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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1355974
異議申立番号 異議2018-700276  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-03 
確定日 2019-09-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6207809号発明「ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物およびその成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6207809号の請求項1、3及び6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6207809号(請求項の数7。以下、「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成24年2月29日に特許出願され、平成29年9月15日にその特許権の設定登録がされ、同年10月4日に特許公報が発行され、その後、その特許に対し、平成30年4月3日に特許異議申立人藤江桂子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(以下、「本件申立て」という。)がされたものである。
本件申立ての経緯は、以下のとおりである。
平成30年 8月14日付け取消理由通知書
同年10月16日 意見書及び乙第1号証(特許権者)の提出
同年12月 4日付け取消理由通知書(決定の予告)
平成31年 2月 5日 意見書及び乙第2?4号証(特許権者)の
提出
令和 1年 5月 8日付け審尋(申立人)
なお、上記審尋に関して、期間を指定して申立人に意見を聞いたが、申立人からの回答はなかった。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
(α)ポリアリーレンサルファイド樹脂、(β)非繊維状充填材および(γ)繊維状充填材を溶融混練してなるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物であって、
前記(α)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、溶融粘度(300℃、剪断速度1000/s)が40〔Pa・s〕未満の範囲かつ塩素原子含有量が2000ppm以下の範囲であり、前記(β)非繊維状充填材と(γ)繊維状充填材の合計量が、前記ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、100?300質量部であり、さらに(β)非繊維状充填材の含有量が(γ)繊維状充填材の含有量以上で、かつポリアリーレンサルファイド樹脂組成物中の塩素原子含有量が900ppm以下の範囲であることを特徴とするポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を製造する方法であって、
(α)ポリアリーレンサルファイド樹脂、(β)非繊維状充填材および(γ)繊維状充填材を溶融混練すること、
前記(α)ポリアリーレンサルファイド樹脂が、極性溶媒中でアルカリ金属硫化物(A)とジハロ芳香族化合物(B)とを反応させてポリアリーレンサルファイドを製造する方法において、該ジハロ芳香族化合物(B)の反応率が0?40%の時点でメルカプト化合物、メルカプト化合物の金属塩、フェノール化合物、フェノール化合物の金属塩およびジスルフィド化合物からなる群から選ばれる一種以上の化合物(C)を添加する製造方法により得られたものであることを特徴とする、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成する樹脂成分の内、70質量%以上が(α)ポリアリーレンスルフィド樹脂であることを特徴とする請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分に加え、さらに(δ)ガラス転移温度が110℃以上の非晶性樹脂を含有する請求項1および3の何れか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
前記非晶性樹脂が、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂またはポリアミドイミド系樹脂である請求項4に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1、3?5の何れか一項記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を溶融成形した成形品。
【請求項7】
請求項2に記載の製造方法により得られたポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を溶融成形する成形品の製造方法。」

第3 取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した本件申立ての申立理由
本件発明1、3及び6は、下記(1)のとおりの取消理由があるから、本件特許の請求項1、3及び6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。証拠方法として、下記(2)の甲第1号証?甲第4号証(以下、単に「甲1」等という。)を提出する。

(1)取消理由
本件発明1、3及び6は、甲1に記載された発明、及び甲1?甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2)証拠方法
甲1:特開2010-53356号公報
甲2:特開2010-126621号公報
甲3:特開平10-60277号公報
甲4:特開2007-204615号公報

2 取消理由通知書(決定の予告)の取消理由
本件発明1、3及び6は、甲1に記載された発明、甲1?甲4に記載された事項、及び周知の事項(当審が職権調査により発見した引用文献5及び引用文献6)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである(本件申立ての申立理由と同旨)。
引用文献5:社団法人日本レオロジー学会編、「レオロジーデータ ハンドブック」、丸善株式会社発行、平成18年1月31日発行、198頁?199頁
引用文献6:旭化成アミダス株式会社「プラスチックス」編集部編、「プラスチック・データハンドブック」、株式会社工業調査会発行、2006年1月20日発行、43頁

第4 当審の判断
以下に述べるように、取消理由通知書(決定の予告)の取消理由及び本件申立ての申立理由によっては、本件特許の請求項1、3及び6に係る特許を取り消すことはできない。

1 取消理由通知書(決定の予告)の取消理由及び本件申立ての申立理由に関する検討
第3の2で述べたように、取消理由通知書(決定の予告)の取消理由と本件申立ての申立理由は同旨であるから、以下、これらを併せて検討する。

(1)各甲号証に記載された事項
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
甲1には、次のとおりの記載がある。
(ア)「【請求項1】(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂、(B)非繊維状充填材および(C)繊維状充填材を配合してなるポリフェニレンサルファイド樹脂組成物であって、(B)非繊維状充填材と(C)繊維状充填材の合計量が、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物中の樹脂成分100重量部に対し、200重量部以上300重量部以下であり、さらに(B)非繊維状充填材の含有量が(C)繊維状充填材の含有量より多く、かつポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の塩素含有量が900ppm以下であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項2】ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を構成する樹脂成分の内、70重量%以上が(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂であることを特徴とする請求項1記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項3】(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対し、(D)ガラス転移温度が110℃以上の非晶性樹脂を、3?50重量部配合してなることを特徴とする請求項1?2いずれか記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
・・・
【請求項6】請求項1?5のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とする光ピックアップ部品。」

(イ)「【0005】
一般に、光ピックアップ部品の射出成形では、一日に数百?数万個の光ピックアップ部品を得る。従って寸法安定性、特に多数の光ピックアップ部品を得る繰り返し成形時の寸法安定性が要求される。かかる寸法安定性を左右する大きな因子の一つが金型付着性ガスである。金型付着性ガス発生量が多いと金型に設けられたガスベントが容易に詰まり、それにより溶融流動性が乱され、寸法に変化を来し得る。
【0006】
ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の付着性ガス発生量には、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物のオリゴマーなどの低分子量成分が大きく関与し、これらが多いと付着性ガス発生量を増やす原因となり得る。ポリフェニレンサルファイド樹脂は、工業的には一般にパラジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物の重縮合により製造される。そのため、ポリマー分子鎖末端の一部やオリゴマーの一部には塩素に代表されるハロゲン化合物が多くの場合存在する。特にオリゴマー等の低分子量物には多くの塩素末端が存在するので、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物中の塩素含有量は、オリゴマー等の低分子量物量をしばしば反映し、従ってポリフェニレンサルファイド樹脂組成物中の塩素含有量は、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の付着性ガス発生量の目安となり得る。
【0007】
また、昨今、優れた耐腐食性や環境等への配慮からも、塩素、臭素などのハロゲン化合物、特に塩素含有量を少なくすることが求められている。」

