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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1355951
異議申立番号 異議2018-700807  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-04 
確定日 2019-08-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6306443号発明「発光ダイオード及び発光ダイオードの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6306443号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?3]、[4?5]について訂正することを認める。 特許第6306443号の請求項1,3及び4に係る特許を維持する。 特許第6306443号の請求項2及び5に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯等
1 特許第6306443号(以下「本件特許」という。)についての経緯は、次のとおりである。
平成26年 6月11日 :特許出願
平成30年 3月16日 :特許登録(請求項の数5)
平成30年 4月 4日 :特許掲載公報の発行
平成30年10月 4日 :中野圭二による請求項1?5に係る特許に 対する特許異議の申立て
平成31年 3月 1日付け:取消理由通知書
平成31年 4月26日 :訂正請求書・意見書(特許権者)
令和 元年 7月17日 :意見書(特許異議申立人)

2 特許異議申立人及び特許権者は、証拠方法として次のものを提出した。なお、以下、証拠番号の「第」及び「号証」は略して表記する。
(1)特許異議申立人が提出したもの
甲1:特表2012-513681号公報
甲2:国際公開第2013/114480号についての再公表公報(平成27年5月11日発行)

(2)特許権者が提出したもの
乙1:Hongbo Xu, et al., “Biomimetic Antireflective Hierarchical Arrays”, Langmuir, 2011, Vol.27, p.4963-p.4967
乙2:Ji-Myon Lee, et al., “Dry etch damage in n-type GaN and its recovery by treatment with an N_(2) plasma”, Journal of Applied Physics, 2000, Vol.87, No.11, p.7667-p.7670
乙3:J. K. Sheu, et al., “Inductively coupled plasma etching of GaN using Cl_(2)/Ar and Cl_(2)/N_(2) gases”, Journal of Applied Physics 1999, Vol.85, No.3, p.1970-p.1974
乙4:R. J. Shul, et al., “Inductively coupled plasma etching of GaN”, Appled Physics Letters, 1996, Vol.69, No.8, p.1119-p.1121
乙5:R. J. Shul, et al., “Inductively coupled plasma-induced etch damage of GaN p-n junctions”, Journal of Vacuum Science & Technology A, 2000, Vol.18, No.4, p.1139-p.1143
乙6:S. A. Smith, et al., “High rate and selective etching of GaN, AlGaN, and AlN using an inductively coupled plasma”, 1997, Vol.71, No.25, p.3631-p.3633
乙7:化合物半導体の最新技術 大全集、第1版、技術情報協会、2007年、466頁?479頁

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成31年4月26日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(下線は、訂正箇所として特許権者が付したものである。)。
なお、本件訂正は、一群の請求項[1?3]、[4?5]に対して請求されたものといえる。
(1)訂正事項1
請求項1の
「基板と、該基板の第1主面上に形成されたn型半導体層と、該n型半導体層上に形成された発光層と、該発光層上に形成されたp型半導体層とからなる半導体積層部と、を備えた中心発光波長λの光を発光する発光ダイオードであって、前記発光ダイオードの光取り出し面に、錐台形状のパターンが形成されており、前記錐台形状のパターンの下底長が1.2λ以上1.7λ以下であり、傾斜角が65度以上80度以下であり、上底長が0.4λ以上1.2λ以下である発光ダイオード。」と記載されているのを、
「基板と、該基板の第1主面上に形成されたn型半導体層と、該n型半導体層上に形成された発光層と、該発光層上に形成されたp型半導体層とからなる半導体積層部と、を備えた中心発光波長λの光を発光する発光ダイオードであって、前記発光ダイオードの光取り出し面が、前記基板の、第1主面の裏面である第2主面であり、前記発光ダイオードの光取り出し面に、錐台形状のパターンが形成されており、前記錐台形状のパターンの下底長が1.2λ以上1.7λ以下であり、傾斜角が65度以上80度以下であり、上底長が0.4λ以上1.2λ以下である発光ダイオード。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
請求項3の
「前記基板が、窒化物である請求項1又は2に記載の発光ダイオード。」と記載されているのを、
「前記基板が、窒化物である請求項1に記載の発光ダイオード。」に訂正する。

(4)訂正事項4
請求項4の
「基板の第1主面上に、n型半導体層と発光層とp型半導体層とが積層された半導体積層部を備える発光ダイオード用半導体ウェハの発光ダイオードの光取り出し面となる領域上に、斜面が順テーパーの錐台形状又は錐体形状のマスクを形成するマスク工程と、」と記載されているのを、
「基板の第1主面上にn型半導体層と発光層とp型半導体層とが積層された半導体積層部を備える発光ダイオード用半導体ウェハの、発光ダイオードの光取り出し面となる、前記基板の前記第1主面の裏面である第2主面の領域上に、斜面が順テーパーの錐台形状又は錐体形状のマスクを形成するマスク工程と、」に訂正する。

(5)訂正事項5
請求項5を削除する。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1における「前記発光ダイオードの光取り出し面」との特定事項について、「前記基板の、第1主面の裏面である第2主面であ」ると限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)における特許請求の範囲の請求項2には、「前記光取り出し面が、前記基板の第1主面の裏面である第2主面である」と記載されているから、訂正事項1は、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3が「請求項1又は2」を引用していたのを「請求項1」のみを引用するようにした訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4は、「斜面が順テーパーの錐台形状又は錐体形状のマスクを形成するマスク工程」について、本件訂正前の請求項4が、「基板の第1主面上に、n型半導体層と発光層とp型半導体層とが積層された半導体積層部を備える発光ダイオード用半導体ウェハの発光ダイオードの光取り出し面となる領域上に」マスクを形成するとしていたのを、「基板の第1主面上にn型半導体層と発光層とp型半導体層とが積層された半導体積層部を備える発光ダイオード用半導体ウェハの、発光ダイオードの光取り出し面となる、前記基板の前記第1主面の裏面である第2主面の領域上に」マスクを形成すると限定するとともに、その限定に伴って表現ぶりを整理したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項4は、上記(1)イと同様の理由で、新規事項を追加しない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5
訂正事項5は、本件訂正前の請求項5を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正要件の判断についての小括
上記(1)?(5)のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3 訂正の適否についての判断の小括
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?3]、[4?5]について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の請求項に係る発明の認定
上記第2のとおり、本件訂正は認められたから、本件訂正後の請求項1?5に係る発明(以下「本件訂正発明1」?「本件訂正発明5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次のとおりのものである。
[本件訂正発明1]
「基板と、
該基板の第1主面上に形成されたn型半導体層と、該n型半導体層上に形成された発光層と、該発光層上に形成されたp型半導体層とからなる半導体積層部と、
を備えた中心発光波長λの光を発光する発光ダイオードであって、
前記発光ダイオードの光取り出し面が、前記基板の、第1主面の裏面である第2主面であり、
前記発光ダイオードの光取り出し面に、錐台形状のパターンが形成されており、前記錐台形状のパターンの下底長が1.2λ以上1.7λ以下であり、傾斜角が65度以上80度以下であり、上底長が0.4λ以上1.2λ以下である発光ダイオード。」

[本件訂正発明2]
(削除)

[本件訂正発明3]
「前記基板が、窒化物である請求項1に記載の発光ダイオード。」

[本件訂正発明4]
「基板の第1主面上にn型半導体層と発光層とp型半導体層とが積層された半導体積層部を備える発光ダイオード用半導体ウェハの、発光ダイオードの光取り出し面となる、前記基板の前記第1主面の裏面である第2主面の領域上に、斜面が順テーパーの錐台形状又は錐体形状のマスクを形成するマスク工程と、
前記マスク越しに光取り出し面をエッチングして錐台形状のパターンを形成するパターン形成工程と、
を有し、
前記錐台形状のパターンが、下底長が1.2λ以上1.7λ以下であり、傾斜角が65度以上80度以下であり、上底長が0.4λ以上1.2λ以下である発光ダイオードの製造方法。」

[本件訂正発明5]
(削除)

第4 平成31年3月1日付け取消理由通知書に記載した取消理由に対する判断
1 上記取消理由(以下、単に「取消理由」という。)の概要
取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由1(新規性欠如)
本件訂正前の請求項1及び4に係る発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)取消理由2(進歩性欠如)
ア 本件訂正前の請求項1、4及び5に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1、4及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 本件訂正前の請求項2及び3に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項2及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)取消理由3(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(4)取消理由4(サポート要件違反)
本件特許は、本件訂正前の請求項1?5の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

