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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B23K 審判 全部申し立て 2項進歩性 B23K |
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管理番号 | 1355956 |
異議申立番号 | 異議2018-700967 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-11-30 |
確定日 | 2019-09-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6337349号発明「フラックス、ソルダペースト及び電子回路基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6337349号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。 特許第6337349号の請求項1、2、5?10に係る特許を維持する。 特許第6337349号の請求項3、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6337349号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成29年8月28日に出願され、平成30年5月18日に特許権の設定登録がされ、同年6月6日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、同年11月30日付けで請求項1?10(全請求項)に係る本件特許に対し、特許異議申立人である上山みち子(以下、「申立人」という。)によって特許異議の申立てがされ、平成31年2月21日付けで当審から取消理由が通知され、同年4月24日付けで特許権者から意見書が提出され、令和1年5月15日付けで当審から取消理由(決定の予告)が通知され、同年7月19日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年7月25日付けで当審から申立人に対し訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をするとともに期間を指定して意見書を提出する機会を与えたところ、同年8月9日付けで申立人から意見書が提出されたものである。 第2 本件訂正の適否 1 本件訂正請求の趣旨 本件訂正請求の趣旨は「特許第6337349号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求める。」というものである。 2 訂正事項 本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すために当審が付したものである。 (1)訂正事項1 請求項1の 「ヒドロキシ基を1つ以上有すると共に、常温で液体の液体溶剤」という記載を 「ヒドロキシ基を1つ以上有すると共に、常温で液体の2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、α-テルピオネール及びイソオクタデカノールから選択される液体溶剤」という記載に訂正し、 「ヒドロキシ基を1つ以上有すると共に、常温で固体の固体溶剤」という記載を 「ヒドロキシ基を1つ以上有すると共に、常温で固体のトリメチロールプロパン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールから選択される固体溶剤」という記載に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、5?10も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 請求項3を削除する(これに伴い、請求項5、6、10が請求項3を引用しないものに訂正する。)。 (3)訂正事項3 請求項4を削除する(これに伴い、請求項5、6、10が請求項4を引用しないものに訂正する。)。 3 一群の請求項について 本件訂正前の請求項1?10は、請求項2?10が、本件訂正請求の対象である請求項1を引用しており、請求項1の訂正に連動して請求項2?10が訂正される関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項である請求項1?10について請求されたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 4 訂正要件の検討 (1)訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,新規事項の有無 ア 訂正事項1について (ア)訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1に係る本件訂正は、「ヒドロキシ基を1つ以上有すると共に、常温で液体の液体溶剤」を「2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、α-テルピオネール及びイソオクタデカノールから選択される」ものに限定するとともに、「ヒドロキシ基を1つ以上有すると共に、常温で固体の固体溶剤」を「トリメチロールプロパン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールから選択される」ものに限定するものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (イ)新規事項の有無 a 本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲(以下、「本件明細書等」という。ただし、特許請求の範囲は本件訂正前のものである。)には、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表し、下線は当審が付したものである(以下同様)。 