(ウ)「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塩素含有量が少なく、溶融流動性に優れた、かつ繰り返し成形時の寸法安定性に優れたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物およびその射出成形体からなる光ピックアップ部品を提供できる。」

(エ)「【0021】本発明で用いられる(A)PPS樹脂の溶融粘度に特に制限はないが、より優れたウェルド強度と良流動性を両立させる観点および後述する低塩素化を図る観点からその溶融粘度は、40?2000Pa・s(320℃、剪断速度1000/s)の範囲が好ましく、40?1300Pa・s以下の範囲がより好ましい。また溶融粘度の異なる2種以上のポリアリーレンサルファイド樹脂を併用して用いてもよい。
【0022】 なお、本発明における溶融粘度は、320℃、剪断速度1000/sの条件下、東洋精機社製キャピログラフを用いて測定した値である。本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、その樹脂組成物中の塩素含有量が900ppm以下である必要があり、800ppm以下の範囲がより好ましく、700ppm以下の範囲がさらに好ましく、600ppm以下の範囲であることがより一層好ましい。ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物中の塩素含有量は、オリゴマー等の低分子量物量をしばしば反映し、従ってポリフェニレンサルファイド樹脂組成物中の塩素含有量は、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の付着性ガス発生量の目安となり得る。塩素含有量が900ppmを超える範囲であると、射出成形時の金型付着物量が増える傾向にあり、そのため繰り返し成形時、金型に設けられたガスベントが詰まり易くなる。それにより溶融流動性が乱され、寸法に変化を起こしやすくなり、特に優れた寸法安定性を要求される、パソコン等用のDVD、あるいは最近開発されたブルーレイ用の再生・記録両用機種用の光ピックアップ部品材料には適さなくなる。」

(オ)「【0076】 本発明においては、ポリフェニレンサルファイド樹脂以外に配合可能な非晶性樹脂、非繊維状充填材や繊維状充填材の種類及び配合量等にもよるが、流動性、靱性、バリ、塩素量のバランスを取るためには2種類以上のポリフェニレンサルファイド樹脂を併用することが好ましい。特に非晶性樹脂、非繊維状充填材や繊維状充填材を配合した場合は、流動性が悪化するため使用するポリフェニレンサルファイド樹脂の溶融粘度が重要となる。流動性を保持する上で好適なポリフェニレンサルファイド樹脂の溶融粘度は、5?20Pa・s(320℃、剪断速度1000/s)の範囲が好ましく、また、靱性やバリの付与には25?300Pa・s(320℃、剪断速度1000/s)の範囲が好ましい。したがって流動性と靭性やバリのバランスを図る上で、両ポリフェニレンサルファイド樹脂を混合して用いることも好ましい態様のひとつである。」

(カ)「【0085】 かかる(D)ガラス転移温度が110℃以上の非晶性樹脂の具体例としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂が例示できるが、なかでもポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂が特に適しており、ポリフェニレンエーテル系樹脂が特に好ましい。」

(キ)「【0090】 本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の調製方法には特に制限はないが、各原料を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど通常公知の溶融混合機に供給して、280?380℃の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。原料の混合順序にも特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、さらに残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法などのいずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することももちろん可能である。」

(ク)「【0094】 本発明の樹脂組成物は、そのスパイラルフロー長(1mm厚みのスパイラルフロー金型を用い、シリンダー温度320℃、金型温度140℃、射出速度230mm/sec、射出圧力98MPa、射出時間5sec、冷却時間15secの条件で成形した際の流動長)が50mm以上120mm以下の範囲であることが好ましく、70mm以上100mm以下の範囲であることがより好ましい。ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物のオリゴマーなどの低分子量成分量、塩素含有量を低減するには、分子量の高いPPS樹脂を用いることが望ましい。しかし、分子量の高いPPS樹脂を用いると樹脂組成物の溶融流動性が悪化する。光ピックアップ部品は複雑な構造をしており、溶融流動性が低すぎると成形加工時に樹脂に対し強い圧力を掛ける必要が生じ、それにより樹脂組成物成形体に応力歪みが残留し、長期使用時にその残留した応力が開放され、成形体の寸法を悪化させる懸念が生じる。特に高い寸法安定性が要求される、再生及び記録両用の光ピックアップ部品の場合、この残留応力を極力小さくする必要がある。本発明者等は、種々の成形評価の結果、これら、低分子量成分量、塩素含有量を低減効果と溶融流動性のバランス点の指標として、スパイラルフロー長(1mm厚みのスパイラルフロー金型を用い、シリンダー温度320℃、金型温度140℃、射出速度230mm/sec、射出圧力98MPa、射出時間5sec、冷却時間15secの条件で成形した際の流動長)が50mm以上90mm以下の範囲が好ましいことを見出した。」

