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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1355971
異議申立番号 異議2019-700350  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-26 
確定日 2019-08-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6415429号発明「制御雰囲気におけるフラックスフリーろう付けのための、多層のアルミニウムろう付けシート」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6415429号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6415429号(以下「本件特許」という。)の請求項1?16に係る特許についての出願(特願2015-514957)は,2013年(平成25年)5月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年5月31日(SE)スウェーデン国)を国際出願日とする出願であって,平成30年10月12日にその特許権の設定の登録がされ,同年10月31日に特許掲載公報が発行された。その後,平成31年 4月26日に特許異議申立人 三田翔(以下「申立人」という。)により,請求項1?16に係る特許に対して,特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
本件特許の請求項1?16に係る発明は,各々,その特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお,請求項1の合金組成の改行は,当審が付した。

「【請求項1】
他の部品へろう付けするのに適した、フラックスフリーのろう付けのための、アルミニウム合金ろう付けシートであって、アルミニウム合金ろう付けシートが、
≦1.0wt%のSi、
0.2?2.5wt%のMg、
<2.0wt%のMn、
≦1.2wt%のCu、
≦1.0wt%のFe、
≦0.2wt%のTi、
≦6wt%のZn、
≦0.1wt%のSn、
≦0.1wt%のIn、
全部で≦0.2wt%のZr、Cr、V及び/又はSc、並びに、
それぞれ0.05wt%未満の量であり総不純物含有量が0.2wt%未満である複数の不可避の不純物と、残部がアルミニウムから成るアルミニウム合金の中間層によって覆われるアルミニウム合金コア材料を含み、
中間層が、
5?14wt%のSi、
<0.02wt%のMg、
0.01?1.0wt%のBi、
≦0.8wt%のFe、
≦6wt%のZn、
≦0.1wt%のSn、
≦0.1wt%のIn、
≦0.3wt%のCu、
≦0.15wt%のMn、
≦0.05wt%のSr、並びに、
それぞれ0.05wt%未満の量であり総不純物含有量が0.2wt%未満である複数の不可避の不純物と、残部がアルミニウムから成るAl-Siろう合金によって覆われ、前記コア材料、及び中間層が、ろう合金よりも高い融点を有し、中間層が、コアへの犠牲になる、アルミニウム合金ろう付けシート。
【請求項2】
中間層のアルミニウム合金が、
Mg 0.5?2.5wt%
Mn <2.0wt%、
Cu ≦1.2wt%、
Fe ≦1.0wt%、
Si ≦1.0wt%、
Ti ≦0.2wt%、
Zn ≦6wt%、
Sn ≦0.1wt%、
In ≦0.1wt%、並びに
Zr、Cr、V及び/又はSc 全部で≦0.2wt%、並びに
それぞれ0.05wt%未満の量であり総不純物含有量が0.2wt%未満である複数の不可避の不純物と、残部がアルミニウムから成る、請求項1に記載のアルミニウム合金ろう付けシート。
【請求項3】
アルミニウム合金コア材料が、3XXX合金であり、
Mn <2.0wt%、
Cu ≦1.2wt%、
Fe ≦1.0wt%、
Si ≦1.0wt%、
Ti ≦0.2wt%、
Mg ≦2.5wt%、
Zr、Cr、V及び/又はSc 全部で≦0.2wt%、並びに
それぞれ0.05wt%未満の量であり総不純物含有量が0.2wt%未満である複数の不可避の不純物と、残部がアルミニウムから成る、請求項1又は2に記載のアルミニウム合金ろう付けシート。
【請求項4】
Al-Siろう合金が、0.07から0.2wt%のBiを含む、請求項1から3の何れか一項に記載のアルミニウム合金ろう付けシート。
【請求項5】
Al-Siろう合金が、<0.01wt%のMgを含む、請求項1から4の何れか一項に記載のアルミニウム合金ろう付けシート。
【請求項6】
Al-Siろう合金が、7wt%から13wt%のSiを含む、請求項1から5の何れか一項に記載のアルミニウム合金ろう付けシート。
【請求項7】
中間層の融点、及びコアの融点が、>615℃である、請求項1から6の何れか一項に記載のアルミニウム合金ろう付けシート。
【請求項8】
ろう合金の融点が、550?590℃である、請求項1から7の何れか一項に記載のアルミニウム合金ろう付けシート。
【請求項9】
ろう合金層の厚さに対する中間層の厚さが、25?250%である、請求項1から8の何れか一項に記載のアルミニウム合金ろう付けシート。
【請求項10】
中間層の厚さが、5?200μmである、請求項1から9の何れか一項に記載のアルミニウム合金ろう付けシート。
【請求項11】
ろう付けシートが、中間層及びろう合金を含む側と反対のコアの側上で、犠牲の被膜を備える又はAl-Siろう被膜を備える被膜である、請求項1から10の何れか一項に記載のアルミニウム合金ろう付けシート。
【請求項12】
ろう付けシートが、コアの反対側上の犠牲の被覆を備える被膜であり、前記犠牲の被膜が、Al-Siろう被膜によって覆われる、請求項11に記載のアルミニウム合金ろう付けシート。
【請求項13】
中間層が、コアへの犠牲になる、請求項1から12の何れか一項に記載のアルミニウム合金ろう付けシートを含む、ろう付け製品。
【請求項14】
フィン、チューブ又はヘッダープレートのために、請求項1から12の何れか一項に記載のアルミニウム合金ろう付けシートを用いて、フラックスを用いずに、熱交換器をろう付けする方法。
【請求項15】
請求項1から12の何れか一項に記載のアルミニウムろう付けシートを含む熱交換器。
【請求項16】
熱交換器を製造するための、請求項1から12の何れか一項に記載のアルミニウム合金ろう付けシートの使用。」

3 申立理由の概要
申立人は,甲第1号証及び甲第2号証を提出し,本件特許の請求項1?16に係る発明は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから,本件特許の請求項1?16に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(証拠)
甲第1号証:特開2011-38164号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2002-18588号公報(以下「甲2」という。)