[引用文献等一覧]
引用文献1:特表2012-513681号公報(甲1)
引用文献2:国際公開第2013/114480号(甲2に対応する国際公開公報)

2 引用文献1及び引用文献2の記載事項の認定
(1)引用文献1
ア 引用文献1(特表2012-513681号公報)には、次の記載がある(下線は、当審が付した。以下同じ。)。
(ア)「【特許請求の範囲】」、
「電磁放射を発生させるための少なくとも1つの活性層(3)を有する半導体積層体(2)と、前記半導体積層体(2)の放射伝播エリア(20)上に少なくとも間接的に設置された光取り出し構造(4)と、を備えたオプトエレクトロニクス半導体チップ(1)であって、
- 前記光取り出し構造(4)の材料は前記半導体積層体(2)の材料と異なり、
- 前記光取り出し構造(4)の材料の屈折率と前記半導体積層体(2)の材料の屈折率とは、最大で30%異なり、
- 前記光取り出し構造(4)の側面(40)の合計面積は、前記放射伝播エリア(20)の面積の少なくとも5%に達する、
オプトエレクトロニクス半導体チップ(1)。」(【請求項1】)、
「前記側面(40)は、前記放射伝播エリア(20)に対して少なくとも15°、最大で75°の角度(α)を成す、前記光取り出し構造(4)の境界エリア、または、当該境界エリアの部分である、請求項1に記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ(1)。」(【請求項2】)、
「前記放射伝播エリア(20)に平行な方向の前記光取り出し構造(4)の横方向長さ(L)は0.2?10μmであり、
前記放射伝播エリア(20)に垂直な方向の前記光取り出し構造(4)の高さ(H)は0.3?10μmである、請求項1または請求項2に記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ(1)。」(【請求項3】)、
「前記光取り出し構造(4)の前記材料により島部(6)が形成され、隣接する前記島部(6)は互いに離間している、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ(1)。」(【請求項4】)、
「前記光取り出し構造(4)は、円角錐状、球セグメント状、ドーム状、および/または円錐台状に形成され、
前記光取り出し構造(4)のベース面は前記放射伝播エリア(20)に対向する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ(1)。」(【請求項5】)、
「- 少なくとも1つの活性層(3)を有する半導体積層体(2)を成長基板(7)上に成長させるステップと、
- 前記半導体積層体(2)の放射伝播エリア(20)に、感光性材料(15)を塗布して、パターニングするステップと、
- 部分領域(16)において前記感光性材料(15)を除去するステップと、
- 光取り出し構造(4)を前記放射伝播エリア(20)上の前記部分領域(16)内に少なくとも間接的に形成するステップと、
- 前記感光性材料(15)を除去するステップと、を含み、
前記光取り出し構造(4)の材料は前記半導体積層体(2)の材料と異なり、
前記光取り出し構造(4)の前記材料の屈折率と前記半導体積層体(2)の前記材料の屈折率とは、最大で30%異なり、
前記光取り出し構造(4)の側面の合計面積は、前記放射伝播エリア(20)の面積の少なくとも30%に達する、オプトエレクトロニクス半導体チップの製造方法。」(【請求項13】)

(イ)「オプトエレクトロニクス半導体チップの少なくとも1つの実施形態によれば、オプトエレクトロニクス半導体チップは、動作中に活性層で発生した放射を半導体チップから取り出す効率である、光取り出し効率(coupling-out efficiency)を向上させるよう設計された光取り出し構造を有する。」(【0007】)、
「かかる場合、オプトエレクトロニクス半導体チップの放射伝播エリアは、特に製造誤差範囲内で平坦である領域であって、半導体積層体の成長方向に対して垂直な方向に配向し、成長方向に対して垂直な方向に半導体積層体の境界を定める領域であることが好ましい。つまり、放射伝播エリアは、半導体積層体の一主面である。特に、放射伝播エリアは、キャリアまたは基板と反対方向に向く半導体積層体面に位置する。放射伝播エリアは、半導体積層体で発生した放射の少なくとも一部が放射伝播エリアを通過して半導体積層体から出射するように設計される。」(【0009】)、
「オプトエレクトロニクス半導体チップの少なくとも1つの実施形態によれば、光取り出し構造の材料は半導体積層体の材料と異なる。ここで「異なる」とは、光取り出し構造が半導体積層体とは異なる材料系をベースにしていることを意味する。したがって、特に「異なる」とは、光取り出し構造の材料と半導体積層体の材料とが単にドープ材や成分比率で異なることを意味しない。例えば、半導体積層体をGaNベースとする一方、光取り出し構造をTiO_(2)ベースとする。」(【0012】)、
「オプトエレクトロニクス半導体チップの少なくとも1つの実施形態によれば、光取り出し構造の材料と屈折率と半導体積層体の材料の屈折率とは、最大で30%異なる。言い換えると、両材料の屈折率の差を半導体積層体材料の屈折率で割った商の絶対値は0.30以下である。かかる場合、半導体積層体の材料は、特に、放射伝播エリアの形成に用いた半導体積層体材料を意味することを理解されたい。したがって、光取り出し構造および半導体積層体は、互いに異なる屈折率を有することができる。」(【0013】)、
「ここで「屈折率」とは、特に、いずれの場合も関連波長または関連波長範囲における屈折率を意味するものと理解されたい。「関連波長」とは、特に、半導体積層体で発生する放射の波長である。」(【0014】)、
「このような、特には半導体積層体材料との屈折率の差が小さい光取り出し構造により、半導体チップで発生した放射を取り出す際に、高い光取り出し効率を確保することができる。光取り出し構造の材料を半導体積層体とは異ならせているため、光取り出し構造の製造を簡素化することができ、またそのため、オプトエレクトロニクス半導体チップの製造も簡素化することができる。」(【0019】)、
「オプトエレクトロニクス半導体チップの少なくとも1つの実施形態によれば、光取り出し構造は、半導体積層体から離れる方向に半導体積層体上方に伸びる。言い換えると、光取り出し構造は、半導体積層体の材料除去すなわち窪みにより形成するのではなく、半導体積層体の形成完了後、半導体積層体上に設置および/または成長させるものである。」(【0047】)、
「オプトエレクトロニクス半導体チップの少なくとも1つの実施形態によれば、半導体積層体で発生する放射の波長は、紫外線、可視光線、および/または近赤外線のスペクトル
範囲内である。したがって、放射の波長は200?1500nm、特に340?1080nmである。」(【0048】)、
「オプトエレクトロニクス半導体チップの少なくとも1つの実施形態によれば、半導体積層体で発生する放射の波長は、特に、600nm以下である。したがって、放射は、特に、紫外線、または青色光もしくは緑色光により構成される。」(【0049】)

(ウ)「図2はオプトエレクトロニクス半導体チップ1の更なる例示的な一実施形態を示す。n導電層8が基板7上に成長している。n導電層8はサファイアで形成することができる。n導電層8は、少なくとも一部分において、半導体積層体2と同じようにGaNベースである。n導電層8には、基板7と反対方向に向く面に活性層3が成長しており、基板7から離れる方向のn導電層8上方には、p導電層9が配置されている。放射伝播エリア20に対して垂直方向のp導電層9の厚さは、n導電層の厚さよりも著しく小さい。」(【0077】)(当審注:「n導層8には、」は「n導電層8には、」の誤記であると認められるので、誤記を正した上で認定した。)、