(ケ)「【実施例】
【0098】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0099】
[測定方法]
(1)PPS樹脂のクロロホルム抽出量
ソックスレー抽出器を用い、PPSサンプル量約10g、クロロホルム200mlを用い5時間抽出し、その抽出液を50℃で乾燥し、得られた残さを仕込みPPSサンプル量で割り返し、100をかけてパーセンテージ表記としたものである。
【0100】
(2)PPS樹脂の溶融粘度
320℃、剪断速度1000/sの条件下、東洋精機社製キャピログラフを用いて測定した値である。
【0101】
(3)曲げ強度
ASTM D790に準じて測定を行った。具体的には次のように測定を行った。本発明の樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度320℃に設定した住友-ネスタール社製射出成形機(SG75-HIPRO・MIII)に供給し、射出圧力=成形下限圧力+5Kgf/cm^(2)のゲージ圧にて射出成形を行い、幅12.7mm×高さ6.4mm×長さ127mmの試験片を得た。この試験片を用い、23℃、相対湿度50%の雰囲気下、スパン100mm、歪み速度3mm/minの条件で測定を行った。
【0102】
(4)スパイラルフロー長
1mm厚みのスパイラルフロー金型を用い、シリンダー温度320℃、金型温度140℃、射出速度230mm/sec、射出圧力98MPa、射出時間5sec、冷却時間15secの条件で成形し、流動長を測定した(使用成形機:住友重機製“SE-30D”)。この流動長の値が大きい程、溶融流動性に優れていると言える。
【0103】
(5)塩素、臭素含有量
SGSファーイーストリミテッドグリーンテスティングセンターに依頼し、BS EN14582法に従い、SGS台湾(高雄)で測定した。
【0104】
(6)付着性ガス成分量
直径18mm、深さ75mm、肉厚1mmのガラス製サンプル管に樹脂組成物約1.5gを精秤し、かかるガラス製サンプル管を、330℃±0.1℃に調整されたアルミブロックヒーター(装置:サイニクス社製の型番AL-331。直径18.3mm、深さ70mmの円柱状の溝を12箇所有する。)に挿入後、ガラス製サンプル管の開口部に、精秤したガラス板を置く。3時間経過後、ガラス板を取り除き、デシケーター中で室温まで冷却する。このガラス板を再度精秤し、元のガラス板の重量との差からガラス板へのガス分付着量をもとめ、付着量を樹脂組成物量で割り返し、100を掛けて樹脂組成物量当たりのガス付着物量(%)を求めた。
【0105】
(7)光軸安定性評価
樹脂ペレットをシリンダー温度320℃、金型温度140℃に設定した住友-ネスタール社製射出成形機(SG75-HIPRO・MIII)に供給し、成形下限圧力+5kgf/cm^(2)ゲージの条件で、射出成形し、図1に示す形状の光ピックアップモデル射出成形品1を得た。上記光ピックアップモデル射出成形品1の中央切欠部分にハーフミラー2を設置し、恒温槽の中で焦点距離200mm、波長650nm、出力0.3mWの半導体レーザーオートコリメーターから発振したレーザー光を当て、反射してくるレーザー光をCCDカメラにて受光した。
【0106】
30℃における反射レーザー光の位置を原点とし、30分かけて70℃まで昇温し、30分放置後の光軸変動値を測定した。この値が小さいほどレーザー焦点の環境安定性に優れていると言える。
【0107】
図1は、ハーフミラー2を設置した射出成形品の斜視図であり、射出成形品1の中央切欠部分にはハーフミラー2が設置されている。半導体レーザーオートコリメーターから発
振されたレーザー光は、ハーフミラー2の表面に対して直角に入射し、反射する。
【0108】
[使用原材料]
[参考例1]PPSの重合(PPS-1)
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.97モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム1722.00g(21.00モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0109】
次に、p-ジクロロベンゼン10235.46g(69.63モル)、NMP9009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0110】
内容物を取り出し、26300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70000gで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPSは直鎖状であり、溶融粘度が100Pa・s(320℃、剪断速度1000/s)、クロロホルム抽出量0.43%、塩素含有量1200ppmであった。
【0111】
[参考例2]PPSの重合(PPS-2)
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.97モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム1722.00g(21.00モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0112】
次に、p-ジクロロベンゼン10235.46g(69.63モル)、NMP9009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0113】
内容物を取り出し、26300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を56000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70000gで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPSは直鎖状であり、溶融粘度が120Pa・s(320℃、剪断速度1000/s)、クロロホルム抽出量1.70%、塩素含有量2800ppmであった。
【0114】
[参考例3]PPSの重合(PPS-3)
東レ株式会社製M3910を熱風オーブン中210℃×1時間処理した。得られたPPSは架橋型であり、溶融粘度が15Pa・s(320℃、剪断速度1000/s)、クロロホルム抽出量2.50%、塩素含有量2800ppmであった。
【0115】
[参考例4]PPSの重合(PPS-4)
東レ株式会社製L2840を熱風オーブン中210℃×9時間処理した。得られたPPSは架橋型であり、溶融粘度が100Pa・s(320℃、剪断速度1000/s)、クロロホルム抽出量2.20%、塩素含有量2500ppmであった。
【0116】
[参考例5]PPSの重合(PPS-5)
東レ株式会社製L4230を熱風オーブン中210℃×2時間処理した。得られたPPSは架橋型であり、溶融粘度が15Pa・s(320℃、剪断速度1000/s)、クロロホルム抽出量2.50%、塩素含有量4500ppmであった。
【0117】
[参考例6]PPSの重合(PPS-6)撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.91kg(69.80モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0118】
次いでp-ジクロロベンゼン10.37kg(70.52モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温した。270℃で60分反応した後、オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0119】
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0120】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、2000ppmの酢酸カルシウム一水和物を添加した。オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0121】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥
することにより、乾燥PPSを得た。得られたPPSは直鎖状であり、溶融粘度が15Pa・s(320℃、剪断速度1000/s)、クロロホルム抽出量2.50%、塩素含有量2700ppmであった。
【0122】
[参考例7]PPSの重合(PPS-7)
東レ株式会社製M3910を熱風オーブン中210℃×10時間処理した。得られたPPSは架橋型であり、溶融粘度が60Pa・s(320℃、剪断速度1000/s)、クロロホルム抽出量2.20%、塩素含有量2900ppmであった。
【0123】
(B)非繊維状充填材
B-1:炭酸カルシウム 金平鉱業社製 KSS-1000(D50=4.2μ) 比重 2.7。
【0124】
(C)繊維状充填材
C-1:ガラス繊維 旭ファイバーグラス社製 T747GH(平均繊維直径10μ) 比重 2.5。
【0125】
(D)ガラス転移温度が110℃以上の非晶性樹脂
D-1:ポリフェニレンエーテル YPX-100F(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ガラス転移温度205℃)。
【0126】
[実施例1?2、4?6]
表1に示す各成分を表1に示す割合でドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX44型2軸押出機を用い、スクリュー回転数250rpm、シリンダー設定温度が320℃で溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。120℃で一晩乾燥したペレットを用い、成形、評価に供した。
【0127】
【表1】

【0128】
[比較例1?4]
表1に示す各成分を表1に示す割合でドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX44型2軸押出機を用い、スクリュー回転数250rpm、シリンダー設定温度が320℃で溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。120℃で一晩乾燥したペレットを用い、成形、評価に供した。
【0129】
[実施例3]
表1に示す各成分を表1に示す割合でドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX44型2軸押出機を用い、スクリュー回転数350rpm、シリンダー設定温度が320℃で溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。120℃で一晩乾燥したペレットを用い、成形、評価に供した。
【0130】
なお、実施例2と3の樹脂組成物をユーザーに供試し、再生及び記録両用の光ピックアップ部品を成形した。成形当初は、実施例2,3いずれの成形品も良品が得られたが、成形品を1000個得たあたりから、実施例3の組成物では寸法のバラツキが生じ良品が得られなくなった。金型を分解した結果、金型ベント詰まりが発生していることがわかった。 」

