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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E03D
審判 全部申し立て 2項進歩性  E03D
管理番号 1355950
異議申立番号 異議2018-700701  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-28 
確定日 2019-09-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6284237号発明「便器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6284237号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6284237号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6284237号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成26年8月18日に出願され、平成30年2月9日にその特許権の設定登録がされ、同年2月28日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年 8月28日 :特許異議申立人 TOTO株式会社(以下
「申立人」という。)による特許異議の申立て
平成30年11月21日付け:取消理由通知(11月27日発送)
平成31年 1月23日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成31年 3月 6日 :申立人による意見書の提出
平成31年 3月29日付け:取消理由通知<決定の予告>
(4月8日発送)
令和 1年 6月 6日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年 7月18日 :申立人による意見書の提出


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和1年6月6日付け訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は、特許第6284237号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容(以下「本件訂正」という。)は以下のとおりである。(なお、下線は訂正箇所を示す。)
なお、本件訂正請求がされたことによって、平成31年1月23日付け訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記曲面の上下方向の曲率半径が前側領域の左右中央で最大となり左右両側に向けて徐々に小さくなる連結部」と記載されているのを、「前側領域において、前記曲面の上下方向の曲率半径が前記前側領域の左右中央で最大となり左右両側に向けて徐々に小さくなり、溜水部よりも前方かつ左右側方における前記曲率半径が前記左右中央の曲率半径よりも小さい連結部」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2、3も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
段落【0006】に記載された「前記曲面の上下方向の曲率半径が前側領域の左右中央で最大となり左右両側に向けて徐々に小さくなる連結部」を「前側領域において、前記曲面の上下方向の曲率半径が前記前側領域の左右中央で最大となり左右両側に向けて徐々に小さくなり、溜水部よりも前方かつ左右側方における前記曲率半径が前記左右中央の曲率半径よりも小さい連結部」に訂正する。

(3)訂正事項3
段落【0007】に記載された「本発明の便器は、表面が外側に突出するように湾曲した曲面によって形成された連結部が立壁部と中間壁部とを連結している。」を「本発明の便器は、連結部が立壁部と中間壁部とを連結している。連結部は、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を形成し、下端部が内側に延びており、前側領域において、前記曲面の上下方向の曲率半径が前記前側領域の左右中央で最大となり左右両側に向けて徐々に小さくなり、溜水部よりも前方かつ左右側方における前記曲率半径が前記左右中央の曲率半径よりも小さい。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び新規事項の有無
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1は、「連結部」の「曲面の上下方向の曲率半径」が、「前側領域の左右中央で最大となり左右両側に向けて徐々に小さくなる」ものについて、さらに、「前側領域において、」「溜水部よりも前方かつ左右側方における前記曲率半径が前記左右中央の曲率半径よりも小さい」との限定を加えるものである。よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、上記アのとおり、連結部の曲面の上下方向の曲率半径について限定を加える訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 新規事項の有無について
訂正前の請求項1には、「前記曲面の上下方向の曲率半径が前側領域の左右中央で最大となり左右両側に向けて徐々に小さくなる連結部」と記載され、また、図2、図4及び図5をみると、前側領域において、溜水部よりも前方かつ左右側方における連結部の曲率半径が左右中央の連結部の曲率半径よりも小さいことが看取できる。よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。

(2)訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3は、上記訂正事項1に係る請求項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。

3 一群の請求項について
訂正前の請求項1?3について、請求項2及び3は、直接的又は間接的に請求項1を引用するものであって、請求項1に係る訂正事項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし3に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
上端部において上下方向に延びた表面を形成する立壁部と、
この立壁部の下端に連続し、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を形成し、下端部が内側に延びており、前側領域において、前記曲面の上下方向の曲率半径が前記前側領域の左右中央で最大となり左右両側に向けて徐々に小さくなり、溜水部よりも前方かつ左右側方における前記曲率半径が前記左右中央の曲率半径よりも小さい連結部と、
この連結部の下端に連続し、内側に向けて傾斜した表面を形成する中間壁部とを有した便鉢を備えていることを特徴とする便器。
【請求項2】
前記曲面の上下方向の弧の中点が前記便鉢の前側領域の左右中央で最も低くなることを特徴とする請求項1記載の便器。
【請求項3】
前記上端部の表面が垂直又は上方に向けて外側に傾斜していることを特徴とする請求項1または2記載の便器。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
平成31年1月23日付け訂正請求により訂正された請求項1ないし3に係る特許に対して、当審が平成31年3月29日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

請求項1及び2に係る発明は、下記の刊行物1に記載された発明であるか、若しくは刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項3に係る発明は、刊行物1に記載された発明、及び刊行物3または刊行物4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうすると、請求項1?3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

なお、訂正前の請求項1ないし3に係る特許に対して、当審が平成30年11月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、上記理由に加えて、下記の刊行物2を主引用例として引用するものである。

〔刊行物〕
刊行物1:国際公開第98/16696号(甲第1号証)
刊行物2:特開2014-88765号公報(甲第2号証)
刊行物3:特開2009-97172号公報(甲第3号証)
刊行物4:特開2005-98003号公報(本件特許明細書に記載された先行技術文献)

2 刊行物の記載
(1)刊行物1(下線は、決定において付した。以下同様。)
ア 「 技術分野
この発明は、洗い落とし式、サイホン式、サイホンゼット式などの水洗便器に関するものである。
背景技術
従来、洋式の水洗便器本体としては、図27(a)、図28(a)に示すように、ボウル部100の後部に給・排水部200を配した構造のものが一般的によく知られている。
図27(a)、図28(a)に示すように、ボウル部100には汚物受け面110が設けられていて、溜水部120の水面下に位置する溜水面111と、同溜水面111と連続して形成され、水面上に位置する乾燥面112とから構成されている。
また、ボウル部100の上部開口の周縁には、一定の幅のリム部130が形成されている。」
(明細書1頁3?15行)

