• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1355958
異議申立番号 異議2018-701012  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-13 
確定日 2019-09-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6357247号発明「六方晶窒化ホウ素粉末、その製造方法、樹脂組成物及び樹脂シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6357247号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1?6〕、〔7?9〕について訂正することを認める。 特許第6357247号の請求項1、3?8に係る特許を維持する。 特許第6357247号の請求項2、9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯

本件特許第6357247号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)10月15日(優先権主張 平成26年12月8日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成30年6月22日に特許権の設定登録がされ、同年7月11日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許の請求項1?9(全請求項)に係る特許に対し、同年12月13日付けで特許異議申立人 志築正治(以下「異議申立人」という。)により、以下の甲第1号証?甲第2号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、平成31年3月19日付けで特許権者に取消理由が通知され、その指定期間内の令和1年5月14日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正(以下、「本件訂正」という。)請求がされ、同年6月19日付けで異議申立人により意見書が提出されたものである。

(証拠方法)
甲第1号証:特開昭60-33204号公報
甲第2号証:特開昭51-91000号公報


第2 本件訂正の適否についての判断
本件訂正の請求の趣旨、及び、訂正の内容は、本件訂正請求書の記載によれば、それぞれ以下のとおりのものである。

1. 請求の趣旨
本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について訂正することを求める。

2. 訂正の内容 (当審注:訂正箇所には下線を付した。)
(1) 一群の請求項1?6に係る訂正
ア. 訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に、
「六方晶窒化ホウ素の一次粒子の凝集体を含む目開き106μm篩下の粉末含有率が80質量%以上の六方晶窒化ホウ素粉末であって、」とあるのを、
同請求項2の発明特定事項を組み入れて、
「六方晶窒化ホウ素の一次粒子の凝集体を含む目開き106μm篩下の粉末含有率が80質量%以上、目開き45μm篩下の粉末含有率が45質量%以下の六方晶窒化ホウ素粉末であって、」
に訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項3?6も訂正する。

イ. 訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に、
「45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末の粒径分布曲線において、粒径45?150μmの範囲内に最大ピークを1つ有し、45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させた分散液を1分間超音波処理したときの下記式(1)で算出される最大ピークのピーク減少率が40?90%である、六方晶窒化ホウ素粉末。
ピーク減少率=〔(処理前の最大ピーク高さ(a))-(処理後の最大ピーク高さ(b))〕/(処理前の最大ピーク高さ(a)) (1)」 とあるのを、
「45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末の粒径分布曲線において、粒径45?150μmの範囲内に最大ピークを1つ有し、45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させた分散液を1分間超音波処理したときの下記式(1)で算出される粒径45?150μmの間に発生する最大ピークのピーク減少率が40?90%であり、前記1分間超音波処理の条件が、分級した45?106μmの粒径を有する六方晶窒化ホウ素粉末0.06gを水50gに分散させた分散液を、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で、株式会社日本精機製作所製「超音波ホモジナイザーUS-150V」を用いて、1分間超音波処理することである、六方晶窒化ホウ素粉末。
ピーク減少率(%)={〔(処理前の最大ピーク高さ(a))-(処理後の最大ピーク高さ(b))〕/(処理前の最大ピーク高さ(a))}×100 (1)」
に訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項3?6も訂正する。

ウ. 訂正事項1-3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

エ. 訂正事項1-4
特許請求の範囲の請求項3に、
「請求項1又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。」とあるのを、
「請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。」
に訂正し、その結果として、請求項3を引用する請求項4?6も訂正する。

オ. 訂正事項1-5
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1?3のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末。」とあるのを、
「請求項1又は3に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。」
に訂正し、その結果として、請求項4を引用する請求項5?6も訂正する。

カ. 訂正事項1-6
特許請求の範囲の請求項5に、
「請求項1?4のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末」とあるのを、
「請求項1、3?4のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末」
に訂正し、その結果として、請求項5を引用する請求項6も訂正する。

(2) 一群の請求項7?9に係る訂正
ア. 訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項7に、
「窒化ホウ素20?90質量%及び酸化ホウ素10?80質量%を含む粗製六方晶窒化ホウ素粉末100質量部と、炭素換算で3?15質量部の炭素源と0.05?0.8質量部のカルシウム化合物を混合する混合工程、混合した粉末を成形する成形工程、成形したものを、窒素ガスを含む雰囲気下で焼成する焼成工程、焼成したものを粉砕する粉砕工程、及び粉砕したものを分級する分級工程、の順次の工程を有する六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。」とあるのを、
請求項1、3?4のいずれかの記載を引用するようにするとともに、同請求項9の発明特定事項を組み入れて、
「請求項1、3?4のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法であって、
窒化ホウ素20?90質量%及び酸化ホウ素10?80質量%を含む粗製六方晶窒化ホウ素粉末100質量部と、炭素換算で3?15質量部の炭素源と0.05?0.8質量部のカルシウム化合物を混合する混合工程、混合した粉末を成形する成形工程、成形したものを、窒素ガスを含む雰囲気下で焼成する焼成工程、焼成したものを粉砕する粉砕工程、及び粉砕したものを分級する分級工程、の順次の工程を有するとともに、前記焼成工程の後に、目開き106μmの篩及び目開き45μmの篩を用いて、45?106μmの六方晶窒化ホウ素粉末〔hBN粉末(A)〕と45μm篩下の六方晶窒化ホウ素粉末〔hBN粉末(B)〕に分級したのち、hBN粉末(A)とhBN粉末(B)を、hBN粉末(A)及び(B)の合計量に対するhBN粉末(A)の割合が40?90質量%となるように混合する混合工程を有する、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。」に訂正し、その結果として、請求項7を引用する請求項8も訂正する。