甲1の摘記(1)ア(ア)から、請求項1を引用する請求項2を更に引用する請求項3、及び、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を更に引用する請求項6を独立形式で記載した発明は、それぞれ次のようになる。

「(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂、(B)非繊維状充填材および(C)繊維状充填材を配合してなるポリフェニレンサルファイド樹脂組成物であって、(B)非繊維状充填材と(C)繊維状充填材の合計量が、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物中の樹脂成分100重量部に対し、200重量部以上300重量部以下であり、さらに(B)非繊維状充填材の含有量が(C)繊維状充填材の含有量より多く、かつポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の塩素含有量が900ppm以下であり、
ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を構成する樹脂成分の内、70重量%以上が(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂であり、
更に、(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対し、(D)ガラス転移温度が110℃以上の非晶性樹脂を、3?50重量部配合してなるポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。」(以下、「甲1発明1-1」という。)

「(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂、(B)非繊維状充填材および(C)繊維状充填材を配合してなるポリフェニレンサルファイド樹脂組成物であって、(B)非繊維状充填材と(C)繊維状充填材の合計量が、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物中の樹脂成分100重量部に対し、200重量部以上300重量部以下であり、さらに(B)非繊維状充填材の含有量が(C)繊維状充填材の含有量より多く、かつポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の塩素含有量が900ppm以下であり、
ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を構成する樹脂成分の内、70重量%以上が(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂であり、
更に、(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対し、(D)ガラス転移温度が110℃以上の非晶性樹脂を、3?50重量部配合してなるポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を射出成形してなる光ピックアップ部品。」(以下、「甲1発明1-2」という。)

イ 甲2に記載された事項
甲2には、次のとおりの記載がある。
(ア)「【請求項1】 極性溶媒中でアルカリ金属硫化物(A)とジハロ芳香族化合物(B)とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、該ジハロ芳香族化合物(B)の反応率が0?40%の時点でメルカプト化合物、メルカプト化合物の金属塩、フェノール化合物、フェノール化合物の金属塩およびジスルフィド化合物からなる群から選ばれる一種以上の化合物(C)を添加することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。」

(イ)「【0002】 ポリアリーレンスルフィド(PAS)を含有するコンパウンド(PASコンパウンド)は、従来の金属材料からの代替材料として、自動車部品、電気電子部品、住宅設備部品としての使用量が増大し、前年比110%で市場拡大が続いている。その中で、電気電子部品業界において環境保護の面から、ハロゲン規制の動きが急速に拡大し、PASコンパウンドに対してもコンパウンド中の塩素に対して規制(900ppm以下)が適用される状況になっている。」

(ウ)「【0005】 電気電子部品用途では、主に40重量%程度のガラス繊維で強化されたガラス繊維強化PASコンパウンドや約60-70重量%のガラス繊維及び炭酸カルシウム等の無機充填材で強化された高充填PASコンパウンドが用いられる。
【0006】これらのコンパウンドを上記ハロゲン規制値内に収めるためには、例えば、40%ガラス繊維強化PASコンパウンドでは、リニアタイプあるいは架橋処理前のポリマーの含有塩素量1500ppm以下のPAS、60重量%の無機充填材強化PASコンパウンドでは、リニアタイプあるいは架橋処理前のポリマーの含有塩素量2250ppm以下のPASを用いる必要がある。
【0007】上述したPASとして、含有塩素量1500ppm以下であれば、リニアタイプあるいは架橋処理前のポリマーが大凡800ポイズ以上の粘度のPAS、2250ppm以下であれば、リニアタイプあるいは架橋処理前のポリマーが500ポイズ以上の粘度のPASが必要であるが、コンパウンドに粘度の高いPASを使用すると、コンパウンドの流動性が低下し、成形性が悪化する。」

(エ)「【0011】 本発明者らは鋭意検討した結果、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させてPASを製造する際に、該ジハロ芳香族化合物の反応率が0?40%の時点でメルカプト化合物等の特定の化合物を添加することにより、従来技術で得られたPASと同等の粘度を有するPASであっても、塩素含有量の少ないPASが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(オ)「【発明の効果】【0013】 本発明の製造方法により、従来技術で得られるPASと同等の粘度を有するPASであっても塩素等のハロゲンの含有量が少ないPASを得る事ができる。得られたPASは自動車部品、電気電子部品、住宅設備部用のPASコンパウンドの原料として好ましく用いるができる。」