イ 「 発明の開示
そこで、本発明者らは、従来の水洗便器が有する課題を改善すベく鋭意検討した結果、上記課題を解決することのできる水洗便器を見出して本発明を完成するに至った。
つまり、本発明は、便器製造において、汚物受け面とリムとの境部分に釉薬の塗布を確実に行え、また、通常の便器清掃も容易に行うことができる水洗便器を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記特長に加えて、洗浄水がボウル部導水路から便器外に飛び出すことがない水洗便器を提供することを目的とする。」
(明細書2頁下から4行?3頁5行)

ウ 「上記目的を達成するために、本発明では、ボウル部の汚物受け面と、同ボウル部の上部開口の周縁に形成したリム部内側壁面とを連続させて湾曲面を形成するとともに、同リム部内側壁面を洗浄水のボウル部導水路としたことを特徴とする水洗便器を提供している。したがって、この水洗便器は、汚物受け面とリムとの境が上方から見て死角となる窪みにならず、便器製造において、この境部分に釉薬の塗布を確実に行え、また、通常の便器清掃も容易となる。」
(明細書3頁21?27行)

エ 「 図面の簡単な説明
図1は、第1実施例に係る水洗便器の縦断面図である。
図2は、第1実施例に係る水洗便器の平面図である。
図3は、図1のI-I線において片側を省略した断面図である。
図4は、図1のII-II線において一部省略した断面図である。
図5は、第1実施例に係る水洗便器の変形例を示す説明図である。」
(明細書5頁4?9行)

オ 「以下、本発明の実施例を図面に基づき具体的に説明する。
(第1実施例)
図1?図4に第1実施例に係る水洗便器Aを示している。 水洗便器Aは釉薬を塗布した陶器製であり、図1及び図2に示すように、その前部がボウル部1を形成し、ボウル部1の後部に給・排水部2を配した構成としている。
ボウル部1は、その内部空間Qの下部に洗浄水を貯溜するとともに、その前部に汚物を受けるための椀状に形成された汚物受け面10を有し、同汚物受け面10は、溜水部Wの水面下に没した溜水面11と、溜水部Wの水面上に位置する乾燥面12とからなり、同乾燥面12は溜水面11に連続する滑らかな段状をなす形状としている。
また、前記ボウル部1の上部開口13の周縁には、一定の幅でリム部14を形成している。」
(明細書8頁下から4行?9頁9行)

カ 「上記構成の水洗便器Aにおいて、本発明の特徴となるのは、ボウル部1の汚物受け面10と、同ボウル部1の上部開口13の周縁に形成したリム部内側壁面15とを連続させて湾曲面を形成するとともに、同リム部内側壁面15を洗浄水のボウル部導水路16としたことにある。」
(明細書9頁20?23行)

キ 「すなわち、オーバーハング面形状としたボウル部導水路16は、図1及び図3に示すように、汚物受け面10の乾燥面12から連続して鋭角状に滑らかに立上がっており、従来のリム部の内側周壁 (図27(a)、図28(a)参照)の傾斜とは逆向きで、しかも、かかるボウル部導水路16と乾燥面12との境界部3を上方から目視可能としている。
かかる構成により、ボウル部1の汚物受け面10とリム部14との境界部3が上方から見て死角となるような窪みにならず、便器製造において釉薬の塗布が確実に行われるので、汚れや雑菌の付着が防止され、しかも、通常の清掃の容易に行えるので衛生性が保たれる。」
(明細書9頁下から2行?10頁7行)

ク 「ところで、上記実施例に示した水洗便器Aについては、図5?図8に示した変形例が考えられる。すなわち、図5に示したものは、ボウル部導水路16と乾燥面12との境界部3が、ボウル部1の前方(図中右方)に向かうにしたがって下り傾斜としており、図6に示したものは、境界部3がボウル部1の前方に向かうにしたがって逆に上り傾斜としている。また、図7に示したものは、境界部3が、洗浄水の旋回方向に沿って漸次下り傾斜としている。さらに、図8に示したものは、下向吐水開口4及び横向吐水開口5を形成した膨出部17を吐出方向に延長している。」
(明細書11頁20?末行)

ケ 図1、図3及び図5は、以下のとおり。
図1


図3


図5


コ 図1及び図3は、それぞれ、第1実施例に係る水洗便器の縦断面図、図1のI-I線において片側を省略した断面図であって(上記エ参照)、図1において、ボウル部導水路16と乾燥面12との直線で表された境界部3の右端付近は、溜水部Wよりも前側の領域に位置している、境界部3の左右中央といえ、また、図3において、同じく境界部3の右端付近は、溜水部Wよりも前側の領域より後方に位置している、ボウル部1の上部開口13の左右方向略最大幅部分である境界部3の左右両側といえる。
そして図1の境界部3の左右中央及び図3の境界部3の左右両側をみると、境界部3の左右中央の断面と左右両側の断面は、ともに、表面が外側に突出するように湾曲した曲面となっており、両曲面の上下方向の曲率半径は、該左右中央のものが該左右両側のものよりも大きいことが看取できる。

サ 上記アないしコからみて、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「前部にボウル部1を形成し、ボウル部1の後部に給・排水部2を配した水洗便器Aにおいて、
ボウル部1は、その内部空間Qの下部に洗浄水を貯留するとともに、その前部に汚物を受けるための椀状に形成された汚物受け面10を有し、同汚物受け面10は、溜水部Wの水面下に没した溜水面11と、溜水部Wの水面上に位置する乾燥面12からなり、同乾燥面12は溜水面11に連続する滑らかな段状をなす形状としており、
前記ボウル部1の上部開口13の周縁には、一定の幅でリム部14を形成し、
ボウル部1の汚物受け面10と、同ボウル部1の上部開口13の周縁に形成したリム部内側壁面15とを連続させて湾曲面を形成するとともに、同リム部内側壁面15を洗浄水のボウル部導水路16とし、
ボウル部導水路16は、汚物受け面10の乾燥面12から連続して鋭角状に滑らかに立上がっており、
ボウル部導水路16と乾燥面12との境界部3が、ボウル部1の前方に向かうにしたがって下り傾斜とし、
溜水部Wよりも前側の領域に位置している、境界部3の左右中央、及び溜水部Wよりも前側の領域より後方に位置している、ボウル部1の上部開口13の左右方向略最大幅部分である境界部3の左右両側には、ともに、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を形成し、両曲面の上下方向の曲率半径は、該左右中央のものが、該左右両側のものよりも大きくなっている、
水洗便器A。」
(なお、上記「溜水部Wよりも前側の領域より後方に位置している、ボウル部1の上部開口13の左右方向略最大幅部分である境界部3の左右両側」は、以下「最大左右両側」という。)

