが可能であり、染色時に高温の染色液に長時間浸漬されても、クラックの発生を効果的に抑制できる。さらに、多官能性エポキシ化合物を含むハードコート膜は、プラスチックレンズの耐衝撃性を改善できる。」

(3)「【実施例】
【0038】
・・・(省略)・・・
【0043】
以下に、屈折率1.67を有する高屈折率プラスチックレンズの作製について詳しく説明する。
高屈折率プラスチックレンズには、プライマー層とハードコート膜とを形成した。
(1)プライマー層の形成
・・・(省略)・・・
プライマー用組成物が塗布された基材を100℃で20分間加熱処理して、基材上に層厚1.0μmのプライマー層を形成した。
【0044】
(2)ハードコート膜の形成
ブチルセロソルブ73g、メタノール148g、およびγ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン57gを混合した。この混合液に0.1N塩酸水溶液18gを攪拌しながら滴下した。さらに3時間攪拌後、一昼夜熟成させた。この液にメタノール分散SiO_(2)微粒子ゾル(触媒化成工業株式会社製、商品名「オスカル1132」固形分濃度30%)146g、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、商品名「デコナールEX-421」)50g、過塩素酸マグネシウム3g、シリコン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名「L-7001」)0.16g、フェノール系酸化防止剤(川口化学工業株式会社製、商品名「アンテージクリスタル」)0.6gを添加して4時間攪拌後、一昼夜熟成させてハードコート用組成物とした。
【0045】
このハードコート用組成物をプライマー層の上に浸漬法(引き上げ速度30cm/min)にて塗布した。ハードコート用組成物が塗布された基材を125℃で3時間加熱処理して、膜厚2.5μmのハードコート層を形成した。」

10 引用発明4
前記9の記載事項(1)に基づけば、引用文献4には、「眼鏡用プラスチックレンズ」に関する事項が記載されている。そうしてみると、引用文献4には、以下の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていたと認められる。

「 基材上にプライマー層を形成し、
ブチルセロソルブ、メタノール、およびγ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン57gを混合し、混合液に塩酸水溶液を攪拌しながら滴下し、この液にメタノール分散SiO_(2)微粒子ゾルジグリセロールポリグリシジルエーテル50g、過塩素酸マグネシウム、シリコン系界面活性剤、フェノール系酸化防止剤を添加して攪拌後、ハードコート用組成物とし、
ハードコート用組成物をプライマー層の上に塗布し、加熱処理して、膜厚2.5μmのハードコート層を形成して得られる、
眼鏡用プラスチックレンズ。」

11 引用文献5の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本件優先日前の平成18年6月29日に頒布された刊行物である特開2006-171163号公報(以下、「引用文献5」という。)には、以下の記載事項がある。

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜を形成する工程を有するレンズの製造方法に関するものである。
・・・(省略)・・・
【0011】
本発明のレンズの製造方法は、反射防止膜形成工程において、金属酸化微粒子および有機ケイ素化合物を主成分とするハードコート層の上に反射防止膜形成用の塗布液を塗布するレンズの製造方法が含まれる。さらに、ハードコート層は、多官能エポキシ化合物を含有することが好ましい。金属酸化微粒子および有機ケイ素化合物は、硬度が高く、傷つき難いレンズを製造するのに適している。また、ハードコート層に多官能エポキシ化合物を加えることにより、基板とハードコート層、またはハードコート層と反射防止膜との密着性を向上できる。
・・・(省略)・・・
【0022】
(実験例1)
・・・(省略)・・・
【0023】
(ハードコート層の形成)
ハードコート層用の塗布液HC1を次のように調製した。プロピレングリコールメチルエーテル207部、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)625部を混合した後、γ?グリシドキシプロピルトリメトキシシラン71部、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業(株)製、商品名デナコールEX313)75部を混合した。この混合液に0.1N塩酸水溶液20部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後一昼夜熟成させた後、Fe(III)アセチルアセトネート2.3部、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L-7001)0.3部を添加した。
【0024】
セイコーエプソン(株)製、セイコースーパーソブリン用レンズ生地(以下SSVと略す)による屈折率1.67のプラスチックレンズ基板に、塗布液HC1をディッピング方式(引き上げ速度35cm毎分)で塗布した。塗布後80℃で30分間風乾した後、120℃で120分焼成を行い2.5μm厚のハードコート層付きレンズを得た。
【0025】
塗布液HC1によるハードコート層の焼成後固形分は、50%重量の金属酸化物微粒子(ルチル型酸化チタン複合ゾル)と、20重量%の有機ケイ素(γ?グリシドキシプロビルトリメトキシシラン)と、30重量%の多官能エポキシ化合物(グリセロールポリグリシジルエーテル)とを含んでいる。
【0026】
(反射防止膜の形成)
・・・(省略)・・・
【0027】
この塗布液AR1を、ハードコート層付きレンズの上に、以下のような手順でスピンコートして、反射防止膜を形成した。
・・・(省略)・・・
【0029】
(撥水膜の形成)
さらに、この反射防止膜付きレンズの表面をフッ素系シラン化合物で撥水処理し、撥水膜付きのレンズを得た。」