(カ)「【0041】 実施例において、溶融粘度は、島津製作所製フローテスターCFT‐500Cを用いて300℃、荷重20kgf/cm^(2)、L/D=10で6分間保持した後に測定した粘度(ポイズ)である。
【0042】 ポリマー中の塩素含有量は、ダイアンインスツルメンツ燃焼ガス吸収装置でポリマーを燃焼させ発生したガスを純水に吸収させ、吸収液中の塩素イオンをダイオネクスイオンクロマトグラフで定量した。
【0043】
実施例1
温度センサー、冷却塔、滴下槽、滴下ポンプを連結した攪拌翼付チタンライニングステンレス製4リットルオートクレーブに、48%水流化ナトリウム(以下NaSH・3.4H2Oと略す)586.0g(5.0モル)、48%水酸化ナトリウム416g(5.0モル)及びN-メチルピロリドン(以下NMPと略)1586g(16モル)を室温で仕込み、攪拌しながら窒素雰囲気下で205℃まで昇温して、水522.0gを留出させた。その後、反応系を密閉し、更に220℃まで昇温し、NaSHに対し0.1モル%のチオフェノール0.55g(0.005モル)、p-ジクロルベンゼン(以下p-DCBと略す)735.0g(5.0モル)及びNMP396g(4モル)の混合液を1時間で滴下し、220℃で6時間攪拌した後、250℃まで昇温し、1時間攪拌した。ここで、チオフェノールは、p-ジクロルベンゼンの反応率が0%の時点で添加している。
【0044】
反応終了後、冷却して反応スラリーを得た。得られたスラリーに20リットルの水を加えて80℃で1時間攪拌した後、濾過した。
【0045】
得られたケーキを5リットルの水に再分散させ、80℃で1時間攪拌した後、濾過した。この操作を3回繰り返して得られたケーキを熱風乾燥機内で120℃で一晩乾燥して白色の粉末状のPASを515g(収率95%)得た。溶融粘度は450ポイズであった。PAS中の塩素含有量は、1900ppmであった。
【0046】
実施例2
NaSHに対し0.2モル%のチオフェノール1.10g(0.01モル)を添加した以外は、実施例1と同じ操作を行った。得られたPASの溶融粘度は370ポイズであった。PASの塩素含有量は、1800ppmであった。
【0047】
実施例3
NaSHに対し0.5モル%のチオフェノール2.75g(0.025モル)を添加し、220℃で6時間攪拌した後、250℃まで昇温し、3時間攪拌とした以外は、実施例1と同じ操作を行った。得られたPASの溶融粘度は410ポイズであった。PASの塩素含有量は、1200ppmであった。
【0048】
実施例4
p-DCB及びNMPの混合液を1時間で滴下した直後にNaSHに対し0.5モル%のチオフェノール2.75g(0.025モル)を添加した事以外は、実施例1と同じ操作を行った。チオフェノールを添加した時のp-DCBの反応率は25%であった。得られたPASの溶融粘度は280ポイズであった。PASの塩素含有量は、1900ppmであった。
【0049】
実施例5
p-DCB及びNMPの混合液を1時間で滴下し、30分後にチオフェノールを添加した事以外は、実施例4と同じ操作を行った。チオフェノールを添加した時のp-DCBの反応率は38%であった。得られたPASの溶融粘度は300ポイズであった。PASの塩素含有量は、2100ppmであった。
【0050】
実施例6
NaSHに対し1.0モル%のチオフェノール5.50g(0.05モル)を添加した以外は、実施例3と同じ操作を行った。得られたPASの溶融粘度は100ポイズであった。PASの塩素含有量は、1200ppmであった。
【0051】
実施例7
NaSHに対し0.5モル%のフェノール2.35g(0.025モル)を添加した以外は、実施例1と同じ操作を行った。得られたPASの溶融粘度は220ポイズであった。PASの塩素含有量は、2300ppmであった。
【0052】
実施例8
NaSHに対し0.5モル%のジフェニルジスルフィド5.46g(0.025モル)を添加した以外は、実施例1と同じ操作を行った。得られたPASの溶融粘度は250ポイズであった。PASの塩素含有量は、1800ppmであった。
【0053】
実施例9
NaSHに対し0.5モル%のチオフェノールナトリウム塩3.30g(0.025モル)を添加した以外は、実施例1と同じ操作を行った。得られたPASの溶融粘度は210ポイズであった。PASの塩素含有量は、1900ppmであった。
・・・
【0060】




ウ 甲3に記載された事項
甲3には、次のとおりの記載がある。
(ア)「【請求項1】 310℃/1000sec^(-1)のせん断速度で測定した時の溶融粘度が50Pa・s以下のポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、ガラス転移温度が140℃以上の非晶性樹脂(B)と、無機質無方向性フィラー(C)と、無機繊維(D)とを必須成分として溶融混練してなる超精密成形用樹脂組成物」

(イ)「【0006】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、高精度の金型を用いても、結晶性樹脂を使用した場合、樹脂自体の成形収縮率が大きいことに加えて、一般に用いられるガラス繊維、炭素繊維等の繊維状強化材の配向が顕著であることから射出成形した成形品に反りが発生しやすかったり、強度が樹脂流動方向と流動直角方向で大幅に異なったりする欠点があり、折角高精度な金型を作っても、成形用樹脂組成物の特性上、その金型形状を精密に正確に再現することが出来ない場合があるし、成形条件により、得られる成形品の成形精度のバラツキが大きく現れ、歩留まり悪い。これは、超精密な電気電子機器部品を得る上では、致命的欠陥となる。
【0007】また、非晶性樹脂を使用した場合は、結晶性樹脂を使用した場合に比べて寸法精度には優れているものの樹脂粘度が非常に高いため、成形性に劣る、成形サイクルが長い、成形品の表面状態等にムラが生じ易いといった問題点があり、非晶性樹脂のみを用いて使用した場合は、未だ実用化レベルには達していない。」

(ウ)「【0019】更に、本発明では、310℃/1000sec^(-1)のせん断速度で測定した時の溶融粘度が50Pa・s以下のPAS樹脂が、好適に使用に供される。同条件で50Pa・sを越える粘度を有するPAS樹脂を用いた場合、射出成形時の樹脂粘度が高くなり目的とする成形品寸法精度が得にくくなる。」

(エ)「【0043】実施例1?7及び比較例1
二軸押出機として東芝TEM-35Bを使用し、下記表1及び表2の組成で、予め予備混合した後、300?360℃のシリンダー温度にて押し出し機で充分に溶融混練、ペレタイズ化を行い、射出成形により、成形品を得た。評価の射出成形条件は、300?360℃のシリンダー温度、150℃の金型温度で行った。
【0044】実施例、比較例においては、収縮率の測定は50×100×2mm(フィルムゲート)の大きさの成形品の流動/直角方向の寸法を、光学顕微鏡20型で測定した。
【0045】また、成形品の真円度の評価は、90mmの円筒状成形品にて行い、反りに関しては、以下の図1に示す箱型成形品にて評価した。
【0046】成形品の各方向における収縮率(異方性)、そり及び真円度の測定結果を、それぞれ表1及び表2に併せて示した。
【0047】ここで使用した各樹脂等は、次の通りである。表中では、略記した。
PPS樹脂(1):DSP MB-651-90(30Pa・S)
〔大日本インキ化学工業(株)製の分岐を有するPPS〕
・・・
【0048】
【表1】


・・・
【0050】比較例1
PAS樹脂(2)として、大日本インキ化学工業(株)製DSP MB-600(60Pa・S)40重量%、ベスファイトHTA-C6S(東邦レーヨン製直状炭素繊維チョップ)の60重量%を用いて上記したのと同様の操作を行ってペレットを得、同様にして射出成形して各形状の成形品をそれぞれ得た。
【0051】成形品の各方向における収縮率(異方性)、そり及び真円度は、それぞれ5.20、2mm以上、100μm以上であった。
【0052】実施例に示すとおり、本発明の組成物を用いた成形品は、従来に比べて、流動方向並びに直角方向において小さな寸法収縮率が得られ、しかも流動方向と直角方向の寸法収縮率の差が小さいため異方性が小さい。即ち、絶対寸法収縮が小さく且つ異方性が小さいため反り及び真円度に優れる成形品が得られる。」

