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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C23C |
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管理番号 | 1355981 |
異議申立番号 | 異議2019-700189 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-03-08 |
確定日 | 2019-10-03 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6388153号発明「溶射材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6388153号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6388153号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成26年 8月 8日を出願日とする出願であって、平成30年 8月24日にその特許権の設定登録がなされ、同年 9月12日にその特許掲載公報が発行された。 その後、本件特許について、平成31年 3月 8日付けで、特許異議申立人濱田菜穂(以下、「申立人」という。)により、請求項1?6に係る本件特許に対して特許異議の申立てがされ、令和 1年 6月21日付けで当審から取消理由が通知され、同年 8月22日付けで特許権者から意見書(以下、「意見書」という。)が提出されたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件特許に係る願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 希土類元素のフッ化物と希土類元素のオキシフッ化物の少なくとも一方を含む顆粒を有する溶射材料であって、 前記溶射材料は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側からの積算体積が50%になる粒径(D50)が20μm?100μmであり、 レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側から粒径10μm以上になる最初のチャンネルまでの積算体積(CV_(0-10))が0%である、溶射材料。 【請求項2】 安息角が40°以下である、請求項1に記載の溶射材料。 【請求項3】 圧縮度が25%以下である、請求項1又は2に記載の溶射材料。 【請求項4】 平均アスペクト比が2.0以下である請求項1?3のいずれか一項に記載の溶射材料。 【請求項5】 希土類元素(Ln)が、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)から選択される少なくとも1種である、請求項1?4のいずれか一項に記載の溶射材料。 【請求項6】 希土類元素(Ln)がイットリウム(Y)である請求項5に記載の溶射材料。」 第3 申立人及び特許権者の主張 1.申立人の主張の概要 申立人は、証拠方法として、下記甲第1?6号証を提出して、以下の申立理由1、2により、請求項1?6に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。 申立理由1:本件発明1、2、4?6は、甲第1号証、甲第3号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。 申立理由2:本件発明1、3?6は、甲第2号証、甲第3号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:特開2014-109066号公報 甲第2号証:国際公開第2014/112171号 甲第3号証:特開2006-200005号公報 甲第4号証:特開2006-176818号公報 甲第5号証:特開2014-9361号公報 甲第6号証:特開2002-363724号公報 なお、甲第1号証?甲第6号証をそれぞれ、甲1?甲6ということがある。 2.特許権者の主張の概要 特許権者は、証拠方法として、下記乙第1?9号証を提出して、下記第4の取消理由1、2によっては、本件発明1?6を取り消すことができない旨主張している。 <証拠方法> 乙第1号証:実験成績証明書 乙第2号証:特開2006-37238号公報 乙第3号証:特開2006-118013号公報 乙第4号証:特開2007-126710号公報 乙第5号証:特開2008-115407号公報 乙第6号証:ウィキペディア 酸化イットリウム(III) 乙第7号証:ウィキペディア フッ化イットリウム(III) 乙第8号証:ウィキペディア 炭化タングステン 乙第9号証:Ryuki Tahara et al., "Fabrication of dense yttrium oxyfluoride ceramics by hot pressing and their mechanical, thermal, and electrical properties", Japanese Journal of Applied Physics, 2018, 57, 06JF04-1?9 乙第6号証?乙第8号証については、ウエブページに掲載されたものであり、それらの掲載日は不明であるが、それらの記載内容が従来よく知られている物質の物性の数値に関するものであり、他の公知文献の存在が容易に推定されるので、それらを公知文献として認め、記載内容を周知技術として認める。 なお、乙第1号証?乙第9号証をそれぞれ、乙1?乙9ということがある。 第4 取消理由の概要 令和 1年 6月21日付けで当審から通知した取消理由の内容は以下のとおりである。なお、下記取消理由1は申立理由1を採用したものであり、下記取消理由2は申立理由2を採用したものである。 取消理由1(進歩性) 本件発明1?6は、甲第1号証に記載の発明と、甲第2号証?甲第4号証、甲第6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 取消理由2(進歩性) 本件発明1?6は、甲第2号証に記載の発明と、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第5 当審の判断 1.甲号証の記載 甲第1?6号証には以下の事項が記載されている(なお、「・・・」は記載の省略を表し、下線は当審が付与したものである。以下同様。)。 1-1.甲第1号証 (1)甲第1号証に記載された事項 1ア 「【請求項1】 希土類元素のオキシフッ化物(LnOF)及び希土類元素のフッ化物(LnF_(3))を含む顆粒からなる溶射材料であって、 前記溶射材料50gを、40±5℃の3mol/Lの塩酸500mLに入れて撹拌しながら40±5℃を2時間維持した後、固液分離して得られる液中の希土類元素の濃度をC(単位 mol/L)とし、溶射材料のBET法比表面積をS(単位 m^(2)/g)としたとき、C/S(単位 mol・g/(m^(2)・L))の値が0.04以下である溶射材料。 【請求項2】 安息角が40°以下である請求項1に記載の溶射材料。 【請求項3】 差角が10°以下である請求項2に記載の溶射材料。 【請求項4】 前記希土類元素がイットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)から選択される少なくとも1種を含む請求項1ないし3のいずれか一項に記載の溶射材料。 【請求項5】 前記希土類元素がイットリウム(Y)を含む請求項4に記載の溶射材料。」 1イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、希土類元素を含む溶射材料に関する。 ・・・ 【発明の効果】 【0010】 本発明の溶射材料を原料として製造された溶射膜は、酸に対する耐食性に優れたものになる。」 1ウ 「【発明を実施するための形態】 【0011】 以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の溶射材料は、希土類元素(Ln)のオキシフッ化物(LnOF)及び希土類元素(Ln)のフッ化物(LnF_(3))を含む顆粒からなるものである。この溶射材料は、LnOF及びLnF_(3)のみから構成されていてもよく、あるいは後述するとおり、LnOF及びLnF_(3)に加えて他の物質を含んでいてもよい。 【0012】 本発明にいう顆粒とは、平均粒径が好ましくは20μm?200μmである粒子のことである。この平均粒径は、25μm?100μmであることが更に好ましい。顆粒の平均粒径が20μm以上であることによって、溶射時に溶射材料を効率的にフレーム中に供給することができる。一方、顆粒の平均粒径が200μm以下であることによって、溶射材料をフレーム中で完全に溶解させることができ、それによって溶射膜の平滑性を高めることができる。顆粒の平均粒径を上述の範囲内に設定するためには、例えば後述するスプレードライ法を採用し、造粒条件を適切に設定すればよい。 【0013】 顆粒の平均粒径は、例えばレーザ回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置を用いて測定できる。そのような装置としては、例えば日機装株式会社製のマイクロトラックHRAを用いることができる。測定に際しては、試料を0.2質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に0.2g/L?2g/Lの濃度で分散させる。分散時に超音波の照射を行うと顆粒の破壊が起こる懸念があるので、超音波の照射は行わない方が好ましい。小粒径側からの積算体積が50%となる粒径D_(50)を平均粒径とする。」 1エ 「【0026】 本発明の溶射材料の安息角は、40°以下であることが好ましく、38°以下であることが更に好ましく、35°以下であることが一層好ましい。安息角とは、例えば、粉末を規定の高さから水平面上に落下させたときに生じる粉末の山の斜面が水平面に対してなす角度のことである。安息角が40°以下であると、溶射装置に供給する際の顆粒の流動性が十分に高いものとなり、均一な溶射膜を得やすい。