12 引用発明5
前記11の記載事項に基づけば、引用文献5の実験例1には、以下の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されていたと認められる。

「 プロピレングリコールメチルエーテル、ルチル型酸化チタン複合ゾルを混合した後、γ?グリシドキシプロピルトリメトキシシラン71部、グリセロールポリグリシジルエーテル75部を混合し、混合液に塩酸水溶液を撹拌しながら滴下し、Fe(III)アセチルアセトネート、シリコーン系界面活性剤を添加してハードコート層用の塗布液HC1を調製し、
プラスチックレンズ基板に、塗布液HC1を塗布し、塗布後80℃で30分間風乾した後、焼成を行い2.5μm厚のハードコート層付きレンズを得、
ハードコート層付きレンズの上に、反射防止膜を形成し、
反射防止膜付きレンズの表面を撥水処理して得られる、
撥水膜付きのレンズ。」

第5 対比・判断
1 引用発明1-1との対比・判断
(1) 本件発明1
ア 対比
(ア) 眼鏡レンズ
引用発明1-1の「眼鏡レンズ1」は、「レンズ基材10」と「ハードコート層12」を有する。
引用発明1-1の「眼鏡レンズ1」、「レンズ基材10」及び「ハードコート層12」は、それぞれ、本件発明1の「眼鏡レンズ」、「レンズ基材」及び「ハードコート層」に相当する。

(イ) ハードコート層の膜厚
引用発明1-1の「層厚」は、本件発明1における、「ハードコート層が、10μm以上50μm以下の膜厚を有し」との記載及び技術常識からみて、本件発明1の「膜厚」に該当する。
そして、引用発明1-1の「ハードコート層12」は、「層厚」が「10.0μm」、「20.0μm」または「40.0μm」である。
そうしてみると、引用発明1-1の「ハードコート層12」は、本件発明1の「10μm以上50μm以下の膜厚を有し」という要件を満たす。

(ウ) ハードコート層の材料
引用発明1-1の「ハードコート層12」は、「3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」及び「SiO_(2)ゾル」を含有する「ハードコート層形成材料」を、「焼成して」得られる。
引用発明1-1の「3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」は、本件明細書の段落【0015】の記載からみて、本件発明1の「シランカップリング剤」に該当する。また、引用文献1の段落【0029】に、「SiO_(2)ゾル」は「金属酸化物微粒子が分散したゾル」であることが記載されていることからみて、引用発明1-1の「SiO_(2)ゾル」は、本件発明1の「無機酸化物粒子」に該当する。加えて、引用文献1の段落【0031】には、「ハードコート液の」「硬化方法としては」、「40?200℃の温度で数時間加熱乾燥することにより、ハードコート層12を形成する」と記載されていることからみて、引用発明1-1の「ハードコート液」は、本件発明1でいう「硬化性組成物」である。
そうしてみると、引用発明1の「ハードコート層12」は、本件発明1の、「無機酸化物粒子、シランカップリング剤」「を含む硬化性組成物を硬化して得られる」という要件を満たす。

イ 一致点
以上より、本件発明1と引用発明1-1は、以下の点で一致する。

「 レンズ基材と、ハードコート層と、を有する眼鏡レンズであって、
前記ハードコート層が、10μm以上50μm以下の膜厚を有し、無機酸化物粒子、シランカップリング剤を含む硬化性組成物を硬化して得られるものである、眼鏡レンズ。」

ウ 相違点
本件発明1と引用発明1-1を対比すると、硬化性組成物が、本件発明1は、「マトリックス成分中45質量%以上60質量%以下の多官能エポキシ化合物を含む」のに対し、引用発明1-1では、そのように特定されていない点で相違する。

エ 判断
(ア) 引用文献1には、「ハードコート層12」が、「金属酸化物微粒子と有機ケイ素化合物だけでなく、多官能性エポキシ化合物をさらに含有するものでもよい。」ことが記載されている(段落【0029】を参照。)。しかしながら、引用文献1には、「ハードコート層形成材料」において、「マトリックス成分中45質量%以上60質量%以下の多官能エポキシ化合物を含む」ことは記載も示唆もされていない。