4 引用文献の記載
(1)甲1について
ア 甲1の記載
甲1には,熱交換器用アルミニウムクラッド材(発明の名称)に関して,次の記載がある。なお,下線は当審が付した。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材の片面に、該心材に対して犠牲陽極効果を有する中間材をクラッドし、さらに中間材にろう材からなる皮材1をクラッドしてなるアルミニウムの3層クラッド材であって、心材が、アルミニウム純度99.0%(質量%、以下同じ)以上、不可避的不純物の含有量が1.0%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がいずれも0.05%以下の純アルミニウムからなることを特徴とする熱交換器用アルミニウムクラッド材。
(【請求項2】?【請求項8】 略)
【請求項9】
前記中間材が、Zn:0.5?10%、In:0.001?0.1%、Sn:0.001?0.1%以下のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項10】
前記中間材が、さらに、Mn:0.1?1.8%、Fe:0.1?2.0%、Si:0.1?2.0%、Ni:0.1?2.0%、Cr:0.01?0.3%、Zr:0.01?0.3%、Ti:0.01?0.35%以下のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項9記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項11】
前記皮材1が、Al-Si系合金ろう材あるいはAl-Si-Mg系合金ろう材で構成されることを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項12】
前記皮材1が、Si:2.5?14%を含有し、さらにMg:0.1?2.0 %、Fe:0.1?2.0%、Mn:0.1?2.0%、Ti:0.01?0.3%、Zn:0.5?5.0%、Cu:0.1?5.0%、Sr:0.001?0.1%、Na:0.001?0.1%、Sb:0.001?0.1%、Bi:0.001?0.2 %、Be:0.001?0.1 %以下のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金ろう材で構成されることを特徴とする請求項11に記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
(【請求項13】?【請求項17】 略)」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジエータやインバータ冷却器などのアルミニウム合金製熱交換器を製造する場合、特に、弗化物系フラックスを用いるろう付け、又は真空ろう付け等の、ろう付け接合により製造される熱交換器において、その構成部材であるチューブ材やプレート材として好適に使用されるアルミニウムクラッド材に関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に自動車用のアルミニウム合金製熱交換器において、熱交換器に負荷される振動などの応力による疲労に耐える疲労特性を有することは重要であり、チューブ材やプレート材などの部材についても、疲労耐久性に優れたものが望まれている。本発明は、優れた疲労特性を有するとともに、耐食性にも優れた熱交換器用部材を得るために、クラッド材を構成する心材と犠牲陽極材の組成とその組み合わせを見直し、クラッド材の疲労特性との関連について試験、検討を行った結果、心材として成分元素の添加量を抑制した純アルミニウムを使用し、成分元素により生成する金属間化合物の生成を抑え、且つCu、Mn、Mgの固溶度を低下させることが、疲労寿命の向上、特に低サイクル疲労寿命の向上に有効であることを見出した。
【0006】
本発明は、上記の知見に基づいてさらに試験、検討を重ねた結果としてなされたものであり、その目的は、疲労特性に優れ、且つ優れた耐食性をそなえ、アルミニウム合金製熱交換器のチューブ材やプレート材の素材として好適に使用することができる熱交換器用アルミニウムクラッド材を提供することにある。」

「【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、疲労特性、特に低サイクル疲労特性に優れ、且つ優れた耐食性をそなえたアルミニウムクラッド材、特に、アルミニウム合金製熱交換器の構成部材であるチューブ材やプレート材の素材として好適に使用することができる熱交換器用アルミニウム合金クラッド材が提供される。」

「【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明による熱交換器用アルミニウムクラッド材における合金成分の意義および限定理由について説明する。
(心材)
心材として、不可避的不純物の含有量が1.0%未満で、アルミニウム純度が99.0%以上の純アルミニウムを用いることにより、疲労寿命、特に低サイクル疲労寿命の向上が有効に達成できる。」

「【0035】
(中間材)
Zn、In、Snは中間材の電位を卑にし、心材に対する犠牲陽極効果を保持させる。その結果、心材の孔食を防止する。Znの好ましい範囲は0.5?10.0%、さらに好ましい範囲は1?5%、Inの好ましい範囲は0.001?0.1%、さらに好ましい範囲は0.01?0.05%、Snの好ましい範囲は0.001?0.1%、さらに好ましい範囲は0.01?0.05%である。
【0036】
Mnは、Al-Mn系化合物を生成し、Al-Mn系化合物が腐食の起点となり、孔食が分散化されることで耐食性が向上する。Mnの好ましい含有範囲は0.1?2.0%であり、2.0%を超えて含有すると、鋳造時に粗大な化合物が生成して圧延加工性が害され、健全な板材が得難くなる。Mnのさらに好ましい含有量は0.5?1.7%の範囲である。
【0037】
Feは、Al-Fe系化合物を生成し、Al-Fe系化合物が腐食の起点となり、孔食が分散化されることで耐食性が向上する。Feの好ましい含有範囲は0.1?2.0%であり、2.0%を超えて含有すると耐食性が低下する。Feのさらに好ましい含有量は0.2?1.0%の範囲である。
【0038】
Siは、Al-Si系化合物を生成し、Al-Si系化合物が腐食の起点となり、孔食が分散化されることで耐食性が向上する。Siの好ましい含有範囲は0.1?2.0%であり、2.0%を超えて含有すると耐食性が低下する。Siのさらに好ましい含有量は0.2?1.0%の範囲である。
【0039】
Niは、Al-Ni系化合物を生成し、Al-Ni系化合物が腐食の起点となり、孔食が分散されることで耐食性が向上する。Niの好ましい含有範囲は0.1?2.0%であり、2.0%を超えて含有すると耐食性が低下する。Niのさらに好ましい含有量は0.2?1.0%の範囲である。
【0040】
CrとZrは、ろう付け加熱中の再結晶温度を高め、皮材1の結晶粒度を粗大化させることにより、ろう付け加熱中のエロージョンを抑制する。CrおよびZrの好ましい含有範囲は、いずれも0.01?0.3%であり、0.3%を超えて含有しても効果が飽和しそれ以上の改善効果が期待できない。CrおよびZrのさらに好ましい含有量は0.05?0.2%の範囲である。
【0041】
Tiは、中間材の板厚方向に濃度の高い領域と低い領域とに分かれ、それらが交互に層状に分布し、Ti濃度の低い領域が高い領域に比べ優先的に腐食することにより、腐食形態を層状にする効果を有し、板厚方向への腐食の進行を妨げて材料の耐孔食性を向上させる。Tiの好ましい含有範囲は0.35%以下であり、0.35%を超えると鋳造が困難となり、また加工性が劣化して健全な材料の製造が困難となる。Tiのさらに好ましい含有量は0.1?0.2%の範囲である。
【0042】
なお、中間材には、公知の犠牲陽極材に添加される元素、例えば、Cu:0.2%以下、Mg:3.0%以下、V:0.3%以下、Co:0.3%以下、Ce:0.3%以下、Y:0.3%以下、La:1.0%以下、Nd:1.0%以下、Pr:1.0%以下を含んでもよい。」