安息角の下限には制限はないが、溶射材料の製造が容易であるという点で、20°以上が好ましい。安息角の具体的な測定方法は、後述する実施例において詳述する。」 1オ 「【0031】 本発明の溶射材料に含まれるLn_(2)O_(3)の量を化学分析によって定量することは容易でないことから、本発明においては、溶射材料をX線回折測定したときの回折ピークの強度からLn_(2)O_(3)の含有量を推定することとしている。詳細には、線源としてCu-Kα線を用いた溶射材料のX線回折測定を行い、2θ=20度?40度の範囲に観察されるLnOFの回折ピークのうち、最大強度のピークを100としたとき、Ln_(2)O_(3)に由来する最大の回折ピークの相対強度を求める。この相対強度が10以下であることが好ましく、5以下であることが更に好ましく、1以下であることが一層好ましい。例えば、イットリウムの酸化物(Y_(2)O_(3))に由来する最大の回折ピークは通常2θ=29.1度付近に観察される。 【0032】 次に本発明の溶射材料の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、以下の第1工程?第5工程に大別される。以下、各工程について詳述する。 ・第1工程:希土類元素のフッ化物(LnF_(3))を750℃?1075℃にて酸素含有雰囲気中で焼成して、希土類元素のオキシフッ化物(LnOF)及び希土類元素のフッ化物(LnF_(3))を含む焼成物を得る。 ・第2工程:第1工程で得られた焼成物を粉砕する。 ・第3工程:第2工程で得られた粉砕された焼成物を、溶媒と混合して、スラリーを得る。 ・第4工程:第3工程で得られたスラリーをスプレードライヤーで造粒して造粒物を得る。 ・第5工程:第4工程で得られた造粒物を150℃以上300℃未満の温度で焼成して、希土類元素のオキシフッ化物(LnOF)及び希土類元素のフッ化物(LnF_(3))を含む顆粒を得る。」 1カ 「【0050】 〔実施例1〕 本実施例では、オキシフッ化イットリウム(YOF)及びフッ化イットリウム(YF_(3))を含む顆粒からなる溶射材料を、以下の(ア)?(エ)の工程にしたがい製造した。 ・・・ 【0055】 (エ)第5工程 第4工程で得られた造粒物をアルミナ製の容器に入れ、大気雰囲気下、電気炉中で焼成して造粒顆粒を得た。焼成温度は600℃、焼成時間は12時間とした。顆粒の平均粒径D_(50)を上述の方法で測定したところ約50μmであった(以下に述べる実施例及び比較例でもほぼ同じ値であった。)。形状は略球状であった。このようにして、目的とする溶射材料を得た。 【0056】 〔実施例2ないし10及び比較例1ないし3〕 実施例1の第1工程及び第5工程における焼成条件として、表1に示す条件を採用した以外は実施例1と同様にして溶射材料を得た。」 1キ 「【0067】 〔溶射時に顆粒を供給するときの流動性〕 上述した「溶射膜の表面粗さ」の測定を行うために行ったプラズマ溶射において、溶射材料の供給装置に顆粒を供給したときの流動性を目視観察し、以下の基準で評価した。 ・“非常に良”:顆粒の流動に全く脈動がなく均一に流れている。 ・“良”:顆粒の流動に脈動が若干あるが実用上問題がない。 ・“不良”:顆粒の流動に脈動が大きく、場合によっては途中で掃除が必要である。 ・・・ 【0069】 【表3】 」 (2)甲第1号証に記載の発明 ア 上記1イと、1ウによれば、本発明は、希土類元素を含む溶射材料に関するものであり(【0001】)、当該溶射材料は、希土類元素(Ln)のオキシフッ化物(LnOF)及び希土類元素(Ln)のフッ化物(LnF_(3))を含む顆粒からなるものである(【0011】)。 イ 上記1ウによれば、本発明の顆粒は、平均粒径が20μm?200μmであることが好ましく、25μm?100μmであることが更に好ましいものであり、平均粒径をこの範囲とすることによって、溶射時に溶射材料を効率的にフレーム中に供給することができ、また、溶射材料をフレーム中で完全に溶解させることができるので溶射膜の平滑性を高めることができる(【0012】)。ここで、上記平均粒径とは、レーザ回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置を用いて測定された、小粒径側からの積算体積が50%となる粒径D_(50)のことである(【0013】)。 ウ 上記1ア、1エによれば、溶射材料の安息角は40°以下であることが好ましく、このような範囲の安息角とすることにより、溶射装置に供給する際の顆粒の流動性が十分に高いものとなり、均一な溶射膜が得やすい(請求項2、【0026】)。 エ 上記1キによれば、実施例及び比較例で得られた溶射材料について測定した評価が表3にまとめて記載されており、顆粒供給時の流動性が「非常に良」であるとされた、例えば、実施例5に注目すると、X線回折ピークの相対強度から、実施例5の顆粒は、LnF_(3)とLnOFを含むものであることが確認されるところ、Lnの種類はYであり、安息角は27°であり(表3)、上記1カによれば、平均粒径D_(50)は約50μmである(【0055】)。 ここで、実施例5の顆粒において、安息角が27°であることは、上記ウによれば、溶射装置に供給する際の顆粒の流動性が十分に高いものとなり、均一な溶射膜が得やすいものであるといえる。また、平均粒径D_(50)が約50μmであることは、上記イによれば、溶射時に溶射材料を効率的にフレーム中に供給することができ、また、溶射材料をフレーム中で完全に溶解させることによって溶射膜の平滑性を高めることができるものである。 オ 以上の検討によれば、甲1には、実施例5に注目すると、次の発明が(以下「甲1発明」という。)記載されていると認められる。 「希土類元素のオキシフッ化物(LnOF)及び希土類元素のフッ化物(LnF_(3))を含む顆粒からなる溶射材料であって、 上記溶射材料は、レーザ回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置を用いて測定された、小粒径側からの積算体積が50%となる粒径D_(50)である平均粒径が約50μmであり、 安息角が27°であり、 上記希土類元素がイットリウム(Y)である、溶射材料。」 1-2.甲第2号証 (1)甲第2号証に記載された事項 2ア 「背景技術 ・・・ [0004] 特許文献1に記載の溶射材料は、結合剤を使用して希土類元素のフッ化物をスプレードライヤーで造粒し、これを600℃以下の温度で焼成することで製造される。同文献の〔0014〕段落には、「600℃を超えると明らかに重量減少があり、酸化による分解が起こっていることが判る。ゆえに、結合剤を燃焼除去するには600℃以下の温度で燃焼する必要がある。」と記載されている。すなわち同文献には、酸化による分解が起こって希土類元素のオキシフッ化物が生成しないようにするために、600℃以下の温度で焼成する必要があることが記載されている。特許文献1に記載されたような希土類元素のフッ化物(LnF_( 3 ))からなる顆粒は、LnF_( 3) に劈開性があるため、壊れやすく、溶射装置への安定供給性に問題があった。また、LnF _(3 )からなる顆粒には、これを溶射して得られる膜が熱衝撃を受けると基材から剥離しやすいという問題点もあった。 ・・・ 発明が解決しようとする課題 [0007] したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る溶射材料を提供することにある。」 2イ 「課題を解決するための手段 [0008] 前記課題を解決すべく本発明者が鋭意研究したところ、粒径、アスペクト比及び圧縮度をそれぞれ特定範囲とした、希土類元素(Ln)のオキシフッ化物(LnOF)を含む顆粒を用いることで、驚くべきことに、溶射顆粒の溶射装置への安定供給性が格段に向上することを知見した。更に、この顆粒を用いると、得られた溶射膜は、熱衝撃を受けても基材から剥離しにくいことを知見した。 [0009] また、本発明者は、この顆粒におけるLnOFの含有率を高めると、熱衝撃により溶射膜が基材から剥離する問題が一層生じにくくなることを知見した。」 2ウ 「発明を実施するための形態 ・・・ [0012] 本発明の溶射材料は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による積算体積50容量%における積算体積粒径(以下、D50ともいう)が特定範囲であることを特徴の一つとする。具体的には、超音波の出力が300W、15分間の超音波分散処理後の前記の積算体積粒径(以下、D50dともいう)が特定範囲の値となり、かつ、D50dと、超音波分散処理前に測定した前記の積算体積粒径(以下、D50nともいう)との比「D50d/D50n」が特定範囲であることを、特徴の一つとしている。D50d及びD50nは、例えばレーザー回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置を用いて、後述する方法により測定することができる。 [0013] 本発明の溶射材料のD50nは、1μm?150μmである。本発明の溶射材料はD50nが1μm以上であるので、顆粒の流動性がよく、溶射装置へ安定的に供給できる。また、D50nが150μm以下であるので、溶射時に内部まで溶融しやすくなり、均一な溶射膜を形成しやすい。これらの観点からD50nは2μm?100μmであることが好ましく、5μm?80μmであることがより好ましく、20μm?60μmであることが更に好ましい。D50nを前記の範囲とするためには、後述する溶射材料の製造方法において、第2工程の粉砕条件や第4工程の造粒条件等を調整すればよい。 [0014] 本発明の溶射材料を構成する顆粒は、前記の超音波分散処理によって、一定程度以下に解砕されることが好ましい。この解砕の程度は、D50d/D50nによって表される。一般に、D50d/D50nが小さいと、顆粒の粒形が略球状に安定しやすく、顆粒の流動性が高くなる傾向にある。この観点から、本発明の溶射材料のD50dはD50nの1/3以下であり、1/4以下が好ましく、1/5以下がより好ましく、1/10以下が更に好ましい。また、本発明の溶射材料のD50dは10μm以下である。溶射材料はD50dが10μm以下であるので、溶射時に顆粒内部まで溶融しやすく、均一な膜を形成しやすい。