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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12G
管理番号 1356003
異議申立番号 異議2019-700577  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-23 
確定日 2019-10-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6458184号発明「ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6458184号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6458184号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成30年5月29日に出願したものであって、平成30年12月28日に特許権の設定登録がされ、平成31年1月23日にその特許公報が発行され、その後、その特許に対して令和元年7月23日に、特許異議申立人 中川 賢治により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?9に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1?9に係る発明をそれぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明9」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)。

「 【請求項1】
アルコール度数が8.5%以上であり、エキス分が0.8?4.5%であり、コハク酸の含有量が40?800ppmであり、麦芽比率が10%以上であり、
蒸留アルコールを含み、発酵由来のアルコールに基づくアルコール度数が1%以上であり、
前記エキス分をX%、前記コハク酸の含有量をYppmとした場合に、以下の全ての関係式:
(1)Y≧-450X+725、
(2)Y≧250X-625、
(3)Y≦70X+650、
(4)Y≦-500X+2900、
を満たすビールテイスト飲料。
【請求項2】
エキス分が1.8?3.5%である請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
コハク酸の含有量が200?600ppmである請求項1又は請求項2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
アルコール度数を8.5%以上、エキス分を0.8?4.5%、コハク酸の含有量を40?800ppm、麦芽比率を10%以上とするとともに、前記エキス分をX%、前記コハク酸の含有量をYppmとした場合に、以下の全ての関係式:
(1)Y≧-450X+725、
(2)Y≧250X-625、
(3)Y≦70X+650、
(4)Y≦-500X+2900、
を満たすようにする工程を含むとともに、
蒸留アルコールを含ませる工程と、発酵由来のアルコールに基づくアルコール度数を1%以上とする工程と、を含むビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項5】
エキス分を1.8?3.5%とする請求項4に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項6】
コハク酸の含有量を200?600ppmとする請求項4又は請求項5に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項7】
アルコール度数が8.5%以上のビールテイスト飲料を飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭を低減する香味向上方法であって、
前記ビールテイスト飲料のエキス分を0.8?4.5%、コハク酸の含有量を40?800ppmとするとともに、
前記エキス分をX%、前記コハク酸の含有量をYppmとした場合に、以下の全ての関係式:
(1)Y≧-450X+725、
(2)Y≧250X-625、
(3)Y≦70X+650、
(4)Y≦-500X+2900、
を満たすようにするビールテイスト飲料の香味向上方法。
【請求項8】
前記ビールテイスト飲料の麦芽比率を10%以上とする請求項7に記載のビールテイスト飲料の香味向上方法。
【請求項9】
前記ビールテイスト飲料に蒸留アルコールを含ませるとともに、発酵由来のアルコールに基づくアルコール度数を1%以上とする請求項7又は請求項8に記載のビールテイスト飲料の香味向上方法。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人 中川 賢治(以下、「申立人」という。)は、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第6号証(以下、「甲1」?「甲6」という。)を提出し、以下の取消理由を主張している。

1.取消理由1(進歩性)
本件特許発明1、2、4及び5は、本件特許の出願前に日本国内において頒布された以下の甲1に記載された発明及び甲2?甲4-2に記載の技術的事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

本件特許発明3及び6は、本件特許の出願前に日本国内において頒布された以下の甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載の技術的事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

2.取消理由2(サポート要件)
本件特許発明1?9に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

3.取消理由3(実施可能要件)
本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

4.証拠方法
(1)甲1:国際公開第2005/056746号
(2)甲2:上田隆蔵ら、「ビール中の有機酸に関する研究(第1報)市販ビールの有機酸組成」、醗酵工学雑誌、日本醗酵工学會 1963年1月15日、第41巻 第1号、第10?14ページ、写し
(3)甲3:「醸造物の成分」、財団法人日本醸造協会、平成11年12月10日、第236?241ページ、写し
(4)甲4-1:「「サッポロ LEVEL9贅沢ストロング」新発売」、サッポロビール株式会社のホームページ、[online]、[公開日:2018年4月16日、出力日:2019年6月26日]、インターネット <https://www.sapporobeer.jp/news_release/0000009039/>、原本
(5)甲4-2:ミンテルGNPDの記録番号5866913、「Level 9 Luxuriously Strong Beer」、[online]、[公開日:2018年8月、出力日:2019年6月26日]、インターネット <http://www.gnpd.com>、原本
(6)甲5:佐藤信ら、「麦芽飲料について」、日本醸造協會雜誌、1980年、第75巻、第4号、第344?346ページ、写し
(7)甲6:特開2015-107099号公報

第4 証拠方法に記載された発明
1.甲1
甲1には、以下の事項が記載されている。

(甲1a)「請求の範囲
[1] 麦芽を原料の一部とした酒類で、麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留したものを原料の一部とした発泡性を有する麦芽発酵飲料。
[2] A成分として、麦を原料の一部に使用して発酵させて得たアルコール含有物;および、
B成分として、少なくとも麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留して得たアルコール含有の蒸留液;
からなり、A成分とB成分とを混合してなることを特徴とする麦芽発酵飲料。
・・・
[23] A成分として、麦を原料の一部に使用して発酵させて得たアルコール含有物;および、
B成分として、少なくとも麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留して得たアルコール含有の蒸留液;
からなり、A成分とB成分とを混合してなることを特徴とする麦芽発酵飲料の製造方法」