イ. 訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項9を削除する。


3. 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求
の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1に係る発明に、訂正前の請求項2の発明特定事項を組み入れるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2) 訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、訂正前の請求項1の、「ピーク減少率=〔(処理前の最大ピーク高さ(a))-(処理後の最大ピーク高さ(b))〕/(処理前の最大ピーク高さ(a)) (1)」という式(1)では、%表示のピーク減少率が算出されないため、同請求項1の、「下記式(1)で算出される最大ピークのピーク減少率が40?90%である」との発明特定事項とは整合がとれていなかったところ、当該式(1)を、「ピーク減少率(%)={〔(処理前の最大ピーク高さ(a))-(処理後の最大ピーク高さ(b))〕/(処理前の最大ピーク高さ(a))}×100 (1)」に改めて、前記の発明特定事項との整合がとれるようにするという訂正事項1-2aと、
訂正前の請求項1の記載では、「45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末の粒径分布曲線において、粒径45?150μmの範囲内に最大ピークを1つ有」すると特定されている「最大ピーク」と、「45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させた分散液を1分間超音波処理したときの下記式(1)で算出される最大ピークのピーク減少率」という発明特定事項における、ピーク減少率算出の対象になっている「最大ピーク」との対応関係が明瞭ではなかったところ、ピーク減少率算出の対象になっている「最大ピーク」について、本件特許の明細書【0085】及び図面【図7】の記載事項に基づいて、「下記式(1)で算出される粒径45?150μmの間に発生する最大ピークのピーク減少率」に改めて、両者の「最大ピーク」の対応関係の明瞭化を図るという訂正事項1-2bと、
訂正前の請求項1の、「45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させた分散液を1分間超音波処理したとき」という記載では、1分間行う超音波処理の処理条件が明瞭ではなかったところ、本件特許の明細書【0085】の記載事項に基づいて、「前記1分間超音波処理の条件が、分級した45?106μmの粒径を有する六方晶窒化ホウ素粉末0.06gを水50gに分散させた分散液を、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で、株式会社日本精機製作所製「超音波ホモジナイザーUS-150V」を用いて、1分間超音波処理することである、」という特定を加えて、1分間行う超音波処理の処理条件の明瞭化を図るという訂正事項1-2cとからなっている。
そして、これらの訂正事項1-2a?1-2cは、訂正前の請求項1における発明特定事項の間の整合がとれるようにしたり、本件特許の明細書【0085】等の記載事項に基づいて、訂正前の請求項1における発明特定事項の明瞭化を図る訂正事項であるから、いずれも、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3) 訂正事項1-3について
訂正事項1-3は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4) 訂正事項1-4?1-6について
訂正事項1-4?1-6は、訂正前の請求項3?5において、請求項2の引用を行わないようにするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5) 訂正事項2-1について
訂正事項2-1は、製造される粉末の性状について特定のなかった、訂正前の請求項7において、請求項1、3?4のいずれかの記載を引用することで、その性状を特定するとともに、訂正前の請求項9の発明特定事項を組み入れるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6) 訂正事項2-2について
訂正事項2-2は、請求項9を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7) 独立特許要件について
本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされたので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用される請求項はなく、したがって、訂正事項1-1?2-2には、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

(8) 一群の請求項について
訂正前の請求項2?6は、訂正前の請求項1を引用する請求項であり、請求項1?6は一群の請求項であるところ、訂正事項1-1?1-6を含む本件訂正は、その一群の請求項に対して請求されたものであるから、特許法120条の5第4項に適合する。
また、訂正前の請求項8?9は、訂正前の請求項7を引用する請求項であり、請求項7?9は一群の請求項であるところ、訂正事項2-1?2-2を含む本件訂正は、その一群の請求項に対して請求されたものであるから、特許法120条の5第4項に適合する。