この観点から、溶射材料のD50dは8μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましく、3μm以下が更に好ましい。D50dの下限に特に制限はないが、溶射材料の製造容易性等の観点から0.1μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましい。同様の観点から、D50dはD50nの1/200以上が好ましく、1/50以上が好ましい。D50dを前記の範囲とするためには、後述する溶射材料の製造方法において、第2工程の粉砕条件や第1工程及び第5工程の焼成温度等を調整すればよい。」 2エ 「[0015] 溶射材料は、平均アスペクト比が2.0以下である。ここで、アスペクト比は顆粒の「長軸長さ/短軸長さ」であり、個々の顆粒のアスペクト比の算術平均値を平均アスペクト比という。溶射材料の平均アスペクト比が2.0以下であることで、顆粒の流動性がよく溶射装置へ安定的に供給できる。この観点から、溶射材料の平均アスペクト比は1.8以下が好ましく、1.6以下がより好ましい。平均アスペクト比の下限値は理論的に1.0であり、流動性の観点からは1.0に近いほど好ましいが、製造容易性の観点からは1.02以上が好ましい。溶射材料の平均アスペクト比を前記の範囲とするためには、後述する溶射材料の製造方法において、第3工程のスラリー製造条件及び第4工程の造粒条件等を調整すればよい。」 2オ 「[0017] 本発明の溶射材料は圧縮度が30%以下である。圧縮度は、タップ法見掛け嵩密度TD(g/cc)と静置法見掛け嵩密度AD(g/cc)を用いて下記式で定義される。 圧縮度(%)=(TD-AD)÷TD×100 本発明の溶射材料は圧縮度が30%以下であるので、顆粒の流動性がよく溶射装置へ安定的に供給できる。この観点から圧縮度は25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。圧縮度は顆粒の流動性の観点からは小さいほどよいが、溶射材料の製造の容易性という観点から2%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上が更に好ましい。前記のTD及びADは例えば多機能型粉体物性測定器マルチテスターMT-1000型((株)セイシン企業製)を用いて測定することができる。圧縮度を前記の範囲とするためには、後述する溶射材料の製造方法において、第3工程のスラリー製造条件及び第4工程の造粒条件等を調整すればよい。」 2カ 「[0020] 本発明の溶射材料は、例えば、希土類元素(Ln)のオキシフッ化物(LnOF)を含む顆粒からなることを一つの特徴とする。顆粒は、LnOFのみから構成されていてもよく、あるいはLnOFに加えて他の物質を含んでいてもよい。溶射材料は、他の物質として、希土類元素のフッ化物(LnF _(3) )及び/又は希土類元素の酸化物(Ln _(2 )O _(3) )を含んでいてもよい。」 2キ 「[0027] 次に本発明の溶射材料の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、以下の第1工程?第5工程に大別される。以下、各工程について詳述する。 ・第1工程:希土類元素のフッ化物(LnF_( 3 ))を所定の焼成温度にて酸素含有雰囲気中で焼成して焼成物を得る。 ・第2工程:第1工程で得られた焼成物を粉砕する。 ・第3工程:第2工程で得られた粉砕された焼成物を溶媒と混合してスラリーを得る。 ・第4工程:第3工程で得られたスラリーをスプレードライヤーで造粒して造粒物を得る。 ・第5工程:第4工程で得られた造粒物を、第1工程の焼成温度よりも高い温度で焼成して希土類元素のオキシフッ化物(LnOF)を含む顆粒を得る。」 2ク 「実施例 [0043] 以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。 [0044] 〔実施例1〕 本実施例では溶射材料を、以下の(ア)?(エ)の工程にしたがい製造した。 [0045] (ア)第1工程 (i)フッ化イットリウムの湿式合成 99.9%酸化イットリウム300kgを、撹拌した純水400L中に投入してスラリーを得た。そこへ15mol/Lの硝酸水溶液を5L/分の速度で550L添加した後、30分間撹拌を続けた。その後、真空ろ過を行い、Y _(2) O _(3) 換算で270g/Lの溶解液1100Lを得た。 この溶解液を撹拌しながら、50%フッ化水素酸300Lを5L/分の速度で添加してフッ化イットリウムの沈殿を生成させた。沈殿の沈降、上澄液抜出、純水添加及びリパルプの各操作を2回実施した後、再度、沈降、上澄液抜出を行った。このようにして得られた泥状物を、ポリ四フッ化エチレン製のバットに入れて150℃で48時間乾燥させた。次いで、乾燥物を粉砕してフッ化イットリウムを得た。このフッ化イットリウムについてX線回折測定を行ったところ、YF_( 3) の回折ピークのみが観察され、オキシフッ化イットリウム(YOF)の回折ピークは観察されなかった。 [0046] (ii)フッ化イットリウムの焼成 (i)で得られたフッ化イットリウムをアルミナ製の容器に入れ、大気雰囲気下、電気炉中で焼成した。焼成温度及び焼成時間は表1に示すとおりとした。」 2ケ 「[0050] 〔実施例2ないし12及び比較例1〕 実施例1の第1工程における焼成温度及び/又は第5工程における焼成温度を、表1に示す条件で行う以外は実施例1と同様にして溶射材料を得た。 [0051] [表1] 」 2コ 「[0060] 〔評価〕 実施例及び比較例で得られた溶射材料について以下に述べる方法でX線回折測定を行い、X線回折図を得た。得られたX線回折図に基づき、LnF _(3) 、LnOF及びLn _(2) O _(3) の各最大ピークについてそれぞれの相対強度S2、S1及びS0を算出した。得られた相対強度を用い、S1/S2及びS0/S1を算出した。実施例18では、S1をYOFの最大ピーク+YbOFの最大ピークの合計強度とし、S2はYF _(3) の最大ピーク+YbF_( 3) の最大ピークの合計強度、S0はY_( 2 )O _(3 )の最大ピーク+Yb_( 2 )O _(3) の最大ピークの合計強度とした。 また、実施例及び比較例で得られた溶射材料について、以下の方法で平均アスペクト比を求めた。また、以下の方法でD50n(μm)及びD50d(μm)を求めた。また、上述の方法でTD(g/cc)及びAD(g/cc)を求めた。得られたTD及びADの値から上記式により圧縮度(%)を求めた。また、上述した方法で破壊強度(MPa)を求めた。更に、以下に述べる方法で、溶射時の顆粒を供給するときの流動性を評価した。また熱衝撃による溶射膜と基材の剥離を評価した。それらの結果を以下の表4に示す。 ・・・ [0065]〔溶射時に顆粒を供給するときの流動性〕 基材として100mm角のアルミニウム合金板を使用した。この基材の表面にプラズマ溶射を行った。溶射材料の供給装置として、プラズマテクニック製のTWIN-SYSTEM 10-Vを用いた。プラズマ溶射装置として、スルザーメテコ製のF4を用いた。撹拌回転数50%、キャリアガス流量2.5L/min、供給目盛10%、プラズマガスAr/H _(2) 、出力35kW、装置-基材間距離150mmの条件で、膜厚約100μmになるようにプラズマ溶射を行い、溶射膜を得た。 このプラズマ溶射において、溶射材料の供給装置に顆粒を供給したときの流動性を目視観察し、以下の基準で評価した。 ・“非常に良”:顆粒の流動に全く脈動がなく均一に流れている。 ・“良”:顆粒の流動に脈動が若干あるが実用上問題がない。 ・“不良”:顆粒の流動に脈動が大きく、場合によっては途中で掃除が必要である。」 2サ 「[0067] [表4] 」 2シ 「【特許請求の範囲】 [請求項1] 希土類元素のオキシフッ化物を含む顆粒を有する溶射材料であって、 前記溶射材料は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による積算体積50容量%における積算体積粒径が、超音波分散処理前で1μm?150μmであり、300W、15分間の超音波分散処理後で10μm以下であり、 超音波分散処理後の前記積算体積粒径が、超音波分散処理前の前記積算体積粒径の1/3以下であり、 平均アスペクト比が2.0以下であり、 圧縮度が30%以下である、溶射材料。 [請求項2] 顆粒が希土類元素のオキシフッ化物だけでなく、希土類元素のフッ化物も含有し、Cu-Kα線又はCu-Kα1線を用いたX線回折測定において、2θ=20度?40度の範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物の最大ピークの強度(S1)と、同範囲に観察される希土類元素のフッ化物の最大ピークの強度(S2)の比(S1/S2)が0.10以上である請求項1に記載の溶射材料。 [請求項3] Cu-Kα線又はCu-Kα1線を用いるX線回折測定において、2θ=20度?40度の範囲に観察される希土類元素の酸化物の最大ピークの強度(S0)と、同範囲に観察される希土類元素のオキシフッ化物の最大ピークの強度(S1)との比(S0/S1)が0.10以下である請求項1又は2に記載の溶射材料。 [請求項4] 希土類元素(Ln)が、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)から選択される少なくとも1種である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の溶射材料。 [請求項5] 希土類元素(Ln)がイットリウム(Y)である請求項4に記載の溶射材料。」 (2)甲第2号証に記載の発明 ア 上記2ア、2イによれば、本発明が解決しようとする課題は、溶射装置への安定供給性等に問題があり、熱衝撃を受けてると基材から剥離しやすいという従来の問題を解消することができる溶射材料を提供することであり([0004]、[0007])、上記課題は、溶射材料として、粒径、アスペクト比及び圧縮度をそれぞれ特定範囲とした、希土類元素(Ln)のオキシフッ化物(LnOF)を含む顆粒を用いることで解決される([0008])。 