「【0043】
(皮材1)
皮材1としては、通常ろう材として用いられているAl-Si系合金あるいはAl-Si-Mg系合金が使用される。Siの含有範囲は2.5?14%であり、Mgの含有範囲は0.1?2.0%である。
【0044】
Al-Si系合金、Al-Si-Mg系合金には、必要に応じて、Fe:0.1?2.0%、Mn:0.1?2.0%、Ti:0.01?0.3%、Zn:0.5?5.0%、Cu:0.1?5.0%、Sr:0.001?0.1%、Na:0.001?0.1%、Sb:0.001?0.1%、Bi:0.001?0.2 %、Be:0.001?0.1 %以下のうちの1種または2種以上を含有していてもよい。その他、皮材1には、公知のろう材に添加される元素、例えば、V:0.3%以下、Co:0.3%以下、Ce:0.3%以下、Y:0.3%以下、La:1.0%以下、Nd:1.0%以下、Pr:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下を含んでいてもよい。」

「【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、その効果を実証する。これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0050】
実施例1
連続鋳造により表1に示す組成を有する心材用アルミニウム、表2に示す組成を有する中間材用アルミニウム合金、および表3に示す組成を有する皮材1用アルミニウム合金を造塊し、得られた鋳塊のうち、心材用アルミニウムについて均質化処理を行い、中間材用アルミニウム合金および皮材2用アルミニウム合金を熱間圧延して所定の厚さとし、これらと心材用アルミニウムの鋳塊とを組み合わせて熱間圧延し、3層のクラッド材を得た。なお、表1に示す心材用アルミニウムにおいて、表1に示す元素以外の不可避的不純物量は、A1、A5はいずれも500ppm以下、A2、A6はいずれも10ppm以下、A3、A7はいずれも5ppm以下、A4、A8はいずれも1ppm以下であった。
【0051】

【0052】

【0053】

【0054】
ついで、クラッド材を冷間圧延、最終焼鈍して厚さ0.40mmのクラッド板材(質別O)を得た。クラッドの構成は、中間材1のクラッド率が10%(厚さ0.040mm)、皮材1のクラッド率が10%(厚さ0.040mm)、残りを心材とした。なお、板厚とクラッド率は実施例に限定されるものではなく、適宜調整して使用される。例えば、板厚は0.10?2.00mm、クラッド率は2?20%程度とすることができる。
【0055】
得られたアルミニウムクラッド材を試験材とし、クラッド材にフラックスを塗布することなく、窒素ガス中、600℃(材料温度)で3分間加熱し、その後、平面曲げ疲労試験により疲労寿命を測定した。平面曲げ疲労試験は、ろう付け加熱後のクラッド材を切断後、端面を切削して5mm幅の短冊状の試験片を作製し、試験片について、図1に示す曲げ疲労試験機を用いて、ひずみ範囲を0.67と固定し、両振りの曲げ疲労試験を実施した。周波数は0.5Hzで室温にて実施し、破断に至るまでのサイクル数を測定した。疲労寿命は破断回数が10^(4)程度の低サイクル域で評価し、疲労寿命が1×10^(4)を超えた場合を良好(〇)とした。結果を表4に示す。
【0056】
また、試験材の心材中の粒子径(円相当直径)が1μm以上の金属間化合物粒子の1mm^(2)当たりの粒子数を測定した。心材中の粒子径が1μm以上の金属間化合物粒子の数の測定方法は以下のとおりである。心材を、倍率200倍で光学顕微鏡により5視野(面積合計0.15mm^(2))撮影し、画像解析装置により、粒子径で1μm以上のサイズの金属間化合物の粒子数を測定した。結果を表4に示す。
【0057】

【0058】
表4に示すように、本発明に従う試験材1?52はいずれも、疲労寿命が1×10^(4)を超える優れた疲労特性をそなえていた。」

イ 甲1に記載された発明
(ア)上記アの摘示によると,甲1に記載された熱交換器用アルミニウムクラッド材は,心材の片面に,該心材に対して犠牲陽極効果を有する中間材をクラッドし,さらに中間材にろう材からなる皮材1をクラッドしてなるアルミニウムの3層クラッド材であって,心材が,アルミニウム純度99.0%以上の純アルミニウムからなるものである(請求項1)。
そして,前記中間材は,Zn,In,Snのうちの1種または2種以上,さらに,Mn,Fe,Si,Ni,Cr,Zr,Tiのうちの1種または2種以上を含有し,残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成され(請求項9,10),公知の犠牲陽極材に添加される元素,例えば,Cu,Mg,V,Co,Ce,Y,La,Nd,Prを含んでもよいものであり(段落【0042】),具体的な合金組成として,B1?B11の11種類が示されている(段落【0052】表2)。
また,前記皮材1は,Al-Si系合金ろう材あるいはAl-Si-Mg系合金ろう材で構成され,Siを含有し,さらにMg,Fe,Mn,Ti,Zn,Cu,Sr,Na,Sb,Bi,Beのうちの1種または2種以上を含有し,残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金ろう材であり(請求項11,12,段落【0043】),具体的な合金組成として,C1?C11の11種類が示されている(段落【0053】表3)。
さらに,心材用アルミニウム,前記中間材及び前記皮材1を組み合わせて得られたアルミニウムクラッド材の具体例は,試験材1?52のとおりである(段落【0057】表4)。

(イ)ここで,一般に,合金は,所定の含有量を有する合金元素の組み合わせが一体のものとして技術的意義を有するのであって,所与の特性が得られる組み合わせについては,実施例に示された実際に作製された具体的な合金組成を考慮してはじめて理解され,合金を構成する元素が同じであっても配合量や製造方法に差違があれば,金属組織が異なり性質が異なることになり,それらは予測が困難である,という技術常識があるといえる(要すれば,平成29年(行ケ)第10121号を参照。)。
これに対し,申立人は,甲1段落【0042】には「なお、中間材には、・・・Mg:3.0%以下・・・を含んでもよい。」と,表2には,中間材用アルミニウム合金が,0?0.1%のMgを含有していることが記載されているから,甲1には,中間材が0?3.0%のMgを含有してもよいことが記載されている旨を主張している(特許異議申立書12頁)。
しかしながら,合金の組成についての上記技術常識を勘案すると,甲1発明に係る中間材の合金組成を,具体的な合金組成を考慮することなく認定することはできない。よって,申立人の上記主張は採用できない。