(甲1b)「[0005]しかしながら、ビールや発泡酒の香味について、飲み応えを失わせることがなく、かつ、キリッとした味わいがある麦芽発酵飲料とするには、これらの手段では十分なものといえない。また、このような特異的な香味を有する麦芽発酵飲料とする技術についての検討は、必ずしも充分なものとはいえなかった。
・・・
[0007] したがって本発明は、上記した現状に鑑み、麦芽発酵飲料において、原料中の麦芽の使用比率を高率とすることにより飲み応えを確保しつつ、かつ、喉越しの爽快感、すなわち、キリッとした味わいを有する麦芽発酵飲料を提供することを課題とする。
[0008] かかる課題を解決するために、本発明者らは種々検討した結果、原料中の麦芽の使用比率が高い麦芽発酵飲料において、アルコール含有物を蒸留して得た蒸留液、とくに、麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留して得た蒸留液を添加することにより、麦芽発酵飲料の飲み応えを損ねることなく喉越しのキレが付与できることを見出し、本発明を完成させるに至った。」

(甲1c)「[0013] 本発明により、原料中の麦芽の使用比率が高くビールテイストとして飲み応えや喉越しの爽快感を失わせることがなく、かつ、キリッとした味わいがあり、最近の消費者の多様化した好みに応じた、麦芽発酵飲料が提供される。
特に、これまでのいわゆる発泡酒は、キリッとした切れ味のある後味はあるものの、ビールのような飲み応えが十分ではなかった。しかしながら、本発明により、ビールテイストとして、麦芽由来の飲み応えが確保され、そのうえで飲用後のキレとを合わせ持つ麦芽発酵飲料を提供されことより、消費者の嗜好を満足させることができるものである。」

(甲1d)「[0015] この場合において、本発明が提供する麦芽発酵飲料のアルコール分は、特に限定されないが、1?15%(v/v)であることが望ましい。特に、ビールや発泡酒といった麦芽発酵飲料として消費者に好んで飲用されるアルコール濃度、すなわち、3?8%(v/v)の範囲であることが望ましい。」

(甲1e)「[0016] かかる本発明が提供する麦芽発酵飲料は、上記したように、基本的には、
A成分として、麦を原料の一部に使用して発酵させて得たアルコール含有物;および、
B成分として、少なくとも麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留して得たアルコール含有の蒸留液;
からなり、A成分とB成分とを混合してなる麦芽発酵飲料である。」

(甲1f)「[0017] 本発明でいうA成分としての「麦を原料の一部に使用して発酵させて得たアルコール含有物」とは、下記にいう麦を原料の一部に使用して発酵させたアルコール含有物のことである。具体的には、ビール、発泡酒、雑酒、低アルコール麦芽発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の麦芽発酵飲料)等のビールテイスト飲料をあげることができる。または、それらを水で希釈したものを用いても良い。」

(甲1g)「[0022] 本発明が提供する麦芽発酵飲料は、原料中の麦芽比率を高率とすることにより、飲み応えと喉越しの爽快感を確保することから、A成分としてのアルコール含有物については、麦芽比率を20%以上、特に麦芽比率を50%以上とするのが好適である。
A成分としてのアルコール含有物は、ビールや発泡酒を製造する方法と同様の方法に従って製造すればよい。この場合のA成分であるアルコール含有物中のアルコール分は、特に限定されるものではないが、最終製品としてのアルコール含有物におけるアルコール濃度の設計値を勘案して、調整すればよい。例えば、最終製品である麦芽発酵飲料を、ビールテイストとしての香味を有する飲料とする場合には、 0.5?7%程度のアルコール分とすればよい。」

(甲1h)「[0025] そのようなB成分であるアルコール含有蒸留物としては、具体的には、焼酎、ウィスキー、ウォッカ、スピリッツなど、麦などの穀物を原料の一部としたスピリッツ、原料用アルコールなどの中で、少なくとも原料の一部に麦を用いたものが挙げられる。そのなかでも、最終製品である麦芽発酵飲料に飲用後の後味としてのキレを付与する点から、焼酎やスピリッツであることが好ましい。」

(甲1i)「[0028] B成分であるアルコール含有蒸留物の製造において、蒸留方法や蒸留回数といった製造条件は特に限定されるものではない。
アルコール含有蒸留物として焼酎を用いる場合、甲類焼酎(アルコール含有物を連続式蒸留機で蒸留したもので、アルコール分が36%未満の焼酎)、または、乙類焼酎(アルコール含有物を単式蒸留機で蒸留したもので、アルコール分が45%以下の焼酎)のいずれであっても使用することができる。」