「放射伝播エリア20に沿って電流を拡散させるための導電層5がp導電層9上に設けられている。導電層5は、例えば、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、または、酸化亜鉛からなる。本実施形態において、放射伝播エリア20に対して垂直方向の導電層5の厚さは、250nm以下である。導電層5は、光取り出し構造4が放射伝播エリア20と直接接触するように、光取り出し構造4により完全に貫通されている。半導体積層体2と反対側を向く導電層5の面は、製造誤差範囲内において、平滑にされている。」(【0078】)、
「光取り出し構造4が形成される導電層5の切り抜き部は、エッチング法および/またはフォトリソグラフィー法により形成することができる。放射伝播エリア20は平坦面とされ、光取り出し構造4は、放射伝播エリア20に対して垂直方向に半導体積層体2上方に伸びている。したがって、光取り出し構造4は半導体積層体2の材料除去により形成されたものではない。」(【0079】)、
「半導体積層体2と電気的接触させるために、n型コンタクト部10がn導電層8上に配置されている。p型コンタクト部11が導電層5上に配置されている。両コンタクト部10,11は、例えば、金属で形成される。」(【0080】)、
「光取り出し構造4の他の形成方法としては、半導体積層体2をエッチングすることが考えられる。したがって、かかる場合、特にn導電層8またはp導電層9からの材料除去により、光取り出し構造が形成される。このような手法による光取り出し構造4の形成を可能にするためには、n導電層8またはp導電層9を厚くして、光取り出し構造の高さHを効率的な光取り出しを行うために必要な高さにしなければならない。」(【0081】)、
「n導電層8およびp導電層9が厚い場合、熱負荷等により当該層内に材料歪みが生じ、オプトエレクトロニクス半導体チップ1の寿命が短くなる可能性がある。したがって、特に、n導電層8およびp導電層9の厚さはできる限り小さくすることが好ましい、n導電層8およびp導電層9の厚さは小さくすることが好ましいため、半導体積層体2からの材料除去による光取り出し構造4の形成はクリティカルな工程である。過度に材料除去を行った場合、活性層3が損傷して半導体チップ1が使用不能となるからである。」(【0082】)、
「したがって、半導体積層体2の材料除去を行わず、光取り出し構造を半導体積層体2に設置することにより、まず第1に、導電層8およびp導電層9のエッチングというクリティカルな工程が不要になる。さらに、導電層8およびp導電層9の厚さを小さくすることができるため、オプトエレクトロニクス半導体チップ1の長寿命化を図ることができる。」(【0083】)

(エ)「図8は、半導体積層体2で発生した放射の半導体チップ1からの取り出し効率である光取り出し効率Eを光取り出し構造4の材料の屈折率nの関数として表したプロファイルを示す。ここで、光取り出し効率Eの最大値は1としている。図示された曲線は、GaNをベースとした、屈折率2.5の半導体積層体2についてのものである。半導体積層体2および光取り出し構造4は同様に、屈折率が約1.4?1.5のエポキシド、シリコーン、またはエポキシド-シリコーン複合材料からなるポッティング材により囲まれている。」(【0102】)、
「光取り出し構造4はTiO_(2)からなり、また、ベース面外形が正方形の角錐台状である。光取り出し構造の高さHは約750nm、横方向長さLは約1μm、上面側の幅Wは約0.5μmである(図9Bも参照)。」(【0103】)

イ 上記アによれば、引用文献1には、オプトエレクトロニクス半導体チップに係る次の発明(以下「引用文献1物発明」という。)が記載されていると認められる。なお、引用発明の認定に用いた段落番号等を、参考までに、括弧内に付していることがある(以下、同じ。)。
「電磁放射を発生させるための少なくとも1つの活性層(3)を有する半導体積層体(2)と、前記半導体積層体(2)の放射伝播エリア(20)上に少なくとも間接的に設置された光取り出し構造(4)と、を備えたオプトエレクトロニクス半導体チップ(1)であって、
- 前記光取り出し構造(4)の材料は前記半導体積層体(2)の材料と異なり、
- 前記光取り出し構造(4)の材料の屈折率と前記半導体積層体(2)の材料の屈折率とは、最大で30%異なり、
- 前記光取り出し構造(4)の側面(40)の合計面積は、前記放射伝播エリア(20)の面積の少なくとも5%に達する、
オプトエレクトロニクス半導体チップ(1)であって、(【請求項1】)
前記側面(40)は、前記放射伝播エリア(20)に対して少なくとも15°、最大で75°の角度(α)を成す、前記光取り出し構造(4)の境界エリア、または、当該境界エリアの部分であり、(【請求項2】)
前記放射伝播エリア(20)に平行な方向の前記光取り出し構造(4)の横方向長さ(L)は0.2?10μmであり、
前記放射伝播エリア(20)に垂直な方向の前記光取り出し構造(4)の高さ(H)は0.3?10μmであり、(【請求項3】)
放射伝播エリアは、半導体積層体の一主面であるとともに、基板と反対方向に向く半導体積層体面に位置し、さらに、半導体積層体で発生した放射の少なくとも一部が放射伝播エリアを通過して半導体積層体から出射するように設計され、(【0009】)
半導体積層体で発生する放射の波長は、600nm以下であり、(【0049】)
n導電層8が基板7上に成長しており、n導電層8には、基板7と反対方向に向く面に活性層3が成長しており、基板7から離れる方向のn導電層8上方には、p導電層9が配置されており、(【0077】)
光取り出し構造4はTiO_(2)からなり、また、ベース面外形が正方形の角錐台状であり、光取り出し構造の高さHは約750nm、横方向長さLは約1μm、上面側の幅Wは約0.5μmである、(【0103】)
オプトエレクトロニクス半導体チップ(1)。」

ウ 上記アによれば、引用文献1には、オプトエレクトロニクス半導体チップの製造方法に係る次の発明(以下「引用文献1製法発明」という。)が記載されていると認められる。
「- 少なくとも1つの活性層(3)を有する半導体積層体(2)を成長基板(7)上に成長させるステップと、
- 前記半導体積層体(2)の放射伝播エリア(20)に、感光性材料(15)を塗布して、パターニングするステップと、
- 部分領域(16)において前記感光性材料(15)を除去するステップと、
- 光取り出し構造(4)を前記放射伝播エリア(20)上の前記部分領域(16)内に少なくとも間接的に形成するステップと、
- 前記感光性材料(15)を除去するステップと、を含み、
前記光取り出し構造(4)の材料は前記半導体積層体(2)の材料と異なり、
前記光取り出し構造(4)の前記材料の屈折率と前記半導体積層体(2)の前記材料の屈折率とは、最大で30%異なり、
前記光取り出し構造(4)の側面の合計面積は、前記放射伝播エリア(20)の面積の少なくとも30%に達する、オプトエレクトロニクス半導体チップの製造方法であって、(【請求項13】)
前記オプトエレクトロニクス半導体チップは、
電磁放射を発生させるための少なくとも1つの活性層(3)を有する半導体積層体(2)と、前記半導体積層体(2)の放射伝播エリア(20)上に少なくとも間接的に設置された光取り出し構造(4)と、を備えたオプトエレクトロニクス半導体チップ(1)であって、
- 前記光取り出し構造(4)の材料は前記半導体積層体(2)の材料と異なり、
- 前記光取り出し構造(4)の材料の屈折率と前記半導体積層体(2)の材料の屈折率とは、最大で30%異なり、
- 前記光取り出し構造(4)の側面(40)の合計面積は、前記放射伝播エリア(20)の面積の少なくとも5%に達し、(【請求項1】)
前記側面(40)は、前記放射伝播エリア(20)に対して少なくとも15°、最大で75°の角度(α)を成す、前記光取り出し構造(4)の境界エリア、または、当該境界エリアの部分であり、(【請求項2】)
前記放射伝播エリア(20)に平行な方向の前記光取り出し構造(4)の横方向長さ(L)は0.2?10μmであり、
前記放射伝播エリア(20)に垂直な方向の前記光取り出し構造(4)の高さ(H)は0.3?10μmであり、(【請求項3】)
放射伝播エリアは、半導体積層体の一主面であるとともに、基板と反対方向に向く半導体積層体面に位置し、さらに、半導体積層体で発生した放射の少なくとも一部が放射伝播エリアを通過して半導体積層体から出射するように設計され、(【0009】)
半導体積層体で発生する放射の波長は、600nm以下であり、(【0049】)
n導電層8が基板7上に成長しており、n導電層8には、基板7と反対方向に向く面に活性層3が成長しており、基板7から離れる方向のn導電層8上方には、p導電層9が配置されており、(【0077】)
光取り出し構造4はTiO_(2)からなり、また、ベース面外形が正方形の角錐台状であり、光取り出し構造の高さHは約750nm、横方向長さLは約1μm、上面側の幅Wは約0.5μmである、(【0103】)
オプトエレクトロニクス半導体チップ(1)の製造方法。」

(2)引用文献2
ア 引用文献2には、次の記載がある。
「第1の実施形態に係る半導体発光素子101は、窒化物系半導体の非極性面又は半極性面を主面とする活性層22を含む半導体積層構造20を有している。・・・(略)・・・」(【0058】)、
「基板10は、非極性面又は半極性面を主面とする半導体積層構造20の形成に適した材料が選ばれる。具体的には、窒化ガリウム(GaN)を用いることができる。・・・(略)・・・
基板10は、互いに対向する第1主面及び第2主面を有し、第1主面は、半導体積層構造20のn型窒化物半導体層21と接している。第2主面は、活性層22で発光した偏光光を取り出す出射面となる。本実施形態においては、光の出射面である第2主面に、複数の凸部と複数の凹部とが互いに並行してストライプ状に延びるストライプ構造50が形成されている。」(【0063】)
【図3】