4. 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕、〔7?9〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記第2のとおり訂正することを認めるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、3?8に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」、「本件特許発明3」?「本件特許発明8」ということがあり、また、これらを、まとめて、「本件特許発明」ということがある。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1、3?8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子の凝集体を含む目開き106μm篩下の粉末含有率が80質量%以上、目開き45μm篩下の粉末含有率が45質量%以下の六方晶窒化ホウ素粉末であって、50%体積累積粒径D_(50)が10?20μm、結晶子径が260?1000Åであり、かつ、45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末の粒径分布曲線において、粒径45?150μmの範囲内に最大ピークを1つ有し、45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させた分散液を1分間超音波処理したときの下記式(1)で算出される粒径45?150μmの間に発生する最大ピークのピーク減少率が40?90%であり、
前記1分間超音波処理の条件が、分級した45?106μmの粒径を有する六方晶窒化ホウ素粉末0.06gを水50gに分散させた分散液を、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で、株式会社日本精機製作所製「超音波ホモジナイザーUS-150V」を用いて、1分間超音波処理することである、六方晶窒化ホウ素粉末。
ピーク減少率(%)={〔(処理前の最大ピーク高さ(a))-(処理後の最大ピーク高さ(b))〕/(処理前の最大ピーク高さ(a))}×100 (1)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
BET比表面積が1.5?10m^(2)/gである、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
嵩密度が0.3g/cm^(3)以上である、請求項1又は3に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
請求項1、3?4のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末を10?90体積%含有する、樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂組成物又はその樹脂組成物が硬化したものからなる、樹脂シート。
【請求項7】
請求項1、3?4のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法であって、
窒化ホウ素20?90質量%及び酸化ホウ素10?80質量%を含む粗製六方晶窒化ホウ素粉末100質量部と、炭素換算で3?15質量部の炭素源と0.05?0.8質量部のカルシウム化合物を混合する混合工程、混合した粉末を成形する成形工程、成形したものを、窒素ガスを含む雰囲気下で焼成する焼成工程、焼成したものを粉砕する粉砕工程、及び粉砕したものを分級する分級工程、の順次の工程を有するとともに、前記焼成工程の後に、目開き106μmの篩及び目開き45μmの篩を用いて、45?106μmの六方晶窒化ホウ素粉末〔hBN粉末(A)〕と45μm篩下の六方晶窒化ホウ素粉末〔hBN粉末(B)〕に分級したのち、hBN粉末(A)とhBN粉末(B)を、hBN粉末(A)及び(B)の合計量に対するhBN粉末(A)の割合が40?90質量%となるように混合する混合工程を有する、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項8】
前記炭素源が、黒鉛及び炭化ホウ素から選ばれる1種又は2種である、請求項7に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項9】
(削除) 」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1. 取消理由の概要
訂正前の請求項1?9に係る特許に対して、平成31年3月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次の1)?2)のとおりである。
1) 請求項1における、
「下記式(1)で算出される最大ピークのピーク減少率が40?90%である、六方晶窒化ホウ素粉末。
ピーク減少率=〔(処理前の最大ピーク高さ(a))-(処理後の最大ピーク高さ(b))〕/(処理前の最大ピーク高さ(a)) (1)」との記載について、式(1)で算出されるピーク減少率自体は、「%」を単位とする値とはなり得ないのにもかかわらず、その式で算出される最大ピークのピーク減少率が「40?90%」と特定されているため、「式(1)」についての特定と、その「式(1)で算出される最大ピークのピーク減少率」についての特定とが整合しておらず、明確性を欠くこととなっており、また、その請求項1の記載を引用する請求項2?6についても、同様の理由で、明確性を欠くこととなっている。
そのため、請求項1?6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2) 本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下、単に、「発明の詳細な説明」という。)によれば、本件特許の発明は、六方晶窒化ホウ素粉末を用いて樹脂組成物及び樹脂シートを製造した際に、従来よりも高い熱伝導性及び高い電気絶縁性を発現できる六方晶窒化ホウ素粉末、その製造方法、樹脂組成物及び樹脂シートを提供することを、発明が解決しようとする課題(以下、単に、「課題」ということがある。)にしており、その課題を解決できる手段としての客観的かつ具体的な開示は、発明の詳細な説明全体の記載を精査しても、実施例1?5の開示にとどまるところ、請求項1、3?6に係る発明は、六方晶窒化ホウ素粉末について、「目開き45μm篩下の粉末含有率が45質量%以下」との発明特定事項は備えておらず、また、請求項1?6に係る発明は、「45?106μmの粒径に分級された六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させた分散液を1分間超音波処理」する時の超音波処理条件が特定されていないし、ピーク減少率算出の際の処理後の最大ピークの位置が「粒径45?150μmの範囲内」に特定されていないことから、前記の課題を解決し得ない場合まで包含している。また、請求項7?8に係る発明は、請求項9の発明特定事項である、「前記焼成工程後に、目開き106μmの篩及び目開き45μmの篩を用いて、45?106μmの六方晶窒化ホウ素粉末〔hBN粉末(A)〕と45μm篩下の六方晶窒化ホウ素粉末〔hBN粉末(B)〕に分級したのち、hBN粉末(A)とhBN粉末(B)を、hBN粉末(A)及び(B)の合計量に対するhBN粉末(A)の割合が40?90質量%となるように混合する混合工程を有する」ことを備えていないことから、前記の課題を解決し得ない場合まで包含しているし、また、請求項7?9に係る発明により製造される六方晶窒化ホウ素粉末には、前記の課題を解決し得ないものまで包含されているから、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
そのため、請求項1?9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


2. 当審の判断
(1) 特許法第36条第6項第2号の取消理由について
本件特許発明における式(1)は、上記第3に示したとおり、「ピーク減少率(%)={〔(処理前の最大ピーク高さ(a))-(処理後の最大ピーク高さ(b))〕/(処理前の最大ピーク高さ(a))}×100 (1)」に訂正され、「%」を単位とするピーク減少率が算出できる式となったため、「式(1)」についての特定と、その「式(1)で算出される最大ピークのピーク減少率」についての特定とが整合するようになった。
したがって、本件特許発明について、上記1.の1)に示した特許法第36条第6項第2号の取消理由は理由のないものとなった。