(甲1j)「[0031] B成分であるアルコール含有蒸留物のアルコール分は、特に限定されない。ただし、最終製品である麦芽発酵飲料のアルコール濃度の設計値や、A成分に対する当該アルコール含有蒸留物の使用比率を考慮して、そのアルコール濃度を適宜設定することができる。なお、アルコール含有蒸留物として焼酎を用いる場合には、本発明が提供する最終製品である麦芽発酵飲料に、飲用後の後味としての「キレ」の付与や、焼酎由来の香味が及ぼす影響、さらにはビールテイスト飲料としての飲み応え等を考慮して、アルコール含有蒸留物のアルコール分は10?90%、特に25?45%と することが好ましい。」

(甲1k)「[0032] 本発明が提供する麦芽発酵飲料は、上記したA成分にB成分を添加、混合することにより製造される。その場合の添加、混合方法は特に限定されるものではない。また、A成分とB成分の混合割合は、麦芽発酵飲料が求める香味の設計に従って、あるいはA成分とB成分の香味特徴を考慮して、適宜設定することができる。
[0033] 本発明が提供する麦芽発酵飲料にあっては、ビールテイスト飲料としての香味を求める場合には、麦芽由来の飲み応えと爽快感、さらには飲用後の「キレ」を併せ持つのが良く、そのためには、B成分由来の香味を強くし過ぎることがないようにし、かつ、飲用後の「キレ」を感じる量とする必要がある、そのためには、A成分由来のアルコール分:B成分由来のアルコール分の率が、99.5?0.5?80:20の範囲にあるのが好ましく、特に、97.5:2.5?90:10の範囲であるのが好ましい。」

(甲1l)「[0035] 以下に、実施例および比較例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。
実施例1:
A成分として、麦芽比率100%、アルコール分5%のビールを、定法にしたがって、調製した。
B成分として、麦と水を原料とし、発酵に使用する麹として麦麹を用い、蒸留して得たアルコール分44.0%の麦焼酎を、定法にしたがって、調製した。
下記表1に記載するA由来のアルコール分とB由来のアルコール分の比率で上記A成分およびB成分を混合し、総アルコール分を5.0%となる麦芽発酵飲料1?5(発明品1?5)を調製した。
なお、混合にあたっては、目的とする麦芽発酵飲料の総アルコール分が 5.0%となるよう、A成分のビールは適宜水により希釈した。
・・・
[0040] 実施例2:
・・・
A成分由来のアルコール分と B成分由来のアルコール分の率が95:5となるようにA成分とB成分を混合した。目的とする麦芽発酵飲料の総アルコール分が5.0%になるように、A成分のビールを適宜水で希釈した。
・・・
[0044] 実施例3:
・・・
A成分由来のアルコール分と、B成分由来のアルコール分の率が95:5となるようにA成分とB成分を混合し、目的とする麦芽発酵飲料の総アルコール分が5.0%になるように、A成分の麦芽発酵飲料を適宜水で希釈した。
・・・
[0047] 実施例4:A成分の原料の麦芽比率と、B成分の種類の組合せを検討した。
・・・
A成分由来のアルコール分とB成分由来のアルコール分の率が95:5となるようにA成分とB成分を混合した。目的とする麦芽発酵飲料の総アルコール分が5.0%になるように、A成分の麦芽発酵飲料を適宜水で希釈した。
・・・
[0052] 実施例5:
A成分として麦芽比率が60%の麦芽飲料を製造した。
麦芽60%および糖液50%の組成の原料を用い、定法どおりに麦汁を製造した。糖液は、市販の糖液を用いた。糖化した麦芽に糖液を加え、エキス分12%の麦汁を得た。これに市販のビール酵母 (Weihenstephan-34)を添加して定法により発酵させ、アルコール分が5.5%のA成分を得た。
B成分として、小麦スピリッツを用いた。小麦スピリッツは、小麦を原料とし、アルコール含有物を連続蒸留機で蒸留したものを用いた(アルコール分44%)。
A成分 1500Lに B成分9.7Lを添加した。A成分の製造工程中、酵母除去のための濾過工程の直前で培養槽中にB成分を添加混合した。得られた発酵飲料を無菌的に濾過し缶に充填して、本発明の麦芽飲料を製造した。
・・・
[0053] 実施例6:
A成分として麦芽比率が40%麦芽飲料を製造した。
麦芽40%、麦10%および糖液50%の組成の原料を用い、定法どおりに麦汁を製造した。糖液は、市販の糖液を用いた。麦芽と麦を糖化し、それに糖液を加え、エキス分12%の麦汁を得た。これに市販のビール酵母(Weihenstephan-34)を添加して定法により発酵させ、アルコール分が5.5%のA成分を得た。
B成分として、小麦スピリッツを用いた。小麦スピリッツは、小麦を原料とし、アルコール含有物を連続蒸留機で蒸留したものを用いた (アルコール分44%)。A成分1500LにB成分9.7Lを添加した。B成分は、A成分の製造工程中、酵母除去のための濾過工程の直前で培養層中に添加、混合した。得られた発酵飲料を無菌的に濾過し缶に充填して、本発明の麦芽飲料を製造した。」