イ 上記アの記載によれば、引用文献2には次の技術的事項が記載されていると認められる。
「基板10のn型窒化物半導体層21と接している第1主面とは反対側の第2主面を、活性層22で発光した偏光光を取り出す出射面とし、第2主面に、複数の凸部と複数の凹部とが互いに並行してストライプ状に延びるストライプ構造50を設けること。」

3 取消理由1及び2に対する判断
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
(ア)本件訂正発明1の「基板と、該基板の第1主面上に形成されたn型半導体層と、該n型半導体層上に形成された発光層と、該発光層上に形成されたp型半導体層とからなる半導体積層部と、」との特定事項について
a 引用文献1物発明の「基板7」は、本件訂正発明1の「基板」に相当する。

b 引用文献1物発明は、「n導電層8が基板7上に成長して」いるから、本件訂正発明1の「該基板の第1主面上に形成されたn型半導体層」との特定事項を備える。

c 引用文献1物発明は、「n導電層8には、基板7と反対方向に向く面に活性層3が成長して」いるから、本件訂正発明1の「該n型半導体層上に形成された発光層」との特定事項を備える。

d 引用文献1物発明は、「基板7から離れる方向のn導電層8上方には、p導電層9が配置されて」いるから、本件訂正発明1の「該発光層上に形成されたp型半導体層」との特定事項を備える。

e 引用文献1物発明の「半導体積層体(2)」は、「n導電層8」、「活性層3」及び「p導電層9」とからなると解されるから、本件訂正発明1の「半導体積層部」に相当する。

f よって、引用文献1物発明は、本件訂正発明1の「基板と、該基板の第1主面上に形成されたn型半導体層と、該n型半導体層上に形成された発光層と、該発光層上に形成されたp型半導体層とからなる半導体積層部と、」との特定事項を備える。

(イ)本件訂正発明1の「中心発光波長λの光を発光する発光ダイオードであって、」との特定事項について
a 引用文献1物発明の「600nm以下」である「半導体積層体で発生する放射の波長」は、本件訂正発明1の「中心発光波長λ」に相当する。

b 引用文献1物発明の「オプトエレクトロニクス半導体チップ(1)」は、本件訂正発明1の「発光ダイオード」に相当する。

c よって、上記(ア)も踏まえると、引用文献1物発明は、本件訂正発明1の「中心発光波長λの光を発光する発光ダイオードであって、」との特定事項を備える。

(ウ)本件訂正発明1の「前記発光ダイオードの光取り出し面が、前記基板の、第1主面の裏面である第2主面であり、」との特定事項について
a 引用文献1物発明の「放射伝播エリア(20)」は、「半導体積層体で発生した放射の少なくとも一部が放射伝播エリアを通過して半導体積層体から出射するように設計され」たものであるから、本件訂正発明1の「発光ダイオードの光取り出し面」に相当する。そして、引用文献1物発明の「放射伝播エリア」は、「半導体積層体の一主面であるとともに、基板と反対方向に向く半導体積層体面に位置」する。

b このように、引用文献1物発明における(本件訂正発明1でいう)「光取り出し面」は、「前記半導体積層体(2)の一主面」であって、「基板と反対側に向く半導体積層体面」であることになり、よって、本件訂正発明1でいう「前記基板の、第1主面の裏面である第2主面」ではない。
このように、引用文献1物発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備えない。

(エ)本件訂正発明1の「前記発光ダイオードの光取り出し面に、錐台形状のパターンが形成されており、前記錐台形状のパターンの下底長が1.2λ以上1.7λ以下であり、傾斜角が65度以上80度以下であり、上底長が0.4λ以上1.2λ以下である」との特定事項について
a 引用文献1物発明の「光取り出し構造4」は、「ベース面外形が正方形の角錐台状」であるから、引用文献1物発明は、本件訂正発明1の「前記発光ダイオードの光取り出し面に、錐台形状のパターンが形成されて」いるとの特定事項を備える。

b 引用文献1物発明の「横方向長さL」は、本件訂正発明1の「下底長」に相当する。

c 引用文献1物発明の「上面側の幅W」は、本件訂正発明1の「上底長」に相当する。

d 引用文献1物発明の「光取り出し構造の高さHは約750nm、横方向長さLは約1μm、上面側の幅Wは約0.5μm」であるから、引用文献1物発明の(本件訂正発明1でいう)「傾斜角」は、約72度であると認められる。
よって、引用文献1物発明は、本件訂正発明1の「傾斜角が65度以上80度以下であ」るとの特定事項を備える。

e したがって、引用文献1物発明は、本件訂正発明1の「前記発光ダイオードの光取り出し面に、錐台形状のパターンが形成されており、前記錐台形状のパターン」の「傾斜角が65度以上80度以下であ」るとの特定事項を備える。
しかし、引用文献1物発明は、「前記錐台形状のパターン」の「下底長が1.2λ以上1.7λ以下であり、上底長が0.4λ以上1.2λ以下である」とは、特定されていない。

(オ)本件訂正発明1の「発光ダイオード」との特定事項について
上記(イ)のとおり、引用文献1物発明は、本件訂正発明1の「発光ダイオード」との特定事項を備える。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件訂正発明1と引用文献1物発明とは、
「基板と、
該基板の第1主面上に形成されたn型半導体層と、該n型半導体層上に形成された発光層と、該発光層上に形成されたp型半導体層とからなる半導体積層部と、
を備えた中心発光波長λの光を発光する発光ダイオードであって、
前記発光ダイオードの光取り出し面に、錐台形状のパターンが形成されており、前記錐台形状のパターンの傾斜角が65度以上80度以下である、発光ダイオード。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「前記発光ダイオードの光取り出し面」が、本件訂正発明1では、「前記基板の、第1主面の裏面である第2主面であ」るのに対し、引用文献1物発明では、そうではなく、「前記半導体積層体(2)の一主面」であって、「基板と反対側に向く半導体積層体面」である点。

[相違点2]
「前記錐台形状のパターン」について、本件訂正発明1は、「下底長が1.2λ以上1.7λ以下であり、上底長が0.4λ以上1.2λ以下である」のに対し、引用文献1物発明は、そのように特定されておらず、波長が600nm以下であって、下底長が約1μmであり、上底長が約0.5μmである点。

ウ 相違点1の判断
(ア)相違点1は実質的であるから、本件訂正発明1は、引用文献1物発明ではない。

(イ)次に、相違点1が当業者にとって容易想到であるかについて検討する。
まず、引用文献1物発明にいかなる変更を加えると相違点1に係る構成に至るのかについて確認すると、引用文献1物発明のオプトエレクトロニクス半導体チップ(本件訂正発明1の「発光ダイオード」に相当。)の放射伝播エリア(本件訂正発明1の「光取り出し面」に相当。)を、基板の主面のうち、半導体積層体が存在しない側の主面(甲1の図2(下図)でいえば、基板7の下側の面)にするとともに、光取り出し構造を当該主面上に設置するように構成変更すればよいことになる。


(ウ)しかしながら、引用文献1物発明に、上記(イ)で説示した変更を施すことは、次のとおり、当業者であっても困難であるというべきである。
a 第一に、引用文献1物発明に上記(イ)で説示した変更を施すことは、引用文献1物発明がよってたつ前提に反する。
(a)すなわち、引用文献1物発明は、「光取り出し構造(4)」が、「半導体積層体(2)の放射伝播エリア(20)上に少なくとも間接的に設置された」ものであるとともに、「前記光取り出し構造(4)の材料は前記半導体積層体(2)の材料と異なり」、「前記光取り出し構造(4)の材料の屈折率と前記半導体積層体(2)の材料の屈折率とは、最大で30%異な」るとの構成を含むものである。