(2) 特許法第36条第6項第1号の取消理由について
本件特許発明は、上記第3に示したとおりに、訂正され、本件特許発明1、3?6は、六方晶窒化ホウ素粉末について、「目開き45μm篩下の粉末含有率が45質量%以下」との発明特定事項を備えるとともに、「45?106μmの粒径に分級された六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させた分散液を1分間超音波処理」する時の超音波処理条件が特定され、しかも、ピーク減少率算出の際の処理後の最大ピークの位置が「粒径45?150μmの範囲内」に特定された。
そして、これらの特定事項により、本件特許発明1、3?6は、実施例1?5によって裏付けられた、六方晶窒化ホウ素の一次粒子で構成された凝集体を含有する六方晶窒化ホウ素粉末であって、特定の結晶子径及び粒径を有し、かつ凝集体の強度が特定の範囲内であって、六方晶窒化ホウ素粉末の粒径分布曲線において、特定の範囲内に極大(最大)ピークを1つ有し、当該六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させた分散液を1分間超音波処理したときの当該極大(最大)ピークの減少率に着目して、凝集体の強度を調整できるとの知見に立脚したものとなったため、上記1.の2)に示した課題を解決し得ない場合を包含しているとはいえないものとなった。
また、本件特許発明7?8は、上記第3に示したとおりに訂正され、訂正前の請求項9の発明特定事項を備えたものとなり、しかも、訂正後の請求項1、3?4のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法であることを発明特定事項として備えたものとなったことにより、実施例1?5によって裏付けられた前記の知見に立脚したものとなったため、上記1.の2)に示した課題を解決し得ない場合を包含しているとはいえないものとなった。
したがって、本件特許発明について、上記1.の2)に示した特許法第36条第6項第1号の取消理由は理由のないものとなった。

(3) 補足
(3-1) 異議申立人の主張
令和1年6月19日付けの意見書で、異議申立人は、上記第3に示した本件特許発明に対して、次の主張をしている。
ア. 本件特許発明の課題を解決することができる六方晶窒化ホウ素粉末(以下hBN粉末)についての、客観的かつ具体的な開示は、実施例1?5のhBN粉末にとどまっており、実施例1?5では、目開き106μmの篩及び目開き45μmの篩を用いて分級した、45?106μmのhBN粉末[hBN粉末(A)]と45μmの篩下のhBN粉末[hBN粉末(B)]を、hBN粉末(A)とhBN粉末(B)の合計量に対するhBN粉末(A)の割合(顆粒率)が60質量%または80質量%となるように混合したhBN粉末を用いて、樹脂シートについて熱伝導性、電気絶縁性の評価をしているが、本件特許発明1の六方晶窒化ホウ素粉末は、hBN粉末(A)とhBN粉末(B)とからなり、hBN粉末(A)の割合がhBN粉末(A)とhBN粉末(B)の合計量に対して40?90質量%であることが特定されていないので、本件特許発明1は本件特許発明の課題を解決し得ない範囲まで包含していることになるし、本件特許発明3?6も、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明の課題を解決し得ない範囲まで包含していることになる。

イ. 本件特許発明1には、「株式会社日本精機製作所製「超音波ホモジナイザーUS-150V」」を用いたことが記載されているが、「超音波ホモジナイザーUS-150V」は商標名であり、少なくとも本件特許の出願日以前から出願当時にかけて、その商標名で特定される物が特定の品質、構造を有する物であったことは、当業者にとって自明でないので、本件特許発明1は明確ではないし、本件特許発明3?8も、本件特許発明1と同様の理由で、明確ではない。

(3-2) 当審の判断
ア. 異議申立人が上記(3-1)ア.に示したように主張する、hBN粉末(A)とhBN粉末(B)とからなり、hBN粉末(A)の割合がhBN粉末(A)とhBN粉末(B)の合計量に対して40?90質量%であることの技術的意義について検討してみるに、発明の詳細な説明によれば、hBN焼成物を粉砕後に、乾式振動篩装置を用いて、45?106μmのhBN粉末(A)と45μm篩下のhBN粉末(B)に分級し、前記のhBN粉末(A)と前記のhBN粉末(B)の合計量に対する前記のhBN粉末(A)の割合(以下、「顆粒率」という。)が40?90質量%となるように混合して得られたものが、図1?2に示されるような、混合する前には存在していなかったhBN凝集体を含んでいる、本件特許発明1の六方晶窒化ホウ素粉末であり、そのhBN凝集体は適度な強度を有するとされている(【0044】、【0064】?【0066】、【0095】?【0097】)ことから、本件特許発明1の六方晶窒化ホウ素粉末の製造途中の、混合段階で40?90質量%であったという顆粒率が、hBN凝集体を含んでいる、本件特許発明1の六方晶窒化ホウ素粉末において、維持されているわけではないことは明らかである。