2.甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。

(甲2a)「

」(第12ページ、表1)

(甲2b)「

」(第12ページ、表2)

3.甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。

(甲3a)「ビールの有機酸組成は原料の使用比率,酵母菌株,発酵条件によって変動し,その数はおよそ110種に及ぶとされ,国武の報告に詳しい。分析値の例を第1表に示した。また,量的にはクエン酸,酢酸,乳酸,ピルビン酸,リンゴ酸,コハク酸が多く,ビールの種類別にこれら主要な有機酸の分析例を第2表に示した。」(第236ページ左欄)

(甲3b)「ビールに含まれる有機酸は,麦芽由来及び発酵中の酵母の代謝により生成したものである。ここでは炭水化物の酸化過程で生成する有機酸を中心に述べる。麦芽中の主要な有機酸は,クエン酸,リンゴ酸,コハク酸,乳酸であり,製麦過程においてこれらの組成が変化する。(中略)また,コハク酸は浸麦以降増加し,(中略)また,発酵中の酵母の代謝により,ピルビン酸,コハク酸,リンゴ酸,酢酸が生成し,これらの量は酵母菌株や麦汁組成,発酵条件により変化する。」(第236ページ左欄)

(甲3c)「

」(第237ページ、第2表)

4.甲4-1
甲4-1には、以下の事項が記載されている。

(甲4-1a)「サッポロビール(株)は、新ジャンル「サッポロ LEVEL9贅沢ストロング」を2018年6月5日に新発売します。」(本文第5行?第6行)

(甲4-1b)「昨今、新ジャンル市場が縮小するなかで、RTD市場、とりわけストロングRTDが伸長しており、アルコールが高い飲みごたえのある商品に人気が高まっています。特に30?40代男性中心に「酔えること」へのニーズが増加する一方、ビールらしい(注2)「うまさ」や素材感のなさに少し物足りない気持ちを感じている層もあるようです(注3)。
このようなニーズにこたえるべく開発したこの商品は、新ジャンル史上初(注1)のアルコール9%を実現しました。ガツンとくる確かな飲みごたえと、贅沢に使用した素材の良さを引き出したビールらしい(注2)「うまさ」を追求した新しいストロングビールテイストです。」(本文第7?13行)

(甲4-1c)「「1.商品名 サッポロ LEVEL9贅沢ストロング
2.パッケージ 350ml 缶・500ml 缶
3.品目 リキュール(発泡性)(1)(当審注:「丸で囲まれた1」を「(1)」と記載した。)
4.発売日 ・地域 2018 年 6 月 5 日 ・全国
5.原材料 発泡酒(麦芽・ホップ・大麦・糖類)・スピリッツ(大麦)
6.アルコール分 9%」(本文中段)

5.甲4-2
甲4-2には、サッポロビール(株)の製品である「SAPPORO LEVEL9 贅沢ストロング」と表示された缶に包装されたアルコール飲料のアルコール含有量が9.00重量%であること、成分として低麦芽ビール(モルト、ホップ、大麦、その他の成分)と大麦スピリッツを含有することが記載されている(第1?4ページ参照)。

6.甲5
甲5には、以下の事項が記載されている。

(甲5a)「

」(第345ページ、第5表)

(甲5b)「4. 官能検査
麦芽飲料にエチルアルコールを添加してみると,甘味の増加,酸味の減少,濃さの増加が感じられたので,3段階のアルコール濃度の麦芽飲料を調整し,酸味,甘味および味の濃さについて,順位づけを行った結果を第5表(A,B,C)に示す。
・・・
2) 酸味について
Ex.BIERWではアルコール分が低いほど酸味が強く感じられるという高度の一致性がみられた。他の2点の麦芽飲料では,一致性の係数Wは有意に至らなかったが,アルコール分と酸味の間に同様の傾向がみられた。この酸味の変化は,エチルアルコールの甘味によるマスキング効果であると考えられる。」(第345ページ左欄下から3行?第346ページ左欄2行)

7.甲6
甲6には、以下の事項が記載されている。

(甲6a)「【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の麦芽発酵飲料は麦芽の使用比率が高いため、必然的にプリン体の含有率が高くなってしまう。プリン体の含有量を低くするためには、麦芽の使用比率を低くすることが考えられる。しかし、そのようにすると、ビールテイスト飲料(麦芽発酵飲料)の味に厚みがなくなるため、飲用アルコール(特許文献1でいうところのB成分に係る蒸留液)を添加すると、飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が突出して感じられるようになるという問題が顕在化する。
【0006】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、麦の使用比率を低くした場合であっても、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難いビールテイスト飲料のアルコール感改善方法を提供することを課題とする。」