(ウ)そこで,上記(イ)の技術常識に照らして,甲1に記載された「中間材」の具体的な合金組成のうち,本件特許の請求項1に係る発明における「中間層」の合金組成に最も近似しているものについて検討すると,Mgを含むものはB11のみである。そして,B11の組成は次のとおりである(段落【0052】表2)。
Si: 0.2 mass%
Fe: 0.20 mass%
Cu: 0.10 mass%
Mg: 0.10 mass%
Zn: 3.0 mass%
残部: Al及び不可避不純物

(エ)同様に,上記(イ)の合金の一般的な考え方に照らして,甲1に記載された「皮材1」の具体的な合金組成のうち,本件特許の請求項1に係る発明における「Al-Siろう合金」の合金組成に最も近似しているものを検討すると,Biを含むものはC10のみである。そして,C10の組成は次のとおりである(段落【0053】表3)。
Si:10.0 mass%
Fe: 0.30 mass%
Bi: 0.1 mass%
残部: Al及び不可避不純物

(オ)以上より,甲1には,次の発明が記載されているといえる(以下「甲1発明」という。)。

「心材の片面に、該心材に対して犠牲陽極効果を有する中間材をクラッドし、さらに中間材にろう材からなる皮材1をクラッドしてなるアルミニウムの3層クラッド材であって、心材が、アルミニウム純度99.0%(質量%、以下同じ)以上の純アルミニウムからなり、
前記中間材が、Si:0.2%、Fe:0.20%、Cu:0.10%、Mg:0.10%、Zn:3.0%を含有し、残部Alおよび不可避不純物からなり、
前記皮材1が、Si:10.0%を含有し、さらにFe:0.30%、Bi:0.1%を含有し、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材で構成される、
熱交換器用アルミニウムクラッド材。」

(2)甲2について
ア 甲2の記載
甲2には,耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金クラッド材(発明の名称)に関して,次の記載がある。なお,下線は当審が付した。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材と中間層材との2層構造体の少なくとも中間層材側にろう材をクラッドした材料構成をなし、前記芯材は、Mn:0.5%(質量%、以下同じ)を越え?1.5 %、Cu:0.36 %?0.9 %、Mg:0.06%?0.6 %、Ti:0.06 %?0.30%、Si:0.01 %?0.5 %、Fe:0.01 %?0.5 %を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成され、前記中間層材は、Mg:0.55%?0.9 %、Cu:0.06 %?0.5 %、Zn:1.0%?6.0 %を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成され、前記ろう材はSiを含有するアルミニウム合金から構成され、且つ、芯材のCu量と中間層材のCu量との関係を、(芯材のCu量%-中間層材のCu量%)≧0.30%とすると共に、芯材及び中間層材のCu量と中間層材のZn量との関係を、(芯材のCu量%+中間層材のCu量%)/(中間層材のZn量%)≦0.5とすることを特徴とする耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金クラッド材。
【請求項2】
請求項1に記載の中間層材が、更にTi:0.06 %?0.30%を含有することを特徴とする耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金クラッド材。
【請求項3】
請求項1又は2におけるろう材が、更にIn:0.005%?0.20%、Sn:0.01 %?0.20%のうちの1種以上を含有することを特徴とする耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金クラッド材。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金クラッド材、詳しくはカーエアコンのエバポレータあるいはインタークーラー等、ろう付けにより接合する熱交換器等の作動流体通路の構成材料として用いられ、特に耐食性に優れ、ろう付け前の成形加工性に優れると共に、ろう付け後の強度も高い熱交換器用アルミニウム合金クラッド材に関する。
【0002】
【従来の技術】アルミニウム合金製熱交換器は、自動車のラジエータ、オイルクーラ、インタークーラ、ヒータ及びエアコンのエバポレータやコンデンサあるいは油圧機器や産業機械のオイルクーラ等の熱交換器として広く使用されている。アルミニウム合金製熱交換器には種々の形式のものがあるが、軽量化の観点から、アルミニウム合金クラッド材を成形加工したものを重ね合わせて作動流体通路を形成し、その作動流体通路の間にコルゲート加工したアルミニウム合金製フィンを組み合わせ、ろう付けにより一体化して製作した積層型熱交換器(ドロンカップ型熱交換器)が注目され、特にエバポレータとして普及している。
【0003】このドロンカップ型熱交換器のコアプレートとしては、その芯材にAl-Mn系、Al-Mn-Cu系、Al-Mn-Mg系、Al-Mn-Cu-Mg系等のMnを有するアルミニウム合金、例えば、JIS A3003合金、同3005合金等が使用され、ろう材にAl-Si系、Al-Si-Mg系、Al-Si-Mg-Bi系、Al-Si-Mg-Be系、Al-Si-Bi系、Al-Si-Be系、Al-Si-Bi-Be系等のAl-Si系合金等が使用され、前記芯材の片面又は両面に上記のろう材をクラッドしてなるアルミニウム合金クラッド材が使用されている。」

「【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、アルミニウム製熱交換器の流体通路材における上記従来の問題点を解消すると共に、作動流体通路材の薄肉化の要求をも満足させるアルミニウム合金クラッド材を得るために、成形加工性、ろう付け性、ろう付け後の強度特性及び耐食性に対する芯材、中間層材及びろう材の材料構成について、多角的に実験、検討を行った結果としてなされたものであり、その目的は、優れた耐食性をそなえ、ろう付け前の成形加工性に優れると共に、ろう付けが容易で且つろう付け後の強度が高く、特にドロンカップ型熱交換器のコアプレート材として好適に使用される熱交換器用アルミニウム合金クラッド材を提供することにある。」