イ. 上記(2)の検討、及び、上記ア.の検討を踏まえると、本件特許発明1の六方晶窒化ホウ素粉末についての製造途中の段階での状態にすぎない、顆粒率が40?90質量%であったという特定は、本件特許発明1の六方晶窒化ホウ素粉末についての製造方法の発明、すなわち、本件特許発明7の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法に係る発明については、必要な事項であるが、その製造方法によって得られた物の発明である、本件特許発明1の六方晶窒化ホウ素粉末の発明については、当該得られた物に関する結晶子径、粒径、及び、凝集体の強度のそれぞれを特定することが必要な事項なのであって、製造途中の段階での状態にすぎない、顆粒率が40?90質量%であったという特定は必要な事項とはいえない。また、本件特許発明3?6についても、本件特許発明1についての検討と、同様である。
してみると、異議申立人の上記(3-1)ア.の主張は、発明の詳細な説明に記載された発明を正解しない主張であるし、妥当な主張でもないから、採用し得ない。

ウ. 次に、本件特許発明1、3?8における、「超音波ホモジナイザーUS-150V」という超音波処理装置に関する記載事項は、上記第3に示したとおり、「45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末の粒径分布曲線において、粒径45?150μmの範囲内に最大ピークを1つ有し、45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させた分散液を1分間超音波処理したときの…式(1)で算出される粒径45?150μmの間に発生する最大ピークのピーク減少率が40?90%であり、前記1分間超音波処理の条件が、分級した45?106μmの粒径を有する六方晶窒化ホウ素粉末0.06gを水50gに分散させた分散液を、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で、株式会社日本精機製作所製「超音波ホモジナイザーUS-150V」を用いて、1分間超音波処理することである」という、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の適度な強度の凝集体に関する発明特定事項における、超音波処理条件についての記載事項のひとつであるが、当該超音波処理装置に関する記載事項は、発明の詳細な説明によれば、六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させた分散液を出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で1分間超音波処理できる超音波処理装置を具体的に明らかとしただけの記載(【0008】?【0009】、【0012】?【0013】、【0081】、【0085】)であって、他の超音波処理装置では本件特許発明における超音波処理条件を満足し得ないことまでの特定が行われているわけではないことが把握できることからして、異議申立人の上記(3-1)イ.の当該は妥当性を欠く。
してみると、異議申立人の上記(3-1)イ.の主張も採用し得ない。


第5 取消理由とはしなかった特許異議の申立理由について
1. 申立理由の概要
異議申立人は、特許異議申立書において、以下の申立理由1?4によって、本件訂正前の請求項1?9に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1) 申立理由1(特許法第29条第2項について(同法第113条第2
号))
本件訂正前の請求項7?8に係る発明は、甲第1?2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2) 申立理由2(特許法第36条第4項第1号および同法同条第6項1
号について(同法第113条第4号))
発明の詳細な説明には、従来よりも高い熱伝導率及び高い電気絶縁性を実現できるhBN粉末を提供することを課題とし(段落[0007])、実施例1?5の各実施例には、hBN粉末(A)とhBN粉末(B)とを下記式の顆粒率が60質量%または80質量%となるように混合する工程を必須とするというhBN粉末の製造方法が記載されているのに対して、本件訂正前の請求項7?9に係る発明は、hBN粉末(A)とhBN粉末(B)とを下記式の顆粒率が60質量%または80質量%となるように混合する工程を含んでいないし、本件訂正前の請求項1?6に係る発明も、下記式の顆粒率が60質量%または80質量%に特定されていないので、本件訂正前の請求項1?9に係る発明は、当業者が実施することができる程度に明確且つ十分に、発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、また、課題を解決できることが認識できる程度に記載されているともいえず、特許法第36条第4項第1号の規定および同法同条第6項1号の規定に違反する記載不備がある。
顆粒率(質量%)=[(A)/〔(A)+(B)〕]

(3) 申立理由3(特許法第36条第6項第2号について(同法第113
条第4号))
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は、hBN粉末(A)とhBN粉末(B)との混合物であるにもかかわらず、hBN粉末(A)について測定された最大ピークおよびピーク減少率を発明特定事項としており、しかも、この発明特定事項が当該混合物の特定にどのように関与しているのかについて明細書には何ら記載されていないので、明確でない。

(4) 申立理由4(特許法第36条第6項第2号および同法同条第4項
1号について(同法第113条第4号))
次の(4-1)?(4-3)の点において、本件訂正前の請求項1?6に係る発明は明確ではなく、加えて当業者が実施し得る程度に明確且つ十分に発明の詳細な説明に記載されているとは言えないので、特許法第36条第6項第2号の規定および同法同条第4項第1号の規定に違反している。
(4-1) 本件特許の明細書には、本件訂正前の請求項1?6に係る発明の結晶子径を求める解析式(計算式)の記載がなく、また、本件特許が成立する前の審査の段階で提出された意見書における、特許権者の結晶子径についての主張を裏付ける記載も、本件特許の明細書には何も無い。
(4-2) 本件特許の明細書には、本件訂正前の請求項1?6に係る発明の最大ピークのピーク減少率に影響する、分散液調整容器のサイズ、超音波処理におけるプローブの位置等が記載されておらず、当該ピーク減少率の定義が明細書に記載されていないのと同義である。
(4-3) 窒化ホウ素粉末は一般に水との相溶性が好ましく無く、水に分散し難いことから、本件特許の明細書における、hBN粉末を水に分散させたとの記載は、不明瞭である。