(甲6b)「【0022】
(酸味料)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、酸味料を含むことにより、麦の使用比率を低くした場合であっても、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることができる。このような酸味料としては、例えば、乳酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸及び酒石酸などが挙げられる。酸味料は、これらのうちの少なくとも1つを用いることができる。なお、酸味料は、麦の使用比率を低くした場合であっても、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることができればこれらに限定されるものではなく、どのようなものも用いることができる。例えば、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸ナトリウム、その他の飲料品に添加可能な酸味料であればどのようなものも用いることができる。
【0023】
酸味料の含有量は、例えば、クエン酸換算で250?1500ppm(本明細書における「ppm」は「mg/L」と表すこともできる。以下同じ。)とするのが好ましく、300?1500ppmとするのがより好ましく、400?1000ppmとするのがさらに好ましい。
酸味料の含有量がクエン酸換算で250ppm未満であると、酸味料の含有量が少なすぎるため、麦の使用比率を低くした場合に、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることができないおそれがある。
他方、酸味料の含有量が1500ppmを超えると、酸味料の含有量が多すぎるため、酸味が強くなりすぎてしまう。そのため、ビールテイスト飲料として適さないものとなってしまうおそれがある。」

第5 当審の判断
1.取消理由1(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
ア.甲1の上記(甲1a)の請求の範囲2の記載からみて、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「A成分として、麦を原料の一部に使用して発酵させて得たアルコール含有物、および、B成分として、少なくとも麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留して得たアルコール含有の蒸留液、からなり、A成分とB成分とを混合してなることを特徴とする麦芽発酵飲料。」


(2)本件特許発明1について
ア.甲1発明との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「麦芽発酵飲料」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」と「飲料」である点で共通する。また甲1発明の「少なくとも麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留して得たアルコール含有の蒸留液」は、本件特許発明1の「蒸留アルコール」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、「蒸留アルコールを含む飲料」である点において一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1は、「ビールテイスト飲料」であるのに対して、甲1発明は「麦芽発酵飲料」であり、アルコール度数について、本件特許発明1では、「8.5%以上」であるのに対して、甲1発明では、アルコール度数について明確に特定されていない点

<相違点2>
エキス分について、本件特許発明1では、「0.8?4.5%」であるのに対して、甲1発明では、エキス分について明確に特定されていない点

<相違点3>
コハク酸の含有量について、本件特許発明1では、「40?800ppm」であるのに対して、甲1発明ではコハク酸の含有量について明確に特定されていない点

<相違点4>
麦芽比率について、本件特許発明1では、「10%以上」であるのに対して、甲1発明では、麦芽比率について明確に特定されていない点

<相違点5>
飲料の発酵由来のアルコールに基づくアルコール度数について、本件特許発明1では、「1%以上」であるのに対して、甲1発明では、明確に特定されていない点

<相違点6>
エキス分の割合X%と、コハク酸の含有量Yppmが、本件特許発明1では、式(1)?(4)の全てを満たすとされているのに対して、甲1発明では、これらの式が特定されていない点


(イ)判断
上記相違点について検討する。

a.相違点1について
上記(甲1d)には、「本発明が提供する麦芽発酵飲料のアルコール分は、特に限定されないが、1?15%(v/v)であることが望ましい。」との広範な記載があるものの、「特に、ビールや発泡酒といった麦芽発酵飲料として消費者に好んで飲用されるアルコール濃度、すなわち、3?8%(v/v)の範囲であることが望ましい。」とも記載されているから、甲1発明の麦芽発酵飲料がビール様のものである場合、アルコール濃度は3?8%であるといえ、本件特許発明1の「アルコール度数が8.5%以上」の範囲とは異なる範囲である。また、甲1発明は、ビールや発泡酒等の麦芽発酵飲料において、原料中の麦芽の使用比率を高率とすることにより、飲み応えを確保しつつ、かつ、喉越しの爽快感、すなわち、キリッとした味わいを有する麦芽発酵飲料を提供することを課題とするものであり(甲1b)、その具体的な解決手段は、A成分とB成分とを混合することであるところ(甲1e)、A成分については、「ビール、発泡酒、雑酒、低アルコール麦芽発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の麦芽発酵飲料)等のビールテイスト飲料をあげることができる。または、それらを水で希釈したものを用いても良い。」こと(甲1f)、及び「A成分であるアルコール含有物中のアルコール分は、特に限定されるものではないが、最終製品としてのアルコール含有物におけるアルコール濃度の設計値を勘案して、調整すればよい。例えば、最終製品である麦芽発酵飲料を、ビールテイストとしての香味を有する飲料とする場合には、 0.5?7%程度のアルコール分とすればよい。」こと(甲1g)が記載されており、B成分については、「B成分であるアルコール含有蒸留物のアルコール分は、特に限定されない。ただし、最終製品である麦芽発酵飲料のアルコール濃度の設計値や、A成分に対する当該アルコール含有蒸留物の使用比率を考慮して、そのアルコール濃度を適宜設定することができる。なお、アルコール含有蒸留物として焼酎を用いる場合には、本発明が提供する最終製品である麦芽発酵飲料に、飲用後の後味としての「キレ」の付与や、焼酎由来の香味が及ぼす影響、さらにはビールテイスト飲料としての飲み応え等を考慮して、アルコール含有蒸留物のアルコール分は10?90%、特に25?45%とすることが好ましい。」こと(甲1j)、及び「A成分由来のアルコール分:B成分由来のアルコール分の率が、99.5?0.5?80:20の範囲にあるのが好ましく、特に、97.5:2.5?90:10の範囲であるのが好ましい。」こと(甲1k)が記載されているから、これらの記載からも、甲1発明における好ましいアルコール分は上記「3?8%(v/v)」であると理解することができる。さらに、甲1に記載された実施例は、総アルコール分が、5.0%又は5.5%のものだけであって(甲1l)、「8.5%以上」のものは記載されていない。すなわち、甲1にアルコール濃度が高いビール様の麦芽発酵飲料を製造することが記載ないし示唆されているとは認められない。
加えて、本件特許出願時における技術常識を参酌しても、アルコール分が5%程度の場合と「8.5%以上の」の場合とで、上記甲1発明の課題である「飲み応え」及び「喉越し」が変わらないという技術常識が存在したとも認められない。そうすると、相違点1を当業者が容易になし得るとはいえない。