「【請求項3】 前記液体溶剤が、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、α-テルピオネール及びイソオクタデカノールから選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のフラックス。 【請求項4】 前記固体溶剤が、トリメチロールプロパン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールから選択される少なくとも2種である、請求項1?3のいずれか一つに記載のフラックス。」 「【0022】 前記液体溶剤は、ヒドロキシ基(OH基)を1つ以上有すると共に、常温(20?30℃)で液体である。このような液体溶剤としては・・・2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、α-テルピオネール及びイソオクタデカノールから選択される少なくとも1種であることが好ましい。・・・」 「【0024】 前記固体溶剤は、ヒドロキシ基(OH基)を1つ以上有すると共に、常温(20?30℃)で固体である。このような固体溶剤としては・・・トリメチロールプロパン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールから選択される少なくとも2種であることが好ましい。・・・」 b 前記aの記載によれば、訂正事項1に係る本件訂正は、いずれも本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであるといえるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 イ 訂正事項2について 訂正事項2に係る本件訂正のうち、請求項3を削除する訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、これに伴って、請求項5、6、10が請求項3を引用しないものにする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 そして、いずれの訂正も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合し、また、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 訂正事項3について 訂正事項3に係る本件訂正のうち、請求項4を削除する訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、これに伴って、請求項5、6、10が請求項4を引用しないものにする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 そして、いずれの訂正も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合し、また、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (2)独立特許要件 特許異議の申立ては、本件訂正前の請求項1?10の全請求項に対してされているから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 5 小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項並びに、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の請求単位とする求めもない。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、請求項〔1?10〕について訂正することを認める。 第3 特許異議申立について 1 本件発明 本件訂正が認められたので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ順に、「本件発明1」?「本件発明10」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?10に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 はんだ付け用フラックスであって、 ヒドロキシ基を1つ以上有すると共に、常温で液体の2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、α-テルピオネール及びイソオクタデカノールから選択される液体溶剤を少なくとも1種と、ヒドロキシ基を1つ以上有すると共に、常温で固体のトリメチロールプロパン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールから選択される固体溶剤を少なくとも2種と、チキソ剤とからなり、 各固体溶剤の含有量が、前記液体溶剤及び前記固体溶剤の合計含有量に対して、2質量%以上40質量%未満であり、 前記固体溶剤の合計含有量が、前記液体溶剤及び前記固体溶剤の合計含有量に対して、30質量%以上80質量%未満である、フラックス。 【請求項2】 前記固体溶剤のうち任意の2種の固体溶剤i,jは、前記液体溶剤及び前記固体溶剤の合計含有量に対するそれぞれの含有量Xi,Xjが、下記(1)式を満たす、請求項1に記載のフラックス。 Xi<0.2121×Xj+31.818 ・・・(1) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 さらに、活性剤、酸化防止剤、界面活性剤、消泡剤、及び、腐食防止剤から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のフラックス。 【請求項6】 請求項1,2又は5のいずれか一つに記載のフラックスと、はんだ合金粉末とを含む、ソルダペースト。 【請求項7】 前記チキソ剤は、脂肪酸アミドである、請求項6に記載のソルダペースト。 【請求項8】 前記脂肪酸アミドは、ステアリン酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド及びヒドロキシステアリン酸アミドから選択される少なくとも1種である、請求項7に記載のソルダペースト。 