(オ)「【0053】【発明の効果】本発明では、従来よりも成型時低粘度のポリアリーレンサルファイド樹脂を用いて、それに無機質無方向性フィラーと無機繊維とを前者フィラーのほうが多くなる様に用い、かつ特定ガラス転移温度以上の非晶性樹脂を組み合わせるので、従来の成型時高粘度のポリアリーレンサルファイド樹脂に無機繊維を組み合わせた組成物に比べて、流動方向並びに直角方向において小さな寸法収縮率が得られ、しかも流動方向と直角方向の寸法収縮率の差が小さいため異方性が小さいうえ、寸法収縮絶対値も極めて小さいので、金型再現性に優れた超精密成形品を得ることが出来る。
【0054】従って、本発明の組成物は、絶対寸法収縮が小さく、異方性が小さく、反り及び真円度に優れている必要のある成形品の成形に好適である。」

エ 甲4に記載された事項
(ア)「【請求項1】(A) 樹脂温度310℃、剪断速度1200sec^(-1)における溶融粘度が10?100Pa・sであり、且つ結晶化温度が210℃以下であるポリアリーレンサルファイド樹脂に対して、(B) 繊維状充填剤及び非繊維状充填剤からなる無機充填剤が40?70重量%(組成物中)配合され、(B) 無機充填剤中の繊維状充填剤の割合が25?75重量%である箱形形状を有する成形品用ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。」

(イ)「【0011】
また、本発明で用いる(A) 成分としてのPAS樹脂は、樹脂温度310℃、剪断速度1200sec^(-1)における溶融粘度が10?100Pa・sである必要があり、好ましくは10?50Pa・sである。溶融粘度が100Pa・sより高い場合は流動性が不十分で成形性に劣り、10Pa・s未満では成形時に不具合を生じる。
【0012】
本発明で用いる(A) 成分としてのPAS樹脂は、結晶化温度が210℃以下であることが必要である。結晶化温度が高すぎるとショット間の寸法バラツキが大きくなる。このような本発明に使用するPAS樹脂は、結晶化温度が210℃以下であればその製造方法にはよらないが、製造方法の一つの例として以下の洗浄方法によって得られるものが挙げられる。
【0013】
即ち、重合終了後の反応混合物を室温付近まで冷却した後、内容物を100メッシュのスクリーンにかけ、粒状ポリマーを濾別し、次いで、アセトンで2?4回、イオン交換水で4?8回洗浄を行うことで、上述のポリマーを得ることができる。」

(ウ)「【0025】 本発明のPAS樹脂組成物は、自動車機器あるいは電気・電子機器等の各部品における箱形形状を有する成形品として極めて良好な性能を示し、平面度及びショット間の寸法バラツキに対するより高度な要求を満足させるのが困難であった箱形形状を有する成形品用材料として有用である。」

(エ)「【0033】
・・・
[溶融粘度の測定]
ISO11443に準拠して測定を行った。キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、剪断速度1000sec^(-1)での溶融粘度を測定した。
・・・
[平面度] (株)ミツトヨ製FN704を用いて、上記箱形形状の試験片底面部の高さを1サンプルにつき各16箇所測定し、その16箇所の高さの平均から基準面をつくり、基準面からの最大高さと最小高さの差を算出した。それを5サンプル同様に測定し、算出した差の平均値を平面度の値とした。
実施例1?5、比較例1?7
表1に示す配合にて、(A) 成分をシリンダー温度320℃の二軸押出機に投入し、(B) 成分は押出機のサイドフィード部より別添加し、押出機内で樹脂温度350℃にて溶融混練し、樹脂組成物のペレットを作った。
【0034】
次いでこのペレットより試験片を成形し、上記の試験を行った。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】



オ 引用文献5に記載された事項
当審が職権調査により発見した引用文献5には、次のとおりの記載がある。


」(198頁?199頁)

カ 引用文献6に記載された事項
当審が職権調査により発見した引用文献6には、次のとおりの記載がある。


」(43頁)

(2)対比及び判断
ア 本件発明1について
甲1発明1-1の「(B)非繊維状充填材」及び「(C)繊維状充填材」は、それぞれ本件発明1の「(β)非繊維状充填材」及び「(γ)繊維状充填材」に相当する。そして、甲1発明1-1の「(B)非繊維状充填材と(C)繊維状充填材の合計量が、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物中の樹脂成分100重量部に対し、200重量部以上300重量部以下であり」は、本件発明1の「(β)非繊維状充填材と(γ)繊維状充填材の合計量が、前記ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、100?300質量部であり、」に相当し、甲1発明1-1の「(B)非繊維状充填材の含有量が(C)繊維状充填材の含有量より多く」は、本件発明1の「(β)非繊維状充填材の含有量が(γ)繊維状充填材の含有量以上で」に相当する。
また、甲1発明1-1の「(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂」は、ベンゼン環と硫黄原子が交互に結合した繰り返し単位を有し、ポリアリーレンサルファイド樹脂の一種であるから、本件発明1の「(α)ポリアリーレンサルファイド樹脂」に相当し、甲1発明1-1の「塩素含有量」は、本件発明1の「塩素原子含有量」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明1-1とは、
「(α)ポリアリーレンサルファイド樹脂、(β)非繊維状充填材および(γ)繊維状充填材を含むポリアリーレンサルファイド樹脂組成物であって、
前記(β)非繊維状充填材と(γ)繊維状充填材の合計量が、前記ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、100?300質量部であり、さらに(β)非繊維状充填材の含有量が(γ)繊維状充填材の含有量以上で、かつポリアリーレンサルファイド樹脂組成物中の塩素原子含有量が900ppm以下の範囲であるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]本件発明1では、「(α)ポリアリーレンサルファイド樹脂、(β)非繊維状充填材および(γ)繊維状充填材を溶融混練してなる」のに対して、甲1発明1-1には、「(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂、(B)非繊維状充填材および(C)繊維状充填材」の混練について特定がない点。

[相違点2]本件発明1では、「(α)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、溶融粘度(300℃、剪断速度1000/s)が40〔Pa・s〕未満の範囲かつ塩素原子含有量が2000ppm以下の範囲であ」るのに対して、甲1発明1-1には、ポリフェニレンサルファイド樹脂の溶融粘度と塩素原子含有量について特定がない点。