(2)刊行物2
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、洗い落とし式便器に関する。」

イ 「【0007】
そこで、本発明は、従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、節水化の要請を満たすと共に浮遊系汚物を確実に排出することができる洗い落とし式便器を提供することを目的としている。」

ウ 「【発明の効果】
【0015】
本発明の洗い落とし式便器によれば、節水化の要請を満たすと共に浮遊系汚物を確実に排出することができる。」

エ 「【0017】
次に、図1乃至図7を参照して、本発明の一実施形態を説明する。ここで、図1は本発明の実施形態による洗い落とし式便器の側面断面図であり、図2は図1の洗い落とし式便器の平面図であり、図3は図2のIII-III線に沿って見た洗い落とし式便器の正面断面図であり、図4は図2のIV-IV線に沿って見た洗い落とし式便器の正面断面図であり、図5は図2のIV-IV線に沿って見た洗い落とし式便器の正面断面図であり、図6は図2のVI-VI線に沿って見た洗い落とし式便器の正面断面図であり、図7は図1の洗い落とし式便器を便器前方の斜め上方から見た斜視図である。
【0018】
先ず、図1乃至図6に示すように、本発明の実施形態による洗い落とし式便器1は、床置き式で、後述する排水トラップ管路内の水位上昇による落差を利用して汚物を排出する洗い落とし式水洗大便器(ウオッシュダウン式便器)であり、便器本体2と、この便器本体2の後方上部に取り付けられた貯水タンク(図示ぜす)を備えている。貯水タンクには、排水弁が設けられ、操作レバーの操作により開閉し、便器本体2へ洗浄水が供給されるようになっている。
なお、本発明は、床置き式便器以外に壁掛け式の洗い落とし式便器にも適用可能であり、さらに、貯水タンクを用いず水道管に直結したフラッシュバルブを用いた洗い落とし式便器にも適用可能である。
【0019】
便器本体2は、ボウル部8と、このボウル部8の底部から連通して延びる排水トラップ管路10を有する。
ボウル部8は、汚物受け面12と、この汚物受け面12の上縁部に位置しその内周面の上部が内方へ向かって張り出しているリム部14と、汚物受け面12とリム部14との間に形成された棚部16(図3?図6参照)とから構成されている。
【0020】
排水トラップ管路10は、ボウル部8の底部に開口した入口10aから斜め上方に延び、最高点10bを通った後、斜め下方に延びて、出口10cに達し、図示しない排水管に接続されている。洗い落とし式便器1の溜水水位L1は、トラップ管路10の最高点10bの高さと等しくなる。
【0021】
ボウル部8の便器前方から見て左側に位置する棚部16の少し後側には、洗浄水を吐水する第1吐水部である第1吐水口18が形成されている。第1吐水口18から便器前方方句に吐水された洗浄水は、ボウル部8において旋回流A(図7参照)を形成するようになっている。
また、ボウル部8の右側に位置する棚部16の後端側には、洗浄水を吐水する第2吐水口20が形成されている。第2吐水口20から便器方向に吐水された洗浄水は、第1吐水口18から吐水された洗浄水と同一方向へ旋回する旋回流Aを形成するようになっている。
さらに、詳細は後述するが、ボウル部8の便器前方から見て左側の汚物受け面12の側面には第2吐水部である第3吐水口22が形成されている。
【0022】
便器本体2の後部には、通水室24が形成され、この通水室24の後端側は貯水タンク(図示せず)に連通し、貯水タンクから洗浄水が供給されるようになっている。
また、この通水室24の先端側には、第1吐水口18に洗浄水を供給する第1通水路26、第2吐水口20に洗浄水を供給する第2通水路28、さらに、第3吐水口22に洗浄水を供給する第3通水路30がそれぞれ設けられている。
【0023】
次に、ボウル部8の詳細構造を説明する。主に図1及び図2に示すように、ボウル部8の汚物受け面12には、ボウル部8の前方側から排水トラップ管路10の入口10aに向けて延びる凹部32が形成され、この凹部32は、側壁32a,32b及び底面32cを備えている。側壁32a,32bは便器前後方向に延びる中心軸10dに向かって凸面で形成されているので、底面32cを旋回する洗浄水の旋回流の広がりを抑えることができる。
【0024】
この汚物受け面12に形成された凹部32は、その便器前後方向に延びる中心軸32dが、排水トラップ管路10の入口10cの便器前後方向に延びる中心軸10dと、便器幅方向において、同軸となるように配置されている。
【0025】
また、凹部32の底面32cは、ボウル部8の前方側から排水トラップ管路10の入口10aに向けて下り勾配となるように形成されている。
さらに、図1に示すように、ボウル部8の汚物受け面12の前方部12aでは、棚部16を形成することなく、凹部32の前方部とリム部14とが連続して形成されている。」

オ 図1?図4は、以下のとおり。
図1


図2


図3


図4


カ 上記オの図1?図4は、それぞれ、本発明の実施形態による洗い落とし式便器の側面断面図、図1の洗い落とし式便器の平面図、図2のIII-III線に沿って見た洗い落とし式便器の正面断面図、図2のIV-IV線に沿って見た洗い落とし式便器の正面断面図であって(上記エ参照)、図1において、左端は、ボウル部8の底部に開口した入口10aよりも前側の領域の左右中央であって、そのリム部14と凹部32の底面32cとの接続部分には、表面が外側に突出するように湾曲した曲面が形成され、また、図4において、その左右端は、前記前側の領域の左右両側であって、そのリム部14と棚部16との接続部分には、表面が外側に突出するように湾曲した曲面が形成され、前記前側の領域の左右中央の曲面の上下方向の曲率半径は、左右両側の曲面の上下方向の曲率半径よりも大きいことが見て取れる。