(b)しかるに、引用文献1物発明が上記構成を採用した技術的意義は、引用文献1の【0007】・【0019】・【0081】?【0083】によれば、次のとおりであると認められる。
引用文献1物発明は、光取り出し効率を向上させるよう設計された光取り出し構造を有するものである。
そして、光取り出し構造を、半導体積層体から材料除去(エッチングなど)をして形成する場合、n導電層又はp導電層を厚くする必要があるけれども、これらの層を厚くしてしまうと、熱負荷等により材料歪みが生じ、オプトエレクトロニクス半導体チップの寿命が短くなる可能性がある。他方で、これらの層を薄くしてしまうと、材料除去がクリティカルな工程となり、活性層が損傷してオプトエレクトロニクス半導体チップが使用不能となったりする可能性がある。
そこで、光取り出し構造の形成を、半導体積層体から材料除去することで行うのではなく、半導体積層体とは異なる材料であるが屈折率の差が小さい材料からなる光取り出し構造を半導体積層体の放射伝播エリア上に設置することで行うことにする。
このように、光取り出し構造の材料を半導体積層体とは異ならせているため、光取り出し構造の製造を簡素化することができ、またそのため、オプトエレクトロニクス半導体チップの製造も簡素化することができる。
さらに、半導体積層体材料との屈折率の差が小さい光取り出し構造により、半導体チップで発生した放射を取り出す際に、高い光取り出し効率を確保することができる。

(c)上記(b)によれば、引用文献1物発明は、半導体積層体の主面を放射伝播エリア(本件訂正発明1の「光取り出し面」に相当。)にするとともに、光取り出し構造を当該主面側に設けることを前提に、その前提を採用したことに伴って生じる課題(半導体積層体から材料除去をして光取り出し構造を形成すると、オプトエレクトロニクス半導体チップの寿命が短くなったり、使用不能となったりすること。)を解決するための発明であると解するのが相当である。
このように、引用文献1物発明は、少なくとも、半導体積層体の主面が放射伝播エリアであるとの前提のもとでなされたものであるところ、引用文献1物発明に上記(イ)で説示した変更を施すことは、当該前提を崩すことにほかならない。したがって、かかる変更は、引用文献1物発明から出発した当業者にとっては、想定しがたいというべきである。

b 第二に、引用文献1物発明に上記(イ)で説示した変更を施すと、引用文献1物発明の目的に反することになる。
すなわち、引用文献1物発明は、光取り出し効率を向上させることを目的とした発明であるけれども、引用文献1物発明に当該変更を施しても、光取り出し効率が向上するとはいえず、むしろ、低下するのである。なぜならば、引用文献1物発明に当該変更を施したときに光取り出し効率を向上させるためには、光取り出し構造の材料を基板の材料に屈折率整合させなければならないのであるが、引用文献1物発明では、光取り出し構造の材料の屈折率が半導体積層体の材料の屈折率と最大で30%異なっていることからみて、光取り出し構造の材料が屈折率整合しているのは、(基板の材料ではなく)半導体積層体の材料であるからである。
このように、引用文献1物発明において上記(イ)で説示した変更を施すことは、光取り出し効率を向上させるという引用文献1物発明の目的に反することになるのである。したがって、かかる変更は、引用文献1物発明から出発した当業者にとっては、想定しがたいことであるというべきである。

c そして、上記a及びbの判断は、引用文献2に記載された技術的事項を考慮しても左右されることはない。
すなわち、上記2(2)イで認定した引用文献2に記載された技術的事項によれば、引用文献2には、上記(イ)で説示した構成が開示されていると認められるけれども、引用文献2には、上記a及びbの観点を克服することについては何ら記載されていないから、当業者が、引用文献1物発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用することはない。

d このような次第で、引用文献1物発明に上記(イ)で説示した変更を施すことは、当業者であっても困難である。

(エ)ところで、取消理由は、相違点1に関して、要旨、次のとおりの判断を行った。
すなわち、引用文献1の【0091】及び図5(下図)には、n型半導体層上に光取り出し構造4を設けた構造(以下「図5構造」という。)が記載されているところ、このような図5構造を踏まえると、引用文献1物発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用して、相違点1に係る構成のようにすることは、当業者にとって容易である。


しかしながら、図5構造は、半導体積層体の主面を放射伝播エリア(本件訂正発明1の「光取り出し面」に相当。)にするとともに、光取り出し構造を当該主面側に設けるという構成であるから、上記(ウ)a(c)で説示した前提を満たすものなのであり、その意味では、引用文献1物発明と変わりない。
よって、引用文献1に図5構造に関する記載があるからといって、その記載が引用文献1物発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用するための動機付けとなることはない。

(オ)特許異議申立人は、令和元年7月17日付け意見書(特許異議申立人)において、引用文献1の【0096】及び図6(下図)に記載された構造(以下「図6構造」という。)につき、当業者であれば、図6構造には、絶縁性の成長用ベース基板(例えば、サファイア基板)が、光取り出し構造4と半導体積層体2との間に存在すると考える旨主張する。


しかしながら、図6構造には、絶縁性の成長用ベース基板が記載されていない。そして、図6構造は、半導体積層体の主面を放射伝播エリア(本件訂正発明1の「光取り出し面」に相当。)にするとともに、光取り出し構造を当該主面側に設けるという構成であるから、上記(ウ)a(c)で説示した前提を満たすものである。加えて、図6構造において、特許異議申立人が主張するように絶縁性の成長用ベース基板を光取り出し構造4と半導体積層体2との間に存在させてしまうと、上記の前提が崩れてしまう。
そうすると、当業者は、図6構造を、図6に記載されたとおりに理解すると認められる。換言すれば、当業者が、図6構造を、特許異議申立人が主張するような構造、すなわち、絶縁性の成長用ベース基板が光取り出し構造4と半導体積層体2との間に存在する構造、と理解することはないと認められる。
特許異議申立人の主張は採用できない。

(カ)相違点1の判断についての小括
よって、引用文献1物発明から出発した当業者は、引用文献2に記載された技術的事項を考慮したとしても、相違点1に係る構成に至ることはない。

エ 本件訂正発明1についての判断の小括
このように、本件訂正発明1は、引用文献1物発明ではない。
また、本件訂正発明1は、相違点2について判断するまでもなく、引用文献1物発明、引用文献1に記載された技術的事項及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
よって、本件訂正発明1に対する取消理由1及び2は、成り立たない。

(2)本件訂正発明3について
本件訂正発明3と引用文献1物発明とを対比すると、上記(1)イで認定した一致点で一致し、相違点1及び2で相違するほか、次の点で相違する。
[相違点3]
「前記基板」について、本件訂正発明3は、「窒化物」であるのに対し、引用文献1物発明は、そうではない点。
そして、本件訂正発明3は、相違点1に係る構成を含むのであるから、本件訂正発明1と同様の理由で、引用文献1物発明、引用文献1に記載された技術的事項及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件訂正発明3に対する取消理由2は、成り立たない。

(3)本件訂正発明4について
ア 対比
(ア)本件訂正発明4の「基板の第1主面上にn型半導体層と発光層とp型半導体層とが積層された半導体積層部を備える発光ダイオード用半導体ウェハの、発光ダイオードの光取り出し面となる、前記基板の前記第1主面の裏面である第2主面の領域上に、」との特定事項について
a 引用文献1製法発明の「半導体積層体(2)」は、本件訂正発明4の「半導体積層部」に相当する。
そして、引用文献1製法発明の「半導体積層体(2)」は、「n導電層8が基板7上に成長しており、n導電層8には、基板7と反対方向に向く面に活性層3が成長しており、基板7から離れる方向のn導電層8上方には、p導電層9が配置され」たものであるから、上記(1)ア(ア)も踏まえると、本件訂正発明4でいう「基板の第1主面上にn型半導体層と発光層とp型半導体層とが積層された」ものである。

b 引用文献1製法発明は、「少なくとも1つの活性層(3)を有する半導体積層体(2)を成長基板(7)上に成長させるステップ」と「前記半導体積層体(2)の放射伝播エリア(20)に、感光性材料(15)を塗布して、パターニングするステップ」とを有しているから、当該「半導体積層体(2)」は、本件訂正発明4でいう「発光ダイオード用半導体ウェハ」に備えられたものといえる。

c 引用文献1製法発明は、「前記半導体積層体(2)の放射伝播エリア(20)に、感光性材料(15)を塗布して、パターニングするステップ」を有しているところ、上記(1)ア(ウ)aも踏まえると、引用文献1製法発明の「放射伝播エリア(20)」は、本件訂正発明4の「発光ダイオードの光取り出し面」に相当する。

d よって、引用文献1製法発明は、本件訂正発明4の「基板の第1主面上にn型半導体層と発光層とp型半導体層とが積層された半導体積層部を備える発光ダイオード用半導体ウェハの、発光ダイオードの光取り出し面となる」「領域上に」との特定事項を備える。
しかし、引用文献1製法発明では、「発光ダイオードの光取り出し面」が、上記(1)ア(ウ)aと同様に、半導体積層体の一主面であるとともに、基板と反対方向に向く半導体積層体面であって、「前記基板の前記第1主面の裏面である第2主面」ではない。