「【0017】
以下に、本発明の耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金クラッド材(以下、単にアルミ合金クラッド材とする)における合金成分の意義およびその限定理由について説明する。
(1)芯材の成分
芯材中のMnは、芯材の強度を高めると共に、芯材の電位を貴にして、アルミ合金クラッド材表面のろう材やフィン材との電位差を大きくし、アルミ合金クラッド材の耐食性を向上させるよう機能する。Mnの好ましい含有範囲は、0.5 %を越え?1.5 %であり、0.5 %以下ではその効果が十分でなく、1.5 %を越えて含有すると、鋳造時に粗大な化合物が生成し、圧延加工性が害される結果、健全なアルミ合金クラッド材が得難い。」

「【0023】(2)中間層材の成分
中間層材中のMgは、中間層材の強度を高めるよう機能する。Mgの好ましい含有範囲は、0.55%?0.9 %であり、0.55%未満ではその効果が十分でなく、0.9 %を越えて含有すると、伸びが低下して成形加工性が不十分となり、中間層材自体の耐食性も低下する。
【0024】
中間層材中のCuは、中間層材の強度を高めるよう機能する。Cuの好ましい含有範囲は、0.06%?0.5 %であり、0.06%未満ではその効果が十分でなく、0.5 %を越えて含有すると、中間層材自体の耐食性が低下する。
【0025】
Tiは、中間層材の耐食性をより一層向上させる効果を有する。すなわち、中間層材中のTiは濃度の高い領域と濃度の低い領域とに分かれて凝固し、それらが圧延されると板厚方向に交互に層状に分布し、Ti濃度の低い領域はTi濃度の高い領域に比べて優先的に腐食するため、腐食形態を層状にして、芯材の板厚方向への腐食の進行状態を妨げて耐孔食性を向上させる。Tiの好ましい含有範囲は0.06%?0.30%の範囲であり、0.06%未満ではその効果が十分でなく、0.30%を越えると鋳造時に粗大な化合物が生成し、圧延加工性が阻害される。
【0026】
Znは、中間層材の電位を卑にし、アルミ合金クラッド材表面の芯材との電位差を大きくし、中間層材に、芯材に対する優れた犠牲陽極効果を付与し、アルミ合金クラッド材の耐食性を向上させるよう機能する。Znの好ましい含有範囲は、1 %?6 %であり、1 %未満ではその効果が十分でなく、6 %を越えて含有すると、ろう付け時に芯材の局部溶融が生じるおそれがある。
【0027】
その他、In、Sn、Cr、Zr、Si、Fe等の元素は、本発明の効果を損なわない範囲で含まれていても良い。但し、In、Snは中間層材の電位を更に卑とするから、Inは0.005 %?0.2 %、Snは0.01%?0.2 %の範囲にするのが好ましい。Cr、Zrは、素材の圧延性を阻害しないように、いずれも0.3 %以下に制限するのが好ましい。また、Si、Feは、耐食性を害するので、いずれも0.5 %以下に制限するのが好ましい。」

「【0028】(3)ろう材の成分
ろう材としては、Siを含有するAl-Si系合金のろう材が使用される。真空ろう付けの場合は、例えば、Si: 6 %?13%、Mg:0.2%?2.0 %を含有するAl-Si-Mg系合金のろう材が用いられ、フラックスろう付けの場合は、例えば、Si: 6 %?13%を含むAl-Si系合金のろう材が用いられる。
【0029】
ろう材中のIn、Snは、いずれもろう材の電位を卑にして、アルミ合金クラッド材の芯材及び中間層材との電位差を大きくし、ろう材に、芯材及び中間層材に対する優れた犠牲陽極効果を付与し、アルミ合金クラッド材の腐食の形態を全面腐食型にして、アルミ合金クラッド材の耐食性を向上させるよう機能する。In、Snの好ましい含有範囲は、Inが0.005 %?0.2 %、Snが0.01%?0.2%である。それぞれ下限値未満ではその効果が十分でなく、上限値を越えると素材の圧延が困難となり、健全な材料が得難い。本発明においては、上記以外のろう付け方法を用いたり、その他の元素、例えば、Bi、Be、Cu、Zn等を添加したろう材をを用いても、本発明の効果が損なわれることはない。」

「【0034】
【実施例】以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。これらの実施例は、本発明の好ましい一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
半連続鋳造により、表1に示す組成(芯材No.1?8に示す組成)を有する芯材用アルミニウム合金、表2に示す組成(中間層材No.1?5に示す組成)を有する中間層材用アルミニウム合金及び表3に示す組成(ろう材No.A?Eに示す組成)を有するろう材用アルミニウム合金をそれぞれ造塊し、芯材用アルミニウム合金については均質化処理後、厚さ16.5mmに面削して芯材素材とし、中間層材用アルミニウム合金及びろう材用アルミニウム合金については面削後熱間圧延して、厚さ4.5mmの中間層材素材及びろう材素材とした。これらの素材を、ろう材/中間層材/芯材/ろう材となるように重ね合わせ、熱間圧延して、厚さ3mmの4層アルミニウム合金クラッド材を得た。その後、得られた4層アルミニウム合金クラッド材を厚さ0.4mmまで冷間圧延し、最終焼鈍を行ってアルミ合金クラッド材を作製した。
【0035】

【0036】

【0037】

【0038】
上記により得られたアルミ合金クラッド材(試験材No.1?11)について、以下の方法に従って、(1)成形加工性、(2)ろう付け性、(3)耐食性、(4)ろう付け後の強度を評価した。
(1)成形加工性
上記アルミ合金クラッド材について引張試験を行って伸び率(%)を測定し、伸び率20%以下のものを成形加工性が不十分と評価した。すなわち、通常のドロンカップ型エバポレータ用のコアプレート材のプレス成形加工では、素材の伸び率が20%以下の場合に、加工時の割れが生じ易いためである。
【0039】
(2)ろう付け性
アルミ合金クラッド材1から円環状の板材を切り出し、図2に示すように、円環状の板材を中間層材が凸側となるようにプレス成形し、得られたカップ状のプレス成形品7を、図3に示すように、交互に積層し、真空雰囲気中(5×10-5Torr以下)、600℃の温度で3分間加熱する条件で真空ろう付けを行い、ろう付け成形品8を作製した。このろう付け成形品8を目視により観察し、ろう付けが良好に行われているものをろう付け性良好(○)とし、局部溶融など、ろう付け不良が生じたものをろう付け性不良(×)とした。
【0040】
(3)耐食性
ろう付け成形品について、JIS H8681に基づくCASS試験を8週間実施して、CASS試験後のアルミ合金クラッド材の中間層材側からの最大腐食深さ(mm)を測定した。
(4)ろう付け後の強度
アルミ合金クラッド材(単板)について、上記の真空ろう付け加熱を行い、加熱後の板材について引張試験を行い、引張強さ(MPa )を測定した。
【0041】
評価結果を表4に示す。表4にみられるように、本発明の条件を満たす試験材(No.1?11)は、いずれも20%を越える伸び率を示し、良好な成形加工性をそなえていることが認められた。ろう付け性も良好であり、ろう付け後の強度は、いずれも145MPa 以上の優れた値を示した。耐食性についても、CASS試験後の最大腐食深さは0.08?0.15mmと浅く、優れた耐食性を示した。なお、これらの試験材はいずれも、素材の製造上問題を生じることがなく製造性に優れていた。
【0042】
【表4】