b.相違点6について
本件特許発明1は、本件特許明細書の段落【0005】?【0007】、【0023】、【0024】の記載からすると、エキス分の割合X%とコハク酸の含有量Yppmとの間に式(1)?(4)の関係がすべて成立する範囲のビールテイスト飲料が、アルコール度数の高いビールテイスト飲料特有の嫌なアルコール臭を低減することができることを見出したものであるが、甲1?甲4-2のいずれにも、当該関係を満たすことによりアルコール度数の高いビールテイスト飲料特有の課題が解決できることはもとより、上記「嫌なアルコール臭を低減する」という課題すら記載されていないし、ましてや上記式(1)?(4)で表される特定の成分の含有量が、「嫌なアルコール臭」と関係を有することの記載も示唆もない。また、それらの事項が本件特許出願日前において周知の技術的事項であったともいえない。
さらに、効果についてみるに、本件特許発明1は、エキス分の割合X%とコハク酸の含有量Yppmとの間に式(1)?(4)の関係が成り立つ範囲においては、その範囲外のものと比較して、飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭が低減されることが、段落【0056】?【0060】(【表1】?【表5】)及び【図1】によって裏付けられている一方で、甲1?甲4-2には、そのような効果を想起させる記載は見出せない。

相違点6につき申立人は、甲2に記載された17種のビールを用いて得られたアルコール度数9%の発酵麦芽飲料うち2つの場合について、エキス分の割合X%とコハク酸の含有量Yppmの値が式(1)?(4)の関係を全て満たすため、本件特許の出願時点において市販されているビールを用いれば、式(1)?(4)の関係を全て満たすアルコール度数9%の発酵麦芽飲料は容易に製造できると主張する。
しかしながら、上記(イ)aにおいて述べたとおり、甲1にはアルコール度数9%のビール様飲料を製造することは示されておらず、また上述のとおり甲1?甲4-2には、該式(1)?(4)の関係を全て満たすことによりアルコール度数の高いビールテイスト飲料特有の課題が解決できることはもとより、嫌なアルコール臭を低減するという課題自体や式(1)?(4)と嫌なアルコール臭との関係すらも記載されていないから、これらに基づいて、所定の関係式を満たすようにエキス分とコハク酸を含有するアルコール度数の高いビールテイスト飲料を得ようとする動機付けがあったとはいえないから、申立人の上記主張は採用できない。
よって、相違点6については、甲1発明及び甲2?甲4-2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得たことであるとは認められない。

(ウ)小括
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1発明及び甲2?甲4-2に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。


(3)本件特許発明2、4、5について
本件特許発明2は、本件特許発明1について、エキス分の割合をさらに限定したものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1と同一のビールテイスト飲料の製造方法の発明であり、本件特許発明5は、本件特許発明4についてエキス分の割合をさらに限定したものである。
したがって、これらの発明全てについて、本件特許発明1について上記で検討した点と同じことが当てはまるといえるから、本件特許発明2、4及び5は、当業者であっても、甲1発明及び甲2?甲4-2に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。


(4)本件特許発明3、6について
本件特許発明3は、本件特許発明1あるいは2について、コハク酸の含有量をさらに限定したものであり、本件特許発明6は、本件特許発明4あるいは5について、コハク酸の含有量を更に限定したものである。
したがって、これらの発明全てについて、本件特許発明1について上記で検討した点と同じことが当てはまるといえるから、本件特許発明3及び6は、当業者であっても、甲1発明及び甲2?甲4-2に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。
さらに、甲5及び甲6にも式(1)?(4)についてはもとより、当該関係を満たすことによりアルコール度数の高いビールテイスト飲料特有の課題が解決できることも記載されていない。
よって、本件特許発明3及び6は、当業者であっても、甲1発明及び甲2?甲6に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。