【請求項9】 前記脂肪酸アミドは、ステアリン酸アミド及びラウリン酸アミドから選択される少なくとも1種である、請求項7に記載のソルダペースト。 【請求項10】 請求項1,2又は5のいずれか一つに記載のフラックスを用いてはんだ付けを行う、電気回路基板の製造方法。」 2 取消理由通知に記載した取消理由について (1)取消理由通知の概要 本件訂正前の請求項1?10に対し、平成31年2月21日付けで当審から特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。 また、令和1年5月15日付けで当審から特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は、下記の理由2(サポート要件違反)が依然として解消していないことを通知したものである。 理由1(明確性要件違反) 本件特許の請求項1?10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 理由2(サポート要件違反) 本件特許の請求項1?10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)当審の判断 (2)-1 理由1(明確性要件違反)について ア 理由1(明確性要件違反)で指摘した事項の概要は、以下のとおりである。 (ア)請求項1の「常温」という記載のみでは、「常温」が、いかなる温度を意味するのかが明確であるとはいえない。 仮に、発明の詳細な説明の記載に基づいて、上記「常温」が、「常温(20?30℃)」(【0022】、【0024】)を意味するとしても、請求項1の「常温で液体」又は「常温で固体」という記載が、発明の詳細な説明のいかなる記載又は、どのような技術常識に基づいて、 (i)「20?30℃」の温度範囲の全ての温度において「液体」又は「固体」であることを意味するのか、又は (ii)上記温度範囲のある特定の温度において「液体」又は「固体」であればよいことを意味するのか が明確であるとはいえない。 さらに、上記(ii)の場合には、上記温度範囲において「液体」及び「固体」のいずれにもなり得る溶剤(例えば、20℃では固体であり、30℃では液体である溶剤)が存在する場合、当該溶剤が「液体溶剤」及び「固体溶剤」のいずれかのみに該当するのか、又は、いずれにも該当するのかも、明確であるとはいえない。 (イ)また、請求項1の「液体」及び「固体」という記載が、それぞれ、どのような状態を意味するのかも明確であるとはいえない。 すなわち、高分子化合物では、ある温度において、巨視的には粘性のある流体に見えても、微視的には固体状態と液体状態にある同一の高分子化合物が混合した状態にある場合も想定することができるところ、このような状態の高分子化合物が請求項1に記載された「液体」及び「固体」のいずれの状態に該当するのかは明確であるとはいえない。 (ウ)したがって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2?10の記載は明確であるとはいえない。 イ これに対し、特許権者は、平成31年4月24日付け意見書において以下の主張をしている。 (ア)請求項1の「常温」という記載は、発明の詳細な説明の【0022】及び【0024】に記載されているとおり、「20?30℃」を意味することは明らかである。 また、請求項1の「常温で液体」及び「常温で固体」の記載について、発明の詳細な説明の【0022】及び【0024】では、それぞれ、「常温(20?30℃)で液体」及び「常温(20?30℃)で固体」と記載されており、これらの記載は、液体溶剤は少なくとも「20?30℃」の温度範囲では「液体」であり、固体溶剤は少なくとも「20?30℃」の温度範囲では「固体」であると解されるから、請求項1の「常温で液体」及び「常温で固体」の記載は、「20?30℃」の温度範囲の全ての温度において、「液体」及び「固体」であることを意味することは明らかである。 (イ)一般に「溶剤」は、低分子化合物であって高分子化合物でないことは本件特許の出願時における当業者の技術常識である。 そして、低分子化合物は高分子化合物とは異なり、固体状態と液体状態を容易に区別することができることも本願出願時の技術常識である。 したがって、請求項1の「固体」及び「液体」の記載が、それぞれ、どのような状態を意味するのかは明確である。 (ウ)以上のとおりであるから、請求項1及び請求項1を引用する請求項2?10の記載は明確である。 ウ 前記イの主張によれば、請求項1の「常温」という記載は、「20?30℃」の温度範囲を意味し、請求項1の「常温で液体」及び「常温で固体」の記載は、「20?30℃」の温度範囲の全ての温度において、「液体」及び「固体」であることを意味すると認められ、また、請求項1に記載の「液体溶剤」及び「固体溶剤」は、いずれも低分子化合物に属するから、液体状態と固体状態を容易に区別することができるものと認められる。 エ 以上のとおりであるから、前記イの意見書における主張によって、理由1(明確性要件違反)は解消した。 (2)-2 理由2(サポート要件違反)について ア 理由2(サポート要件違反)で指摘した事項の概要は、以下のとおりである。 (ア)請求項1に係る発明が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明に記載されたとおり、「高粘性であると共に、結晶化を抑制することが可能なフラックス、ソルダペースト及び電子回路基板の製造方法を提供すること」(【0006】)であると認められる。 (イ)そして、発明の詳細な説明の記載によれば、当業者が前記(ア)の課題を解決できると認識し得るといえるためには、「液体溶剤」として、「2-エチル-1,3-ヘキサンジオール」、「α-テルピオネール」及び「イソオクタデカノール」の3種(請求項3の記載事項)から選択される少なくとも1種を用い、「固体溶剤」として、「2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール」、「2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール」、「2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール」及び「トリメチロールプロパン」の4種(請求項4の記載事項)から選択される少なくとも2種を用いる必要があると認められるにもかかわらず、請求項1では、請求項3及び4に記載された上記の事項が特定されていない。 (ウ)したがって、請求項3及び4に記載された事項が特定されていない場合を含む請求項1及び請求項1を引用する請求項2?10に係る発明は、当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるとはいえない。 イ これに対し、前記「第2」で検討したとおり、本件訂正後の請求項1では、本件訂正前の請求項3及び4に記載された事項が特定されたから、本件訂正請求によって、理由2(サポート要件違反)は解消した。 ウ 申立人の主張について (ア)申立人は、本件訂正後の請求項1の記載について、令和1年8月9日付けの意見書において、「2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、α-テルピオネール及びイソオクタデカノールから選択される液体溶剤を少なくとも1種と」という記載は、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、α-テルピオネール及びイソオクタデカノールとは別の液体溶剤を有してもよいかのような記載になっており、同様に、「固体溶剤」についても、トリメチロールプロパン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールとは別の固体溶剤を有してもよいかのような記載になっているから、本件発明1は依然としてサポート要件を満たしていないと主張する。 (イ)しかし、本件訂正後の請求項1の「2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、α-テルピオネール及びイソオクタデカノールから選択される液体溶剤を少なくとも1種と」という記載は、「2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、α-テルピオネール及びイソオクタデカノールから選択される液体溶剤を少なくとも1種含み」という記載とは異なり、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、α-テルピオネール及びイソオクタデカノールとは別の液体溶剤を含有することを許容する記載ではない。 同様に、「トリメチロールプロパン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールから選択される固体溶剤を少なくとも2種と」という記載は、トリメチロールプロパン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールとは別の固体溶剤を含有することを許容する記載ではない。 (ウ)以上のとおり、前記(ア)の主張は根拠を欠くものであるから、これを採用することはできない。 3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 本件訂正前の請求項1?10に対する特許異議申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかったものの概要は、以下のとおりである。 (1)取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由の概要 ア 申立理由1(進歩性欠如) 本件特許の請求項1?10に係る発明は、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて、又は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 [証拠方法] ・甲第1号証:特開2013-132654号公報 ・甲第2号証の1:「製品安全データシート」、純正化学株式会社、改定日:2013年8月19日、1/6?6/6頁、URL:http://junsei.ehost.jp/productsearch/msds/17260jis.pdf#search=%27%E3%82%AA%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AB%27、印刷日:2018年11月26日 ・甲第2号証の2:「平成22年度 厚生労働省・環境省によるGHS分類結果」、独立行政法人製品評価技術基盤機構、URL:http://www.safe.nite.go.jp/ghs/h22_mhlw_list.html、印刷日:2018年11月26日 ・甲第2号証の3:「安全データシート」、改定日:2012年3月30日、URL:http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/94-96-2.html、印刷日:2018年11月26日 ・甲第3号証:「Chemical Book」、URL:https://www.chemicalbook.com/ChemicalProcuctProperty_JP_CB6193771.htm、印刷日:2018年11月26日 ・甲第4号証:特開2004-25305号公報 (以下、「甲第1号証」を「甲1」という。他の甲号証についても同様。) イ 申立理由2(明確性要件違反) 請求項1に係る発明は、「液体溶剤、固体溶剤及びチキソ剤のみからなるフラックス」であると解釈されるべきことからすれば、請求項1を引用する請求項5において、「活性剤、酸化防止剤、界面活性剤、消泡材、及び、腐食防止剤から選択される少なくとも1種」をさらに含むことはできないから、請求項5に係る発明は明確であるということはできない。 したがって、本件特許の請求項5及び請求項5を引用する請求項6?10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)当審の判断 (2)-1 申立理由1(進歩性欠如)について ア 各甲号証の記載事項 (ア)甲1の記載事項 a 甲1には、以下の記載がある。 「【0001】 本発明は・・・フラックスの分離抑制効果を持ち吐出法での使用が可能で、かつ、フラックスの無残渣を実現できるソルダペーストに関する。」 