(イ) 前記第4の「5」で述べたとおり、引用文献2には、引用発明2-1として、「γ?グリシドキシプロピルトリメトキシシラン71部」及び「グリセロールポリグリシジルエーテル63部」を含む「塗布液H3」を、塗布、風乾、焼成して得られる「ハードコート層」が記載されている。引用発明2-1の「γ?グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」及び「グリセロールポリグリシジルエーテル」は、技術常識からみて、それぞれ、本件発明1の「シランカップリング剤」及び「多官能エポキシ化合物」に該当する。
ここで、引用発明2-1における、「γ?グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」及び「グリセロールポリグリシジルエーテル」の含有量の総和に対する「グリセロールポリグリシジルエーテル」の含有量、すなわちマトリックス成分中の多官能エポキシ化合物量は、47%程度となる(当合議体注:マトリックス成分中の多官能エポキシ化合物量は、63÷(71+63)=0.47(小数点第3位四捨五入)。)。
したがって、引用発明2-1の「塗布液H3」は、「マトリックス成分中」における「多官能エポキシ化合物」の含有量について、本件発明1の要件を満たす。

(ウ) しかしながら、引用文献2には、本件発明1の上記含有量を満たさない実施例も記載されていること(当合議体注:上記(イ)と同様にして、実施例1、2、5及び6のハードコート層における、「マトリックス成分中」における「多官能エポキシ化合物」の含有量を算出すると、それぞれ、26%、36%、29%及び27%程度である。)、ハードコート層上の反射防止層との密着性の向上と硬度のバランスのために、どの程度の多官能エポキシ化合物を含有させれば良いのかについての記載がないことからみて(段落【0023】を参照。)、「マトリックス成分中」における「多官能エポキシ化合物」の含有量について、偶然に本件発明1の要件を満たすものが開示されていたとしても、その含有量を調整する思想については、記載も示唆もされていない。
そして、引用文献1には、ハードコート液に多官能エポキシ化合物を含有させることについて示唆はあるものの、その技術的意味について記載はない。また、上記のとおり、引用文献2には、多官能エポキシ化合物の含有量とその効果についての知見がないので、多官能エポキシ化合物の含有量を、「マトリックス成分中45質量%以上60質量%以下の多官能エポキシ化合物を含む」ように調整する動機づけがない。

(エ) また、引用文献3の段落【0029】、引用文献4の段落【0018】及び引用文献5の段落【0011】には、多官能エポキシ化合物の効果として、染色性、耐擦傷性、密着性、染色時の耐クラック性について記載されている。しかしながら、引用文献3?5に、多官能エポキシ化合物の含有量をどのように調整すべきかについての開示がないことは、引用文献2と同様である。

(オ) そうしてみると、引用文献2?5には、引用発明1-1の「ハードコート層12」において、「ハードコート層形成材料」が、本件発明1でいう「マトリックス成分中45質量%以上60質量%以下の多官能エポキシ化合物を含む」ように調整する動機づけとなる記載はない。また、引用文献1?5には、この他に、引用発明1-1の「ハードコート層形成材料」が、本件発明1の「マトリックス成分中45質量%以上60質量%以下の多官能エポキシ化合物を含む」ように調整する動機づけとなりうる記載はない。

(カ) 上記(ウ)で述べたとおり、引用文献2に、「マトリックス成分中」の「多官能エポキシ化合物」の含有量について、偶然に本件発明1の要件を満たすものが開示されていたとしても、その含有量を調整する思想については、記載も示唆もされていない。したがって、引用発明1に引用文献2?5の技術事項を適用したとしても、本件発明1には到らない。
また、引用発明1-1において、本件発明1の上記相違点に係る構成とすることが、本件優先日前において当該技術分野において周知又は公知であったということもできない。

(キ) 本件発明1は、「耐候性が悪い」(段落【0004】)という課題を解決するために、「ハードコート層の形成に用いられる硬化性組成物中のエポキシ化合物の含有量は、初期クラックの発生抑制、高い耐候性の観点から、マトリックス成分中、40質量%超であり、更に好ましくは45質量%以上」とすることにより、「多官能エポキシ化合物が添加されることで」、「適度な結合と柔軟性をハードコート層に付与することができるため、耐水性や耐紫外線が向上させることができる」(段落【0009】)ようにしたものである。そして、上記事項は、段落【0051】【表2】?段落【0052】【表3】の記載によっても裏付けられている。
一方、引用文献2には、「マトリックス成分中」の「多官能エポキシ化合物」の含有量について、偶然「45質量%以上60質量%以下」なる要件を満たすものが開示されていたとしても、その含有量を調整する思想については、記載も示唆もされていない。したがって、引用文献1?5の記載事項からは、本件発明1の要件を満たすことにより、「高い耐候性」を得られるという効果について、当業者であれば容易に予測し得たということもできない。
したがって、本件発明1の効果は、引用文献1?5の記載事項からみて、顕著なものということができる。