キ 上記アないしカからみて、刊行物2には次の発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「便器本体2と貯水タンクを備えた洗い落とし式便器1であって、
便器本体2は、ボウル部8と、このボウル部8の底部から連通して延びる排水トラップ管路10を有し、
ボウル部8は、汚物受け面12と、この汚物受け面12の上縁部に位置しその内周面の上部が内方へ向かって張り出しているリム部14と、汚物受け面12とリム部14との間に形成された棚部16とから構成され、
ボウル部8の汚物受け面12には、ボウル部8の前方側から排水トラップ管路10の入口10aに向けて延びる凹部32が形成され、
ボウル部8の汚物受け面12の前方部12aでは、棚部16を形成することなく、凹部32の前方部とリム部14とが連続して形成され、
入口10aよりも前側の領域の左右中央におけるリム部14と凹部32の底面32cとの接続部分と、該前側の領域の左右両側のリム部14と棚部16との接続部分には、それぞれ、表面が外側に突出するように湾曲した曲面が形成されており、該前側の領域の左右中央の曲面の上下方向の曲率半径は、左右両側の曲面の上下方向の曲率半径よりも大きい、
洗い落とし式便器1。」

(3)刊行物3
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗便器に関し、具体的には、洗い落とし式、サイホン式、サイホンゼット式などの水洗便器に関する。」

イ 「【0008】
本実施形態の水洗便器10の上面12の前方には、ボウル部20とその上に設けられたリム部30が開口し、上面12の後方には、洗浄水を導入するための給水口40が開口している。給水口40の上に、例えば図示しないロータンクを付設し、このロータンクから給水口40に洗浄水を導入することができる。あるいは、水道からフラッシュバルブや電磁開閉弁などを介して給水口40に洗浄水を導入してもよい。
【0009】
ボウル部20は、溜水水位22よりも下方にあり、洗浄水を溜める溜水面24と、溜水水位22よりも上方において露出した露出面26と、を有する。図3に表したように、溜水面24の一部は下方に深く延在し、その後方には、排水路に連通する排水口60が開口している。通常の状態において、溜水水位22まで洗浄水が溜められた溜水部が形成されている。
【0010】
一方、リム部30は、ボウル部20と上面12との間において、水洗便器の開口端を周回するリム面32を有する。そして、リム部30の後方の中央付近には、中央スリット開口54が設けられ、その左右には、水平方向に偏平なスリット開口56、56がそれぞれ開口している。中央スリット開口54の後方には、分配部50が設けられている。」

ウ 「【0028】
本実施形態の場合、図9に表したように、リム面32は略垂直な面とされ、その下に連続するボウル部20の露出面26の上端が傾斜することにより、旋回流C1を下から支えて前方に向かわせる棚部25として作用する。本実施形態によれば、スリット開口56、56から吐水された旋回流は、便器の前方端まで到達すればよく、それ以上周回する必要がないので、棚部25の突出を少なくすることができる。例えば、棚部25の上端における傾斜角度θを概ね45度程度まで小さくすることも可能となる。つまり、棚部25における凹凸や段差をへらし、ボウル面をより滑らかで連続的な曲面により形成することができる。ボウル面の凹凸や段差が減ると、汚れの付着や残留をより効果的に抑制でき、また例えば雑巾などでサッとむらなく拭き取ることも容易となり、清掃性もさらに向上させることができる。」

(4)刊行物4
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗便器に係り、特に、ボウル部に旋回するように洗浄水を供給して便器洗浄を行う水洗便器の水飛び出し防止構造に関する。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の水洗便器においては、従来の便器に比べ、リム部の清掃性が格段に優れたものを提供できているが、水飛び防止のために設けたオーバーハング部152があるため棚部150を旋回するリム洗浄水RSが外部へ飛び出すことが無い反面、このオーバーハング部152の裏側(ボウル部120と対向する側の面)に汚れが付着した場合、立ち位置によっては、見えにくく、その部分の掃除が不十分となる恐れがあった。
そのため、本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、棚部に載せてリム洗浄水を旋回させる便器において、棚部に覆い被さるオーバーハング部をなくしてもリム洗浄水が外部へ飛び出すことの無い水洗便器を提供することを目的とする。」

ウ 「【発明の効果】
【0015】
便器のリム部のオーバーハングをなくして、清掃性を向上させることができるとともに、リム洗浄水が便器外へ飛び出すことがない便器を提供できる。」