「【0033】 本発明は・・・吐出不安定と、突如として発生するノズルの詰まりを解消し、かつ、はんだ付け時の加熱でフラックスが分解して無残渣となるソルダペーストを提供することを目的とする。」 「【0035】 ・・・発明者らは、ポリアルキルメタクリレートによるはんだ粉末の沈降防止効果と、ステアリン酸アミドによって・・・ソルダペーストの流動性を高める効果を併用することで、吐出安定性が実現でき・・・吐出法に相応しいソルダペーストに、はんだ付け後にフラックスが無残渣になる特性を加味した・・・。 【0036】 本発明は、はんだ粉末とフラックスが混合されて生成されたソルダペーストにおいて、フラックスは、常温域ではんだ粉末の沈降を防止し、はんだ付け時の加熱過程で分解または蒸発する量の・・・ポリアルキルメタクリレートを1.0質量%以上?2.0質量%未満で含むと共に、粘性調整剤としてステアリン酸アミドを5.0質量%以上?15.0質量%未満で含み、粘度を50?150Pa.sとしたソルダペーストである。」 「【0038】 本発明のソルダペーストでは、リフローによるはんだ付けの加熱でフラックスが分解または蒸発してフラックス残渣が残留せず、無残渣を実現することができる。また・・・はんだ粉末の沈降を防止すると共に、所望の粘度を維持することで、吐出法での吐出供給時の吐出量を安定させることができる。・・・」 「【0053】 ・・・ 以下の表1に示す組成で組成1?組成3のフラックスを調合した。・・・」 「【0061】 ・・・ 以下の表3に示す組成で組成4?組成7のフラックスを調合し・・・た。・・・」 「 」 b 前記aによれば、甲1には以下の事項が記載されている。 (a)甲1に記載された発明は、フラックスの分離抑制効果があり、吐出法での使用が可能で、かつ、フラックスの無残渣を実現できるソルダペーストに関するもので(【0001】)、吐出法で使用する際の吐出不安定と突如として発生するノズルの詰まりを解消し、かつ、はんだ付け時の加熱でフラックスが分解して無残渣となるソルダペーストを提供することを目的とする(【0033】)。 (b)甲1には、ポリアルキルメタクリレートには、はんだ粉末の沈降防止効果があり、ステアリン酸アミドには、ソルダペーストの流動性を高める効果があり(【0035】)、その結果、前記(a)の目的を達成することができる「はんだ粉末とフラックスが混合されて生成されたソルダペーストにおいて、フラックスは、常温域ではんだ粉末の沈降を防止し、はんだ付け時の加熱過程で分解または蒸発する量のポリアルキルメタクリレートを1.0質量%以上?2.0質量%未満で含むとともに、粘性調整剤としてステアリン酸アミドを5.0質量%以上?15.0質量%未満で含み、粘度を50?150Pa.sとしたソルダペースト」が記載されている(【0036】、【0038】)。 (c)実施例においては、表1に示す組成1?3のフラックス、及び、表3に示す組成4?7のフラックスを調合した(【0053】、【0061】、表1、表3)。 ここで、表1、3の「揮発性増粘材」の具体的な材料については、甲1には記載がない。 また、前記(b)に照らし、表1、2の「%」は「質量%」を意味すると認められる。 c 前記bによれば、甲1には、表1及び3の組成1?7に基づいて認定した以下の「甲1発明」が記載されているものと認められる。 (甲1発明) 揮発性増粘剤、トリメチロールプロパン、ステアリン酸アミド、ポリアルキルメタクリレート、1,2,6-ヘキサントリオール、及び、オクタンジオールからなり、質量%で示されるそれぞれの含有量が【表1】及び【表3】の組成1?組成7に示された値であるフラックス。 (イ)甲2の1の記載事項 甲2の1の「3,組成、成分情報」(第2/6頁)には、「化学名:2-エチル-1,3-ヘキサンジオール」の「別名」が「オクタンジオール」であることが記載されている。 (ウ)甲2の2の記載事項 甲2の2の第3頁の項番号「132」には、「2-エチルヘキサン-1,3-ジオール」の「別名」が「オクタンジオール」であることが記載されている。 (エ)甲2の3の記載事項 甲2の3の「1.化学物質等及び会社情報」(第1頁)の「化学物質等の名称」には、「2-エチルヘキサン-1,3-ジオール(オクタンジオール)」と記載されている。 (オ)甲3の記載事項 甲3の「1,2,6-ヘキサントリオール物理性質」(第1頁)には、「外見:Viscous Liquid」(粘性液体)と記載されている。 (カ)甲4の記載事項 a 甲4には、以下の記載がある。 「【請求項1】 粉末はんだとペースト状フラックスとを混合したリフローはんだ付け用のソルダペーストであって、フラックスが、常温で固体でリフロー温度で蒸発する少なくとも1種の固体溶剤と、常温で高粘性流体でリフロー温度で蒸発する少なくとも1種の高粘性溶剤と、常温で液体でリフロー温度で蒸発する少なくとも1種の液体溶剤とを含んでいることを特徴とする、無残渣ソルダペースト。」 「【請求項4】 前記固体溶剤が2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジオールおよびトリメチロールプロパンから選ばれる請求項1?3のいずれかに記載の無残渣ソルダペースト。 【請求項5】 前記高粘性溶剤がイソボルニルシクロヘキサノールである請求項1?4のいずれかに記載の無残渣ソルダペースト。 【請求項6】 前記液体溶剤がアルカンジオールおよびポリアルキレングリコールから選ばれる請求項1?5のいずれかに記載の無残渣ソルダペースト。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は・・・リフローはんだ付け後にフラックス残渣がほとんどまたは全く残らないソルダペーストに関する。」 「【0003】 一般に、ソルダペーストのフラックスは、ロジン(松脂)・・・等の固形成分を液状の溶剤で溶解して適度な粘調性を得るようにしてある。従来のソルダペーストは・・・リフロー後、固形成分がはんだ付け部にフラックス残渣として大量に残っていた。このように、はんだ付け部にフラックス残渣が大量に残っていると、外観が悪く、ピンコンタクト性を阻害する上、フラックス残渣が吸湿してワークの回路間の絶縁抵抗を下げたり、腐食生成物が発生して回路を断線させたりするという問題を起こすことがある。