2.取消理由2(サポート要件)について
(1)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。

(2)本件特許発明の課題
本件特許発明の解決しようとする課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0005】?【0007】の記載から見て、アルコール度数の高いビールテイスト飲料において、飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭が低減したビールテイスト飲料、そのようなビールテイスト飲料を製造できる方法、及びビールテイスト飲料のアルコール臭を低減し香味を向上させることができる方法を提供することであると認められ、本件特許発明は、当該課題を解決するために、エキス分の割合及びコハク酸の含有量について、式(1)?(4)の関係を全て満たすことを特定していると認められる。

(3)本件特許明細書等の記載
本件特許明細書及び図面には、エキス分の割合及びコハク酸の含有量の式(1)?(4)に関して以下の事項が記載されている。

「【0023】
(エキス分とコハク酸の含有量とに基づく関係式)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、エキス分をX%、コハク酸の含有量をYppmとした場合に、(1)Y≧-450X+725、(2)Y≧250X-625、(3)Y≦70X+650、及び、(4)Y≦-500X+2900を満たす。 図1は、エキス分とコハク酸の含有量とが「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」に与える影響を示す図であり、図1の「◎」と「〇」は「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」が弱くなっている(低減されている)場合の結果を示しており、「×」は十分には低減されていない場合の結果を示している。なお、図1の式1等が示す直線は、関係式1の等号付き不等号を等号に代えた直線である。
【0024】
この図1の結果から確認できるように、関係式(1)、(2)、(3)、(4)を満たすことによって、ビールテイスト飲料の「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」を低減できることがわかる。
なお、これらの関係式は、ビールテイスト飲料の「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」がエキス分とコハク酸の含有量とから大きな影響を受けていることに着目して作成したものであり、各関係式の定数は、多くの実験結果から導き出したものである。
【0025】
別実施形態として、以下のような関係式を用いることもできる。
例えば、XY座標上において後記するサンプル3-1とサンプル4-2との「X:エキス分(%)」及び「Y:コハク酸の含有量(ppm)」の値を通る直線を算出し、当該直線に基づいた関係式(直線の等号を等号付き不等号に代えた関係式であって、後記するサンプル3-3が範囲内となる関係式)を用いてもよい。
同様に、後記するサンプル3-1とサンプル1-2との各値を通る直線に基づく関係式を用いてもよい。また、後記するサンプル1-2とサンプル2-2との各値を通る直線に基づく関係式を用いてもよい。また、後記するサンプル2-2とサンプル3-4との各値を通る直線に基づく関係式を用いてもよい。また、後記するサンプル3-4とサンプル4-3との各値を通る直線に基づく関係式を用いてもよい。」

「【実施例】
【0048】
[実施例1]
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
・・・
【0054】
(飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭:評価基準)
飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭の評価については、「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭が非常に弱い」場合を5点、「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭が非常に強い」場合を1点として5段階で評価した。そして、飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭の評価については、点数が高いほど、好ましいと判断できる。
なお、飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭については、サンプル1-3(1点)を基準として評価した。
【0055】
表1?5に、各サンプルの各評価結果を示す。そして、表における「発酵アルコール」は、ベース液に基づくアルコール(最終製品におけるアルコール度数)であり、「添加アルコール」は、ベース液に対して添加した蒸留アルコール(最終製品におけるアルコール度数)である。また、「エキス分」、「コハク酸」は、最終製品の指標や含有量である。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
(結果の検討)
サンプル1-1?1-3、2-1?2-2、3-1?3-5、4-1?4-4、5-1?5-2の「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」に関する結果を図1に示した。
なお、図1中の「◎」は、「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」が4点以上であり、「〇」は4点未満3点以上であり、「×」は3点未満である。
この図1の結果から明らかなように、エキス分とコハク酸の含有量とに基づく所定の関係式を満たすサンプルは、飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭が低減していることが確認できた。」

「【図1】



(4)当審の判断
まず、段落【0023】、【0024】の記載からみて、エキス分の割合及びコハク酸の含有量に関する式(1)?(4)は、ビールテイスト飲料の「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」に大きな影響を与えるものとして、多くの実験結果から導き出されたものであると認められる。
一方、実施例1では、複数のビールテイスト飲料を製造し、「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」について評価した結果が、表1?5及び図1に示されており、式(1)?(4)の関係を全て満たすビールテイスト飲料は、「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」に関する点数が高く(◎または○)、いずれかを満足しない例は点数が低い(×)という結果が示されていることから、式(1)?(4)の関係を全て満たすビールテイスト飲料により、上記課題が解決できたことが理解される。
そして、上記実施例1の結果は、他の多くの実験結果から導き出されたものである式(1)?(4)の関係を全て満足することによって、上記課題が解決できることを具体的に示すものと認められるが、式(1)?(4)が、実施例1の結果のみから導き出されたものとは認められない。なお、本件特許明細書の段落【0025】には、実施例1の結果から関係式を導くことについて記載されているが、ここに記載された手段で導き出される関係式が、式(1)?(4)に該当するとは認められない。
また、実施例1では、コハク酸の含有量を39ppm?990ppm、でキス分を1.2%?5.0%という範囲で変化させ、式(1)?(4)の関係を全て満足するものといずれかを満足しないものそれぞれについて、複数のビールテイスト飲料を製造し、「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」についての評価を行っており、これらのビールテイスト飲料は、図1に示されるとおり、式(1)?(4)を全て満足する範囲の内外に亘るものであるから、実施例1の記載から、実施例1で製造されたビールテイスト飲料に限らず、式(1)?(4)の関係を全て満足することによって上記課題が解決できることを合理的に理解できるといえる。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明において、本件特許発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えて特定されたものであるとはいえない。