エ 「【0017】
この水洗便器Aは陶器製であり、排泄物受け面であるボウル部1と、このボウル部1の開口縁を形成するリム部2と、ボウル部1の後方に設けられたタンク部3とから構成されており、この図1においては、タンク部3がリム部2と連続して一体的に成形されたいわゆるワンピース型の水洗便器である。
ボウル部1とリム部2との間には棚部4が形成されている。この棚部4はボウル部1の上方のリム部2に近い位置に形成された床面と平行に近い面であり、本実施形態においては、その面の傾斜角度である、リム部2からボウル部1へ向う面の接線が床面と水平な面と成す角度が、0度?15度の範囲である面を棚部4として定義する。
【0018】
便器洗浄時には、使用者が排水レバー5を回動することにより排水弁6が上方に移動し、タンク部3に貯められた洗浄水が洗浄水導水路7へ流れ込む。この洗浄水導水路7へ流れ込んだ洗浄水がリム導水路8とゼット導水路9とに分流し、リム導水路8に流れ込んだリム洗浄水Wrは図3に示すようにリム吐水口10から棚部4の上面に向けて噴出される。一方、ゼット導水路9に流れ込んだゼット洗浄水Wzは、ゼット吐水口11から溜水12中に噴出され、溜水12をトラップ部13へ向けて押し出してサイホン作用を発生させ、汚物を排出させる。
なお、トラップ部13と床面に設けられた排水管(図示せず)とは、水洗便器Aとは別に形成された樹脂製の排水ソケット14にて連結されており、この排水ソケット14の流路内部には、サイホン作用の発生を促進させるために流路が屈曲形成されている。
【0019】
リム洗浄水Wrの流れについて詳細に説明する。図3に示すように、リム吐水口10から噴出されたリム洗浄水Wrは、棚部4に乗って旋回する主リム洗浄水Wr-1と、旋回に伴い副リム洗浄水Wr-2とを構成し、このリム洗浄水Wrによってボウル部1の付着した汚物やトイレットペーパーは溜水12へ落とし込まれる。
【0020】
そして、水洗便器Aのボウル部上縁を形成するリブ部2と棚部4とを繋ぐ縦面2aは、垂直乃至は外側に広がる形状である。そのため、ボウル部1の内面は、棚部4及び縦面2aを含めてボウル部1上方から死角となる部分が無くなる。そのため、ボウル部1からリム部2に至る水洗便器A内面の掃除は非常に簡単となる。
しかし、棚部4の上方の縦面2aが垂直乃至は外側に広がる形状であるため、棚部4を流れるリム洗浄水Wrが縦面2aに沿って上昇し易く、特に、図1?3の右端である水洗便器Aの前方端位置においては棚部4の曲率が最も小さく、そのため、リム洗浄水Wrの縦面2aに沿った上昇距離も大きくリム部2上面から飛び出し易いが、ボウル部1の上縁であるリム部2上面から棚部4の上面までの距離Hは、棚部4の全周に亘って60mmに形成されている。そのため、水洗便器Aの前方端位置であっても、リム洗浄水Wrがリム部2を乗り越えてボウル部1の外へ飛び出すことが防止されている。
なお、棚部4のリム部上面からの距離Hとしては、溜水12の上面よりも高い位置であって、便器洗浄時に溜水12が旋回することによる水位上昇時にも容易に水没すること無いように、80mm以内とすることが好ましい。
従って、棚部の高さは、少なくともボウル部前端位置で60mm?80mmとするが、望ましくは、リム洗浄水が旋回方向に向かって大きく曲率を変化し始める位置を起点として、便器の対称位置までの領域に前記数値範囲の棚部の高さを形成する。」

3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 刊行物1を主引用例として検討
(ア)対比
本件発明1と刊行物1発明を対比する。
a 刊行物1発明の「リム部内側壁面15」または「ボウル部導水路16」、「境界部3」付近、「乾燥面12」、「ボウル部1」、「溜水部Wよりも前側の領域」、「水洗便器A」は、それぞれ本件発明1の「立壁部」、「連結部」、「中間壁部」、「便鉢」、「前側領域」、「便器」に相当する。

b そうすると、本件発明1と刊行物1発明とは、
「上端部において上下方向に延びた表面を形成する立壁部と、
この立壁部の下端に連続し、下端部が内側に延びている連結部と、
この連結部の下端に連続し、内側に向けて傾斜した表面を形成する中間壁部とを有した便鉢を備えていることを特徴とする便器。」で一致するものの、連結部が、本件発明1は、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を形成し、前側領域において、前記曲面の上下方向の曲率半径が前記前側領域の左右中央で最大となり左右両側に向けて徐々に小さくなり、溜水部よりも前方かつ左右側方における前記曲率半径が前記左右中央の曲率半径よりも小さいのに対し、刊行物1発明は、前側領域において、前側領域の左右中央に、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を形成しているものの、左右中央以外の位置に、本件発明1のような上下方向の曲率半径となるような、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を備えているかどうか不明な点で相違している。(以下「相違点1」という。)。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。
a 刊行物1発明において、溜水部Wよりも前側の領域に位置している、境界部3の左右中央と、(溜水部Wよりも前側の領域より後方に位置している、ボウル部1の上部開口13の左右方向略最大幅部分である境界部3の左右両側である)最大左右両側には、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を備えており、該左右中央と該最大左右両側については、上下方向の曲率半径の対比はできるとしても、それらの間の部分については、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を備えているか不明であるから、該それらの間の部分の上下方向の曲率がどの程度であるのかも不明といわざるを得ない。
便器のボウル部内は、水の流れが急激に変化しないように、滑らかに徐々に変化する表面形状を採用することが適宜行われているものの、部分的に急激に変化する表面形状や、逆に変化のない一定の表面形状とすることを、必要に応じて採用することも考えられるから、刊行物1発明において、該左右中央から該左右最大両側のうち、その一部だけではなく、全ての部分を、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を形成した上で、さらに、その上下方向の曲率半径を、該左右中央から外側に向けて徐々に小さい構成である蓋然性が高いとはいえず、また、当該構成を当業者が容易になし得たこととは認められない。
そして、刊行物1発明において、該左右両側よりも該左右中央側に位置する前側の領域の左右両側についても、本件発明1のように、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を形成した上で、さらに、その上下方向の曲率半径を、該左右中央から外側に向けて徐々に小さい構成である蓋然性が高いとはいえず、また、当該構成を当業者が容易になし得たこととは認められない。

b 申立人は、令和1年7月18日付け意見書において、
当審が通知した取消理由通知<決定の予告>の
「(ア)通常、便器のボウル部内は、水の流れが急激に変化しないように、滑らかに徐々に変化する表面形状を備えており、また、文献1発明において、境界部3の左右中央から最大左右両側にかけて、その構造上、何らかの顕著な形状の変化を伴うような部分は見当たらないことから、文献1発明は、左右中央から最大左右両側にかけて、滑らかに徐々に変化するような曲面となっており、曲面の上下方向の曲率半径が左右中央で最大となり最大左右両側に向けて徐々に小さくなる蓋然性が高いといえる。そして、文献1発明において、最大左右両側は溜水部Wよりも前側の領域より後方に位置していることからすると、溜水部Wよりも前側の領域における左右両側は、左右中央と最大左右両側との間に位置しているから、左右中央と最大左右両側との間の領域の一部である溜水部Wよりも前側の領域においても、曲面の上下方向の曲率半径が前記前側領域の左右中央で最大となり左右両側へ向けて徐々に小さくなる蓋然性が高いといえる。
(イ)仮に、上記の曲率半径が上記(ア)のとおりでなかっとしても、上記(ア)の前段で説示した事情を考慮すれば、文献1発明において、溜水部Wよりも前側の領域における曲面の上下方向の曲率半径を、前記前側領域の左右中央で最大とし左右両側へ向けて徐々に小さくすることは、当業者が容易になし得たことである。」と説示した点と同様である旨、主張している。