《表注》Cu量の差: (芯材のCu量%-中間層材のCu量%)
Cu量とZn量との比:(芯材のCu量%+中間層材のCu量%) /(中間層材のZn量%)」

イ 甲2に記載された発明
(ア)上記アの摘示によると,甲2に記載された熱交換器用アルミニウム合金クラッド材は,芯材と中間層材との2層構造体の少なくとも中間層材側にろう材をクラッドした材料構成をなし,前記芯材は、Mn,Cu,Mg,Ti,Si,Fe,を含有し,残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されるものである(請求項1)。
そして,前記中間層材は,Mg,Cu,Zn,更にTiを含有し,残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成され(請求項1,2,段落【0023】?【0026】),その他,In,Sn,Cr,Zr,Si,Fe等の元素を含まれていても良いものであり(段落【0027】),具体的な合金組成として,中間層材No.1?5の5種類が示されている(段落【0036】表2)。
また,前記ろう材はSiを含有するアルミニウム合金から構成され,真空ろう付けの場合はAl-Si-Mg系合金のろう材,フラックスろう付けの場合はAl-Si系合金のろう材が用いられ(請求項1,段落【0028】),更に,In,Snのうちの1種以上を含有し(請求項3),また,その他の元素,例えば,Bi,Be,Cu,Zn等を添加したろう材を用いても良く(段落【0029】),具体的な合金組成として,ろう材No.A?Eの5種類が示されている(段落【0037】表3)。
さらに,芯材用アルミニウム合金,前記中間層材用アルミニウム合金及び前記ろう材用アルミニウム合金を組み合わせて得られたアルミ合金クラッド材の具体例は,試験材1?11のとおりである(段落【0042】表4)。

(イ)ここで,合金の組成についての技術常識は,上記(1)イ(イ)のとおりである。

(ウ)そこで,上記(イ)の合金の一般的な考え方に照らして,甲2に記載された「中間層材」の具体的な合金組成のうち,本件特許の請求項1に係る発明における「中間層」の合金組成に最も近似しているものについて検討すると,No.4,No.5であり,それらの組成は次のとおりである(段落【0036】表2)。
(No.4) (No.5)
Zn: 3 mass% 6 mass%
Cu: 0.2 mass% 0.45 mass%
Mg: 0.6 mass% 0.85 mass%
Ti: 0.1 mass% 0.2 mass%
Si: 0.1 mass% 0.15 mass%
Fe: 0.2 mass% 0.3 mass%
残部: Al及び不可避不純物 Al及び不可避不純物

(エ)同様に,上記(イ)の合金の一般的な考え方に照らして,甲2に記載された「ろう材」の具体的な合金組成のうち,本件特許の請求項1に係る発明における「Al-Siろう合金」の合金組成に最も近似しているものを検討すると,No.Eであり,その組成は次のとおりである(段落【0037】表3)。
Si:10 mass%
Mg: 1.4 mass%
In: 0.1 mass%
Sn: 0.1 mass%
Fe: 0.3 mass%
残部: Al及び不可避不純物

(オ)以上より,甲2には,次の発明が記載されているといえる(以下「甲2発明」という。)。

「芯材と中間層材との2層構造体の少なくとも中間層材側にろう材をクラッドした材料構成をなし、前記芯材は、Mn、Cu、Mg、Ti、Si、Feを含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成され、
前記中間層材は、
Zn:3%、
Cu:0.2%、
Mg:0.6%、
Ti:0.1%、
Si:0.1%、
Fe:0.2%を含有し、
残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金(i)、又は、
Zn:6%、
Cu:0.45%、
Mg:0.85%、
Ti:0.2%、
Si:0.15%、
Fe:0.3%を含有し、
残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金(ii)で構成され、
前記ろう材はSiを含有するアルミニウム合金から構成され、
Si:10%を含有し、更に
Mg:1.4%、
In:0.1%、
Sn:0.1%、
Fe:0.3%を含有し、
残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金で構成される、
熱交換器用アルミニウム合金クラッド材。」

5 当審の判断
当審は,申立人が提示した特許異議申立ての理由及び証拠によっては,本件特許の請求項1?16に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由の概要は,本件特許の請求項1?16に係る発明におけるアルミニウムろう付けシートは,中間層及びAl-Siろう合金の合金組成が,前者はMgの量を高くする一方,後者はMgの量を低くするとともにBiを含むものであるところ,これらの点は,甲第1号証及び甲第2号証のいずれにも記載も示唆もされていない,というものである。
以下,(1)甲第1号証に記載された発明との対比検討,次いで,(2)甲第2号証に記載された発明との対比検討を行い,本件特許の請求項1?16に係る発明が,当業者が容易に発明をすることができたものではないことを説明する。

(1)甲第1号証に記載された発明との対比検討
ア 本件特許の請求項1に係る発明について
(ア)本件特許の請求項1に係る発明(上記2のとおり。)と,甲1発明(上記4(1)イ(オ)のとおり。)とを対比する。
後者の「熱交換器用アルミニウムクラッド材」は,ろう付け接合に用いるものであり(段落【0001】),また,クラッド材を冷間圧延,最終焼鈍してクラッド板材を得るものである(段落【0054】)から,前者の「アルミニウム合金ろう付けシート」に相当する。
後者の「中間材」のうち,Si,Fe,Cu及びZnの量は,いずれも,前者の「中間層」の「アルミニウム合金」の,Si,Fe,Cu及びZnの範囲内である。
後者の「皮材1」用「アルミニウム合金」のうち,Si,Bi及びFeの量はいずれも,前者の「Al-Siろう合金」の,Si,Bi及びFeの範囲内である。
後者の「心材に対して犠牲陽極効果を有する中間材」は,前者の「中間層が、コアへの犠牲になる」に相当する。
よって,両者は,次の一致点,及び,相違点を有する。