イ 上記2ウ、2シの請求項1によれば、本発明の顆粒は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による積算体積50容量%における積算体積粒径について、超音波分散処理前に測定したD50nを1μm?150μmとし、300W、15分間の超音波分散処理後に測定したD50dを10μm以下とすることにより、顆粒の流動性がよく、溶射装置へ安定的に供給でき、また、溶射時に顆粒内部まで溶融しやすくなるので均一な溶射膜を形成しやすい([0013]、[0014])。 ウ 上記2エによれば、本発明の溶射材料は、平均アスペクト比を2.0以下とすることにより、顆粒の流動性がよく溶射装置へ安定的に供給できる([0015])。 エ 上記2オによれば、本発明の溶射材料は、圧縮度を30%以下とすることにより、顆粒の流動性よく溶射装置へ安定的に供給できる。この観点から圧縮度は25%以下であることが好ましい。ここで、圧縮度は、タップ法見掛け嵩密度TD(g/cc)と静置法見掛け嵩密度AD(g/cc)を用いて下記式で定義されるものである([0017])。 圧縮度(%)=(TD-AD)÷TD×100 オ 上記2コ、2サによれば、実施例及び比較例で得られた溶射材料について測定した評価が表4にまとめて記載されており、顆粒供給時の流動性が「非常に良」であるとされた、例えば、実施例5に注目すると、X線回折相対強度から、実施例5の顆粒は、LnF_(3)とLnOFを含むものであることが確認されるところ、Lnの種類はYであり、レーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した積算体積粒径は、超音波分散処理前に測定したD50nが50μmであり、300W、15分間の超音波分散処理後に測定したD50dが1.4μmであり、平均アスペクト比は1.10であり、圧縮度が13%である(表4)。 ここで、実施例5の顆粒において、積算体積粒径D50nが50μmであること、平均アスペクト比が1.10であること、圧縮度が13%であることは、いずれも、上記イ、ウ、エによれば、顆粒の流動性がよく、溶射装置へ安定的に供給できるものであることを示している。 カ 以上の検討によれば、甲2には、実施例5に注目すると、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「希土類元素のオキシフッ化物(LnOF)及び希土類元素のフッ化物(LnF_(3))を含む顆粒からなる溶射材料であって、 上記溶射材料は、 レーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した積算体積粒径について、超音波分散処理前のD50nが50μmであり、300W、15分間の超音波分散処理後のD50dが1.4μmであり、 平均アスペクト比は1.10であり、 圧縮度が13%であり、 上記希土類元素がイットリウム(Y)である、溶射材料。」 1-3.甲第3号証に記載された事項 3ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 イットリウム酸化物原料粉末を造粒及び焼結して得られるイットリウム酸化物造粒-焼結粒子を含有する溶射用粉末であって、造粒及び焼結された後の前記原料粉末の平均一次粒子径は2?10μmであり、前記造粒-焼結粒子の圧壊強度は10?40MPaであることを特徴とする溶射用粉末。」 3イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、イットリウム酸化物(イットリア)造粒-焼結粒子を含有する溶射用粉末に関する。」 3ウ 「【背景技術】 ・・・ 【0005】 ところで、耐プラズマエロージョン性を要求される用途向けの溶射皮膜には気孔率が低く緻密であることが要求されている。しかしながら、イットリア造粒-焼結粒子からなる特許文献1及び2に記載の溶射用粉末から溶射皮膜を形成した場合には、溶射フレームによって溶融された飛行粒子中に気孔が残りやすいために、皮膜の気孔率が高くなる傾向がある。緻密な溶射皮膜を形成するためには、例えば平均粒子径が20μm以下の微細な溶射用粉末を使用する方法もあるが、この場合には溶射用粉末の流動性が悪く安定供給が困難になったり、スピッティングの発生が起こりやすくなる。なお、スピッティングは、過溶融した溶射用粉末が溶射装置のノズル内壁に付着堆積してできる堆積物が溶射皮膜に混入する現象をいい、溶射用粉末が細かな粒子を多く含むほどスピッティングは起こりやすい。スピッティングが発生すると、溶射皮膜の組織構造が不均一となるため、溶射皮膜の品質が著しく低下する。 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明の目的は、緻密なイットリア溶射皮膜を良好に形成可能な溶射用粉末を提供することにある。」 3エ 「【0023】 溶射用粉末中の全イットリア造粒-焼結粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のイットリア造粒-焼結粒子の積算体積の比率が20%よりも大きい場合、さらに言えば15%よりも大きい場合、もっと言えば10%よりも大きい場合には、溶射用粉末の流動性が低下する虞がある。この場合の流動性の低下は、粒子径が10μm以下の細かな粒子が溶射用粉末に多く含まれることに起因する。従って、流動性の低下を抑制するためには、粒子径10μm以下のイットリア造粒-焼結粒子の積算体積の比率は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、最も好ましくは10%以下である。【0024】 次に、本実施形態に係る溶射用粉末の製造方法について説明する。本実施形態に係る溶射用粉末は、造粒-焼結法によりイットリア原料粉末から製造される。まず、イットリア原料粉末を分散媒に混合することによりスラリーが調製される。次に、噴霧型造粒機を用いてスラリーから造粒粉末を作製する。こうして得られた造粒粉末を焼結し、さらに解砕及び分級することにより、イットリア造粒-焼結粒子から実質的になる溶射用粉末は製造される。造粒粉末を焼結するときの温度及び時間によって、得られる溶射用粉末中のイットリア造粒-焼結粒子の圧壊強度は調整可能である。 【0025】 本実施形態は、以下の利点を有する。 ・ 造粒及び焼結された後のイットリア原料粉末の平均一次粒子径が2μm以上に設定され、さらにイットリア造粒-焼結粒子の圧壊強度が10MPa以上に設定されているため、本実施形態に係る溶射用粉末によれば、スピッティングの発生が良好に抑制される。加えて、造粒及び焼結された後のイットリア原料粉末の平均一次粒子径が10μm以下に設定され、さらにイットリア造粒-焼結粒子の圧壊強度が40MPa以下に設定されているため、本実施形態に係る溶射用粉末によれば、緻密な溶射皮膜が得られる。従って、本実施形態に係る溶射用粉末によれば、緻密なイットリア溶射皮膜を良好に形成可能である。」 3オ 「【0028】 ・ 溶射用粉末を溶射する方法はプラズマ溶射以外の方法であってもよい。 次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。 実施例1?10及び比較例1?5においては、イットリア原料粉末を造粒及び焼結して得られるイットリア造粒-焼結粒子を溶射用粉末として用意した。比較例6においては、イットリア原料粉末を造粒して得られるイットリア造粒粒子を溶射用粉末として用意した。比較例7においては、イットリア原料粉末を溶融及び粉砕して得られるイットリア溶融-粉砕粒子を溶射用粉末として用意した。実施例1?10及び比較例1?7に係る各溶射用粉末の詳細は表1に示すとおりである。 【0029】 表1の“平均一次粒子径”欄には、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて測定した造粒及び焼結された後のイットリア原料粉末の定方向径(Feret径)の平均を示す。ただし、比較例6については、造粒された後のイットリア原料粉末の定方向径の平均を示す。定方向径の測定は、各溶射用粉末中から任意に選択される10個のイットリア造粒-焼結粒子(比較例6の場合はイットリア造粒粒子)のそれぞれに含まれる50個のイットリア原料粉末粒子について行った。定方向径は、粒子をはさんで定方向に延びる二本の平行線の間の距離である。参考までに電界放射型走査電子顕微鏡を用いて撮影した実施例4の溶射用粉末の写真を図1に示す。」 1-4.甲第4号証に記載された事項 4ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 溶射用粉末の90%粒子径D_(90)が15μm以下であり、かつ、溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%以下であることを特徴とする溶射用粉末。」 4イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は溶射用粉末に関する。」 4ウ 「【背景技術】 ・・・ 【0005】 例えば特許文献1には、90%粒子径D_(90)が20μm以下である溶射用粉末から溶射皮膜を形成する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の溶射用粉末は、溶射用粉末中の粒子径1μm以下の微粒子の割合が何ら規定されていないため、粒子径1μm以下の微粒子を多く含む虞がある。溶射用粉末に粒子径1μm以下の微粒子が多く含まれると、溶射用粉末の流動性が低下するのに加えて、溶射用粉末の凝集が起こりやすくなる。凝集を起こした溶射用粉末が溶射皮膜に混入すると、溶射皮膜の均一性や緻密性が低下したり、溶射皮膜に貫通気孔が生じたり、溶射皮膜の表面粗さが増大したりすることがある。」 4エ 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明の目的は、緻密で表面粗さの低い溶射皮膜を良好に形成可能な溶射用粉末を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0007】 上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、溶射用粉末の90%粒子径D_(90)が15μm以下であり、かつ、溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%以下であることを特徴とする溶射用粉末を提供する。」 