2. 当審の判断
(1) 申立理由1について
ア. 甲第1号証(特開昭60-33204号公報)には、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法に関し、粗製六方晶窒化ホウ素粉末中に存在する酸素が再加熱でB_(2)O_(3)になることを利用して、酸素を1?12重量%含む粗製六方晶窒化ホウ素粉末にCaOを1?10重量%添加混合した後、成形し、窒素ガスを流しながら焼結し、この焼結体を粉砕、分級するという方法(以下、「甲1発明」という)が記載されている(特許請求の範囲、第2頁右上欄第10行?第4頁末行)。

イ. そこで、本件特許発明7と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「酸素を1?12重量%含む粗製六方晶窒化ホウ素粉末」、「CaO」、「窒素ガスを流しながら焼結」することは、それぞれ、本件特許発明7における「窒化ホウ素20?90質量%及び酸化ホウ素10?80質量%を含む粗製六方晶窒化ホウ素粉末」、「カルシウム化合物」、「窒素ガスを含む雰囲気下で焼成する」ことに相当することから、両者は、窒化ホウ素20?90質量%及び酸化ホウ素10?80質量%を含む粗製六方晶窒化ホウ素粉末とカルシウム化合物を混合する混合工程、混合した粉末を成形する成形工程、成形したものを、窒素ガスを含む雰囲気下で焼成する焼成工程、焼成したものを粉砕する粉砕工程、及び粉砕したものを分級する分級工程、の順次の工程を有する六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法の点で一致し、以下の(イ1)?(イ3)の点で相違していると認める。

(イ1) 前記焼成工程の前の混合工程において、本件特許発明7では、粗製六方晶窒化ホウ素粉末100質量部と炭素換算で3?15質量部の炭素源と0.05?0.8質量部のカルシウム化合物を混合するのに対し、甲1発明では、粗製六方晶窒化ホウ素粉末にCaOを1?10重量%添加混合する点。
(イ2) 本件特許発明7では、前記焼成工程の後に、目開き106μmの篩及び目開き45μmの篩を用いて、45?106μmの六方晶窒化ホウ素粉末〔hBN粉末(A)〕と45μm篩下の六方晶窒化ホウ素粉末〔hBN粉末(B)〕に分級したのち、hBN粉末(A)とhBN粉末(B)を、hBN粉末(A)及び(B)の合計量に対するhBN粉末(A)の割合が40?90質量%となるように混合する混合工程を有するのに対し、甲1発明では、前記焼成工程の後にそのような混合工程を有していない点。
(イ3) 本件特許発明7は、本件特許発明1、3?4のいずれかに記載された性状を有する六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法であるのに対し、甲1発明は六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法であるものの、その六方晶窒化ホウ素粉末の性状が不明である点。

ウ. 次に、まず、上記相違点(イ1)について検討するに、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法における、焼成工程の前工程である、混合工程において、本件特許発明7では、粗製六方晶窒化ホウ素粉末100質量部と炭素換算で3?15質量部の炭素源と0.05?0.8質量部のカルシウム化合物を混合するのに対し、甲1発明では、粗製六方晶窒化ホウ素粉末にCaOを1?10重量%添加混合するところ、この添加混合に関し、甲第1号証には、添加量は1%未満か又は10%(内割り%)を越えると焼結性、結晶性が低い旨記載されている(第2頁右上欄第18行?右下欄第第6行)ことから、粗製六方晶窒化ホウ素粉末100質量部に対しては、1.0?11質量部のカルシウム化合物を混合することを意味しており、上記相違点(イ1)は実質的な相違点である。
ここで、甲第2号証(特開昭51-91000号公報)には、純粋な六方晶窒化ホウ素粉末を高収率で得る六方晶系窒化ホウ素粉末の製造方法に関し、CaB_(6)の窒化の際に付着しているB_(2)O_(3)の完全な窒化のためには、CaB_(6) 82重量%、B_(2)O_(3) 18重量%が最適出発組成であるが、その最適出発組成よりも高いB_(2)O_(3)含量の場合にはホウ化物に十分に炭素を添加混合し、酸化ホウ素と炭素及び窒素との反応によって他の窒化ホウ素を得るのが有利であることが記載されており(第2頁右上欄第13行?左下欄第4行、4頁左下欄第4?12行)、申立理由1に関し、異議申立人は、甲第2号証のこのような記載からして、上記相違点(イ1)に係る本件特許発明7の発明特定事項は、当業者が容易になし得たものである旨を特許異議申立書において主張している。
甲第1?2号証には、一応、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法に関する発明が記載されているものの、甲第1号証に記載されているのは、前記の検討のとおり、粗製六方晶窒化ホウ素粉末100質量部に対しては、1.0?11質量部のカルシウム化合物を混合した原料を焼結するという発明であるのに対し、甲第2号証には、異議申立人が主張するとおりの、CaB_(6) 82重量%、B_(2)O_(3) 18重量%が最適出発組成であるが、その最適出発組成よりも高いB_(2)O_(3)含量の場合にはホウ化物に十分に炭素を添加混合した原料を焼結している発明が記載されている。しかしながら、この甲第2号証記載の発明は、粗製六方晶窒化ホウ素粉末を焼結原料に用いるものではないし、また、甲第2号証全体の記載を参照しても、粗製六方晶窒化ホウ素粉末を焼結原料に用いることは記載も示唆もされていないことから、甲第1?2号証記載の発明は、互いに、焼結原料が異なるものであって、組み合わせようがないものである。
また、甲第1号証の前記の記載(第2頁右上欄第18行?右下欄第第6行)によれば、甲1発明において、粗製六方晶窒化ホウ素粉末100質量部に対するカルシウム化合物の混合割合を、1.0?11質量部の範囲外とすることが記載も示唆もされていないといえることから、粗製六方晶窒化ホウ素粉末100質量部と0.05?0.8質量部のカルシウム化合物を混合することを含む、上記相違点(イ1)に係る本件特許発明7の発明特定事項は、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、上記相違点(イ1)に係る本件特許発明7の発明特定事項は、甲第1?2号証記載の発明に基いて、当業者が容易になし得た事項ではないから、上記相違点(イ2)?(イ3)に係る本件特許発明7の発明特定事項について検討するまでもなく、異議申立人の上記1.(1)に示した申立理由1は理由がない。