まず、相違点2について検討する。
(ア)甲1発明1-1が解決しようとする課題は、塩素含有量が少なく、溶融流動性に優れた、かつ繰り返し成形時の寸法安定性に優れたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の提供であり(摘記(1)ア(イ))、甲1発明1-1における組成物中の塩素原子含有量は900ppm以下であるが、ポリフェニレンサルファイド樹脂の溶融粘度及び塩素原子含有量は特定されていない。
そこで、甲1の記載を見てみると、甲1の摘記(1)ア(エ)には、ポリフェニレンサルファイド樹脂の溶融粘度に関して、優れたウェルド強度及び良流動性を両立させ、低塩素化を図るために、ポリフェニレンサルファイド樹脂の溶融粘度を40?2000Pa・s(320℃、剪断速度1000/s)、より好ましくは40?1300Pa・sとすることが記載され、40Pa・s以上とすることが好ましいことが理解できる。
また、甲1には、ポリフェニレンサルファイド樹脂に非晶性樹脂、非繊維状充填材及び繊維状充填材を配合した樹脂組成物に関して、流動性、靱性、バリ、塩素量のバランスを取るためには、2種類以上のポリフェニレンサルファイド樹脂を併用することが好ましいこと、上記樹脂組成物の流動性を保持するためにはポリフェニレンサルファイド樹脂の溶融粘度(320℃、剪断速度1000/s)を5?20Pa・sとし、靱性やバリの付与のためには25?300Pa・sとすることが好ましく、両ポリフェニレンサルファイド樹脂を混合すると、流動性と靭性やバリのバランスを図る上で好ましいことが記載されており(摘記(1)ア(オ))、上記2種類以上のポリフェニレンサルファイド樹脂を用いた具体例として、実施例1?3では、PPS-1(溶融粘度100Pa・s、塩素原子含有量1200ppm)及びPPS-3(同15Pa・s、同2800ppm)を60/40の重量比で混合し、実施例4では、PPS-1、PPS-4(同100Pa・s、同2500ppm)及びPPS-3を30/30/40の重量比で混合し、実施例5では、PPS-6(同15Pa・s、同2700ppm)及びPPS-7(同60Pa・s、同2900ppm)を40/60の重量比で混合し、実施例6では、PPS-6及びPPS-7を60/40の重量比で混合したものが記載されており(摘記(1)ア(ケ))、これらは上記5?20Pa・sのポリフェニレンサルファイド樹脂及び25?300Pa・sのポリフェニレンサルファイド樹脂を併用した具体例であるといえる。そして、上記5?20Pa・sの溶融粘度は、2種類以上のポリフェニレンサルファイド樹脂を併用する場合における各樹脂の溶融粘度であって、これを単独で使用することは具体的に記載されていないし、実施例1?6はポリフェニレンサルファイド樹脂の混合物の溶融粘度が不明であるから、甲1には、ポリフェニレンサルファイド樹脂の溶融粘度が40Pa・s未満である樹脂組成物は記載されていない。
なお、ポリフェニレンサルファイド樹脂の溶融粘度は、300?320℃近傍で特異点はなく、昇温するにつれて微減することは本願出願時の技術常識(必要があれば、引用文献5の摘記(1)オ、同じく引用文献6の摘記(1)カを参照)であるから、320℃での溶融粘度は300℃での溶融粘度と大凡変わらないものと解されるとした。

一方、甲2には、環境保護の面から、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の塩素含有量が900ppm以下に規制されており、ガラス繊維及び炭酸カルシウム等の無機充填材で強化された高充填ポリアリーレンスルフィド樹脂コンパウンドの流動性を低下させないために、従来技術と比べて溶融粘度は同等でも塩素含有量が少ないポリアリーレンスルフィド樹脂を製造し、実施例2、4、6、8及び9では、溶融粘度が100?370ポイズ(換算すると10?37Pa・sといえる。)で、かつ塩素含有量が1200?1900ppmのポリアリーレンスルフィド樹脂を得たことが記載されており(摘記(1)イ(イ)?(エ)及び(カ))、溶融粘度(300℃、剪断速度1000/s)が40Pa・s未満であり、塩素原子含有量2000ppm以下であるポリアリーレンスルフィド樹脂が記載されているといえる。
上述したとおり、甲1には、2種類以上のポリフェニレンサルファイド樹脂を混合するときは、樹脂組成物の流動性を保持するために、ポリフェニレンサルファイド樹脂の一部の溶融粘度(320℃、剪断速度1000/s)を5?20Pa・sの範囲とすることが記載されているとはいえ、上記課題における塩素原子含有量、溶融流動性、及び繰り返し成形時の寸法安定性に加え、ウェルド強度にも着目して、甲1発明1-1における樹脂組成物中のポリフェニレンサルファイド樹脂の溶融粘度としては、40?2000Pa・sの範囲のみが具体的に示されているだけであるから、こういった40?2000Pa・sの範囲の溶融粘度が示唆されたポリフェニレンサルファイド樹脂の配合が必須である甲1発明1-1において、いくら甲2に溶融粘度(300℃、剪断速度1000/s)が40Pa・s未満であり、塩素原子含有量が2000ppm以下であるポリフェニレンサルファイド樹脂が記載されていたとしても、溶融粘度を40Pa・s未満とする動機付けがあるとはいえず、また、甲2には、これを含む樹脂組成物がウェルド強度等の機械的特性に優れたものになることについて何ら記載も示唆もされていないから、甲1発明1-1において、甲2に記載されたポリアリーレンスルフィド樹脂を用いることが動機付けられるとはいえない。

(イ)甲3及び甲4について
甲3には、溶融粘度(310℃、1000/s)が50Pa・s以下であるポリアリーレンスルフィド樹脂を含む樹脂組成物が記載され(摘記(1)ウ(ア)及び(ウ))、甲4には、溶融粘度(310℃、1200/s)が10?100Pa・sであるポリアリーレンサルファイド樹脂(ポリアリーレンスルフィド樹脂)を含む樹脂組成物が記載されているが、甲3及び甲4には、上記ポリアリーレンスルフィド樹脂の塩素原子含有量について何ら記載されておらず、これが2000ppm以下であるかは不明であるし、ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度と樹脂組成物のウェルド強度等の機械的特性との関係についても何ら記載されていない。
そうすると、このような甲3及び甲4を参酌しても、甲1発明1-1において、溶融粘度(300℃、1000/s)が40Pa・s以下であり、塩素原子含有量が2000ppm以下であるポリフェニレンサルファイド樹脂を含む樹脂組成物とすることを動機付けられるとはいえない。