4オ 「【0013】 溶射用粉末の90%粒子径D_(90)が15μmよりも大きい場合(すなわち溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が15μm以下の粒子の積算体積の比率が90%よりも小さい場合)には、粒子径が15μmよりも大きい粒子が溶射用粉末に多く含まれるため、緻密で表面粗さの小さい溶射皮膜を溶射用粉末から形成することは困難である。従って、溶射用粉末の90%粒子径D_(90)が15μm以下であること(すなわち粒子径が15μm以下の粒子の積算体積の比率が90%以上であること)は必須である。ただし、溶射用粉末の90%粒子径D_(90)がたとえ15μm以下であっても13μmよりも大きい場合(すなわち粒子径が13μm以下の粒子の積算体積の比率が90%よりも小さい場合)には、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の表面粗さ及び緻密さはそれほど改善されない。従って、溶射用粉末の90%粒子径D_(90)は好ましくは13μm以下(好ましくは粒子径が13μm以下の粒子の積算体積の比率が90%以上)である。 ・・・ 【0015】 溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%よりも大きい場合(すなわち溶射用粉末の2%粒子径D_(2)が1μmよりも小さい場合)には、粒子径が1μm以下の粒子が溶射用粉末に多く含まれるために溶射用粉末の流動性が大きく低下し、その結果、溶射時の溶射用粉末供給装置から溶射機への溶射用粉末の供給が不安定になる。また、溶射用粉末の凝集が起こり、その結果、溶射皮膜の均一性や緻密性が低下したり、溶射皮膜に貫通気孔が生じたり、溶射皮膜の表面粗さが増大したりする。従って、粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%以下であること(すなわち溶射用粉末の2%粒子径D_(2)が1μm以上であること)は必須である。ただし、粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率がたとえ2%以下であっても1.5%よりも大きい場合(すなわち溶射用粉末の1.5%粒子径D_(1.5)が1μmよりも小さい場合)には、溶射時の溶射用粉末の供給安定性はそれほど改善されない。従って、粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率は好ましくは1.5%以下(すなわち溶射用粉末の1.5%粒子径D_(1.5)は1μm以下)である。」 4カ 「【0031】 実施例1?7及び比較例1?4においては、炭化タングステンを主成分として、コバルトが12重量%含まれる造粒-焼結サーメット粉末を溶射用粉末として用意した。実施例8においては、炭化タングステンとコバルトから構成される溶融-粉砕サーメット粉末を溶射用粉末として用意した。実施例9及び比較例5においては、炭化タングステンを主成分として、コバルトが10重量%とクロムが4重量%含まれる造粒-焼結サーメット粉末を溶射用粉末として用意した。実施例1?9及び比較例1?5に係る各溶射用粉末の詳細は表1に示すとおりである。 【0032】 表1の“粒子径が1μm以下の粒子の比率”欄には、各溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率を示す。この比率は、(株)堀場製作所製のレーザー回析/散乱式粒度測定機“LA-300”を用いて測定した。」 4キ 「【0040】 【表1】 」 1-5.甲第5号証に記載された事項 5ア「【技術分野】 【0001】 本発明は、イットリウムを含む溶射材料及びその製造方法に関する。」 5イ 「【0004】 特許文献1に記載の溶射材料は、結合剤を使用して希土類元素のフッ化物をスプレードライヤーで造粒し、これを600℃以下の温度で焼成することで製造される。同文献の〔0014〕段落には、「600℃を超えると明らかに重量減少があり、酸化による分解が起こっていることが判る。ゆえに、結合剤を燃焼除去するには600℃以下の温度で燃焼する必要がある。」と記載されている。すなわち同文献には、酸化による分解が起こって希土類元素のオキシフッ化物が生成しないようにするために、600℃以下の温度で焼成する必要があることが記載されている。同文献に記載の溶射材料は、造粒していない溶射材料に比べて粒子の流れ性は改善されているが、その流れ性は未だ十分に満足すべきものとは言えなかった。また、同文献に記載の溶射材料を用いて作製した溶射膜は、従来のセラミックス系(例えばアルミナ)溶射膜に比べてF系プラズマに対する耐食性が高いものの、Cl系プラズマに対する耐食性が低いという問題点もあった。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る溶射材料を提供することにある。」 5ウ 「【0064】 【表3】 【0065】 表3における実施例1ないし11の対比から明らかなとおり、第1工程におけるフッ化イットリウムの焼成温度が高くなるほどオキシフッ化イットリウムの生成量が増加することが判る。また、実施例10と実施例11との対比から明らかなとおり、第1工程における焼成温度を1125℃に設定した場合、12時間の焼成ではフッ化イットリウムは消失していないが、24時間の焼成を行うとフッ化イットリウムが消失することが判る。 また、表3に示す結果から明らかなとおり、各実施例の溶射材料は比較例の溶射材料よりも破壊強度が高いことが判る。また、各実施例の溶射材料は比較例の溶射材料よりも流動性が高く、各実施例の溶射材料を用いて溶射を行うと、表面の凹凸の程度が低い溶射膜が得られることが判る。更に、各実施例の溶射材料を用いると、比較例の溶射材料を用いた場合よりもパーティクルの発生の程度が低くなることが判る。すなわち、実施例の溶射材料を用いて得られた溶射膜は、F系プラズマだけでなく、Cl系プラズマに対しても優れた耐食性を示すことが判る。」 1-6.甲第6号証に記載された事項 6ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、セラミックス、金属等の溶射に有用な希土類元素含有化合物からなる溶射用球状粒子および溶射部材に関する。」 6イ 「【0002】 【従来の技術】従来から、緻密な溶射膜をセラミックスや金属等の表面に形成する手法として、プラズマ溶射や爆発溶射などが広く用いられている。これらの溶射法において、溶射用粒子として金属や金属酸化物等が使用されている。 【0003】このような溶射被膜を形成するための溶射用粒子として、(1)原料を電気炉で溶融し、冷却凝固後、粉砕機で微粉化し、その後分級することにより粒度調整を行って得られる溶融粉砕粉、(2)原料を焼結後、粉砕機で微粉化し、その後分級することにより粒度調整を行って得られる焼結粉砕粉、(3)原料粉末を有機バインダーに加えてスラリー化し、噴霧乾燥型造粒機を用いて造粒後、乾燥し、場合によっては分級することにより粒度調整を行って得られる造粒粉、等が挙げられる。ここで、上記(1)?(3)の粉体製造の原料は、コストや、目的とする溶射被膜の性状により適宜選択され、開発されている。 ・・・ 【0006】ところで、上記溶射用粒子は搬送チューブ等の細い流路を介して溶射ガンまで供給されることから、安定的かつ定量的に供給を行えるか否かは、溶射用粒子の粉体物性中、流動性にかなり影響されることとなる。 【0007】しかしながら、上記(1)、(2)の方法で得られる溶融粉砕粉や、焼結粉砕粉は、形状が不定形であるため、溶射した膜の凹凸が大きくなるという欠点があった。しかも、溶融粉砕粉は、構成元素以外の不純物含有量が高いという欠点が、焼結粉砕粉は、粉砕工程において不純物が混入しやすいという欠点があった。 【0008】これら各粉砕粉の問題点を解決するものとして、上記(3)の方法で得られる造粒粉、すなわち、球形または球に近い形状であるため流動性が良いという特徴を有する造粒粉、が開発されてきている。しかも、この造粒粉は、使用する原料中の不純物を低減することで、比較的純粋な造粒粉を容易に製造できるという特徴をも有している。」 6ウ 「【0040】本発明の希土類元素含有化合物の溶射用粒子は、球形を有するものであり、具体的には、アスペクト比が2以下の粒子である。なお、アスペクト比とは、粒子の長径と短径との比、すなわち、長径/短径で表され、形状が球に近いか否かを表す指標となるものである。上記アスペクト比が2を超えると、形状が不定形、針状、鱗片状等の球形からかけ離れたものとなり、流動性が悪化することとなる。この場合、アスペクト比の下限値は、特に限定されないが、1により近いものが好ましい。なお、本発明における球形とは、アスペクト比が2以下の粒子の形状を示したものであり、球形または球形に近い形状をも含む概念である。 【0041】本発明の第2の希土類元素含有化合物の溶射用球状粒子は、以上の各物性値を有するのに加え、粒度分布における90vol%の粒径D90が100μm以下であり、かつ、粒度分布における50vol%の粒径D50とフィッシャー径との比が5以下であることが好ましい。ここで、90vol%の粒径D90が100μmを超えると、プラズマ炎中で完全に溶融せず、未溶融着粉を生じ、表面に凹凸が発生する虞がある。」 2.乙号証の記載 2-1.乙第1号証に記載された事項 7ア「 」 2-2.乙第2号証に記載された事項 8ア 「 」 2-3.乙第3号証に記載された事項 9ア 「【0023】 本実施形態に係る溶射用粉末、すなわちイットリウム酸化物の造粒-焼結粉末を製造する際には、まず、イットリウム酸化物粉末と適当な分散媒とを混合することによりスラリーが調製される。スラリーには適当なバインダを添加してもよい。調製されたスラリーを噴霧乾燥造粒機を用いて乾燥することにより造粒粉末が作製される。得られた造粒粉末を焼結し、さらに解砕及び分級をすることによりイットリウム酸化物の造粒-焼結粉末は得られる。 【0024】 造粒粉末の焼結は、大気中、真空中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよいが、大気中で行うことが好ましい。また造粒粉末の焼結は、電気炉又はガス炉を用いて行ってもよい。焼結温度は、好ましくは1200?1700℃、より好ましくは1300?1700℃である。