オ 小括
以上のとおりであるから、引用発明1-1において、引用文献2?5に記載された技術事項を参照して、上記相違点に係る構成とすることは、当業者であっても、容易に想到し得たということはできない。
したがって、本件発明1は、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

(2) 本件発明2?5
本件発明2?5は、「硬化性組成物」が、「マトリックス成分中45質量%以上60質量%以下の多官能エポキシ化合物を含む」こととする構成と同一の構成を備えるものである。したがって、本件発明2?5も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

2 引用発明1-2との対比・判断
引用発明を、引用発明1-1に替えて、引用発明1-2を採用したとしても、前記1と同様の理由により、引用発明1-2において、引用文献2?5に記載された技術事項を参照して、上記相違点に係る構成とすることは、当業者であっても、容易に想到し得たということはできない。
したがって、本件発明1?5は、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

3 引用発明3との対比・判断
事案に鑑み、本件発明と引用発明3との対比・判断を行う。
(1) 本件発明1
ア 対比
(ア) 眼鏡レンズ
引用発明3の「眼鏡用のプラスチックレンズ」は、「レンズ基材」と「ハードコート層」を有する。
そして、引用発明3の「眼鏡用のプラスチックレンズ」、「レンズ基材」及び「ハードコート層」は、それぞれ、その名のとおり、「眼鏡レンズ」、「レンズ基材」及び「ハードコート層」である。
したがって、引用発明3の「眼鏡用のプラスチックレンズ」は、「レンズ基材」及び「ハードコート層」は、それぞれ、本件発明1の「眼鏡レンズ」、「レンズ基材」及び「ハードコート層」に相当する。

(イ) ハードコート層の材料
引用発明3の「ハードコート層」は、「γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」、「メタノール分散SiO_(2)微粒子ゾル」及び「ジグリセロールポリグリシジルエーテル」を含有する「ハードコート層形成用組成物」を、「加熱硬化処理を行って」得られる。
引用発明3の「γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」は、本件明細書の段落【0015】の記載からみて、本件発明1の「シランカップリング剤」に該当する。また、引用発明3の「メタノール分散SiO_(2)微粒子ゾル」は、本件発明1の「無機酸化物粒子」に該当する。加えて、引用発明3の「ジグリセロールポリグリシジルエーテル」は、その名称が表す化学構造からみて、本件発明1の「多官能エポキシ化合物」に該当する。さらに、引用発明3の「ハードコート層」は、「ハードコート層形成用組成物」を「加熱硬化」することにより得られるものであるから、「ハードコート層形成用組成物」は、本件発明1でいう「硬化性組成物」である。
そうしてみると、引用発明3の「ハードコート層」は、本件発明1の、「無機酸化物粒子、シランカップリング剤」「多官能エポキシ化合物を含む硬化性組成物を硬化して得られる」という要件を満たす。

(ウ) 多官能エポキシ化合物の含有量
引用発明3の「ハードコート層形成用組成物」は、「γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン57g」及び「ジグリセロールポリグリシジルエーテル50g」を含む。
ここで、引用発明3における、「γ?グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」及び「グリセロールポリグリシジルエーテル」の含有量の総和に対する「グリセロールポリグリシジルエーテル」の含有量、すなわちマトリックス成分中の多官能エポキシ化合物量は、47%程度となる(当合議体注:マトリックス成分中の多官能エポキシ化合物量は、50÷(57+50)=0.47(小数点第3位四捨五入)。)。
したがって、引用発明3の「ハードコート層形成用組成物」は、「マトリックス成分中」における「多官能エポキシ化合物」の含有量について、本件発明1の要件を満たす。

イ 一致点
以上より、本件発明1と引用発明3は、以下の点で一致する。

「 レンズ基材と、ハードコート層と、を有する眼鏡レンズであって、
前記ハードコート層が、無機酸化物粒子、シランカップリング剤、及びマトリックス成分中45質量%以上60質量%以下の多官能エポキシ化合物を含む硬化性組成物を硬化して得られるものである、眼鏡レンズ。」