(イ)本件訂正発明4の「斜面が順テーパーの錐台形状又は錐体形状のマスクを形成するマスク工程と、前記マスク越しに光取り出し面をエッチングして錐台形状のパターンを形成するパターン形成工程と、」との特定事項について
a 引用文献1製法発明は、「- 前記半導体積層体(2)の放射伝播エリア(20)に、感光性材料(15)を塗布して、パターニングするステップと、
- 部分領域(16)において前記感光性材料(15)を除去するステップと、
- 光取り出し構造(4)を前記放射伝播エリア(20)上の前記部分領域(16)内に少なくとも間接的に形成するステップと、
- 前記感光性材料(15)を除去するステップ」を含み、「光取り出し構造(4)」は、「ベース面外形が正方形の角錐台状」であるとされている。
そうすると、引用文献1製法発明は、本件訂正発明4でいう「錐台形状のパターンを形成するパターン形成工程」を備えているといえる。

b しかし、引用文献1製法発明は、本件訂正発明4の「斜面が順テーパーの錐台形状又は錐体形状のマスクを形成するマスク工程と、前記マスク越しに光取り出し面をエッチングして錐台形状のパターンを形成する」との特定事項を備えない。

(ウ)本件訂正発明4の「前記錐台形状のパターンが、下底長が1.2λ以上1.7λ以下であり、傾斜角が65度以上80度以下であり、上底長が0.4λ以上1.2λ以下である」との特定事項について
上記(1)ア(エ)と同様の理由で、引用文献1製法発明は、本件訂正発明4の「前記錐台形状のパターン」の「傾斜角が65度以上80度以下であ」るとの特定事項を備える。
しかし、引用文献1製法発明は、「前記錐台形状のパターン」の「下底長が1.2λ以上1.7λ以下であり、上底長が0.4λ以上1.2λ以下である」との特定事項を備えない。

(エ)本件訂正発明4の「発光ダイオードの製造方法。」との特定事項について
引用文献1製法発明の「オプトエレクトロニクス半導体チップ(1)の製造方法」は、本件訂正発明4の「発光ダイオードの製造方法」に相当する。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件訂正発明4と引用文献1製法発明とは、
「基板の第1主面上にn型半導体層と発光層とp型半導体層とが積層された半導体積層部を備える発光ダイオード用半導体ウェハの、発光ダイオードの光取り出し面となる領域上に、錐台形状のパターンを形成するパターン形成工程と、
を有し、
前記錐台形状のパターンが、傾斜角が65度以上80度以下である発光ダイオードの製造方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点4]
「発光ダイオードの光取り出し面」が、本件訂正発明4では、「前記基板の、第1主面の裏面である第2主面であ」るのに対し、引用文献1製法発明では、そうではなく、半導体積層体の一主面であるとともに、基板と反対方向に向く半導体積層体面である点。

[相違点5]
「パターン形成工程」について、本件訂正発明4は、「斜面が順テーパーの錐台形状又は錐体形状のマスクを形成するマスク工程と、前記マスク越しに光取り出し面をエッチング」する工程とからなるのに対し、引用文献1製法発明では、そうではない点。

[相違点6]
「前記錐台形状のパターン」について、本件訂正発明4は、「下底長が1.2λ以上1.7λ以下であり、上底長が0.4λ以上1.2λ以下である」のに対し、甲4製法発明は、波長が600nm以下であって、下底長が約1μmであり、上底長が約0.5μmである点。

ウ 相違点4の判断
まず、相違点4は実質的であるから、本件訂正発明4は、引用文献1製法発明ではない。
次に、相違点4が当業者にとって容易想到であるかについて検討するに、相違点4の判断については、上記(1)ウで判断した相違点1の判断と同様の議論が成り立つから、引用文献1製法発明から出発した当業者は、引用文献2に記載された技術的事項を考慮したとしても、相違点4に係る構成に至ることはない。

エ 本件訂正発明4についての判断の小括
このように、本件訂正発明1は、引用文献1製法発明ではない。
また、本件訂正発明4は、相違点5及び6について判断するまでもなく、引用文献1製法発明、引用文献1に記載された技術的事項及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件訂正発明4に対する取消理由1及び2は、成り立たない。

(4)取消理由1及び2に対する判断の小括
以上のとおり、本件訂正発明1及び4に対する取消理由1は、成り立たない。
本件訂正発明1,3及び4に対する取消理由2は、成り立たない。

4 取消理由3に対する判断
(1)取消理由3の具体的内容
取消理由3は、上記第4の1(3)のとおり、本件特許が、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるというものであるところ、より具体的には、要旨、次のとおりである。
本件訂正前の請求項1?5に係る発明で特定される数値範囲の下底長、傾斜角及び上底長を有する錘台形状のパターンを実現するために、どのような条件をどのような値に調整すればよいのかが、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らしても理解できないから、本件訂正前の請求項1?5に係る発明を実施することができない。

(2)判断
ア 本件明細書等には次の記載がある。
(ア)「[発光ダイオードの製造方法]」、
「本実施形態の発光ダイオードの製造方法は、基板の第1主面上にn型半導体層と発光層とp型半導体層とが積層された半導体積層部を備える発光ダイオード用半導体ウェハの、発光ダイオードの光取り出し面となる領域上に、斜面が順テーパーの錐台形状又は錐体形状のマスクを形成するマスク工程と、マスク越しに光取り出し面をエッチングして錐台形状のパターンを形成するパターン形成工程と、を有している。」(【0025】)、
「形成される錐台形状のパターンは、下底長が1.2λ以上1.7λ以下であり、傾斜角が65度以上80度以下であり、上底長が0.4λ以上1.2λ以下であることが好ましい。
パターン形成工程におけるエッチングの方法は、加工面の材料により、ウェットエッチングやドライエッチングなどから適正なものを選択することができる。錐台形状に結晶面のエッチングレート差の影響が出にくく、形状の制御性が良好なドライエッチングでの加工が好ましい。ドライエッチングを用いる場合、ドライエッチングにおけるプラズマダメージにより、発光層へのダメージを低減させる観点から、発光層から加工底面までの距離が300nm以上となっていることが望ましい。」(【0026】)、
「マスク工程において、斜面が順テーパーの錐台形状又は錐体形状のマスクを形成する方法は、フォトリソグラフィやインプリントなどの、一般的な手法を用いることができる。マスク材料としては、フォトレジスト、インプリントレジスト、SiO_(2)膜などの誘電体材料及び各種メタル膜などを用いることができる。斜面が順テーパーの錐台形状又は錐体形状のマスクを用いることで、錐台形状のパターンを容易に形成することが可能になる。例えば、SiO_(2)膜をマスクとする場合、フッ酸などでフォトレジストをSiO_(2)膜マスク形成用のマスクにしてウェットエッチングすることが好ましい。また、インプリントを用いる場合、インプリントレジストのインプリント時のモールド形状をあらかじめ順テーパー形状にしておくことも好適な例として挙げられる。」(【0027】)、
「錐台形状のパターンを形成するため、マスクはパターン形成工程終了後においても残っている状態の方が好ましい。残ったマスクを除去した後には、錐台の上底部が、平坦面を保持しつつ、なおかつ傾斜面と上底部の交点がきれいな鈍角のパターン(すなわち、順テーパー形状の錐台形状又は錐体形状のパターン)を形成することが容易である。具体例としては、サファイア基板をウェットエッチングして得られた形状をモールドとして、インプリント技術によりマスクを形成する方法が挙げられる。」(【0028】)