(一致点)
「他の部品へろう付けするのに適した、フラックスフリーのろう付けのための、アルミニウム合金ろう付けシートであって、アルミニウム合金ろう付けシートが、
0.2wt%のSi、
0.1wt%のCu、
0.2wt%のFe、
3.0wt%のZn、並びに、
不可避の不純物と、アルミニウムを含むアルミニウム合金の中間層によって覆われるアルミニウム合金コア材料を含み、中間層が、
10.0wt%のSi、
0.1wt%のBi、
0.3wt%のFe、並びに、
不可避の不純物と、アルミニウムを含むろう合金によって覆われ、
中間層が、コアへの犠牲になる、アルミニウム合金ろう付けシート。」である点。

(相違点1)
中間層の合金組成に関して,本件特許の請求項1に係る発明では「0.2?2.5wt%のMg」,「<2.0wt%のMn」,「≦0.2wt%のTi」,「≦0.1wt%のSn],「≦0.1wt%のIn」,「全部で≦0.2wt%のZr、Cr、V及び/又はSc」並びに「それぞれ0.05wt%未満の量であり総不純物含有量が0.2wt%未満である複数の不可避の不純物」を含むのに対し,甲1発明では「Mg:0.10mass%」であり,また,その余の量は不明である点。

(相違点2)
ろう材の合金組成に関して,本件特許の請求項1に係る発明では「<0.02wt%のMg」,「≦6wt%のZn」,「≦0.1wt%のSn」,「≦0.1wt%のIn」,「≦0.3wt%のCu」,「≦0.15wt%のMn」,「≦0.05wt%のSr」並びに「それぞれ0.05wt%未満の量であり総不純物含有量が0.2wt%未満である複数の不可避の不純物」を含む「Al-Siろう合金」であるのに対し,甲1発明ではこれらの量が不明である「アルミニウム合金」である点。

(相違点3)
本件特許の請求項1に係る発明は「コア材料、及び中間層が、ろう合金よりも高い融点を有」するのに対し,甲1発明はそのような特定がない点。

(イ)相違点について
相違点1について検討する。
甲1発明に係る中間材においては,公知の犠牲陽極材に添加される元素の例示として,Mgを3.0%以下含んでもよい旨記載されるに止まる(甲1段落【0042】)。
また,甲2発明に係る中間層材のMgは,中間層材の強度を高めるよう機能するものであり,好ましい範囲は0.55%?0.9%であること(甲2段落【0023】),具体的な組成としてMg:0.6%ないし0.85%のもの(甲2段落【0036】表2)が記載されているが,これらを総合勘案しても,甲1発明に係る中間材のMgの量を,0.10%に代えて本件発明に係る「0.2?2.5wt%」の範囲に特定することの動機づけを見いだすことができない。
一方,本件特許の請求項1に係る発明における中間層のMgは,ろう付け温度までの加熱の間に,ろうの外部表面へとろう層を通って拡散し,適切な量のMgが,適切な時間でそこに到達する場合,接合部を形成することを可能にする,というものであり(本件特許明細書段落【0026】,【0028】),また,本件特許の請求項1に係る発明における中間層が「0.2?2.5wt%のMg」であることによる効果は,ろう接合部の目視検査による結果からも裏付けられている(本件特許明細書段落【0045】?【0047】,表1,表2)。
そして,係る事項は,甲1,甲2のいずれにも記載も示唆もされていないものである。
よって,甲1発明において,中間層材の合金組成として,Mgの量を「0.2?2.5wt%」とすることは,当業者といえども容易に想到し得たことではない。

(ウ)本件特許の請求項1に係る発明についてのまとめ
以上のとおりであるから,相違点2,3について検討するまでもなく,本件特許の請求項1に係る発明は,甲1発明及び甲2の記載に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 本件特許の請求項2?16に係る発明について
(ア)本件特許の請求項2?12に係る発明は,請求項1を直接的又は間接的に引用して,さらに,中間層,コア材料,Al-Siろう合金及びアルミニウム合金ろう付けシートを技術的に特定したものである。
よって,上記アに示した理由と同様,本件特許の請求項2?12に係る発明は,甲1発明及び甲2の記載に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

(イ)本件特許の請求項13?16に係る発明は,請求項1を直接的又は間接的に引用して,ろう付け製品,熱交換器をろう付けする方法,熱交換器及びアルミニウム合金ろう付けシートの使用を特定したものである。
よって,上記アに示した理由と同様,本件特許の請求項13?16に係る発明は,甲1発明及び甲2の記載に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

(2)甲第2号証に記載された発明との対比検討
ア 本件特許の請求項1に係る発明について
(ア)本件特許の請求項1に係る発明(上記2のとおり。)と,甲2発明(上記4(2)イ(オ)のとおり。)とを対比する。
後者の「熱交換器用アルミニウム合金クラッド材」は,ろう付けにより接合する熱交換器等の作動流体通路の構成材料として用いるものであり(段落【0001】),また,クラッド材を冷間圧延し,最終焼鈍してアルミ合金クラッド材を作製するものである(段落【0034】)から,前者の「アルミニウム合金ろう付けシート」に相当する。
後者の「中間層材」用「アルミニウム合金」のうち,Si,Mg,Cu,Fe,Zn及びTiの量は,いずれも,前者の「中間層」の「アルミニウム合金」の,Si,Mg,Cu,Fe,Zn及びTiの範囲内である。
後者の「ろう材用アルミニウム合金」のうち,Si,In,Sn及びFeの量はいずれも,前者の「Al-Siろう合金」の,Si,In,Sn及びFeの範囲内である。
後者の「中間層材」に含まれるZnは,「中間層材に、芯材に対する優れた犠牲陽極効果を付与」(甲2段落【0026】)するものであるから,前者の「中間層が、コアへの犠牲になる」に相当する。
よって,両者は,次の一致点,及び,相違点を有する。