焼結時における最高温度保持時間は、好ましくは30分?5時間、より好ましくは2?4時間である。」 2-4.乙第4号証に記載された事項 10ア 「【0011】 造粒-焼結法では、原料粉末から造粒粉末をまず作製し、その造粒粉末を焼結してさらに解砕及び分級することにより造粒-焼結粒子を作製する。原料粉末は、イットリア粉末であってもよいし、イットリアとイットリウムの混合粉末やイットリウム粉末のような造粒及び焼結の過程で最終的にイットリアに変換しうる物質の粉末であってもよい。原料粉末の平均粒子径は0.01?8μm程度が好ましい。原料粉末からの造粒粉末の作製は、適当な分散媒に原料粉末を混合し、必要に応じてバインダを添加してなるスラリーを噴霧造粒することにより行なってもよいし、原料粉末から直接に造粒粉末を作製する転動造粒又は圧縮造粒により行なってもよい。造粒粉末の焼結は、大気中、真空中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行なってもよいが、原料粉末中のイットリウムのイットリアへの変換のためには大気中で行なうことが好ましい。造粒粉末の焼結には電気炉又はガス炉を用いることができる。焼結温度は、好ましくは1200?1700℃、より好ましくは1300?1700℃である。焼結時における最高温度保持時間は、好ましくは30分?10時間、より好ましくは1?5時間である。」 2-5.乙第5号証に記載された事項 11ア 「【0011】 以下、本発明の一実施形態を説明する。 本実施形態の溶射用粉末は、原子番号39,59?70のいずれかの希土類元素の酸化物からなる粒子から実質的になる。原子番号39,59?70の希土類元素とは、具体的には、イットリウム(Y、原子番号39)、プラセオジム(Pr、原子番号59)、ネオジム(Nd、原子番号60)、プロメチウム(Pm、原子番号61)、サマリウム(Sm、原子番号62)、ユロピウム(Eu、原子番号63)、ガドリニウム(Gd、原子番号64)、テルビウム(Tb、原子番号65)、ジスプロシウム(Dy、原子番号66)、ホルミウム(Ho、原子番号67)、エルビウム(Er、原子番号68)、ツリウム(Tm、原子番号69)、及びイッテルビウム(Yb、原子番号70)である。」 11イ 「【0020】 原料粉末からの造粒粉末の作製は、適当な分散媒に原料粉末を混合し、必要に応じてバインダを添加してなるスラリーを噴霧造粒することにより行なってもよいし、原料粉末から直接に造粒粉末を作製する転動造粒又は圧縮造粒により行なってもよい。造粒粉末の焼結は、大気中、真空中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行なってもよいが、原料粉末中の希土類水酸化物又は希土類単体を希土類酸化物に変換させるためには大気中で行なうことが好ましい。造粒粉末の焼結には電気炉又はガス炉を用いることができる。焼結温度は、高い圧壊強度を有する焼結粒子を得るためには、好ましくは1200?1700℃、より好ましくは1300?1700℃であり、さらに好ましくは1400?1700℃であり、最も好ましくは1500?1700℃である。焼結時における最高温度保持時間は、高い圧壊強度を有する焼結粒子を得るためには、好ましくは30分?10時間、より好ましくは1?5時間である。」 2-6.乙第7号証に記載された事項 12ア 「 」 2-7.乙第8号証に記載された事項 13ア 「 」 2-8.乙第9号証に記載された事項 14ア 「 」(06JF04-4の左欄3?4行。) 3.取消理由1についての判断 (1)本件発明1と甲1発明の対比 ア 甲1発明の「希土類元素のオキシフッ化物(LnOF)及び希土類元素のフッ化物(LnF_(3))を含む顆粒からなる溶射材料」は、本件発明1の「希土類元素のフッ化物と希土類元素のオキシフッ化物の少なくとも一方を含む顆粒を有する溶射材料」に相当する。 イ 甲1発明の「溶射材料は、レーザ回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置を用いて測定された、小粒径側からの積算体積が50%となる粒径D_(50)である平均粒径が約50μmであ」ることと、本件発明1の「溶射材料は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側からの積算体積が50%になる粒径(D50)が20μm?100μmであ」ることは、「粒径D_(50)」と「粒径(D50)」が同じ技術事項を意味することを勘案すれば、「「溶射材料は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側からの積算体積が50%になる粒径(D50)が50μmであ」ることで重複する。 ウ そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。 <一致点> 「希土類元素のフッ化物と希土類元素のオキシフッ化物の少なくとも一方を含む顆粒を有する溶射材料であって、 前記溶射材料は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側からの積算体積が50%になる粒径(D50)が50μmである、溶射材料。」 <相違点1> 「レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側から粒径10μm以上になる最初のチャンネルまでの積算体積(CV_(0-10))」が、本件発明1の「溶射材料」では「0%」であるのに対して、甲1発明の「溶射材料」では、どのような値であるか不明である点。 (2)相違点1についての判断 (2-1)甲3の記載に基づく判断 ア 相違点1について検討するにあたり、まず、甲3の記載事項を確認する。甲3には、イットリウム酸化物(イットリア)造粒-焼結粒子を含有する溶射用粉末の発明について記載されており、その解決しようとする課題は、溶射用粉末の流動性が悪く安定供給が困難になり、スピッティングの発生によって溶射皮膜の品質が低下するという問題に対して、緻密なイットリア溶射皮膜を良好に形成可能な溶射用粉末を提供することである(【0005】、【0006】)。 イ そして、上記課題に対して、スピッティングの発生を良好に抑制するための手段は、イットリウム酸化物造粒-焼結粒子を含有する溶射用粉末において、造粒及び焼結された後の前記原料粉末の平均一次粒子径を2μm以上とし、圧壊強度を10MPa以上とすることであり、また、緻密な溶射皮膜を得ることができる手段は、造粒及び焼結された後の前記原料粉末の平均一次粒子径を10μm以下とし、圧壊強度を40MPa以下とすることである(【0025】)。 ウ さらに、上記課題に関連して、溶射用粉末の流動性の低下が、粒子径が10μm以下の細かな粒子が溶射用粉末に多く含まれることに起因していることに基づいて、上記流動性の低下を抑制するために、溶射用粉末中の全イットリア造粒-焼結粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のイットリア造粒-焼結粒子の積算体積の比率を、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、最も好ましくは10%以下とすることが記載されている(【0023】)。 エ 上記ア?ウの検討を総合すれば、甲3には、溶射用粉末の流動性及び溶射皮膜の品質を良好なものとするとの課題を解決することのできる溶射用粉末として、「イットリウム酸化物原料粉末を造粒及び焼結して得られるイットリウム酸化物造粒-焼結粒子を含有する溶射用粉末であって、造粒及び焼結された後の前記原料粉末の平均一次粒子径は2?10μmであり、前記造粒-焼結粒子の圧壊強度は10?40MPaであることを特徴とする溶射用粉末」(上記3アの請求項1)が記載されており、さらに、当該溶射用粉末において、流動性の低下を抑制するために、「溶射用粉末中の全イットリア造粒-焼結粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のイットリア造粒-焼結粒子の積算体積の比率を10%以下とすること」(上記ウ)が記載されている。 オ なお、上記エにおいて、下線部の「造粒及び焼結された後の前記原料粉末の平均一次粒子径」とは、一次粒子であるイットリア原料粉末を造粒・焼結して得られた、二次粒子である溶射用粉末において、当該二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径のことであり、他方、下線部の「粒子径10μm以下」における粒子径とは、「イットリア造粒-焼結粒子」が焼結後の粒子であることから、上記二次粒子の粒子径のことであると解される。なお、前者については、上記3オの段落【0029】に「平均一次粒子径」の測定について「定方向径の測定は、各溶射用粉末中から任意に選択される10個のイットリア造粒-焼結粒子(比較例6の場合はイットリア造粒粒子)のそれぞれに含まれる50個のイットリア原料粉末粒子について行った」と説明されていることから明らかである。 カ そこで、甲3に記載された上記エの事項に基づいて、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが容易になし得ることができるかについて検討する。 キ 甲3には、上記エで確認したように、流動性の低下を抑制するために、「溶射用粉末中の全イットリア造粒-焼結粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のイットリア造粒-焼結粒子の積算体積の比率を10%以下とすること」が記載されており、その技術的背景として、上記ウには、溶射用粉末の流動性の低下は、粒子径が10μm以下の細かな粒子が溶射用粉末に多く含まれることに起因しており、当該粒子径10μm以下の細かな粒子が、20%以下、15%以下、10%以下と少ないほど好ましいことが記載されている。 そして、粒子径が10μm以下の細かな粒子が多く含まれていることが流動性低下の原因とされており、粒子径が10μm以下の細かな粒子が少なければ少ないほど流動性低下の原因が無くなるので好ましいと考えられることから、「粒子径10μm以下のイットリア造粒-焼結粒子の積算体積の比率」(以下、単に「10μm以下の比率」という。)