ウ 相違点
本件発明1と引用発明3を対比すると、ハードコート層が、本件発明1は、「10μm以上50μm以下の膜厚を有」するのに対し、引用発明3では、「膜厚」が「2.5μm」である点で相違する。

エ 判断
(ア) 引用文献3には、「ハードコート層の膜厚は、0.05?30μmであることが好ましい。」と記載されている(段落【0032】を参照。)。しかしながら、引用文献3には、「ハードコート層の膜厚」を、「10μm以上」とすることは記載も示唆もされていない。

(イ) 本件発明1は、「耐候性が悪い」(段落【0004】)という課題を解決するために、「ハードコート層の膜厚は、好ましくは10μm以上50μm以下」(段落【0008】)という構成を採用したものであり、これにより、「高い膜剥離荷重値を示し、すなわち、高い耐引掻傷性を示し、更には初期クラックの発生しにくい、眼鏡レンズが得られる」(段落【0008】)という効果が得られ、「耐候性に優れたハードコート層が得られる」(段落【0053】)ものである。そして、上記事項は、段落【0051】【表2】?段落【0052】【表3】の記載によっても裏付けられている。

(ウ) 引用文献3には、「ハードコート層の膜厚は、0.05?30μmであることが好ましい。膜厚が0.05μm未満では、基本性能が実現できない。また、膜厚が30μmを越えると表面の平滑性が損なわれたり、光学歪みが発生してしまう場合がある。」と記載されている(段落【0032】を参照。)。また、引用文献1には、「ハードコート層の層厚」を「10μm以上40μm以下」(段落【0021】)とすることにより、「より耐傷性の良好な眼鏡レンズを実現できる」(段落【0022】)と記載されている。

(エ) 加えて、引用文献2には、「多官能エポキシ化合物は、さらに、柔軟性あるいは接着性に寄与する」と記載され(段落【0023】を参照。)、引用文献3には、「これらの多官能化合物の中でも、染色性とハードコート層の擦傷性、ハードコート層の外観上に白濁やクラックといった欠陥の出にくさ等を考慮すると、多官能エポキシ化合物が好ましい」と記載されている(段落【0023】を参照。)。

(オ) しかしながら、引用文献1?5の記載事項から、本件発明1の要件を満たすことにより、膜厚を大きくすることによって「耐候性」が向上することに加え、「高い膜剥離荷重値を示し、すなわち、高い耐引掻傷性を示」すという点や、「初期クラックの発生しにくい」という効果について、当業者が容易に予測し得たということはできない。
したがって、本件発明1の効果は、引用文献1?5の記載事項からみて、顕著なものということができる。

オ 小括
以上のとおりであるから、引用発明3において、引用文献1に記載された技術事項を参照して、上記相違点に係る構成とすることは、当業者であっても、容易に想到し得たということはできない。
したがって、本件発明1は、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

(2) 本件発明2?5
本件発明2?5は、「ハードコート層」が、「10μm以上50μm以下の膜厚を有」することとする構成と同一の構成を備えるものである。したがって、本件発明2?5も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

4 引用文献2-1、2-2、4または5との対比・判断
引用発明を、引用発明3に替えて、引用発明2-1、2-2、4または5のいずれかを採用したとしても、前記3と同様の理由により、引用発明2-1、2-2、4または5において、本件発明2-1、2-2、4または5及び引用文献1に記載された技術事項を参照して、上記相違点に係る構成とすることは、当業者であっても、容易に想到し得たということはできない。
したがって、本件発明1?5は、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

第6 特許法第36条第6項第2号について
本件発明1の「ハードコート層」は、無機酸化物粒子、シランカップリング剤、及びマトリックス成分中45質量%以上60質量%以下の多官能エポキシ化合物を含む硬化性組成物を硬化して得られる」ものである。
本件明細書の段落【0050】【表1】には、ハードコート液を作製する際の無機酸化物粒子、シランカップリング剤、及び多官能エポキシ化合物の配合量と、それらの固形分質量が記載されている。そして、上記「固形分質量」とは、例えば引用文献2の段落【0059】に記載のとおり、組成物の焼成後の質量を指していると認められる。
そうしてみると、本件明細書の段落【0050】【表1】を参照した当業者であれば、本件発明1のハードコート層の組成を把握することができるといえる。
したがって、本件発明1は明確ではないということはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明1?5は、当業者が引用発明1?5及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-15 
出願番号 特願2016-515234(P2016-515234)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G02C)
P 1 8・ 121- WY (G02C)
P 1 8・ 537- WY (G02C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 徹沖村 美由清水 督史小西 隆  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 宮澤 浩
高松 大
発明の名称 眼鏡レンズ  
代理人 大谷 保  

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