・・・」 「【0016】 本発明は、ロジンを含有せずに無残渣であるにもかかわらず、フラックスに最適の流動特性を付与することができ、部品保持性、保存安定性、印刷性、吐出性、及びぬれ性が良く、リフローはんだ付け後に無洗浄で樹脂コーティングや樹脂モールディングを実施できる、無残渣ソルダペーストを提供することを課題とする。」 「【0019】 本発明において「高粘性溶剤」とは、溶剤の30℃での粘度が10,000cps以上で、室温で水飴状の流体であることを意味する。・・・」 「【0023】 固体溶剤と高粘性溶剤は、従来のソルダペーストにおけるロジンの代わりをするものであり、両者を併用することによって、ロジンを使用したときと同じような流動特性、従って、良好な転写性と部品保持性と保存安定性、をソルダペーストに付与することができる。・・・」 「【0025】 固体溶剤と高粘性溶剤の質量比は、フラックスの流動特性が従来のロジン系フラックスに近づくように、両溶剤の種類に応じて選択する。一般的には、固体溶剤:高粘性溶剤の質量比は5:1?1:10の範囲内である。」 b 前記aによれば、甲4には以下の事項が記載されている。 (a)甲4に記載された発明は、リフローはんだ付け後にフラックス残渣がほとんど又は全く残らないソルダペーストに関する(【0001】)。 (b)従来、ソルダペーストのフラックスは、ロジン(松脂)等の固形成分を液状の溶剤で溶解して適度な粘調性を得るようにしてあったが、リフロー後、これらの固形成分がはんだ付け部にフラックス残渣として大量に残っていたため、回路が断線する等の問題を起こすことがあったところ(【0003】)、上記問題に鑑み、甲4に記載された発明は、ロジンを含有せずに無残渣であるにもかかわらず、フラックスに最適の流動特性を付与することができ、部品保持性、保存安定性、印刷性、吐出性、及びぬれ性が良く、リフローはんだ付け後に無洗浄で樹脂コーティングや樹脂モールディングを実施できる、無残渣ソルダペーストを提供することを発明が解決しようとする課題とする(【0016】)。 (c)甲4に記載された発明は、粉末はんだとペースト状フラックスとを混合したリフローはんだ付け用のソルダペーストであって、フラックスが、常温で固体でリフロー温度で蒸発する少なくとも1種の固体溶剤と、常温で高粘性流体でリフロー温度で蒸発する少なくとも1種の高粘性溶剤と、常温で液体でリフロー温度で蒸発する少なくとも1種の液体溶剤とを含んでいることを特徴とする、無残渣ソルダペーストであって(【請求項1】)、 前記固体溶剤が2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジオール及びトリメチロールプロパンから選ばれ(【請求項4】)、 前記高粘性溶剤がイソボルニルシクロヘキサノールであり(【請求項5】)、 前記液体溶剤がアルカンジオール及びポリアルキレングリコールから選ばれる(【請求項6】)ものである。 そして、上記「高粘性溶剤」とは、30℃での粘度が10,000cps以上で、室温で水飴状の流体である溶剤を意味する(【0019】)。 (d)甲4に記載された発明における固体溶剤と高粘性溶剤は、従来のソルダペーストにおけるロジンの代わりをするものであり、両者を併用することによって、ロジンを使用したときと同じような流動特性、従って、良好な転写性と部品保持性と保存安定性、をソルダペーストに付与することができる(【0023】)。 そして、固体溶剤と高粘性溶剤の質量比は、フラックスの流動特性が従来のロジン系フラックスに近づくように、両溶剤の種類に応じて選択する。一般的には、固体溶剤:高粘性溶剤の質量比は5:1(1:0.2)?1:10の範囲内である(【0025】)。 (e)ここで、前記(c)によれば、甲4に記載された発明では、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジオール及びトリメチロールプロパンから選ばれる「固体溶剤」が「少なくとも1種」とされているが、甲4には、「固体溶剤」を2種類以上用いることの技術的意義に関する記載はなく、したがって、2種類以上の「固体溶剤」を用いた場合に、それぞれの「固体溶剤」の含有量と、全ての溶剤(固体溶剤、高粘性溶剤及び液体溶剤)の合計含有量との関係をどのように設定すべきかについても記載はない。 また、実施例においても、「固体溶剤」として、「2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジオール」及び「トリメチロールプロパン」のいずれか1種のみを用いた場合が開示されているのみである。 イ 本件発明1について (ア)本件発明1と甲1発明との対比 a 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「フラックス」がはんだ付け用のものであることは明らかであるから、甲1発明の「フラックス」と本件発明1の「はんだ付け用フラックス」は、「はんだ付け用フラックス」である点で共通する。 b 甲1発明の「トリメチロールプロパン」は、本件発明1の「ヒドロキシ基を1つ以上有すると共に、常温で固体のトリメチロールプロパン」「から選択される固体溶剤」に相当する。 c 本件明細書等には、「チキソ剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、脂肪酸アミド・・・等が挙げられる。これらの中でも、脂肪酸アミドであることが好ましい。前記脂肪酸アミドとしては、例えば、ステアリン酸アミド・・・等が挙げられる。」(【0034】)と記載されている。また、上記の「チキソ剤としては、特に限定されるものではなく」という記載は、本件発明1の「チキソ剤」は、はんだ付け用フラックスの技術分野において、通常「チキソ剤」と呼ばれるものであれば特に限定されるものではないことを意味していると解され、他方、甲1では、「フラックスは・・・チキソ剤として、メタクリル酸重合体を含む。メタクリル酸重合体としては・・・ポリアルキルメタクリレートが好ましい。」(【0040】)とあるとおり、「ポリアルキルメタクリレート」が「チキソ剤」として記載されている。 そうすると、甲1発明の「ステアリン酸アミド」及び「ポリアルキルメタクリレート」は、いずれも、本件発明1の「チキソ剤」に相当する。 d 甲2の1?3(前記「ア」「(イ)」?「(エ)」参照。)