について最も好ましいとされる「10%以下」の範囲には「0%」も含まれ得ると考えられる。 ク しかしながら、甲3には、「10μm以下の比率」を「0%」することについての明示的な記載はなく、「10μm以下の比率」を「0%」とした溶射用粉末の実施例や、「10μm以下の比率」を「0%」とするための溶射用粉末の製造方法についても記載されていないので、甲3記載の発明において「10μm以下の比率」を「0%」とすることが可能であるか不明である上に、下記ケ?サで検討する乙1の実験結果も参照すると、甲3には、「10μm以下の比率」を「0%」することについての開示はされていないといえる。以下、乙1について検討する。 ケ 特許権者は、意見書とともに乙1の「実験成績証明書」を提出し、この証明書において、試験1?4の各溶射材料について、「レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側から粒径10μm以上になる最初のチャンネルまでの積算体積(CV_(0-10))」(以下「CV_(0-10)」という。上記「10μm以下の比率」に相当する。)と、「平均粒径D_(50)」等を測定し、流動性についても調べている。 コ 乙1の実験成績証明書によれば、次の試験1?試験4の溶射粉末を製造し、これら溶射粉末の各種特性を測定したことが報告されている。 試験1: 本件明細書の実施例5をトレースした、試験1のYOF(オキシフッ化イットリウム)溶射用粉末は、平均一次粒径D50=1.3μmのYF(フッ化イットリウム)原料粉末を用いて造粒し、600℃、12時間の条件で焼成することによって製造されており、「CV_(0-10)」が0%で、「平均粒径D_(50)」が43μmであった。(第1頁の試験1と図1参照。) 試験2: 甲3に記載された製造方法(上記3エの段落【0024】)と、「造粒及び焼結された後の前記原料粉末の平均一次粒子径は2?10μmであ」るとの記載(上記3アの請求項1)に基づいて製造された、試験2のY_(2)O_(3)(酸化イットリウム)溶射用粉末は、平均一次粒径D50=3.6μmのY_(2)O_(3)原料粉末を用いて造粒し、1400℃、2時間の条件で焼成することで製造されており、「CV_(0-10)」が26%で、「平均粒径D_(50)」が28μmであった。また、「造粒及び焼結された後の原料粉末の平均一次粒子径」は3μmであった。(第1?2頁の試験2及び3と図2参照。) 試験3: 上記試験2の製法と、1600℃、2時間の焼成条件の点のみで相違する製法で製造された、試験3のY_(2)O_(3)(酸化イットリウム)溶射用粉末は、「CV_(0-10)」が19%で、「平均粒径D_(50)」が24μmであった。また、「造粒及び焼結された後の原料粉末の平均一次粒子径」は3μmであった。(第1?2頁の試験2及び3と図3参照。) 試験4: 上記試験3の製法と、Y_(2)O_(3)原料粉末の平均一次粒径D50が1.2μmである点のみで相違する製法で製造された、試験4のY_(2)O_(3)(酸化イットリウム)溶射用粉末は、「CV_(0-10)」が0%で、「平均粒径D_(50)」が33μmであった。また、「造粒及び焼結された後の原料粉末の平均一次粒子径」は0.4μmであった。(第2頁の試験4と図4参照。) なお、試験2、試験3において、採用された焼成温度である1400℃、1600℃なる条件は、乙2(上記8ア)、乙3(上記9ア)、乙4(上記10ア)、乙5(上記11イ)に記載されているように、酸化イットリウムの焼成において通常採用されている焼成温度の範囲内のものと認められる。 これら試験1?4の実験結果について、当審でまとめた表を以下に示す。 サ 上記コによれば、試験2と試験3の溶射用粉末は、いずれも甲3に記載された製法に基づき、通常の焼成条件を採用して製造されたものであるところ、「CV_(0-10)」はそれぞれ26%、19%であり、試験3によって「20%以下」を達成し得ることが確認されたが、「0%」を達成し得ることは示されていない。 また、試験4の溶射用粉末では、試験3の製法とは、原料粉末の平均一次粒径D50を1.2μmと小さくする点でのみ異なる製法とすることによって、「CV_(0-10)」を「0%」とすることを達成し得ることが示されているが、「造粒及び焼結された後の原料粉末の平均一次粒子径」は0.4μmとなっており、上記イで検討した、スピッティングの発生を良好に抑制するための「2μm以上」とするとの条件を満たしておらず、スピッティングが発生して溶射皮膜の品質が低下するものであるといえるから、試験4の溶射用粉末は甲3に開示された技術事項であるとは認められない。 シ したがって、甲3には、溶射用粉末の流動性の低下を抑制するために、「溶射用粉末中の全イットリア造粒-焼結粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のイットリア造粒-焼結粒子の積算体積の比率を10%以下とすること」が記載されているけれども、上記比率を「0%」にすることが開示されているということはできない。 ス そして、甲3に記載された、「溶射用粉末中の全」「造粒-焼結粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下の」「造粒-焼結粒子の積算体積の比率」は、本件発明1の「レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側から粒径10μm以上になる最初のチャンネルまでの積算体積(CV_(0-10))」に相当することを勘案すると、甲3には、「溶射材料」において、「レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側から粒径10μm以上になる最初のチャンネルまでの積算体積(CV_(0-10))」を「0%」とすることが記載されているとはいえないから、甲1発明において、甲3の記載に基づいて、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。 セ なお、上記サの検討において、仮に、スピッティング発生の有無を考慮する必要がないのであれば、乙1の試験4で実証されたとおり、「CV_(0-10)」を「0%」とすることを達成し得ることが示されたので、甲1発明において、「CV_(0-10)」を「0%」とする動機付けはあるといえる。 ソ しかしながら、乙1の第5頁の表1を参照すると、構成成分がYOFである試験1の相対供給量の比率(運転開始「1?2分の供給量」に対する「19?20分の供給量」の割合(%))が96%であるのに対して、構成成分がY_(2)O_(3)である試験4の相対供給量の比率が65%であるから、甲3の開示内容に基づいて、甲1発明において「CV_(0-10)」を「0%」にできたとしても、Y_(2)O_(3)の相対供給量の比率65%はYOFの相対供給量の比率96%に対して31%も小さいことから、「希土類元素のオキシフッ化物(LnOF)及び希土類元素のフッ化物(LnF_(3))を含む顆粒からなる溶射材料」の発明である甲1発明において、甲3の記載に基づいて「CV_(0-10)」を「0%」とすることによって構成された本件発明1の溶射材料が、試験1で示されるような優れた供給性能が得られるとの効果については、当業者であっても予測できない顕著なものであるということができる。 タ したがって、上記ス及びソの検討によれば、甲1発明において、甲3の記載に基づいて、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。 (2-2)甲4の記載に基づく判断 ア 甲4は、溶射用粉末について記載されており(【0001】)、その解決しようとする課題は、溶射用粉末に粒子径1μm以下の微粒子が多く含まれると、溶射用粉末の流動性が低下し、その結果、溶射時の溶射用粉末供給装置から溶射機への溶射用粉末の供給が不安定になるのに加えて、溶射用粉末の凝集が起こりやすくなり、その結果、溶射皮膜の均一性や緻密性が低下し、溶射皮膜の表面粗さが増大するという問題があることに対して(【0005】)、緻密で表面粗さの低い溶射皮膜を良好に形成可能な溶射用粉末を提供することである(【0006】)。 イ そして、上記課題に対して、溶射用粉末の90%粒子径D_(90)(以下、「90%粒子径D_(90)」という。)が15μmよりも大きい場合には、粒子径が15μmよりも大きい粒子が溶射用粉末に多く含まれるため、緻密で表面粗さの小さい溶射皮膜を溶射用粉末から形成することは困難となるので、「90%粒子径D_(90)」が15μm以下であることが必須であることが記載されている(【0013】)。 ウ さらに、上記課題に対して、溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率(以下、「粒子径が1μm以下の粒子の比率」という。)が2%よりも大きい場合には、溶射用粉末の流動性が大きく低下し、溶射用粉末の提供が不安定になり、また、溶射用粉末の凝集が起こるので、溶射皮膜の均一性や緻密性が低下したり、溶射皮膜の表面粗さが増大したりするから、上記「粒子径が1μm以下の粒子の比率」が2%以下であることが必須であることが記載されている(【0015】)。 エ 上記4カ、4キによれば、表1には、「顆粒を有する溶射材料」すなわち造粒して焼結された溶射材料として、「炭化タングステンを主成分としコバルトが12重量%含まれる造粒-焼結サーメット粉末(WC/12Co)」からなる溶射用粉末と、「炭化タングステンを主成分としコバルトが10重量%とクロムが4重量%含まれる造粒-焼結サーメット粉末(WC/10Co/4Cr)」からなる溶射用粉末が記載されているところ、「粒子径が1μm以下の粒子の比率」が2%以下であり、「90%粒子径D_(90)」が15μm以下である実施例は、実施例1?7、9であり、これらはいずれも、研磨前後の溶射皮膜の表面粗さ、緻密さともに、◎(優)もしくは○(良)であることが確認されている。 オ 以上の検討によれば、甲4には、炭化タングステンを主成分としコバルトが12重量%含まれる造粒-焼結サーメット粉末(WC/12Co)や炭化タングステンを主成分としコバルトが10重量%とクロムが4重量%含まれる造粒-焼結サーメット粉末(WC/10Co/4Cr)のような溶射用粉末において、90%粒子径D_(90)が15μm以下であり、かつ、溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%以下であれば、緻密で表面粗さの低い溶射皮膜を良好に形成可能であることが示されている。 