(2) 申立理由2について
異議申立人の上記1.(2)に示した申立理由2は、上記第4の(3-2)ア.?イ.での検討と同様にして、理由がない。

(3) 申立理由3について
異議申立人の上記1.(3)に示した申立理由3も、上記(2)での検討を踏まえると、理由がない。

(4) 申立理由4について
(4-1)
ア. 上記第3に示したとおり、本件特許発明は、六方晶窒化ホウ素粉末について、結晶子径を特定の範囲内とすることを発明特定事項として備えたものであるところ、六方晶窒化ホウ素粉末についての結晶子径は、ピークが最も強い002面の結晶の大きさ(Lc)を、そのピークの半値幅β(度)を測定し、次式によって算出するという方法(日本学術振興会117委員会法)により、
Lc=(0.9×1.54056×57.3)/β・cosθ(Å)
(当審注:θは回折ピークの位置を示す角度)
慣用的に求められてきている(特公昭49-37093号公報の第1頁第2欄第17?33行、特公平5-24849号公報の第4頁第7欄第25行?第8欄第5行、特公平6-10105号公報の第2頁第3欄第12?16行、特開平9-295801号公報の【0017】、甲第1号証第1頁右下欄第11?13行)ことを考慮すると、本件特許の明細書に、単に、本件特許発明の結晶子径を求める解析式(計算式)の記載がないことのみをもって、記載不備があるとするのは妥当なこととはいえない。

イ. また、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明における六方晶窒化ホウ素粉末の結晶子径の求め方について、「X線回折測定により、実施例及び比較例で得られたhBN粉末の結晶子径を算出した。X線回折測定装置としては、PANalytical社製、機種名「X’Pert PRO」を用い、銅ターゲットを使用してCu-Kα1線を用いた。」(【0086】)との記載があるところ、当該X線回折測定装置を用いた測定では、六方晶窒化ホウ素粉末の結晶子径が一義的に求まらないとする、客観的かつ具体的な証拠があるわけでもない。

ウ. 上記ア.?イ.の検討を踏まえると、異議申立人の上記1.(4)の(4-1)の点を記載不備ということはできない。

(4-2)
エ. 上記第3に示したとおり、本件特許発明は、
「45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させた分散液を1分間超音波処理したときの下記式(1)で算出される粒径45?150μmの間に発生する最大ピークのピーク減少率が40?90%であり、
前記1分間超音波処理の条件が、分級した45?106μmの粒径を有する六方晶窒化ホウ素粉末0.06gを水50gに分散させた分散液を、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で、株式会社日本精機製作所製「超音波ホモジナイザーUS-150V」を用いて、1分間超音波処理することである、六方晶窒化ホウ素粉末。
ピーク減少率(%)={〔(処理前の最大ピーク高さ(a))-(処理後の最大ピーク高さ(b))〕/(処理前の最大ピーク高さ(a))}×100 (1)」という発明特定事項を備えたものである。

オ. そして、上記エ.に示した本件特許発明の発明特定事項について、発明の詳細な説明の記載(【0081】、【0085】)によれば、hBN粉末0.06gを純水50gに分散させた分散液に対して出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で3分間超音波処理した分散液を用いるとhBN粉末の50%体積累積粒径(D_(50))が測定できることを前提として、粒径45?150μmの間に発生する最大ピークのピーク減少率(以下、単に「ピーク減少率」という。)を、分級した45?106μmの粒径のhBN粉末0.06gを純水50gに分散させた分散液に対して出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で1分間超音波処理した分散液を用いて、すなわち、hBN粉末の50%体積累積粒径(D_(50))が測定できる分散液を得るための超音波処理に対して、その処理対象を分級した45?106μmの粒径のhBN粉末に特定し、また、その処理時間を1分間に変更して超音波処理した分散液を用いて、求めるという、発明特定事項であるといえる。