によれば、甲1発明の「オクタンジオール」が「2-エチル-1,3-ヘキサンジオール」の別名であることは、本件特許の出願時における当業者の技術常識であるといえるから、甲1発明の「オクタンジオール」は、本件発明1の「ヒドロキシ基を1つ以上有すると共に、常温で液体の2-エチル-1,3-ヘキサンジオール」「から選択される液体溶剤」に相当する。 e 以上によれば、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点1、2は以下のとおりである。 (一致点) はんだ付け用フラックスであって、 ヒドロキシ基を1つ以上有すると共に、常温で液体の2-エチル-1,3-ヘキサンジオールからなる液体溶剤と、ヒドロキシ基を1つ以上有すると共に、常温で固体のトリメチロールプロパンからなる固体溶剤と、チキソ剤とを含む、フラックス。 (相違点1) 本件発明1では、固体溶剤は、トリメチロールプロパンの他に、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールから少なくとも1種が選択され、 さらに、各固体溶剤の含有量が、液体溶剤及び固体溶剤の合計含有量に対して、2質量%以上40質量%未満であり、固体溶剤の合計含有量が、液体溶剤及び固体溶剤の合計含有量に対して、30質量%以上80質量%未満であることが特定されているのに対して、 甲1発明では、トリメチロールプロパンの他に、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールから選択される固体溶剤を含まない点。 (相違点2) 本件発明1の「はんだ付け用フラックス」は、「液体溶剤」と、「固体溶剤」と、「チキソ剤」とからなるのに対して、 甲1発明の「フラックス」は、「オクタンジオール」(液体溶剤)と、「トリメチロールプロパン」(固体溶剤)と、「ステアリン酸アミド」及び「ポリアルキルメタクリレート」(チキソ剤)の他に、「揮発性増粘剤」及び「1,2,6-ヘキサントリオール」を含有する点。 (イ)相違点1について a 甲1には、固体溶剤として、トリメチロールプロパンに加えて、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールから選択された少なくとも1種を含有させることは、記載も示唆もされていない。 b 他方、甲4(前記「ア」「(カ)」「b」参照。)には、常温で固体でリフロー温度で蒸発する少なくとも1種の固体溶剤と、常温で高粘性流体でリフロー温度で蒸発する少なくとも1種の高粘性溶剤と、常温で液体でリフロー温度で蒸発する少なくとも1種の液体溶剤とを含むフラックスが記載されており、固体溶剤が2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジオール及びトリメチロールプロパンから選ばれ、高粘性溶剤が30℃での粘度が10,000cps以上で、室温で水飴状の流体である溶剤であることも記載されている。 また、甲4には、上記の固体溶剤と高粘性溶剤は、従来のソルダペーストにおけるロジンの代わりをするものであり、両者の質量比を、フラックスの流動特性が従来のロジン系フラックスに近づくように、固体溶剤:高粘性溶剤=1:0.2?1:10の範囲内で選択することが記載されている。 しかし、仮に、上記「高粘性溶剤」が、本件発明1の「固体溶剤」に相当するとしても、甲4には、「固体溶剤」を2種類以上用いることの技術的意義に関する記載はなく、したがって、2種類以上の「固体溶剤」を用いた場合に、それぞれの「固体溶剤」の含有量と、全ての溶剤(固体溶剤、高粘性溶剤及び液体溶剤)の合計含有量との関係をどのように設定すべきかについても記載はなく、実施例においても、「固体溶剤」として、「2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジオール」及び「トリメチロールプロパン」のいずれか1種のみを用いた場合が開示されているのみである。 c ここで、甲1発明のフラックスは、ロジンを含有しておらず、「揮発性増粘剤」(具体的な材料については、甲1には記載がない。)及び「1,2,6-ヘキサントリオール」を含有しているところ、後者の「1,2,6-ヘキサントリオール」は、甲3(前記「ア」「(オ)」参照。)によれば「Viscous Liquid(粘性液体)」であるから、甲1発明のフラックスは、ロジンを含有せず、粘性を高くする成分として、固体溶剤であるトリメチロールプロパンに加えて、「揮発性増粘剤」及び「1,2,6-ヘキサントリオール」を含有していることになる。 以上によれば、上記の3成分によって、甲1発明のペーストでは、ロジンを含有しない状態においても、必要とする粘性は既に確保されているものと考えられ、また、甲1発明のペーストには、各成分の含有量をどのように調整しても、粘性が不足して必要とする粘性を確保できない特段の事情があるとも認められない。 そして、前記bのとおり、甲4には、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジオール及びトリメチロールプロパンから選ばれる少なくとも1種を固体溶剤として選択することが記載されているものの、「固体溶剤」を2種類以上用いることの技術的意義に関する記載はなく、実施例においても、「固体溶剤」として、「2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジオール」及び「トリメチロールプロパン」のいずれか1種のみを用いた場合が開示されているのみであるから、甲4の上記記載のみでは、甲1発明の固体溶剤としてさらに、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジオールを追加して用いることを動機付ける根拠とはならない。 d よって、甲1発明において、本件発明1の相違点1に係る事項を備えるようにすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 (ウ)相違点2について a 相違点1で検討したとおり、甲1発明のペーストに含有される「揮発性増粘剤」及び「1,2,6-ヘキサントリオール」はいずれもペーストの粘性を高くする成分であると考えられ、上記2成分を含有しないようにした場合にも、必要とする粘性を確保できるか否かは不明であり、また、当業者が敢えてこのようにすることを動機付ける根拠も見いだせない。 