しかしながら、上記aで説示したとおり、該左右中央から該左右最大両側にかけて、全ての部分を、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を形成した上で、さらに、その上下方向の曲率半径を、該左右中央から外側に向けて徐々に小さくすることは、当業者が容易になし得たこととは認められないから、申立人の主張は採用できない。

イ 刊行物2を主引用例として検討
(ア)対比
a 刊行物2発明の「リム部14」、「リム部14と凹部32の底面32cとの接続部分」又は「リム部14と棚部16との接続部分」、「凹部32の底面32c」又は「棚部16」、「ボウル部8」は、それぞれ本件発明1の「立壁部」、「連結部」、「中間壁部」、「便鉢」に相当する。

b そうすると、本件発明1と刊行物2発明とは、
「上端部において上下方向に延びた表面を形成する立壁部と、
この立壁部の下端に連続し、下端部が内側に延びている連結部と、
この連結部の下端に連続し、内側に向けて傾斜した表面を形成する中間壁部とを有した便鉢を備えていることを特徴とする便器。」で一致するものの、連結部が、本件発明1は、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を形成し、前側領域において、前記曲面の上下方向の曲率半径が前記前側領域の左右中央で最大となり左右両側に向けて徐々に小さくなり、溜水部よりも前方かつ左右側方における前記曲率半径が前記左右中央の曲率半径よりも小さいのに対し、刊行物2発明は、前側領域において、前側領域の左右中央と左右両側に、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を形成しているものの、左右中央から左右両側にかけて、本件発明1のような上下方向の曲率半径となるような、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を備えているかどうか不明な点で相違している(以下「相違点2」という。)。

(イ)判断
上記相違点2について検討する。
刊行物2発明において、上下方向の曲率半径は、前側領域の左右中央の曲面の上下方向のものと、左右両側の曲面の上下方向のものとを比較することはできるものの、それらの間の部分がどのような形状であるのかは不明である。
そして、刊行物2発明の入口10aより前側の領域において、左右中央における接続部分は、リム部14と凹部32の底面32cとで形成されているのに対し、左右両側の接続部分は、リム部14と棚部16により形成され、凹部32の底面32cは棚部16とは別の面であるから、左右中央における接続部分と左右両側の接続部分とは、それらの曲面を構成する面が相違している。
よって、便器のボウル部内は、水の流れが急激に変化しないように、滑らかに徐々に変化する表面形状を採用することが適宜行われているとしても、刊行物2発明において、左右中央と左右両側を構成する面が相違する以上、両曲面間が滑らかに徐々に変化する表面形状である蓋然性が高いとはいえないし、さらに当業者が該表面形状を採用することが容易になし得たこととも認められない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、刊行物1または刊行物2に記載された発明ではない。また、上記相違点1及び2に係る構成は、刊行物3および刊行物4にも記載されていないから、本件発明1は、刊行物1ないし刊行物4に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)請求項2、3に係る発明について
本件発明2は、本件発明1に対し、さらに「前記曲面の上下方向の弧の中点が前記便鉢の前側領域の左右中央で最も低くなる」という技術事項を追加したものであって、本件発明3は、本件発明1または2に対し、「前記上端部の表面が垂直又は上方に向けて外側に傾斜している」という技術事項を追加したものである。
そうすると、上記(1)に記載した理由と同様の理由により、本件発明2、3は、刊行物1または刊行物2に記載された発明ではなく、さらに、刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