カ ここで、甲4に記載のように、溶射用粉末が、90%粒子径D_(90)が15μm以下のものであるなら、50%粒子径D_(50)も当然15μm以下となるが、これに対して、甲1発明においては、「小粒径側からの積算体積が50%となる粒径D_(50)である平均粒径が約50μm」であって、50%粒子径D_(50)が15μm以下となっているものではないから、甲1発明と甲4は、そもそも、50%粒子径D_(50)について異なる前提に立つものであるので、甲1発明において、甲4に記載された「溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%以下」とすることを適用することが可能であるとはいえない。 キ そこで、仮に、甲1発明において、甲4に記載された「溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%以下」とすることを適用することが可能であるとしても、「溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が10μm以下の粒子の積算体積の比率が0%」とすることが記載されているわけではないので、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の特定事項である、「レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側から粒径10μm以上になる最初のチャンネルまでの積算体積(CV_(0-10))が0%」とすることが容易であるとはいえない。 ク また、仮に、甲1発明において、甲4に記載された「溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%以下」とすることを適用することが可能であるとしても、甲4において、緻密で表面粗さの低い溶射皮膜を良好に形成可能であることが確認された、造粒して焼結された溶射材料は、「炭化タングステンを主成分としコバルトが12重量%含まれる造粒-焼結サーメット粉末(WC/12Co)」と「炭化タングステンを主成分としコバルトが10重量%とクロムが4重量%含まれる造粒-焼結サーメット粉末(WC/10Co/4Cr)」だけであり、いずれも炭化タングステンを主成分とするものである。そして、炭化タングステンの密度は15.63g/cm^(3)(乙8の13アの密度の欄)であるのに対して、本件発明1の「希土類元素のフッ化物と希土類元素のオキシフッ化物」の密度は、YF_(3)が4.01g/cm^(3)(乙7の12アの密度の欄)、YOFが5.10g/cm^(3)(乙9の14ア)であるから、炭化タングステンを主成分とする上記「造粒-焼結サーメット粉末」は本件発明1の溶射材料に比べて格段に重く、全く異なる流動特性を示すものと推定される。 したがって、甲4に、タングステンを主成分とする「造粒-焼結サーメット粉末」を用いると、緻密で表面粗さの低い溶射皮膜を良好に形成可能であることが示されているとしても、甲1発明において、甲4に記載された「溶射用粉末中の全粒子の積算体積に対する粒子径が1μm以下の粒子の積算体積の比率が2%以下」とすることを適用した場合に、タングステンを主成分とする「造粒-焼結サーメット粉末」同様の良好な流動性を示すかは不明であるから、本件発明1が優れた流動特性を示すという効果については、当業者であっても予測できない顕著なものであるということができる。 ケ したがって、甲1発明において、甲4の記載に基づいて、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。 (2-3)相違点1についての判断のまとめ 甲3、甲4のいずれにも、また、甲2、甲6においても、相違点1に係る本件発明1の特定事項である、「溶射材料」において「レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側から粒径10μm以上になる最初のチャンネルまでの積算体積(CV_(0-10))が0%」とすることが記載されているとはいえないから、たとえ甲2、甲3、甲4、甲6を参照したとしても、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の特定事項を備えたものとすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。 (3)本件発明2?6について 本件発明2?6は、本件発明1を引用することによって、本件発明1の特定事項を全て備える溶射材料の発明であるところ、上記(2)で検討した理由と同様の理由によって、甲1発明及び甲2、甲3、甲4、甲6の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)小括 本件発明1?6は、甲第1号証に記載の発明と、甲第2号証?甲第4号証、甲第6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、取消理由1には理由がなく、申立理由1には理由がない 4.取消理由2についての判断 (1)本件発明1と甲2発明の対比 ア 甲2発明の「希土類元素のオキシフッ化物(LnOF)及び希土類元素のフッ化物(LnF_(3))を含む顆粒からなる溶射材料」は、本件発明1の「希土類元素のフッ化物と希土類元素のオキシフッ化物の少なくとも一方を含む顆粒を有する溶射材料」に相当する。 イ 本件発明1の「溶射材料は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側からの積算体積が50%になる粒径(D50)」の測定方法に関して、本件明細書の段落【0016】には「なお、ここでいう積算粒径(CV_(0-10))及び後述するD50は、溶射材料を前処理として超音波処理に付していない溶射材料について測定したものである。」との記載があることから、甲2発明の「溶射材料は、超音波分散処理前にレーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した積算体積粒径D50nが50μmであ」ることと、本件発明1の「溶射材料は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側からの積算体積が50%になる粒径(D50)が20μm?100μmであ」ることは、「溶射材料は、超音波分散処理前にレーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した積算体積粒径D50nが50μmであ」ることで重複する。 ウ そうすると、本件発明1と甲2発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。 <一致点> 「希土類元素のフッ化物と希土類元素のオキシフッ化物の少なくとも一方を含む顆粒を有する溶射材料であって、 前記溶射材料は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側からの積算体積が50%になる粒径(D50)が50μmである、溶射材料。」 <相違点2> 「レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側から粒径10μm以上になる最初のチャンネルまでの積算体積(CV_(0-10))」が、本件発明1の「溶射材料」では「0%」であるのに対して、甲2発明の「溶射材料」では、どのような値であるか不明である点。 (2)相違点2についての判断 ア 相違点2は相違点1と同じであるから、上記3.(1)(2)で検討した理由と同様の理由によって、甲1、甲3、甲4のいずれにも、相違点2に係る本件発明1の特定事項である、「溶射材料」において「レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側から粒径10μm以上になる最初のチャンネルまでの積算体積(CV_(0-10))が0%」とすることが記載されているとはいえないから、たとえ甲1、甲3、甲4を参照したとしても、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の特定事項を備えたものとすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。 (3)本件発明2?6について 本件発明2?6は、本件発明1を引用することによって、本件発明1の特定事項を全て備える溶射材料の発明であるところ、上記(2)で検討した理由と同様の理由によって、甲2発明及び甲1、甲3、甲4の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)小括 本件発明1?6は、甲第2号証に記載の発明と、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、取消理由2には理由がなく、申立理由2にも理由がない 第6 まとめ 以上のとおり、請求項1?6に係る本件特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由のいずれによっても、取り消すことはできない。 また、他に請求項1?6に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-09-24 |
出願番号 | 特願2014-162912(P2014-162912) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C23C)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 菅原 愛 |
特許庁審判長 |
中澤 登 |
特許庁審判官 |
土屋 知久 池渕 立 |
登録日 | 2018-08-24 |
登録番号 | 特許第6388153号(P6388153) |
権利者 | 日本イットリウム株式会社 |
発明の名称 | 溶射材料 |
代理人 | 前田 秀一 |
代理人 | 岩本 昭久 |
代理人 | 特許業務法人翔和国際特許事務所 |
代理人 | 松嶋 善之 |