(5)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書の第29頁、第30頁において、例えば、エキス分2.5?5.0%、コハク酸含有量0?600ppmの範囲内において、×が2点、〇と◎があわせて3点しかなく、本件特許明細書の図1において、〇のみを結んだ式(2’)と、評点×のみを結んだ式(2”)の間のどこに〇と×の境界があるか理解できないとし、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された内容を本件特許発明1?9の技術範囲にまで拡張または一般化することはできないと主張する。
しかしながら上述したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、エキス分の割合及びコハク酸の含有量に関する式(1)?(4)は、ビールテイスト飲料の「飲んだ後に感じる嫌なアルコール臭」に大きな影響を与えるものとして、多くの実験結果から導き出されたものであると認められるし、その式を導き出すための実験結果が、実施例1として記載されたもののみであったとも認められない。
そして、実施例1では、式(1)?(4)の関係を全て満足するものといずれかを満足しないものそれぞれについて、複数のビールテイスト飲料を製造・評価しており、これらのビールテイスト飲料は、図1に示されるとおり、式(1)?(4)を全て満足する範囲の内外に亘るものであるから、その記載から、実施例1で製造されたビールテイスト飲料に限らず、式(1)?(4)の関係を全て満足することによって上記課題が解決できることを合理的に理解できるといえる。
したがって、申立人の主張は採用できない。

3.取消理由3(実施可能要件)について
(ア)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、式(1)?(4)を全て満たすようにエキス分とコハク酸の含有量を調整する方法として、
エキス分については、段落【0019】に、「ビールテイスト飲料のエキス分は、例えば、不揮発性成分(食物繊維等)の添加によって調製することもできるし、麦芽比率、副原料比率、酵母添加率、発酵助成剤の使用等によっても調製することができる。」と記載され、
コハク酸の含有量については、段落【0022】に、「ビールテイスト飲料のコハク酸の含有量は、例えば、添加するコハク酸の含有量で調製することもできるし、発酵工程での発酵時間の調整、使用する酵母の選択、発酵前液(麦汁、仕込液)の溶存酸素量やアミノ酸含有量の調整等によっても調製することができる。」と記載されている。
また、実施例においても、段落【0050】に「そして、ベース液に対して、適宜、蒸留アルコール、不揮発成分(難消化性デキストリン)、コハク酸を添加し、各成分の含有量等が表に示す値となる各サンプルを準備した。」と記載されている。

(イ)当審の判断
そして、これらの記載を目にした当業者は、エキス分の割合とコハク酸の含有量を調整する方法を理解できるものと認められるから、当該理解に基づき、式(1)?(4)の関係を全て満たすようにエキス分の割合とコハク酸の含有量を有するビールテイスト飲料を製造する方法も合理的に理解することができるといえる。
よって、本件特許明細書の記載から、本件特許発明1?3については、式(1)?(4)の関係を全て満たすようなエキス分の割合とコハク酸の含有量を有するビールテイスト飲料を製造し、かつ使用することが可能であることを、本件特許発明4?6については、式(1)?(4)の関係を全て満たすようなエキス分の割合とコハク酸の含有量を有するビールテイスト飲料が生産可能であることを、本件特許発明7?9については、式(1)?(4)の関係を全て満たすようなエキス分の割合とコハク酸の含有量とすることでビールテイスト飲料の香味を向上させることができることを、それぞれ当業者が理解することができるといえる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明を当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書の第29頁、第30頁において、例えば、エキス分2.5?5.0%、コハク酸含有量0?600ppmの範囲内において、×が2点、〇と◎があわせて3点しかなく、本件特許明細書の図1において、〇のみを結んだ式(2’)と、評点×のみを結んだ式(2”)の間のどこに〇と×の境界があるか理解できないとし、本件特許発明1?9の全範囲、すなわち4つの式で規定している全範囲において、本件特許発明1?9を当業者が実施できるように記載されていない旨主張する。
しかしながら、上記(ア)及び(イ)で述べたとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、エキス分の割合とコハク酸の含有量を調整し、式(1)?(4)の関係を全て満たすようにこれらの成分を含有するビールテイスト飲料を製造する方法について、当業者は理解できるものと認められるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明を当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。
したがって、申立人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-10-16 
出願番号 特願2018-102817(P2018-102817)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C12G)
P 1 651・ 537- Y (C12G)
P 1 651・ 121- Y (C12G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 飯室 里美  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 中島 芳人
天野 宏樹
登録日 2018-12-28 
登録番号 特許第6458184号(P6458184)
権利者 サッポロビール株式会社
発明の名称 ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  

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