第5 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
便器
【技術分野】
【0001】
本発明は便器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来の便器を開示している。この便器は、立壁部、連結部、及び中間壁部を備えている。立壁部はリムの内周から内側の下方へ延びている。連結部は立壁部の下端から内側に向かって外側に突出するように湾曲した曲面によって形成され下端部が内側を向いて延びている。中間壁部は連結部の下端から内側に向かって水平方向に延びている。また、中間壁部は立壁部の上端縁と所定の距離を離して設けられている。このため、この便器は、中間壁部を覆うように立壁部の上端部を内側に向けて迫り出すオーバーハング部を形成しなくても、中間壁部の表面を流れる洗浄水が便器の外に飛び出すことを抑えることができる。また、この便器は、オーバーハング部を有していないため、便鉢の内側全体を一目で見渡すことができ、便鉢の表面の汚れを視認しやすく、便鉢の清掃を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-98003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の便器は、連結部が急激に湾曲して内側に向きを変えて延びている。このため、この便器は、連結部に小便がぶつかった場合、立壁部の下端部に滞留するおそれがある。立壁部の下端部に滞留した小便にさらに小便がぶつかると、飛沫が発生し便鉢外へ飛散するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、小便の飛沫の発生を抑えることができる便器を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の便器は、
上端部において上下方向に延びた表面を形成する立壁部と、
この立壁部の下端に連続し、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を形成し、下端部が内側に延びており、前側領域において、前記曲面の上下方向の曲率半径が前記前側領域の左右中央で最大となり左右両側に向けて徐々に小さくなり、溜水部よりも前方かつ左右側方における前記曲率半径が前記左右中央の曲率半径よりも小さい連結部と、
この連結部の下端に連続し、内側に向けて傾斜した表面を形成する中間壁部とを有した便鉢を備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明の便器は、連結部が立壁部と中間壁部とを連結している。連結部は、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を形成し、下端部が内側に延びており、前側領域において、前記曲面の上下方向の曲率半径が前側領域の左右中央で最大となり左右両側に向けて徐々に小さくなり、溜水部よりも前方かつ左右側方における曲率半径が左右中央の曲率半径よりも小さい。便鉢の前側領域の左右中央部における連結部が、直接的に小便がぶつかることが想定される部分である。この部分が上下方向の曲率半径が最大となる曲面によって形成されている。このため、この便器は、小便が便鉢の前側領域の左右中央部の曲面にぶつかった場合、この部分の上下方向の曲率半径が大きいため、小便を流れやすくすることができる。つまり、この便器は、立壁部と連結部との境界部分に小便が滞留することを抑えることができる。
【0008】
したがって、本発明の便器は、小便の飛沫の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例の便器の斜視図である。
【図2】実施例の便器を示す上面図である。
【図3】実施例の便器の左右中央断面図である。
【図4】図2における矢視A-A部の断面図である。
【図5】図2における矢視B-B部の断面図である。
【図6】図2における矢視C-C部の断面図である。
【図7】図2における矢視D-D部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0011】
本発明の便器は、前記曲面の上下方向の弧の中点が前記便鉢の前側領域の左右中央で最も低くなり得る。この場合、便鉢の前側領域の左右中央における連結部が、直接的に小便がぶつかることが想定される部分であり、この部分の上下方向の弧の中点を最も低くし、便鉢の上端縁との間隔を大きくすることによって、小便の飛沫が便鉢外へ飛散し難くすることができる。
【0012】
本発明の便器は、前記上端部の表面が垂直又は上方に向けて外側に僅かに傾斜し得る。この場合、この便器は、便鉢の表面全体を一目で見渡すことができる。このため、この便器は、便鉢の表面の汚れを視認しやすく、便鉢の清掃を容易に行うことができる。
【0013】
次に、本発明の便器を具体化した実施例について、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
<実施例>
実施例の便器は、図1?図4に示すように、便鉢10、排水路30、リム11、周囲壁12、支持壁17、及び上面部50を備えている。
【0015】
便鉢10は、図1、図2、及び図3に示すように、椀状をなしている。この便鉢10は、第一立壁部13(立壁部)、連結部23、中間壁部14、及び第二立壁部15を有している。第一立壁部13は、表面が上下方向に延びており外側に僅かに傾斜している(上下は図3における左側右側。以下同じ。)。連結部23は、表面が第一立壁部13の下端に連続し、外側に突出するように湾曲した曲面23Aが形成され下端部が内側に向かい延びている。中間壁部14は、表面が連結部23の下端に連続して内側に向けて下方に僅かに傾斜して延びている。第二立壁部15は、表面が中間壁部14の下端部から下方に向けて延びており内側に僅かに傾斜している。つまり、便鉢10の上端部は表面が上方に向けて外側に僅かに傾斜している。また、便鉢10の上端部と中間部との間は表面が外側に突出するように湾曲した曲面23Aである。また、便鉢10の中間部は表面が内側に向けて下方に僅かに傾斜している。さらに、便鉢10の下端部は表面が下方に向けて内側に僅かに傾斜している。
【0016】
連結部23の曲面23Aは、図1?図3に示すように、上下方向の曲率半径が便鉢10の前側領域24の左右中央で最も大きくなっている(左右は図1における左側右側。以下同じ。)。
【0017】
また、連結部23の曲面23Aは、図3及び図4に示すように、上下方向の弧の中点25が便鉢10の前側領域24の左右中央で最も低くなっている(前は図3における上側。以下同じ。)。
【0018】
排水路30は、図3に示すように、便鉢10の下流側に連通している。この排水路30は、第一下降流路31、上昇流路32、及び第二下降流路33を有している。第一下降流路31は、便鉢10の下流側に連通して便鉢10の後方に向けて下降して延びている(後は図3における下側。以下同じ。)。上昇流路32は、第一下降流路31の下流側に連通して便鉢10の後方に向けて上昇して延びている。第二下降流路33は、上昇流路32の下流側に連通してほぼ垂直に下方に向けて延びている。第二下降流路33は、下流側の開口部34が下向きに開口している。この便器は、便鉢10の下端部と、第一下降流路31と、上昇流路32とによって溜水部16を形成している。
【0019】
便鉢10は、図2に示すように、上方から見た平面視において、表面の開口形状が前端部の曲率半径が後端部の曲率半径より小さい卵型形状をなしている。便鉢10は、図2及び図7に示すように、第一立壁部13の左側の後端部で上下方向の中間に吐水口18が設けられている。吐水口18は、外形形状が横方向に長いほぼ長円形状である。また、吐水口18は下端縁が右側より左側が高く形成されている。
【0020】