(イ)「【実施例1】」、
「図3(a)乃至図3(f)は、本発明に係る発光ダイオードの製造方法の実施例1を説明するための断面工程図である。
本発明の実施例1に係る発光ダイオードの製造方法は、基板101の第1主面上に、n型半導体層103と発光層104とp型半導体層105とが積層された半導体積層部100を備える発光ダイオード用半導体ウェハの発光ダイオードの光取り出し面となる領域上に、斜面が順テーパーの錐台形状又は錐体形状のマスク110を形成するマスク工程と、マスク越しに光取り出し面をエッチングして錐台形状のパターン111を形成するパターン形成工程とを有している。」(【0036】)、
「次に、図3(b)に示すように、半導体積層部100上(すなわち、p型半導体層表面)にプラズマCVD法を用いて厚さ200nmのSiO_(2)膜を堆積させ、フォトリソグラフィ法を用いて、周期が1.0μm、径が0.6μmの三角格子配列のドットパターン110aのレジストマスク110を作製し、その後、バッファードフッ酸(BHF)によるウェットエッチングを行い、SiO_(2)膜の錐台形状のドットパターンのマスクを作製した。」(【0038】)、
「次に、図3(c)に示すように、上述したSiO_(2)膜の錐台形状のドットパターンをマスクとしてドライエッチング法を用いて、p型半導体層105上に錐台形状のパターン111を作製した。ここで、ドライエッチング法の条件としては、ICP型ドライエッチャー装置を用い、塩素ガスとアルゴンガスの混合ガスを用い、ガス圧が0.6Pa、エッチングパワーがアンテナパワー:300W/バイアスパワー:50Wの条件でエッチングを行った。ドライエッチング後、残ったSiO_(2)膜のマスクをバッファードフッ酸(BHF)で除去した。得られた凹凸形状は、上底長が430nm、下底長が680nm、傾斜角が67度の円錐台形状であった。」(【0039】)

(ウ)「【実施例2】」、
「図3(c)における錐台形状のパターン111を作成する工程において、レジストのドットパターンを、周期が1.0μm、径が0.5μmの三角格子配列のドットパターンで作製した以外は、実施例1と同様の方法で発光ダイオードを作製した。得られた凹凸形状は、上底長が380nm、下底長が570nm、傾斜角が77度の円錐台形状であった。」(【0043】)

(エ)「【実施例3】」、
「図3(c)における錐台形状のパターン111を作成する工程において、レジストのドットパターンを、周期が1.0μm、径が0.4μmの三角格子配列のドットパターンで作製した以外は、実施例1と同様の方法で発光ダイオードを作製した。得られた凹凸形状は、上底長が270nm、下底長が590nm、傾斜角が69度の円錐台形状であった。」(【0044】)

(オ)「【実施例4】」、
「図3(c)における錐台形状のパターン111を作成する工程において、レジストのドットパターンを、周期が1.0μm、径が0.65μmの三角格子配列のドットパターンで作製した以外は、実施例1と同様の方法で発光ダイオードを作製した。得られた凹凸形状は、上底長が470nm、下底長が730nm、傾斜角が75度の円錐台形状であった。」(【0045】)

(カ)「【実施例5】」、
「実施例1の記載と同様の方法で、MOCVD法によりGaN基板101の第1主面上に、n-GaN半導体層103と、InGaN量子井戸発光層104と、p-AlGaN電子ブロック層109と、p-AlGaN半導体層105との順で積層した。
図4は、本発明に係る発光ダイオードの製造方法の実施例5を説明するための断面模式図である。本発明の実施例5に係る発光ダイオードの製造方法は、基板101の第1主面上に、n型半導体層103と発光層104とp型半導体層104とが積層された半導体積層部100を備える発光ダイオード用半導体ウェハの発光ダイオードの光取り出し面となる領域上に、斜面が順テーパーの錐台形状又は錐体形状のマスク110を形成するマスク工程と、マスク越しに光取り出し面をエッチングして錐台形状のパターン211を形成するパターン形成工程とを有している。」(【0046】)、
「また、錐台形状のパターン211は、下底長が1.2λ以上1.7λ以下であり、傾斜角が65度以上80度以下であり、上底長が0.4λ以上1.2λ以下である。
つまり、半導体積層部100と対向する面である基板101の第2主面上にプラズマCVD法を用いて厚さ200nmのSiO_(2)膜を堆積させ、フォトリソグラフィ法を用いて、周期が1.0μm、径が0.6μmの三角格子配列のドットパターン210aのレジストマスク210を作製し、その後、バッファードフッ酸(BHF)によるウェットエッチングを行い、SiO_(2)膜の錐台形状のドットパターンのマスクを作製し、SiO_(2)膜の錐台形状のドットパターンをマスクとしてドライエッチング法を用いて、錐台形状のパターン211を基板101の第2主面上に作製した。」(【0047】)、
「ドライエッチング法では、ICP型ドライエッチャー装置を用い、塩素ガスとアルゴンガスの混合ガスを用い、ガス圧が0.6Pa、エッチングパワーがアンテナパワー:300W/バイアスパワー:50Wの条件で、GaN基板表面を任意の凹凸形状になるようにエッチングを行った。ドライエッチング後、残ったSiO_(2)膜のマスクをバッファードフッ酸(BHF)で除去し、発光ダイオードを得た。得られた凹凸形状は、上底長が360nm、下底長が680nm、傾斜角72度の円錐台形状であった。中心発光波長は460nmであった。」(【0048】)

(キ)「【実施例6】」、
「MOCVD法によりAlN基板の第1主面上に、n-AlGaN半導体層と、AlGaN量子井戸発光層と、p-AlGaN半導体層と、p-GaN半導体層とを順に積層した。
次に、半導体積層部100と対向する面、つまり、基板101の第2主面上にプラズマCVD法を用いて厚さ200nmのSiO_(2)膜を堆積させ、フォトリソグラフィ法を用いて、周期が0.7μm、径が0.35μmの三角格子配列のドットパターンのレジストマスクを作製し、その後、バッファードフッ酸(BHF)によるウェットエッチングを行い、SiO_(2)膜の錐台形状のドットパターンのマスクを作製した。」(【0051】)、
「次に、上述したSiO_(2)膜の錐台形状のドットパターンをマスクとしてドライエッチング法を用いて凹凸形状を作製した。ドライエッチング法ではICP型ドライエッチャー装置を用い、三塩化ホウ素ガスとアルゴンガスの混合ガスを用い、ガス圧が0.6Pa、エッチングパワーがアンテナパワー:300W/バイアスパワー:50Wの条件で、AlN基板の第2主面のエッチングを行った。ドライエッチング後、残ったSiO_(2)膜のマスクをバッファードフッ酸(BHF)で除去した。得られた錐台形状のパターンは、上底長が260nm、下底長が420nm、傾斜角が77度の円錐台形状であった。」(【0052】)

イ 上記アによれば、本件明細書等には、錘台形状のパターンの下底長、傾斜角及び上底角の制御に関して、次の事項が記載されていると認められる。
(ア)錘台形状のパターンの形成は、
発光ダイオード用半導体ウェハの、発光ダイオードの光取り出し面となる領域上に、斜面が順テーパーの錘台形状のマスクを形成するマスク工程と、
マスク越しに光取り出し面をエッチングして錐台形状のパターンを形成するパターン形成工程と、
によって行われる。(【0025】)

(イ)マスク工程において、斜面が順テーパーの錘台形状のマスクを形成する方法は、例えば、SiO_(2)膜をマスクとする場合、フッ酸などでフォトレジストをSiO_(2)膜マスク形成用のマスクにしてウェットエッチングすることが好ましい。(【0027】)

(ウ)パターン形成工程において、エッチングの方法は、錐台形状に結晶面のエッチングレート差の影響が出にくく、形状の制御性が良好なドライエッチングでの加工が好ましい。(【0026】)

(エ)実施例1として、
(i) 光取り出し面となる領域(半導体積層部100に属するp型半導体層表面)上に、厚さ200nmのSiO_(2)膜を堆積させ、
(ii) フォトリソグラフィ法を用いて、周期が1.0μm、径が0.6μmの三角格子配列のドットパターンのレジストマスクを作製し、
(iii) バッファードフッ酸(BHF)によるウェットエッチングを行い、SiO_(2)膜の錐台形状のドットパターンのマスクを作製し、
(iv) ドライエッチング法を用いて、光取り出し面となる領域(p型半導体層105)上に錐台形状のパターン111を作製し(ドライエッチング法の条件としては、ICP型ドライエッチャー装置を用い、塩素ガスとアルゴンガスの混合ガスを用い、ガス圧が0.6Pa、エッチングパワーがアンテナパワー:300W/バイアスパワー:50Wの条件でエッチングを行った。)、
(v) ドライエッチング後、残ったSiO_(2)膜のマスクをバッファードフッ酸(BHF)で除去すると、
(vi) 得られた凹凸形状は、上底長が430nm、下底長が680nm、傾斜角が67度の円錐台形状であった。(【0036】・【0038】・【0039】)

(オ)実施例2として、
(ii) レジストのドットパターンを、周期が1.0μm、径が0.5μmの三角格子配列のドットパターンで作製した以外は、
実施例1と同様の方法で発光ダイオードを作製すると、
(vi) 得られた凹凸形状は、上底長が380nm、下底長が570nm、傾斜角が77度の円錐台形状であった。(【0043】)