申立人は、特許異議申立書(19?21頁)において、甲3及び甲4には、低溶融粘度のPPS樹脂を使用すると低そり性を実現できるという技術的思想が開示されているから、甲1に記載された発明に甲2に記載された事項を組み合わせることに十分な動機付けが存在する旨を主張する。
しかしながら、甲3によると、上記主張の根拠とする比較例1は、結晶性樹脂であるポリアリーレンスルフィド樹脂と炭素繊維からなる樹脂組成物であり(摘記(1)ウ(エ))、結晶性樹脂を使用すると成形品に反りが発生しやすいのであるから(摘記(1)ウ(イ))、実施例1?7が比較例1よりも反り量が小さいのは、低溶融粘度のポリフェニレンサルファイド樹脂の使用によるものというよりも、PPE樹脂等の非晶質樹脂の使用によるものであると解される。
また、甲4には、溶融粘度が100Pa・sより高いと流動性が不十分で成形性に劣り、10Pas未満では成形時に不具合を生じることは記載されているが(摘記(1)エ(イ))、溶融粘度と反りの関係については何ら記載されていない。そして、上記主張の根拠とする比較例3は、溶融粘度が20Pa・sであるポリフェニレンサルファイド樹脂を含む樹脂組成物であって、その反り量は、溶融粘度が195Pa・sであるポリフェニレンサルファイド樹脂を含む樹脂組成物である比較例2と同程度であり、実施例3が比較例1よりも反り量が小さいのは、低溶融粘度のポリフェニレンサルファイド樹脂の使用によるものとは必ずしもいえない。
以上のとおりであるから、申立人の主張によっては、相違点2を構成することを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(ウ)本件発明の効果について
本件発明1は、「塩素原子含有量が少なく、溶融流動性に優れた、かつ繰り返し成形時の寸法安定性および低そり性に優れたポリアリーレンサルファイド樹脂組成物およびその成形体を提供することができる」(段落【0010】)という効果を奏するものであり、実施例1?5及び比較例1?3における曲げ強度、スパイラルフロー長、残留塩素量及び低そり性の測定結果から確認することができる。具体的には、実施例3と比較例1を比べると、残留塩素量は共に500ppmであるが、実施例3はスパイラルフロー長及び低そり性に優れる。また、実施例1、2、4及び5と比較例3を比べると、塩素含有量はいずれも700ppmであるが、実施例1等は曲げ強度で比較例3と同等又はより優れており、スパイラルフロー長及び低そり性でも優れる。
更に、特許権者が平成31年2月5日提出の意見書に添付した実験成績証明書(乙第2号証。以下、「乙2」という。)には、甲1のPPS-1とPPS-3を21/14の重量比としたポリフェニレンサルファイド樹脂の混合物の溶融粘度(300℃、剪断速度1000/s)は48Pa・sであり、これを用いた以外は、本件明細書の実施例1?3と同じ条件とした比較実験例1が記載されている。これによると、本件明細書の実施例1及び2と比較実験例1の組成物中の残留塩素量はいずれも700ppmであり、当該実施例1及び2は、ポリフェニレンサルファイド樹脂の溶融粘度が比較実験例1よりも低く、スパイラルフロー長に優れるものの、曲げ強度及び低そり性にも優れることが見てとれる。そして、乙2に説示されるように、樹脂組成物の溶融粘度が低くなると曲げ強度が低くなることが本願出願時の技術常識であることを勘案すれば、比較実験例1と比べた本件明細書の実施例1?3の上記効果は、上記技術常識に照らして予測できるものではない。
一方、甲1には、甲1発明1-1の具体例である実施例1?6は、曲げ強度、流動性(スパイラルフロー長)、環境温度の変化による寸法安定性(光軸変動値)、繰り返し成形時の寸法安定性(付着性ガス成分量)に優れることが記載されており(摘記(1)ア(ケ))、甲2には、実施例1?9に溶融粘度が100?450ポイズ(10?45Pa・s)であり、塩素含有量が1200?2300ppmであるポリフェニレンサルファイド樹脂が記載されている(摘記(1)イ(オ)及び(カ))に留まり、本件発明1の上記効果は、甲3及び4、並びに、引用文献5及び6の記載を併せて見ても、予測し得たものであるといえない。

(エ)まとめ
以上のことから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明、甲1?甲4に記載された事項、及び周知の事項(引用文献5及び6)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を引用するものであり、上記アで本件発明1について述べたのと同じ理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明6について
本件発明6と甲1発明1-2を対比する。
甲1の摘記(1)ア(ウ)及び(ク)によると、甲1発明1-2の「射出成形」は、樹脂組成物を溶融して行う成形であるから、甲1発明1-2の「射出成形してなる光ピックアップ部品」は、請求項1を引用する本件発明6の「溶融成形した成形品」に相当する。
そうすると、請求項1を引用する本件発明6と甲1発明1-2とは、
「(α)ポリアリーレンサルファイド樹脂、(β)非繊維状充填材および(γ)繊維状充填材を含むポリアリーレンサルファイド樹脂組成物であって、
前記(β)非繊維状充填材と(γ)繊維状充填材の合計量が、前記ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、100?300質量部であり、さらに(β)非繊維状充填材の含有量が(γ)繊維状充填材の含有量以上で、かつポリアリーレンサルファイド樹脂組成物中の塩素原子含有量が900ppm以下の範囲であるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を溶融成形した成形品。」の点で一致し、次の点で相違する。
[相違点3]本件発明1では、「(α)ポリアリーレンサルファイド樹脂、(β)非繊維状充填材および(γ)繊維状充填材を溶融混練してなる」のに対して、甲1発明1-2には、原材料の混練について特定がない点。
[相違点4]本件発明1では、「(α)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、溶融粘度(300℃、剪断速度1000/s)が40〔Pa・s〕未満の範囲かつ塩素原子含有量が2000ppm以下の範囲であ」るのに対して、甲1発明1-2には、ポリアリーレンサルファイド樹脂の溶融粘度と塩素原子含有量について特定がない点。

しかしながら、相違点4は相違点2と同内容であり、上記(2)アで本件発明1について述べたのと同じ理由により、相違点4は当業者が容易に想到し得たことであるから、相違点3について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1に記載された発明、甲1?甲4に記載された事項、及び周知の事項(引用文献5及び6)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1、3及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、3及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-09-18 
出願番号 特願2012-43625(P2012-43625)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山村 周平山▲崎▼ 真奈  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 武貞 亜弓
近野 光知
登録日 2017-09-15 
登録番号 特許第6207809号(P6207809)
権利者 DIC株式会社
発明の名称 ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物およびその成形体  
代理人 小林 浩  
代理人 小川 眞治  
代理人 河野 通洋  
代理人 加藤 志麻子  
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