リム11は、便鉢10の上端部に連続して前方及び左右方向の外側にほぼ水平に拡がっている。リム11は、図1及び図2に示すように、前端部から左右領域26の中央部に向けて徐々に幅を狭く形成されている。つまり、この便器は、上方から見た平面視において、便器の左右の幅を拡げることなく便鉢10の左右領域26の上端部の周方向の曲率半径を小さくし、便鉢10の前側領域24の上端部の周方向の曲率半径を大きくすることができる。これに伴い、この便器は、便鉢10の前側領域24における連結部23の周方向の曲率半径も大きくすることができる。この形状によっても、この便器は、連結部23の前端部の左右中央部の曲面23Aに小便がぶつかった場合、小便が左右方向に拡がって流れやすくすることができる。つまり、この便器は、第1立壁部13と連結部23との境界部分に小便が滞留することを抑えることにより小便の飛沫が便鉢10外に飛散することを抑えることができる。
【0021】
周囲壁12は、図3、図4、図5、及び図6に示すように、リム11の外周端部に連続して下方に延びている。この周囲壁12は便鉢10の前及び左右を覆っている。この周囲壁12はリム11の外周端部から下方に向けて内側に向けて僅かに凹むように湾曲している。周囲壁12は下端面が床面に設置される。支持壁17は、図3に示すように、便鉢10の下部と周囲壁12の下端部19の前側とを繋いで形成されている。
【0022】
上面部50は、図1、図2、及び図3に示すように、便鉢10の上端部に連続して後方向に拡がっている。この便器は、上面部50の後方に便鉢10に供給する洗浄水を貯留する洗浄タンク(図示せず)を載置する洗浄タンク載置部51を有している。この便器は、上面部50の下方において上面部と間を離して下面部54が設けられている。
【0023】
この便器は、図3に示すように、第一立壁部13、上面部50、下面部54、及び洗浄タンク載置部51の前壁51Aで囲まれた給水空間55を形成している。この給水空間55は、便器の後部の上端部に設けられている。給水空間55は、洗浄タンク載置部51の前壁51Aに設けられた給水孔56を介して洗浄タンク載置部51に連通している。また、この給水空間55は、吐水口18を介して便鉢10内に連通している。この便器は、洗浄タンク載置部51側から給水口56にディストリビューター(図示せず)が挿通される。
【0024】
上面部50は、図1及び図2に示すように、垂直方向に貫設された一対の貫通孔57を有している。これら貫通孔57は便器の左右中心線に対して対称位置に貫設されている。これら貫通孔57は上面部50から下面部54まで貫通している。これら貫通孔57は給水空間55と隔てられている。これら貫通孔57は便座装置を固定する取付具(図示せず)が挿通される。
【0025】
この便器は、図3?図7に示すように、便鉢10、リム11、周囲壁12、及び支持壁17で囲まれた空洞部20を有している。また、この便器は、図1に示すように、後部の下端部に一対のフランジ部58を備えている。これらフランジ部58は、便器の左右中心線に対して対称位置に設けられている。これらフランジ部58は、それぞれの中間部に貫通穴59が設けられている。これら貫通穴59は、便器の左右中心線に対して対称位置に貫設されている。これら貫通穴59は、フランジ部58のそれぞれに垂直方向に貫設されている。これら貫通穴59は、便器を床面に設置する際に固定する取付具(図示せず)が挿通される。
【0026】
このような構成を有する便器は、表面が外側に突出するように湾曲した曲面23Aによって形成された連結部23が第一立壁部13と中間壁部14とを連結している。便鉢10の前側領域24の左右中央部における連結部23が、直接的に小便がぶつかることが想定される部分である。この部分が上下方向の曲率半径が最大となる曲面によって形成されている。このため、この便器は、小便が便鉢10の前側領域24の左右中央部の曲面23Aにぶつかった場合、この部分の上下方向の曲率半径が大きいため、小便を流れやすくすることができる。つまり、この便器は、第一立壁部13と連結部23との境界部分に小便が滞留することを抑えることができる。
【0027】
したがって、本発明の便器は、小便の飛沫の発生を抑えることができる。
【0028】
また、実施例の便器は、曲面23Aの上下方向の弧の中点25が便鉢10の前側領域24の左右中央で最も低くなっている。これにより、この便器は、便鉢10の前側領域24の左右中央部における連結部23の上下方向の弧の中点25を最も低くし、便鉢10の上端縁との間隔を大きくすることによって、小便の飛沫が便鉢10外へ飛散し難くしている。
【0029】
また、実施例の便器は、便鉢10の上端部の表面が上方に向けて外側に僅かに傾斜している。このため、この便器は、便鉢10の表面全体を一目で見渡すことができる。このため、この便器は、便鉢10の表面の汚れを視認しやすく、便鉢10の清掃を容易に行うことができる。
【0030】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例では、洗浄水の供給にディストリビューターを用いたが、水道管を直結する方法等でもよい。
(2)実施例では、便鉢の上端部の表面が上方に向けて外側に僅かに傾斜しているが、垂直又は上方に向けて内側に傾斜していてもよい。
(3)実施例では、吐水口が便鉢の左側の後端部に1箇所設けてあったが、複数設けてもよい。
(4)実施例では、水洗式であったが、水洗式でなくてもよい。
(5)実施例では、便器の左右の幅を拡げることなく、便鉢の左右端部の曲率半径を大きくしているが、便器の左右の幅を拡げてもよい。
(6)実施例では、排水路の開口部が下向きに開口しているが、後ろ向きに開口していてもよい。
【符号の説明】
【0031】
10…便鉢
13…第一立壁部(立壁部)
14…中間壁部
23…連結部
23A…曲面
24…前側領域
25…弧の中点
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端部において上下方向に延びた表面を形成する立壁部と、
この立壁部の下端に連続し、表面が外側に突出するように湾曲した曲面を形成し、下端部が内側に延びており、前側領域において、前記曲面の上下方向の曲率半径が前記前側領域の左右中央で最大となり左右両側に向けて徐々に小さくなり、溜水部よりも前方かつ左右側方における前記曲率半径が前記左右中央の曲率半径よりも小さい連結部と、
この連結部の下端に連続し、内側に向けて傾斜した表面を形成する中間壁部とを有した便鉢を備えていることを特徴とする便器。
【請求項2】
前記曲面の上下方向の弧の中点が前記便鉢の前側領域の左右中央で最も低くなることを特徴とする請求項1記載の便器。
【請求項3】
前記上端部の表面が垂直又は上方に向けて外側に傾斜していることを特徴とする請求項1または2記載の便器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-08-22 
出願番号 特願2014-166149(P2014-166149)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (E03D)
P 1 651・ 121- YAA (E03D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 七字 ひろみ  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 有家 秀郎
住田 秀弘
登録日 2018-02-09 
登録番号 特許第6284237号(P6284237)
権利者 株式会社LIXIL
発明の名称 便器  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 渡邊 誠  
代理人 特許業務法人グランダム特許事務所  
代理人 特許業務法人グランダム特許事務所  

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