カ. ここで、50%体積累積粒径(D_(50))が測定できるということは、慣用の代表径の測定である、メジアン径の測定に再現性・信頼性が担保されており、その測定に用いられる超音波処理した分散液にも再現性・信頼性が担保されているということから、その超音波処理に対して、前記処理の対象を分級した45?106μmの粒径のhBN粉末に特定し、また、前記処理の時間を1分間に変更して超音波処理した分散液を用いて、求めるピーク減少率についても再現性・信頼性が担保されているということとなる。

キ. 上記エ.?カ.の検討を踏まえると、異議申立人の上記1.(4)の(4-2)の点を記載不備ということはできない。

(4-3) 上記第3に示したとおり、本件特許発明には「45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させた分散液」との特定事項があり、また、本件特許の発明の詳細な説明には、「分級した45?106μmの粒径を有するhBN粉末0.06gを水50gに分散させた分散液を調製した。」との記載(【0085】)があるところ、これらは、六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させることは困難であることから、界面活性剤を添加して六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させることが慣用的に行われてきている(特開平8-183906号公報の【0003】?【0004】、特許第5065198号公報の【0021】、【0030】、特開2013-241321号公報の【0089】)ことを考慮すると、それぞれ、「45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末を、界面活性剤を添加した、水に分散させた分散液」、「分級した45?106μmの粒径を有するhBN粉末0.06gを、界面活性剤を添加した、水50gに分散させた分散液を調製した。」ということを意味していることは、技術常識に照らし、明らかである。
してみると、異議申立人の上記1.(4)の(4-3)の点を記載不備ということはできない。

(4-4) 小括
上記(4-1)?(4-3)の検討によれば、異議申立人の上記1.(4)に示した申立理由4も理由がない。


第6 むすび
以上のとおり、取消理由、及び、特許異議の申立理由によっては、本件請求項1、3?8に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1、3?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2、9は、訂正により削除されたため、本件請求項2、9に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子の凝集体を含む目開き106μm篩下の粉末含有率が80質量%以上、目開き45μm篩下の粉末含有率が45質量%以下の六方晶窒化ホウ素粉末であって、50%体積累積粒径D_(50)が10?20μm、結晶子径が260?1000Åであり、かつ、45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末の粒径分布曲線において、粒径45?150μmの範囲内に最大ピークを1つ有し、45?106μmの粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させた分散液を1分間超音波処理したときの下記式(1)で算出される粒径45?150μmの間に発生する最大ピークのピーク減少率が40?90%であり、
前記1分間超音波処理の条件が、分級した45?106μmの粒径を有する六方晶窒化ホウ素粉末0.06gを水50gに分散させた分散液を、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で、株式会社日本精機製作所製「超音波ホモジナイザーUS-150V」を用いて、1分間超音波処理することである、六方晶窒化ホウ素粉末。
ピーク減少率(%)={〔(処理前の最大ピーク高さ(a))-(処理後の最大ピーク高さ(b))〕/(処理前の最大ピーク高さ(a))}×100 (1)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
BET比表面積が1.5?10m^(2)/gである、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
嵩密度が0.3g/cm^(3)以上である、請求項1又は3に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
請求項1、3?4のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末を10?90体積%含有する、樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂組成物又はその樹脂組成物が硬化したものからなる、樹脂シート。
【請求項7】
請求項1、3?4のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法であって、
窒化ホウ素20?90質量%及び酸化ホウ素10?80質量%を含む粗製六方晶窒化ホウ素粉末100質量部と、炭素換算で3?15質量部の炭素源と0.05?0.8質量部のカルシウム化合物を混合する混合工程、混合した粉末を成形する成形工程、成形したものを、窒素ガスを含む雰囲気下で焼成する焼成工程、焼成したものを粉砕する粉砕工程、及び粉砕したものを分級する分級工程、の順次の工程を有するとともに、前記焼成工程の後に、目開き106μmの篩及び目開き45μmの篩を用いて、45?106μmの六方晶窒化ホウ素粉末〔hBN粉末(A)〕と45μm篩下の六方晶窒化ホウ素粉末〔hBN粉末(B)〕に分級したのち、hBN粉末(A)とhBN粉末(B)を、hBN粉末(A)及び(B)の合計量に対するhBN粉末(A)の割合が40?90質量%となるように混合する混合工程を有する、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項8】
前記炭素源が、黒鉛及び炭化ホウ素から選ばれる1種又は2種である、請求項7に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項9】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-08-30 
出願番号 特願2016-563557(P2016-563557)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C01B)
P 1 651・ 121- YAA (C01B)
P 1 651・ 853- YAA (C01B)
P 1 651・ 536- YAA (C01B)
P 1 651・ 851- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 廣野 知子  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 後藤 政博
小川 進
登録日 2018-06-22 
登録番号 特許第6357247号(P6357247)
権利者 昭和電工株式会社
発明の名称 六方晶窒化ホウ素粉末、その製造方法、樹脂組成物及び樹脂シート  
代理人 特許業務法人大谷特許事務所  
代理人 特許業務法人大谷特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