また、甲1発明のペーストにおいて、「揮発性増粘剤」及び「1,2,6-ヘキサントリオール」を含有させずに、甲4の記載に基づいて、固体溶剤としてさらに、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジオールを用いる場合を考えてみても、この場合に、必要とする粘性を確保できるか否かは不明というほかなく、当業者が敢えてこのようにすることを動機付ける根拠も見いだせない。 b よって、甲1発明において、本件発明1の相違点2に係る事項を備えるようにすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 (エ)以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1及び甲4に記載された発明に基いて、又は、甲1?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件発明2、5?10について 本件発明2、5?10は、引用により本件発明1の発明特定事項を全て有するから、本件発明1と同様の理由により、甲1及び甲4に記載された発明に基いて、又は、甲1?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 以上のとおり、本件発明1、2?10は、甲1及び甲4に記載された発明に基いて、又は、甲1?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由1(進歩性欠如)には理由がない。 (2)-2 申立理由2(明確性要件違反)について ア 請求項1では、「液体溶剤」と、「固体溶剤」と、「チキソ剤」とからなることが特定されており、請求項1を引用する請求項5では、「さらに、活性剤、酸化防止剤、界面活性剤、消泡剤、及び、腐食防止剤から選択される少なくとも1種を含む」ことが特定されているところ、請求項5では、上記のとおり、「さらに」という記載を付した上で、活性剤、酸化防止剤、界面活性剤、消泡剤、及び、腐食防止剤から選択される少なくとも1種を含む」ことを特定しているから、請求項5の記載は、請求項1の記載と両立するものであって、その記載に不明確なところはない。 イ したがって、本件特許の請求項5及び請求項5を引用する請求項6?10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているといえるから、申立理由2(明確性要件違反)には理由がない。 第4 むすび 以上のとおり、請求項1、2、5?10に係る本件特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできない。 また、請求項3及び4は本件訂正により削除され、請求項3及び4に係る本件特許に対する特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 はんだ付け用フラックスであって、 ヒドロキシ基を1つ以上有すると共に、常温で液体の2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、α-テルピオネール及びイソオクタデカノールから選択される液体溶剤を少なくとも1種と、ヒドロキシ基を1つ以上有すると共に、常温で固体のトリメチロールプロパン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールから選択される固体溶剤を少なくとも2種と、チキソ剤とからなり、 各固体溶剤の含有量が、前記液体溶剤及び前記固体溶剤の合計含有量に対して、2質量%以上40質量%未満であり、 前記固体溶剤の合計含有量が、前記液体溶剤及び前記固体溶剤の合計含有量に対して、30質量%以上80質量%未満である、フラックス。 【請求項2】 前記固体溶剤のうち任意の2種の固体溶剤i,jは、前記液体溶剤及び前記固体溶剤の合計含有量に対するそれぞれの含有量Xi,Xjが、下記(1)式を満たす、請求項1に記載のフラックス。 Xi<0.2121×Xj+31.818 ・・・(1) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 さらに、活性剤、酸化防止剤、界面活性剤、消泡剤、及び、腐食防止剤から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のフラックス。 【請求項6】 請求項1,2又は5のいずれか一つに記載のフラックスと、はんだ合金粉末とを含む、ソルダペースト。 【請求項7】 前記チキソ剤は、脂肪酸アミドである、請求項6に記載のソルダペースト。 【請求項8】 前記脂肪酸アミドは、ステアリン酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド及びヒドロキシステアリン酸アミドから選択される少なくとも1種である、請求項7に記載のソルダペースト。 【請求項9】 前記脂肪酸アミドは、ステアリン酸アミド及びラウリン酸アミドから選択される少なくとも1種である、請求項7に記載のソルダペースト。 【請求項10】 請求項1,2又は5のいずれか一つに記載のフラックスを用いてはんだ付けを行う、電気回路基板の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-08-29 |
出願番号 | 特願2017-163558(P2017-163558) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(B23K)
P 1 651・ 121- YAA (B23K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鈴木 毅 |
特許庁審判長 |
中澤 登 |
特許庁審判官 |
長谷山 健 土屋 知久 |
登録日 | 2018-05-18 |
登録番号 | 特許第6337349号(P6337349) |
権利者 | 株式会社弘輝 |
発明の名称 | フラックス、ソルダペースト及び電子回路基板の製造方法 |
代理人 | 日東 伸二 |
代理人 | 藤本 昇 |
代理人 | 横田 香澄 |
代理人 | 中谷 寛昭 |
代理人 | 横田 香澄 |
代理人 | 藤本 昇 |
代理人 | 日東 伸二 |
代理人 | 中谷 寛昭 |