(カ)実施例3として
(ii) レジストのドットパターンを、周期が1.0μm、径が0.4μmの三角格子配列のドットパターンで作製した以外は、
実施例1と同様の方法で発光ダイオードを作製すると、
(vi) 得られた凹凸形状は、上底長が270nm、下底長が590nm、傾斜角が69度の円錐台形状であった。(【0044】)

(キ)実施例4として、
(ii) レジストのドットパターンを、周期が1.0μm、径が0.65μmの三角格子配列のドットパターンで作製した以外は、
実施例1と同様の方法で発光ダイオードを作製すると、
(vi) 得られた凹凸形状は、上底長が470nm、下底長が730nm、傾斜角が75度の円錐台形状であった。(【0045】)

(ク)実施例5として、
(i) 光取り出し面となる領域(半導体積層部100と対向する面である基板101の第2主面)上に、厚さ200nmのSiO_(2)膜を堆積させ、
(ii) フォトリソグラフィ法を用いて、周期が1.0μm、径が0.6μmの三角格子配列のドットパターンのレジストマスクを作製し、
(iii) バッファードフッ酸(BHF)によるウェットエッチングを行い、SiO_(2)膜の錐台形状のドットパターンのマスクを作製し、
(iv) ドライエッチング法を用いて、光取り出し面となる領域(基板101の第2主面)上に錐台形状のパターン211を作製し(ドライエッチング法の条件としては、ICP型ドライエッチャー装置を用い、塩素ガスとアルゴンガスの混合ガスを用い、ガス圧が0.6Pa、エッチングパワーがアンテナパワー:300W/バイアスパワー:50Wの条件で、GaN基板表面を任意の凹凸形状になるようにエッチングを行った。)、
(v) ドライエッチング後、残ったSiO_(2)膜のマスクをバッファードフッ酸(BHF)で除去すると、
(vi) 得られた凹凸形状は、上底長が360nm、下底長が680nm、傾斜角72度の円錐台形状であった。(【0047】・【0048】)

(ケ)実施例6として、
(i) 光取り出し面となる領域(半導体積層部100と対向する面である基板101の第2主面)上に、厚さ200nmのSiO_(2)膜を堆積させ、
(ii) フォトリソグラフィ法を用いて、周期が0.7μm、径が0.35μmの三角格子配列のドットパターンのレジストマスクを作製し、
(iii) バッファードフッ酸(BHF)によるウェットエッチングを行い、SiO_(2)膜の錐台形状のドットパターンのマスクを作製し、
(iv) ドライエッチング法を用いて、光取り出し面となる領域(半導体積層部100と対向する面である基板101の第2主面)上に凹凸形状を作製し(ドライエッチング法の条件としては、ICP型ドライエッチャー装置を用い、三塩化ホウ素ガスとアルゴンガスの混合ガスを用い、ガス圧が0.6Pa、エッチングパワーがアンテナパワー:300W/バイアスパワー:50Wの条件で、AlN基板の第2主面のエッチングを行った。)、
(v) ドライエッチング後、残ったSiO_(2)膜のマスクをバッファードフッ酸(BHF)で除去すると、
(vi) 得られた錐台形状のパターンは、上底長が260nm、下底長が420nm、傾斜角が77度の円錐台形状であった。(【0051】・【0052】)

ウ 上記イの認定によれば、本件明細書等には、SiO_(2)膜の錐台形状のドットパターンのマスクを作製して、所定の条件でドライエッチングを行うことにより、光取り出し面となる領域上に様々な錘台形状が形成されることが記載されている。
その一方で、本件明細書等には、マスク工程で作製されるSiO_(2)膜の形状が、「錘台」であること以上に、具体的に、(すなわち、錘台の上底長、傾斜角及び下底長が、)どのようなものであるのかが記載されていない。さらに、本件明細書等には、パターン形成工程で得られる錘台形状のパターンであって、光取り出し面となる領域上における錘台形状のパターンが、マスク工程で作製されるSiO_(2)膜の形状やドライエッチングの各種条件とどのように関係しているのかについても記載されていない。

エ そこで検討するに、まず、被加工表面上に、錘台形状のマスクを設けて、ドライエッチングを行うことにより、被加工表面に錘台形状の構造を転写できることは、明らかである(例えば、乙1(翻訳文3頁下から4行?4頁4行、Figure 1)を参照。乙1には、シリコン基板上に半球形状のマスクを用いて反応性イオンエッチング(RIE)を行うと、シリコン基板に半球が転写されることが記載されている。)。
そして、ドライエッチングの技術分野において、塩素系ガスの流量やバイアスパワーなどによって、エッチング形状が変化することも技術常識である(乙7の467頁?470頁)。
しかるに、これらの技術的事項を踏まえれば、光取り出し面となる領域上に形成される錘台形状を制御するに当たり、一定の指針があるということができる。よって、本件明細書等に上記ウで指摘した点の記載がないとしても、当業者であれば、過度の試行錯誤を要することなく、請求項に係る発明を実施することができると解するのが相当である。
したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に適合している。

(3)取消理由3に対する判断についての小括
よって、取消理由3は、成り立たない。

5 取消理由4に対する判断
(1)取消理由4の具体的内容
取消理由4は、上記第4の1(4)のとおり、本件特許が、本件訂正前の請求項1?5の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるというものであるところ、より具体的には、本件訂正前の請求項1?5に係る発明は、本件明細書等の発明の詳細な説明に当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載された発明ではないから、サポートされていないというものである。

(2)判断
上記(1)のとおり、取消理由は、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載に実施可能要件違反があることを前提としたサポート要件違反のみを指摘したところ、上記4のとおり、当該記載は実施可能要件を満たしている。そして、本件訂正発明1,3及び4が、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載されていることは明らかである。
したがって、本件訂正発明1,3及び4の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合している。

(3)取消理由4に対する判断についての小括
よって、取消理由4は、成り立たない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件訂正前の請求項5に係る発明が、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
しかしながら、本件訂正により、請求項5は削除された。
特許異議申立人のかかる主張は採用できない。

なお、特許異議申立人が提出した甲2は、国際公開第2013/114480号についての再公表公報であったけれども、この再公表公報は、本願の出願後に公開されたものであるので、当審は、国際公開第2013/114480号そのもの(記載内容は、甲2と同一である。)を引用文献2として、取消理由を通知したところである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。加えて、本件請求項1、3及び4に係る特許を取り消すべき他の理由を発見しない。
本件請求項2及び5に係る特許は、本件訂正により削除されたので、これらの特許に対する特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板の第1主面上に形成されたn型半導体層と、該n型半導体層上に形成された発光層と、該発光層上に形成されたp型半導体層とからなる半導体積層部と、
を備えた中心発光波長λの光を発光する発光ダイオードであって、
前記発光ダイオードの光取り出し面が、前記基板の、前記第1主面の裏面である第2主面であり、
前記発光ダイオードの光取り出し面に、錐台形状のパターンが形成されており、前記錐台形状のパターンの下底長が1.2λ以上1.7λ以下であり、傾斜角が65度以上80度以下であり、上底長が0.4λ以上1.2λ以下である発光ダイオード。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記基板が、窒化物である請求項1に記載の発光ダイオード。
【請求項4】
基板の第1主面上にn型半導体層と発光層とp型半導体層とが積層された半導体積層部を備える発光ダイオード用半導体ウェハの、発光ダイオードの光取り出し面となる、前記基板の前記第1主面の裏面である第2主面の領域上に、斜面が順テーパーの錐台形状又は錐体形状のマスクを形成するマスク工程と、
前記マスク越しに光取り出し面をエッチングして錐台形状のパターンを形成するパターン形成工程と、
を有し、
前記錐台形状のパターンが、下底長が1.2λ以上1.7λ以下であり、傾斜角が65度以上80度以下であり、上底長が0.4λ以上1.2λ以下である発光ダイオードの製造方法。
【請求項5】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-08-21 
出願番号 特願2014-120298(P2014-120298)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
P 1 651・ 536- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村井 友和  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 近藤 幸浩
山村 浩
登録日 2018-03-16 
登録番号 特許第6306443号(P6306443)
権利者 国立研究開発法人産業技術総合研究所 旭化成株式会社
発明の名称 発光ダイオード及び発光ダイオードの製造方法  
代理人 森 哲也  
代理人 森 哲也  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 森 哲也  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 田中 秀▲てつ▼  

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