(一致点)
「他の部品へろう付けするのに適した、フラックスフリーのろう付けのための、アルミニウム合金ろう付けシートであって、アルミニウム合金ろう付けシートが、
Si:0.1%、
Mg:0.6%、
Fe:0.2%、
Cu:0.2%、
Ti:0.1%、
Zn:3%を含有し、Al及び不可避的不純物を含むアルミニウム合金(i)、又は、
Si:0.15%、
Mg:0.85%、
Fe:0.3%、
Cu:0.45%、
Ti:0.2%、
Zn:6%を含有し、Al及び不可避的不純物を含むアルミニウム合金(ii)、の中間層によって覆われるアルミニウム合金コア材料を含み、中間層が、
Siを含有するアルミニウム合金から構成され、
Si:10%を含有し、更に
In:0.1%、
Sn:0.1%、
Fe:0.3%を含有し、Alおよび不可避不純物を含むろう合金によって覆われ、
中間層が、コアへの犠牲になる、アルミニウム合金ろう付けシート。」である点。

(相違点4)
中間層の合金組成に関して,本件特許の請求項1に係る発明では「<2.0wt%のMn」,「≦0.1wt%のSn」,「≦0.1wt%のIn」,「全部で≦0.2wt%のZr、Cr、V及び/又はSc」並びに「それぞれ0.05wt%未満の量であり総不純物含有量が0.2wt%未満である複数の不可避の不純物」を含むのに対し,甲2発明では,(i)の成分組成の合金,(ii)の成分組成の合金のいずれにおいても,それらの量は不明である点。

(相違点5)
ろう材の合金組成に関して,本件特許の請求項1に係る発明では「<0.02wt%のMg」,「0.01?1.0wt%のBi」,「≦6wt%のZn」,「≦0.3wt%のCu」,「≦0.15wt%のMn」,「≦0.05wt%のSr」並びに「それぞれ0.05wt%未満の量であり総不純物含有量が0.2wt%未満である複数の不可避の不純物」を含む「Al-Siろう合金」であるのに対し,甲2発明では「Mg:1.4%」であり,また,その余の量が不明である「アルミニウム合金」である点。

(相違点6)
本件特許の請求項1に係る発明は「コア材料、及び中間層が、ろう合金よりも高い融点を有」するのに対し,甲2発明はそのような特定がない点。

(イ)相違点について
事案に鑑み,相違点5について検討する。
甲2段落【0028】には,ろう材として,真空ろう付けの場合は,Mg:0.2?2.0%を含有するAl-Si-Mg系合金のろう材が用いられ,フラックスろう付けの場合は,Al-Si系合金のろう材が用いられる旨の記載があるから,甲2発明に係るろう材用アルミニウム合金は,上記のうちAl-Si-Mg系合金のろう材ということになる。
仮に,甲2発明のろう材をAl-Si-Mg系合金からAl-Si系合金に置き換えても,不可避の不純物である「<0.02wt%のMg」となるかどうかは依然として不明であるし,そもそも「フラックスろう付け」の場合であるから,本件特許の請求項1に係る発明のような「フラックスフリーのろう付け」とならない。
この点,甲1段落【0043】には,皮材1として,通常ろう材として用いられているAl-Si系合金あるいはAl-Si-Mg系合金が使用され,Mgの含有範囲は0.1?2.0%である旨が記載されているが,上記甲2の記載と同様,Al-Si系合金のろう材に置き換えても,不可避の不純物である「<0.02wt%のMg」となるかどうかは不明である。
更に,甲2には,Biを添加したろう材を用いても,発明の効果が損なわれることはない旨が記載されているだけで,Biの量を特定することは記載も示唆もされていない。この点,甲1段落【0043】も,必要に応じて,Bi:0.001?0.2%を含有していてもよい旨が記載されているだけである。
結局,甲1及び甲2の記載を総合勘案しても,甲2発明に係るろう材用アルミニウム合金の組成に関して,Mgの量を「<0.02wt%」,Biの量を「0.01?1.0wt%」に特定することの動機づけを見いだすことができない。
一方,本件特許の請求項1に係る発明におけるAl-Siろう合金は,優れたろう付けを得るために,薄いろう層におけるMg含有量は低く維持されることが重要であり,また,ろう層内へのBiの追加は,接合部形成を強化し,接合部がより急速に形成され,且つより大きいサイズを有することになるとされ(本件特許明細書段落【0029】),また,本件特許の請求項1に係る発明におけるおけるAl-Siろう合金について,「<0.02wt%のMg」及び「0.01?1.0wt%のBi」としたことによる効果は,ろう接合部の目視検査による結果からも裏付けられている(本件特許明細書段落【0045】?【0047】,表1,表2)。
そして,係る事項は,甲1,甲2のいずれにも記載も示唆もされていないものである。
よって,甲2発明において,Al-Siろう合金の組成として,Mgの量を「<0.02wt%」,Biの量を「0.01?1.0wt%」とすることは,当業者といえども容易に想到し得たことではない。

(ウ)本件特許の請求項1に係る発明についてのまとめ
以上のとおりであるから,相違点4,6について検討するまでもなく,本件特許の請求項1に係る発明は,甲2発明及び甲1の記載に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 本件特許の請求項2?16に係る発明について
(ア)本件特許の請求項2?12に係る発明は,請求項1を直接的又は間接的に引用して,さらに,中間層,コア材料,Al-Siろう合金及びアルミニウム合金ろう付けシートを技術的に特定したものである。
よって,上記アに示した理由と同様,本件特許の請求項2?12に係る発明は,甲2発明及び甲1の記載に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

(イ)本件特許の請求項13?16に係る発明は,請求項1を直接的又は間接的に引用して,ろう付け製品,熱交換器をろう付けする方法,熱交換器及びアルミニウム合金ろう付けシートの使用を特定したものである。
よって,上記アに示した理由と同様,本件特許の請求項13?16に係る発明は,甲2発明及び甲1の記載に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

(3)まとめ
以上のとおり,本件特許の請求項1?16に係る発明は,甲第1号証ないし甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 むすび
したがって,申立人が提示した特許異議申立ての理由及び証拠によって,本件の請求項1?16に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件の請求項1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-08-22 
出願番号 特願2015-514957(P2015-514957)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 毅  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 中澤 登
平塚 政宏
登録日 2018-10-12 
登録番号 特許第6415429号(P6415429)
権利者 グランジェス・スウェーデン・アーべー
発明の名称 制御雰囲気におけるフラックスフリーろう付けのための、多層のアルミニウムろう付けシート  
復代理人 後藤 学  
復代理人 毛利 聖  
代理人 阿部 達彦  

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